主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,10年くらい前から糖尿病等を患い,入退院を繰り返しており,医師や同居の内妻Aや長男Bから酒をやめるように再三,注意されていたにもかかわらず,飲酒をやめず,酒を飲んでは物を投げたりして暴れ,また,薬と一緒に酒を飲むことが原因で,度々,大便を漏らすなどして,家族に迷惑を掛けていた。被告人は,平成14年2月28日午後10時30分ころ外出先から帰宅したが,昼前から飲酒していたことが災いして,帰宅途中に大便を漏らしてしまった上,帰宅後,トイレまでも汚してしまったことから,AやBから厳しく叱責されて,口論となり,Bは家を飛び出してしまい,Aは,被告人に対し,家から出ていくよう罵倒するなどした。そのため,被告人は立腹し,怒りにまかせて,台所にいるAに向けて電話機等を投げつけ,八つ当たりし,その結果,ガラス戸が割れるなどしたが,Aからは完全に無視され,軽くあしらわれたことから益々,腹立ちを覚え,Aに対する腹いせのため,家が火事になると思わせて驚かせ,慌てさせようなどと考え,台所にあった石油ストーブから灯油の半分くらい入った給油タンクを取り出し,その中の灯油を台所のカーペットや,居間,玄関板間,子供部屋に撒布した上,マッチで何。 ,,度か灯油を撒いたカーペットに火を点けようとしたしかしなかなか火が点かずAも玄関先に出たまま,一向に止めに来なかったため,被告人は,Aが被告人のことを無視しているか馬鹿にしているなどと思い,なお一層,憤慨し,玄関板間に積まれた古新聞の束であれば,確実に火が点き,Aも驚いて,火を消しに来るはずであり,その際,火が柱や天井等にも燃え移るかもしれないが,それで るか馬鹿にしているなどと思い,なお一層,憤慨し,玄関板間に積まれた古新聞の束であれば,確実に火が点き,Aも驚いて,火を消しに来るはずであり,その際,火が柱や天井等にも燃え移るかもしれないが,それでも構わないと考えた。 (罪となるべき事実)被告人は,岡山県玉野市ab丁目c番d号所在の借家(木造瓦葺平家建家屋,床面積合計約42平方メートル)にAらと共に居住しているものであるが,平成14年2月28日午後11時前ころ,Aから叱責されたことなどの腹いせに,家が火事になると思わせて,Aを驚かせ,慌てさせようと考え,同家屋を焼損してしまうかもしれないことを認識しながら,あえて,玄関板間に積み重ねてあった古新聞に所携のマッチで点火して放火したが,Aに発見されて消火されたため,同所の柱等をくん焼したにとどまり,同家屋を焼損するに至らなかったものである。 (証拠の標目)(事実認定の補足説明) 被告人は,公判廷において,新聞紙に火を点けたことによって,柱やガラス戸に火が燃え移って,それらが焦げるかもしれないという認識は多少あったが,それは,あくまで,内妻Aを驚かせるつもりで行ったに過ぎず,積極的に家を燃やすつもりはなかった旨供述し,弁護人も,被告人には現住建造物等放火の未必的故意があったにとどまり,確定的故意はなかった旨主張することから,以下検討する。 前掲関係各証拠によれば,判示犯行に至る経緯に加えて,以下の事実が認められる。 (1)被告人方は,C所有にかかる木造瓦葺平家建の住宅であるが,犯行直後の現場の状況は以下のとおりである。玄関ガラス戸を入った土間東側には,ガラス板のはめ込まれた木製テーブルが置かれており,その上にはベニヤ板が敷かれ,段ボール箱に入った雑誌類や古新聞の束が積まれていたが,それらは,ほぼ全体が焼け,一部は土間北側の板間に崩れ 東側には,ガラス板のはめ込まれた木製テーブルが置かれており,その上にはベニヤ板が敷かれ,段ボール箱に入った雑誌類や古新聞の束が積まれていたが,それらは,ほぼ全体が焼け,一部は土間北側の板間に崩れ落ちていた。また,テーブルの下には,多数の靴や灯油のポリ容器等が乱雑に置かれていた。土間北側の板間には,テーブルに接して,雑誌の入った段ボール箱が置かれ,付近には被告人が火を点けた古新聞の束が焼けて崩れ落ちていた。テーブルは,枠が黒く変色しており,そのすぐ東側にある2枚引きのガラス戸は,枠や桟が焼けたり,ガラスが割れたりし,1枚のガラス戸の下半分に貼られていた段ボール紙や鴨居に掛けられていたジャンパーも大半が焼失していた。そして,テーブルの横の柱は,下部から天井部に至るまでくん焼し,その柱付近の鴨居もくん焼していた。 (2)被告人は,判示のとおり家の中に灯油を撒き,灯油がかかったAが玄関先へ逃げた後,最初は,灯油を撒いたカーペットに点火しようとしたが,火が点かず,その際,Aは玄関先からこれを見て「何をしょんでえ」などと,。 言い,被告人もAが玄関先にいることを意識していた。次に被告人は,玄関,,板間に積まれていた古新聞の束にマッチで点火したところ炎が勢いを増しテーブル上に置かれた古新聞や雑誌等にまで燃え移り,さらに火勢を強め,古新聞に点火後,しばらくして炎の高さが約120センチメートルに達したことから,驚いて,台所にあった丼で3回くらい水を掛けて消火しようとし,,,。 ,たが火勢は衰えずその後炎の高さは天井近くにまで達したそのころAはBを捜しに行っていたが,戻ってきたところ,火勢が天井まで届いていたため,玄関土間の灯油のポリ容器を外に出して,玄関先の水道のホースで水を掛けて消火した。 (3)被告人は,Aが消火している際 ろAはBを捜しに行っていたが,戻ってきたところ,火勢が天井まで届いていたため,玄関土間の灯油のポリ容器を外に出して,玄関先の水道のホースで水を掛けて消火した。 (3)被告人は,Aが消火している際,その様子を台所で見ていたが,火が消えたのを見て,居間に戻って,座っていたところ,直後に,臨場した警察官から,火を点けたのかと問われ「わしの家に火を点けて何が悪いんなら」,。 と悪態を付くなどした。 以上のとおり認められる。 被告人は,検察官に対して「私は,妻が私のことを止めようとしないので,,私のことを無視しているのか馬鹿にしているのかと思い,本当に腹が立ち,今までは脅し半分の気持ちで火を点けようと思っていたのですが,この時には,妻に私の怖さを思い知らせてやろうと思い,本当に家を燃やしてやろうと思うようになっていました。私は,灯油でビチョビチョに濡れているカーペットには火が点かないと思い,確実に火が点く場所に火を点けようと思いました。私は,玄関に置いてあるテーブルの上に古新聞や雑誌が高く積んであり,その横の板間にも古新聞や雑誌があるのを見て,ここにある古新聞などに火を点ければ,火が高く燃え上がり,その火が柱や天井に燃え移り,家が燃えると思いました(35)。」と供述し,警察官調書(32)でも同旨の供述をし,現住建造物等放火の確定的故意の存在を認めている。 確かに,被告人は,灯油を撒いた上,台所のカーペットに何度も火を点けよう,,,としてできなかったのに諦めず可燃性の高い古新聞の束に点火していること前記のとおり,玄関には,木製テーブル,古新聞,雑誌,段ボール紙,ジャンパー等の可燃物が多数存在しており,一旦,これらに火が点けば,次第に火勢が強まって,木造家屋である建物自体に燃え移るであろうことは容易に予想が付いた,,,, 古新聞,雑誌,段ボール紙,ジャンパー等の可燃物が多数存在しており,一旦,これらに火が点けば,次第に火勢が強まって,木造家屋である建物自体に燃え移るであろうことは容易に予想が付いた,,,,はずであって現実に火勢が強まり柱等がくん焼するなどしていること当時AはBを捜しに戸外に出ており,Aが玄関先にいたか否かにつき,被告人ははっきり確認していたわけではないこと,被告人は,玄関先に水道のホースがあることを認識していながら,消火に用いておらず,Aが消火を始めた以降は,傍観していたこと,被告人は,犯行後,前記のとおり,自宅が燃えることを容認するかのような言動を取っていること,被告人は,カーペットに火を点けた際の心境については,同じ検察官調書の中で「積極的に家を燃やしてしまおうというほど,の気持ちはなく,家が燃えたならそれはそれで構わないという気持ちと家を燃やす振りをして妻を怖がらせようと言う気持ちが半々でした」と区別して供述し。 ており,その後の心境の変化は,あながち不自然ではないことなどに照らせば,一見,被告人に現住建造物等放火の確定的故意があったとみられなくもない。 しかしながら,本件犯行は,被告人が,Aらから下の不始末を叱責されたうっ憤を晴らそうとした偶発的な犯行であって,Aに向けて物を投げ付けたり,わざわざAの目の前で,灯油を撒いて,カーペットに火を点けようとするなどした犯行の経緯をみても,自暴自棄的な気持ちから,自分を無視する態度を取るAに対する当てつけとして,自己の威勢を示し,恐れさせることに主たる動機があったものと認められるから,Aが玄関先に逃げ,止めに来なかったからといって,生じる結果の重大性も鑑みず,自らも居住する家屋を燃やしてしまおうと意欲したり,燃えることが確実であると認識しつつ行動したというのは,当時の れるから,Aが玄関先に逃げ,止めに来なかったからといって,生じる結果の重大性も鑑みず,自らも居住する家屋を燃やしてしまおうと意欲したり,燃えることが確実であると認識しつつ行動したというのは,当時の被告人の心情としてはいささか飛躍があること,このことは,被告人が,既に,灯油を家中に撒いていたにもかかわらず,外部から分かりにくい居室内ではなく,わざわざ外部から覚知しやすい玄関先において,犯行に及んでいることや,点火の前後にも古新聞を柱等に近づけるなどして,建物への延焼を容易にするような行動には全く出ていないことからも裏付けられていること,客観的な事実は別として,被告人自身は,戸外に逃げ出したAが未だ家の周辺にいると思い込んでいたものと認められること,被告人が,段ボール紙やジャンパーに燃え移らせることを明確に意図していたものとは認め難いこと,被告人は,咄嗟の措置として,不十分ながらも消火を試みているところ,積極的に家を燃やすつもりであれば,Aが消火活動に及ぶ前に,自主的に消火に及ぶとは考え難く,これは,被告人の予想を超えて火が広がったためといえること,犯行後の被告人の言動についても,予想以上の結果に対する開き直りか,警察官に苛立ちをぶつけたに過ぎないものと理解できることなどの事情が存し,これらの事情に照らすと,前記捜査段階の供述調書中,確定的故意を認めた部分については,被告人が,捜査官からの理詰めの説得に安易に応じて,作成された可能性を否定できない。 そうすると,他方で,未必的故意にとどまるとする被告人の前記公判供述は,これを一概に排斥することはできない。 以上のとおりであるから,被告人には現住建造物等放火の未必的故意が認められるにとどまるものというべきである。 したがって,被告人及び弁護人の主張には理由がある。 (法令の適用)被告人の きない。 以上のとおりであるから,被告人には現住建造物等放火の未必的故意が認められるにとどまるものというべきである。 したがって,被告人及び弁護人の主張には理由がある。 (法令の適用)被告人の判示所為は,刑法112条,108条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,判示の罪は未遂であるから同法43条本文,68条3号を適用して法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役3年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,内妻らと共に居住する自宅(借家)に放火しようとして,古新聞の束に点火して放火したが,内妻に消し止められたため未遂に終わったという現住建造物等放火未遂の事案である。 被告人は,長年,糖尿病等を患っていたことから,周囲から酒をやめるよう注意されていたのに,周囲の意見に耳を貸すことなく,昼間から大酒を飲んで外出した上,案の定,下の不始末をしでかして帰宅し,内妻らから,そのような大人げない行動を厳しく叱責されるや,かかる事態を招いた責任が,専ら,病気であるのに酒をやめられない自分自身にあることを棚に上げ,内妻らに八つ当たりをし,うっ憤晴らしのため,本件犯行に及んだものであって,身勝手かつ思慮に欠けた動機に酌量の余地はない。 犯行態様は,多くの可燃物が乱雑に置かれた玄関先において,古新聞の束にマッチで点火して燃え移らせ,玄関先のガラス戸にまで燃え移らせ,柱等をくん焼したというもので,極めて危険である。本件犯行現場は,住宅密集地にある木造家屋内であった上,被告人は,台所を中心に,家中に マッチで点火して燃え移らせ,玄関先のガラス戸にまで燃え移らせ,柱等をくん焼したというもので,極めて危険である。本件犯行現場は,住宅密集地にある木造家屋内であった上,被告人は,台所を中心に,家中に灯油を撒いていたことから,内妻による早期の消火活動が奏功しなければ,火が瞬く間に建物全体に広がり,周囲の民家等へ延焼していた可能性すらあったところである。また,被告人は,台所のカーペットに火が点かなかったのであるから,その時点で,犯行を思いとどまる機会があったにもかかわらず,性懲りもなく,燃えやすい古新聞を選んで火を点けたものであって,執拗かつ悪質である。 被告人は,健康上の理由から定職にも就かず,経済的には内妻を頼るばかりの生活をしていたところ,自ら仕事ができないのであれば,せめて,飲酒を控えて,慎,,,ましい生活を心がけるべきであるのに酒を飲んでは物を投げたりして暴れたり,,。 ,下の不始末を繰り返して家族に迷惑を掛けていたもので生活態度は悪いまた被告人は,平成11年2月,道路交通法違反(酒気帯び運転)で懲役3月,執行猶予3年に処せられたのに,その猶予期間の満了した直後に本件犯行に及んだものであって,この点においても犯情は悪質である。 したがって,被告人の刑事責任には重いものがある。 他方,本件は,酔余の上でなされた偶発的犯行であること,被告人には放火の確,,,,定的故意まではなかった上幸いにも未遂に止まっていること家主に対しては共済保険金17万円と,被告人の姉から被害弁償金10万円が支払われ,共済からなされる求償に対しても被告人側で誠実に対応することで,家主との間で示談が成立しており,家主の宥恕も得ていること,当初は,被告人と一緒に住むことは絶対になく,できるだけ長く刑務所に入れておいてほしいとすら述べていた しても被告人側で誠実に対応することで,家主との間で示談が成立しており,家主の宥恕も得ていること,当初は,被告人と一緒に住むことは絶対になく,できるだけ長く刑務所に入れておいてほしいとすら述べていた内妻が,現在では,被告人のことを宥恕し,酒を飲んで問題を起こさないことを条件に,長男共々,被告人と一緒に生活し,監督していく旨約していて,更生に向けた家族の援,,,,助が期待できること被告人は現在では本件犯行を真摯に反省しており今後は断酒に努める旨約していること,糖尿病等を患っていること,既に約7か月間,身柄拘束されており,事実上の制裁を受けていることなど被告人にとって有利に斟酌すべき事情もあることから,被告人に対しては,今回に限り,その刑の執行を猶予して社会内での更生の機会を与えた上,その更生に万全を期すべく保護観察に付するのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役3年)平成14年9月27日岡山地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官西田真基裁判官金子隆雄裁判官太田寅彦
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