平成13(わ)137 贈賄(信濃美術館贈賄)被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年9月3日 長野地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-6493.txt

判決文本文12,455 文字)

平成13年(わ)第137号贈賄被告事件 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,図録等の作成,複製絵画等の制作販売等を業とする株式会社A社代表取締役として同社の業務を統括していたもの,Bは,長野県生活環境部部付として,休職派遣により平成8年4月1日から長野県教育委員会が所管し長野県生活環境部がその業務を補助執行する長野県C美術館の次長兼学芸課長,平成11年4月1日からC美術館副館長の職にあり,長野県教育委員会とA社との間で締結された長野県C美術館D館における額絵,絵はがき等の委託販売契約関係の職務に従事していたものである。 被告人は,Bに対し,同委託販売契約の継続等A社のために有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨のもとに,別表記載のとおり,平成10年8月10日から平成11年9月8日までの間,前後14回にわたり,情を知らないA社従業員らをして東京都中央区・・・株式会社E銀行・・・支店等から長野県長野市・・・同銀行・・・支店にBが開設した「長野県C美術館B」名義の普通預金口座に現金合計326万8958円を振込入金し,もって,Bの職務に関し賄賂を供与したものである。 (事実認定の補足説明)弁護人は,① Bの委託販売契約に関する権限の内容は法令上の根拠を有するか疑わしい不明確なものであり,Bには形式的にも実質的にも決定権が帰属しておらず,被告人自身もBの職務権限については認識していなかった,② 被告人は,美術館に関する予算内の出費とされない部分について予算代わりで使用されるという理解で金員を提供したもので,賄賂性の認識はない旨主張し,被告人も概ねこれ 権限については認識していなかった,② 被告人は,美術館に関する予算内の出費とされない部分について予算代わりで使用されるという理解で金員を提供したもので,賄賂性の認識はない旨主張し,被告人も概ねこれに沿う供述をしているので,以下検討する。 1 前掲証拠によれば次の事実が認められる。 ① 被告人は,大学卒業後,展覧会の図録等の制作をする会社に長く勤務した後,昭和51年に株式会社A社を設立したが,出資者の意見不一致によりこれを解散し,昭和61年に被告人が約6割の株式を保有する株式会社A社を設立し,代表取締役として同社の業務を統括していた。A社は,美術館等の展覧会で販売される,その出品絵画等を印刷した図録の制作や,展覧会に関連する絵はがき,額絵等の物品の制作販売を業とする株式会社であり,被告人が会社員として勤務していた際に,D画伯の仕事を担当していたことの縁で,A社は,D画伯の展覧会図録等を多く手掛けるようになっていた。 ② Bは,日本大学芸術学部を卒業後,昭和41年に財団法人C美術館職員として採用され,C美術館が長野県に移管され,教育委員会の所管となった後の昭和45年4月に長野県職員に採用されて引き続き学芸員としてC美術館勤務を命じられ,昭和57年4月から長野県教育委員会事務局文化課に3年勤務したほかはC美術館勤務に終始し,昭和60年4月にC美術館学芸課長を,平成8年4月にC美術館次長兼学芸課長を,平成11年4月にC美術館副館長を,それぞれ命じられ,平成13年3月定年退職した。 この間,昭和61年4月にC美術館の管理運営が財団法人長野県F事業団に委託されたが,Bは,その後もC美術館を所管する長野県教育委員会の事務局事務職員という県職員の身分のまま,職員の分限に関する条例(昭和27年3月29日長野県条例第8号)2条3号の「県の事務又は事業と密接 れたが,Bは,その後もC美術館を所管する長野県教育委員会の事務局事務職員という県職員の身分のまま,職員の分限に関する条例(昭和27年3月29日長野県条例第8号)2条3号の「県の事務又は事業と密接な関連を有し,かつ,県が特に援助し,又は配慮することを要する公共的団体において,その職員の職務と関連があると認められる業務に従事する場合」との規定に基づき,F事業団に休職派遣され,引き続き,C美術館学芸課長として勤務し,平成8年4月からは県の組織変更により,県職員の身分としては,C美術館に関する業務を補助執行するようになった生活環境部の部付を命じられていた。 Bは,教育委員会事務局文化課勤務であった昭和59年11月に開催のD画伯の企画展の際に,図録等の制作の依頼をしたことから,被告人と知り合った。 ③ C美術館は,長野市内の善光寺の近くに所在する美術館で,昭和41年に財団法人C美術館として発足し,昭和44年に長野県に移管されて,長野県C美術館として,公立の美術館となった。 C美術館は,昭和61年4月,C美術館の管理運営がF事業団に委託された後も,長野県教育委員会が所管しており,平成8年4月からは,県の組織変更により,長野県教育委員会の所管のまま,長野県生活環境部がC美術館に関する業務を補助執行していた。 ④ C美術館D館の設立経緯日本画壇を代表する日本画家で,文化勲章受章者であったD画伯から,昭和62年に,その所蔵作品を一括して長野県に寄贈する話が県知事に伝えられた。県知事をはじめとする県の首脳は,この話を喜んで受け入れ,D画伯の作品専用の施設の建設が条件となっていたことから,その施設を建設することとした。D館は,C美術館の併設館として平成2年4月開館し,管理運営については,C美術館の業務の一環として行われた。 ⑤ D館の建設に際しては,県知事 条件となっていたことから,その施設を建設することとした。D館は,C美術館の併設館として平成2年4月開館し,管理運営については,C美術館の業務の一環として行われた。 ⑤ D館の建設に際しては,県知事は,専門的な知識がある者としてC美術館の学芸課長であったBにD画伯との窓口を務めるように命じ,Bは,D画伯に伝えるべき県の意向を確認したり,逆にD画伯の意向を県側に伝えるなどし,教育委員会事務局文化課(以下「文化課」という。)がD館建設基本構想策定の業務を担当した際には,県知事の意向により,これに加わった。そのようなことから,Bは,長野県の職員の中では,D画伯の意向を知ることのできる唯一の人物として周囲から評価され,D館に関するBの意見は教育委員会の文化課においても重視されることとなった。 ⑥ D館には,美術印刷物を販売するミュージアムショップを設置することとなり,そのミュージアムショップにおける美術印刷物の販売について,業者の選定や契約内容の決定については,文化課が担当し,Bもこれに関与した。 Bは,D画伯の作品の図録を多く手掛けていたA社の技術力を高く評価しており,ミュージアムショップで販売する図録及び絵はがきや額絵について,D画伯に確認しなかったものの,業者についてはいずれもA社が相当であると考え,文化課の中で,D画伯が特定の人でないと版権があるので許可しない旨を述べてA社を推薦し,長野県はいずれについてもA社と随意契約をすることになった。 ⑦ 図録については,長野県が買い取り,これを販売する方式を取ることとなったが,絵はがきや額絵については,どのような販売方式を取るかの検討がなされ,文化課の係長らは,A社から商品を預かってそれを販売し,その販売実績に応じて手数料を徴収する受託販売の方式を取ることとした。 そして,文化課の係長らが,Bに販売 ような販売方式を取るかの検討がなされ,文化課の係長らは,A社から商品を預かってそれを販売し,その販売実績に応じて手数料を徴収する受託販売の方式を取ることとした。 そして,文化課の係長らが,Bに販売方法,手数料についての交渉について依頼し,Bは,被告人に連絡し,受託販売で構わない旨の回答を得た上,手数料については,被告人が20から30パーセントくらいが普通であると述べたことから,Bが25パーセントを提案し,被告人もこれを了承したため,Bは,これらを文化課に連絡した。 さらに,文化課の係長らが,Bに対して契約の原案も作成するように依頼し,Bが被告人にひな型を送るように指示したことから,被告人は契約内容を記載した覚書を作成して郵送し,Bは,被告人作成の覚書を文化課へ持参した。文化課の担当者は,被告人の書いた「覚書」の表題を「委託販売契約書」と訂正し,その他必要事項の訂正を施して,委託販売契約案を作成した。被告人の作成した覚書においては,契約当事者の甲として「長野県C美術館・館長G」と記載されていたが,委託販売契約書においては,甲として「長野県教育委員会・教育長H」と表記された。 ⑧ A社と長野県教育委員会は,平成2年4月26日付で,ミュージアムショップにおける額絵,絵はがきの委託販売契約を締結した(以下「本件委託販売契約」という。)。 本件委託販売契約の内容は,「長野県教育委員会の所蔵品の中からA社が制作した額絵と絵はがきをミュージアムショップで販売する。長野県教育委員会は当日の売上代金を翌営業日にA社の口座へ預け入れる。A社は,売上代金の25パーセントを販売手数料として当月分を翌月納入する。委託期間は,翌年3月31日までとするが,期間満了の1か月前までにいずれからも別段の意思表示がない場合は,その後1年間継続するものとしその後も同様とする。 トを販売手数料として当月分を翌月納入する。委託期間は,翌年3月31日までとするが,期間満了の1か月前までにいずれからも別段の意思表示がない場合は,その後1年間継続するものとしその後も同様とする。」などの内容であった。 ⑨ 被告人は,D館が開館した平成2年4月26日に訪れることができなかったことから,同月末か同年5月初めころ,D館を訪れた。 その際に,被告人は,BとD館内の喫茶室で話し合いをした。Bの話を聞いた被告人は,誰に対して何を目的として提供するものであるかはともかくとして,金銭の提供を考え,Bに連絡を取り,Bの銀行預金口座を聞き,送金することとした。 ⑩ 被告人は,平成2年6月14日以降,ミュージアムショップの売上代金の10パーセントから1割の源泉徴収をした金額,すなわち売上代金の9パーセントを,A社の従業員らに命じて,A社の口座からE銀行大門町支店の「B」名義の口座に振り込み,平成4年6月から口座は「長野県C美術館B」名義の普通預金口座に変更されたが,平成11年9月まで,毎月同様の振込がなされた(以下「本件送金」という。)。 上記「B」名義の口座はBが原稿料等を振り込ませていた同人の個人口座であり,「長野県C美術館B」名義の口座は,Bが平成4年5月に新規開設したもので,B個人の口座であった。 A社からBに振り込まれた金額は,平成2年6月14日から平成11年9月まで合計約3455万円に上り,その内公訴時効にかからない期間である平成10年8月10日から平成11年9月8日までの振込状況は別表記載のとおりであり,合計326万8958円であった。 この送金については,B以外の美術館関係者は誰も知らず,Bは,送金された金員につき,自己の収入として確定申告をした上,クレジットカードの支払や交通費,旅行費用,電話料金,車やパソコンの代金,個人の定 この送金については,B以外の美術館関係者は誰も知らず,Bは,送金された金員につき,自己の収入として確定申告をした上,クレジットカードの支払や交通費,旅行費用,電話料金,車やパソコンの代金,個人の定期預金等,専ら自己の用途に費消した。 ⑪ 平成4年4月ころ,Bと被告人が会い,BとA社との間で「委託販売に関する覚書」と題する書面が日付を遡らせて平成2年4月28日付で作成された。その内容は,「ミュージアムショップで販売する額絵,絵はがきをBの監修のもとにA社が製品化し,ミュージアムショップに委託販売物として納入し,その売上の10パーセントをA社がBに支払うものとする。」というものであったが,実際には,額絵,絵はがき等についてBが監修をした事実はなく,A社の税務対策のため作成されたものであった。 ⑫ Bに対し,A社以外の業者からミュージアムショップにおいて,印象派の作家の作品をプリントしたハンカチやD画伯の絵を付けた書類ホルダーを販売したいとの申入れや,D画伯の作品の額絵に付ける額縁の納入などの申入れがあったが,Bは,ミュージアムショップにふさわしくないなどとして,これらの申入れを断り,県には断った後に伝えたことがあった。 ⑬ 平成6年夏,A社からC美術館学芸課に対して,委託販売の販売物品の追加と額絵の値上げの話があり,被告人もBにその話をした。 Bは,同年8月29日,文化課の担当者に対し,「A社がミュージアムショップで販売する品物を増やしたい等の申し入れを受けた。品物を増やす件については承諾済みだが,価格の値上げについては美術館ではできないので,文化課へ協議するようにA社に言ってあるので,A社から連絡がいったら頼む。」旨依頼した。 そして,同年9月にA社から文化課に対し,B4版の額絵やしおり等を追加し,B3版額入額絵を8000円を9000円に値 へ協議するようにA社に言ってあるので,A社から連絡がいったら頼む。」旨依頼した。 そして,同年9月にA社から文化課に対し,B4版の額絵やしおり等を追加し,B3版額入額絵を8000円を9000円に値上げしたいとの内容の書類が届き,文化課で決裁され,そのまま承認された。 ⑭ 平成9年3月,A社は,ミュージアムショップで販売する絵はがきの値上げを求め,長野県教育委員会の所管の業務を補助執行していた生活環境部生活文化課(以下「生活文化課」という。)で決裁され,承認されたが,この際に,BにもA社から話があった。 また,平成11年7月,A社は,ミュージアムショップで販売する商品に一筆箋を追加することを求め,生活文化課で決裁され,承認されたが,その際に,著作権者の了承を取って欲しいという話がBにあった。 ⑮ 平成11年8月ころ,A社の従業員が,C美術館の学芸課長であったIにC美術館のオリジナルの一筆箋を他の美術館で売ることに関する相談をした際に,同人に対し,「何パーセントを美術館の口座に入れればいいですか。」などと聞いたことから,判示「長野県C美術館B」名義の口座の存在が美術館職員らに発覚し,調査の結果,本件送金の存在が判明した。 Bは,A社の作成した請求書に基づき,源泉徴収分をも加えた売上代金の10パーセントに当たる金額である約3839万円をA社に返還した。 以上のとおり認められる。 2 まず,Bの職務権限について検討する。 ① 本件委託販売契約を締結する権限について見ると,前掲証拠によれば,C美術館に関する事務は,教育委員会が担当することとなっているが,本件の委託販売契約のような県と私人との契約については,地方自治法の規定により,県知事が担任することとなっており,C美術館に関しては長野県事務処理規則により,教育長に委任する事項に当たり,その事務は,平 委託販売契約のような県と私人との契約については,地方自治法の規定により,県知事が担任することとなっており,C美術館に関しては長野県事務処理規則により,教育長に委任する事項に当たり,その事務は,平成2年当時は,教育委員会文化課の所掌事務とされていたものである。そして,平成8年4月にC美術館については,長野県教育委員会の処理する事務を生活環境部長が補助執行することとなり,生活環境部生活文化課芸術係が執り行うこととなっていることが認められる。 ② ここで,賄賂罪における「職務」を見るに,賄賂罪は,公務員の職務の公正及びこれに対する社会一般の信頼を保護法益とするものである。そして,刑法197条1項にいう「職務」は,公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務を指称するもので,上司の指揮のもとにその命を受けてその事務を取り扱うものであったとしても「職務」と解される(最高裁昭和28年10月27日第三小法廷判決・刑集7巻10号1971頁)のであるから,契約締結にあたり,契約担当者の依頼を受けて,相手方との折衝をすることも,その契約に対する意見具申をすることも「職務」となり得るのである。 ③ Bは,当初の契約締結時においては,長野県教育委員会事務局事務職員の身分を有し,かつC美術館の学芸課長であった上,県知事からの命により,D館に関する諸事について,特に意見具申を求められ,前述のとおり本件委託販売契約の締結事務についても,深く関与しているのであるから,この時点において,教育委員会に対し,C美術館に関する意見具申をする職務権限を有していたことは明らかである。 その上,Bは,本件委託販売契約の締結時から本件送金の終了時まで一貫して本件委託販売契約等の事務を所管し又は補助執行する部署の職員としての身分を有していたものであり,職員の職務に関連がある ある。 その上,Bは,本件委託販売契約の締結時から本件送金の終了時まで一貫して本件委託販売契約等の事務を所管し又は補助執行する部署の職員としての身分を有していたものであり,職員の職務に関連があると認められる場合として,F事業団に休職派遣され,F事業団が管理運営するC美術館の次長兼学芸課長,さらには副館長として勤務していたものであって,判示犯行当時,生活環境部の部付として,長野県教育委員会の処理する事務を補助執行する生活環境部長に対して,C美術館に関する意見具申をする職務権限を有していたと認めることができる。 また,現実にも,本件委託販売契約の内容の変更に際しても,Bは,被告人から連絡を受けて文化課に意見具申をするなど,本件委託販売契約関係の職務に従事していたのであって,Bについて,刑法197条1項にいう「職務に関し」の要件を欠くものでないことは明らかである。 ④ 被告人も,Bと知り合った当初に,Bが長野県教育委員会文化課の職員で,C美術館学芸課の仕事もしており,その後BがC美術館の学芸課長等になったことを認識していたこと,本件委託販売契約の締結にあたっては,被告人自身が,Bを長野県の窓口として交渉し,委託販売契約にすることを了解し,手数料率等を打ち合せ,契約の原案をBに郵送するなどし,契約締結に至ったこと,本件委託販売契約の内容の変更に際しても,被告人がBに連絡していたことなどの事情からすれば,被告人は,Bが県職員として本件委託販売契約関係の職務に従事していたことを認識していたと認められる。 3 次に,被告人の賄賂性の認識について検討する。 ① 以下の事実関係からすれば,本件送金が本件契約に関連してB個人に対してなされたものであることが強く推認される。すなわち,ア前記のとおり,Bは,本件契約締結時から一貫して本件委託販売契約等の事務 以下の事実関係からすれば,本件送金が本件契約に関連してB個人に対してなされたものであることが強く推認される。すなわち,ア前記のとおり,Bは,本件契約締結時から一貫して本件委託販売契約等の事務を所管し又は補助執行する部署の職員としての身分を有していたもので,休職派遣先であるC美術館の学芸課長,次長兼学芸課長,副館長を歴任し,本件委託販売契約に契約締結当初から関わっていた。 イ本件契約がA社にもたらす利益を見ると,日本画壇の大家であるD画伯の作品を専門的に扱うD館は,かなりの入場者を見込めるもので,絵はがきの利益率も高く,契約が継続すれば安定した収益が得られる上,D画伯の作品を用いた商品を通年で扱えることにより社会的な信用も上がるのであって,被告人自身が当公判廷においても手数料が50パーセントでも引き受けると述べているようにA社に大きな利益のある契約であった。 ウ A社からBへの本件送金が開始されたのは,D館が開館してから2か月も経たない時期からであり,送金先は,Bの個人口座である「B」名義であって,平成4年5月「長野県C美術館B」名義の口座となったのは,A社の税務対策上の必要からであった。 エ本件の送金については,B以外のC美術館関係者は誰も知らず,Bは,送金された金について,自己の収入として確定申告をした上,専ら自己の用途に費消した。 ② Bは,公判において,「平成2年4月の終わりか5月の初旬ころ,D館の喫茶室で,Bが被告人と話した際,被告人に対し,「こうした大作家を抱えると,今後作家の周辺の人たちその他でお付き合いも大変になるし,金がかかる。」,「美術館情勢に詳しい被告人のことだから,分かるだろう。」などと述べたところ,後日,被告人から協力する旨の話があり,送金をしてもらうことになった。」旨述べているが,この供述は,上記の認 かかる。」,「美術館情勢に詳しい被告人のことだから,分かるだろう。」などと述べたところ,後日,被告人から協力する旨の話があり,送金をしてもらうことになった。」旨述べているが,この供述は,上記の認定の事実関係に照らし十分信用できる。 したがって,被告人が,Bの個人的な要求に応じて本件送金をしている上,本件送金が本件契約に関連してB個人に対してなされたものであるから,被告人が賄賂性の認識を有してしたことが十分推認できる。 この点について,被告人は捜査段階において,「D館のため,また,D館が併設されているC美術館学芸課長の立場にあり,A社が長野県教育委員会との間で委託販売契約を結ぶまでに,県側の窓口ということでいろいろとお世話になって感謝し,これからもお世話になって感謝し,これからもお世話になるであろうBさんのためにA社が力になってやろうと思いました。」と述べていることからしても,被告人は賄賂性の認識を有していたと認められるのである。 ③ これに対して,弁護人は,本件送金の趣旨は,美術館に関する予算内の出費とされない部分を予算代わりで使用することの提案である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をしているが,本件送金は当初何らの肩書きも付されていない「B」名義の個人口座に送金されていたもので,被告人は,公判において,Bに対して本件送金の使途を何ら確認せず,美術館の他の職員に確認したこともなかった旨供述している。(もっとも,証人Bの公判供述中には,「使い途について当初,1,2度言ったことがある。」「唐招提寺でのお茶会にD画伯の口利きで,長野県知事夫妻,美術館長夫妻,Bの5人を呼んでいただいた際,長野県として用意した5万円のほかに,本件の送金から50万円の包み金を持って行ったが,このことについて,被告人に「唐招提寺にこんな形で包んで行ったよ。」とか話 長夫妻,Bの5人を呼んでいただいた際,長野県として用意した5万円のほかに,本件の送金から50万円の包み金を持って行ったが,このことについて,被告人に「唐招提寺にこんな形で包んで行ったよ。」とか話をした。」旨の部分があり,Bが被告人に本件送金を美術館に関連して使用している旨述べていたこともあった可能性は否定できないが,被告人がそのような使途のみに使用されていると認識したと認めることはできない。)また,被告人は,喫茶室でBと話をして帰る際,Bから,「さっきの件は,」という形で「副館長も了承しているから。」と言われた記憶がある旨供述しているが,被告人の供述によっても,BがC美術館に対する送金を求めたというのではないから,何について,「副館長も了承している。」というのか極めて不自然な供述であり,Bが送金口座としてそれまで使用して来た個人の口座を告げていることからしても,「副館長の了解を得ているということは言っていない。」という証人Bの供述が信用できるところである。 さらに,被告人から送金開始時に相談を受けたA社の監査役であるJが,公判廷において,「本件が発覚するまで被告人との間で,C美術館の友の会の話はでたことはない。」「A社が他の美術館に賛助金や会費を出す場合には,源泉徴収をすることはない。」「本件は個人に対する送金であるから源泉徴収が必要なことを被告人にも説明している。」旨供述していること,被告人自身も公判廷において,C美術館の友の会の存在やその代表者については確認していない旨述べていることからすれば,本件送金が,B個人にその処分を一任し,自由な使途に用いることを許すものとして行われたものであることは明かである。 ④ 公務員に対し,その自由処分を許すような金銭提供は,それが,本来必要な予算が不足し,公務上の必要経費に充てられるため供与さ な使途に用いることを許すものとして行われたものであることは明かである。 ④ 公務員に対し,その自由処分を許すような金銭提供は,それが,本来必要な予算が不足し,公務上の必要経費に充てられるため供与されるような例外的な場合を除いては,賄賂の供与と評価されるものである。 被告人の公判供述は,「漠然とした美術館のために役立ててもらえればいいかな。」などという使途の不明確なものであって,このような金銭供与は公務員に対する賄賂の供与といえるのみならず,被告人は,大学卒業後,会社員としての勤務を経て,会社経営も長年にわたって行っているのであって,本件のように,その使途を確認することもなく,A社において源泉徴収をした上,Bにおいて確定申告を要するような送金をすることが,賄賂の供与であることは十分知っていたものと認められるのである。 被告人の内心において,Bの言動から,BがD館やD画伯に関係する交際費等に用いることもあるのではないかという期待があったことはうかがえるものの,Bに対し,「美術館のために役立ててください。」と言って送金したものである旨の弁解は採用し得ない。 ⑤ さらに,弁護人は,被告人が送金方法として銀行振込による送金をし,また源泉徴収を行ったり,覚書を作成するなど本件送金について公然と処理しているのは,被告人の賄賂性の認識の欠如を示すものである旨主張する。 しかしながら,被告人が銀行振込,源泉徴収,覚書の作成などをしたのは税務対策のために過ぎず,前記のとおり,「額絵,絵はがきをBの監修のもとにA社が製品化」したものとの虚偽の送金名目を使用してBに送金していたことからすれば,被告人に事実を隠ぺいする意図があったことは明らかである。 4 よって,被告人が,Bの長野県生活環境部部付としての職務に密接な関係を有する行為に関して,賄賂性の認識を有しなが していたことからすれば,被告人に事実を隠ぺいする意図があったことは明らかである。 4 よって,被告人が,Bの長野県生活環境部部付としての職務に密接な関係を有する行為に関して,賄賂性の認識を有しながら,B個人に送金をしたことが認められ,被告人に贈賄罪が成立することに疑いの余地はない。 (法令の適用)被告人の判示各所為はいずれも刑法198条(197条1項前段)に該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の最も重い別表番号14の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予することとし,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)本件は,図録等の作成,複製絵画等の制作販売等を業とする株式会社A社の代表取締役社長であった被告人が,長野県生活環境部部付で,C美術館の次長兼学芸課長や同美術館副館長の職にあったBに対し,C美術館D館における額絵,絵はがき等の委託販売契約の継続等A社のために有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨で,同人に対し,同人の銀行口座に現金合計326万8958円を振込入金して賄賂を供与した事案である。 本件犯行は,D館の開館に際し,同館のミュージアムショップにおいて,A社が長野県教育委員会との間で委託販売契約を締結して絵はがき等の物品を販売することになり,同契約の窓口となっていた県職員で,当時C美術館学芸課長であったBから交際費等がかかるなどと言われたことから,これに応じて送金していたものである。送金金額は,委託販売契約の売上代金の10パーセン り,同契約の窓口となっていた県職員で,当時C美術館学芸課長であったBから交際費等がかかるなどと言われたことから,これに応じて送金していたものである。送金金額は,委託販売契約の売上代金の10パーセントについて1割の源泉徴収をした9パーセントであって,これを毎月送金し続けていたことから,本件犯行に至ったものである。 このような賄賂を供与する犯行は,これを受領する側である県職員一般の職務の公正さに対する県民の信頼を著しく失墜させたものであり,その社会的影響は大きい。また,被告人が送金した賄賂の額は平成10年8月から平成11年9月までの間に現金合計326万8958円と少なからざる金額であり,内容虚偽の覚書を作成して編集料等の正規の送金であるかのように装って送金していることからすれば,本件犯行は悪質といわざるを得ず,被告人の刑事責任は軽いものではない。 他方,被告人において,Bが本件送金をD館やD画伯に関係する交際費等にも用いるとの期待があったこともうかがえること,A社が,Bから賄賂金等が返還されたことから400万円を中央共同募金会に寄付していること,本件が公になったことにより,本件委託販売契約が平成14年3月限りで更新されず,A社の他の契約にも影響が生じるなど,一定の社会的制裁を受けていること,被告人が本件犯行発覚を契機に代表取締役を辞したこと,被告人に前科がないことなどの事情も認められるので,これらを総合考慮し,その刑の執行を猶予することとする。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役1年6月)平成15年9月3日長野地方裁判所刑事部裁判長裁判官青木正良裁判官桂木正樹裁判官山下博司 官青木正良裁判官 桂木正樹裁判官 山下博司

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る