平成20(ワ)2586 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年5月25日 横浜地方裁判所 棄却
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判決文本文85,741 文字)

-- 平成24年5月25日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官平成20年第2586号損害賠償請求事件(第一事件)平成22年第2160号損害賠償請求事件(第二事件)口頭弁論終結日平成23年11月25日(被告国以外の被告ら)平成24年1月13日(被告国)判決当事者の表示別紙1「当事者目録」記載のとおり(省略)主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1章請求被告らは,別紙2「請求額等目録(省略)記載の各原告に対し,連帯し」て,各原告に対応する同目録「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する同目録「労災等認定日」欄記載の各年月日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2章事案の概要第1節事案の要旨,,()原告らは主に神奈川県内において建設作業に従事し石綿アスベスト粉じんに暴露したことにより,石綿肺等の石綿関連疾患にり患したと主張する者又はその相続人である。 本件は,原告らが,被告国が,石綿含有建材を用いた構造を建築基準法上の耐火構造等として指定し,石綿含有建材の使用を推進したことや,建設作-- 業従事者の石綿粉じん暴露を防止するために労働関係法令等に基づく規制権,,限を行使することを怠ったことが違法であるなどと主張して被告国に対し国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料等総額28億8750万円の損害賠償及び遅延損害金を請求するとともに,被告Y1外43社(被告符号乙イから乙ンまで。被告符号乙ヌの被告は口頭弁論終結時には存しない。以下「被告企業ら」という)が,石綿のがん原性が明らかとなった時点以降も,石綿。 ,,,,含有建材を製造加工販売し続けた行為等は共同不法行為に当たりまた被告企業らが製造等した しない。以下「被告企業ら」という)が,石綿のがん原性が明らかとなった時点以降も,石綿。 ,,,,含有建材を製造加工販売し続けた行為等は共同不法行為に当たりまた被告企業らが製造等した石綿含有建材は通常有すべき安全性を欠いていたと主張して,被告企業らに対し,民法719条1項及び製造物責任法3条に基づき,被告国に対すると同様の損害賠償等を請求した事案である。 以下,労働関係法令の略称は別紙3「略称一覧表(省略)の例によるも」のとし,省庁名,官職名等はいずれも当時のものである。 第2節前提事実第1当事者 原告ら原告らは,各原告又はその被相続人が建設作業に従事し,石綿粉じんに暴露したことにより,石綿関連疾患にり患したと主張するところ,各原告又はその被相続人の生年月日,死亡年月日,労災認定疾患名(原告又は被相続人が,労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の支給決定において,業務災害と認定された疾病又は障害)等及び労災認定日(原告又は被相続人が上記支給決定を受けた日)は,別紙4「各被災者個別表(省略)」の各欄に記載のとおりである(甲D19から25まで,甲E1から76まで(枝番を含む,弁論の全趣旨。 。))なお,原告らは,各原告又はその被相続人が石綿粉じんに暴露する建設作業に従事した経歴につき,上記別紙4の「粉じん作業従事歴」欄記載のとお-- り主張する。 被告企業ら(省略)第2石綿及び石綿含有建材(省略)第3建設作業における石綿粉じんの飛散状況等(省略)第4石綿関連疾患(現在の医学的知見(省略))第5建築基準法令上の石綿含有建材の扱い(省略)第6労働関係法令上の石綿及び石綿含有建材に関する施策(省略)第7石綿関連疾患に関する医学的知見の集積状況(省略)第3節本件の主要な 略))第5建築基準法令上の石綿含有建材の扱い(省略)第6労働関係法令上の石綿及び石綿含有建材に関する施策(省略)第7石綿関連疾患に関する医学的知見の集積状況(省略)第3節本件の主要な争点及びこれに対する当事者の主張第1本件の主要な争点 被告国の行為の違法性と医学的知見とのかかわり 被告国の建築基準法令に基づく指定行為の違法性の有無 被告国の建築基準法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無 被告国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無 被告国の毒物及び劇物取締法に基づく規制権限不行使の違法性の有無 被告企業らの共同不法行為の成否 原告らの損害額第2被告国の行為の違法性と医学的知見とのかかわり(争点1)について 原告らの主張被告国の責任の前提となる予見可能性の内容等(省略)石綿肺について(省略)肺がん,中皮腫について(省略) 被告国の主張規制権限等の行使と医学的知見(省略)石綿肺について(省略)-- 肺がん及び中皮腫について(省略)第3被告国の建築基準法令に基づく指定行為の違法性の有無(争点2)について 原告らの主張被告国の直接的な加害行為の存在(省略)被告国が石綿含有建材の使用拡大に対して果たした役割(省略)建築基準法に基づく指定行為の社会的意味(省略)具体的な違法行為(省略) 被告国の主張(省略)第4被告国の建築基準法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点3)について 建築基準法2条7号から9号までに基づく規制権限(省略) 建築基準法90条に基づく規制権限(省略)第5被告国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点4)について 石綿の製造等の禁止について(省略) 製品への石綿 権限(省略) 建築基準法90条に基づく規制権限(省略)第5被告国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点4)について 石綿の製造等の禁止について(省略) 製品への石綿の有害性等の表示について(省略) 定期的粉じん濃度測定について(省略) 石綿吹付けの禁止について(省略) 建築現場における警告表示について(省略) 集じん機付き電動工具の使用について(省略) プレカット工法について(省略) 局所排気装置の使用等について(省略) 防じんマスクの支給について(省略) 特別教育について(省略)-- 第6被告国の毒物及び劇物取締法に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点5)について 原告らの主張(省略) 被告国の主張(省略)第7被告企業らの共同不法行為の成否(争点6)について 原告らの主張民法719条1項に基づく損害賠償責任(省略)製造物責任法3条に基づく損害賠償責任(省略) 被告企業らの主張(省略)第8原告らの損害額(争点7)について 原告らの主張慰謝料(省略)弁護士費用(省略) 被告らの主張(省略)第3章当裁判所の判断第1節石綿及び石綿含有建材をめぐる状況について第2章第2節の前提事実,証拠(甲A4,15,59,67,79,82,,,,,,,,, 甲B1から3まで6,19,23,甲C3,乙アA43,55,108,112,125,乙アB15,34,78,98から100まで,乙シ5,乙マ7から25まで,乙メ5,乙ラ10)及び弁論の全趣旨によれば,石綿及び石綿含有建材をめぐる状況について,次の各事実を認めることができる。 ,,,,,, 石綿には紡織性 で,乙シ5,乙マ7から25まで,乙メ5,乙ラ10)及び弁論の全趣旨によれば,石綿及び石綿含有建材をめぐる状況について,次の各事実を認めることができる。 ,,,,,, 石綿には紡織性抗張性耐摩耗性不燃性・耐熱性断熱性・防音性その上安価等の特質があったところ,日本においては,明治20年代に石綿の輸入が開始され国内で石綿が工業製品に利用されたのは明治24年 ,,(-- 891年)の石綿保温剤の開発・販売が初めてであったといわれている。石綿は,軍艦の保温材,断熱材として使用され,軍事需要の高まりとともに,石綿産業も盛んになっていった。 また,明治41年(1908年)には,大阪府泉南地域において石綿紡織業が始まり,大正3年(1914年)には,初めての国産石綿スレートが製造され,石綿は,民間の各種機械の保温,保冷や石綿セメント製品にも幅広く使われるようになった。 石綿は,その大部分を輸入に頼っていたが,戦前には,年間輸入量が最も多いときでも,昭和14年(1939年)に約4万t程度であった。 昭和16年(1941年,戦争により輸入が途絶え,以後は,北海道等)の国内の鉱山からの産出に頼ることとなった(国内の鉱山は,海外に比べて規模が小さく石綿含有率も低く,採掘の採算性が悪いとして,戦後数年でほとんどが閉鎖された。 。) 昭和24年(1949年,石綿の輸入が再開された。このころ,石綿は,)主に,電解隔膜,紡織品,ジョイントシート,石綿板(電解隔膜以外は,各種パッキングの素材等として使われていた)等に使用されていた。 。 その後,自動車を初め各種産業機械のブレーキに使用され,昭和31年こ,,,,,,,ろからは学校ホテル体育館駐車場電車等の車両船舶等への吸音,。 断熱・耐火結露防 。 。 その後,自動車を初め各種産業機械のブレーキに使用され,昭和31年こ,,,,,,,ろからは学校ホテル体育館駐車場電車等の車両船舶等への吸音,。 断熱・耐火結露防止のための吹付け材として広く使用されるようになったさらに,都市の防火,防災が,都市計画の最重要課題とされ,昭和34年の建築基準法の改正で建築物の不燃化が進められると,石綿含有建材が,防火材料として着目されるようになった。石綿セメント建材は,不燃性建材である上,雨水に侵されることもなく,日光や風雪にさらされても変化せず,ネズミやシロアリにも強く,丈夫で長持ちし,しかも,軽く,釘の直うちや切断などの加工が容易であるなどと評価された。 -- 石綿含有建材は,工業製品であり(大量生産が可能,上記のような工法)の容易さもあったことから,大量の住宅をより早く供給するとの政策や建築工法の近代化という政策も充たすものとして,種々の新製品が開発され,生産量が多くなっていった。 昭和38年の建築基準法の改正で建築物の高さ制限がなくなり,建築物の高層化が政策となると,昭和39年の建築基準法施行令の改正及び建設省告示第1675号で,吹付け石綿や石綿を含有した耐火被覆板を用いた構造が耐火構造に指定された。以後,高層建築物には,鉄骨への石綿の吹付けが多用されるようになった。 実際に,昭和40年から昭和55年までの間に,建設大臣が昭和40年建設省告示第1193号によって耐火構造として個別指定した構造のうち,約7割は石綿含有建材を用いた構造であったとの調査結果がある。 また,昭和47年の時点で,建設大臣が昭和45年建設省告示第1828号によって不燃材料又は準不燃材料として指定した建材のうち,約6割は石綿含有建材であったとの調査結果がある。 石綿の輸入量は,昭和30 た,昭和47年の時点で,建設大臣が昭和45年建設省告示第1828号によって不燃材料又は準不燃材料として指定した建材のうち,約6割は石綿含有建材であったとの調査結果がある。 石綿の輸入量は,昭和30年代後半から増加し,昭和49年には,約35万tとピークに達した。 石綿粉じんは石綿肺を発生させる危険性があることは,戦前から認識されていた(昭和13年発行の鯉沼茆吾の「職業病と工業中毒」にも,粉じんによる呼吸器疾患の項目で「珪肺」と並んで「アスベスト肺」が挙げられて,いた。戦後も,大阪府泉南地域や奈良県等の石綿紡職工場で従業員の調査。)等がされ,その結果,石綿肺の診断基準が確立され,石綿肺のり患者は,じん肺法で補償されることとなった。 石綿肺は,石綿紡織工場の従業員の職業病として意識されてきた。 昭和45年11月17日付けの朝日新聞に「石綿作業で肺がん」との記,-- 事が掲載された。これは,国立療養所近畿中央病院の院長が,大阪府の石綿紡績工場の従業員から,最近11年間に8人の肺がん患者が出て,そのうち6人が死亡したことを突き止めたというものであった。また,同記事の中では,上記院長が,大阪市の吹付け工が石綿じん肺と診断されたことを突き止めたことを「石綿製造工場外で発病した日本での珍しい例」と記載し,宝来善次奈良県立医大教授の話として,石綿が肺がんを起こした例は見つかっていないこと,アメリカではブレーキライニングに使われている石綿がブレーキを踏むとき石綿粉じんを出し,がんのもととなると問題になっていることなどが記載されていた。 続いて,同月22日付けの朝日新聞には「東京の都心で石綿」との記事,が掲載され,東大医学部公衆衛生学教室の研究生が,学会で,東京都文京区の本郷三丁目の大気中から微量の石綿を検出したと報告したと記載された ,同月22日付けの朝日新聞には「東京の都心で石綿」との記事,が掲載され,東大医学部公衆衛生学教室の研究生が,学会で,東京都文京区の本郷三丁目の大気中から微量の石綿を検出したと報告したと記載された。 このころから,石綿について,大気中の石綿粉じんにも関心が向けられた。 労働省は,昭和46年1月5日「最近,粉じんを多量に吸入するときは,,石綿肺を起こすほか,肺がんを発生することもあることが判明し」などとして「石綿取扱い事業場の環境改善等について」との通達を発出した(これ,は,昭和45年9月の1か月間,対象事業場の総点検が実施された結果に基づくと言われる。 。) 労働省においては,産業界における新技術の導入,新原材料の採用等の急速な進展につれ,各種有害物等による健康障害の増加が見られるとして,これらの障害の予防のため,昭和46年4月28日,旧特化則を制定した。 旧特化則の制定に当たり,労働省労働基準局長は,労働環境技術基準委員会を設置し,有害物等による障害の防止に関する対策について議論した。上記委員会が提出した同年1月21日付け報告書(乙アB15)では,①障害発生の事例があること,②毒性が強くて重篤な障害の発生のおそれがあ-- るものであること,③障害が多発するおそれがあるものであることとの観,,点からとり急ぎ対策を講ずる必要がある有害物等を選定したとするところ有害物等一覧表では,4アミノジフェニル,オーラミン,ジクロルベンジジン等には「がん原性物質」を示す印が付いているが,石綿にはその印は付いていなかった。 労働省の担当官は,同年9月号の雑誌「労働の科学」において,旧特化則の対象物質は,石綿を除いて全て有害化学物質である,石綿が特に旧特化則の対象物質とされたのは,石綿肺が重篤な疾患であるのみならず,ある種のもの 官は,同年9月号の雑誌「労働の科学」において,旧特化則の対象物質は,石綿を除いて全て有害化学物質である,石綿が特に旧特化則の対象物質とされたのは,石綿肺が重篤な疾患であるのみならず,ある種のものは,肺がん,中皮腫をおこす疑いがあるため,その解明は,今後の調査研究にまつとしても,予防は,有害化学物質と同等に取り扱う必要があるとされたからであると説明している(甲A82。 ) 労働省においては,昭和50年9月30日,特化則を一部改正した。 昭和50年改正特化則は,化学物質等の発がん性を意識したものであり,人体に対する発がん性が疫学調査の結果明らかとなった物,動物実験の結果発がん性の認められたことが学会で報告された物として,石綿を特別管理物質と定め,事業者に対し,代替化の努力義務を課すとともに,石綿の吹付け作業を原則的に禁止した。 建築物の鉄骨等への吹付けは一定の措置のもとで許されたが,これは,石綿等の吹付けによらなければ,建築基準法に基づく鉄骨等の耐熱性能を確保することができないとの理由によると説明されている(乙アB31のⅡ24。 ) 石綿の吹付けについては,昭和49年ころには,関係業界において,その施工が自主的に中止されつつあった。吹付け石綿には,主に,クロシドライト,アモサイトが含有されていた。 昭和50年改正特化則施行後,吹付け石綿(これは,石綿を重量の30%-- 程度含有していた)は,特化則が石綿を利用するために定めた措置には経。 費がかかったこともあって,石綿を重量の5%以下含有する吹付けロックウール等に置き換えられ,これも,石綿を含有しない吹付けロックウール等への転換が進められた。 この結果,昭和55年には,関係業界において,石綿を重量の5%以下含有する吹付けロックウールの施工も中止された。 なお,建設省が,耐火 も,石綿を含有しない吹付けロックウール等への転換が進められた。 この結果,昭和55年には,関係業界において,石綿を重量の5%以下含有する吹付けロックウールの施工も中止された。 なお,建設省が,耐火構造を定めた建設省告示から吹付け石綿を用いた構造を削除したのは,昭和62年11月である。 一方,吹付け剤以外の石綿含有建材については,昭和40年代から,無石綿化を模索する企業もあり(甲A265によれば,W1は,昭和40年代から,脱石綿・無石綿化を模索し,昭和50年には,マリライトという無石綿の船舶用耐火隔壁材を完成させた,昭和50年代後半になって,石綿スレ。)ートに含有された石綿を他の材料に置き換えて製品中の石綿含有率を低下させた製品が販売されるようになったものの,その割合は極めて低かった。 石綿の年間輸入量は,昭和49年の後,約23万tから約30万tの間くらいで推移しており,昭和63年に約32万tと第二のピークを迎えた。 この当時,輸入された石綿の約7割が石綿含有建材に使用されており,その割合は昭和60年代には約8割に達した。 石綿含有建材に使用される石綿の9割以上はクリソタイルであった上,昭,。 和62年ころまでにクロシドライトの使用は関係業界において中止されたなお,内閣が,クロシドライト及びアモサイトを製造等を禁止する有害物に加えたのは,平成7年1月である。 昭和62年6月ころ以降,吸音,耐火等を目的として学校等に吹き付けた石綿が劣化して,その繊維が空気中に飛散する事例が報告され,そのことが,(「」)。 新聞報道されたことによって社会問題化したいわゆる学校パニック-- 同年7月7日付けの朝日新聞には「石綿汚染「危険知らずむき出しに解,」体期迎えた使用ビル」等の見出しで,学校や集合住宅の室内に,断熱,防 って社会問題化したいわゆる学校パニック-- 同年7月7日付けの朝日新聞には「石綿汚染「危険知らずむき出しに解,」体期迎えた使用ビル」等の見出しで,学校や集合住宅の室内に,断熱,防音材として昭和30-40年代に吹き付けられた石綿の汚染が問題となっているとの記事が掲載された。同記事の石綿に関する解説では「米国の疫学調,査では,石綿関連工場の従業員が肺がんにかかる率は一般人(非喫煙者)の5-7倍。喫煙者の石綿労働者は約50倍になる。石綿肺や中皮腫にもなりやすいが,これらは繊維を大量に吸い続けた人の例」と記載されている。 その後も,新聞各紙には,石綿利用校の確認,石綿撤去への補助金交付,方法も難題等の記事が昭和62年11月ころまで相次いだ。 労働省は,昭和61年9月,建設業に係る関係事業者団体の会長宛てに,建築物の解体又は改修の工事における労働者の石綿粉じんへの暴露防止等について,石綿等の使用箇所等の事前把握,石綿等の湿潤化,防じんマスクの使用等の徹底を図るよう求める通達を発出した。 昭和63年3月には,石綿除去作業,石綿を含有する建設用資材の加工等の作業等における石綿粉じん暴露防止対策の推進に関し,通達を発出した。 さらに,平成4年1月,石綿含有建築材料の施工作業における石綿粉じん暴露防止対策の推進に関し,通達を発出した。 平成4年の通達は,建築工事に限って防止対策を具体的に記述した初めてのものであった。 この間,建設省は,昭和62年から昭和63年にかけて,吹付け石綿の使用状況等について調査し,吹付け石綿の飛散防止対策について,処理技術指針を通達で明らかにするなどした。しかし,建築工事については,何らの注意も喚起しなかった。 社会党と社会民主連合は,平成4年12月3日,石綿製品の製造,輸入,販売等の原則禁止,代替 処理技術指針を通達で明らかにするなどした。しかし,建築工事については,何らの注意も喚起しなかった。 社会党と社会民主連合は,平成4年12月3日,石綿製品の製造,輸入,販売等の原則禁止,代替物質の使用等の促進等を内容とする「石綿製品の規-- 制等に関する法律案」を衆議院に提出したが,同法案は,厚生委員会に付託されることなく廃案となった。もっとも,ここで禁止の対象とされていた石綿は,クリソタイル以外の石綿であった。 社会党は,その後も上記法案の再提出を目指したが,果たすことはできなかった。 石綿の年間輸入量は,平成になってからは年々減少し,平成6年には20万tを下回り,平成12年には10万tを,平成14年には5万tを下回った。一方,輸入された石綿の建材に使用される割合は,平成に入ってからは約9割に及んだ。 通商産業省は,平成2年度から,毎年,財団法人建材試験センターや社団法人日本石綿協会に委託して,石綿含有率低減化製品の調査研究を行うようになった。 厚生労働省は,平成14年12月,石綿の代替化等検討委員会を設置し,石綿製品のメーカー,ユーザーからの聴取等を行った。その後,労働政策審議会安全衛生分科会の諮問を経て,平成15年10月16日,安衛令の一部改正がされ,石綿を含有する建材の製造等が禁止された。 平成15年改正安衛令の施行は平成16年10月1日とされ,それに先立つ,同年9月29日,耐火構造や不燃材料等を定める建設省告示から,石綿含有建材を用いた構造等が一斉に削除された。 平成17年6月29日,被告Y2は,石綿(クロシドライト)水道管を製造していた,兵庫県尼崎市のA工場の従業員51人が過去10年間に石綿関連疾患で死亡していたこと,周辺住民5人が中皮腫を発症し,そのうち2人が死亡していたことを公表した(いわゆる「 ライト)水道管を製造していた,兵庫県尼崎市のA工場の従業員51人が過去10年間に石綿関連疾患で死亡していたこと,周辺住民5人が中皮腫を発症し,そのうち2人が死亡していたことを公表した(いわゆる「Y2・ショック。その後,他」)の企業でも,職業上の石綿暴露による肺がん,中皮腫患者が多数発生し,労災認定を受けていること,近隣暴露により中皮腫にり患した住民がいること-- が明らかになった。 政府は,同年7月29日,アスベスト問題に関する関係閣僚による会合を開催し,過去の政府の対応について,関係省庁(厚生労働省,環境省,防衛庁,消防庁,文部科学省,経済産業省,国土交通省)が調査をすることとなり,同年8月,その調査が出揃ったため,同月26日「アスベスト問題に,関する政府の過去の対応の検証について(乙メ5)を公表した。 」上記の検証では,石綿の有害性についての国際的な知見が確立したのは,昭和47年(1972年)のILO,WHOの専門家会合でのがん原性の指摘であり,労働省及び環境庁においては,同年当時には石綿の危険性について認識していたこと,労働省は,昭和50年(1975年)には,吹付け作業の禁止,特定の作業の湿潤化など,代替化の促進を図りつつ管理使用により規制を強化してきたこと,クロシドライト及びアモサイトの使用禁止等の時期や大気汚染防止法の改正時期については,なお精査が必要なこと,労働省及び環境庁を中心に実施された調査・研究の成果等が政府全体として共有され,関係省庁の十分な連携が図られたかは反省の余地があることとされていた。 さらに,政府は,労災補償の対象とならない者も隙間なく救済するとして新法を制定することとし,平成18年2月10日,石綿による健康被害の救済に関する法律(同年法律第4号)が成立した。 15海老原勇医師らは, 府は,労災補償の対象とならない者も隙間なく救済するとして新法を制定することとし,平成18年2月10日,石綿による健康被害の救済に関する法律(同年法律第4号)が成立した。 15海老原勇医師らは,昭和58年から昭和62年までの間(第1期,平)成9年(第2期,平成17年及び平成18年(第3期)の3回にわたり,)首都圏の建設作業従事者が加入する組合の一般健康診断の胸部レントゲン写真を読影した。 その結果,第1期においては,建設労働者5712名中47名(0.8)。 ,. 2%に胸膜肥厚斑を認めた割合が高かったのは空調工・保温工の5-- 06%,瓦工・軽天工の4.76%であった。 第2期においては,建設労働者5688名中92名(1.62%)に胸膜肥厚斑を認めた。割合が高かったのは,空調工・保温工の7.41%であったが,大工における割合が,第1期の0.99%から第2期では2. 46%に増えていた。 第3期においては,建設労働者6268名中423名(6.75%)に胸膜肥厚斑を認めた。40歳以上では9.59%,65歳以上では18. 17%であり,割合が高かったのは,左官の13.64%,木工・建具の11.72%であった。人数の多い大工では,7.87%であった。 また,第3期の対象者のうち,石綿肺Ⅰ型以上の者は,184名(2. 94%)存した。 海老原医師は,第1期の結果を,昭和63年に日本産業衛生学会で発表し,第2期の結果は,平成11年の論文で発表したが,その中で「建設労働の多くが石綿暴露作業であるとの認識が,現状では極めて稀薄であり,石綿暴露の客観的な臨床的指標である胸膜肥厚斑も,臨床医の中に浸透していない」と記述している。 上記の調査とは別に,平成19年2月までに,組合が関与することにより石綿肺又は石綿肺合併肺がんとして業務上疾 の客観的な臨床的指標である胸膜肥厚斑も,臨床医の中に浸透していない」と記述している。 上記の調査とは別に,平成19年2月までに,組合が関与することにより石綿肺又は石綿肺合併肺がんとして業務上疾患と認定された238例についての海老原医師の分析報告によると,認定された数の多い職種は,大工,鳶・ハツリ・解体工であるが,全ての職種に及んでいた。また,Ⅱ型以上の石綿肺が69%を占めていた。 業務上肺がんと認定された136例では,最も数の多い職種は,大工であり,このほか,配管工,鉄工・板金工などであった。 さらに,業務上疾患と認定された中皮腫の症例は,47例であり,これも大工が最も多かった。 -- 海老原医師は,平成19年に発行された分析報告の中で「建設作業者,の石綿関連疾患についての報告は国際的に見ても多いとは言えないのが現状である」と記述している。 。 海外における石綿の規制の動向イギリスでは,昭和61年(1986年)1月以降,クロシドライト及びアモサイト並びにこれらの含有製品の使用及び供給とクロシドライト及びアモサイトの輸入が全面的に禁止された。業界では,それ以前にクロシドライト及びアモサイトの輸入を中止していた。 平成11年(1999年)以降,クリソタイルの輸入,供給及び使用が禁止されたが,当初は多くの適用除外品があり,その後,段階的に禁止措置が進められた。 ドイツでは,昭和61年(1986年)10月以降,クロシドライト及びその含有製品等の使用等が原則として禁止されるとともに,他の種類の石綿を含有する一部の製品等の使用等が禁止された。 平成5年(1993年)11月以降,石綿及びその含有製品等の製造及び使用が全面的に禁止された。当初は,一定の製品(クリソタイル含有物等)や一定の作業に係るものについて適用除外や適用猶 が禁止された。 平成5年(1993年)11月以降,石綿及びその含有製品等の製造及び使用が全面的に禁止された。当初は,一定の製品(クリソタイル含有物等)や一定の作業に係るものについて適用除外や適用猶予の措置があったが,それも,平成11年(1999年)には,大幅に削除された。 フランスでは,平成6年(1994年)以降,クロシドライト及びアモサイトを含む5種類の角閃石系石綿の使用等が全面的に禁止され,平成9年(1997年)1月以降,クリソタイルを含む全ての石綿の製造等が禁止された。当初,6種類の適用除外品があったが,これも段階的に禁止され,平成14年(2002年)1月には全面禁止に至った。 その他のヨーロッパ諸国では,昭和58年(1983年)にアイスラン,()ドにおいて全石綿の使用が原則として禁止され昭和59年1984年-- にはノルウェーにおいて全石綿の使用が原則として禁止された。 昭和61年(1986年)には,デンマーク及びスウェーデンにおいてクリソタイルの使用が禁止された。他の種類の石綿は,すでに昭和40年代後半(1970年代)に使用が禁止されていた。 EUでは,昭和61年(1986年)3月以降,クロシドライトの使用等が一部を除き禁止された。さらに,平成5年(1993年)7月以降,クロシドライト及びアモサイトの使用等が全面的に禁止された。 クリソタイルについては,昭和55年ころ(1980年代)から,限られた製品について使用等が禁止されていたが,平成11年のEU指令により,平成17年11月までには,その使用等が全面的に禁止されることとなり,そのとおり実行された。ただし,一定の例外はあった。 アメリカでは,平成元年(1989年,環境保護庁により,石綿含有)製品の製造等を段階的に禁止していくとの規制が行われたが 止されることとなり,そのとおり実行された。ただし,一定の例外はあった。 アメリカでは,平成元年(1989年,環境保護庁により,石綿含有)製品の製造等を段階的に禁止していくとの規制が行われたが,平成3年,ニューオリンズ連邦高等裁判所は,上記規制が無効であるとの判決を言い渡した。 その後,現在に至るまで,クロシドライト及びアモサイトを含む石綿の使用等は全面的には禁止されていない。 カナダでは,平成元年(1989年)以降,クロシドライトを含有する製品の販売等が原則として禁止されたが,クリソタイルについては,一貫して,管理して使用すれば安全であるとの立場をとっている。 第2節被告国の行為の違法性と医学的知見とのかかわり(争点1)について第1医学的知見の意味づけについて 被告国の行為(作為又は不作為)の違法性を判断するに当たっては,その行為が違法であると主張される時点における医学的知見がどのようなものであったかが,判断の一要素となる。少なくともある疾患の予防のために規制-- 権限を行使すべきであるというためには,その時点において,当該疾患の発生原因に関する医学的知見が確立していることが必要である。被告国における規制権限の行使は,被規制者の規模の大小,資力の多寡を問わず,被規制者に対し一定の行為を要求するものであり,その違反に対しては罰則をもって臨むことも考えられるのであるから,被規制者からみれば,一定の権利の制限となることは否めない。さらに,被規制者のみならず,当該行為が規制されていないことにより便益を得ている者もいる場合を考慮するならば,被告国に対して,単なる可能性,蓋然性の程度で権限を行使することを求めることはできないというべきである。 なお,ここで求められる医学的知見の到達度としては,雇用関係がある場,合に安全 するならば,被告国に対して,単なる可能性,蓋然性の程度で権限を行使することを求めることはできないというべきである。 なお,ここで求められる医学的知見の到達度としては,雇用関係がある場,合に安全配慮義務を負う前提としての予見可能性を構成する医学的知見とは自ずからその程度が異なる。先にみたような被告国の権限行使の性格からすれば,上記の場合よりは厳密なものが求められるとするのが相当である。 ,,「」原告らはこの医学的知見につき疾患発症の相当程度の危険の蓋然性があれば足りる旨主張するが,相当程度の蓋然性が因果関係までは必要ないという意味である限りは,そのような考えは採用できない。 もっとも,規制権限の行使といっても,様々な種類があり,被規制者に対する影響も様々である。したがって,各時点ごと,行使を求められる権限の種類,態様ごとに求められる医学的知見の程度は異なり,あくまで個別具体的に検討する必要がある。 そうではあっても,ここでは,第3節の被告国の責任を検討する前提として,石綿粉じんの暴露と石綿肺の発症との因果関係,肺がん及び中皮腫の発症との因果関係について医学的知見が成立した時期を,あらかじめ検討することとする。 疫学の観点から,ある特定の要因と特定の疾患との間に因果関係があると-- の医学的知見が確立したと判断するには,次のような留意点があると指摘されている。 すなわち,疫学については,個々の疫学研究では,いかに緻密に計画されようとも,調査対象者の偏り,測定の誤り,未知のバイアス,偶然性などによって真実とは異なった結果が得られてしまうことがあり得るのであって,一つの疫学研究の成果だけを取り出して確定した真実のように取り扱うことには注意しなければならない,複数の疫学研究が一致した結果を示してもさらに上の水準の研究 得られてしまうことがあり得るのであって,一つの疫学研究の成果だけを取り出して確定した真実のように取り扱うことには注意しなければならない,複数の疫学研究が一致した結果を示してもさらに上の水準の研究によって異なった結果が得られる場合もあるとされる乙(アA95。また,要因と疾病との関連を一度観察しただけでは原因である)かどうかの判断をすることはできない,疫学研究によって,ある一つの関連を初めて観察した場合,これは仮説とされ,因果関係をいうためには,ほかの集団についての疫学研究によって,同様の関連が認められなければならない,さらに,通常,疫学研究の結果何らかの関連が認められた場合にこれを報告し,関連が認められなかった場合は報告しなかったり,報告しようとしても学会誌への掲載を断られるといったことが起こりやすい,報告された結果だけからの判断は誤りを犯すことになるともされる(乙アA96。 ),()暴露と疾病発生との関連が認められる場合に一定の視点クライテリア,,,によって因果関係の有無を判断するがこのクライテリアとしては一般に時間的関係,強固性,量反応関係,特異性(必要条件,十分条件,一致性,)整合性が挙げられている(甲A241。 )このように,医学的知見が確立するまでには,仮説の検証,追試という試,,行錯誤の過程があり上記の過程における様々な見解や研究結果等の中には,結果として誤りであったことが後に判明するものも存在することからすると,,特定の要因と特定の疾患との間に原因と結果の関係があるか否かは通常は一つの疫学研究の結果だけから判断できるものではない。 -- 第2石綿肺に関する医学的知見の集積状況について 第2章第2節第7のとおり,日本において,昭和12年に保険院調査が開始されるまでは,石 学研究の結果だけから判断できるものではない。 -- 第2石綿肺に関する医学的知見の集積状況について 第2章第2節第7のとおり,日本において,昭和12年に保険院調査が開始されるまでは,石綿肺に関する系統的調査研究は行われず,石綿粉じんに起因する労働者の健康被害の報告もされていなかった。 昭和15年に保険院調査報告が公にされたものの,戦争の激化により職業,。 病の研究は中断されこれが再開されたのは昭和27年以降のことであった同年以降,宝来善次らが奈良県の石綿工場における石綿肺の発生状況に関,,,,。 する調査を実施し同様の調査は大阪東京北海道においても行われたさらに,労働省は,昭和31年度から昭和34年度にかけて,労働衛生試験研究として「石綿肺の診断基準に関する研究」等を要請し,宝来善次を代表者とする研究班により,各研究が行われた。その結果,石綿肺を含むけい肺以外のじん肺についての被害実態が明らかになるとともに,昭和31年度及び昭和32年度の研究で石綿肺の臨床像が明らかとなり,診断基準の設定にまで到達した。 労働大臣は,昭和33年,けい肺審議会にけい肺特別保護法の改正について諮問をし,昭和34年には,けい肺審議会の医学部会が,いずれのじん肺,,も心肺機能障害を来すものであるのであらゆる粉じんからの被害を予防し健康管理を行っていく必要があるとの意見を表明した。昭和35年3月31日,じん肺法が成立し,石綿肺及び石綿に係る作業も規制の対象となることとなった。 以上の事実関係によれば,石綿肺及び石綿に係る作業を規制の対象とするじん肺法は,それまでに集積された石綿肺に関する医学的知見を踏まえて制定されたものということができるから,その前提となった昭和34年のけい肺審議会の意見表明の時までに,石綿粉じん暴露により 象とするじん肺法は,それまでに集積された石綿肺に関する医学的知見を踏まえて制定されたものということができるから,その前提となった昭和34年のけい肺審議会の意見表明の時までに,石綿粉じん暴露により石綿肺を発症するとの医学的知見が形成されたと認めるのが相当である。 -- 原告らは,欧米においては,昭和5年(1930年)に開催された第1回国際珪肺会議において,石綿粉じんの吸入により石綿肺を発症するとの医学的知見が確立し,この医学的知見が保険院調査によって検証されたとして,日本においても,保険院調査報告が発表された昭和15年の時点で,上記の医学的知見が確立した旨主張する。 第2章第2節第7のとおり,欧米諸国においては,明治20年代以降,石綿肺に関する研究報告が集積されており,ILOが昭和5年(1930年)に開催した第1回国際珪肺会議では,石綿粉じんの吸入によってじん肺が起こることは確かであるとの内容を含む覚書が採択された。とはいえ,上記覚書は,石綿粉じんの吸入によってじん肺が起こるとの結論を示すのみで,その発生機序等の説明はなく,上記会議は,もともと「専らけい肺について討議」されたものであった。そうすると,第1回国際珪肺会議の上記結論をもって,直ちに,海外における石綿肺に関する医学的知見が確立したとみることは相当ではない。 そして,海外における研究報告等の概要は,いくつかの国内の文献において紹介されていたが,これらの文献には,石綿肺について,未だ我が国においては1例の報告にも接しない,これに関して述べられた論文をも見ない旨の記述(石綿塵と結核,我が国においては,粉じん問題に関する医学的「」)研究はあまり行われず,この問題を論じた著書はほとんど皆無である旨の記述(工業粉塵と塵肺,石綿肺に関する調査報告あるを聞かない我が国に と結核,我が国においては,粉じん問題に関する医学的「」)研究はあまり行われず,この問題を論じた著書はほとんど皆無である旨の記述(工業粉塵と塵肺,石綿肺に関する調査報告あるを聞かない我が国に「」)おいて,石綿肺の臨床像に関するミアウェザーらの見解が正しいか否かは将来の研究に待たれる旨の記述(塵埃衛生の理論と実際)が見られる。さら「」に,保険院調査報告でも,石綿肺に関する系統的調査研究は,本邦においてはいまだ存在せず,石綿粉じんに起因する健康被害の報告にも接しない旨の記述がある。したがって,海外における研究報告等の内容が,そのまま国内-- で受け容れられていたわけではなく,また,受け容れようもなかったことがうかがわれる。 保険院調査報告についてみると,保険院調査は,飽くまで大阪府泉南郡等に所在する石綿紡織工場の労働者に限定した石綿肺の発生状況に関する疫学調査であり,その報告内容が国内全体に当てはまるのか,石綿粉じん以外の粉じん暴露を受けた労働者の健康被害の発生状況と比較してその発生状況をどのように理解するのかといった点については検証がされていない。昭和30年までは,国内における石綿肺の剖検例は存在しなかったことに照らしても,保険院調査は,日本で初めて行われた石綿肺の実態調査として先駆的意義を有することは疑いがないものの,その報告をもって,日本における石綿肺に関する医学的知見が確立したということはできない。 なお,原告らは,厚生労働省が平成17年に発表した「アスベスト問題に関する厚生労働省の過去の対応の検証(甲A67の1)に,石綿による健」康障害としての石綿肺は,戦前からその危険性が認識されていたとの記述があることをもって,被告国は,石綿肺に関する医学的知見が戦前に確立していたことを認めていたと主張する。しかしな ,石綿による健」康障害としての石綿肺は,戦前からその危険性が認識されていたとの記述があることをもって,被告国は,石綿肺に関する医学的知見が戦前に確立していたことを認めていたと主張する。しかしながら,これまでにみた国内における石綿肺に関する医学的知見の形成経過に照らすと,上記の記述は,戦前においても,石綿粉じんが衛生上の有害性を有するとの認識があったことをいうものではあっても,それ以上のものではないと解するのが相当である。 以上のとおり,原告らの主張は採用することができない。 第3石綿のがん原性(肺がん,中皮腫)に関する医学的知見の集積状況について 証拠(乙アA20,24)によれば,IARCは,昭和46年(1971年)以降,化学物質の人体に対する発がん性リスクについて,専門家による研究会議において検討,評価を行い,その結果をモノグラフ集(研究小論文-- 集)として発表しているところ(昭和63年(1988年)には「化学物,質の」という文言が標題から外された,その際の評価基準は,昭和46年。)にIARCの作業委員会によって採択され,その後も適宜改定されていること,IARCの定義によれば,がん原性(発がん性)があるとは,ある作用因子が,悪性腫瘍の発生率を高めたり,潜伏期間を短くしたり,重症度を増悪させたり,増殖を促進したりする能力を有することをいうこと,上記の評価基準によれば,化学物質の発がん性の評価は,複合的証拠によることを基本とし,人間を対象とした研究結果だけでなく,動物実験の結果もその考慮要素として,これらを総合して判断することとされていること,このうち,人間を対象とした研究に由来する発がん性の証拠は,①当該化学物質等に暴露した個々のがん患者の症例報告,②人間集団におけるがん発症率が,当該因子の暴露に応じて空 ることとされていること,このうち,人間を対象とした研究に由来する発がん性の証拠は,①当該化学物質等に暴露した個々のがん患者の症例報告,②人間集団におけるがん発症率が,当該因子の暴露に応じて空間的又は時間的に変動することが認められた記述的疫学研究(症例集積及び相関研究,③化学物質等の個人暴露が,がん)のリスクの増大と関連性があると認められた分析的疫学研究(症例対照研究及びコホート研究)に分類されるが,まれな例を除き,①,②だけでは不確かな解釈しかできないため,原因となる関係を推測するための根拠を作り上げるにはふさわしくなく,③を同時に考慮に入れることで,原因となる関係が存在するという判断ができるようになるとされていること,化学物質への暴露と人間のがん発症との間に因果関係を推察するには,①関連性の説明となり得る明らかな偏り(真実からずれた結論を導くように働く研究過程の一定傾向により,因子と疾患との間の関係が実際よりも強く又は弱く見えてしまうこと)がないこと,②交絡(疾患との関係が,実際よりも強く又は弱く見える場合に,明らかに原因となる因子を,疾患の発生の増加又は減少に関連する別の因子と取り違えること)の可能性が考慮され,関連性の説明として除外されていること,③関連性が偶然によるものとは考えにくいこ-- との三つの基準が満たされなければならず,概して,単一の研究が因果関係を示唆するものとなる場合もあるものの,因果関係の推察における確信度が高まるのは,複数の独立的研究が一様に関連性を示す場合や,量反応関係が存在する場合,又は暴露の低減の結果,がん発症率も低減する場合であるとされていることが認められる。 また,アメリカの保健教育福祉省,国立職業安全衛生研究所が刊行した文献(甲A166)においても,発がん性の確認について 暴露の低減の結果,がん発症率も低減する場合であるとされていることが認められる。 また,アメリカの保健教育福祉省,国立職業安全衛生研究所が刊行した文献(甲A166)においても,発がん性の確認について,疑いのある化学物質に暴露された人々の疫学的研究と,一定量の化学物質に暴露させた動物での実験によって確認されることがある,動物における吸入暴露実験は,労働の場における最も実態に即した暴露条件を再現することから最も適切な中毒学における研究方法であるとの記載がある。 2第2章第2節第7のとおり,国際的には,石綿のがん原性に関する研究は,昭和10年ころ始まり,複数の症例報告,剖検例の報告を経て,昭和28年に開催された肺がんの疫学に関する国際シンポジウムでは,石綿肺と肺がんとの間には関係があるとの意見に一致をみた。昭和29年には,世界で初めて,石綿暴露者に発生した腹膜中皮腫症例が報告された。 昭和30年,ドール報告が発表されたが,これは,疫学的な観点から石綿への職業性暴露と肺がん発症との関連性を指摘した世界で初めての研究報告であった。もっとも,その後,石綿の発がん性について否定的な研究報告も発表され,動物実験においては,昭和41年ころまで,石綿の吸入によりがんを発生させるとの結果は得られていなかった。 ワグナーらは,昭和35年,クロシドライト鉱山のある南アフリカの胸膜中皮腫症例を基に,ワグナー報告を発表したが,これは,石綿暴露と中皮腫発症との関連性を示唆した世界で初めての研究報告であった。 さらに,ブレーキライニング製造工場の労働者を対象とした研究,断熱-- 工を対象とした研究等,石綿暴露と肺がん又は中皮腫との関連性を肯定する研究が集積されていき,昭和39年には,NY科学アカデミー会議が開催され,各国の研究者からの石綿暴露と肺がん又は中皮腫 - 工を対象とした研究等,石綿暴露と肺がん又は中皮腫との関連性を肯定する研究が集積されていき,昭和39年には,NY科学アカデミー会議が開催され,各国の研究者からの石綿暴露と肺がん又は中皮腫発症のリスクを示す報告が発表された。NY科学アカデミー会議に引き続き,UICCの,,,作業委員会はUICC報告と勧告をまとめたがUICC報告と勧告は石綿暴露と肺がん及び中皮腫の発症との関連を示す証拠があると報告する一方で,石綿繊維の種類と発がんリスクの程度,石綿繊維に含まれる有機物等の悪性腫瘍の形成への影響,広範な石綿暴露母集団でのり患率等の研究等石綿の発がん性に関して更に研究が進められるべき課題及びその研究方法を勧告した。 UICC報告と勧告の後,マクドナルド,ワグナー,セリコフらの研究が続き,石綿暴露と肺がん発症との量反応関係,喫煙と石綿暴露との関係等についても検討が進められた。また,UICCが実験用の石綿サンプルを提供したことにより,これを用いた動物実験で肺がんの発生が認められるとともに,石綿に含まれる不純物が腫瘍の形成に対して影響を及ぼさないことも明らかになった。 昭和47年,ILO及びIARCは,石綿が,肺がん及び中皮腫を発生させる危険性のあるがん原性物質であることを明言した。 IARC報告は,UICC報告と勧告において更に研究が進められるべき課題として勧告された研究課題が,昭和40年以降の各国における疫学的研究の集積等によって解明されてきたことを踏まえた,上記勧告に対する回答と位置付けられるものであった。 国内の研究報告等をみると,昭和30年代半ばころまでの日本においては,石綿暴露によって肺がんを発症することについての医学的研究はほとんどされておらず,もとより,石綿暴露による中皮腫発症に関する医学的-- 研 みると,昭和30年代半ばころまでの日本においては,石綿暴露によって肺がんを発症することについての医学的研究はほとんどされておらず,もとより,石綿暴露による中皮腫発症に関する医学的-- 研究も皆無といってよい状況であった。遅くとも昭和34年以降,石綿の,,がん原性に関する海外の主要な研究報告が国内の文献において紹介され昭和35年には,日本で初めての肺がん合併石綿肺の剖検例が報告された(ただし,石綿粉じん吸入と肺がんとの間に直接の関係はないものと思われると記述されている。日本において中皮腫の剖検例が報告されるよう。)になったのは,昭和48年以降のことであった。 昭和40年代の文献では,石綿と肺がんとの関係は疫学的証拠から十分に支持するに足りると考えるなどの肯定的な見解が述べられる(土屋健三郎,石神伸,倉恒匡徳ら)一方,決定的に石綿自身を発がん物質とする根拠はなお薄弱であるなどの懐疑的な見解も述べられた(佐野辰雄ら。 )労働省は,昭和46年1月に発出した石綿取扱い事業場の環境改善等に関する通達(第2章第2節第6の5)において「最近,石綿粉じんを,多量に吸入するときは,石綿肺を起こすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた」として,石綿粉じんの多量吸入により肺がん等が発生する可能性を指摘したが,第1節6のとおり,旧特化則の制定に当たり,石綿は発がん物質との位置付けではなかった。 以上の事実関係によれば,少なくとも日本においては,ILO及びIARCによって石綿のがん原性が明言された昭和47年の時点で,石綿粉じん暴露により肺がん及び中皮腫を発症するとの医学的知見が確立したと認めるのが相当である。 3原告らは,昭和9年のウッドら びIARCによって石綿のがん原性が明言された昭和47年の時点で,石綿粉じん暴露により肺がん及び中皮腫を発症するとの医学的知見が確立したと認めるのが相当である。 3原告らは,昭和9年のウッドらによる石綿暴露労働者の肺がん症例の報告に始まり症例報告や症例集積検討が続く中,昭和30年にドール報告が発表されたことで,石綿粉じん暴露による肺がん発症の蓋然性があることが確実になったと主張する。 -- しかしながら,ドール報告は,疫学的手法を用いた調査により石綿への,職業性暴露と肺がんとの関連性を示した世界で初めての研究報告であって1でみたIARCのがん原性の評価基準に照らしても,この一つの報告のみで,石綿暴露と肺がんとの因果関係について医学的知見が形成されたと認めることができないことはいうまでもない(上記のとおり,原告らも,因果関係が明らかになったと主張するものではない。なお,ドール報告。)の受け止め方について,セリコフは,昭和39年発表の「石綿暴露と新生物」において「ドールは・・・肺がんは,石綿に重度に暴露した労働者,,に独特の産業災害であると結論付けた。それでもなお一部の研究者は,こういった所見は示唆に富むものかもしれないが,これによって石綿肺患者の肺がん発症率の増加が明確にされたわけではなく,更にいえば,関連性が立証されたわけではないとの立場をとってきた・・・複雑で一般的で。 ない症例は,検視に回されやすいものであり,その結果,肺の新生物を伴う例が一見したところでは増えてしまうということが指摘されていた。更に,死亡した特定のグループの検視についての統計は,石綿労働者全体のグループを反映していないという指摘もあった。その他の留保事項としては,暴露,喫煙習慣,個人の経歴といったデータを欠く場合が多いこと,一組のグルー のグループの検視についての統計は,石綿労働者全体のグループを反映していないという指摘もあった。その他の留保事項としては,暴露,喫煙習慣,個人の経歴といったデータを欠く場合が多いこと,一組のグループの規模の問題や組織学的な検査が不適切な場合が存することなどがあった」と記述しており,当時,ドール報告に対し挙げられて。 いた問題点を示している。そして,セリコフは,様々な種類の石綿の使用が非常に増加したことなどから「統計的不確実性について解明し解決す,ることが,重大な懸案事項となっている」として,自らの調査の意義を。 述べているのである。 このように,ドール報告が示した内容が医学的知見として確立されるためには,さらなる追試,検証が必要であったといわざるを得ない。 -- このことは,ドール報告が発表された後も,石綿の発がん性について否定的な研究報告(ブラウンとトルアンの報告等)が存在したこと,動物実験においては,昭和41年ころまで,石綿の発がん性を肯定する結果は得られなかったことからも裏付けられる。 原告らは,ドール報告,ワグナー報告,その後の疫学研究により,石綿暴露と肺がん,中皮腫との関連性は明確となり,昭和39年のUICC報告と勧告が石綿の発がん性を明確に認め,これによって(遅くとも雑誌発表の昭和40年に,国際的に,石綿に発がん性があるとの医学的知見が)確立したと主張する。 しかしながら,ワグナー報告についてみると,これは,33例の分析にすぎず,ワグナー自身が「これは準備的出版論文であり,この問題は現,在,集中的に調査研究がなされているところである」と記述している。 。 そして,UICC報告と勧告は,報告部分では,石綿暴露と肺がん及び中皮腫の発症との間に関連性があることを示す証拠がある旨記述がある一方,多くの根本的な事項に ているところである」と記述している。 。 そして,UICC報告と勧告は,報告部分では,石綿暴露と肺がん及び中皮腫の発症との間に関連性があることを示す証拠がある旨記述がある一方,多くの根本的な事項について更なる研究を勧告していたのであって,石綿粉じん暴露と肺がん及び中皮腫発症との間に関連性があることを指摘したとはいえ,両者間の因果関係の判断に必要とされる研究課題等を勧告し,その後の研究の進展を促したものというべきである。 したがって,UICC報告と勧告をもって,石綿のがん原性に関する医学的知見が確立したということは相当ではない。 原告らは,IARC報告は,UICC報告と勧告が指摘した石綿に発がん性があるとの結論を再検証するための報告ではなく,石綿に発がん性があることを前提に,UICC報告と勧告が勧告した検討課題を,その後に現れた証拠で整理したものであるとも主張する。 しかしながら,2でもみたUICC報告と勧告の勧告の内容及びIAR-- C報告の内容によれば,医学的知見の形成としては,UICC報告と勧告が石綿に発がん性があることを提示した上で,IARC報告がこれを因果関係に高めたとみるべきであって,IARC報告がUICC報告と勧告が勧告した検討課題に答えを与えたことを軽視することはできない。 原告らは,昭和40年代の国内の文献では,石綿と肺がんとの関係につき肯定的な見解を述べたものがあったことを指摘する。 しかしながら,一方で懐疑的な見解もあったことは,すでに触れたとおりであり,肯定的見解を述べる文献を見ても,海外の調査研究等を紹介するだけで,著者自身が独自に行った調査研究に基づき石綿と肺がんとの因果関係を示そうとするものではない。また,昭和46年ころの文献であれば,先の労働省の通達同様,当時,石綿のがん原性に関する医学的知見が けで,著者自身が独自に行った調査研究に基づき石綿と肺がんとの因果関係を示そうとするものではない。また,昭和46年ころの文献であれば,先の労働省の通達同様,当時,石綿のがん原性に関する医学的知見が相当程度集積されつつも,いまだ確立するには至っていなかったことを示すものとみるのが相当である。 国内の文献において,昭和47年にILO及びIARCによって石綿のがん原性が明言されるより前に,日本において石綿の発がん性に関する医学的知見が確立していたことを示すようなものはない。 以上のとおり,石綿のがん原性に関する医学的知見の確立時期に関し,原告らの主張は採用することができない。 原告らは,昭和40年の時点で,石綿粉じんの少量暴露によっても中皮腫を発症し得ることが明らかとなっており,遅くとも昭和47年の時点では,石綿が,特に中皮腫発症との関係で閾値がないとの医学的知見が確立していたと主張する。 (),(「」 証拠 甲A264によれば産業医科大学教授の東敏昭以下東証人という)は,東京地方裁判所に係属中の本件と同様のいわゆる建設アスベ。 スト訴訟における証人尋問(以下「東京地裁証人尋問」という)で,昭和。 -- 40年代に日本で開催された二つの国際会議で,クロシドライトの少量暴露でも中皮腫が発症することが分かってきた旨供述したことが認められる。 また「石綿(アスベスト)問題に関する環境省の過去の対応について-,検証結果報告-(甲A249)中の「過去の関係職員からの聞き取り調査」の結果概要」の中には,昭和47年度から昭和55年度ころの,石綿の大気環境経由の健康被害についての認識として「発がん性の物質については,,閾値がないと考えるべきとの意見が大勢であったが,リスク便益評価の考え方も米国等の学会で議論され始めた時代 度ころの,石綿の大気環境経由の健康被害についての認識として「発がん性の物質については,,閾値がないと考えるべきとの意見が大勢であったが,リスク便益評価の考え方も米国等の学会で議論され始めた時代であった」との記述がある。 しかしながら,東証人も強調するとおり,東証人は,石綿でもクロシドライトとクリソタイルとでは違い,クロシドライトについては環境影響について分かってきたと供述するものである。 また,上記環境省の検証結果報告の記述は,発がん物質に閾値がないとの意見が大勢であったという時期について幅のある記述となっている上,当該職員の個人的な認識を示した面を否めない。 かえって,IARC報告(甲A150)では「都会で一般の人々が遭遇,するような低レベルの石綿暴露でも肺がんのリスクが高まることを証明する証拠があるか?」との問いに対し「職業暴露のレベルが低い場合には,過,度の肺がんリスクは検出されないことが示唆されている。このような低いレベルでの職業暴露であっても,一般の人々が一般的大気汚染のために暴露されるものに較べればはるかに高いレベルである」との回答が「都会で一般。 ,の人々が遭遇するような低レベルの石綿暴露でも中皮腫のリスクが高まることを証明する証拠はあるのか?」との問いに対し「現在のところ,一般の,人々へのリスクを証明する証拠はない」との回答がされている。また,昭。 和48年のIARCモノグラフ集第2巻(乙アA1)にも「肺がんの重要,な過剰リスクは,過去の強い暴露の結果であることが通常である」との記述-- がある。 ,,IARC報告の内容等及び東証人の供述に照らすと昭和40年の時点で石綿粉じんの少量暴露によっても中皮腫を発症し得ることが明らかとなっていたとはいうことができず,また,昭和47年の時点で,石綿が,特 IARC報告の内容等及び東証人の供述に照らすと昭和40年の時点で石綿粉じんの少量暴露によっても中皮腫を発症し得ることが明らかとなっていたとはいうことができず,また,昭和47年の時点で,石綿が,特に中皮腫発症との関係で(種類を問わず)閾値がないとの医学的知見が確立していたとも認めがたいといわざるを得ない。 原告らの前掲主張は採用することができない。 もっとも,第2章第2節第7のとおり,昭和62年に発行された環境庁監修の文献では,石綿には,いかなる低濃度でも安全とする最少の閾値はないとの記載がされているのであるから,遅くとも昭和62年の時点では,石綿に肺がん及び中皮腫の発症につき閾値がないとの医学的知見が確立していたとみるべきである。 なお,WHOの平成元年の報告書にも,人では,肺がん,中皮腫については,それ以下では石綿暴露が健康に影響を与えないという閾値暴露レベルが存在することを示していないと報告されている。 第3節被告国の責任について第1被告国の建築基準法令に基づく指定行為の違法性の有無(争点2)について 原告らは,被告国は,石綿の危険性,有害性を知りながら,建築基準法令に基づき,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造,防火構造に指定等し,また,石綿含有建材を不燃材料等として指定等して,原告らに対し,石綿含有建材の使用を事実上強制したと主張し,これは,原告らに対する直接的な加害行為であると主張する。 原告らの主張を,建築基準法令に基づく指定行為等を,比喩的にいうならば,直接暴力を加えたと同様の行為というものと解するときは,被告国(具-- 体的には内閣又は建設大臣)が指定行為等を行った根拠法令の保護の対象の問題は生じないというべきである。 第1節で認定したとおり,第2次世界大戦後,日本においては,都市の防火,防災が都市計画 - 体的には内閣又は建設大臣)が指定行為等を行った根拠法令の保護の対象の問題は生じないというべきである。 第1節で認定したとおり,第2次世界大戦後,日本においては,都市の防火,防災が都市計画の最重要課題とされ,建築物の不燃化が進められるとともに,経済の成長を期して,かつ,住宅生産の工業化及び建築物の高層化との政策が採られた。そして,石綿含有建材の使用が広がったのは,石綿含有建材の不燃性,断熱性や軽量性,工法の容易性等の特質から,石綿含有建材の利用が上記各政策に合致したためであると考えられる。このことは,耐火構造として個別指定された構造の7割は石綿含有建材を用いた構造である等の調査結果が裏付けるところである(指定が多いのは申請が多かったことの帰結であるとしても,建材メーカーらは被告国の政策へ常に注意を向けていたことがうかがえる(甲A265,甲B22,甲C3。この意味で,被)。)告国に,石綿含有建材の使用を促進した面があったことは否定できない。 しかしながら,そうではあっても,例えば耐火構造に指定されたものには石綿含有建材を用いない構造もあったように,どのような建材を社会に提供するかは建材メーカーの自由に任されているのであり,また,個々具体的な建築において,どのような建材を選択するかは,建築業者等と相談しながらであろうが,基本的には各施主の自由な判断に任されているのであって,被告国の行為をもって,事実上にせよ,石綿含有建材の使用を強制するものとは評価することはできない。したがって,これを直接暴力を加えたと同様の行為とみることもできない。 原告らの主張を,指定すべきでないものを指定したことをいうと解するときは,これは,指定を取り消さなかったことと表裏の関係に立つものと解される。 そうすると,公務員による公権力の行使に国賠法1条 原告らの主張を,指定すべきでないものを指定したことをいうと解するときは,これは,指定を取り消さなかったことと表裏の関係に立つものと解される。 そうすると,公務員による公権力の行使に国賠法1条1項にいう違法があ-- るといえるためには,公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要であり(最高裁昭和60年11月21日判決・民集39巻7号1512頁等参照,)規制権限の不行使につき判断する際,考慮しなければならない当該権限を定めた法令の趣旨,目的というのも,同様のことをいうものと解される。 そこで,まず,建築基準法の規定が,建設作業従事者を保護の対象としているかを検討する。 建築基準法は「建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準,を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的と」する法律であり,建築物の構造,設備等に関する安全,衛生上等の最低基準とこれを守らせるための行政手段を定めている。 その内容は,個別の建築物の安全における国民の生命,健康,財産の保護を図るための最低基準を定めた単体規定と接道義務,用途規制,容積率制限等。 の集団としての建築物の秩序に関する制限を定めた集団規定から成っているしたがって,建築基準法は,もともと,当該建築物の居住者及び当該建築物の近隣に居住する者(その範囲は別途検討する必要があるであろうが)を。 保護の対象とするものと考えられ,1条が「国民」という言葉を使っているからといって,国民全てを保護の対象としていると解すべきでないことはいうまでもない。 そして,耐火構造や防火構造等に関する規定は,単体規定に属するものであり,建築物の構造の耐火性能等に関する最低基準を定めて建築物の火災発 を保護の対象としていると解すべきでないことはいうまでもない。 そして,耐火構造や防火構造等に関する規定は,単体規定に属するものであり,建築物の構造の耐火性能等に関する最低基準を定めて建築物の火災発生時の延焼や建築物の倒壊等を防ごうとするものと解される。同法2条7号から9号までの各規定の文言をみても,制定当時から現在に至るまで,建設作業従事者の生命,健康を保護することを示唆する文言は存しない。したがって,これらの規定も,建築物の居住者及び近隣の居住者の生命,健康及び-- 財産の保護をまずもって目的とするものというべきである。 しかしながら,同法上,一定の建築物について耐火構造等とすることが義務付けられていることから,当該建築物の工事に従事する者からみれば,建設大臣等が指定した耐火構造等で工事を行うことが義務付けられ,その構造を構成する建材の使用も義務付けられることになる。当該建材が居住者の居住中の安全を害するものであれば,耐火性能等に問題がなくとも,当該建材を耐火構造等に用いることは許されないはずである。そうであれば,居住中のことではないからといって,当該建材の使用の義務を負う者について,その安全を全く配慮しなくてよいとは考え難い。 建築物を建設する者は,労働基準法にいう労働者に限られず,一人親方といわれる個人事業者も多く,そのような者が一定程度いることは,建設大臣においても,当然,従前から分かっていたことと考えられる。そうすると,建設工事を行う者の安全,健康は,労働関係法令に任せておけば足りるというものではない。 現に,建設大臣は,昭和62年に,鉄骨を一定以上の厚さの吹付け石綿で覆ったものの耐火構造への指定を削除したが,その当時,石綿吹付け作業を原則的に禁止しながら,一定の要件の下に例外的にこれを認めた昭和50年改正特化則の 和62年に,鉄骨を一定以上の厚さの吹付け石綿で覆ったものの耐火構造への指定を削除したが,その当時,石綿吹付け作業を原則的に禁止しながら,一定の要件の下に例外的にこれを認めた昭和50年改正特化則の規定が改正されていたわけではない。また,国土交通大臣は,平成16年9月,耐火構造等を定めた建設省告示から石綿含有建材を用いた構造等を一斉に削除したが,平成15年改正安衛令は,石綿を含有する石綿セメント円筒,押出成形セメント板,住宅屋根用化粧スレート,繊維強化セメント板,窯業系サイディング(いずれも含有する石綿の重量が当該製品の1%を超えるもの)につき製造等を禁止したのであるから,国土交通大臣の,。 告示改正の内容は安衛令の規定の内容と完全に合致していたわけではないすなわち,これらの告示の改正は,労働関係法令を単に追認したものとはな-- っていない。 以上によれば,耐火構造や防火構造等に関する規定においては,建設作業従事者も保護の対象となっているというべきであり,建設大臣等は,建築基準法2条7号から9号までの耐火構造等の指定に当たり,その指定内容が建設作業従事者の生命及び健康への侵害をもたらすことのないよう配慮すべき職務上の法的義務を負うものと解するのが相当である。 その上で,原告らが具体的に主張する違法行為をみると,原告らは,昭和39年時点において,①内閣が,建築基準法施行令を改正し,石綿スレート等を用いた構造を防火構造として指定した行為,②建設大臣が,告示により,吹付け石綿等を用いた構造を耐火構造として指定した行為,③建設省の課長が,通達を発出し,各種耐火構造の普及を指導することとした行為が違法であると主張する。 しかしながら,昭和39年時点において石綿にがん原性があるとの医学的知見が確立していたとはいえないことは,第 課長が,通達を発出し,各種耐火構造の普及を指導することとした行為が違法であると主張する。 しかしながら,昭和39年時点において石綿にがん原性があるとの医学的知見が確立していたとはいえないことは,第2節第3のとおりである。そして,石綿と肺がん及び中皮腫発症との関連性は示唆されていたとはいえ,国際的にみても,昭和39年の段階で石綿の使用を禁止すべきであるとの指針が提唱されていたことを認めるに足りる証拠はない。 一方で,石綿粉じん一般に関しては,旧安衛則が,粉じんを発散し,衛生上有害な作業場について,防じんマスク等の呼吸用保護具の備付け及び使用(181条,184条,185条,著しく粉じんを飛散する場合の注水そ)の他粉じん防止の措置(175条,粉じんを発散する場所における業務に)常時従事する労働者に対する雇入れ時健康診断及び定期健康診断の実施(48条2号ヲ,49条2項)を規定していた(建設現場一般が,石綿粉じんを,,発散し有害な作業場といつごろから事業者に認識されるようになったかは定かではない。しかしながら,少なくとも石綿の吹付け作業については,そ-- の態様からして,著しく粉じんを発散する作業と事業者にも認識できたものと考えられる。 。)このような医学的知見の集積状況,労働関係法令の定めからすれば,昭和39年当時の前記各行為を,職務上の法的義務に違反した行為であるということはできない。 原告らは,①建設大臣が,昭和40年建設省告示第1193号の定めるところにより,同年以降,石綿含有建材を用いた個別の構造を耐火構造として指定した行為,②建設大臣が,昭和45年以降,通則的な指定の方法により,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造として指定した行為,③建設大臣が,昭和44年以降,通則的な指定の方法により,石綿含有建材を 定した行為,②建設大臣が,昭和45年以降,通則的な指定の方法により,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造として指定した行為,③建設大臣が,昭和44年以降,通則的な指定の方法により,石綿含有建材を防火材料として指定した行為が違法であると主張する。 しかしながら,昭和40年から昭和45年にかけての石綿のがん原性に関する医学的知見の集積状況,石綿粉じんに関する規制等は,基本的には昭和39年の状態と同様であって,昭和40年から昭和45年にかけての前記各行為が,職務上の法的義務に違反した行為であるということはできない。 原告らは,建設大臣が,昭和47年以降,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等に指定した行為は違法であると主張する。 第2節第3のとおり,昭和47年には,石綿が肺がん及び中皮腫を発症させるとの医学的知見が確立したということができる。 ,,,しかしながら上記の時点においては石綿のがん原性に閾値がないとか石綿の少量暴露によっても中皮腫を発症するとの医学的知見が確立していたかは疑問であり,一方で,石綿の種類によるリスクの差が言われていた。 すなわち,日本における石綿含有建材に使用される石綿の9割以上はクリソタイルであったが,IARC報告では,中皮腫発症のリスクにつき,クリソタイルはクロシドライトより明らかに低く,アモサイトよりも低いと報告-- され,今後の研究に関する勧告として,石綿への暴露のレベルを石綿肺発現のレベル以下にまで引き下げることにより,がんのリスクの上昇も除去できるか否かについての研究が挙げられていた。上記の点からみると,昭和47年当時において,石綿を,その使用を全面的に(繊維の種類や作業の種類を問わず)禁止すべき物質とみるべきであったとは認めることができない。 原告らは,建設作業の特殊性に照らすと,管理使 みると,昭和47年当時において,石綿を,その使用を全面的に(繊維の種類や作業の種類を問わず)禁止すべき物質とみるべきであったとは認めることができない。 原告らは,建設作業の特殊性に照らすと,管理使用によって建設作業従事者の石綿粉じん暴露を防ぐことは不可能又は著しく困難であったとも主張する。 しかしながら,①石綿含有建材は,石綿繊維が建材内に固形化された成型品であることから,切断,せん孔等の加工を施さない限り,通常,そこから石綿粉じんが発生することはなく,建設現場は,例えば石綿製品の製造工場のように常時石綿粉じんが飛散している場所とは異なる。また,建設作業が基本的には屋外作業であることからすると,屋内作業場とは異なり,自然の風の影響等により換気が行われ,それにより石綿粉じん濃度が希釈されることも期待できる。②建設作業従事者が,直接暴露のみならず,他の作業から生じた石綿粉じんに暴露することは考えられるが,間接暴露がどの現場でも必ず起きるとは限らず,間接暴露を考慮しても,常時石綿粉じんが飛散している場所とは異なる。③建設現場において,雇用形態の異なる者が作業に従事していたからといって,そのことで,直ちに安全衛生がないがしろにされるなどと決めつけることはできない。少なくとも,労働者を雇用する事業者には,旧労基法又は安衛法等に基づく義務が課されていた。 したがって,昭和47年時点で,建設作業の特殊性から石綿の管理使用は困難と捉えられるべきであったということはできない。 ちなみに,建設現場における作業が石綿粉じんとの関係でどのように理解されていたかをみると,昭和53年の石綿による健康障害に関する専門家会-- 議の報告書には,石綿暴露作業として「石綿へのばく露労働者数が最も多,いのは,石綿の消費量が約4分の3に及ぶ建設業である。建設 をみると,昭和53年の石綿による健康障害に関する専門家会-- 議の報告書には,石綿暴露作業として「石綿へのばく露労働者数が最も多,いのは,石綿の消費量が約4分の3に及ぶ建設業である。建設業において使用される石綿の多くは石綿セメント,床タイル,屋根ぶき用フエルト及びスレート用などであり,一部は吹付け用の断熱材料,石綿粉末として使用されている」との記載があるものの,実際に粉じん暴露が多いものとしては,。 断熱作業のみが取り上げられている。 以上によれば,昭和47年当時の上記行為を,職務上の法的義務に違反した行為であるということはできない。 原告らは,建設大臣が,昭和50年以降,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等に指定した行為が違法であると主張する。 確かに,昭和50年改正特化則は,石綿の代替化の努力義務を事業者の義務と定めた。 しかしながら,昭和50年当時の石綿のがん原性に関する医学的知見の集積状況は,基本的には昭和47年の状態と同様と考えられる上,特化則が定めたのは飽くまで事業者の努力義務であった。同時に,昭和50年改正特化則は,最も粉じんを発散させる石綿吹付け作業は原則的に禁止し,また,危険度が高いと評価されているクロシドライトについては優先的に代替措置をとるよう労働省から指導がされた(昭和51年5月の労働省労働基準局長通達。昭和50年改正特化則は,事業者に対し,石綿等の切断,穿孔,研ま)等の作業に労働者を従事させるときも,石綿等の湿潤化を義務付けた。 これらの点を考慮すると,昭和50年当時の前記行為を,職務上の法的義務に違反した行為であるということはできない。 以上のとおり,昭和50年までに被告国が建築基準法令に基づき石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等に指定等した行為を,原告らに対し石綿含有建材の使用を強制した した行為であるということはできない。 以上のとおり,昭和50年までに被告国が建築基準法令に基づき石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等に指定等した行為を,原告らに対し石綿含有建材の使用を強制した加害行為として違法であるとも,原告らに対する職務-- 上の法的義務に違反したものとして違法であるともいうことはできない。 原告らは,昭和51年以降も平成16年までの間,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等に指定し続けた行為が違法であるとも主張する。しかしながら,そもそも指定等の基となった建築基準法施行令の改正や建設大臣告示は,準耐火構造の新設を除けば昭和50年以前のことであり(平成12年の建築基準法施行令の改正は,実質的内容に変更を加えるものではない,個。)別の指定については,どのような指定であったかが個々具体的に主張されているわけではない(そうであれば,個別に指定された構造や建材と各原告との結びつきも本来は不明である。しかも,昭和51年以降については,違。)法性を基礎付ける事情を具体的に主張しているものでもない。 ,,以上によれば昭和51年以降平成16年までの個別の指定等については主張が不十分であり,その違法性の有無を判断することはできないといわざるを得ない。 争点2に対する原告らの主張は,いずれも理由がない。 第2被告国の建築基準法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点3)について 建築基準法2条7号から9号までに基づく規制権限について国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1 ,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成元年11月24日判決・民集43巻10号1169頁,最高裁平成7年6月23日判決・民集49巻6号1600頁参照。 )第2章第2節第5のとおり,平成10年の建築基準法の改正以前,同法-- 2条7号の耐火構造,同条7号の2の準耐火構造,同条8号の防火構造,同条9号の不燃材料につき,内閣は同法の委任を受けて建築基準法施行令により,建設大臣は建築基準法施行令の委任を受けて建設省告示により,これを具体的に規定するか,又は指定の要件を定めていた。すなわち,内閣又は建設大臣は,建築基準法2条7号から9号までの耐火構造等の指定権限を有していた。そうであれば,その内容が不適切であると判明した場合には,これを改める(かつ,過去に行った個別の指定を撤回する)権限を有していたということができる。 建設作業従事者が,耐火構造や防火構造等に関する規定の保護の対象となっていたことは,第1の2のとおりである。 原告らは,建設大臣等が,石綿含有建材を耐火構造等に指定するという先行行為によって,原告ら建設作業従事者が大量の石綿粉じんに暴露するという危険状態を作出したのであるから,自らの責任においてそのような状態を取り除かなければならない旨主張する。 しかしながら,重要なのは,石綿関連疾患に関する医学的知見の内容,石綿含有建材使用の危険性の程度なのであって,指定という行為が先行するからといって,建設大臣等の義務が取り立てて加重されるものではない(逆にいえば,先行行為がないからといって,規制権限の行使が緩やかで 綿含有建材使用の危険性の程度なのであって,指定という行為が先行するからといって,建設大臣等の義務が取り立てて加重されるものではない(逆にいえば,先行行為がないからといって,規制権限の行使が緩やかでよいものとは解されない。 。)原告らは,昭和40年の時点で,①内閣が,建築基準法施行令による防火構造の指定から,石綿含有建材を用いた構造を削除しなかったこと,②建設大臣が,建設省告示による耐火構造の指定から,石綿含有建材を用いた構造を削除しなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,石綿のがん原性に関する医学的知見の集積状況は第2節第3のとおりであり,また,当時の労働関係法令の定めは,第1の3のと-- おりであった。 証拠(甲A79の3,86)によれば,アメリカのニューヨーク市環境保護局は,昭和45年,石綿の吹付けを禁止することを内容に含む「大気汚染防止条例案」を議会に提出したこと,同年12月15日に開催された参議院地方行政委員会・交通安全対策特別委員会連合審査会において,道路交通法の一部改正案を審議する中で,社会党の議員が,ブレーキライニングが摩耗して大気中にその素材である石綿の粉末が飛散するという問題を提起するに際し「ニューヨーク市では,環境保護局がきびしい大気汚,,,染規制条例案というのを議会に提出してこの条例で石綿の使用についてこれの吹付け等については禁止をしている」などと述べ上記条例案を取。 り上げたことが認められる。 このことを前提に,原告らは,建設大臣が,昭和45年以降,建設省告示による耐火構造の指定から吹付け石綿を用いた構造を削除しなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,昭和45年当時の医学的知見は,の状態と基本的に変わりはない。 そもそも,ニューヨーク市の条例案が取り上げ 指定から吹付け石綿を用いた構造を削除しなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,昭和45年当時の医学的知見は,の状態と基本的に変わりはない。 そもそも,ニューヨーク市の条例案が取り上げられたのは,上記のとおり,道路交通法の一部改正案の審議中,ブレーキライニングの問題を提起する中においてであり,石綿吹付けの危険性について討議がされていたものではなかった。証拠(甲A86)によれば,上記議員の質問に対し答弁に立った政府委員は警察庁交通局長であり,議員からそれ以上の質問,追及はなかったことが認められる。このことからすると,上記の国会審議のみをもって,昭和45年当時,吹付け石綿の施工を中止すべきであったと根拠付けることはできない。 原告らは,昭和47年の時点で,①内閣が,建築基準法施行令による-- 防火構造の指定から,石綿含有建材を用いた構造を削除しなかったこと,②建設大臣が,建設省告示による耐火構造の指定から,石綿含有建材を用いた構造を削除しなかったこと等は違法である旨主張する。 しかしながら,国際機関によって石綿のがん原性が指摘された昭和47年の時点においても,石綿を,その使用を全面的に(繊維の種類や作業の種類を問わず)禁止すべき物質とみるべきてあったとは認めることができないことは,第1の5のとおりである。 証拠(甲A67,甲B20)によれば,建設省大臣官房官庁営繕部は,昭和48年3月,ILO,WHOの石綿の発がん性に係る議論や,石綿吹付けに対する規制の議論を踏まえて,官庁営繕工事における技術的基準の一つである「庁舎仕上げ標準」の「内部仕上表」から石綿吹付けを取り止めたことが認められる。 このことを前提に,原告らは,建設大臣が,昭和48年以降,建設省告示による耐火構造の指定から吹付け石綿を用いた構造を削除しな 仕上げ標準」の「内部仕上表」から石綿吹付けを取り止めたことが認められる。 このことを前提に,原告らは,建設大臣が,昭和48年以降,建設省告示による耐火構造の指定から吹付け石綿を用いた構造を削除しなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,労働省は,ILO等による石綿のがん原性の指摘を受けて,昭和50年9月には,特化則を改正し,石綿吹付け作業を原則として禁止した。このことに照らすと,時期に若干の違いはあるとしても,昭和48年に吹付け石綿を用いた構造が削除されなかったからといって,これを許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く遅れということはできない。 なお,被告国は,昭和48年の省舎仕上げ標準の修正内容は,機械室の壁及び天井等の内部仕上げについてのみ石綿吹付け剤の使用を取りやめた,。 ものにすぎないと主張するがこのことを証する証拠は提出されていない原告らは,昭和50年改正特化則が石綿の代替化を事業者の責務と定め-- たこと等を指摘して,同年以降,①内閣が,建築基準法施行令による防火構造の指定から,石綿含有建材を用いた構造を削除しなかったこと,②建設大臣が,建設省告示による耐火構造の指定から,石綿含有建材を用いた構造を削除しなかったこと等は違法である旨主張する。 しかしながら,石綿の代替化の努力義務を定めたからといって,それが石綿含有建材の使用を中止することと直結するものでないことは,第1の6のとおりである。 以上に指摘した点に照らすと,内閣及び建設大臣が,原告ら主張の上記の各時点において,石綿含有建材の耐火構造等への指定を取り消さなかった(削除しなかった)規制権限の不行使が,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったと認めることはできず,これを国賠法1条1項の適用上違法となるということはでき への指定を取り消さなかった(削除しなかった)規制権限の不行使が,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったと認めることはできず,これを国賠法1条1項の適用上違法となるということはできない。 原告らは,規制権限の不行使についても,第1の加害行為の主張同様,昭和51年以降も石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等の指定から削除しなかった行為が違法であると主張する。しかしながら,昭和51年以降については,違法性を基礎付ける事情を個別具体的に主張しているものではないから,これを取り上げることはしない。 建築基準法90条に基づく規制権限について原告らは,内閣が,遅くとも昭和35年,昭和40年又は昭和50年の時点で,建築基準法90条2項に基づく政令により,工事施工者に対する石綿粉じん暴露防止措置を義務付けるべきであったと主張する。 しかしながら,建築基準法90条1項は,建築物の建築等の工事の施工者は,当該工事の施工に伴う地盤の崩落,建築物又は工事用の工作物の倒壊等による危害を防止するために必要な措置を講じなければならないと規定しているのであって,その趣旨は,建築物の工事に伴い,落下物が付近通行人を-- 死傷させたり,基礎工事の際に地下に埋設されたガス管や水道管を損壊したり,根切り工事のために地盤が崩壊して隣家が倒壊する等の事故が起こり得ることから,そのような工事自体による危害を防止することにあると解される。同項の文言及び趣旨からすると,同項による防止措置の対象となる「危害」とは,工事に伴う物理的な損壊等による危害が予定されているものと解するのが相当であり,建材から発する石綿粉じんに暴露したことによる健康被害がこれに当たるということはできない。 したがって,内閣が,建設作業従事者の石綿粉じん暴露を防止するため,原告らが主張する 解するのが相当であり,建材から発する石綿粉じんに暴露したことによる健康被害がこれに当たるということはできない。 したがって,内閣が,建設作業従事者の石綿粉じん暴露を防止するため,原告らが主張するような内容の措置を義務付ける政令を制定することは,その委任の範囲を超えるものといわざるを得ない。 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,建築基準法90条に基づく規制権限の不行使について,違法ということはできない。 以上のとおり,争点3に対する原告らの主張は,いずれも理由がない。 第3被告国の労働関係法令に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点4)について 労働関係法令の保護対象について旧労基法は,昭和22年4月に制定されたが,同法は,労働条件を確保することで労働者の保護を図ることを目的とし,このことは,1条1項において「労働条件は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を,充たすべきものでなければならない」と定めたことで明らかにされてい。 る。また,9条では,労働者の定義として「使用される者で,賃金を支,払われる者」としている。 したがって,旧労基法が,労働者以外の者を保護の対象としているとは解することができない。 安衛法は,昭和47年6月,旧労基法の「第5章安全及び衛生」を独-- 立させる形で制定された。安衛法は,労働者の安全及び衛生を保護することを目的とする法律であって,1条において「この法律は,労働基準法,と相まって,労働災害の防止のための危害防止基準の確立,責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに,快適な作業環境の形成を促進することを目的とする」と規。 定している。 安衛法は 置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに,快適な作業環境の形成を促進することを目的とする」と規。 定している。 安衛法は,その沿革からして,典型的な行政取締法と解され,その名宛人は「事業者,保護の対象は事業者に使用される「労働者」である(甲」A179参照。使用従属関係に着目して,事業者に,その使用する労働)者の安全と健康を確保すべき公法上の義務を負わせるのが労働災害防止体制の基本であり,これに則ったものである。 したがって,安衛法も,労働者以外の者を保護の対象としているとは解することができない。 原告らは,いわゆる一人親方や零細事業主が従事する建設作業の内容が労働者が従事する建設作業の内容と変わることがないこと,労働環境の形成について自由を有していないこと,労働者災害補償保険法上,労働者に準じて救済の対象として取り扱われていることから,旧労基法及び安衛法の保護の対象に一人親方等が含まれると主張する。 しかしながら,原告らの主張によっても,労働関係法令の保護の対象になる「一人親方」や「零細事業主」の範囲や職種は不明であって,どのような者を保護の対象とし,どのような者が保護の対象から外れるのかの基準の立てようがない。 さらに,現実問題として,一人親方や零細事業主について,旧労基法がいうところの「使用者」や安衛法がいうところの「事業者」に誰を想定す-- るのかが不明である。すなわち,旧労基法や安衛法は,労働者の安全と健康の確保のため,労働者を雇用する使用者又は事業者に対し,各種の義務を課しているのであって,原告らが主張する規制権限不行使も,石綿の製造等の禁止を除けば,被告国が事業者にこのような義務を課すべきであったのにそれを怠ったとの主張である。そう 事業者に対し,各種の義務を課しているのであって,原告らが主張する規制権限不行使も,石綿の製造等の禁止を除けば,被告国が事業者にこのような義務を課すべきであったのにそれを怠ったとの主張である。そうであるにもかかわらず,一人親方や零細事業主を労働者に準じて扱うときに,使用者又は事業者に準ずる者は誰になり,その者には,自分が旧労基法又は安衛法によって義務が課されていることがどのような方法で分かるのか疑問である。 原告らが,およそ労働し金銭を得る者(その金銭の性格は,賃金,請負代金,委託料等様々なものが考えられる)の安全と健康を考えるべきと。 いうのであれば,それは,現在の労働関係法令の枠組みを超えるものといわざるを得ない。 作業の内容の同一性,労働環境形成における自由度の有無は,旧労基法や安衛法の保護の対象を決める決定的要素とすることはできない。 労働者災害補償保険法には特別加入制度があるが,これは,中小事業者(常時300人以下(業種によっては異なる)の労働者を使用する事業。 ),,主や自動車運送建設事業等の一人親方その他の自営業者というような業務の実態,災害の発生状況等から,労働基準法の適用労働者に準じて保護すべき者に対し,特例として労災保険の適用を及ぼすというのが制度の趣旨である。すなわち,旧労基法や安衛法の労働者に当たらない者を救済する法律であり,労働者災害補償保険法の特別加入制度の対象となっているから旧労基法及び安衛法においても保護の対象となるというのは,論理が逆転している。 原告らは,安衛法に関しては,雇用関係を超えた範囲の規制を予定しているとして,同法1条や同法27条2項,3項の規定を挙げる。 -- しかしながら「快適な作業環境の形成「労働災害と密接に関連する災,」害の防止」がうたわれているからといって,そ を予定しているとして,同法1条や同法27条2項,3項の規定を挙げる。 -- しかしながら「快適な作業環境の形成「労働災害と密接に関連する災,」害の防止」がうたわれているからといって,それのみで安衛法の保護の対象が旧労基法より広がったとはいうことができない(事業者以外に義務を課される者がいるのであれば,それは誰かが法律に明示されている必要があろう。また,原材料等の製造者等の災害防止義務は,労働者を保護す。)るためには,直接の事業者だけではなく,原材料の製造者をも規制しなければいけないとの理由で設けられたと解するべきであって,被告国も主張するとおり,被規制者の拡大の問題である。被規制者が拡大されるからといって,保護の対象も拡大されるとならないのは当然である。 原告らの主張は,一人親方等が旧労基法及び安衛法の保護の対象になるとの根拠として採用することはできない。 旧労基法48条又は安衛法55条に限っては,保護の対象が雇用関係にある労働者に限られないかを検討するに,ここでは,先にみたような使用者又は事業者が誰かの問題は出てこない。 また,旧労基法48条の規定は,黄燐燐寸製造禁止法が「燐寸製造者,は燐寸の製造に黄燐を使用することを得ず「黄燐を使用して製造したる」燐寸を販売し,輸入若しくは移入し又は販売の目的を以て所持することを得ず」と規定していたのを,取り込んだものである。 しかしながら,旧労基法48条についてみれば,黄燐マッチ等の有害物の製造禁止は,一般大衆に及ぼす危害防止上からも禁止されるべきではあるが,上記規定は,労働者の生命身体の保護という見地から規定されたもの(甲A184,186,231)と説明されている。すなわち,製造過程において従事する労働者が,黄りんにより,肝臓等の脂肪変性による機能減退や組織内の出血,急 命身体の保護という見地から規定されたもの(甲A184,186,231)と説明されている。すなわち,製造過程において従事する労働者が,黄りんにより,肝臓等の脂肪変性による機能減退や組織内の出血,急性中毒の場合は死亡するなどの危険があることから,規定されたものである。 -- 安衛法35条,37条,42条,55条,57条等の規定は,名宛人が事業者に限られていない。しかしながら,これらは,事業者に課されている労働災害防止の義務をより実効的なものとするため,主として労働関係の場で用いられる一定の機械又は有害物そのものの危険・有害性に着目して「何人たるを問わず,当該機械又は有害物の製造,譲渡等の行為を行,う者」を名宛人としているものと解されるのであって,名宛人が広がったからといって,保護の対象まで広がるものではない(労働省から,旧労基法48条は「すべての者に適用があると解せられ,いわゆる家内労働世,帯についても適用がある」との解釈が示されている(甲A240)が,こ,。 「」れも禁止の名宛人をいうものと解される甲A237では違反の主体は全ての人に適用されるものと解すべきであるとする。 。)旧労基法48条及び安衛法55条についても,保護の対象が雇用関係にある労働者以外に及ぶと解することはできない。 以上のとおり,旧労基法及び安衛法の保護の対象は,労働者に限られるところ,原告らの主張によれば,原告ら又はその被相続人は,いずれも,一定の時期には他から雇用され労働者であった者である。 そこで,以下では,まず,原告らが主張する規制権限不行使の違法性の有無につき検討する。 石綿の製造等の禁止について関係法令等の定めア旧労基法48条は,黄りんマッチその他命令で定める有害物の製造等禁止を,安衛法55条は,黄りんマッチ,ベ 行使の違法性の有無につき検討する。 石綿の製造等の禁止について関係法令等の定めア旧労基法48条は,黄りんマッチその他命令で定める有害物の製造等禁止を,安衛法55条は,黄りんマッチ,ベンジジン,ベンジジンを含有する製剤その他の政令で定めるものの製造等禁止を規定していた。 上記政令とは,具体的には,安衛令16条1項である。 イ平成7年改正安衛令16条1項は,アモサイト及びクロシドライト並-- びにこれらをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を製造等が禁止される有害物等に定め,平成15年改正安衛令16条1項は,石綿を含有する石綿セメント円筒等の製品で,その含有する石綿の重量が当該製品の重量の1%を超えるものを,製造等が禁止される有害物等に定めた。 ウ平成18年改正安衛令16条1項は,例外的に改正附則において除外するもののほか,石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する製剤等を,製造等が禁止される有害物等に定めた。 ,(),,原告らは被告国労働大臣が昭和39年又は昭和40年の時点で旧労基法48条に基づく命令により,石綿を製造等が禁止される有害物に定めなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,石綿のがん原性に関する医学的知見の集積状況は第2節第3のとおりであり,また,当時の労働関係法令の定めは,第1の3で指摘したとおりである。 原告らは,内閣が,昭和47年の時点で,安衛令16条1項により,石綿を製造等が禁止される有害物等に定めなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,国際機関によって石綿のがん原性が指摘された昭和47年の時点においても,石綿を,その使用を全面的に(繊維の種類や作業の種類を問わず)禁止すべき物質とみるべきであったとは認めることができないことは,第1 機関によって石綿のがん原性が指摘された昭和47年の時点においても,石綿を,その使用を全面的に(繊維の種類や作業の種類を問わず)禁止すべき物質とみるべきであったとは認めることができないことは,第1の5のとおりである。 第1節のとおり,ILO等による石綿のがん原性の指摘を受けて,直ちに石綿の製造等を全面的に禁止する措置を講じた国は,存在しなかった。 原告らは,内閣が,昭和50年の時点で,安衛令16条1項により,石綿を製造等が禁止される有害物等に定めなかったことは違法である旨主張-- する。 しかしながら,昭和50年当時,石綿を,その使用を全面的に(繊維の種類や作業の種類を問わず)禁止すべき物質であるとみる考え方が固まっていたとは認められず,一方,昭和50年改正特化則は,最も粉じんを発散させる石綿吹付け作業は原則的に禁止し,また,危険度が高いと評価されているクロシドライトについては優先的に代替措置をとるよう労働省から指導がされた。加えて,昭和50年改正特化則は,事業者に対し,石綿等の切断,穿孔,研ま等の作業に労働者を従事させるとき,石綿等の湿潤化を義務付けた。 原告らは,内閣が,昭和53年の時点で,安衛令16条1項により,石綿を製造等が禁止される有害物等に定めなかったことは違法である旨主張する。 原告らは,昭和50年改正特化則が石綿の代替化を事業者の責務と定めたにもかかわらず,これが全く進展していなかったと主張する。しかしな,(),,,がら 証拠 甲A67によれば時期はしばらく後とはいえ昭和5859年度には,全国427の石綿取扱事業場中クロシドライトを使用するものは11(約2%)に,アモサイトを使用するものは52(約12%)に減少していたことが認められるのであって,昭和53年時点において,事業者に対し石綿 27の石綿取扱事業場中クロシドライトを使用するものは11(約2%)に,アモサイトを使用するものは52(約12%)に減少していたことが認められるのであって,昭和53年時点において,事業者に対し石綿の自主的な代替化を促すという施策では石綿の代替化が全く進展しなかったものとは認めることができない。 原告らは,内閣が,昭和62年の時点で,安衛令16条1項により,石綿を製造等が禁止される有害物等に定めなかったことは違法である旨主張する。 そこで,昭和62年前後の状況についてみると,次の点を指摘することができる。 -- アILOは,昭和61年,ILO石綿条約を採択し,クロシドライト及びその繊維を含有する製品の使用禁止,石綿吹付け作業の禁止,暴露限界又はほかの暴露基準の設定及び見直し,可能な場合には,石綿又は石綿を含有する製品の代替化等を定めた。 遅くとも昭和62年の時点では,日本においても,石綿のがん原性に閾値はないとの知見が得られていた。もっとも,閾値がないこととがん発症の確率とは別のことであり(甲A242,証人W2,このことは,)WHOの平成元年の報告書が,閾値がないとの前提に立ちつつ,起こり,得る石綿関連疾患のリスクが非常に小さい管理レベルを達成することはクリソタイルに関しては可能であるとの意見を表明していることにも現れている。 ,。 ,イ昭和50年改正特化則は石綿の代替化の努力義務を定めたその後クロシドライト及びアモサイトの使用については,昭和58,59年度には,全国427の石綿取扱事業場中クロシドライトを使用するものは11(約2%)に,アモサイトを使用するものは52(約12%)に減少した。さらに,昭和62年ころまでには,関係業界において,クロシドライトの使用は自主的に中止された(アモサイトの使用の自主的な中 は11(約2%)に,アモサイトを使用するものは52(約12%)に減少した。さらに,昭和62年ころまでには,関係業界において,クロシドライトの使用は自主的に中止された(アモサイトの使用の自主的な中止は平成5年である。乙アB34。 )石綿含有建材については,石綿スレートに含有された石綿を他の材料に置き換えて製品中の石綿含有率を低下した製品の製造・販売は昭和50年代後半に開始された。石綿けい酸カルシウム板(内装材)は,石綿をパルプ繊維,耐アルカリ性ガラス繊維等に置き換え,全くアスベストを含まない製品が,W3,W1,Y3,W4,Y4等によって開発・製造され,昭和61年から販売された。もっとも,昭和61年度の製造割合は,石綿けい酸カルシウム板の1%程度にすぎなかった。代替材料の価-- 格は一般に石綿より高く,代替材料は石綿よりセメントとの親和性が低い等のため製造効率が低下するとして,代替材料使用製品の価格が石綿含有製品に較べて高くなりがちであったことがその原因と考えられた。 外装材については,Y1が,パルプ繊維,耐アルカリ性ガラス繊維の使用により石綿含有率を低下させた製品を昭和58年から販売し,平成元年からは無石綿の製品を販売していた。W3は,大波板,フレキシブルボードを無石綿化した製品を昭和59年度,昭和61年度から試験販売していた。しかしながら,これら以外には,目立った無石綿化の動きはなかった。 (以上につき,甲A287,乙アA114,138,乙イ・ウ33,37,乙キ10)ウ昭和62年には,IARCが,グラスウール,ロックウール,スラグウール及びセラミックファイバーを「人に対してがん原性となる可能性がある」グループに分類した(乙アA4。 )なお,グラスウール,ロックウール,スラグウールが「人に対するがん原性に分類しない」 ラグウール及びセラミックファイバーを「人に対してがん原性となる可能性がある」グループに分類した(乙アA4。 )なお,グラスウール,ロックウール,スラグウールが「人に対するがん原性に分類しない」グループとなったのは,平成13年である(乙アA5。もっとも,この間,とりわけロックウールについて何らかの規制措置がとられていたのかは不明である。 。)エ昭和62年には,いわゆる「学校パニック」が発生した。しかしながら,関心は,建物の居住者,使用者の安全に向けられ,吹付け石綿をどう除去するかの問題が多く報道された(乙シ5,乙マ7から25まで,乙ラ10。 )建設省大臣官房官庁営繕部は,同年「石綿及び石綿を含む材料・機,材の取扱いに関する当面の方針について」と題する事務連絡を発出した(甲B21。 )-- それによれば,石綿は,数々の優れた特性を有するため,広範囲に利用されてきたが,一方においてその有害性が公的に評価されたのを踏まえ,昭和48年3月に石綿吹付け仕上げが取りやめられた後の諸事情を考慮し,石綿及び石綿を含む材料,機材の安全利用又は石綿の飛散の防止を図るため,その取扱いに関する当面の方針を次のとおり定めたとして,その遵守を求めた。 既存建築物の使用における方針として,通常の使用状態において空気中に石綿が飛散するおそれのある石綿等(例えば建築材料では石綿吹付け材)については,飛散防止又は撤去のための方策を検討の上,適切に処置すること。 建築物の新築等における方針として,通常の使用状態において空気中に石綿が飛散するおそれのある石綿等は使用しないこと,通常の使用状態において空気中に石綿が飛散するおそれのない石綿等については安全利用を図るほか,工事現場での石綿等の加工時等における石綿の飛散防止を考慮して,同等以上の代替 る石綿等は使用しないこと,通常の使用状態において空気中に石綿が飛散するおそれのない石綿等については安全利用を図るほか,工事現場での石綿等の加工時等における石綿の飛散防止を考慮して,同等以上の代替品がないなどやむを得ない場合を除き,できる限り使用しないこと。 国土交通省は「石綿(アスベスト)問題に関する国土交通省の過去,の対応について(甲A87)では,上記事務連絡について,学校等で」吹付け石綿に関する社会的な関心が集まっている中で,将来の解体時等における飛散防止のためのコスト増等を考慮して,石綿含有建材をできるかぎり使用しないこととしたと説明している。 オ第2章第2節第6にみたとおり,石綿粉じん一般に関しては,以前から,旧労基法,安衛則等によって規制がされていた。しかしながら,労働省労働基準局長の昭和51年基発第408号通達にあるとおり,昭和,,,,,,51年当時石綿は石綿管石綿板石綿セメント自動車ブレーキ-- 石綿織布等の製造のほか,建設業,造船業又は化学工業等における断熱工事に広く使用されていたところ,後者についての実態が十分把握されていない状態にあった。上記通達によれば,元方事業者又は関係業界を通じて関係事業場を把握することとされていたが,その後,どのように実態が把握されたのかは不明である。 具体的に解体以外の建設作業を対象にしたものとしては,労働省労働基準局長が,昭和63年3月に同年基発第200号で,関係事業者及びその団体に対する指導援助,関係行政機関との連携の強化等を通じ,石綿粉じん暴露防止対策の一層の推進を図るよう指示したときが初めてであり,上記通達では,具体的な対策として,建築物の建設,改修等の工事における石綿を含有する石綿スレート,石綿セメント板その他の建設用資材の加工等の作業にお 一層の推進を図るよう指示したときが初めてであり,上記通達では,具体的な対策として,建築物の建設,改修等の工事における石綿を含有する石綿スレート,石綿セメント板その他の建設用資材の加工等の作業においては,建設工事現場における指導監督等の実施時に石綿含有建材の使用が確認された場合には,石綿が含有されていることの表示の有無の確認,防じんマスク及び移動式局所排気装置の使用又は石綿含有建材の事前の加工の励行等の徹底を図ることが挙げられていた。証拠(甲A87)によれば,建設省は,解体作業における粉じん対策や公共建築物へは関心を払っていたが,建設作業一般に関しては,通達等を発してはいない。 建設現場での石綿粉じん対策としては,防じんマスクの着用が主であり,それに次ぐものは集じん機の使用であった。しかしながら,昭和63年ころの防じんマスクの着用及び集じん機の使用は,必ずしもはかばかしいものではなかった(甲A1は,海老原医師が作成した昭和62年のパンフレットであるが,その中でも,石綿粉じん作業としては,工場を主眼においた記載となっている。建設作業に関しては,一般的に防じんマスクの着用の重要性が記載されているが,集じん機には触れられて-- いない。乙イ・ウ4は,日本石綿協会が昭和63年に行った建設作業の施工場所における調査結果であるが,各建材ごとに切断時の集じん機及び防じんマスクの各使用率をみると,90%という高い使用率を示すものがある一方,なし,不明というものもある。 。)昭和62年当時,建設作業が石綿暴露作業であるとの認識が,建設現場では稀薄であったとみるほかない(甲A242参照。 )カ諸外国の動向をみると,第1節のとおり,昭和62年当時,北欧諸国,,等には全石綿の使用禁止措置を執っていた国があった一方でフランスアメリカ及び であったとみるほかない(甲A242参照。 )カ諸外国の動向をみると,第1節のとおり,昭和62年当時,北欧諸国,,等には全石綿の使用禁止措置を執っていた国があった一方でフランスアメリカ及びカナダにおいては,クロシドライトを含め,石綿の使用禁止措置は執られていなかった。また,イギリスにおいても,クロシドライト及びアモサイトの使用等が,ドイツにおいても,クロシドライトの使用等がそれぞれ禁止されるにとどまり,全ての種類の石綿の使用等が禁止されていたわけではなかった。 さらに,昭和63年以降の状況をみると,次の点を指摘することができる。 ア第1節のとおり,社会党外は,平成4年12月「石綿製品の規制等,に関する法律案」を衆議院に提出したが,厚生委員会に付託されることもなく廃案となり,その後,法案の再提出をすることもできなかった。 証拠(甲C36の121-平成4年6月号「せきめん」社団法人日本石綿協会発行の会報誌)によれば,石綿製品の製造等に関する規制法の「」,制定を目的として活動してきたアスベスト規制法制定をめざす会が規制法案(その規制の対象は社会党外が提出した法案と同じ)を完成さ,,,せ国会に提出すべく準備を始めたということに対し日本石綿協会は現在の法規,通達を遵守し,石綿業界の自主的な石綿代替化,低減化及び石綿粉じん濃度の一層の抑制努力を継続することによって,石綿によ-- る健康障害を防止しながら使用を続けることが可能である,などの理由で,規制法制定には反対の立場をとるとの記事を「せきめん」に掲載したことが認められ,日本石綿協会としては,社会党外の法案に反対していたことがうかがわれる。 一方,証拠(乙ア130)によれば,平成17年になって,社会党が,,,,,,,,法案化を断念した理由と められ,日本石綿協会としては,社会党外の法案に反対していたことがうかがわれる。 一方,証拠(乙ア130)によれば,平成17年になって,社会党が,,,,,,,,法案化を断念した理由として,石綿建材メーカー(Y4,Y5W5Y3外4社)の労働組合が,平成5年「石綿業にたずさわる者の連絡,協議会」を結成し,石綿は管理して使用できる,規制法制定は,関連産業に働く者の生活基盤をも奪いかねないなどとして法制化に反対の陳情を行い,社会党から同法案の再提出について協力を要請された日本労働組合総連合会(連合)においても,個別物質の単独立法が法体系になじまないとの見解を示して事実上反対したためである,連合は,この時期に,石綿使用を早期禁止するとしていた方針を,使用削減・使用制限への取組みを進めるとの方針へと転換したとの報道がされたことを認めることができる。 イ通商産業省は,平成2年から,石綿含有率低減化製品の調査研究を行うようになった。 Y4は,平成4年5月,石綿含有建材の生産を中止し,けい酸カルシウム板については,同年年末には,市場に出回る製品の9割近くが代替品に置き換わる見通しとされた(乙アA137,138。 )ウ労働省労働基準局長は,平成4年1月1日,初めて石綿含有建材の施工作業を対象とした同年基発第1号の通達を発出した。 エEUは,平成5年7月,クロシドライト及びアモサイトの使用等を全面的に禁止した。 東証人は,甲A244(石綿問題の現状と課題に関する有識者の見解」「-- に寄稿した論文)で「1990年代には,材料としての価格の問題と代,替品によるラインの変更投資や生産効率・品質などの課題を除けば,概ね機能を代替する繊維が開発されていた。安全性の確認が課題であった「」,科学者はアスベストのリスクを知ってい の価格の問題と代,替品によるラインの変更投資や生産効率・品質などの課題を除けば,概ね機能を代替する繊維が開発されていた。安全性の確認が課題であった「」,科学者はアスベストのリスクを知っていたし,マスコミも時々とりあげていた。波が過ぎるとマスコミの報道は姿を消し,法的な禁止や各種基準の見直しなどの動きも大きなものにならなかった「アスベスト問題を,行」,,,,為の正当化防御の最適化個人の暴露限度の設定という原則に照らすと日本は1980年代後半には,アスベストの使用継続の正当性は失っていた」との見解を述べており,証拠(甲A264)によれば,東京地裁証人尋問においても,1980年代後半とは,昭和63年から平成2年くらいとはいうものの,上記論文と同様の見解や企業は代替化技術を確立していながら,独自には脱石綿が図れない状況にあった旨を供述している(甲A242の文献には,1990年代半ば,企業単位では「石綿の使用禁止」に対する準備を終えていた,力のある企業は「行政による一斉禁止」を,望んでいたとの記載もある。被告国の平成23年9月6日付け準備書面。)によれば,東証人は,職場における有害要因に対してどのような対策を講じるべきかをそれまでに分かっている医学的知見を踏まえて検討するという作業病態学を特に専門とし,昭和56年ころから,約30年間に,石綿に関する研究に携わってきた医学者であり,石綿に関する疫学的研究における著明な研究者であるワグナー,セリコフらとも交友を有する,職業性石綿暴露による健康影響について幅広い医学的知識を有し,造詣の深い我が国有数の専門家である。 以上を踏まえて検討するに,石綿の製造等を禁止するには,石綿の危険性についての医学的知見が第一の前提となる。石綿のがん原性は確立した医学的知見となっていたもの 造詣の深い我が国有数の専門家である。 以上を踏まえて検討するに,石綿の製造等を禁止するには,石綿の危険性についての医学的知見が第一の前提となる。石綿のがん原性は確立した医学的知見となっていたものの,産業的に利用されている石綿には3種類-- があり,そのうちクロシドライトは特に危険性が高く,使用を禁止すべきものと指摘されていたが,クリソタイルについては,その危険性が異なると認識されていた。すなわち,クリソタイルについては,昭和62年の時点においても,管理使用が不可能である,又は困難であるとの考え方がとられていたとは認めることができない。 一方で,被告国は,旧特化則の制定以来,石綿のがん原性に着目した規制を進めてきた。昭和50年改正特化則で石綿の吹付け作業を原則的に禁止し,クロシドライトについては特に代替化を促した。その結果,昭和55年には,吹付け作業には石綿は一切使用されなくなり,昭和62年ころには,クロシドライトの使用も自主的に中止された。 建設現場において,石綿含有建材の危険性,石綿粉じん防止対策の重要性がどれだけ浸透していたか疑問な点はあるが,この時期に,被告国が情報を管理し,上記の点を隠していたなどの事実があるわけでもない。 ,,,そして当時建設作業従事者の石綿暴露がどのようなものであったかどの程度の被災者が出ていたかの実態は不明である(石綿関連疾患の潜伏期間は長期間に及ぶが,それにしても,昭和62年ともなれば,吹付け作業開始からは約30年,石綿含有建材の本格的使用が始まってからでも約25年は経っている。本件訴訟においても,第1節で挙げた海老原医師の調査結果以外,建設作業従事者の石綿粉じん暴露の実態を明らかにする証拠は提出されていない。 。)上記に指摘した点及び諸外国の動向をもみると,吹付け材以外の石綿含 ても,第1節で挙げた海老原医師の調査結果以外,建設作業従事者の石綿粉じん暴露の実態を明らかにする証拠は提出されていない。 。)上記に指摘した点及び諸外国の動向をもみると,吹付け材以外の石綿含有建材については,昭和50年以降,無石綿化が直ちに進行している状況にあったとはいい難いこと,3以下にみるとおり,建設作業においては,石綿粉じん暴露を避ける手段としては,防じんマスクの使用しか現実的方法がないことを考慮しても,内閣において,石綿の製造等を禁止すべき状-- 況にあったものとは認めることができない。 東証人の意見も,傾聴すべき点は多いが,飽くまで医学者の意見として参考にすべきものである。 以上によれば,原告らが主張する昭和39年又は昭和40年,昭和47年,昭和50年,昭和53年及び昭和62年の各時点において,石綿の製造等を禁止すべき義務を根拠付ける事実はなく,内閣が,上記各時点で,石綿の製造等の禁止措置を講じなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いたものであったと認めることはできない。 なお,石綿の製造等を禁止するという労働関係法令に基づく規制措置を執るべき時期は,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等の指定から削除するという建築基準法令に基づく規制措置を執るべき時期と一致すると考えられるところ,本件訴訟においては,第一事件及び第二事件とも,原告らは,各訴状において,この時期を「どんなに遅くとも昭和47年」と主張し,上記各規制措置を執るための医学的知見の確立時期を巡って主張立証を繰り広げてきた。その後,全ての証人及び本人尋問が終了した期日である平成23年5月20日に陳述された同月2日付け準備書面(国-7)において,製造等禁止の措置を執るべき時期につき,新たに昭和50年,昭和53年,昭和62年が追加して主張 び本人尋問が終了した期日である平成23年5月20日に陳述された同月2日付け準備書面(国-7)において,製造等禁止の措置を執るべき時期につき,新たに昭和50年,昭和53年,昭和62年が追加して主張された(平成24年1月13日付け準備書面では,最後の昭和62年は昭和61年となっている。このよ。)うに,本件では,訴訟の大半の時期において,遅くとも昭和47年には,,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等の指定から削除すべきであったか石綿の製造等を禁止すべきであったかが,正に主たる争点となっていたのであって,それに対しては,すでに説示したとおり,否定的な判断をせざるを得ない。 そして,昭和62年の時点でも,製造等の禁止措置を執るべき状況には-- なかったと判断するものである。原告らが昭和62年を最終の時点と主張する以上,それ以降の時点について,判断材料はなく,また,判断すべきものでもない。 製品への石綿の有害性等の表示について関係法令等の定めア昭和47年制定当時の安衛法57条本文は,ベンゼン,ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第1項の物を譲渡し,又は提供する者は,労働省令で定めるところにより,その容器(容器に入れないで譲渡し,又は提供するときにあっては,その包装。以下同じ)に,名称,成分及びその。 含有量,労働省令で定める物にあっては,人体に及ぼす作用,労働省令で定める物にあっては,貯蔵又は取扱い上の注意,前各号に掲げるもの,。 のほか労働省令で定める事項を表示しなければならないと定めていたこれを受けて,安衛令18条は,アクリロニトリル等38種類の物質(1号から38号まで)及びこれを含有する製剤その他の物で労働省令で定めるもの(39号)を,名称等を表示 しなければならないと定めていたこれを受けて,安衛令18条は,アクリロニトリル等38種類の物質(1号から38号まで)及びこれを含有する製剤その他の物で労働省令で定めるもの(39号)を,名称等を表示すべき有害物に定めていた。 イ昭和50年改正安衛令18条は,石綿(2号の2)を,名称等を表示すべき有害物に定めた。 これを受けて,安衛則が改正され,安衛令18条39号により名称等(),,を表示すべき有害物安衛則30条につき同規則別表第2において「石綿を含有する製剤その他の物。ただし,石綿の含有量が重量の5%以下のものを除く」と定められた。 。 ウ改正安衛令等の施行に当たって,労働省労働基準局長は,昭和50年3月27日「労働安全衛生法第57条に基づく表示の具体的記載方法,について(同年基発第170号)を発出し(甲A285,石綿及び石」)-- 綿を含有する製剤その他の物の安衛法57条に基づく表示の具体的記載方法を「注意事項多量に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれ,がありますから,下記の注意事項を守つて下さい。1.粉じんが発散する屋内の取扱い作業場所には,局所排気装置を設けて下さい。2.取扱い中は,必要に応じ防じんマスクを着用して下さい。3.取扱い後は,うがい及び手洗いを励行して下さい。4.作業衣等に付着した場合は,よく落として下さい。5.一定の場所を定めて貯蔵して下さい」など。 と示した。 原告らは,内閣が,昭和47年の時点で,安衛令18条により,石綿を。 名称等を表示すべき有害物に定めなかったこと等は違法である旨主張するしかしながら,安衛法が制定されたのが昭和47年6月8日,安衛令が制定されたのが同年8月19日,安衛則が制定されたのが同年9月30日である一方,IARCの石綿の生物学的影響に関する研究会 旨主張するしかしながら,安衛法が制定されたのが昭和47年6月8日,安衛令が制定されたのが同年8月19日,安衛則が制定されたのが同年9月30日である一方,IARCの石綿の生物学的影響に関する研究会議が開催されたのが同年10月であって,IARCの石綿のがん原性を指摘するモノグラフ集が発行されたのが昭和48年であることを踏まえると,安衛法等の制定時点で,石綿を名称等を表示すべき有害物に定めるべきとするまでの医学的知見はなかったというべきである。 そして,労働省は,上記のとおり石綿のがん原性が指摘されて以降,職業性疾病対策の観点から,昭和50年には,安衛令及び安衛則を改正したのであるから,時間的なずれはあるが,これを許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く遅れということはできない。 原告らは,労働大臣が昭和50年に安衛則を改正するに当たり,石綿の含有量が重量の5%以下のものを除外したことは違法である旨主張する。 しかしながら,証拠(乙アA29から31まで)によれば,上記当時に製造,販売されていた石綿含有製品のほとんどは,石綿をその重量の5%-- を超えて含有していたことを認めることができる。したがって,石綿含有量につきその重量の5%以下のものを除外しても,実質的には石綿含有製品のほとんどを規制の対象とすることができたということができる。 原告らは,製品ごとの重量比による規制をしても,当該建設現場において含有率5%以下の石綿含有建材が大量に使用されたり,重量のある建材が使用されれば,結局,当該労働者は大量の石綿粉じんに暴露することになるなどと主張する。 しかしながら,当時の状況からすれば,含有率が5%以下の石綿含有建材が大量に使用されたり,重量のある建材が使用されるという事態は一般的なことではないと考えられる上,石綿粉じんが大量に どと主張する。 しかしながら,当時の状況からすれば,含有率が5%以下の石綿含有建材が大量に使用されたり,重量のある建材が使用されるという事態は一般的なことではないと考えられる上,石綿粉じんが大量に発生することがあるのであれば,安衛則や昭和50年改正特化則に基づき,事業者には,防じんマスク等の呼吸用保護具の備付けや石綿の湿潤化等が義務付けられていた。 上記の各点に照らすと,労働大臣が石綿の含有量が重量の5%以下の製剤等を名称等の表示の対象から除外したことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったということはできない。 原告らは,労働大臣が,昭和50年以降,安衛則により,有害性等の表,,示が義務付けられたにもかかわらずこれが守られていなかったのに対し適時適切な監督権限の行使を怠ったことは違法である旨主張する。 しかしながら,労働基準監督機関が監督権限を行使すべき労働現場は極めて多数に及ぶことが予想されることからすると,いくつかの現場で監督が行われていなかったとしても,それだけで,それを直ちに監督権限の行使を怠ったなどということはできない。労働基準監督機関が監督権限を行使すべき労働現場の数,状況等の全体を見た上で初めて労働大臣が監督権限の行使を怠ったと評価できるものであるが,原告らは,そのような具体-- 的な事情を明らかにしていない。 したがって,労働大臣の監督権限の不行使が違法かどうかを検討する前提を欠くというほかない。 なお,原告らは,労働省が昭和50年基発第170号の通達で示した石綿等に係る表示の具体的記載方法が,安衛法57条の趣旨,目的にかなうものではなかった旨主張する。 しかしながら,安衛法57条に基づく表示は,当該対象物が「労働者に健康障害を生ずるおそれのある物」であることを示すことが重要なのであ が,安衛法57条の趣旨,目的にかなうものではなかった旨主張する。 しかしながら,安衛法57条に基づく表示は,当該対象物が「労働者に健康障害を生ずるおそれのある物」であることを示すことが重要なのであって,この表示によって,当該対象物の危険性全てを説明しようとするものではない。上記の観点に照らすと,上記通達が示した記載方法が,安衛法57条の趣旨,目的をかなえていないと評価することはできない。 定期的粉じん濃度測定について関係法令等の定めア旧労基法42条は,使用者の一般的な危害防止義務,同法43条は,使用者の,労働者の健康等保持義務を定め,同法45条は,使用者が42条及び43条の規定によって講ずべき措置の基準は,命令で定めると定めていた。 イ昭和46年の旧特化則29条は,石綿等第二類物質を常時製造し,又は取り扱う屋内作業場について,その空気中における濃度を測定し,その結果を記録等する義務を定めた。 ウ昭和47年制定当時の安衛法65条は,有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場における空気環境その他の作業環境の測定及び記録義務を定めた。 上記「有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場」としては,安衛令21条7号により,石綿を製造し,又は取り扱う屋内作業場が定めら-- れたほか,安衛則590条は,土石,岩石又は鉱物の粉じんを著しく発散する屋内作業場(安衛令21条1号,別表第三第3号2)について,粉じん濃度の測定義務を定めた。 特化則36条1項は,石綿等第二類物質を常時製造し,又は取り扱う屋内作業場について,定期的に,その空気中における濃度を測定する義務を定めた。 エ昭和50年5月1日,作業環境測定法(同年法律第28号)が制定され,同法附則4条により,安衛法65条は,大要次のとおり改正された(乙アB104。 )事 おける濃度を測定する義務を定めた。 エ昭和50年5月1日,作業環境測定法(同年法律第28号)が制定され,同法附則4条により,安衛法65条は,大要次のとおり改正された(乙アB104。 )事業者は,有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で,政令で定めるものについて,労働省令で定めるところにより,必要な作業環,()。 境測定を行い及びその結果を記録しておかなければならない1項前項の規定による作業環境測定は,労働大臣の定める作業環境測定基準に従って行わなければならない(2項。 )これを受けて,労働大臣は,昭和51年4月22日「作業環境測定,基準(同年労働省告示第46号)を定め,各有害物質ごとの測定点,」,()。 捕集方法分析方法等の測定の具体的方法を明らかにした乙アB53,,,オ昭和63年5月17日安衛法が改正され新設された65条の2は次のとおり定めた(乙アB56。 )事業者は,65条1項又は5項の規定による作業環境測定の結果の評価に基づいて,労働者の健康を保持するため必要があると認められるときは,労働省令で定めるところにより,施設又は設備の設置又は整備健康診断の実施その他の適切な措置を講じなければならない ,(項。 )事業者は,前項の評価を行うに当たっては,労働省令で定めるとこ-- ろにより,労働大臣の定める作業環境評価基準に従って行わなければならない(2項。 )事業者は,前項の規定による作業環境測定の結果の評価を行ったときは,労働省令で定めるところにより,その結果を記録しておかなければならない(3項。 )これを受けて労働大臣は作業環境測定基準に代わるものとして作,,「業環境評価基準(同年労働省告示第79号)を定めた(乙アB57。 」)カ厚生労働省 おかなければならない(3項。 )これを受けて労働大臣は作業環境測定基準に代わるものとして作,,「業環境評価基準(同年労働省告示第79号)を定めた(乙アB57。 」)カ厚生労働省労働基準局長は,平成17年3月31日「屋外作業場等,における作業環境管理に関するガイドラインについて(同年基発第0」331017号)を発出した(乙アB63。 )上記ガイドラインでは,測定の対象は,土石,岩石,鉱物,金属又は炭素の粉じんを著しく発散する屋外作業場等で,常時特定粉じん作業が行われるもの等であり,測定方法としては,労働者に個人サンプラーを装着して行う方法が採用された。 (,,,,,,,, 証拠 甲A63 277,乙アA80から82まで,乙アB51)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ,,,ア労働安全衛生を推進するためには①作業環境管理②作業管理③健康等管理を総合的に機能させることが必要である。 ,,①の作業環境管理とは作業環境中の有害因子の状態を把握した上で作業環境から有害要因を除去し,作業環境を良好な状態に維持管理することをいう。②の作業管理とは,作業環境を汚染させないような作業方法や,有害要因の暴露や作業負荷を軽減するような作業方法を定めて,それを適切に実施させるように管理することをいう。③の健康等管理とは,個々の労働者の健康状態を的確に把握し,必要な措置を講ずること-- をいう。上記の三管理のうち,作業環境管理が,労働衛生の基礎に位置付けられる。 作業環境管理を進めるためには,まず,作業環境中の有害因子の状態を的確に把握する必要があり,そのために実施されるのが,作業環境測定(作業環境に有害因子がどの程度 ,労働衛生の基礎に位置付けられる。 作業環境管理を進めるためには,まず,作業環境中の有害因子の状態を的確に把握する必要があり,そのために実施されるのが,作業環境測定(作業環境に有害因子がどの程度存在し,その作業環境で働く労働者がこれらの有害因子にどの程度暴露されているかを把握すること)である。 ,労働者の健康障害の防止を目的に行われる粉じん濃度の測定方法には作業場における粉じん濃度を測定するという方法と作業者の個人暴露濃度を測定するという方法の二つがある。 前者は,作業環境全体の平均粉じん濃度及び位置による違いを知るための測定であり,後者は,個々の作業者の作業時間中の平均暴露濃度を知るための測定である。 イ粉じん濃度を工学的に測定する方法のうち,昭和40年ころまでに発明されたものには,大正11年(1922年)に海外で開発され,昭和13年に日本に紹介されたインピンジャー法(粉じんを含んだ空気を水の入ったガラス製の円筒の底面に強く吹き付け,空気中の粉じん粒子を器内の水に捕捉させ,その水を蒸発乾固させた上で秤量し,粉じんの質量濃度及び粒子数濃度を測定する方法,昭和10年に開発された労研)式塵埃計(粉じんを含んだ空気を湿度で飽和させ,その定量をカバーガ,),ラスに吹き付けて粒子を捕捉し顕微鏡によって粒子数を計測する方法昭和37年に開発されたデジタル粉じん計(空気中に浮遊している粒子に光を照射し,散乱光の強さの値によって粉じんの相対濃度を測定する方法)等があるが,これらは,当該空気中に含まれる粉じん一般の濃度を測定し得るにとどまり「石綿粉じんの濃度」というように特定の粉,-- じんの濃度のみを測定することはできなかった。 また,インピンジャー法には,測定に適した空気吸入用の携帯ポンプが存在しなかったこと,労研式塵埃計には じんの濃度」というように特定の粉,-- じんの濃度のみを測定することはできなかった。 また,インピンジャー法には,測定に適した空気吸入用の携帯ポンプが存在しなかったこと,労研式塵埃計には,空気の吸引や湿度飽和に係る機器の扱いが手動であり,個人差や測り方による誤差が大きかったこと,デジタル粉じん計には,質量濃度を計算するための質量濃度変換係数を算出するために行う併行測定(ろ過補集法)の正確性に問題があったこと等の問題があった。 ウイギリスの英国労働衛生学会衛生基準委員会は,昭和43年(1968年,石綿粉じん濃度の測定法として,メンブランフィルター法(採)じん用のろ過捕集装置(サンプラー)にメンブランフィルターを装てんし,フィルター上に捕集された粒子について,光学顕微鏡を用いて本数を数えることで濃度を測定する方法)を提唱し,この方法は,その後,国際的な標準法として認められるようになった。 メンブランフィルターは,セルローズエステルを原料とした薄い多孔,,性の膜で微細な穴が立体的に重なり合ってフィルターを構成しており粒径が非常に小さい粒子の捕捉に適していた。これにより,特定の粉じんの濃度のみを測定することが技術的に可能となった。 労働省労働基準局長は,昭和48年「特定化学物質等障害予防規則,に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について(同年基発第407号)を発出し,特化則36条に基づく石」綿の空気中における濃度の測定方法を,メンブランフィルター法又はエ,,「」ックス線回折分析法と定めこれは昭和51年の作業環境測定基準においても踏襲された。 なお,エックス線回折分析法は,ろ紙に捕集された繊維をエックス線回折装置を用いて分析する方法であるが,回折装置が高価であったこと-- は昭和51年の作業環境測定基準においても踏襲された。 なお,エックス線回折分析法は,ろ紙に捕集された繊維をエックス線回折装置を用いて分析する方法であるが,回折装置が高価であったこと-- などから,メンブランフィルター法ほど一般化しなかった。 エ個人サンプラーとは,作業者の呼吸域に装着して作業者の呼吸域付近の空気を捕集する機器の総称である。 日本で初めて開発された粉じん用の個人サンプラーである「労研式粉じん用個人サンプラー」は,労働科学研究所の木村菊二らによって昭和,。 ,40年に試作され昭和41年から販売が開始された昭和50年にはその改良型が販売されるようになったが,これらのサンプラーでは,粉じんの粒径を分けて測定することができず,総粉じん量を測定できるにとどまった。エックス線回析分析法の併用により,特定の粉じんのみを測定することはできたが,エックス線回析分析法は,ウのとおり一般的ではなかった。 昭和43年にメンブランフィルター法が発明され,その後,個人サンプラーにメンブランフィルターを装着することが可能となった。しかしながら,メンブランフィルターは,空気を吸い込む際の抵抗が大きいことから,吸引量の変動等なく安定して空気を吸引できるポンプを必要とした。 昭和59年,日本において初めての石綿粉じん用の個人サンプラーが販売された。これは,メンブランフィルターを装着したフィルターホルダーを作業者の呼吸域付近に装着し,それをポンプにつないで,作業者の呼吸域付近の空気をメンブランフィルターを通して一定量吸引し,メンブランフィルター上に粒子を捕集するものであり,現在でも使用されている。 オ日本産業衛生協会(後の日本産業衛生学会)は,昭和40年6月,職場環境内のガス,蒸気,粉じん等の有害物の許容濃度(労働者が1日8時間以 ー上に粒子を捕集するものであり,現在でも使用されている。 オ日本産業衛生協会(後の日本産業衛生学会)は,昭和40年6月,職場環境内のガス,蒸気,粉じん等の有害物の許容濃度(労働者が1日8時間以内,中等労働で有害物に連日暴露される場合に,空気中の有害濃-- 度がこの数値以下であれば,健康に有害な影響がほとんど見られないという濃度)を勧告したが,石綿粉じんの許容濃度は,1㎥当たり2㎎とされた。 許容濃度は,個々の労働者に着目した指標であるが,昭和45年ころ,。 から作業場としての粉じん濃度を把握し管理するとの考え方が現れた昭和46年の旧特化則に合わせて,局所排気装置の性能要件として,石綿の抑制濃度を1㎥当たり2㎎とする同年労働省告示第27号が発出され,昭和48年の労働省基発第407号の通達では,暫定値として,5マイクロメートル以上の繊維につき1㎤当たり5繊維(重量濃度は,1㎥当たりおよそ0.3㎎)とされた。 原告らは,労働大臣が,昭和35年時点以降,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場について定期的粉じん濃度測定(場の測定)とその評価を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 原告らは,その前提として,建設現場は,養生シート等で覆われて閉鎖的な空間となっており,天井や壁が設置された場合には,屋内作業場と同様の空間となると主張する。 しかしながら,建設作業は,基本的には屋外における作業であるといわざるを得ず,屋外作業場は,風等の自然環境の影響を直接受け,作業環境が常に大きく変動することになる。そうであれば,粉じん濃度を的確に測定することは困難というほかなく,屋外作業場を対象とした粉じん濃度測定を事業者に義務付けるに足りる知見は,現在でも存在しないというべきである。 また, ことになる。そうであれば,粉じん濃度を的確に測定することは困難というほかなく,屋外作業場を対象とした粉じん濃度測定を事業者に義務付けるに足りる知見は,現在でも存在しないというべきである。 また,天井や壁が設置された後であっても,工事の完成に向けて徐々に建築物を造り上げていくという建設作業の特徴からすると,労働者が行う-- 作業の内容はもとより,作業場の形状,他の職種の作業者が行う作業の状況といった周囲の環境も,工程の進行とともに日々刻々と変化する。しかも,当該建設現場における作業が終了すれば,そことは異なる次の建設現場での作業に移ることとなる。 このように,建設現場は,基本的には屋外における作業であることも相まって,作業内容,作業場所等がある程度固定している工場等の屋内作業場とは,作業環境が根本的に異なっているということができる。 一方で,粉じん濃度測定は,測定すること自体を目的として行われるものではなく,測定の結果を評価し,粉じん対策による作業環境の改善及び維持につなげるものでなければ意味がない。しかるに,上記のとおり,建設現場における作業環境,作業内容が日々変化することからすると,測定時と,測定結果を評価した上でこれに基づく対策を執ろうとする時点とでは,粉じんの飛散状況,労働者の暴露状況が異なっていることが多いものと考えられ,このような場合,測定結果を粉じん対策に生かすことはできない。 原告らは,現場は異なるとしても毎日同様の作業を繰り返し行っているのであるから,繰り返し行われる常時作業と同視することができるなどと主張するが,作業は同様であっても,現場は一つとして同じものがあるはずがない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 なお,のとおり,昭和35年当時には,屋内作業場を前提としても,石綿粉じんのみ 業は同様であっても,現場は一つとして同じものがあるはずがない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 なお,のとおり,昭和35年当時には,屋内作業場を前提としても,石綿粉じんのみを測定することができる測定方法は存在せず,粉じん一般の濃度を測定する方法にも,それぞれ問題があったのであるから,これを事業者に義務付けるほどの工学的知見が確立していたと認めることはできない。 以上によれば,労働大臣には,昭和35年の時点で,石綿含有建材を取-- り扱う建設現場について定期的粉じん濃度測定(場の測定)とその評価を事業者に義務付ける義務はなかったというべきである。 原告らは,労働大臣が,昭和40年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場について個人サンプラーを使用した定期的粉じん濃度測定とその評価を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,のとおり,昭和43年にメンブランフィルター法が発明されるまでは,特定の粉じんのみを測定することができる測定方法は存在しなかったのであるから(木村菊二も,甲207の中で「試作した個,人サンプラーに,メンブランフィルターが装着できるようにした。これで石綿の個人サンプラーとして使用することができる」と記載している,。 。)昭和40年の時点で,石綿粉じんの個人暴露濃度測定に用いる個人サンプラーを開発することが可能であったということはできない。 原告らは,メンブランフィルター法とそれ以前の総粉じん濃度の測定法の差異は相対的なものにすぎないとも主張するが,測定結果を粉じん対策につなげるという観点からすると,特定の粉じんのみを測定できるか否か。 ,,という差異を軽視することはできないまた誤差の程度という点からもメン にすぎないとも主張するが,測定結果を粉じん対策につなげるという観点からすると,特定の粉じんのみを測定できるか否か。 ,,という差異を軽視することはできないまた誤差の程度という点からもメンブランフィルター法の検鏡者による誤差が0.5から2倍程度である(乙アA140)のに対し,労研式塵埃計は,同じ人が同じ場所で測っても3から5倍程度の誤差が生じることがあった(乙アA80,81)というのであるから,その差は大きいといわざるを得ない。 さらに,メンブランフィルター法が発明され,これを個人サンプラーに装着することが可能となった後においても,同フィルターに適した吸引ポンプが開発されるまでには研究期間を要したことからすれば,メンブランフィルター法が発明されれば,直ちに個人サンプラーによる粉じん濃度測-- 定を義務付けられるというものでもない。 加えて,個人暴露濃度測定の労働者に対する負担,特定の作業者に関する測定結果が得られたとしても,その測定結果を汎用できないこと等の個人暴露濃度測定特有の問題もある。 以上によれば,労働大臣には,昭和40年の時点で,石綿含有建材を取り扱う建築現場について個人サンプラーを使用した定期的粉じん濃度測定(個人暴露濃度測定)とその評価を事業者に義務付ける義務はなかったということができる。 原告らは,内閣が,安衛法が制定された昭和47年の時点で,石綿含有建材を取り扱う建設現場を粉じん濃度測定を実施すべき作業場に指定しなかったことは違法である旨主張する。 ,,しかしながらの認定事実並びに及びでみてきたところによれば昭和47年であったとしても,建設現場について,場の測定としても,個人暴露濃度測定としても,石綿粉じん濃度を有効に測定できる手段はなかったというべきである。 したがって,内閣には,上記 ころによれば昭和47年であったとしても,建設現場について,場の測定としても,個人暴露濃度測定としても,石綿粉じん濃度を有効に測定できる手段はなかったというべきである。 したがって,内閣には,上記時点で定期的粉じん濃度測定を事業者に義務付ける義務はなかったということができる。 以上によれば,定期的粉じん濃度測定について,規制権限不行使の違法はない。 石綿吹付けの禁止について関係法令等の定め昭和50年改正特化則38条の7第1項は,事業者につき,例外的場合を除き,石綿及び石綿を含有する製剤その他の物(石綿の含有量が重量の5%以下のものを除く)の吹付け作業に労働者を従事させてはならない。 と定めた。 -- 上記例外的場合とは,当該吹付け作業に従事する労働者に送気マスク又は空気呼吸器及び保護衣を使用させることなどの各措置を講じて,建築物の柱等として使用されている鉄骨等へ石綿等を吹き付ける作業の場合である。 原告らは,労働大臣が,昭和40年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿吹付け作業を禁止する措置を講じなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,昭和40年の時点で,石綿のがん原性に関する医学的知見が確立したとはいえないことは,第2節第3のとおりである。 石綿吹付け作業は,粉じんを発生させるものであるが,この時点においても,旧安衛則によれば,事業者には,粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務において,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具の備付け義務,労働者には,保護具の使用義務が定められていた。 原告らは,労働大臣が,昭和45年12月15日の時点で,石綿吹付け作業を禁止する措置を講じなかったことは違法である旨主張する。 昭和45年12月15日の参議院の審査会でニューヨーク市の石 ていた。 原告らは,労働大臣が,昭和45年12月15日の時点で,石綿吹付け作業を禁止する措置を講じなかったことは違法である旨主張する。 昭和45年12月15日の参議院の審査会でニューヨーク市の石綿吹付けの禁止を含む条例案が取り上げられたことは,第2の1のとおりであり,上記の議論をもって,上記当時,石綿吹付け作業を禁止すべきであるとの知見が得られたと認めることができないことも,第2の1のとおりである。 原告らは,労働大臣が,昭和48年の時点で,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿吹付け作業を禁止する措置を講じなかったことは違法である旨主張する。 昭和48年当時「庁舎仕上げ標準」の「内部仕上表」の修正があった,ことは,第2の1のとおりであり,昭和50年9月の特化則改正に照ら-- すと,昭和48年に直ちに石綿吹付け作業が禁止されなかったからといって,これを違法といえないことも,第2の1のとおりである。 原告らは,労働大臣が,昭和50年の特化則改正時点において,石綿吹付け作業の全面禁止措置を執らなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,石綿の含有量が重量の5%以下の石綿吹付け作業を除外したのは,当時の吹付け石綿は石綿を30%以上含有するのが通常であったことから,5%以下のものを除外しても,吹付け石綿を禁止する目的は果たせること,また,一定の鉄骨等への石綿吹付け作業を除外したのは,当時の建築基準法2条7号に基づく耐火構造の構造方法を指定する建設省告示(1675号)に鉄骨等への石綿の吹付けを用いた構造が指定されていたことによる(甲A67。 )後者の場合には,吹付けに用いる石綿等を混合する等の作業場所の隔離及び当該労働者の送気マスク等の使用という一定の石綿粉じん対策が義務付けられており,これは,粉 されていたことによる(甲A67。 )後者の場合には,吹付けに用いる石綿等を混合する等の作業場所の隔離及び当該労働者の送気マスク等の使用という一定の石綿粉じん対策が義務付けられており,これは,粉じんを発散する有害な場所における業務等に労働者を従事させる場合の呼吸用保護具等の着用(安衛則593条,596条,597条,石綿を製造し,又は取り扱う作業に労働者を従事させ)る場合の呼吸用保護具の着用(特化則43条,45条)より進んだものであった。 ,,原告らは吹付け作業員について一定の暴露防止措置を講じたとしても当該建設現場における他の建設作業従事者が石綿粉じんに暴露されることを防ぐことはできないとも主張するが,安衛則では,粉じんを発散する有害な場所に関係者以外の者が立ち入ることの禁止や他の建設作業従事者についても,防じんマスク等の呼吸用保護具の備付け及び使用等は規定されていた。 以上によれば,労働大臣が,昭和40年,昭和45年及び昭和48年の-- 各時点で,石綿吹付け作業を禁止する措置を講じなかったこと並びに昭和50年改正特化則38条の7において,除外措置があったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったとは認めることができない。 建設現場における警告表示について関係法令等の定めア昭和50年改正特化則38条の3は,事業者は,石綿及び石綿を含有する製剤その他の物(石綿の含有量が重量の5%以下のものを除く)。 を製造し,又は取り扱う作業場には,その名称,人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項及び使用すべき保護具を,作業に従事する労働者が見やすい箇所に掲示しなければならないと定めた。 イ労働省労働衛生課編「特定化学物質等障害予防規則の解説(甲A3」4)には,特化則38条の3が定める掲示事項の べき保護具を,作業に従事する労働者が見やすい箇所に掲示しなければならないと定めた。 イ労働省労働衛生課編「特定化学物質等障害予防規則の解説(甲A3」4)には,特化則38条の3が定める掲示事項のうち,使用すべき保護具以外については,安衛法57条に基づく「有害物質の表示」の統一表示内容を定めた「労働安全衛生法第57条に基づく表示の具体的記載方法について(昭和50年基発第170号)等の当該部分と同一内容と」してさしつかえないとの記述がある。 原告らは,労働大臣が,昭和30年,そうでなくとも昭和35年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場について事業者に石綿粉じんの危険性についての警告表示を義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,石綿のがん原性に関する医学的知見の集積状況は第2節第3のとおりであるから,昭和30年や昭和35年の時点で,石綿粉じんにがん原性物質としての危険性があることの警告表示を事業者に義務付けるべきであったとはいうことができない。 -- 原告らは,労働大臣が,昭和47年の時点で,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場について事業者に石綿粉じんの危険性についての警告表示を義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,安衛法等の制定とIARCの研究会議等との時間的関係は3のとおりであり,安衛法等の制定時点で,石綿含有建材を取り扱う建設現場に上記警告表示を義務付けるべきとするまでの医学的知見はなかったというべきである。 そして,労働省は,石綿のがん原性が指摘されて以降,職業性疾病対策の観点から,昭和50年には,特化則を改正したのであるから,時間的なずれはあるが,これを許容される限度を逸脱して著しく うべきである。 そして,労働省は,石綿のがん原性が指摘されて以降,職業性疾病対策の観点から,昭和50年には,特化則を改正したのであるから,時間的なずれはあるが,これを許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く遅れということはできない。 原告らは,労働大臣が昭和50年に特化則を改正するに当たり,石綿の含有量が重量の5%以下のものを除外したことは違法である旨主張する。 しかしながら,3のとおり,上記のような除外をしたことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものであったとはいうことができない。 原告らは,労働大臣が,昭和50年以降,改正特化則により,石綿含有建材の警告表示等が義務付けられたにもかかわらず,これが守られていなかったのに対し,上記義務を遵守させるため監督権限を行使しなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,抽象的に監督権限を行使しなかったというだけでは十分ではないことは,3のとおりであり,原告らは,労働大臣が監督権限の行使を怠ったとする具体的な事情を明らかにしていないのであるから,同様に,上記主張は失当である。 -- なお,原告らは,警告表示につき,安衛法57条の有害物質の表示と同一内容であることを不適切であると主張するが,これを,安衛法57条の趣旨,目的をかなえていないと評価することはできないことも,3のとおりである。 以上のとおり,建設現場における警告表示に関し,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く規制権限の不行使があったと認めることはできない。 集じん機付き電動工具の使用について労働省労働基準局長が平成4年に発出した「石綿含有建築材料の施工作業における石綿粉じんばく露防止対策の推進について(同年基発第1号)」には,上記対策の一つとして,除じん装置付きの電動丸のこ て労働省労働基準局長が平成4年に発出した「石綿含有建築材料の施工作業における石綿粉じんばく露防止対策の推進について(同年基発第1号)」には,上記対策の一つとして,除じん装置付きの電動丸のこを使用することが挙げられている。 原告らは,労働大臣が,昭和35年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場において集じん機付き電動工具の使用を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,集じん機付き電動工具の基本的な構造は,電動丸のこ等の電動工具と集じん装置(電気掃除機等)とをダクト等で接続するというものであるところ(乙アA66,乙アB44,乙ケ26,昭和35年の)時点で建設現場での実用に耐え得る集じん機が開発されていたことを具体的に認めるに足りる証拠はない。 原告らは,井伊谷鋼一らが昭和31年に著した「集塵装置(甲A17」3)に「ポータブル集塵器」に関する記述があることを指摘し,同年に,は,石綿粉じんを吸引するのに十分な性能を有する集じん機が存在した旨主張する。しかしながら,上記文献が紹介する「ポータブル集塵器」は,-- 設置面積1m×0.8m,高さ1m,重量350㎏という巨大なものであり,建設現場において携行して使用する電動工具に接続するための集じん機として,実用的なものとはいい難い。また,証拠(甲A280)によれば,電気掃除機は,家庭用,業務用を問わず排風量がそれほど大きくないことから,電動工具の回転体から高速度で飛散する石綿粉じんを吸引して捕集することは困難であると認めることができる。 原告らは,労働大臣が,昭和47年の時点で,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場において集じん機付き電動工具の使用を事業者に義 であると認めることができる。 原告らは,労働大臣が,昭和47年の時点で,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場において集じん機付き電動工具の使用を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,昭和47年の時点においても,建設現場での実用に耐え得る集じん機が開発されていたことを示す具体的事実の立証はない。 原告らは,集じん機付き電動工具の有用性を示すものとして,①社団法人日本石綿協会が発表した「除じん装置を使用した屋外作業場の個人ばく露濃度測定データ(改訂石綿含有建築材料の施工における作業マニュ」「アル-石綿粉じんばく露防止のために-(甲A183)所収,②スレ」)ート協会が発表した「除じん装置を使用した屋内外の個人ばく露測定データ(上記文献所収,③富田雅行「アスベスト板の切断加工時の粉じん」)評価(甲A177)中の実験データを指摘する。 」しかしながら,上記の実験は,①が昭和62年,②が昭和63年,③が平成2年に行われたものであり,そのことからしても,昭和47年当時に有用な集じん機があったかは不明である。 なお,労働省労働基準局長は,平成4年に発出した通達で,除じん装置付きの電動丸のこの使用を指導することを指示しているが,これは,同年当時の技術を前提としているものとみるほかない。 -- 被告国は,安衛法等に基づき,粉じんを発散する等有害な場所における業務及び石綿を取り扱う作業について,防じんマスク等の呼吸用保護具の備付け及び着用を義務付けるとともに,防じんマスクの規格及び使用基準等を定めてきた。 証拠(甲A245)によれば,一般的には,作業環境管理としての有害物質への暴露防止対策は,有害物質への暴露を受けない対策,又はこれを極力減らす対策から始め, スクの規格及び使用基準等を定めてきた。 証拠(甲A245)によれば,一般的には,作業環境管理としての有害物質への暴露防止対策は,有害物質への暴露を受けない対策,又はこれを極力減らす対策から始め,その中でも,発生源に近いところから始めることが望ましく,最後の手段が保護具の使用であるとされており,具体的には,①有害性のより少ない物への代替化,②発生源の密閉化,③発生緩和,局所排気,④全体換気,⑤保護具の使用といった優先順序であることが認められる。 もっとも,建設作業は,基本的に屋外における作業であり,様々な作業内容があるとともに,一定の場所での作業が終了すると,異なる場所での作業に移ることを繰り返す。このように,作業者の行動範囲は相当広い一方,各場所で必ずしも十分な作業スペースが取れるわけではない。こうした建設作業の特性に鑑みると,建設現場においては,作業場所や粉じんの発生源が固定されている工場等の屋内作業場以上に,作業者個人単位での粉じん暴露を防止することができる防じんマスクの着用は重要な役割を果たすものと考えられる。 以上のとおり,集じん機付き電動工具の使用に関し,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く規制権限の不行使があったと認めることはできない。 プレカット工法等について労働省労働基準局長が平成4年に発出した「石綿含有建築材料の施工作業における石綿粉じんばく露防止対策の推進について(同年基発第1号)」-- ,,,には上記対策の一つとして建築現場での切断作業を少なくするために建築材料をあらかじめメーカー等で所定の形状に切断しておく方法(プレカット)を採用することが望ましいとの記載がある。 原告らは,労働大臣が,昭和35年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有 じめメーカー等で所定の形状に切断しておく方法(プレカット)を採用することが望ましいとの記載がある。 原告らは,労働大臣が,昭和35年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場において,プレカ。 ット工法の採用を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張するプレカットとは,本来,建材をあらかじめ工場等で所定の形状に切断しておく方法をいい(乙アB44,建築現場ではこれを組み立てることと)なる。 原告らは,上記の意味に加えて,広く建設現場内外において,石綿含有建材の加工作業等の実施場所を隔離し,当該場所で加工した石綿含有建材を建設現場に搬入する規制全般をいうとし,具体的には,石綿含有建材を切断加工する作業空間をシートで覆うなどして密閉化した上,移動式集じん機を設置することにより,作業に伴い発生する石綿粉じんを集じんする方法等が挙げられるなどと主張する。 しかしながら,工場等での事前加工という意味でのプレカット工法については,昭和35年時点における実現可能性が不明であり,これを事業者に義務付ける根拠があるとはいうことができない。 また,建設現場内外での加工作業等の実施場所の隔離という方法についてみると,一般的な建材の大きさ(180㎝×90㎝)を考えても,隔離された加工場所として相当の面積を必要とすると考えられ,広狭様々な状況が想定される建設現場の全てについて,そのようなスペースを設けることができるとは限らない。昭和35年の時点では,その設置を事業者に義務付けることができるほどの移動式集じん機が開発されていたか不明であることは,7のとおりである。 -- 原告らは,労働大臣が,昭和50年の時点で,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場において,プレ ていたか不明であることは,7のとおりである。 -- 原告らは,労働大臣が,昭和50年の時点で,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場において,プレカット工法の採用を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,昭和50年の時点においても,全ての建材の工場等での事前加工の実現可能性は不明であり,また,加工場所の隔離が現実的でないことも同様である。 労働省労働基準局長は,平成4年に発出した前記通達において「建築,材料のメーカー,建築工事の設計者,施工者等の協力を得て」プレカッ,トを採用することが望ましいと指導するよう指示したが,これも,プレカット工法は一律に義務付けられるようなものでないことを反映したものと考えられる。すなわち,あらかじめ加工するためには,詳細な設計図が必要であり,設計変更はしないこと,工期が変動しないこと等の要件が満たされる必要がある。このためには,設計者,施工者,さらには建築主の理解と協力が欠かせないのである(乙オ17)。 原告らは,被告国は,建設作業従事者が石綿粉じんに暴露することを防止するための総合的な対策が求められていたと主張するが,個々の建材の事前加工の実現可能性の検討なく,対策を義務付けられるものではない。 以上のとおり,プレカット工法に関して,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く規制権限の不行使があったと認めることはできない。 局所排気装置の使用等について関係法令等の定めア旧安衛則173条は,ガス,蒸気又は粉じんを発散する屋内作業場においては,局所における吸引排出又は機械若しくは装置の密閉その他新。 鮮な空気による換気等適当な措置を講じなければならないと定めていた-- イ労働省労働基準局長が昭和33 する屋内作業場においては,局所における吸引排出又は機械若しくは装置の密閉その他新。 鮮な空気による換気等適当な措置を講じなければならないと定めていた-- イ労働省労働基準局長が昭和33年に発出した「職業病予防のための労働環境の改善等の促進について(同年基発第338号)では,石綿の」破さい,ふるいわけ,ときほごし,混合,織布,切断及び研まの作業に,。 ついては局所排出装置を設けることを促進するよう指導するとされたウ労働省労働基準局長が昭和43年に発出した「じん肺法に規定する粉じん作業に係る労働安全衛生規則第173条の適用について(同年基」発第609号)では,石綿に係る装置による石綿のときほぐし,合剤,ふきつけ,りゆう綿及び紡織の作業,石綿製品に係る装置による切断及び研まの作業を行う屋内作業場を,粉じん抑制のため,通常局所排気装置による措置を講ずる必要のある作業場と定めた。 エ労働省労働基準局長が昭和46年に発出した「石綿取扱い事業場の環境改善等について(同年基発第1号)では,石綿取扱作業に関し,上」記ウの通達で定められた作業以外の石綿取扱作業についても技術的に可能な限り局所排気装置を設置させること,作業場内における石綿粉じんの飛散を極力減少させるため,既存の局所排気装置についてもその性能の向上に努めさせること等を指導するとされた。 オ昭和46年の旧特化則では,石綿粉じんが発散する屋内作業場について,その発生源に局所排気装置を設置する義務(4条1項,局所排気)装置の設置が著しく困難等の理由により局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設ける等,労働者の障害を予防するため必要な措置を講じる義務(同条2項,局所排気装置の性能要件(6条,局所排気))装置への除じん装置の設置(8条)等が定められた。 同様 場合には,全体換気装置を設ける等,労働者の障害を予防するため必要な措置を講じる義務(同条2項,局所排気装置の性能要件(6条,局所排気))装置への除じん装置の設置(8条)等が定められた。 同様の規定は,昭和47年特化則にも引き継がれた。 カ労働省労働基準局長が昭和63年に発出した「石綿除去作業,石綿を含有する建設用資材の加工等の作業等における石綿粉じん暴露防止対策-- の推進について(同年基発第200号)では,建築物の建設,改修等」の工事における石綿を含有する石綿スレート,石綿セメント板その他の建設用資材の加工等の作業においては,指導監督の際,移動式局所排気装置の使用を図るよう指導することとされた。 証拠(甲A104,279,280,乙アA38,61から63まで,67)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 ア作業場において発生した粉じん,ミスト,フューム,ガス,臭気等の有害物は,その発生源では極めて高濃度で発生した後,周囲の一般空気中に広がり,最終的に作業場全体の空気を汚染する。 このような労働環境への対策として,動力源を用いる動力換気の方法として,一般換気(全体換気)と局所換気がある。一般換気とは,既に作業場全体の空気が汚染されている状態のときに,換気扇等によって新鮮な外気を流入させ,混合希釈の原理により作業場全体の汚染濃度を減少させることをいい,局所排気とは,発生源で高濃度で発生した有害物が周囲の一般空気中に混合分散する前に,汚染空気を,吸込気流によってできるだけ高濃度の状態で局所的に捕捉除去し,清浄化した上で大気中に放出することをいう。 一般換気には,有害物の発生源が作業場内に複数分散して存在し,作業者がその間で作業する場合など,作業者と発生源の位置関係が一定でないときは効果が得られない, 化した上で大気中に放出することをいう。 一般換気には,有害物の発生源が作業場内に複数分散して存在し,作業者がその間で作業する場合など,作業者と発生源の位置関係が一定でないときは効果が得られない,場所によっては濃度の高い部分が残る危,,険性がある有害物を屋外にまき散らすおそれがあるなどの欠点がありこれを克服する方法として考えられたのが局所排気であった。 イ局所排気装置は,上記の局所排気の観点から,空気中に浮遊する有害。 物をその発生源にできるだけ近いところで捕捉して排出する装置である局所排気装置は,フード(有害物の発生源に最も近接した部分で囲い-- 又は開口をし,そこから汚染空気を吸引して装置内へと導く入口部,)ダクト(汚染空気をフードから空気清浄装置等に搬送するための導管,)空気清浄装置(集めた汚染空気中の有害物を取り除く装置)及び排出機(有害物を取り除いた後の清浄空気を装置外に排出するための排風機及び排気口等)からなるところ,その設計,製造及び設置に当たって最も重要なのはフードであり,次いでダクトである。 フードの形,大きさ,発生源との位置関係,制御風速(対象となる有害物を全てフードに吸引するために必要な吸引風速)等が適切に設計されておらず,制御風速等が小さすぎれば,有害物を的確に吸引することはできず,大きすぎれば,たい積粉じんを巻き上げるなどの二次発じんを引き起こす危険性がある。また,ダクトが適切に設計されず,圧力損失(空気が通るときの抵抗)を踏まえた適切な搬送速度が計算されなければ,必要な気流を確保できず,有害物を的確に捕捉することはできない。 ウ局所排気装置の設計は,次のような手順で行われる。 当該作業場の環境,有害物を発生させる作業態様等を踏まえたフードの設置位置,形,大きさ等の決定当該作業 的確に捕捉することはできない。 ウ局所排気装置の設計は,次のような手順で行われる。 当該作業場の環境,有害物を発生させる作業態様等を踏まえたフードの設置位置,形,大きさ等の決定当該作業場における捕捉点の位置,有害物の飛散速度,方向及び大きさ,汚染空気の拡散速度,方向及び大きさ,捕捉点の周囲の乱れ気流の大きさ等の諸条件を踏まえた制御風速の決定制御風速を得るのに必要な排風量の計算ダクト内の粉じんたい積を防ぐことができる搬送速度の決定ダクトの太さ,配置,設置場所等の検討,決定空気清浄装置の選定ダクトの圧力損失の計算-- 必要排風量と必要静圧(圧力損失に打ち勝つ圧力)を満たすファンの選定エ実際の作業場で局所排気装置を使用するに当たっては,当該作業場における具体的な作業内容や,有害物の種類,特性及び発生状況といった,作業実態に即応した局所排気装置の設計等を行わなければならないため局所排気装置は,既製品の大量生産によることはできず,一基一基が当該作業場のオーダーメイドにより設計等される。 特に,石綿粉じん等の鉱物性粉じんは,それ自体に重量がある上,有害物の発生過程が,石綿含有建材等の固形物に外力を加えることによって微細粒子が生ずるという点にあることから,粒子が運動エネルギーを有しており,物質の拡散速度や方向が,有害物の種類,作業内容,作業態様等により千差万別である。そのため,個々の作業場の作業実態に即応した設計等の必要性は,有機溶剤等の揮発性の有害物(蒸発により生じた気体のため,重量や運動エネルギーをほとんど有さず,比較的容易に捕捉することができる)と比べてもより高い。 。 原告らは,労働大臣が,昭和35年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場 をほとんど有さず,比較的容易に捕捉することができる)と比べてもより高い。 。 原告らは,労働大臣が,昭和35年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場について,建設現場に適合した移動式局所排気装置の設置等を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,で認定したとおり,局所排気装置は,それを設置する個々の作業場の具体的な作業実態に即応してオーダーメイドで設計,製造及び設置しなければ,換気効果を発揮することはできない。特に,石綿粉じん等の鉱物性粉じんは,物質の拡散速度や方向が作業内容等に応じて千差万別であるから,その要請が特に強い。そうであるところ,屋外の建設作業では,自然の風等の乱れ,気流の影響を大きく受ける上に,工事の完-- 成に向けて徐々に建築物を造り上げていくという性質上,労働者が行う作業の内容はもとより,作業場の形状,他の職種の作業者が行う作業の状況といった周囲の環境も,工程の進行とともに日々刻々と変化していく。 そのように日々刻々と変化する作業環境に即応した局所排気装置を導入せよというのは,事業者への義務付けとして,現実的でないといわざるを得ない(証拠(甲A280)によれば,東京訴訟証人尋問において,被告国側の証人となった,長年,作業環境管理に携わってきた経歴を持つW6は,昭和63年の通達について「何というばかな通達を出したのかと思っている」と供述している。なお,平成4年に発出された通達では,局所排気装置に言及がない。このことは,移動式局所排気装置であっても異な。)るところはない。移動式局所排気装置は,車輪をつけた台に局所排気装置(),,,を固定したような構造である甲A172ことから同装置には本来厳密に設定されるべきフードと ても異な。)るところはない。移動式局所排気装置は,車輪をつけた台に局所排気装置(),,,を固定したような構造である甲A172ことから同装置には本来厳密に設定されるべきフードと有害物の発生源との位置関係が変動してしまうという同装置特有の問題もある。 建設現場は,局所排気装置の使用という観点からも,作業内容,作業場所等がある程度固定している工場等の屋内作業場とは,作業環境が根本的に異なっているというほかない。 ,,原告らは粉じんを発生する作業場所を周囲から隔離して密閉化した上隔離場所で発生した粉じんを,移動式集じん機を用いて作業場の外に排出する方法も主張している。 しかしながら,原告らが主張するような作業場所の隔離等は,隔離された作業場所として相当の面積を必要とすると考えられ,広狭様々な状況が想定される建築現場の全てについて,そのようなスペースを設けることができるとは限らない上に,昭和35年の時点で,その設置を事業者に義務付けることができるほどの移動式集じん機に関する工学的知見が確立して-- いたと認めることができないことは,7のとおりである。 原告らは,労働大臣が,昭和47年の時点で,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設現場について,建設現場に適合した移動式局所排気装置の設置等を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,移動式局所排気装置や移動式集じん機の問題点が,昭和35年に比べ昭和47年には解消されたと認めるべき証拠はない。 昭和47年時点においても,問題状況は,昭和35年と変化はなかったというべきである。 したがって,局所排気装置の設置等に関し,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く規制権限の不行使があったと認めることはできな いても,問題状況は,昭和35年と変化はなかったというべきである。 したがって,局所排気装置の設置等に関し,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く規制権限の不行使があったと認めることはできない。 防じんマスクの支給についてエアラインマスクとは,送気マスク(給気源からの清浄な空気をホース,)又は中圧ホース及び面体等を通じ着用者に供給する方式の呼吸用保護具の一種で,作業環境空気外の呼吸に適した空気をホースを通じ,着用者に供給する形式のマスクをいう(乙アB166参照。 )原告らは,労働大臣が,昭和40年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,石綿吹付け作業員に対するエアラインマスクの支給及び使用を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,昭和40年の時点で,石綿のがん原性に関する医学的知見が確立していたといえないことは,第2節第3のとおりである。 原告らは,昭和38年度労働省労働衛生試験研究「ずい道建設工事における粉じん対策(甲A281)をもとに,エアラインマスクの有用性が」明らかとなっていたと主張する。確かに,上記文献には,新鮮な空気をホースで送気するホースマスクは,周囲環境の粉じん濃度やガス成分に関係-- なく呼吸ができるとの記述があるが,それに続けて,ホースの長さによって着用者の行動が制限されるのが欠点であり,ずい道建設では,粉じんの立場からホースマスクを是非とも必要とするような場合は余り考えられないとの記述もある。また,建設業労働災害防止協会編集「建設業における粉じんによる疾病の防止粉じん作業特別教育用(甲A251)には,」吹付けコンクリート作業の吹付けノズルの手動操作者やいわゆる吹付けロボットの吹付け面監視作業従事者用としてエアラインマスクの記載がある による疾病の防止粉じん作業特別教育用(甲A251)には,」吹付けコンクリート作業の吹付けノズルの手動操作者やいわゆる吹付けロボットの吹付け面監視作業従事者用としてエアラインマスクの記載があるが,これは,昭和61年に発行されたものであり,昭和40年当時の知見を裏付けるものとはいうことができない。 上記各文献は,昭和40年の時点において,石綿吹付け作業員の粉じん対策としてエアラインマスクの有用性が明らかとなっていたことを示すものとはいうことができず,他にこのことを認めるに足りる証拠はない。 したがって,昭和40年の時点で,事業者にエアラインマスクの支給を義務付けるべき根拠はないといわざるを得ない。 原告らは,労働大臣が,昭和50年の時点で,石綿含有量が重量の5%以下の石綿吹付け作業についても,エアラインマスクの支給及び使用を義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,石綿の含有量が重量の5%以下の石綿吹付け作業を除外したのは,当時の吹付け石綿は石綿を30%以上含有するのが通常であったことから,5%以下のものを除外しても,吹付け石綿を禁止する目的は果たせることにあったことからすると,エアラインマスクの支給及び使用,。 について5%以下の例外を設けたことも不合理とはいうことができない電動ファン付き呼吸用保護具とは,日本工業規格(JIS)の定義によれば,電動ファン,ろ過材,面体などからなり,粉じん,ヒュームなどの粒子状物質を除去した空気を着用者へ供給する呼吸用保護具をいう。電動-- ファン付き呼吸用保護具の日本工業規格が制定されたのは,昭和57年のことであった(乙アB166。 )原告らは,労働大臣が,昭和40年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,また,安衛法が制定された昭和47年の時点 規格が制定されたのは,昭和57年のことであった(乙アB166。 )原告らは,労働大臣が,昭和40年の時点で,旧労基法42条,43条及び45条に基づき,また,安衛法が制定された昭和47年の時点で,同法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿吹付け作業員以外の建設作業従事者に対する電動ファン付きマスクの支給及び使用を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,昭和40年の時点において,石綿のがん原性に関する医学的知見が確立していたとはいえないこと,昭和47年の時点において,石綿粉じんの少量暴露によっても中皮腫を発症するとの医学的知見が確立していたとはいえないことは,第2節第3のとおりである。 また,原告らは,昭和40年ころに個人サンプラーが開発されていたことからすると,これを応用して電動ファン付きマスクを開発することが可能であったと主張する。 しかしながら,個人サンプラーと電動ファン付きマスクは別個の製品であり,個人サンプラーが開発されていたとしても,そのことをもって,電動ファン付きマスクの開発可能性が基礎付けられるわけではなく,原告らが主張する「これを応用して」の内容も不明である。 昭和40年及び昭和47年のいずれをとっても,石綿吹付け作業員以外の建設作業従事者に電動ファン付きマスクを支給すべきとするだけの根拠は見当たらない。 以上によれば,防じんマスクの支給に関し,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く規制権限の不行使があったと認めることはできない。 特別教育について関係法令等の定め-- ア旧労基法50条は,使用者は,労働者を雇い入れた場合においては,その労働者に対して,当該業務に関し必要な安全及び衛生のための教育を施さなければならないと定めていた。 イじん肺法6条は,使用 ア旧労基法50条は,使用者は,労働者を雇い入れた場合においては,その労働者に対して,当該業務に関し必要な安全及び衛生のための教育を施さなければならないと定めていた。 イじん肺法6条は,使用者は,労働基準法及び鉱山保安法の規定によるほか,常時粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教育(じん肺教育)を行わなければならないと定めていた。 ウ安衛法59条1項は,事業者は,労働者を雇い入れたときは,当該労働者に対し,労働省令で定めるところにより,その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行わなければならないと,同条2項は,前項の規定は,労働者の作業内容を変更したときについて準用すると,同条3項は,事業者は,危険又は有害な業務で,労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは,労働省令で定めるところにより,当該業務に関する安全又は衛生の教育を行わなければならないと定めていた。 同条1項を受けて,安衛則35条1項は,機械等,原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること(1号,安全装置,)有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱いに関すること(2号,作業手順に関すること(3号,当該業務に関して発生するおそれ))のある疾病の原因及び予防に関すること(5号)等について雇入れ時等の教育を行わなければならないと定めた。 また,安衛法59条3項を受けて,安衛則36条は,研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務等26種類の業務を特別教育を必要とする業務と定めた。 エ労働省労働基準局長が平成4年に発出した「石綿含有建築材料の施工作業における石綿粉じんばく露防止対策の推進について(同年基発第」-- 1号)には,石綿粉じんの有害性に鑑み,石綿含有建築材料の施工業務従事 長が平成4年に発出した「石綿含有建築材料の施工作業における石綿粉じんばく露防止対策の推進について(同年基発第」-- 1号)には,石綿粉じんの有害性に鑑み,石綿含有建築材料の施工業務従事者に対する「特別教育」に準じた労働衛生教育の推進を指導することが定められている。 原告らは,労働大臣が,昭和35年の時点で,旧労基法42条及び45条に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設作業従事者に対する,石綿の粉じん一般の危険性及びがん原性に関する特別教育の実施を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,第2節第3のとおり,昭和35年の時点で石綿のがん原性が明らかとなっていたとはいうことができない。また,石綿の鉱物性粉じん一般の危険性については,旧労基法50条に基づく雇入れ時の安全衛生教育が義務付けられていたほか,同年に制定されたじん肺法により,常時粉じん作業に従事する労働者に対しては,じん肺教育が義務付けられていた。 したがって,それ以上の教育の必要性は認めることができない。 原告らは,労働大臣が,昭和47年の時点で,安衛法59条3項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建設作業従事者に対するにいう特別教育の実施を事業者に義務付けなかったことは違法である旨主張する。 しかしながら,のとおり,被告国は,昭和47年に制定された安衛法及び安衛則により,労働者に対する,原材料等の有害性等,有害物抑制装置又は保護具の性能及び取扱い等,当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防等に関する雇入れ時教育の実施を事業者に義務付けている。そして,原材料等の有害性や,当該業務に関して発生するおそれのある疾病等に関する教育は,これらに関するその時々の知見に応じたものであることが求められるのであるから,昭和47年に石綿のがん けている。そして,原材料等の有害性や,当該業務に関して発生するおそれのある疾病等に関する教育は,これらに関するその時々の知見に応じたものであることが求められるのであるから,昭和47年に石綿のがん原性に関する医学的知見が確立した後にあっては,そのような知見を盛り込んだ-- 教育の実施が事業者に義務付けられることとなる。 したがって,それ以上の教育の必要性を認めることはできない。 原告らは,雇入れ時教育等だけでは,石綿の危険性を労働者に周知するためには不十分であり,被告国も,そのことを認識していたからこそ,平,「」成4年の通達により石綿含有建材の施工業務従事者に対する特別教育に準じた教育の実施を指導することとした旨主張する。 しかしながら,石綿のがん原性といっても,第2節第3でみるとおり,昭和47年の医学的知見と平成4年の医学的知見とは異なる上,特別教育の必要性を根拠付けるそのほかの要件も変遷することが考えられるのであるから,平成4年に「特別教育」に準じた労働衛生教育を推奨したからといって,昭和47年にも同様であったとはいうことができない。また,平成4年には,飽くまで通達で上記教育の推進を指導するようにと指示しただけであって,事業者に対する義務付けとは異なる。 そのほか,昭和47年の時点において,雇入れ時教育等だけでは不十分とする事情は見当たらない。 以上のとおり,特別教育に関し,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く規制権限の不行使があったと認めることはできない。 以上によれば,労働関係法令上の規制権限が行使されていないことを,国賠法1条1項の適用上違法ということはできず,争点4に対する原告らの主張は理由がない。 第4被告国の毒物及び劇物取締法に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点5)について原告ら ないことを,国賠法1条1項の適用上違法ということはできず,争点4に対する原告らの主張は理由がない。 第4被告国の毒物及び劇物取締法に基づく規制権限不行使の違法性の有無(争点5)について原告らは,内閣が,毒物及び劇物取締法が制定された昭和25年の時点又は遅くとも昭和30年の時点において,政令で石綿を劇物と定め,同法の規制対象としなかったことは違法である旨主張する。 -- しかしながら,毒物及び劇物取締法は,急激な毒性作用を有する化学物質の適正な管理による保健衛生の確保及び同作用に起因する健康被害の防止等を目的とする法律であり,具体的に同法の別表に掲記されている物質をみれば分かるとおり,同法にいう毒物,劇物とは,急性毒性を発現する物質であることが予定されているものと解するのが相当である。 そうであるところ,第2章第2節第2のとおり,石綿は,体内蓄積性及び,,長期侵襲性の特徴を有する有害物質であるからそれに起因する健康被害を急性毒性が発現したものということはできない。 したがって,石綿を毒物及び劇物取締法上の劇物と定めて同法の規制の対象とすることは,その性質上困難というべきである。 内閣がそのような措置を講じなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認める余地はなく,これを国賠法1条1項の適用上違法ということはできない。 争点5に対する原告らの主張は理由がない。 第4節被告企業らの共同不法行為の成否(争点6)について第1民法719条1項前段の共同不法行為について 原告らは,被告企業らが,石綿含有建材を製造,加工,販売することにより,これを建材市場に流通させた行為は,社会的にみて一体の行為であり,客観的共同関係が認められるところ,この共同行為と原告らの石綿関連疾患発症という損害との間には因果関係があるか ,販売することにより,これを建材市場に流通させた行為は,社会的にみて一体の行為であり,客観的共同関係が認められるところ,この共同行為と原告らの石綿関連疾患発症という損害との間には因果関係があるから,民法719条1項前段の共同不法行為が成立すると主張する。 ところで,同項前段は,数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたとき,共同行為者は,各自連帯して,被害者に生じた損害を賠償する責任を負うとの規定である。この場合,各行為者の行為に関連共同性があることのほかに,各人の行為がそれぞれ個別に不法行為の要件を備えることを要件-- とする立場に立つときは,原告らは,被告企業ら各自の製造等行為と各原告の石綿粉じん暴露又は石綿関連疾患発症との因果関係について,そもそも個別具体的に主張,立証することをしないのであるから(平成21年2月6日付け原告ら準備書面1の77頁参照,同項前段の共同不法行為もおよそ成)立しないというほかない。 もっとも,同項前段の共同不法行為の成立のためには,各人の行為と被害者の損害発生との間の個別的な因果関係の主張立証は不要であり,①各人の行為の関連共同性と②共同行為と損害発生との間の因果関係があれば足りるとの立場に立ったとしても,本件では,被告企業44社の行為に関連共同性を認めることはできない。 なお,本件では,被害を受けたという原告又はその被相続人は合計75名であり,その職種,職歴も様々である。そこで,原告らは,各原告又は被相続人に対し,それぞれ,被告企業44社が共同不法行為者となっていると主張しているものと理解する。 民法719条1項前段の共同不法行為の成立を認めるときは,共同行為者各人が全損害についての賠償責任を負い,かつ,個別的因果関係の不存在による減免責を許さないのであるから,このような責任に する。 民法719条1項前段の共同不法行為の成立を認めるときは,共同行為者各人が全損害についての賠償責任を負い,かつ,個別的因果関係の不存在による減免責を許さないのであるから,このような責任に見合った関連共同性(これは「強い関連共同性」と呼ばれることがある)が必要である。共同,。 不法行為の存在理由を,被害者の救済に置くとしても,共同行為者の側にも責任を生じさせるだけの帰責性が必要である。 上記の観点からすれば,上記の関連共同性が認められるためには,客観的な関連共同関係があれば足り,複数の行為が共同の原因となって一個の損害を引き起こした場合で,その複数の行為が社会観念上全体として一個の行為と評価することができれば足りると解するのが相当である。 原告らは,被告企業らの行為を社会観念上全体として一個の行為と評価す-- ることができる事情として,汚染源と損害の一体不可分性,危険回避のための一体的行為,利益共同体としての一体性,業界団体を通じての一体性,被告国の産業保護育成政策を通じての一体性を主張する。 しかしながら,次のとおり,被告企業44社を通じて,原告らが主張する上記の一体性を認めることはできない。 原告らは,まず,汚染源と損害の一体不可分性を主張する。 しかしながら,被告企業らは,製造又は加工したという石綿含有建材の種類,これらを製造又は加工した時期が,第2章第2節第1の2でみただけでも様々である。石綿関連疾患(とりわけ,石綿肺)については,ある,程度長期間の石綿粉じんの暴露によって発症するとの側面があることから関連共同性を認めるために,時間的・場所的一体性を厳格にとらえることは適切でないにしても,例えば,製造する建材の種類において,石綿を含有する吹付けロックウールのみという企業(被告Y6)がある一方,スレートボー 認めるために,時間的・場所的一体性を厳格にとらえることは適切でないにしても,例えば,製造する建材の種類において,石綿を含有する吹付けロックウールのみという企業(被告Y6)がある一方,スレートボードのみという企業(被告Y7。しかも,この両者は,製造又は加工の時期も異なり,製造と加工というように態様も異なる)もあり,こ。 の両者を汚染源として一体不可分であるとくくる共通項は,石綿を含有した建材を製造(加工を含む)したということしかない。 。 また,例えば,昭和46年から昭和55年まで石綿を含有するパルプセメント板等の建材を製造していた被告Y12と平成4年から平成16年まで石綿を含有する下地調整材等を製造していた被告Y8のように,製造時期という時間軸(縦軸)でも,製造した建材の種類という空間軸(横軸)でも,大きく離れ,いずれの軸でも同一線上に立つことがない被告企業同士を,建設現場には,多種多様な石綿含有建材が用いられる,建設作業従事者を累積的に石綿粉じんに暴露させるとの抽象的な理由だけで,汚染源として一体不可分であると評価することはできないというべきである。 -- 被告企業らの中には,被告Y9(ただし,製造時は二つの会社である)。 と被告Y3のように,遅くとも昭和20年から平成16年まで,詳細は異なるにせよ,同じように石綿を含有するスレートボードを製造してきたという企業もあるが,このような企業があることによって,いずれかの時期に,いずれかの石綿含有建材を製造していれば,全ての被告企業に汚染源としての一体性があるとは認め難いといわざるを得ない。 原告らは,次に,危険回避のための一体的行為を主張する。これは,危険回避のための対策という観点から,被告企業らが一体となることが求められるというものである。 しかしながら,これは,汚染源とし 。 原告らは,次に,危険回避のための一体的行為を主張する。これは,危険回避のための対策という観点から,被告企業らが一体となることが求められるというものである。 しかしながら,これは,汚染源としての一体性の裏返しというべきであって,製造又は加工する石綿含有建材の種類,これらを製造又は加工する時期,さらには,製造なのか加工なのか,販売だけなのかという態様が区々である以上,危険回避のための対策の一体性は認めようがない。 原告らは,利益共同体としての一体性を主張する。 原告らは,各企業が製造販売する異なる種類の石綿含有建材が一体となって市場を形成し,互いを利用し合いながら高い利潤を追求してきたと主張するところ,建築物の建築に様々な建材が必要とされるからといって,1箇所に石綿含有建材を使用した建築物は,他の箇所にも石綿含有建材を使用するといった関係を認めるに足りる証拠はない。互いを利用し合いながらという点では,異なる種類の建材を製造している企業が,互いを利用し合うということになろうが,そのような関係を具体的に示す主張も証拠もない。 一方で,原告らは,互いに製造委託(OEM)等の連携を結んだり,カルテルを形成した企業があったことを主張する。確かに,カルテルの参加者の間では,カルテルの対象となった建材についてカルテルの期間につい-- ては,製造する数量,金額を調整するという意味で,利益共同体としての一体性を認めることもできようが,カルテルに参加していない企業からみれば,これは,一体性がないことの証左でしかない。OEM等の連携についても同様のことがいえる。 被告企業らは,自由主義経済の下,企業として,各社の利益を考えて企業活動を行っているのであって,被告企業らを全体として一体とする利益共同体を想定することは基本的にはできない。 原 ことがいえる。 被告企業らは,自由主義経済の下,企業として,各社の利益を考えて企業活動を行っているのであって,被告企業らを全体として一体とする利益共同体を想定することは基本的にはできない。 原告らは,業界団体を通じての一体性を主張する。 これについても,協会に加盟していることで,加害行為の一体性に結びつくかはかなり疑問ではある。そうであるにしても,協会に加盟していない企業からみれば,これも,一体性を否定する材料にすぎない。 原告らは,被告国の産業保護育成政策を通じての一体性を主張する。 しかしながら,被告企業らは,製造又は加工したという石綿含有建材の種類,これらを製造又は加工した時期が様々であることは,何回も触れたところであり,被告国の産業保護育成政策を通じての一体性なるものは,極めて抽象的なものでしかない上,時期を異にして一体性があるといえるのかは,不明である。 以上のとおり,被告企業44社を通じて,原告らが主張する,汚染源と損害の一体不可分性等の一体性を認めるということはできない。また,原告らが主張する内容は,加害行為そのものの一体性とは異なる(加害行為そのものの一体性を主張するためには,まず,建設現場やそこで使用された建材を特定することが必要となるため,原告らの立場からは,そのような主張はすることができないことになろう。したがって,原告らが主張する,汚染源。)と損害の一体不可分性等の一体性を認めることができたとしても,それだけで,関連共同性を認めることができるのかは,次の問題である。 -- 被告企業らの中には,石綿含有建材の製造自体を争うものがある。 その中でも,被告Y10についてみると,同被告の側から石綿含有建材を作成していないという一応の証拠を提出している。そうすると,1度のW7調査結果のみから,上記被告が 建材の製造自体を争うものがある。 その中でも,被告Y10についてみると,同被告の側から石綿含有建材を作成していないという一応の証拠を提出している。そうすると,1度のW7調査結果のみから,上記被告が石綿含有建材を製造したと認めるには足りないというべきである。 以上のとおり,民法719条1項前段の共同不法行為の要件につき,いずれの立場をとっても,被告企業らに同項前段の共同不法行為が成立するということはできない。 第2民法719条1項後段の共同不法行為について 原告らは,民法719条1項後段の共同不法行為の成立を主張する。 同項後段は,共同行為者のうちの誰かの行為が損害を発生させたことは明らかであるが,実際にいずれの者がその損害を加えたかは不明であるという場合(択一的競合関係にある場合)に,行為者全員が連帯責任を負う旨を定めたものである。 同項後段の不法行為が成立するためには,少なくとも,被告企業らのうちの誰かの石綿含有建材の製造等行為に起因して各原告が石綿関連疾患を発症したことは明らかであるとの関係が認められることを要するという立場に立つときは,石綿含有建材データベースに石綿含有建材の製造メーカーとして登録されている会社は被告企業ら以外にも少なくとも40社以上はある乙,(ト9,弁論の全趣旨)上,廃業してしまった会社もあることを考慮すると,被告企業ら以外にも,各原告の石綿関連疾患発症の原因となった石綿含有建材を製造等した可能性のある者がいるということになる。 原告らは「石綿(アスベスト)含有建材データベース」によって特定し,た被告企業らが製造等した石綿含有建材は,市場占有率が高く,全体としてみれば,国内において使用されてきた石綿含有建材のほぼ全てを網羅してい-- るから,同項後段の行為者の特定を満たすなどと主張する。 業らが製造等した石綿含有建材は,市場占有率が高く,全体としてみれば,国内において使用されてきた石綿含有建材のほぼ全てを網羅してい-- るから,同項後段の行為者の特定を満たすなどと主張する。 しかしながら,同項後段の択一的競合関係は,共同行為者とされる者以外に疑いをかけることのできる者はいないという程度までの立証を要するものとすれば,原告ら指摘の事情をもって同項後段の特定として足りるということはできない。 もっとも,共同行為者とされる者以外に疑いをかけることのできる者はいないという点は別にして,すなわち,民法719条1項後段の類推適用として,一部の競合行為者しか特定できない場合でも,一定の割合で特定された競合行為者の連帯責任を認め得るとの立場に立ったとしても,被告企業らにそのような共同不法行為を認めることはできない。 原告らは,石綿関連疾患(少なくとも肺がん,中皮腫)の発症には石綿粉じん暴露の閾値がないから,被告企業らは,択一的競合の関係にあると主張する。すなわち,石綿含有建材を製造等した以上は,各原告の損害を発生させる可能性があるということである。 しかしながら,同項後段の適用又は類推適用のために,択一的競合関係にある共同行為者の範囲を画するものとして,石綿含有建材を製造等したことがあるというだけで足りるものとは解されない。 被告企業44社の石綿含有建材の製造の種類,時期,数量,主な販売先等は異なり,一方で,各原告又は被相続人の職種,就労時期,就労場所,就労態様は異なる。そうであれば,各原告又は被相続人の損害を発生させる可能性の程度は,各被告ごとに大きく変わり得る。それらを捨象して,石綿含有建材を製造等した企業であれば,どの原告又は被相続人に対しても,いわば等価値にその損害を発生させる可能性があるとはいうことができない。 し は,各被告ごとに大きく変わり得る。それらを捨象して,石綿含有建材を製造等した企業であれば,どの原告又は被相続人に対しても,いわば等価値にその損害を発生させる可能性があるとはいうことができない。 したがって,原告らの主張では,択一的競合関係にある共同行為者の範囲を画していないといわざるを得ない。 -- さらに,原告らは,各被告企業が,単独では被害を発生させない石綿含有建材を流通させたにとどまるとしても,他の被告企業らの行為との相加的累()()積客観的共同と自己と同様の行為の累積による危険の認識主観的要件があれば,民法719条1項後段が類推適用されると主張する。 ,,,,しかしながら原告らの主張が各原告又は被相続人についてそれぞれ被告企業44社が客観的共同の関係にあるというのであれば,それには,1及び2と同様の問題がある。 各原告又は各被告企業に着目するときは,ある原告について,共同行為者を特定することができるのではないかと思われる者もいる。 例えば,原告らも平成23年9月9日付け準備書面(企業-12)で挙げ,。 るプラント工の原告X1の場合は使用した保温材がかなり特定されている,,。 しかしながら原告X1の場合も被告企業が限定されているわけではない上記以外にも,原告によって,その職種,就労時期,就労態様等から,ある程度,使用した可能性のある建材,蓋然性のある建材を選別することができるはずであり,そうであれば,その建材を製造等した被告企業の間では,民法719条1項後段の共同不法行為の成立を考える余地も出てくる。 しかしながら,原告らは,上記のような原告又は被相続人ごとの被告企業の限定をあえて行ってこなかったものである。 以上のとおり,被告企業らに,民法719条1項後段の適用又は類推適用 地も出てくる。 しかしながら,原告らは,上記のような原告又は被相続人ごとの被告企業の限定をあえて行ってこなかったものである。 以上のとおり,被告企業らに,民法719条1項後段の適用又は類推適用による共同不法行為が成立するということはできない。 第3製造物責任法3条に基づく責任について以上のことは,製造物責任法3条に基づく損害賠償責任についても,等しく当てはまる。 したがって,被告企業らに,同条の責任が生ずることもない。 第4まとめ-- 争点6に対する原告らの主張は理由がない。 第5節まとめ,,。 既にみたように石綿はその特質から多くの工業製品に利用されてきたとりわけ,石綿含有建材は,防火,耐火という点では,多くの国民に恩恵を与えたといえよう。その反面,石綿粉じんによって健康被害が生じ得ることは戦前から主に石綿工場で認識されており,戦後の旧労基法以来,この被害を防ぐための各種規制も行われてきた。証拠(乙アA139)によれば,大阪高等裁判所は,石綿工場で働いていた元従業員からの訴訟において,これらの規制が一定の成果をもたらした旨判示している。一方,建材に着目してみると,吹付け材については,これが粉じんを発散することは明らかであったことから,石綿のがん原性が明らかとなった時点では特化則によってこれを原則的に禁止し,解体作業については,石綿含有建材を使用した建築物の解体が予想される時期には,その粉じんに対し注意するよう指導がされたにもかかわらず,石綿含有建材を用いた建築作業に関しては,粉じんを発散することがあるとの意識が希薄であったのか,被告企業らにおいて粉じんを発散させない建材とするよう工夫がされていたためか(甲A264によれば,東証人は,住宅屋根用建材については,今でも使用できたのではないかと供述している。ま 薄であったのか,被告企業らにおいて粉じんを発散させない建材とするよう工夫がされていたためか(甲A264によれば,東証人は,住宅屋根用建材については,今でも使用できたのではないかと供述している。また,少なくとも被告Y11の製造した建材をみると,粉じんを発散しないということも首肯できるように思われる,被告国において,。)建築作業に特化した対策の指導はされてこなかった。もっとも,建築作業であっても,安衛法関係の法規の適用はあり,被告国が規制を行っていたことは確かである。したがって,国の対応の違法性という面では,医学的知見の集積状況と相まって,原告らが主張する昭和50年までの時点で,石綿含有建材を利用した構造であるからといって,耐火構造の指定をしたことは違法といえないことは,すでに説示したとおりであり,石綿の製造禁止に関する-- 昭和62年の状況に照らすと,このことは昭和62年であっても同様であっ。 ,,たと考えられるそうすると被告企業らが石綿含有建材を製造することも上記時点までは許されるとする必要があろう。 しかしながら,被告国の対応を見る限り,石綿含有建材を用いた建設作業の危険性に対する意識の欠如又は希薄さは否めない。被告企業らの警告表示について原告らの主張するところからすれば,被告企業らメーカーも同様で(,(),あった可能性がある一方では甲A242東文献のような指摘もありこの点については,本件訴訟では,主張立証が尽くされた段階とはいえないので判断はできない。これは,労働界においても同様であって,平成4年。)(,。),においてすらこの時点では石綿の使用の9割は石綿含有建材であった労働界が石綿の規制に必ずしも積極的ではなかったとの報道がある。また,医師の間でも,建設作業従事者の石綿関連 。)(,。),においてすらこの時点では石綿の使用の9割は石綿含有建材であった労働界が石綿の規制に必ずしも積極的ではなかったとの報道がある。また,医師の間でも,建設作業従事者の石綿関連疾患の意識が薄いことを,海老原医師は指摘している。 このような状況の下で,長年建設作業に従事した原告ら又はその被相続人は長い間石綿粉じんを浴び,石綿関連疾患にり患するに至り,原告らがその被った被害にふさわしい補償を受けていないというのであれば,それは,石綿含有建材によって利益及び恩恵を受けた国民全体が補償すべきものとも考えられ,少なくとも被告国には,石綿被害に関する法律の充実,補償制度の創設の可否を含め,再度検証の必要があるものと考えられる。 第6節 結論 ,,,以上のとおり原告らの請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないことに帰するのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所第9民事部-- 裁判長裁判官江口とし子裁判官杉本敏彦裁判官武藤裕一

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