平成12(ワ)391 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年7月9日 福岡地方裁判所 小倉支部
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判決文本文10,210 文字)

主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して3815万9778円及び内3565万9778円に対する平成12年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して4648万3970円及び内4298万3970円に対する平成12年4月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告財団法人Dの開設する被告病院で被告Cに採血された際,同被告の過失により,採血用の注射針により左橈骨神経知覚枝損傷の傷害を受けたとして,同被告に対しては民法709条に基づき,被告財団法人Dに対しては同法715条に基づき,損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 当事者等原告は,平成10年10月23日,被告財団法人Dの開設する被告病院に検査入院した。 被告Cは,臨床検査技師で,被告病院の職員である。 (2) 事故の発生同年11月4日午前7時30分ころ,被告Cが原告の左腕から採血を行った際,採血用の注射針により原告の知覚枝が損傷され,原告が左橈骨神経知覚枝損傷の傷害を負う事故(以下「本件事故」という。)が発生した。 2 争点及び当事者の主張(1) 被告Cの採血行為に過失があるか否か。 (原告の主張)被告Cの原告に対する採血業務の執行には,以下の過失があった。 ア採血時における神経損傷を回避するための基本的注意事項として,①なるべく手首ではなく肘部で太い静脈を見つけ,②太い静脈がない場合は前腕の加温,把握運動,前腕の下垂により静脈を怒張させ,③針刺入時 ア採血時における神経損傷を回避するための基本的注意事項として,①なるべく手首ではなく肘部で太い静脈を見つけ,②太い静脈がない場合は前腕の加温,把握運動,前腕の下垂により静脈を怒張させ,③針刺入時に神経の緊張を強くせず,④注射針を刺入したときに患者にしびれや電撃痛が走った場合は直ちに採血を中止し,再び同部位に注射針を刺入することを避けるなどとされているにもかかわらず,被告Cは,これらを遵守せずに原告の左手首橈側に注射針を刺入し,これにより原告に左橈骨神経知覚枝損傷の傷害を負わせたものであるから,同被告の採血行為には過失がある。 イまた,原告は,被告Cの採血に先立つ平成10年10月24日の採血で刺入部位が腫れ,被告Cの採血時にも異常な痛みを感じたため,同被告に対し,注射針を抜くよう要請したにもかかわらず,被告Cは,採血を中止することなく,注射針を更に奥へと刺入し,これにより原告に左橈骨神経知覚枝損傷の傷害を負わせたものであるから,同被告の採血行為には過失がある。 (被告らの主張)被告Cの採血行為には,以下のとおり過失はない。 ア被告Cは,原告の左肘の内側部分から採血を行おうと,当該部分を目視及び触診したが,採血に適する太い静脈を見つけることができなかったため,徐々に手首の方へと採血に適する静脈を探し,手首部分のできるだけ太い静脈を選択して正面から注射針を刺入した。しかし,橈骨神経浅枝の走行は予見できないため,偶発的な神経の損傷は不可避である。 被告Cの採血方法は通常行われているものと異ならず,同被告に過失はない。 イまた,被告Cの採血時に,原告が特別な痛みやしびれを訴えたことはない。被告Cは,経験豊富な臨床検査技師であって,そのような訴えがあるにもかかわらず採血を継続することは,医療従事者の常識からして考えられない。 (2) 損害額 告が特別な痛みやしびれを訴えたことはない。被告Cは,経験豊富な臨床検査技師であって,そのような訴えがあるにもかかわらず採血を継続することは,医療従事者の常識からして考えられない。 (2) 損害額(原告の主張)原告は,本件事故により,平成12年3月22日の症状固定時において,左手母指,中指の知覚が著しく鈍麻し,左母指の屈伸に支障を来す後遺障害を負い,以下のとおり,合計5008万3970円の損害を被った。 ア治療費合計27万8130円(ア) 原告は,平成10年12月1日から同11年5月31日までG整形外科に通院し,治療費2万3130円を支払った。 (イ) 原告は,平成10年12月22日から同12年3月22日までNに通院し,治療費25万5000円を支払った。 イ休業損害 680万円原告は,本件事故当時,美容業を目的とする有限会社Hの代表取締役であるとともに,美容師資格を持つ従業員として稼働して,年間480万円の収入を得ていたところ,平成10年11月4日の本件事故から症状固定日の平成12年3月22日までの17箇月間の休業損害は680万円である。 なお,本件事故後は原告が美容師として稼働できなくなったため,有限会社Hの経営する本件美容室の売上げは激減し,従業員の給与や諸経費等を賄うと,原告の収入は全くない。すなわち,原告の上記の収入は,実質的に労働の対価であって,利益配当としての役員報酬は含まれていない。 ウ逸失利益 2980万5840円原告は,症状固定時43歳で,67歳まで24年間の就労が可能であるところ,原告を指名する顧客は年々増加して数千名を超え,美容師として円熟さを増していた時期であるにもかかわらず,本件事故により今後は美容師として復帰することが期待できない状況にあることからすると,少なくとも美容師として45%の労働能力を喪失 名を超え,美容師として円熟さを増していた時期であるにもかかわらず,本件事故により今後は美容師として復帰することが期待できない状況にあることからすると,少なくとも美容師として45%の労働能力を喪失し,以下の逸失利益を被った。 480万円×45%×13.799(ライプニッツ係数)=2980万5840円エ慰謝料(ア) 傷害慰謝料 200万円原告は,本件事故により被告病院に平成10年11月4日から同年12月18日まで45日間入院し,G整形外科に平成10年12月1日から平成11年5月31日まで通院(実通院日数38日)し,Nに平成10年12月22日から平成12年3月22日まで通院(実通院日数81日)を要したことにより,精神的苦痛を受けた。 (イ) 後遺障害慰謝料 770万円原告は,平成元年11月24日に有限会社Hを設立し,本件美容室の経営が漸く軌道に乗っていたにもかかわらず,本件事故により美容師にとって致命的な左手母示中指のまひ,しびれ等の後遺障害を負ったことにより,多大な精神的苦痛を受けた。 オ弁護士費用 350万円原告は,本件事故の円満解決を求めて被告らと交渉したが,被告らから法的手続の中で解決したいとの意向を示され,やむなく原告代理人に本訴の追行を委任したが,訴訟の推移,被告らの対応等に照らして,被告らに弁護士費用として350万円を負担させるのが相当である。 カ損害の填補 360万円上記アないしオの合計額は5008万3970円であるが,原告は,被告病院から,休業損害の内払として平成10年12月18日から平成11年10月6日までに合計360万円の支払を受けた。したがって,残額は4648万3970円である。 (被告らの主張)ア逸失利益について原告の後遺障害は,後遺障害等級第14級10号の「局部に神経症状を残すもの」に該当し,労 0万円の支払を受けた。したがって,残額は4648万3970円である。 (被告らの主張)ア逸失利益について原告の後遺障害は,後遺障害等級第14級10号の「局部に神経症状を残すもの」に該当し,労働能力喪失率は5%程度である。 イ原告の基礎収入について原告は,有限会社Hの代表取締役で,従業員を使用して本件美容室を経営しているから,原告が美容師として稼働しなくても,相当程度の報酬が有限会社Hから支払われるはずである。したがって,原告の年収中には役員報酬が含まれており,原告の労働対価部分は高率ではない。したがって,原告の基礎収入を480万円とするのは妥当でない。 ウ遅延損害金の起算日後遺症による逸失利益に係る遅延損害金の起算日は症状固定時とすべきである。 エ斟酌的不可抗力採血者が橈骨神経の走行を予見することはできないから,本件事故には不可抗力的要素がある。したがって,不法行為における損害の公平な分担という制度趣旨に照らして,原告に過失がなくても,被告Cの過失割合を適正な限度で減縮すべきである。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(被告Cの過失)について(1) 前記争いのない事実,証拠(甲1の1・2,2の1・2,7,11,12,乙1,3,4,被告C及び原告各本人,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア第1回目採血原告(昭和31年生)は,体重が減少するなどしていたので,健康診断(人間ドック)を受けるため,平成10年10月23日,被告病院に入院した。〔甲7,原告本人54,55〕翌24日,臨床検査技師であるIは,原告の左手首橈側部分の血管に注射針を刺入して採血を行った。〔甲2の1,乙3,被告C49〕イ第2回目採血同年11月4日午前7時30分ころ,早朝採血の担当であった被告Cは,原告の採血を行うことと 原告の左手首橈側部分の血管に注射針を刺入して採血を行った。〔甲2の1,乙3,被告C49〕イ第2回目採血同年11月4日午前7時30分ころ,早朝採血の担当であった被告Cは,原告の採血を行うこととなった。 被告Cは,原告の左肘の内側正中の血管から採血しようと,上腕にゴム製の駆血帯を巻いて採血に適する血管を探したが,これを見つけることができなかったため,手首方向に徐々に触診しながら採血に適する血管を探し,手首部分(橈骨茎状突起から2㎝余り近位の部位)で採血することとした。 被告Cは,上記採血部位から10㎝程度近位の前腕部にゴム製の駆血帯を巻いた上,血管の正面から注射針を刺入した。刺入の際,原告は痛みを訴えたが,被告Cは,手首からの採血は一般的に痛みを伴うことから,原告の訴えを特別なものとは認識せずに採血を続行した。〔甲2の1・2,7,乙1,3,原告本人62,被告C本人14,22ないし24,30,37,38,85,94,95,115ないし117,鑑定の結果〕ウ採血後の経緯原告は,採血後,採血部位が紫色に変色して手首から指先までしびれるなどしたため,看護婦にその旨を訴え,被告病院整形外科で診察を受けたところ,同月30日,採血用の注射針による左橈骨神経知覚枝損傷と診断された。〔甲1の1・2,7〕エ被告Cの経歴等被告Cは,平成3年に臨床検査技師の資格を取得し,同年4月から被告病院に勤務して,1箇月当たり平均50人程度の採血業務を行ってきたが,本件事故までは採血業務に伴う事故が発生したことはなかった。〔乙3,被告C本人3,5〕オ医学的知見橈骨神経浅枝は直径1㎜程度で,橈側皮静脈に隣接して走行し,同静脈の上をまたぐ形で走行している場合もあるところ,血管と神経との解剖学的位置関係は個人差がある上,神経を触知することはできないので,橈骨神経 神経浅枝は直径1㎜程度で,橈側皮静脈に隣接して走行し,同静脈の上をまたぐ形で走行している場合もあるところ,血管と神経との解剖学的位置関係は個人差がある上,神経を触知することはできないので,橈骨神経浅枝の走行部位を予見することは現在の医療水準では不可能であるとされている。 したがって,橈骨皮静脈に向けて正しく注射針を刺入しても,橈骨神経浅枝を損傷する可能性は常に存在する。 手関節橈側での採血は,肘窩部での採血が困難とみられるときに第2選択として行われるが,J大学病院内科学のK医師は,上記神経損傷等を回避するために注意すべき事項として,次のとおり指摘している。 ① なるべく手首ではなく肘部付近で,太い静脈を見つけること。 ② 太い血管がない場合には,前腕の加温,把握運動,前腕の下垂により静脈を怒張させること。 ③ 針の角度を立てすぎず,静脈を突き抜けないようにすること。 ④ 針刺入時に神経の緊張を強くしないこと。 ⑤ 患者が電撃痛を訴えたら直ちに針を抜くこと。 〔甲11,12,乙4,鑑定の結果〕(2) 前記認定事実によれば,手関節橈側での採血は,予測し得ない橈骨神経浅枝の損傷を引き起こすことがあり得るため,被告Cは,できるだけ肘部で太い静脈を見つけ,それがない場合には,前腕の加温,把握運動,前腕の下垂により静脈を怒張させ,肘部での採血に努めるべき義務があったというべきである。 しかし,被告Cが,原告の左手首橈側から採血するに先立ち,原告に対し,前腕の加温や下垂を施したり,把握運動をさせた形跡はない。 そうすると,被告Cの採血行為には,上記注意義務違反の過失があったものと認められる。 また,被告Cは,原告が痛みを訴えたにもかかわらず,手首からの採血に通常伴う痛みであると安易に考え,採血を直ちに中止しなかったものであるから,同被告にはこの点でも過失があ あったものと認められる。 また,被告Cは,原告が痛みを訴えたにもかかわらず,手首からの採血に通常伴う痛みであると安易に考え,採血を直ちに中止しなかったものであるから,同被告にはこの点でも過失があったものというべきである。 したがって,被告Cは民法709条に基づき,被告財団法人Dは同法715条に基づき,連帯(不真正連帯)して上記採血行為によって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。 2 争点(2)(損害額)について(1) 証拠(甲1の2,2の1・2,3の1ないし6,4,5の1・2,6ないし8,9の1ないし3,14,原告本人,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア入院原告は,平成10年11月4日の本件事故後,被告病院で左手のしびれ等に対する治療を受け,同年12月18日まで入院した。 左橈骨神経知覚枝損傷と診断された同年11月30日ころの原告の主訴及び自覚症状は,左母指から示指及び中指から前腕橈側のしびれ,疼痛,知覚障害,冷感,左示指屈曲不全,握力低下であった。〔甲1の2,7〕イ通院(ア) 原告は,上記入院中である平成10年12月1日からG整形外科に通院し,左橈骨神経知覚枝外傷性神経炎と診断されて,平成11年5月31日まで通院治療(実通院日数38日)を受け,治療費として合計2万3130円を支払った。〔甲2の1,甲3の1ないし6,14〕(イ) 原告は,G整形外科のL医師の助言を受け,しびれ等を緩和させるため,上記通院と並行して平成10年12月22日からNに通院し,平成12年3月22日までの間に合計81日間,左肩から腕にかけてのマッサージや握力を付けるための器具等を使用したリハビリ治療等を受け,治療費として合計25万5000円を支払った。なお,原告は,その後も通院を継続している。〔甲4,7,9の1ないし ら腕にかけてのマッサージや握力を付けるための器具等を使用したリハビリ治療等を受け,治療費として合計25万5000円を支払った。なお,原告は,その後も通院を継続している。〔甲4,7,9の1ないし3,原告本人17ないし20〕ウ通院時の症状(ア) G整形外科初診時の原告の所見は,左母指や中環指のしびれや知覚鈍磨等のほか,採血部位辺りに小豆大の半腫瘤があって圧痛と放散痛があり,定型的な運動まひはなかったが,左手の握力は右手の半分以下に低下していた。 同外科に通院を継続した平成11年5月末ころの原告の所見も,知覚鈍麻や母・示指指間(みずかき)部の圧痛等があったほか,左手の握力は右手の半分以下であった。〔甲2の1〕(イ) 平成12年3月22日の原告の所見は,左母指の知覚鈍麻や母・示指指間部の圧痛が存続し,中指橈側に異知覚があったほか,不働性筋萎縮と考えられる握力低下があり,L医師により症状固定と診断された。〔甲2の2〕エ原告の職業と休業(ア) 原告は,昭和53年3月に専門学校を卒業後,美容師として美容室2店での勤務を経て,昭和62年3月,独立して本件美容室を開店した。 さらに,原告は,平成元年11月24日,美容院の経営等を目的とする有限会社Hを設立して本件美容室を法人化し,その代表取締役に就任した。 本件美容室は,原告とその妻を含めて従業員5名で営業し,平成8年期(同年7月1日から翌年6月30日まで。以下同じ。)及び同9年期の売上高は3000万円余りであったが,本件事故時を含む平成10年期以降は,売上高が約1割減少した。 なお,原告は,本件美容室の開店に際し,賃借店舗の敷金や設備機器の購入資金等の開店資金の一部を金融機関から借り受け,平成12年9月現在,月額20万円を返済している。〔甲7,8〕(イ) 原告は,顧客の指名を受けるなどして本件 開店に際し,賃借店舗の敷金や設備機器の購入資金等の開店資金の一部を金融機関から借り受け,平成12年9月現在,月額20万円を返済している。〔甲7,8〕(イ) 原告は,顧客の指名を受けるなどして本件美容室の美容師として稼働し,有限会社Hから給与の名目で,平成9年は460万円,同10年は480万円の収入を得ていた。〔甲5の1・2,7〕(ウ) 原告は,本件事故後,左手指の知覚鈍麻や圧痛,握力低下等のために美容師として稼働しなかった。原告は,平成12年初めころ,美容師業務を再開してみたが,左手指の支障により十分な仕事はできなかった。 そのため,原告は,その後は美容師として稼働せず,本件美容室の経理や管理の仕事をしているが,本件事故後は有限会社Hからの収入を得ていない。〔甲8,原告本人9ないし14,43,86,91〕オ現在の症状平成13年7月13日現在の鑑定人による原告の所見は,次のとおりであった。 〔鑑定の結果〕(ア) 主訴は,左母・示・中指の運動障害(左手指の巧緻運動ができない,左手に力が入らない。),左母指尺側,母・示指指間部及び示・中両指橈側の異常感覚(ジンジンする感覚)及び知覚低下である。 (イ) 自動運動による関節可動域は,肩及び肘関節に著明な運動制限はなく,前腕の回外・回内の運動制限はない。 左手関節の自動掌屈,背屈,橈屈,尺屈は,46°(右67°,以下,単位の記載は省略し,括弧内は右手関節の可動域を示す。),30(67),15(28),18(40)である。 左手指の自動屈曲は,母指中手指節関節30(日本整形外科学会による参考可動域(他動的)は60。以下,括弧内同じ。),母指指節間関節40(80),示指中手指節関節35(90),示指近位指節間関節25(100),示指遠位指節間関節15(80),中指中手指節関節50(90),中指近 動的)は60。以下,括弧内同じ。),母指指節間関節40(80),示指中手指節関節35(90),示指近位指節間関節25(100),示指遠位指節間関節15(80),中指中手指節関節50(90),中指近位指節間関節52(100),中指遠位指節間関節34(80)等で,「指尖つまみ」,「指腹つまみ」や「ひっかけ握り」等はできない。しかし,他動的には,軽い抵抗はあるものの握りこぶしを作ることができることから,上記自動屈曲制限は関節拘縮によるものではなく,鑑定人M医師は,長期間の不働(固定)による可動域減少と筋力低下によるものと判断している。 (ウ) 知覚鈍麻は,母指指節部尺側,母・示指指間部,示指橈側基節・中節部に存続する。また,採血部位辺りとほか2点に圧痛部位があり,叩打による異知覚(蟻走感)が存在する。 (2) 上記認定事実に基づき,本件事故により原告が被った損害額について検討する。 ア治療費 27万8130円G整形外科及びNの各治療費は,本件事故と相当因果関係があると認められる。 イ休業損害 680万円原告は,本件美容室を法人化した有限会社Hの代表取締役であるが,本件事故当時42歳で,顧客の指名を受けるなどして美容師として稼働し,有限会社Hから給与の名目で平成9年は460万円,同10年は480万円の収入を得ていたところ,本件事故後,L医師により症状固定と診断された平成12年3月までの17箇月間は美容師として稼働できず,有限会社Hからの収入を得ていないことが認められる。したがって,この間の休業損害680万円は,本件事故と相当因果関係があると認められる。 (計算式)480万円÷12×17=680万円被告らは,原告の収入につき,有限会社Hの代表取締役としての報酬が含まれており,原告の労働対価部分は高率ではないと主張する。しかし,上記認定の有限 れる。 (計算式)480万円÷12×17=680万円被告らは,原告の収入につき,有限会社Hの代表取締役としての報酬が含まれており,原告の労働対価部分は高率ではないと主張する。しかし,上記認定の有限会社Hの設立経緯,経営規模及び形態,原告の稼働状況及び年齢等にかんがみれば,原告の収入は実質的に美容師としての稼働に対する対価であると認めるのが相当である。したがって,被告らの主張は,採用することができない。 ウ逸失利益 2318万1648円原告は,前記症状固定時43歳で,その後の平成13年7月にも,左手指の母指,示指及び中指の自動屈曲制限等により,「指尖つまみ」,「指腹つまみ」,「ひっかけ握り」等の巧緻運動が不能である上,左母指尺側,母・示指指間部等の知覚が鈍磨するなどしており,両手指の巧緻運動が不可欠な美容師業務に復帰することが困難であると認められることからすると,原告は神経系統の機能に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるから,症状固定時から67歳までの24年間,その労働能力を35%喪失したものと認めるのが相当である。 したがって,原告の逸失利益は,以下の計算式により,2318万1648円となる。 480万円×0.35×13.7986(24年間のライプニッツ係数)=2318万1648円エ慰謝料 900万円(ア) 入通院慰謝料上記認定の原告の入通院状況にかんがみれば,原告の入通院慰謝料としては,150万円と認めるのが相当である。 (イ) 後遺症慰謝料上記認定の後遺障害の内容・程度,原告が本件事故まで約20年間にわたり美容師として稼働し,本件美容室を開店して顧客の指名を受けていたことなど本件に現れた諸事情にかんがみれば,原告の後遺症慰謝料としては,750万円と認めるのが相当である。 オ損害の填補原告は,被告病院 として稼働し,本件美容室を開店して顧客の指名を受けていたことなど本件に現れた諸事情にかんがみれば,原告の後遺症慰謝料としては,750万円と認めるのが相当である。 オ損害の填補原告は,被告病院から,休業損害等の内払として平成10年12月18日から同11年10月6日までの間に合計360万円の支払を受けた。〔争いがない〕上記アないしエの合計額3925万9778円から上記360万円を差し引くと,3565万9778円となる。 カ弁護士費用 250万円本件事案の内容,審理経過及び認容額等に照らすと,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は,250万円と認めるのが相当である。 (3) なお,被告らは,橈骨神経の走行は予見できないから,不可抗力的要素を考慮し,損害額を減縮すべきである旨を主張するが,前記1で認定したところによれば,被告Cの責任を減縮しなければならない理由は見出し難い。また,被告らは,後遺症による逸失利益に係る遅延損害金の起算日は症状固定時とすべきであると主張するが,不法行為に基づく損害は症状固定を待たずに発生しているというべきであるから,被告らの主張は採用できない(もっとも,原告の請求する遅延損害金は症状固定後のものである。)。 (4) 以上によれば,原告の請求は,被告らに対し,連帯して損害賠償金3815万9778円及び内3565万9778円(原告の意思に照らし,弁護士費用は除く。)に対する不法行為後である平成12年4月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日平成14年2月5日)福岡地方裁判所小倉支部第2民事部裁判長裁判官古賀 余は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 主文 (口頭弁論終結日平成14年2月5日) 福岡地方裁判所小倉支部第2民事部裁判長裁判官古賀寛 裁判官大山徹 裁判官村田文也は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官古賀寛

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