平成9(ワ)684 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成14年2月25日 神戸地方裁判所 姫路支部
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判決文本文28,475 文字)

判決平成14年2月25日神戸地方裁判所姫路支部平成9年(ワ)第684号損害賠償請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,金6601万9864円及びこれに対する平成7年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金6601万9864円及びこれに対する平成7年9月21日(症状固定日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,高速道路高架下立入防止柵内での草刈り作業中に,破損した草刈り機の刃の破片によって左下腿部を負傷した原告が,被告の開設する病院において,創傷処置を施され,入院して経過観察を受けていたところ,ガス壊疽を発症し,左足の膝関節下切断を余儀なくされたことについて,被告に診療契約上の債務不履行ないし不法行為があると主張して,債務不履行(民法415条)ないし不法行為(民法715条)に基づく損害賠償を請求している事案である。 2 前提となる事実(争いのある事実についてのみ証拠を掲記する。)(1) 当事者ア原告は,昭和48年10月22日生まれの男性である。 なお,原告は,平成4年3月に兵庫県立千種高等学校を卒業後,兵庫県山崎町内に本社のある八幡建設株式会社に就職し,建築工事の現場監督をしていたが,平成5年2月に,高速道路の維持管理を業とする株式会社大阪道路メンテナンスの下請企業である有限会社北川組に転職し,平成5年11月当時は,主に高速道路の舗装及びメンテナンスの仕 現場監督をしていたが,平成5年2月に,高速道路の維持管理を業とする株式会社大阪道路メンテナンスの下請企業である有限会社北川組に転職し,平成5年11月当時は,主に高速道路の舗装及びメンテナンスの仕事に従事していた(甲16)。 イ被告は,兵庫県宍粟郡に所在する5町(山崎町,安富町,一宮町,波賀町,千種町)で構成する病院事務組合であり,公立宍粟郡民病院(以下「被告病院」という。)を開設している。 なお,被告病院は,診療科目8科目(外科,内科,整形外科,眼科,小児科,放射線科,泌尿器科,リハビリテーション科)であり,勤務医師25名(常勤20名,非常勤5名),看護婦117名をもつ総合病院である(弁論の全趣旨)。 また,平成5年11月当時,被告病院では,土曜日の午後から日曜日にかけては,休日診療体制として,病院内で当直する医師が看護婦から異常の報告を受けたときに患者を診療し,また,病院の近くに住む整形外科医が,連絡があれば駆けつけられるように遠出をしないで待機するという態勢が採られていた(証人A)。 (2) 原告の受傷(甲3,5,16,丁1の1ないし5,丁3の1,原告本人)原告は,平成5年11月4日午後4時ころ(以下,平成5年中の年月日については,年の記載を省略することがある。),有限会社北川組の従業員として,高速道路高架下立入防止柵内で,エンジン付き草刈り機を使用して草刈り作業に従事していたところ,草刈り機の回転刃が草むらに隠れていた赤さびた廃棄鉄筋に当たって破損し,回転刃の破損片が飛んで,原告の左下腿部(膝頭の下の左横付近)に突き刺さり,左下腿切創(前脛骨筋断裂,前脛骨動静脈断裂)の傷害を負った(以下「本件受傷」という。)。 (3) 被告病院での診療経過(甲5,6, 飛んで,原告の左下腿部(膝頭の下の左横付近)に突き刺さり,左下腿切創(前脛骨筋断裂,前脛骨動静脈断裂)の傷害を負った(以下「本件受傷」という。)。 (3) 被告病院での診療経過(甲5,6,16,17,丁1ないし4〔いずれも枝番をすべて含む。〕,丁5,9,証人A,原告本人)ア診療契約の締結原告は,本件受傷後ほどなく(11月4日午後4時過ぎに)被告病院を受診し,もって,被告との間で,医療水準に則った治療を求める診療契約を締結した。 イ初診時の所見・問診内容など原告は,被告病院の整形外科外来において,A医師(以下「A医師」という。)の診察を受けた。初診時の所見は,左下腿部・膝下・約3横指の外側の位置にある約5センチメートルの長さの開放創で,出血しているというものであった。A医師は,受傷機転を尋ね,原告から,「草刈りの刃が割れて当たった」旨の報告を受けた。さらに,A医師は,局所麻酔下に創縁を約10センチメートルまで延長して内部を確認したが,開放創の中には,肉眼上異物が確認されず,汚染も認められなかった。しかし,A医師は,創が深く,筋肉・血管に達していたため,十分に創内部を観察し,筋肉や血管の損傷を処置するため,手術室において創傷処置を行うことにした。 ウ初期治療(創傷処置)A医師は,手術室において,午後4時半から脊椎麻酔(腰椎麻酔)を施行し,午後5時から手術(創傷処置)を開始した。 まず,空気駆血帯を使用して止血するとともに,筋鈎を使用して切創を横に5センチメートルほど拡大し,創内部を検索した。創は,深部に達する切創(ただし,骨には達しておらず,骨折は認められなかった。)で,創内部には,血腫が見られ,前脛骨筋とそれに分枝 を使用して切創を横に5センチメートルほど拡大し,創内部を検索した。創は,深部に達する切創(ただし,骨には達しておらず,骨折は認められなかった。)で,創内部には,血腫が見られ,前脛骨筋とそれに分枝する動・静脈が断裂していた。しかし,創傷内部も創縁部も汚染挫滅の組織はなく,肉眼上異物の付着も確認されなかった。 その後,生理食塩水(1500ミリリットル)を注ぎながら,ガーゼを用いて組織をこすりながら洗浄し(デブリードマン――挫滅創や感染創などにおける壊死部分や異物を除去し,健常な創とすること。異物や壊死部分は血行障害や感染を招来し,創の治癒転機を著しく阻害する。),オキシドール(100ミリリットル),イソジン液(200ミリリットル)で消毒した。 そして,前脛骨動・静脈分枝を結紮し,前脛骨筋を縫合した後,各層縫合(一次縫合)して,手術(創傷処置)を終えた(午後5時30分)。ドレーンは挿入されなかった。また,ギプスなどの外固定はなされなかった。なお,A医師は,術後に,一般細菌の予防を目的として,抗生物質であるパンスポリンを投与した。 エその後の処置と経過について(ア) 11月4日(木)原告は,上記の創傷処置後,創観察のため被告病院に入院した。入院時に看護側で認識していた問題点は,①切創(結合組織と血管の損傷)及び手術的治療に伴った,組織の損傷と筋の攣縮反射・軟部組織の浮腫とに関連した安楽の変調,すなわち疼痛,②治療計画による活動制限・疼痛に関係した,身体可能性の障害,の2点であった。 原告は,同夜から疼痛を訴えるようになり,午後8時にボルタレン坐薬(鎮痛解熱剤)を挿入され,さらに午後9時30分にソセゴン(極めて強力な鎮痛剤)の筋肉注射を ,の2点であった。 原告は,同夜から疼痛を訴えるようになり,午後8時にボルタレン坐薬(鎮痛解熱剤)を挿入され,さらに午後9時30分にソセゴン(極めて強力な鎮痛剤)の筋肉注射を受けて,午後11時ころに疼痛が軽減された。しかし,午後11時30分ころ再び疼痛が出現し,ボルタレン坐薬を挿入された。 (イ) 11月5日(金)原告は,11月5日も引き続き,未明から痛みを訴え(創痛と下腿前面にかけて疼痛あり,外踝部痛みあり),午前1時30分にソセゴンの筋肉注射,午前3時にボルタレン坐薬の投与を受けた。朝になっても看護婦が訪床する度に,「痛い痛い。がまんできない。わりと痛がりです」と訴えている。午前10時と午後2時に疼痛を自制できないということでボルタレン坐薬を使用したが,「効果ない」と訴えている。 同日,A医師が原告を回診し,包帯を交換した。創部を確認したところ,傷の状態はきれいで,特に異常は見られなかった。前脛骨筋の断裂のために足関節の動きが悪いので,創部の安静も兼ねてギプスシーネで下腿(大腿から足趾まで)を固定した(ただし,これはギプス包帯で全周を固定するのではなく,半分のギプスで,ちょうど桶のような形で上半分はガーゼや包帯が露出しているものである。このようなギプスシーネ固定は,整形外科において,局所の安静により軟部組織の修復を促し,炎症の沈静化を促すことを目的として行われるものであるが,半分ギプスであるため,嫌気性環境を作ることにはならない。)。 原告は,A医師の回診後も痛みを訴えている。午後7時には,涙を流して泣きながら,「痛い,痛い。ギプスとったらいかんか。これしてから痛くなった。今までで一番痛い。足首が痛い。外側や」と訴え,ボルタレン坐薬 は,A医師の回診後も痛みを訴えている。午後7時には,涙を流して泣きながら,「痛い,痛い。ギプスとったらいかんか。これしてから痛くなった。今までで一番痛い。足首が痛い。外側や」と訴え,ボルタレン坐薬の投与を受けた。このとき,看護婦は,シーネが当たっているようではないが,腫脹はあると観察している。さらに,原告は,午後8時に,泣きながら,「坐薬はきかへん。きかへんのや。足にでも痛み止め注射してもらおうかな。もうあかん」と訴え,ソセゴンの筋肉注射を受けた。午後9時の時点で,痛みは軽減した。 ちなみに,原告のこの日の体温は,37度台前半で推移していた。 なお,看護側は,この日の経過を,「疼痛の訴えが強く鎮痛剤頻回に使用している。本人いわく『痛がりの方です』とのことではあるが,手術の翌日でもあり疼痛緩和図っていこう。また,神経障害の増強等観察していこう」,「疼痛の訴えあるが,痛みの程度があいまいである。面会人がいると痛みの訴えもなく話ししているため,ソセゴン使用も少なくしていこう」と評価している。 (ウ) 11月6日(土)原告は,11月6日も未明から痛みを訴え,午前2時に,疼痛を訴えてナースコールし,「坐薬,ソセゴン使用しているためもう少し様子みよう」と告げられるも,10分後に再びナースコールして痛みを訴え,ソセゴンの投与を受けた。午前6時に再び,疼痛を訴えてナースコールし,ギプスシーネを外してほしいと言うも,看護婦からギプスシーネ固定が必要であることを説明され,様子見るようにと言われた。午前7時30分の時点で,体温が38.7度まで上昇しており,ボルタレン坐薬を投与された。 同日午前中に,被告病院の整形外科医(B医師)が原告を回診し,創処置を行った と言われた。午前7時30分の時点で,体温が38.7度まで上昇しており,ボルタレン坐薬を投与された。 同日午前中に,被告病院の整形外科医(B医師)が原告を回診し,創処置を行った(ギプスシーネを外して包帯を交換し,再度ギプスシーネで下腿を固定した)。この時点では,創部に異常所見は見られなかった(なお,医師カルテ〔丁1の5〕には,この時点での所見が記載されていないが,後述するとおりガス壊疽に感染すれば,局所に特異的な異常所見が現れることから,この時点で異常所見が出ておれば,整形外科医が気づかなかったはずはないと思われることからして,この時点では,ガス壊疽感染を疑わせるような異常所見はなかったと認めるのが相当である。)。 また,看護側は,同日午前中に,A医師から「疼痛は骨折ほどの疼痛ないだろう」とのコメントを得て,原告について,「疼痛に対する感覚が鋭敏なようだ。発熱もみられているため熱型をみるためにも昼間はなるべく坐薬使用しない方がいいだろう。また鎮痛剤の使用は最小限にとどめるように患者にかかわっていこう」との方針を立てた。しかし,原告の痛みの訴えは変わらず,午前11時20分と午後8時にボルタレン坐薬の投与を受けた。この午後8時の時点で,原告は,顔面を紅潮させて,「足がよう腫れて痛いんや」と訴えており,体温が39.4度まで上昇し(悪寒あり),心拍数も毎分120回まで上昇していた。また,同日中,看護婦によって,「車椅子で移動(トイレまで)後,特に疼痛を訴える。移動後,足趾色やや不良となるが,しばらく安静にすると回復。足背動脈触知可能」との事実が観察されている。 ちなみに,原告のこの日の体温は,36.8度から39.4度までを推移し,激しい日内変動を示している。 回復。足背動脈触知可能」との事実が観察されている。 ちなみに,原告のこの日の体温は,36.8度から39.4度までを推移し,激しい日内変動を示している。 なお,看護側は,この日の経過を,「腫脹が昨日よりも増強しているためと考えられる。午後より慣れてきたためか,車椅子でよく移動している。安静の必要性について再度注意してゆく必要があるだろう」と評価している。 (エ) 11月7日(日)原告は,11月7日も朝から痛みを訴えており,午前6時の時点で,ナースコールで訪床した看護婦が,「患肢腫脹強度」と観察している。午前7時30分にも,創部痛を訴えており,また,体温が38.3度あり,ボルタレン坐薬を投与された。日中,「足背の腫脹大,足背動脈触知できず」・「腫脹強いためかと思える」との観察がなされた。そして,午後6時になって,体温が38.7度あり,左下肢腫脹気味ということで,ボルタレン坐薬が投与された。さらに,午後11時30分の時点で,「痛くて眠れない」との訴えで訪床した看護婦が,「足背腫脹強度,足背動脈触知できず」と観察し,「夜間になり痛みが集中するようであるが,毎日,鎮痛剤使用しているのでICUで様子をみる」ことになった。この時点で,ギプスシーネを外してみると,「左下肢腫脹強度にして硬性浮腫所々に見受ける」という状態であった。看護婦は,ボルタレン坐薬を挿入した後(11月8日午前1時),再び包帯を巻き,ギプスシーネで固定した。 ちなみに,原告のこの日の体温も,35.4度から38.7度までを推移し,激しい日内変動を示している。 (オ) 11月8日(月)同日午前8時の時点で,「左下肢腫脹強度,足背動脈触知できず,冷感 35.4度から38.7度までを推移し,激しい日内変動を示している。 (オ) 11月8日(月)同日午前8時の時点で,「左下肢腫脹強度,足背動脈触知できず,冷感なし,しびれあり,知覚あり,足趾背屈に軽く動くのみで背屈できず」との事実が観察され,看護婦は,「腓骨神経麻痺」を疑い,「医師に報告しよう」ということになった。午前9時すぎころ,整形外科医(B医師)が原告を診察し,「腫脹あり。発赤顕著。局所熱感顕著。総趾伸筋・長拇趾伸筋がきいていない。足背部しびれ増強」と観察し,さらに,午前10時ころ,A医師が原告を診察し,発赤と皮下捻髪音があり,縫合部を開放すると異臭がしてガスが出たとの事実を観察して,嫌気性菌感染を疑った。 A医師は,直ちに,創を開放し,生理食塩水による洗浄とともに,嫌気性菌に有効であるオキシドールによる殺菌,局所への酸素投与による嫌気性環境の改善が行われ,さらに,ペニシリンなどの抗生物質の投与を施行した。併せて,全身状態を確認するため,血液検査や尿検査を実施した。また,創部のレントゲン検査を行い,羽毛状のガス像を認めた。以上のような作業と並行して,ガス発生菌がクロストリジウム属か非クロストジリウム属かを鑑別するため,創部から採取した菌を細菌培養にまわすとともに,顕微鏡検査を行い,午後3時ころ,顕微鏡検査によって,クロストリジウム菌(グラム陽性桿菌)と同定された。この間,クロストリジウム菌によるガス壊疽感染に有効とされる高圧酸素療法の可能な高次医療機関へ転送する手配を進め,遠藤病院(姫路市内),ツカザキ病院(姫路市内),兵庫県立西宮病院などに照会した結果,兵庫県立西宮病院から大阪大学附属病院を紹介され,同病院の受入確保を確認した。こうして,原告は,午後5時40分ころ,大 院(姫路市内),ツカザキ病院(姫路市内),兵庫県立西宮病院などに照会した結果,兵庫県立西宮病院から大阪大学附属病院を紹介され,同病院の受入確保を確認した。こうして,原告は,午後5時40分ころ,大阪大学付属病院特殊救急部へ救急車で転送された(出動要請は,午後5時23分)。なお,救急車にはA医師が同乗した。 (4) 転院後の経過ア原告は,11月8日午後7時ころに大阪大学付属病院に到着し,11月9日未明,同病院において,命に関わる事態を避けるために,膝下にて左下腿部を切断された。その後も,12月27日まで,同病院に入院して高圧酸素療法を受け,一命をとりとめた(甲4,6)。 イ原告は,12月27日に,被告病院に再転院し,切断端創を処置するとともに義肢装着及び理学療法を行い,平成7年9月20日,症状固定とされた(なお,原告は,平成6年4月8日に被告病院を退院し,その後も平成7年9月20日まで被告病院に通院を続けていたが,原告が被告病院に再転院してから被告病院を退院するまでの入院期間は,103日であり,被告病院への実通院日数は,143日〔530日間中〕である。)。 (5) 後遺障害こうして原告は,結局一下肢を足関節以上で失ったものとして,自賠等級5級5号所定の後遺障害(労働能力喪失率79パーセント)が残存することとなった。 (6) 損害の填補ア労災からの給付金原告は,労働者災害補償補償保険法に基づき,休業補償給付金として271万1632円,障害補償年金として947万7999円(平成13年2月給付分まで)の合計1218万9631円の給付を受けた(甲21,36の1ないし34,弁論の全趣旨)。 イ和解金原告は,平成10年 て947万7999円(平成13年2月給付分まで)の合計1218万9631円の給付を受けた(甲21,36の1ないし34,弁論の全趣旨)。 イ和解金原告は,平成10年6月1日に当裁判所において有限会社北川組及び大阪道路メンテナンス株式会社との間で成立した和解に基づき,両社から合計400万円の弁済を受けた(和解の成立は訴訟上顕著であり,弁済の事実につき弁論の全趣旨)。 (7) ガス壊疽に関する医学的知見(甲7ないし13,22,28ないし30,35の6,丁11)ア概要ガス壊疽とは,ガス発生を伴って筋組織の進行性の壊死を来す感染症の総称であり,その大部分の原因となるクロストリジウム属菌(芽胞性の嫌気性グラム陽性桿菌)は土壌中に存在するから,土壌に汚染された不潔な創から感染しやすい(なお,クロストリジウム属菌は,正常人体の下部消化管などにも常在する。)。 イ発症条件一般に,創傷感染の成立は,病原菌の量・毒力と,創の状態(壊死組織・血腫・異物の存在など),宿主の感染防御力に左右される。ガス壊疽菌(以下,ガス壊疽の起炎菌を「ガス壊疽菌」ということがある。)は,一般に毒力が弱く,創面に菌が存在することが必ずしもガス壊疽発症につながるわけではなく,次のような特殊な条件の下に,嫌気的な環境が加味されてはじめて増殖して感染を起こす。 ① 多数菌の汚染② 創傷内に異物があること③ 創傷が筋肉内に到達していること④ 創傷内に挫滅組織,特に壊死に陥った筋肉組織又は骨折の存在すること⑤ 創傷部やその付近に著明な血行障害が認められること⑥ 創傷の内部に血腫や死腔のあること ④ 創傷内に挫滅組織,特に壊死に陥った筋肉組織又は骨折の存在すること⑤ 創傷部やその付近に著明な血行障害が認められること⑥ 創傷の内部に血腫や死腔のあること⑦ さらに外科的処置の遅延,糖尿病などの全身の消耗性疾患が合併すれば,より容易に発症する。 ウ臨床所見ガス壊疽は,受傷後数時間から3日以内に発症(感染が成立)する。その後の病像の進展は急速である。局所症状としては,患部の激痛,腫脹,浮腫に始まり,進行するとともに患部及びその周辺の皮膚は発赤し,病変の高度の部位では暗赤色あるいは暗褐色を呈し,水疱形成を見,漿液血性の悪臭著しい排液を認め,病変部周囲を圧迫すると捻髪音や握雪感がある。また,全身症状としては,初期には,発熱,頻脈などの炎症症状が見られ,さらに進行するともに外毒素による溶血,黄疸,ヘモグロビン血・尿症,高ビリルビン血症が急速に増強し,急性腎不全によって死亡する。 ちなみに,ガス壊疽の病理は次のとおりである。すなわち,ガス壊疽菌は,感染後12時間以内にガスを発生し始め,浸潤とあいまって腫脹を来す。筋肉の間質に液性侵入した菌と毒素は,ガスによる機械的作用と毒作用により,筋繊維を互いに分離し,ついに死滅させる。また,ガスや浮腫による圧迫などによって隣接血管が閉塞し,組織が壊死に陥る。ガス壊疽菌は,壊死組織を培地としてますます繁殖と破壊を続け,容易に腱,筋肉あるいは神経鞘に侵入して広がる。病変は通常,中枢方向に進行するが,うっ血肢では末梢にも向かう。進行すると壊死部から血中に多量の毒素や壊死物質が流入し,敗血症,多臓器不全に至る。 エ診断最終的な診断は,細菌学的な検査による。しかし嫌気性菌の分離同定に も向かう。進行すると壊死部から血中に多量の毒素や壊死物質が流入し,敗血症,多臓器不全に至る。 エ診断最終的な診断は,細菌学的な検査による。しかし嫌気性菌の分離同定には時間がかかるので,その結果を待って診断・治療を遅らせてはならない。次のような臨床症状により,速やかに診断をつける。 ① 前記の特異な局所所見が急激に進展することに,重篤な全身症状が伴えば確実となる。 ② 単純X線検査で皮下あるいは筋肉内にガス像を証明すること。これが証明されれば診断は容易である。 ③ 創からの分泌物を採取し,細菌学的検索を行う。培養結果が出るまで時間がかかるので,とりあえず顕微鏡による観察を行い,グラム陽性桿菌が検出されたらクロストリジウムによるガス壊疽の可能性が高い。 オ治療臨床症状からガス壊疽が疑われたらとりあえず単純X線写真を撮り,ガス像が証明されたら直ちに他の検査と同時に治療を開始する。治療は外科的処置――創部の切開,デブリードマンを行い,消毒した後は開放にする――が中心になるが,クロストリジウムによるものでは高圧酸素療法が奏効し(菌増殖と外毒素の産出を阻止する),患肢の切断を免れることが多い。治療に反応せず炎症が膝や肘以上に広がり(進行が早く体幹にも波及しそうな),重篤な全身症状を伴う四肢のガス壊疽では,救命のために患肢の切断を要する。化学療法は,クロストリジウム性ガス壊疽に対してはペニシリンG(抗生物質)を投与する。 カ予防嫌気性菌感染症はいったん感染してしまうとその治癒は困難を極める。 それゆえ外傷患者の処置においては,初療時に適切な創処置(創の洗浄とデブリードマンなど)を行い,嫌気性菌感染が発症しないように注 嫌気性菌感染症はいったん感染してしまうとその治癒は困難を極める。 それゆえ外傷患者の処置においては,初療時に適切な創処置(創の洗浄とデブリードマンなど)を行い,嫌気性菌感染が発症しないように注意しなければならない。 十分な外科的操作を怠ることが,ガス壊疽発症の最大の原因である。しかしながら,大きな筋肉内に巻き込まれた木片などは,容易に見出せず,発症が不可抗力と考えられる場合もある。したがって,早期発見も重要であり,初発症状を見逃さないよう症状や所見に注意し,疑わしければ,ためらわずに創を開放にする決断力が要求される。特にギプス固定中などに,循環障害を思わせるような疼痛が発現してくる場合にはガス壊疽を考慮する。発見が早く範囲の小さいものは機能障害を免れる。 3 争点(1) 責任原因(診療契約上の債務不履行ないし不法行為)の存否アガス壊疽感染を防止すべき義務(ア) 原告の主張a ガス壊疽の予見可能性本件受傷は,草刈り作業中に草刈り機の破損した刃によるもので,当該傷は相当程度土壌によって汚染されていたと見なければならず,しかも,当該傷は筋肉層にまで達する深い傷であったから,ガス壊疽発症の危険が相当高かった。 なお,被告は,本件の創傷に肉眼上創汚染が見受けられなかったことを理由に,初診時にガス壊疽発症を予見することは不可能であったと主張する。 しかし,本件のような受傷機転で生じた創傷の場合,一見して明白な汚染のない場合であっても,ガス壊疽感染の可能性を念のために疑うべきことは,医学者のみならず一般人の常識である。ガス壊疽感染においては,受傷後数時間以内にその傷がガス壊疽菌に感染しているか否かを視認できるものではなく,肉眼上の汚 壊疽感染の可能性を念のために疑うべきことは,医学者のみならず一般人の常識である。ガス壊疽感染においては,受傷後数時間以内にその傷がガス壊疽菌に感染しているか否かを視認できるものではなく,肉眼上の汚染が見られないことから直ちにガス壊疽感染の可能性を否定し去ることなど許されないのである。被告の主張は,失当である。 b 創傷処置本件の創傷がガス壊疽発症の危険の相当に高いものであった以上,創傷処置を担当する医師としては,急激にして重大な結果をもたらすガス壊疽の発症を防止することを最優先事項の一つとして念頭において,創傷部位について徹底した洗浄・デブリードマンを行うべきであり,デブリードマン開始直前に,ガス壊疽菌に有効なペニシリンを使用するべきであった。また,傷害の態様からしてデブリードマンを十分に行うことが困難な状況にあり,かつ抗生物質の投与など補助手段を講じてもなお細菌の繁殖に万全を期し難い場合には,少なくとも当該創傷を開放性に処置すべき医学上の注意義務があった。 しかるに,A医師は,これらの義務を怠り,肉眼上創汚染が見受けられないとの理由で,ガス壊疽発症の可能性を否定し,ただ漫然と不十分なデブリードマンなどの処置をしたにとどまり,ペニシリンの術前投与を怠り(術後にも投与していない。),あまつさえ,創傷部位を閉鎖的に縫合して,ドレナージも施行しなかった。 なお,A医師の投与した抗生物質パンスポリンは,広域性すぎて,ガス壊疽菌には十分な効果を有しない。 c 現存する後遺障害との間の因果関係Cは,上記のような初期治療の懈怠によって,原告のガス壊疽発症を招いた。 (イ) 被告の主張 c 現存する後遺障害との間の因果関係Cは,上記のような初期治療の懈怠によって,原告のガス壊疽発症を招いた。 (イ) 被告の主張a ガス壊疽の予見可能性創傷処置に関する原告の主張は,「草刈りの刃が割れて左下腿に当たったのであるからガス壊疽感染を疑うべきだ」という点にのみ依拠している。 ところで,嫌気性菌クロストリジウムによるガス壊疽は,土壌などに汚染された外傷の際に発生しやすく,創傷が挫滅され,壊死物質が多く残る場合に発生する。 しかるに,本件の創傷自体は,手術室にて脊椎麻酔のもと駆血帯にて出血を制しながら創傷を拡大して調べたが,創内に汚泥などの異物が入っていることはなく,組織の挫滅も汚染もない状態であった。ガス壊疽感染を予見すべくもない創の状態だったのである。 b 創傷処置A医師は,十分量の生理食塩水(1500ミリリットル)を使用して,洗浄・デブリードマンを十分に行った。また,イソジン液(200ミリリットル)や嫌気性菌に有効なオキシドール(100ミリリットル)を使用して消毒を行った。さらに,抗生物質パンスポリンを使用して感染予防をなした。A医師の行った創傷処置は適正なものである。 なお,原告は,創傷部位を閉鎖的に縫合し,ドレナージを施行しなかったことが過失に当たると主張する如くであるが,しかし,①創の状態からして,ガス壊疽を発症させるような環境ではなく,十分な洗浄・ドレナージ・消毒を行ったことを前提に,②受傷から手術までの時間が2時間以内で,一次的創傷治癒の期待できる場合であること(受傷後6時間以内が“Gold 壊疽を発症させるような環境ではなく,十分な洗浄・ドレナージ・消毒を行ったことを前提に,②受傷から手術までの時間が2時間以内で,一次的創傷治癒の期待できる場合であること(受傷後6時間以内が“Goldentime”と呼ばれ,一次的創傷治癒が期待できる。)にかんがみると,③創を開放にするとかえって一般感染を招くおそれがあることを考慮して,創を閉鎖的に縫合することも医師の裁量の範囲内といえる。また,ドレナージは,創からの血腫・浸出液の排出を目的としており,ガス壊疽予防に必ずしも結びつくものではない。結局,原告の主張は失当である。 また,原告は,ペニシリンの術前投与をしなかったことが過失に当たるとも主張しているが,創の状態がガス壊疽感染を予見できるものではなかったことは既に述べたとおりであるから,この点に関する原告の主張も失当である。抗生物質の投与方法に関する原告の主張は,ガス壊疽感染に対し結果論的に使用薬品を提示しているにすぎないものである。 c 現存する後遺障害との間の因果関係十分な創傷処置を行えば,ガス壊疽発症を必ず回避できるというわけではない(原告側の提出した鑑定意見書も,ガス壊疽の発症を予防できるとは断言していない。)。発症が不可抗力と考えられることもあるのである。本件において,A医師は十分な創傷処置を行っていたのであるから,ガス壊疽発症は不可抗力だったというほかない。 イガス壊疽発症に発展する可能性を意識した経過観察を実施すべき義務(ア) 原告の主張a ガス壊疽の予見可能性受傷機転からして,ガス壊疽発症に発展する可能性を認識するべきであったことは,既に述べたとおりである。 原告の主張a ガス壊疽の予見可能性受傷機転からして,ガス壊疽発症に発展する可能性を認識するべきであったことは,既に述べたとおりである。 b 問題意識を持った経過観察原告は,11月4日夜の時点で既に疼痛を訴え,11月5日になると真夜中からしきりに疼痛を訴え,ボルタレン坐薬を投与しても収まっていない。 午後7時には腫脹も出現している。11月6日午前7時半には38度台の発熱という全身症状も現れている。腫脹も前日よりも増強しており,翌7日には,これら疼痛・腫脹などの局所症状,発熱などの全身症状がさらに増大しており,感染症に特徴的なスパイク・フィーバーも出現している。 原告のようにガス壊疽感染の疑われる患者の創傷処置後の治療の要点は,疼痛・発熱・腫脹などの特徴的症状が進行していないか,注意深く観察することである。しかるに,手術後まもなくから,原告に,ガス壊疽の典型的な初期症状である疼痛・腫脹・全身の発熱が顕著に現れつつあったにもかかわらず,被告側A医師・看護婦らは,鎮痛剤の投与による糊塗的処置を繰り返すにとどまり,ガス壊疽感染の可能性を顧慮した処置(縫合部の開放,レントゲン検査,細菌検査など)を全く施さなかった。初診時にA医師がガス壊疽感染の可能性を安易に否定し去ったことが,その後の治療方針を決定的に誤らしめたといえる。 ところで,被告は,疼痛・発熱・腫脹は単なる炎症所見であって,ガス壊疽に特異的な所見ではなく,11月8日以前にはガス壊疽感染を疑うべき所見(皮下捻髪音やガス発生)は存在しなかった旨主張する。なるほど,原告に現れた諸症状は,それぞれを別個のものとして見れば,ガス壊疽だけに特異的な症状ではない 1月8日以前にはガス壊疽感染を疑うべき所見(皮下捻髪音やガス発生)は存在しなかった旨主張する。なるほど,原告に現れた諸症状は,それぞれを別個のものとして見れば,ガス壊疽だけに特異的な症状ではないかもしれない。しかし,だからといって,ガス壊疽感染の可能性を顧慮した処置を何ら採らなかったことを正当化することはできない。専門家としての臨床医がなすべきことは,これら個々の症状を,当該傷病の発生原因・当該症状の進行状況・治療経過などと照らし合わせてみて総合的に検討した上で,それらに有機的な連関を発見し,結果として患者の罹患し又はそのおそれのある疾患に対して最善の処置を採ることにある。これを本件について見るに,上記のような原告の症状の進行状況に加え,当該創傷が草刈り機の破損刃による不潔な傷であったということを考慮すれば,遅くとも11月7日午前中の時点ですでにガス壊疽感染の可能性を疑うことが可能だったというべきである。 なお,本件では,抗生物質パンスポリンが投与されているが,パンスポリンを使用して効果があったら,受傷翌日には多少の痛みや発熱があっても,高熱や強い疼痛は起きないはずである。しかし,受傷翌日(11月5日)には発熱と局所の疼痛が激しくなり,11月6日から7日にかけて発熱も疼痛も増強してきた。このことから,パンスポリンが無効な菌による感染が生じたことを,受傷翌日(11月5日)には疑うことができ,さらに翌6日には,これがほぼ確実であることに気づくべきであった。 b 現存する後遺障害との間の因果関係問題意識を持った経過観察が行われておれば,仮に感染そのものは防げなかったとしても,もっと早期にガス壊疽感染の疑いが発見できたはずである。さすれば,下腿の切断はあり得なかった。 問題意識を持った経過観察が行われておれば,仮に感染そのものは防げなかったとしても,もっと早期にガス壊疽感染の疑いが発見できたはずである。さすれば,下腿の切断はあり得なかった。 (イ) 被告の主張a ガス壊疽の予見可能性創の状態からして,ガス壊疽発症に発展する可能性を予見すべくもなかったことは,既に述べたとおりである。 b 問題意識を持った経過観察原告の主張する「疼痛・発熱・腫脹」は,単なる炎症所見であって,ガス壊疽に特異的な所見ではなく,11月8日以前にはガス壊疽感染を疑うべき所見(皮下捻髪音やガス発生)は存在しなかった。原告の主張は,どの時点のどのような症状をもってガス壊疽感染と判明したというのか特定されておらず,既にこの点において失当である。 なお,11月7日午後11時30分の看護記録に「左下腿腫脹強度にて硬性浮腫を認める」とあるが,いまだガス壊疽発症とは認めがたいものである。 c 現存する後遺障害との間の因果関係原告の主張は,ガス壊疽発症の時期を明確にしておらず,どの時点でガス壊疽を疑い得て,その結果どのように救済できたというのか明らかでない。 原告の主張は,既にこの点において失当である。 ウガス壊疽感染を早期に診断し,高圧酸素療法の設備のある施設へ転送すべき義務(ア) 原告の主張A医師は,11月8日の午前10時に,左膝下腿皮下に捻髪音を発見し,縫合部を開放したところ,ガスの発生と異臭を認め,嫌気性菌感染の疑いを濃厚にし,同日午前中には既に,レントゲン検査,血液検査などによりガス壊疽感 1月8日の午前10時に,左膝下腿皮下に捻髪音を発見し,縫合部を開放したところ,ガスの発生と異臭を認め,嫌気性菌感染の疑いを濃厚にし,同日午前中には既に,レントゲン検査,血液検査などによりガス壊疽感染症のほぼ確定的な可能性を認めていたのであるから,直ちに高圧酸素療法の可能な施設に転送すべきであったのに,救急車に出動要請をしたのは同日の午後5時23分になってからであり,同5時28分に到着した救急車で大阪大学附属病院に搬送され,同病院に到着したのは同日の午後7時であった。この措置の遅れが下腿切断の止むなきにつながったのである。 ところで,被告は,菌の同定(塗抹検査)に時間がかかり,検査室から「グラム陽性菌」であるとの確定的結果がもたらされたのが同日午後3時ころであったことを考慮すれば,可及的速やかに転送措置を採ったといえると主張する如くである。しかし,塗抹検査に要する所要時間はわずか数分(手順を考えても30分以内)であり,その準備に要する時間を考慮しても,遅くとも同日午前中の早い段階には結果が判明していたはずである。してみれば,A医師には,ガス壊疽感染がほぼ確実視されている状況下で,塗抹検査を迅速に実施させなかった過失があるといわなければならない。さらにいえば,A医師は,午後3時に塗抹検査によってガス壊疽菌(クロストリジウム属)感染の確定的診断が出るまで原告の転医作業に着手しなかったようであるが,上記のようにガス壊疽感染がほぼ確実視されている状況下で,原告を速やかに高圧酸素療法のある施設に転送させなかったことは,それ自体,医学上の過失に当たるというべきである。 (イ) 被告の主張原告は,被告病院において直ちに高次医療機関に転送しなかったと非難する。しかし,嫌気性菌感染が疑われた場合 上の過失に当たるというべきである。 (イ) 被告の主張原告は,被告病院において直ちに高次医療機関に転送しなかったと非難する。しかし,嫌気性菌感染が疑われた場合は,直ちに創を開放して洗浄・デブリードマンを十分に行うなど創の処置をするべきであり,その上で全身状態の検査を行い,併せて菌の同定作業を進めるべきものである(高圧酸素療法は,クロストリジウムによるガス壊疽感染にのみ有効とされている。)。被告病院においても,上記の措置を順次行い(クロストリジウムによるガス壊疽感染と判明したのは,塗抹検査の結果が出た午後3時である。),その間に高次医療機関に対し受入打診を順次行っていたものである。被告病院の対応について非難されるべき点は何ら存在しない。 (2) 損害の数額ア原告の主張(ア) 治療費 3万9500円原告支払分,その余はすべて労災保険により支払われた。 (イ) 入院雑費 20万1500円1日1300円×155日(ウ) 付添料 93万円被告病院及び阪大特殊救急部入院中,母親が付き添った。 1日6000円×155日(エ) 通院交通費 9万1520円被告病院往復640円×143日(実通院日数)(オ) 休業損害 545万0545円休業期間平成5年11月5日から平成7年9月20日(症状固定時)まで685日間7957円(労災認定の給付基礎日額)×685日(カ) 入通院慰謝料  300万円 日から平成7年9月20日(症状固定時)まで685日間7957円(労災認定の給付基礎日額)×685日(カ) 入通院慰謝料  300万円入院155日,通院530日(実通院143日),重傷区分(キ) 後遺障害に基づく逸失利益  5399万6430円労働能力喪失率79パーセント(後遺障害等級5級),症状固定時21歳,新ホフマン係数23.534。 日額7957円(労災認定の給付基礎日額)×365日×0.79×23.534(ク) 後遺障害慰謝料 1300万円(ケ) 損益相殺 1618万9631円(コ) 残存損害 6051万9864円(サ) 弁護士費用 550万円(シ) 合計 6601万9864円イ被告の答弁争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(責任原因の存否)について(1) ガス壊疽の予見可能性ア前示の「被告病院での診療経過」に,証拠(証人A)を総合すれば,A医師は,①ガス壊疽や破傷風を発症した症例に遭遇したことはなかったこと,②整形外科外来において原告の受傷機転(草刈りの刃が割れて当たった)を聞き,また創が深かったことから,ガス壊疽菌や破傷風菌による汚染の可能性を危惧したこと,しかし,③手術室において,腰椎麻酔のもと駆血帯にて出血を制しながら創傷を拡大して調べたところ,汚染挫滅の組織はなく,肉眼上異物の付着も認めなかったことから,ガス壊疽菌や破傷風菌による汚染は否定できると考えたこと,④その結果,休日診療体制に入るに当たっても,病棟の看護婦らに,ガス べたところ,汚染挫滅の組織はなく,肉眼上異物の付着も認めなかったことから,ガス壊疽菌や破傷風菌による汚染は否定できると考えたこと,④その結果,休日診療体制に入るに当たっても,病棟の看護婦らに,ガス壊疽発症に発展する可能性を意識した経過観察をするよう指示することはなかったこと,以上の事実が認められる。 イそして,被告は,上記の事実経過を前提に,創の状態からしてガス壊疽感染を予見することは不可能であったと主張する。 しかし,本件受傷は,草刈り作業中に草刈り機の破損した刃によるものであったから,当該傷は土壌(クロストリジウム属菌)に汚染されていたと見なければならない。すなわち,本件創傷は,その受傷機転からガス壊疽を初めとする嫌気性菌感染を意識した処置・治療を必要とする外傷であったというべきである(A医師も,当初は,本件創傷が嫌気性菌感染を意識した処置を必要とする外傷であると認識していた。)。 もっとも,前示の「ガス壊疽に関する医学的知見」によれば,創面にガス壊疽菌が存在することが直ちにガス壊疽発症につながるわけではなく,特殊な条件の下に,嫌気的環境が加味されてはじめてガス壊疽を発症することが認められる。かかる観点から本件を見れば,①汚染挫滅の組織はなく,②肉眼上異物の付着がなく,③受傷後2時間以内に創処置が行われたこと,④原告が感染防御力に欠けるところのない健康な男性であったことなどが,ガス壊疽発症を否定的に見る方向に働く因子として存在しており,⑤創傷が筋肉層に達していること,⑥創傷の内部に血腫のあることなどが,ガス壊疽発症を危惧させる因子として存在していた。このように,本件創傷については,ガス壊疽発症を否定的に見る方向に働く因子が多数存在していたことは否定できない。しかし,ガス壊疽を初めとす ことなどが,ガス壊疽発症を危惧させる因子として存在していた。このように,本件創傷については,ガス壊疽発症を否定的に見る方向に働く因子が多数存在していたことは否定できない。しかし,ガス壊疽を初めとする「嫌気性菌感染症は,いったん感染してしまうとその治癒は困難を極める」ことから,慎重な対応の求められる疾患であることを考慮すれば,現にガス壊疽発症を危惧させる因子も存在していた以上,A医師がガス壊疽発症の可能性を全面的に否定し去るような診断(リスク分析)をしたのは誤りであったといわなければならない(なお,鑑定人Cも「初診時の所見からガス壊疽に発展する可能性を全く否定することはできない」と述べている。)。 結局,本件創傷について,A医師は,ガス壊疽感染を予見するべきであり,ガス壊疽感染に発展する可能性を意識した処置をするべきであった。ガス壊疽感染を予見できなかった旨をいう被告の主張は,採用することができない。 (2) ガス壊疽感染を防止すべき義務についてア問題点前認定のとおり,A医師の対応には,ガス壊疽感染を予見するべきであったにもかかわらず,安易にガス壊疽感染に発展する可能性を全面的に否定した点に落ち度が認められる。しかし,創傷処置について診療契約上の債務不履行ないし不法行為があるというためには,実際に行われた処置が,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準に照らして欠けるところがあったと認められることが必要である。そこで,実際に行われた措置が,診療当時の医療水準から逸脱したものであったか否かについて検討する。 イ検討――初期治療(創傷処置)の適否(ア) 創内部の観察の適否前認定のとおり,A医師は,当初,外来診療室において,局 たか否かについて検討する。 イ検討――初期治療(創傷処置)の適否(ア) 創内部の観察の適否前認定のとおり,A医師は,当初,外来診療室において,局所麻酔下に傷を広げて観察したが,さらに足りないと判断して,原告を手術室に移して,腰椎麻酔のもと駆血帯にて出血を制しながら,筋鈎を使って創傷を拡大して調べており,受傷機転から嫌気性菌感染の危険があることを意識して,創内を深部や隅々まで慎重に観察したものと推測される(鑑定人Cの鑑定結果,甲24の1,丁11参照)。創内部の観察について,診療当時の医療水準から逸脱した点は見受けられない。 (イ) 創洗浄・デブリードマンの適否前認定のとおり,A医師は,十分量の生理食塩水(1500ミリリットル)を注ぎながら,ガーゼを用いて組織をこすりながら洗浄し(デブリードマン),イソジン液(200ミリリットル)や嫌気性菌に有効なオキシドール(100ミリリットル)を使用して消毒を行った。受傷機転から嫌気性菌感染の危険があることを意識して慎重な創洗浄・デブリードマンを行ったことがうかがわれ(鑑定人Cの鑑定結果,甲24の1,丁11参照),A医師の行った創洗浄・デブリードマンは,診療当時の医療水準に照らして相当なものであったと認められる。 なお,原告は,結果的にガス壊疽を発症したことから創洗浄・デブリードマンが十分でなかったと推認できると主張する如くであるが,徹底した創洗浄・デブリードマンを行っても発症が不可抗力と考えられる場合もあるのであり,原告らの主張するような推認は成り立たない。 (ウ) 一次的に創閉鎖を行ったことの適否a 医学文献(甲28)には,「創の閉鎖をいつ行うべきかをき 合もあるのであり,原告らの主張するような推認は成り立たない。 (ウ) 一次的に創閉鎖を行ったことの適否a 医学文献(甲28)には,「創の閉鎖をいつ行うべきかをきめる鍵は汚染と感染との差異を理解することで,一方がいつ他方に移行したかを知るためのこつは炎症の兆候を認識し,解明することにある。汚染されているだけであればこれを習熟した外科的手段で清浄化することが可能であり,安全に閉鎖することが可能である。しかし感染の起こった傷に対して外科的に挫滅壊死組織切除を行っても,生体のもつ感染の局在化機能を損ねることによって致命的な合併症を起こすこともあり危険が大きい。汚染が感染に変化する時間の長さは,とりわけ菌の感染力の強さと感染に対する基質の抵抗力に左右されるので,既往と理学的所見が情況判断に役立つ」との記載がある。また,別の医学文献では,「死滅組織や異物はすべて除去すべきである。完全な創縁切除(デブリードマン)が不可能なときには創縁を閉じるべきではない。というのも,創内に残っている異物は接種細菌の最小感染量を10,000倍あるいはそれ以上に少ないものにするからである。……著しく汚染した創部あるいは異物や壊死に陥った組織をすべて充分に除去し得ない場合には,一次閉鎖を後で行うことによって,大方の場合,重篤な感染の発生が最小限になるであろう」(甲29),「感染が考えられる6時間以上経過した創や,一次縫合が不可能な高度の汚染創は,洗浄及び消毒後に生理食塩水または0.1W/V%アクリノール液に浸したガーゼを創内に押し込み,創面に密着させて,その上から乾燥ガーゼで被覆する」(甲30)とされている。 b このような医学文献の記載を前提に,①本件創傷については,ガス壊疽発症を否定的に見る方向に働く因子が多数 密着させて,その上から乾燥ガーゼで被覆する」(甲30)とされている。 b このような医学文献の記載を前提に,①本件創傷については,ガス壊疽発症を否定的に見る方向に働く因子が多数存在していたこと(原告の感染防御力に欠けるところがなく,創の状態も「著しく汚染した創」とまではいえず,「異物や壊死に陥った組織」も認めなかった。),②受傷から創処置までの時間が2時間以内であったこと(一般的には,細菌感染の成立に必要な細菌数に達しないとされる。),③充分な創洗浄・デブリードマンが行われたことを見れば,A医師が一次的に創を閉鎖したことが誤りであった(医師に委ねられた裁量の範囲を逸脱する判断をした)とはいえない(鑑定人Cの鑑定結果,丁11参照)。なお,創を開放に処置することは,嫌気性菌感染の防止につながる一方で,一般感染を招く危険が高い(鑑定人Cの鑑定結果)。結局,一次的に創閉鎖を行ったことについても,診療当時の医療水準から逸脱した点は見受けられない。 (エ) 抗生物質の予防的投与についてa 医学文献(甲29)には,「予防的な抗生物質療法を行うかどうかの決定は,起こりうる副作用と利点とのかね合いに基づいてなされなければならない。無差別なもしくは盲目的な抗生物質の使用は,抗生物質に耐性の菌株の二次的あるいは重複感染や重篤な過敏性反応を起こしたり,また必要な外科的処置の延期をもたらすことがあるためよくない。それらの使用はまた起こっている感染の徴候や症状を隠蔽し,診断を更に困難にする。頻回の抗生物質の使用に起因する同様なあるいは一層重要な問題として,病院の環境内における抗生物質耐性の菌株の発生がある。(中略)しかしながら,幾つかの臨床状況によっては,予防的全身的な抗生物質の投与が有益であろう。原則的に する同様なあるいは一層重要な問題として,病院の環境内における抗生物質耐性の菌株の発生がある。(中略)しかしながら,幾つかの臨床状況によっては,予防的全身的な抗生物質の投与が有益であろう。原則的には,このような情況は細菌の短期間の汚染で起こるもので,常に正確に予測されるものである。抗生物質の予防的全身投与の例として,次のようなものがあげられる。①組織の汚染や損傷の著しい偶発的創傷。熱傷患者に対するペニシリンの早期投与は溶血性連鎖球菌や肺炎球菌による創部の感染の防止に効果があると考えられてきている。②治療が止むなく遅れており,手術的治療を必要とする偶発的な創傷。③充分な創縁切除が行えず,止むを得ず汚染したり挫滅壊死になった組織を残さざるを得ない損傷。④どんな創部であれ肉眼的に細菌汚染が明らかな場合。(中略)⑯広範な筋肉の挫滅壊死,重篤な汚染,血液供給の障害からクロストリジウムの感染をひき起こしやすい損傷の場合。」との記載がある。また,別の医学文献(甲33)では,予防的化学療法の適応として,「汚染された創や下肢の挫創・熱傷,処置まで長時間放置された創,損傷が深部に及ぶ創……の場合では,受傷後速やかに抗菌薬の全身的投与を開始する」とされ,また,投与すべき抗菌薬の選択として,「感染の予想される菌種の薬剤感受性と抗菌薬の組織移行性,患者の重傷度,重要臓器,副作用,投与方法などを考慮し原則として1剤を選択する。外傷初期ではペニシリン系または第一世代・第二世代セファム系抗菌薬が望ましい。投与期間は耐性化による難治性菌の発生を防ぐ意味からも,予防的投与では同一の抗菌薬は,4~7日以内の投与にとどめる。この間に菌が同定された場合は,抗菌力のある抗菌薬に切り替え,同定されないが3~4日目に感染徴候を示した場合では第2選択薬を参考に,より広範な抗菌スペク 一の抗菌薬は,4~7日以内の投与にとどめる。この間に菌が同定された場合は,抗菌力のある抗菌薬に切り替え,同定されないが3~4日目に感染徴候を示した場合では第2選択薬を参考に,より広範な抗菌スペクトルをもつ薬剤に変更する」とされ,具体的には,創傷部が皮膚・皮下組織の場合,クロストリジウムによるガス壊疽も予想される感染症に含まれるとされ,第1選択薬(防衛能正常)としてCTM(塩酸セフォチアム・パンスポリン・第二世代セァム系抗菌薬)が,第2選択薬(重症例)としてPCG(ベンジルペニシリンカリウム・結晶ペニシリンGカリウム・ペニシリン系)があげられている。 b このような医学文献の記載を前提に本件を見たとき,本件創傷は,クロストリジウム属菌による汚染が想定される皮膚損傷ではあるが,ガス壊疽発症を否定的に見る方向に働く因子が多数存在していたこと(原告の感染防御力に欠けるところがなく,創の状態も「著しく汚染した創」とまではいえず,「異物や壊死に陥った組織」も認めなかったこと)を考慮すれば,第1選択薬としてパンスポリンを選択したことが誤りであった(医師に委ねられた裁量の範囲を逸脱する判断をした)とまではいえない。抗生物質としてパンスポリンを選択したことについても,診療当時の医療水準から逸脱した点は見受けられない。 なお,甲第35号証の2(抗生物質治療ガイドライン)には,筋肉・骨格・軟部組織外傷では,「受傷後,その重傷度や外傷の部位,感染の生じる可能性を考えて,一般的に抗生物質(推定による治療)を要する場合が多い。しかし,全例に抗生物質が必要というわけではない。ガス壊疽に対する予防的な抗生物質療法を必要とする場合は,」ベンジルペニシリン2.4g(小児:60mg/kg,上限2.4g)を静注し,必要なら4時間 しかし,全例に抗生物質が必要というわけではない。ガス壊疽に対する予防的な抗生物質療法を必要とする場合は,」ベンジルペニシリン2.4g(小児:60mg/kg,上限2.4g)を静注し,必要なら4時間後に再度投与する(ベンジルペニシリンカリウム800万単位に相当)との記載がある。しかし,①「原則として1剤を選択する」ことを前提に,クロストリジウムによるガス壊疽も想定される皮膚・皮下組織損傷に対する第1選択薬としてパンスポリンをあげる文献もあること,②本件創傷については,ガス壊疽発症を否定的に見る方向に働く因子が多数存在しており,本件の初期治療においては,ガス壊疽感染の予防を主たる目標に据えるよりも,一般感染を予防することを主たる目標に据えて,広範囲スペクトルを有する抗生物質を使用することが合理的であったこと(鑑定人Cの鑑定結果,丁11)にかんがみると,上記の「抗生物質治療ガイドライン」(甲35の2)の記載によって前記認定を左右することはできないというべきである。 (オ) ドレーンを挿入しなかったことの適否一般に,創内に血腫を残すことは感染の危険性を高めることになるところ,創傷部にドレーンを挿入することによって,創内の血腫を除去して感染の危険を低下させることができるから,本件においてもドレーンの挿入が望ましかったといえる(鑑定人Cの関係結果)。しかし,本件において,ガス壊疽感染を防止するためにドレーンの挿入が義務づけられていたとまでは認めがたく(なお,原告提出の意見書〔甲26〕にも,「ドレナージについては私は一言も言及していませんが,それは瑣末なことです」との記載がある。),また,仮にドレーンが挿入されていたとしても,ガス壊疽発症の防止にどれほど役立ったか疑問もあるから,ドレーンを挿入しなかったことをも も言及していませんが,それは瑣末なことです」との記載がある。),また,仮にドレーンが挿入されていたとしても,ガス壊疽発症の防止にどれほど役立ったか疑問もあるから,ドレーンを挿入しなかったことをもって診療契約上の債務不履行ないし不法行為があったと見ることはできない。 ウ小括(ア) 以上の次第であるから,初期治療(創傷処置)について,診療当時の医療水準から逸脱した点は見受けられず,診療契約上の債務不履行ないし不法行為があるとは認められない。 (イ) なお,初期治療(創傷処置)に欠けるところがなかった以上,本件におけるガス壊疽の発症は,不可抗力だったというほかない。 (3) ガス壊疽発症に発展する可能性を意識した経過観察を実施すべき義務についてア問題意識を持った経過観察が行われていたか否か。 (ア) 既に説示したとおり,「初診時の所見からガス壊疽に発展する可能性を全く否定することはできない」のであり,A医師は,ガス壊疽感染に発展する可能性を意識した処置をするべきであった。すなわち,ガス壊疽感染に発展する可能性を意識した慎重な経過観察を行い,ガス壊疽の初発症状を思わせる症状が出現したときには,直ちに医師に連絡するよう,病棟の看護婦らに指示しておくべきであった。 (イ) ところで,前示の「被告病院での診療経過」によれば,原告には,①11月5日から創部の激しい疼痛に加えて腫脹が出現したこと,②11月6日には,午後8時の時点で,39.4度の高熱や頻脈という全身症状も出現し,腫脹も増強してきていたこと,③翌7日には,これら疼痛・腫脹といった局所症状がさらに増強し,足背動脈が触知できるかできないかといった状態にまでなり,また,発熱などの全身症状も持続して 症状も出現し,腫脹も増強してきていたこと,③翌7日には,これら疼痛・腫脹といった局所症状がさらに増強し,足背動脈が触知できるかできないかといった状態にまでなり,また,発熱などの全身症状も持続していたこと,④11月6日以降の体温の推移は,急激に変化する熱型(スパイクフィーバー。感染症に特徴的とされる。)を示していたこと,⑤11月7日午後11時30分には,看護婦がギプスシーネを外してみたところ,左下肢腫脹強度にて硬性浮腫所々に見受けるという状態になっていたこと,以上の経過が認められる。 そして,前示の「ガス壊疽に関する医学的知見」を前提に,上記の事実経過を見れば,11月6日以降に原告に出現した症状は,ガス壊疽の初発症状を思わせる症状ということができるのであるから,A医師が病棟の看護婦らに前記のような指示さえしておれば,遅くとも11月7日の午前中には,医師の指示の下に慎重な経過観察が行われることになったであろうことは推測するに難くない。なお,被告は,原告に出現した症状(疼痛・発熱・腫脹)は,単なる炎症所見にすぎないと主張するが,このような症状が出現すること自体,「当初の傷からすれば通常とはいえない」(証人A)のであるから,原告に当初出現した症状が単なる炎症所見にすぎなかったとしても,慎重な経過観察が必要であったことに変わりはない。 (ウ) 結局,本件においては,ガス壊疽感染に発展する可能性を意識した慎重な経過観察が求められていたにもかかわらず,問題意識を持った経過観察が行われていたと認めることはできない(経過観察義務の懈怠)。 イ現存する後遺障害との間の因果関係について(ア) もっとも,前記の経過観察義務の懈怠と現存する後遺障害との間に因果関係が認められるためには,問題意識 察義務の懈怠)。 イ現存する後遺障害との間の因果関係について(ア) もっとも,前記の経過観察義務の懈怠と現存する後遺障害との間に因果関係が認められるためには,問題意識を持った慎重な経過観察が行われておれば,早期にガス壊疽感染を診断して治療に着手することができたといえることが最低限必要である。 そこで,まず,11月8日午前10時以前の時点で,原告にガス壊疽感染を診断するに足りる症状(皮膚の変色や皮下捻髪音,握雪感)が出現していた(慎重な経過観察をしておれば,より早期にこれらの症状を捕まえることができた)と認められるかどうかについて検討する。前示の「ガス壊疽に関する医学的知見」を前提に本件を回顧的に見れば,11月6日以降,原告に炎症所見(疼痛・発熱・腫脹)が出現した時点で,原告にクロストリジウム属菌によるガス壊疽感染が成立していたと認められ(甲35の1参照),感染が成立してから12時間以内にガス発生が始まるとされていることからすると,11月7日中には,ガス発生に起因する皮下捻髪音や握雪感が確認できたと推測される。遅くとも11月7日の午後11時30分に「硬性浮腫」が確認された時点では,ガス壊疽感染を診断するに足りる症状(皮膚の変色や皮下捻髪音,握雪感)が出現していたと認めるのが相当である(なお,上記の皮膚の変色や皮下捻髪音,握雪感の出現は,医療記録上の裏付けがなく,あくまでも推測にすぎないが,これが推測にとどまらざるを得ない所以は,被告側の医師らが問題意識を持った経過観察を怠ったことにある。 被告側の医師らの注意義務の懈怠により生じた症状の推移の不明確を当の被告側にではなく患者の不利益に帰することは,実質的公平の見地から見て妥当とはいい難い。上記のような症状が出現していなかったはずだというの の医師らの注意義務の懈怠により生じた症状の推移の不明確を当の被告側にではなく患者の不利益に帰することは,実質的公平の見地から見て妥当とはいい難い。上記のような症状が出現していなかったはずだというのであれば,被告側において,具体的根拠をあげて立証するべきである。)。 (イ) さらに,現存する後遺障害との間の因果関係が認められるためには,早期に治療を開始しておれば,足の切断を回避できたといえることが必要である。 そこで検討するに,11月7日深夜の時点でガス壊疽感染を診断できていたとすると,直ちに創部の切開,デブリードマン,消毒が行われ,高圧酸素療法の適応を見極めるために,細菌検索が行われ,細菌検索によってクロストリジウムによるガス壊疽と認められれば,可及的速やかに高圧酸素療法の可能な施設に転送する措置が採られることになると認められるところ(前示の「ガス壊疽に関する医学的知見」),ガス壊疽菌がクロストリジウム属菌か非クロストリジウム属菌かの鑑別に時間を要したとしても,11月8日朝には,高圧酸素療法の可能な施設に転送する措置が採られ,仮に大阪大学付属病院に転送されることになったとしても,同日午前10時までには同病院に到着していたと推測される。そして,炎症が膝や肘以上に広がり,体幹に波及するおそれがある場合に,救命のため患肢の切断が行われることになるところ(前示の「ガス壊疽に関する医学的知見」),本件において,11月8日午前10時の時点では,炎症は「下腿から足部」にとどまっており,炎症が膝上まで広がったのは同日午後12時30分ころのことであった(丁4の15)から,同日午前10時までに(午前中に)大阪大学付属病院に到着しておれば,高圧酸素療法によって患肢の切断を免れたと認められる。 (ウ) 結局 2時30分ころのことであった(丁4の15)から,同日午前10時までに(午前中に)大阪大学付属病院に到着しておれば,高圧酸素療法によって患肢の切断を免れたと認められる。 (ウ) 結局,本件においては,問題意識を持った経過観察が行われておれば,早期にガス壊疽を発見することができ,早期にガス壊疽が発見されて早期に治療が開始されておれば,足の切断を回避できたと認めることができる。 ウ小括以上の次第であるから,被告側の医師らには,問題意識を持った経過観察を怠った過失(診療契約上の債務不履行ないし不法行為)が認められ,上記過失と現存する後遺障害(自賠等級5級5号所定の後遺障害・労働能力喪失率79パーセント)との間には相当因果関係があるというべきである。 (4) まとめアよって,被告は,診療契約上の債務不履行(民法415条)ないし不法行為(民法715条)に基づき,経過観察の懈怠により原告に生じた損害(現存する後遺障害も含まれる。)を賠償する責任があるものといわなければならない。 イなお,被告は,自らの医療過誤(経過観察の懈怠)によって生じた損害を賠償すれば足りるのであって,本件受傷に起因するすべての損害を賠償しなければいけないわけではない。そして,既に説示したところによれば,本件におけるガス壊疽の発症は不可抗力と見るほかないから,本件のガス壊疽の治療に通常伴う損害は,被告の賠償範囲から除かれる。また,当初の傷(本件受傷)の治療に通常伴う損害も,被告の賠償範囲から除かれなければならない。これを本件の経過に即していえば,当初の傷の治療のために,少なくとも11月8日までは被告病院に入院して創の観察を受けることが必要で,さらに,早期にガス壊疽が発見されて早期に治療が開始されて らない。これを本件の経過に即していえば,当初の傷の治療のために,少なくとも11月8日までは被告病院に入院して創の観察を受けることが必要で,さらに,早期にガス壊疽が発見されて早期に治療が開始されていたとしても,本件のガス壊疽の治療のために,大阪大学付属病院における高圧酸素療法が必要になったと推測されるから,被告病院に再転院する(12月27日)までの治療に通常伴う損害は,被告の賠償範囲から除外されることになる(因果関係がない)。 2 争点(2)(損害の数額)について(1) 治療費証拠(甲2,18)及び弁論の全趣旨によれば,被告病院に再転院した平成5年12月27日以降の治療関係費として,原告が3万9500円を支出したことが認められる。これは,本件の医療過誤(経過観察の懈怠)と相当因果関係のある損害として,すべて被告が賠償するべきである。 (2) 入院雑費被告病院に再転院してから被告病院を退院するまでの入院期間は,103日間であるところ,この間の入院雑費として13万3900円(1日につき1300円)を被告において賠償するべきである。 (3) 通院交通費証拠(甲19)によれば,原告は,バスを利用して被告病院に通院していたが,1回の通院につき合計640円の交通費がかかったことが認められる。被告病院に再転院した平成5年12月27日以降の実通院日数は,143日であるから,被告は通院交通費として9万1520円を賠償するべきである。 (4) 付添料被告病院に再転院した平成5年12月27日以降に付添費用が発生した事実は認められない。なお,証拠(甲17,原告本人)によれば,原告の母親が付き添ったのは,最初の被告病院への入院と大阪大学付属病院への入院(最初の1週間く 成5年12月27日以降に付添費用が発生した事実は認められない。なお,証拠(甲17,原告本人)によれば,原告の母親が付き添ったのは,最初の被告病院への入院と大阪大学付属病院への入院(最初の1週間くらい)であったことがうかがわれる。 (5) 休業損害原告は,有限会社北川組に勤務し,主に高速道路の舗装及びメンテナンスの仕事に従事していたところ,平成5年11月9日未明に膝下にて左下腿部を切断され,以後,切断端創の処置及び理学療法のために,平成6年4月8日まで入院治療を,平成7年9月20日まで通院治療を必要とし,同日,症状固定と診断された。客観的に見て,上記症状は,道路の維持管理を目的とする民間会社における就労(職場復帰)を不可能にするものであるから,被告は,被告病院に再転院した平成5年12月27日以降平成7年9月20日までの期間(633日間)に,原告が得べかりし収入を,休業損害として賠償するべきである。そして,証拠(甲21)によれば,原告が本件医療過誤に遭遇する以前の収入は,日額7957円であったことが認められるので(労働者災害補償保険法8条参照),被告の賠償すべき休業損害は,503万6781円である。 (6) 入通院慰謝料被告病院に再転院した平成5年12月27日以降の入通院期間,その間の原告の症状を考慮すると,被告の賠償するべき入通院慰謝料は,250万円が相当である。 (7) 後遺障害に基づく逸失利益前認定のとおり,原告は,高卒の男性で,有限会社北川組に勤務し,1日当たり7957円の収入を得ていたところ,本件医療過誤(経過観察の懈怠)により自賠等級5級5号(一下肢を足関節以上で失った)所定の後遺障害が残ることになった。原告は,症状固定時と認められる平成7年9月20日(当時2 の収入を得ていたところ,本件医療過誤(経過観察の懈怠)により自賠等級5級5号(一下肢を足関節以上で失った)所定の後遺障害が残ることになった。原告は,症状固定時と認められる平成7年9月20日(当時21歳)から67歳までの46年間にわたり,労働能力を79パーセント喪失したものと認めるのが相当であるところ,本件医療過誤がなければ,この間,少なくとも,平成7年度の全年齢・産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の平均賃金である年収559万円を得られた蓋然性が高い(なお,原告が本件医療過誤に遭遇する以前の収入は,平成7年度の20ないし24歳の男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計平均賃金額である年収325万円にほぼ等しいので,生涯を通じて前記の全年齢平均賃金を得られる蓋然性が高い。)ので,これをもって基礎収入とし,原告の逸失利益の症状固定時の現価を,ライプニッツ方式によって中間利息を控除して算定すると(ライプニッツ係数17.8800),7895万9868円となる。 (8) 後遺障害慰謝料前記原告の後遺障害の程度などに照らし,後遺障害慰謝料は,原告主張のとおり1300万円が相当と認める。 (9) 損益相殺以上(1)から(8)までの合計額は,9976万1569円であるところ,前認定のとおり,原告は合計1618万9631円の支払を受けているから,これを控除すると,残存損害は,8357万1938円となる。 (10) 弁護士費用本件事案の内容及び認容額にかんがみ,被告の賠償するべき弁護士費用は,原告主張のとおり550万円が相当と認める。 (11) まとめ以上により,被告が原告に対して賠償するべき損害額の合計は,8907万1938円となる。被告は,この損害額について,不法行 主張のとおり550万円が相当と認める。 (11) まとめ以上により,被告が原告に対して賠償するべき損害額の合計は,8907万1938円となる。被告は,この損害額について,不法行為後の日である平成7年9月21日(症状固定日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 3 結論原告の本訴請求額は6601万9864円であるので,原告の本訴請求は,すべて理由がある。よって,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所姫路支部裁判長裁判官島田清次郎 裁判官正木きよみ裁判官柴田誠・

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