- 1 - 主文 被告人両名をそれぞれ禁錮2年6月に処する。 被告人両名に対し、この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは、令和4年9月21日午前9時10分頃、普通貨物自動車(以下「被告人A車両」という。)を運転し、札幌市a区bc条d丁目e番先の交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)を石狩市f方面から国道g号方面に向かい直進しようとしていたもの、被告人B(以下「被告人B」と表記する。)は、前記日時頃、普通乗用自動車(以下「被告人B車両」という。)を運転し、本件交差点をh方面からi方面に向かい直進しようとしていたものであるが、 1 被告人Aは、本件交差点の進路右側手前角に植え込みが設置されており、本件交差点は右方道路の見通しが困難であったのであるから、本件交差点の手前で徐行し、右方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、自己が優先道路を進行していると思い込み、本件交差点の手前で徐行せず、右方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しないまま時速約30キロメートルで進行した過失 2 被告人Bは、本件交差点の進路左側手前角に植え込みが設置されており、本件交差点は左方道路の見通しが困難であったのであるから、本件交差点の手前で徐行し、左方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しながら進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、自己の進路上に一時停止の標識が設置されていなかったことから交差道路に一時停止の標識が設置されていると思い込み、本件交差点の手前で徐行せず、左方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確 怠り、自己の進路上に一時停止の標識が設置されていなかったことから交差道路に一時停止の標識が設置されていると思い込み、本件交差点の手前で徐行せず、左方道路から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しないまま時速約30キロメートルで進 - 2 -行した過失の競合により、被告人Aにおいて、右方道路から進行してきた被告人B車両を右前方約6.7メートルの地点に認め、左転把の措置を講じたが間に合わず、被告人Bにおいて、左方道路から進行してきた被告人A車両を左前方約8.6メートルの地点に認め、急制動及び右転把の措置を講じたが間に合わず、被告人A車両右前部と被告人B車両左前部を衝突させ、その衝撃により、被告人A車両を進路左前方に逸走させ、さらに、被告人A車両が停止することなく本件交差点の東側歩道上に乗り上げるなどし、折からその歩道上をi方面からh方面に向かい歩行中のC(当時78歳)に同車両前部を衝突させてCを路上に転倒させた上、同車両でCをれき過し、よって、Cに多発外傷の傷害を負わせ、同日午前9時53分頃、札幌市a区j条k丁目所在のD病院において、Cを前記傷害により死亡させた。 (事実認定の補足説明)第1 被告人Bの弁護人の主張被告人Bの弁護人は、被告人両名による判示記載の過失により被告人A車両と被告人B車両が衝突したことは争わない一方、被害者が死亡したのは、その衝突後に被告人Aがハンドル・ブレーキ操作を誤り、さらに誤ってアクセルペダルを踏んで被害者をれき過したためであるから、被告人Bの過失行為と被害者の死亡との間には因果関係はないなどとして、被告人Bは無罪であると主張する。 第2 当裁判所の判断 1 認定事実被告人B車両のドライブレコーダーの映像(甲9)などの関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 (1)本件交差点は て、被告人Bは無罪であると主張する。 第2 当裁判所の判断 1 認定事実被告人B車両のドライブレコーダーの映像(甲9)などの関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 (1)本件交差点はh方面(南西方向)とi方面(北東方向)を結ぶ直線道路と石狩市f方面(北西方向)と国道g号方面(南東方向)を結ぶ直線道路が交差する信号機の設置されていない交差点である。上記各道路の幅員はいずれも5.1メートルで、両脇には縁石のある歩道が設置されている。また、本 - 3 -件交差点の西側角には高さ約2.4メートルの植え込みがあり、本件交差点の東側角などには住宅がある。 (2)被告人Aは、被告人A車両を運転し、本件交差点を石狩市f方面(北西方向)から国道g号方面(南東方向)に向かって直進しようとしており、被告人Bは、被告人B車両を運転し、本件交差点をh方面(南西方向)からi方面(北東方向)に向かって直進しようとしていた。上記の植え込みにより、被告人Aは本件交差点の右側の見通しが、被告人Bは本件交差点の左側の見通しが困難であり、被告人両名には判示の徐行等の義務があった。 (3)被告人両名は、判示の徐行等の義務を怠り、時速約30キロメートルで本件交差点に進入し、判示のとおり、本件交差点に進入してきた相被告人が運転する車両に気付いた。被告人Aは、ハンドルを左に切るとともに、ブレーキペダルを踏もうとし、被告人Bは、ハンドルを右に切るとともに急ブレーキをかけたが、被告人A車両の右前部と被告人B車両の左前部が衝突した。 衝突後、被告人A車両は進路左前方(東方向)に進行し、被告人B車両は衝突地点付近で進路右前方(東方向)に向けて停止した。 (4)被告人Aは、ブレーキペダルを踏んで停止しようとしたが、誤ってブレーキペダル付近の床を踏んだため、被告人A車 )に進行し、被告人B車両は衝突地点付近で進路右前方(東方向)に向けて停止した。 (4)被告人Aは、ブレーキペダルを踏んで停止しようとしたが、誤ってブレーキペダル付近の床を踏んだため、被告人A車両は停止することなく進路左前方(東方向)に進行を続け、本件交差点の東側歩道上に乗り上げた。被告人A車両は停止することなく左方向に進行を続けて歩道上をi方面(北東方向)に進行し、その歩道上をi方面(北東方向)からh方面(南西方向)に向かい歩行していた被害者に衝突して被害者を路上に転倒させると、歩道からi方面の道路を斜めに横切るよう(北方向)に進行し、被害者をれき過した。 その後被告人Aは、サイドブレーキをかけると、自分がブレーキペダルを踏んでいないことに気付き、右ハンドルを切るとともにブレーキペダルを踏み、被告人A車両は付近の路上にi方面(北東方面)に向けて停止した。 (5)被告人Bの弁護人は、前記ドライブレコーダーの映像によれば、被告人A - 4 -車両は前記歩道上に乗り上げたときには徐行程度まで減速しているのに、被害者をれき過したときには加速しているし、アクセルペダルを踏まなければ、徐行程度まで減速した被告人A車両が路上に転倒していた被害者をれき過することはできないから、被告人Aは誤ってアクセルペダルを踏んだと主張する。しかし、前記映像によれば、被告人B車両と衝突してから被害者をれき過するまでの被告人A車両の速度に概ね変化はなく、その速度に照らせば、アクセルペダルを踏まなくても路上に転倒していた被害者をれき過することは十分可能であったといえる。したがって、被告人Aがアクセルペダルを誤って踏んだ疑いはない。 2 検討(1)実行行為とおよそ関係のない事情によって発生した結果により被告人を処罰することを回避するという因果関係の機能 。したがって、被告人Aがアクセルペダルを誤って踏んだ疑いはない。 2 検討(1)実行行為とおよそ関係のない事情によって発生した結果により被告人を処罰することを回避するという因果関係の機能に照らすと、被告人Bの過失行為と被害者の死亡との因果関係の成否は、被害者の死亡という結果が被告人Bの過失行為に内在する危険が実現したことにより生じたといえるかという観点から検討するべきであり、かつ、それで足りるというべきである。被告人Bの弁護人は、被告人Bとの関係で因果関係が成立するためには、被告人Bが被害者の死亡の具体的な経過を予見できた可能性が必要である旨主張するが、上記に述べた因果関係の機能に照らすと、過失行為に内在する危険が実現して結果が発生したといえるにもかかわらず、行為者に具体的な経過の予見可能性がないことを理由に因果関係を否定するのは、処罰範囲を不当に狭くするもので妥当でなく、採用できない。 (2)被害者が死亡した経過によれば、被害者が死亡した直接の原因は、被告人A車両が停止することなく歩道上に乗り上げ、歩道上にいた被害者と衝突し、被害者をれき過したことにあり、被告人Aが適切にハンドル・ブレーキを操作していれば、被害者との衝突やれき過を回避できた可能性がある。しかし、被告人A車両を進路左前方に逸走させ、適切にハンドル・ブレーキ操作をし - 5 -なければ直ちに被害者と衝突するという状況を生じさせたのは、被告人両名の過失により、本件交差点で被告人両名の車両が衝突したからにほかならない。そうすると、被害者が死亡したのは、被告人両名の過失行為に内在する危険、すなわち、本件交差点の交差道路から走行する車両と衝突し、衝突した車両が逸走して周囲の歩道上にいた歩行者に衝突するという危険が実現したものというべきであるから、被告人Bの過 過失行為に内在する危険、すなわち、本件交差点の交差道路から走行する車両と衝突し、衝突した車両が逸走して周囲の歩道上にいた歩行者に衝突するという危険が実現したものというべきであるから、被告人Bの過失行為と被害者の死亡との間には因果関係が認められる。 被告人Bの弁護人は、①被告人B車両と被告人A車両の衝突箇所や衝突直前の被告人Aのハンドル操作等に照らせば、被告人A車両が被告人B車両と衝突した後に進路左前方に進行したのは、被告人Aのハンドル操作のみが原因である、②被告人Aは被害者を発見したにもかかわらず、被害者に向かって進行しており、被害者の死亡には異常な経過が介在しているなどという。 しかし、①については、被告人Aがハンドルを左に切ったのは、被告人B車両との衝突を回避するためであったから、被告人A車両が進路左前方に進行した原因の一つが被告人Aのハンドル操作にあるとしても、被告人Bの過失行為と被害者の死亡との間に因果関係が認められるとの結論に影響はない(なお、前記ドライブレコーダーの映像によれば、被告人A車両は被告人B車両と衝突した直後に進路を左前方(東方向)に向けており、判示のとおり、その衝撃により被告人A車両を進路左前方に逸走させたと認められる。)。 また、②についても、被告人A車両のハンドル操作の誤りを指摘するものにすぎず、被告人A車両が被告人B車両と衝突したことにより、被告人A車両が適切にハンドル・ブレーキ操作をしなければ直ちに被害者と衝突するという状況を生じさせたとの認定を左右するものではない。 (3)以上のとおり、被告人Bの過失行為と被害者との死亡との間には因果関係が認められるから、被告人Bには過失運転致死罪が成立する。 (法令の適用) - 6 -被告人両名について罰条自動車の運転により人を死 と被害者との死亡との間には因果関係が認められるから、被告人Bには過失運転致死罪が成立する。 (法令の適用) - 6 -被告人両名について罰条自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条本文刑種の選択禁錮刑を選択刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は、被告人両名が自動車を運転中、過失により本件交差点に進入して出会い頭に衝突し、その衝突により被告人A車両が被害者をれき過するなどして死亡させたという事案である。 被告人両名は、いずれも乏しい根拠に基づいて徐行等の義務がないと考え、交差道路の安全を確認することなく本件交差点に進入したのであるから、被告人両名は基本的な注意義務に違反したといえ、その過失の程度は大きい。そして、被告人Aにおいて適切にハンドル・ブレーキ操作をすることができず、被告人A車両が被害者をれき過したという事情は、被害者の死因を形成した事情ではあるが、被告人A車両が被告人B車両と衝突してから被害者をれき過するまではわずか数秒であり、被告人Aは被告人B車両との衝突により狼狽していたことも加味すると、被告人Aが適切にハンドル・ブレーキ操作をすることは容易ではなかったといえる。そうすると、刑事責任における被害者の死亡に対する寄与度は、被告人両名の過失行為の方が被告人Aの不適切なハンドル・ブレーキ操作よりもはるかに大きく、被告人Aの不適切なハンドル・ブレーキ操作という事情は被告人Bの量刑を決めるに当たって有利に考慮することはできない。 もっとも、以上に述べた過失の程度を前提に、被害者の尊い命が失われたという結果の重大性のほか、被告人両名の交通違反歴により被告人 は被告人Bの量刑を決めるに当たって有利に考慮することはできない。 もっとも、以上に述べた過失の程度を前提に、被害者の尊い命が失われたという結果の重大性のほか、被告人両名の交通違反歴により被告人両名に対する責任非難の程度が高まることや、被害者を失った遺族の厳しい処罰感情を考慮しても、被告人両名に対して実刑を科すべき事案とまではいえない。そこで、遺族に対しては被 - 7 -告人両名の対人無制限の保険により損害賠償金が支払われる見込みであることや、被告人両名が自らの過失行為を認め、今後は自動車を運転するつもりはない旨供述していること等を考慮し、主文の刑を量定した。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑被告人両名に対し禁錮2年6月)令和5年10月31日札幌地方裁判所刑事第2部裁判官新宅孝昭
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