平成17(わ)5076 非現住建造物等放火・詐欺未遂被告事件等

裁判年月日・裁判所
平成18年9月29日 大阪地方裁判所
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判決文本文7,835 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は第1長男Aがその所有する漁船「B」につき,C漁船保険組合との間で損害保険契約を締結していることを奇貨として,前記漁船に放火し,同人をして,損害保険金を請求させて前記保険契約に基づく損害保険金を詐取しようと企て 平成15年9月10日午前零時ころ,大阪府高石市(以下略)のD漁港に係留中の前記漁船の機関室において,あらかじめ用意していたガソリンを同所床面に撒布した上,ガソリンを染み込ませたタオルを同床面に置いてそれに所携のライターで点火して放火し,その火を機関室から甲板等に燃え移らせ,よって,現に人が住居として使用せず,現に人がいない前記漁船を全焼させた 同日午前6時ころ,前記D漁港船揚場において,情を知らない前記Aに対し,「保険屋言うたんか。」などと申し向け,さらに,同日午前9時ころ,同所において,同人に対し,「桟橋のところで,高校生ぐらいの子ども9人ぐらいが花火をしていた。子どもたちに対し,花火をしたらあかんと注意した。」などと申し向けて,同人をして,前記損害保険契約に基づく損害保険金の支払請求事由が生じたものと誤信させ,保険金欄に「22,000,000円」,損害の原因欄に「火災」などと記載した内容虚偽の同人作成名義に係る漁船保険保険金支払請求書を作成させ,平成16年1月23日ころ,大阪府岸和田市(以下略)のC漁船保険組合事務所において,D漁業協同組 合職員を介して同保険組合専務理事Fに対し,真実は,前記事実のとおり,被告人が前記漁船に放火したものであったにもかかわらず,これが火災被害にあったように装い,前記保険金支払請求書を提出させて損害保険金の支 を介して同保険組合専務理事Fに対し,真実は,前記事実のとおり,被告人が前記漁船に放火したものであったにもかかわらず,これが火災被害にあったように装い,前記保険金支払請求書を提出させて損害保険金の支払を請求し,前記Fをして,その旨誤信させてその支払を決定させて損害保険金を詐取しようとしたが,同人がその火災原因等に不審を抱き,その支払を留保したため,その目的を遂げなかった第2兵庫県知事の許可を受けないで,かつ,法定の除外事由がないのに,平成17年5月15日午前1時ころ,神戸市(以下略)所在のG灯台から真方位347度4250メートル付近海上の兵庫県海域において,自己所有の漁船「H」(総トン数1.3トン)により,刺網漁具を使用して,すずき5尾(4キログラム・換価代金200円)を採捕し,もって,許可なく刺網漁業を営んだものである。 (詐欺未遂罪の成否について)第1当事者の主張等 検察官は,被告人がその息子であるA所有のB(以下「本件漁船」という。)に放火して全焼させた上,自己が放火したことを秘匿し,情を知らないAを利用して,Aに「保険屋言うたんか。」等と言って請求を慫慂し,Aに保険金請求書を提出させてAに保険金を得させようとした間接正犯としての詐欺未遂罪が成立すると主張する。 これに対し,弁護人は,(1)被告人は,Aに「保険屋言うたんか」などという言動はしていない,(2)かかる言動があったとしても,かかる言動はAの行為を支配するものとまでは言えず間接正犯の利用行為には当たらないとして,詐欺未遂罪は成立しないと主張する。 第2当裁判所の判断 関係証拠によれば,次の各事実が認められる。 (1)本件漁船の購入経緯及び保険契約の内容平成12年5月8日,Aは,被告人を連帯保証人として,Iから毎年年末に250万円ずつ11回にわたり返 関係証拠によれば,次の各事実が認められる。 (1)本件漁船の購入経緯及び保険契約の内容平成12年5月8日,Aは,被告人を連帯保証人として,Iから毎年年末に250万円ずつ11回にわたり返済する約束で2500万円を借受けた。そして,Aは同人名義で本件漁船を購入し,平成12年4月17日,本件漁船は漁船登録がなされた。平成13年1月頃に,Iが死亡し,その相続人であるJから上記借り入れについて,連帯保証人を被告人以外の者にするよう申し入れがあったことから,同年11月6日に,貸し主をIの妻であるKに変え,被告人の兄であるL及び被告人の長女であるMを連帯保証人とする新たな借用証書が作られた。この借金については,被告人の妻であるNの管理のもとで,平成13年12月下旬に100万円,平成14年6月下旬に400万円が返済されたが,残金については返済されていない。 C漁船保険組合員であるAは,本件漁船について,平成12年5月に,無線機,GPSなどの装備を含めた船体,機関,装備一式の保険金額を2500万円とする普通損害保険に加入し,平成14年10月1日に,減価償却の分を差し引いて保険金額を2200万円として保険契約を更新した。 (2)本件漁船の放火に至る経緯本件漁船は,スズキ漁に用いるために購入されたものであるところ,平成13年1月頃に,兵庫県海域でスズキのタタキ漁をすることができなくなったため,本件漁船の用途がなくなり,A及び被告人は平成14年春ころには,本件漁船を売却処分して借金を返済することを考えるようになり,Aは被告人に本件漁船を1700万ないし1800万円で売却するように頼んだりした。そして,平成15年春ころ,本件漁船についての売買の話しがあり,被告人が交渉に当たったが,2000万円程度で売却したいと考えていた被告人と相手方との間で し1800万円で売却するように頼んだりした。そして,平成15年春ころ,本件漁船についての売買の話しがあり,被告人が交渉に当たったが,2000万円程度で売却したいと考えていた被告人と相手方との間で金額が折り合わず,他にも売却する話はあったものの結局売却には至らなかった。 被告人は,上記売却話しがまとまらなかったことから,平成15年9月ころ,本件漁船に放火してAに保険金を得させ,これを借金返済にあてることを決意し,同月10日,本件漁船に放火して全焼させた。 (3)放火直後の被告人の言動について平成15年9月10日午前6時頃,Aが,D漁港の放火された本件漁船の傍らにいたところ,被告人がAに対し,「保険屋に言うたんか。」などと言ってきたこと,また,同日午前9時ころ被告人がAに対し「桟橋の所で,高校生ぐらいの子ども9人ぐらいが花火をしていた。子ども達に対し,花火をしたらあかんと注意した。」などと告げた。 (4)Aの保険金請求行為及び取り下げの状況平成16年1月23日ころ,Aは,C漁船保険組合(以下「保険組合」という。)に対し,本件漁船につき,損害の原因を「火災」として,普通損害保険金2200万円を請求した。 保険組合は,火災原因が不明確であり,被告人による放火の可能性があるとし,かかる場合に保険金支払いを認めることは公益に反し,信義誠実の原則に反するなどとして支払いを留保していた。 保険組合の損害調査における平成15年9月12日の聴き取り調査結果によると,被告人は,火災の原因が自己の放火行為によるものであることは秘匿していた。 その後,Aは,本件保険金請求を取り下げたため,保険金は支払われなかった。 以上の事実を前提に,被告人に詐欺未遂罪が成立するか否かを検討する。 欺罔行為の有無について(1)漁船保険組合模範保険約款(以下「保険 件保険金請求を取り下げたため,保険金は支払われなかった。 以上の事実を前提に,被告人に詐欺未遂罪が成立するか否かを検討する。 欺罔行為の有無について(1)漁船保険組合模範保険約款(以下「保険約款」という。)によれば組合員若しくは被保険者の故意または重大な過失によって損害が生じた場合には保険組合は免責され(保険約款67条1項1号),被保険者は保険金 の請求をしようとするときは,事故の原因,経過などを記載した書面に証明書等をそえて,組合に申告しなければならない(同64条)とされているところ,被保険者Aの父親である被告人が故意に損害を生じさせた上,Aの行為を利用して保険金請求する場合に,被告人がAに対し放火したことを秘匿して保険金を請求させることが,被保険者による故意又は重大な過失による損害を生じさせた場合と同様に評価され,被告人の行為が欺罔行為にあたるか否かについて検討する。 (2)そもそも,保険契約者等が意図的に保険事故を招致した上で,それを秘匿して保険金を請求するという典型的な保険金請求詐欺における欺罔行為とは,保険金請求行為自体が,保険金支払の除外事由があるのにこれがないように装う挙動による行為であると解される。そして,この理は,保険契約約款上において,その者による故意又は重過失による事故の場合に保険金が支払われないと明記されている者自体ではないが,保険契約者等と一定の関係にある者で,その者の故意又は重過失による事故である場合に,それが保険契約者等の行為と同一視すべき場合においても同様と解される。 (3)関係証拠によれば,被告人の妻でAの母でもあるNが被告人とAの双方の預金口座を管理し,漁業活動の経費についても,その都度,AがNに伝えて現金を受け取っていたこと,Nは領収書等の伝票整理など資金の管理一切を引き受けており 人の妻でAの母でもあるNが被告人とAの双方の預金口座を管理し,漁業活動の経費についても,その都度,AがNに伝えて現金を受け取っていたこと,Nは領収書等の伝票整理など資金の管理一切を引き受けており,それを元に被告人及びAは確定申告の手続を税理士などに依頼していたこと,本件漁船を含む被告人及びAの所有名義の漁船の保険料はNが一括して支払っているが,その保険料について被告人及びAの収入から明確に区分して支出していたものではないこと,漁船の修理代金についても,被告人とAの金銭が混同して使用されている状況が認められること,さらに本件漁船の購入代金の借金の返済資金のうち,平成14年に返済した本件漁船に係る債務の返済金400万円についてはA の収入だけでは支払いが行いうる状況にはないことなどの事実が認められ,被告人及びAの収入と支出が対応せず,両者の収支が明確に分別されておらず,むしろ,相当程度収支の混同があったというべきである。 また,本件当時,被告人とAは共に漁業を営み,各人名義の漁船を数隻ずつ所有していたこと,エンジンの調子などによって,それぞれの所有名義となっている漁船をお互いに使用し合っていたこと,一隻の漁船を使用して共同で漁に出たり,魚介類の仕分け等を共同で行うことがあったこと,漁船に使用する燃料は同一のタンクから給油していたこと,漁業に用いる倉庫,網などを共同して使用していたこと,魚介類を売却する際に,共同して運搬することがあったこと,さらに,互いにその所有名義となっていた漁船の所有名義を交換しているが,その際にも何らの精算も行われていないこと,被告人,A及びNは共に被告人とAがPという一種の屋号で共同して家業を行っているという認識であると供述していることなどの事情に照らすと,被告人及びAは,一時的な協力にとどまらず,継続的に漁 ないこと,被告人,A及びNは共に被告人とAがPという一種の屋号で共同して家業を行っているという認識であると供述していることなどの事情に照らすと,被告人及びAは,一時的な協力にとどまらず,継続的に漁業経営を協力して行っていたことが認められる。 そうすると,被告人とAがそれぞれ漁獲物を売り上げる市場を異にしており,売上金はそれぞれの名義の銀行口座に入金されていたこと,被告人及びAに対する取引業者からの請求書等の書類はそれぞれの名義で送付されていたこと,収入については一応被告人とAの口座に分けて入金されていたなどの事情を考慮しても,上記のような事情に照らすと,被告人とAの漁業経営は家業として互いに共同して行われ,漁業経営に関しては,実質的には経済的に一体のものと認められる。 (4)したがって,被告人が本件漁船に放火して故意に損害を生じさせた場合に,本件漁船の焼損原因が被告人の放火行為であることを秘匿して,保険金請求事由となる火災が損害の発生原因であるとして,情を知らないままのAを利用して保険金請求させることは,保険金支払の除外事由がある のにこれがないように装う挙動による欺罔行為に該当するものということができる。 支配性の有無についてAの検察官調書によると,Aは本件漁船が焼損し,被告人から「保険屋に言うたんか。」と言われて,それが,保険金を請求するために保険会社に連絡するようにということを意味するということを理解していたこと,その後,Aは,D漁業共同組合(以下「漁協」という。)の職員であるOに対し「保険の関係頼むわな。」などと述べて保険金請求の手続きを依頼したこと,被告人から高校生らが花火をしていたなどと言われて,花火が本件漁船の火災原因の可能性もあると思ったことが認められる。 本件保険契約の被保険者はAであり,Aが本件漁船が火災 請求の手続きを依頼したこと,被告人から高校生らが花火をしていたなどと言われて,花火が本件漁船の火災原因の可能性もあると思ったことが認められる。 本件保険契約の被保険者はAであり,Aが本件漁船が火災にあったことを知って保険金請求をすることは自然であるし,Aが本件以前にも漁協職員に保険金請求を依頼し,漁協の職員が保険金請求を代行していたことからすると,Aが,本件漁船の焼損を知って,漁協職員に保険金請求の代行を依頼したのも自然であって,被告人の上記言動がAの保険金請求行為に至る経過に影響した程度は小さいとも考えられる。 しかしながら,被告人の放火行為及び被告人が上記のようにAに保険金請求をするように慫慂した行為を全体としてみると,被告人の放火行為がなければ,保険金請求権が発生する余地もなく,Aが本件保険金請求行為をすることはなかったのであり,また,被告人もあらかじめそれを認識しながら一連の行為を行っていたものであることからすると,被告人が本件漁船に放火したことで,Aが保険金を請求するそもそもの因果の流れを作出し,更に「保険屋に言うたんか。」などと申し向けることによって因果の流れを強めたものといえ,被告人の行為はAをして保険金請求させるべく,その行為を支配し,利用していたといえる。 結論 以上のように,被告人は,情を知らないAに対し,本件漁船の火災の原因が自己の放火行為であることを秘匿して,同人の行為を支配利用し,保険金請求させているから,被告人に詐欺未遂罪が成立する。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は刑法109条1項(刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6 時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第2の所為は同法250条,246条1項に,判示第3の所為は兵庫県漁業調整規則56条1項1号,7条7号にそれぞれ該当するところ,判示第3の罪について所定刑中懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重(行為時においては上記改正前の同法14条の制限に従い,裁判時においてはその制限はされないが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法である改正前の刑法14条の制限による。)をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中180日をその刑に算入することとし,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予することとする。 (量刑の理由)本件は,保険金詐取目的で,息子所有の漁船を放火した非現住建造物等放火の事案(判示第1の1),同人に保険金を請求させてこれを取得させようとしたが未遂にとどまった詐欺未遂の事案(判示第1の2)及び許可なく刺網漁業を営んだという兵庫県漁業調整規則違反(判示第2)の事案である。 被告人は息子名義の借金返済のための資金として保険金を詐取する目的で非現住建造物等放火及び詐欺未遂の犯行を行ったものであり,その身勝手かつ自己中 心的な動機に酌量の余地はない。 非現住建造物等放火について,被告人は,燃焼力が大きく危険性の高いガソリンを使用し,あらかじめローソク,ライター,タオル等を用意して放火を行 ,その身勝手かつ自己中 心的な動機に酌量の余地はない。 非現住建造物等放火について,被告人は,燃焼力が大きく危険性の高いガソリンを使用し,あらかじめローソク,ライター,タオル等を用意して放火を行った上,放火する直前に花火の燃えかすをまいて自己の犯行を隠ぺいする工作をするなど,その犯行態様は巧妙かつ悪質であり,本件漁船だけでなく,放火現場付近の桟橋と,周囲の他の漁船の一部にも延焼させ,また消火活動に多数の関係者の参加を余儀なくさせた結果は重大である。 兵庫県漁業調整規則違反については,被告人は,同種罰金前科4犯を有し,常習性が認められ,同種犯行に対する規範意識の鈍磨が甚だしい。 以上の事実からすると被告人の刑事責任は重大である。 しかしながら,他方,判示第1の1の非現住建造物放火の犯行については,焼損した漁船の所有者である被告人の息子は被告人を受け入れて,被告人と協力して漁業をしていく意向を示しており,強い被害感情はうかがえないこと,判示第1の2の犯行については,火災原因に不審を抱かれ,最終的には被告人の息子が保険金請求を取り下げ,未遂に終わっていること,被告人には懲役前科がないこと,被告人が漁業組合を除名されて漁業を自営できなくなり,かつ相当長期間身柄を拘束され,一定の社会的制裁を受けていること,当公判廷において反省態度を示していること,被告人の健康状態が十分ではないことなど,被告人のために,酌むべき事情も認められる。 以上の事情を総合的に考慮すると,被告人の刑事責任を明確にした上,今回に限り社会内での更生の機会を与えることが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役5年)平成18年9月29日大阪地方裁判所第4刑事部 並木正男裁判長裁判官本つとむ裁判官柳中陳睦子裁判官 主文 て,主文のとおり判決する。 (求刑懲役5年)平成18年9月29日大阪地方裁判所第4刑事部 並木正男裁判長 裁判官本つとむ 裁判官柳中陳睦子

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