平成19(わ)63 傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
平成19年11月20日 長崎地方裁判所
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判決文本文16,518 文字)

- 1 -主文被告人は無罪。 理由 第1事案の概要等 公訴事実本件公訴事実は「被告人は,平成18年11月2日午後9時ころから同,日午後9時30分ころまでの間長崎市a町b番地c所在の駐車場以下本,(「件駐車場」という)において,A(当時60歳)に対し,その胸部を1回。 頭突きする暴行(以下「本件暴行」ともいう)を加え,よって,同人に加。 療約11日間を要する前胸部打撲の傷害を負わせたものである」というも。 のである。 前提となる事実次の事実は実質的に当事者間に争いもなく,関係証拠によって優に認められる。 㨯被告人は,長崎市d町に住んでいるが,週末は,父B及び母Cが住む長崎市a町所在の市営e住宅(通称e団地。以下「e団地」という)で過。 ごすことが多かった。被告人には,姉Dのほか妹2人がいるが,被告人の姉妹も被告人同様,週末は実家で過ごすことが多かった。 㨯被告人の家族は,平成17年ころ,従姉妹の一人と仲が悪くなり,e団地に住んでいた従姉妹の姉家族とも仲が悪くなった。被告人らは,そのこ,。 ろからボイスレコーダーや時にはビデオカメラを持ち歩くようになった㨯Aは,e団地に隣接する家屋に住んでいるが,前々からe団地関係者から,被告人,母C及び姉Dは,e団地の住人に対して突然ビデオカメラを向けて撮影したり,ボイスレコーダーを突き付けたり,夜間走行中の車に対して突然懐中電灯を突き付けたりするe団地のトラブルメーカーであると聞いていた。 - 2 -実際,Aも,平成18年1月ころ,自宅の車庫で洗車している時,家の前を通りかかった被告人と目が合い,被告人から「おじさん,あんまり人を見るとストーカーになるよ」と言われたり,同年8月ころ,自宅の前。 でタクシーを待っている時,被告人からいきなり懐中電灯で顔を照らされた かかった被告人と目が合い,被告人から「おじさん,あんまり人を見るとストーカーになるよ」と言われたり,同年8月ころ,自宅の前。 でタクシーを待っている時,被告人からいきなり懐中電灯で顔を照らされたりしたことがあった。 㨯Aは,平成18年11月2日午後6時ころから,自宅でビールを350ミリリットル程度,焼酎の水割りを二,三杯程度飲みながら夕食を食べていた。午後8時30分ころ,妻Eと二女Fは,長女G運転の車でスナックに出勤するため自宅を出た。 ところが,妻Eと二女Fが長女Gの車に乗り込もうとしたちょうどそのとき,被告人と姉Dがその場を通りかかり,同車の横を通り過ぎながらクスクス笑った(ただし,このとき被告人らが妻Eらを指さして笑ったかどうかについては,争いがある。長女Gが,被告人らに対してなぜ笑う。)のか問いただしたところ姉Dがなぜ笑ってはいけないのか言い返した以,(下,このころから警察官が本件駐車場付近に臨場するまでの一連の騒動を「本件騒動」ということがある。 。)それを聞いていた妻Eは,被告人らの傍へ行き,何がおかしいのかと怒鳴った。すると,被告人が妻Eらのほうに向けてボイスレコーダー(以下「本件ボイスレコーダー」という)を突き付けた。妻Eと同人の傍に来。 ていた長女Gは,被告人の言動に腹を立て,そのボイスレコーダーを払いのけ,妻Eが本件ボイスレコーダーを取り上げた。それから,妻E,長女G及び二女Fは,被告人及び姉Dに対し,e団地で問題を起こしたり,人の顔を見て笑ったり,本件ボイスレコーダーを突き付けたりしたことを非難した。一方,被告人は,実家に電話を架け,父Bに本件駐車場付近に来るよう言った。 Aは,その後長女Gから被告人らと揉めていることを教えられたため,- 3 -自宅の前に出てみると,ちょうどe団地の住人であるH ,被告人は,実家に電話を架け,父Bに本件駐車場付近に来るよう言った。 Aは,その後長女Gから被告人らと揉めていることを教えられたため,- 3 -自宅の前に出てみると,ちょうどe団地の住人であるH運転の車が被告人と妻Eの傍をゆっくりと通りすぎようとしているのが見えた。Aの自宅の前には道路を挟んで本件駐車場があり,被告人と妻Eは,本件駐車場の入口付近に立っていた。すると,突然,被告人がH運転の車に当たり「あ,っ当たった」と言った。これを見たAと妻Eとは,被告人が自分で勝手。 に車にぶつかったにもかかわらず,妻Eに押されて車に当たったかのように振る舞ったと考え,被告人に対し「自分が当たったとやろ勝手に,,。」「我が勝手に当たったろーが今「何ね,当たったて,ふざけんなよホ。」,ントに」などと口々に怒鳴った。なお,被告人は,上記発言をした時点。 では,Aの方に背を向けており,Aが自宅から出て近くに来ていることに気が付いてはいなかった。 争点 㨯被告人は,本件暴行を行ったか。 㨯被告人には,本件暴行を行った際,暴行の故意があったか。 㨯被告人の本件暴行には,正当防衛が成立するか。 正当防衛に関する当事者の主張概要【検察官の主張】㨯Aの行為は急迫不正の侵害に当たらないこと被告人が本件暴行を行う直前,Aは,被告人を押さえつけているが,それは,被告人とAらとの間で激しい口論となり,被告人・A間で掴み合い,,,の喧嘩となってその際Aの手の甲が被告人の顔面に当たるなどしたがその後被告人はその場から逃走したので,話合いをするため,Aが後を追いかけ,追いついたAがその場に座らせようとしたためである。 この押さえつけ行為は,被告人に対して危害を加えようとしてなされたものではなく,その程度も軽微で,Aによる違法な暴行とまでは言え Aが後を追いかけ,追いついたAがその場に座らせようとしたためである。 この押さえつけ行為は,被告人に対して危害を加えようとしてなされたものではなく,その程度も軽微で,Aによる違法な暴行とまでは言えないから,急迫不正の侵害といえない。 - 4 -㨯本件暴行は,防衛行為に当たらないこと被告人による本件暴行は,自己の頭部をAの胸部付近に思い切りぶつけたもので,Aに対する怒りから積極的に加えられた攻撃である。 したがって,本件暴行の際,被告人には防衛の意思がなく,またその程度は防衛行為としての相当性を欠き,防衛行為に当たらない。 㨯その他仮に本件が一連の喧嘩闘争であって,激しい口論から一連の喧嘩が継続していたものであるとするならば,およそ正当防衛になり得ない。 また,そもそも本件の経過からすれば,仮にAの被告人に対する押さえつけ行為が侵害であるとしても,被告人の故意ないしそれと同視しうる程度の認識に基づく挑発行為により惹起された,いわゆる自招侵害なのであ,,,。 ってその点からもやはり本件暴行については正当防衛は成立しない【弁護人の主張】㨯急迫不正の侵害についてAは,被告人が自らわざと車両にぶつかったと立腹して,被告人に対して怒鳴ると共に,掴みかかってその顔面を平手で数回叩くなどの暴行を加え,その後,被告人の上腕を掴んだり,襟首を両手で掴んだり,更には被告人の両肩を掴み力を入れ被告人を中腰にさせる攻撃をしたのであるから,そのような行為が,急迫不正の侵害に当たることは明らかである。 㨯防衛行為該当性について被告人は,Aから上記攻撃を受け,自己の生命・身体を防衛するため,Aの胸部に本件暴行をなし,その場から逃げたのであり,Aと被告人との,,。 体力差からすればやむを得ない反撃行為であり相当な防衛行為である㨯その他 撃を受け,自己の生命・身体を防衛するため,Aの胸部に本件暴行をなし,その場から逃げたのであり,Aと被告人との,,。 体力差からすればやむを得ない反撃行為であり相当な防衛行為である㨯その他本件はAらによる一方的リンチともいえるもので,喧嘩闘争ではない。 また,被告人は,Aを侵害する目的で故意に挑発しているわけではないか- 5 -ら,正当防衛の成立が妨げられるものではない。 第2当裁判所の判断 総論当裁判所は,本件公訴事実に関し,被告人が,同事実記載の日時場所に,Aに対して,その胸部を1回頭突きする本件暴行を加え,よって,同人に加療約11日間を要する前胸部打撲の傷害を負わせたこと,その際,被告人には暴行の故意があったと認定したものの,被告人の本件暴行は正当防衛に該当するため犯罪は成立しないと判断した。 以下,詳論する。 事実認定の方針本件騒動は,当初,被告人及び姉Dと妻E,長女G及び二女Fとの間で行われ,その後,そこにAが加わり,さらにその後父B及び母Cが加わり,さらには,Hを始めとする近隣住民も関係するなど関係者は多数存在する。しかし,本件騒動の経過に関する主たる関係者の捜査段階の供述や公判供述は。 ,,,一致していないその主な原因としては客観的要因としては本件騒動が夜間,明かりも十分でない中で,約25分間,途中で場所を若干移動させながら必ずしも全員の注意が1箇所に集まっているわけではない中で行われたことが挙げられる。また,主観的要因としては,そのような状況の下で関係者が自ら体験したり目撃した状況が異なっていること,本件騒動時における関係者の心理状態が正確な事態の把握を阻害していること,時間の経過により記憶が逓減していること,何らかの思惑により記憶とは異なる供述をしていることなどが可能性として考えられる と,本件騒動時における関係者の心理状態が正確な事態の把握を阻害していること,時間の経過により記憶が逓減していること,何らかの思惑により記憶とは異なる供述をしていることなどが可能性として考えられる。 もっとも,本件騒動に関しては,本件騒動の発端ともなった本件ボイスレコーダーによって,その現場の状況の音声が録音されている。そこで,本件ボイスレコーダーの内容を基礎としながら,関係者の供述等その他の証拠を検討し,そこから動かし難い事実として認定できる本件騒動における関係者- 6 -の言動等を明らかにした上で,本件争点について検討を進めることとする。 本件ボイスレコーダー等から判明する関係者の言動等本件ボイスレコーダーの内容を基礎としながら,関係者の供述等その他の証拠を検討すると,そこから判明する本件騒動における関係者の言動等は,概ね次のとおりであったと認められるなお括弧内の数字は被告人のあ。 ,,「っ当たった」という発言からの経過時間(分秒)である。 㨯被告人が車にぶつかって「あっ当たった」と言うと,妻Eが「なーん。 もしとらんよ。自分が当たったとやろ勝手に」と怒鳴った。また,Aも,ちょうどそのころ長女Gから呼ばれて自宅の前でその様子を目撃し,被告人の言動に怒りを爆発させ,被告人のそばまで行き「自分が当たったや,ろが,お前はー(0:05「我が勝手に当たったろーが今」などと。」),。 ,,,,。 怒鳴りさらにAと妻Eは口々に被告人や姉Dに対し怒鳴っていた(0:25)㨯Hは,車を降りて,車の左後部付近に行き,被告人が自分の車のどこにぶつかったのか確認し,それから被告人の方に近づいていった。Aは,近づいてきたHに「Hさん,こらね,踏まれちょったら・・・・」などと話しかけた(0:26。すると,Hは被告 ,被告人が自分の車のどこにぶつかったのか確認し,それから被告人の方に近づいていった。Aは,近づいてきたHに「Hさん,こらね,踏まれちょったら・・・・」などと話しかけた(0:26。すると,Hは被告人に対して「近づいて来たろが)今」と言った(0:32。 )㨯妻Eは,Hに対し「ねっ,テープレコーダーでとってからさ,笑いよ,っとさ。ずーっとGの後ろば付いてくるわけよ」などと言い事の成り行。 きを説明した(0:35~0:43。この間,Aは,被告人を捕まえる)ため,被告人の上腕部や襟首のあたりを掴んだりした。他方,被告人も,Aから逃れるため,Aの肘のあたりを掴んだり,胸ぐらを掴んだりした。 ,,「。」(),㨯その後被告人が暴力を受けてるんですよと言うと0:43Aが「暴力ば何を受けとるんか(0:46」と怒鳴り,妻Eが「たい。 )がいぶりにせろよ,お前達は,コラ。何で姉妹でお前達は,この辺ば騒が- 7 -せて回っとか」と怒鳴り,再びAが「こらお前達は」と怒鳴りながら,。 被告人の顔面を数回殴打する暴行を加えた。その直後,Hが「手ば止め,て」と言ったが,妻Eは「よかとって」と言った。 㨯姉Dは,警察を呼ぶため,それまでいた本件駐車場入口付近から同駐車場の中の方へ移動し,f警察署に電話をかけ「はい,今・・・・」など,と言った(0:58。すると,妻Eは姉Dの方に近づきながら「おい),コラ,のぼすんなコラ・・・・「たいがいぶりにお前達は,お前が車。 」,に勝手に当たったっぞ。ほら当たったじゃなかろうが」と怒鳴った。ま。 た,Aも妻Eの発言にあわせて「お前が「なかろうが」などと言った」,(1:13。 )㨯その後,妻EとAはこもごも怒鳴っていたが,被告人から電話で呼び出された父Bが,本件駐車場の方へやってく た,Aも妻Eの発言にあわせて「お前が「なかろうが」などと言った」,(1:13。 )㨯その後,妻EとAはこもごも怒鳴っていたが,被告人から電話で呼び出された父Bが,本件駐車場の方へやってくると,姉Dと被告人がAと妻Eと向き合うようにして立っており,被告人は,父Bに対し「お父さん殴,られた。もう私ボロボロよ」と大声で言った(1:22。すると,妻。 )Eは「何がボロボロかい・・・」と怒鳴り,Aは「バカタレコラー」と。 怒鳴った(1:29。父Bは,被告人及び姉DとA及び妻Eとの間に割)り込み,被告人は,父Bに対し「お父さん,手ば出したら駄目よ」な,。 どと言い,一方,妻Eは父Bに対し,被告人が車にぶつかったり,本件ボイスレコーダーを突き付けたりしたことを抗議したりした(1:53。 )㨯そのころ,母Cは,ビデオカメラを持って本件駐車場に来たが,それを見た妻Eが「何ば持って来よっとや「そがんとば,撮らんちゃ」と,。」,怒鳴り,Aが「何ばしよっとかコラー」と怒鳴る一方,被告人は「お母,さん回さんね,いいけん」などと大声で言った(2:07。Aと妻Eと)は,なおも父Bの向こうにいる被告人や姉Dに対して「何ばしよっとかコラー「何ば騒がしよっとかコラ」と怒鳴っていたが,被告人が「手ば」,出さんとよ」と言うと,妻Eは「手ば出さんて,お前が勝手にぶち当た。 - 8 -ったとって,ふざくんなって,よか」などと言い,Aや妻Eは,父B越しに被告人を叩いたりした(2:37。長女Gや二女Fは,その様子を見)て,Aと妻Eを止めに入り「バカば叩いたっちゃ一緒って,よかけんよ,かけん」などと言ったりした(3:32。 )㨯その後,被告人,姉D,父B,A及び妻Eらは,本件駐車場隣の空き地へ移動したが,その後も,Aと妻Eは,父B,被告人 叩いたっちゃ一緒って,よかけんよ,かけん」などと言ったりした(3:32。 )㨯その後,被告人,姉D,父B,A及び妻Eらは,本件駐車場隣の空き地へ移動したが,その後も,Aと妻Eは,父B,被告人及び姉Dらに対し,これまで同様怒鳴り付けたり,ときには「なんかコラ「なむんなよコ」,ラ「今日はやってやっぞ「のぼすんなぞ」などと怒鳴りながら被告」,」,人らに掴みかかったりした。 㨯本件騒動後,Aは,両手背,両前腕,腰部及び前胸部の各打撲傷を負っており,被告人は,頭部,顔面打撲,頸部捻挫,頸部擦過傷,左足関節捻挫の傷害を負っていた。 被告人が本件暴行をしたことについて(争点㨯)㨯被告人が本件暴行をしたことについては,直接証拠としてAの公判供述が存在する。Aの公判供述及び同人の検察官調書によれば,同人の供述の要旨は次のとおりである。なお,後述のとおり,Aの公判供述は第2回公判供述と第6回及び第7回公判供述とでは変遷の認められる部分があるが,後に詳しく述べる理由により,変遷が認められる部分については第2回公判の供述を採用した。 Aは,上記前提となる事実記載のとおり,被告人が自分から車に当たっておきながら「ほらっ当たった」と言い,あたかも妻Eに押されて車,。 に当たったかのように振る舞ったのを目の前で見たことから,被告人に対する怒りを爆発させ「お前が勝手に当たったろうが」と言い,被告人,。 の腕や胸ぐらを掴んだり,片手の甲で被告人の顔面を数回叩いたりした。 すると,被告人が横に移動してAから逃げようとしたので,被告人を捕まえ,両手で被告人の両肩を押さえつけ,下の方へ力を加えて被告人をしゃ- 9 -がませようとした。被告人は,抵抗してしゃがまないようにしていたが,膝を曲げるような格好で,ほとんど座ったような中腰の姿勢となり, 被告人の両肩を押さえつけ,下の方へ力を加えて被告人をしゃ- 9 -がませようとした。被告人は,抵抗してしゃがまないようにしていたが,膝を曲げるような格好で,ほとんど座ったような中腰の姿勢となり,被告人の頭とAの胸との距離は三,四十センチメートル程度となった。Aが,両手の力を緩めて被告人の両肩から手を外すと,被告人がぴょんと蛙跳びのように飛び上がり,胸のあたりに被告人の頭のてっぺんが当たる頭突きをされた。もっとも,Aは,その当時,被告人が積極的に攻撃を加えてきたとは思っていなかった。Aが足を1歩退くようにして上半身をのけぞら,。 ,,せると被告人はAから逃げて空き地の方へ行った本件騒動の際Aは被告人のほか父B,姉D,近隣住民のIと身体的接触があったが,いずれからも胸に対して攻撃を受けた記憶はなく,また,自分が転んで胸を打ったこともない(以下「本件A供述」という)。 。 㨯本件A供述は,Aが胸に打撲傷を負ったことについて,診断書及び同診断書を作成した医師Jの検察官調書によって裏付けられている。 Aは,本件騒動の直後の平成18年11月3日未明に警察官から取調べを受けており,その際,胸の打撲については申告していないが,Aは,第2回公判廷において,そのときは被告人からの積極的な攻撃とは受け止めず,また,そのときは胸に痛みも感じなかった旨供述している。そして,受傷直後に胸に痛みを感じないことについては,J医師の検察官調書によっても裏付けられている。したがって,Aが平成18年11月3日未明に警察官から取調べを受けた際,胸の打撲について申告していないことは何ら不自然ではない。なお,Aは,第2回公判供述で,被告人から本件暴行を受けた際,被告人はAと揉み合ううちに頭をぶつけたと思ったと供述していたにもかかわらず,第6回公判供述で,第2回公 いないことは何ら不自然ではない。なお,Aは,第2回公判供述で,被告人から本件暴行を受けた際,被告人はAと揉み合ううちに頭をぶつけたと思ったと供述していたにもかかわらず,第6回公判供述で,第2回公判では被告人の気持ちは分からないからそのように答えたが,自分としてはわざとやったと思っていると供述した。第6回公判供述の内容が被告人から本件暴行を受けた当時のAの心情というのであれば,同人の供述は突如として変遷してい- 10 -るが,そのように供述を変遷させる合理的な理由は認められない上,仮にAが本件暴行を受けた時にわざと頭突きをされたと思ったというのであれば,その際,何らかの発言をしたり,自らが被告人に対する暴行の容疑で取調べを受けた平成18年11月3日未明の取調べにおいて,自分も被告人から積極的な攻撃を受けた旨供述してしかるべきである(Aは父Bから腕を掴まれたということは申告している)ところ,いずれについてもそのような形跡は認められないから,Aの第6回公判廷における上記供述は信用できない。 㨯Aは,本件騒動の際,被告人だけでなく,姉D,父Bとも相対峙しているのであって,特に被告人に対して不利益な供述をする必然性はない。実,,,,際Aは腕の打撲傷については父Bに強く握られた際にできたもので被告人からも腕を掴まれたがそれはさほど強い力ではなかった旨供述しており,ことさら虚偽の供述をして被告人を罪に陥れようとはしていない。 しかるに,Aは,胸の打撲傷については被告人から受けたものであって,姉Dや父Bから受けたものではなく,またその他の原因によってできたものでもないと明言している。 Aが被告人から本件暴行を受ける直接のきっかけとなる,被告人の両肩を掴んでしゃがませようとした行為について,Aは,本件暴行について供述する前の平成18 因によってできたものでもないと明言している。 Aが被告人から本件暴行を受ける直接のきっかけとなる,被告人の両肩を掴んでしゃがませようとした行為について,Aは,本件暴行について供述する前の平成18年11月3日未明の取調べにおいても供述しており,その行為が被告人から本件暴行を受けたことをもっともらしく説明するために作られた話でないことは明らかである。そして,Aが供述する被告人から本件暴行を受けるまでの経緯は,被告人の態度に激怒したAが,被告人に対して暴力を振るったり,逃げようとする被告人を取り押さえようとし,Aが実際に被告人をしゃがませようとしつつあったところ,本件暴行を受けたため,被告人に一旦逃げられてしまったと供述しているのであって,その供述内容は,事態の推移に照らして合理的かつ自然な供述である- 11 -と認められる。 㨯本件A供述は,基本的には上記3で認定した事実と特に矛盾するところはない。確かに,本件ボイスレコーダーに録音された現場の音声を基礎として認定した上記3の事実から,Aが本件暴行を受けた事実自体は確認で,,。 きずまた本件暴行を受けた直後のAの反応を確認することはできないしかし,本件暴行自体は瞬間的な出来事であり,本件A供述によれば,Aは本件暴行を受けた際に衝撃を感じたものの痛みを感じなかったというのであり,また,本件暴行を受けた時点ではそれを被告人の積極的な攻撃とは捉えていなかったのであるから,本件A供述が上記3で認定した事実と矛盾するとはいえない。 ただし,本件A供述は,被告人から本件暴行を受けた後,被告人が直ちに空き地へ向かったという点において,上記3で認定した事実と食い違っている。したがって,Aの本件騒動に関する記憶は,自身の興奮等もあって,ある程度正確性を欠く点があることは否めない。しかし,本件騒動 に空き地へ向かったという点において,上記3で認定した事実と食い違っている。したがって,Aの本件騒動に関する記憶は,自身の興奮等もあって,ある程度正確性を欠く点があることは否めない。しかし,本件騒動の際,A,妻Eと被告人,姉Dらの対立は,本件駐車場とその隣の空き地の双方で行われた一連の出来事であるから,いつ被告人が空き地に移動したのかということについて,Aの記憶が不明瞭になっていたとしても,そのことから直ちに,本件A供述全体の信用性を否定することにはならない。 㨯妻EやHは,本件暴行を目撃した旨供述していない。 しかし,上記3の認定事実にAの公判供述を加味すれば,Aが本件暴行を受けたのは,上記3㨯で認定した妻Eが駐車場の中へ移動した姉Dに近づいていったころであることとなるから,姉Dに注意を向けていた妻Eが本件暴行を目撃していなかったとしても,そのことが不自然とまではいえない。また,妻Eの公判供述は,理由は定かではないが,Aと被告人とのやり取りについて一切知らないとの供述に終始しているから,本件暴行の事実があったかどうかを検討するに当たって,そのような曖昧な妻Eの供- 12 -述は何ら役に立たないというべきである。また,Hは,いわば傍観者として,被告人,姉D,A及び妻Eの様子を見ていたこと,本件騒動で一番激しく怒鳴り声を挙げていたのは妻Eであることからすれば,Hが瞬間的に行われた本件暴行を目撃していなくとも,不自然ではない。 したがって,妻EやHが,本件暴行を目撃した旨供述していないことをもって,本件A供述の信用性を否定することはできない。 㨯被告人は,①被告人が車にぶつかると,Aから「おいは見とったぞ」と言われながら,右手の拳で左頬を二,三回殴られた後,頭を拳で殴られ,被告人が両腕で頭を防御する姿勢をとった後も,両手の拳を交互に振り 被告人は,①被告人が車にぶつかると,Aから「おいは見とったぞ」と言われながら,右手の拳で左頬を二,三回殴られた後,頭を拳で殴られ,被告人が両腕で頭を防御する姿勢をとった後も,両手の拳を交互に振り下ろして,少なくとも30発は防御した腕の上から殴られ,その拳は頭だけでなく顔にも当たった,②姉Dが電話をかけていると,妻Eは電話を奪おうとし,姉Dが駐車場の奥へ行くと妻Eも付いていった。被告人はその間,,もAから殴られたままであったが殴られながらも姉Dの様子を見ておりそれから被告人は姉Dの方へ行った。被告人がAから両肩を押さえつけられたことはなく,被告人がAの胸に本件暴行を加えた事実もない,③その後も被告人は,父Bが来るまでの間,被告人を追い掛けてきたAから拳で数え切れないくらい頭と顔を殴られたと供述する。 しかし,被告人の供述するAからの暴行態様はその供述内容自体から極めて誇張された内容である疑いが生じるが,実際,被告人の受傷状況と一致していない。すなわち,被告人の供述を前提とすれば,口の中を怪我したり,両腕に打撲傷が生じてしかるべきであるが,そのような怪我を被告人は負っていない。また,被告人は,平成18年11月3日の取調べにおいては,Aから顔面を殴られたということや,髪の毛を掴まれて前後左右に振られたということは供述しつつも,より強度で被害が大きいはずの上記頭部及び顔面に対する殴打行為については言及していない。被告人の上記公判供述と上記3で認定した関係者の言動とを前提にすると,Aは,被- 13 -告人に対して執拗な殴打行為を続けながら,その一方で,Hに話しかけたり,Hもそのような現場を見ながら,妻Eから事の成り行きを聞いたりしていたということになるが,そのような事態の推移は不自然といわざるを得ない。さらに,被告人の上記公判供述を の一方で,Hに話しかけたり,Hもそのような現場を見ながら,妻Eから事の成り行きを聞いたりしていたということになるが,そのような事態の推移は不自然といわざるを得ない。さらに,被告人の上記公判供述を前提にすると,被告人がどのようにして執拗に殴打行為を続けるAから脱し,姉Dの方へ行くことができたのか理解しがたい。 以上より,被告人の供述は信用できない。 㨯これらのことからすれば,本件暴行を受けたとの本件A供述は信用することができるから,本件暴行の事実が認められる。 信用できる本件A供述も加味すれば,被告人はAに両肩を掴まれてしゃがまされそうになったが,隙を見て本件暴行を加え,Aを少しのけぞらせたことにより同人のもとを脱することができ,姉Dと妻Eとの間に割って入り,姉Dが警察に電話するのを邪魔させないようにすることができたと認められる。 本件暴行の際,被告人に暴行の故意があったことについて(争点㨯)㨯被告人が本件暴行をした際の被告人とAとの位置関係や各々の態勢は,次のようなものであった。すなわち,Aの身長は約160センチメートルで,被告人の身長は約151センチメートルであるところ,Aは,被告人と正対し,その両手を被告人の両肩の上に置き,被告人をしゃがませようと下の方に力を加えた。被告人は,Aの力に抵抗しようとしたものの,膝,。 ,を曲げるような格好でほとんど座ったような中腰の姿勢となった他方Aは,腕を伸ばしたまま,被告人をしゃがませようと力を加えていったため,被告人がしゃがんで行くに連れて,首をいくらかうなだれさせて少し被告人に覆い被さるような格好となった。その際,被告人の頭とAの胸との間には三,四十センチメートル程度の間隔があったところ,Aが,両手の力を緩めて被告人の両肩から手を外すと,被告人が斜めにぴょんと蛙跳- 14 - るような格好となった。その際,被告人の頭とAの胸との間には三,四十センチメートル程度の間隔があったところ,Aが,両手の力を緩めて被告人の両肩から手を外すと,被告人が斜めにぴょんと蛙跳- 14 -,。 びのように飛び跳ねたためAの胸のあたりに被告人の頭頂部が当たったもっとも,Aは,その当時,被告人が積極的に攻撃を加えてきたとは思っていなかった。 ところで,Aは,第2回公判では,Aの胸に当たった被告人の頭が頭頂部であることは明言していなかったものの,前段落と同旨の供述をしていたが,第6回公判で,Aが被告人の両肩を押さえつけて中腰にさせた際,Aの胸のあたりの高さに被告人の頭頂部があり,そこから被告人がぴょんと蛙跳びのように飛び跳ねたため,頭のてっぺんを胸に当てられた,そのときAの姿勢は首がちょっと前の方にかがみ,姿勢が斜め前になっていたと供述した。しかし,Aは,被告人の本件暴行はぴょんと蛙跳びのようだったと一貫して供述しているところ,第6回公判でAが供述するような態勢から,被告人がぴょんと蛙跳びのように飛び跳ねた場合には,被告人の頭のてっぺんがそれとほぼ同じ高さにあるAの胸に当たるとは考えにくい。また,Aは,本件暴行を受けた当時,被告人が積極的に攻撃を加えてきたとは思っていなかったのであるが,第6回公判でAが供述するような態勢から被告人の頭のてっぺんがAの胸に当たったとすれば,それは,中腰となった被告人が頭をほぼ水平に動かしてAの胸に当てたことになるのであって,積極的な攻撃と思わないというのは考えられない暴行態様となる。したがって,第6回公判におけるAの上記供述は信用できない。 㨯上記㨯の被告人が本件暴行をした際の被告人とAとの位置関係や各々の態勢からすると,被告人がAに本件暴行をする直前,被告人とAとは正対しており,被告人がAか 判におけるAの上記供述は信用できない。 㨯上記㨯の被告人が本件暴行をした際の被告人とAとの位置関係や各々の態勢からすると,被告人がAに本件暴行をする直前,被告人とAとは正対しており,被告人がAから両肩に手を置かれ中腰の姿勢にさせられていたこと,当時が夜間で薄暗い状況であったことを考慮しても,被告人とすれば,Aが自分の真正面でなおかつすぐそばにいることは当然分かっていたはずである。そうだとすると,被告人が,その目的はともかく,ぴょんと蛙跳びのように飛び上がれば,自らの頭がAの身体に衝突してしまうこと- 15 -。 ,,は分かっていたと認められる他方被告人が本件暴行をしたことによりAの前胸部は打撲による皮下出血が生じており,本件暴行の程度は,Aの前胸部に相当程度の力が加えられるものであったと認められる。そうすると,被告人は,自らが蛙跳びのように飛び上がることにより,自らの頭がAの身体に衝突してしまうことは分かっていたにもかかわらず,あえて勢いよく飛び上がったことが認められる。これらのことからすれば,被告人にはAに対する暴行について故意があったと認められる。ただし,その前後の被告人のAに対する対応において,被告人にAに対する積極的な攻撃意図をうかがわせるような発言や行動があったとは認められないから,被告人に暴行の認識・認容を超えた暴行の強い意欲があったとまで認めることはできない。 本件暴行が正当防衛であることについて(争点㨯)㨯本件暴行は「急迫不正の侵害」のもと行われたことアこれまで認定した事実に加え,Aの信用できる公判供述及び検察官調書の内容によれば,Aは,本件騒動の当初から現場にいたのではなく,被告人がHの車にぶつかるころから,その様子を目撃していたのであるが,被告人が「あっ当たった」と言ったことをきっかけに,被告人 察官調書の内容によれば,Aは,本件騒動の当初から現場にいたのではなく,被告人がHの車にぶつかるころから,その様子を目撃していたのであるが,被告人が「あっ当たった」と言ったことをきっかけに,被告人に対する怒りを爆発させ,被告人に対して怒鳴り付けながら,被告人の上腕を掴んだり,被告人の胸ぐらを掴んだり,被告人の顔面を手の甲で数回殴ったりしたことが認められる。これに対し,被告人もAの肘の辺りを掴んだり,Aの胸ぐらを掴んだりしたこともあったと認められるが,それらの力の程度はさほど強くなく,また,力を加える方向はAから逃れようとするものであったと認められる。そして,それらの揉み合いの後に,被告人は,実際に横の方へ移動してAから逃げようとしたところ,Aは,直ちに逃げようとする被告人を捕まえて,両手で被告人の両肩を掴み,下の方に力を加えて,被告人をしゃがませようとしたと認められ- 16 -る。 これらのことからすれば,そもそも暴行という身体の安全を害する行為を開始したのはAであり,被告人が本件暴行を加えるまでに,Aの暴行に対抗して腕や胸ぐらを掴み,瞬間的にAの暴行から逃れた場面もあったものの,Aの被告人に対する暴行はなおも続き,本件暴行を加える直前,被告人は,現にAからの違法な暴行によって自らの身体の安全が侵害されている状況にあったといえる。なお,本件全証拠によっても,被告人が,Aから暴行を受けるに先だって,そのことを具体的に予期しており,しかも,その機会を利用して積極的にAに加害行為をする意思があったとは認められない。 したがって,本件暴行については「急迫不正の侵害」という要件を,満たす。 イもっとも,Aが被告人に暴行を加えるきっかけとなったのは,被告人がHの車にぶつかった際に「あっ当たった」とあたかも妻Eに押され,(「」。 ては「急迫不正の侵害」という要件を,満たす。 イもっとも,Aが被告人に暴行を加えるきっかけとなったのは,被告人がHの車にぶつかった際に「あっ当たった」とあたかも妻Eに押され,(「」。),て当たったかのような発言以下本件発言というをしたことで被告人に対する怒りを爆発させたからである。すると,Aの被告人に対する暴行は,被告人の言動によって引き起こされたものであるから,なお「急迫不正の侵害」の要件を満たさないのではないか一応問題となり得る。 しかしながら,被告人は,本件発言をする際,Aが自宅から出てきていることに気が付いていなかったのであり,本件発言はAに直接向けられたものではなかった。また,本件発言の内容が,被告人に対する侵害行為の惹起を意図したり,容認したりする内容とも認められない。さらに,被告人は平成18年1月ころ及び同年8月ころAに対して同人の神(),経を逆なでする非礼な言動をとってはいるものの前提となる事実㨯,,その非礼な言動の時期・内容・程度からすればそのことを考慮しても- 17 -,,本件発言を聞いたAにおいて被告人に暴行を加えることが社会通念上通常のこととして予想されるとまで認めることはできない。 (,,,,なおA自身は目撃していないものの被告人は本件発言の前に妻Eらの方に向かってクスクス笑ったり,本件ボイスレコーダーを突きつけたりしており,これらは他人の神経を逆なでする行為と評価できる。しかし,これらの行為を受けた相手方において被告人の身体への侵害行為に及ぶことが,社会通念上,通常のこととして予想できるとまではいえない)。 そうすると,Aと被告人との間で,相互に身体の安全を侵害し合うという利益衝突状況を作出した第1次的責任はAにあると言わざるを得ないから,本件暴 上,通常のこととして予想できるとまではいえない)。 そうすると,Aと被告人との間で,相互に身体の安全を侵害し合うという利益衝突状況を作出した第1次的責任はAにあると言わざるを得ないから,本件暴行について「急迫不正の侵害」の要件を満たさないということはいえない。 㨯本件暴行は「自己の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為」で,あること被告人は,Aから逃げだそうとしたところ,被告人と正対したAから両肩を掴まれ,無理矢理しゃがまされそうになり,実際,Aの力に抵抗しようとしたものの,膝を曲げるような格好で,ほとんど座ったような中腰の姿勢となり,そのような状況の下,被告人は,Aが力を抜いた一瞬の隙をついてぴょんと蛙跳びのように飛び上がり,本件暴行を加え,Aが後ろに,,よろめいた隙にAから逃げ出して近くにいた姉Dの下へ行っていることA自身が公判廷で供述するように,被告人が,その後,Aに対して何らかの攻撃を加えたことはなかったことからすると,本件暴行が,Aからの急迫不正の侵害から自己の身体の安全を守るために行われたものであることは明らかである。 ,,,また本件暴行の態様は被告人がほとんど座ったような中腰の姿勢で被告人と正対するAが首をいくらかうなだれさせて少し被告人に覆い被さ- 18 -るような格好で立っているときに,被告人がぴょんと蛙跳びのように飛び上がったというものであって,その際,被告人の頭頂部とAの胸の間隔は三,四十センチメートル程度であったこと,Aは本件暴行を受けて衝撃を感じ,後ろに1歩退くようにしてよろめいたものの,痛みは感じなかったこと,A自身,本件暴行を受けた時点では,それが被告人の積極的な攻撃意図に基づく暴行とは思わなかったこと,その他本件暴行以前のAの暴行態様,Aが60歳とはいえ身長約160センチメート は感じなかったこと,A自身,本件暴行を受けた時点では,それが被告人の積極的な攻撃意図に基づく暴行とは思わなかったこと,その他本件暴行以前のAの暴行態様,Aが60歳とはいえ身長約160センチメートル,体重約60キログラムの男性で当時被告人に対する怒りの感情をかなり表出していたのに対し,被告人は30歳とはいえ身長約151センチメートル,体重約50キログラムの女性であることからすれば,たとえ,Aからの急迫不正の侵害に先だって,被告人が本件発言をしていることなどを考慮しても,本件暴行はAからの急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を有するというべきである。 したがって,本件暴行は「自己の権利を防衛するため,やむを得ずに,した行為」であると認められる。 㨯検察官は,本件は喧嘩闘争の一環であるから,正当防衛が成立する余地はないと主張する。しかしながら,本件全証拠によっても,本件暴行の前後の被告人のAに対する対応において,被告人にAに対する積極的な攻撃意図をうかがわせるような発言や行動があったとは認められない。被告人が,本件暴行以外にもAの身体に対し有形力を行使したこと自体は認められるものの,それらはAから逃れようとして行使したと認められるのであり,被告人が,Aからの暴行に先立ち,Aの暴行を具体的に予期して,その機会を利用して積極的にAに加害を与えようとする意思があったとは認,,,,められずまたAからの暴行に接してそのことに何ら臆することなく専らAに対する攻撃を目的として本件暴行に及んだとも認められないことは,既に判示したとおりである。そうすると,本件暴行が,互いに相手に- 19 -対する攻撃を目的として繰り広げられるいわゆる喧嘩闘争の一環であるとは認められないから,検察官の主張は理由がない。 また,検察官は,本件は自招 ある。そうすると,本件暴行が,互いに相手に- 19 -対する攻撃を目的として繰り広げられるいわゆる喧嘩闘争の一環であるとは認められないから,検察官の主張は理由がない。 また,検察官は,本件は自招侵害であるから,急迫不正の侵害に欠ける,,。 と主張するがそれについて理由がないことは上記㨯イのとおりである㨯以上より,被告人の本件暴行は,Aからの急迫不正の侵害に対し,自己の身体の安全を防衛するため,やむを得ずした行為であると認められるから,本件暴行は正当防衛である。 弁護人の主張は理由がある。 結論 以上より,本件公訴事実については正当防衛が成立し犯罪が成立しないこととなるため,刑事訴訟法336条前段により,無罪の言渡しをすることとする。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑罰金20万円)平成19年11月20日長崎地方裁判所刑事部裁判官安永武央

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