平成26(ワ)654 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成27年1月15日 大阪地方裁判所
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判決文本文37,358 文字)

-1- 平成27年1月15日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成26年(ワ)第654号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成26年10月29日判決 原告P 1訴訟代理人弁護士山田威一郎補佐人弁理士立花顕治同山下未知子 被告株式会社コスメロール訴訟代理人弁護士鈴木秀彦同渡部峻輔主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成26年2月4日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,後記特許権の特許権者である原告が,被告が製造,販売する化粧品が原告の特許権を侵害すると主張して,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償及び不法行為の後である訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(証拠等の記載のないものは,争いがない。)-2-(1) 当事者原告は,化粧品容器等のデザインを手がけるデザイナーである。 被告は,口紅,ファンデーション,石鹸,香水等の製造,輸出入及び販売等を目的とする株式会社である。 (2) 原告の特許権原告は,次の特許(以下請求項1,2の特許を「本件特許1」等といい,「本件特許」と総称する。本件特許にかかる発明を「本件特許発明」と総称し,個別には「本件特許発明1」等という。本件特許についての明細書及び図面を「本件明細書」といい,登録に係る権利を「本件特許権」と総称する。)の特許権者である。なお,本件特許については,後記前提事実(8)イ記載の無効審判事件において,特許請求の範囲の訂正がされ,その訂正は,審決の確定 」といい,登録に係る権利を「本件特許権」と総称する。)の特許権者である。なお,本件特許については,後記前提事実(8)イ記載の無効審判事件において,特許請求の範囲の訂正がされ,その訂正は,審決の確定により確定した。 特許番号第4356901号発明の名称繰り出し容器出願日平成19年3月1日(特願2007-089375)登録日平成21年8月14日特許請求の範囲(訂正後のもの)【請求項1】内周面に螺旋溝(3a)を設けた筒状の外筒部(3)内に,上下方向にガイド孔(4a)を有した筒状の内筒部(4)を相対回転可能に収容し,この内筒部(4)内に,ガイド孔(4a)を貫通し外筒部(3)の螺旋溝(3a)に係合する主導突起(5a)を設けた筒状の受皿(5)を収容し,外筒部(3)に対して内筒部(4)を相対回転させることにより受皿(5)が内筒部(4)内を螺旋溝(3a)に沿って上下方向に移動可能とした繰り出し容器において,内筒部(4)の外壁に水平方向に突き出す変形可能な突片部(6)を設け,内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に,突片部(6)が外筒部(3)に押-3-し倒されて斜め下方に変形され,分別時においても突片部(6)が変更していることで,使用済み確認を可能にしたことを特徴とする繰り出し容器。 【請求項2】突片部(6)に当接する係合面(7)を外筒部(3)の内周面に設け,内筒部(4)において,突片部(6)よりも下方には,径方向外方に突出する部分が設けられ,係合面(7)が設けられた外筒部(3)の下端部は,前記突出する部分に対向配置されることを特徴とする請求項1記載の繰り出し容器。 (3) 本件特許1の構成要件の分説本件特許1の構成要件の分説は,次のとおりである た外筒部(3)の下端部は,前記突出する部分に対向配置されることを特徴とする請求項1記載の繰り出し容器。 (3) 本件特許1の構成要件の分説本件特許1の構成要件の分説は,次のとおりである(以下「構成要件A」等という。)。 A 内周面に螺旋溝(3a)を設けた筒状の外筒部(3)内に,B 上下方向にガイド孔(4a)を有した筒状の内筒部(4)を相対回転可能に収容し,C この内筒部(4)内に,ガイド孔(4a)を貫通し外筒部(3)の螺旋溝(3a)に係合する主導突起(5a)を設けた筒状の受皿(5)を収容し,D 外筒部(3)に対して内筒部(4)を相対回転させることにより受皿(5)が内筒部(4)内を螺旋溝(3a)に沿って上下方向に移動可能とした繰り出し容器において,E 内筒部(4)の外壁に水平方向に突き出す変形可能な突片部(6)を設け,F 内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に,突片部(6)が外筒部(3)に押し倒されて斜め下方に変形され,G 分別時においても突片部(6)が変更していることで,使用済み確認を可能にしたことを特徴とするH 繰り出し容器。 (4) 本件特許2の構成要件の分説-4-I 突片部(6)に当接する係合面(7)を外筒部(3)の内周面に設け,J 内筒部(4)において,突片部(6)よりも下方には,径方向外方に突出する部分が設けられ,K 係合面(7)が設けられた外筒部(3)の下端部は,前記突出する部分に対向配置されることを特徴とするL 請求項1記載の繰り出し容器。 (5) 被告の行為被告は,「ランコムラプソリュルージュ(LANCOMEL‘ABSOLUROUGE)」ブランドの口紅を製造,販売している。上記ブランドの口紅の容器については,下記(6)に記載の構成(とりわけ内筒 告は,「ランコムラプソリュルージュ(LANCOMEL‘ABSOLUROUGE)」ブランドの口紅を製造,販売している。上記ブランドの口紅の容器については,下記(6)に記載の構成(とりわけ内筒部における突片部)を備えたものが存在する(以下,この構成を備えた上記口紅を「被告商品」といい,その容器を「被告容器」という。)。 被告は,日本ロレアル株式会社(本店所在地:東京都新宿区西新宿三丁目7番1号,以下「日本ロレアル」という。)の完全子会社であって,薬事法に基づく製造販売業許可を得ており(乙13),製造業許可を有する別会社によって組み立てられた製品を仕入れ,薬事法に従って出荷のための手続等を取った上,日本ロレアルにその全量を販売している(弁論の全趣旨)。 (6) 被告容器の構成被告容器は,次の構成を備えている(以下分説された構成を「構成a」等という。)。なお,後記前訴で問題となった前訴口紅容器(「メイベリン」ブランドの製品向けのもの)と,被告容器は,下記構成を備えるものとして同一である。 a 内周面に螺旋状凹部を設けた筒状の外側部材内に,b 上下方向にスリットを有する筒状の内側部材を相対回転可能に収容し,c この内部部材内に,スリットを貫通し,外部部材の螺旋状凹部に係合する凸部材を設けた筒状の皿部材を収容し,d 外側部材に対して内側部材を相対回転させることにより皿部材が内側部材-5-内を螺旋状凹部に沿って上下方向に移動可能とした化粧料容器において,e 内側部材の外周面に容易に曲げることができる水平方向に突き出した突状部を設け,f 内側部材を外側部材に収容している状態で,突状部は外側部材の内周面に設けた内側摺接面に当接し,外側部材で押し倒されて斜め下方向に折れ曲げられており,g 突状部は,内側部 た突状部を設け,f 内側部材を外側部材に収容している状態で,突状部は外側部材の内周面に設けた内側摺接面に当接し,外側部材で押し倒されて斜め下方向に折れ曲げられており,g 突状部は,内側部材が外側部材から取り出された時においても曲がっているh 化粧用容器でi 突状部に当接する内側摺接面が外側部材の内周面に設けられており,j 内側部材の下端に径方向外方に突出する部分(突出部)が設けられておりk 係合面が設けられた外側部材の下端部は,突出部に対向配置されている(7) 争いのない構成要件充足性被告容器は,本件特許発明1の構成要件AないしF及びHを充足する。なお,被告は,構成iないしkが,本件特許発明の構成要件IないしKを充足することについても,特段積極的には争っていない。 (8) 本件に関係する裁判等ア特許権侵害差止等請求権不存在確認訴訟(以下「前訴」又は「前件」という。)日本ロレアル及びエヌ・エル・オー株式会社(本店所在地は,日本ロレアルと同所。以下「エヌ・エル・オー」という。)は,平成23年6月9日,原告及び原告が代表取締役を務める株式会社atoo(以下「atoo社」という。)に対し,日本ロレアル及びエヌ・エル・オーによる,商品名を「メイベリンウォーターシャイニーピュアダイヤモンド」(ただし,同商品のうち,同商品の繰り出し容器の内筒部の外壁に突片部があるタイプ。以下これを「前訴口紅容器」という。)とする口紅の輸入,製造,販売又は使用につき,本件特許権に基づく差止請求権,損害賠償請求権及び不当利得返還請求権のいずれも有しないこと等を求めるとともに,上記商品が原告の特許権を侵害すると日本ロレ-6-アル,エヌ・エル・オーの取引先等に告知する原告及びatoo社の行為が不正競争防止法2条1項14 請求権のいずれも有しないこと等を求めるとともに,上記商品が原告の特許権を侵害すると日本ロレ-6-アル,エヌ・エル・オーの取引先等に告知する原告及びatoo社の行為が不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たるとして,その差止め及び損害賠償等を求めた(当庁平成23年(ワ)第7407号特許権侵害差止等請求権不存在確認等請求事件)。 大阪地方裁判所は,平成25年1月31日,上記請求に対し,上記商品の製造等につき,原告が本件特許権に基づく差止請求権等を有しないことを確認し,原告及びatoo社に対し,不正競争行為の差止め並びに日本ロレアル及びエヌ・エル・オーに対し200万円の各支払を命ずる前件一審判決を言い渡した(乙1)。 上記判決に対し,原告とatoo社は控訴したが,控訴審(知的財産高等裁判所平成25年(ネ)第10018号事件)においても,平成25年8月28日,損害賠償額が各110万円とされたほかは前件一審判決と同旨の,前件控訴審判決が言い渡された(乙2)。 原告とatoo社は,前件控訴審判決に対し,上告提起及び上告受理申立てをしたが,後にこれを取り下げ,前件控訴審判決は,平成25年10月19日確定した。 イ無効審判請求及び審決取消訴訟日本ロレアルは,平成23年1月14日,本件特許権の請求項1ないし5の発明についての特許を無効とする旨の審決を求める無効審判申立てをした(無効2011-800008,乙117)。 原告は,上記手続において,本件特許の請求項1,2及び4について,訂正を請求した(甲101)。 特許庁審判官は,平成23年10月12日,訂正を認め,無効審判請求は成り立たない旨の審決をした(甲3,110)。日本ロレアルは,これに対する審決取消訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成24 特許庁審判官は,平成23年10月12日,訂正を認め,無効審判請求は成り立たない旨の審決をした(甲3,110)。日本ロレアルは,これに対する審決取消訴訟を提起したが,知的財産高等裁判所は,平成24年8月28日,日本ロレアルの請求を棄却する判決をし,同判決はその後確定し,前記審決は,-7-平成25年3月5日確定した(甲4ないし6)。 ウ無効審判請求日本ロレアルは,イとは別に,平成25年1月25日,本件特許を無効とする旨の審判を申し立てた(無効2013-800010)。特許庁審判官は,同申立てに対し,平成25年9月10日付けで,請求は成り立たない旨の審決をした(乙3,以下,同審決を「乙3審決」という。)。 (9) 前訴の判断の概要ア前訴における特許権に基づく差止請求権の不存在確認請求に関する争点は,①前訴口紅容器が,訂正後の本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するか,②本件特許は,新規性欠如の無効理由を有しており,特許無効審判により無効とされるべきものか,③先使用権の成否及び消滅であった。 イ前件控訴審判決において,以下の事実が判断の基礎とされた。 (ア) 日本ロレアル及びエヌ・エル・オーは,国際的に化粧品事業を展開するロレアルグループの一員であり,フランス法人であるロレアル株式会社(フランスロレアル社)の子会社であり,日本ロレアル及びエヌ・エル・オーは,実質的に一体となって「ロレアル」のブランド名で事業を行っている。 (イ) 日本ロレアルは,エヌ・エル・オーの委託を受け,前訴口紅容器を日本国内に輸入している。 前訴口紅容器の構成は次のとおりである。 a 内周面に螺旋状凹部を設けた筒状の外側部材内に,b 上下方向にスリットを有した筒状の内側部材を相対回転可能に収容し,c この内側部材内に,スリッ 前訴口紅容器の構成は次のとおりである。 a 内周面に螺旋状凹部を設けた筒状の外側部材内に,b 上下方向にスリットを有した筒状の内側部材を相対回転可能に収容し,c この内側部材内に,スリットを貫通し外側部材の螺旋状凹部に係合する凸部材を設けた筒状の皿部材を収容し,d 外側部材に対して内側部材を相対回転させることにより皿部材が内側部材内を螺旋状凹部に沿って上下方向に移動可能とした化粧料用容器において,-8-e 内側部材の外周面に容易に曲げることができる水平方向に突き出した突状部を設け,f 内側部材を外側部材に収容している状態で,突状部は外側部材の内周面に設けた内側摺接面に当接し,外側部材で押し倒されて斜め下方向に曲げられており,g 突状部は,内側部材が外側部材から取り出された時においても曲がっているh 化粧料用容器で,i 突状部に当接する内側摺接面が外側部材の内周面に設けられており,j 内側部材の下端に径方向外方に突出する部分(突出部)が設けられており,k 係合面が設けられた外側部材の下端部は,突出部に対向配置されている。 ウ前件控訴審判決では,上記アの争点①に関して,次のとおり事実認定され,前訴口紅容器は,本件特許発明の技術的範囲に属すると判断された。 前訴口紅容器の内側部材の外周面には,容易に曲げることができる水平方向に突き出した突状部が設けられている。当該突状部は,内側部材底部と内側部材を回させる回転台が相互に接続する周辺縁上に4片設けられており,薄片状のポリプロピレン(PP)又は同程度の弾性を有するプラスチックでできている。これら4片の突状部は,内側部材の長手軸に対して直交し,かつ,互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称に設けられており,一方の軸線からの距離が他方の軸線か を有するプラスチックでできている。これら4片の突状部は,内側部材の長手軸に対して直交し,かつ,互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称に設けられており,一方の軸線からの距離が他方の軸線からの距離よりやや離れて設けられている。前訴口紅容器を組み立てた状態,すなわち,内側部材が外側部材により外側を覆われた状態で,いずれの突状部も回転台側に折れ曲がっている。一旦組み立てた前訴口紅容器を分解した場合,回転台側に押し倒された突状部は復元力により元の起立した状態に戻ろうとするが,塑性変形した分は元に戻らず,折れ曲がった状態が視覚的に確認できる程度残存する。前訴における甲第51号証(本件の-9-乙9,151)の図面(以下「本件ランコム図面」という。)は,日本ロレアルらが日本国内で販売する口紅のうち「ランコム」ブランドの口紅容器に係るものであるところ,これと「メイベリン」ブランドの製品向けの前訴口紅容器との間には,上記認定の範囲において構成上の差異はない。 エまた,上記アの争点③に関して,前訴口紅容器は,平成17年12月2日に発行された実用新案登録第3116256号にかかる登録実用新案公報(本件の乙5,119号証)に記載の考案(以下,「乙5考案」という。)の技術的範囲に属し,その実施品であること,台湾に本店所在地を有するShyaHsinPlasticWorksCo.,Ltd.(以下「台湾シャ・シン社」という。)は,平成17年8月から同年10月にかけ,乙5考案に係る出願をし,その子会社で,かねてから日本ロレアルやエヌ・エル・オーも含めたロレアルグループの口紅である「ランコム」や「メイベリンニューヨーク」の容器の製造を行っていたSuzhouShyaHsinPlasticCo.,Ltd.(以下「蘇州シャ・シン社」という。)は ロレアルグループの口紅である「ランコム」や「メイベリンニューヨーク」の容器の製造を行っていたSuzhouShyaHsinPlasticCo.,Ltd.(以下「蘇州シャ・シン社」という。)は,遅くとも平成18年2月14日には,本件ランコム図面(本件ランコム図面に記載の口紅容器もまた,上記乙5考案の技術的範囲に属するものである。)を作成したこと,前訴口紅容器を備えた本件口紅が含まれるロットが,蘇州シャ・シン社から,原告に向けて輸出され,平成19年1月15日までには,日本ロレアルの管理する倉庫に入庫し,以後,日本ロレアルが当該口紅を販売したことを認定した上,上記本件ランコム図面は,図面作成日ころには,フランスロレアル社に送付したものと推認され,フランスロレアル社の子会社で,ロレアルグループの一員である日本ロレアル及びエヌ・エル・オーもまた前訴口紅容器の突状部に係る発明を「知得」していたとして,前訴口紅容器の実施形式の範囲で先使用権を有すると判断した。 2 争点(本案前の答弁)(1) 本件訴訟の提起が,訴訟上の信義則に違反する不適法なものか-10-(充足論)(2) 被告容器が,本件特許の構成要件Gを充足するか(無効論)(3) 本件特許発明が,進歩性欠如の無効理由を有するか(4) 本件特許発明が,公然実施(29条1項2号)の無効理由を有するか(先願特許の抗弁)(5) 被告容器の販売等が,先願の発明の実施品として,本件特許権の行使を受けないものといえるか(先使用の抗弁)(6) 被告が,被告容器につき,本件特許に対する先使用権を有するか。又は日本ロレアルの先使用権を援用できるか(損害論)(7) 原告の被った損害額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)( が,被告容器につき,本件特許に対する先使用権を有するか。又は日本ロレアルの先使用権を援用できるか(損害論)(7) 原告の被った損害額第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(本件訴訟の提起が,訴訟上の信義則に違反する不適法なものか)について【被告の主張】(1) 本件訴えは,形式的には当事者を異にするものの,前訴にて決着のついた事件を蒸し返すことを目的とするものであり,信義則(民訴法2条)に反する不適法な訴訟であるから,却下されるべきである。 (2) 本件訴訟の被告は,前訴の当事者であった日本ロレアルの完全子会社であり,日本ロレアルと実質的に一体となって「ロレアル」のブランド名で事業を行っている会社であるため,被告に対する原告の請求は,実質的には,日本ロレアルに対する請求の蒸し返しである。 【原告の主張】争う。 -11- 2 争点(2)(被告容器が,本件特許の構成要件Gを充足するか)について【原告の主張】(1) 構成gの,被告容器の「内側部材が外側部材から取り出された時」は,本件特許発明1の「分別時」に該当する。 被告容器は「突片部は,内側部材が外側部材から取り出された時においても折れ曲がっている」ものであり,これにより,内側部材は,外側部材に収容されていたと確認できるものである。 したがって,被告容器の「突片部は,内側部材が外側部材から取り出された時においても折れ曲がっている」との構成は,本件特許発明1の「分別時においても突片部(6)が変形していることで使用済み確認を可能にした」との構成に該当する。 よって,被告容器の構成gは,本件特許発明1の構成要件Gを充足する。 (2) 本件特許発明は,「用途発明」ではない。 「用途発明」とは,「既知のある物質のあ 」との構成に該当する。 よって,被告容器の構成gは,本件特許発明1の構成要件Gを充足する。 (2) 本件特許発明は,「用途発明」ではない。 「用途発明」とは,「既知のある物質のある未知の属性を発見し,この属性により,当該物質が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明」を意味するが,本件特許発明は,単に「使用済み確認」との用途を発見した発明ではなく,「内筒部を外筒部に収容する際に,突片部が外筒部に押し倒されて斜め下方に変形され,分別時においても突片部が変形していることで,使用済み確認を可能」にするという新たな構成によって,新規性,進歩性が認められた発明である。 また,「使用済み確認を可能にした」との記載は,発明の効果の記載であり,用途限定の記載でないことは文言上も明らかである。 【被告の主張】(1) 被告容器が構成要件Gを充足することは否認する。 (2) 乙3審決の内容からする帰結乙3審決の理由付けは,要するに,本件特許発明の出願日前に存在した後記乙-12-5考案に記載されている折れ曲がる突片部という技術に加えて,「使用済み確認」という効果を明記したことが本件特許の発明であり,乙5考案や本件ランコム図面に記載の発明(以下「乙9発明」という。また,同様の趣旨で,平成17年11月19日に作成された口紅容器の図面と合わせて,「乙8,9発明」ということがある。)には,「使用済み確認を可能としているか」という点について示唆がない(文章としての記載がない)ため,本件特許は乙5考案,乙5考案に基づいて作成された乙8,9発明とは別の発明である,ということである。 すなわち,本件特許の突片部(6)と乙5考案に基づいて作られた本件ランコム図面に記載されている突片部の違いは,「使用済み確 づいて作成された乙8,9発明とは別の発明である,ということである。 すなわち,本件特許の突片部(6)と乙5考案に基づいて作られた本件ランコム図面に記載されている突片部の違いは,「使用済み確認」という記載(示唆)があるかないかという点に尽きる。 上記判断と,「公然実施について,特許発明の構成要件の全てを充足する実施品が販売されていれば当該特許発明は公然実施になる」という判例の立場を整合的に解するならば,本件特許発明は,公知の構成を有する容器について,その突起物が折れていることによる「使用済み確認」という新たな用途を発見した「用途発明」であるとの理解以外にはありえない。 (3) 被告容器は再利用が予定されていないこと被告容器は,乙5考案の実施品であって,口紅容器をリサイクルするために「使用済み確認」をするためのものではないし,容器が再利用されることはなく,またその予定もない。 被告容器には,乙5考案の実施品として「弾性サポート」をするために突片部が設けられているにすぎず,これと「使用済み確認」をするための突片部は別物である。したがって,被告容器は,構成要件Gを充足しない。 3 争点(3) (本件特許発明が,進歩性欠如の無効理由を有するか)について【被告の主張】(1) 本件特許発明は,乙5考案に,特開2003-102543号公報に記載された発明(乙6,以下「乙6発明」という。)又特開2006-276136号公-13-報に記載された発明(以下「乙7発明」という。)の記載を参照すれば,当業者であれば容易に想到できる発明であるから,進歩性欠如の無効理由を有する。 (2) 本件特許は,要するに,構成要件AからDまでに記載されている通常一般に使用されている繰り出し式の口紅容器に,構成要件EからGまでに記 到できる発明であるから,進歩性欠如の無効理由を有する。 (2) 本件特許は,要するに,構成要件AからDまでに記載されている通常一般に使用されている繰り出し式の口紅容器に,構成要件EからGまでに記載されている口紅の内筒部の外壁に設けられた突片部(6)を設け,内筒部が外筒部に挿入される際に当該突片部(6)が塑性変形するため,一度組み立てられた口紅容器を分解した際に当該突片部の塑性変形が残存していることにより,当該内筒部が使用済みであることを確認できることを特徴とするものであり,構成要件G以外の構成は,全て乙5考案に開示されている。 そうして,相違点である「突片部(6)が変形していることで,使用済み確認を可能にしたことを特徴とする」点は,乙6発明,乙7発明に開示されているところであって,もはや一般常識というべきであり,当業者において容易に推考できるものである。 【原告の主張】(1) 本件特許に進歩性欠如の無効理由がないことは,前提事実(8)イ記載の無効審判及び審決取消訴訟において明らかにされているものである。本件特許は被告主張の進歩性欠如の理由により無効になることはない。 (2) 本件特許発明と,乙5考案とでは,構成要件Gのほか,構成要件E,同Fの点でも相違している。 ア構成要件Eの差異本件特許発明1の構成要件Eは,「内容部(4)の外壁に水平方向に突き出す変形可能な突片部(6)を設け」というものであるが,乙5考案には,係合固定片が「水平方向に突き出す」ものであるかについて一切開示されていない。 また,乙5考案の係合固定片は,弾性による適当なサポートにより嵌合管を押圧するため,復元可能な状態で,傾斜湾曲しているにすぎず,本件特許発明のように押し倒されて下方に変形するものではない。 -14-したがって,乙5 は,弾性による適当なサポートにより嵌合管を押圧するため,復元可能な状態で,傾斜湾曲しているにすぎず,本件特許発明のように押し倒されて下方に変形するものではない。 -14-したがって,乙5考案には,本件特許発明の構成要件Eは開示されていない。 イ構成要件Fの差異本件特許発明1の突片部は,「内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に,突片部(6)が外筒部(3)に押し倒されて斜め下方に変形される」ものであり(本件特許発明1では,分別時に至るまでの組み立て時,つまり使用時には外筒部に押し倒されて復元できないような状態まで変形されていることを要件としているのに対し,乙5考案の係合固定片は,弾性による適当なサポートにより,嵌合管を押圧するため,復元可能な状態で,傾斜湾曲しているにすぎず,本件特許発明1のように押し倒されて下方に「変形」した状態ではない。 むしろ,本件特許発明1のように押し倒されて下方に変形させ,復元させない構造にすると,乙5考案の効果を得ることができない。 以上のとおり,乙5考案に,本件特許発明1の構成要件Fは開示されていない。 ウ構成要件Gの差異本件特許発明1の構成要件Gに関しても,単に「使用済み確認」との文言の点で相違するだけではなく,構成要件Gの前段の「分別時においても突片部(6)が変形していることで」との要件の点でも相違する。 (3) 乙5考案と,乙6発明,乙7発明の組み合わせア乙6発明においては,「破断片の破断の有無を確認する」という構成が開示されているにすぎず,本件特許発明1の「内筒部を外筒部に収容する際に,突片部が外筒部に押し倒されて斜め下方に変形され,分別時においても突片部が変形していることで,使用済み確認を可能に」する構成は何ら開示されていないから,乙5考案に,乙6発明を組 筒部に収容する際に,突片部が外筒部に押し倒されて斜め下方に変形され,分別時においても突片部が変形していることで,使用済み確認を可能に」する構成は何ら開示されていないから,乙5考案に,乙6発明を組み合わせても,本件特許発明1に至らない。 イ乙7発明は,乙5考案とは全く技術分野が異なるプロセスカートリッジの発明であるから,乙7発明の構成を口紅容器の発明である乙5考案に適用する動機づけが存しない。 -15-また,乙7発明には,本件特許発明1の「内筒部を外筒部に収容する際に,突片部が外筒部に押し倒されて斜め下方に変形され,分別時においても突片部が変形していることで,使用済み確認を可能に」する構成は何ら開示されていないから,乙5考案に,乙7発明を組み合わせても,本件特許発明1に至らない。 4 争点(4) (本件特許発明が,公然実施(29条1項2号)の無効理由を有するか)について【被告の主張】(1) 乙8,9発明は,いずれも公然と実施されていたものであるから,本件特許は,公然実施の無効理由を有する(特許法123条1項2号,29条1項2号)。 (2) 前訴判決記載のとおり,本件ランコム図面に基づく口紅容器は,蘇州シャ・シン社が,親会社である台湾シャ・シン社の有する実用新案権(乙5)に基づいて自己の工場で製造していたものである。そして,当該容器とは全く無関係の第三者である原告は,平成19年2月7日に蘇州シャ・シン社を訪問した際に,本件ランコム図面に記載されている形状の突片部(下方向に変形可能な突片部)が設けられた「ランコム」用の使い切り容器の試作品の開示を受けている。 このように,原告が当該突片部付の容器の試作品を見ることができたことから明らかなとおり,同容器は何ら秘密裏に製造されていたものではなく,また原告に秘密保 切り容器の試作品の開示を受けている。 このように,原告が当該突片部付の容器の試作品を見ることができたことから明らかなとおり,同容器は何ら秘密裏に製造されていたものではなく,また原告に秘密保持義務を負わせていたものでもないので,本件ランコム図面の構成を有する発明は,公然と実施されていたことが明らかである。 【原告の主張】(1) 被告のいう,平成19年2月7日に,蘇州シャ・シン社が突片部を有する容器の試作品を開示したのは,当該容器が原告の指示に基づいて製作されたものであるからにほかならず,かかる開示の事実をもって本件特許発明が公然実施されていたということはできない。 また,原告が代表者を務めるatoo社と,蘇州シャ・シン社とは,平成18-16-年11月24日付けで,atoo社が特許を有する使い切り容器の製品化に向けた契約が締結され,その後,同製品の実施化に向けた準備が進められており,当時,蘇州シャ・シン社,atoo社及び原告は,互いに秘密保持義務を負う関係にあったから,このような当事者間での発明の開示の事実をもって,本件特許発明が公然実施されていたとすることはできない。 5 争点(5) (被告容器の販売等が,先願の発明の実施品として,本件特許権の行使を受けないものといえるか)について【被告の主張】先願の知的財産権が成立している場合には,後願の知的財産権によって先願の知的財産権の実施品の差止めを求めることはできないというべきである(東京地判昭和54年3月12日無体集11巻1号134頁参照)。 被告容器は,実用新案権となっている乙5考案の実施品であるから,仮に本件特許が有効で,被告容器が本件特許の構成要件Gを充足するとしても,乙5考案の実施品である被告容器が,本件特許によって制限を受けることはない。 新案権となっている乙5考案の実施品であるから,仮に本件特許が有効で,被告容器が本件特許の構成要件Gを充足するとしても,乙5考案の実施品である被告容器が,本件特許によって制限を受けることはない。 【原告の主張】後記6の【原告の主張】に記載のとおり,被告容器は,乙5考案の実施品ではない。 また,仮に被告容器が乙5考案の実施品であるとしても,特許権の本質は,第三者の侵害行為を排除する排他権としての消極的効力にあり,特定の製品に関し,特許を保有していることは,他人の特許権侵害の成立を否定する根拠にはなり得ず,その侵害の成否は,当該製品が,特許発明の技術的範囲に属するか否かによって,客観的に決定されるべきものであり,被告容器が,乙5考案の実施品であるか否かは,本件特許権の侵害の成否とは無関係である。 6 争点(6) (被告が,被告容器につき,本件特許に対する先使用権を有するか。又は日本ロレアルの先使用権を援用できるか)について【被告の主張】-17-(1) 被告と日本ロレアルとの関係被告は,口紅,ファンデーション,石鹸,香水,トイレタリー剤,その他の化粧品及び医薬部外品の製造,輸出入及び販売等を業とする株式会社であり,ロレアルグループで取り扱うブランドの中で,高級ブランドに属する「ランコム」ブランドの製造販売を行っている。 また,被告は,前訴口紅容器を使用した口紅を販売する,前訴の原告であったエヌ・エル・オーの兄弟会社である。被告は,エヌ・エル・オーの立場と全く同様に,日本ロレアルと実質的に一体となって被告製品を販売する立場にある。 (2) 被告は,本件特許について先使用権を有すること被告は,日本ロレアルの完全子会社であるから,当然,本社であるフランスロレアル社を頂点とするロレアルグループの一 販売する立場にある。 (2) 被告は,本件特許について先使用権を有すること被告は,日本ロレアルの完全子会社であるから,当然,本社であるフランスロレアル社を頂点とするロレアルグループの一員である。そして被告の完全親会社である日本ロレアルは,前訴の判決によって本件ランコム図面の構成を有する容器について,本件特許権に対する先使用権を認められている(前提事実(9)参照)。 この先使用権を有する日本ロレアルと被告は,形式的には別会社であるが,本件訴訟において,仮に被告に先使用権が認められず,被告製品が,本件特許権を侵害していると判断されることがあれば,被告と実質的に一体となって被告製品を販売する日本ロレアルも,本件特許権を侵害していると判断されることを意味する。このような事態が生じると,前訴で先使用権が認められ,本件特許を侵害しないと判断された日本ロレアルの地位が害されることになり,極めて不当である。 前訴判決でも説示されているように,「先使用権の成否を判断するに当たり,発明の実施者である親会社であるか,あるいは同社が支配する子会社であるかによって結論を左右させることは,特許法による利害調整の趣旨に沿う解釈とはいえない」と解されるところ,本件訴訟の結果によって日本ロレアルの地位が害されることになれば,まさにこの解釈に沿わない事態となる。 (3) 被告は,日本ロレアルの先使用権を援用できること-18-仮に被告自身には,本件特許に対する先使用権は成立しないとしても,先使用権を規定する「特許法による利害調整の趣旨」に鑑みれば,先使用権を有する日本ロレアルの完全子会社である被告は,少なくとも日本ロレアルの有する先使用権を援用できるというべきである。 【原告の主張】(1) 前訴口紅容器は,乙5考案の実施品で みれば,先使用権を有する日本ロレアルの完全子会社である被告は,少なくとも日本ロレアルの有する先使用権を援用できるというべきである。 【原告の主張】(1) 前訴口紅容器は,乙5考案の実施品ではないこと前訴口紅容器は,乙5考案の構成要件の一部である「数個の突出配列する弾性係合固定片を等分に設置し,該嵌合管により外側を覆う時,該係合固定片の突出により,嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保することを特徴とする」との構成を備えない。 すなわち,前訴口紅容器は,①潤滑剤が塗布されているところ,本件ランコム図面に基づく容器は,フランスロレアル社において,「潤滑油なしの容器」として承認されていること,②前訴口紅容器の突状部は,「等分」に配置されておらず,乙5交換の作用効果も奏しないものであること,から,前訴口紅容器は,乙5考案の実施品ということはできない。 (2) 前訴口紅容器は,原告の指示に基づいて作成されたものであることア使い切り容器の開発原告は,昭和63年頃より,種々の化粧品容器のデザインを手掛けてきたが,平成6年に口紅を最後まで使い切れる円筒型の口紅容器(「使い切り容器」)を開発した。 この容器は,口紅を保持する皿を二重構造にし,口紅が少なくなった際に保持皿の底をせり上げて,残った口紅を押し上げて使い切る新型の容器であり,残量が少なくなったときに通常よりも強く回すことで最後まで容器の外に押し出すことができるように工夫したものであり,これにより特許出願を行った。 原告は,平成9年3月ころ,フランスロレアル社や,太平洋化粧品と提携交-19-渉を行ったが,その契約には至らなかった。 イその後,太平洋化粧品か ものであり,これにより特許出願を行った。 原告は,平成9年3月ころ,フランスロレアル社や,太平洋化粧品と提携交-19-渉を行ったが,その契約には至らなかった。 イその後,太平洋化粧品から独立した会社であるドーセン社の仲介により,原告は,蘇州シャ・シン社との技術提携の話し合いを行った。この際,蘇州シャ・シン社から,原告に対し,「ランコム」ブランドの「ラプソリュルージュ」の口紅容器に使い切り容器の技術を利用したいとの申出があった。 平成17年に入り,原告と蘇州シャ・シン社間の話し合いが本格化し,平成17年3月26日に初めてのミーティングが行われ,atoo社,ドーセン社及び蘇州シャ・シン社間で,使い切り容器の製造に関する覚書(甲21)が締結された。この容器に関する試作品の図面は,同年6月22日に完成した。 ウ上記試作品の図面の完成を受け,蘇州シャ・シン社の社長P2の来日にあわせ,平成18年2月8日に三菱化学株式会社の大阪支社会議室において,原告とP2及びその秘書とで打ち合わせを行い,使い切り容器の試作品を受け取った。 このときに,原告は,P2に対し,内筒に突片部を有する製品のアイディアを説明し,「使用済み確認をするための印をつけるという技術があるのだけれども,興味はあるか」「もし興味があるなら,試作品を作ってもらえないか」ともちかけ,P2から快諾を得た。 その際に,原告は,図面等は渡さなかったが,上記構成(突片部の配置,突片部の形状,ストッパーの除去)に関する指示書をP2側に届けている。 本件ランコム図面は,上記の打ち合わせ後の6日後である同月14日付けで作成されているところ,上記原告の指示に基づく特徴がすべて反映されている。 エその後,蘇州シャ・シン社,ドーセン社及びatoo社間の契約関係をどのように 打ち合わせ後の6日後である同月14日付けで作成されているところ,上記原告の指示に基づく特徴がすべて反映されている。 エその後,蘇州シャ・シン社,ドーセン社及びatoo社間の契約関係をどのように処理するかの協議がされ,使い切り容器の着手はしばらくの間棚上げになったが,平成18年11月6日に,原告とP2との話し合いが行われ,突片部を有する容器の試作品に関し,原告の要望どおり,突起が折れたとの報告があった。 -20-平成18年11月24日付けで,蘇州シャ・シン社とatoo株式会社との間で,技術提携契約が締結された(甲31)後,平成19年2月7日,蘇州シャ・シン社において,原告は,P2との会合をもち,この際,「ランコム」の既存の容器をもとに製造した突片部を有する口紅容器の試作品を見せてもらい,突起がきちんと折れていること,また,取れ落ちていないことを確認した。 この後の平成19年3月1日,原告は,本件特許の出願に至ったものである。 (3) 日本ロレアルは,本件特許発明を知得していないこと日本ロレアル又はフランスロレアルが,本件特許発明の内容を,本件特許出願前に「知得」していたとの事実はない。 (4) まとめ以上のとおり,口紅容器に使用済み確認のために突片部を設ける発明は,原告が着想し,原告の指示に基づいて,蘇州シャ・シン社に試作品を製造させたものであり,日本ロレアルは,本件特許発明に関し,「特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得」した者には当たらないから,被告に先使用権は成立しない。前訴判決は事実認定を誤っている。 7 争点(7) (原告の被った損害額)について【原告の主張】(1) 特許法102条3項に基づく損害額被告は,平成23年から現在に至るまで,被告製品を製 決は事実認定を誤っている。 7 争点(7) (原告の被った損害額)について【原告の主張】(1) 特許法102条3項に基づく損害額被告は,平成23年から現在に至るまで,被告製品を製造,販売し,少なくとも10億円以上の売上げをあげている。仮に本件特許に関する実施許諾を行っていたとした場合の実施料率は,販売価格の3パーセントを下らない。 よって,特許法102条3項に基づき,被告製品の売上額10億円に,実施料率3パーセントを乗じた3000万円が,原告の被った損害と推定される。 (2) 弁護士費用原告は,本訴訟に関し,弁護士費用の負担を余儀なくされているが,被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は,上記(1)の損害額の10パーセントに-21-当たる300万円を下らない。 (3) まとめよって原告は,被告に対し,不法行為(民法709条)に基づき,上記損害合計3300万円のうちの一部請求として500万円と,これに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日(平成26年2月4日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 【被告の主張】原告の主張を争う。 第3 判断 1 当裁判所は,被告容器は,本件特許の構成要件Gを充足し,その技術的範囲に属する(争点(2))が,被告は,被告容器について,本件特許に対する先使用権を有する(争点(6))から,原告は,被告容器を使用した被告口紅に対し,本件特許権に基づく権利行使はできないものと判断する。その理由は次のとおりである。 2 争点(2)(被告容器が,本件特許の構成要件Gを充足するか)について被告容器につき,本件特許発明1及び同2のうち構成要件Gを除く部分の充足性に争いはないか,被告は明らかには争わない。そして,以下のとお )(被告容器が,本件特許の構成要件Gを充足するか)について被告容器につき,本件特許発明1及び同2のうち構成要件Gを除く部分の充足性に争いはないか,被告は明らかには争わない。そして,以下のとおり,被告容器は,構成要件訂正Gも充足するため,本件特許発明1及び同2の各技術的範囲に属するものと判断する(前訴一審判決及び前訴控訴審判決において,前訴口紅容器は,本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するとされ,前述のとおり,被告容器と前訴口紅容器は,構成において同一である。)。 (1) 特許請求の範囲の文言構成要件Gは,「分別時においても突片部(6)が変形していることで,使用済み確認を可能にしたことを特徴とする」とするものであるが,特許請求の範囲のその他の記載とを併せて読むと,内筒部(4)の外壁に設けられた変形可能な突片部(6)が,内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に変形することにより,その後に内筒部(4)と外筒部(3)を分別しても,その変形が視覚的に確-22-認可能な程度に残存すること,つまり,突片部(6)の変形残存によって,内筒部(4)が繰り出し容器として使用済みであることを確認し得ることを前提としていると解される。 (2) 本件明細書の記載本件明細書は,【発明が解決しようとする課題】につき,「この発明は,被繰り出し物の用途に応じてリュースをしてはいけない場合や,衛生面に特に配慮が必要な部材を分別後,又は,部材洗浄後にも特定可能な構造の繰り出し容器を得ようとするものである。」(段落【0008】)とした上,【課題を解決するための手段】として,「内筒部4の外壁に変形可能な突片部6を設け,内筒部4を外筒部3に収容する際に,突片部6を変形させ,分別時の使用済み確認を可能にした」(段落【0009】),「このように, 決するための手段】として,「内筒部4の外壁に変形可能な突片部6を設け,内筒部4を外筒部3に収容する際に,突片部6を変形させ,分別時の使用済み確認を可能にした」(段落【0009】),「このように,容器の分別後には突片部6が変形しているので使用済み部材であることを容易に確認することができる。」(段落【0010】)と記載されている。これら記載は,特許請求の範囲に基づく上記(1)の解釈と整合するものといえる。 (3) 構成要件Gの解釈以上によれば,構成要件Gは,内筒部(4)の外壁に設けられた突片部(6)につき,内筒部(4)の外筒部(3)への収容時に生じる変形が,内筒部(4)と外筒部(3)の分別後にも,視覚的に確認可能な程度残存していることを求めるものと解される。 (4) 被告容器の構成証拠(甲7,41,乙9,164),弁論の全趣旨及び前記第2の1の前提事実を総合すると,被告容器の構成は,次のとおりと認められる。 被告容器の内側部材の外周面には,容易に曲げることができる水平方向に突き出した突状部が設けられている。当該突状部は,内側部材底部と内側部材を回転させる回転台が相互に接続する周囲縁上に4片設けられており,薄片状のポリプロピレン(PP)又は同程度の弾性を有するプラスチックでできている。これら-23-4片の突状部は,内側部材の長手軸に対して直交し,かつ,互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称に設けられており,一方の軸線からの距離が他方の軸線からの距離よりやや離れて設けられている。被告容器を組み立てた状態,すなわち,内側部材が外側部材により外側を覆われた状態で,いずれの突状部も,回転台側に折れ曲がっている。一旦組み立てた被告容器を分解した場合,回転台側に押し倒された突状部は復元力により元の起立した すなわち,内側部材が外側部材により外側を覆われた状態で,いずれの突状部も,回転台側に折れ曲がっている。一旦組み立てた被告容器を分解した場合,回転台側に押し倒された突状部は復元力により元の起立した状態に戻ろうとするが,塑性変形した分は元に戻らず,折れ曲がった状態が視覚的に確認できる程度残存する。 (5) 充足性の判断被告容器の「内側部材」は本件特許訂正発明1の「内筒部(4)」に,「外側部材」は「外筒部(3)」に当たり,「突状部」は,「内筒部(4)の外壁に設けられた突片部」に当たる。そして,当該「突状部」は,被告容器を組み立てた状態で,回転台側に折れ曲がる上,被告容器の分解後も,それら突状部は水平方向には戻らず,折れ曲がった状態が視覚的に確認できる程度残存すると認められるから,構成要件Gの求める構成,つまり,突片部(6)の変形が,内筒部(4)と外筒部(3)の分別後にも,視覚的に確認可能な程度に残存するとの構成を備えており,同構成要件を充足するといえる。 (6) 小括したがって,被告容器は,構成要件Gを充足するものであり,その余の構成要件を充足することは争いがないから,本件特許発明1,同2の技術的範囲に属する。 3 争点(6)(被告が,被告容器につき,本件特許に対する先使用権を有するか。又は日本ロレアルの先使用権を援用できるか。)について以下に述べるとおり,被告容器は,本件特許の出願前に公知であった乙5考案の実施品と認められ,被告に先使用権(特許法79条)が成立する。 (1) 被告容器は乙5考案の実施品といえるか-24-被告は,突状部を備えた被告容器につき,台湾シャ・シン社が実用新案権を有する乙5考案(平成17年12月2日発行の乙5文献で開示)に基づくものである旨主張する。そこで,先使用権の成否を -24-被告は,突状部を備えた被告容器につき,台湾シャ・シン社が実用新案権を有する乙5考案(平成17年12月2日発行の乙5文献で開示)に基づくものである旨主張する。そこで,先使用権の成否を検討するに当たり,まず前訴口紅容器(及びこれと同一の構成である被告容器)が,乙5考案の実施品といえるかを検討する。 ア乙5考案(ア) 台湾シャ・シン社は,以下の考案(乙5考案)につき実用新案権を有している(乙5考案に係る明細書及び図面をあわせて「乙5明細書」という。)。 考案の名称口紅ケース内管の回転制御構造出願日平成17年8月30日登録日平成17年10月19日登録番号実用新案登録第3116256号実用新案登録請求の範囲【請求項1】主に内管を含み,該内管底部は回転台と相互に連結し,該内管両側にはそれぞれスライド槽を形成し,外側に嵌設する嵌合管上の螺旋導入槽に対応し,該内管の中空内部には口紅本体を設置する充填台を組合せ,該内管の回転により口紅の昇降を形成し,該内管底部と該回転台が相互に接続する周囲縁上には,数個の突出排列する弾性係合固定片を等分に設置し,該嵌合管により外側を覆う時,該係合固定片の突出により,嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保することを特徴とする口紅ケース内管の回転制御構造。 (イ) 請求項1の考案(乙5考案)を構成要件に分説すると,以下のとおりである。 -25-A’ 主に内管を含み,B’ 該内管底部は回転台と相互に連結し,該内管両側にはそれぞれスライド槽を形成し,外側に嵌設する嵌合管上の螺旋導入槽に対応し,該内管の中空内部には口紅本体を設置する充填台を組合せ,該内管の回転によ B’ 該内管底部は回転台と相互に連結し,該内管両側にはそれぞれスライド槽を形成し,外側に嵌設する嵌合管上の螺旋導入槽に対応し,該内管の中空内部には口紅本体を設置する充填台を組合せ,該内管の回転により口紅の昇降を形成し,C’ 該内管底部と該回転台が相互に接続する周囲縁上には,数個の突出排列する弾性係合固定片を等分に設置し,該嵌合管により外側を覆う時,該係合固定片の突出により,嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保することを特徴とするD’ 口紅ケース内管の回転制御構造。 (ウ) 乙5明細書には,以下の記載がある。 「【技術分野】【0001】本考案は一種の口紅ケース内管の回転制御構造に関する。特に一種の口紅内管底部の環状周囲面上に適当に突出する数枚の弾性係合固定片を設置し,嵌合管底部と相互に嵌設後は適当な係合状態を呈し,嵌合管はオーバーハング設置を形成し,口紅充填台との間は適当な間隙を具え,口紅の回転力を一致させ円滑な昇降操作を確保可能で,潤滑剤を一切使用する必要がないため,口紅本体の使用が安全で衛生的となる口紅ケース内管の回転制御構造に係る。 【背景技術】【0002】公知の口紅ケースの内管と口紅本体が相互に組合され回転制御される構造設計は,およそ図4,5,6に示すように,内管20に口紅本体21の充填台22を穿置し,該内管20両側管面にそれぞれL型のスライド槽23を-26-設置するものである。該管体底部には回転台を接続し,該口紅本体21を昇降させる回転制御操作を行う。 全体の昇降操作は,主に該内管20外側に嵌合管24を穿設し,内部には螺旋導入槽25を具えることにより,該充填台22両側の凸軸26を該スライド槽23に挿 本体21を昇降させる回転制御操作を行う。 全体の昇降操作は,主に該内管20外側に嵌合管24を穿設し,内部には螺旋導入槽25を具えることにより,該充填台22両側の凸軸26を該スライド槽23に挿入,組合せ後,該嵌合管24の螺旋導入槽25内部に嵌設し,該口紅本体22を該導入槽25と該内管20面上のスライド槽23に沿って昇降させる。 該公知の口紅本体21の昇降操作は,通常は手で嵌合管24の外側を握り,反対の手で底部の充填台22を持ち該充填台22を操作し,該螺旋導入槽25に従い昇降させるもので,該内管の直立スライド槽23に対応し操作することにより,該口紅本体21を上下に伸縮させることができる。 しかし,公知の嵌合管24と内管20間の相互組合せ設計は,部品が全て塑性材質であるため,回転時にはその真円度の不足或いはサイズのコントロール不良により,実際の組合せ槽道間の相互摩擦を引起している。さらに,実際の口紅の充填台22は,変形或いはサイズの緩みにより,部品全体が構造に入り込み或いはサイズが合わなくなるなど,組立て後の変形を生じており,実際の昇降回転操作における干渉或いは非円滑などを形成している。この回転が非円滑である状況を改善するため,通常は槽孔上に潤滑剤を塗布し摩擦の減少を図るが,該潤滑剤は極めて高い確率で口紅と混合し得る。しかし,口紅は化学顔料で製造するため,同様に化学材料である潤滑剤と混合すると,口紅の色が変質する可能性がある。さらには,使用における口紅の安全性,衛生状況にも悪影響を及ぼしかねない。加えて潤滑剤の塗布により,該口紅本体21を伸ばし使用する時には,しばしば唇に塗る時の圧力により,自動的に内部へと収縮し不便である。 【考案の開示】【考案が解決しようとする課題】-27-【0003】公知構造には以下の欠 1を伸ばし使用する時には,しばしば唇に塗る時の圧力により,自動的に内部へと収縮し不便である。 【考案の開示】【考案が解決しようとする課題】-27-【0003】公知構造には以下の欠点があった。 すなわち,公知構造では管面の硬度の不足,成型時の塑性変形による真円度の不足,組立て時に生じ得る押し込みによる偏りなどのために,回転が非円滑となり緩み,また滑移動する状況が発生する。 本考案は上記構造の問題点を解決した口紅ケース内管の回転制御構造を提供するものである。 【課題を解決するための手段】【0004】上記課題を解決するため,本考案は下記の口紅ケース内管の回転制御構造を提供する。 それは主に口紅内管底部の環状周囲面上に適当に突出する数枚の弾性係合固定片を設置し,嵌合管底部と相互に嵌設後は適当な係合状態を呈し,該内管を回転操作する時には一定の摩擦係数を維持し,管体の真円度不足による回転の偏りを改善することができ,潤滑剤を一切使用する必要がないため,口紅本体の使用が安全で衛生的となり,製品の品質を効果的に向上させることができることを特徴とする口紅ケース内管の回転制御構造である。 【考案の効果】【0005】上記のように,本考案は内管と回転台間の管面上に直接弾性係合固定片を等分に配置し,嵌合管に穿設後,自然に定位,組合され,口紅ケース内管と螺旋嵌合間の安定的な組立てを実現し,口紅ケース管面の変形により生じる様々な欠点を改善することができる。さらに,潤滑剤の塗布を省くことができるため,口紅の使用における安全性と回転操作の快適性を大幅に向上させることができる。」-28-イ構成要件A’,B’及びD’の充足性前記事実及び前記1(4)の認定によれば,前訴口紅容器の「内側部材」「回転台」「スリ と回転操作の快適性を大幅に向上させることができる。」-28-イ構成要件A’,B’及びD’の充足性前記事実及び前記1(4)の認定によれば,前訴口紅容器の「内側部材」「回転台」「スリット」「外側部材」「螺旋状凹部」「皿部材」「化粧料用容器」が,それぞれ乙5考案の「内管底部」「回転台」「スライド槽」「嵌合管」「螺旋導入槽」「充填台」「口紅ケース」に当たり,乙5考案の構成要件A’,B’及びD’を各充足することは明らかである。 ウ構成要件C’の充足性(ア) 実用新案登録請求の範囲の文言構成要件C’は,「該内管底部と該回転台が相互に接続する周囲縁上には,数個の突出排列する弾性係合固定片を等分に設置し,該嵌合管により外側を覆う時,該係合固定片の突出により,嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保する」というものである。つまり,「該内管底部と該回転台が相互に接続する周囲縁上」という位置に,「数個の突出排列する弾性係合固定片を等分に設置」するという構成を有し,その結果として,「該嵌合管により外側を覆う時,該係合固定片の突出により,嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保する」という機能を生じることが求められている。 「固定片」については,「弾性」の部材であることが求められている上,「嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保する」ものである以上,かかる機能を果たすだけの弾性を有することが求められていると解される。しかし,「内管」と「嵌合管」とを分解した後,当該「固 保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保する」ものである以上,かかる機能を果たすだけの弾性を有することが求められていると解される。しかし,「内管」と「嵌合管」とを分解した後,当該「固定片」が「嵌合管」の嵌設前の形に戻る,つまり,嵌設時の変形の痕跡を全く残さないほどの復元力を有することは,所望される実施形式の1つであるとしても-29-(甲4(130)・34ページ参照),これを必須の構成とする文言上の根拠はない。 また,「数個」の「固定片」は「等分に設置」とされているが,上記機能を生じるための構成であることに照らせば,「固定片」間の距離に,上記機能を阻害しない範囲内で若干の差異があるにとどまる場合までを除外する趣旨とは解されない。 (イ) 乙5明細書の記載前記認定のとおり,「弾性係合固定片」については,「特に一種の口紅内管底部の環状周囲面上に適当に突出する数枚の弾性係合固定片を設置し,嵌合管底部と相互に嵌設後は適当な係合状態を呈し,嵌合管はオーバーハング設置を形成し,口紅充填台との間は適当な間隙を具え,口紅の回転力を一致させ円滑な昇降操作を確保可能」(段落【0001】),「口紅内管底部の環状周囲面上に適当に突出する数枚の弾性係合固定片を設置し,嵌合管底部と相互に嵌設後は適当な係合状態を呈し,該内管を回転操作する時には一定の摩擦係数を維持し,管体の真円度不足による回転の偏りを改善することができ」(段落【0004】)との記載がある。これらの記載でも,「適当な係合状態」,「適当な間隙」,「一定の摩擦係数を維持」など,「適当」,「一定」との表現が繰り返されており,「固定片」に求められる弾性は,これらの機能を果たし得る程度で足りることが読み取れる一方,それ以上に強度な弾力や復元力を必須とする根拠は,乙5明細 ど,「適当」,「一定」との表現が繰り返されており,「固定片」に求められる弾性は,これらの機能を果たし得る程度で足りることが読み取れる一方,それ以上に強度な弾力や復元力を必須とする根拠は,乙5明細書上にも見当たらない。 (ウ) 構成要件C’の解釈以上によれば,構成要件C’における「弾性係合固定片」は,「該内管底部と該回転台が相互に接続する周囲縁上」という位置に,等しい距離あるいは下記機能を害しない範囲のおおよそ等しい距離を置いて複数個設置され,「該嵌合管により外側を覆う時,該係合固定片の突出により,嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一-30-定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保する」という機能を果たし得るだけの弾力が求められていると解される。その一方で,「内管」と「嵌合管」とを分解した後,当該「固定片」が「嵌合管」の嵌設前の形に戻る,つまり,嵌設時の変形の痕跡を全く残さないような構成は求められていない(そもそも,弾性部材を折り曲げた場合であっても,弾性変形と共に一定の塑性変形は生じるところ,塑性変形した分は元に戻らず,折れ曲がった状態が一定程度維持されるため,変形の痕跡を残さないということは,技術常識上想定しにくい。)。 (エ) 充足性の判断前記2(4)認定のとおり,被告容器(前訴口紅容器も同じ。)の突状部は,薄片状のポリプロピレン又は同程度の弾性を有するプラスチックである。そして,証拠(甲7,41,乙9,164),弁論の全趣旨及び前記前提事実によれば,被告容器においては,内側部材と外側部材の隙間の幅より突状部の高さが長いため,内側部材を外側部材に挿入すると,突状部は外側部材に押されて回転台側に倒された状態となるが,押し倒された突状部が板ばねの作用を奏 においては,内側部材と外側部材の隙間の幅より突状部の高さが長いため,内側部材を外側部材に挿入すると,突状部は外側部材に押されて回転台側に倒された状態となるが,押し倒された突状部が板ばねの作用を奏して外側部材内壁に弾性的に接触することで,内側部材の外壁と外側部材の内壁との間に隙間を作り,両部材が直接接触する場合と比べ,回転操作時の摩擦力を軽減することが認められる。 また,被告容器の突状部は,内側部材底部と内側部材を回転させる回転台が相互に接続する周囲縁上に4片設けられているが,隣接する突状部間の距離は,厳密な等間隔にはなっていない。しかし,その距離の差異はわずかである(乙9)上,4片の突状部は,内側部材の長手軸に対して直交し,かつ,互いに直交する2本の軸線のそれぞれに対して線対称に設けられており,一方の軸線からの距離が他方の軸線からの距離よりやや離れているにとどまることから,それぞれの突状部にかかる摩擦力はほぼ等しく,内側部材の外壁と外側部材の内壁とで隙間がなく直接接触する部分が生じたり,回転の際-31-にいずれかの突状部にのみ特に大きな摩擦力がかかるほど偏った配置となったりしているわけではない。 このように考えると,被告容器は,その「突状部」が構成要件C’における「弾性係合固定片」に当たり,「等分に設置」されているといえる上,「該嵌合管により外側を覆う時,該係合固定片の突出により,嵌設時の2個の管間の弾性サポートを形成し,該2個の管面間は適当な間隙を保持し,一定の摩擦阻害力を達成し,円滑な回転制御を確保する」との機能を果たしており,同要件を充足するものといえる。被告容器を分解した場合に,突状部の折れ曲がった状態が視覚的に確認可能な程度残存することが,この判断を左右するものではない。 エ原告の潤滑油に関する主張 しており,同要件を充足するものといえる。被告容器を分解した場合に,突状部の折れ曲がった状態が視覚的に確認可能な程度残存することが,この判断を左右するものではない。 エ原告の潤滑油に関する主張について原告は,前訴口紅容器に潤滑油が塗布されていることから,前訴口紅容器及び被告容器が乙5考案の実施品でないことを主張し,その旨の証拠(甲8,45)を提出する。 しかし,乙5考案は,潤滑剤を使用することなく円滑な回転制御を確保することをその課題とするものの,実用新案登録の請求の範囲において,「潤滑剤を使用しないこと」が構成要件とされているものではなく,当該容器の考案者であるP3においても,潤滑剤を使用するかどうかは,最終的には顧客(化粧品メーカー)の選択にすぎないことを述べる(甲41,乙164)ことからすると,前訴口紅容器に潤滑油が使用されていたことは,前訴口紅容器及び被告容器が乙5考案の実施品であるかどうかを左右する事情には当たらないというべきである。 オ小括以上によれば,被告容器(前訴口紅容器も同じ。)は,乙5考案の技術的範囲に属しており,その実施品といえる。 (2) 事実経過-32-次に,本件における事実経過のうち,先使用権の成否に関係するものについて検討する。証拠(主要なものは各項末尾に掲記。),弁論の全趣旨及び前記前提事実に加えて,当裁判所に顕著な事実を総合すると,以下の事実が認められる。 ア蘇州シャ・シン社蘇州シャ・シン社は,台湾シャ・シン社の子会社であり,中華人民共和国を本店所在地として口紅容器の製造などを行っている。原告やatoo社との間で以下のとおり口紅使い切り容器の商品化を進めていた時期の代表取締役は,P2であった。(甲15,41,136,乙164)イ蘇州シャ・シン社と 紅容器の製造などを行っている。原告やatoo社との間で以下のとおり口紅使い切り容器の商品化を進めていた時期の代表取締役は,P2であった。(甲15,41,136,乙164)イ蘇州シャ・シン社とatoo社との提携蘇州シャ・シン社は,原告が発明し,日本では原告が,中華人民共和国ではatoo社がそれぞれ特許権を有する口紅の使い切り容器に係る発明に関心を持ち,平成17年3月26日,原告との間で,同発明につき,独占的に製造,販売することの許諾を受ける旨の覚書を交わした上,使い切り容器試作品の製作を開始した。蘇州シャ・シン社は,同年6月22日には使い切り容器の図面を作成し,平成18年2月8日にはその試作品第1号を原告に手渡した(甲18の1ないし4(106の1ないし4),甲17の5(111の5),甲21(114),22(115),24(116),25(117))。 ウ台湾シャ・シン社による乙5考案に係る出願台湾シャ・シン社は,平成17年8月から同年10月にかけ,乙5考案につき,日本のほか,中華人民共和国,台湾,イギリスなど複数の国及び地域で特許又は実用新案登録の出願をした。日本での実用新案登録出願日は平成17年8月30日,中華人民共和国での実用新案登録出願日は同年9月27日であった。 乙5考案の考案者は,P2の息子のP3である。 (乙5(119),159の1~5,164(甲41))エ蘇州シャ・シン社による本件ランコム図面の作成-33-蘇州シャ・シン社は,かねてから日本ロレアルを含めたロレアルグループの商品である「ランコム」ブランドや「メイベリンニューヨーク」ブランド用の口紅容器の製造を行っていた。蘇州シャ・シン社は,遅くとも平成18年2月14日までに「ランコム」用の容器に係る本件ランコム図面(乙9。CUST ンコム」ブランドや「メイベリンニューヨーク」ブランド用の口紅容器の製造を行っていた。蘇州シャ・シン社は,遅くとも平成18年2月14日までに「ランコム」用の容器に係る本件ランコム図面(乙9。CUSTOMER[顧客]欄には「LANCOME」と記載されている。)を作成した。本件ランコム図面は,口紅容器の内側部材の外周面に水平方向に突き出した突状部が4片描かれ,材質としてはポリプロピレン(PP)が指定されていた。これら突状部の部位及び形状は,前訴口紅容器及び被告容器における4片の突状部と同じであり,上記ウのとおり既に中華人民共和国,日本などで出願済みの乙5考案の技術的範囲に属する構成であった(前記(1)参照)。また,本件ランコム図面内には,発明の具体的内容の明示はないものの,自社グループの特許出願中を意味する「SH-PATP」(SH はシャ・シン社を,PATP は特許出願中を意味する。)との表示もされていた。 一方,原告は,蘇州シャ・シン社から,本訴前に本件ランコム図面を見せられたことはなかった(甲15(136),16(127),39(121),乙5(119),8,9(151),乙164(甲41))。 オ本件特許出願等蘇州シャ・シン社は,平成18年11月24日,atoo社との間で,使い切り容器に係る特許発明につき,有効期間を平成28年12月31日まで,実施料を単位販売価格の10%などの条件で,中華人民共和国で独占的に製造することができる旨の契約を締結した。同契約に係る契約書において,本件特許発明への言及はなかった。 原告は,平成19年2月7日,中華人民共和国の蘇州シャ・シン社を訪問し,「ランコム」用の使い切り容器試作品の開示を受けた。同試作品には,前訴口紅容器(メイベリンニューヨーク用)や本件ランコム図面(ランコム用)と 19年2月7日,中華人民共和国の蘇州シャ・シン社を訪問し,「ランコム」用の使い切り容器試作品の開示を受けた。同試作品には,前訴口紅容器(メイベリンニューヨーク用)や本件ランコム図面(ランコム用)と同位置に同形状の突状部が設けられていた。 -34-原告は,同年3月1日,日本において,本件特許発明に係る特許出願をした。 この時点で,原告は,台湾シャ・シン社が,乙5考案について,日本や中華人民共和国などで実用新案登録や特許の出願をし,日本では平成17年10月19日に実用新案登録されていたことを知らなかった。(甲20(113),31(108),36(122),乙118,119)カ蘇州シャ・シン社から原告への図面提示及び両者間の電子メールでのやりとり蘇州シャ・シン社は,平成19年4月19日,使い切り容器に係る図面を完成させて原告に電子メールで送信した。同図面には,本件図面と同一部位に同一形状の4片の突状部が描かれ,材質もポリプロピレン(PP)が指定されていた。 原告は,同日,当該突状部を摘示し,「羽根部分の権利関係を知らせて下さい。貴社の保有特許ですか。日本での使用に問題はありませんか。羽根が折れる危険性はありませんか。」と照会する返信をした。これに対し,蘇州シャ・シン社が,同月25日,突状部以外の部位に若干の修正を加えた図面(甲109。CUSTOMER[顧客]欄には「atooCorporation」と記載されている。)を添付した電子メールを送り,「これは我々のパテントです。日本での使用に問題はありません。」と説明したところ,原告は同日の電子メールにて,「了解いたしました。」と回答した。 原告は,同年6月22日,蘇州シャ・シン社から,乙5考案の日本における実用新案登録証の写しを受け取り,同社が羽根部分の特許と説 ,原告は同日の電子メールにて,「了解いたしました。」と回答した。 原告は,同年6月22日,蘇州シャ・シン社から,乙5考案の日本における実用新案登録証の写しを受け取り,同社が羽根部分の特許と説明していたのが,平成17年10月19日に日本で実用新案登録を受けた乙5考案であることを初めて知った(甲35(乙146),36(122),109,乙161)。 キ原告による前訴口紅容器を使用した口紅の発見とその後の経過原告と蘇州シャ・シン社とが開発を進めていた使い切り容器は,平成19年7月には,製品化の見通しが立たない状況に至った。 -35-一方,原告は,同月,日本ロレアルの販売する口紅に,蘇州シャ・シン社から同年4月に見せられた上記図面(甲109)で描かれたのと同一部位に同一形状の突状部を備える容器(前訴口紅容器)が使用されていることを発見した。 当該容器を製造し,尚美国際化粧品有限公司(以下「尚美公司」という。)を介して日本ロレアルに納品していたのは蘇州シャ・シン社であった。原告は,同年,蘇州シャ・シン社に対し,前訴口紅容器の製造及び販売を中止するよう要請した。 本件特許発明は,平成21年8月14日に特許権設定登録がされた。原告は,日本ロレアルとの交渉を開始するとともに,同年12月以降,日本ロレアルの取引先に対し,前訴口紅容器を使用した口紅の販売は本件特許権を侵害する旨記載した書面を送付した(甲15(136),16(127),37(119),41(乙164),109,乙14(108),15(109),16(110の),17(111),112ないし117(枝番のあるものは枝番を含む),弁論の全趣旨)(3) 発明の知得経路についての検討アこれまで検討したところによれば,前訴口紅容器が,乙5考案の技術的範囲に属し 11),112ないし117(枝番のあるものは枝番を含む),弁論の全趣旨)(3) 発明の知得経路についての検討アこれまで検討したところによれば,前訴口紅容器が,乙5考案の技術的範囲に属し,その実施品であるといえることに加え,蘇州シャ・シン社の代表取締役P2の息子であるP3が平成17年には既にその乙5考案を考案し,台湾シャ・シン社を出願人として日本や中華人民共和国などで特許又は実用新案登録の出願をしていたこと,そのため,蘇州シャ・シン社は,原告からの指示がなくても,前訴口紅容器の構成に至ることのできる技術を,平成17年の段階で既に持ち合わせていたこと,現に蘇州シャ・シン社は,遅くとも平成18年2月までに,乙5考案の技術的範囲に属し,かつ,突片部の位置及び形状が前訴口紅容器と構成を同じくする本件ランコム図面(乙9)を作成していたことが認められる一方で,原告が本件特許の出願をしたのは,それらから大幅に遅れる平成19年3月1日であること,原告から蘇州シャ・シン社に対して突状部-36-の指示があったことを裏付ける客観的証拠はなく,原告が当該指示のあった日とする平成18年2月8日より後に締結された口紅容器の製造に係るライセンス契約においても,本件特許発明への言及はないこと,そして,平成19年4月における原告と蘇州シャ・シン社との電子メールのやりとりは,前訴口紅容器や被告容器と同一部位・同一形状の突状部につき,蘇州シャ・シン社が日本で特許権(正確には実用新案権であった。)を有する旨を説明し,原告もこれを受け入れていると理解され,そのやりとりから原告の指示が過去にあったとは読み取れず,両者間で過去に話題になった様子さえうかがわれないことを総合すると,前訴口紅容器の突状部は,蘇州シャ・シン社において,原告の指示を受けることなく,乙5考案 ら原告の指示が過去にあったとは読み取れず,両者間で過去に話題になった様子さえうかがわれないことを総合すると,前訴口紅容器の突状部は,蘇州シャ・シン社において,原告の指示を受けることなく,乙5考案の実施として備え付けた構成(「ランコム」用の容器にも備え付けられた構成である。)であると認めるのが相当である。 イこれに対し,原告は,当該突状部の構成は,原告が,平成18年2月8日,蘇州シャ・シン社の代表取締役P2に対して,口頭及びバイク便で送った書面によって指示したものである旨主張する。 しかし,そもそも,前記認定によると,原告と,平成18年2月8日当時において,原告と蘇州シャ・シン社間の法的合意は,前記(2)イの平成17年3月26日の覚書(甲21,114)以外にはなく,同覚書は,従前原告が特許権を取得した使い切り容器に関するものであって,かつ,秘密保持に関する規定はまったくない。しかるところ,そのような秘密保持についての制度的担保がない状況において,自ら過去に発明を権利化したことのある,特許制度に通暁した発明者が,その発明の権利化の手続前に本件特許発明の特徴を他人に説明するということ自体が経験則に沿わないものである。 この点を措いても,その主張に沿う証拠は,原告の陳述(甲15(136),16(127))を除けば,同日に原告からP2の秘書であるP4に何らかの配達物が届けられたことを示すとするバイク便の伝票(甲28,118)程度で,その内容物も証拠上明らかでなく,客観的裏付けとして十分でないことは-37-明らかである。むしろ,上記伝票(甲28,118)は,サービスの種類,支払の種別の記載がなく,お問い合わせ番号の記載も不自然であることに加え,ライダー番号,取扱者氏名,料金など,当該荷物を引き受けた者が記載すべき箇所の字体も原 (甲28,118)は,サービスの種類,支払の種別の記載がなく,お問い合わせ番号の記載も不自然であることに加え,ライダー番号,取扱者氏名,料金など,当該荷物を引き受けた者が記載すべき箇所の字体も原告の字体と類似しているなど,当日真正に作成されたかどうか,すなわち,真実そのようなバイク便の利用があったかどうかについて疑念を生じさせるものである。 この点,原告は,前訴口紅容器が本件特許発明1及び同2の技術的範囲に属することを,原告の指示があったことの客観的根拠にしていると考えられる。 しかし,蘇州シャ・シン社は,かかる指示があったと主張される平成18年2月8日以前から,前訴口紅容器を技術的範囲に含む乙5考案を持ち合わせていたのであるから,その実施として突状部のある容器を製造したと見る方がはるかに合理的かつ自然である。特段の裏付けなしに,原告の指示に由来する構成と見ることはできない。 加えて,原告は,前訴において,当初,蘇州シャ・シン社に突状部の指示をしたのは,本件特許出願をした平成19年3月1日よりも後のことと主張していたにもかかわらず,蘇州シャ・シン社が同日よりも前に前訴口紅容器を製造していた旨の日本ロレアルの主張及び裏付け証拠が提出されるや,指示があった日を,原告の主張及び証拠とも矛盾のない平成18年2月8日と大きく変遷させた(前訴記録の取り寄せにより当裁判所に顕著)。しかも,原告の主張によると,原告は,蘇州シャ・シン社から,平成19年2月7日,自身の指示に由来する突状部も備えた容器試作品を初めて見せられ,それを確認してから同年3月1日に本件特許の出願をしたとの経過があったというのであるから,本件特許の出願と蘇州シャ・シン社への指示の時間的前後関係を勘違いすることは起こりにくいはずである。原告は同旨の陳述をしているが,真に記憶に基づ 件特許の出願をしたとの経過があったというのであるから,本件特許の出願と蘇州シャ・シン社への指示の時間的前後関係を勘違いすることは起こりにくいはずである。原告は同旨の陳述をしているが,真に記憶に基づく主張,供述をしているか疑わしいと言わざるを得ない。 また,原告の陳述(甲15(136),16(127))によると,P2は,-38-平成18年2月8日に原告から突状部の指示を受けた際,乙5考案に全く言及せず(甲15(136)),その後少なくとも平成19年2月ころまで原告の指示に従い続け,当該突状部を備えた容器試作品を製作したことになる。しかし,掲げる課題や作用効果こそ違うとはいえ,口紅容器内筒部の外壁に突片部を備えるという点で共通する技術を我が国や中華人民共和国などで既に権利化している者(原告の陳述によると,P2は技術に詳しく自社の保有特許も全て把握している。)の対応として考えにくく,やはり,原告の主張及び陳述の信用性に疑問を投げかける。 なお,原告は,前件訴訟において,本件ランコム図面及びその一部が証拠提出される前から,その3つの特徴(突状部の配置,突状部の形状,ストッパーが取り外されていること)を,P2への指示内容として既に指摘できていたのは,原告の指示が実際にあったことの証左であると主張し,本件でも同様の主張をするが,それらの特徴は,蘇州シャ・シン社から原告に示されていた図面(甲109)や,前訴提起前に入手していた前訴口紅容器の実物(甲39(121)から把握できるものであるから,原告の主張,陳述の信用性を特段高めるものではない。 以上より,前訴口紅容器の突状部が,原告が,蘇州シャ・シン社の代表取締役P2に対する指示に由来する旨の原告の主張は到底採用の限りでない。 ウこの点に関し,原告は,平成18年2月8日に,本件ランコム図面 より,前訴口紅容器の突状部が,原告が,蘇州シャ・シン社の代表取締役P2に対する指示に由来する旨の原告の主張は到底採用の限りでない。 ウこの点に関し,原告は,平成18年2月8日に,本件ランコム図面にかかる構成が原告から蘇州シャ・シン社に開示されていたことを裏付けるものとして,前訴で提出した証拠のほか,本件において新たに,打合せ記録と題する文書(甲26の1),出張報告書と題する文書(甲29の1,32),原告から母に宛てた手紙(甲27,30,33)等を提出する。 (ア) 打合せ記録と題する文書(甲26の1)は,平成18年2月8日の使い切り容器の試作品の受け渡しに関する文書(前記(2)イ参照),甲第29号証の1の出張報告書は,原告が,同年11月6日に中国に出張したことに関する-39-文書,甲第32号証の出張報告書は,平成19年2月6日に中国に出張したことに関する文書であって,いずれも,文書の記載内容がそのとおりであったとすれば,当該出張や打合せの後速やかに作成され,前訴の係属中には当然に原告のもとにあったものと考えられるものである。 前訴においては,まさに上記の事実があったかどうかが中心的争点の一つとなっていたのであるから,上記各書類を前訴において証拠提出しなかったというのは不可解というほかはない。この点に関し,経理関係の書類とともに保管していたため報告書が残っていることに気がつかなかったなどとする原告の説明は,それ自体が領収書ともなっている平成18年2月8日に原告のアイディアを送ったとするバイク便の伝票(甲28,118)が前訴で提出されていることにも照らすと,到底納得できない(甲28,118号証それ自体の信用性については,前述のとおりである。)。 上記各書面は,いずれもワードプロセッサで作成されたものであって,原告 出されていることにも照らすと,到底納得できない(甲28,118号証それ自体の信用性については,前述のとおりである。)。 上記各書面は,いずれもワードプロセッサで作成されたものであって,原告以外の者が関与した形跡はないのであるから,内容はいかようにも記述できる体裁のものであることにも照らすと,本件のために新たに作出することは容易であり,その疑念を排するに足りる客観的記載等は存しない。 (イ) 原告から母に宛てた手紙(甲27,30及び33。全体につき甲46の1・2)について検討する。 原告は,上記手紙について「当時,寝たきりの状態にあった母に宛てて毎晩書いていた手紙」であり,原告の母は,当時,原告と2人暮らしであったが,寝たきりの状態であり,うまくコミュニケーションが取れない状態であったところ,原告は,自宅で母の介護を行い,昼間はケア施設に母を通わせていたが,少なくとも,証拠提出する平成18年1月から平成19年5月までの間,毎晩,母に話しかけながら,ケア施設から受け取る報告書の裏面に母に宛てた手紙を書いていたものと説明する。そして,当該手紙を前訴において証拠提出できなかった理由として,原告の母は,平成22年8月8日死-40-去し,当該手紙はその遺品とともに保管されていたところ,前件訴訟の証拠収集をする過程では母の遺品を探すということに思い至らなかったが,平成25年の8月ころ,母の三回忌で母の遺品を整理している際に,この手紙の束を発見したものと説明した。 その後,被告が,原告の母が平成22年8月に死亡したのなら,その三回忌は平成24年8月であると指摘したところ,原告は,上記「母の三回忌で遺品を整理」との説明を,「母の没後三年を契機に」と変更した(当裁判所に顕著な事実)。 上記原告の説明自体,なぜ,平成 回忌は平成24年8月であると指摘したところ,原告は,上記「母の三回忌で遺品を整理」との説明を,「母の没後三年を契機に」と変更した(当裁判所に顕著な事実)。 上記原告の説明自体,なぜ,平成19年5月で手紙を書くことを止めたのか(その後もケア施設からの報告内容に照らして,原告の母に劇的な改善が生じた事情は認められない。),なぜ,前訴における提出ができなかったのか,なぜ,母の手紙を発見した経緯についての説明を変遷させたのか(母に継続して手紙を書いていたという事情や,三回忌において遺品を整理したという事実は,通常記憶によく残るものであり,その事実を失念したり,時期を間違ったりすることは考えにくい。)について,納得させるものとは言い難い。 加えて,原告が提出した手紙の内容を参照しても,そのほとんどは,ケア施設側が記載した母の状況や活動を単に反復し,それから常識的に想起される事情を記載したものであり,施設外での原告の日常活動や他の家族,親族の動向を母に報告するといった,この種文章を日常的に描くとすれば通常記載するであろう事項への言及がほとんどなく,原告の業務に関するものとして,取引先の訪問等の単なる事実が記載され,原告の発明に関するものとしては,「ポンプ容器」に関する発明と,本件発明に関するものがある中で,本件発明に関するものだけ,構造に関する詳細な説明がされているという特徴を指摘することができる。また,業務上定型的に作成されるものでもなく,記載欄が設けられているのでもなく,ケア施設の報告書の裏面にその都度記載したものとしては,体裁,字体,文体等があまりに似通っている点も指摘-41-せざるを得ない。 以上の点からみると,真実,表面に記載されたケア施設側の報告書の作成日ころに,原告が裏面の記載をしたというには多大な疑問 体,文体等があまりに似通っている点も指摘-41-せざるを得ない。 以上の点からみると,真実,表面に記載されたケア施設側の報告書の作成日ころに,原告が裏面の記載をしたというには多大な疑問が生じ,むしろ,原告が,前訴において敗訴した後,客観的な作成日付が判明するものとして,当該ケア施設の報告書を発見し,これに後日記入した疑いが極めて強い。 (ウ) 上記のとおり,上記各証拠は,いずれも信用性がないというにとどまらず,本件訴訟のために作出されたものであると考えざるを得ず,かえって,蘇州シャ・シン社が原告の発明を知得した経過に関する原告の主張全体が虚構であることを示唆するものというべきである。 (4) 輸入日証拠(乙125ないし130(枝番を含む),142~144)及び弁論の全趣旨によれば,ロット番号「2C361」の口紅のうち少なくとも一部に前訴口紅容器を備えた口紅が含まれていたこと,ロット番号「2C361」の口紅が平成18年12月27日に蘇州シャ・シン社の中国工場で製造され,同月28日に尚美公司の保有倉庫に入庫された後,平成19年1月5日には,日本ロレアル,エヌ・エル・オーに輸出すべく上海を出港し,同年1月10日の日本における通関手続を経て,同月15日に日本ロレアルの管理する寿倉庫に入庫したこと,以後日本ロレアルは日本国内で前訴口紅容器が使用された口紅を含め,口紅の販売を行ったことが認められ,この認定を妨げるに足りる証拠はない。 上記認定は,蘇州シャ・シン社が,乙5考案を,前訴口紅容器として,平成18年2月14日には既に図面化[本件ランコム図面]していたこととも整合する。 また,平成19年3月の前訴口紅容器を使用した口紅の発売開始[乙129]から間もない同年7月には,前訴口紅容器が市場で見つかっていることからも 既に図面化[本件ランコム図面]していたこととも整合する。 また,平成19年3月の前訴口紅容器を使用した口紅の発売開始[乙129]から間もない同年7月には,前訴口紅容器が市場で見つかっていることからも,日本ロレアルの口紅の製造開始当初から,前訴口紅容器及び被告容器が利用されていたものとうかがわれる。そして,本件ランコム図面は,まさに,本訴の対象である被告商品(「ランコム」ブランド)向けの図面であるから,被告商品にも同じ-42-容器(被告容器)が使用されたものと推認され,前提事実(5)記載のとおり,薬事法上の製造販売許可を有する被告において,薬事法に従った出荷のための手続が取られた後,日本ロレアルに販売されたものと認められる。 したがって,本件特許が出願された平成19年3月1日の際,本件特許発明1及び同2の技術的範囲に属する前訴口紅容器を備えた本件口紅を輸入し,もって,「現に日本国内においてその発明の実施である事業」(特許法79条)をしていたものといえる。 (5) 知得前訴口紅容器及び被告容器と同部位に同形状の突状部を描いた本件ランコム図面は,平成18年2月14日には蘇州シャ・シン社によって作成されていたことからすれば,そのころ本件図面に係る「ランコム」の口紅の製造,販売を国際的に展開するフランスロレアル社に送付されたものと推認され,この推認を妨げるに足りる証拠はない。 そうするとフランスロレアル社の子会社で,ロレアルグループの一員である日本ロレアル及びその完全子会社である被告も,本件口紅の輸入時には,「本件特許出願に係る発明を知らないでその発明をした者」であるP3から,前訴口紅容器及び被告容器の突状部に係る発明を「知得」していたと評価するのが相当である(なお,先使用権の成否を判断するに当たり,発明の実施者が親会社であるか らないでその発明をした者」であるP3から,前訴口紅容器及び被告容器の突状部に係る発明を「知得」していたと評価するのが相当である(なお,先使用権の成否を判断するに当たり,発明の実施者が親会社であるか,あるいは,同社が支配する子会社であるかによって結論を左右させることは,特許法79条による利害調整の趣旨に沿う解釈とはいえない。)。 (6) 小括以上のとおり,被告は,本件特許発明につき,「特許出願に係る発明を知らないでその発明をした者から知得して,特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者」に当たるから,少なくとも前訴口紅容器の実施形式の範囲で先使用権を有するものである。そうして,前訴口紅容器と,被告容器は,その構成において同一であるから,被告容器についても,同様の先使用権-43-が成立する。 したがって,被告が本件口紅を販売等することは,原告の有する本件特許権の侵害には当たらない。 第4 結論以上によると,被告は,被告容器につき説示のとおりの先使用権を有するから,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることはできない。原告の請求は理由がない。 なお,被告は,本案前の答弁を主張している。前訴判決の理由中の判断の内容,原告が本件において提出した証拠の性質,原告が,前訴の確定判決において日本ロレアルらに支払うよう命じられた損害賠償額を支払うことなく本件訴訟を提起したことなどの本件にみられる原告の訴訟態度からすると,本件に訴権濫用の法理を適用することも検討の余地がある。しかしながら,判決の理由中の判断には本来拘束力がないこと,前訴とは当事者が異なる(法人格が異なる以上,やむを得ない。)こと等を総合的に考慮すると,なお訴えが不適法であるとまではいうことができない。 よって,主文 理由 中の判断には本来拘束力がないこと,前訴とは当事者が異なる(法人格が異なる以上,やむを得ない。)こと等を総合的に考慮すると,なお訴えが不適法であるとまではいうことができない。よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官 谷有恒 裁判官 田原美奈子 裁判官 松阿彌隆

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