令和3(オ)555 損害賠償等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年7月19日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 福岡高等裁判所 那覇支部 令和2(ネ)68
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判決文本文3,735 文字)

- 1 -令和3年(オ)第555号、第556号令和3年(受)第678号、第679号損害賠償等請求事件令和4年7月19日 第三小法廷判決主 文原判決を破棄する。 本件を福岡高等裁判所に差し戻す。 理 由令和3年(受)第678号及び同第679号上告代理人尾畠弘典の上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について1 本件は、水道事業者である被上告人との間で給水契約(以下「本件給水契約」という。)を締結している上告人らが、給水区域内である宮古島市伊良部において生じた断水(以下「本件断水」という。)により上告人らの経営する宿泊施設における営業利益の喪失等の損害が生じたなどと主張して、被上告人に対し、本件給水契約の債務不履行等に基づく損害賠償を求める事案である。 2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 水道法14条1項は、水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならないと規定しており、被上告人は、上記供給条件等を定めることを目的として宮古島市水道事業給水条例(平成17年宮古島市条例第215号。以下「本件条例」という。)を制定している。 上告人らは、被上告人との間で本件給水契約を締結し、上告人らの経営する宿泊施設において、本件給水契約に基づき、本件条例が定める供給条件に従って水道を使用している。 平成30年4月27日、本件断水が発生し、被上告人は、上記宿泊施設に対する給水をすることができなくなった。その後、本件断水は解消され、被上告人が- 2 -設置し管理する水道施設である配水池内の装置の破損(以下「本件破損」という。)が本件断水の は、上記宿泊施設に対する給水をすることができなくなった。その後、本件断水は解消され、被上告人が- 2 -設置し管理する水道施設である配水池内の装置の破損(以下「本件破損」という。)が本件断水の原因であることが判明した。 本件条例16条1項は、「給水は、非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情及び法令又はこの条例の規定による場合のほか、制限又は停止することはない。」と規定し、同条3項は、「第1項の規定による、給水の制限又は停止のため損害を生ずることがあっても、市はその責めを負わない。」と規定している。 3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件給水契約の債務不履行に基づく損害賠償請求を棄却すべきものとした。 本件条例16条3項は、水道事業の安定的かつ継続的な運営を維持するため、給水の制限又は停止の原因となった水道施設の損傷が被上告人の故意又は重過失によるものである場合を除き、被上告人の給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を免除した規定であり、このように解する限りにおいて、同項の規定は、正当な目的のために必要やむを得ない制約を設けるものとして憲法29条に違反するものではない。そして、本件断水に至る事情を考慮すると、本件破損について被上告人に故意又は重過失があるとはいえないから、被上告人の本件断水による給水義務の不履行に基づく損害賠償責任は、本件条例16条3項により免除される。 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 水道法15条2項(平成30年法律第92号による改正前のもの。以下同じ。)は、本文において、水道事業者は当該水道により給水を受ける者に対し常時水を供給しなければならないとして、水道事業者が常時給水の義務を負う旨を定めた上で、ただし 92号による改正前のもの。以下同じ。)は、本文において、水道事業者は当該水道により給水を受ける者に対し常時水を供給しなければならないとして、水道事業者が常時給水の義務を負う旨を定めた上で、ただし書において、「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」には給水を停止することができる旨を定めており、本件条例16条1項は、「非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情」等による場合のほか、給水は、制限又は停止することはない旨を定めている。上記各規定の文言に加え、水道- 3 -法15条2項が利用者保護の要請に基づく強行規定であると解され、本件条例16条1項が水道法14条1項の供給規程として定められたものであることに鑑みると、本件条例16条1項は、水道事業者が負う給水義務の内容を定める水道法15条2項を受けて、原則として水道の使用者に対し常時水が供給されることを確認したものにすぎないというべきである。そうすると、本件条例16条1項が例外的に給水を停止することがあると定める上記場合は、水道法15条2項ただし書の「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」と同一の内容を意味するものと解される。そして、本件条例16条3項は、同条1項の定める場合において、給水の停止のため水道の使用者に損害が生ずることがあっても被上告人は責任を負わない旨を定めているところ、上記の場合、水道事業者は水道法15条2項ただし書により給水義務を負わないのであるから、水道事業者である被上告人が給水を停止したとしても、給水義務の不履行となるものではない。 したがって、本件条例16条3項は、被上告人が、水道法15条2項ただし書により水道の使用者に対し給水義務を負わない場合において、当該使用者との関係で給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を負うものではないことを確 本件条例16条3項は、被上告人が、水道法15条2項ただし書により水道の使用者に対し給水義務を負わない場合において、当該使用者との関係で給水義務の不履行に基づく損害賠償責任を負うものではないことを確認した規定にすぎず、被上告人が給水義務を負う場合において、同義務の不履行に基づく損害賠償責任を免除した規定ではないと解するのが相当である。 5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、被上告人の本件断水による給水義務の不履行に基づく損害賠償責任の有無については、本件断水につき、災害その他正当な理由があってやむを得ない場合に当たるか否かなどについて更に審理を尽くした上で判断すべきであるから、本件を原審に差し戻すこととする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官林道晴の補足意見がある。 裁判官林道晴の補足意見は、次のとおりである。 - 4 -原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すに当たり、差戻審において考慮されるべき点について付言する。 法廷意見の指摘するとおり、被上告人の本件断水による給水義務の不履行に基づく損害賠償責任が認められるか否かを判断するに当たっては、まずは、本件断水に関する事情の下において、被上告人が上告人らに対して給水義務を負うか否かを判断する必要があるというべきである。そして、その判断に当たっては、本件断水につき、水道法15条2項ただし書に定める場合に当たるか否かを検討する必要があるところ、この点については、当事者のみならず第1審及び原審においても、およそ議論されることがなかったものである。 ところで、水道法14条1項の供給規程として定められ 当たるか否かを検討する必要があるところ、この点については、当事者のみならず第1審及び原審においても、およそ議論されることがなかったものである。 ところで、水道法14条1項の供給規程として定められた本件条例16条1項は、給水を停止することができる場合として「非常災害、水道施設の損傷、公益上その他やむを得ない事情」等による場合と定めているところ、本件断水は、本件破損が原因となったものであって、形式的には「水道施設の損傷」による場合に当たるものである。もっとも、同条1項は、水道法15条2項を受けて、常時給水の原則を確認する趣旨で定められたものにすぎず、一定の事情の下における給水義務の存否は、その事情が同項ただし書に定める場合に当たるか否かによって判断されるべきものである。そして、同項は、水道事業者が給水義務を負わない場合を「災害その他正当な理由があってやむを得ない場合」に限定している。原審は、故意・重過失について論じているところであるが、いずれにせよ、本件断水による給水義務の不履行に基づく損害賠償責任の存否を検討するに当たっては、水道施設の損傷につき水道事業者の過失が認められるか否かという問題と給水義務の存否との関連性についても検討する必要があるように思われる。差戻審においては、これらの規定の文言や趣旨を踏まえた上で、被上告人が水道法15条2項ただし書により給水義務を負わないといえるか否かについて慎重に判断する必要がある。 (裁判長裁判官 林 道晴 裁判官 宇賀克也 裁判官 長嶺安政 裁判官渡惠理子)

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