平成30(行コ)301 不当利得返還請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和元年7月24日 東京高等裁判所
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判決文本文19,524 文字)

- 1 - 令和元年7月24日判決言渡平成30年(行コ)第301号不当利得返還請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成27年(行ウ)第98号,同第99号,同第117号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1 審,第2審を通じて被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨 第2 事案の概要 1 控訴人らは,平成23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震(いわゆる東日本大震災)の発生当時,仙台市内の本件マンションに居住していたが,同地震による本件マンションの被害の程度を大規模半壊とするり災証明書に基づき,被控訴人から,被災者生活再建支援法(支援法)の規定による本件各支援 金の支給を受けたところ,後に,本件マンションの被害の程度を一部損壊とするり災証明書が発行されたため,被控訴人は,本件各支援金の支給の根拠である本件各原決定を取り消す旨の本件各処分をした。 本件は,以上の事実関係のもと,被控訴人が,控訴人らに対して,控訴人らは法律上の原因なく本件各支援金の支給を受けたことになるなどと主張して, 不当利得に基づき,本件各支援金に係る利得金(控訴人B及び控訴人Cにつき各150万円,控訴人Eにつき100万円)の返還及びこれらに対する履行の請求の後の日である平成25年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。 2 原審は,控訴人らの世帯は大規模半壊世帯に該当するとは認められないとこ ろ,本件各処分で本件各原決定を取り消すことに違法はないから,控訴人らは- 2 - 法 を請求する事案である。 2 原審は,控訴人らの世帯は大規模半壊世帯に該当するとは認められないとこ ろ,本件各処分で本件各原決定を取り消すことに違法はないから,控訴人らは- 2 - 法律上の原因なく本件各支援金相当額の利得を受け,被控訴人には同額の損害が生じたもので,不当利得に当たると判断して,被控訴人の控訴人らに対する各請求をいずれも全部認容した。これに対して,控訴人らが本件控訴を提起した。 3 関係法令等の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張の要旨は, 次のとおり原判決を補正し,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 関係法令等の定め」,「2 前提事実(争いがない事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実)」,「3 争点」及び「4 争点に関する当事者の主張の要旨」に記載のとおりであるから,これらを引用する。 (原判決の補正等)(1) 前提事実についてア原判決3頁21行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「 α区長の発行したり災証明書には,「被害の程度が変更になった場合は,それより前に発行された証明書は,その効力を失います。」との注意 書があるものがあったが,控訴人らに交付された本件第2回り災証明書にはいずれもその旨の注意書はなかった。(甲1,甲A1,甲D1,乙1,4,76)」イ原判決4頁3行目の「α区は,」の次に「職権により,」を加える。 (2) 争点に関する当事者の主張の要旨について ア原判決5頁21行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「 第1次調査票及び第2次調査票では,一切の計測・計算は不要とされ,専門的知識を有さない素人でも判定できるように抜本的に簡素化・抽象化されているもので 行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「 第1次調査票及び第2次調査票では,一切の計測・計算は不要とされ,専門的知識を有さない素人でも判定できるように抜本的に簡素化・抽象化されているものであって,運用指針の内容とは質的に大きく異なるから,両者を同一のものとして判断することはできないし,両者間では結論自体 が矛盾する可能性が極めて大きい。 - 3 - 支援法2条2号ニにいう大規模半壊世帯との要件は,支援金による生活再建支援の必要性の程度を判断するための指標として規定されているのであって,要件該当性の判断は,損害賠償や損失補償の手続とは大きく性質が異なる。」イ原判決6頁8行目末尾に,次のとおり加える。 「支給要件に該当しない場合にはそれを是正するのが原則であって,その原則と異なる処理が必要な場合には,そのことが法律上明記されるのが当然であるところ,支援法にはこのような原則と異なる取扱いをする旨の規定はないから,原則どおり取消しが許される。」ウ原判決7頁5行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「 加えて,支援金の原資となる基金は各都道府県からの拠出金及び国の補助金によって賄われているところ,支援金が法律の要件を満たさない者に交付され,その返還を求めることができないとなった場合には,支援金制度の必要性・妥当性についての疑問が生じ,各都道府県の議会で支援金のための支出が円滑に承認されることが難しくなる。これは支援金制度を 持続すること自体を危うくするものである。」エ原判決7頁9行目から22行目までを次のとおり改める。 「(イ) 他方,支給要件を欠くにもかかわらず被災者が受給した支援金は,本来は得られるはずのないものであるから,控訴人らにおいてこれを保持する利益が大きいとは ら22行目までを次のとおり改める。 「(イ) 他方,支給要件を欠くにもかかわらず被災者が受給した支援金は,本来は得られるはずのないものであるから,控訴人らにおいてこれを保持する利益が大きいとはいえない。控訴人らが,本件各支援金の支給を契機 として什器備品の購入や住戸の修理費用等の支出をしていたとしても,不要な支出をしたとは考えられず,生活の支障の除去や財産価値の上昇等の経済的利益を享受している。控訴人らについて無用な支出を強いられた形跡はうかがわれないだけでなく,支援金の返還によって当該支出によって享受した経済的利益を超えるような実害が生じる事情もうかがわれないの であるから,本件各原決定を取り消すことによる控訴人らの不利益は大き- 4 - くない。 また,り災証明書には,被害の程度が変更となった場合はそれより前に発行された証明書の効力が失われる旨記載されていたほか,住民説明会を通じて,遅くとも平成24年3月10日までには,本件各原決定が取り消される可能性のあることが明らかになっていた。控訴人らは,それにもか かわらず,本件各原決定によって支援金が支給された直後にこれを費消している。さらに,本件各処分に先立っては,仙台市,α区及び被控訴人の職員により,本件マンションの住民に対し支援金の支給決定の取消しに関する説明会が開催されるとともに,被控訴人は,控訴人らに対し,支援金の分割返還を希望する際には具体的な返還方法について相談に応じる旨を 記載した文書も送付した。このように,本件第2回り災証明書に被災の程度の認定が変更される可能性についての注意書があった上に,本件支援金が支給されてから間もなく説明会が開かれているのであるから,本件各処分が支援金制度の実効性を失わせ,支援法に基づく支援金制度そのものに の認定が変更される可能性についての注意書があった上に,本件支援金が支給されてから間もなく説明会が開かれているのであるから,本件各処分が支援金制度の実効性を失わせ,支援法に基づく支援金制度そのものに対する信頼を失わせるなどということはあり得ない。」 オ原判決8頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「 業務規程11条は,被控訴人が支援金給付決定を取り消すことができる場合について,不正受給であった場合等に限定する趣旨であり,職権による支給決定の取消しを禁止している。このように解するのでなければ,なぜわざわざ業務規程が取り消すことができる事由として被災者に帰責性 がある場合を規定したのかが理解できない。」カ原判決9頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「 さらには,支援金の支給により被災者の生活再建を支援するという支援法の趣旨からすると,行政機関には,支給要件の認定について,簡易迅速な調査により決定する義務が課されているもので,被災者からの要請が ないにもかかわらず,詳細な調査方法により支援金の支給要件を認定する- 5 - ことは,簡易迅速な調査により支給決定を受ける被災者の権利を害するものとして違法というべきである。したがって,本件マンションの住民からの要請がないにもかかわらず行われた本件第3回調査によって判定を一部損壊に変更することは,違法である。」キ原判決10頁18行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同19行目 の冒頭の「(ウ)」を「(オ)」と改める。 「(ウ) 本件各原決定において,支援金の支給を受けた控訴人らには帰責性はなく,本件各原決定の原因となった本件第2回調査は,調査手法の公平・公正さに欠けるところはなく,内容についても調査当時において適正性の観点から問 定において,支援金の支給を受けた控訴人らには帰責性はなく,本件各原決定の原因となった本件第2回調査は,調査手法の公平・公正さに欠けるところはなく,内容についても調査当時において適正性の観点から問題にされる点はなかった以上,その調査の結果に基 づく被害の判定の程度が建築の専門家による再調査の結果と異なるために事後的に修正されたというだけでは,適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや,他の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれが生ずると認めるには足らない。被害の実情や実感との齟齬等に起因する不満や不公平感といったも のは,現行法制下では当然に生じ得るものとして,これを見越した上で,厳密性や確実性よりも簡易性や迅速性を優先し,制度として簡易迅速に調査し,支援金を支給することとしているものである。 (エ) 出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として処分による重大な不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外 的な事情のある場合には,その瑕疵が必ずしも明白なものでなくても,当該処分は当然無効であると解するのが相当である。控訴人らに対し,支給した支援金の返還義務を課すことは,支援法の趣旨及び目的に反し,支援行政の安定とその円滑な運営にさえ反するもので,控訴人らに本件各処分による重大な不利益を甘受させることは著しく不当である。 また,仮に明白性を要すると解したとしても,本件各処分の違法は明白- 6 - である。したがって,本件各処分は当然に無効である。」第3 当裁判所の判断当裁判所は,原審とは異なり,被控訴人の控訴人らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は次のとおりである。 1 認定事実 次のとおり改めるほかは 当裁判所の判断当裁判所は,原審とは異なり,被控訴人の控訴人らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は次のとおりである。 1 認定事実 次のとおり改めるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の「1 認定事実」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決11頁2行目冒頭の「(1) 」の次に「支援法,」と加え,同3行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,同4行目冒頭の「ア」を「イ」と,12頁12行目冒頭の「イ」を「ウ」と改める。 「ア支援法について支援法は,平成7年1月の兵庫県南部地震(いわゆる阪神・淡路大震災)に際しての被災者への公的支援が不十分であったとの批判を背景に,いわゆる議員立法によって,平成10年法律第66号として制定された。制定当初の支援法は,自然災害による被災者であって経済的理由等によって自立して 生活を再建することが困難なものの自立した生活の開始を支援することを目的としており(平成19年法律第113号による改正前の支援法1条),支援金の支給については,被災世帯に属する者の収入や年齢等により支給額の上限が定められていた(収入要件,年齢要件等)ほか,支援金の使途を一定の経費に限定した上で実際に支出した経費(実費)額を精算支給する実費積 み上げ支給方式が採用されていた(平成19年政令第361号による改正前の被災者生活再建支援法施行令)。 支援法は,その後,複数回改正され,同じくいわゆる議員立法により制定された平成19年法律第114号による改正によって,その目的規定が改められ,自然災害による被災者の生活再建を支援し,もって住民の生活の安定 と被災地の速やかな復興に資することが目的とされるに至り(1条),支援- 7 4号による改正によって,その目的規定が改められ,自然災害による被災者の生活再建を支援し,もって住民の生活の安定 と被災地の速やかな復興に資することが目的とされるに至り(1条),支援- 7 - 法による制度は,従前の経済的理由等によって自立して生活を再建することが困難な被災者を対象とする制度から,生活基盤に著しい被害が生じた被災者一般を対象とする制度に改められ,被災者の生活再建支援及び住民生活の安定に加えて,被災地の復興支援も目的とされるに至った。また,支援金については,従前の収入要件,年齢要件等が撤廃され,実費積み上げ支給方式 に代えて,当面の生活再建資金として必要な一定の額を支給する定額渡し切り方式と呼称される方式が採用された。これは,支援金を基礎分と加算分からなるものとし,基礎分については,世帯に属する者の数が1である世帯を除き一律に100万円(大規模半壊世帯にあっては50万円)として使途を限定せず,加算分については,住宅の再建や補修等のためであれば,実際に 要する費用か否か,経費として支出したか否かにかかわらず,住宅の被害の程度,被災世帯の構成員の数及び住宅の復旧方法に応じて定められた所定の額(最大200万円)を支給することとされた(3条)。」(2) 原判決12頁11行目を次のとおり改める。 「 また,東日本大震災による住家の被害の認定については,内閣府政策統 括官(防災担当)付参事官の「平成23年東北地方太平洋沖地震に係る住家被害認定迅速化のための調査方法について」が発出され,未曾有の災害である同震災に係る住家の被害について,迅速に被害認定を実施し,速やかにり災証明書を発行するため,運用指針よりも簡便な調査方法が示された。 (以上につき,乙17,31)」 (3) 原判決13頁13 災に係る住家の被害について,迅速に被害認定を実施し,速やかにり災証明書を発行するため,運用指針よりも簡便な調査方法が示された。 (以上につき,乙17,31)」 (3) 原判決13頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。 「 仙台市財政局税務部資産税課は,被害認定調査の際の参考として「建物被害認定調査のポイント」を作成しているところ,その中には,損傷程度に例示した事象の中で用いられる「一部」,「半分」,「著しい」,「全面的」,「細い」,「太い」等の文言については,社会通念を前提とした調査担当者 としての自覚と責任をもって判断を行うこととするとの説明があった。(乙- 8 - 41)また,仙台市では,第1次調査と第2次調査との結果が異なった場合,最も被害の程度が大きい結果を採用していた。(乙69・17頁)」(4) 原判決17頁16行目末尾に,改行の上,次のとおり加え,17行目冒頭の「(5)」を「(6)」と改める。 「(5) その後の経緯等についてア仙台市長が内閣府政策統括官(防災担当)付参事官に宛てて作成した平成24年3月30日付け書面では,①本件マンションの被害の判定における誤認発生の原因は,本件第2回調査を実施した際,階段と梁の接合部の仕上げにすぎない部位のコンクリート剥離・欠落及び一部鉄筋の 露出を,梁のコンクリート剥離・欠落等と誤認し,構造上重要な損傷に当たると誤認したことにある,②本件第3回調査に同行した一級建築士の資格を有する職員によれば,本件マンションは階段が梁に直接接合するという類例の少ない造りとなっており,建築の専門的知識がなければ誤認しやすい損傷箇所であるとのことである,との説明がされていた。 (甲9)イ α区区民部固定資産税課長は,控訴人らを含む本 るという類例の少ない造りとなっており,建築の専門的知識がなければ誤認しやすい損傷箇所であるとのことである,との説明がされていた。 (甲9)イ α区区民部固定資産税課長は,控訴人らを含む本件マンションの住民らに対し,平成24年3月26日付け書面を送付し,その中で住民らが受けている各種被災者支援制度について取扱いの変更が生ずる旨の連絡をした。同書面では,各種支援制度のうちの一部については,遡って 納付・返還を求めないとされていたほか,「被災者生活再建支援制度」については,「対応について県を通して,内閣府に照会中」とされていた。(乙3)ウ内閣府政策統括官(防災担当)付参事官は,平成24年3月16日付け書面により,被控訴人に対し,同年2月15日付け内閣府(防災担当) 災害復旧・復興担当作成の「仙台市α区のマンションに係る「り災証明- 9 - 書の被害の程度」の修正に伴う被災者生活再建支援金の支給の不利益変更等に関する取扱いについて(メモ)」と題する書面を,内閣法制局の確認を経た上での内閣府の法的見解であるとして送付した。同書面には,本件各支援金につき,本件各原決定を被控訴人において職権により取り消して住民に返還請求をすることは困難である旨が記載されてい た。(乙18,51)」 2 争点(1)(控訴人らの世帯が大規模半壊世帯に該当するか)についてこの点に関する当裁判所の判断は,原判決22頁7行目から12行目を除くほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の「2 争点(1)(被告らの世帯が大規模半壊世帯に該当するか否か)について」に記載の とおりであるから,前記部分を除いて,これを引用する。 3 争点(2)(控訴人らの世帯が大規模半壊世帯に該当しない場合における本件各処分の 大規模半壊世帯に該当するか否か)について」に記載の とおりであるから,前記部分を除いて,これを引用する。 3 争点(2)(控訴人らの世帯が大規模半壊世帯に該当しない場合における本件各処分の無効事由の有無)について(1) 授益的処分の取消し制限一般に行政処分は適法でなければならないから,一旦された行政処分につ いて,後にそれが違法であることが明らかになった場合には,行政の適法状態を回復するため,法律上の別段の根拠規定を要さず,職権によりこれを取り消すことができるというべきである。したがって,被控訴人は,支援法に基づく支援金の支給決定が違法であることが明らかになった場合には,職権によりこれを取り消す権限を有するというべきである。控訴人らは,業務規 程11条が,支援金給付決定を取り消すことができる場合を不正受給の場合等に限定する趣旨であると主張するが,採用できない。 もっとも,支援金の支給決定のような授益的な行政処分については,これが取り消されることによって,当該処分による既得の権利利益や,当該処分が適法であり有効に存続するものと期待した者の信頼を害することとなるた め,処分が違法であるとしても,処分の取消しによって生ずる不利益と,取- 10 - 消しをしないことによって当該処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することとの不利益とを比較考量し,当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り,これを取り消すことができるものと解するのが相当である (最二小判昭和31年3月2日・民集10巻3号147頁,最一小判昭和43年11月7 日・民集22巻12 号2421頁参照)。 そこで,以下においては,この観点から,本件各処分によって本件各原決定を取り消 1年3月2日・民集10巻3号147頁,最一小判昭和43年11月7 日・民集22巻12 号2421頁参照)。 そこで,以下においては,この観点から,本件各処分によって本件各原決定を取り消すことが許されるかを検討する。 (2) 本件各原決定の取消しによって生じる不利益ア支援法の趣旨 自然災害による被災者の生活再建を支援し,もって住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資するとの支援法の趣旨及び目的並びに内容に鑑みると,同法に基づき支給される支援金は,支給を受けた被災者において,速やかに生活再建のために支出することが当然に予定されているものといえる。すなわち,前記の補正の上引用する原判決の認定事実(以下,単に 「認定事実」という。)(1)アのとおり,現行の支援法においては,支援金は,住宅の被害の程度等に応じた定額とされているが,これは,自然災害により,住宅という重要な生活基盤に被害を受けた被災者が多数生じた場合にも,その生活再建のために支援の必要性が高い時期に速やかな資金援助を行い,もって,支援法の目的を達しようとすることの一つの表れであ るということができる。そこで,支給された支援金については,速やかに生活再建,ひいては被災地復興のために支出されることが支援法の予定するところであって,支援金が長く被災者の手元に留め置かれることは,支援法の趣旨及び目的にもとるところである。このような支援金の性格は,平成19年法律第113号による改正によって,支援金について,使途を 限定した上で実費額を精算支給する実費積み上げ支給方式に代えて,当面- 11 - の生活再建資金として必要な一定の額を支給する定額渡し切り方式が採用され,支援金の基礎分については使途を限定せず,加算分についても,住宅の再建等 費積み上げ支給方式に代えて,当面- 11 - の生活再建資金として必要な一定の額を支給する定額渡し切り方式が採用され,支援金の基礎分については使途を限定せず,加算分についても,住宅の再建等のためであれば,実際に要する費用であるか否か,経費として実際に支出したか否かを問わず,住宅の被害等に応じて所定の額の金員を支給することとされたことに鮮明に表れているということができる。 しかるに,支援金の支給後に住宅の被害の程度が修正された場合に,支援金を返還しなければならないとすれば,支援金の支給を受ける被災者は,住宅の被害の程度に関する事後的な修正の有無によって支給決定が維持されるか否かが左右されるという不安定な立場に置かれることになり,支援金の返還を求められる可能性を考慮して,これを安んじて速やかに生活再 建のために支出することができないことになる。このような事態は,自然災害により住宅に被害が生じた被災者の生活再建のため,その支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助するという支援金制度の実効性を失わせ,結果的には,支援法に基づく支援金制度そのものに対する信頼をも損なうものとなりかねない。そして,この不都合性は,住宅の被害の程度に ついて誤った判定がされるについて被災者に何らの帰責性がない場合や,職権による被害の程度の再調査によって判定が変更された場合にも支援金の返還を要するとすれば,ますます際立つことになる。 また,支援金の支給には,支給を受けられるがゆえに生活再建に向けた各種の消費活動が行われ,あるいは,支給が受けられたがゆえに本来であ れば後回しとなったはずの支出が現実にされるとの側面があることは否定し難い。特に,加算分については,居住する住宅を建設,購入又は補修する被災者に支給されるものであり けられたがゆえに本来であ れば後回しとなったはずの支出が現実にされるとの側面があることは否定し難い。特に,加算分については,居住する住宅を建設,購入又は補修する被災者に支給されるものであり,申請に際して,その契約書の添付が要求されることから,この側面が顕著である。このような支援金について,支給された支援金が生活再建のために支出された後になってその返還が求 められるとすれば,支援金の支給がなければ存在しなかった負債を被災者- 12 - に負わせることにもなりかねず,かえって被災者の生活再建に対する阻害要因となるおそれさえあり,被災者の生活再建を支援する支援法の趣旨及び目的に反する結果となる。 イ住宅の被害程度の調査及び判定方法一般に,建築物は,その素材や構造,建築地盤等が建築物ごとに異なり, また,地震の揺れ等によりどのような力が建築物に作用し,建築物の各部位の損傷に至るかが必ずしも一様ではないことからすれば,そもそもその被害の程度の判定に一定の困難が伴うことは否定できない。そして,り災証明書を発行するための被害の調査方法及び判定方法について,運用指針は,目視を基本として,部位ごとの損傷程度等により住家の損害割合を算 定するものとしており,建築の専門的知識を有しない者でも被害の程度の判定をすることができるようにしている(認定事実(1)イ)。 さらに,東日本大震災については,極めて多数の被災者に対する各種支援策の適用のために,住宅等の被害の程度の判定を要することから,内閣府から「平成23年東北地方太平洋沖地震に係る住家被害認定迅速化のた めの調査方法について」が発出され,運用指針よりもさらに簡便な調査方法を採用することが示されており(同イ),仙台市においても,運用指針の内容を基にして,簡易で迅 に係る住家被害認定迅速化のた めの調査方法について」が発出され,運用指針よりもさらに簡便な調査方法を採用することが示されており(同イ),仙台市においても,運用指針の内容を基にして,簡易で迅速な調査と判定を可能とするため,第1次調査票及び第2次調査票を定めて,損傷状況を目視により把握し,判定することができるようにしていたほか,被害認定事務の参考として作成された 「建物被害認定調査のポイント」では,「一部」,「半分」等の評価的な概念について,その認定基準を定量化することなく,社会通念によることとし,それも調査及び判定事務に携わる職員の判断に委ねていたものである(同ウ)。 これらの運用の指針や具体的方法の定め(以下「運用についての定め」 という。)については,東日本大震災のように極めて多数の被災者につい- 13 - て被害の調査判定事務を行わなければならない状況下において,円滑かつ迅速にこれを遂げて,支援金の支給等の各種の支援策をできる限り速やかに提供することを主眼とするものであって,まさに支援法の趣旨にも沿い,その実現に資するものであるということができる。そして,運用についての定めに従って実施される調査及び判定は,簡易迅速を旨とするため,再 調査すれば,被害の程度が当初の調査によるものと異なるとされる可能性が相当程度存し,特に建築の専門家による再調査が行われる場合には,被害の程度が異なるとされる可能性がより一層高まることを当然の前提とし,このような事態を織り込み,被害の調査及び判定の厳密性や正確性を一定程度犠牲にしても,迅速性に主眼を置くとの観点から実施することと したものと解することができる。したがって,再調査の結果に従って被害の程度を修正し,それに合わせて支援金の返還を要するとすることは,こ 牲にしても,迅速性に主眼を置くとの観点から実施することと したものと解することができる。したがって,再調査の結果に従って被害の程度を修正し,それに合わせて支援金の返還を要するとすることは,このような運用についての定めを策定した趣旨に沿わず,ひいては支援法の趣旨に沿わないこととなるというべきである。 ウ本件における事情 (ア) 本件の事案に即してもみても,本件各原決定の基礎となった本件第2回調査は,3名のα区の職員により,約2時間20分を費やして,第1次調査票に基づき建物の外観の損傷状況を目視により確認して実施された(認定事実(3)イ)ものであって,調査手続自体の適正に欠けるところはなかったものと認められる。また,調査の内容についてみても, 本件マンションが類例の少ない構造であって,建築の専門的知識を有しない職員において,階段と梁の接合部の剥離を建物の構造上重要な部分に係る損傷であると誤信することも無理からぬ面があり(同(5)ア),内容の面においても,本件第2回調査の当時においては,第1次調査票に基づく適正な調査が行われたとされていたものである。 (イ) 控訴人らに本件各支援金が支給されるに至ったのは,α区の職員ら- 14 - が行った本件第2回調査において,同職員らが住家の損傷の程度を本来の程度より高く判定したことによる。本件第2回調査は,控訴人Eからの再調査の申請を受けて実施されたものではあるが(認定事実(3)ア),控訴人Eにおいて上記のようなα区の職員の判定の形成に何らかの影響を与えたことは全くうかがわれないし,控訴人Gらにおいては何らの 関与もしていなかった。また,控訴人らについて,業務規程11条各号が定めるところの不正の手段に類する事情は一切認められない。このように,控訴人らには かがわれないし,控訴人Gらにおいては何らの 関与もしていなかった。また,控訴人らについて,業務規程11条各号が定めるところの不正の手段に類する事情は一切認められない。このように,控訴人らには,支給要件が欠けるにもかかわらず本件各支援金の支給を受けるに至ったことについて何らの帰責性もないことは明らかである。 (ウ) また,本件各処分の根拠となった本件第3回調査は,Fのマンション群のうち本件マンションと他の8棟との被害の程度に差があったことから,職権でされたものである(補正の上引用する原判決の前提事実(以下,単に「前提事実」という。)(2)ウ(ア))。そして,本件第2回調査に基づき控訴人らに対して発行された本件第2回り災証明書には,被害 の程度が変更になった場合には,それより前に発行された証明書は,その効力を失う旨の記載はなかったし(同(2)イ(ア)),控訴人らは平成24年2月2日までに本件各支援金を受領し,その後費消している(認定事実(6))ところ,本件第3回調査により被害の程度が変更されることについての住民説明会は,同月15日から開催された(前提事実(2)ウ (イ))。また,α区区民部固定資産税課長から控訴人らに送付された同年3月26日付け書面でも,本件各支援金の返還の要否については,内閣府に照会中とされており,確定的に返還を要するものとはされておらず(認定事実(5)イ),実際に本件各処分がされたのは平成25年4月に至ってからであった。このような調査から本件各処分に至る経緯や事情に 照らすと,控訴人らにおいて,本件各支援金の支給を受けた時点で本件- 15 - 各原決定が将来取り消されるに至ることを予想することは困難であったと考えられるし,本件各支援金を費消した時点においてもこれを確実に予想す て,本件各支援金の支給を受けた時点で本件- 15 - 各原決定が将来取り消されるに至ることを予想することは困難であったと考えられるし,本件各支援金を費消した時点においてもこれを確実に予想することは困難であったと考えられる。 (エ) このように,本件各原決定の原因となった本件第2回調査の手続的・内容的な適正に問題がないにもかかわらず,また,支給要件を欠いたま ま本件各支援金の支給を受けたことについて控訴人らに何らの帰責性もないにもかかわらず,さらには,控訴人らが本件各原決定が取り消されるかもしれないことを予想することは困難であったにもかかわらず,後に至って本件各支援金の返還を求められるとすれば,控訴人らにおける支援金の給付を受けたからにはこれを直ちに費消することができる との信頼を害し,不意打ちとなる程度は著しい。また,社会一般の見地からしても,このような場合にも支援金の返還を要するとすれば,被災者は,自らの全くあずかり知らない事情で支援金の給付決定が取り消される可能性を考慮して,支援金を生活再建のために費消することをためらわざるを得ず,被災地復興に資することを阻害しかねないことにもな り,支援金制度の実効性や支援金制度に対する社会一般からの信頼を害することとなる。したがって,本件における具体的事情に照らせば,本件各原決定を取り消すことは,前記の支援法の趣旨及び目的により一層沿わない結果をもたらすということができる。 (3) 本件各原決定により生じた効果をそのまま維持することの不利益 ア支援法3条1項は,同法2条2号が定める被災世帯に該当するか否かにより支援金の支給対象を画しているところ,一般に被災世帯に該当しないにもかかわらず支給された支援金の保持が許されるとすれば,支援金の支給が同法の規定に従 法2条2号が定める被災世帯に該当するか否かにより支援金の支給対象を画しているところ,一般に被災世帯に該当しないにもかかわらず支給された支援金の保持が許されるとすれば,支援金の支給が同法の規定に従い適正に実施されることに対する社会一般の信頼が損なわれるおそれが生じ得る。また,支援金の支給を受けられた者と受けら れなかった者との間で不公平感が高じる結果,多数の被災者の理解を得な- 16 - がら適正な支援を行うことが困離となるおそれも生じ得る。さらには,このような事態が進展した場合には,支援金制度の必要性・妥当性についての疑問が生じ,各都道府県の議会で支援金のための拠出金の支出が円滑に承認されることが難しくなる事態も考えられないではない。 イそこで,この点について検討するに,前記(2)イのとおり,建築物の被害 の程度の判定には一定の困難が伴うことが否定できないところ,り災証明書を発行するための被害の調査方法及び判定方法について,運用指針は,目視を基本として,建築の専門的知識を有しない者でも被害の程度の判定をすることができるようにしている。さらに,東日本大震災については,内閣府から運用指針よりもさらに簡便な調査方法を採用することが示さ れ,仙台市においても,第1次調査票及び第2次調査票を定めて,運用指針の調査方法及び判定方法をさらに簡素化し,また,被害状況に係る評価的な概念について,定量的な基準によらず,社会通念により職員が判断するものとされていたものである。 このような運用についての定めの下に,東日本大震災の被害について行 われた被害認定調査は,調査及び判定の厳密性や正確性は一定程度犠牲にしても,極めて多数の被災者に対する各種支援策をできる限り速やかに提供することを主眼としていたものであって,このよ ついて行 われた被害認定調査は,調査及び判定の厳密性や正確性は一定程度犠牲にしても,極めて多数の被災者に対する各種支援策をできる限り速やかに提供することを主眼としていたものであって,このような運用は支援法の趣旨にも沿うものであるということができる。そして,これらの運用についての定めに従って実施された被害の調査及び判定は,再調査すれば被害の 程度の判定が当初の調査によるものと異なるとされる可能性が相当程度存すること,特に建築の専門家による再調査が行われる場合には,異なるとされる可能性がより一層高まることを当然の前提とし,このような事態を織り込んだ上で実施されたものということができる。このように被害の調査及び判定の厳密性や正確性を一定程度犠牲にしても,迅速性に主眼を置 くとすることは,支援法の趣旨の理解の下において,東日本大震災におけ- 17 - る被災者への支援や被災地の復興が強く求められていた状況にあっては,社会一般からの幅広い承認も得られていたものと考えられる。 さらに,本件においては,支援金の支給を受けた控訴人らに帰責性がない上,その被害認定調査の手続や内容のその時点での適正に問題とされる点はなく(前記(2)イ,ウ),職員による本件第2回調査後の職権による専 門家の調査によって被害の程度の判定が変更されたというにすぎない。そうすると,このような事情の存在する本件において本件各支援金の返還を求めることができないとしても,支援法の趣旨の的確な理解の下においては,適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや,他の被災者の不満や不公平感が高じる結果,多数の被災者の理解を得ながら 適正な支援を行うことができなくなるおそれ,各都道府県の議会で支援金のための支出が円滑に承認されることが難 れるおそれや,他の被災者の不満や不公平感が高じる結果,多数の被災者の理解を得ながら 適正な支援を行うことができなくなるおそれ,各都道府県の議会で支援金のための支出が円滑に承認されることが難しくなるおそれが具体的に生ずると認めることはできないというべきである。 ウこれに対し,被控訴人は,Fのうち本件マンション以外の8棟は,いずれも被害の程度が一部損壊と判定されており,他の棟に居住する住民に強 い不満を生じさせると主張する。しかし,本件マンションと他の8棟とは別の建物で地震による損傷状況は異なり得ることや東日本大震災による被害が広範に及ぶものでそれぞれ事情の異なる多数の被災者がいることに加え,被害の程度の調査及び判定が厳密性・正確性よりも迅速性に主眼を置いて実施されることに対しては,社会一般からの承認もあると考えられる ことに照らせば,仮にFの他の棟に居住する住民に何らかの不満が残ったとしても,それは主観的なものにとどまり,これが直ちに適正な支給の実施に対する社会一般の信頼の喪失や,多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれにつながるとは認め難い。 また,被控訴人は,控訴人らにおいて支援金を保持する正当な理由はな く,本件各原決定の取消しによって生ずる不利益は大きいものとはいえな- 18 - いし,控訴人らにその生活の支障の除去や財産価値の上昇等の効果が生じたことからすれば,支援金の返還を求められたとしても新たな経済的負担とはいえないとも主張する。しかし,被災者が支援金を生活再建のために支出した後になって,支援金を返還しなければならないとすれば,新たに借入れ等をしなければ返還することができないなどの不利な立場に置かれ る事態も想定され,現に,控訴人らはいずれも返還のた ために支出した後になって,支援金を返還しなければならないとすれば,新たに借入れ等をしなければ返還することができないなどの不利な立場に置かれ る事態も想定され,現に,控訴人らはいずれも返還のためには他からの借入れが必要となるとしている(乙74の10の3,乙74の49の2,乙74の50の2)ところでもある。また,支援金の支給については,支援金の支給を受けられるがゆえに生活再建に向けた各種の消費活動が行なわれたり,本来であれば後回しとなったはずの支出がされたりするとの側面 があることは否定し難く,特に加算分についてこの側面が顕著であることは,前記(2)アのとおりである。そうすると,本件各原決定の取消しによって給付された支援金を返還しなければならなくなることについての控訴人らの不利益は大きいというべきであって,被控訴人の主張は,採用の限りでない。 (4) 小括以上によれば,自然災害により住宅に被害が生じた多数の被災者についてその支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助することにより,速やかな生活再建を支援するという支援法の趣旨及び目的に照らし,同法に基づく支援金は,その支給を受けた被災者において速やかに生活再建のために費消 することが当然に予定されており,控訴人らにおいて,住宅の被害の程度が職権による再調査により事後的に修正された場合に支援金の返還を求められるとすれば,支援金制度の実効性が失われ,支援金制度に対する信頼が損なわれることになりかねず,支援法の趣旨の実現を妨げることにつながるおそれがあるというべきである。本件事案に即してみても,本件第2回調査の適 正に問題がなく,支給要件を欠いたまま本件各支援金の支給を受けるに至っ- 19 - たことについて控訴人らに何らの帰責性もなく,支給を である。本件事案に即してみても,本件第2回調査の適 正に問題がなく,支給要件を欠いたまま本件各支援金の支給を受けるに至っ- 19 - たことについて控訴人らに何らの帰責性もなく,支給を受けた時点で,将来本件各原決定が取り消されるかもしれないことを控訴人らが予想することは困難であったにもかかわらず,後に至ってその返還を求められるとすれば,控訴人らの信頼を害し,不意打ちとなるのみならず,支援金制度の実効性や支援金制度に対する社会一般からの信頼を害する程度も大きいといえる。他 方,本件各原決定の効果を維持することの不利益については,事後的な調査の結果に基づき被害の程度が修正されたにすぎず,適正な支給の実施に対する社会一般の信頼が損なわれるおそれや,多数の被災者の理解を得ながら適正な支援を行うことができなくなるおそれ,各都道府県の議会で支援金のための支出が円滑に承認されることが難しくなるおそれが生ずるとはいえず, 他にこのようなおそれをうかがわせる事情は認められない。 そうすると,本件各原決定を取り消すことによる不利益と,本件各原決定の取消しをしないことによってその効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量すると,前者の不利益は後者の不利益を上回るというべきであり,少なくとも,本件各原決定を放置することが公共の福祉の要請に照らし著し く不当であるとまで認めることはできないというほかない。したがって,本件各原決定は,これを取り消すことができないものであるから,本件各原決定を取り消した本件各処分は,違法である。 (5) 本件各処分の無効一般に,法定の出訴期間を経過した後は,行政処分が法定の処分要件を欠 き違法であっても,当該処分の瑕疵を理由としてその効力を争うことはできないのであるが,その瑕疵 5) 本件各処分の無効一般に,法定の出訴期間を経過した後は,行政処分が法定の処分要件を欠 き違法であっても,当該処分の瑕疵を理由としてその効力を争うことはできないのであるが,その瑕疵が重大かつ明白で当該処分が無効と評価される場合には,このような出訴期間による制約は課されないと解されるところである。このように無効事由として瑕疵の明白性が要求される理由は,重大な瑕疵のある処分によって侵害された国民の権利保護の要請と,法的安定及び第 三者の信頼保護の要請との調和を図る必要性にあるということができる。し- 20 - かるところ,支援金の支給決定及びこれを取り消す旨の決定は,支援金の支給を申請した被災世帯の世帯主に対してのみ効力を有するものであり,当該処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要に乏しいものといえる。 そこで,当該処分の瑕疵が支援法に基づく支援金の支給の根幹に関わるものであり,かつ,支援法に基づく被災者に対する支援行政の安定とその円滑な 運営が要請されることを考慮してもなお出訴期間の経過による不可争的効果の発生を理由として当該世帯主に処分による重大な不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には,上記の過誤による瑕疵が必ずしも明白なものでなくても,当該処分は当然無効であると解するのが相当である(最一小判昭和48年4月26日・民集27巻3号6 29頁参照)。 これを本件についてみると,本件各処分は,本来本件各原決定を取り消すことができないにもかかわらず,その取消しをするというものであるが,支援金の支給後に被害の程度が修正されたとして本件各原決定を取り消し,控訴人らに支援金の返還義務を課すことは,控訴人らにとって重大な不利益で ある。当初から修正後の をするというものであるが,支援金の支給後に被害の程度が修正されたとして本件各原決定を取り消し,控訴人らに支援金の返還義務を課すことは,控訴人らにとって重大な不利益で ある。当初から修正後の被害の程度の判定を受けていれば,支援金が支給されなかったものではあるが,一旦支給を受けた以上,これを返還しなければならないこと自体が不利益であることは明らかであり,上記(3)ウのとおり,支援法の趣旨及び目的を踏まえれば,その不利益は重大であるということができる。 また,上記(2)から(4)のとおり,支援金の返還義務を課すことは,支援金の支給を受けた者を不安定な立場に置くこととなり,被災者に対し支援の必要性が高い時期に生活再建資金を援助するという支援金制度の実効性を失わせるものである。しかも,支援金の支給の基礎となる被害の程度の調査及び判定について,その厳密性や正確性を一定程度犠牲にしてまで,これを迅速 に行うことを主眼とする運用についての定めが策定され,その下で調査及び- 21 - 判定の事務が遂行されているのは支援法の趣旨にも沿うものであるところ,この意味を没却することにもなる。また,支給を受けた支援金を既に費消した控訴人らにとっては,支援金の支給がなければ負うことがなかった負債を負うことになりかねず,この点において,かえってその生活再建を阻害する要因となるおそれもあるものである。これらの点を総合すると,本件各処分 は,支援法の趣旨及び目的に反し,支援法に基づく被災者に対する支援行政の安定とその円滑な運営の要請に関しても,かえってこれを阻害するおそれがあり,支援金制度自体の趣旨をゆるがせにするものであって,支援金の支給の根幹に関わる重大な瑕疵を有するものというべきである。 そうすると,本件各処分には,出訴期間 かえってこれを阻害するおそれがあり,支援金制度自体の趣旨をゆるがせにするものであって,支援金の支給の根幹に関わる重大な瑕疵を有するものというべきである。 そうすると,本件各処分には,出訴期間の経過による不可争的効果の発生 を理由として,控訴人らに同処分による重大な不利益を甘受させることが,著しく不当と認められるような例外的な事情があり,当然無効というべきである。 4 まとめ以上によれば,本件各処分は違法であり,その取消しを待たずに当然無効で あるから,本件各原決定は依然としてその効力を有しており,控訴人らは法律上の原因なく利益を受けたものではないから,被控訴人の控訴人らに対する請求は,いずれも理由がないことに帰する。 第4 結論そうすると,控訴人の被控訴人に対する請求はいずれも理由がないから,い ずれも棄却するべきところ,これらをいずれも認容した原判決は失当であり,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上で,被控訴人の被控訴人らに対する請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第22民事部 - 22 - 裁判長裁判官白井幸夫 裁判官中山典子 裁判官小田真治(別紙省略)

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