主文 1 本件訴訟のうち、原告Gの被告和歌山市に対する請求に関する部分は、令和元年12月7日の同原告の死亡により終了した。 2⑴ 処分行政庁が平成25年8月1日付けで原告D、E、F、Jに対してした保護変更決定をいずれも取り消す。 ⑵ 処分行政庁が平成26年4月1日付けで原告AないしD、E、F、Jに対してした保護変更決定をいずれも取り消す。 ⑶ 処分行政庁が平成27年4月1日付けで原告AないしD、E、F、JないしLに対してした保護変更決定をいずれも取り消す。 3 原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、原告らと被告和歌山市との間においては、被告和歌山市の負担とし、原告らと被告国との間においては、原告らの負担とし、原告Gに生じた費用については、同原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文2項⑴ないし⑶同旨 2 被告国は、原告AないしD、E、F、I、JないしLに対し、それぞれ5万円及びこれに対する平成25年5月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、原告らが、生活保護法の委任に基づいて厚生労働大臣が定めた「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。以下「保護基準」という。)に関する平成25年から平成27年までの間の改定(以下「本件改定」という。)により、別紙処分一覧表の「原告」欄記載の者ら(以下「本件処分対象 者」という。)に対してされた処分行政庁からそれぞれ生活扶助の支給額を減額 する旨の保護変更決定(以下「本件各保護変更決定」という。)につき、本件改定の違憲、違法(憲法25条、生活保護法3条、8条等違反)等を主張して、①被 庁からそれぞれ生活扶助の支給額を減額 する旨の保護変更決定(以下「本件各保護変更決定」という。)につき、本件改定の違憲、違法(憲法25条、生活保護法3条、8条等違反)等を主張して、①被告和歌山市に対し、本件各保護変更決定の取消しを求めるとともに、②本件改定の告示を発出した被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金各5万円及びこれに対する平成25年の改定告示の発出日である同年5月16日か ら支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 関係法令の定め等⑴ 生活保護法ア基本原理 生活保護法(以下「法」ともいう。)の解釈及び運用は、すべて以下の基本原理に基づいて行わなければならない(法5条)。 生活保護は、生活保護法に基づいて実施される公的扶助制度であり、憲法25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保 障するとともに、その自立を助長することを目的とするものである(法1条)。 生活保護法に基づく保護(以下、単に「保護」ともいう。)は、法の定める要件を満たす限り、無差別平等に受けることができ(法2条。無差別平等の原理)、これによって保障される最低限度の生活は、健康で文化的な 生活水準を維持することができるものでなければならない(法3条。最低生活の保障)。 また、保護は、生活に困窮する者が、利用し得る資産、能力等をその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われ、民法上の扶養や他の法律による扶助が保護に優先するものとされている(法4条。 保護の補足性 窮する者が、利用し得る資産、能力等をその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われ、民法上の扶養や他の法律による扶助が保護に優先するものとされている(法4条。 保護の補足性)。 イ保護の原則 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始するものとする(法7条)。 保護は、厚生労働大臣の定める保護基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、要保護者の金銭又は物品で満たすことのできない不 足分を補う程度において行うものとする(法8条1項)。 保護基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない(法8条2項)。 保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効かつ適切に行うものとする(法9条)。 保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定め、これにより難いときは、個人を単位として定めることができる(法10条)。 ウ保護の種類 保護の種類には、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助がある(法11条1項)。 生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、衣食その他日常生活の需要を満たすために必要な範囲内において、原則として金銭が支給されるものである(法12条、31条)。 エ不利益変更の禁止被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を不利益に変更されることが おいて、原則として金銭が支給されるものである(法12条、31条)。 エ不利益変更の禁止被保護者は、正当な理由がなければ、既に決定された保護を不利益に変更されることがない(法56条)。 保護の基準の定め(乙1の1・2、乙2)ア生活保護法8条1項の保護基準は、扶助の種類別に別表を定めて基準を設 定しており(保護基準別表第1~第8)、このうち、生活扶助に関する基準 (保護基準別表第1。以下「生活扶助基準」という。)は、基準生活費(第1章)と加算(第2章)に大別されている。 イ居宅で生活する者の基準生活費は、全国の市町村を1級地-1から3級地-2まで6つに区分して定められる級地(保護基準別表第9)及び年齢別に定められる第1類と、級地等及び世帯人員別に定められる第2類とに分けら れ、原則として、世帯ごとに、個人単位で算出される第1類の額(以下「第1類費」という。)を合算したものと第2類の額(以下「第2類費」という。)とを合計して算出される。第1類費は、食費、被服費等の個人単位の経費に、第2類費は、光熱水費、家具什器等の世帯単位の経費にそれぞれ対応するものとされている。 なお、本件各保護変更決定を受けた本件処分対象者が本件各保護変更決定時点において居住していた和歌山市は、2級地-1に区分されている。 ウ加算は、基準生活費において配慮されていない個別的な特別需要を補填することを目的として設けられているものであり、障害があるため最低生活を営むためには健常者に比してより多くの費用を必要とする障害者や、通常以 上の栄養補給を必要とする在宅患者、胎児のための栄養補給を必要とする妊婦等がその対象となっている。 3 前提事実当事者間 健常者に比してより多くの費用を必要とする障害者や、通常以 上の栄養補給を必要とする在宅患者、胎児のための栄養補給を必要とする妊婦等がその対象となっている。 3 前提事実当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠(枝番のあるもののうち、枝番の掲記のないものは枝番も含む。)及び弁論の全趣旨により認められる本件の前提 となる事実は、次のとおりである。 ⑴ 本件処分対象者等本件処分対象者は、別紙処分一覧表の各「処分日」欄の日時点で、和歌山市内に居住し、生活扶助の支給を受けていた。 原告Gは、令和元年12月7日死亡し、その相続人(妻)である原告Hは、 令和3年4月16日に死亡し、両名の子である原告Iが原告G及び原告Hの両 名を相続した。 ⑵ 生活扶助基準改定方式の推移(水準均衡方式に至る経緯)(甲7、乙9)ア生活扶助基準改定方式は、「マーケットバスケット方式」(最低生活に必要と思われる飲食物費や衣類、家具什器、入浴料といった個々の品目を個別に積み上げて基準額が算出される。)、「エンゲル方式」(栄養審議会の答申に基 づく基準栄養量(栄養所要量)を満たしうる飲食物費を理論的に積み上げ、別に低所得世帯の実態調査から、この飲食物費を支出している世帯のエンゲル係数を求め、これから逆算して基準額が算出される。)を経て、「格差縮小方式」(民間最終消費支出の伸び率を基礎に、その伸び率以上に基準額を引き上げ、結果的に一般国民と被保護世帯との消費水準の格差を縮小させる。) により、国民の消費実態との均衡上、ほぼ妥当な水準に達した。 イ厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会は、昭和58年12月23日、「生活扶助基準及び加算の在り方について(意見具申)」を発表し 国民の消費実態との均衡上、ほぼ妥当な水準に達した。 イ厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会は、昭和58年12月23日、「生活扶助基準及び加算の在り方について(意見具申)」を発表した(以下「昭和58年意見具申」という。)。これを踏まえ、昭和59年以降、生活扶助基準の改定は、水準均衡方式(当時の生活扶助基準が、一般国民の 消費実態との均衡上ほぼ妥当であるとの評価を踏まえ、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費実態との調整を図るという方式)により行われるようになった。 ⑶ 本件改定までの専門家による検討経緯等ア平成16年の報告結果等(甲6、乙5、乙8の3、乙13、14) 平成15年7月、社会保障審議会福祉部会内に、学識経験者等による生活保護制度の在り方に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)が設置された。専門委員会は、平成16年12月15日、「生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告書」を取りまとめた。(以下「平成16年報告書」という。)。 そこでの評価・検証の内容は、水準均衡方式を前提とする手法により、勤 労3人世帯の生活扶助基準について、低所得世帯の消費支出額との比較において検証・評価した結果、その水準は基本的に妥当であったが、今後、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため、全国消費実態調査等を基に5年に一度の頻度で検証を行う必要があり、これらの検証に際しては、地域別、世帯類型別等に 分けるとともに、調査方法及び評価手法についても専門家の知見を踏まえることが妥当であるというものであり、また、生活扶助基準の設定及び算出方法については、多 証に際しては、地域別、世帯類型別等に 分けるとともに、調査方法及び評価手法についても専門家の知見を踏まえることが妥当であるというものであり、また、生活扶助基準の設定及び算出方法については、多人数世帯基準の是正、単身世帯基準の設定、第1類費の年齢別設定の見直しを検討する必要があるとされた。 イ平成17年から平成19年まで(乙82~84) 生活扶助基準は、民間最終消費支出の伸び率を基礎とし、一般国民の消費水準との調整を行った結果、据え置かれることとなった。 ウ平成19年の報告結果等(甲7、乙6)平成16年報告書を受けて、厚生労働省社会・援護局長の下に、学識経験者等による生活扶助基準に関する検討会(以下「検討会」という。)が設置さ れた。検討会は、平成19年11月30日、「生活扶助基準に関する検討会報告書」を取りまとめた(甲7、乙6。以下「平成19年報告書」という。)。 そこでの評価・検証の内容等は、直近の全国消費実態調査の結果等を用いて、主に統計的な分析を基に、専門的かつ客観的に評価・検証が実施され、生活扶助基準の評価・検証を適切に行うためには、国民の消費実態を詳細に 分析する必要があり、そのためには、全国消費実態調査を基本とし、収入階級別、世帯人員別、年齢階級別、地域別などの様々な角度から詳細に分析することが適当であるというものであった。 エ平成20年から平成22年まで(甲213~217、乙11、15、16、81、85~89) 生活扶助基準は、世界的な金融危機(リーマンショック)前後の経済状況 等に鑑み、据え置かれ続けた。 ⑷ 本件改定に先立つ検討と検証結果(甲9、乙7、72~85)平成23年2月10日、社 、世界的な金融危機(リーマンショック)前後の経済状況 等に鑑み、据え置かれ続けた。 ⑷ 本件改定に先立つ検討と検証結果(甲9、乙7、72~85)平成23年2月10日、社会保障審議会の下に、学識経験者による専門的かつ客観的な検証を行うため、常設部会である生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)が設置された(甲137)。基準部会は、同年4月19日から平 成25年1月16日まで12回の審議を経て(以下「平成25年検証」という。)、同月18日、「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」を取りまとめた(以下「平成25年報告書」という。)。 そこでの検証の概要は、国民の消費実態を世帯構成別に細かく分けて分析する必要があるため、平成21年全国消費実態調査の個票データを用いて、様々 な世帯構成に対する基準の展開の妥当性を指数によって把握しようとするものであり、同指数につき、年間収入階級第1・十分位層(以下「第1・十分位」という。)の世帯の生活扶助相当支出を用いて算出するものであり、生活扶助基準の体系(年齢階級別、世帯人員別)、生活扶助基準の地域差について検証し、その結果、①年齢階級別(第1類費)の基準額については、各年齢階級間 にかい離が認められ、②世帯人員別(第1類費及び第2類費)の基準額については、世帯人員が増えるにつれてかい離が拡大する傾向が認められ、③級地別の基準額については、消費実態の地域差が小さくなっており、④上記①から③までの検証結果からすると、世帯員の年齢、世帯人員、居住する地域の組み合わせにより、各世帯への影響は様々であるというものであった。 ⑸ 本件改定の内容(甲1~3、11、甲117の3、甲150、乙17、18)厚生労働大臣は、平成25年5月16日付け わせにより、各世帯への影響は様々であるというものであった。 ⑸ 本件改定の内容(甲1~3、11、甲117の3、甲150、乙17、18)厚生労働大臣は、平成25年5月16日付け厚生労働省告示第174号、平成26年3月31日付け厚生労働省告示第136号及び平成27年5月16日付け厚生労働省告示第174号により生活扶助基準を改定した(本件改定)。 その内容は、概要、次のとおりであり、平成25年報告書を踏まえた見直し (以下「ゆがみ調整」という。)、物価の動向を勘案した見直し(以下「デフレ 調整」という。)及び激変緩和措置に大別される(別紙「生活扶助基準等の見直しについて」参照)。 アゆがみ調整ゆがみ調整は、平成25年報告書で指摘されたかい離(前記⑷①ないし③)の解消のためにされたものである。 ただし、本件改定におけるゆがみ調整では、平成25年検証の結果を反映させる比率を、全ての被保護世帯について一律に2分の1とする処理を行った(以下「2分の1処理」という。)。 イデフレ調整デフレ調整は、平成20年以降、一般国民の消費水準が下落する一方で、 同年以降の物価下落によって、被保護世帯の可処分所得が相対的、実質的に増加したという経済状況に鑑み、同年以降の被保護世帯の可処分所得の相対的、実質的な増加による一般国民との間の不均衡を是正するとの目的の下でされたものである。 具体的には、総務省から公表されている消費者物価指数を基に、その算出 の基礎とされている消費品目から、生活扶助以外の他扶助で賄われる品目(家賃、教育費、医療費等)及び原則として生活扶助世帯には生じない品目(自動車関係費、NHK受信料等)を除いて算出するとい の基礎とされている消費品目から、生活扶助以外の他扶助で賄われる品目(家賃、教育費、医療費等)及び原則として生活扶助世帯には生じない品目(自動車関係費、NHK受信料等)を除いて算出するという厚生労働省で考案した指数(以下「生活扶助相当CPI」という。)につき、平成20年と平成23年とを比較した結果、下落率が-4.78%であるとして、本件改定 前の第1類費及び第2類費に、ゆがみ調整において乗ずる改定率に加え、95.2%(-4.78%)を一律に乗じて減額をするというものである。 消費者物価指数には、総務省が公表している全国平均の品目別消費者物価指数(以下「総務省CPI」という。)が存在していたが、生活扶助相当CPIは、総務省CPIから厚生労働省において考案されたものである。 また、平成20年及び平成23年の各生活扶助相当CPIを算出する際に は、平成22年の総務省CPIの算出の基礎とされた同年の家計調査の全国平均の品目別支出金額に基づいて算出されたウエイトが用いられた。 ウ激変緩和措置ゆがみ調整及びデフレ調整による生活扶助基準の改定につき、平成25年度から3年間にかけて段階的に実施するとともに、本件改定による従前の生 活扶助基準からの増減幅を10%を超えないように調整された。 ⑹ 本件各保護変更決定と審査請求(甲A1、2、甲B1、2、甲C1、2、甲D1~3、甲F1~3、甲G1~3、甲H1~3、甲I1~3、甲J1、2、甲K1、2)ア処分行政庁は、別紙処分一覧表のとおり、平成25年8月1日(同表「処 分日1」)、平成26年4月1日(同表「処分日2」)及び平成27年4月1日(同表「処分日3」)、同表「原告」欄記載の者(本件処分対象者)に対し、 一覧表のとおり、平成25年8月1日(同表「処 分日1」)、平成26年4月1日(同表「処分日2」)及び平成27年4月1日(同表「処分日3」)、同表「原告」欄記載の者(本件処分対象者)に対し、保護基準改定に基づき支給額を減額する旨の決定(本件各保護変更決定)をした。 本件各保護変更決定に係る各通知書には、本件改定に関する決定理由につ いて、「基準改定」等と記載されていた。 イ本件処分対象者は、和歌山県知事に対し、別紙処分一覧表の「審査請求日1」ないし「審査請求日3」欄記載の各年月日に審査請求を行ったが、いずれも棄却する旨の裁決がされた。 ⑺ 本件訴訟の提起等 原告A~Cは、本件各保護変更決定中別紙処分一覧表の「処分日2」に係る決定の取消しと国家賠償を、原告D、原告E、原告F、原告G及び原告Jは、同表「処分日1」及び「処分日2」に係る各決定の取消と国家賠償をそれぞれ求める訴訟を、平成26年10月27日に提起し、原告A~D、原告E、原告F、原告G及び原告Jは、平成27年11月5日、同表の「処分日3」に係る 決定の取消請求を追加し(第1事件)、原告K、Lは、同日、同表の「処分日3」 に係る決定の取消しと国家賠償を求める訴訟を提起した(第2事件)。 4 争点⑴ 本件改定において厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用の違憲・違法があるか。 ⑵ 本件各保護変更決定に理由付記の違法があるか。 ⑶ 本件改定における厚生労働大臣の国家賠償法上の違法及び故意または過失の有無並びに本件処分対象者の損害 5 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(本件改定において厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用の違憲・違法があるか。)について ア原 の有無並びに本件処分対象者の損害 5 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(本件改定において厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用の違憲・違法があるか。)について ア原告らの主張ゆがみ調整及びデフレ調整は、次のとおり、それぞれ内容に問題がある上、専門家の検討結果を踏まえるという確立した行政慣行に反し、基準部会に諮るという手続を欠いたまま、総額670億円削減、生活保護給付水準10%引下げという当時の被告国の政策目的に基づいてされた。これにより、本件 処分対象者らは、過酷な生活を強いられた。 したがって、ゆがみ調整及びデフレ調整によって生活扶助基準を改定する本件改定について、厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用の違憲・違法がある。 ゆがみ調整 a 内容面での問題⒜ 平成25年報告書に依拠した点平成25年報告書以前の専門家による検証では、第1・十分位を比較対象としたことはなく、第1・十分位の生活消費水準が中位所得層(第3・五分位)の約6割に達していることを前提に、これを全世帯 の平均的階層と位置付けることには問題があり、第1・十分位に属す る世帯における必需的な耐久消費財の普及状況や必需的な消費品目の購入頻度が平均的な世帯と比較して遜色ないといえる状況にない等の事情からすると、生活扶助基準と第1・十分位の消費支出を比較するのは誤りである。 また、生活扶助基準と第1・十分位の消費支出を比較する際に、第 1・十分位に属する世帯の中に被保護世帯と考えられる世帯を含めたのは、比較する2つの集団が比較の対象とする要因に関して厳密に区別されなければならないという統計学上の原則に反してい する際に、第 1・十分位に属する世帯の中に被保護世帯と考えられる世帯を含めたのは、比較する2つの集団が比較の対象とする要因に関して厳密に区別されなければならないという統計学上の原則に反している。 さらに、一般的に、回帰分析とは、結果(被説明変数)とその諸要因(説明変数)の関係を線形の関数関係として定式化(回帰モデル) する統計的方法であり、回帰係数(被説明変数に対する各説明変数の影響度)をデータから推定した上で、データから与えられる説明変数の観測値を推定された回帰モデルに代入し、結果の予測値を求めることを内容とするが、平成25年検証での回帰モデルは、決定係数(定式化された回帰モデルの方程式と現実のデータとの適合の良さを示 す数値)が0.3程度にすぎず、このような低い決定係数の回帰モデルに基づく推計値(予測値)によりゆがみ調整を行うことには合理性がない。また、基準部会による検証の結果得られた回帰モデルは、「回帰係数のt検定」(説明変数が本当に被説明変数を説明できるに足る変数であるかを判断するもの)の結果をまったく反映させていないも のとなっており、統計学的に問題がある。 以上の点からして、ゆがみ調整は、平成25年報告書に依拠した点で問題がある。 ⒝ 2分の1処理を行った点2分の1処理の結果、平成25年報告書に沿った生活扶助基準改定 であれば生活扶助費が増額となる世帯、特に、被保護世帯の大半を占 める「60歳~69歳」及び「70歳以上」の各単身世帯につき、増額幅が圧縮された。平成25年当時、被保護世帯に占める「60歳~69歳」及び「70歳以上」の各単身世帯の割合は、約53.4%であったから、2分の1処理は、多くの被保護世帯の生 の各単身世帯につき、増額幅が圧縮された。平成25年当時、被保護世帯に占める「60歳~69歳」及び「70歳以上」の各単身世帯の割合は、約53.4%であったから、2分の1処理は、多くの被保護世帯の生活に甚大な不利益を及ぼすことになっており、この事態は、本件処分対象者でも同様 である。 加えて、2分の1処理は、平成25年報告書によるかい離解消の効果を2分の1に抑えるものであって、上記かい離を目的とした平成25年報告書に沿わないものである。 b 手続面での問題 2分の1処理は、基準部会に諮られることなくされたものであるという点で問題がある。 デフレ調整a 内容面での問題デフレ調整は、厚生労働省で考案した生活扶助相当CPIにつき、平 成20年と平成23年を比較した下落率-4.78%を考慮するものであるが、これには、次のとおりの問題がある。 ⒜ 生活扶助相当CPIは、国際基準から逸脱し、過去の指数を基準改定指数に換算する等の操作(新旧指数の接続)がされていない。国際基準に忠実に算出した場合の下落率は、-2.26%にとどまる。 ⒝ 生活扶助相当CPIの比較年度である平成20年は、その前後10年間でみると、著しい物価高騰という異例の事態が生じた時であり、この年を起点にすべきではなかった。 ⒞ 生活扶助相当CPIの平成20年及び平成23年の各指数は、品目数等を異にするため、上記下落率は、異なる集団の指数を比較して変 化率を測定するという統計学的上あり得ない手法により算出された ものである。 ⒟ 生活扶助相当CPIでは、平成20年から平成22年までの物価変化につき、 較して変 化率を測定するという統計学的上あり得ない手法により算出された ものである。 ⒟ 生活扶助相当CPIでは、平成20年から平成22年までの物価変化につき、下落率が真の物価下落よりも大きくなる方式(パーシェ式)を採用したのと同様になっている。また、上記方式は、日本において消費者物価指数として用いられておらず、国際基準にも沿わないもの である。したがって、生活扶助相当CPIによる下落率は、真の物価下落を正確に反映したものとはいえない。 ⒠ 消費者物価指数の動向は、品目によって異なり、消費実態は、所得階層によって全く異なる。被保護世帯は、一般世帯よりも消費支出額の絶対額が低く、消費支出構造についても一般世帯とは異なっている。 物価動向によって被保護世帯の可処分所得が実質的に増加していると判断するためには、被保護世帯の消費実態に基づいた計算をすべきであるが、生活扶助相当CPIでは、総務省が行う家計調査の結果における一般世帯(二人以上の世帯)の品目別消費支出金額を基にし、被保護世帯の消費実態を考慮していない。被保護世帯の消費構造に近 い計算によれば、物価下落率は、生活扶助相当CPIによる上記下落率よりも小さくなる。 b 手続面での問題昭和58年意見具申以降、生活扶助基準の検証・改定には、民間最終消費支出を基礎とする水準均衡方式が採用され、今日まで継続している。 物価変動を考慮することは、水準均衡方式の本質に矛盾するので許されない。基準部会でも、平成25年検証によらない経済指標による基準改定につき、異論が噴出したこともあった。 しかし、デフレ調整は、基準部会に諮られることなくされたものであるという点で問題がある。 成25年検証によらない経済指標による基準改定につき、異論が噴出したこともあった。 しかし、デフレ調整は、基準部会に諮られることなくされたものであるという点で問題がある。 ゆがみ調整とデフレ調整とを併用することの問題 ゆがみ調整は、平成21年の全国消費実態調査の個票データを基礎として、生活扶助水準と第1・十分位の消費支出との比較検証を行ったものであり、上記個票データは、対象世帯の消費支出の実額が記載されたデータであるから、物価変動の影響を反映した統計値である。 ゆがみ調整において、物価変動の影響が反映された消費支出の統計値に 基づいて、基準額表レベルでの保護基準の調整が行われた。 そうすると、ゆがみ調整に加えて、物価の変動を考慮したデフレ調整を行うことは、物価変動を二重に評価したことになる。 イ被告らの主張ゆがみ調整及びデフレ調整は、次のとおり、いずれも内容に問題はなかっ たし、生活扶助基準改定において、専門家の検討結果を踏まえなかったからといって、手続上問題にはならない。 したがって、ゆがみ調整及びデフレ調整によって生活扶助基準を改定する本件改定について、厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用の違憲・違法はない。 ゆがみ調整a 内容面での問題について⒜ 平成25年報告書に依拠した点ゆがみ調整は、平成25年検証の結果を踏まえ、年齢階級別、世帯人員別、級地別の生活扶助基準額による指数と一般低所得世帯の消費 実態による指数とのかい離を是正するものである。 平成25年検証をみると、生活扶助水準と第1・十分位の消費支出を比 別、級地別の生活扶助基準額による指数と一般低所得世帯の消費 実態による指数とのかい離を是正するものである。 平成25年検証をみると、生活扶助水準と第1・十分位の消費支出を比較した点では、過去の検証でも一貫して、低所得世帯の消費実態に着目して行われてきたことから、第1・十分位を比較対象とすることは適切であり、その他サンプルの選別等にも問題はない。回帰分析 の方法の採用についても、決定係数の値がどの程度であれば実態と近 似したものとして妥当かについて一般的な基準は存在せず、平成25年検証の回帰分析における決定係数が統計的に誤りとはいえないし、原告らの主張の「回帰係数のt検定」に関する主張には統計的解釈を誤る面も含まれている。 結局のところ、平成25年報告書に依拠した点についての原告らの 主張は、統計的分析の不当性をいうものにすぎず、本件改定に係る厚生労働大臣の裁量権の範囲の逸脱・濫用を基礎づけるものではない。 ⒝ 2分の1処理を行った点2分の1処理は、ゆがみ調整ではなく、激変緩和措置の一環である。 すなわち、平成25年検証は、生活扶助基準の「展開のための指数」 について詳細な分析を行ったものであり、その手法は、透明性の高い合理的なものであったが、唯一のものではなく、特定のサンプル世帯に限定して分析する際にサンプル世帯が極めて少数になるという統計上の限界が指摘されていた。また、平成25年検証は、年齢階級別、世帯人員別、級地別の「展開のための指数」について検証を行ったも のであるが、その結果は、その影響が、世帯数の年齢、世帯人員、居住する地域の組合せによって様々であるというものであった。しかも、平成25年検証の結果を 開のための指数」について検証を行ったも のであるが、その結果は、その影響が、世帯数の年齢、世帯人員、居住する地域の組合せによって様々であるというものであった。しかも、平成25年検証の結果をそのまま反映させた場合、子どものいる世帯の減額率が大きくなることが予想された。 2分の1処理は、貧困の世代間連鎖を防ぐなどの観点を実現しつつ、 平成25年検証の結果を、増額幅か減額幅かを問わず公平に反映し、被保護世帯への影響を一定程度に抑えるためにされ、「生活扶助基準の展開部分の適正化」というゆがみ調整の本質的部分を改変しないように配慮して、激変緩和措置として行ったものである。 b 手続面での問題について 2分の1処理は、上記aのとおり、厚生労働大臣が激変緩和措置の一 環として行ったものであり、基準部会に諮らなかったことに問題はない。 デフレ調整デフレ調整は、平成19年報告書以降、世界金融危機前後の経済状況等に鑑みて生活扶助基準の見直しが見送られたため、賃金、物価及び家計消費がいずれも継続的に下落するという経済動向が生活扶助基準に反映さ れなかった結果、被保護世帯の可処分所得が相対的、実質的に増加したと評価できる状態となったことに鑑み、被保護世帯と一般国民との均衡の崩壊(生活保護基準の水準が実質的に高い状態)を是正するために行ったものであり、次のとおり、内容面及び手続面に問題はない。 a 内容面での問題について ⒜ 生活扶助相当CPIは、上記の均衡崩壊の是正を目的として、消費者物価指数を活用した上、物価の長期的な推移を見ることを目的とした消費者物価指数との差異及び生活扶助において補足され得る品目は何かといった 活扶助相当CPIは、上記の均衡崩壊の是正を目的として、消費者物価指数を活用した上、物価の長期的な推移を見ることを目的とした消費者物価指数との差異及び生活扶助において補足され得る品目は何かといった点を反映すべく、生活扶助に対応する品目に限定するなどの修正を行ったものである。 ⒝ 生活扶助相当CPIの比較年度を平成20年を起点としたのは、生活扶助基準が、平成19年度報告書において一般低所得者世帯の消費実態に比して高いとされた後も据え置かれ続け、上記のとおり被保護世帯と一般国民との均衡の崩壊が生じたためであり、平成23年を終点としたのは、最新の総務省CPIのデータが同年のものだったから である。 また、生活扶助相当CPIは、平成20年及び平成23年のそれぞれの物価変動を正確に把握するため、直近の消費者物価指数のデータである平成22年基準系列の指数及びウエイトで加重平均して算出したものである。 ⒞ 生活扶助相当CPIの変動率は、生活扶助基準改定における考慮要 素にとどまり、唯一絶対のものではなく、恣意的な判断が介在しないという合理性や国民への説明可能性を考慮して設定すべきものである。このことは、平成25年報告書でも、生活扶助基準の見直しを検討する際には、他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合には、その根拠を明確に示すよう指摘されていることにも沿 うものである。 b 手続面での問題について厚生労働大臣は、生活扶助基準改定に際し、専門機関に諮問し、その意見を求める法令上の義務はない。基準部会が設置されたのは、生活扶助基準の定期的な評価及び検証のためであって、その評価及び検証は、 厚生労働大臣による生活扶助基 に際し、専門機関に諮問し、その意見を求める法令上の義務はない。基準部会が設置されたのは、生活扶助基準の定期的な評価及び検証のためであって、その評価及び検証は、 厚生労働大臣による生活扶助基準改定における専門的知見を提供するにとどまるものである。 加えて、被告国は、平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法の附則2条1号の「生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化、保護を受けている世帯に属する者の就労の促進その他の必要な見直しを早 急に行うこと」により、生活扶助基準について必要な見直しを早急に行うことが求められたが、平成25年度予算案にこの点の見直しを盛り込むには、基準部会に諮る十分な時間的余裕がなかった。 上記のいずれの点からしても、デフレ調整を基準部会に諮らなかったことに問題はない。 ゆがみ調整とデフレ調整とを併用することの問題についてゆがみ調整は、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態とを指数を用いて相対比較することにより判明したかい離を調整するにとどまり、生活扶助基準額の絶対水準を適切な水準に調整するものではない。 前記のとおり、生活扶助基準がデフレ傾向の中で据え置かれたことで、 被保護世帯における可処分所得の実質的増加分につき、デフレ調整を行 うことによって、被保護世帯と一般国民との均衡の崩壊を是正すべく、生活扶助基準額の絶対水準の調整を併せて行うことが必要であった。したがって、ゆがみ調整に加えて、物価の変動を考慮したデフレ調整を行ったことに問題はない。 ⑵ 争点⑵(本件各保護変更決定に理由付記の違法があるか。)について ア原告らの主張本件処分対象者に送付された生活保護変更通知書に レ調整を行ったことに問題はない。 ⑵ 争点⑵(本件各保護変更決定に理由付記の違法があるか。)について ア原告らの主張本件処分対象者に送付された生活保護変更通知書には、概ね「基準改定」としか記載されておらず、これでは、理由の付記がないのと同様、あるいは、著しく不十分であるから、法25条2項、法24条4項、行政手続法14条1項、同条3項が要求する処分理由提示義務に違反している。 イ被告らの主張行政処分に理由を付記することが要求されているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を処分対象者に知らせて不服申立てに便宜を与えるためである。 本件処分対象者に送付された生活保護変更通知書には、「基準改定」、「基 準改定により扶助額変更する」と記載されているが、それより前に、本件改定が官報で一般に周知され、本件各保護変更決定が本件改定に従った処分であるから、処分行政庁による恣意が生じることはないし、上記通知書と過去の通知書の対比により本件改定で生活扶助支給額が減額されたことを理解でき、本件処分対象者による不服申立ての便宜を損なうものではないから、 処分理由提示義務に反していない。 ⑶ 争点⑶(本件改定における厚生労働大臣の国家賠償法上の違法及び故意または過失の有無並びに本件処分対象者の損害)についてア原告らの主張厚生労働大臣は、裁量権を逸脱・濫用して本件改定を行い、本件処分対象 者に給付する生活扶助基準を「健康で文化的な最低限度の生活」を下回る額 に引き下げたのであり、このことは、厚生労働大臣が職務上要求される注意義務を尽くさなかったことになる。 厚生労働大臣は、本 基準を「健康で文化的な最低限度の生活」を下回る額 に引き下げたのであり、このことは、厚生労働大臣が職務上要求される注意義務を尽くさなかったことになる。 厚生労働大臣は、本件改定を行う際に、本件改定の内容面及び手続面に関する違憲性・違法性を認識していたから、厚生労働大臣につき、上記注意義務違反に故意・過失があったことは明らかである。 そして、本件処分対象者は、被告国による違憲・違法な本件改定に基づき、本件各保護変更決定を受け、甚大な精神的苦痛を被った。その精神的苦痛を慰謝する慰謝料は、各自につき5万円とすべきである。 イ被告らの主張国家賠償法1条1項の違法は、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を 尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認められるような事情がある場合に限り、認められるべきである。 前記⑴イのとおり、本件改定について、厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用がないから、厚生労働大臣に原告ら主張の注意義務違反はなかった。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実並びに後掲の証拠(枝番のあるもののうち、枝番の掲記のないものは枝番も含む。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 水準均衡方式の採用(昭和58年意見具申の内容)昭和59年以降の生活扶助基準の改定の基礎となった昭和58年意見具申 の概要は、次のとおりである。 ア生活扶助基準の評価総理府家計調査を所得階層別に詳細に分析した結果、現在の生活扶助基準は一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているとの所見を得た。しかしながら、国民の生活水準は今後も向上すると見込まれるので、 生活保護世帯及び低所得世帯の生 果、現在の生活扶助基準は一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているとの所見を得た。しかしながら、国民の生活水準は今後も向上すると見込まれるので、 生活保護世帯及び低所得世帯の生活実態を常時把握しておくことはもちろ んのこと、生活扶助基準の妥当性についての検証を定期的に行う必要がある。 イ生活扶助基準改定方式 生活保護において保障すべき最低生活の水準は、一般国民における消費水準との比較における相対的なものとして設定すべきであり、生活扶助基準の改定に当たっては、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏ま えると同時に、前年度までの一般国民の消費水準との調整が図られるよう適切な措置をとることが必要である。 また、当該年度に予想される国民の消費動向に対応する見地から、政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当である。 なお、賃金や物価は、そのまま消費水準を示すものではないので、その 伸びは、参考資料にとどめるべきである。 ⑵ 基準部会設置までの保護基準の検証・改定等ア平成16年報告書(甲6、乙5、乙8の3、乙13、14) 専門委員会は、平成16年報告書に先立ち、平成15年12月16日、「生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ」を公表した。 そこでは、生活扶助基準の評価について、生活保護において保障すべき最低限度の生活水準は、一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであり、具体的には、第1・十分位の消費水準に着目することが適当であるとされ、第1・十分位の消費水準と生活扶助基準額との比較が行われた。また、生活扶助基準の改定方式については、昭和59 年度以降、当 具体的には、第1・十分位の消費水準に着目することが適当であるとされ、第1・十分位の消費水準と生活扶助基準額との比較が行われた。また、生活扶助基準の改定方式については、昭和59 年度以降、当該年度に想定される一般国民の消費動向に対応するよう、毎年度の政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びを基礎とする水準均衡方式によってきたが、経済情勢が水準均衡方式を採用した当時と異なることから、例えば、5年間に1度の頻度で生活扶助基準の水準について定期的な検証を行うことが必要であり、定期的な検証を行うまでの毎年の改定 については、近年、民間最終消費支出の伸びの見通しがプラス、実績がマ イナスとなるなど安定しておらず、実績の確定も遅いため、改定の指標のあり方についても検討が必要であるとされ、この場合、国民にとって分かりやすいものとすることが必要なので、例えば年金の改定と同じように消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることなども考えられ、急激な経済変動があった場合に機械的に改定率を設定するのではなく、 最低生活水準確保の見地から別途対応することが必要であるなどとされた。 専門委員会は、平成16年12月15日、平成16年報告書を取りまとめ、公表した。そこでの評価・検証の内容は、今後、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に 見極めるため、全国消費実態調査等を基に5年に1度の頻度で検証を行う必要があり、調査手法及び評価方法についても専門家の知見を踏まえることが妥当であるというものであり(前提事実⑶ア)、その具体的な内容は、次のとおりである。 a 生活扶助基準の設定及び算出方法 生活扶助基準は、3人世帯を基軸としており、ま 当であるというものであり(前提事実⑶ア)、その具体的な内容は、次のとおりである。 a 生活扶助基準の設定及び算出方法 生活扶助基準は、3人世帯を基軸としており、また、算定については、世帯人員数分を単純に足し上げて算出される第1類費(個人消費部分)と、世帯規模の経済性、いわゆるスケールメリットを考慮して世帯人員数に応じて設定されている第2類費(世帯共同消費部分)とを合算する仕組みとされているため、世帯人員別にみると、必ずしも一般低所得世 帯の消費実態を反映したものとなっていないため、特に次の点について改善が図られるよう、設定及び算定方法について見直しを検討する必要があるとされた。 ⒜ 多人数世帯基準の是正かねてより、生活扶助基準は多人数になるほど割高になるとの指摘 がされているが、これは人員が増すにつれ第1類費の比重が高くなり、 スケールメリット効果が薄れるためである。このため、第2類費の構成割合及び多人数世帯の換算率に関する見直しのほか、世帯規模の経済性を高めるような設定等について検討する必要がある。 ⒝ 単身世帯基準の設定単身世帯の生活扶助基準についても、必ずしも一般低所得世帯の消 費実態を反映したものとなっていない。また、被保護世帯の7割は単身世帯が占めている上、近年、高齢化の進展や扶養意識の変化に伴って高齢単身世帯の増加が顕著となっており、今後も更にその傾向が進むと見込まれる。これらの事情に鑑み、単身世帯については、一般低所得世帯との均衡を踏まえて、別途の生活扶助基準を設定することに ついて検討することが必要である。 ⒞ 第1類費の年齢別設定の見直し人工栄養費の在 いては、一般低所得世帯との均衡を踏まえて、別途の生活扶助基準を設定することに ついて検討することが必要である。 ⒞ 第1類費の年齢別設定の見直し人工栄養費の在り方も含めた0歳児の第1類費や、第1類費の年齢区分の幅の拡大等について見直しが必要である。 b 級地 現行の級地制度については昭和62年度から最大較差22.5%、6区分制とされているが、現在の一般世帯の生活扶助相当支出額をみると地域差が縮小する傾向が認められたところである。このため、市町村合併の動向にも配慮しつつ、さらに今後詳細なデータによる検証を行った上、級地制度全般について見直しを検討することが必要であるとされた。 c その他上記の定期的な評価を行う際には、今回行われた基準の見直しに係る事項についても評価の対象とし、専門家による委員会等において詳細な分析や検証を行い、被保護世帯の生活への影響等も十分調査の上、必要な見直しを検討することが求められる。 d 制度の実施体制(財源の確保) 生活保護制度は国が国民の最低生活を保障する制度である。このため、いかなる突発的な事情や経済的・社会的環境の変化に際しても、財政事情等によって給付水準や保護の設定・運用のばらつきを生じさせることなく、憲法上保障された生存権を保障する機能を果たし、社会的不安定が生じることを防ぐ必要がある。 イ平成16年報告書後の状況生活扶助基準は、平成17年度から平成19年度まで、民間最終消費支出の伸び率を基礎とし、一般国民の消費水準との調整を行った結果、据え置かれることとなった(乙82~84)。 他方、平成16年報告書に 準は、平成17年度から平成19年度まで、民間最終消費支出の伸び率を基礎とし、一般国民の消費水準との調整を行った結果、据え置かれることとなった(乙82~84)。 他方、平成16年報告書において生活扶助基準の定期的な検証の必要性が 指摘されていた上、平成18年7月には、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」として、生活扶助基準について、一般低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直しや級地の見直しを行う旨閣議決定された。この中で、検討会が設置され、平成16年の全国消費実態調査に基づき、生活扶助基準の全体水準及び級地別基準等について評価・検証を行い、平成20年度 予算編成を視野に入れて結論が得られるよう検討することとされた。(乙15)ウ平成19年報告書(甲7、乙6) 検討会においては、平成16年報告書において提言された定期的な検証のほか、全国消費実態調査の結果を用いて、①水準の妥当性(生活扶助基 準の水準と、保護を受給していない低所得世帯における消費実態との均衡が適切に図られているかどうか)、②体系の妥当性(年齢階級別に表示された第1類費(個人消費部分)と世帯人員別に表示された第2類費(世帯共同消費部分)の合算によって算出される生活扶助基準額が消費実態を反映しているかどうか)、③地域差の妥当性(級地による基準額の較差(最 大22.5%)が地域間における生活水準の差を反映しているかどうか) などを主な検討項目として、評価、検証が行われた。このうち、①の水準の妥当性に関する評価、検証に関しては、勤労3人世帯の第1・十分位の消費水準と生活扶助基準額を比較して均衡が図られているかの検討と、単身世帯の第1・十分位の消費水準と生活扶助基準額を比較して均衡が図られているか る評価、検証に関しては、勤労3人世帯の第1・十分位の消費水準と生活扶助基準額を比較して均衡が図られているかの検討と、単身世帯の第1・十分位の消費水準と生活扶助基準額を比較して均衡が図られているかの検討が行われた。 検討会は、平成19年11月30日、同年10月19日から5回にわたる検討結果として、平成19年報告書を取りまとめ、公表した。その概要は、次のとおりである。 a 生活扶助基準の水準生活扶助基準の設定に当たっては、水準均衡方式が採用されているこ とから、その水準は、国民の消費実態との関係、あるいは、本人の過去の消費水準との関係で相対的に決まるものと認識されている。したがって、生活扶助基準の水準に関する評価・検証に当たっては、これらの点を総合的に見て妥当な水準となっているかという観点から行う必要がある。 生活扶助基準額は、これまで第1・十分位の消費水準と比較することが適当であるとされてきたが、①第1・十分位の消費水準が平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達していること、②第1・十分位に属する世帯における必需的な耐久消費財の普及状況は、平均的な世帯と比べて大きな差がなく、また、必需的な消費品目の購入頻度は、平均的 な世帯と比較しても概ね遜色ない状況にあることから、今回、これを変更する理由は特段ないと考える(ただし、これまで比較の対象としてきた夫婦子1人世帯の第1・十分位の消費水準は、第3・五分位の7割に達しているが、単身世帯(60歳以上)については、その割合が5割にとどまっている点に留意する必要がある。)。なお、これまでの給付水準 との比較も考慮する必要がある。 b 生活扶助基準の体系生活扶助 の割合が5割にとどまっている点に留意する必要がある。)。なお、これまでの給付水準 との比較も考慮する必要がある。 b 生活扶助基準の体系生活扶助基準の体系に関する評価・検証に当たっては、世帯構成等が異なる生活保護受給者の間において実質的な給付水準の均衡が図られる体系としていくべきとの観点から行い、その上で、必要な見直しを行っていくことが必要である。 世帯人員別にみると、世帯人員4人以上の多人数世帯に有利であり、世帯人員が少ない世帯に不利になっている実態がみられ、年齢別にみると、60歳台の生活扶助基準額及び生活扶助相当支出額をそれぞれ1としたときの比率は、生活扶助基準額は20~39歳及び40~59歳では相対的にやや低めである一方、70歳以上では相対的にやや高めであ るなど、消費実態からややかい離している。 c 生活扶助基準の地域差現行の級地制度における地域差を設定した当時(昭和59年)の消費実態と直近(平成16年)の消費実態を比較すると、地域間の消費水準の差が縮小している傾向がみられる。 エ平成19年報告書後の状況生活扶助基準は、原油価格の高騰が消費に与える影響等を見極めるため、平成20年度には据え置かれ、また、同年9月以降の世界的な金融危機(リーマンショック)が実体経済に深刻な影響を及ぼしており、国民の将来不安が高まっている状況にあると考えられるなどとして、平成21年度も据え置 かれ、さらに、完全失業率が高水準で推移するなど厳しい経済・雇用状況を踏まえ、国民生活の安心が確保されるべき状況にあることに配慮して、平成22年度も据え置かれた(甲213~217、乙11、15、16、81、85~89) 率が高水準で推移するなど厳しい経済・雇用状況を踏まえ、国民生活の安心が確保されるべき状況にあることに配慮して、平成22年度も据え置かれた(甲213~217、乙11、15、16、81、85~89)。 他方で、このような社会経済情勢を背景として、生活保護受給者数も急激 に増加し、平成23年7月には過去最高の205万人となり、その後も引き 続き増加していった。 このような中、平成23年2月、学識経験者による定期的な保護基準の専門的かつ客観的な評価、検証を行うことを目的として、社会保障審議会の下に常設部会として生活保護基準部会(基準部会)が設置された。また、平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法の附則2条1号には、政府は、 生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化等の必要な見直しを早急に行うことが明記された。(甲9、18、乙7、86~89)⑶ 基準部会による平成25年検証その他の検討状況(甲9、乙7)ア基準部会は、平成16年報告書及び平成19年報告書を踏まえ、5年に1度実施される全国消費実態調査のデータ等を用いて、生活扶助基準と一般低 所得世帯の消費実態の均衡が図られているかにつき専門的かつ客観的に評価・検証を行うこととし、平成23年4月19日から平成25年1月16日まで12回、審議を実施した。 その際、第1・十分位に属する世帯の消費実態と同世帯が現行の生活扶助基準により生活扶助を受給した場合の基準額を一部統計的分析手法である 回帰分析方式を用いて比較するという検討方針が示された。 (以上につき、甲72~83、乙21~25、72)イ平成25年1月16日に開催された第12回基準部会において、厚生労働省社会・援護局保護課から報告書案が いう検討方針が示された。 (以上につき、甲72~83、乙21~25、72)イ平成25年1月16日に開催された第12回基準部会において、厚生労働省社会・援護局保護課から報告書案が示され、その中には、「厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には、本報告書の評価・検証の結果 を考慮した上で、他に合理的説明が可能な経済指標などがあれば、それらについても根拠を明確にして改定されたい」、「合理的な説明がつく要素については、それを勘案することは一つの考え方である。」という記載があり、これにつき、複数の委員から質問や疑問があった。同課課長は、何をもって合理的かということには様々な考え方がある中で、例えば政府が発表する経済指 標とか誰が見ても数字として固まっているものを加味することとか、消費者 物価指数や賃金の動向等が考え得る対象となるなどといった説明をした。これに対し、基準部会の委員から、基準部会においては、年齢、人員及び級地という3要素しか議論しておらず、消費者物価指数や賃金の動向については何も議論していないことを報告書において明確にしてほしい、全国一律の物価指数を当てはめるのは非常に慎重であるべきである、基準部会では物価の 状況については検討していないし、議論していないことを「改定されたい」という強い文言とすることはできない、今回の手法の特徴を混乱させるような書き方はなるべくしないでいただきたい、部会で判断したことではないことを明確にしていただきたいなどといった異論や難色を示す発言がされた。 そのため、上記記載について、厚生労働省において持ち帰って改めて検討さ れることとなった。(甲83)ウ他方、厚生労働省社会・援護局保護課から内閣官房副長官に対し、平成24年12月、 そのため、上記記載について、厚生労働省において持ち帰って改めて検討さ れることとなった。(甲83)ウ他方、厚生労働省社会・援護局保護課から内閣官房副長官に対し、平成24年12月、「生活保護制度の見直しについて」と題する書面が示された。 そこには、生活保護基準の見直しとして、①年齢・世帯人員・地域差による影響の調整のほか、②平成20年の見直し以降の物価の動向の勘案、③必 要な激変緩和措置の実施を、平成25年度予算編成過程で実施することが記載されていた。 また、「生活扶助基準額の見直しの考え方」の欄では、上記②について、平成20年以降、生活扶助基準額が見直されていないのに、デフレ傾向が続いているため、実質的な購買力を維持しつつ、客観的な経済指標である物価を 勘案して基準額の見直しを行うこと、平成20年度以降の基準を据え置くとの政府判断を基に、物価動向を勘案する起点を平成20年とすること、上記③について、見直しの影響を一定程度に抑える観点から、現行基準からの増減幅は、過去の類例等を参考に、±10%を限度とすること及び平成25年度から3年間をかけて段階的に実施することが記載されていたが、2分の1 処理に関する記載はなかった。 さらに、「世帯類型ごとの基準額」の欄では、年齢・世帯人員・地域差による影響の調整を2分の1とした場合(2分の1処理)の各世帯ごとの基準額が明示されており、「生活保護基準見直しによる財政効果」の欄では「平成25年度の生活保護基準本体の見直しとして200億円となり、加算等や期末一時扶助見直しも含めた3年間の財政効果は847億円と見込まれる旨記 載されるとともに、「生活扶助基準の見直しの施行時期」の欄では、システム改修、地方自治体への周知 00億円となり、加算等や期末一時扶助見直しも含めた3年間の財政効果は847億円と見込まれる旨記 載されるとともに、「生活扶助基準の見直しの施行時期」の欄では、システム改修、地方自治体への周知徹底に要する期間等を見極める必要があるとしつつ、施行が遅れると平成25年度の財政効果が縮減されると記載されていた。 その上で、「今後のスケジュール案」の欄には、1月18日に基準部会で報告書を取りまとめ、同月23日に社会保障審議会特別部会で報告書を取りま とめること、具体的な生活扶助基準額の見直しについては、基準部会の報告書を考慮しつつ、予算編成過程で政府として判断することとし、同月末に平成25年度政府予算案を閣議決定するとの見通しが記載されていた。 (以上につき甲117の3、甲140、141)⑷ 平成25年報告書(甲9、乙7) 基準部会は、平成25年1月18日、平成25年報告書を取りまとめ、公表した。その概要は、次のとおりである。 なお、平成25年1月16日に開催された第12回基準部会における議論状況(上記⑶イ)を踏まえ、同部会で示された案の一部が修正された(乙25。 後記エd⒝)。 ア基準部会の役割と検証概要 基準部会の役割等基準部会の役割は、平成16年報告書及び平成19年報告書に引き続き、学識経験者による専門的かつ客観的な検証を行うために設置されたものであり、平成21年全国消費実態調査の特別集計等のデータを用いて、国 民の消費動向、特に一般低所得世帯の生活実態を勘案しながら、生活扶助 基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否か等について、検証を行うこととし、上記各報告書での指摘を踏まえ、年齢階級 低所得世帯の生活実態を勘案しながら、生活扶助 基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否か等について、検証を行うこととし、上記各報告書での指摘を踏まえ、年齢階級別、世帯人員別、級地別に基準額と消費実態のかい離を詳細に分析し、様々な世帯構成に展開するための指数について検証を行った。 検証方針と検証概要 a 平成25年検証においては、生活保護において保障すべき健康で文化的な最低限度の生活の水準は、一般国民の生活水準との関連においてとらえられるべき相対的なものとされてきたことから、生活扶助基準と対比する一般低所得世帯として、第1・十分位を設定した。 その上で、様々な世帯構成の基準額を算出する際に基本となる年齢、 世帯人員及び地域別の基準額が第1・十分位の消費実態を十分反映しているかについてより詳細な検証を行うこととした。その際、仮に第1・十分位の全て世帯が生活保護を受給した場合の1世帯当たりの平均受給額が不変となるようにして、年齢、世帯人員体系及び級地の基準額の水準への影響を評価する方法を採用した。 b 平成25年検証では、一部統計的分析手法である回帰分析を採用した。 その理由は、①平成19年報告書では、各年齢階級の単身世帯のデータを用いて各年齢階級別の平均消費水準を分析したが、全国消費実態調査の調査客体にはそもそも10代以下の単身世帯がほとんどいないため、10代以下の消費を正確に計測できないという限界があったという点 を考慮したこと、②平成25年検証の結果の妥当性を補強するため、回帰分析を用いた結果と概ね遜色がないかどうかを確認することとしたことにある。 イ検証に用いた統計データ平成25年検証では、国民の消 成25年検証の結果の妥当性を補強するため、回帰分析を用いた結果と概ね遜色がないかどうかを確認することとしたことにある。 イ検証に用いた統計データ平成25年検証では、国民の消費実態を世帯構成別に細かく分けて分析す る必要があるため、平成21年全国消費実態調査の個票データを用いた。 平成25年検証は、様々な世帯構成に対する基準の展開の妥当性を指数によって把握しようとするものである。この指数は、第1・十分位の世帯の生活扶助相当支出を用いて算出した。第1・十分位の世帯を用いた理由は、次のとおりである。 生活扶助基準を国民の健康で文化的な最低限度の生活水準として考え た場合、指数を全分位の所得階層(全世帯)あるいは中位所得階層等から算出することも可能だが、これまでの検証に倣い、生活保護受給世帯と隣接した一般低所得世帯の消費実態を用いることが平成25年検証では現実的であると判断した。 第1・十分位の平均消費水準が、中位所得階層の約6割に達している。 国民の過半数が必要であると考えている必需的な耐久消費財について、第1・十分位に属する世帯における普及状況は、中位所得階層と比べて概ね遜色なく充足されている状況にある。 全所得階層における年間収入総額に占める第1・十分位の年間収入総額の構成割合はやや減少傾向ではあるものの、高所得階層を除くその他の十 分位の傾向をみても等しく減少しており、特に第1・十分位が減少しているわけではない。 OECDの国際的基準によれば、等価可処分所得(世帯の可処分所得をスケールメリットを考慮して世帯人員数の平方根で除したもの)の中位値(全データの真中の値)の半分に満たない世帯は相対的貧困層 OECDの国際的基準によれば、等価可処分所得(世帯の可処分所得をスケールメリットを考慮して世帯人員数の平方根で除したもの)の中位値(全データの真中の値)の半分に満たない世帯は相対的貧困層にあるとさ れるが、平成25年検証で用いた平成21年全国消費実態調査での等価可処分所得の中位値は約270万円であり、第1・十分位の等価可処分所得の平均は92万円、最大では135万円となっており、これは第1・十分位に属する世帯の大部分はOECDの基準では相対的貧困線以下にあることを示している。 分散分析等の統計的手法により検証したところ、各十分位間のうち、第 1・十分位と第2・十分位との間において消費が大きく変化しており、他の十分位の世帯に比べて消費の動向が大きく異なると考えられる。 ウ検証手法 年齢階級別の基準額の水準(年齢・世帯人員)a 年齢階級別の基準額の水準 年齢階級別に設定されている生活扶助基準の第1類費について、異なる年齢階級間の比率(指数)が、消費実態と比べてどれほどのかい離があるかを検証した。その際、平成19年報告書には、全国消費実態調査の調査客体に10代以下の単身世帯がほとんどいないため、10代以下の消費を正確に計測できないという限界があったことから、平成25年 検証では10代以下の者がいる複数人世帯のデータも用いて10代以下の者も含めた各年齢階級の消費水準を計測できるよう統計的分析手法である回帰分析を採用した(なお、回帰分析とは、ある結果Y(被説明変数)に対して原因X(説明変数)が与える影響を統計的に測定する分析の手法である(乙72)。)。 分析に際しては、スケールメリットが最大に働く場合(単純に世 ある結果Y(被説明変数)に対して原因X(説明変数)が与える影響を統計的に測定する分析の手法である(乙72)。)。 分析に際しては、スケールメリットが最大に働く場合(単純に世帯年収に着目)と最少に働く場合(1人当たりの世帯年収に着目)のそれぞれの想定に応じた2種類の第1・十分位を設定し、それぞれを用いて算出された指数の平均値を採用した。 b 世帯人員別の基準額の水準 平成25年検証では、第1類費相当支出及び第2類費相当支出ごとに、各世帯人員別の平均消費水準を指数化(単身世帯を1)し、現行の基準額を同様に指数化したものと比較した。 生活扶助基準の地域差平成25年検証では、平成19年報告書の考え方を用いて集計データよ り平均値を求め、各級地別に1人当たり生活扶助相当の平均消費水準を指 数化(1級地-1を1)したものと、現行の基準額を同様に指数化したものとを比較した。 エ検証結果と留意事項 検証結果a 年齢階級別(第1類費)の基準額の水準 0~2歳の生活扶助相当支出額を1としたときの各年齢階級別の指数は、生活扶助基準額では0~2歳が0.69、3~5歳が0.86、6~11歳が1.12、12~19歳が1.37、20~40歳が1. 31、41~59歳が1.26、60~69歳が1.19、70歳以上が1.06となっている。他方、生活扶助相当支出額では同じ順に、1. 00、1.03、1.06、1.10、1.12、1.23、1.28、1.08となっている。 このように、年齢階級別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると、各年齢階級間の指数にかい離 10、1.12、1.23、1.28、1.08となっている。 このように、年齢階級別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると、各年齢階級間の指数にかい離が認められた。 b 世帯人員別(第1類費及び第2類費)の基準額の水準第1類費の場合、単身世帯の生活扶助相当支出額を1としたときの各世帯人員別の指数は、生活扶助基準額では単身世帯が0.88、2人世帯が1.76、3人世帯が2.63、4人世帯が3.34、5人世帯が3.95となっている。他方、生活扶助相当支出額では同じ順に、1. 00、1.54、2.01、2.34、2.64となっている。 このように、第1類費における世帯人員別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると、世帯人員が増えるにつれてかい離が拡大する傾向が認められた。 同様に、第2類費の場合、単身世帯の生活扶助相当支出額を1とした ときの各世帯人員別の指数は、生活扶助基準額では単身世帯が1.06、 2人世帯が1.18、3人世帯が1.31、4人世帯が1.35、5人世帯が1.36となっている。他方、生活扶助相当支出額では同じ順に、1.00、1.34、1.67、1.75、1.93となっている。 このように、第2類費における世帯人員別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると、世帯人員が増える につれてかい離が拡大する傾向が認められた。 c 級地別の基準額の水準1級地-1の生活扶助相当支出額を1としたときの各級地別の指数は、生活扶助基準額では1級地-1が1.02、1級地-2が0.97、2級地-1が0.93、 c 級地別の基準額の水準1級地-1の生活扶助相当支出額を1としたときの各級地別の指数は、生活扶助基準額では1級地-1が1.02、1級地-2が0.97、2級地-1が0.93、2級地-2が0.88、3級地-1が0.84、 3級地-2が0.79となっている。他方、生活扶助相当支出額では同じ順に、1.00、0.96、0.90、0.90、0.87、0.84となっている。 このように、級地別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると、消費実態の地域差の方が小さくなってい る。 d 年齢・世帯人員・地域の影響を考慮した場合の水準⒜ 上記aからcまでの検証結果を踏まえ、年齢階級別、世帯人員別、級地別の指数を反映した場合の影響は、次のようになった。 例えば、現行の基準額(第1類費、第2類費、冬季加算、子どもが いる場合は児童養育加算、1人親世帯は母子加算を含む。)と検証結果を完全に反映した場合の平均値を個々の世帯構成ごとに見ると、夫婦と18歳未満の子1人世帯では、年齢による影響が現行の基準額に比べて-2.9%、世帯人員による影響が-5.8%、地域による影響が0.1%、これらを合計した影響が-8.5%となった。同様に、 夫婦と18歳未満の子2人世帯では順に-3.6%、-11.2%、 0.2%、計-14.2%となった。60歳以上の単身世帯では順に2.0%、2.7%、-0.2%、計4.5%となった。ともに60歳以上の高齢夫婦世帯では順に2.7%、-1.9%、0.7%、計1.6%となった。20~50代の若年単身世帯では順に-3.9%、2.8%、-0.4%、計-1.7%となった。母親と18歳未満の 子1人の母 齢夫婦世帯では順に2.7%、-1.9%、0.7%、計1.6%となった。20~50代の若年単身世帯では順に-3.9%、2.8%、-0.4%、計-1.7%となった。母親と18歳未満の 子1人の母子世帯では順に-4.3%、-1.2%、0.3%、計-5.2%となった。 このように、世帯員の年齢、世帯人数、居住する地域の組合せにより、各世帯への影響は様々である。 ⒝ 厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には、平成 25年報告書の評価・検証の結果を考慮し、その上で他に合理的説明が可能な経済指標など総合的に勘案する場合は、それらの根拠についても明確に示されたい。なお、その際には現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯への見直しが及ぼす影響についても慎重に配慮されたい。 検証結果に関する留意事項a 今回試みた検証手法は、平成19年報告書において指摘があった年齢階級別、世帯人員別、級地別に、生活扶助基準の展開と一般低所得世帯の消費実態の間にどの程度かい離が生じているかを詳細に分析したものである。これにより、個々の生活保護受給世帯を構成する世帯員の年 齢、世帯人員、居住する地域の様々な組合せによる生活扶助基準の妥当性について、よりきめ細やかな検証が行われたことになる。 b しかし、年齢、世帯人員の体系、居住する地域の組合せによる基準の展開の相違を消費実態に基づく指数に合わせたとしても、なお、その値と一般低所得世帯の消費実態との間には、世帯構成によって様々に異な る差が生じ得る。こうした差は、金銭的価値観や将来見込みなど、個々 人や個々の世帯により異なり、かつ、消費に影響を及ぼす極めて多様な要因により生ずると考えられる。 て様々に異な る差が生じ得る。こうした差は、金銭的価値観や将来見込みなど、個々 人や個々の世帯により異なり、かつ、消費に影響を及ぼす極めて多様な要因により生ずると考えられる。しかし、具体的にどのような要因がどの程度消費に影響を及ぼすかは現時点では明確に分析ができないこと、また、特定の世帯構成等に限定して分析する際にサンプルが極めて少数となるといった統計上の限界があることなどから、全ての要素について は分析・説明に至らなかった。 c 基準部会で採用した年齢、世帯人員、地域の影響を検証する手法についても委員による専門的議論の結果得られた透明性の高い一つの妥当な手法である一方、これまでの検証方法との継続性、整合性にも配慮したものであることから、これが唯一の手法ということでもない。さらに、 基準部会の議論においては、国際的な動向も踏まえた新たな最低基準についての探索的な研究成果の報告もあり、将来の基準の検証手法を開発していくことが求められる。今後、政府部内において具体的な基準の見直しを検討する際には、平成25年検証結果を考慮しつつも、同時に検証方法について一定の限界があることに留意する必要がある。 d 全所得階層における年間収入総額に占める各所得五分位及び十分位の年間収入総額の構成割合の推移をみると、中位所得階層及び第1・十分位の占める割合がともに減少傾向にあり、その動向に留意しつつ、これまで生活扶助基準検証の際参照されてきた一般低所得世帯の消費実態については、なお今後の検証が必要である。 とりわけ第1・十分位の者にとっては、全所得階層における年間収入総額に占める当該分位の年間収入総額の構成割合にわずかな減少があっても、その影響は相対的に大きいと考えられる 。 とりわけ第1・十分位の者にとっては、全所得階層における年間収入総額に占める当該分位の年間収入総額の構成割合にわずかな減少があっても、その影響は相対的に大きいと考えられることに留意すべきである。 また、現実には第1・十分位の階層には生活保護基準以下の所得水準 で生活している者も含まれることが想定される点についても留意が必 要である。 e 今般、生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には、現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯、とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある。 ⑸ 本件改定前後における厚生労働省社会・援護局保護課による説明等ア厚生労働省社会・援護局保護課は、平成25年1月27日、「生活扶助基準等の見直しについて」と題する書面を公表した(甲150)。その概要は、次のとおりである(別紙参照)。 生活扶助基準等の見直しの考え方と影響額 基準部会における検証結果を踏まえ、年齢・世帯人員・地域差による影響を調整し(財政効果90億円)、これに加えて、平成20年以降の物価動向を勘案(財政効果本体分510億円、加算分70億円)することが記載されるとともに、激変緩和措置(現行基準からの増減幅につき、過去の類例等を参考に、±10%になるように調整し、3年間をかけて段階的に 実施する。)をとる。 生活扶助基準等の見直しについて「生活扶助基準等の見直しの財政効果(マクロベース)」として、3年間で670億円程度(国費ベース)、6.5%程度の財政効果があり、また、期末一時扶助の見直しを行い、70億円程度(国費ベース)の財政効果が 助基準等の見直しの財政効果(マクロベース)」として、3年間で670億円程度(国費ベース)、6.5%程度の財政効果があり、また、期末一時扶助の見直しを行い、70億円程度(国費ベース)の財政効果が 見込まれる。「個々の世帯に着目した見直しの概要(ミクロベース)」として、物価の下落を勘案したデフレ調整については、受給者全員に影響するが、該当世帯の25%が5%ないし10%の減額、該当世帯の71%が0%ないし5%の減額、該当世帯の3%が0%ないし2%の増額となる。 生活扶助にかかる物価の動向について 生活扶助は、食費や水道光熱費といった基礎的な日常生活費を賄うもの である。このため、生活扶助に相当する消費品目のCPI(物価指数)をみる必要がある。具体的には、品目別の消費者物価指数のうち、生活扶助以外の他扶助で賄われる品目(家賃、教育費、医療費等)及び原則として生活扶助世帯には生じない品目(自動車関係費、NHK受信料等)を除いた品目を用いて生活扶助相当CPIを算出した。 その結果、平成20年の生活扶助CPI(104.5)から平成23年(99.5)で-4.78%であった。 平成20年からの物価を勘案することについて平成25年検証は、平成21年全国消費実態調査を用いて、年齢・世帯人員・級地ごとに、現行の基準額と一般低所得世帯(第1・十分位)の消 費実態を比較し、その歪みを検証したものである。 このため、平成25年検証の結果を反映したとしても、基準と一般低所得世帯との消費の年齢、世帯人員、級地によるかい離が調整されるのみであり、デフレ等による金額の絶対水準の調整がされるものではない。 また、物価を勘案した考え方は、平成19 基準と一般低所得世帯との消費の年齢、世帯人員、級地によるかい離が調整されるのみであり、デフレ等による金額の絶対水準の調整がされるものではない。 また、物価を勘案した考え方は、平成19年報告書を踏まえた上で、平 成20年度の基準額が定められ、以後もその基準額が据え置かれてきた経緯に鑑み、平成20年を基準としたものである。 イ平成25年度予算案は、平成25年1月29日、閣議決定された。 ウ厚生労働省社会・援護局保護課は、平成25年2月19日、全国厚生労働関係部局長会議を実施し、前記アと同旨の資料を配付し、同年3月11日、 社会・援護局関係主管課長会議を開催し、上記同様の資料を配付し、同年5月16日、都道府県知事、指定都市市長及び中核市市長に対し、上記同様の資料を添付した「生活扶助基準の見直しに伴い他制度に生じる影響について(通知)」と題する書面を発出し、同月20日、生活保護関係全国係長会議を開催し、上記同様の資料を配付した(甲3、乙17~19、64)。 エ厚生労働大臣は、平成25年5月16日付け厚生労働省告示第174号、 平成26年3月31日付け厚生労働省告示第136号及び平成27年5月16日付け厚生労働省告示第174号により生活扶助基準を改定した(本件改定)。 その内容は、前提事実⑸のとおりであり、平成25年報告書で指摘されたかい離に2分の1処理を加えるとともに(ゆがみ調整)、生活扶助相当CP Iが平成20年と平成23年との比較で-4.78%となっていることを考慮し(デフレ調整)、激変緩和措置をとるというものであった。 (以上につき甲1~3、11、甲117の3、甲150、乙17、18)生活扶助相当CPIは、本件改定の際に厚生労働 を考慮し(デフレ調整)、激変緩和措置をとるというものであった。 (以上につき甲1~3、11、甲117の3、甲150、乙17、18)生活扶助相当CPIは、本件改定の際に厚生労働省において考案されたものであり、平成20年及び平成23年のいずれにおいても平成22年のウエ イト(家計の消費支出全体の占める支出額割合)を採用し、総務省CPIにおいて5年に1度の改定の際に実施されている過去の指数を基準改定指数に換算する等の操作(新旧指数の接続)はされず、同操作を行った場合の下落率は、-4.78%より少ない-2.26%であった(甲94、99、125、199、207)。平成20年は、前後数年間と比較して物価高の時期 であり(甲109)、平成20年の生活扶助相当CPIにおける品目削除は、平成20年と平成23年とを比較するという政策上の目的で行われたものであった(甲94〔19頁~20頁〕)。 2 争点⑴(本件改定において厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱・濫用の違憲・違法があるか。)について ⑴ 判断枠組み法3条、8条により保障される最低限度の生活の具体的な内容は、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況との相関関係において判断決定されるべきものであり、これを保護基準において具体化するに当たっては、高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものであるから、生活 扶助基準を改定する際には、上記最低限度の生活の水準を維持することができ るか否かの判断において、厚生労働大臣に上記のとおり専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権があるといえる。生活扶助基準の改定により基準額を減額する改定は、改定前の基準額が支給されることを前提として生活設計を立てていた被保護者の生 大臣に上記のとおり専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権があるといえる。生活扶助基準の改定により基準額を減額する改定は、改定前の基準額が支給されることを前提として生活設計を立てていた被保護者の生活に多大な影響が生じることも想定し得ることから、厚生労働大臣は、生活扶助基準を改定するに当たっては、被保護者間の公平や国の財 政事情等の見地に基づく生活扶助基準の改定の必要性を踏まえつつ、その改定によって不利益を被る被保護者の生活への影響についても可及的に配慮するため、その減額改定の具体的な方法等について、激変緩和措置の要否等を含め、前記の専門技術的かつ政策的見地からの裁量権を有している。 そして、生活扶助基準の改定については、これまで各種の統計や専門家の作 成した報告書等に基づいて生活扶助基準と一般国民の消費実態との比較検討がされてきたという経緯がある(前提事実⑶、認定事実⑵、⑶)。 このことからすると、生活扶助基準の改定が違法と判断されるのは、上記経緯を踏まえ、最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等の観点ないし被保護者の生活への影響等の観点からみて、厚生労 働大臣の裁量権の逸脱・濫用があるといえる場合であり、そこにおける裁判所の審理においては、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等が審査されるべきである。 ⑵ ゆがみ調整の検討ア内容面での問題 平成25年報告書に依拠した点原告は、平成25年報告書につき、生活扶助基準と第1・十分位の消費支出を比較した点、比較対象に被保護世帯と考えられるサンプルを含めた点、回帰分析の方法を採用した点など種々の問題がある旨主張する(前記第2の5⑴アa⒜)。 、生活扶助基準と第1・十分位の消費支出を比較した点、比較対象に被保護世帯と考えられるサンプルを含めた点、回帰分析の方法を採用した点など種々の問題がある旨主張する(前記第2の5⑴アa⒜)。 しかし、基準部会は、平成16年報告書及び平成19年報告書を踏まえ、 5年に1度実施される全国消費実態調査のデータ等を用いて、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態の均衡が図られているかにつき専門的かつ客観的に評価検証を行うこととし、平成23年4月19日から平成25年1月16日まで12回、審議を実施しており、その際、第1・十分位に属する世帯の消費実態と同世帯が現行の生活扶助基準により生活扶助を 受給した場合の基準額を一部統計的分析手法である回帰分析方式を用いて比較するという検討方針を採用した(認定事実⑶ア)。その結果として、平成25年報告書は、上記検討方針を踏まえた検証方針と検証概要、検証に用いた統計データ、検証手法を示している(認定事実⑷ア~ウ)。その上で、検証結果に関する留意事項として、平成19年報告書において指摘 された生活扶助基準の展開と一般低所得世帯の消費実態の間におけるかい離につき詳細に分析したが、全ての要素について分析・説明に至らないなどといった限界も提示し、平成25年検証が専門的議論の結果得られた透明性の高い一つの妥当な手法である一方、これまでの検証方法との継続性、整合性にも配慮したものであることから、唯一の手法ではなく、一定 の限界があり、更なる検証が必要であることも明らかにしている(認定事実⑷エ)。 平成25年検証及び平成25年報告書の上記内容に照らすと、その内容は、統計的分析の一手法であって、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性におい 定事実⑷エ)。 平成25年検証及び平成25年報告書の上記内容に照らすと、その内容は、統計的分析の一手法であって、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性において明らかに誤っていると断じること はできない。原告の上記主張は、統計的分析の不当性をいうものであり、採用することはできない。 2分の1処理を行った点a 2分の1処理は、平成25年検証の結果を反映させる比率を、全ての被保護世帯について、一律に2分の1とするものである(前提事実⑸ア、 認定事実⑸エ)。 このことにより、基準部会が約1年9か月もの間12回にわたって検証を重ねて到達した平成25年報告書により指摘された生活扶助基準の水準と一般低所得世帯の消費実態とのかい離を解消させる効果が、2分の1にとどめられることになる。このことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性は見出せず、専門的知見との整合性もないとい うほかない。 b 被告らは、2分の1処理につき、貧困の世代間連鎖を防ぐなどの観点を実現しつつ、平成25年検証の結果を、増額幅か減額幅かを問わず公平に反映し、被保護世帯への影響を一定程度に抑えるため、「生活扶助基準の展開部分の適正化」というゆがみ調整の本質的部分を改変しない ように配慮して、激変緩和措置として行ったものである旨主張する(前記第2の5⑴イa⒝)。 しかし、平成24年12月に厚生労働省社会・援護局保護課から内閣官房副長官に対して提示された「生活保護制度の見直しについて」と題する書面の中で、2分の1処理は、「世帯類型ごとの基準額」の欄に記 載されていて、「生活扶助基準額の見直しの考え方」の欄の激変緩和措置の項目に て提示された「生活保護制度の見直しについて」と題する書面の中で、2分の1処理は、「世帯類型ごとの基準額」の欄に記 載されていて、「生活扶助基準額の見直しの考え方」の欄の激変緩和措置の項目には記載されていない(認定事実⑶ウ)。平成25年1月27日に上記保護課により公表された「生活扶助基準等の見直しについて」と題する書面等でも、2分の1処理は激変緩和措置として記載されておらず、その後作成された資料等でも同様である(認定事実⑸ア、ウ、エ)。 また、上記書面等からは、貧困の世代間連鎖の防止、被保護世帯間の公平、被保護世帯への影響抑制を目的として2分の1処理を行ったとの事情は見出せない。被告らの上記主張は採用できない。 イ手続面での問題2分の1処理が、被告国の内部において検討され、基準部会に諮られるこ となくされたものであることは、前記アbで説示したとおりである。 生活扶助基準の改定については、これまで各種の統計や専門家の作成した報告書等に基づいて生活扶助基準と一般国民の消費実態との比較検討がされてきたという経緯があること(前記⑴)に照らすと、2分の1処理を基準部会に諮らないまま行ったという点において、生活扶助基準改定の過程及び手続における過誤、欠落があったというほかない。 ウゆがみ調整の検討結果上記ア、イのとおりであるから、本件改定においてされたゆがみ調整は、内容面においても、手続面においても、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用があったといえる。 ⑶ デフレ調整の検討 ア内容面での問題 デフレ調整は、厚生労働省で考案した生活扶助相当CPIにつき、平成20年と平成23年とを比較した結果、下落率が-4.78%であると デフレ調整の検討 ア内容面での問題 デフレ調整は、厚生労働省で考案した生活扶助相当CPIにつき、平成20年と平成23年とを比較した結果、下落率が-4.78%であるとして、本件改定前の第1類費及び第2類費に、ゆがみ調整において乗ずる改定率に加え、一律に4.78%を減じるというものである(前提事実⑸イ、 認定事実⑸ア、ウ、エ)。 デフレ調整に関しては、厚生労働省社会・援護局保護課から内閣官房副長官に対して平成24年12月に示された「生活保護制度の見直しについて」と題する書面の中でも、「物価動向を勘案」、「起点を平成20年とすること」等が記載されるにとどまり(認定事実⑶ウ)、その後、上記保護 課が平成25年1月27日に「生活扶助基準等の見直しについて」と題する書面において、デフレ調整の内容を明らかにするまで、生活扶助相当CPIの考案過程や起点を平成20年とすることの検討過程は明らかではない(認定事実⑸ア)。結果的に、生活扶助相当CPIは、平成20年における費目削除が平成20年と平成23年とを比較するという政策上の 目的で行われ、過去の指数を基準改定指数に換算するという操作(新旧指 数の接続)もされないなど(認定事実⑸ア、エ)、統計等の客観的な数値等との合理的関連性を欠いたものであった。 また、生活扶助基準の改定については、昭和58年意見具申において、国民の消費動向に着目した水準均衡方式が採用され、賃金や物価については、そのまま消費水準を示すものではないので、その伸びは参考程度にと どめるべきであると指摘され、以後の生活扶助基準の検討において、平成16年報告書及び平成19年報告書では、水準均衡方式が採用され続けている(前提事実⑵イ、認定事実⑴、⑵ その伸びは参考程度にと どめるべきであると指摘され、以後の生活扶助基準の検討において、平成16年報告書及び平成19年報告書では、水準均衡方式が採用され続けている(前提事実⑵イ、認定事実⑴、⑵)。平成25年検証においても、第12回基準部会の場で、厚生労働省から消費者物価指数や賃金の動向を考慮するかのような説明がされた際、全国一律の物価指数を当てはめるのは非 常に慎重であるべきであるなど複数の異論等が出された(認定事実⑶イ)。 デフレ調整は、生活扶助基準の改定において物価変動を考慮したという点で、これまでの長年にわたる専門家の知見と整合しないものである。 以上の点からすると、デフレ調整は、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くというほかない。 被告らは、デフレ調整について、平成19年報告書以降における生活扶助基準の見直しの見送りにより、賃金、物価及び家計消費がいずれも継続的に下落するという経済動向が生活扶助基準に反映されなかった結果、被保護世帯の可処分所得が相対的、実質的に増加したと評価できる状態となったため、被保護世帯と一般国民との均衡の崩壊(生活保護基準の水準が 実質的に高い状態)を是正するために行ったものであり、上記是正を目的とする生活扶助相当CPIについては、生活扶助に対応する品目に限定するなどの修正を行い、生活扶助基準改定を見送った平成20年を起点とし、恣意的な判断が介在しないという合理性や国民への説明可能性を考慮して設定したものであって、その内容に問題はないなどと主張する(前記第 2の5⑴イa)。 しかし、厚生労働省社会・援護局保護課から内閣官房副長官に対して平成24年12月に示された「生活保護制度の見直しについ などと主張する(前記第 2の5⑴イa)。 しかし、厚生労働省社会・援護局保護課から内閣官房副長官に対して平成24年12月に示された「生活保護制度の見直しについて」と題する書面の中で、デフレ調整を行うに当たって考慮されているのは、実質的な購買力を維持することや財政効果等にとどまり(認定事実⑶ウ)、平成25年1月27日付け「生活扶助基準等の見直しについて」と題する書面にお いても、デフレ調整につき、冒頭各所に財政効果が示されていて、被保護世帯と一般国民との均衡の崩壊是正という目的は、全く触れられていない(認定事実⑸ア)。このような上記保護課の説明等からは、デフレ調整が被告ら主張の目的に沿ってされたとみることはできない。被告らの上記主張は採用できない。 イ手続面での問題 前記アで説示したとおり、生活扶助基準の改定について、昭和58年意見具申において、賃金や物価については参考程度にとどめるべきであると指摘されて以降、水準均衡方式が採用され、平成25年検証を行う基準部会でも、物価を考慮することに複数の異論等が出された。このような経 緯やデフレ調整が専門的知見と整合しないことからすると、基準部会に諮らないままデフレ調整を行ったことは生活扶助基準改定の過程及び手続における欠落があったというほかない。 被告らは、生活扶助基準改定に際し、専門機関に諮問して意見を求める法令上の義務はなく、基準部会が設置されたのは生活扶助基準の定期的な 評価及び検証のためであり、それらは生活扶助基準改定における専門的知見を提供するにとどまる上、平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法の附則2条1号の「生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化、保護を受けている世帯に属 それらは生活扶助基準改定における専門的知見を提供するにとどまる上、平成24年8月に成立した社会保障制度改革推進法の附則2条1号の「生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化、保護を受けている世帯に属する者の就労の促進その他の必要な見直しを早急に行うこと」により、生活扶助基準について必要な見直しを早急に行う ことが求められ、平成25年度予算案に見直しを盛り込むため、基準部会 に諮る十分な時間的余裕がなかった旨主張する(前記第2の5⑴イb)。 しかし、生活扶助基準の改定が違法か否かを判断する審理において、専門的知見との整合性を審査すべきことは、前記⑴で説示したとおりである。 専門機関に諮問してその意見を求めることが法令上義務付けられていないからといって、厚生労働大臣の判断における手続上の不合理性を否定す ることにはならず、基準部会による平成25年検証及び平成25年報告書を単なる専門的知見の提供にとどまるとの被告らの指摘は採用できない。 また、生活扶助基準の見直しを急いだのは、上記法附則2条1号の点(認定事実⑵エ)のほか、施行の遅れによる平成25年度の財政効果の縮減を懸念したことがうかがわれるが(認定事実⑶ウ)、いずれの点についても、 デフレ調整につき基準部会に諮らなかったことを正当化し得る事情とはいい難い。 ウデフレ調整の検討結果上記ア、イのとおりであるから、本件改定においてされたデフレ調整は、内容面においても、手続面においても、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用 があったといえる。 ⑷ 本争点についてのまとめ以上検討したところによると、本件改定におけるゆがみ調整及びデフレ調整には、それぞれ、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用があったといえるから、それらの併 。 ⑷ 本争点についてのまとめ以上検討したところによると、本件改定におけるゆがみ調整及びデフレ調整には、それぞれ、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・濫用があったといえるから、それらの併用の問題について判断するまでもなく、本件改定は、法3条、8条 2項に反し、違法である。 3 争点⑵(本件各保護変更決定に理由付記の違法があるか。)について原告らは、本件処分対象者に送付された生活保護変更通知書には、概ね「基準改定」としか記載されておらず、理由の付記がないのと同様、あるいは、著しく不十分である旨主張する(前記第2の5⑵ア)。 しかし、本件各保護変更決定は、告示済みの本件改定(前提事実⑸)に従って されるものであり、処分行政庁による恣意的な判断が介入するおそれはなく、上記通知書によって、保護基準の改定に従って給付額が減額となることは理解し得るといえる。 これらの点からすると、上記通知書の内容が、理由の付記がないのと同様か、著しく不十分で、処分行政庁の恣意を招き、本件処分対象者による不服申立てを 困難にするものとして違法であると評価することはできない。原告らの上記主張は採用できない。 4 争点⑶(本件改定における厚生労働大臣の国家賠償法上の違法及び故意または過失の有無並びに本件処分対象者の損害)について原告らは、厚生労働大臣による裁量権を逸脱・濫用してされた本件改定につき、 同大臣が職務上要求される注意義務を尽くさず、この点につき、故意又は過失があり、これにより、本件処分対象者が精神的苦痛を被った旨主張する(前記第2の5⑶ア)。 しかし、原告らが本件改定又はこれに基づく本件各保護変更決定により被る損害は、本件各保護変更決定の取消し又は取消判決の拘束力に 処分対象者が精神的苦痛を被った旨主張する(前記第2の5⑶ア)。 しかし、原告らが本件改定又はこれに基づく本件各保護変更決定により被る損害は、本件各保護変更決定の取消し又は取消判決の拘束力により回復される性質 のものであり、原告らが、本件各保護変更決定の取消によっては回復できない精神的苦痛を被っているとはいえない。 したがって、原告らの上記主張は採用できない。 第4 結論以上のとおりであるから、本件改定に基づき行われた本件各保護変更決定は取 り消されるべきであり、原告らの被告和歌山市に対する請求はいずれも理由があるから、これらを認容し、被告国に対する請求はいずれも理由がないから、これらを棄却する(原告らによる民事訴訟法157条1項の申立てについては、同申立てに係る被告らの防御の方法が訴訟の完結を遅延させることにはならないため、理由がないので却下することとする。)。 なお、原告Gは、令和元年12月7日に死亡しているところ(前提事実⑴)、保 護を受ける権利は一身専属の権利であり、被保護者の死亡によって当然に消滅し、相続の対象とはなり得ないと解される。したがって、原告Gの訴えのうち、被告和歌山市に対して処分取消しを求める部分は、同原告の死亡と同時に終了し、原告H及び原告Iは当該部分に係る訴えを承継しないので、この旨を主文1項において明らかにすることとする(原告Gの被告国に対する訴えは、原告Hの死亡に より原告Iが承継することになる。)。 よって、主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所民事部 裁判長裁判官 髙橋綾子 和歌山地方裁判所民事部 裁判長裁判官 髙橋綾子 裁判官賀来哲哉 裁判官森谷拓朗別紙処分一覧表原告処分日1審査請求日1処分日2審査請求日2処分日3審査請求日3原告A平成26年4月1日平成26年5月16日平成27年4月1日平成27年5月27日原告B平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告C平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告D平成25年8月1日平成25年9月17日平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告M原告E平成25年8月1日平成25年9月17日平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告F平成25年8月1日平成25年9月17日平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告G平成25年8月1日平成25年9月17日平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告J平成25年8月1日平成25年9月17日平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告K平成27年4月1日平成27年5月27日原告L平成27年4月1日平成27 月1日平成25年9月17日平成26年4月1日平成26年5月22日平成27年4月1日平成27年5月27日原告K平成27年4月1日平成27年5月27日原告L平成27年4月1日平成27年5月27日(平成26年12月24日付け訴え取下げのため、前後の審理に齟齬が生じないよう欠番とした)
▼ クリックして全文を表示