平成24年6月26日判決言渡平成23年(行ケ)第10300号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成24年4月19日判決原告積水化学工業株式会社訴訟代理人弁理士山本拓也被告特許庁長官指定代理人鳥居稔同一ノ瀬薫同唐木以知良同田村正明 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が不服2009-6612号事件について平成23年8月9日にした審決を取り消す。 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「アレルゲン低減化繊維製品およびその製造方法」とする発明について,平成15年11月6日に出願し(国内優先権主張平成15年8月11日。以下「本願」といい,同出願に係る明細書,図面を併せて「本願明細書」という。)(甲3),平成21年2月18日に拒絶査定を受けた。原告は,同年3月26日,拒絶査定不服審判(不服2009-6612号事件)を請求し(甲7の1),同年4月27日,特許請求の範囲を補正し(甲8),同年7月30日付けで 最後の拒絶理由通知を受け,同年10月5日,特許請求の範囲を補正(以下「本件補正」という。)した(甲4)。 特許庁は,平成23年8月9日,本件補正を却 正し(甲8),同年7月30日付けで 最後の拒絶理由通知を受け,同年10月5日,特許請求の範囲を補正(以下「本件補正」という。)した(甲4)。 特許庁は,平成23年8月9日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年8月24日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成21年4月27日付け補正後のもの。以下,この請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は,以下のとおりである(甲8)。 「最表層以外の部分を,アレルゲンを不活性化し,抗原抗体反応を抑制するアレルゲン低減化物質を含有するアレルゲン低減化剤により処理してなることを特徴とするアレルゲン低減化繊維製品。」(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。)(甲4)。 「立毛繊維製品又は編込み繊維製品の最表層以外の部分を,アレルゲンを不活性化し,抗原抗体反応を抑制するアレルゲン低減化物質を含有するアレルゲン低減化剤により処理してなることを特徴とするアレルゲン低減化繊維製品。」 3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は,以下のとおりである。 (1) 本願補正発明は,特開2003-81727号公報(以下「引用文献2」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開平7-54271号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであり,特許法29条2項により独立して特許を受けることができるものではないから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改 到することができたものであり,特許法29条2項により独立して特許を受けることができるものではないから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)17条の2第5項において準用する特許法126条5項 に違反するので,旧特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項により却下すべきである。 (2) 本願発明は,引用発明及び引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであり,特許法29条2項により特許を受けることができないので,本願は拒絶すべきである。 (3) 審決が認定した引用発明の内容,引用発明と本願補正発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明の内容「絨毯,タオル,カーペット等を,アレルゲンの特異抗体との反応を抑えることにより使用した場所のアレルゲンを低減化するアレルゲン低減化成分を有効成分とするアレルゲン低減化剤で処理してなるアレルゲン低減化製品。」イ一致点「立毛繊維製品を,アレルゲンを不活性化し,抗原抗体反応を抑制するアレルゲン低減化物質を含有するアレルゲン低減化剤により処理してなるアレルゲン低減化繊維製品。」である点ウ相違点本願補正発明では,立毛繊維製品の最表層以外の部分をアレルゲン低減化剤により処理してなるのに対し,引用発明では,アレルゲン低減化剤で処理する立毛繊維製品の部分を特定していない点第3 取消事由に関する当事者の主張 1 原告の主張審決には,以下のとおり,本願補正発明の容易想到性判断の誤りがある。 (1) 本願補正発明についてアレルゲン低減化物質を繊維製品に使用すると,繊維製品の触感が硬くなることから,アレルゲン低減化 審決には,以下のとおり,本願補正発明の容易想到性判断の誤りがある。 (1) 本願補正発明についてアレルゲン低減化物質を繊維製品に使用すると,繊維製品の触感が硬くなることから,アレルゲン低減化繊維製品の外観・風合いを維持するという解決課題と,アレルゲンの低減化効果の向上という解決課題があった。本願補正発明は,これらの 課題を解決するため,最表層よりも内部の狭い空間である最表層以外の部分にアレルゲンが蓄積する傾向があることを見い出し,繊維製品に蓄積したアレルゲンにアレルゲン低減化物質をより効率良く接触させるとともに,繊維製品本来の触感を維持するために,繊維製品の最表層以外の部分にアレルゲン抑制剤を処理した発明である。 なお,アレルゲン低減化剤とは,アレルゲンを変性させることによって不活性化し,抗原抗体反応を抑制するものである。 (2) 引用発明について引用文献2には,アレルゲン低減化剤を立毛繊維製品に処理してもよい旨が記載されている。 ところで,引用文献2には,立毛繊維製品における,アレルゲン低減化剤で処理される対象部分は特定されていない。そして,生きているダニよりも,ダニの糞や死骸の方がアレルゲンとなり,また,アレルゲンは極めて微小であるため,本願の優先日当時,立毛繊維製品において,アレルゲンがいかなる部分に蓄積しやすいかについての知見はなかった。しかし,アレルゲンは立毛繊維製品の表面から飛散することから,立毛繊維製品中のアレルゲンに起因したアレルギー症状を防止するためには,アレルゲン低減化剤を立毛繊維製品の少なくとも最表層に処理することが,当業者の技術常識であった。 また,引用発明では「芳香族ヒドロキシ化合物,アルカリ金属の炭酸塩,明礬,ラウリルベンゼンスルホン酸塩,ラウリル硫酸塩,ポリオキシエチレンラウリルエ に処理することが,当業者の技術常識であった。 また,引用発明では「芳香族ヒドロキシ化合物,アルカリ金属の炭酸塩,明礬,ラウリルベンゼンスルホン酸塩,ラウリル硫酸塩,ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1つを有効成分とすることを特徴とするアレルゲン低減化剤。」が用いられており,有効成分は何れも揮散性を有するものではない。 (3) 引用文献1記載の発明についてア審決は,引用文献1に「立毛製品の基布またはその裏面(すなわち最表層以外の部分)のみを,防虫剤を含有する処理材により処理してなる防虫性立毛または パイル繊維製品。」に係る発明が記載されていると認定した。しかし,審決の認定は,揮散性を有する処理剤と,揮散性を有していない処理剤とを区別していない点で,誤りがある。 引用文献1は,低揮散性の防虫剤を用いたものであり,害虫が防虫剤に直接接触することなく防虫性の効果が発現できるよう,防虫剤の揮散性を利用して害虫の忌避を図った上で,外観・風合いを損なわないよう,防虫剤を基布又はその裏面に付与している。すなわち,引用文献1に係る防虫性立毛又はパイル繊維製品は,低揮散性を有する防虫剤を用い,害虫が防虫剤に直接接触することなく防虫性の効果が発現できるようにしたことから,防虫剤を基布又はその裏面に付与することが可能となり,「立毛・パイル繊維製品の外観・風合いを損なうこと」がないという目的を達成させた。 もっとも,引用文献1の段落【0010】には,防虫剤は「持続性,耐久性の点で易水溶性,揮散性の大きなものを除き,その組成,構造等は限定されない」との記載がある。しかし,同記載部分は,揮散性が大きいと防虫剤の持続性が低下することから,揮散性の大きなものを除外する趣旨を述べたものであって,上記記載部分から き,その組成,構造等は限定されない」との記載がある。しかし,同記載部分は,揮散性が大きいと防虫剤の持続性が低下することから,揮散性の大きなものを除外する趣旨を述べたものであって,上記記載部分から,引用文献1の防虫剤が揮散性を有しないものを含むと読むのは誤りである。 イ引用文献1には,低揮散性の防虫剤をパイル布帛の基布又はその裏面にのみ付与してなるパイル繊維製品が開示されている。引用文献1の防虫性立毛又はパイル繊維製品は,防虫剤の揮散性を利用した害虫の忌避を目的としていることから,アレルゲンの原因となるチリダニなどの害虫自体が存在し難くなる。これに対し,本願補正発明や引用発明は,アレルゲンの存在を前提とし,アレルゲン低減化剤が,アレルゲンを変性させることによって不活性化させ,抗原抗体反応を抑制するものであって,防虫とアレルゲン低減化とは,メカニズム及び達成手段が異なる。以上のとおり,引用文献1記載の発明と引用発明とでは,その技術分野において相違する。 ウ引用文献1では,防虫剤をパイル布帛の何れの箇所に付与しても,ほぼ同等 の効果を奏するのであり,防虫性立毛又はパイル繊維製品の外観・風合いを損なわないようにするという解決課題のみを達成するために,防虫剤を基布又はその裏面にのみ付与しているにすぎず,防虫効果の向上は,解決課題としていない。これに対し,本願補正発明は,アレルゲンの低減化効果の向上という解決課題と,アレルゲン低減化繊維製品の外観・風合いの維持という解決課題を有しており,本願補正発明が立毛繊維製品又は編込み繊維製品の最表層以外の部分にアレルゲン低減化剤を処理しているのは,この部分にアレルゲンが蓄積されやすいというアレルゲン特有の現象を見いだしたからである。 (4) 引用発明に引用文献1記載の技術を適用することの困難 外の部分にアレルゲン低減化剤を処理しているのは,この部分にアレルゲンが蓄積されやすいというアレルゲン特有の現象を見いだしたからである。 (4) 引用発明に引用文献1記載の技術を適用することの困難性上記とおり,引用文献1記載の発明と引用発明とは,用いられる化合物の揮散性の有無において相違するから,引用発明に引用文献1記載の処理方法を適用して本願補正発明に至ることは,容易であるとはいえない。 また,本願補正発明はアレルゲンの低減化効果の向上という解決課題と,アレルゲン低減化繊維製品の外観・風合いの維持という解決課題の両者を有しているにもかかわらず,アレルゲン低減化繊維製品の外観・風合いの維持という解決課題にのみ着目して,アレルゲンの低減化に係る技術分野に属する引用発明に,これとは異なる技術分野である防虫に係る技術分野に属する引用文献1記載の技術を適用することが容易であると判断することはできない。 以上のとおり,本願補正発明が容易想到であるとした審決の判断には誤りがある。 2 被告の反論(1) 原告は,本願補正発明は,アレルゲン低減化効果の向上という解決課題と,アレルゲン低減化繊維製品の外観・風合いの維持という解決課題を解決した発明である旨を主張する。しかし,本願明細書の【発明が解決しようとする課題】に記載されているのは,「繊維製品本来の触感を維持したまま,アレルゲン低減化効果を発揮すること」のみであり,本願補正発明が,アレルゲン低減化効果の向上という解決課題を解決した発明である旨の原告の主張は,本願明細書の記載に基づかない 主張である。 (2) 本願補正発明における「最表層以外の部分」とは,単に,繊維製品のうち「主に人間が接する部分」を除外したものにすぎないのであって,「アレルゲンが蓄積しやすい部分ではない部分」 主張である。 (2) 本願補正発明における「最表層以外の部分」とは,単に,繊維製品のうち「主に人間が接する部分」を除外したものにすぎないのであって,「アレルゲンが蓄積しやすい部分ではない部分」を含んでいる。したがって,本願補正発明が,立毛繊維製品又は編込み繊維製品の最表層以外の部分にアレルゲン低減化剤を処理しているのは,この部分にアレルゲンが蓄積されやすいというアレルゲン特有の現象を見いだしたからであるとの原告の主張は,誤りである。 (3) アレルゲンが繊維製品の奥の方又は内部に蓄積し易いことは本願の優先日前に周知の知見であり,技術常識である。本願の優先日当時,立毛繊維製品において,アレルゲンがいかなる部分に蓄積しやすいかについての知見はなく,アレルゲン低減化剤を立毛繊維製品の少なくとも最表層に処理することが当業者の技術常識であったとの原告の主張は,何ら根拠がない。 (4) 原告は,審決には,引用文献1における防虫剤が低揮散性であることを看過し,揮散性を有する処理剤と,揮散性を有していない処理剤とを区別していない点で誤りがあり,引用文献1記載の発明と引用発明とでは,用いられている化合物が揮散性の有無において相違するから,引用発明に引用文献1記載の処理方法を適用して本願補正発明に至ることは,容易であるとはいえない,と主張する。 しかし,本願補正発明は,アレルゲン低減化剤の揮散性については何ら特定していないのであるから,原告の主張は特許請求の範囲に基づく主張ではない。 また,引用文献1の段落【0010】に,防虫剤は「持続性,耐久性の点で易水溶性,揮散性の大きなものを除き,その組成,構造等は限定されない」と記載されているように,引用文献1の防虫剤は,揮散性を有しないものを含むと読むべきである。 引用文献1には,「立毛・パイル繊維製品 溶性,揮散性の大きなものを除き,その組成,構造等は限定されない」と記載されているように,引用文献1の防虫剤は,揮散性を有しないものを含むと読むべきである。 引用文献1には,「立毛・パイル繊維製品の外観・風合いを損なうこと」がないこと,及び「防虫効果の持続性,洗濯耐久性に優れた防虫加工製品を提供すること」の二つの目的に関する事項が記載されている。このうち後者は,段落【001 0】に記載された,防虫剤の「持続性,耐久性」という目的に対応していることを考慮すると,引用文献1における「処理材による,立毛繊維製品の肌ざわり,風合い,及び外観の変化を回避」という目的に関しては,揮散性を有する防虫剤と揮散性を有しない防虫剤とを区別すべき必然性は存在しない。 本願の優先日前に,揮散性を有しない防虫剤は周知であり,原告の主張は,引用文献1における「低揮散性」の誤った解釈に基づくものであり,引用発明に引用文献1記載の処理方法を適用することは,容易である。 (5) ダニの死骸や糞がアレルゲンとなることは,本願の優先日前に周知の事項であり,引用文献1の防虫剤の対象となるダニと引用発明のアレルゲン低減化剤の対象となるアレルゲンとは極めて密接な関係を有し,両者とも繊維製品に存在し,さらに,防虫は,ひいてはアレルゲン対策となることから,引用文献1記載の発明の属する技術分野と引用発明の属する技術分野とは,当業者からみれば,繊維製品のアレルゲン対策に係る技術という点において密接に関連しているというべきである。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,当業者が,本願補正発明の相違点に係る構成に至るのは容易であり,原告主張の取消事由は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 事実認定(1) 本願補正発明本願補正発明に係る特許請求の範囲 正発明の相違点に係る構成に至るのは容易であり,原告主張の取消事由は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 事実認定(1) 本願補正発明本願補正発明に係る特許請求の範囲は,第2の2(2)記載のとおりである。 本願明細書には,以下の記載がある。また,本願明細書の図1(本願補正発明実施例の略図的側面図),図2(a)(本願補正発明実施例の略図的斜視図),図2(b)(本願補正発明実施例の略図的断面図)は,別紙図1,同図2(a),(b)のとおりである。(甲3)「【技術分野】【0001】本発明は,ダニや花粉等のアレルゲンを低減化することができるア レルゲン低減化繊維製品およびその製造方法に関する。」「【0004】よって,アレルギー疾患の症状軽減あるいは新たな感作を防ぐためには,生活空間から完全にアレルゲンを取り除くこと,あるいはアレルゲンを変性させること等により不活性化させることが必要となる。」「【発明が解決しようとする課題】【0008】アレルゲンの低減化を求められている繊維製品には,カーペット,畳,絨毯等の敷物類;椅子,カーテン,ソファー等の布製家具類あるいは布張り家具類;カーシート,シートベルト,カーマット等の車両内装類;布団,マットレス,枕,ベッド,毛布等およびそれらのカバー,シーツ等の寝具類などが挙げられる。 【0009】このような繊維製品は,日常生活の中でもリラックスしたり休憩したりする場面で使われることが多いため,アレルゲン低減化効果のみならず人に対する快適性も求められており,触感を出来るだけ柔らかくすることが重視される。 【0010】しかしながら,上記のようなアレルゲン低減化剤を使用すると,繊維製品表面に付着したアレルゲン低減化物質により,繊維製品の感触が硬くなるという問題があ だけ柔らかくすることが重視される。 【0010】しかしながら,上記のようなアレルゲン低減化剤を使用すると,繊維製品表面に付着したアレルゲン低減化物質により,繊維製品の感触が硬くなるという問題があった。特に,繊維製品の着色等を避けるとともに,耐洗濯性等を付与するために,特許文献4(判決注:引用文献2を指す。)に開示されたようなフェノール基を有する高分子化合物等のアレルゲン低減化物質を用いたアレルゲン低減化剤を使用した場合には,アレルゲン低減化物質が繊維製品を構成する材質(ポリエステル,レーヨン,木綿等)に比べて硬いため,繊維製品の感触が硬くなり,快適性が損なわれるという問題が顕著であった。 【0011】本発明は,上記問題点に鑑み,繊維製品本来の触感を維持したまま,アレルゲン低減化効果を発揮することのできるアレルゲン低減化繊維製品を提供することを目的とする。」「【0019】本発明において,最表層とは,繊維製品において主に人間が接する部分である。図1に示すように,立毛繊維製品1において符号2で示す部分が最表層である。また,図2(b)に示すように,編込み繊維製品3において符号4で示 す部分が最表層である。最表層2,4の繊維製品1,3全体に対する割合は,触感とアレルゲン低減化効果との兼ね合いにより決定されるが,全体厚みの1割以上かつ9割以下であることが好ましい。」「【0020】繊維製品内でアレルゲンが発生した場合でも,繊維製品外のアレルゲンによって汚染された場合でも,最表層2,4よりも内部の狭い空間である最表層以外の部分5,6にアレルゲンが蓄積する傾向がある。そして,繊維製品に蓄積したアレルゲンを低減化するためには,アレルゲン低減化物質をより効率良くアレルゲンに接触させる必要があることから,アレルゲン低減化物質を含有するアレ ゲンが蓄積する傾向がある。そして,繊維製品に蓄積したアレルゲンを低減化するためには,アレルゲン低減化物質をより効率良くアレルゲンに接触させる必要があることから,アレルゲン低減化物質を含有するアレルゲン低減化剤を最表層以外の部分5,6に処理することは,アレルゲンを低減化するために本質的に有利な方法である。」「【発明の効果】【0067】本発明のアレルゲン低減化繊維製品は,最表層以外の部分をアレルゲン低減化剤で処理しているため,日常生活の湿度下で使用することにより,生活空間からのアレルゲン暴露を抑えることが出来る。また,繊維製品が素材本来の触感を損なっていないため,アレルギー疾患により皮膚が弱くなっている患者であっても皮膚炎等を起こすことなく快適に使用することができる。」(2) 引用文献2の記載引用発明の内容は,第2の3(3)アのとおりである。 本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2は,発明の名称を「アレルゲン低減化剤」とする発明の公開特許公報であり,以下の記載がある(甲2)。 「【特許請求の範囲】【請求項1】芳香族ヒドロキシ化合物,アルカリ金属の炭酸塩,明礬,ラウリルベンゼンスルホン酸塩,ラウリル硫酸塩,ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1つを有効成分とすることを特徴とするアレルゲン低減化剤。」「【発明の詳細な説明】 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,ダニや花粉等のアレルゲンを低減化することができる,アレルゲン低減化剤に関する。」「【0003】上記のようなアレルゲンは蛋白質であるため熱や強酸/強アルカリ等で変成しアレルゲン性を失うと考えられるが,非常に安定性が高く,家庭で安全に使用できる程度の酸化剤や還元剤,熱,アルカリや酸では容易に分解 記のようなアレルゲンは蛋白質であるため熱や強酸/強アルカリ等で変成しアレルゲン性を失うと考えられるが,非常に安定性が高く,家庭で安全に使用できる程度の酸化剤や還元剤,熱,アルカリや酸では容易に分解されない・・・。このような方法で無理にアレルゲンを変成させようとすると,アレルゲンの汚染場所である生活用品・・・が条件によっては破損してしまう可能性があった。 【0004】このため,アレルゲンの分子表面を比較的温和な条件で化学的に変成する方法が考えられてきた。・・・しかし,これらのほとんどはポリフェノールの1種であり,効果は見られるものの着色しているため前述したような生活用品を汚染してしまうという問題があった。 【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記問題点に鑑み,アレルゲンが付着した生活用品表面を汚染したり破損することなく,アレルゲンを効果的に低減化することができるアレルゲン低減化剤を提供することを目的とする。」「【0030】本発明のアレルゲン低減化剤が対象とするアレルゲンとしては,動物性アレルゲン,花粉などの植物性アレルゲンが挙げられる。本発明のアレルゲン低減化成分は,これらのアレルゲンの特異抗体との反応を抑えることにより,本剤を使用した場所のアレルゲンを低減化する。特に効果のある動物アレルゲンとしては,ダニ類のアレルゲン(・・・)のいずれの種類でも対象となり得るが,室内塵中,特に寝具類に多く,アレルギー疾患の原因となるチリダニ科,ヒョウヒダニ類に特に効果がある。 【0031】本発明のアレルゲン低減化剤が使用される対象,場所としては,生活空間においてアレルゲンの温床となる生活用品等が挙げられる。上記生活用品と しては,例えば,畳,絨毯,・・・寝具(ベッド,布団,シーツ),・・・タオル,衣類,ぬいぐるみ 場所としては,生活空間においてアレルゲンの温床となる生活用品等が挙げられる。上記生活用品と しては,例えば,畳,絨毯,・・・寝具(ベッド,布団,シーツ),・・・タオル,衣類,ぬいぐるみ,繊維製品,・・・等への使用が挙げられる。また,上記使用方法としては,上記生活用品,及び上記生活用品に使用されるマットの中綿,カーペットの繊維及びその他原材料(樹脂・繊維)などにあらかじめ処理することによってもその効果を発揮することができる。また,繊維集合体(織布・不織布)等の基材に含浸し,清拭シートのように使用してもよい。」(3) 引用文献1の記載本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1は,発明の名称を「防虫性立毛またはパイル繊維製品」とする発明の公開特許公報であり,以下の記載がある(甲1)。 「【特許請求の範囲】【請求項1】立毛部および基布からなる立毛またはパイル部および基布からなるパイル布帛において難水溶性かつ低揮散性の防虫剤を樹脂バインダーと共に前記基布またはその裏面にのみ付与し,その際該防虫剤の使用量を0.1~10g/m2とすることを特徴とする防虫性立毛またはパイル繊維製品。」「【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は,立毛・パイル製品に防虫剤を付与した製品に関するものであって,さらに詳しくは,立毛・パイル製品の基布またはその裏面にのみ難水溶性かつ低揮散性の防虫剤を含有する樹脂バインダーを塗布した外観・風合いの変化のきわめて少ない防虫性立毛・パイル繊維製品に関するものである。 【0002】【従来の技術】従来,繊維製品に防虫機能を付与する方法としては,対象とする害虫(主としてダニ)に効く殺虫,忌避機能のある防虫剤を直接付与する方法,防虫剤を接着剤や樹脂バインダーと共に付与する方法 【従来の技術】従来,繊維製品に防虫機能を付与する方法としては,対象とする害虫(主としてダニ)に効く殺虫,忌避機能のある防虫剤を直接付与する方法,防虫剤を接着剤や樹脂バインダーと共に付与する方法,あるいは化合繊などの製造工程で防虫剤を付与する方法があったが,・・・。」 「【0005】そして,これらの問題点の中でも特にマイヤー毛布やボア,ハイパイル等起毛仕上げする繊維製品や,外観・風合いが重要視されるマット類,椅子張り地等の立毛・パイル繊維製品においては,繊維の肌ざわり,風合い,および外観を変化させずに防虫剤を付与することは非常に困難であった。 【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記事情を考慮し,立毛・パイル繊維製品の外観・風合いを損なうことなく,かつ,防虫効果の持続性,洗濯耐久性に優れた防虫加工製品を提供することを目的としている。」「【0009】本発明では,上記製品の基布もしくは裏面に防虫加工を行うことによって表側の立毛・パイル部分の風合い・外観および防虫機能の低下を防ぐものである。」「【0010】本発明で用いる防虫剤は,持続性,耐久性の点で易水溶性,揮散性の大きなものを除き,その組成,構造等は限定されないが,パイルや立毛表面へ影響の少ない淡い色の材料,特に透明白色材料が好ましい。」「【0022】【発明の効果】本発明は,以上説明したように構成されているので,以下に記載されるような効果を奏する。本発明の防虫性立毛またはパイル繊維製品は,難水溶性かつ低揮散性の防虫剤を樹脂バインダーと共に立毛・パイル製品の基布あるいはその裏面に付与しているため立毛・パイル部分の外観・風合い・肌ざわりを低下させることなく,防虫剤の持続性,洗濯耐久性を高めることができた。また,本発明の防虫性立毛またはパイル繊維 製品の基布あるいはその裏面に付与しているため立毛・パイル部分の外観・風合い・肌ざわりを低下させることなく,防虫剤の持続性,洗濯耐久性を高めることができた。また,本発明の防虫性立毛またはパイル繊維製品は防虫剤を含有する樹脂バインダー層を立毛・パイル部分の根元付近に形成するため,毛抜け,パイル抜けの防止および洗濯時等の寸法安定性にも有用であった。」 2 判断当裁判所は,当業者が本願補正発明の相違点に係る構成に至るのは容易であるとした審決の判断に誤りはないと解する。その理由は,以下のとおりである。 (1) 本願補正発明と引用発明との相違点について前記のとおり,本願補正発明では,立毛繊維製品の最表層以外の部分をアレルゲン低減化剤により処理する構成を有している点で,引用文献2記載の引用発明と相違する。 すなわち,本願補正発明は,本願明細書の記載によると,繊維製品にアレルゲン低減化剤を使用した場合,繊維製品表面に付着したアレルゲン低減化物質により,繊維製品の感触が硬くなり,快適性が損なわれるという問題があったことから,この課題を解決するため,立毛繊維製品又は編込み繊維製品の最表層以外の部分をアレルゲン低減化剤で処理することとし,その結果,繊維製品本来の触感を維持したまま,アレルゲン低減化効果を発揮することのできるアレルゲン低減化繊維製品を提供することができるとする発明である。 これに対して,引用文献2記載の引用発明は,ダニや花粉等のアレルゲンを低減化することができるアレルゲン低減化剤に関する発明を開示したものであり,アレルゲンが付着した生活用品表面を汚染したり破損したりすることなく,アレルゲンを効果的に低減化するという課題を解決するために,芳香族ヒドロキシ化合物,アルカリ金属の炭酸塩,明礬,ラウリルベンゼンスルホン酸塩 が付着した生活用品表面を汚染したり破損したりすることなく,アレルゲンを効果的に低減化するという課題を解決するために,芳香族ヒドロキシ化合物,アルカリ金属の炭酸塩,明礬,ラウリルベンゼンスルホン酸塩,ラウリル硫酸塩,ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩からなる群より選ばれた少なくとも1つをアレルゲン低減化剤の有効成分とするもので,アレルゲン低減化剤はアレルゲンの温床となる絨毯,タオル,カーペット等に使用できるとする発明である。 (2) 本願補正発明の相違点に係る構成の容易想到性ア本願の優先日前に頒布された刊行物には,立毛繊維製品におけるアレルゲンに関し,以下の記載がある。 (ア) 「掃除機で吸い取ってしまう。ていねいに,根気よく,長い目で見て効果がでてきます。便利グッズを使って効率的に掃除機で吸い取りましょう。ダニアレルゲンはふとんやソファーの奥の奥まであることをお忘れなく。」との記載(甲9の4頁) (イ) 「現在行ない得る最も安全で有効なチリダニアレルゲンの除去方法は,吸い込み仕事率210W/hr以上,紙パック式集塵袋使用の市販電気掃除機である。 そして掃除の要点は,寝具類の場合,表面,裏面の両側より直接掃除機がけを,寝室床面に対しても,いずれも1㎡当たり20秒の時間をかけて丁寧に吸塵することである。」との記載(甲11の61頁)(ウ) 「掃除機に関しても例外ではなく,従来の綿ゴミ,紙ゴミなどを吸引する機能のみならず,カーペットの内部に巣くうダニの死骸や糞,花粉に代表される微粉などを吸引除去する掃除機のニーズが高まっている。」,「しかし,ダニの死骸や糞,微粉などは静電気によって帯電するため,通常の掃除機を用いてカーペットの内部から効率良く除去することが難しい。」,「ダニの死骸や糞,微粉などのゴミは,通常 まっている。」,「しかし,ダニの死骸や糞,微粉などは静電気によって帯電するため,通常の掃除機を用いてカーペットの内部から効率良く除去することが難しい。」,「ダニの死骸や糞,微粉などのゴミは,通常カーペット100などの内部に混入しており,カーペット100の内部からカーペットの最表面に引き出すことが困難である。」との記載(乙3の段落【0003】【0004】及び【0028】)(エ) 「ダニアレルゲンを除去するには,掃除機や洗濯,クリーニングが有効であるが,例えば,掃除機をかけるにしても面倒な上,通常通りの操作ではアレルゲンを除去するのは困難である。」,「カーペットのように繊維製品の内部に入り込んだハウスダストは除去され難く,掃除後に歩く度に内部でダニアレルゲンが微細化し,空中に飛散するなど掃除の効果が発現されにくい」との記載(乙4の段落【0005】)イ上記各記載によれば,ダニの死がいや糞,花粉などは,カーペット等の立毛繊維製品の内部にも存在すること,掃除機で吸い取ることによりアレルゲンの除去をすることができるが,カーペット等の繊維製品の表面に存在するアレルゲンに比べ,内部に入り込んだアレルゲンは,除去が困難であることは,本願の優先日当時における当業者の技術常識であったと認められる。また,アレルゲンの一つであるチリダニは,その死がいや糞などもアレルゲンとなること,生きているダニよりもその死がいや糞の方が細粒化し,アレルゲン性が高いことも,本願の優先日当時に おける技術常識である(甲2,3,9ないし11,乙3,4)。 そうすると,引用文献2に接した当業者が,上記技術常識に基づき,除去が困難である繊維製品の内部,すなわち最表層以外の部分にアレルゲン低減化剤による処理をすることに,何ら困難性はないといえる。 のみならず と,引用文献2に接した当業者が,上記技術常識に基づき,除去が困難である繊維製品の内部,すなわち最表層以外の部分にアレルゲン低減化剤による処理をすることに,何ら困難性はないといえる。 のみならず,引用文献1には,防虫剤を立毛・パイル繊維製品の基布又はその裏面にのみ付与することによって,立毛・パイル繊維製品の外観・風合いを損なうことのない防虫加工製品を提供するという記載があり,引用文献1記載の発明と本願補正発明とでは,防虫剤とアレルゲン低減化剤との違いはあるものの,いずれも薬剤を立毛繊維製品に使用するという点で共通するものであることからすると,アレルゲン低減化剤の使用を最表層以外の部分とすることによって,繊維製品本来の触感を維持できるという効果を奏することは,当業者が容易に予測し得るものである。 3 原告の主張に対して原告は,本願補正発明には,アレルゲン低減化繊維製品の外観・風合いを維持するという解決課題のほかに,アレルゲンの低減化効果の向上という解決課題があり,本願補正発明において立毛繊維製品又は編込み繊維製品の最表層以外の部分にアレルゲン低減化剤を使用しているのは,この部分にアレルゲンが蓄積されやすいというアレルゲン特有の現象を見いだしたからである,本願の優先日当時,立毛繊維製品において,アレルゲンがいかなる部分に蓄積しやすいかについての知見はなく,アレルゲンは立毛繊維製品の表面から飛散することから,アレルゲン低減化剤を立毛繊維製品の少なくとも最表層に処理することが,当業者の技術常識であったと主張する。 しかし,原告の主張には理由がない。 すなわち,前記のとおり,アレルゲンは立毛繊維製品の内部にも存在し,繊維製品の内部に入り込んだアレルゲンは除去が困難であることは,本願の優先日当時における当業者の技術常識であったと認め 由がない。 すなわち,前記のとおり,アレルゲンは立毛繊維製品の内部にも存在し,繊維製品の内部に入り込んだアレルゲンは除去が困難であることは,本願の優先日当時における当業者の技術常識であったと認められることからすると,アレルゲン低減化剤を立毛繊維製品の少なくとも最表層に処理することが当業者の技術常識であった とは考え難く,これを認めるに足りる証拠もない。 のみならず,本願明細書には,本願補正発明がアレルゲンの低減化効果の「向上」を解決課題としていることや本願補正発明によってアレルゲン低減化効果が「向上」したことに関する記載はなく,原告の主張は本願明細書の記載に基づかない主張である。この点,繊維製品の内部に入り込んだアレルゲンを除去することは困難であることが当業者の技術常識であったことからすると,アレルゲンが存在する繊維製品の最表層以外の部分にアレルゲン低減化剤を使用すれば,使用に応じて,アレルゲン低減化を図ることができるのは道理であり,そのような効果が,当業者が予測し得ない程度の低減効果であると評価することはできない。 なお,甲9の1頁には,ダニアレルゲンが,「どこにどれだけあるかは,きちんと検査してみないとわかりません。」との記載部分がある。しかし,甲9には「かけぶとん,しきぶとん,カーペット・・・」等の製品におけるダニアレルゲン量のデータが掲載され,「ダニアレルゲンは,チリダニが住めるところならどこでもあります。寝具,カーペット,たたみ,布製のソファーやぬいぐるみなどです。」,「各家庭にある製品の塵の中に含まれているダニアレルゲン量を測定しました。その結果,同じ種類の製品でも家庭によって10倍~1000倍も差がありました。」との説明がされていることを併せると,上記の記載部分は,家庭内の各製品にどれだけのダニアレルゲン ゲン量を測定しました。その結果,同じ種類の製品でも家庭によって10倍~1000倍も差がありました。」との説明がされていることを併せると,上記の記載部分は,家庭内の各製品にどれだけのダニアレルゲンがあるかは,個別性が強い旨を述べたものであって,原告の主張の裏付けになるものとはいえない。 4 以上によると,本願補正発明は引用発明に基づいて容易想到であり,特許法29条2項により独立して特許を受けることができるものではないとして,本件補正を却下した審決の判断に誤りはなく,本願発明も同様に容易想到であるとした審決の判断にも誤りはない。 5 結論以上のとおり,原告主張に係る取消事由は理由がない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がなく,審決には取り消すべき違法はない。よって,主文 のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官小田真治 別紙図 1(本願補正発明実施例の略図的側面図) 図 2(本願補正発明実施例の略図的斜視図及び同断面図))
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