平成27(行コ)19 原爆症認定申請却下処分取消等請求控訴事件,同附帯控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年2月9日 広島高等裁判所 棄却 広島地方裁判所 平成23(行ウ)2
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判決文本文77,575 文字)

主文 1 第1審原告X1及び第1審被告の各控訴並びに第1審原告X2の附帯控訴をいずれも棄却する。 2 第1審原告X1の控訴費用は第1審原告X1の,第1審被告の控訴費用は第1審被告の,第1審原告X2の附帯控訴費用は第1審原告X2の各負担とする。 事実及び理由 第1章当事者の求めた裁判第1 第1審原告X1の控訴の趣旨 1 原判決中第1審原告X1に関する部分を取り消す。 2 厚生労働大臣が平成21年11月19日付けで第1審原告X1に対してした原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定の申請を却下する処分を取り消す。 3 第1審被告は,第1審原告X1に対し,300万円及びこれに対する平成23年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 第1審被告の控訴の趣旨 1 原判決主文第2項を取り消す。 2 上記取消部分に係る第1審原告X2の請求を棄却する。 第3 第1審原告X2の附帯控訴の趣旨 1 原判決中第1審原告X2敗訴部分を取り消す。 2 第1審被告は,第1審原告X2に対し,300万円及びこれに対する平成23年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2章事案の概要(本判決に特に掲記するほか,略語は原判決の例による。)第1 事案の要旨本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条に定める被爆者である第1審原告X1ほか3名が,それぞれ同法11条1項の規定による認定(以下「原爆症認定」という。)の申請(以下「本件各 申請」という。)をしたところ,厚生労働大臣から本件各申請を却下する旨の処分(以下「本件各却下処分」という。)を受けたため,第1審被告に対し,その取消しを求めるとともに,本 (以下「本件各 申請」という。)をしたところ,厚生労働大臣から本件各申請を却下する旨の処分(以下「本件各却下処分」という。)を受けたため,第1審被告に対し,その取消しを求めるとともに,本件各却下処分により精神的苦痛を受けたとして,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ慰謝料200万円及び弁護士費用100万円並びにこれらに対する不法行為後である訴状送達の日の翌日(平成23年3月1日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,第1審原告X2ほか1名の請求のうち,同人らに係る却下処分の取消しを求める限度で認容したが,その余は棄却し,第1審原告X1ほか1名の請求はいずれも棄却した。そこで,これを不服とした第1審原告X1が控訴し,また,第1審原告X2に係る却下処分(本件X2却下処分)の取消しを認容した部分を不服として第1審被告が控訴し,第1審原告X2がその敗訴部分を不服として附帯控訴した。なお,第1審原告X1及び同X2以外の2名については原判決が確定した。 第2 前提となる事実前提となる事実は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2章事案の概要」の「第1 前提となる事実等」の欄(原判決2頁21行目~15頁10行目)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,第1審原告X1及び同X2に関する部分に限る。)。 1 原判決2頁25行目から26行目にかけての「被爆者援護法1条の被爆者」を「アメリカ合衆国が昭和20年8月6日午前8時15分に広島市に原子爆弾を投下した際同市内に在った被爆者援護法1条の被爆者」と改める。 2 原判決3頁6行目を次のとおり改める。 「ウ第1審原告X1は,平成22年1月12日に厚生労働大臣に対し本件X1却下処分に対する異議申 た際同市内に在った被爆者援護法1条の被爆者」と改める。 2 原判決3頁6行目を次のとおり改める。 「ウ第1審原告X1は,平成22年1月12日に厚生労働大臣に対し本件X1却下処分に対する異議申立てをしたが,平成23年2月9日に同申立てが棄却される前の同年1月27日,本件訴えを提起した。」 3 原判決3頁15行目を次のとおり改める。 「ウ第1審原告X2は,平成22年2月15日に厚生労働大臣に対し本件X2却下処分に対する異議申立てをしたが,平成23年3月2日に同申立てが棄却される前の同年1月27日,本件訴えを提起した。」 4 原判決3頁17行目から18行目にかけての「被爆者援護法1条の被爆者」を「前記のとおり広島市に原子爆弾が投下された際同市内に在った被爆者援護法1条の被爆者」と改める。 5 原判決3頁21行目の「平成22年1月25日付け」を「平成21年12月25日付け」と改める。 6 原判決5頁4行目の「前記2(1)~(4)」を「前記(1)ア~エ」と改める。 7 原判決7頁9行目の「健康管理手当を支給する(被爆者援護法27条1項)。」を次のとおり改める。 「健康管理手当を支給する。 上記の者は,健康管理手当の支給を受けようとするときは,上記の要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない。健康管理手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき3万3300円とする(上記の額は,後記ケの規定により,平成17年以降,ほぼ1年ごとに改定されている。)。健康管理手当の支給は,上記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(被爆者援護法27条)。」 8 原判決10頁8行目の「しきい値は,1.75シー 記の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,上記の要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(被爆者援護法27条)。」 8 原判決10頁8行目の「しきい値は,1.75シーベルトとする」を「しきい値は1.75シーベルトとした(95%信頼区間は1.31~2.21シーベルト)」と改める。 第3 争点及び争点に対する当事者の主張本件における主な争点は,①原爆症認定における放射線起因性の判断基準,②第1審原告らの原爆症認定要件該当性(放射線起因性及び要医療性),③本件X 1却下処分及び本件X2却下処分についての国家賠償責任であり,これらの争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,第4のとおり第1審原告らの当審における補充主張を,第5のとおり第1審被告の当審における補充主張をそれぞれ付加するほかは,原判決別紙2及び別紙3(原判決71~191頁。ただし,第1審原告X1及び同X2に関する部分に限る。)に記載のとおりであり,争点②についての当事者の主張の要旨は原判決の「事実及び理由」の「第2章事案の概要」の「第2 争点及び当事者の主張」欄の1(原判決15頁17行目~17頁21行目),3(同18頁12行目~21頁7行目)に記載のとおりであるから,これらを引用する。 (1) 原判決89頁15行目の「以下「津田論文」という。」を「以下「津田論文」又は「津田報告」という。」と改める。 (2) 原判決90頁9行目の「以下「中島論文」という。甲B3の8」を「以下「中島論文」又は「中島報告」という。甲B2の6,3の8」と改める。 (3) 原判決91頁20行目の「信頼原価」を「信頼限界」と改める。 (4) 原判決97頁3行目の「ICPR」を「ICRP」と改める。 (5) 原判決108頁19行目の 8」と改める。 (3) 原判決91頁20行目の「信頼原価」を「信頼限界」と改める。 (4) 原判決97頁3行目の「ICPR」を「ICRP」と改める。 (5) 原判決108頁19行目の「異物特別手当」を「医療特別手当」と改める。 (6) 原判決156頁8行目から9行目にかけての「甲B2の4。以下「津田報告」という。」を「津田報告」と改める。 (7) 原判決156頁10行目の「甲B2の6,甲B3の8。以下「中島報告」という。」を「中島報告」と改める。 第4 第1審原告らの当審における補充主張 1 第1審原告X1の両眼白内障の放射性起因性について(1) 放射線起因性に関する原判決の判断の誤りア原判決は,第1審原告X1の後嚢下混濁について,後嚢下混濁とステロイド点眼剤の関連性を否定することはできないとし,ステロイド点眼剤によって発症したものと見るのが合理的であるとした。しかし,以下のとおり,第 1審原告X1の後嚢下混濁とステロイド点眼剤の関連性を否定することができないとした原判決は誤っている。 (ア) ステロイド点眼剤の副作用(後嚢下白内障)リスクは極めて低いものであることステロイドは,点眼剤に限らず,ステロイド内服薬,吸入薬,塗り薬などにも用いられ,そのいずれについても副作用として白内障(後嚢下混濁)が指摘されているが,その中でもリスクの程度は異なっており,白内障の原因になりやすいのは,全身疾患の治療に使用される内服薬と喘息などで使用される吸入薬である(甲B38)。 また,第1審原告X1が処方されていたフルオロメトロン(ステロイド点眼剤)について,「日本医薬品集医療薬 2007年版」(甲C5の2)によれば,フルオロメトロンの承認時までの調査及び副作用調査における副作用の発症 処方されていたフルオロメトロン(ステロイド点眼剤)について,「日本医薬品集医療薬 2007年版」(甲C5の2)によれば,フルオロメトロンの承認時までの調査及び副作用調査における副作用の発症率は,0.1%のフルオロメトロンでわずか0.24%(調査の症例10343例中25例)にすぎず,後嚢下白内障については具体的な発症数の記載がない。また,0.02%の低濃度のものにおいて,副作用が認められたのはわずか0.04%(調査の症例7276例中3例)にずぎず,眼圧上昇2例とアレルギー性結膜炎の悪化1例が認められたのみで,後嚢下白内障は認められなかったとされており,副作用としての後嚢下白内障の発症率はゼロか,あっても極めて小さいものでしかない。 そして,A医師も,その証人尋問において,ステロイド薬の全身投与と異なり,点眼剤投与による後嚢下白内障は非常に稀な副作用であり,日々の日常診療に訪れる眼科医師が定期的に通院している患者にステロイドが影響しているかどうかの判断は可能であると,この知見に沿う証言をしている(証人A7,8,49,50頁)。 このように,ステロイド点眼剤の長期投与が後嚢下白内障の危険因子であるとしても,ほとんどリスクのないものであることは明らかであり,ス テロイド点眼剤の場合,その濃度からして,ステロイドによる副作用のリスクは否定できないものの,現実にはほとんどないに等しいものである。 (イ) 第1審原告X1の後嚢下混濁はステロイドによる後嚢下混濁の特徴に合致しないことステロイドによる後嚢下混濁は発症すると進行が早く,数か月から1年程度で手術が必要になるほど視力が低下するという特徴を持つ(甲B38)。 しかし,第1審原告X1の後嚢下混濁は,初めて診療録に記載されたのは平成19年1月25日であり,その後の診療録に 月から1年程度で手術が必要になるほど視力が低下するという特徴を持つ(甲B38)。 しかし,第1審原告X1の後嚢下混濁は,初めて診療録に記載されたのは平成19年1月25日であり,その後の診療録にも,前嚢下混濁及び核混濁の記載は多数存在するが,後嚢下混濁の記載はごく僅かである。 このように,第1審原告X1の後嚢下混濁は,それが初めて確認された後も,診療録に記載されたのは僅かであり,症状としては軽度であったといえるのであり,進行が早いというステロイドによる後嚢下混濁の特徴に合致していないことは明らかである。 むしろ,放射線による白内障の特徴とされた後嚢下混濁は,初期の知見によれば,通常は長期にわたってゆっくり進行し,ついで停止性になると考えられており,長期にわたって調べてみると,少数のものでは混濁が強くなるものもあるし,一方減少するものもあるとされ(「広島・長崎の原爆災害」。甲B3の4・132頁),第1審原告X1の後嚢下混濁は,診療録に記載された後も,ほとんど記載がなされていなかったというのであるから,症状がほとんど進行しなかったといえるのであって,放射線による白内障(後嚢下混濁)の特徴に合致する。 (ウ) 小括以上のように,ステロイド点眼剤による副作用として発症するステロイド白内障(後嚢下混濁)は,その発生頻度が極めて低いばかりか,ステロイドによる後嚢下混濁の特徴は,数か月から1年で手術が必要になるほど 進行するものであるところ,第1審原告X1の白内障(後嚢下混濁)は,初めて診療録に記載された平成19年1月25日の後,他の混濁に比べて記載が僅かにとどまっており,停止性を有するという初期の放射線白内障の特徴に合致しているのであるから,少なくとも,ステロイド点眼剤との関連性は否定されるべきであり,この関連性を否 ,他の混濁に比べて記載が僅かにとどまっており,停止性を有するという初期の放射線白内障の特徴に合致しているのであるから,少なくとも,ステロイド点眼剤との関連性は否定されるべきであり,この関連性を否定できないとした原判決が誤っていることは明らかである。 イ原判決は,津田報告及び中島報告は,老人性白内障一般ではなく,皮質混濁を老人性白内障と定義した上で放射線被曝との関連性を肯定しているにすぎないのであって,前嚢下混濁や核混濁については関連性を肯定しているわけではないとし,第1審原告X1の白内障に放射線起因性が認められるとする第1審原告X1の主張を排斥した。 しかし,そもそも放射線白内障において,前嚢下混濁が生じ得るとする知見があること,放射線被曝による白内障の発生機序についての現在の知見からすれば,混濁が後嚢下や皮質と同じ水晶体内にある前嚢下にも生じ得るといえることからすれば,津田報告や中島報告にいう皮質混濁には,前嚢下混濁が含まれているというべきであり,原判決は誤っている。 (ア) 前嚢下混濁にも放射線起因性が認められること放射線白内障に典型的な病態としては後嚢下混濁とされているが,放射線基礎医学(甲B39・331頁)には,放射線による晩発障害について,・潜伏期間は線量と照射時間にはほとんど関係がない。 ・原爆被爆者では被曝後約5年で白内障が発生したと報告されており,この場合は,混濁は主に水晶体の後極部に起こる。同時に前嚢下部位に起こることがある。 ・赤道面上に起こる老人性白内障と区別されるとの記載がある。 つまり,放射線白内障に典型的な病態としては後嚢下混濁であるとされ るが,同時に,前嚢下部位にも起こることがあるとされるのである。 (イ) 放射線白内障の発生機 との記載がある。 つまり,放射線白内障に典型的な病態としては後嚢下混濁であるとされ るが,同時に,前嚢下部位にも起こることがあるとされるのである。 (イ) 放射線白内障の発生機序から前嚢下混濁が皮質混濁や後嚢下混濁と別異に考えられる合理的な根拠はないこと水晶体の赤道面の上皮細胞は,その終生にわたり増殖し,水晶体の中心部に向けて移動し続ける(甲B27の2・1頁)。 放射線白内障の発生機序については,水晶体に放射線が当たると水晶体前嚢下にある1層の上皮細胞の赤道部の細胞増殖帯で細胞が障害され,変性した細胞は膨化し,核をもったまま後嚢の内側を正常な細胞よりもゆっくり後極に移動し,後極部の後嚢下に変性した細胞が集まって水晶体混濁を形成すると説明されている(「原爆放射線の人体影響1992」。乙B68・151頁)。なお,放射線影響研究所も,変性した細胞がどうして後極部の後嚢下に集まるのかについての理由は,不明としている(甲B36)。 もっとも,放射線による被曝から水晶体の上皮細胞の細胞増殖帯における障害の程度は,被曝による細胞死に至る場合もあれば,細胞死には至らず,細胞障害にとどまったり,細胞内にあるDNAの損傷にとどまることもあり得る。そのため,「電離放射線に関する最近の医学的知見の検討」(甲B3の10)においては,従前の見解として,上皮細胞に生じた細胞死あるいは細胞障害が水晶体後面に移動し,水晶体中心軸上の混濁になるという説明のほか,近時の見解として,水晶体に混濁が生じる原因は,水晶体の分裂細胞(上皮細胞)の細胞死ではなく,水晶体上皮細胞のゲノムの遺伝子の変異による水晶体の線維蛋白の異常が原因であるとの説明が紹介されている。 このように,水晶体の上皮細胞は,水晶体の中心部に向けて移動するのであって,放射線によって 水晶体上皮細胞のゲノムの遺伝子の変異による水晶体の線維蛋白の異常が原因であるとの説明が紹介されている。 このように,水晶体の上皮細胞は,水晶体の中心部に向けて移動するのであって,放射線によって障害された上皮細胞も同じく水晶体中心部に向けて移動するのであるから,放射線によって障害された上皮細胞が水晶体のあらゆる部位に移動する可能性があるといえ,それが水晶体の核を構成 しない限り(水晶体の核については,放射線被曝との相関関係を認める知見はない。),同じ水晶体内の前嚢下部,皮質部,後嚢下部に混濁が生じる可能性があることになる。 そうだとすれば,同じ水晶体内にあって,その混濁の発症部位が異なるにすぎない前嚢下混濁を,放射線による影響を考える上で,皮質混濁や後嚢下混濁と区別しなければならない科学的合理性は全くない。 したがって,放射線と相関関係があるとする知見のない核混濁は別にして,放射線起因性を検討する上で,前嚢下混濁と,皮質混濁や後嚢下混濁と区別して検討することには何らの科学的合理性を見出すことはできない。 (ウ) 津田報告にいう皮質混濁に前嚢下混濁が含まれていること白内障と診断する場合,一般に,3主病型(皮質混濁,核混濁,後嚢下混濁)によって分類することが行われているが,日本眼科学会によれば,白内障の分類として大きく,前嚢下白内障,皮質白内障,核白内障,後嚢下白内障と分類されるとされている(甲B40)。 白内障については,このような3ないし4つに分類することが一般であるところ,老人性白内障については,皮質混濁が主な病態とされるも,前嚢下白内障,核混濁,後嚢下混濁が認められることもあるとされる。 以上のようなことからすれば,前嚢下に混濁が認められた場合,4つの分類においては,前嚢下白内障に分類されることは明らか とされるも,前嚢下白内障,核混濁,後嚢下混濁が認められることもあるとされる。 以上のようなことからすれば,前嚢下に混濁が認められた場合,4つの分類においては,前嚢下白内障に分類されることは明らかであるが,3主病型として分類される場合,前嚢下混濁については,核混濁とは異なるし,水晶体の後極部に限局された混濁である後嚢下混濁とは明らかに部位が異なっていることからすれば,皮質混濁に含めて分類されるのが一般であると解される。 現に,津田報告によれば,「水晶体混濁分類システム2による分類を行った。」とされ(甲B2の4),水晶体混濁分類システム2(LOCSⅡ) とは,カラー細隙灯顕微鏡写真と徹照写真により核,皮質,後嚢下白内障の程度分類を行うものであり,核混濁及び色調は4 段階,皮質混濁は5 段階,後嚢下混濁は4 段階に分類するもので,細隙灯顕微鏡と撮影写真の両者で判定が可能であって,検者間の再現性は良好で,細隙灯顕微鏡判定と写真判定の一致率もほぼ満足できるものであるとされている(甲B41)。 このように,LOCSⅡによれば,白内障については大きく4つに分ける分類方法があるとされているにもかかわらず,前嚢下混濁を別途分類するものとはされていないことから,LOCSⅡで分類する場合,前嚢下混濁も白内障であるにもかかわらず,前嚢下混濁のみ除外して調査されたと考えることは合理的ではないし,その分類方法からして,他の混濁に含めて分類されたと考えることもできない。 また,津田報告における1978年―1980年及び2000年―2002年の一定の被爆者を対象とした調査を基に発表されたB論文(甲B27の1・2)には,「核(水晶体の中心部),皮質(水晶体の外層部),後嚢下(水晶体の後部で水晶体嚢の下部)」と記載されており,津田報告でいう皮質混濁と を対象とした調査を基に発表されたB論文(甲B27の1・2)には,「核(水晶体の中心部),皮質(水晶体の外層部),後嚢下(水晶体の後部で水晶体嚢の下部)」と記載されており,津田報告でいう皮質混濁とは,水晶体の中心部及び水晶体の後部で水晶体嚢の下部以外の水晶体の外層部を指し,前嚢下も水晶体の外層部の一部であることから,前嚢下混濁は皮質混濁に含まれていると考えるのが自然である。 第1審原告X1の主治医であるC医師も,臨床の現場の通例に従い,第1審原告X1の診療録等に,同人の右眼に確認された混濁について,「前嚢下混濁」と記録した。このように,臨床の現場では,教科書的な意味に従い,厳密に「前嚢下混濁」の用語が用いられていない実態がある。 他方,「広島原爆被爆者の放射線白内障,1949年―64年」(甲B3の5・2頁)には,「Millerらが白内障と診断した84人については,1982年に広島・長崎の医療記録のすべてを検討した。その結果,細隙灯確認記録がなかったり,細隙灯検査によって確認された後嚢下混濁 ではなく,皮質(前嚢下を含む)もしくは核混濁が明らかになった広島の5症例と長崎の2症例を除外した。」と記載されており,被爆者を対象とした白内障の調査において,皮質混濁には前嚢下混濁を含めて考えられていたことがうかがえる。 以上のようなことからすれば,津田報告における老人性白内障(分類上は,皮質混濁とされる)には,当然,前嚢下混濁が含まれていたと考えられるのである。 (エ) 以上のように,原判決は,第1審原告X1に認められた白内障における前嚢下混濁について,文字通り,皮質混濁とは異なる混濁であるとして,津田報告や中島報告にいう「早発性の老人性白内障」には該当しないとしたが,これは,前嚢下混濁について放射線起因性があるとする知見や放射 下混濁について,文字通り,皮質混濁とは異なる混濁であるとして,津田報告や中島報告にいう「早発性の老人性白内障」には該当しないとしたが,これは,前嚢下混濁について放射線起因性があるとする知見や放射線による白内障の発生機序についての知見に反するばかりか,津田報告にいう老人性白内障(皮質混濁)についての白内障の分類方法を見誤ったものであることからすれば,その判断が誤っていることは明らかである。 ウ原判決は,第1審原告X1について,被爆直後の症状や放射線被曝による急性症状であると認めるに足りる証拠はないことから,その被曝放射線量が非常に高かったとまではいうことができないとし,被曝放射線量が非常に高いとまではいえないことを放射線起因性を否定する一つの根拠とした。 しかし,原判決は,被爆直後の症状を認定し,健康に影響があり得る程度の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたものと認めているのであるから,第1審原告X1が発症した被爆直後の一定の症状が急性症状であると認めているのである。被爆直後の一定の症状については,それが放射線によるものかどうかが問題であり,重篤かそうではなかったかは放射線によるものかどうかとは直接関係しない。 よって,原判決の論理によっても,被爆直後の症状と原爆放射線の間の関連性を否定されるものではなく,その後,第1審原告X1が放射線白内障を 発症しても何ら不合理なことではない。また,原判決は,被爆直後の下痢などの症状を根拠として,健康に影響があり得る程度の放射線に被曝したという事実を認定しているのであるから,被曝放射線量が非常に高かったとまではいうことができないとしても,放射線白内障については,しきい値がないかあったとしても低線量であるという知見があることからすれば,被曝放射線量が非常に高かったとまではいう 線量が非常に高かったとまではいうことができないとしても,放射線白内障については,しきい値がないかあったとしても低線量であるという知見があることからすれば,被曝放射線量が非常に高かったとまではいうことができないことは,第1審原告X1の白内障における放射線起因性を否定する理由にはならないというべきである。 したがって,第1審原告X1の被曝放射線量が非常に高かったとまではいうことができないことを,白内障の放射線起因性を否定する一つの理由としたことは誤っている。 エ以上のように,第1審原告X1の白内障について,その後嚢下混濁はステロイド白内障の特徴を持つものではなく,ステロイド点眼剤との関連性は否定されるべきこと,前嚢下混濁は,皮質における混濁であることに変わりはなく,分類方法によっては皮質混濁であるとされていること,皮質混濁と放射線被曝との間には有意な関連性が認められていること,第1審原告X1は急性症状が出ており,健康に影響があり得る程度の放射線に被曝したことからすれば,急性症状が重篤なものではなかったとしても,放射線起因性が認められるべきであり,これを否定した原判決は誤っている。 (2) 第1審原告X1の右眼白内障の混濁は皮質混濁であることについて臨床の現場においては,白内障患者の混濁の部位を記録するにあたって,「前嚢下混濁」という用語が用いられたとしても,教科書的な意味での「前嚢下混濁」に限らず,より広く,前皮質部分にある混濁を含むものとして用いられることが一般に行われている。つまり,水晶体の皮質の前側部分にある混濁は,教科書的には,それが水晶体前嚢直下に限局された部分にあれば「前嚢下混濁」と,それが前嚢直下という限局された部分になければ「前皮質混濁」と分類さ れるところ,臨床の現場においては,後嚢 ,教科書的には,それが水晶体前嚢直下に限局された部分にあれば「前嚢下混濁」と,それが前嚢直下という限局された部分になければ「前皮質混濁」と分類さ れるところ,臨床の現場においては,後嚢下混濁のように厳密に区別して記載する臨床的必要性に乏しいため,一般には,「前嚢下混濁」と「前皮質混濁」を含んで,「前嚢下混濁」と記録されているのである。 そこで,第1審原告X1の右眼の混濁(従前,C医師が医療記録等に「前嚢下混濁」として記載していた混濁)が,教科書的な意味において「前嚢下混濁」といえるのかに関し,C医師に対し改めて意見を求めたところ,同医師は,自らが第1審原告X1の医療記録に記載したスケッチ図(以下「本件スケッチ図」という。)を確認した上で,第1審原告X1の右眼の混濁については,教科書的な意味でいうと「前嚢下混濁」ではなく「前皮質混濁」であるとした。 そして,C医師は,その上で,第1審原告X1の右眼の混濁(医療記録等で「前嚢下混濁」と記載していた混濁)を,教科書的な意味で「前嚢下混濁」,「皮質混濁」,「核混濁」,及び「後嚢下混濁」の4つの分類のどこかに分類するとすれば,「皮質混濁」に分類されるとした。 そうだとすると,少なくとも,第1審原告X1の混濁(医療記録等に「前嚢下混濁」と記載されたもの)は,教科書的な意味に従えば皮質混濁であり,早発性老人性白内障(つまり,皮質混濁)として,津田報告や中島報告によって,原爆放射線との関連性を肯定することができる。 2 第1審原告らの要医療性について(1) 要医療性についての基本的な考え方白内障治療に関し,眼内レンズ挿入の手術が原爆被爆者においてもなされているが,その際,医師と被爆者は,後嚢下混濁のためとか,皮質混濁のためとか,混濁箇所を選んで手術を行っているわけではな 白内障治療に関し,眼内レンズ挿入の手術が原爆被爆者においてもなされているが,その際,医師と被爆者は,後嚢下混濁のためとか,皮質混濁のためとか,混濁箇所を選んで手術を行っているわけではない。 つまり,原爆被爆者が白内障手術を受けるのは,それまでの点眼治療にもかかわらず,視力の低下が一層進んだため,混濁の部位を区別せず,また,それが老人性白内障なのか,放射線白内障であるかを問わず,やむを得ず,自分の水晶体を摘出するという方法(眼内レンズ挿入)を選んでいるのである。 しかし,水晶体摘出という方法になんらの躊躇も覚悟もなく臨んでいるのではない。患者が被爆者かどうかにかかわらず,白内障患者に対し,医師は,手術を勧める場合もあれば,必ずしも手術を勧めず,経過観察とする場合もある。 手術が一つの選択肢として考えられる場合(基本的には,白内障による患者の日常生活への支障の内容,その程度による)にあっても,個人の諸事情・都合がある。また,手術に対して躊躇し決断に至らないという患者の心構えの問題から,手術に至らない場合もある。 他方で,白内障の手術とはいえ,手術である以上,手術自体に伴うリスクは一定程度あり,一定の疾患を伴っている場合には,そのリスクはさらに増加する。そして,手術の効果の面でも,白内障の手術により眼内レンズを挿入した場合であっても,必ずしも視力の回復が思うようにならない場合も少なからずある。医師としては,手術の安全性は伝えることができても,効果のほどは100%ではないことを伝えざるを得ない。 白内障の手術であっても,以上のような諸々の状況を踏まえ,手術が選択される場合もあれば,選択されない場合があるのが現状である。このような,結果として手術が選択されない患者や,あるいは,手術に至る 白内障の手術であっても,以上のような諸々の状況を踏まえ,手術が選択される場合もあれば,選択されない場合があるのが現状である。このような,結果として手術が選択されない患者や,あるいは,手術に至るまでの期間にある患者に対し,医師は,主として点眼薬(カリーユニ点眼液等)を投与することになる。 このような状態は,白内障患者にとっては,定期的な「通院治療」であり,ある程度の間隔で定期的な診察と検査が行なわれるという「経過観察」である。 医師は,白内障患者に対し,常に手術をして混濁を除去することを第一に勧めるのではなく,その原因が何かを基本的には問題とせず,白内障患者の日常生活に与える影響を見ながら,その進行の程度や患者の意思を尊重しつつ,手術を勧めるのか,経過観察にとどめるのか,カリーユニ点眼液を処方しながらの経過観察とするのかという治療方法を適宜選択しているのである。 これらはいずれも白内障の治療であり,医師が通院する必要はないと判断す る場合以外は,老人性白内障であれ,放射線白内障であれ,医療を要する状態にあるといえる。 (2) 医療機関における一般の診療と被爆者援護法ア一般の保険診療について医療機関における一般の保険診療についての保険医療機関及び保険医療養担当規則(甲B46)は,保健医療機関が担当する療養の範囲を,一診察二薬剤又は治療材料の支給三処置,手術その他の治療四居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護五病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護と定めており(同規則1条),処置,手術や投薬治療のみに限定されていない。診察そのものや,居宅や病院又は診療所での療養に伴う世話や看護を含め 療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護と定めており(同規則1条),処置,手術や投薬治療のみに限定されていない。診察そのものや,居宅や病院又は診療所での療養に伴う世話や看護を含めて,「療養の給付」の対象であるとされているのである。つまり,一般の保険診療においては,これら「療養の給付」の必要性が,いわゆる要医療性を意味するものと理解される。 なお,同規則は,「療養の給付」は「療養上妥当適切なもの」でなければならないと定めており(同規則2条),患者に対し,要医療性の観点から,妥当性や適切性に欠ける診療行為を禁止しており,全国健康保険協会や市町村等の保険者の査定という形で点検が入る仕組みとなっている。 イ被爆者援護法について被爆者援護法は,「原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う」(同法10条1項)と規定し,「医療の給付」の範囲について,一診察二薬剤又は治療材料の支給 三医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術四居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護五病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護六移送と定めており(同条2項),上記保険医療機関及び保険医療養担当規則1条とほぼ同じ内容が規定され,その範囲は,一般の保険診療における「療養の給付」とほぼ同じであり,投薬治療をはじめとする処置,手術等のみに限られるのではなく,診察そのもの,あるいは,居宅や病院又は診療所での療養に伴う世話や看護を含めて「医療の給付」とされている。 そして,被爆者援護法は,10条1項の「医療の給付」に関し,指定医療機関の診療 ,診察そのもの,あるいは,居宅や病院又は診療所での療養に伴う世話や看護を含めて「医療の給付」とされている。 そして,被爆者援護法は,10条1項の「医療の給付」に関し,指定医療機関の診療方針や診療報酬は,「健康保険の診療方針及び診療報酬の例による」としており(同法14条),この健康保険の診療方針や診療報酬の例とは,健康保険法の規定に基づき定められた保険医療機関及び保険医療養担当規則に定められている。 このように,被爆者援護法は,被爆者に対する医療も,一般の保険診療における療養と同じであることを明らかにしている。 ウ第1審被告の主張に対する反論(ア) 「医療」とは何かについて第1審被告は,医療とは,「医術で病気を治すこと」であると主張し,申請疾病がその状態や症状等を改善したりその状態や病状等の増悪を抑制したりするなどの点において医療効果が期待できる措置を意味するとした上で,「治療」の内容につき,申請疾病に対する治療目的を達成するために医学的に必要と認められるものであり,かつ,方法として有効適切なものでなければならないとする。 しかし,病気にも種々のものがあり,治すことが医学的に観念できない病気もあれば,治すには手術しか方法がないが,手術の条件を満たさず, 治すことのできない場合もある。つまり,申請疾病において,必ずしも医療効果が期待できる措置が存在するとは限らないのである。 また,治療方法の選択に関し,例えば,医学的効果はほとんど期待できないがリスクも低いという方法と,医学的効果は高いがリスクも相当高い方法があった場合に,患者の側が前者を選択した場合,有効性をその判断要素とする第1審被告の主張を貫けば,それは治療ではないということになり得るが,このような結果は不合理である。 いがリスクも相当高い方法があった場合に,患者の側が前者を選択した場合,有効性をその判断要素とする第1審被告の主張を貫けば,それは治療ではないということになり得るが,このような結果は不合理である。 仮に医学的に有効適切であることを強調すれば,末期がん患者におけるいわゆる終末医療の場合,これを診察する医師の行為は医療であるとはいえないことになってしまう。 このようなことから,一般の保険診療においては,「療養上妥当適切なもの」とし,決して,当該措置が,医学的に有効かどうかのレベルまで要求されていないのである。 被爆者援護法も,一般の保険診療に従うとされているのであるから,同法における治療の方法については,必ずしも,医学的な有効適切さは要求されず,医学的に妥当かどうか,適切かどうかが問われるのみである。 (イ) 被爆者援護法における段階的な援護制度について第1審被告は,被爆者援護法が,「医療」の規定の前に「健康管理」の規定を置き,都道府県知事をして被爆者に対し,毎年,健康診断を行うものとし,健康診断の結果必要と認めるときは,必要な指導を行うものとしていることから,いまだ具体的な治療を要するに至らない疾病については,健康診断や指導により健康管理を行い,放射線に起因する疾病を発症し,これに対する具体的な治療を要する状態に至った者について,医療の給付を行うことを想定されていると主張する。 しかし,このような第1審被告の主張は,明らかに不合理である。 まず,第1審被告の主張によれば,健康診断の結果,具体的な治療を要す るに至らない疾病なるものが存在し,健康診断や指導による健康管理を受けながら,その後に放射線に起因する疾病を発症することになるが,放射線に起因する疾病は医学的に一つの疾病であり,治療を要する状態かどう に至らない疾病なるものが存在し,健康診断や指導による健康管理を受けながら,その後に放射線に起因する疾病を発症することになるが,放射線に起因する疾病は医学的に一つの疾病であり,治療を要する状態かどうかで疾病そのものが区別されるわけではない。 また,そもそも,被爆者援護法の定める健康管理であるが,一般の用語としての健康診断は,健康であるか否かを確かめるもので,その確認をするために,病気の危険因子があるか否かを見ていくものであって,そもそも特定の病気を発見していくものではない。特定の病気を早期に発見し,早期に治療することを目的として行われるものは,「検診」である。 被爆者援護法が,医療の前に,健康管理として,健康診断等の定めをおいたのは,まさに,被爆者の健康であるかどうかを確認し,場合によっては,特定の病気を発見するためであることは,健康診断の規定を見れば明らかである。 すなわち,被爆者援護法施行規則9条は,法7条に基づく健康診断として,一般検査及び精密検査によって行うこととし,精密検査は,一般検査の結果更に精密な検査を必要とする者について行うと定めている。健康診断(一般検査)によって健康であるかどうかを確認し,その結果,特定の病気を発症していることが疑われ,更に精密な検査が必要な場合には,精密な検査が用意されているのである。 ここで,上記の一般検査における検査は,一視診,問診,聴診,打診及び触診による検査二 CRP検査三血球数検査四血色素検査五尿検査六血圧測定 七 AST検査法,ALT検査法及びγ―GPT検査法による肝機能検査八ヘモグロビンA1c検査と(同 検査六血圧測定 七 AST検査法,ALT検査法及びγ―GPT検査法による肝機能検査八ヘモグロビンA1c検査と(同施行規則9条3項),同施行規則9条4項に定める年1回の各種のがん検診であり,精密検査は,一骨髄造血像検査等の血液検査二肝臓機能検査等の内蔵の検査三関節機能検査等の運動器の検査四眼底検査等の視器の検査五胸部エックス線撮影検査等のエックス線検査六その他必要な検査であり(同施行規則9条5項),これらの一般検査及び精密検査は,いわゆる健康診断や検診の域を出ないものである。 他方で,一般に我々が日常受けている健康診断においても,同様の検査やがん検診や精密検査が行われているが,病気が判明した場合やその疑いがある場合には,専門医への受診を勧められるのが通常である。 そうだとすると,被爆者援護法が予定する健康管理は,一般の健康診断と変わりはなく,病気の発見後は,個別の医療として,専門医の判断に委ねられているものと解すべきである。すなわち,同法の予定する健康管理は,一般の健康診断や検診と同様,自身の健康状態の確認及び病気の早期発見を目的としたものにとどまり,病気の発見(発症)後については,医療を要するかどうかの判断は臨床医あるいは専門医の個別の判断に委ねられているといえる。 したがって,被爆者援護法における要医療性の判断,つまり,健康管理としての健康診断等による経過観察にとどめるのか,それとも個別医療として,定期的な経過観察等による具体的な医療の給付を行うかは,個別の 医師の判断によるべきとされてい 断,つまり,健康管理としての健康診断等による経過観察にとどめるのか,それとも個別医療として,定期的な経過観察等による具体的な医療の給付を行うかは,個別の 医師の判断によるべきとされているのである。 なお,被爆者において,被爆者援護法における定期の健康診断や検診を受けることはさほどなく,通常と同様,何らかの体の変調があれば,個別に医療機関を受診することになり,そこで疾病を発症したことが確定的に診断されることも少なくなく,同法の定める健康管理の規定による病気の発見・専門医への受診とはならないこともある。このような場合,当該医療機関の医師は,当該疾病に関し,当然のことながら,通院の必要がない場合には,その旨を患者に告げ,被爆者援護法の予定する一般検査や精密検査による定期的な観察を指示するであろうし,通院の必要がある場合には,その判断により,個別の診療として,定期的な通院等を指示する場合もあろうが,このような場合も,同様に,個別の医師の判断によるべきことは同じである。 エ以上のようなことからすれば,主治医が経過観察の必要を認めれば,何らの積極的な治療を行わない場合であっても,それは,被爆者援護法における「診察」に該当するのであり,その必要性の判断に求められるのは,医学的に妥当適切であるかどうかであり,医学的に有効適切であるかどうかではない。 (3) 主治医の判断が尊重されるべきであること上記のように,被爆者に対する医療も,一般の診療方針等に従うとされている。主治医は,白内障患者の自覚的な症状の変化を把握する,あるいは,白内障の他覚的な進行状況を把握するため,定期的な受診を指示する。その診察間隔や検査内容等はもちろん,手術の適応とその時期についても,患者の意見を十分に聞いた上での主治医の判断による。手術の場合 ,白内障の他覚的な進行状況を把握するため,定期的な受診を指示する。その診察間隔や検査内容等はもちろん,手術の適応とその時期についても,患者の意見を十分に聞いた上での主治医の判断による。手術の場合も,手術適応を説明した上で,患者の同意を得るためには,一定の期間を要することがしばしばあるし,手術時期の判断に長期的な観察を要する場合もある。さらに,術後の経過観察も様々あり得る。 このように,患者にはそれぞれの個別性があり,術前・術後の経過観察の期間や診察及び検査内容は,その個別性を踏まえた主治医の判断に委ねられている。そして,原爆症認定申請の際の医師の作成する意見書には「必要な医療の内容及び期間」を記載する欄があるが,原爆被爆者への医療も,一般の保険診療の場合と同様,患者の個別性を踏まえて医療給付の必要性(一般の保険診療の場合には療養の給付の必要性)が要求されていることに鑑み,被爆者援護法は,主治医に当該患者の「医療の必要性」の判断を委ねたものと解されるのであり,決して,手術適応の有無の記載がなされなければ要医療性がないということにはならない。 したがって,要医療性の判断は,一般の保険診療の場合と同様,主治医の患者の個別性を踏まえての妥当性や適切性の判断に委ねられる。 (4) 放射線白内障とカリーユニ点眼液について第1審被告は,放射線白内障の要医療性に関し,医学的に有効適切な方法であることが必要であるとし,カリーユニ点眼液の効果が,放射線白内障に対しては全く認められないことから,要医療性が認められないと主張する。 しかし,上記のとおり,医師が定期的な通院を指示する,いわゆる経過観察の場合であっても「診察」に該当する以上,要医療性の判断においてカリーユニの効果は問題とならないと考えるが,以下のとおり,放射 しかし,上記のとおり,医師が定期的な通院を指示する,いわゆる経過観察の場合であっても「診察」に該当する以上,要医療性の判断においてカリーユニの効果は問題とならないと考えるが,以下のとおり,放射線白内障の治療にとって,カリーユニ点眼液を投与することは,少なくとも妥当適切な治療方法であるといえる。 ア原爆放射線による早発性老人性白内障の存在が明らかとなったこと津田報告により,被爆後数年内に発症する後嚢下混濁のほか,原爆放射線による影響として,被爆者は,被爆後数十年経過後,後嚢下混濁のみならず,皮質混濁を発症し得ることが疫学的に明らかになった。このような被爆後数十年経過後に発症する白内障は,その発生機序が十分に解明されていないことからすれば,その発症時の年齢からは,老人性白内障ともいい得るもので ある。 他方,老人性白内障は,主な所見は皮質混濁であるが,後嚢下混濁の所見もある。そして,被爆者にも加齢現象は起こり得ることも併せ考えれば,被爆後数十年して発症する原爆放射線による白内障(後嚢下混濁,皮質混濁)は,老人性白内障ともいい得るものである。 したがって,原爆放射線による白内障にも,老人性白内障に適応とされるカリーユニ点眼液の薬効は否定できない。 イカリーユニ点眼液の薬効について第1審被告は,放射線白内障の発生機序について,放射線による上皮細胞の遺伝子の損傷により,細胞分裂,細胞分化の異常が生じその結果,透明度を失い混濁・白濁した水晶体繊維細胞が集積された結果生じるものであるとし,このような機序からは,被曝の時点で遺伝子損傷を受けた細胞は混濁することがプログラムされているのであり,放射線被曝後,トリプトファンの代謝異常はその後のキノン体の発生という過程を生じて混濁が生じるものとは考えられていないこと 時点で遺伝子損傷を受けた細胞は混濁することがプログラムされているのであり,放射線被曝後,トリプトファンの代謝異常はその後のキノン体の発生という過程を生じて混濁が生じるものとは考えられていないことから(乙B166),放射線による白内障に対しカリーユニ点眼液の薬効はないとする。 しかし,以下のとおり,放射線による白内障に対し,カリーユニ点眼液の薬効は否定できない。 (ア) 放射線による加齢促進効果が示唆されるとする知見のあることすでに述べたとおり,これまでの原爆被爆者を対象とした眼科調査等により,原爆放射線による白内障は,被爆後数十年経過した後に,後嚢下白内障や皮質白内障として発症し得ることが明らかになった。 しかし,これらの研究等にもかかわらず,放射線白内障の発生機序は未だ解明されていない。放射線感受性の高い水晶体上皮細胞の細胞死・細胞障害・細胞ゲノムの遺伝子障害によるとする知見のほかにも,免疫損傷を介してその影響による白内障を発症する可能性が指摘されるに至ってい る(B論文)。つまり,原爆放射線による上皮細胞の損傷等のほか,その影響による免疫損傷による加齢現象の促進により,皮質や後嚢下白内障を発症するものと考えられるようになったのである。 そうだとすれば,放射線の作用による加齢促進としての効果から,通常の加齢促進としての効果であるトリプトファンの代謝異常(キノイド説による)が起こることは十分に考えられることである。 (イ) 遺伝子損傷による白内障発症の具体的機序は未解明であること第1審被告がいうような,放射線による上皮細胞の遺伝子損傷により,その細胞が白濁化することがプログラミングされているとの考え方についても,これがどのような機序によって現実に白濁化するのか, ること第1審被告がいうような,放射線による上皮細胞の遺伝子損傷により,その細胞が白濁化することがプログラミングされているとの考え方についても,これがどのような機序によって現実に白濁化するのか,どの程度の時間を要することになるのかは,何ら明らかとなっていないのである。 放射線による上皮細胞の遺伝子損傷により白濁化することがプログラミングされるという作用と,加齢促進によるトリプトファンの代謝異常(非被爆者の場合には,まさに加齢の効果といい得るが,被爆者の場合には,放射線による免疫損傷による加齢現象の促進と自らの加齢現象との相互作用といい得る)が相俟って,白内障を発症すると理解することも可能なのである。 この点,「放射線白内障に対するカリーユニ点眼薬の効果について」(乙B166)に添付の別紙2には文献の和訳があり,「DNA損傷により,認識,修復,細胞分裂サイクルのコントロール,クリスタリン(注:水晶体内の蛋白質)の構造,水晶体線維細胞の分化,細胞接着分子の働きが損なわれることにより,放射線に被曝した水晶体において変化もしくは正常な機能が損なわれた状態が認められる」とあり,放射線の影響により遺伝子が損傷され,白濁化することがプログラミングされた場合,どのような変化が起こるのかの具体的な記載がある。 クリスタリンは,水晶体内の蛋白質であるが,蛋白質を構成するのはア ミノ酸である。そして,トリプトファンも,蛋白質を構成するアミノ酸の一種である。そうだとすると,少なくとも,放射線の作用(DNA損傷)により,細胞内の蛋白質であるクリスタリンの構造に影響があるとする知見がある以上,その一部を構成するトリプトファンの構造に何らかの影響を与え得ることは明らかである。 そして,トリプトファンの化学式を見るとベンゼ るクリスタリンの構造に影響があるとする知見がある以上,その一部を構成するトリプトファンの構造に何らかの影響を与え得ることは明らかである。 そして,トリプトファンの化学式を見るとベンゼン環があることは明らかであり(乙B166・3頁の図1),放射線の影響である電離作用により,トリプトファンの構造に対し,原子レベルで電離が起こっても不思議はなく,そして,意見書の作者自身,「電離や励起を起こした分子や原子は,不安定な状態であり,化学結合を切断したり,付加反応を繰り返したりする」としているのであるから,人体内のあらゆるところに存在している酸素原子と結合し(キノイド説は,細胞内のトリプトファンの代謝異常によってキノン体が生じるというメカニズムがあるという知見であるところ,キノン体は,ベンゼン環の水素原子二つを酸素原子二つで置き換えたものであることに鑑みれば,細胞内に酸素原子が存在することは明らかである。),元々のベンゼン環の水素原子二つを酸素原子二つに置き換えた構造を持つ化合物が発生することも十分に考えられることである。 そうすると,「放射線白内障に対するカリーユニ点眼薬の効果について」(乙B166)の「トリプトファン代謝の過程やその過程で起こりうる化学反応から考えても,放射線に被曝することで,トリプトファンの代謝異常が生じ,結果,キノン体が発生するなどということはおおよそ考え難く」というのは,水晶体上皮細胞内にある原子の種類や,放射線の電離作用,電離作用後に物質が不安定となった場合に起こり得る化学変化を十分に検討した上でのものではない。 以上のような,放射線による水晶体上皮細胞の受ける影響に関する知見を総合すれば,放射線被曝による上皮細胞の遺伝子損傷によって起こる細 胞内の分子構造の変化等に ものではない。 以上のような,放射線による水晶体上皮細胞の受ける影響に関する知見を総合すれば,放射線被曝による上皮細胞の遺伝子損傷によって起こる細 胞内の分子構造の変化等によってキノン体が発生することは十分に考えられることであるし,また,放射線の作用としての加齢促進現象として,一般の老人性白内障と同様に,トリプトファンの代謝異常が起こり,キノン体が発生することは十分に考えられる。 したがって,放射線の影響によってキノン体が発生し得るのであるから,キノイド説によったカリーユニ点眼液の効果は,放射線による白内障に対してもその薬効は認められ得るものであり,少なくとも,医学的に妥当適切ではない治療であるとはいえない。 (5) 第1審原告らの治療状況等ア第1審原告X1について第1審原告X1は,平成10年7月30日までにF眼科を受診し,白内障と診断され,同日から継続的にカリーユニ点眼液の処方を受けた。そして,平成21年3月25日に右眼の,同年4月8日に左眼の白内障の手術を受けた。 イ第1審原告X2について第1審原告X2は,平成4年ころ,両眼白内障と診断され,以後,通院しながらカリーユニ点眼液の処方を受けた。 (6) 小括以上のように,被爆者援護法における要医療性の判断は,個別の患者の事情に即した主治医の判断に委ねられていること,その主治医の医療の必要性の判断においては,医学的に妥当適切であるかが問われ,有効適切かまでは問われていないこと,主治医による経過観察も「診療」にあたること,主治医による経過観察の指示やカリーユニ点眼液の投与は,医学的に妥当適切であること,第1審被告の主張を前提としても,放射線による白内障については手術がその治療として有効適切であることは明らかであることからすれば, 過観察の指示やカリーユニ点眼液の投与は,医学的に妥当適切であること,第1審被告の主張を前提としても,放射線による白内障については手術がその治療として有効適切であることは明らかであることからすれば,第1審原告X1及び同X2の白内障に要医療性が認められることは明らかである。 3 第1審被告の国家賠償責任について(1) 厚生労働大臣は,原爆症認定行政を行うにあたり,これまでの最高裁判決に従い,①DS86等による初期放射線の数値計算にのみ基づく原爆症認定の在り方を否定し,②放射線による急性症状等や被爆後に生じた体調不良といった被爆者(申請者)に生じた具体的事実を重視し,③これらの被爆前後の被爆者に生じた客観的な間接事実を前提として,その積み重ねに基づき,経験則により事実上の推定を働かせて判断する義務を有していた。 しかしながら,厚生労働大臣は,その義務に違反し,①被爆者の原爆症認定申請に対し,最高裁判決から導かれる総合評価を行うこともなければ,自ら策定した「新しい審査の方針」の積極認定の範囲内にある申請に対してすら,合理的な期間を優に超えて処分を行わなかった上に,不当にもその申請を却下したものである。また,厚生労働大臣は,②審査にあたって行政手続法5条1項に要求される審査基準を示さず,また,③被爆者に対して却下処分を行うにあたり,行政手続法8条に要求される処分の理由を示さなかったものである。 厚生労働大臣のこれらの義務違反が国家賠償法1条1項の違法に該当することは,以下のとおり明らかである。 (2) 原爆症認定申請に対する厚生労働大臣の判断のあり方については,これまでの最高裁判決に基づく確立された司法判断が存在し,同司法判断から厚生労働大臣の注意義務が導かれるところ,厚生労働大臣の原爆症認定の運用は,総 申請に対する厚生労働大臣の判断のあり方については,これまでの最高裁判決に基づく確立された司法判断が存在し,同司法判断から厚生労働大臣の注意義務が導かれるところ,厚生労働大臣の原爆症認定の運用は,総合評価の観点を捨象し,積極認定の範囲内にある原爆症認定申請に対してすら,漫然と却下処分を繰り返すという内容であった。 具体的には,新しい審査の方針において,積極認定に関しては,「認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料が無い場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する」と規定されているにもかかわらず,厚生労働大臣は,「放射線起因性が認められる心筋梗塞」「放射線 起因性が認められる甲状腺機能低下症」「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」という循環論法となるような縛りを設けて,結局のところ非がん疾患の認定を形式的に切り捨てる審査会の結論のままに却下処分を行っている。また,新しい審査の方針において,積極認定以外についても,「申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するものとする。」と規定されているにもかかわらず,厚生労働大臣は,これまでの最高裁判決に従い確立された総合判断の運用を行うこともなければ,あたかも積極認定の範囲外であることが却下処分の正当性を裏付ける理由として位置づけるような審査会の結論のままに却下処分を行っている。これらの運用は,被爆者援護法の趣旨・目的に沿って行われたものとは到底いえず,厚生労働大臣は,厚労行政の長として,法を適正に解釈・適用し,運用する義務をも怠ったといわざるをえない。 すなわち,厚生労働大臣は,新審査の方針(平成25年12月 て行われたものとは到底いえず,厚生労働大臣は,厚労行政の長として,法を適正に解釈・適用し,運用する義務をも怠ったといわざるをえない。 すなわち,厚生労働大臣は,新審査の方針(平成25年12月16日最終改定)にしたがって,第1審原告らの認定申請を却下しているが,その審査の方針にも,「この方針には,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて随時必要な見直しを行うものする」とされているのである。そして,放射線の白内障への影響についての近時の知見によれば0.5グレイ以下の被曝と白内障の発症との間には有意な相関関係があること,しきい値が0.5グレイよりも低い確率的影響であるとされていること,放射線白内障の特徴とされていた後嚢下混濁だけではなく皮質混濁についても被曝との相関関係が指摘されていること,被曝から数十年経てからの発症についても相関関係があるとされていることを踏まえると審査の際には,上記科学的知見に基づき第1審原告らの白内障について放射線起因性を否定すべきではなかったものである。したがって,第1審原告らの白内障について,放射線起因性を否定して原爆症認定申請を却下したことは,「公権力の行使にあたる公務員が,その職務を行なうについて,故意又は過失により違法に他人に損害を加えた」の要件に該当するというべき である。 第5 第1審被告の当審のおける補充主張 1 第1審原告X1の両眼白内障の放射性起因性について(1) 第1審原告X1の白内障が,ステロイド点眼剤の長期使用により発症した可能性も否定できないことア第1審原告X1がステロイド点眼剤による副作用としてステロイド白内障(後嚢下混濁)を発症した可能性が「極めて低い」とはいえないこと第1審原告X1の主張は,ステロイド点眼剤による副作用として発症する ロイド点眼剤による副作用としてステロイド白内障(後嚢下混濁)を発症した可能性が「極めて低い」とはいえないこと第1審原告X1の主張は,ステロイド点眼剤による副作用として発症するステロイド白内障(後嚢下混濁)の発症頻度が「極めて低い」というものである。ここで,「極めて低い」という主張がいかなる趣旨を述べるものであるのかは必ずしも判然としないが,以下に述べるとおり,一般にステロイド点眼剤の長期投与によりステロイド白内障を発症する可能性は否定し得るものではない。 すなわち,フルオメソロン0.1パーセント点眼液,フルオメソロン0. 02パーセント点眼液及びフルメトロン点眼液0.1パーセント(以下「フルオメソロン点眼液等」という。)は,いずれもステロイド点眼剤であるところ,その添付文書の「使用上の注意」の「重大な副作用」として,それぞれ発症頻度は不明であるものの,「長期投与により,後嚢下白内障があらわれることがある」とされている(乙C5の3の1・2,5の16)。また,一般に,「ステロイド点眼によっても大量全身投与に比べ頻度は低いものの白内障が併発することも古くから報告されている」(乙B164・440頁)。 そもそも医薬品の添付文書の記載事項は,当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が,投与を受けている患者の安全を確保するために,これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載されるものである(最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁参照)。そして,その記載事項につ いては,医薬品の安全性の観点から,極めて厳格に定められているのであって(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律52条,「医療用医薬品添付文書の記載要 載事項につ いては,医薬品の安全性の観点から,極めて厳格に定められているのであって(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律52条,「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(平成9年4月25日薬発第606号厚生省薬務局長通知),「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(同日薬発第607号同局長通知)(以下「607号通知」という。),「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(同日薬安第59号同局安全課長通知)),添付文書の記載内容については,一般に,客観的,医学的根拠を有するものであると考えられ,証拠価値は高いというべきである。そして,添付文書の「使用上の注意」中の「重大な副作用」については,「当該医薬品にとって特に注意を要するものを記載すること」とされていること(607号通知)に鑑みれば,前記添付文書(乙C5の3の1・2,5の16)上の重大な副作用に関する記載内容についても,医学的に見て,「当該医薬品にとって特に注意を要するもの」であるというべきであって,このことからも,フルオメソロン点眼液等の長期使用によるステロイド点眼剤の副作用発症リスクを軽視することはできないというべきである。 そうである以上,仮にどの程度の使用により,どの程度発症するかについての具体的な報告例がないとしても,第1審原告X1についても一概にその発症の可能性が「極めて低い」などとして切り捨てることができるものではない。 イステロイド点眼剤による後嚢下混濁の特徴は,数か月から1年で手術が必要になるほど進行する点にあるとの主張に合理的な根拠があるとはいえないことまた,第1審原告X1は,ステロイド点眼剤による後嚢下混濁の特徴は,数か月から1年で手術が必要になるほど進行する点にあ 行する点にあるとの主張に合理的な根拠があるとはいえないことまた,第1審原告X1は,ステロイド点眼剤による後嚢下混濁の特徴は,数か月から1年で手術が必要になるほど進行する点にある旨主張し,インターネット上の記事(甲B38)を引用する。 しかしながら,上記記事には,具体的な調査,研究の結果等が引用されて おらず,それのみでは,どのような調査,研究の結果導き出された内容であるのか判断することができない。また,そもそも,上記記事は,日本白内障学会が,一般向けに分かり易く解説したものであり,特に進行の早いものについて注意を促した記載とみるべきものであって,点眼剤を長期投与することで,その他の症状が発症し得る可能性を排除する記載でないことは明らかである。そうである以上,上記記事のみから,直ちにその内容を一般化し得るものではないのであって,かかる記事は,「ステロイド点眼剤による後嚢下混濁の特徴は,数か月から1年で手術が必要になるほど進行する点にある」との主張の合理的な根拠となるものではないし,少なくとも,第1審原告X1の後嚢下混濁がステロイド点眼剤を長期使用した結果発症した可能性を否定し得るものではない。 よって,この点に関する第1審原告X1の主張も理由がない。 ウ小括したがって,第1審原告X1の白内障のうち,後嚢下混濁について,ステロイド点眼剤の関連性を否定することはできないというべきである。 (2) 津田報告等によって前嚢下混濁と放射線被曝との関連性を認めることはできないことアそもそも,津田報告等における調査対象疾病の定義は曖昧であり,その証拠価値は乏しいといわざるを得ないこと津田報告では,「皮質混濁(いわゆる老人 はできないことアそもそも,津田報告等における調査対象疾病の定義は曖昧であり,その証拠価値は乏しいといわざるを得ないこと津田報告では,「皮質混濁(いわゆる老人性白内障)」との記載があるのみで,「老人性白内障」をどのようなものとして定義したのか(例えば,皮質混濁は老人性白内障に特徴的であるだけで,それ以外の機序でも出現し得るところ,津田報告では,機序を確認の上,真に老人性白内障と考えられるもののみを「老人性白内障」と定義し,調査,研究を行ったのか,それとも,上記機序の確認をせずに,「皮質混濁」を,一律,「老人性白内障」と定義し,調査,研究を行ったのか等)についても定かでない。そのため,研究結果に おいても,それが,真に放射線被曝と老人性白内障との関連性を示したものなのか,それとも,単に,放射線被曝と皮質混濁との関連性を示したものにすぎないのか等も判然としない。 また,津田報告等にいう「早発性」の老人性白内障が,どのような時期あるいは年齢で発症した老人性白内障を定義したものかについては,何ら記載がなく,津田報告における「原爆被爆者の放射線被ばくと…早発性の老人性白内障に有意な相関が認められた」(甲B2の4・338頁)という記述が,どのような現象について報告したものかを判断することは不可能である(この点について,原判決は,津田報告等における「早発性」の「老人性白内障」について,「一般的に,加齢が原因で高率に白内障が発症する年代である70歳代以前に発症する白内障を指していると解することができ」る旨判示する(原判決47頁)。しかしながら,そもそも加齢を原因とする白内障は,60歳代においても高率で発症するというのが一般的な医学的知見なのであって,このような一般的な医学的知見は津 とができ」る旨判示する(原判決47頁)。しかしながら,そもそも加齢を原因とする白内障は,60歳代においても高率で発症するというのが一般的な医学的知見なのであって,このような一般的な医学的知見は津田報告等においても当然に前提とするものであると解される。少なくとも,「70歳代以前に発症する白内障」を「早発性」の「老人性白内障」とする旨の理解は,津田報告等の記述からは一切読み取ることができない。原判決の前記判示部分は,疫学を用いた研究の根幹にある,研究対象事象やその定義を,当該研究の趣旨内容や研究者の意図から離れて認定するものであって,誤りというべきである。 このように,津田報告等における調査対象疾病の定義は曖昧であり,どのような症例を研究対象としたのか全く不明であるため,津田報告等を用いて何らかの結論を導いた場合,当該結論が実際の調査結果と適合するものであるとの確証を得ることはできず,反対に,それが実際の調査結果と異なるものである可能性も否定できない。このような点に鑑みれば,そもそも津田報告等の証拠価値は乏しいものといわざるを得ない。 イ津田報告等における「老人性白内障」に前嚢下混濁が含まれているとは考 え難いこと(ア) 第1審原告X1は,「3主病型として分類される場合,前嚢下混濁については,…皮質混濁に含めて分類されるのが一般であると解される」と主張するが,何ら根拠となる医学的知見が示されていない。 また,水晶体は,嚢,皮質,核に大別され,このうち嚢とは,水晶体全体を包む弾力性を有する上皮細胞の基底膜であり,赤道部よりも前方を前嚢,後方を後嚢という。水晶体内では,赤道部前方の増殖帯で,生涯を通じて細胞分裂が行われ,分裂した上皮細胞は後方に押し出され,赤道部付近において を有する上皮細胞の基底膜であり,赤道部よりも前方を前嚢,後方を後嚢という。水晶体内では,赤道部前方の増殖帯で,生涯を通じて細胞分裂が行われ,分裂した上皮細胞は後方に押し出され,赤道部付近において線維細胞に分化し,細胞質が伸張し,弓状になって水晶体内部に移動する。内部の細胞は徐々に長さを増し,ついには前から後縫合まで長大な細胞質を持つ線維細胞となる。このようにしてできた水晶体中央部に位置する古い線維細胞を水晶体核と呼び,表層の比較的新しい線維細胞を皮質と呼ぶ(以上,乙B163・236,237頁)。このように,前嚢と皮質とは異なる部位を指し,組織学的にも全く異なるものであって,前嚢が皮質に包含される関係にもない。 さらに,「加齢白内障でみられる混濁には多くの病型があるが,その中で頻度が高く視機能に影響するものとして皮質,核,後嚢下の3主病型が知られており,この3主病型について診断することが基本となっている。 3主病型以外にも加齢水晶体にしばしばみられる混濁もあり,なかには視機能に大きく影響するものもある。」,「3主病型の診断基準には,LOCSⅢ,Wilmer,Wisconsin,Oxford,日本厚生省疫学研究班分類,WHO 分類など多くが発表されており,これらは多くの疫学研究,臨床研究で使用されている。」,「3主病型以外にも加齢に伴いみられる水晶体混濁は多く,そのなかでも…前嚢下白内障…はしばしばみられる混濁である。」(乙B163・253,254頁)とされているとおり,上記3主病型は,発症頻度が高く,視機能に影響することから,調査研究 の対象として,分類され,取り上げられている。他方で,前嚢下混濁を含む上記3主病型以外の混濁も存在し,それらは,必ずしも上記3病型のいずれかに分類されて調査研究の対象とされているわけではない。 の対象として,分類され,取り上げられている。他方で,前嚢下混濁を含む上記3主病型以外の混濁も存在し,それらは,必ずしも上記3病型のいずれかに分類されて調査研究の対象とされているわけではない。 そして,皮質白内障は,水晶体皮質線維の方向に沿って混濁し,水晶体上皮細胞の分化過程に異常が生じたものと考えられているのに対し,前嚢下白内障は,前嚢下に水晶体上皮細胞の異常増殖,変性及び重層化がみられた状態であるとされており,その発生機序も,症状も全く異なっている(乙B163・248頁)。 よって,およそ「3主病型として分類される場合,前嚢下混濁については,…皮質混濁に含めて分類されるのが一般であると解される」などということはできない。 (イ) また,第1審原告らが指摘するB論文(甲B27の2・2頁)の記載(「核(水晶体の中心部),皮質(水晶体の外層部),後嚢下(水晶体の後部で水晶体嚢の下部)」との記載)を見ても,「外層部」がどこまでの範囲を指すか必ずしも判然としない。そして,前記のとおり,前嚢と皮質は異なる部位を指し,組織学的にも全く異なるものであって,前嚢が皮質に包含される関係にないこと,B論文中には,前嚢下混濁を皮質混濁に含めて調査研究した旨の記載が一切ないこと,むしろ,上記論文1頁に,「水晶体は,水晶体核と皮質(外層)を形成する核のな水晶体繊維細胞と水晶体の表面を覆う核のある上皮細胞の一つ層で構成される嚢の中にあって目の前部にある」とあり,「皮質」と「嚢」とが明確に区別されていることは明らかであることからすれば,上記記載から「皮質混濁とは,水晶体の中心部及び水晶体の後部で水晶体嚢の下部以外の水晶体の外層部を指し,前嚢下も水晶体の外層部の一部であることから,前嚢下混濁は皮質混濁に含まれていると考えるのが自 上記記載から「皮質混濁とは,水晶体の中心部及び水晶体の後部で水晶体嚢の下部以外の水晶体の外層部を指し,前嚢下も水晶体の外層部の一部であることから,前嚢下混濁は皮質混濁に含まれていると考えるのが自然である。」などということは到底できないというべきである。 (ウ) さらに,第1審原告X1が指摘する「広島原爆被爆者の放射線白内障,1949年-64年」(甲B3の5・2頁)における記載(「皮質(前嚢下を含む)」との記載)について見ても,これは,「後嚢下混濁ではなく,皮質(前嚢下を含む)もしくは核混濁が明らかになった広島5症例と長崎の2症例を除外した。」とあるとおり,皮質混濁,前嚢下混濁及び核混濁を調査対象から除外したことを意味しているにすぎず,前嚢下混濁を皮質混濁に含めて調査研究がされたというものではない。 よって,上記記載から,「被爆者を対象とした白内障の調査において,皮質混濁には前嚢下混濁を含めて考えられていたことがうかがえる。」などと認めることはできない。 (エ) 以上のとおり,津田報告における老人性白内障には前嚢下混濁が含まれていた,津田報告やB論文により前嚢下混濁と放射線被曝との間に有意な関連性が認められる等の第1審原告X1の主張は理由がないというべきである。 (3) 第1審原告X1の推定放射線被曝線量に鑑みれば,同人の白内障が原爆放射線に起因する可能性は,認められないか,極めて低いというべきであることア第1審原告X1の被爆状況に照らせば,その被曝線量は健康に影響があり得る程度には達していないものと推定されること第1審原告X1が原爆投下後,爆心地付近に入市した旨の同人の供述を前提にしても,その推定被曝線量は,誘導放射線による被曝線量を含め,合計0. は達していないものと推定されること第1審原告X1が原爆投下後,爆心地付近に入市した旨の同人の供述を前提にしても,その推定被曝線量は,誘導放射線による被曝線量を含め,合計0.02グレイ程度にすぎない。これは,CT検査1回ないしは2回分程度の低線量の放射線被曝である。 仮に,原判決が判示するように,原爆放射線被曝の影響についての科学的知見に一定の限界があることを考慮した上で,外部被曝及び内部被曝の可能性を検討する必要があるとしても(原判決41,42頁),上記のようなDS02等の一般的な合理性に加えて,入市被爆者の外部被曝及び内部被曝の線 量が必ずしも高いものではなかったとの知見も得られていることをも併せ考慮すれば,その検討は慎重になされるべきである(なお,原判決は,第1審被告が,入市被爆者の外部被曝及び内部被曝の線量が必ずしも高いものではなかったことの根拠として挙げた賀北部隊工月中隊の事例等について,るる論難して排斥する(原判決38~40頁)。かかる判示は,前提とする科学的知見についての理解に誤りが散見される点で,必ずしも妥当とはいえないが,その反面,原判決が指摘する点を考慮しても,入市被爆者の外部被曝及び内部被曝の線量が必ずしも高いものではなかったとの知見が得られていること自体を否定し得るものではない点に注意が必要である。すなわち,上記判示によっても,入市被爆者の外部被曝及び内部被曝の線量が一般的に高線量であることまでは帰結し得ないことに,留意する必要がある。)。 したがって,仮に第1審原告X1について,第1審被告が主張するようなDS02等による推定被曝線量を上回るような線量の放射線被曝があった可能性を考慮するとしても,その場合には,上記のようなDS02等の一般的に合理性を有する知見に基づく推定を覆 審被告が主張するようなDS02等による推定被曝線量を上回るような線量の放射線被曝があった可能性を考慮するとしても,その場合には,上記のようなDS02等の一般的に合理性を有する知見に基づく推定を覆すに足りるような,第1審原告X1固有の個別的ないし特異的な事情(例えば,後記イで述べるような放射線被曝に特異的な身体症状の有無等)が,慎重に検討されなければならないというべきである。 イ第1審原告X1には下痢や脱毛等の身体症状が認められないこと第1審原告X1の母親は,昭和32年6月17日に行われた米国原爆傷害調査委員会(以下「ABCC」という。)の調査に際し,第1審原告X1について,下痢や脱毛等が無かった旨回答していること(乙C5の22・2枚目)や,第1審原告X1自身,原爆症認定申請書及び原爆症認定却下処分に対する異議申立書においては,脱毛が生じた旨の記載をしていなかったこと(乙C4の11・2枚目,5の2・2枚目)等からすれば,第1審原告X1には,被爆直後,下痢や脱毛等を発症していなかったと考えるのが相当である。 以上に対し,原判決は,第1審原告X1の母親が第1審原告X1の上記身体症状について認識していなかったこともあり得る,第1審原告X1は,吐き気や下痢については,原爆症認定申請及び却下処分に対する異議申立ての時点から一貫して主張しているなどとして,上記身体症状が生じたと認められる旨判示した(原判決50,51頁)。 しかしながら,第1審原告X1と同人の母親とは,被爆後,行動を共にしていたものと認められるところ(原判決48頁),仮に,第1審原告X1の供述を前提にすると,鏡で自分の顔を見て髪が薄くなっていることが分かる程度に脱毛したというのであるから(第1審原告X1本人27 していたものと認められるところ(原判決48頁),仮に,第1審原告X1の供述を前提にすると,鏡で自分の顔を見て髪が薄くなっていることが分かる程度に脱毛したというのであるから(第1審原告X1本人27,28頁),そのことを同人の母親が認識していなかったというのは不自然であるといわざるを得ない。また,脱毛は,原爆放射線被曝による急性放射線症候群に特徴的な所見であり,実際にそのような事実があったにも関わらず,それを主張し忘れるということは通常考え難いところ,前記のとおり,第1審原告X1は,当初脱毛を主張していなかったのであり,主張が一貫しているとはいえない。これらの事実は,第1審原告X1が本件訴訟において,自己の記憶とは異なる事実を供述,主張していることを強く推認させる事実というべきである。 そうすると,この点に関する原判決の前記判示部分は説得的なものとはいい難く,第1審原告X1に前記身体症状が生じたとの前記判示部分は誤りというべきである。 ウ小括よって,第1審原告X1は,直ちに健康に影響があり得る程度に被曝したとは認められないというべきである。 (4) 第1審原告X1の右眼白内障の混濁は皮質混濁であることについてア臨床現場において「前囊下混濁」という用語が水晶体皮質の前側部分に位置する混濁を含むものとして用いることが一般的であるとはいえないこと 白内障の所見として混濁には多くの病型があるものの,その中で頻度が高く視機能に影響するものとして皮質,核,後嚢下の3主病型が知られており,この3主病型について診断することが基本とされている(乙B163・247,248頁。第1審被告が提出済みの眼疾患に関するいずれの文献においても,白内障の混濁部位による分類については,上記3主病型又は3主病型に前嚢下 て診断することが基本とされている(乙B163・247,248頁。第1審被告が提出済みの眼疾患に関するいずれの文献においても,白内障の混濁部位による分類については,上記3主病型又は3主病型に前嚢下混濁を加えた4種に区分されている。乙B163,167~170参照)。 このような3主病型の区別は,「診断」に関するものである以上,単に「教科書的」なものではなく,正に「臨床」的意義に基づくものである。 より具体的にいえば,白内障は,混濁の部位により,原因や予後等が異なると理解されている。例えば,皮質白内障は加齢白内障,糖尿病白内障,併発白内障等にみられるのに対し,後囊下白内障は,上記のほかステロイド白内障,ガス白内障等にみられ,前囊下白内障は,アトピー白内障,ぶどう膜炎併発白内障等にみられるなど,原因を異にする場合があるとされている。また,核白内障では,硝子体手術後にも核白内障が進行することが知られている(以上につき,乙B163・348頁)。 このように,白内障の混濁部位の診断いかんによっては,予後の管理や治療方針,更には患者への説明内容等が変わることが考えられるなど,白内障の混濁部位の鑑別診断は臨床上重要な意義を有するものである。そうである以上,これらを「厳密に区別して記載する臨床的必要性に乏しい」などといえるものではないし,3主病型を基軸に診断が行われる臨床の現場において,3主病型ないしこれとは異なる前囊下混濁とを混同の上,「一般には,『前嚢下混濁』と『前皮質混濁』を含んで,『前嚢下混濁』と記録されている」などということが一般的に行われることは考えられない。 イ C医師が,第1審原告X1の右眼の混濁を「皮質混濁」と認めたにもかかわらず,診療録上,あえて「前嚢下混濁」と記載したとは考え難いこと 本件スケ 般的に行われることは考えられない。 イ C医師が,第1審原告X1の右眼の混濁を「皮質混濁」と認めたにもかかわらず,診療録上,あえて「前嚢下混濁」と記載したとは考え難いこと 本件スケッチ図の記載は不鮮明かつ不明確であるが,少なくとも本件スケッチ図中,右眼の前嚢下と思われる部分(青い四角で囲まれたもののうち左側部分)においては,明らかに当該部分全体が青色で塗られており,かつ,色の濃淡は非常に曖昧である。このような記載は,前囊下混濁を意味するものと解したとしても,何ら矛盾が生じるものではない。 また,C意見書(甲C5の5)添付資料1における「前皮質白内障」の水晶体を正面から記載したスケッチ図を見ると,皮質混濁に特徴的な楔状混濁が記載されているようである。しかしながら,本件スケッチ図中,右眼の水晶体を正面から記載したスケッチ図にはこのような特徴的な所見は全く見られず,水晶体全面が漫然と青色で塗られているだけである。 このように,少なくとも,本件スケッチ図からは,当該記載が明確に皮質混濁の特徴を捉えた上でなされたものとまでは断言できず,前囊下混濁の特徴を捉えて記載されたものであると解することも十分に可能というべきであるし,かかる理解は,むしろ本件スケッチ図に付記された「ASCO(+)」との記載とも整合するものといえる。 以上によれば,本件スケッチ図の記載に基づき,第1審原告X1の右眼に確認された混濁について「前皮質混濁」であると解することは困難というべきである。 2 第1審原告らの要医療性について(1) 被爆者援護法10条1項の「現に医療を要する状態」(要医療性)の意義ア 「医療」を要する状態の意義被爆者援護法10条1項にいう「医療を要する状態」(要医療性)とは,被爆者の 者援護法10条1項の「現に医療を要する状態」(要医療性)の意義ア 「医療」を要する状態の意義被爆者援護法10条1項にいう「医療を要する状態」(要医療性)とは,被爆者の申請に係る負傷又は疾病(申請疾病)が「医療」を必要とする状態にあることを指すものである。 ここに「医療」とは,「医術で病気をなおすこと」(乙B153),すなわち申請疾病がその状態や症状等を改善したりその状態や病状等の増悪 を抑制したりするなどの点において医療効果が期待できる措置を意味する。このような意味における医療措置は,典型的には,被爆者援護法10条2項3号の「医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術」のような,いわば純然たる治療行為が相当することになる。したがって,同条1項の「医療を要する状態」というのも,上記のような純然たる治療行為を必要とする状態にあることを基礎として理解すべきことになる。 もっとも,「医術で病気をなおす」場合には,通常,上記のような純然たる治療行為のみならず,これに付随して診察,薬剤の投与,入院看護等の一連の医療サービスが併せて給付されるのが常である。その意味では,「医療を要する状態」という中には,上記純然たる治療行為のみならず,当該治療を目的として,これと共に行われる一連の医療サービスを必要とする状態をも含むものと解するのが相当である。 また,被爆者援護法は,社会保障法として他の公的医療給付立法と同様の性格と国家補償としての性格を併せもつものと解される(被爆者援護法の前身である原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和32年法律第41号)について判示した最高裁判所昭和53年3月30日第一小法廷判決・民集32巻2号435頁)。このうち,社会保障立法としての性格から 前身である原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭和32年法律第41号)について判示した最高裁判所昭和53年3月30日第一小法廷判決・民集32巻2号435頁)。このうち,社会保障立法としての性格からは,当該社会保障給付の内容には医学的な合理性,相当性が求められるというべきである。すなわち,被爆者に要医療性が認められるためには,被爆者が必要としている「治療」の内容は,申請疾病に対する治療目的を達成するために医学的に必要と認められるものであり,かつ,方法として有効適切なものでなければならない。被爆者が申請時において現に医療機関に受診し,何らかの治療を受けていたとしても,それが医学的にみて申請疾病に対する必要な治療と認められなかったり,有効適切なものでない場合には,要医療性を認めることはできないのである。 イ 「現に」医療を要する状態の意義 「現に」医療を要する状態というのは,処分時や処分に係る訴訟の口頭弁論終結時ではなく,原爆症認定申請時において認められなければならない。なぜなら,原爆症認定の効果である医療特別手当は,認定申請日の属する月の翌月に遡って支給すべきものとされているからである(被爆者援護法24条4項)。 ウ小括したがって,被爆者援護法10条1項における「現に医療を要する状態」というのは,被爆者が,原爆症認定申請時において,申請疾病に対する「医療」を必要とする状態にあることを意味するものであるが,ここでいう「医療」の内容は,①申請疾病に対する純然たる治療行為を中心に,当該治療目的でこれに付随し,又は直接ないし間接的な治療効果を期待して行われる一連の医療サービスを意味するものであって,②申請疾病の治療として医学的に必要と認められるものであり,かつ,方法と 心に,当該治療目的でこれに付随し,又は直接ないし間接的な治療効果を期待して行われる一連の医療サービスを意味するものであって,②申請疾病の治療として医学的に必要と認められるものであり,かつ,方法として有効適切なものでなければならない。 (2) 医師による診察を受けることのみで要医療性の要件が充足される旨の解釈が誤りであること第1審原告らは,何ら積極的な治療を行わない場合であっても,医師による診察を受けることのみで,要医療性の要件が充足される旨主張する。 しかしながら,要医療性の要件についてのあるべき法解釈は,上記(1)で詳述したとおりであり,第1審原告らの主張するような法解釈は,およそ法が予定しないところである。そして,このことは,本件において問題とされている白内障を例にとってみても明らかである。 すなわち,白内障は,徐々に進行するものであって,初期の段階にあっては,視力も維持され,日常生活に支障がないことも少なくない。取り分け,初期の皮質白内障のように,光が通過しない部分が濁っているにすぎない場合,自覚症状がないことすら少なくない(乙B170)。実際,本件における 第1審原告X2については,原爆症認定申請当時(平成20年3月18日)における白内障の程度は軽度であり,その後,平成24年6月27日時点においても,その矯正視力は,右眼0.9,左眼1.2であり,日常生活に特段の支障はなかったものと解される。そして,白内障の治療方法は,手術のみであって,手術を行えば白内障(混濁)自体は治癒する反面,これを行わなければ,白内障(混濁)が治癒することはないとされている。さらに,上記手術適応については,専ら患者が日常生活に不具合を感じた時点であって,患者が積極的に希望しなければ手術は行われないのであ を行わなければ,白内障(混濁)が治癒することはないとされている。さらに,上記手術適応については,専ら患者が日常生活に不具合を感じた時点であって,患者が積極的に希望しなければ手術は行われないのである。しかるに,第1審原告らの前記法解釈に従えば,一度白内障と診断されれば,本人が手術を希望しない限り,生涯,要医療性が認められ,医療特別手当の支給を受け続けることとなる。このような事態は,「医療を要する状態」にあるときに「必要な医療の給付」を行い,その期間に限定して医療特別手当を支給する(必要な医療の給付が行われた結果疾病が治癒した場合には医療特別手当の支給を終了する)こととした原爆症認定制度の趣旨を明らかに逸脱するものであって,もはや法が予定していないものといわざるを得ない。 他方で,第1審被告の主張する解釈を前提にしても,被爆者援護法が段階的に援護施策を講じていることに鑑みれば,白内障が進行し,日常生活に支障が出るまでの間は,健康診断等を通して健康管理をすることが可能であり,何ら被爆者に酷となるものではない。むしろ,第1審被告の主張する解釈を前提にした場合に想定される経過,すなわち,日常生活に支障が出て,手術をしてその回復を要する状態になった段階で,原爆症認定申請をし,同認定を受け,手術を受けるとともに,医療特別手当を受給し,同手術後,術後後遺症等を確認するために一般的に必要と考えられる術後の経過観察期間を経て,治癒したものとされ,その後は,特別手当の支給を受けることになるという経過こそ,本来法が予定している援護施策であるというべきである。 (3) 要医療性の判断において前提とされる医療が医学的に有効適切であるこ とを要しない旨の解釈が誤りであること以上に加え,第1審原告らは,要旨,主治医 きである。 (3) 要医療性の判断において前提とされる医療が医学的に有効適切であるこ とを要しない旨の解釈が誤りであること以上に加え,第1審原告らは,要旨,主治医が経過観察の必要を認めれば,何らの積極的な治療を行わない場合であっても,それは,被爆者援護法における「診察」に該当するのであり,その必要性の判断に求められるのは,医学的に妥当適切かどうかであり,医学的に有効適切であるかどうかではないなどと主張する。 しかしながら,かかる主張に理由がないことは,前記(1)に照らして明らかである。実際にも,被爆者援護法の前身である原爆医療法は,厚生大臣による医療の給付を原則として規定しており(同法7条1項),厚生労働大臣が上記医療の給付を行うに当たり,医療を担当させる医療機関をあらかじめ指定し(同法9条1項),当該医療機関が不適当であれば,その指定を取り消すことができ(同条3項),また,同医療機関は医療を行うについて,厚生労働大臣の指導に従わなければならないものとされている(同法10条2項)。 上記各規定は,被爆者であれば原爆症以外の一般疾病についても自己負担なく医療を受けることが可能である現行被爆者援護法においてもそのまま引き継がれている(同法10条,12条及び13条)。かかる規定に鑑みれば,厚生労働大臣が給付を行う上記「医療」に,およそ医学的に有効性の認められないような手段が含まれないことは論をまたない。 この点,第1審原告らは,末期がん患者に対する終末医療を例に挙げて,自説の論拠としようとするが,このような患者に対しては,末期がんそれ自体に対する根治治療は不可能であっても,一般に緩和医療を施すことが有効適切な「医療」として医学的に承認されているのであって,医療の必要性が認めら うとするが,このような患者に対しては,末期がんそれ自体に対する根治治療は不可能であっても,一般に緩和医療を施すことが有効適切な「医療」として医学的に承認されているのであって,医療の必要性が認められることに何ら疑問の余地はない。末期がんと放射線白内障とでは議論の次元が全く異なるのであって,末期がんのような事例と,放射線白内障について全く医学的効果が認められないカリーユニ点眼液の投与のような事例とを並列的に論じることは,明らかに失当であるといわざるを得ない。 (4) 第1審原告らの放射線白内障が老人性白内障ともいうことができる旨の主張には明らかな論理の飛躍があり,失当であることア第1審原告らは,津田報告を根拠に,「被爆者は,被爆後数十年経過後,後嚢下混濁のみならず,皮質混濁を発症し得ることが疫学的に明らかになった。」とした上で,「このような被爆後数十年経過後に発症する白内障は,その発生機序が十分に解明されていないことからすれば,その発症時の年齢からは,老人性白内障ともいい得るものである。」とし,「被爆者にも加齢現象は起こり得ることも併せ考えれば,被爆後数十年して発症する原爆放射線による白内障(後嚢下混濁,皮質混濁)は,老人性白内障ともいい得るものである。」とし,「したがって,原爆放射線による白内障にも,老人性白内障に適応とされるカリーユニ点眼液の薬効は否定できない。」などと主張する。 イしかしながら,第1審原告らの上記主張は,明らかな論理の飛躍があり,何ら科学的根拠を示さないまま老人性白内障と放射線白内障とを混同し,あるいは,強いてこれを混同させ,放射線白内障にカリーユニ点眼液の効果があるものと裁判所を誤導するものといわざるを得ない。 すなわち,津田報告の信頼性についてはさておき,仮に,同論文 るいは,強いてこれを混同させ,放射線白内障にカリーユニ点眼液の効果があるものと裁判所を誤導するものといわざるを得ない。 すなわち,津田報告の信頼性についてはさておき,仮に,同論文を基に,放射線被曝によって皮質混濁が起こり得ると考えられたとしても,それは,飽くまで,放射線による影響で皮質混濁が起こり得ることを意味するにすぎず,そのことと,一般的に加齢によって起こり得る皮質混濁との関係については何ら示されていないというべきである。 そして,これに続く第1審原告らの前記主張は,結局,当該疫学調査において,放射線被曝によって被爆後数十年経過して白内障が発症した可能性が示唆されたことのみをもって,それが「老人性白内障ともいい得る」などと強弁しているにすぎず,放射線被曝と「老人性白内障」との関係について,何ら科学的根拠を示しておらず,この点において論理の飛躍があ るといわざるを得ない。 以上のとおり,第1審原告らの上記主張には,明らかな論理の飛躍があり,失当であるといわざるを得ず,このような主張を前提に,原爆放射線による白内障にも,老人性白内障に適応とされるカリーユニ点眼液の薬効は否定できないなどと主張することは,老人性白内障と放射線白内障とを混同しているか,あるいは,強いてこれを混同させ,放射線白内障にカリーユニ点眼液の効果があるものと裁判所を誤導するものといわざるを得ない。 (5) 第1審原告らの放射線被曝によりトリプトファンの代謝異常が生じる旨の主張には明らかな論理の飛躍があり失当であることア第1審原告らは,「放射線感受性の高い水晶体上皮細胞の細胞死・細胞障害・細胞ゲノムの遺伝子障害によるとする知見のほかにも,免疫損傷を介してその影響による白内障を あり失当であることア第1審原告らは,「放射線感受性の高い水晶体上皮細胞の細胞死・細胞障害・細胞ゲノムの遺伝子障害によるとする知見のほかにも,免疫損傷を介してその影響による白内障を発症する可能性が指摘されるに至っている(B論文)。つまり,原爆放射線による上皮細胞の損傷等のほか,その影響による免疫損傷による加齢現象の促進により,皮質や後嚢下白内障を発症するものと考えられるようになったのである。」とし,「そうだとすれば,放射線の作用による加齢促進としての効果から,通常の加齢促進としての効果であるトリプトファンの代謝異常(キノイド説による)が起こることは十分に考えられることである。」などと主張する。 イしかしながら,第1審原告らの上記主張も,明らかな論理の飛躍があり,失当であるといわざるを得ない。 すなわち,第1審原告らは,要するに,①放射線被曝によって免疫損傷が起こり得る,②免疫損傷により加齢現象が促進する,③加齢促進の効果としてトリプトファンの代謝異常が起こり得ると述べるものと解される。 しかしながら,一言で「加齢現象」と言っても,その具体的内容やメカニズムは,人体の各部位によって異なるところである。そして,本件にお いて問題となっているのは,放射線被曝によってトリプトファンの代謝異常が生じ,かつ,それによりキノン体が発生するのかという点である。 この点,第1審原告らは,「加齢現象」や「加齢促進」といった極めて抽象的な文言を用いることで,あたかも放射線被曝による免疫損傷により,トリプトファンの代謝異常が生じ得るかのように主張するのであるが,そもそも第1審原告らのいう「免疫損傷」の具体的内容も明らかでないし,それによってなぜトリプトファンの代謝異常が生じ得 疫損傷により,トリプトファンの代謝異常が生じ得るかのように主張するのであるが,そもそも第1審原告らのいう「免疫損傷」の具体的内容も明らかでないし,それによってなぜトリプトファンの代謝異常が生じ得るのかについても何ら科学的根拠が示されていない。このように,水晶体上皮細胞に関して,放射線被曝によって何らかの免疫損傷が生じるといった主張自体,科学的根拠の乏しいものであるといわざるを得ない。 そして,いわゆるキノイド説を提唱したD氏の論文(乙B159)においては,トリプトファンの代謝異常に関して,免疫損傷が寄与しているかのような記述は一切見当たらない。 よって,この点において,第1審原告らの前記主張には明らかな論理の飛躍があるといわざるを得ない。 ウ更にいえば,眼は,脳や生殖器官と同様に,臓器機能を温存するために免疫応答としての炎症が自動制御される性質(免疫特権)が備わっている特殊な臓器であるとされている。すなわち,視覚は,高等動物の生命活動に不可欠であり,眼は視覚維持のために非常に重要な臓器であるため,眼内に侵入した異物について過剰に免疫応答としての炎症反応が生じると,失明に至るなど,視機能が停止してしまいかねない。そのため,眼内の恒常性を維持するため,積極的に免疫応答を抑制する性質が備わっている(乙B173~175)。 前記イで述べたとおり,そもそも,第1審原告らのいう「免疫損傷」の具体的内容は不明であり,また,どのようなメカニズムで,放射線被曝による免疫損傷によりトリプトファンの代謝異常が生じ,それによりキノン 体が生じると主張するのかも不明であるといわざるを得ないが,上記のとおり,本来的に,眼については免疫応答を抑制する性質が備わっていること トリプトファンの代謝異常が生じ,それによりキノン 体が生じると主張するのかも不明であるといわざるを得ないが,上記のとおり,本来的に,眼については免疫応答を抑制する性質が備わっていることに鑑みれば,「免疫損傷」により,免疫機能が更に低下するなどして,その結果としてトリプトファンの代謝異常や,キノン体の発生が生じるものとは考え難いというべきである。 (6) 第1審原告らの放射線被曝によりキノン体が発生することが十分に考えられるとの主張は,何ら科学的裏付けを欠くものであることア第1審原告らは,「放射線の作用(DNA損傷)により,(中略)トリプトファンの構造に何らかの影響を与え得ることは明らかである。」とした上で,「人体内のあらゆるところに存在している酸素原子と結合し(中略)元々のベンゼン環の水素原子二つを酸素原子二つに置き換えた構造を持つ化合物が発生することも十分に考えられることである。」などと主張する。 イしかしながら,第1審原告らの上記主張は,何ら科学的根拠を伴わない,短絡的な主張であるといわざるを得ない。 すなわち,トリプトファンは,その分子構造からも明らかなとおり,側鎖にベンゼン環とピロール環(分子式はC4H5N)とが縮合したインドール環を持つ化合物であり,単純なベンゼン環の形で存在する訳ではない。 それゆえ,そもそも,単純に水素原子2つと酸素原子2つを置き換えただけでキノン体が生じるものではないし,現実に放射線の影響でそのような化学反応が生じたという報告は見当たらない。そもそも,水晶体は,クリスタリンと呼ばれる水晶体蛋白が緻密に重層し,透明度の高いレンズを構築しており,クリスタリンは,水晶体全面を覆っている上皮細胞から分化した繊維細胞で主に合成され,水晶体内部へ送り込 ,水晶体は,クリスタリンと呼ばれる水晶体蛋白が緻密に重層し,透明度の高いレンズを構築しており,クリスタリンは,水晶体全面を覆っている上皮細胞から分化した繊維細胞で主に合成され,水晶体内部へ送り込まれるが,一度合成されたクリスタリンは代謝回転をせず,水晶体内に一生とどまるとされている(乙B176)。それゆえ,仮に,キノン体が生成され,これがクリスタリンと結合するのであれば,白内障患者の水晶体に関する調査において, 現実にキノン体が検出されてしかるべきであるが,そのような報告すら見当たらない。 結局,第1審原告らの上記主張は,何ら具体的,科学的根拠に基づくものではないのであって,明らかに失当である。 第3章当裁判所の判断第1 原爆症認定における放射線起因性の判断基準(争点①) 1 原爆症認定における放射線起因性の判断基準については,2項のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3章当裁判所の判断」の「第1 原爆症認定における放射線起因性の判断基準(争点①)」欄の1項~3項(原判決21頁25行目~42頁3行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。すなわち,新審査の方針の下での被曝線量の算定方法は,科学的合理性を肯定することができるものの,測定精度等について一定の限界が存する上,誘導放射線及び放射性降下物による放射線については,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の面で過小評価となっている疑いがあり,DS02等により算定される被曝線量は,飽くまでも一応の目安とするにとどめるのが相当であって,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかど とどめるのが相当であって,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるというべきである。そして,個々のケースにおける放射線起因性の判断については,原爆放射線に被曝したことにより,その負傷又は疾病ないしは治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることが必要であるが,当該被爆者の放射線への被曝の程度と,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他疾病に係る病歴,当該疾病等に係る他の原因の有無及び程度等を総合的に考慮して,原子 爆弾の放射線への被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。 2 原判決の補正(1) 原判決26頁11行目から12行目にかけての「DS86」を「DS02」と改め,13行目の「問題があった」の次に「(乙B6の1・2)」を,20行目の「バックグラウンド」の次に「(自然界に存在する線量)」をそれぞれ加える。 (2) 原判決27頁15行目の「乙B105」を「乙B6の2」と改める。 (3) 原判決31頁16行目から17行目にかけての「乙B14」を「乙B14の1・2」と改める。 (4) 原判決34頁21行目の「46」を「46の1・2」と,23行目の「96の1」を「96の1・2」とそれぞれ改める。 (5) にかけての「乙B14」を「乙B14の1・2」と改める。 (4) 原判決34頁21行目の「46」を「46の1・2」と,23行目の「96の1」を「96の1・2」とそれぞれ改める。 (5) 原判決39頁13行目の「大量の残留放射線」から15行目末尾までを次のとおり改める。 「大量の残留放射線に被曝した原爆被爆者が存在する可能性や内部被曝が検出されていない可能性は否定できない。」第2 原爆症認定要件該当性(争点②) 1 白内障における放射線起因性について(1) 水晶体,白内障に関する一般的知見ア水晶体の構造等水晶体は,直径9mm,厚さ3~4mm,重さ0.2gで,瞳孔の後ろに位置し,前房と硝子体の間にある。水晶体は錠剤のような形をしており,水晶体嚢と呼ばれる皮膜に包まれた両凸レンズである。水晶体は,嚢,上皮,皮質,核に大別され,このうち嚢とは,水晶体全体を包む弾力性を有する上皮細胞の基底膜であり,赤道部(前面と後面の接する円形境界部分)よりも 前方を前嚢,後方を後嚢という。上皮細胞は,一層からなり,赤道部及び前嚢下にのみ存在し,後嚢側には存在しない。上皮細胞の赤道部前方の部位(増殖帯と呼ばれる部位)で,生涯を通じて細胞分裂が行われ,分裂した上皮細胞は後方に押し出され,赤道部付近において線維細胞に分化し,細胞質が伸張し,弓状になって水晶体内部に移動する。内部の細胞は徐々に長さを増し,ついには前から後縫合まで長大な細胞質を持つ線維細胞となる。このようにしてできた線維細胞のうち,水晶体中央部に位置する古い線維細胞を水晶体核と呼び,表層の比較的新しい線維細胞を皮質と呼ぶ(以上につき,乙B65・9,178頁,163・236,237頁)。放射線による影響を受けやすいのは細胞分裂の盛んな部位であるため,水晶体 胞を水晶体核と呼び,表層の比較的新しい線維細胞を皮質と呼ぶ(以上につき,乙B65・9,178頁,163・236,237頁)。放射線による影響を受けやすいのは細胞分裂の盛んな部位であるため,水晶体は人体組織のうちでも最も放射線感受性の高い組織である(甲B3の4,27の1・2,29)。 イ白内障の種類等白内障は,水晶体が混濁(蛋白の変性,線維の膨化や破壊による)した状態をいう。その原因には先天性と後天性のものがあり,後天性のものとしては,老人性,外傷性,併発性,放射線性,内分泌代謝異常性,薬物又は毒物性などが知られている。混濁部位による分類として,大きくは,前嚢下白内障,皮質白内障,核白内障,後嚢下白内障に分類され,そのうち皮質,核,後嚢下の各白内障が主病型とされる。皮質白内障には,赤道部から瞳孔領に向かって前後に広がる楔状混濁と,水晶体周辺部に瞳孔に沿って広がる輪状混濁がある。(甲B40,乙B65・178頁,67・7頁,163・247頁以下)。 (2) 老人性白内障についてア老人性白内障の混濁部位,発症年齢,発生機序等白内障のうち圧倒的に多いのは老人性白内障であり,これは,3主病型(皮質,核,後嚢下)のうち,皮質及び核混濁の有所見率が高く,後嚢下混濁が最も低い(乙B67・7頁)。 初発年齢に個人差があるものの,一般に50歳以上で他に原因を見出せないものを指すという知見(乙B65・180頁)や,有所見率は加齢に伴い増加し,50歳代で37~54%,60歳代で66~83%,70歳代で84~97%,80歳以上で100%とされているという知見(乙B67・7頁)が存在するが,近時では,初期白内障例は40歳代では約30%であるという知見(乙B71・70頁)や40代では40%の白内障患者がいるとされているという 00%とされているという知見(乙B67・7頁)が存在するが,近時では,初期白内障例は40歳代では約30%であるという知見(乙B71・70頁)や40代では40%の白内障患者がいるとされているという知見(乙B152)も存在する。 老人性白内障の成因については,細胞内のアミノ酸であるトリプトファンの代謝異常の結果生じたキノン体(キノイド物質)が,水晶体を構成する水溶性蛋白の一つであるαクリスタリンに結合し,これを変性させ,不溶性蛋白に移行させることで,混濁が生じるというキノイド説があったが(乙B155,156,157・213,214頁,158,159),近時では,水溶性及び不溶性蛋白の総量変化,増殖帯における上皮細胞異常,遺伝要素,水及び電解質バランスの崩壊,抗酸化物質の減少による酸化障害などの多因子が複合することにより発症するといわれている(乙B163・238頁)。 イ老人性白内障の治療等カリーユニ点眼液は,一般名をピレノキシンといい,その添付文書では,効能・効果は初期老人性白内障と記載されている。その薬効は,老人性白内障の発生機序につきキノイド説を前提とし,キノン体よりもさらに水晶体の水溶性蛋白と親和性が強く,キノン体が水晶体の水溶性蛋白に結合するのを競合的に阻害して水晶体蛋白の変性を防止するというものである。(乙B155)このように,カリーユニ点眼液は,老人性白内障について,キノイド説を前提にしてその進行を抑止する効果があるだけであり,その治療は,手術以外にはない。最も一般的に行われている術式は水晶体超音波乳化吸引術及び眼内レンズ移植術であり,水晶体嚢を残し混濁内容を破砕,吸引除去した後, 水晶体嚢内に人工の眼内レンズを移植することにより,白内障になる前の視力を回復できる。手術に要する 波乳化吸引術及び眼内レンズ移植術であり,水晶体嚢を残し混濁内容を破砕,吸引除去した後, 水晶体嚢内に人工の眼内レンズを移植することにより,白内障になる前の視力を回復できる。手術に要する時間は約10分~15分程度であり,日帰り手術がごく一般的になっている。(乙B169,乙C13の12・224頁)老人性白内障に限らず,白内障の手術適応時期については,様々な意見があり統一されておらず,一般的に矯正視力が0.5以下で日常生活に不便を感じていれば手術適応となるという見解(乙B163の252頁),視力低下の程度や混濁の程度で決まっているものではなく,患者自身が白内障のために日常生活が不自由になった時点とする見解(乙C13の12の224頁,13の14の75頁)などがある。 (3) 放射線白内障についてア一般的に指摘されている特徴放射線白内障の特徴としては,①電離放射線の種類に関係なく,どの放射線でも,水晶体には同じような形態学的変化を起こす,②水晶体に同じ吸収線量が照射されたときには,放射線の種類によって障害の程度に強弱がある,③照射された線量が大きいほど,白内障発生までの潜伏期は短く,白内障の程度は強い,④幼若な個体ほど変化が強いが,放射線に対する感受性には個体差もある,⑤混濁は水晶体の後極部で後嚢下に初発し,斑点状ないし円板状混濁を形成し,一部は拡大してドーナツ状となり,これを細隙灯顕微鏡でみると,混濁の表面は顆粒状で,多色性反射(色閃光)がみられることがある,また,混濁は後嚢下とその少し前方に位置するものに分かれ,二枚貝様の混濁を形成する,このような,初期にみられる所見は放射線白内障に特徴的なものである(ただし,後嚢下に混濁が生じるものの中にはステロイド白内障等もあり,老人性白内障でも,後嚢下からはじまるものもあって 混濁を形成する,このような,初期にみられる所見は放射線白内障に特徴的なものである(ただし,後嚢下に混濁が生じるものの中にはステロイド白内障等もあり,老人性白内障でも,後嚢下からはじまるものもあって,鑑別が必要である。),以上の特徴が指摘されてきた。なお,原爆白内障(原爆被爆の後障害としての放射線白内障)の臨床像は,原爆以外の放射線によって生じた白内障と極めて類似しているとされる。そして,原爆白内障の診断基 準として,㋐後極部後嚢下にあって色閃光を呈する限局性の混濁,又は,後極部後嚢下よりも前方にある点状ないし塊状混濁があること,㋑近距離直接被曝歴があること,㋒併発白内障を起こす可能性のある眼疾患がないこと,㋓原爆以外の電離放射線の相当量を受けていないことの4条件を指摘する文献がある(以上について,乙B68・151頁)。 また,放射線白内障は,老人性白内障と異なり,多くは進展しない(停止性)とされる(乙B66,68・156頁)。原爆白内障は,通常は,放射線に被曝してから数か月から数年以内に発症するとされており,被曝線量が高くなるほど発症率も高く,重篤になる傾向があり,発症時期も早くなるが,軽症例の潜伏期は遷延する(乙B68・151~156頁)とされている。 イ発生機序放射線白内障の発生については,分裂を起こしやすい水晶体前嚢の直下の上皮細胞は,正常に分裂し成熟すれば核を失い透明な水晶体線維となるところ,ここに電離放射線が当たって細胞が障害されると,変性した細胞が核を持ったまま後嚢の中央部である後極に移動して集まるため,光の直進が妨げられるという機序で説明されていた(乙B66)。 しかし,最近では,放射線白内障で水晶体混濁が発生する原因は,水晶体の上皮細胞のゲノムの遺伝子の変異によって生じた水晶体の線維蛋白の異常にあ が妨げられるという機序で説明されていた(乙B66)。 しかし,最近では,放射線白内障で水晶体混濁が発生する原因は,水晶体の上皮細胞のゲノムの遺伝子の変異によって生じた水晶体の線維蛋白の異常にあるとされている(甲B3の10・13頁)。すなわち,放射線被曝により生じた遺伝子の損傷により細胞分裂,細胞分化の異常が生じ,その結果,透明度を失い混濁・白濁した水晶体繊維細胞が集積された結果であると考えられている。(乙B166)ウ治療放射線白内障の治療は,老人性白内障と同様,手術以外にはない(証人A,弁論の全趣旨)エ放射線白内障のしきい値について ICRP(国際放射線防護委員会)勧告によると,放射線白内障は確定的影響(放射線による健康影響のうち,ある一定の線量以上の放射線に被曝すると影響が出るもの)であり,しきい値が存在するとされており,2012年勧告(乙B141の1・2)においても,「いくつかのしきい値計算において,95パーセント信頼区間の下限に0線量を含むものがあるが,ひとつの損傷された祖先となる水晶体上皮細胞が白内障を引き起こしうるとの直接的な証拠はなく,それゆえ,放射線起因性のある水晶体白内障は,今もなお,小さくてもしきい線量のある組織反応(確定的影響)であると考えられている。」とされている。そのしきい値は,2007年勧告において1.5シーベルト(1.5グレイ)(乙B69)であったが,2012年勧告においては放射線防護の観点を加味して0.50シーベルト(0.5グレイ)に引き下げられており,これは,検査で見つかるような混濁が白内障に進行するという性質や,思春期直後に比して子どもの水晶体の放射性感受性がより高い傾向にあるという警告に従ったものであって,今後さらなる評価が必要であるとされている(乙B14 かるような混濁が白内障に進行するという性質や,思春期直後に比して子どもの水晶体の放射性感受性がより高い傾向にあるという警告に従ったものであって,今後さらなる評価が必要であるとされている(乙B141の1・302頁,141の2・3頁)。 そして,UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)2010年報告書(乙B142)には,「最近の研究によって白内障の罹患の増加が,低線量放射線被ばくに関連している可能性を示唆していることも記す。目の水晶体におけるそのような異常の誘発は,高線量被ばくの影響として何年にもわたって認識されてきた。循環器疾患と同様に,本委員会はこの分野における新たな知見の監視とレビューを継続するつもりである。」と記載されている(乙B142・17頁)。 (4) 被爆者の白内障についての近時の知見について放射線影響研究所(以下「放影研」という。)及びその前身であるABCCによって隔年ごとに実施されてきた成人健康調査(AHS)の第8報・Eら「原爆被爆者におけるがん以外の疾患の発生率,1958-1998 年」(以下,単に「AH S第8報」という。)は,後嚢下又は皮質という混濁の部位を区別しないものの,被爆者の白内障発症率が放射線量に伴い有意に上昇する内容の線形の線量反応関係(0シーベルトから開始される直線的な線量関係)があることを示した(甲B11の40・8頁)。 津田報告は,成人健康調査対象者のうち被爆時の年齢が13歳未満の者の全員及び昭和53年~55年眼科調査(2回目の調査であり,被曝後33年目の調査)を受けた者につき,被曝後55年の時点(平成12年~14年)の眼科調査(3回目の調査)が行われた873名について解析した結果,皮質混濁及び後嚢下混濁についての1シーベルト当たりのオッズ比(ある要因が増大する につき,被曝後55年の時点(平成12年~14年)の眼科調査(3回目の調査)が行われた873名について解析した結果,皮質混濁及び後嚢下混濁についての1シーベルト当たりのオッズ比(ある要因が増大することにより発症リスクが増大する割合を示すもの。乙B111)が1.3程度であること(P値《当該要因がある群とない群とで発症率が等しいとする仮説が正しいと仮定した場合に各群のデータ結果の差が起こる確率であり,0.05を下回る場合に上記仮説が誤りであり両群に有意な差があると判定することが多い。乙B109》は0.001未満)を指摘し,遅発性の放射線白内障(後嚢下混濁)及び早発性の皮質混濁(老人性白内障)と被曝との間に有意な相関が認められるとする(甲B2の4)。 中島報告は,被曝後55年の時点における上記調査のデータを解析した結果,皮質混濁及び後嚢下混濁に対する最良のモデルでは線量効果が有意であり,皮質混濁及び後嚢下混濁についてのしきい値は,それぞれ0.2シーベルト(95%信頼区間は0シーベルト~1.4シーベルト)及び0シーベルト(95%信頼区間は0シーベルト~0.8シーベルト)であったところ,95%信頼区間の下限が0シーベルトより大きくないため,皮質混濁及び後嚢下混濁にしきい値が存在するとはいえないと指摘する(甲B2の6)。 B論文は,被曝後55年の時点における上記調査の結果に基づき,1シーベルトのオッズ比が皮質混濁について1.29,後嚢下混濁について1.41であり,都市,性,被爆時年齢及び喫煙を調整後も,これらの混濁の有病率と放 射線量との間に有意な相関を示したとする(甲B27の1・2)。 (5) 放射線起因性について上記(3),(4)からすると,急性被曝による放射線白内障については,しきい値0.5グレイの確定的影響とすることが国際 有意な相関を示したとする(甲B27の1・2)。 (5) 放射線起因性について上記(3),(4)からすると,急性被曝による放射線白内障については,しきい値0.5グレイの確定的影響とすることが国際的な機関の見解ではあるものの,同しきい値はICRP2007年勧告では1.5シーベルトであったものが,2012年勧告で子どもの水晶体の放射性感受性が高い傾向にあるとの警告に従い0.5グレイに引き下げられたのであり,さらに,UNSCEAR2010年報告書では,低線量放射線被曝と白内障の関連については新たな知見の監視とレビューを継続することが記載されているのであって,そうすると,しきい値が0.5グレイであるとの見解は変更の余地があるものと解される。現に,前記のとおり,0.5グレイ以下の被曝についても白内障の発症と有意な相関関係があること(すなわち,しきい値が存在したとしても0.5グレイより小さいか,しきい値が存在しない確率的影響であること)を指摘する知見が存在する(AHS第8報,中島報告)。また,原爆白内障における混濁の生じる部位について,従前放射線白内障の特徴とされてきた後嚢下混濁だけでなく,皮質混濁についても被曝との相関関係が指摘され(津田報告,中島報告,B論文),かつ,被曝後数十年経ってからの発症についても相関関係があるとする知見(津田報告)が現れたことも認められる。そして,これらの報告等は,複数回にわたる成人健康調査の結果に基づき科学的に分析されたものであり,軽視することはできない。 以上の知見からすると,当該被爆者の白内障に,放射線白内障の特徴とされてきた後嚢下混濁ではなく,皮質混濁の所見が認められたり,被爆後数年内に発症したものでなかったとしても,直ちにその被爆者の白内障について放射線起因性が認められないとするのは相当ではないし(た とされてきた後嚢下混濁ではなく,皮質混濁の所見が認められたり,被爆後数年内に発症したものでなかったとしても,直ちにその被爆者の白内障について放射線起因性が認められないとするのは相当ではないし(ただし,核混濁等と被曝の間に有意な相関があるとの知見があるとまでは認められない。),また,上記の知見と,前記第1で引用した原判決説示のとおり,DS02等により算定さ れる被曝線量には一定の限界があり,飽くまでも一応の目安にとどめるのが相当であることを併せ考慮すると,DS02によって想定される被曝量が0.5グレイ以下であっても,直ちにその被爆者の白内障について放射線起因性が認められないとすることはできない。そして,前記第1で説示した点を考慮すると,当該被爆者の白内障について放射線起因性が認められるか否かは,被曝の程度,当該被爆者の白内障の具体的症状やその症状の推移(放射線白内障の特徴と合致するか否か,被曝が原因の早発の老人性白内障として矛盾しないか否か等),白内障についての他の原因の有無及び程度等を総合して,原爆放射線に被曝したことにより,白内障又は治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る程度の高度の蓋然性があるか否かを検討して判断されるべきである。 (6) 第1審被告の主張についてアこれに対し,第1審被告は,白内障の放射線影響が確定的影響で,そのしきい線量が0.5グレイであることは国際的知見であり,第1審原告らの挙げる中島報告等はこれを排斥するだけの科学的知見であるとはいえないし,津田報告もそもそも日本の原子爆弾後障害研究会における口頭演題の報告にすぎず,放射線の影響によって遅発性の白内障が発症することについての所見とはいえないと主張する。 しかしながら,ICRPにおいても,しきい値が2007年勧告では1. 5グレイであったの 演題の報告にすぎず,放射線の影響によって遅発性の白内障が発症することについての所見とはいえないと主張する。 しかしながら,ICRPにおいても,しきい値が2007年勧告では1. 5グレイであったのが,2012年勧告において,子どもの水晶体の放射性感受性が高いことなどを考慮して0.5グレイに引き下げ,今後さらなる評価が必要であるとしており,第1審被告の指摘する国際的知見は確定したものとはいえない。そして,UNSCEARの2010年報告においては,最近の研究によって白内障の罹患の増加が,低線量放射線被曝に関連している可能性を示唆していることを示しており,低線量被曝と白内障の関連性を否定していない。また,皮質混濁及び後嚢下混濁にしきい値が存在するとはいえないと指摘する中島報告は,「国際的な活動として取り組まれ信頼性の高 い文献」として扱われている(甲B30)のであって,科学的知見として配慮されるべきである。 津田報告は,第1審被告も主張するとおり,その性質上UNSCEAR2010年報告及びICRP2012年勧告におけるレビューの対象となっていないが,そのことから直ちに内容が信用できないと断ずべきものとはいえない。そして,津田報告において利用されたのと同様の調査の結果を論文としたもの(中島報告,B論文)は医学的知見を示す論文として扱われている(甲B30)から,津田報告が前提とする調査は科学的に問題のない方法等でされたものと認めることができる。そうすると,第1審被告の指摘する点を考慮しても,津田報告を一つの科学的知見として考慮することが排斥されるべきではない。 したがって,第1審被告の上記主張は採用できない。 イ第1審被告は,津田報告は調査対象疾病が曖昧であり,「老人性白内障」を真に老人性白内障だけを意味しているのか皮質混濁の されるべきではない。 したがって,第1審被告の上記主張は採用できない。 イ第1審被告は,津田報告は調査対象疾病が曖昧であり,「老人性白内障」を真に老人性白内障だけを意味しているのか皮質混濁のことを意味しているのか不明であり,「早発性」の老人性白内障の定義も明らかでないのであって,その証拠価値は乏しい旨主張する。確かに,老人性白内障において,水晶体の混濁が皮質や核だけでなく後嚢下に生じる場合があることは前記(2)アのとおりであり,また,津田報告における「早発性」の定義も必ずしも明確ではない。しかし,津田報告が示しているのは,被曝後数十年経ってからの放射線白内障についても相関関係があること及び被爆者に生じた皮質混濁のオッズ比は被曝放射線量と有意な関係があることであって,そのこと自体は明確な内容になっており,津田報告は,これらの内容を示す知見として,不適切なものではない。 なお,中島報告が示す線量反応の図によると,皮質混濁及び後嚢下混濁について低線量域におけるオッズ比の95%信頼区間の下限が1を下回っているが,同報告者らは,皮質混濁と線量相関の最良のモデル及び後嚢下混濁 と線量相関の最良のモデルを示し,それぞれ線量効果は有意であることを確認し(それぞれp=0.001,p<0.001)た上で,しきい値モデルの適合を調べた結果,皮質混濁についてしきい値0.2シーベルト(95%信頼区間:0~1.4シーベルト),後嚢下混濁についてしきい値0シーベルト(95%信頼区間:0~0.08)であり,しきい値の95%信頼区間の下限は0シーベルトより大きくなかったというのであって,線量反応の図におけるオッズ比の95%信頼区間の下限が1を下回っているからといって,しきい値が0.5グレイより低いか,又は存在しない可能性があるという科学的知見を否 大きくなかったというのであって,線量反応の図におけるオッズ比の95%信頼区間の下限が1を下回っているからといって,しきい値が0.5グレイより低いか,又は存在しない可能性があるという科学的知見を否定することはできない。そして,このことは,前記のUNSCEARの2010年報告が低線量被曝と白内障の関連性を示唆していることとも符合している。 2 第1審原告X1の白内障の放射性起因性について(1) 認定事実前提となる事実等,後記括弧内の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア) 第1審原告X1は,昭和20年8月6日の広島原爆投下時(当時14歳),木造平家建である倉敷航空機吉島工場(爆心地から約3.0㎞)の内部で被爆した。(甲A4,甲C5の1の2,乙C5の22,第1審原告X1本人10,28,29頁)(イ) 第1審原告X1は,被爆後,午後3時頃まで防空壕に避難していた。その後,川土手に出て南大橋を渡り,母方の実家がある鷹野橋方面へ向かったが,火災のために近づくことができず,鷹野橋商店街入口付近(爆心地から約1.1㎞)で断念した。第1審原告X1は日赤病院前を通って御幸橋を渡り,宇品線の線路沿いを歩いて,猿猴川にかかる鉄橋を渡り,トンネルを通るなどして,夕方に矢賀の自宅に帰宅した。(甲C5の1の2, 甲C5の4,第1審原告X1本人2~4頁)矢賀の自宅には,被爆した親戚の者が避難してきており,全身に火傷を負った軍人も親戚の者に連れられて来た。第1審原告X1は,その日は,矢賀の自宅において,上記軍人にすりおろしたジャガイモ等を布に塗って患部に貼ったり,親戚の身体にいた蛆を取るなどの看病をした。親戚の中には,高熱を出したり,下痢,吐き気,頭髪が抜けるといった症状を示す者がいた。(甲C5の1 人にすりおろしたジャガイモ等を布に塗って患部に貼ったり,親戚の身体にいた蛆を取るなどの看病をした。親戚の中には,高熱を出したり,下痢,吐き気,頭髪が抜けるといった症状を示す者がいた。(甲C5の1の2,第1審原告X14,5頁)(ウ) 第1審原告X1は,同月7日及び8日の2日間,母及び姉と共に,中国配電研屋町支店に勤めていた父を探して,朝から夕方頃まで市内に入り,研屋町付近(爆心地から0.5㎞)に至ったが,火災のため,同支店の建物内に入ることはできなかった。同月9日は,第1審原告X1及び姉が熱を出すなどしたため父を探しに行くことはできなかった。なお,第1審原告X1の母は,妊娠中でありながら,同日も,第1審原告X1の父を探しに行き,その後は,第1審原告X1,その姉,親戚の者らの看病をしたり,疎開中の子らに第1審原告X1の父の死亡を知らせに行くなどしていた。 (甲C5の1の2,甲C5の4,第1審原告X1本人5,6,15~18頁)イ被爆後に生じた症状等(ア) 第1審原告X1は,昭和20年8月9日から数日間高熱,吐き気,下痢,血便,脱毛などの症状が出た。ただし,血便や脱毛は,それほどひどくはなかった。(甲C5の1の2,第1審原告X1本人6,18~20頁)(イ) 第1審原告X1は,遅くとも平成2年7月から,両眼に違和感をおぼえてF眼科(又はその前身のG眼科)に通院するようになり,同年9月21日から,後記のとおり後嚢下混濁の所見が認められた平成19年1月までの間継続して,右眼違和感等に対して,ステロイド点眼剤であるフルオロメトロン0.1%点眼液等の処方を受けていた。(乙C5の15・11頁 以下)(ウ) 第1審原告X1は,平成10年7月30日(当時67歳)までに上記F眼科において「両眼が見えにくい」と訴えて老人性白内障との 液等の処方を受けていた。(乙C5の15・11頁 以下)(ウ) 第1審原告X1は,平成10年7月30日(当時67歳)までに上記F眼科において「両眼が見えにくい」と訴えて老人性白内障との診断を受け,同日から継続的に,初期老人性白内障の治療薬である点眼用ピレノキシンT(カリーユニ点眼液)の処方を受けた(乙C5の15・1,13頁,5の17,5の18)。第1審原告X1の白内障については,同眼科の診療録上,平成15年2月10日から平成18年11月27日までの間については核混濁及び前嚢下混濁の所見が記載された。平成19年1月25日に初めて後嚢下混濁の所見が記載され,細隙灯顕微鏡による所見は「水晶体前嚢下及び後嚢下に混濁を認める。中等度である。」であった(乙C5の2・334,335,345頁,乙C5の15・17~23頁)が,その後も,第1審原告X1の診療録(乙C5の15)には,前嚢下混濁及び核混濁の所見の記載は多数存在するが,後嚢下混濁の所見の記載はごく僅かである。 (エ) 第1審原告X1の矯正視力は,原爆症認定申請直前の平成19年1月25日時点で右眼が0.6,左眼が0.5であり,当時,月1回程度の経過観察が必要とされていた。(乙C5の2・334頁,弁論の全趣旨)その後,第1審原告X1は,平成21年3月25日に右眼の,同年4月8日に左眼の白内障について手術を受けた。 (乙C5の15・1~10頁)(2) 認定事実の補足説明ア第1審原告X1は,爆心地から約2㎞の地点で被爆したと主張する。確かに,第1審原告X1の原爆症認定申請書(乙C5の2・333頁)や,被爆者健康手帳の申請書(乙C5の2・337頁)には,被爆地が吉島町(爆心地から約2㎞)とか,爆心地から2.0㎞であるという記載がある。 しかしながら,第1審原告X1本人は,原 の2・333頁)や,被爆者健康手帳の申請書(乙C5の2・337頁)には,被爆地が吉島町(爆心地から約2㎞)とか,爆心地から2.0㎞であるという記載がある。 しかしながら,第1審原告X1本人は,原審本人尋問において,自らの被爆地点について地図上で示すことができず,広島刑務所との位置関係につい ても詳細は覚えていなかった(第1審原告X1本人11~14頁)。そして第1審原告X1は,倉敷航空機吉島工場の中で被爆したことについてははっきり供述している(第1審原告X1本人28~29頁)ところ,広島市原爆被災地図(甲A4)には,倉敷航空吉島工場は,概ね爆心地から3~3.5㎞の地点付近に存在したと記載されていること,ABCCの記録によれば,第1審原告X1の被爆地は,爆心地から3560m(乙C5の22・1枚目)又は2870m(乙C5の22・3枚目)となっていることからすると,第1審原告X1の被爆地は,爆心地から約3.0㎞であると認めるのが相当である。 イ第1審被告は,第1審原告X1には下痢や脱毛等の身体症状は認められないと主張する。 確かに,第1審原告X1の母は,昭和32年1月に実施されたABCCの調査に対する回答(乙C5の22)において,被爆後の第1審原告X1の症状につき,発熱及び全身倦怠の症状は中等度であると回答したのに対し,嘔吐,悪心,食欲不振,下痢・非血性,下痢・血性,咽喉痛,口内痛,歯肉痛,歯齦出血,その他の出血,脱毛の症状についてなしと回答している。しかし,上記回答は第1審原告X1自身ではなくてその母が行ったものであり,第1審原告X1の父を探して歩いたり,親戚の看病などもしていた第1審原告X1の母がどこまで当時の第1審原告X1の状況を把握し,そのことを記憶していたのか疑問がないではないこと,上記の調査の際,第1審原告X1 告X1の父を探して歩いたり,親戚の看病などもしていた第1審原告X1の母がどこまで当時の第1審原告X1の状況を把握し,そのことを記憶していたのか疑問がないではないこと,上記の調査の際,第1審原告X1の母から事実を引き出すための配慮(結婚した娘に迷惑を及ぼすのではないかとの不安などの障害を取り除く配慮)がどの程度されたのかも不明であることからすると,上記回答の信用性が高いとまではいえない。 これに対し,第1審原告X1の原審本人尋問における上記症状についての供述は,消毒に来られたなどと具体的であって,症状の継続期間については曖昧であるものの,その内容に不自然,不合理な点は認められないから,信 用することができる。なお,第1審原告X1は,脱毛があったことについては,本件X1申請及びその却下処分に対する異議申立ての時点では,主張していなかった(乙C5の2・333頁,5の11)が,重大な症状と思っていなかったという陳述書(乙C5の1の2)の記載は,申請の疾病が白内障であって,他の症状については概要を指摘すれば足りることに照らすと,不合理であるとはいえない。 そうすると,第1審被告の上記主張は採用できない。 (3) 放射線起因性についてア放射線被曝の程度について第1審原告X1は,前記認定のとおり,爆心地から約3.0㎞離れた木造家屋の内部で被爆したのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,0.003グレイを下回る(乙C5の20)。また,前記認定の新審査の方針が前提にした今中論文の線量評価方法によれば,原爆投下の当日に爆心地から約1.1㎞の地点(鷹野橋商店街入口付近)を通過し,投下の翌日及び2日後に爆心地から約500mの地点に入市した(36時間滞在したものとして計算)第1審原告X1の誘導放射線による推定 当日に爆心地から約1.1㎞の地点(鷹野橋商店街入口付近)を通過し,投下の翌日及び2日後に爆心地から約500mの地点に入市した(36時間滞在したものとして計算)第1審原告X1の誘導放射線による推定被曝線量は0.0266グレイ程度である(乙C5の21)。 しかしながら,前記第1で引用した原判決の説示するとおり,爆心地から約1500m以遠における被曝の場合,DS02による初期放射線の被曝線量の推定は過小評価している可能性を否定できないのみならず,第1審原告X1は,前記認定のとおり,被爆当日に,まだ火事が発生している広島市内を徒歩で避難し,帰り着いた自宅では避難者の看病をするなどしており,他の避難者らの衣服,髪,皮膚等に付着した粉塵等(特に爆心地方面からの避難者に付着した粉塵等については,誘導放射化した粉塵や放射性降下物の微粒子が含まれている可能性が高いといえる。)に接触し,呼吸等を通じて上記粉塵等を体内に取り込むなどした可能性も十分にある。 しかも,第1審原告X1は,被爆後,高熱,吐き気,下痢,血便,脱毛などの症状が出たところ,これらの症状は,一般的に放射線の影響で生ずる急性症状として挙げられているものである(甲B3の10)。そして,第1審原告X1にこれらの症状が被爆後に同時期に発症したこと,その中には脱毛が含まれていたこと,第1審原告X1は,被爆するまでは,上記症状が発生する原因となる疾病にかかっていた様子はないことなどの事情を考慮すると,上記各症状は,被爆後に親戚の看病をしたり,父を探して2日間にわたり荒廃した市内をさまよったという状況の中でストレス等が相当影響していることは否定できないが,放射線による影響も相当程度あったと推認できるというべきである。これに対し,第1審被告は,第1審原告X1の上記各症状は,潜伏期が存 という状況の中でストレス等が相当影響していることは否定できないが,放射線による影響も相当程度あったと推認できるというべきである。これに対し,第1審被告は,第1審原告X1の上記各症状は,潜伏期が存在する等の急性放射線症候群の特徴と一致しないし,症状によっては,致死率の高い程度の被曝をしていなければおかしいが,第1審原告X1がそのような被曝をしたとは認められないなどと主張する。しかし,急性放射線症候群の特徴として第1審被告の指摘する点は,事故によるデータをまとめたものなどであって(乙B32の1・7頁,50),広島の原爆被害についてもそのまま当てはまると断ずることはできないし,軽症例では潜伏期が認められないとの指摘(甲A143資料25)もある。また,被曝線量との関係についても,前記第1で引用した原判決の認定,説示するとおり,入市被爆者についても急性症状とみられる脱毛等の症状が相当の割合で生じており,被曝線量との関係から上記症状が放射線の影響によるものではないと直ちにいうことは困難である。 そうすると,被曝の程度について具体的・数量的に示すことはその性質上困難であるといわざるを得ないが,第1審原告X1は,健康に影響を及ぼす程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をした可能性が十分にあると認められる。 イ他の原因の有無及び程度等について 第1審被告は,第1審原告X1の後嚢下混濁について,ステロイド点眼剤の長期投与が原因であると主張するところ,証拠(乙C5の3の1,5の3の2,5の16)によると,ステロイド点眼剤の長期投与は,後嚢下白内障の危険因子であることが認められ,また,前記認定事実のとおり,第1審原告X1は,平成2年9月21日から16年以上にわたってステロイド点眼剤の投与を受けていたことが認められる。 しかし, 白内障の危険因子であることが認められ,また,前記認定事実のとおり,第1審原告X1は,平成2年9月21日から16年以上にわたってステロイド点眼剤の投与を受けていたことが認められる。 しかし,上記証拠によっても,ステロイド点眼剤の長期投与により後嚢下白内障という重大な副作用が生じる頻度は不明であるとされており,「日本医薬品集医療薬 2007年版」(甲C5の2)によれば,ステロイド点眼剤であるフルオロメトロンの承認時までの調査及び副作用調査における副作用の発症率は,濃度0.1%もので0.24%(調査の症例1万0343例中25例)であり,うち後嚢下白内障の具体的な発症数は不明であり,また,0.02%の低濃度のものでは副作用が認められたのは0.04%(調査の症例7276例中3例)にすぎず,うち2例は眼圧上昇,うち1例はアレルギー性結膜炎の悪化であり,後嚢下白内障は含まれていないことが認められる。また,証拠(甲B38)によれば,ステロイド薬には内服薬,吸入薬,塗り薬,目薬などがあるが,白内障の原因となりやすいのは全身疾患の治療に使用される内服薬と喘息などで使用する吸入薬であり,ステロイド薬による白内障は発症すると進行が早く,数か月から1年程度で手術が必要になるほど視力が低下することが特徴とされていることが認められる(なお,第1審被告は,上記証拠の信用性について疑問がある旨主張するが,上記証拠は日本白内障学会のホームページをプリントアウトしたものであり,白内障に関する研究団体の公表している文章に係るものであるから,その内容は信用できるというべきであり,また,これに反する的確な証拠はないから,第1審被告の主張は採用できない。)。 そうすると,第1審原告X1が投与されていたステロイド点眼剤は,後嚢 下白内障という副作用が生じる であり,また,これに反する的確な証拠はないから,第1審被告の主張は採用できない。)。 そうすると,第1審原告X1が投与されていたステロイド点眼剤は,後嚢 下白内障という副作用が生じる可能性が非常に低い上,第1審原告X1の主たる混濁部位は核及び前嚢下であるから,第1審原告X1の白内障とステロイド点眼剤の長期投与との関連性は乏しいといえる(少なくとも核混濁及び前嚢下混濁との関連性はない。)。そして,前記認定事実の第1審原告X1の治療経過も,ステロイド薬による白内障は発症すると進行が早く,数か月から1年程度で手術が必要になるほど視力が低下するという特徴と符合しない。 そうすると,第1審原告X1の白内障のうちの後嚢下混濁とステロイド点眼剤の長期投与との関連性が全くないとまでは断じることはできないとしても,関連性がある可能性は非常に低いといわざるを得ない。 他方で,第1審原告X1は67歳(平成10年当時)という老人性白内障の好発期に白内障を発症したものであるから,加齢を原因とする白内障である可能性は十分にあり,この点は,後記において検討する。 ウ第1審原告X1の白内障の具体的症状及び程度等について(ア) 前記認定のとおり,第1審原告X1は,平成10年7月30日に老人性白内障と認定され,それ以後,主として核混濁及び前嚢下混濁の所見が認められている。 この点,第1審原告X1は,第1審原告X1の右眼白内障が医療記録等に「前嚢下混濁」と記載されているが,教科書的な意味に従えば皮質混濁であると主張し,同主張を裏付ける証拠としてC医師の意見書(甲C5の5,7)及び診療録の写真(甲C5の6)を提出する。 しかし,上記診療録に記載されたC医師の本件スケッチ図には四角く書いた眼の左側の前嚢下に相当する部分を青く塗って混濁部分を示 意見書(甲C5の5,7)及び診療録の写真(甲C5の6)を提出する。 しかし,上記診療録に記載されたC医師の本件スケッチ図には四角く書いた眼の左側の前嚢下に相当する部分を青く塗って混濁部分を示しているようにも見られるのであって,このことは本件スケッチ図に付記された「ASCO(+)」(注:ASCOは前嚢下混濁)との記載とも符合し,少なくとも本件スケッチ図によって皮質混濁があると認めるのは困難であ る。 C医師は,上記意見書において,臨床の現場では水晶体の前側に混濁があった場合に,その混濁が前嚢の直下なのか,それとも水晶体皮質の前側部分に位置するのかを厳密に分けて考える臨床的必要性に乏しいことから,「前嚢下混濁」についても,これが水晶体の前側部分に位置し,前嚢下の皮質に混濁が見られることを示すために「前嚢下混濁」を用いて示すことも一般的にあるかと思うとの意見を述べる。しかし,臨床の現場において,混濁が前嚢の直下と水晶体皮質の前側部分と厳密に分けず,「前嚢下混濁」を用いて示すことが一般的であるとの上記意見書の記載を裏付ける的確な証拠はない。また,白内障の混濁部位による分類については,皮質,核,後嚢下の3主病型かこれに前嚢下混濁を加えた4種に区分されるのが一般的であり(乙B163・247,248頁,乙B167~170),混濁部位によって原因等が異なるとされている。例えば,皮質白内障は加齢性白内障,糖尿病白内障,併発白内障などにみられ,前嚢下白内障はアトピー白内障,ぶどう膜炎併発白内障などにみられるとされているのであるから(乙B163・248頁),臨床の現場においては,混濁が前嚢の直下なのか,それとも水晶体皮質の前側部分に位置するのかを厳密に分けて考える必要性に乏しいとのC医師の説明には疑問がある。 したがって,この点に関 3・248頁),臨床の現場においては,混濁が前嚢の直下なのか,それとも水晶体皮質の前側部分に位置するのかを厳密に分けて考える必要性に乏しいとのC医師の説明には疑問がある。 したがって,この点に関する第1審原告X1の主張は採用することができない。 (イ) 上記のとおり,第1審原告X1の白内障は,前嚢下混濁及び核混濁が主な症状であり,後嚢下混濁の所見も認められるものの,診療録の記載頻度がごくわずかであったから,第1審原告X1の白内障の症状は,これまで放射線白内障の典型的な病態とされてきた後嚢下混濁を主体とするものではない。 そして,前記認定事実のとおり,第1審原告X1が67歳(平成10年 当時)という老人性白内障の好発期に発症し,老人性白内障において主病型の1つとされる核混濁が主な症状であること,放射線被曝により核混濁を生じるという知見は存在しないこと,老人性白内障においても後嚢下混濁が発生することはあり得ること,第1審原告X1は白内障を発症した際老人性白内障と診断されたことを考慮すると,第1審原告X1の白内障は,老人性白内障と認めるのが相当である。 これに対し,第1審原告X1は,放射線白内障において前嚢下混濁を生じ得るとする知見が存在すると主張し,これを裏付ける証拠として「放射線基礎医学」(甲B39)を提出する。確かに,上記証拠(甲B39・331頁)によれば,「原爆被爆者では…混濁は主に水晶体の後極部に起こる。同時に前嚢下部位に起こることがある。」と記載されていることが認められる。しかしながら,前記認定事実によれば,第1審原告X1は,平成15年2月10日には前嚢下混濁が生じていたのに対し,後嚢下混濁が初めて認められたのは平成19年1月25日のことであるから,後嚢下混濁に先立って前嚢下混濁が生じており,前嚢下混濁 審原告X1は,平成15年2月10日には前嚢下混濁が生じていたのに対し,後嚢下混濁が初めて認められたのは平成19年1月25日のことであるから,後嚢下混濁に先立って前嚢下混濁が生じており,前嚢下混濁が後嚢下混濁と「同時」に起こっておらず,上記証拠によっても,第1審原告X1の白内障は放射線白内障とは認められない。 また,第1審原告X1は,放射線白内障の発生機序から考えると,前嚢下混濁が皮質混濁や後嚢下混濁と別異に考えられる合理的な根拠はない旨主張するが,放射線白内障において前嚢下混濁が後嚢下混濁に先立って単独で発症するとの知見があるとは認められないのであって,そうすると,第1審原告X1の上記主張を直ちに採用することはできないというべきである。 エ以上の諸点を前提に,第1審原告X1の白内障の放射線起因性について検討する。 (ア) 上記のとおり,第1審原告X1の白内障は,老人性白内障と認めるのが 相当であって,放射線白内障と認めることはできない。 (イ) そこで,次に,第1審原告X1の老人性白内障が放射線被曝の影響を受けているか否かについて検討するに,前記認定のとおり,第1審原告X1は,健康に影響を及ぼす程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたということができる。 しかしながら,第1審原告X1が老人性白内障の診断を受けたのが67歳(平成10年当時)という老人性白内障の好発期であって(60歳代の有所見率が66~83%との知見もある。),発症した年齢からすると,老人性白内障が早期に発症したとはいえない。しかも,第1審原告X1の白内障は,前嚢下混濁及び核混濁が主な症状であるところ,少なくとも核混濁と放射線被曝との間の関連性を指摘する知見があるとは認められないし,前嚢下混濁についても,後嚢下混濁が認められない中で放射線被 白内障は,前嚢下混濁及び核混濁が主な症状であるところ,少なくとも核混濁と放射線被曝との間の関連性を指摘する知見があるとは認められないし,前嚢下混濁についても,後嚢下混濁が認められない中で放射線被曝によって前嚢下の混濁が生じるとの知見があるとは認められない。加えて,第1審原告X1の白内障の進行が一般の老人性白内障の進行に照らして特異であることを示す様子はないことも併せ考慮すると,第1審原告X1が,健康に影響を及ぼす程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をしたといえることを考慮しても,第1審原告X1の白内障が放射線被曝の影響を受けて発症が早まったとか,症状の進行について放射線被曝の影響を受けたとの関係を,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得る程度の高度の蓋然性があると認めることは,困難であるといわざるを得ない。また,老人性白内障の治療は手術以外にはないことに照らすと,第1審原告X1が放射線被曝により白内障の治癒能力の低下を招来したとの関係を認めることもできない。 これに対し,第1審原告X1は,津田報告が早発性の「皮質混濁」と放射線被曝と有意な関連性を認めており,ここでいう「皮質混濁」には前嚢下混濁も含まれていると主張する。しかしながら,前嚢下混濁が皮質混濁 に含めて分類することが一般的とは認められないことは前記ウのとおりであるし,津田報告を子細に検討しても,津田報告にいう皮質混濁に前嚢下混濁を含めて調査が行われた形跡は認められないから,第1審原告X1の上記主張は採用できない。 (ウ) したがって,第1審原告X1の申請に係る白内障については,放射線起因性が認められない。 (4) 小括以上のとおり,第1審原告X1の申請に係る白内障については,放射線起因性の要件を満たしていたものと認めるに足りないか X1の申請に係る白内障については,放射線起因性が認められない。 (4) 小括以上のとおり,第1審原告X1の申請に係る白内障については,放射線起因性の要件を満たしていたものと認めるに足りないから,本件X1却下処分は,その余の点について判断するまでもなく,違法であるとは認められない。 3 第1審原告X2の白内障の放射性起因性について(1) 認定事実前提となる事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 ア被爆状況等(ア) 第1審原告X2は,昭和20年8月6日の広島原爆投下時(当時11か月),五日市へ向かう母に背負われた状態で,爆心地から約2.4㎞離れた広島電鉄己斐駅のプラットホームにおいて被爆した。(甲C7の1,7の2の2,乙C7の15)(イ) 第1審原告X2の母は,第1審原告X2を背負ったまま,己斐駅から山へ入り,しばらく防空壕の中に避難した後,五日市の伯父の家へ向かった。 その途中で,己斐峠を抜けて石内峠に差し掛かった時に黒い雨が降ってきたので,第1審原告X2の母は,持っていた夏用の薄いハンカチを第1審原告X2の顔にかぶせて抱いて歩いた。第1審原告X2及び母は,その日のうちに五日市の伯父の家までたどり着いた。 (甲C7の1,7の2の1,7の2の2,乙C7の15,第1審原告X2本人2~4頁) (ウ) 第1審原告X2は,五日市の伯父の家に,同年8月23日頃まで滞在した。五日市の伯父の家においては,伯父一家(伯父は同年8月7日から数日間広島市内へ入り,入市被爆した。),第1審原告X2及びその母のほか,横川2丁目の自宅(爆心地から約1.5㎞)付近で被爆した姉4人,横川付近で被爆した親戚及び入市被爆した父が共同生活をしていた。また,富士見町付近(爆心地から約1㎞)で被爆した姉は,背 その母のほか,横川2丁目の自宅(爆心地から約1.5㎞)付近で被爆した姉4人,横川付近で被爆した親戚及び入市被爆した父が共同生活をしていた。また,富士見町付近(爆心地から約1㎞)で被爆した姉は,背中に大火傷を負って同月8日頃に五日市の伯父の家に運び込まれたが,同月16日頃に死亡した。(甲A4,甲C7の1,7の3,乙C7の15,第1審原告X2本人5~10頁)イ被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等(ア) 第1審原告X2は,被爆直後,下痢,嘔吐,発熱などの症状が出たとは認められないが,小学生の頃から倦怠感や食欲不振を感じていた。ただし,第1審原告X2の母は,被爆直後,下痢や嘔吐の症状があった。(甲C7の1,乙C15)(イ) 第1審原告X2は,昭和55年8月から昭和57年7月までの間は動脈硬化性心疾患により,また,平成8年4月以降は両眼白内障により,被爆者援護法に基づく健康管理手当の支給を受けている。(甲C7の9)(ウ) 第1審原告X2は,平成4年頃(47歳頃)に両眼白内障と診断され,それ以降,通院して定期的な経過観察を受けながらカリーユニ点眼液を処方されていた。(甲C7の1,乙C7の1・1041頁,第1審原告X2本人17~19頁)(エ) 第1審原告X2の原爆症認定申請に当たって平成20年3月17日に作成された意見書及び健康診断個人票(乙C7の1・1041,1042頁)には,現症所見として両眼水晶体混濁があり,視力低下していること,矯正視力は右眼が0.4,左眼が0.9であることや,「両眼とも水晶体全体にわたる皮質混濁及び後嚢下混濁を軽度に認め,周辺には楔状混濁を 認める」との所見が記載されている。 (オ) 第1審原告X2の平成24年6月27日の検査結果では,後嚢下混濁はあるがわずかであり,放射線の影響 後嚢下混濁を軽度に認め,周辺には楔状混濁を 認める」との所見が記載されている。 (オ) 第1審原告X2の平成24年6月27日の検査結果では,後嚢下混濁はあるがわずかであり,放射線の影響は不明とされ,矯正視力は右眼が0. 9,左眼が1.2であった。当審における口頭弁論終結日である平成29年7月7 日の時点でも,第1審原告X2は白内障の手術を受けていない。 (乙C7の13・5,6頁)(カ) 第1審原告X2は,平成23年か平成24年頃,血糖値が高いことを指摘され,以降,服薬指導を受けている。また,ヘモグロビンA1cの値が高いことも指摘され,定期的に検査を受けて数値を測定している。(甲C7の1,第1審原告X2本人21,22頁)(2) 事実認定の補足説明第1審原告X2は,五日市の伯父の家に滞在している間,下痢,嘔吐及び発熱といった症状があったと主張し,これに沿う供述をする(甲C7の1,第1審原告X2本人10,11頁)。 しかしながら,第1審原告X2は,広島原爆の被爆当時は11か月であったから,その頃の状態は,母などからの伝聞によらざるを得ない(甲C7の1,第1審原告X2本人5頁)ところ,第1審原告X2の母は,昭和32年1月に実施されたABCCの調査の際,第1審原告X2には発熱,嘔吐,下痢等の症状等がなかった旨回答している(乙C7の15)。同母は,上記のとおり原爆投下当時から第1審原告X2と行動を共にし,乳児であった第1審原告X2の世話を常にしていたのであるから,第1審原告X2の状態を把握していたはずであること,第1審原告X2の母が第1審原告X2の症状について虚偽を述べたと断ずべき事情はないこと,かえって,第1審原告X2の母,第1審原告X2が被爆直後雨に降られたことについては隠すことなく正確に回答しているのであり(乙C7の1 1審原告X2の症状について虚偽を述べたと断ずべき事情はないこと,かえって,第1審原告X2の母,第1審原告X2が被爆直後雨に降られたことについては隠すことなく正確に回答しているのであり(乙C7の15),第1審原告X2の症状についてのみ虚偽の供述をするとは考え難いことに照らすと,上記回答を軽視することはできないという べきであり,そうすると,第1審原告X2の上記供述を採用することは困難である。 なお,この点について,A医師は,第1審原告X2の母が第1審原告X2の不利益にならないように,下痢等の症状が出現したことを隠していた可能性がある旨証言する(証人A56頁)。しかしながら,同供述は同医師の推測の域を出ないといわざるを得ないから,上記証言は採用できない。 よって,上記主張事実を認めることはできない。 (3) 放射線起因性ア放射線被曝の程度について(ア) 第1審原告X2は,前記認定のとおり,原爆の爆心地から約2.4㎞離れた己斐駅において被爆しているのであるから,DS02による初期放射線による推定被曝線量は,約0.0179356グレイ(中性子線0.0000356グレイ+ガンマ線0.0179グレイ)である(乙B6の1・195頁,弁論の全趣旨)。また,新審査の方針の下における線量評価方法によれば,広島原爆の爆心地から1.5㎞以遠の誘導放射線による被曝は,健康影響という観点からは無視して構わないとされているし,己斐地区に降った放射性降下物による推定被曝量は多くとも0.02グレイとなるから,第1審原告X2の推定被曝量は,全体量としても約0.0379356グレイを下回る程度に過ぎないことになる。 しかしながら,前記第1で引用した原判決の説示するとおり,爆心地から約1500m以遠における被爆の場合,DS02による初期放射線の被 約0.0379356グレイを下回る程度に過ぎないことになる。 しかしながら,前記第1で引用した原判決の説示するとおり,爆心地から約1500m以遠における被爆の場合,DS02による初期放射線の被曝線量の推定は過小評価している可能性を否定できないのみならず,第1審原告X2は,前記認定のとおり,放射性降下物を含む雨に打たれ,呼吸等を通じて誘導放射化した粉塵等を体内に取り込むなどした可能性は十分にある。また,第1審原告X2は,五日市の伯父の家において,爆心地から約1.5㎞で被爆した姉らや,約1㎞で被爆し,約8日間滞在した後 に死亡した姉とも同居していたのであり,その衣服,髪,皮膚等に付着した粉塵等に接触し,呼吸等を通じて誘導放射化した粉塵等を体内に取り込むなどした可能性も十分にある。ただし,第1審原告X2は,被爆直後に急性症状を発症せず,小学生の頃から感じていたという倦怠感や食欲不振が被爆の影響によるものと認めるに足りる証拠もない。しかし,第1審原告X2の世話をしていたその母は,被爆直後から,下痢や嘔吐が生じており,これらの症状が被曝による急性症状である可能性は否定できない。 そうすると,被曝の程度について具体的・数量的に示すことはその性質上困難であるといわざるを得ないが,第1審原告X2は,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に外部被曝及び内部被曝をした可能性が十分にあると認められる。 (イ) これに対し,第1審被告は,第1審原告X2の推定被曝線量は,全体量としても,約0.0379356グレイ程度にすぎず,健康に影響を及ぼすような有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当とはいえないから,第1審被告の上記主張を採用することはでき 有意な線量の被曝をしたということはできないと主張するが,誘導放射化物質や放射性降下物による外部被曝や内部被曝を軽視している点において相当とはいえないから,第1審被告の上記主張を採用することはできない。 また,第1審被告は,原爆症認定においては,当該申請者がいかなる線量の原爆放射線に被曝したかを具体的かつ正確に評価し,特定されなければならないとも主張するが,上記のとおり,呼吸等を通じて誘導放射化した粉塵等を体内に取り込むなどした可能性が十分に認められる第1審原告X2について,これを具体的・数量的に示すことはその性質上困難であるといわざるを得ないのであって,前記第1で引用した原判決説示のとおり,新審査の方針の下における線量評価方法を一応の目安とし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性を検討して,放射線への被曝の程度を認定した上で,統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被 曝との関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ,これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移,その他疾病に罹る病歴,当該疾病等に係る他の原因の有無及び程度等を総合的に考慮して,放射線起因性を検討するのが相当であって,第1審被告の上記主張は採用できない。 イ他の原因の有無及び程度等について第1審被告は,第1審原告X2が糖尿病に罹患していたとして,同人の白内障が糖尿病白内障である可能性を指摘する。確かに,糖尿病は白内障のリスク要因であり(乙C5の19・215頁,13の13・2頁),また,前記認定事実のとおり,第1審原告X2は,糖尿病との診断を受けていたかはともかく,血糖値が高いとして服薬治療を受け,ヘモグロビンA1cの値についても定期的に検査を受けていたことが認められる。 しかしながら,前記認定事実のとおり,最初に血糖値について 断を受けていたかはともかく,血糖値が高いとして服薬治療を受け,ヘモグロビンA1cの値についても定期的に検査を受けていたことが認められる。 しかしながら,前記認定事実のとおり,最初に血糖値について指摘されたのは平成23年か平成24年頃であり,これより前から第1審原告X2の血糖値が高かったことを示す証拠もないから,これが平成4年頃に第1審原告X2が発症した白内障に影響を及ぼしたということはできない。 また,第1審被告は,第1審原告X2の白内障について加齢により発症した可能性も指摘する。前記認定事実のとおり,第1審原告X2が白内障と最初に診断されたのは47歳の頃(平成4年頃)であり,前記1(2)アのとおり老人性白内障は40歳代で発症するという知見も存在するから,老人性白内障の可能性は否定できないが,老人性白内障として考えると比較的早期の発症であるということができる。 ウ第1審原告X2の白内障の具体的症状及び程度等について前記認定のとおり,第1審原告X2の白内障は,平成20年3月の時点で「両眼とも水晶体全体にわたる皮質混濁及び後嚢下混濁を軽度に認め,周辺には楔状混濁を認める」というものであり,平成24年6月の時点で後嚢下混濁はあるがわずかであるというものであるから,全体的には,皮質混濁(楔 状混濁)が主たる症状であると認められ,これは,色閃光を呈する限局された後嚢下混濁又は後極部後嚢下よりも前方の点状ないし塊状混濁といった,放射線白内障の特徴ないし原爆白内障の診断基準とされてきた症状とは異なるものである。 しかし,前記2(3)ウ(イ)で認定したとおり,原爆被爆者には水晶体後極部と同時に前嚢下部位に混濁が起こる例があると指摘する文献もあるところ,第1審原告X2の白内障は,平成20年3月の時点で後嚢下混濁と皮質混濁の両者が (イ)で認定したとおり,原爆被爆者には水晶体後極部と同時に前嚢下部位に混濁が起こる例があると指摘する文献もあるところ,第1審原告X2の白内障は,平成20年3月の時点で後嚢下混濁と皮質混濁の両者が認められており,平成4年頃の発症時の混濁状態を示す証拠はないから,混濁部位からすると,放射線白内障と矛盾するものとはいえない。また,第1審原告X2の白内障の主たる症状が皮質混濁である点を考慮するとしても,前記1(4),(5)で認定説示したとおり,上記のような特徴的な後嚢下混濁だけでなく,皮質混濁についても放射線被曝との関連性を肯定する見解が存在しているのであって,主たる症状が皮質混濁であるからといって,直ちにその被爆者の白内障について放射線起因性が認められないとするのは相当ではない。 そうすると,第1審原告X2の白内障の所見をもって放射線起因性を否定することはできない。 エ以上の諸点を前提に,第1審原告X2の白内障の放射線起因性について検討する。 第1審原告X2は,前記アで認定説示したとおり,急性症状を発症することはなかったものの,健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝した可能性は十分にあると認められる。そして,第1審原告X2の白内障は,皮質と後嚢下に混濁を生ずるものであって,その症状からすると,放射線被曝との一般的な関連性を否定できないものである。他方,上記症状を伴う白内障が発症する他の要因として加齢が考えられるが,第1審原告X2の白内障は,47歳頃に発症したものであって,老人性白内障であることと矛盾する ものではないものの,老人性白内障の発症にしては比較的若年であることは否定できない。以上の事情に,被爆当時11か月と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること,その他の白内障の発症要因は考えられな ,老人性白内障の発症にしては比較的若年であることは否定できない。以上の事情に,被爆当時11か月と若年であり,放射線に対する感受性が比較的高かったといえること,その他の白内障の発症要因は考えられないことも併せ考慮すると,第1審原告X2の白内障は,少なくとも原爆放射線の影響によって発症した面があるとするのが合理的であり,その点について高度の蓋然性があると認めることができるというべきである。 したがって,本件X2申請に係る白内障については,放射線起因性が認められる。 4 第1審原告X2の要医療性について(1) 第1審原告X2は,前記3(1)イ(ウ)のとおり,平成4年頃に両眼白内障と診断され,それ以降,通院して定期的な経過観察を受けながらカリーユニ点眼液を処方されており,本件X2申請のされた平成20年3月当時もこの状態に変化はない。 ところで,第1審原告X2は,要医療性は医師の判断によるべきであって,医師が第1審原告X2に通院を指示してカリーユニ点眼液を処方しているから要医療性があると主張するのに対し,第1審被告は,積極的な治療を伴わない経過観察のための診察を受けていただけでは,要医療性があるとはいえないとして反論するので,以下検討する。 (2) 被爆者援護法10条1項本文は,「厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は,疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。」と定めているところ,同法に「医療」の定義規定は存在しない。しかし,同条2項が,同条1項本文にいう医療の給付の範囲を,診察(1号),薬剤又は治療材料の支給(2号),医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術(3号),居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護(4号),病院又は診療所への入院及びその療 察(1号),薬剤又は治療材料の支給(2号),医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術(3号),居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護(4号),病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護(5号),移送(6号)と定めていることに照らすと, 同条1項にいう「現に医療を要する状態にある」(要医療性)とは,当該疾病等に関し,同条2項の規定する医療の給付を要する状態にあることをいうものと解するのが相当である。 そうすると,積極的な治療を伴わない経過観察のために診察を受けている場合であっても,被爆者援護法10条2項1号にいう「診察」を要する状態にある場合は,要医療性が認められることになる。 (3) この点に関し,第1審被告は,被爆者援護法が段階的に援護施策を講じていることに鑑みれば,積極的な治療を伴わない経過観察を受けている間は,健康診断等を通して健康管理をすることが可能であり,要医療性があるとはいえないと主張する。 被爆者援護法は,「第三章援護」の中で,「第三節医療」のほかに「第二節健康管理」を定め,健康管理に係る援護として,健康診断につき「都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行うものとする。」(同法7条)と,指導につき「都道府県知事は,第7条の規定による健康診断の結果必要があると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行うものとする。」(同法9条)と規定している。そして,同法7条の規定を受けて定められた同法施行規則9条によると,同法7条に規定する健康診断は,都道府県知事が期日及び場所を指定して年2回行うもの並びに被爆者の申請により,各被爆者につき年2回を限度として都道府県知事があらかじめ指定した場所において行 によると,同法7条に規定する健康診断は,都道府県知事が期日及び場所を指定して年2回行うもの並びに被爆者の申請により,各被爆者につき年2回を限度として都道府県知事があらかじめ指定した場所において行うものの2種類とされ(同規則9条1項),この健康診断は,一般検査と精密検査によって行うものとし,精密検査は,一般検査の結果更に精密な検査を必要とする者について行うものとされている(同条2項)。このうち,一般検査においては,視診,問診,聴診,打診及び触診による検査,CRP検査,血球数計算,血色素検査など,同条3項1号~8号に掲げる検査を行うものとされており(同条3項),被爆者の申請により行う一般検査においては,各被爆者につき年1回を限度として,胃がん, 肺がん,乳がん,子宮がん,大腸がん,多発性骨髄腫の各検診のための問診やエックス線検査等を行うものとされている(同条4項)。また,精密検査は,骨髄造血像検査等の血液の検査,肝臓機能検査等の内臓の検査等の同条5項1号~6号に掲げる検査のうちで必要と認められるものを行うものとされており,その検査の種類として「その他必要な検査」も掲げられているため(同条3項6号),各被爆者の具体的状況に応じた検査を行うことが可能である。 しかしながら,被爆者援護法7条及び同法施行規則9条が定める健康診断は,1年に受けられる回数が制限されている上,まずは一般検査を受け,その結果更に精密な検査を必要とする者に限って精密検査を受けることが可能であり,また,「健康診断」という文言の持つ一般的な意味に照らすと,一般の健康診断や検診と同様に,被爆者の疾病の発症やその危険を早期に把握することにより,その発症を予防し又は早期に発見することを目的としたものと解されるのであって,放射線起因性を有する特定の疾病に罹患した 康診断や検診と同様に,被爆者の疾病の発症やその危険を早期に把握することにより,その発症を予防し又は早期に発見することを目的としたものと解されるのであって,放射線起因性を有する特定の疾病に罹患した被爆者が当該疾病の経過観察をすることを目的とした診察までも含めて規定したものと解することはできない。 そして,原爆症認定申請に係る当該申請疾病について,その申請時点において現に積極的な治療行為を行っておらず,医師による定期的な経過観察がされているにすぎない場合であっても,当該申請疾病の予後として悪化や再発が予想され,そのような悪化や再発があったときにその状況に応じて的確に積極的な治療行為を行うべく経過観察を実施している場合は,そのような医師による定期的な経過観察は,当該申請疾病の治療を目的としており,その治療のために必要不可欠な行為であるということができるから,被爆者援護法10条2項1号が規定する「診察」を要する状態,すなわち要医療性があるといえる。 以上によれば,積極的な治療を伴わない経過観察を受けている間は,要医療性があるとはいえない旨の第1審被告の主張は,採用できない。 もっとも,当該申請疾病について診察を受けている場合でも,医師による定 期的な経過観察さえ受けておらず,たまに通院しているにすぎないといった場合は,形式的には診察を受けていたとしても,実質的には「健康管理」における「健康診断」と異なるところはなく,上記「診察」を要する状態,すなわち要医療性があるとは認められないというべきである。 (4) これを本件についてみると,第1審原告X2は,平成4年頃に両眼白内障と診断され,それ以降,通院して定期的な経過観察を受けながらカリーユニ点眼液を処方されている。前記第2の1で認定したとおり,白内障は,老人性白内障であって ,第1審原告X2は,平成4年頃に両眼白内障と診断され,それ以降,通院して定期的な経過観察を受けながらカリーユニ点眼液を処方されている。前記第2の1で認定したとおり,白内障は,老人性白内障であっても放射線白内障であっても,手術しない限り混濁を除去することはできないのであって,手術適応時期については統一された見解があるわけではないが,白内障の悪化の状況に応じて的確に対処するためには積極的な治療行為である手術を行うことを要するものである(放射線白内障は,進展しないものが多いとはいえ,最近の放射線白内障の発生機序に関する知見によると,水晶体の上皮細胞のゲノムの遺伝子の損傷により細胞分裂,細胞分化に異常が生じ,透明度を失い混濁・白濁した水晶体繊維細胞が集積するというのであるから(前記1(3)イ),進展する可能性を完全に否定することは困難であるし,放射線被曝の影響により発症した白内障が加齢により症状が悪化することは予想できる。)。したがって,第1審原告X2に対する医師による定期的な経過観察は,白内障の悪化が予想され,悪化の状況に応じて的確に積極的な治療行為を行うべく実施されているとみることができるから,白内障の治療を目的としており,その治療のために必要不可欠な行為であるといえる。 以上によれば,本件X2申請に係る白内障は,被爆者援護法10条2項1号が規定する「診察」を要する状態であるから,要医療性があると認められる。 (5) したがって,本件X2申請に係る白内障は,放射線起因性及び要医療性の要件をいずれも満たしていると認められるから,本件X2却下処分は違法である。 第3 本件X1却下処分及び本件X2却下処分についての国家賠償責任(争点③) 1 判断枠組 原判決の「事実及び理由」の「第3章当裁判所の判断」欄の第3の1項(原 分は違法である。 第3 本件X1却下処分及び本件X2却下処分についての国家賠償責任(争点③) 1 判断枠組 原判決の「事実及び理由」の「第3章当裁判所の判断」欄の第3の1項(原判決64頁16行目~65頁22行目)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決65頁19行目から20行目にかけての「厚生労働大臣がこれを知りながら」を「厚生労働大臣がこれを知り得たのに,」と改める。)。 2 第1審原告X1の国家賠償請求は,本件X1却下処分が原爆症の認定要件の判断を誤ったことを前提にしたものであるところ,前示のとおり,同処分には同要件の判断に誤りはなく,国家賠償法1条における違法とも認められないから,理由がない。 3 第1審原告X2の国家賠償請求について(1) 本件X2却下処分は,前記のとおり,放射線起因性に対する判断を誤ってされた違法なものである。しかしながら,同処分は,厚生労働大臣が疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で,その意見に従ってされたものである(乙C7の2・5~7)ところ,その意見が関係資料に照らして明らかに誤りであるなど,答申された意見を尊重すべきではない特段の事情が存在したと認めるに足りる証拠はない。 (2) これに対し,第1審原告X2は,①新審査の方針が適正な基準ではないこと,②証拠資料を十分に精査しなかったこと,③審査に当たって行政手続法5条1項が要求している審査基準を示さなかったこと,④合理的な期間を優に超えて処分を行わなかったこと,⑤却下処分に当たって第1審原告X2に具体的な理由を説明しなかったことが,厚生労働大臣の職務上の法的義務に違反する旨主張する。 しかし,第1審原告X2の上記主張は,採用できない。その理由は,次のとおりである。 ア新審査の方針が適正な基準ではな なかったことが,厚生労働大臣の職務上の法的義務に違反する旨主張する。 しかし,第1審原告X2の上記主張は,採用できない。その理由は,次のとおりである。 ア新審査の方針が適正な基準ではないこと(①),証拠資料を十分に精査しなかったこと(②)について医療分科会が審査の基礎としている新審査の方針の下での被曝線量の算 定方法について,科学的合理性を肯定することができることは,前記第1において認定,説示したとおりである。もっとも,上記の算定方法には一定の限界が存すること,特に誘導放射線及び放射線降下物による放射線については,内部被曝の影響を考慮していない点を含め,地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価となっている疑いがあるから,被爆者の被曝線量を評価するに当たっては,当該被爆者の被爆状況,被爆後の行動,活動内容,被爆後に生じた症状等に照らし,様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に検討する必要があるところ,医療分科会がそのような検討をどの程度行ったか疑問がないではない。しかし,第1審原告X2は,被爆したのが爆心地から約2.4km 離れた地点であり,黒い雨に遭ったとはいえ,放射線被曝による急性症状が生じたとは認められないこと,第1審原告X2の白内障が発症したのは47歳頃であって,放射線の影響なく老人性白内障が生じたとしても不合理ではないことに照らすと,医療分科会において,第1審原告X2の白内障について放射線起因性がないと判断したからといって,不十分な審査しかされなかったとは断じ得ない。また,上記の点を考慮すると,厚生労働大臣において,疾病・障害認定審査会の意見を採用して本件X2却下処分をしたからといって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と同処分をしたものとはいえない。 記の点を考慮すると,厚生労働大臣において,疾病・障害認定審査会の意見を採用して本件X2却下処分をしたからといって,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と同処分をしたものとはいえない。 イ審査に当たって行政手続法5条1項が要求している審査基準を示さなかったこと(③)について原爆症認定申請について審査するに当たり,行政手続法5条1項所定の審査基準は存在しない(弁論の全趣旨)。 しかし,行政手続法5条1項が行政庁に対して申請に対する処分の審査基準を設定することを義務付けている趣旨は,行政庁による法令の解釈・適用に際しての裁量権の行使を公正,適正なものとし,その判断過程の透明性の向上を図り,また,被処分者にとっても,処分を受けることができるかどう かの予測を容易にして便宜を図ることにあると解されるから,当該許認可等の性質上,個々の申請について個別的,具体的な判断をせざるを得ず,法令の定め以上に具体的な基準を定めることが困難である場合等,審査基準を定めることができない合理的理由があるときは,同条1項所定の審査基準を定めることを要しないと解すべきである。 原爆症認定申請に対する審査についてみると,原爆症認定における放射線起因性及び要医療性については,医学的知見,疫学的知見等をもとに,高度に科学的及び専門的な判断がされるのであり,かつ,その判断はその性質上,個々の申請に対して個別的,具体的にされる必要があるのであって,それについて被爆者援護法10条1項の規定以上に具体的な基準を定めることは困難であり,審査基準を定めることができない合理的な理由があるといえるから,行政手続法5条1項所定の審査基準を定めることを要しないと解するのが相当である。 したがって,本件各却下処分が行政手続法5条1 審査基準を定めることができない合理的な理由があるといえるから,行政手続法5条1項所定の審査基準を定めることを要しないと解するのが相当である。 したがって,本件各却下処分が行政手続法5条1項に反する違法なものであるとはいえない。 ウ合理的な期間を優に超えて処分を行わなかったこと(④)について原爆症認定申請を受けた処分行政庁には,不当に長時間にわたらないうちに応答処分すべき条理上の作為義務があるというべきであるが,この作為義務に違反したというためには,客観的に処分行政庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分ができなかったことだけでは足りず,その期間に比して更に長期間にわたり遅延が続き,かつ,その間,処分行政庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに,これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要であると解すべきである(最高裁平成3年4月26日判決・民集45巻4号653頁参照)。 これを本件X2却下処分についてみると,前記引用に係る原判決の「前提となる事実等」に記載のとおり,本件X2申請は平成20年3月18日にさ れたが,本件X2却下処分がされたのは平成21年12月25日であって,その間約1年9か月を要している。そして,証拠(乙C7の1~6)によれば,厚生労働大臣は,本件X2申請がされた後,第1審原告X2に対し追加資料の提出を求めるなどした上,平成21年10月14日,疾病・障害認定審査会に対し,他の187件と共に第1審原告X2の原爆症認定についての意見を諮問し,同審査会は,医療分科会において判断することとして保留の答申をしたこと,厚生労働大臣は,同年11月27日,疾病・障害認定審査会に対し,他の307件(そのほかに異議申立て16件)と共に,再度第1審原告X2の原爆症認定 科会において判断することとして保留の答申をしたこと,厚生労働大臣は,同年11月27日,疾病・障害認定審査会に対し,他の307件(そのほかに異議申立て16件)と共に,再度第1審原告X2の原爆症認定についての意見を諮問したこと,疾病・障害認定審査会は,同月30日,厚生労働大臣に対し,他の175件と共に,第1審原告X2の原爆症認定について答申したことを認めることができ,そうすると,本件X2申請があってから,疾病・障害認定審査会に対し諮問をするまでの間に1年7か月間を要しており,遅延しているのではないかとの疑問が生じないではない。しかし,上記事実によれば,疾病・障害認定審査会に対する諮問件数は,平成21年10月が188件,同年11月が308件に及んでいることに照らすと,厚生労働大臣に対しては同時期に多くの原爆症認定の申請事件が係属していることが推認でき,原爆症認定の検討が様々な資料に基づき諸事情を検討してされるべきものであり,資料の収集に相当程度の時間を要することが想定されることも考慮すると,客観的に厚生労働大臣が上記の諮問その他処分をするためには相当程度の期間を要することが推認できるのであって,申請から処分まで約1年9か月を要したからといって,そのことだけでは,客観的に厚生労働大臣がその処分のために手続上必要と考えられる期間に比して更に長期間にわたり遅延が続いたと断ずることはできないし,他に上記遅延があったと認めるに足りる証拠はない。さらに,仮に上記遅延の点が認められたとしても,厚生労働大臣において,処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに,これを回避するため の努力を尽くさなかったと認めるに足りる証拠は提出されていない。 エ却下処分に当たって第1審原告X2に具体的な理由を説明しなかったこと(⑤)について 解消できたのに,これを回避するため の努力を尽くさなかったと認めるに足りる証拠は提出されていない。 エ却下処分に当たって第1審原告X2に具体的な理由を説明しなかったこと(⑤)について(ア) 証拠(乙C7の7)によれば,厚生労働大臣は,本件X2却下処分をした際,第1審原告X2に対し,書面で,同処分の理由として,疾病・障害認定審査会において,第1審原告X2の提出した申請書類から得られた被爆時の状況,被爆後申請時に至るまでの健康状況及び申請された疾病の治療状況等に関する情報をもとに,これまでに得られている医学的知見や経験則等に照らし総合的に検討されたが,当該疾病については,原子爆弾の放射線に起因していると判断することは困難であると判断されたので,その意見を受け,本件X2申請を却下することなどを示したことを認めることができる。 (イ) 行政手続法8条1項本文は,行政庁が,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない旨定めているところ,その趣旨は,行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあると解され,どの程度の記載をすべきかは,処分の性質と上記の趣旨・目的に照らして決定すべきである。原爆症認定申請を却下する処分についてみると,放射線起因性と要医療性については,被爆の状況,申請疾病等の症状,診療経過等の事実と医学的知見,疫学的知見等をもとに,高度に科学的及び専門的な判断がされるものであるから,その詳細を書面に記載することを求めることは困難である。他方で,申請者に不服申立ての便宜を与えること及び行政庁の恣意の抑制のためには,放射線起因性と要医療性のいずれの要件を欠 されるものであるから,その詳細を書面に記載することを求めることは困難である。他方で,申請者に不服申立ての便宜を与えること及び行政庁の恣意の抑制のためには,放射線起因性と要医療性のいずれの要件を欠くものと判断したのかという点と,考慮した主な事情を含む審査の概略については,書面に記載する必要があるというべきであり,かつ,その程度 の記載で行政手続法8条1項は満たされるというべきである。 これを本件X2却下処分についてみると,前記(ア)のとおり,厚生労働大臣は,第1審原告X2に対し,①申請疾病が原子爆弾の放射線に起因していると判断することは困難であること,②疾病・障害認定審査会における検討内容の概略(考慮した事情の概略を含む。)を記載した書面を示しているのであって,これによれば,第1審原告X2において,不服申立てをするか否かを検討することができ,行政庁の恣意の抑制の観点からも不当とはいえないというべきである。 (ウ) したがって,本件X2却下処分については,行政手続法8条違反も認められない。 (3) 以上によれば,厚生労働大臣が本件X1却下処分及び本件X2却下処分をしたことについて,国家賠償法上違法であるとはいえない。 第4 結論以上によれば,第1審原告X1の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却し,第1審原告X2の請求のうち,本件X2却下処分の取消しを求める部分は理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。 よって,第1審原告X1及び第1審被告の各控訴並びに第1審原告X2の附帯控訴は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第4部 裁判長裁判官森 主文 1及び第1審被告の各控訴並びに第1審原告X2の附帯控訴は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第4部 裁判長裁判官森一岳 裁判官小野瀬昭 裁判官増田純平は,差支えにつき,署名押印できない。 裁判長裁判官森一岳

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