令和5年(ワ)第2509号地位確認等請求事件令和7年10月16日千葉地方裁判所民事第1部判決口頭弁論終結日令和7年7月4日 主文 1 本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する賃金及びこれらに対する遅延損害金の支払を求める部分を却下する。 2 原告らが、いずれも、被告に対し、期間の定めのない労働契約上の権利を有 する地位にあることを確認する。 3 被告は、原告らに対し、それぞれ、令和4年5月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、別紙請求額一覧表の各請求賃金額欄記載の金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 主文2項と同旨 2 被告は、原告らに対し、それぞれ、令和4年5月から毎月25日限り、別紙請求額一覧表の各請求賃金額欄記載の金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告らに対し、それぞれ、100万円及びこれに対する令和5年1 2月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 ※以下【】内に記載した用語は略称として使用する。 1 原告らは、被告が千葉県から委託を受けて実施している心身障害児(者)歯科保健巡回診療指導事業【ビーバー号事業】に歯科衛生士として出動していた。 原告らは、被告に対し、①原告らと被告との間の契約が有期雇用契約であったことを前提として契約期間満了 いる心身障害児(者)歯科保健巡回診療指導事業【ビーバー号事業】に歯科衛生士として出動していた。 原告らは、被告に対し、①原告らと被告との間の契約が有期雇用契約であったことを前提として契約期間満了日までに被告に対して期間の定めのない労働 契約の締結の申込みをしたとして、労働契約法18条1項に基づき、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②被告が原告らに対するビーバー号事業出動の配点を一切行わなくなったことが事実上の解雇であるとして、民法536条2項に基づき、配点が行われなくなった令和4年4月分以降の賃金の支払を求め、③上記事実上の解雇が原告ら に対する不法行為に該当するとして、各100万円の慰謝料の支払を求めた(附帯請求はいずれも民法所定の遅延損害金)。 被告は、原告らと被告との間の各契約が雇用契約ではなく委託契約であったなどと主張して争っている。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は掲記の各証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実)(1) 被告は、千葉県内に就業し又は住所を有する歯科医師が任意加入し、医道の高揚、歯科医学・医術の進歩発達、公衆衛生及び予防医学の研究・普及向上等を図り、もって地域社会並びに会員の福祉を増進すること等を目的とする一般社団法人である(甲1)。 (2) ビーバー号事業は、一般の医療機関での受診が難しい、障がい者施設等に入所していて歯科受診の機会が限られている等の理由により、定期的に歯科健診を受けることが困難な人を対象として、巡回診療車による定期的な歯科健診や歯科保健指導を行うものであり、千葉県によって昭和54年に開始され、開始以降、被告が千葉県からの委託事業として実施してきた。 (3) 被告は、ビーバー号事業 車による定期的な歯科健診や歯科保健指導を行うものであり、千葉県によって昭和54年に開始され、開始以降、被告が千葉県からの委託事業として実施してきた。 (3) 被告は、ビーバー号事業につき、被告内に設置する委員会の担当する事業と して実施してきた(乙25、委員会の名称等は時期によって異なるところ、ビーバー号事業を担当する委員会を【被告内委員会】とする。)。 被告は、ビーバー号事業の実施要領を定めており(甲22、甲34)、平成31年4月以降の実施要領(甲22)には、ビーバー号の出動毎に、施設との事前打ち合わせから当日全体管理・健診指導・保健教育・反省会の司会・報告 書の提出までを職務とする責任者となる歯科医師(被告の会員)を1名決めて「管理指導医」と呼び、歯科医師(管理指導医及び指導医)は被告と2年任期の委託契約を締結してビーバー号事業に当たる旨の記載がある。 また、同実施要領では、ビーバー号事業において千葉県全域を活動範囲とする歯科衛生士を「巡回指導歯科衛生士」【ビーバーDH】と呼ぶこととし、ビ ーバーDHは、ビーバー号による歯科健診等に出動して健診の補助や歯科保健指導等に従事し、地域の現状把握、問題点の抽出、解決策の検討を行い、ビーバー号の備品管理、部会活動として保健教育充実の検討媒体作成・学会発表・研修会開催などを行うものとされ、ビーバーDHはビーバーDH会に所属し、会のまとめ役として互選で代表【DH代表】を選ぶこと、ビーバー号の出動毎 に、出動するビーバーDHの中から責任者を1名決めて「管理指導歯科衛生士」【管理DH】と呼び、出動するビーバーDHの役割分担、管理指導医との連絡調整、当日全体管理、報告書の提出を管理DHの職務とすることなどが定められている。 さらに、同実施要領には、「ビーバー 生士」【管理DH】と呼び、出動するビーバーDHの役割分担、管理指導医との連絡調整、当日全体管理、報告書の提出を管理DHの職務とすることなどが定められている。 さらに、同実施要領には、「ビーバーDHの雇用について」とする項目があ り、65歳定年とすること、定年退職後の再雇用があること、ビーバーDHの募集は千葉県が行うこと、ビーバーDHの人員確保や研修等は被告が行うこと、募集・嘱託状については被告の理事会の承認を得る旨の記載がある。 令和2年頃まで、千葉県及び被告は、ビーバー号による歯科健診や歯科保健指導に同行して歯科健診の補助や歯科保健指導等の業務を行う歯科衛生士(ビ ーバーDH)について、登録制・非常勤雇用(甲2)やパート労働者(甲5の 2)として募集をしていた。 (4) 原告らのビーバーDHとしての活動期間は、令和5年3月31日までの通算期間として、原告Aは平成14年11月1日から20年5か月間、原告B及び原告Cは平成17年4月21日から17年11か月間、原告Dは平成17年10月12日から17年5か月間、原告Eは平成23年4月1日から12年間で ある。 原告らがビーバーDHとして採用された際、被告との間で契約書は作成されず、被告から原告らに対し、被告内委員会の指導歯科衛生士に委嘱する旨の記載のある「委嘱状」と題する書面が交付され、同委嘱状には、原則として2年の任期が記載され、委嘱状は概ね2年毎に更新されて交付されていた。 原告らについて、最後に委嘱状が交付されて更新されたのは令和3年4月1日であり、その任期は令和5年3月31日までとされていた。原告らは、同委嘱状の交付に先立つ作成日付で、被告内委員会の指導歯科衛生士に就任することを承諾する旨の就任承諾書を被告に提出している。(甲A1、甲B1、甲C 任期は令和5年3月31日までとされていた。原告らは、同委嘱状の交付に先立つ作成日付で、被告内委員会の指導歯科衛生士に就任することを承諾する旨の就任承諾書を被告に提出している。(甲A1、甲B1、甲C1、甲D1、甲E1、乙1)。 被告は、原告らビーバーDHに対し、手当・交通費・会議費の項目で、毎月末日締めの翌月25日払いにより、給料の支払をしていた(甲A2、甲A3、甲B2、甲B3、甲C2、甲C3、甲D2、甲E2、甲E3)。 (5) 被告は、令和3年3月25日、千葉労働基準監督署から、被告とビーバーDHとの契約が雇用契約に該当することを前提として、就業規則を作成して届出 をするよう是正勧告を受けた。被告は、是正勧告に従い、就業規則を作成し、令和3年7月1日、千葉労働基準監督署長に届出を行った。(乙6ないし8)(6) 原告らは、令和4年7月6日、被告に対し、労働契約法18条1項に基づき、期間の定めのない労働契約の締結の申込みをした(甲9、甲10)。 3 原告らの主張 (1) 地位確認及び賃金請求について 被告におけるビーバー号事業の実施要領やビーバーDH募集の求人広告において雇用であると明記されていたこと、ビーバーDHにつき労災保険に加入していたこと、労基署からビーバー号事業に従事する原告らの契約実態が労働契約であることを前提として是正勧告がなされ、被告は是正勧告に従って就業規則を作成して提出していることなどからして、原告らと被告との間の契約は当 初から雇用契約であったといえる。原告らは被告と有期労働契約を締結し、同契約は、その後2年毎に更新され、12年から21年にもわたって継続しており無期転換権が発生している。 被告は、原告らに対して、令和4年4月以降はビーバー号事業の出動を配点しないと通 約を締結し、同契約は、その後2年毎に更新され、12年から21年にもわたって継続しており無期転換権が発生している。 被告は、原告らに対して、令和4年4月以降はビーバー号事業の出動を配点しないと通告し、有期労働契約の期間中であるにもかかわらず事実上の解雇の 意思表示をしたものであり、同解雇は、やむを得ない事由は認められず、労働契約法17条1項の適用により解雇権の濫用として無効である。 令和4年4月以降の賃金請求の月額賃金額は、新型コロナウイルス禍以前の令和元年の一年間の賃金額を12で除した額とするのが相当であり、各原告の月額賃金額は別紙請求額一覧表の各請求賃金額欄記載のとおりである。 (2) 不法行為について被告による原告らに対する上記事実上の解雇は、原告らを無期転換させないという労働契約法18条に反する目的に基づいてなされた非常に悪質なものである。被告は、従前、長年にわたって原告らを労働者として扱っておきながら、原告らが無期転換や労働契約としての雇用継続を求めた途端一方的に解雇を行 ったものであり、原告らの雇用に対する期待やビーバーDHとしての仕事のやりがいをはく奪するものであり不法行為に当たり、これにより生じた原告らの精神的苦痛は少なくとも一人当たり100万円を下らない。 4 被告の主張(1) 雇用契約ではなく委託契約であることの根拠 以下に指摘する事情からして、被告は原告らにビーバー号事業に関する業務 を委託していたものであり、原告らは被告に雇用されておらず、無期労働契約への転換の効力が生じる余地はなく、被告が原告らを解雇する余地もないから、原告らの請求は、前提を欠き、いずれも理由がない。 被告は、ビーバー号事業に参加を希望する歯科衛生士に対して委嘱状を発行して原則2年の期 生じる余地はなく、被告が原告らを解雇する余地もないから、原告らの請求は、前提を欠き、いずれも理由がない。 被告は、ビーバー号事業に参加を希望する歯科衛生士に対して委嘱状を発行して原則2年の期間を定めて障がい福祉保健委員会指導歯科衛生士に委嘱して いたが、委嘱状はビーバー号事業への参加に関する具体的な条件(出動日、日当の額等)を定めるものではなく、ビーバーDHは委嘱状記載の期間においてビーバー号の出動の委託を受けることができる地位を得るものにすぎず、これに基づいて直ちに役務提供の義務を負い又は日当等の支払を請求する権利を有するものではないし、被告がビーバーDHに対してビーバー号事業に係る業務 を割り当てる義務を負うものでもない。ビーバーDHは、調整を経て決定した出動日程に基づきビーバー号出動に参加して日当の支払を受けるが、出動日毎に被告とビーバーDHとの間で出動に参加する合意が成立するものであり、この合意の法的性質は委託であり雇用ではない。 ビーバーDHの出動日程の割当ては被告がビーバーDHらの意向を調査して 作成した出動日程表のたたき台を前提にビーバーDHらの間で調整を行うことで確定するから、ビーバーDHは、被告作成のたたき台に記載された出動日程を応諾する義務はなく当該日程の出動を拒絶することが可能である。 ビーバー号事業は、公益的性格を有し、歯科医師や歯科衛生士の有志の参加によって実施されるものであり、ビーバーDHの業務は専門性や裁量性が高く、 被告の委託を受けて出動に参加する歯科医師がビーバーDHに対して行う指導や指示等は被告とビーバーDHらとの間の使用従属性を根拠付けるものとはならず、ビーバー号出動に被告職員は随行せず、被告職員がビーバーDHに対して指揮命令を行うこともない。 ビーバー号の出動に参 導や指示等は被告とビーバーDHらとの間の使用従属性を根拠付けるものとはならず、ビーバー号出動に被告職員は随行せず、被告職員がビーバーDHに対して指揮命令を行うこともない。 ビーバー号の出動に参加するビーバーDHは、出動先における歯科健診等の 業務が終われば実際の業務に要した時間の長短にかかわらずその時点で解散と なり、出動に当たってタイムカードその他の方法による業務遂行時間の管理はされておらず、ビーバーDHはビーバー号出動の参加の際に時間的拘束を受けていない。ビーバー号出動に参加したビーバーDHに対しては出動1回当たり1万5000円の日当が支払われるが、この日当は現実に業務に従事した時間に応じて支払われるものではなく、歯科医院等で雇用される歯科衛生士に支給 されるものと比べれば高額である。 ビーバーDHの多くは診療所など他に勤務先を有する歯科衛生士であり、ビーバー号事業という公益的活動のため、当該勤務先の休日等を利用して出動に参加するものであり、被告に専属して稼働するものではない。 以上の事情からすれば、被告とビーバーDHとの間には使用従属関係はなく 雇用関係は存在せず、被告とビーバーDHとの間の法律関係は、ビーバー号事業に係る業務の遂行を目的とする委託契約と解すべきである。 (2) 原告らの主張に対する反論原告らが指摘する求人広告の記載や労災保険への加入は、いずれも被告の事務上の取扱いの瑕疵によるものであり、これをもって被告とビーバーDHとの 間の契約関係が雇用となるものではない。 被告は、千葉労働基準監督署から受けた是正勧告には不服があり、担当の労働基準監督官に疑義を述べるなどしたものの、是正勧告に従わないことによる刑事処分のおそれ等を考慮して是正勧告に従うことにしたものである。 ( 基準監督署から受けた是正勧告には不服があり、担当の労働基準監督官に疑義を述べるなどしたものの、是正勧告に従わないことによる刑事処分のおそれ等を考慮して是正勧告に従うことにしたものである。 (3) 雇用契約とすることの困難性 被告がビーバーDHを雇用するとなると、ビーバーDHの稼働につきタイムカード等による労働時間の把握が必要となり、兼業先を含む稼働時間が法定労働時間を超える場合には労使協定締結の上で割増賃金を支給しなければならなくなり被告において膨大な事務が発生する。被告が厳格な時間管理を行うとすればビーバーDHの働き方の自由度を奪うことになるし、被告の膨大な事務の 発生を避けるには兼業を制限せざるを得なくなるが、ビーバーDHは歯科医院 等に勤務しながらビーバー号事業に参加する者であることが通常であるから兼業を制限することは現実的でない。 ビーバー号事業は、心身障害者(児)歯科保健対策として、心身障害者(児)を広域から受け入れる医療機関の設置という恒久的対策が予算の関係上直ちに実施することが困難であったため当面の対策として開始されたものであり、千葉 県の単年度事業であり、被告は1年ごとに千葉県と事業委託契約を締結しており、次年度以降の事業の継続は保証されない。被告がビーバーDHを雇用した場合、次年度の事業が実施されないことになったとしても、ビーバーDHとの契約関係を容易に終了することができないおそれがある。 このように、被告がビーバーDHを雇用することは、ビーバー号事業の実態 にそぐわないものであり、被告がビーバーDHとの間の契約の形態を雇用にすることは極めて困難である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実当事者間に争いのない事実に加え、証拠(掲記各証拠、甲30、甲31、乙 44、原 がビーバーDHとの間の契約の形態を雇用にすることは極めて困難である。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実当事者間に争いのない事実に加え、証拠(掲記各証拠、甲30、甲31、乙 44、原告A本人、原告C本人、被告代表者)及び弁論の全趣旨により認められる事実は、以下のとおりである。 (1) ビーバー号事業は、千葉県が昭和54年に開始し、開始以降、毎年度、被告が千葉県から委託を受けて実施してきた。 ビーバー号の出動施設数等は、平成29年度が100施設(出動回数77 回、乙27)、平成30年度が85施設、平成31年度(令和元年度)が96施設(出動回数77回)である。 ビーバー号事業に係る被告と千葉県の業務委託契約は、令和3年度は同年4月1日に締結され、業務内容をビーバー号事業及び千葉県が被告に貸与するビーバー号の管理に関する業務として業務委託料は3128万4000円であり (甲4)、令和5年度は同年9月4日に締結され、上記令和3年度の業務の 他、障害児者の口腔健康維持のための協力歯科医療機関の配置調整、施設従事者に対する障害者歯科講話の実施、障害者歯科に係る人材育成のための研修等が業務内容に加えられて業務委託料は2300万円であり(乙41、ビーバー号事業の実施施設数は25施設程度)、令和7年度は同年4月30日に締結され、業務内容は令和5年度と大要を同じくするもので(ビーバー号事業の実施 施設数は40施設程度)業務委託料は3499万円である(乙45)。 被告においては、本件紛争が起きる前から、ビーバー号事業は心身障害者(児)歯科保健の当面の対策であり、恒久対策としては障害児等を広域から受け入れて治療等を行う広域センターの設置が必要であるとの見解が表明されていた(乙36)。 (2) 原告Aは 心身障害者(児)歯科保健の当面の対策であり、恒久対策としては障害児等を広域から受け入れて治療等を行う広域センターの設置が必要であるとの見解が表明されていた(乙36)。 (2) 原告Aは、平成7年に歯科衛生士の免許を取得した後、歯科医院等で歯科衛生士として勤務をするようになり、平成14年に母校の恩師からビーバー号事業やビーバーDHの募集について話を聞いたことなどから、ビーバーDHに応募した。原告Aは、被告からビーバーDHとして採用される前に被告の会員である歯科医師と面接をしてビーバー号事業の概要の説明を受け、採用が決まっ た後、被告の事務局から出動時の日当(1万5000円)や出動日の拘束時間(原則午前9時から午後5時まで)等について説明を受けた。 原告Cは、昭和61年に歯科衛生士の免許を取得した後、歯科医院に就職し、出産等による離職を経て平成15年頃からは自治体で歯科衛生士としてパート勤務をするようになった。原告Cは、被告主催の講習を受けたことがあっ たところ、平成17年3月頃、被告からビーバーDHの募集案内(甲5)の送付を受け、以前から関心を持っていたことから応募し、被告の面接を受けた上でビーバーDHとして採用された。上記募集案内の募集要項には、雇用形態がパート労働者、雇用期間が平成17年5月1日から平成18年3月31日まで、賃金形態が日給制であることなどが記載されていた(甲5の2)。 原告A及び原告Cは、いずれも、被告の面接の際には、雇用契約であるとも 委託契約であるとも説明は受けなかった。 (3) ビーバー号事業の概要は、千葉県内各地の障がい者・障がい児施設からの希望調査に基づいて千葉県と被告が協議をして実施施設を選定し、各施設との調整を経て被告が出動日を決定し、出動を担当することに (3) ビーバー号事業の概要は、千葉県内各地の障がい者・障がい児施設からの希望調査に基づいて千葉県と被告が協議をして実施施設を選定し、各施設との調整を経て被告が出動日を決定し、出動を担当することになった歯科医師(2名程度)と歯科衛生士(3名から15名程度)が集合場所でビーバー号と名付け られた巡回歯科診療車等に乗り合わせるなどして施設を訪問し、施設に入所・通所する障がい者の歯科健診、歯磨き指導、保護者や職員へのホームケア指導等を行うものである。 ビーバー号の出動日の業務内容は、被告作成の「ビーバー検診の流れ」と題する書面(甲21)において、朝の集合時間に始まり、設営・朝礼・検診・診 療・健康教室・反省会における実施内容や役割分担が示されている。ビーバーDHは、被告作成の同書面及び被告作成の実施要領及びマニュアル(甲22、甲34)の内容に沿ってビーバー号出動の仕事をしており、具体的なスケジュールや業務内容は、出動毎に決められた管理指導医が責任者として統括し、施設との連絡調整は管理指導医が行い、管理指導医から管理DHを通じて各出動 ビーバーDHに対して伝達されていた(甲18ないし20)。 被告は、ビーバーDHのために労災保険に加入して保険料を支払っていた。 ビーバー号の出動日に、どのビーバーDHが出動するかは、被告がビーバーDHの意向調査で希望の曜日等を把握した上で4か月毎(前期・中期・後期)に出動日程表の案を作成し、DH代表がビーバーDHから寄せられた変更希望 等を調整して出動日程表の修正案を被告に提出し、被告が出動日程表の確定版を作成することにより決められていた。ビーバーDHは、出動日が確定した後でも、その後の管理指導医の判断により必要なビーバーDHの人数が変わるなどして出動日がなくなったり変更されるこ 動日程表の確定版を作成することにより決められていた。ビーバーDHは、出動日が確定した後でも、その後の管理指導医の判断により必要なビーバーDHの人数が変わるなどして出動日がなくなったり変更されることがあった。(甲16、甲17、乙9ないし14) ビーバーDHの活動は被告内委員会で決定されるものとされ(乙25)、具 体的には、ビーバー号事業の実施要領(甲22)に定められており、ビーバー号による歯科健診に出動して歯科健診の補助や歯科保健指導等の業務を行うことが活動の中核であるが、ビーバー号の備品管理や、被告内委員会の指導歯科衛生士としての部会活動として、歯科保健指導に使用するサポートカード(絵カード)や配布資料などの媒体作成、被告や被告内委員会がビーバー号事業に 関して学会で発表する際の準備や発表担当1(甲39、乙27)、ビーバーDHの研修の企画開催などをしており、担当のビーバーDHを決めて班に分かれて活動していた(甲22)。また、ビーバーDHは、被告内委員会における合同委員会(被告会員で被告内委員会所属の歯科医師とビーバーDHが参加する会議、年2回、甲16、乙16)に出席し、ビーバーDHのみで出動準備や打合 せ等の会合を行い(年3回、甲36ないし38、乙15ないし20)、ビーバー号を使用して行う防災訓練の際に説明要員として出動する(甲32)こともあった。 ビーバーDHの活動に対する報酬は、ビーバー号による出動は日当1万5000円であったが、一時間以上の遅刻の他、反省会前の施設退去、管理指導医 から早退の指示があった場合は半額支給とする旨定められていた(甲22)。 被告と千葉県との取り決めにより、ビーバーDHの出動に対する日当は午後5時までの巡回業務として支払われるものとされていたため、被告から 退の指示があった場合は半額支給とする旨定められていた(甲22)。 被告と千葉県との取り決めにより、ビーバーDHの出動に対する日当は午後5時までの巡回業務として支払われるものとされていたため、被告からビーバーDHに対して、出動日は午後5時までは予定を入れないように指示がされていた(甲21)。また、ビーバーDHは、上記のビーバー号出動以外の活動に対 しても、会議費や交通費等を支給されていた。 ビーバーDHは、被告作成の実施要領によりビーバーDH会に所属することとされており、会のまとめ役であるDH代表2名は、毎年度輪番制で決められていた。障がい者に対する歯科健診の補助や歯科保健指導等は、障がいの種類 1 学会の発表演者は被告会員に限られるとされている(乙26)ことからすれば、ビーバーDHの関与は被告会員のする発表の補助者として位置づけられるものと認められる。 や程度に応じた対応が必要であり、利用者が暴れてしまった際の対応や、利用者やその保護者の心情等に配慮しながら指導を行うことなど、歯科医院等で行う通常の歯科衛生士の業務とは異なる特有の技術や知識経験を要するものであるところ、ビーバーDHは、ビーバーDH間で、情報の共有をしたり、研修会等で研さんを積むなどして、ビーバーDHとして必要な技術や知識経験を習得 して継承するなどし、ビーバーDHとして活動していた。 (4) ビーバー号事業は、令和2年4月以降、新型コロナウイルス蔓延に伴う緊急事態宣言の影響により一時中断となり、同年7月から規模を縮小して徐々に再開したところ、出動日が決まっていたビーバーDHの休業補償が話題となったことに対して、被告とビーバーDHとの契約が委託契約である旨の見解が被告 側から示されることがあり、原告らは労働基準監督署に相談するなどした 日が決まっていたビーバーDHの休業補償が話題となったことに対して、被告とビーバーDHとの契約が委託契約である旨の見解が被告 側から示されることがあり、原告らは労働基準監督署に相談するなどした。 令和3年2月頃、被告は、原告らビーバーDHに対して、令和3年度は雇用契約ではなく委嘱契約を前提としてビーバーDHの登録を受け付け、委嘱契約が困難な指導歯科衛生士については委嘱名簿に登録しない旨を通知した(甲7、甲12)。 被告は、令和3年3月25日、千葉労働基準監督署から、被告とビーバーDHとの契約が雇用契約に該当することを前提として、就業規則を作成して届出をするよう是正勧告を受けた。被告は、是正勧告に従い、就業規則を作成し、令和3年7月1日、千葉県労働基準監督署長に届出を行った。(甲8、乙6ないし8) 被告からビーバーDHに対して今後雇用契約を締結する旨の方針が示されたこともあったが、被告は、令和3年10月頃から個別面談や説明会を行うなどした上、令和4年1月以降、ビーバーDHに対し、委嘱契約書を送付し、雇用契約ではなく委託契約に応じるか否かの意思表明を求めるようになった。令和4年2月当時、ビーバーDHは原告らを含め18名であったところ、原告らを 含む17名が、被告に対し、ビーバー号事業の契約の継続は希望するが委嘱契 約には合意できない旨の意思表明をしたところ、被告は、原告らを含む17名に対し、委託契約に応じない場合は令和4年度のビーバー号事業の業務をお願いすることはできないとして、同年4月以降は任期期間中であっても出動の配当をしない旨を通告した。(甲11)(5) 原告らは、令和4年4月以降、被告からビーバー号事業の出動の配点を受け ていない。 2 地位確認請求について(1) 前 中であっても出動の配当をしない旨を通告した。(甲11)(5) 原告らは、令和4年4月以降、被告からビーバー号事業の出動の配点を受け ていない。 2 地位確認請求について(1) 前記前提事実(3)ないし(5)、上記認定事実(2)及び同(3)記載の各事情を前提とすると、以下に検討するとおり、原告らは、被告との間で雇用契約を締結し、被告の指揮監督下においてビーバー号事業等の業務に従事して労務を提供し、 労務に対する対償を支払われる労働者であると認められる。 (2) ビーバー号事業は、被告が千葉県からの委託事業として行うものであり、その事業内容は千葉県と被告との間の業務委託契約において仕様書等で定められ(甲4の2等)、ビーバー号事業の実施のために欠くことのできないビーバーDHの募集や待遇(日当や拘束時間)についても千葉県が関わって決められる などしており、原告らビーバーDHは、千葉県及び被告が雇用を前提として募集したものに応募して被告に採用されたものと認められる。そして、被告作成のビーバー号事業の実施要領(甲22)において、歯科医師(管理指導医及び指導医)につき被告と2年任期の委託契約を締結する旨記載されている一方で、ビーバーDHについては、雇用であることを前提に定年や再雇用等についても 記載されているのであって、被告が原告らビーバーDHを雇用していると認識していたことは明らかといえる。この点に関し、被告は、「雇用」の文言使用について、事務取扱上の瑕疵であるとか法的意味を検証せずに用いた文言であるなどと主張するが不合理で採用できない。また、原告らと被告との間で雇用契約の契約書が作成されておらず被告が原告らビーバーDHに対して被告内委 員会の指導歯科衛生士に委嘱する旨の「委嘱状」を交付しており、委嘱状に 合理で採用できない。また、原告らと被告との間で雇用契約の契約書が作成されておらず被告が原告らビーバーDHに対して被告内委 員会の指導歯科衛生士に委嘱する旨の「委嘱状」を交付しており、委嘱状には 具体的なビーバー号出動に係る条件(出動日・日当額等)が記載されていないという事情はあるが、同事情は上記認定判断を左右しない。被告は、千葉県からビーバー号事業につき委託を受けて業務委託料の支払を受ける立場にあるのであるから、業務委託料を定める際に想定した実施施設数(出動回数)に必要となるビーバーDHを確保してビーバー号事業を実施しなければならないので あって、ビーバーDHの採用をした際にビーバーDHとの間で雇用契約を締結したと認めるのが自然である。被告は、ビーバーDHは委嘱状の発行を受けて委嘱状記載の期間にビーバー号の出動の委託を受けることができる地位を得るものにすぎないなどと主張するが不合理で採用できない。 上記認定のとおり、被告作成の実施要領等によりビーバーDHの仕事内容や 待遇が明確にされており、ビーバーDHは、同実施要領に沿って、ビーバー号出動を中心として様々な活動を年間通じて行い、ビーバー号出動の際は、被告の会員である管理指導医が当該出動に関する責任者として統括する立場にあり、原告らビーバーDHは管理指導医の指示に従って業務を行っていたものであるから、その実態において、原告らビーバーDHが被告に雇用された労働者であ ることを否定すべき事情は見当たらない。この点に関し、被告は、ビーバーDHの出動日程の決定がDH代表を通して調整されておりビーバーDHには応諾するかしないかの自由があったなどと主張するが、既に被告と施設との間でビーバー号の出動日が決定され、限られた人数のビーバーDH2で分担して出動する日 H代表を通して調整されておりビーバーDHには応諾するかしないかの自由があったなどと主張するが、既に被告と施設との間でビーバー号の出動日が決定され、限られた人数のビーバーDH2で分担して出動する日の割当てを決める必要がある中で、DH代表が調整の労をとり、ビーバー DHらにおいても被告と雇用関係にあることを前提として誰かが出動対応しなければならないとの共通認識があればこそ出動日の調整ができていたものと理 2 被告作成の平成31年4月当時の実施要領(甲22)によれば、被告は、75回の出動回数と健診事業の内容を前提にビーバーDHを32名から38名程度確保する想定で新規採用人数を考えていたと認められる一方、上記認定のとおり、令和4年2月当時のビーバーDHの人数が原告らを含め18名であったことからすると、各ビーバーDHは被告の想定より多い回数出動して出動要請に応じていたものと認められる。 解でき、被告は調整の労をDH代表に委ねビーバーDHらの協力によりビーバーDHの出動日を決めることができたというにすぎず、原告らビーバーDHの労働者性を否定する事情とはいえない。被告が千葉県からの委託事業としてビーバー号事業を実施するのにビーバーDHが確保できないまま実施するという事態が千葉県から許容されていたとは考えられず、ビーバーDHには応諾する かしないかの自由があったのではなく、ビーバーDH間で交替や調整するなどしてビーバーDHの出動要請に応じていたものということができる。また、被告は、管理指導医が管理DHに送付した出動先の業務内容に係る書類(甲18の2、甲18の3)において、段取りを相談するような表現や、「至らぬ点が多数あると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。」との表現がある ことをもって、管理指導医は指揮命令す 類(甲18の2、甲18の3)において、段取りを相談するような表現や、「至らぬ点が多数あると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。」との表現がある ことをもって、管理指導医は指揮命令する立場にないことを示しているなどと主張するが、管理指導医が管理DHと協力してビーバー号出動を円滑に実施するため丁寧な表現対応をしたものと理解でき、上記認定判断を左右するものではない。 その他被告が主張するところは、いずれも、原告らと被告との間の雇用契約 の存在や原告らが労働者であることを否定する合理的根拠となるとは言い難く、採用することはできない。 (3) 上記認定判断を前提とし、被告が原告らビーバーDHに対して、原則2年間の任期の委嘱状を交付していたことからすれば、同任期をもって労働契約の期間の定めと認めるのが相当である。 そうすると、原告らと被告との間の労働契約が最後に更新されたのは令和3年4月1日であり、契約期間の満了日は令和5年3月31日であったと認められるから、原告らが令和4年7月6日に被告に対して労働契約法18条1項に基づく期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたことにより、被告は各申込みを承諾したものとみなされ、原告らの被告に対する期間の定めのない労 働契約上の権利を有する地位確認請求は理由がある。 3 賃金請求について(1) 上記認定判断を前提とすると、原告らは、被告との有期労働契約の期間中において、これまでと同様にビーバーDHとして業務に従事する旨の意思を被告に示していたにもかかわらず、被告から雇用契約ではなく委嘱契約(委託契約)に応じるよう求められ、これに応じなかったため令和4年4月以降、ビーバー DHとして出動の配点を受けることができず、その他の活動も事実上でき かわらず、被告から雇用契約ではなく委嘱契約(委託契約)に応じるよう求められ、これに応じなかったため令和4年4月以降、ビーバー DHとして出動の配点を受けることができず、その他の活動も事実上できない状況が継続していると認められる。 そうすると、原告らは被告から就労を拒まれている状況にあり、原告らが委嘱契約(委託契約)に応じる義務がないことからすれば、被告の責めに帰すべき事由により就労不能となっているものといえ、原告らは、令和4年4月以降 も賃金請求権を失わない。 (2) 令和4年4月以降の原告らの賃金額について、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりビーバー号の出動回数が減少したと認められる令和2年度及び令和3年度の額や、本件紛争によりビーバー号事業の実施に影響が生じたと認められる3令和4年度以降の額を考慮するのは相当ではなく、証拠(原告Aについ て甲A3、原告Dについて甲D2、原告Bについて甲B3、原告Cについて甲C3、原告Eについて甲E3)及び弁論の全趣旨によれば、原告らが主張する別紙請求額一覧表の請求賃金額欄記載の額は、平成31年度(令和元年度)までの原告らが被告から支給を受けた金額に照らして、令和4年4月以降に支給されたであろう賃金額として相当な額と認めることができるから、これを採用 する。 被告は、ビーバー号事業が心身障害者(児)歯科保健対策としては当面の対策 3 上記認定のとおり、令和4年2月当時、ビーバーDHの人数が18名であり、そのうち17名が被告との委嘱契約(委託契約)に応じなかったのであるから、令和4年4月以降のビーバー号事業の実施(ビーバーDHの出動回数等)に当然影響があったものと認められる。被告のビーバー号出動実績の資料(乙43)からも、各出動におけるビーバーDHの出動人数が、平 、令和4年4月以降のビーバー号事業の実施(ビーバーDHの出動回数等)に当然影響があったものと認められる。被告のビーバー号出動実績の資料(乙43)からも、各出動におけるビーバーDHの出動人数が、平成31年度は3名から15名の出動であったものが、令和4年度は0名から4名の出動となるなど大きく変化している。 として開始されたものであり、千葉県の単年度事業であることなどから今後の事業継続は保証されず、令和4年度以降のビーバーDHの出動延べ人数が大幅に減少していることを考慮すべきであるなどと主張するところ、上記認定のとおり、令和7年度の千葉県と被告との業務委託契約(乙45)においても千葉県からの委託業務の中でビーバー号による歯科保健巡回診療指導の実施は主た る業務内容とされていると認められ、ビーバー号事業は昭和54年から実施されてきた事業であって当面は継続されることが見込まれ、出動延べ人数が大幅に減少したのは本件紛争により経験豊富なビーバーDHの確保が困難となったことが影響していると考えられるから、被告の主張は賃金請求の判断において考慮すべき事情とはいえない。 (3) 原告らは、令和4年4月以降の賃金請求をしているところ、本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する賃金について支払がされないと予想されるような特段の事情は認められないから、将来請求の必要性の観点からすれば、本判決確定の日の翌日以降に支払期日が到来する賃金請求については訴えの利益を欠くというべきである。 4 不法行為に基づく慰謝料請求について上記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告らビーバーDHにつき雇用していることを認識していたものの、雇用契約の使用者として負うことになる義務や責任等に関する認識に乏しく、労働基準監督署からの 記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告らビーバーDHにつき雇用していることを認識していたものの、雇用契約の使用者として負うことになる義務や責任等に関する認識に乏しく、労働基準監督署からの是正勧告等を通じてそれを認識した後は、雇用契約(労働契約)ではなく委託契約に応じ るよう原告らビーバーDHに求め、委託契約に切替されないまま原告らがビーバーDHとして活動した場合に生じる被告の負担等を憂慮して、令和4年4月以降の出動の配点をしない旨の対応をとったものと認められる。これは、雇用を前提とした募集に応じてビーバーDHとして採用され長くビーバー号事業に従事してきた原告らからすれば理不尽な対応であったと理解できるが、被告に 原告らに対する積極的な加害意思があったとまでは認められず、被告が原告ら に対して令和4年4月以降の出動の配点をしない旨の対応をとったことにより賃金支払によっても填補されない精神的損害が発生したものとも認めることはできないから、不法行為に基づく慰謝料請求は理由がない。 5 よって、主文のとおり判決する。 (裁判官池田弥生)
▼ クリックして全文を表示