平成20(く)281

裁判年月日・裁判所
平成20年6月18日 東京高等裁判所 棄却
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判決文本文3,443 文字)

20く281東京高裁平成20・6・18316条の20第1項棄却 主文 本件即時抗告を棄却する。 理由 本件抗告の趣意は,弁護人B,同C作成の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから,これを引用する。 論旨は,要するに,弁護人が刑訴法316条の17第1項の主張明示義務を果たしていないとして,刑訴法316条の20による主張関連証拠の開示命令請求を認めなかった原決定は,刑訴法316条の17の解釈適用を誤ったものであるから,その取消しと証拠の開示を命じる決定を求めるというのである。そこで,所論にかんがみ,以下検討する。 本件証拠開示命令請求の概要(1)一件記録によると,本件公訴事実の要旨は,被告人が,共犯者らと共謀の上,被害者を被保険者とする生命保険契約に基づく死亡保険金を取得する目的で,被害者を病死に見せかけて殺害しようと企て,平成12年7月中旬ころから同年8月12日ころまでの間,被害者に対し,殺意をもって,酒類を多量に飲酒させて肝機能を低下等させた上,同日午後7時ころから翌13日午前2時ころまでの間,共犯者方他一か所で,更に飲酒させ,酩酊した被害者の口内にアルコール分約96度のウオッカ入りの酒瓶の注ぎ口を押し込んで,そのウオッカを強いて飲用させ,同人を高濃度アルコール摂取による呼吸不全により死亡させて殺害したという殺人の事案である。 なお,被告人は,別件の監禁,強盗殺人未遂,現住建造物等放火未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反,強盗致死,覚せい剤取締法違反,逮捕監禁,殺人,公務執行妨害,窃盗被告事件(以下「別件殺人等被告事件」という。)について,平成15年2月24日,宇都宮地方裁判所において,死刑判決を受け,同判決が控訴,上告を経て確定しているところ,同判決で認定された犯罪事実は,平成11年から12年にかけての 告事件」という。)について,平成15年2月24日,宇都宮地方裁判所において,死刑判決を受け,同判決が控訴,上告を経て確定しているところ,同判決で認定された犯罪事実は,平成11年から12年にかけてのものである。 (2)弁護人は,公判前整理手続において,公訴事実記載の飲酒させる行為の一部は殺人行為に当たらないことや,被害者の死亡との因果関係を争う主張をしたほか,次のとおり,責任能力を争う主張を明らかにした。 「被告人は,平成11年1月ころから覚せい剤を使い始め,本件犯行時にかけて,ほぼ毎日のように覚せい剤を使用していた。その覚せい剤の量は,1回につき0.2ないし0.3gと多量であった。平成12年8月12日にも,共犯者方に行く前に服用している。犯行当時は,幻覚妄想状態ないし急性の意識変容と精神運動性興奮状態にあり,限定責任能力であった疑いがある。」(3)弁護人は,この主張との関連で,刑訴法316条の20に基づき,次の証拠の開示を求めた(ただし,別件殺人等被告事件の確定裁判で証拠とされたものは除く。)。 ①平成12年ないしその2ないし3年前ころに,被告人が覚せい剤にかかわっていたこと(覚せい剤の入手,使用,所持,譲渡等関わりの形態を問わない。)を示すすべての証拠。 例えば,覚せい剤との関わりを述べる被告人の供述調書,同じく被告人と覚せい剤との関わりを述べる第三者の供述調書,被告人と覚せい剤との関わりを示す捜査報告書等。 ②上記①の時期に,被告人が通常人とは違った言動(おかしな言動や極めて粗暴な言動等)をしたり,そのような様子を示していたことを示すすべての証拠。例えば,その旨述べる被告人の供述調書,被告人のそのような言動や様子を見た者の供述調書,それを示す捜査報告書等。 (4)これに対し,検察官が,予定主張事実が具体的に明示されてお すすべての証拠。例えば,その旨述べる被告人の供述調書,被告人のそのような言動や様子を見た者の供述調書,それを示す捜査報告書等。 (4)これに対し,検察官が,予定主張事実が具体的に明示されておらず,関連性及び開示の必要性が認められないとして,開示に応じなかったことから,弁護人は,刑訴法316条の26第1項に基づき,裁判所に証拠開示命令を請求し,これを棄却した原決定に対し本件即時抗告を申し立てたものである。 当裁判所の判断(1)刑訴法316条の20第1項による証拠開示の請求は,同法316条の17第1項の主張を前提とするところ,本件において,弁護人は,一応,上記1(2)記載のとおり,被告人が本件当時,覚せい剤の使用による幻覚妄想状態ないし急性の意識変容と精神運動性興奮状態にあり,限定責任能力であった疑いがある旨の主張を明らかにしている。しかし,覚せい剤使用による精神障害が責任能力に影響を及ぼすのは限られた場合であることからすると,弁護人の主張が,本件当時被告人に精神障害を疑わせる症状が生じていたことについて具体的に指摘することなく,上記のような概括的なものにとどまる場合には,限定責任能力の疑いを生じる可能性があることが適切に主張されているとはいえず,鑑定等の証拠調べの要否を判断する前提としても不十分である。また,この主張内容では,弁護人が開示を求める①及び②の証拠との関連性がないとまではいえないものの,主張が具体性を欠くために,刑訴法316条の20第1項にいう「その関連性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度」が明らかになっておらず,証拠との関連性及び開示の必要性の程度と「当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度」を具体的に考慮して,開示の相当性を判断する前提としても,不十分という 性の程度」が明らかになっておらず,証拠との関連性及び開示の必要性の程度と「当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度」を具体的に考慮して,開示の相当性を判断する前提としても,不十分というほかはない。特に,本件において,弁護人は,既に確定した被告人の別件殺人等被告事件における公判未提出証拠を開示請求の対象としているところ,このような別件の記録について開示を求める以上,具体的な主張を明確にし,その主張との関連性と開示の必要性を明らかにして,開示の弊害を考慮してもなお開示することが相当であることを示す必要性は,一層高いというべきである。 (2)所論は,弁護人において,「犯行時,覚せい剤使用による幻覚妄想状態ないし意識変容,精神運動性興奮状態にあったために,事理弁識能力又は行動制御能力が著しく減弱していた」として,覚せい剤使用によりどのような精神障害が生じ,それが犯行にどのような影響を与えたかについて具体的な主張をしているのであるから,争点及び証拠の整理に十分であるというが,上述のとおり,所論のようには解されない。もとより,被告人の精神障害について,専門的な分析に基づき詳細な基礎事実を明らかにすることは,鑑定等によらない限り困難であり,公判前整理手続の段階では,弁護人にそこまでの主張の明示を求めることができない場合が多い。しかし,弁護人としては,既に開示された証拠の内容や,被告人及び関係者からの聴取等に基づき,本件当時,被告人に幻覚妄想や意識変容,精神運動性興奮状態が生じていたことを疑わせる具体的事実を主張することは可能であり,こうした事実の主張がなければ,被告人の責任能力を争点として取り上げ,これについて証拠調べを行う必要性が明らかにされたとはいえないから,本件における弁護人の上記主張内容は,争点及び証拠の整理という公判前整理 事実の主張がなければ,被告人の責任能力を争点として取り上げ,これについて証拠調べを行う必要性が明らかにされたとはいえないから,本件における弁護人の上記主張内容は,争点及び証拠の整理という公判前整理手続の目的に照らしても,不十分であるといわざるを得ない。 (3)以上によれば,本件における弁護人の責任能力に関する主張は,具体的主張の明示が不十分であり,また,主張と証拠との関連性の程度,当該開示の必要性の程度について疎明が不十分であるから,本件証拠開示命令請求を棄却した原判断に誤りは認められない。論旨は理由がない。 結論 よって,刑訴法426条1項により,本件即時抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・永井敏雄,裁判官・稗田雅洋,裁判官・兒島光夫)

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