- 1 -主文1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 前項の部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 本件附帯控訴を棄却する。 4 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由第1 当事者の求めた裁判1 控訴の趣旨主文第1項及び第2項と同旨2 附帯控訴の趣旨⑴ 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。 ⑵ 控訴人は、被控訴人に対し、137万5000円及びうち60万円に対する平成24年6月4日から、うち25万円に対する同月21日から、うち40万円に対する平成27年11月28日から、うち12万5000円に対する平成30年10月2日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑶ 控訴人は、原判決別紙1記載の謝罪広告を、控訴人が発行する産経新聞東京本社版朝刊社会面に、同別紙3記載の掲載要領で、1回掲載せよ。 ⑷ 控訴人は、原判決別紙2記載の謝罪広告を、控訴人が発行する産経新聞大阪本社版夕刊社会面に、同別紙3記載の掲載要領で、1回掲載せよ。 第2 事案の概要(略語は、特に断りのない限り、原判決の例による。以下同じ。)1 本件は、宗教法人オウム真理教の元信者である被控訴人が、控訴人が発行した平成24年6月4日付けの日刊新聞の朝刊に掲載された記事(本件記事①)、同日付けの日刊新聞の夕刊に掲載された記事(本件記事②)、同月21日付けの日刊新聞の朝刊に掲載された記事(本件記事③)及び平成27年11月28日付けの日刊新聞の朝刊に掲載された記事(本件記事④)により、 - 2 -被控訴人の名誉を毀損されて精神的損害を被ったと主張して、控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料150万円及び弁護士費用15万円の合計165万円並びにうち本件記事①及び②につい -被控訴人の名誉を毀損されて精神的損害を被ったと主張して、控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求として、慰謝料150万円及び弁護士費用15万円の合計165万円並びにうち本件記事①及び②についての慰謝料70万円に対する同各記事の掲載日である平成24年6月4日から、うち本件記事③についての慰謝料40万円に対する同記事の掲載日である同月21日から、うち本件記事④についての慰謝料40万円に対する同記事の掲載日である平成27年11月28日から、うち弁護士費用15万円に対する訴状送達日の翌日である平成30年10月2日から各支払済みまでそれぞれ平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、民法723条所定の名誉を回復するのに適当な処分として、謝罪広告の掲載を求める事案である。 原審は、⑴本件記事①については、事実の摘示が被控訴人の社会的評価を低下させるものであるが、その重要な部分について真実相当性(真実と信じることにつき相当な理由があること。以下同じ。)の抗弁が成立するものと認められるから、不法行為は成立しない、⑵本件記事②及び③については、いずれも、事実の摘示が被控訴人の社会的評価を低下させるものであり、真実性又は真実相当性の抗弁が成立するものとは認められないから、不法行為が成立する、⑶本件記事④については、これによる事実の摘示が新たに被控訴人の社会的評価を低下させるものとはいえないから、不法行為は成立しないとした上で、⑷被控訴人の精神的損害に対する慰謝料は、本件記事②について10万円、本件記事③について15万円、弁護士費用は、本件記事②について1万円、本件記事③について1万5000円と認めるのが相当であり、⑸被控訴人の名誉を回復するために上記⑷の損害 件記事②について10万円、本件記事③について15万円、弁護士費用は、本件記事②について1万円、本件記事③について1万5000円と認めるのが相当であり、⑸被控訴人の名誉を回復するために上記⑷の損害賠償に加えて謝罪広告が必要であるとまでは認められないとして、被控訴人の請求を27万5000円及びうち本件記事②についての上記の慰謝料10万円に対する同記事の掲載日である平成24年6月4日から、うち本件記事③についての上記の慰謝料 - 3 -15万円に対する同記事の掲載日である同月21日から、うち上記の弁護士費用の合計2万5000円に対する訴状送達日の翌日である平成30年10月2日から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容する旨の判決(原判決)をしたところ、控訴人がこれを不服として控訴し、被控訴人が附帯控訴した。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、以下のとおり原判決を補正し、後記3のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1ないし10に記載のとおりであるから、これを引用する(以下、同1⑴ア以下の事実を「前提事実⑴ア」のようにいう。)。 ⑴ 原判決5頁11行目冒頭に「」を加え、同頁24行目末尾の次に改行して次のとおり加える。 「本件新聞②の1面には、上記のコラム以外にも、被控訴人に関し、「A容疑者『もう逃げなくていい』」、「蔵匿容疑男逮捕」、「偽名で介護の仕事」との見出しの下、本文として、「地下鉄サリン事件で特別手配され、警視庁に殺人、殺人未遂容疑で逮捕されたオウム真理教元幹部、A容疑者(40)が少なくとも約7年前から「B」の偽名を使っていたことが4日、捜査関係者への取材で分かった。潜伏先 リン事件で特別手配され、警視庁に殺人、殺人未遂容疑で逮捕されたオウム真理教元幹部、A容疑者(40)が少なくとも約7年前から「B」の偽名を使っていたことが4日、捜査関係者への取材で分かった。潜伏先周辺でも同じ名前で介護関係の仕事をしており、警視庁は潜伏生活との関連を調べる。」、「捜査関係者によると、A容疑者は逮捕直後の取り調べに『今まで身分を隠して逃げてきましたが、もう逃げなくていいことにホッとしています。たくさんの人に迷惑をかけ、大変申し訳ない』と話したという。」などという事実関係の記載がある。」⑵ 原判決8頁16行目の「一般読者」を「一般の読者(以下「一般読者」という。)」に改める。 ⑶ 原判決10頁12行目の「本件記事②は、」の次に「コラム(短評ないし - 4 -時評)であって、「本記」ないし「サイド記事」(事実関係を伝える記事)ではなく、Cの言葉を引用しながら、オウム真理教の構成員は、その教祖を除いては誰もが常人で、被控訴人もその一人であったにもかかわらず、その人生を狂わされたものであり、教祖は罪深いと論評するものであるところ、」を加える。 3 当審における当事者の主張⑴ 争点1(本件記事①の摘示事実の内容)について(被控訴人の主張)本件新聞①の見出しの付け方や論調からすれば、本件記事①について、一般読者は、被控訴人がサリンの製造を認めながら知らなかったとの弁解をしているとの印象を持つ可能性が高く、また、本件記事①中、被控訴人が「化学薬品の専門家」であるという記載や、サリンを作るための試薬や実験機器の購入を担当したほか、別の事件でも原料調達に奔走したという記載からすると、本件記事①の摘示事実は、被控訴人がサリンを作るための試薬や実験機器についても詳しく、だからこそ購入を担当しており、 験機器の購入を担当したほか、別の事件でも原料調達に奔走したという記載からすると、本件記事①の摘示事実は、被控訴人がサリンを作るための試薬や実験機器についても詳しく、だからこそ購入を担当しており、原料調達に奔走したと解されるものである。 (控訴人の主張)被控訴人の上記主張は争う。 ⑵ 争点2(本件記事②の摘示事実の内容)について(控訴人の主張)本件記事②は、コラムであって、被控訴人の認識や有罪無罪に焦点を当てたものではなく、一般読者も殊更に被控訴人がサリンを製造しているものと認識していたなどと理解するものではないから、本件記事②の摘示事実は、客観的に被控訴人がオウム真理教によるサリンの製造に関わっていたことであって、被控訴人がサリンの製造にそれと認識しつつ加担したことではない。 また、本件記事②の摘示事実の内容は、何を作っているのか知らない状態 - 5 -であったと被控訴人が供述している旨の近接して先行する報道の内容も踏まえて解釈すべきである。 (被控訴人の主張)記事の目的・論調やコラムかどうかと摘示事実の内容は別問題であり、本件記事②の摘示事実は、常人であった被控訴人が、オウム真理教に出会い、幻覚に憑かれ、サリンの製造に加わったとするもので、単なる客観面ではなく主観面に着目をした内容となっており、一般読者がこれを読んだときに、被控訴人がサリンの製造にそれと認識せずに加担したものと理解することは困難であって、被控訴人がサリンの製造を認識しながらこれに関与したことというべきである。 また、本件記事②の摘示事実の内容は、他の報道によって左右されるものではない。 ⑶ 争点4(本件記事④の摘示事実の内容)について(被控訴人の主張)本件記事④は、元捜査関係 また、本件記事②の摘示事実の内容は、他の報道によって左右されるものではない。 ⑶ 争点4(本件記事④の摘示事実の内容)について(被控訴人の主張)本件記事④は、元捜査関係者のコメントを引用する形で、被控訴人がDの側近中の側近で女性信者の頂点にいたという事実を摘示するものであって、このことは、元捜査関係者のコメントが「計画を知りうる立場にいたことは推認できる。裁判所を納得させるだけの証拠を集められなかったか…」という主張を前提とするものであることからも明らかである。 (控訴人の主張)被控訴人の上記主張は争う。 ⑷ 争点5(本件各記事における事実摘示による被控訴人の社会的評価の低下の有無)について(被控訴人の主張)本件記事④における事実摘示も、被控訴人の社会的評価を低下させるものというべきである。 - 6 -(控訴人の主張)被控訴人の上記主張は争う。 ⑸ 争点6(真実性又は真実相当性の抗弁の成否)について(控訴人の主張)ア 本件記事②の摘示事実の内容は、上記⑵(控訴人の主張)のとおり、客観的に被控訴人がオウム真理教によるサリンの製造に関わっていたことであって、被控訴人がサリンの製造にそれと認識しつつ加担したことではないから、本件記事①と同様に、真実相当性の抗弁が認められるというべきである。 イ 本件記事③の摘示事実のうち、「サリン」と書かれたノートが押収された事実は、これから捜査が進められるとされ、予断を持った記載が皆無であるから、重要な部分ではなく、また、上記ノートにつき被控訴人の「自宅」から押収された事実も、被控訴人と関係する場所である以上、重要な部分ではない。 また、仮に、被控訴人の自宅から「サリン」と書かれたノートが ではなく、また、上記ノートにつき被控訴人の「自宅」から押収された事実も、被控訴人と関係する場所である以上、重要な部分ではない。 また、仮に、被控訴人の自宅から「サリン」と書かれたノートが押収された事実が重要な部分であるとしても、E記者が取材した捜査員の自宅前には、他の報道機関の記者もおり、実際、毎日新聞は、本件記事③と同様に、上記の取材の翌日である平成24年6月21日、被控訴人の自宅からサリンの製造方法などを記したノートが押収された事実を報じており、被控訴人が毎日新聞を発行している株式会社毎日新聞社(以下「毎日新聞社」という。)を被告として名誉棄損を理由とする損害賠償等を求めた訴訟(以下「別件訴訟」という。)においては、E記者と同様に、毎日新聞社の記者が平成24年6月20日夜に捜査員に取材して上記事実が明らかにされた旨が立証され、第1審判決(東京地方裁判所平成30年(ワ)第30559号)において真実相当性の抗弁が認められ、控訴審判決(東京高等裁判所令和3年(ネ)第1304号)においてもこ - 7 -れが維持されている。したがって、本件記事③についても、真実相当性の抗弁が認められるべきである。 (被控訴人の主張)ア 本件記事②の摘示事実の内容は、上記⑵(被控訴人の主張)のとおり、被控訴人がサリンの製造に当たりそれと認識せずに加担したものと理解することは困難であり、被控訴人がサリンの製造を認識しながらこれに関与したことというべきであるから、真実相当性の抗弁は認められないというべきである。 イ 本件記事③の摘示事実のうち、被控訴人の自宅から「サリン」と書かれたノートが押収された事実が重要な部分であることは明らかである。 そして、上記事実を報道したのは控訴人と毎日新聞社のみであるところ、別件訴訟 事実のうち、被控訴人の自宅から「サリン」と書かれたノートが押収された事実が重要な部分であることは明らかである。 そして、上記事実を報道したのは控訴人と毎日新聞社のみであるところ、別件訴訟においても、上記事実は立証も認定もされておらず、真実相当性の抗弁が認められたにすぎないが、これは判断を誤ったものというべきである。記者と捜査員とのやり取りだけで、押収場所が被控訴人の自宅であると信じるのは早計というほかなく、真実相当性の抗弁は認められないというべきである。 第3 当裁判所の判断1 当裁判所は、被控訴人の請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その理由は、以下のとおりである。 2 認定事実本件における認定事実は、以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下「原判決第3」という。)の1に記載のとおりであるから、これを引用する(以下、補正後の原判決第3の1⑴以下の認定事実を「認定事実⑴」のようにいう。)。 ⑴ 原判決18頁22行目から23行目までを次のとおり改める。 「⑵ 第1事件に関し、被控訴人の自宅(被控訴人と同居し、被控訴人を - 8 -かくまっていたとして犯人蔵匿罪の容疑で逮捕された知人男性の自宅)の捜索差押えが平成24年6月4日に行われ、他方、同日から逃走していたオウム真理教の元信者であるF(以下「F」という。)は、同月15日に逮捕された。(乙4、5、13、証人E)」⑵ 原判決18頁26行目から19頁1行目にかけての「当該事件の」を「オウム真理教をめぐる一連の事件の捜査情報を集約する要職にあった」に、同頁6行目の「回答を得た」を「回答を得たことから、同月4日に被控訴人の自宅の捜索差押えが行われていたこと等に照らし、上記ノートが被控訴人の自宅から 一連の事件の捜査情報を集約する要職にあった」に、同頁6行目の「回答を得た」を「回答を得たことから、同月4日に被控訴人の自宅の捜索差押えが行われていたこと等に照らし、上記ノートが被控訴人の自宅から押収されたことは明らかであると考えた」にそれぞれ改め、同頁12行目の「この点は、後記7⑸において補足して説示する。」を削り、同頁14行目末尾の次に改行して次のとおり加える。 「⑷ なお、E記者が取材した上記⑶の捜査員の自宅前には、毎日新聞社を含む他の報道機関の記者もいたところ、上記⑶の取材の翌日である同月21日付けの毎日新聞の朝刊にも、本件記事③と同様に、被控訴人の自宅からサリンの製造方法などを記したノートが押収された事実を記載した記事が掲載された。そして、被控訴人が毎日新聞社を被告として名誉棄損を理由とする損害賠償等を求めた別件訴訟の第1審判決及び控訴審判決においては、同社の記者は、上記捜査員の発言から、上記捜査員が被控訴人の自宅からサリンの製造方法が記載されたノートが押収された事実を認めたものと理解したものであり、上記事実を真実であると信じたことについては相当の理由があったから、不法行為は成立しない旨の認定判断がされた。(乙10、13、15の2、同22ないし27、証人E)」⑶ 原判決19頁15行目冒頭の「⑷」を「⑸」に改める。 3 争点1ないし4(本件各記事の摘示事実の内容)について⑴ 争点1、3及び4(本件記事①、③及び④の摘示事実の内容)に関する当 - 9 -裁判所の判断は、以下のとおり原判決を補正し、後記⑶のとおり当審における被控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3の2、4及び5に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア 原判決21頁25行目の「冒頭に」の次に「サリン製造の認識を否認する上 における被控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3の2、4及び5に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア 原判決21頁25行目の「冒頭に」の次に「サリン製造の認識を否認する上記⑵の」を加え、22頁17行目の「原告の上記弁解内容を前提として」を「サリン製造の認識を否認する上記⑵の被控訴人の弁解内容を前提としながら」に、同行の「そのような認識」を「サリン製造の認識」にそれぞれ改める。 イ 原判決25頁11行目及び14行目の各「テロの認識」をいずれも「テロ行為の認識」に、同頁18行目の「「テロ認識に疑問」との」を「テロ行為の認識を疑問視した」にそれぞれ改め、26頁2行目の「本件記事④の」の次に「全体の」を加える。 ⑵ 争点2(本件記事②の摘示事実の内容)についてア 本件記事②は、朝刊である本件新聞①と同じ日の夕刊として発行された本件新聞②の1面に掲載されたものであるところ、同じ1面に掲載された被控訴人に関する事実関係を伝える記事(前提事実⑶イ)と異なり、Cの言葉を引用しながら被控訴人を含む信者の人生をも狂わせたオウム真理教は罪深いとの意見ないし論評を表明するコラムであって、このような本件新聞②の全体の中における本件記事②の趣旨及び論調も踏まえると、一般読者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、被控訴人が「サリンの製造に加わった」との記載を含む本件記事②は、サリンを製造していることを被控訴人が認識していたかどうかにかかわらず、被控訴人にサリンの製造への客観的な関与があったことを摘示した上で、上記のとおりの意見ないし論評を表明したものと認めるのが相当である。 イ 被控訴人は、記事の目的・論調やコラムかどうかと摘示事実の内容は別問題であり、本件記事②の摘示事実は、常人であった被控訴人が、オウ 見ないし論評を表明したものと認めるのが相当である。 イ 被控訴人は、記事の目的・論調やコラムかどうかと摘示事実の内容は別問題であり、本件記事②の摘示事実は、常人であった被控訴人が、オウ - 10 -ム真理教に出会い、幻覚に憑かれ、サリンの製造に加わったとするもので、単なる客観面ではなく主観面に着目をした内容となっており、一般読者がこれを読んだときに、被控訴人がサリンの製造に当たりそれと認識せずに加わっていたものと理解することは困難である旨を主張する。 しかしながら、一般読者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、本件記事②の摘示事実に関しては、本件新聞②の全体の中における本件記事②の趣旨及び論調や本件記事②がコラムであることも踏まえて判断するのが相当であり、これらを踏まえて通覧すると、一般読者において、本件記事②については、Cの言葉を引用しながら被控訴人を含む信者の人生をも狂わせたオウム真理教は罪深いとの意見ないし論評を表明する部分を中心に、その内容を理解するのが通常であると解され、被控訴人が「サリンの製造に加わった」との記載についても、被控訴人にサリンの製造への客観的な関与があったことを摘示するものと理解される一方で、本件新聞②において本件新聞①のように被控訴人がサリン製造の認識を否認している事実の明示的な摘示がなかったとしても、被控訴人を含む信者について教団のいわば被害者的な側面を取り上げる上記の意見ないし論評の趣旨及び論調に照らせば、教団においてサリンを製造していることを被控訴人が主観的に認識していたことまで摘示するものと理解されるものとはいえず、上記の主観的な認識の有無にかかわらず上記の客観的な関与について摘示したものと理解するのが通常であると解するのが相当である。したがって、被控訴人の上記主張 で摘示するものと理解されるものとはいえず、上記の主観的な認識の有無にかかわらず上記の客観的な関与について摘示したものと理解するのが通常であると解するのが相当である。したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑶ 当審における被控訴人の主張に対する判断ア 争点1(本件記事①の摘示事実の内容)について被控訴人は、本件新聞①の見出しの付け方や論調からすれば、本件記事①について、一般読者は、被控訴人がサリンの製造を認めながら知らなか - 11 -ったとの弁解をしているとの印象を持つ可能性が高く、また、本件記事①中、控訴人が「化学薬品の専門家」であるという記載や、サリンを作るための試薬や実験機器の購入を担当したほか、別の事件でも原料調達に奔走したという記載からすると、本件記事①の摘示事実は、被控訴人がサリンを作るための試薬や実験機器についても詳しく、だからこそ購入を担当しており、原料調達に奔走したものと解されるものである旨を主張する。 しかしながら、前記⑴(補正後の引用に係る原判決第3の2⑶)において説示したとおり、本件新聞①において、「サリン生成認める」という見出しは、一般読者をして被控訴人の認否に関心を向けさせることに主眼が置かれているものと考えられ、この見出しのすぐ近くに位置する本文の冒頭にサリン製造の認識を否認する被控訴人の弁解内容の詳細(「サリンの生成に関わっていたことは間違いない。しかし、当時は何を造っていたのか知らない状態でした」等の供述)が引用されていること、そして、本件記事①の内容が上記のとおり社会の強い関心を向けられたものであったことからすれば、一般読者の注意を前提としても、上記の引用部分も含めて読まれるのが自然であるということができる。また、本件記事①中、被控訴人が「化 上記のとおり社会の強い関心を向けられたものであったことからすれば、一般読者の注意を前提としても、上記の引用部分も含めて読まれるのが自然であるということができる。また、本件記事①中、被控訴人が「化学薬品の専門家」であるという記載は、被控訴人がサリンの製造への客観的な関与を認めていることのほか、「爆弾の製造にも関与したとされ」ていることを指して、「化学薬品の専門家」と評しているものと解するのが相当であり、被控訴人において何を製造しているかを理解していたということまで暗示するものであるということはできず、別の事件でも原料調達に奔走したという記載は、別の事件でも第1事件と同様の関与をしたというにとどまり、第1事件での関与や認識、すなわち、試薬や実験機器の購入を担当したという関与や認識に関して情報を付け足す趣旨のものと解することはできないから、これらの記載を踏まえても、本件記事①が、サリン製造の認識を否認する被控訴人の上記の弁解内容を - 12 -前提としながら、それにもかかわらずサリン製造の認識が実際にはあったということを摘示するものであるということはできない。したがって、被控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。 イ 争点4(本件記事④の摘示事実の内容)について被控訴人は、本件記事④は、元捜査関係者のコメントを引用する形で、被控訴人がDの側近中の側近で女性信者の頂点にいたという事実を摘示するものであって、このことは、元捜査関係者のコメントが「計画を知りうる立場にいたことは推認できる。裁判所を納得させるだけの証拠を集められなかったか…」という主張が前提とされていることからも明らかである旨を主張する。 しかしながら、前記⑴(補正後の引用に係る原判決第3の5⑴)において説示したとおり、一般読者は、本件 められなかったか…」という主張が前提とされていることからも明らかである旨を主張する。 しかしながら、前記⑴(補正後の引用に係る原判決第3の5⑴)において説示したとおり、一般読者は、本件新聞④を読むに当たり、まず1面記事を読んで、東京高等裁判所においてテロ行為の認識に疑いが残ると判断されて逆転無罪判決が宣告されたことを把握し、更にそのような判断がされたことについて興味を持った者が、27面の判決要旨や29面の本件記事④まで読み進めるものと考えられ、その際、東京高等裁判所の判断においてテロ行為の認識が疑問視されたことは1面記事の見出しから明らかであるところ、そこから読み進めて本件記事④中の元捜査関係者のコメントに接した一般読者は、そのコメントをした元捜査関係者自身が「裁判所を納得させるだけの証拠を集められなかったか…」と述べていることからも、そのコメントの内容がテロ行為の認識を疑問視した東京高等裁判所の判断に必ずしもそぐわないものであることを十分に理解し得るものと認められ、そうすると、その元捜査関係者のコメントの内容は、裁判所に認められなかった一方当事者の主張あるいは所感にとどまるものであることが明らかであり、そのコメントに接して被控訴人の教団内における立場に関心を抱く読者は、この点について東京高等 - 13 -裁判所がどのような判断を示したのかにも当然に関心を抱き、1面記事でも参照されている27面の判決要旨を読むものと考えられ、その場合、上記のコメントが捜査機関側の主張等として位置付けられていることが一層明確になるものと認められる。以上に加え、元捜査関係者のコメント以外にも、被控訴人本人や主任弁護人、学識経験者など様々な立場からの東京高等裁判所の判決に対する受け止め方が紹介されている本件記事④の全体の内容を考慮すれ られる。以上に加え、元捜査関係者のコメント以外にも、被控訴人本人や主任弁護人、学識経験者など様々な立場からの東京高等裁判所の判決に対する受け止め方が紹介されている本件記事④の全体の内容を考慮すれば、本件記事④が、元捜査関係者のコメントを引用する形で、被控訴人がDの側近中の側近で女性信者の頂点にいたという事実を摘示するものであるということはできない。したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。 4 争点5(本件各記事における摘示事実による被控訴人の社会的評価の低下の有無)について⑴ 争点5(本件各記事における事実摘示による被控訴人の社会的評価の低下の有無)に関する当裁判所の判断は、後記⑵のとおり当審における被控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3の6に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決27頁1行目の「原告がサリン製造にその認識を有しながら関与していた」を「被控訴人にサリンの製造への客観的な関与があった」に改める。 ⑵ 当審における被控訴人の主張に対する判断被控訴人は、本件記事④における摘示事実も、被控訴人の社会的評価を低下させるものというべきである旨を主張するが、上記⑴(引用に係る原判決第3の6⑵)において説示したとおり、本件記事④は、被控訴人が起訴された第3事件に関し有罪であると考えていたという趣旨の元捜査関係者のコメントを摘示するもので、第3事件における捜査機関側の主張等を記載したものにとどまり、その摘示をしたことによって新たに被控訴人の社会的評価が低下するものとはいえないから、被控訴人の上記主張は採用す - 14 -ることができない。 5 争点6(真実性及び真実相当性の抗弁の成否)について⑴ 名誉毀損行為については、それが公共の利害に関する事 とはいえないから、被控訴人の上記主張は採用す - 14 -ることができない。 5 争点6(真実性及び真実相当性の抗弁の成否)について⑴ 名誉毀損行為については、それが公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合で、摘示された事実の重要な部分が真実であることが証明されたときには、違法性が阻却され、不法行為は成立しないものと解され、また、摘示された事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信じることにつき相当な理由があるときには、行為者の故意又は過失が認められず、不法行為は成立しないものと解される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。 そして、ある記事の特定の記載が重要な部分に当たるか否かは、当該記事の本文及び見出しの内容、当該記事の中における当該記載の位置付け等を総合的に勘案して、一般読者が当該記事を読んだ場合に通常受けると考えられる印象を基準として判断するのが相当である。 ⑵ 本件記事①ないし③の公共利害性及び公益目的性本件記事①ないし③は、いずれも報道機関である控訴人が、社会に重大な危険をもたらした宗教団体構成員らの犯罪行為についての公訴の提起に至っていない人物の関与に関する事実を報ずるものであって、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものであることが認められるものというべきである。 ⑶ 本件記事①の真実性又は真実相当性本件記事①の真実性又は真実相当性に関する当裁判所の判断は、原判決第3の7⑶に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑷ 本件記事②の真実性又は真実相当性ア 前記3⑵ 性又は真実相当性本件記事①の真実性又は真実相当性に関する当裁判所の判断は、原判決第3の7⑶に記載のとおりであるから、これを引用する。 ⑷ 本件記事②の真実性又は真実相当性ア 前記3⑵のとおり、本件記事②は、本件記事①と同様に、被控訴人に - 15 -サリンの製造への客観的な関与があった事実を摘示した上で、Cの言葉を引用しながら被控訴人を含めた信者の人生をも狂わせたオウム真理教は罪深いとの意見ないし論評を表明するものである。そして、上記事実は、上記⑶(引用に係る原判決第3の7⑶ア)において本件記事①について説示したところと同様に、被控訴人がサリンの製造に関わっていたことは間違いないと供述したという、第1事件の捜査責任者である警視庁捜査一課長の記者会見において発表された内容に依拠するものである上、被控訴人も、無罪判決の確定後、自ら開設するブログにおいて、自らもサリンの生成に関与していたと思い込んでいた旨の投稿をしていること(乙12)等に照らせば、少なくとも真実相当性、すなわち、控訴人において上記事実を真実と信じることにつき相当な理由があることが認められるものというべきである。 イ 被控訴人は、本件記事②の摘示事実の内容は、被控訴人がサリンの製造に当たりそれと認識せずに加担したものと理解することは困難であって、被控訴人がサリンの製造を認識しながらこれに関与したことというべきであるから、真実相当性の抗弁は認められない旨を主張するが、前記3⑵のとおり、本件記事②の摘示事実の内容は、被控訴人にサリンの製造への客観的な関与があったことにとどまり、被控訴人がサリンの製造を認識しながらこれに関与したことであるとは認められないから、被控訴人の上記主張はその前提を欠くものであって採用することができない。 ウ したがって、 たことにとどまり、被控訴人がサリンの製造を認識しながらこれに関与したことであるとは認められないから、被控訴人の上記主張はその前提を欠くものであって採用することができない。 ウ したがって、本件記事②について、その重要な部分につき真実相当性の立証があると認められるから、不法行為は成立しないものというべきである。 ⑸ 本件記事③の真実性又は真実相当性ア 本件記事③は、「『サリン』表記のノート A容疑者宅から 事件関与記 - 16 -録か」という見出しの下、サリン製造の故意を否認していたオウム真理教元幹部たる被控訴人の自宅から「サリン」と書かれたノートが押収されたことを記載するものであり、サリン製造の故意に関わる重要な証拠が押収されたことを主題とする報道であることは、一般読者においても明らかであるから、被控訴人の自宅から「サリン」と書かれたノートが押収された事実は、その重要な部分に当たる。 イ これに対し、控訴人は、本件記事③が被控訴人の社会的評価を低下させる要因は、被控訴人がサリンの製造に関与したのではないかと疑われ、捜査の対象とされている事実が摘示されている点にあり、被控訴人宅から「サリン」と書かれたノートが押収されたという事実から直ちに被控訴人の社会的評価が低下するものではなく、上記の事実は重要な部分とはいえない旨を主張する。しかしながら、サリン製造の認識を否認している被控訴人の自宅から「サリン」と書かれたノートが押収されたという事実は、被控訴人にサリン製造の認識があったのではないかという疑いを強めるものといえるから、上記の事実により原告の社会的評価が新たに低下するものではないとはいえず、上記の事実が重要な部分でないとはいえない。 なお、控訴人は、本件記事③の摘示事実のうち、「サリン」と書かれた るから、上記の事実により原告の社会的評価が新たに低下するものではないとはいえず、上記の事実が重要な部分でないとはいえない。 なお、控訴人は、本件記事③の摘示事実のうち、「サリン」と書かれたノートが押収された事実は、これから捜査が進められるとされ、予断を持った記載が皆無であるから、重要な部分ではなく、また、上記ノートにつき被控訴人の「自宅」から押収された事実も、被控訴人と関係する場所である以上、重要な部分ではない旨を主張するが、以上に説示したところに照らし、いずれも採用することができない。 ウ しかるところ、認定事実⑵及び⑶によれば、本件記事③の摘示事実に関する取材において、E記者は、オウム真理教をめぐる一連の事件の捜査情報を集約する要職にあった捜査員から、被控訴人がサリンについて言及していないが、サリンという単語が書かれたノートが押収された旨を - 17 -聴取した上、「それは6月4日以降?」と質問したところ、「そうとってもらってかまわないが、それ以上は言わない」との回答を得たというのであるから、同月4日に被控訴人の自宅の捜索差押えが行われていたこと等に照らし、上記ノートが被控訴人の自宅から押収されたことは明らかであると考えたのは自然であって、控訴人においてそのように信じたことについて相当な理由があったものと認められるというべきであり、このことは、被控訴人がサリン製造の認識を否認していたことや、第1事件が教団により行われた組織的犯行であって、被控訴人は17年間にわたり逃亡生活を送っており、その関係先は被控訴人の自宅に限られず、上記の取材の5日前に同じ事件で逮捕されたFの住居等が被控訴人の関係先である可能性もあり得ることのほか、押収場所が被控訴人宅で間違いないかどうかについてE記者等が更なる情報収集をしなかったことを 、上記の取材の5日前に同じ事件で逮捕されたFの住居等が被控訴人の関係先である可能性もあり得ることのほか、押収場所が被控訴人宅で間違いないかどうかについてE記者等が更なる情報収集をしなかったことを踏まえても、左右されるものではない。 被控訴人は、記者と捜査員とのやり取りだけで、押収場所が被控訴人の自宅であると信じるのは早計というほかなく、真実相当性の抗弁は認められない旨を主張するが、上記のとおり、E記者は、オウム真理教をめぐる一連の事件の捜査情報を集約する要職にあった捜査員とのやり取りの中で、サリンという単語が書かれたノートが押収された旨を聴取した上、被控訴人の自宅の捜索差押えが行われていた日を特定して、明示的に「それは6月4日以降?」と質問したところ、「そうとってもらってかまわない」との回答を得たというのであるから、上記ノートが被控訴人の自宅から押収されたことは明らかであると考えたのが早計であるということはできず、被控訴人の上記主張は採用することができない。 エ したがって、本件記事③について、その重要な部分につき真実相当性の立証があると認められるから、不法行為は成立しないものというべきである。 - 18 -6 小括⑴ 以上によれば、本件記事①ないし③については、事実の摘示が被控訴人の社会的評価を低下させるものであるが、その重要な部分について真実相当性の抗弁が成立するものと認められ、また、本件記事④については、これによる事実の摘示が被控訴人の社会的評価を低下させるものとはいえないから、本件各記事について不法行為は成立しないものというべきである。 したがって、その余の点(争点7(損害の発生及び額)及び争点8(謝罪広告の必要性の有無))について判断するまでもなく、被控訴人の請求はいずれも理 事について不法行為は成立しないものというべきである。 したがって、その余の点(争点7(損害の発生及び額)及び争点8(謝罪広告の必要性の有無))について判断するまでもなく、被控訴人の請求はいずれも理由がない。 ⑵ 当審における被控訴人のその余の主張も、実質的に原審における主張を繰り返すもの又はその前提を欠くものであるなど、前記1ないし5(補正後の引用に係る原判決第3の1、2、4ないし6及び7⑶を含む。)及び上記⑴の認定判断を左右するに足りるものとは認められない。 7 結論以上の次第で、被控訴人の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ、①原判決中その一部を認容した部分は相当でなく、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人敗訴部分を取り消した上、上記取消部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却し、②原判決中被控訴人のその余の請求を棄却した部分は相当であり、本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第16民事部 裁判長裁判官 岩 井 伸 晃 - 19 - 裁判官 榎 本 光 宏 裁判官 糸 井 淳 一
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