- 1 - 主文 被告人を懲役30年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 令和3年6月20日、福岡市a区bc丁目d番e号のA方1階洋室において、実父である同人(当時88歳)に対し、殺意をもって、その頚部に電気ポットのコードを巻き付けて絞め付け、よって、その頃、同所において、同人を窒息により死亡させて殺害し、第2 同日、同人の死体を、同人方1階元店舗に設置された冷蔵ショーケース内に運び入れるとともに、その扉を閉めて同冷蔵ショーケースを密閉した上、その頃から同月21日までの間、その扉の全面に粘着テープを貼り付け、よって、その頃から同月28日までの間、同人の死体を同冷蔵ショーケース内に隠匿し、もって死体を遺棄し、第3 同月20日、前記洋室において、実母であるB(当時87歳)に対し、殺意をもって、その頚部に前記コードを巻き付けて絞め付け、同人を前記冷蔵ショーケース内に運び入れるとともに、その扉を閉めて同冷蔵ショーケースを密閉し、よって、その頃から同月21日までの間に、前記A方において、前記Bを頚部圧迫又は同冷蔵ショーケース内における酸素欠乏による窒息により死亡させて殺害した。 (法令の適用) 1 構成要件及び法定刑を示す規定被告人の判示第1及び第3の各所為はいずれも刑法199条に、判示第2の所為は刑法190条にそれぞれ該当する。 2 刑種の選択- 2 -判示第1及び第3の各罪についていずれも有期懲役刑を選択する。 3 併合罪の処理刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をする。 4 宣告刑の決定以上の刑期の範囲内で被告人を懲役 併合罪の処理刑法45条前段の併合罪であるから、刑法47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をする。 4 宣告刑の決定以上の刑期の範囲内で被告人を懲役30年に処する。 5 未決勾留日数の算入刑法21条を適用して未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 6 訴訟費用の不負担訴訟費用は、刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。 (量刑の理由) 1 本件に至る経緯、犯行状況等は、以下の通りであると認められる。 ⑴ 被告人は、大学を中退し、その旨を父親に報告したところ叱責され、父親に対して苦手意識を持つようになり、以後、本件に至るまで、父親と顔を合わせることを避けるようになった。 被告人は、大学を中退した後就職し、営業職に就いたが、営業成績が振るわず、入院した兄の代わりに、母親が営む酒屋の手伝いをするため、約半年で退職した。その後、一、二年間は酒屋の手伝いをしていたが、兄が退院してからは、繁忙期のみ手伝いをしていた。 以降、被告人は、両親の食事の準備や後片付け、母親の衣類の洗濯、風呂の掃除、母親の買い物の付き添いや自身の趣味などの買い物をするために外出するほかは、自室で趣味のDVDを視聴するか漫画を読むなどして、被告人なりに自分のペースで生活していた。 ⑵ 被告人の母親は、平成30年頃から身体的に虚弱となり、本件当時は、自宅では手すりにつかまりながら歩くなどしていたが、通院や買い物のために外出- 3 -する際は車いすを使用し、被告人の介助を必要とする状態であった。 被告人は、令和2年頃から、認知症の症状が出始めた父親に、同じことを何度も尋ねられたり、ごみ出しの日を間違えたとしてごみの片付けを頼まれたり、外出先に置き忘れた自転車を取りに とする状態であった。 被告人は、令和2年頃から、認知症の症状が出始めた父親に、同じことを何度も尋ねられたり、ごみ出しの日を間違えたとしてごみの片付けを頼まれたり、外出先に置き忘れた自転車を取りに行くよう頼まれるなどするようになり、不満を募らせていった。また、被告人は、母親が入院中であった令和3年5月頃、父親と接する機会が増えたことに加え、家の権利証を探すよう父親に言われ、指示された箇所を探し回ったことがあり、父親に対する不満を一層募らせた。 ⑶ 被告人は、令和3年6月20日、自室でDVDを視聴していたところ、父親から求められ、2回にわたりトイレに行くまでの介助を行った。なお、被告人が父親からトイレに行くまでの介助を求められたのはこのときが初めてであった。 被告人は、同日午後9時頃、就寝しようとしていたところ、再度父親からトイレに行くまでの介助を求められ、父親の寝室へ向かった。父親は、被告人が介助しても立ち上がることができず、被告人に対して、バケツを持ってくるよう指示した。被告人は、今回だけにとどまらずこれからの日々においても父親が用を足したバケツの後始末をさせられ、自室で過ごす時間が削られることになると考え、父親を殺害することを決意した。 被告人は、居間にある電気ポットのコードを手に取り、再び父親の寝室に戻ると、ベッドに座っていた父親の背後から、首にコードを巻き付けて引っ張り、父親がベッドから床に落ちて仰向けになった後も引き続き首を絞め続けた。その途中、被告人は、母親が父親の寝室の入り口に立っているのを認めたが、首を絞めることを止めず、被告人の隣に座った母親が、被告人の名を呼びながら被告人の太腿を叩いても、首を絞め続けた。被告人は、母親から「もう死んどる」と言われて首を絞めるのを止め、手の平を父親の顔の上にかざして ことを止めず、被告人の隣に座った母親が、被告人の名を呼びながら被告人の太腿を叩いても、首を絞め続けた。被告人は、母親から「もう死んどる」と言われて首を絞めるのを止め、手の平を父親の顔の上にかざして息をしていないことを確認した。 続いて、被告人は、母親の背後に回り込んで首にコードを巻き付けて引っ張- 4 -った。被告人は、自身の右肘が壁に当たらないよう、母親を引きずって寝室の入り口付近に移動し、母親が首に巻き付けられたコードに指をかけているのを認めた後も、引き続き首を絞め続けた。 被告人は、母親の手が力なく下がっていたことから、母親が死亡したと考え、母親と父親を自宅の元店舗部分にあった冷蔵ショーケース内に順次引きずって運び入れ、同冷蔵ショーケースの扉を閉めた。 被告人は、翌21日までの間に、同冷蔵ショーケースの扉の全面に粘着テープを貼り付けた。 ⑷ 被告人は、同月21日、母親の通院先の病院や叔父、両親を担当していた保健師らに対し、両親は不在であるなどと伝えたり、父親名義の口座から現金30万円を出金してDVD等を購入したりした。 被告人は、同月23日、自宅を出発して山口方面に向かい、全国各地のホテルを転々としていたところ、同年7月4日、京都市内で逮捕された。 2 以上のように、被告人は、高齢の両親に対し、ためらうことなく力いっぱいコードで首を絞め続けている。被告人が強固な殺意に基づき冷酷に殺害を遂げたことを示しており、犯行態様は相当悪質である。 被害者2名の生命が奪われたという結果はいうまでもなく重大である。 判示第1の犯行の直接の動機につき、被告人は、父親からトイレに行くまでの介助を頼まれたことで、自身の趣味のために費やす時間が削られることにいら立ち、父親に対するこれまでの不満が爆発したとい 。 判示第1の犯行の直接の動機につき、被告人は、父親からトイレに行くまでの介助を頼まれたことで、自身の趣味のために費やす時間が削られることにいら立ち、父親に対するこれまでの不満が爆発したというが、そのことに酌量の余地はない。その上、被告人は、父親を殺害した勢いのまま、悪感情を抱いていたわけではない母親まで手にかけてその首を絞め、その後両親の死体を見たくないという理由で冷蔵ショーケースに両親を入れ、その扉の全面に粘着テープを隙間なく貼り付けており、理不尽というほかない。 この点、被告人に対する精神鑑定を行った医師は、被告人が重度のシゾイドパーソナリティ障害(いつも孤立した行動を選択し、情動的な冷淡さ又は平板な感- 5 -情状態を示す、などの特徴がみられるもの)である可能性が高い旨、また、自閉スペクトラム症の疑いがある旨を指摘しているが、本件犯行とは直接関係がなく、被告人の刑事責任を左右するほどの事情ではない。 これに加え、被告人が各犯行を認めてはいるものの、今なお本件に真摯に向き合ってはいないこと、遺族でもある被告人の兄が、被告人を許せない感情がある一方で被告人に社会復帰後は少しでも長く生きてほしい旨述べていること、被告人には前科前歴がないことなどの事情もある。 3 これらの事情に、同種事案の量刑傾向(殺人罪のうち、検索条件を単独犯、処断罪と同一又は同種の罪の件数2~4件、被害者が親、減軽事由なしとして検索したもののうち、2名殺害の事案を抽出したもの)を参照して検討すると、本件は同種事案の中で犯行態様の悪質性が際立っているとまではいえず、また、これまでの父親との確執自体については、被告人のみに責任があるとまではいい難いところもある。そうすると、無期懲役刑が相当であるとまではいえないが、前述したことからすると、有期懲役刑 はいえず、また、これまでの父親との確執自体については、被告人のみに責任があるとまではいい難いところもある。そうすると、無期懲役刑が相当であるとまではいえないが、前述したことからすると、有期懲役刑の上限である主文の刑はやむを得ないものと判断した。 (検察官の求刑無期懲役、弁護人の科刑意見懲役23年)令和5年1月12日福岡地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官鈴嶋晋一 裁判官明日利佳- 6 - 裁判官卜部有加子
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