平成15年10月6日宣告平成14年(わ)第526号判決 主文 被告人を懲役15年に処する。 未決勾留日数中230日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年12月9日午前1時5分ころ,千葉県松戸市(以下略)付近道路において,運転開始前に飲んだ酒の影響により,前方注視及び運転操作が困難な状態で,普通乗用自動車を走行させ,もって,アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自車を走行させたことにより,同日午前1時15分ころ,同市(以下略)付近道路において,仮眠状態に陥り,自車を時速50ないし55キロメートルで道路左外側線側に進出させ,折から同道路左外側線付近を対面歩行してきたA(当時47歳)ほか4人に自車前部を順次衝突させて跳ね飛ばし,同人らを駐車車両に激突ないし路上に転倒させるなどし,よって,同人らに別表記載の傷害を負わせ,別表記載の日時場所において,同人らを上記傷害により死亡させたものである。 (証拠の標目)省略(法令の適用)省略(量刑の理由)本件は,被告人が,飲酒後にアルコールの影響により正常な運転が困難な状態にありながら,通勤に利用していた普通乗用自動車を運転走行して帰宅する際,折から現場付近道路を歩行中であった5名の被害者に次々と自車を衝突させて死亡させたという危険運転致死の事案である。 被告人は,本件前日に行われた勤務先のパチンコ店の忘年会の幹事で,部下には当日車で参加しないように警告が発せられていたにもかかわらず,自らは飲酒を楽しみにしながら本件自動車で出勤し,忘年会及び2次会で大量に飲酒した上,上記パチンコ店事務所内で嘔吐するなどアルコールの影響が強く身体に残ってい 警告が発せられていたにもかかわらず,自らは飲酒を楽しみにしながら本件自動車で出勤し,忘年会及び2次会で大量に飲酒した上,上記パチンコ店事務所内で嘔吐するなどアルコールの影響が強く身体に残っていることを認識できた状況下で,翌朝も自動車で出勤したいとの考えから,運転を開始したのであって,本件に至る経緯及び身勝手な運転動機に酌むべき事情は全くない。被告人は,本件前日午後5時30分ころから午後10時30分ころまでの間,上記パチンコ店の忘年会及びその2次会において飲酒していたところ,当公判廷において,上記忘年会以後本件に至るまでの状況についてほとんど覚えていない旨供述している。関係各証拠によれば,被告人は,一次会である当初の忘年会終了時点で独立歩行が困難で既に部下に支えてもらわなければ歩けなかった上,本件発生約1時間後の検査で呼気1リットル中約0.55ミリグラムという高濃度のアルコールが検出されたのであるから,到底自動車を運転できるような状態ではなかったのである。加えて,本件時は深夜である上,雪が降っていたのであるから,アルコールの影響のない場合であっても,運転については慎重な態度で臨むべきが事理の当然である。しかるに被告人は,運転前には上記パチンコ店事務室内でわずかな仮眠を取ったのみで,運転席着座後も目の前がぼやけた状態で,身体に酔いが回っていることを自覚しながら,通り慣れた帰路であり,距離が近いから大丈夫だなどと考えて運転に及んだのであって,その安全意識を欠如した安易かつルーズな態度は厳しい非難を免れない。しかも,被告人は,当夜,現金約15万円を所持し,他方,上記パチンコ店から自宅までのタクシー料金は1000円程度で,かつ,上記パチンコ店はJR松戸駅タクシー乗り場に近接し,深夜であってもタクシーが乗り場で客待ちをして ,現金約15万円を所持し,他方,上記パチンコ店から自宅までのタクシー料金は1000円程度で,かつ,上記パチンコ店はJR松戸駅タクシー乗り場に近接し,深夜であってもタクシーが乗り場で客待ちをしており,被告人の酔態を見た同僚らすべてが当然タクシーで帰宅するものと思う状況であったのであるから,敢えて危険を冒して自車を運転せずとも帰宅は可能であったし,上記のとおりパチンコ店事務室内で仮泊するなどの選択肢もあったのである。にもかかわらず,被告人は,乗車定員8名の本件自動車を運転して帰路に就き,運転開始後間もなく仮眠状態に陥って断続的に意識をなくし,制御不能な状態で時速50ないし55キロメートルという速度で本件現場にさしかかり,各被害者に衝突するに至ったのであって,コントロールを失い通行人を無差別に害した本件車両はまさに走る凶器と化したものである。被告人は,道路左端を歩行していた各被害者を次々と跳ね飛ばし,最初の衝突地点から約70メートルも走行した後に停止したものである上,被害者らは約41.6メートルもの広範囲にわたって倒れていたというのであって,これらの状況が無謀走行の程度と衝突の激しさを物語っている。このような被告人の無謀な運転による本件被害結果は余りに重大である。各被害者は事故直前まで子供達が所属するソフトボールチームの父兄として共に楽しく食事をし談笑してそれぞれの自宅へ帰る途中,道路外側を歩行していたのであるから,各被害者に何ら責められるべき事情はない。被害者のうち,A,B夫妻は,独立した長男のほか,高校生の次男,長女を育みながら,それぞれに家業のガラス販売施工の実質的な経営,経理を担当し,本年4月からは名実ともに跡継ぎとなるはずであったところ,本件により夫婦共に雪降る深夜の路上で即死状態で絶命させられたもので みながら,それぞれに家業のガラス販売施工の実質的な経営,経理を担当し,本年4月からは名実ともに跡継ぎとなるはずであったところ,本件により夫婦共に雪降る深夜の路上で即死状態で絶命させられたものであって,夫婦の無念の情はもとより遺族の痛苦も甚だしく,事故後,家業に就いた長男は健気にも父母に代わるべく涙を払っている様子であるが,法定刑の上限の刑を希望する旨述べており,また,夫婦に家業の代を譲る目前であったのに老齢の身で再度主柱となって家業と家族を維持せざるを得なくなったBの両親は一層悲痛で,「法律以上の罰を」とまで述べている。 夫婦の次男,長女の寂寥感も察するに余りある。被害者Cは,高校生の長男,小学6年の次男,小学4年の長女を育む母であり,又妻として,薬局経営の薬剤師である夫を支えていたところ,契りを結んだ結婚式当日同様に雪降る中,永遠の別れを強いられたというのであり,しかも,本件の数時間前に夫婦でほかの被害者らと歓談しながら食事をし,先に帰宅していたという夫の,「妻のコートを届けた時妻を連れて帰ってくればよかった」というやり場のない後悔は痛々しいばかりである。沖縄から来て何時間も遺体を抱きしめた実母,出棺にいたって冷たくなっている頬を撫でた子供らの心情は筆舌に尽くしがたく,又被告人に母と同じ結果を求めることなく生涯の反省を求める長男の言葉は魂魄を慰める成長の証であるとも思われる反面,心中の痛手の深さを表しているものといえる。被害者Dは,中学1年の長男,小学2年の次男を育む母であり,美容師の夫が経営する美容室の経理等を担当し,高校2年生ころ知り合い結婚して比翼連理の枝として日々を過ごしていたところ,突然幽明界を異にされ,彼岸の同女,此岸の遺族の愛別離苦は哀切の極みというべく,殊に小学2年のわずか8歳で母と引き裂かれ 高校2年生ころ知り合い結婚して比翼連理の枝として日々を過ごしていたところ,突然幽明界を異にされ,彼岸の同女,此岸の遺族の愛別離苦は哀切の極みというべく,殊に小学2年のわずか8歳で母と引き裂かれた次男の「クリスマスプレゼントにお母さんを返してもらいたい」との言葉は遺族全員の思いを表しているものといえる。被害者Eは,小学5年の長男を育む母であり,団体役員を務める夫を支え,日々平穏に生活する中,常と変わらず夫と長男を送り出した後,親交を深めたソフトボールの父兄らとの交歓の帰途,黄泉の客となったもので,長男のため編んだマフラーを偶々身にまといながらの絶息は,同女の思いを偲ばせて余りある。かけがえのない伴侶を奪われて,家事万般をこなさなければならない上,長男を残して出勤しなければならない同女の夫の喪失感と悲嘆は計りがたいほど深く,ひとり自宅で,母の位牌に手を合わせる長男の姿は涙を誘うばかりである。和やかに家路に就いていた各被害者の人生は一瞬にして暗転させられ,鬼籍に入れられた各被害者の苦痛や無念は察するに余りあり,平穏かつ生き生きとした市民生活を送っていたその家族は,かけがえのない父母や妻,我が子の生命を突然奪われ,変わり果てた姿に対面させられたのであって,遺族の悲嘆,精神的苦痛を表現する術もない。各遺族は公判廷の内外における被告人側の謝罪や慰謝の申し入れを拒んで,処罰感情が峻烈であるところ,以上述べてきた事情に照らせばこれらの対応も至極もっともというべきである。被告人は,このような重大事件を起こしながら,本件直後,アルコールの影響によって何らの救護活動もすること能わず,ただ妻や上司に電話をかけて要領を得ないことを告げたにとどまり,逮捕時の弁解録取手続においても同様であったというのである。被告人は,過去に酒酔い運転で罰 響によって何らの救護活動もすること能わず,ただ妻や上司に電話をかけて要領を得ないことを告げたにとどまり,逮捕時の弁解録取手続においても同様であったというのである。被告人は,過去に酒酔い運転で罰金刑を受け,免許取消となった経験を有し,種々の交通違反に対し,直近の行政処分としては平成10年8月26日に60日間の免許停止処分を受けていながら,常習的に飲酒運転に及んでいた形跡も窺われるのであって,その交通規範意識の鈍麻は著しいから,徹底した矯正教育が必要である。以上に加え,本件が一瞬にして5名もの貴重な生命を奪い去ったというこの種事犯として類を見ない重大事件であり,近隣地域のみならず,全国的に大きく報道され社会的影響が大きいこと,危険運転致死罪創設の趣旨と本件後も悪質な飲酒運転事犯が後を絶たない現状に鑑みれば一般予防の点も看過し得ないこと等も併せ考えれば,被告人の刑事責任は極めて重い。 そうすると,被告人は,捜査段階から一貫して本件犯行を認め,公判廷においても反省の態度を示していること,交通関係以外の一般の前科前歴がないこと,中学校卒業後真面目に稼働し,部長職まで昇りつめた勤務先を解雇された上,報道等によって相応の社会的制裁を受けていること,運転車両は被告人勤務先所有の車両で任意保険も掛けられており,一定の補償は見込まれること等の事情も認められるけれども,これら被告人に有利に斟酌すべき事情を十分考慮しても,なお被告人に対しては,本件の重大性,深刻性を改めて認識させ,徹底した矯正教育を施すとともに被害者の冥福を祈る贖罪の日々を最大限長期にわたって送らせるのが相当であると思料し,主文掲記の刑をもって臨むのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役15年)平成15年10月6日千葉地方裁判 大限長期にわたって送らせるのが相当であると思料し,主文掲記の刑をもって臨むのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役15年)平成15年10月6日千葉地方裁判所松戸支部刑事部裁判長裁判官小池洋吉裁判官伊藤正髙裁判官杉本正則別表番号被害者氏名年齢(当時)傷害死亡日時・場所 A47歳脳挫傷平成14年12月9日午前1時15分ころ千葉県松戸市(以下略)付近道路 B43歳心破裂同日時・場所 C42歳内臓破裂,血気胸同日時・場所 D43歳外傷性脳挫傷同日午前2時3分ころ甲病院 E38歳全身打撲同日午前2時13分ころ乙病院
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