平成24(ワ)2950 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年9月30日 千葉地方裁判所
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判決文本文14,152 文字)

平成24年(ワ)第2950号損害賠償請求事件平成26年9月30日千葉地方裁判所民事第3部判決口頭弁論終結日平成26年6月17日 主文 1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,936万5612円及びこれに対する平成23年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,連帯して,原告Bに対し,936万5612円及びこれに対する平成23年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを3分し,その1を原告らの,その2を被告らの負担とする。 5 この判決は1項及び2項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,2739万3583円及びこれに対する平成23年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,連帯して,原告Bに対し,2739万3583円及びこれに対する平成23年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,外国人技能実習生として,被告D株式会社(以下「被告会社」という。)において就労していた亡Cが,被告会社の従業員であった被告Eから暴行を受けて傷害を負い,外傷性くも膜下出血により死亡したことから,亡Cの父である原告Aと母である原告B(なお,原告Aと原告Bをあわせて「原告ら」という。)が,被告Eに対しては民法709条ないし711条に基づき,被告会社に対しては民法715条に基づき,損害賠償を求めている事案である。 1 前提事実 当事者間に争いがない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により,容易に認められる事実は,以下のとおりである。 亡C(1988 に基づき,損害賠償を求めている事案である。 1 前提事実 当事者間に争いがない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により,容易に認められる事実は,以下のとおりである。 亡C(1988年〔昭和63年〕●月●●日生)は,中華人民共和国(以下「中国」という。)国籍の男性であり,平成21年3月18日,外国人技能実習生として,日本に入国した。日本に入国後,亡Cは,被告会社において就労を開始し,平成23年2月28日には,亡Cが在留資格変更許可を受けるにあたり,被告会社との間で労働契約を更新した。(甲1,3の1・2) 被告E(昭和48年●月●●日生)も被告会社に勤務していた。 被告Eと亡Cとは折り合いが悪く,平成22年3月頃,亡Cと被告Eが被告会社の倉庫内で作業中,口論となり,もみ合いとなるというトラブルが発生した(以下「平成22年トラブル」という。なお,その具体的な状況については争いがある。)。これをきっかけに,被告会社の代表取締役であるFは,亡Cの就労場所を倉庫から加工場に変更した。 平成23年10月29日,倉庫内で,被告Eがフォークリフトの荷台(パレット)の整理作業のために,フォークリフトを運転していたところ,被告Eが運転するフォークリフトと亡Cが運転するフォークリフトが接触する事故が発生した(以下「フォークリフト事故」という。)。 フォークリフト事故後,被告Eは,パレットの整理作業を終えて,同じ倉庫内の貯氷庫内で,Fの作業を手伝うため,通称「つき」と呼ばれる鉄製の砕氷器具(以下「つき」という。)を持って,貯氷庫に向かっていたところ,亡Cに声をかけられた。その後,亡Cと被告Eとの間で言い合いになり,被告Eは,持っていた「つき」で,亡Cの左頸部を殴り,転倒した亡Cの左頸部等を数回足で踏みつけるな て,貯氷庫に向かっていたところ,亡Cに声をかけられた。その後,亡Cと被告Eとの間で言い合いになり,被告Eは,持っていた「つき」で,亡Cの左頸部を殴り,転倒した亡Cの左頸部等を数回足で踏みつけるなどの暴行を加えた(以下,当該暴行を「本件暴行」という。)。 亡Cは,本件暴行により左椎骨動脈断裂の傷害を負い,病院に搬送されたが,外傷性くも膜下出血により,同日,搬送先の病院で死亡した。 法の適用に関する通則法36条によれば,相続には,被相続人の本国法が適用されることから,亡Cの本国法である中華人民共和国継承法10条及び13条により,亡Cの相続人は父である原告A及び母である原告Bの2人であり,それぞれの相続分は2分の1ずつとなる。 また,不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は,法の適用に関する通則法17条により,亡Cの死亡という結果が発生した地である我が国の民法が適用される。 2 争点 被告会社の責任(「事業の執行について」の有無) 過失相殺(民法722条2項)の可否 損害額(滞在期間が限定されている外国人に対する損害賠償額の算定方法等)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(被告会社の責任(「事業の執行について」の有無))について【原告らの主張】本件暴行は,職場内において,業務時間中に行われたものであること,業務時間中に発生したフォークリフト事故に端を発していること,本件暴行に使用された「つき」は砕氷作業に必要不可欠な器具であるところ,砕氷作業は,被告会社の業務であること,被告Eは砕氷作業に向かう途中で本件暴行に至ったものであることからすると,被告Eの行為は,民法715条1項の「事業の執行について」されたものといえる。 【被告会社の主張】 務であること,被告Eは砕氷作業に向かう途中で本件暴行に至ったものであることからすると,被告Eの行為は,民法715条1項の「事業の執行について」されたものといえる。 【被告会社の主張】本件暴行は,フォークリフト事故に端を発しているが,時間をおいて発生しており,直後に発生したものではないこと,亡Cは,自身の作業場を離れて,あえて被告Eに接近し,自ら被告Eに声をかけ,口論となった末,本件暴行を受けるに至ったものであり,自ら呼び込んだ危難というべきであること,もと もと亡Cと被告Eは互いに悪感情を持っており,これが発展したものであることから,本件暴行は民法715条1項の「事業の執行について」されたものと評価することはできない。 2 争点(過失相殺(民法722条2項)の可否)【被告らの主張】被告Eと亡Cとの関係は,両名がもみあいになったという平成22年トラブルがきっかけで悪化していたこと,フォークリフト事故は,亡Cの無謀な運転に原因があったこと,にもかかわらず,亡Cは,被告Eを待ち伏せし,被告Eに対して暴言を浴びせ,両名は口論となったことから,亡Cが被告Eに接近した際,被告Eはもっていた「つき」を奪われて攻撃されるのではないかという強い恐怖感を覚え,とっさに「つき」を振り上げたところ,亡Cに命中したものである。被告Eは,自らの生命・身体に対する重大な危険が存在するものと思い,防衛すべく本件暴行に至った。 一方,亡Cは,平成22年トラブルの結果,亡Cが暴言を浴びせながら被告Eに接近すれば,被告Eが再び攻撃を加えられると危惧して反撃に至るであろうことは当然に予想できたのであるから,そのような行動を避けるべきであった。亡Cは,本件暴行を誘発する状態を作り出した。 したがって,公平の見地から,損害賠償額を定めるにあ 危惧して反撃に至るであろうことは当然に予想できたのであるから,そのような行動を避けるべきであった。亡Cは,本件暴行を誘発する状態を作り出した。 したがって,公平の見地から,損害賠償額を定めるにあたっては,亡Cの過失を考慮し,過失相殺がなされるべきである。 【原告らの主張】被告らの主張は争う。 亡Cと被告Eとの関係が悪化したのは,日頃から,被告Eが亡Cら中国人実習生を見下す態度を取り,あるいは無視をするなど数々の嫌がらせを行っていたことに原因がある。亡Cは,いじめられているような感じがすると悩んでいた。勤続年数の長い日本人の上司と,本国から離れ低賃金の実習生として来日した亡Cとの立場の違いからすると,被告Eと亡Cとの間に圧倒的な優劣関係 があったことは明らかである。平成22年トラブルの後,亡Cと被告Eとは異なる職場に配置されたが,その後も,被告Eは,亡Cに嫌がらせを行っていたもので,被告Eが亡Cを恐れていたとはいえない。 また,本件暴行の直前,亡Cは,被告Eにゆっくりと近づいており,襲いかかるわけでもなく,凶器となりうるものも所持していなかった。そばではFが作業をしており,亡Cが被告Eに,暴力をふるう意思はなかったと考えられるし,暴力をふるう様子もなかった。このように,そもそも急迫不正の侵害・危険などないのであるから,被告Eの行為は防衛行為と評価できないものであるし,一方,亡Cには過失と評価し得る行為はないから,公平ないしは信義則の見地から,過失相殺がなされる理由はない。 3 争点(損害額)について【原告らの主張】 以下のとおり,原告A及び原告Bに対して,被告らは,連帯して各2739万3583円(主張ママ)を支払う義務がある。 ア亡Cの損害 逸失利益 以下のとおり,原告A及び原告Bに対して,被告らは,連帯して各2739万3583円(主張ママ)を支払う義務がある。 ア亡Cの損害 逸失利益 2518万7156円亡Cは,被告会社で当時就労しており,実収入は203万7120円(本俸(時給760円×所定労働時間7.5時間)月額13万1000円,残業代手当(時給760円×月30時間)月額2万8500円,休日出勤手当(時給760円×10時間)月額1万0260円の合計)であること,死亡当時23歳であるから,就労可能年齢である67歳まで就労可能期間は44年間,一家の支柱として原告らに生活費を送金していたことから生活費控除率30%が相当である。 よって,死亡による逸失利益は以下のとおり算定される。 203万7120円×(1-0.3)×17.663(年5分の割合による44年間のライプニッツ係数)=2518万7156円 死亡慰謝料 2500万円亡Cは,収入を両親である原告らに生活費として送金しており,一家の支柱といえること,被告Eは以前から亡Cに対して嫌悪の感情をもち,亡Cにつらくあたり,フォークリフト事故に関しても侮蔑的な言動をしていること,これに抗議しようとした亡Cに対し真摯に対応しないばかりか,本件暴行に及んでいること,暴行態様も執拗であり,悪質であること,亡Cの年齢,将来は日本と中国でビジネスに従事したいという夢を絶ったこと,婚約者がいたことなどの事情を考慮すると,慰謝するには2500万円が相当である。 イ原告らの固有の損害各300万円中国においては,一人っ子政策がとられていたところ,原告らは,男児を切望し,すでに長女をもうけていた 00万円が相当である。 イ原告らの固有の損害各300万円中国においては,一人っ子政策がとられていたところ,原告らは,男児を切望し,すでに長女をもうけていたが,政府に対して罰金を支払い,亡Cをもうけ,養育してきたにもかかわらず,突然,本件暴行により亡Cを失ったものである。特に,原告Bは,精神的ショックが大きく,重度のうつ状態にある。これらの事情から,原告らが受けた精神的苦痛を慰謝するには,それぞれにつき300万円が相当である。 ウ既払額原告らは,死亡保険金として各350万円,計700万円の支払を受けている。 エ弁護士費用原告らは,本件訴訟の遂行につき,本件訴訟代理人と委任契約を締結し,報酬を支払う旨約しており,本件と相当因果関係がある損害は,各人の損害額の10パーセントにあたる280万円である。 確かに,亡Cは,在留期間が平成24年3月までであり,被告会社との雇用契約期間も同期間であるが,その後,亡Cが日本で就労する可能性が全くないものではない。 また,中国の経済成長に伴う物価水準及び賃金水準の上昇,日本における亡Cの実収入である203万7120円は,日本の賃金センサスに比し極めて低い水準であり,亡Cの中国帰国後の基礎収入が前記203万7120円を下回るとは言い難い。したがって,死亡逸失利益の算定にあたっては,基礎収入を203万7120円とすべきである。 仮にそうでないとしても,中国の物価水準や賃金水準の上昇傾向,亡Cが日本で技能実習制度により日本の高度な技術を習得し,その技術・経歴は,中国における就職にあたっても相当に高い評価を受け,応分の収入を得ることが推測されるから,収入は賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計・全年齢 度により日本の高度な技術を習得し,その技術・経歴は,中国における就職にあたっても相当に高い評価を受け,応分の収入を得ることが推測されるから,収入は賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計・全年齢・男子)の3分の1を下らないといえるところ,平成20年における賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計・全年齢・男子)は550万3900円であるから,その3分の1である183万4633円を下回るものではない。 また,精神的苦痛の程度は外国人と日本人で相違しない。所得水準や物価水準により慰謝料額を減額することは,損害の公平な分担の観点からも認めるべきではない。 【被告らの主張】原告らが主張する損害額につき争う。 亡Cは,外国人技能実習制度に基づき来日して就労していたもので,日本での滞在期間は平成24年3月までであり,以後は,中国に帰国せざるを得なかった。したがって,死亡逸失利益を算定するにあたり,基礎収入は平成24年3月までは日本における収入を,それ以降は,帰国後の本国において得られたであろう収入を基礎として算定すべきである。 また,亡Cが,原告らに対して,仮に生活費等を送金していたとしても,亡Cが帰国する平成24年3月までであったこと,原告Aは1960年生まれであり,働き盛りであって,特別高齢とはいえず,亡Cに頼らず自立して 生活を維持できない事情はうかがわれないのであるから,亡Cを一家の支柱と評価することはできない。したがって,生活費控除率は,独身男性として50パーセントとすべきである。 原告らが主張する死亡慰謝料は高額である。死亡慰謝料の算定にあたっては,日本人と外国人とを問わず,その支払をうける遺族の生活の基盤がどこにあり,支払われた慰謝料がいずれの国で費消されるのか,当該外国と日本との賃金水準,物価 は高額である。死亡慰謝料の算定にあたっては,日本人と外国人とを問わず,その支払をうける遺族の生活の基盤がどこにあり,支払われた慰謝料がいずれの国で費消されるのか,当該外国と日本との賃金水準,物価水準,生活水準など経済的事情の相違を考慮して算定すべきである。本件において,亡Cの日本の滞在期間は,平成24年3月までであり,その後は帰国予定であったこと,原告らもその生活基盤は中国にあり,今後も中国で生活をしていくことが予定されていること,このため,支払われる慰謝料も中国において費消されるものと推測されることから,中国の所得水準,物価水準などを考慮して決するべきである。 原告ら固有の損害である慰謝料についても前記と同様であり,原告らが主張する額は高額である。 第4 当裁判所の判断 1 前提事実,証拠(甲1,2,3の1・2,5ないし17,乙イ1,乙ロ6ないし9,10の1ないし13,証人G,原告A本人,被告会社代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 亡Cは,平成21年3月18日,外国人技能実習生として,日本に入国し,平成24年3月まで,被告会社で就労することとなった。亡Cは,就労当初,倉庫内で,梱包済の製品をフォークリフトで運ぶためのパレットに種類に分けて積む作業に従事した。 被告Eは,自動車整備会社での勤務を経て,被告会社に入社した。被告Eは,倉庫内で,パレットに積まれた製品を,フォークリフトを使って冷蔵庫に運ぶ作業に従事するようになった。被告Eは,製品をパレットに積んだ際の積み方のチェック,数量の確認なども行うため,亡Cと被告Eが一緒に作 業をし,このとき,被告Eが,亡Cに対して,作業内容等につき注意をすることもあった。 Fは,被告Eからは,亡Cが被告Eの指示に従わ ック,数量の確認なども行うため,亡Cと被告Eが一緒に作 業をし,このとき,被告Eが,亡Cに対して,作業内容等につき注意をすることもあった。 Fは,被告Eからは,亡Cが被告Eの指示に従わない旨の相談を受け,亡Cからは,被告Eからの注意を受けることについて,被告Eにいじめられているような気がするという相談を受けた。 平成22年3月頃,亡Cと被告Eが,倉庫内で作業中に口論となり,もみ合うという事態が起きた(平成22年トラブル)。この際,亡Cは,倒れた被告Eを殴ろうとしたが,騒ぎに気づいた従業員が駆けつけて,亡Cをとめた。 Fは,この騒ぎを他の従業員から聞き,亡Cと被告Eとが接触しないですむように,亡Cを魚の解体作業を行う部署に配置転換し,倉庫から離れた加工場で就労させることにした。 平成23年10月29日,倉庫内で,被告Eがパレット整理のため,フォークリフトを使って作業をしていたところ,亡Cがフォークリフトを運転して倉庫内に現れ,バックしていた被告Eが運転するフォークリフトと亡Cが運転するフォークリフトが接触する事故(フォークリフト事故)が発生した。 このとき,被告Eは,亡Cに向かって「ホーンを鳴らせ」と言った。 フォークリフト事故によるフォークリフトの損傷などはなく,亡C及び被告Eにけがもなかった。被告Eは,同事故後も,そのままパレットの整理作業を続けた。整理作業が終わった後,被告Eは,Fが貯氷庫で氷の出し入れの作業をしていたことから,これを補佐するために,いわゆる「つき」をもって貯氷庫に向かった。 ところが,途中で,被告Eは,亡Cに呼び止められた(フォークリフト事故から十数分後)。亡Cは,被告Eに対して,フォークリフト事故の際,何と言ったのか問いただすとともに,被告Eの方に近づいてきた ところが,途中で,被告Eは,亡Cに呼び止められた(フォークリフト事故から十数分後)。亡Cは,被告Eに対して,フォークリフト事故の際,何と言ったのか問いただすとともに,被告Eの方に近づいてきた。被告Eは「ホーンを鳴らせ」と言ったと答えたが,さらに,亡Cが「あなたに言われるこ とはない。」などと言いながら,被告Eに近づいてきたことから,被告Eは,持っていた「つき」で亡Cの左頸部を殴り,転倒した亡Cを足で踏みつけた。 近くにいたFは,被告Eのそばへ駆け寄り,被告Eを押さえるとともに殴るんじゃないと声をかけた。 Fに声をかけられ,冷静になった被告Eは,自ら救急車を手配し,亡Cを病院に搬送した。しかし,亡Cは,本件暴行により左椎骨動脈断裂の傷害を負い,同日,搬送先の病院で外傷性くも膜下出血により死亡した。 2 争点について前記認定した事実関係からすると,本件暴行は,被告会社の事業所内において,業務時間内に発生したものであること,本件暴行のきっかけは,被告Eの運転するフォークリフトと亡Cが運転するフォークリフトが接触した事故にあること,被告Eは,その業務として,フォークリフトを運転して,パレットを積む,冷蔵庫に運ぶなどの作業に従事しており,フォークリフト事故当時,被告Eはフォークリフトを使ってパレットを整理していたものであること,フォークリフト事故から本件暴行まで,十数分しか時間が空いていないこと,本件暴行の直前,被告Eは,Fの作業を補佐するために貯氷庫に向かっていたことが認められる。 これらの事実関係からすると,本件暴行は,被告Eの職務執行中に起きたフォークリフト事故を契機として,これと密接な関連を有すると認められる行為といえるから,民法715条1項の「事業の執行について」加えられたものというべきであ ,本件暴行は,被告Eの職務執行中に起きたフォークリフト事故を契機として,これと密接な関連を有すると認められる行為といえるから,民法715条1項の「事業の執行について」加えられたものというべきである。 この点,被告会社は,本件暴行は,被告Eと亡Cが互いに悪感情を持っており,これが発展したものであると主張する。確かに,前記認定事実からは,被告Eと亡Cは,従前から関係が良好でなかったこと認められる。しかし,そもそも両者の関係は,被告会社の従業員であることを前提にしており,また,関係が良好ではないのは,従前,被告Eの作業と亡Cが一緒に作業をした際など に,被告Eが亡Cの作業内容に注意をし,これに亡Cが反発して,従わないことが繰り返されたためであることが認められる上に,本件暴行は,このような悪感情を素地としつつ,直接的には,フォークリフト事故を契機として行われたものであるから,本件暴行は「事業の執行について」されたものというべきである。 3 争点について前記で認定した事実関係からは,本件暴行は,その直前に発生したフォークリフト事故が契機となっているところ,亡Cは,別の作業に向かう途中の被告Eを待ち受けていて,呼び止め,自ら被告Eに近づいていき,前記事故について不満をぶつけようとしたことがうかがわれる。そして,従前から,亡Cと被告Eとの関係は良好でなく,現に,亡Cと被告Eは,平成22年トラブルを起こしていることからすれば,フォークリフト事故後の亡Cの行動は,被告Eとの間で新たなトラブルを引き起こす危険を伴うものであったといえる。 しかし,一方で,亡Cが被告Eを呼び止めた際,亡Cは素手であったこと,呼び止めた後,亡Cが被告Eに対して近づいていったものの,暴行を加える意思がうかがわれるような態様であったことを認め る。 しかし,一方で,亡Cが被告Eを呼び止めた際,亡Cは素手であったこと,呼び止めた後,亡Cが被告Eに対して近づいていったものの,暴行を加える意思がうかがわれるような態様であったことを認めるに足りる証拠はないことからすると,被告Eが,平成22年トラブルの経験から,亡Cと対峙した際に恐怖心を感じたとしても,当時,被告Eが亡Cから危害を加えられるような客観的な状況にあったとはいえない。 もともと民法722条2項は,公平の見地から設けられた規定であるところ,前記のとおり,本件暴行が亡Cを死亡させる結果を招いた重大なものであること,上記のとおり,亡Cの行動にトラブルを引き起こす要素が含まれていたとしても,これにより被告Eが亡Cから危害が加えられるような客観的状況をもたらしたとはいえないことからすれば,上記亡Cの行動をもって,過失相殺すべき事情に当たるとはいえず,慰謝料を算定するに当たって考慮される諸般の事情の1つとして斟酌すれば足りると解するのが相当である。 したがって,過失相殺に関する被告らの主張は採用できない。 4 争点について 亡Cの損害ア逸失利益前記で認定したとおり,亡Cは,外国人実習生として,平成24年3月までに期間を限定して日本に入国した外国人である。一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定するにあたっては,当該外国人がいつまで我が国に居住して就労するか,その後はどこの国に出国してどこに生活の本拠を置いて就労することになるか等の点を証拠資料に基づき相当程度の蓋然性が認められる程度に予測し,将来のあり得べき収入状況を推定すべきこととなり,予測される我が国での就労可能期間ないし滞在可能期間内は,我が国での収入等を基礎とし,その後は想定される出国先( 度の蓋然性が認められる程度に予測し,将来のあり得べき収入状況を推定すべきこととなり,予測される我が国での就労可能期間ないし滞在可能期間内は,我が国での収入等を基礎とし,その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的である(最高裁判所平成9年1月28日判決・民集51巻1号78頁)。 これを本件についてみるに,亡Cは,外国人実習生として平成24年3月までの予定で我が国に入国し,実習期間終了後は,母国である中国に帰国し,帰国後就職することが予定されていたものである。そうすると,亡Cが死亡した平成23年10月29日から出国予定であった平成24年3月18日までの期間の逸失利益については,我が国における亡Cの収入をもって,逸失利益算定の基礎収入とし,平成24年3月19日以降,就労可能期間である67歳までは,中国に帰国し,就職した際に予想される収入をもって,逸失利益の基礎収入とするのが相当である。 本件の場合,前記認定したとおり,亡Cと被告会社は,平成23年2月に労働契約を更新しており,これに基づくと平成23年4月から平成23年10月までの総支給額は105万0634円であることが認め られ(乙ロ4),そうすると,年収は180万1080円(105万0634円÷7か月×12か月)と認められ,これをもって亡Cの我が国における収入と考えるのが合理的である。 次に,亡Cが実習終了後,母国である中国に帰国し,中国で就職した際に得られるであろう収入について検討する。 甲31の1(H有限公司による証明書)には,亡Cが,中国で就労していた際の収入は,2008年(平成20年)2月5300元,同年3月5530元,同年4月5650元であった旨の記載がある。他方で,亡Cが自ら記載した履歴書 司による証明書)には,亡Cが,中国で就労していた際の収入は,2008年(平成20年)2月5300元,同年3月5530元,同年4月5650元であった旨の記載がある。他方で,亡Cが自ら記載した履歴書(乙ロ6,原告A本人)には,職歴として別の会社が記載されており,その翻訳書面(乙ロ7)には,手書きで1000元という記載がされている。そして,Fは,この記載について,亡Cを含む中国人研修生の受入機関であるI協同組合の担当者が,亡Cとの面接をした際,亡Cから中国での収入が1000元であったと聞いたため,その旨を記載したものであると供述している。しかし,上記履歴書は,その職歴欄を見ると,就職先の記載に訂正がされ,しかも訂正前の会社名と訂正後の会社名は全く異なり,仕事内容も全く異なるものとなっている。また,上記履歴書には,亡Cの学歴は中学卒業と記載されているが,亡Cについて,職業中等専門学校の卒業証書が証拠として提出されており(甲32),これとも矛盾する内容になっている。このように,上記履歴書は,その信用性に疑問を生じさせるものであり,亡Cが何らかの理由で,虚偽の記載をしたものと考えられる。そして,面接において,収入が月額1000元であった旨答えたという点についても,虚偽の学歴,職歴につじつまの合う収入を答えた可能性もあり,上記のH有限公司による証明書(甲31の1)の証拠力を減殺するには至らないと考える。 もっとも,上記証明書は,3か月分の給与証明にとどまり,継続的に 同程度の給与を得ていたか否か,その後も同程度の給与を得る見込みがあったのか否かは明らかとはいえない。また,同証明書には,その金額は基本給に歩合を加えたものであると記載されており,その給与額は当該月の成績に左右されることが前提となっている。しかも,上記就業先は,製薬会社 否かは明らかとはいえない。また,同証明書には,その金額は基本給に歩合を加えたものであると記載されており,その給与額は当該月の成績に左右されることが前提となっている。しかも,上記就業先は,製薬会社であり,亡Cが営業職であったことが,その給与額が高かった一因のようであるが(原告A本人。中国における平成24年の平均賃金は,都市部民間企業労働者でさえも46万0032円〔乙イ4〕であり,当時の為替レート1元=約13円〔公知の事実〕によれば月額2948元である。),亡Cが利用した外国人実習生の制度の趣旨に照らせば,亡Cは,中国に帰国した後は,日本で習得した水産加工業の技術を活かし,水産加工業の仕事に就くことが予想されるところ(F),中国における水産加工職の給与は高くないという実態もある(乙ロ11。 この中で,一企業の実例として,月額700~800元という記載がある。)。 そして,この点を重視すれば,中国の水産加工職の給与を基準とすることも考えられるが,亡Cが,中国に帰国後,低い給与水準を嫌い,別の業種の仕事に就く可能性や別の業種に転職する可能性も相当程度あると思われ,今回の研修によって,日本語を一定程度習得しており,これが中国における就職に有利な条件になり得ることや,中国において賃金水準の上昇が見込まれることも考え併せれば,少なくとも,現在の中国の水産加工職の給与を基準とすることは相当でない。 このように,亡Cが,中国に帰国した後,中国で就職した場合の収入については,不確定要素が多いが,本件における上記各事情を踏まえて考えれば,亡Cの来日前の前記収入を基準として,中国に帰国した後の予想収入(長期的なもの)を算定するのが最も適切と考える。 そして,来日前の収入は,月額5493元(年収6万5916元)で あるから,口頭弁論終結時である平 入を基準として,中国に帰国した後の予想収入(長期的なもの)を算定するのが最も適切と考える。 そして,来日前の収入は,月額5493元(年収6万5916元)で あるから,口頭弁論終結時である平成26年6月の平均為替レート(1元=17円〔公知の事実〕)を乗じると,その金額は112万0572(年収)となる。 この点,原告らは,亡Cが日本で就労する可能性が全くないわけではないこと,中国の経済成長に伴う物価水準及び賃金水準の上昇,亡Cの実収入は,日本における賃金センサスに比し極めて低い水準であることから,帰国後の期間も含めて,日本での実収入を基礎収入として逸失利益を算定すべきであると主張する。しかしながら,前記のとおり,逸失利益の算定にあたっては,蓋然性が認められる必要があるところ,本件記録上,亡Cが日本で就労する蓋然性があったと認めるに足りる証拠はない。また,中国の経済成長に伴う物価水準及び賃金水準が上昇していること自体は認められるものの,今後,どの程度物価水準及び賃金水準が上昇するかは不確定であること,このことをもって直ちに我が国における実収入あるいは原告らが主張する賃金センサスによって,逸失利益の算定基礎収入とする理由とはならない。よって,原告らの主張は採用できない。 そして,次に,前記認定したとおり,亡Cは,日本において単身で生活しており,配偶者もいなかったのであるから,生活費控除率は50パーセントとするのが相当である。 以上より,逸失利益は,以下のとおり計算され,合計である1007万8054円をもって,逸失利益とする。 死亡時(平成23年10月29日)から平成24年3月18日まで180万1080円×(1-0.5)×0.9523(1年間のライプニッツ)×5か月÷12か月=35万73 逸失利益とする。 死亡時(平成23年10月29日)から平成24年3月18日まで180万1080円×(1-0.5)×0.9523(1年間のライプニッツ)×5か月÷12か月=35万7326円平成24年3月19日から67歳まで112万0572円×(1-0.5)×17.2660(17.66 27-0.3967)(44年のライプニッツ-5か月のライプニッツ)=967万3898円イ死亡慰謝料死亡慰謝料は,死亡により被害者が被った精神的苦痛を慰謝するために認められものであり,精神的苦痛の程度等は日本人であろうと,外国人であろうと何ら異なるところはない。しかしながら,精神的苦痛を慰謝するための賠償金として算定するにあたっては,支払を受けることになる遺族の生活の基盤がある国,支払われた慰謝料が主に費消される国,当該国と日本の物価水準や生活水準等によって,貨幣価値が異なるのであるから,これらの要素も考慮して算定するのが相当である。 そして,本件暴行の態様やそれに至る経緯,亡Cの年齢,家族構成に加え,亡Cの遺族である原告らはいずれも中国国内に生活の基盤があること,亡C自身,実習期間が終了すれば,中国に帰国する予定であったこと,日本と中国とでは物価水準及び賃金水準に差があることを含む諸事情を総合して考慮すると,亡Cの死亡慰謝料は1300万円が相当である。 原告らの固有の損害本件暴行により,亡Cは死亡するに至ったもので,突然,原告らは子を亡くしたものであること,とくに,原告Bは,精神的衝撃が大きく,抑鬱症と診断されていること(甲35),原告Bに付き添うため,原告Aは退職せざるを得なかったこと(甲33),原告らは,中国に生活の基盤があること,中国と日本では物価水準等に違 ,精神的衝撃が大きく,抑鬱症と診断されていること(甲35),原告Bに付き添うため,原告Aは退職せざるを得なかったこと(甲33),原告らは,中国に生活の基盤があること,中国と日本では物価水準等に違いがあることなどを考慮すると,原告らが被った精神的苦痛を慰謝するには,各50万円が相当である。 損害の填補と損害額(弁護士費用)以上のとおりであり,前記(1)(2)の各損害を合計すると2403万1224円となる。 ところで,原告らは,外国人技能実習生総合保険から死亡保険金として各 350万円(合計700万円)を受け取っている(甲14)ことから,同額を控除すると,1703万1224円となる。 そして,原告らは,本件訴訟の遂行のため,代理人弁護士を委任しており,前記損害額の10パーセントをもって,本件と相当因果関係がある損害とするのが相当であるから,170万円となる。 以上によれば,本件における損害額総額は1873万1224円(うち原告ら固有の損害額は110万円)となり,原告らは亡Cの損害賠償債権を各2分の1ずつ相続するから,原告らの損害賠償債権は,各936万5612円(うち原告ら固有の損害賠償債権は55万円)となる。 第5 結論原告らの請求は各936万5612円の支払いを求める限度で理由があり,その余の請求は理由がない。 よって,主文のとおり,判決する。 (裁判長裁判官裁判官瀬戸啓子裁判官大谷太)

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