主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 処分行政庁が平成25年11月11日,原告に対してした懲戒免職処分を取り消す。 2 処分行政庁が平成25年11月11日,原告に対してした退職手当を全部支給しないこととする退職手当支給制限処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,酒気帯び運転をしたことが地方公務員法32条,33条に違反し,同法29条1項1号ないし3号に該当するとして懲戒免職処分(以下「本件懲戒処分」という。)を受けるとともに,本件懲戒処分を受けたことを理由に企業職員の給与の種類及び基準に関する条例15条2項1号の規定により退職手当を全部支給しない旨の処分(以下,「本件退職手当支給制限処分」といい,本件懲戒処分と併せて「本件懲戒処分等」という。)を受けた原告が,本件懲戒処分等にはいずれも裁量権の逸脱,濫用があるから違法であるとして,被告に対し,本件懲戒処分等の取消しを求める事案である。 2 関係法令等の定め 地方公務員法29条職員が次の各号の一に該当する場合においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる。 一この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合二職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合三全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合30条すべて職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,且つ,職務の遂行に当っては,全力を挙げてこれに専念しなければならない。 たるにふさわしくない非行のあった場合30条すべて職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,且つ,職務の遂行に当っては,全力を挙げてこれに専念しなければならない。 31条職員は,条例の定めるところにより,服務の宣誓をしなければならない。 32条職員は,その職務を遂行するに当って,法令,条例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且つ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。 33条職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。 企業職員の給与の種類及び基準に関する条例15条1項(省略)2項退職をした者が次の各号のいずれかに該当するときは,当該退職をした者に対し,当該退職に係る退職手当の全部又は一部を支給しないこととすることができる。 1号地方公務員法第29条の規定による懲戒免職の処分その他の職員としての身分を当該職員の非違を理由として失わせる処分(次項において「懲戒免職等処分」という。)を受けた者 2号(省略)3項ないし5項(省略) 広島市職員倫理条例5条1項市長は,第3条に掲げる倫理原則を踏まえ,職員の職務に利害関係を有する者からの贈与等の禁止及び制限等職員の職務に利害関係を有する者との接触その他市民の疑惑や不信を招くような行為の防止に関し職員の遵守すべき事項その他の職員の職務に係る倫理の保持を図るために必要な事項に関する規則(以下「職員倫理規則」という。)を定めるものとする。 2項(省略) 広島市職員倫理規則2条職員は,広島市職員としての誇りを持ち,かつ,その めに必要な事項に関する規則(以下「職員倫理規則」という。)を定めるものとする。 2項(省略) 広島市職員倫理規則2条職員は,広島市職員としての誇りを持ち,かつ,その使命を自覚し,第1号から第3号までに掲げる倫理条例第3条の倫理原則とともに第4号及び第5号に掲げる事項をその職員に係る倫理の保持を図るために遵守すべき規準として,行動しなければならない。 職員は,勤務時間外においても,自らの行動が公務の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならない。 広島市における懲戒処分の標準例Ⅰ 基本事項 1 処分量定について具体的な処分量定にあたっては, 非違行為の動機,態様及び結果 故意又は過失の程度 非違行為を行った職員の職責 他の職員及び社会に与える影響 過去に非違行為を行っているか等を総合的に判断したうえ決定する。 2 処分の加重について懲戒処分を行う場合において,次のいずれかの事由があるときは,標準例よりも重い処分量定とすることができる。 職員が行った行為の態様等が極めて悪質であるとき 職員が管理又は監督の地位にあるとき 職員が過去に懲戒処分を受けたことがあるとき 3 処分の軽減等について懲戒処分を行う場合において,次のいずれかの事由があるときは,標準例よりも軽い処分量定とするか又は処分を行わないことができる。 職員の日頃の勤務態度が極めて良好であるとき 職員が自らの行為が発覚する前に自主的に申 があるときは,標準例よりも軽い処分量定とするか又は処分を行わないことができる。 職員の日頃の勤務態度が極めて良好であるとき 職員が自らの行為が発覚する前に自主的に申し出たとき 職員が行った行為の非違の程度が軽微である等特別な事情があるときⅡ 標準例 4 交通事故・交通法規違反関係 酒酔い運転又は酒気帯び運転(以下「飲酒運転等」という。) ① 飲酒運転等をした職員は,免職とする。ただし,特段の事情があるときは,停職とすることができる。 ②(省略) 3 前提事実(当事者間に争いがないか又は弁論の全趣旨及び後掲の証拠により容易に認定できる事実) 当事者等原告は,本件懲戒処分等を受けた当時,広島市水道局配水部a工事事務所に勤務する水道局職員であった。 原告による酒気帯び運転原告は,平成25年9月18日午前0時27分頃,広島市b 区cd 丁目e 番付近の市道上で自動車を運転していたところ,同自動車の前照灯の片方が点灯していなかったため,警ら中のパトカーに停止を求められた。その際,酒臭がすることから飲酒検知を受けた結果,原告の呼気から,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムのアルコールが検出された(以下,原告が呼気1リットル当たり0.2ミリグラムの酒気を帯びて自動車を運転していた行為を「本件酒気帯び運転」という。)。 その後,原告は,本件酒気帯び運転により,罰金30万円の刑罰に処せられた(乙9,乙14)。 本件懲戒処分等ア処分行政庁は,平成25年11月11日,原告に対し,本件酒気帯び運転が地方公務員法32条,同法33条の規定に違反し,同法29条1項1号ないし (乙9,乙14)。 本件懲戒処分等ア処分行政庁は,平成25年11月11日,原告に対し,本件酒気帯び運転が地方公務員法32条,同法33条の規定に違反し,同法29条1項1号ないし同3号に該当するとして本件懲戒処分をするとともに,本件懲戒処分を受けたことを理由に企業職員の給与の種類及び基準に関する条例15条2項1号により退職手当を全部支給しない旨の本件退職金支給制限処分 をした。 イ本件懲戒処分の懲戒処分説明書(甲2)及び本件退職金支給制限処分の退職手当支給制限処分書(甲3)には,本件懲戒処分等をした理由として,本件酒気帯び運転は「地方公務員法第32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)及び第33条(信用失墜行為の禁止)の規定に違反し,同法第29条(懲戒)第1項第1号,第2号及び第3号に該当する。また,本件は,人身事故,物損事故には至っていないものの,次に掲げる態様等を考慮すると,非違の程度は重いと言える。」として,次に掲げる態様として,下記の態様を記載していた。 記 1 帰宅するため,必ず自家用車を運転することが分かっていたにもかかわらず車内で飲酒していること 2 酒気を帯びた状態で安芸郡f 町から,自宅のあるg 区h町i までの相当長い距離を運転しようとしていたものであり,決して危険性の低い行為であったとは言えないこと 3 昭和50年に飲酒運転で事故を起こして現行犯逮捕され,停職60日の懲戒処分を受けたことがあるにもかかわらず,本件酒気帯び運転をしていること 4 全庁を挙げて飲酒運転を防止するために個別面談を実施する中,飲酒運転の危険性及びアルコールの代謝時間等について認識を深め,さらに,上司と話合いの上,飲酒運転防止のための取組を設定したにもかかわ 4 全庁を挙げて飲酒運転を防止するために個別面談を実施する中,飲酒運転の危険性及びアルコールの代謝時間等について認識を深め,さらに,上司と話合いの上,飲酒運転防止のための取組を設定したにもかかわらず,そのすぐ後の9月18日に本件酒気帯び運転を行っていること 5 酒気帯び運転で検挙されたにもかかわらず,上司への報告を怠っていたこと 本件訴訟提起に至る経緯原告は,平成26年2月18日,本件懲戒処分等の取消しを求めて,広島地方裁判所に本件訴訟を提起した。 4 争点及びこれに関する当事者の主張 懲戒事由の該当性【被告の主張】ア原告の身分上の上司である水道事業管理者及び職務上・身分上の上司である所長は,原告に飲酒運転をしないように厳重に注意していたものであるから,本件酒気帯び運転は上司の職務上の命令に違反するものとして地方公務員法32条に定める法令等及び上司の職務上の命令に従う義務規定に違反する。 また,本件酒気帯び運転は,刑罰法令,服務規程及び職務命令違反であって,広島市及び広島市職員全体の信用を傷付け,かつ不名誉となる行為であるから,地方公務員法33条に定める信用失墜行為の禁止規定に違反する。 イそうすると,本件酒気帯び運転は,法令である地方公務員法32条,33条に違反することから同法29条1項1号の懲戒事由に該当し,法令(刑罰法令を含む。),服務規程及び上司の職務命令に違反しないように行動すべき職務上の義務に違反しているから同条同項2号の懲戒事由に該当し,同法33条違反となる信用失墜行為と同義と解されている「非行」に当たるから同法29条1項3号の懲戒事由に該当するといえる。 【原告の主張】ア地方公務員法32条違反について地方公務員法32条に 用失墜行為と同義と解されている「非行」に当たるから同法29条1項3号の懲戒事由に該当するといえる。 【原告の主張】ア地方公務員法32条違反について地方公務員法32条にいう職務上の命令は公務員の職務に関するものでなければならないところ,原告に対する飲酒運転 の禁止命令は,地方公営企業の技師である原告の職務内容に関する注意ではなく,しかも,本件は職務を離れた私的行為中の飲酒運転行為であるから,地方公務員法32条の職務命令違反とはなり得ない。 イ地方公務員法33条違反について地方公務員法33条の規定は,あまりにも抽象的であり,具体的にどのような行為が信用失墜行為に該当するか全く不明確である。 また,被告は,同条違反の行為が地方公務員法29条1項3号の「非行」と同義と主張するが,「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」とは,その職員の担当する具体的な職務に関連して行われる違法行為に限定されるべきである。 そもそも同条同項同号は,公務員の国民,住民に対する義務違反を問題にしているもので,公務員は,使用者としての国や公共団体との関係では全体の奉仕者との性格が要求されているわけではない。 したがって,公務外の行為である本件酒気帯び運転は,地方公務員法29条1項3号に該当する懲戒事由にはなり得ない。 本件懲戒処分に裁量権を逸脱,濫用した違法があるか。 【原告の主張】ア本件酒気帯び運転が地方公務員法29条1項各号の懲戒事由に該当するとしても,本件懲戒処分は,以下の事情を考慮すると,懲戒権を逸脱,濫用したものとして違法,無効である。 本件事件が大きく報道されたため,A 市長は個人的な憤りに駆られて通例より厳しい処分をした ,本件懲戒処分は,以下の事情を考慮すると,懲戒権を逸脱,濫用したものとして違法,無効である。 本件事件が大きく報道されたため,A 市長は個人的な憤りに駆られて通例より厳しい処分をした可能性があるが,これは他事考慮であり,本件懲戒処分の動機が違法である。 飲酒運転を防止するための面談票(乙23の1)は,研修資料のために作成され,処分の対象としない,公表しないという約束であったから,面談票に記載した内容を処分理由として考慮したことは,他事考慮であり違法である。 イまた,以下の事情を考慮すると,処分行政庁は,停職の懲戒処分などのより軽い処分にすべきであって,免職処分は,重きに失するというべきであるから,本件懲戒処分は,懲戒権の逸脱,濫用として違法である。 本件酒気帯び運転は,地方公営企業の執行を補助する職員が,職務外において,暑い日で喉が渇いていた上,眠気が生じたため,500ミリリットル缶ビール1缶を車内で飲酒したものの,飲酒後2時間程度仮眠したため,酔いは覚めた,アルコールは抜けたものと考えて運転したのであり,飲酒運転であると認識していなかった。 また,その飲酒量も缶ビール1本程度であり,体内のアルコール濃度も呼気1リットル当たり0.2ミリグラムであるから,酒気帯び運転に該当するものでしかなく,原告が酒気帯び運転したのは,距離にして約7キロメートル,時間にして15分という,短距離・短時間の運転であった上,交通事故も発生していない。 原告は,本件酒気帯び運転を深く反省している。 原告は,過去に飲酒運転により物損の交通事故を起こして停職の懲戒処分を受けているが,この事故から既に38年もの期間が経過しており,この事故を処分の量定に当たって重 深く反省している。 原告は,過去に飲酒運転により物損の交通事故を起こして停職の懲戒処分を受けているが,この事故から既に38年もの期間が経過しており,この事故を処分の量定に当たって重視すべきではない。 原告は,本件酒気帯び運転の前に飲酒運転についての注意 を受けたが,パンフレットに基づいて一般的な説明を受けただけのものであり,これを処分の量定に当たって重視すべきではない。 【被告の主張】以下の事情に照らせば,本件懲戒処分には裁量権の逸脱,濫用はなく,適法である。 ア本件酒気帯び運転は,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムのアルコールが検出され,原告は罰金30万円の刑事罰を受けたものであり,その情状は軽いものではない。 イ原告は,被告が全庁を挙げて飲酒運転根絶に取り組んでいることを認識し,上司との個別面談を受けて飲酒運転をしないと約束し,さらに,公務員倫理研修を受けて飲酒運転をしないように厳しく指導され,かつ飲酒運転した場合の免職や退職手当の支給制限などの不利益についてもよく認識していたのであるから,本件酒気帯び運転による職務上の義務の違背や非行の程度は著しく重いものである。 本件退職手当支給制限処分に裁量権を逸脱,濫用した違法があるか【原告の主張】ア上記【原告の主張】のとおり,本件懲戒処分は懲戒権の逸脱,濫用に当たり違法,無効であるから,同処分を前提とする本件退職手当支給制限処分にも裁量権の逸脱,濫用があり,違法である。 イ仮に本件懲戒処分が有効であるとしても,退職手当金は給料の後払的性格と退職共済掛金の対価としての性格を有しているところ,原告は,これまで退職共済掛金として多額な共済掛 金を納付しており,これ に本件懲戒処分が有効であるとしても,退職手当金は給料の後払的性格と退職共済掛金の対価としての性格を有しているところ,原告は,これまで退職共済掛金として多額な共済掛 金を納付しており,これを全額不支給とする本件退職手当支給制限処分は裁量権の逸脱,濫用であり,違法,無効である。 したがって,少なくとも,共済掛金及び給与の後払部分は支払われるべきである。 【被告の主張】企業職員の給与の種類及び基準に関する条例第15条第2項は,懲戒免職の処分を受けた者に対しては,「退職手当の全部又は一部を支給しないこととすることができる」と規定するところ,非違の発生を抑止するという制度目的に留意し,退職手当等の全部を支給しないこととすることが原則とされている。 本件は上記【被告の主張】のとおり,被告の飲酒運転根絶の取組みの最中に起こったものであり,かつ刑事処分上故意犯として処罰されているほか,同種事案での懲戒処分歴があることを考慮すると,退職手当一部不支給を選択する余地はなく,全部不支給とする処分が相当として選択された。 したがって,本件退職金支給制限処分は適法である。 第3 当裁判所の判断 1 前提事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 原告の被告における地位原告は,昭和48年4月,土木技術職として広島市水道局に入局し,本件懲戒処分等を受けた当時,主任技師を務め,平成27年3月末で定年退職が予定されていた。なお,広島市水道局の職員である原告には,地方公営企業法39条で適用除外が定められているほか,地方公務員法の規定が適用される。 被告における飲酒運転根絶の取組状況等 ア被告においては,平成18年5月に懲戒処分の標準例を改 法39条で適用除外が定められているほか,地方公務員法の規定が適用される。 被告における飲酒運転根絶の取組状況等 ア被告においては,平成18年5月に懲戒処分の標準例を改正し,飲酒運転処分基準を厳格化していたところ,平成18年8月に起きた幼児3名を死亡させた福岡市職員による飲酒運転事故以来,全国の自治体においても飲酒運転処分基準を厳格化した。 そして被告は,かねてから職員に対し飲酒運転の根絶を目指し,職員に対し酒酔い運転又は酒気帯び運転をしないよう,たびたび綱紀粛正通達や通知を発出していたが,飲酒運転による不祥事が頻発し社会的非難を受けるところとなっていた。(乙2ないし乙6,乙8ないし乙21)イそのような中,被告においては,飲酒運転根絶の取組の一環として上司と全職員の個別面談が実施され,原告は,平成25年8月5日,その面談を受けた。その際,原告は,過去2年以内に5回,アルコールが残っていると思いながら運転をしたことがある旨を面談者に申告し,面談者から今後飲酒運転しないよう注意され,その旨を約した(乙22,乙23の1,乙28,乙29)。 ウ原告は,平成25年9月4日,公務員倫理研修を受講したが,その研修のテキストには,不祥事の発生の防止のため,少量でも飲酒した場合には絶対運転をしてはならない旨が記載されていた。(乙25の1,2,3)エ原告が配付を受けた「飲酒と運転-飲酒運転を防止するために」と題する広島市企画総務局人事部人事課作成の冊子には,飲酒の影響は2時間くらいでは解消しないこと,飲酒運転をしたら懲戒免職になり,退職金も支給されない不利益があることが記載されていた。(乙24) オ上記アの飲酒運転処分基準が厳格化された後,被告においては,本件以前に10 こと,飲酒運転をしたら懲戒免職になり,退職金も支給されない不利益があることが記載されていた。(乙24) オ上記アの飲酒運転処分基準が厳格化された後,被告においては,本件以前に10件の飲酒運転による懲戒処分がされているが(処分年月日は平成21年8月27日から平成25年6月25日までのもの),6か月の停職処分となった2件を除き,その余はすべて懲戒免職処分となっている。(乙7)原告が本件酒気帯び運転で検挙された経緯(原告本人)ア原告は,広島県安芸郡f 町にある介護老人ホーム(以下「本件老人ホーム」という。)に入居している同人の母の見舞いに行くためとして,平成25年9月17日午後4時から年次有給休暇を取得し,同日午後4時10分頃に通勤にも使用していた原告所有の軽トラック(以下「本件車両」という。)を運転してa工事事務所の駐車場から退出した。 イ原告は,平成25年9月18日午前0時27分頃,広島市b区cd 丁目e 番付近の市道上で本件車両を運転していたところ,同自動車の前照灯の片方が点灯していなかったことを理由として,警ら中のパトカーに停止を求められ,その際,酒臭がすることから飲酒検知を受け,その結果,原告の呼気から,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムのアルコールが検出されて酒気帯び運転で検挙された。 ウ原告が警ら中のパトカーから停止を求められた地点は,原告が本件車両の車内で飲酒したとする本件老人ホーム駐車場から約7キロメートル走行した地点であり,また原告が警ら中のパトカーに停止を求められなければ,広島市g 区h 町にある自宅まで,さらに約23キロメートルの道のりを,本件車両を運転して帰る予定であった。 エ原告は,その当時,パトカーに停止を求められた場合には, 飲酒運転として検挙される可 h 町にある自宅まで,さらに約23キロメートルの道のりを,本件車両を運転して帰る予定であった。 エ原告は,その当時,パトカーに停止を求められた場合には, 飲酒運転として検挙される可能性があることの自覚はあった。 本件酒気帯び運転で検挙された後の原告の対応等ア原告は,酒気帯び運転で検挙された当初,取り調べた警察官に対し,コンビニエンスストアで350ミリリットルの缶ビールを購入して車内で飲酒した旨を説明していたが,後に飲酒量を500ミリリットルの缶ビールと説明を変えた。(原告本人)イ原告は,本件酒気帯び運転で検挙されたことを職場上司に報告せず勤務していたが,平成25年9月19日の夕方,勤務先の上司である人事課長から電話連絡を受け,そこで初めて,a工事事務所長に本件酒気帯び運転について報告した。しかし,同所長は,そのときまでに,警察からの連絡によって原告が本件酒気帯び運転によって検挙された事実を把握していた。(乙26,原告本人)ウ本件酒気帯び運転は,同月20日,21日の新聞紙各紙で大きく報道され,それ以前から被告職員の飲酒運転が続いていたこともあって,被告の市長は,同年10月1日,記者会見を開き,職員の不祥事について謝罪した。(乙9ないし乙11)本件酒気帯び運転検挙による刑事処分原告は,本件酒気帯び運転をしたことにより,罰金30万円の刑罰に処せられた。 原告の懲戒処分歴昭和50年12月,飲酒運転(呼気1リットルにつき0.45ミリグラムのアルコールが検知された。)により,車両衝突事故を起こして現行犯逮捕され,罰金刑に処せられるとともに,停職60日の懲戒処分を受けた。(乙31ないし乙34) (懲戒事由の該当性)について a 工事事務 より,車両衝突事故を起こして現行犯逮捕され,罰金刑に処せられるとともに,停職60日の懲戒処分を受けた。(乙31ないし乙34) (懲戒事由の該当性)について a 工事事務所長等は,原告に対して飲酒運転をしないように注意等していたから,本件酒気帯び運転は地方公務員法32条の上司の職務上の命令に反するものといえる。 これに対し原告は,飲酒運転をしないよう命令することは同法32条にいう職務上の命令に当たらない旨主張するが,同法32条にいう職務上の命令には,公務としての地位又は職務との関係において合理的な範囲内でなされなければならないというべきではあるが,職務の執行とは直接の関係を有しない命令も含まれると解すべきである。そうすると,飲酒運転をすることは,交通事故を発生させる危険が高まるなどした結果,職務に悪影響を及ぼすおそれがあるということができるから,飲酒運転をしないよう命令することは,公務としての地位又は職務との関係において合理的な範囲内の命令というべきであり,飲酒運転をしないよう命令することが同法32条にいう職務上の命令に当たらない旨の原告の主張は失当であって採用できない。 本件酒気帯び運転は,刑罰法令違反であって,広島市及び広島市職員全体の信用を傷付け,かつ不名誉となる行為であるから,地方公務員法33条に定める信用失墜行為の禁止規定に違反するものというべきである。 以上によれば,本件酒気帯び運転は,法令である地方公務員法32条,33条に違反することから,地方公務員法29条1項1号の懲戒事由に該当するものといえる。 また本件酒気帯び運転そのものは道路交通法に違反する行為であるし,また本件酒気帯び運転は,服務規程及び上司の職務命令に違反しないように行動する職務上の義務に違反しているも ものといえる。 また本件酒気帯び運転そのものは道路交通法に違反する行為であるし,また本件酒気帯び運転は,服務規程及び上司の職務命令に違反しないように行動する職務上の義務に違反しているも のであるから,同条同項2号の懲戒事由にも該当するものといえる。 地方公務員法33条違反となる信用失墜行為に該当するが,その信用失墜行為は同法29条1項3号の非行と同義と解され,酒気帯び運転は全体の奉仕者にふさわしくない非行であるといえるから,本件酒気帯び運転は同条同項同号の懲戒事由にも該当するというべきである。 以上によれば,本件酒気帯び運転は,地方公務員法29条1項1号ないし3号に該当し,原告には,地方公務員法所定の懲戒事由があるというべきである。 (本件懲戒処分に裁量権を逸脱,濫用した違法があるか)について 地方公務員につき地方公務員法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは,平素から庁内の事情に通暁し,職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に任されているものというべきである。すなわち,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を総合的に考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを,その裁量的判断によって決定することができるものと解すべきである。したがって,裁判所が上記の処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分 を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲 がって,裁判所が上記の処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分 を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り,違法であると判断すべきものである(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第3小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。 以上を前提に,上記1の各事実関係についてみると,本件酒気帯び運転は,原告の供述するところによっても,本件車両を運転して帰宅するしかない状況で車内において飲酒した上でなされたというものであるから,そこに酌むべき事情はないばかりか,原告は,酒気帯び運転の自覚のある状況で,検挙時までに相当の距離を走行し,検挙されなければ,さらに約23キロメートルを酒気帯び状態で本件車両を運転するという予定であったというのであるから行為態様は悪質といえる。 また原告の飲酒検知の結果は,呼気1リットル当たり0.2ミリグラムのアルコール分が検出されたというものであり,罰金30万円の刑事罰が科せられたというのであるから,全体の奉仕者である公務員としては十分非難に値する行為であるといえる上,本件酒気帯び運転は,公務員による飲酒運転に対する社会の目が厳しくなってきたことを背景に,被告における職員による飲酒運転根絶のための取組の最中になされたものであるため,被告に対する社会からのさらなる非難をも招いている。とりわけ原告自身については,被告における飲酒運転根絶の取組の一環としてなされた飲酒運転についての個別面談をして間もない時期に本件酒気帯び運転がなされた する社会からのさらなる非難をも招いている。とりわけ原告自身については,被告における飲酒運転根絶の取組の一環としてなされた飲酒運転についての個別面談をして間もない時期に本件酒気帯び運転がなされたという点で,その規範軽視の態度は甚だしく, 厳しい非難は免れない。 以上に加え,原告が昭和50年12月にも,飲酒運転による事故で現行犯逮捕をされて罰金刑を受けるとともに,停職60日の懲戒処分を受けた経験を有するものであること,本件酒気帯び運転について,職場上司への報告を怠っていたことなどの諸事情も併せ考えると,本件酒気帯び運転による事故発生は免れていることや,原告が,過去の懲戒処分後は真面目に定年近くまで勤務してきたことなどを原告に有利に斟酌したとしても,処分行政庁がした本件懲戒処分をもって,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したとは認められない。 なお,原告は,懲戒処分にするにしても,少なくともより軽い停職処分に止めるべきであるように主張するが,広島市の標準的な取扱いや過去の類似事件の処分事例(乙7)との比較においても,本件酒気帯び運転について懲戒処分としたことが,裁量権の逸脱,濫用であるとはいえない。 以上,検討したとおり,本件懲戒処分が処分行政庁の裁量権を逸脱,濫用してされたものということはできないから,本件懲戒処分は適法であって,原告の本件懲戒処分の取消請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。 なお,原告は,本件懲戒処分がされたのは,本件事件が報道されたことで,被告市長が個人的な憤りで通例より厳しい処分がされた可能性があるとして他事考慮ゆえに本件懲戒処分の違法,無効を主張しているが,そのような事実関係を認めるに足りる証拠はなく,原告の主張は憶測にすぎないからその主張 的な憤りで通例より厳しい処分がされた可能性があるとして他事考慮ゆえに本件懲戒処分の違法,無効を主張しているが,そのような事実関係を認めるに足りる証拠はなく,原告の主張は憶測にすぎないからその主張は採用できない。また原告は,面談票(乙23の1)の記載内容を本件懲戒処分の処分理由としたとして,これも他事考慮ゆえに本件懲戒処分 が違法となる旨主張しているが,そのような事実は,そもそもないから,原告の主張は失当である。 したがって,本件懲戒処分には取り消されるべき違法はないというべきである。 4 争点(本件退職手当支給制限処分に裁量権を逸脱,濫用した違法があるか)について 企業職員の給与の種類及び基準に関する条例15条2項柱書は,同項1号に該当する地方公務員法第29条の規定による懲戒免職の処分を受けた者に対し,当該退職に係る退職手当の全部又は一部を支給しないこととすることができる旨規定しているが,それ以上に具体的な定めはない。これは,懲戒処分を受けた者に対し退職手当の支給制限処分をするか否か,するとしていかなる程度の制限をすべきであるかを,退職手当の支給を管理する処分行政庁の裁量に任されているものと解されるから、結局,本件退職手当支給制限処分の適法性についても,上記3ころと同様に判断するのが相当である。 そこで検討するに,本件酒気帯び運転を理由に本件懲戒処分をした処分行政庁の判断が裁量権を逸脱,濫用したものとは認められないことは既に説示したとおりであるから,同じ事実関係を前提に検討するとき,原告があと1年余りで定年退職を迎え相当額の退職金の支給を受けることを見込まれていたこと等を斟酌したとしても,やはり退職手当の全部を不支給とする本件退職手当支給制限処分をした処分行政庁の判断が,社会観念上著 1年余りで定年退職を迎え相当額の退職金の支給を受けることを見込まれていたこと等を斟酌したとしても,やはり退職手当の全部を不支給とする本件退職手当支給制限処分をした処分行政庁の判断が,社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したとは認められないというべきである。 なお原告は,退職手当金は給料の後払的性格と退職共済掛金の 対価としての性格を有しているから,少なくとも,給与の後払部分と共済掛金は支払われるべきであると主張する。しかし,退職手当が給与の後払的性格を有するとしても,それはあくまで手当の性格の便宜的説明であって,そのような債権を観念できるわけではないし,また退職手当に本人負担の共済掛金は含まれてない以上,退職手当の全部を不支給とする本件退職手当支給制限処分に裁量権の逸脱,濫用が認められない本件においては,その一部に固有の債権があるかのように述べて支払を求める上記原告の主張は採用できない。 したがって,本件退職金支給制限処分には取り消されるべき違法はないというべきである。 5 以上によれば,本件懲戒処分及び本件退職金支給制限処分のいずれにも取り消されるべき違法はないから,原告の請求にはいずれも理由がないというべきである。 よって,原告の請求は,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官森崎英二 裁判官吉 岡 茂 之 裁判官土 山 雅 史 土山雅史
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