平成17(行ウ)13 相続税更正処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年2月4日 大分地方裁判所 大分地方裁判所 租税
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判決文本文11,538 文字)

主文 処分行政庁が平成15年4月18日付けでした原告に対する平成12年7月29日相続開始に係る相続税の更正処分のうち,課税価格1億2171万1000円,納付すべき税額1273万8700円を超える部分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求主文同旨第2事案の概要本件は,原告が,その実母であるAの死亡により相続した財産にかかる相続税として,課税価格1億2171万1000円,納付すべき税額1273万8700円と申告していたところ,Aが生前提訴し,原告がその地位を承継していた所得税更正処分等取消請求事件について,取消判決が確定したことから,過納金が原告に還付され,これを被告がAの相続財産と認定して,その相続税につき,課税価格1億4963万円,納付すべき税額2096万9400円とする更正処分を行ったことに対し,原告が,上記過納金の還付請求権は相続開始後に発生した権利であるから相続財産を構成しないと主張して,その処分の取消しを求めている事案である。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認定することができる。 (1)原告の相続税申告原告は,平成12年7月29日にAが死亡したことによって取得した相続財産に係る相続税の申告を平成13年5月28日に行った(以下「本件申告」という。)。その際,申告書には,課税価格1億2171万1000円,納付すべき税額1273万8700円と記載していた。 (2)処分行政庁による更正処分等処分行政庁は,平成15年4月18日付けで,原告の相続税について,課税価格1億4963万円,納付すべき税額2096万9400円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税82万3000円とする賦課決定処分(以下「本件賦 原告の相続税について,課税価格1億4963万円,納付すべき税額2096万9400円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税82万3000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。 (3)本件更正処分等を行った経緯ア処分行政庁は,平成8年2月27日付けで,①Aの夫であるB(平成6年9月27日死亡)の平成4年分所得税について,Bの相続人であるAほか6名に対して更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行うとともに(以下「処分①」という。),②Aの平成5年分所得税についても更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った(以下「処分②」といい,処分①と処分②を併せて「別件所得税更正処分」という。)。 イAは,平成8年8月9日,処分①により確定した納付すべき税額のうち,Aの相続分(2分の1)に係る所得税1911万8900円のうち1893万9200円,過少申告加算税267万3000円及び延滞税230万1500円,処分②により確定した納付すべき税額である所得税304万1800円,過少申告加算税41万7000円及び延滞税36万6600円を納付した(なお,処分行政庁は,同年6月27日,処分①のうちAの相続分に係る所得税1911万8900円に対して,Aに還付されるべき国税17万9700円を国税通則法57条の規定に基づき充当した。)。 ウAは,別件所得税更正処分について,異議申立て及び審査請求を経て,平成9年4月11日,大分地方裁判所に対し,所得税課税処分取消請求事件(大分地方裁判所平成9年(行ウ)第6号)を提起した(以下「別件所得税更正処分取消訴訟」という。)。 エAは,別件所得税更正処分取消訴訟の係属中である平成12年7月29日に死亡し,その相続人である原告が,同事件の当事者の地位を承継した。 を提起した(以下「別件所得税更正処分取消訴訟」という。)。 エAは,別件所得税更正処分取消訴訟の係属中である平成12年7月29日に死亡し,その相続人である原告が,同事件の当事者の地位を承継した。 オ大分地裁は,平成13年9月25日及び同年10月2日,別件所得税更正処分取消訴訟につき,同処分を取り消す旨の判決を言い渡し,その判決は,同月17日に確定した。 カ処分行政庁は,同年12月26日,別件所得税更正処分取消訴訟の判決確定を受けて,上記イで納付及び充当された所得税額,過少申告加算税額及び延滞税額(以下「本件過納金」という。)のほか,国税通則法58条の規定に基づく還付加算金851万1700円(以下「平成13年還付加算金」という。)を原告に還付した。 キ処分行政庁は,平成14年1月29日,平成13年還付加算金の計算に誤りがあったとして,還付加算金90万600円(以下「平成14年還付加算金」という。)を原告に還付した。 ク原告は,平成14年3月15日付けで,処分行政庁に対し,本件過納金及び平成13年還付加算金を一時所得として計算し,平成13年分所得税の確定申告書を提出した。 ケ原告は,平成15年3月13日付けで,処分行政庁に対し,平成14年還付加算金を一時所得として計算し,平成14年分所得税の確定申告書を提出した。 コ処分行政庁は,平成15年4月18日付けで,本件過納金は,原告が相続により取得した財産であるとして,本件更正処分及び本件賦課決定処分を行った。 (4)異議申立て及び審査請求の結果ア原告は,平成15年5月30日付けで,処分行政庁に対し,本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求めて異議申立てを行い,処分行政庁は,同年8月29日付けで,これを棄却する旨の異議決定をした。 イ原告は,同年9月26日付けで,国税不 処分行政庁に対し,本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求めて異議申立てを行い,処分行政庁は,同年8月29日付けで,これを棄却する旨の異議決定をした。 イ原告は,同年9月26日付けで,国税不服審判所長に対し,本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求めて審査請求を行い,国税不服審判 所長は,平成17年6月20日付けで,本件更正処分については審査請求を棄却し,本件賦課決定処分についてはこれを全部取り消す旨の裁決をした。 争点 本件の争点は,本件過納金の還付請求権が,Aの相続財産を構成し,相続税の対象となるかどうかである。 争点に対する各当事者の主張の骨子(1)被告の主張の骨子抗告訴訟における取消判決は遡及効を有しているから,別件所得税更正処分は,同処分の取消訴訟の判決確定により当初から存在しなかったことになる。そうすると,観念的には,Aが別件所得更正処分に基づき納付した時点に遡って,本件過納金の還付請求権が発生していたということができる。 また,本件過納金は本来Aに還付されるべきものであるが,これが原告に還付されたのは,原告がAの財産を相続したことをその理由とするのであり,この相続がなければ,本件過納金が原告に還付されることはなかったのである。すなわち,原告は,還付金を受けるべき地位を承継したのであり,たとえその発生時期が相続開始後であるとしても,本件過納金の還付請求権は相続財産を構成するというべきである。 さらに,本件過納金の還付請求権は,所得税又は相続税のいずれかの課税対象となるべきものであるところ,本件過納金はAが有していた財産を原資として納付された金銭(過納金)であり,取消判決の確定により,それが当初から逸出しなかったことになるにすぎないから,仮にAが生存しており同人に還付された場合には,これを一時所得又は ていた財産を原資として納付された金銭(過納金)であり,取消判決の確定により,それが当初から逸出しなかったことになるにすぎないから,仮にAが生存しており同人に還付された場合には,これを一時所得又は雑所得の収入金額として発生したとみるべき事実が認められず,所得税の課税対象とはならない。こうした本件過納金の還付請求権の性質は,相続という偶然の事情によって左右されるものではなく,Aの納付により減少した相続財産が,納税義務が消滅し て本件過納金が発生することにより回復されるだけなのであるから,これを原告の所得とみることはできない。したがって,本件過納金の還付請求権はAの相続財産を構成するというべきである。 (2)原告の主張の骨子行政処分に公定力を認める論理的帰結として,本件過納金又はその還付請求権は,別件所得税更正処分取消訴訟の取消判決確定によって初めて生じると解するほかなく,Aの相続開始時には存在していなかったものである。 したがって,本件過納金の還付請求権は,原始的に原告に帰属するものであり,Aの相続財産を構成するものではない。 被告がその主張の根拠とする取消判決の遡及効は,判決の拘束力(行政事件訴訟法33条)によって原状回復義務が課される結果,更正処分がなかった状態まで回復するというにすぎず,還付請求権が遡及的に生じていたということにはならない。 また,所得税法の通説的解釈によれば,原告の本件過納金の還付請求権の取得は,原告の純資産の増加の起因となる外からの経済的価値の流入,すなわち収入金額に算入すべき金額に該当する。したがって,当該収入は所得税法36条の収入金額を構成すべきものであり,その収入は相続税又は贈与税の課税対象となるものではないから非課税所得(所得税法9条1項15号)には該当せず,その結果,当該収入は所得税の課税対象とな 得税法36条の収入金額を構成すべきものであり,その収入は相続税又は贈与税の課税対象となるものではないから非課税所得(所得税法9条1項15号)には該当せず,その結果,当該収入は所得税の課税対象となるのである。 以上のことから,原告が相続により取得したのは,「訴訟上の原告の地位を法的な訴訟承継手続により取得することができる地位」という事実上の地位に過ぎないことになるが,取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であるから,その地位を他に譲渡して換価することはできない。したがって,当該地位は一切換価価値はないから相続財産を構成しない。 第3当裁判所の判断 本件過納金の還付請求権の相続財産性について (1)相続税法は,相続税の課税財産の範囲を「相続又は遺贈により取得した財産の全部」(2条1項)と定めているところ,相続税法上の「財産」とは,これを課税価格に算入する必要上,金銭的に評価することが可能なものでなければならない。 そうすると,相続財産は,金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものをいい,既に存在する物権や債権のほか,未だ明確な権利とはいえない財産法上の法的地位なども含まれると解するのが相当である(相続税法基本通達11条の2-1参照)。 また,相続税の納税義務の成立時点は,「相続又は遺贈による財産取得の時」(国税通則法15条2項4号)であるところ,相続人は相続開始の時から被相続人の財産を包括承継するものであり(民法896条),かつ,相続は死亡によって開始する(民法882条)から,納税義務の成立時点は,原則として,相続開始時すなわち被相続人死亡時である。 このように,相続税法上の相続財産は,相続開始時(被相続人死亡時)に相続人に承継された金銭に見積もることができる経済的価値のあるものすべてであり,かつ,それを限度とするもので 被相続人死亡時である。 このように,相続税法上の相続財産は,相続開始時(被相続人死亡時)に相続人に承継された金銭に見積もることができる経済的価値のあるものすべてであり,かつ,それを限度とするものであるから,相続開始後に発生し相続人が取得した権利は,それが実質的には被相続人の財産を原資とするものであっても相続財産には該当しないと解すべきである(ここでは相続税法上のいわゆるみなし相続財産は考慮しない。)。 (2)以上を前提として,本件過納金の還付請求権がAの相続財産を構成するかどうかを検討するに,確かに,本件過納金の原資はAが拠出した納付金ではあるが,Aの死亡時すなわち相続開始時には,別件所得税更正処分取消訴訟が係属中であり,未だ本件過納金の還付請求権が発生していなかったことは明らかである(判決による課税額の減少に伴う過納金の発生時期が,確定判決の効力が生じた時であることについて,当事者間に争いはない。)。 そうすると,相続開始の時点で存在することが前提となる相続財産の中に, 本件過納金の還付請求権が含まれると解する余地はないといわざるを得ない。 (3)この点,被告は,取消判決の遡及効により,別件所得税更正処分が初めからなかったこととなるから,本件過納金の還付請求権はAが納付した当時から存在していたことになり,同還付請求権自体が相続財産を構成すると主張する。 しかしながら,一般に抗告訴訟における取消判決の形成力に遡及効が認められるのは,瑕疵のある行政処分を遡及的に失効させることによって,国民の権利利益に対する違法な侵害状態を排除することを目的とするものであって,そのことから直ちに,更正処分取消訴訟における取消判決が確定した場合に,過納金の還付請求権自体が納付時に遡って発生するとは解されない(還付請求権が発生するのは,あくまで取消判決が するものであって,そのことから直ちに,更正処分取消訴訟における取消判決が確定した場合に,過納金の還付請求権自体が納付時に遡って発生するとは解されない(還付請求権が発生するのは,あくまで取消判決が確定したときからである。)。 これに対し,C作成に係る鑑定意見書及び意見書(以下,両書面を併せて「C意見書」という。)は,国税通則法が還付加算金の支払について規定しているのは,遡及効が認められることによる当然の措置であるとする(すなわち,還付加算金が国税の納付のあった日の翌日から起算されるのは,過納金の還付請求権が納付と同時に発生したものと擬制されるからであると解しているものと思われる。)。 しかしながら,過納金を還付する場合に付される還付加算金は,違法に財産権を侵害された納付者に対する調整ないし救済措置として国税通則法によって定められたものであり,それが認められるからといって過納金の還付請求権が国税の納付時に遡って発生したと解する理論的根拠とはならず,むしろ,還付加算金の起算日を法定したのは,不当利得につき利息を付すのを受益者悪意の場合に限定する一般不当利得の法理を修正した結果であることからすると,過納金の還付請求権が国税の納付時に遡って発生したために還付加算金が国税の納付のあった日の翌日から起算されることになったとはいえ ず,還付加算金の起算日は過納金の還付請求権の発生時期とは無関係に定まったというべきである。 したがって,遡及効を理由として,本件過納金の還付請求権が相続財産を構成するとする被告の主張は採用できない。 (4)また,被告は,本件過納金が原告に還付されたことをもって,本件過納金の還付請求権が相続財産を構成することを裏付けている旨主張するが,本件過納金が原告に還付されたのは,原告がAを包括承継したことにより,別件所得税更正 過納金が原告に還付されたことをもって,本件過納金の還付請求権が相続財産を構成することを裏付けている旨主張するが,本件過納金が原告に還付されたのは,原告がAを包括承継したことにより,別件所得税更正処分に係る納税者の地位を承継しているからであり,このことをもって,取消判決確定によって初めて発生した還付請求権を相続により取得したと解するのは,論理に飛躍があるといわざるを得ない。 (5)さらに,被告は,本件過納金の還付請求権を原告の収入金額として所得税の課税対象とすることができないから,これと二者択一の関係にある相続税の課税対象とすべきである旨主張する。 確かに,Aの存命中に取消判決が確定した場合には,還付金を新たな収入額として所得税を課すことはできないが,相続開始後に還付金を取得した原告との関係では,これを「利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」(所得税法34条1項)に該当すると解する余地は十分あるというべきである。このことは,相続税法が,被相続人に支給されるべきであった退職手当金等が,被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合に限って相続財産として扱い(3条1項2号),その期間を過ぎて支給が確定した退職手当金等は,相続人の一時所得として扱われることと同様ということができる。すなわち,支給の趣旨は同一であっても,それが支払われた時期によって,課税上は性質の異なるものとして捕捉することが法律上許容されているのであり,還付金 についても,本来的には納付者本人の財産として扱うのが相当であるが,それが納付者の相続開始後に発生した場合には,相続 上は性質の異なるものとして捕捉することが法律上許容されているのであり,還付金 についても,本来的には納付者本人の財産として扱うのが相当であるが,それが納付者の相続開始後に発生した場合には,相続人の新たな収入金額として扱うことも格別不合理ではないというべきである。 (6)ところで,D作成に係る意見書(以下「D意見書」という。)は,原告が「処分が判決により取り消されることを法定の停止条件とする還付請求権」を相続によって取得したと解し,係る停止条件の成就により還付請求権が発生し,確定した還付金額が相続財産に加算されるという理論構成を立てている。 しかしながら,納付の基礎となった更正処分が取り消されること,すなわち,国が納付金を保有することの法律上の原因が失われることは,還付請求権の発生要件事実であり,これを停止条件と解することはできない。その意味で,処分の取消しは,D意見書が例示する農地の遺贈における農地法上の許可とは全く性質の異なるものである。 すなわち,更正処分が取り消されるまでは,還付請求権は条件付き債権としても発生していないのであるから,かかる見解を根拠として,本件過納金の還付請求権が相続財産を構成すると認めることはできない。 (7)以上より,本件過納金の還付請求権がAの相続財産を構成することは理論上あり得ないというべきであり,この点についての被告の主張は採用できない。 別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位の相続財産性について(1)前記のとおり,原告は,本件過納金の還付請求権を相続により取得したとはいえないが,別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位を承継しており,係る地位に財産性が認められるのであれば,課税価格を算定するために,相続開始時点における当該地位を金銭的に評価する必要が生じる。 そこで検討するに,抗告訴訟 処分取消訴訟の原告たる地位を承継しており,係る地位に財産性が認められるのであれば,課税価格を算定するために,相続開始時点における当該地位を金銭的に評価する必要が生じる。 そこで検討するに,抗告訴訟の訴訟物は,行政処分の違法性一般と解されているから,更正処分の取消訴訟においても,訴訟物自体に財産性を見出す ことはできない。もっとも,納税義務者に更正処分取消訴訟における原告適格(行政事件訴訟法9条1項)が認められるのは,当該更正処分によって侵害された財産権が,同処分を取り消すことによって回復されるという法律上の利益が認められるからであり,同訴訟において取消判決が確定し過納金が発生した場合には,還付請求権の行使を待つまでもなく,これを納付した者に対して還付金及び還付加算金が交付される(国税通則法56条1項,58条1項)。そうすると,過納金の還付請求権は,当該更正処分が取り消された場合に反射的に発生する権利といえ,その意味で,更正処分取消訴訟の原告たる地位は,過納金の還付請求権と密接な関係にあるということができる。 しかしながら,公定力により行政処分はそれが権限ある機関によって取り消されるまでは有効と扱われるから,こうした公定力が排除される以前の段階では,過納金の還付請求権も将来発生しないものとして扱われることになる。 そうすると,更正処分取消訴訟の原告たる地位は,取消判決が確定する以前の段階では,財産法上の法的地位ということもできず,金銭に見積もることができる経済的価値のあるものとして評価することはできないというべきである。 また,仮に当該地位の財産性を肯定して,相続開始時点における金銭的評価を行う場合,更正処分取消訴訟において処分の適法性を主張している処分庁ないし国が,他方では,過納金が将来発生すること(すなわち,当該処分が違法であ の財産性を肯定して,相続開始時点における金銭的評価を行う場合,更正処分取消訴訟において処分の適法性を主張している処分庁ないし国が,他方では,過納金が将来発生すること(すなわち,当該処分が違法であること)を前提として原告の地位を評価するという矛盾した態度を取らざるを得なくなり,こうした事実上の不都合に鑑みても,相続開始時に被相続人が更正処分取消訴訟の原告である場合には,その原告たる地位に財産性を認めるべきではない。 したがって,本件においても,別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位に財産性を認めることはできず,係る地位も相続財産たり得ないこととな る。なお,原告たる地位に一応財産性を肯定しつつ,相続開始時の評価額を零とする見解も成り立ち得ると思われるが,仮にこうした見解を採用しても,後記のとおり,本件の結論には影響しない。 (2)この点,C意見書は,別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位が相続税の財産評価の対象となり,相続開始時における評価額と取消判決確定により具体化した価額との差額分については,更正の請求又は更正処分を通じて調整されるとし,本件の場合,別件所得税更正処分取消訴訟によって争われた金銭的価値が,相続開始時には零と評価された場合でも,課税庁は,取消判決確定後に,法の命ずるところに従って更正処分を行うべきである旨述べ,D意見書も同様の見解に立っている。 これらの見解は,いずれも別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位に財産性が認められることを前提としているところ,当裁判所は,上記のとおり,こうした前提に立つものではなく,原告たる地位の相続財産性を否定するから,取消判決確定後にその再評価を行い,差額について更正処分を認めることもあり得ない。 もっとも,C意見書及びD意見書のように,別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる たる地位の相続財産性を否定するから,取消判決確定後にその再評価を行い,差額について更正処分を認めることもあり得ない。 もっとも,C意見書及びD意見書のように,別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位に財産性を肯定しつつ,相続開始時の評価額を零とする見解も,取消判決確定による還付請求権の反射的発生を重視すれば,成り立ち得るから,かかる前提に立ち,相続開始後の取消判決確定によって生じた還付請求権の額を基に,原告たる地位の再評価を行い,その結果を課税価格及び相続税額に反映させることができるかについて,以下検討する。 この点,相続税法は,国税通則法に基づく更正の請求の特則として,相続開始後に生じた一定の事由に基づいて申告又は決定に係る課税価格及び税額が過大となった場合に,更正の請求をすることを許容しており(同法32条,同法施行令8条),D意見書も,これらの規定を引用して,申告時の評価額を暫定的なものとし,その後の事情変動により価額が明確となった場合の調 整が認められる旨述べている。 しかしながら,同法32条,同法施行令8条に規定される後発的事由は,相続人の異動が生じた場合や,共同相続人間又は相続人以外の者との間において,相続財産の帰属に変動が生じた場合等であり,個々の相続財産の価額に変動が生じた場合は含まれていない。したがって,これらの事由に基づき更正の請求を行う場合であっても,算定の基礎となる評価額は相続開始時のものが用いられることとなる。 また,例えば,相続開始時に100万円の債権が相続財産として存在することを前提に,課税価格及び相続税額を算定し申告していたところ,その後の判決により当該債権額が50万円であることが確定した場合には,国税通則法23条2項1号に基づき更正の請求をすることができ,逆に,150万円であることが確定した場合に 定し申告していたところ,その後の判決により当該債権額が50万円であることが確定した場合には,国税通則法23条2項1号に基づき更正の請求をすることができ,逆に,150万円であることが確定した場合には更正処分をすることもできると解されるが,これは,あくまで当該債権の相続開始時における債権額が50万円あるいは150万円であったことを前提として,その相続開始時における債権額が判決により明らかになったために認められるものであり,債権額に変動が生じたものではない。これに対して,別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位の相続開始時の評価額は零であり,その後の取消判決確定という事情変動によりその評価額が変動したものであるから,上記更正の請求や更正処分の対象にはならないといわざるを得ない。 そもそも,相続税法22条は,相続財産の評価時期及び方法について「当該財産の取得の時における時価」と定めるのみで,それ以外の時点を評価時点とする規定や,取得時の評価額を暫定的なものとする規定は存在しない。 そして,相続税法がこのように財産評価の時点を明確に定めた趣旨は,一般に財産は時間の経過によってその金銭的価値に変動が生じるところ,相続開始後に生じた事情変動に基づく価値変動を常に評価額に反映させなければならないとすると,相続税の課税価格を確定することが困難となり,手続的に 著しく煩雑となるだけでなく,財産の種類によっては金銭的価値の恣意的操作がなされるおそれもあり,課税の公平を欠くことにもなりかねないため,こうした弊害を除去し,課税手続の安定・明確化,公平な課税の実現を図ることにあると解される。 このような相続税法22条の規定文言及び趣旨に加え,上記のように,後発的事由に基づく更正の請求においても,相続財産の価額に変動が生じた場合は行われないことをも考慮すると 図ることにあると解される。 このような相続税法22条の規定文言及び趣旨に加え,上記のように,後発的事由に基づく更正の請求においても,相続財産の価額に変動が生じた場合は行われないことをも考慮すると,同法は,相続財産の評価時期を相続開始時のみとし,後発的事由に基づく再評価は許容していないと解するのが相当である。 したがって,本件においても,相続開始時に別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位を零と評価しておきながら,その後に同訴訟の取消判決が確定し,反射的に還付請求権が発生したからといって,原告たる地位の評価額を還付金相当額に改めた上で,増額更正処分を行うことは許されないというべきである。 したがって,C意見書及びD意見書の上記見解は採用できない。 結論 以上のとおり,本件更正処分は,本来相続財産に含まれない本件過納金に係る還付金を課税財産に含めて税額を算定したものであり,また,別件所得税更正処分取消訴訟の原告たる地位を相続財産と見ることもできない(仮に,原告たる地位を相続財産と見ても,相続開始時の評価額は零であり,後に発生した還付金相当額で再評価することはできない。)から,いずれにしても,相続税の増額更正を内容とする本件更正処分は違法といわざるを得ない。 よって,原告の請求には理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官一志泰滋裁判官神野泰一裁判官矢﨑豊

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