- 1 -(別紙及び別表は添付省略)平成27年2月26日判決言渡し平成22年(行ウ)第22号時間外手当等請求事件判決 主文 1 訴訟引受人は,原告Aに対し,438万2751円及びこれに対する平成22年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟引受人は,原告Bに対し,452万6989円及びこれに対する平成22年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告両名のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告両名の負担とし,その余を訴訟引受人の負担とする。 5 この判決は,1,2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨訴訟引受人は,原告Aに対し,2072万3851円及びこれに対する平成22年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟引受人は,原告Bに対し,2099万5103円及びこれに対する平成22年2月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は訴訟引受人の負担とする。 前記⑴及び⑵につき,仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁原告両名の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告両名の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,脱退被告が開設して運営していたC病院(以下「本件病院」とい - 2 -う。)において産婦人科の医師として勤務していた原告両名が,本件病院における宿直勤務及び日直勤務(以下,併せて「宿日直勤務」ということがある。)並びに休日に宿日直勤務に従事している医師(以下,「宿日直担当医師」ということがある。)等から要請があった場合に診療等 院における宿直勤務及び日直勤務(以下,併せて「宿日直勤務」ということがある。)並びに休日に宿日直勤務に従事している医師(以下,「宿日直担当医師」ということがある。)等から要請があった場合に診療等に当たるために当番制で行われている自宅等での待機(以下「宅直当番」という。)は時間外勤務,休日勤務及び深夜勤務に当たり,原告両名が平成20年及び平成21年に宿日直勤務及び宅直当番として時間外勤務等に従事したにもかかわらず,脱退被告が宿日直勤務及び宅直当番に相応する割増賃金を支払わないと主張して,平成26年4月1日,脱退被告から本件病院の業務に関し脱退被告が同年3月31日時点で負っていた債務を承継した訴訟引受人に対し,雇用契約に基づき労働基準法(平成20年法律第89号による改正前のもの。 以下「労基法」という。)37条所定の割増賃金又は不法行為に基づく損害賠償として,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの間における原告両名の宿日直勤務又は宅直当番に相応する割増賃金の未払分として,原告Aにつき2072万3851円及び原告Bにつき2099万5103円並びにこれらに対する最後の宿日直勤務若しくは宅直当番に関する支払期日の翌日又は不法行為後の日である平成22年2月16日から民法所定の利率による遅延損害金の支払を求め,これに対し,訴訟引受人が,宿日直勤務及び宅直当番は労基法上の労働時間(同法32条)に該当せず,また本件病院での宿日直勤務については断続的労働として労働基準監督署長の許可を受けており,同勤務については同法41条3号に該当するから,原告両名に対して割増賃金を支払う義務はないと主張するとともに,仮に割増賃金を支払わねばならないとしても,一部について消滅時効を援用し,割増賃金を支払わないことについて不法行為も成立しないなどと主張する事 に対して割増賃金を支払う義務はないと主張するとともに,仮に割増賃金を支払わねばならないとしても,一部について消滅時効を援用し,割増賃金を支払わないことについて不法行為も成立しないなどと主張する事案である。 2 関連する法令等本件に関連する法令等の要旨は,以下のとおりである。ただし,平成20年1月1日から平成21年12月31日当時のものである。 - 3 -労基法1条1項労働条件は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。 2項この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから,労働関係の当事者は,この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより,その向上を図るように努めなければならない。 32条1項使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない。 2項使用者は,1週間の各日については,労働者に,休憩時間を除き1日について8時間を超えて,労働させてはならない。 37条1項使用者が,33条又は36条1項の規定により労働時間を延長し,又は休日に労働させた場合においては,その時間又はその日の労働については,通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 3項使用者が,午後10時から午前5時までの間において労働させた場合においては,その時間の労働については,通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 4項 1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には,家族手当,通勤手当その他厚生労働省令 通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 4項 1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には,家族手当,通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。 41条第4章(32条ないし41条)及び第6章(56条ないし64条)及び第6章の2(64条の2ないし68条)で定める労 - 4 -働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の各号の1に該当する労働者については適用しない。 3号監視又は断続的労働に従事する者で,使用者が行政官庁の許可を受けたもの115条この法律の規定による賃金(退職手当を除く。),災害補償その他の請求権は2年間,この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては,時効によって消滅する。 労働基準法施行規則(以下「労基法規則」という。)19条1項労基法37条1項の規定による通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は,次の各号の金額に労基法33条若しくは36条1項の規定によって延長した労働時間数若しくは休日の労働時間数又は午後10時から午前5時までの労働時間数を乗じた金額とする。 4号月によって定められた賃金については,その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異なる場合には,1年間における1月平均所定労働時間数)で除した金額2項休日手当その他前項各号に含まれない賃金は,前項の計算においては,これを月によって定められた賃金とみなす。 20条1項労基法33条又は36条1項の規定によって延長した労働時間が午後10時から午前5時までの間に及ぶ場合においては,使用者はその時間の労働については,19条1項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の5 基法33条又は36条1項の規定によって延長した労働時間が午後10時から午前5時までの間に及ぶ場合においては,使用者はその時間の労働については,19条1項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 2項労基法33条又は36条1項の規定による休日の労働時間が午後10時から午前5時までの間に及ぶ場合において - 5 -は,使用者はその時間の労働については,前条1項各号の金額にその労働時間数を乗じた金額の6割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 21条労基法37条4項の規定によって,家族手当及び通勤手当のほか,次に掲げる賃金は,同条1項及び3項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。 1号別居手当2号子女教育手当3号住宅手当4号臨時に支払われた賃金5号 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金23条使用者は,宿直又は日直の勤務で断続的な業務について,所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は,これに従事する労働者を,労基法32条の規定にかかわらず,使用することができる。 職員の勤務時間,休暇等に関する条例(平成7年3月22日奈良県条例第29号。以下「勤務時間条例」という。)9条1項任命権者は,人事委員会の許可を受けて,正規の勤務時間(勤務時間条例3条から6条までに規定する,奈良県職員の原則的な勤務時間をいう。)以外の時間において職員に設備等の保全,外部との連絡及び文書の収受を目的とする勤務その他の人事委員会規則で定める断続的な勤務をすることを命ずることができる。 一般職の職員の給与に関する条例(昭和32年9月10日奈良県条例第33号。 外部との連絡及び文書の収受を目的とする勤務その他の人事委員会規則で定める断続的な勤務をすることを命ずることができる。 一般職の職員の給与に関する条例(昭和32年9月10日奈良県条例第33号。以下「給与条例」という。)9条の2第1項次の各号に掲げる職に新たに採用された職員には,当該各号に掲げる額を超えない範囲内の額を,1号及び2 - 6 -号に掲げる職に係るものにあっては採用の日から35年以内,3号に掲げる職に係るものにあっては採用の日から5年以内の期間,採用の日(1号及び2号に掲げる職に係るものにあっては,採用後人事委委員会規則で定める期間を経過した日)から1年を経過するごとにその額を減じて,初任給調整手当として支給する。 1号医療職給料表(一)の適用を受ける職員の職のうち採用による欠員の補充が困難であると認められる職で人事委員会規則で定めるもの月額41万0900円11条の2第1項地域手当は,当該地域における民間の賃金水準を基礎とし,当該地域における物価等を考慮して別表第七に掲げる支給地域に在勤する職員に支給する。 2項地域手当の月額は,給料,管理職手当及び扶養手当の月額の合計額に,別表第七に掲げる区分に応じて,同表に定める支給割合を乗じて得た額とする。 11条の3(平成20年1月1日から平成20年3月31日まで)前条2項1号の人事委員会規則で定める地域以外の地域に在勤する医療職給料表(一の)適用を受ける職員(人事委員会規則で定めるこれに準ずる職員を含む。)には,前条の規定によりこの条の規定による地域手当の支給割合以上の支給割合による地域手当を支給される場合を除き,当分の間,前条の規定にかかわらず,給料,管理職手当及び扶養手当の月額の合計 含む。)には,前条の規定によりこの条の規定による地域手当の支給割合以上の支給割合による地域手当を支給される場合を除き,当分の間,前条の規定にかかわらず,給料,管理職手当及び扶養手当の月額の合計額に100分の12を超えない範囲内で人事委員会規則で定める割合を乗じて得た月額の調整手当を支給する(一般職の職員の給与に関する条例等の一部を改正する条例(平成18年3月奈良県条例第34号)による読み替えを含む。)。 - 7 -(平成20年4月1日から平成21年12月31日まで)前条2項1号の人事委員会規則で定める地域以外の地域に在勤する医療職給料表(一)の適用を受ける職員(人事委員会規則で定めるこれに準ずる職員を含む。)には,当分の間,前条の規定にかかわらず,給料,管理職手当及び扶養手当の月額の合計額に100分の15を超えない範囲内で人事委員会規則で定める割合を乗じて得た月額の調整手当を支給する(同上)。 12条特殊勤務手当の種類,支給を受ける者の範囲,手当の額及びその支給方法は,別に条例で定める。 13条1項正規の勤務時間を超えて勤務することを命ぜられた職員には,正規の勤務時間を超えて勤務した全時間に対して,勤務1時間につき,23条に規定する勤務1時間当たりの給与額に正規の勤務時間を超えてした次に掲げる勤務の区分に応じてそれぞれ100分の125から100分の150までの範囲内で人事委員会規則で定める割合(その勤務が午後10時から翌日の午前5時までの間である場合は,その割合に100分の25を加算した割合)を乗じて得た額を超過勤務手当として支給する。 1号正規の勤務時間が割り振られた日における勤務2号前号に掲げる勤務以外の勤務 25を加算した割合)を乗じて得た額を超過勤務手当として支給する。 1号正規の勤務時間が割り振られた日における勤務2号前号に掲げる勤務以外の勤務14条1項宿日直勤務を命ぜられた職員には,その勤務1回につき,4200円(入院患者の病状の急変等に対処するための医師又は歯科医師の宿日直勤務にあっては2万円,人事委員会規則で定めるその他の特殊な業務を主として行う宿日直勤務にあっては7200円)を超えない範囲内において,人事委員会規則で定める額を宿日直手当として支給する。 - 8 -16条祝日法による休日等及び年末年始の休日等において,正規の勤務時間中に勤務することを命ぜられた職員には,正規の勤務時間中に勤務した全時間に対して,勤務1時間につき,23条に規定する勤務1時間当たりの給与額に100分の125から100分の150までの範囲内で人事委員会規則で定める割合を乗じて得た額を休日勤務手当として支給する。 23条 13条,15条,16条及び22条に規定する勤務1時間当たりの給与額は,給料の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額に12を乗じ,その額を,1週間当たりの勤務時間に52を乗じたもので除して得た額とする。 職員の勤務時間,休暇等に関する規則(平成7年3月31日,奈良県人事委員会規則第16号。以下「勤務時間規則」という。)7条1項勤務時間条例9条1項の人事委員会規則で定める断続的な勤務は,次に掲げる勤務とする。 1号本来の勤務に従事しないで行う庁舎,設備,備品,書類等の保全,外部との連絡,文書の収受,庁内の監視を目的とする勤務(次号に掲げる勤務を除く。)2号前号に規定する業務を目的とする勤務のうち,庁舎に附属する居住室において私生活を 設備,備品,書類等の保全,外部との連絡,文書の収受,庁内の監視を目的とする勤務(次号に掲げる勤務を除く。)2号前号に規定する業務を目的とする勤務のうち,庁舎に附属する居住室において私生活を営みつつ常時行う勤務3号次に掲げる勤務県立病院における入院患者の病状の急変等に対処するための医師又は歯科医師の当直勤務宿日直手当に関する規則(昭和46年3月31日奈良県人事委員会規則第12号)2条宿日直手当の支給される勤務は,次の各号に掲げる勤務とする。 2号勤務時間規則7条1項3号に掲げる勤務3条1項前条1号及び2号の勤務についての宿日直手当の額は,その勤 - 9 -務1回につき,次の各号に掲げる額とする。ただし,勤務時間が5時間未満の場合は,当該各号に掲げる額に100分の50を乗じて得た額とする。 4号 地域手当に関する規則(平成18年3月31日奈良県人事委員会規則第30号),地域手当に関する規則の一部を改正する規則(平成20年1月1日から平成20年3月31日まで)一般職の職員の給与に関する条例等の一部を改正する条例附則11条の規定により読み替えられた条例11条の3の人事委員会規則で定める割合は,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間にあっては100分の10,平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間にあっては100分の11.5,平成21年4月1日から平成22年3月31日までの間にあっては100分の12とする。 (平成20年4月1日から平成21年12月31日まで)一般職の職員の給与に関する条例等の一部を改正する条例附則11条の規定により読み替えられた条例11条の3の人事委員会規則で定める割合は,平成18年4月1日か 4月1日から平成21年12月31日まで)一般職の職員の給与に関する条例等の一部を改正する条例附則11条の規定により読み替えられた条例11条の3の人事委員会規則で定める割合は,平成18年4月1日から平成19年3月31日までの間にあっては100分の10,平成19年4月1日から平成20年3月31日までの間にあっては100分の11. 5,平成20年4月1日から平成21年3月31日までの間にあっては100分の13と,平成21年4月1日から平成22年3月31日までの間にあっては100分の14とする。 3 争いのない事実等以下の事実は,当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実又は証拠若しくは弁論の全趣旨により認めることができる事実である。 当事者等ア脱退被告は,平成26年3月31日まで,本件病院を設置して運営していた。訴訟引受人は,平成26年4月1日に成立した地方独立行政法人で - 10 -ある。 訴訟引受人は,平成26年4月1日,脱退被告から本件病院の業務に関し同年3月31日時点で脱退被告が負っていた債務を承継した。 イ原告Aは,平成9年7月頃以降,原告Bは,平成10年頃以降,それぞれ本件病院の産婦人科に医師として勤務している(以下,原告両名を含む本件病院に勤務する産婦人科医師のことを,単に「産婦人科医師ら」という。)。 (争いのない事実)原告両名の勤務時間等についてア産婦人科医師らは,本件病院において,正規の勤務時間(所定就業時間)である月曜日から金曜日(祝日及び年末年始(12月29日から1月3日をいう。)を除く。)の午前8時30分から午後5時15分まで(ただし,平成21年11月30日まではこのうち45分間が休憩時間であり,同年12月1日からはこのうち1時間が休憩時間である。)職務に従事するほか, を除く。)の午前8時30分から午後5時15分まで(ただし,平成21年11月30日まではこのうち45分間が休憩時間であり,同年12月1日からはこのうち1時間が休憩時間である。)職務に従事するほか,脱退被告の指揮命令の下に,入院患者の病状の急変及び外来救急患者に対処するため,交代で下記時間帯における宿直勤務及び日直勤務に従事している。 宿直勤務午後5時15分から翌朝午前8時30分まで日直勤務土曜日,日曜日,祝日及び年末年始の午前8時30分から午後5時15分までイ産婦人科医師らは,本件病院における宿日直勤務の際に,産婦人科の診療において1名の医師で対応することは困難な場合が生ずるため,予め定められた宿日直勤務に従事しない1名の医師(宅直当番)が,自宅に待機するなどして,宿日直勤務中の医師から要請を受けたときは,概ね30分以内に本件病院に赴き診療等を行っている。 - 11 -(争いのない事実,甲23,原告A本人,原告B本人,弁論の全趣旨)奈良労働基準監督署長の許可奈良労働基準監督署長は,昭和52年10月7日,本件病院に対し,下記の附款を付して,断続的な宿直又は日直勤務についての許可を行った(奈監収36号,以下「本件許可」という。)。 ア 1回の勤務に従事する者は次のとおりとする。 宿直 3人以内日直 3人以内イ 1人の従事回数は次の回数をこえないこと。 宿直週1回日直月1回ウ勤務の開始及び終了の時刻は,それぞれ次のとおりとすること。 宿直開始17時15分より前に勤務につかせないこと。 終了8時30分より後に勤務につかせないこと。 日直開始8時30分より前に勤務につかせないこと。 終了17時15分より後に勤務につかせないこと。 エ 1回の宿直又は日直の手当額は8000円 。 終了8時30分より後に勤務につかせないこと。 日直開始8時30分より前に勤務につかせないこと。 終了17時15分より後に勤務につかせないこと。 エ 1回の宿直又は日直の手当額は8000円以上とすること。なお,この金額については将来においても宿直又は日直の勤務につくことの予定されている同種の労働者に対して支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないこと。 オ通常の労働に従事させる等,許可した勤務の態様と異なる勤務に従事させないこと。 カ宿直の勤務につかせる場合は,就寝のための設備を設けること。 (争いのない事実,乙771)原告両名の宿日直勤務及び宅直当番への従事について原告両名は,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの間,本件病院において別紙宿日直一覧表及び別紙宅直一覧表記載のとおり,宿日 - 12 -直勤務に従事し,また,宅直当番を担当した。 (争いのない事実,甲10,乙1~25,763の1~366,764の1~365,弁論の全趣旨)宿日直勤務中の緊急手術等の扱い本件病院は,「「当直勤務(日直・宿直)時における通常勤務の取り扱いについて」の変更について」と題する本件病院院長の通知(平成19年6月19日発)に基づき,平成19年6月1日以降,宿日直勤務中に宿日直担当医師が通常業務(院内巡視,電話等への対応及び入院患者への処置全般以外の業務であって,原則として,外来患者への処置全般及び入院患者に係る手術室を利用しての緊急手術(異常分娩を含む。)等。)を行った場合は,当該勤務を時間外勤務に振り替えるものとし,当該勤務時間を宿日直勤務時間から減算する扱いとしている。 (乙772の2,弁論の全趣旨)原告両名に支払われた給料等平成20年1月1日から平成21年12月31日までの期 振り替えるものとし,当該勤務時間を宿日直勤務時間から減算する扱いとしている。 (乙772の2,弁論の全趣旨)原告両名に支払われた給料等平成20年1月1日から平成21年12月31日までの期間において,原告両名が脱退被告から支給を受けた給料及び諸手当等の金額は,別紙給与支給明細に記載のとおりである(ただし,原告両名が支給を受けた諸手当等は,別紙給与支給明細に記載されたものに限られない。)。 (争いのない事実)割増賃金等の支払時期について脱退被告における,原告両名に対する給料等の支給日は各月の21日であり,その支給される給料等の内容は,支給日の属する月の1日から末日までの給料,支給日の属する月の前月の1日から末日までの宿日直勤務手当,及び,支給日の属する月の前々月の26日から前月の25日までの時間外労働に対する手当となっている。 (争いのない事実)既払いの宿日直手当等 - 13 -脱退被告は,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの期間における原告両名の宿日直勤務について,別紙時間外勤務手当等既払額一覧表の各「宿日直日」欄に記載された期間に行われた宿日直に対し,「宿日直日」欄に対応する欄に記載された額の超過勤務手当及び宿日直手当を支給した。 (争いのない事実,弁論の全趣旨)消滅時効原告両名は,平成22年12月30日,当裁判所に本件訴訟を提起した。 原告両名に支給される平成20年11月25日までの労働(宿日直勤務及びその他の時間外労働及び休日労働を含む。)に対する給与,宿日直手当及び時間外手当は,同年12月21日以前に期限が到来している。したがって,平成20年1月1日から同年11月25日までの原告両名の脱退被告に対する時間外労働及び休日労働についての割増賃金債権は,平成22年12月2 は,同年12月21日以前に期限が到来している。したがって,平成20年1月1日から同年11月25日までの原告両名の脱退被告に対する時間外労働及び休日労働についての割増賃金債権は,平成22年12月20日の経過をもって,消滅時効期間(2年,労基法115条)が経過している。 脱退被告は,原告両名に対し,平成23年2月24日の本件口頭弁論期日において,上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 (争いのない事実,顕著な事実) 4 争点宿日直勤務の労働時間該当性(原告両名の宿日直勤務が労基法上の労働時間に該当するか)(原告両名の主張)原告両名は,産婦人科という診療科目の性質上,夜間・休日を問わず分娩等に対応しなければならず,異常分娩等を正規の勤務時間外に行うこともまれではない。また,宿日直勤務においては救急外来患者に対する診療行為も義務付けられている。したがって,原告両名が宿日直勤務において行っている診療行為は,正規の勤務時間内に行っている行為と異ならない。 - 14 -そして,脱退被告は,原告両名に対し,待機時間等を含む宿日直勤務の時間帯全てについて時間外労働命令を出しており,実際に原告両名は同命令に従って宿日直勤務に従事している。原告両名は宿日直勤務時間帯の全てについて脱退被告の指揮命令下にあるから,原告両名の宿日直勤務は,その全てが労基法上の労働時間に該当し,時間外労働となる。 (訴訟引受人の主張)宿日直勤務は,通常の勤務とは異なり,睡眠を取ることが認められた特殊な勤務であり,本件病院が本件許可を受けていることからすれば,宿日直勤務を労基法上の労働時間と考えるべきではない。 仮に宿日直勤務を行っている時間帯につき,労基法上の労働時間と評価すべき部分があるとしても,平成20年11月26日から平成21年12月3 ば,宿日直勤務を労基法上の労働時間と考えるべきではない。 仮に宿日直勤務を行っている時間帯につき,労基法上の労働時間と評価すべき部分があるとしても,平成20年11月26日から平成21年12月31日の期間において,原告Aが「通常業務」を行っているのは正常分娩に就いている時間を加えても宿日直勤務に就いている時間の26.2パーセント,宿日直勤務時間帯における全ての業務を含めても26.9パーセントにすぎず,原告Bが「通常業務」を行っているのは正常分娩に就いている時間を加えても宿日直勤務に就いている時間の14.8パーセント,宿日直勤務時間帯における全ての業務を含めても15.2パーセントにすぎず,医療法16条が病院の管理者に医師に宿直させることを義務付けていること,医師には医師法19条1項による診療要求に応じる義務や診療契約に基づく善管注意義務(民法644条)が課されていること,医師の収入及び地位等並びに本件病院において交替制勤務を導入することは困難であり,宿日直勤務が認められないならば救急医療態勢を見直さざるを得ないことなども考慮し,原告両名の宿日直勤務時間の一定割合のみを労基法上の労働時間とすべきである。 宅直当番の労働時間該当性(原告両名の宅直当番が労基法上の労働時間に該当するか)(原告両名の主張)脱退被告が原告両名に命じている宿日直勤務で行う業務には,異常分娩に - 15 -対する診療行為等,医師1人では行うことが不可能な行為が含まれていた。 そのため,確実な応援態勢が確立されていなければ,脱退被告が命じている宿日直勤務を全うすることができないことから,産婦人科医師らは宿日直勤務のために必要不可欠な制度として宅直当番制度を運営してきた。 そして,本件病院の産婦人科では,宿日直勤務と宅直当番はセットで考えられており,同じ ることができないことから,産婦人科医師らは宿日直勤務のために必要不可欠な制度として宅直当番制度を運営してきた。 そして,本件病院の産婦人科では,宿日直勤務と宅直当番はセットで考えられており,同じ者が宿日直勤務と宅直当番の担当割りを決め,病院内に表示していたのであって,本件病院の院長らは,宅直当番制度の目的や運用実態を知った上で,それを前提に原告両名に宿日直勤務命令を発してきたものであるから,宅直当番は宿日直勤務と一体不可分の制度であって,脱退被告は原告両名に対し宅直当番を黙示的に命じているものである。 また,産婦人科医らは,宅直当番を全うするために本件病院の近くに居住せねばならず,宅直当番の担当医師は本件病院から概ね30分で到着できる距離に行動が拘束され,飲酒もできず,呼出しがあれば直ちに本件病院に赴いて当直医と同様の治療を行わなければならないのであるから,宅直当番の対象者は労働から解放された状態とはいえず,実質的に宅直当番の全時間帯について本件病院の指揮命令下に置かれていたのであり,その実態は正規の労働時間内における勤務と異ならない。したがって,原告両名が宅直当番を担当している時間は,その全てが労基法上の労働時間に該当し,時間外労働となる。 (訴訟引受人の主張)脱退被告は,宿日直担当医師が主治医の協力等も得ながら宿日直勤務を行うことなどを想定し,宿日直担当医師を1人配置すれば足りると総合的に判断しているものであり,宅直当番を宿日直勤務の前提としているものではない。 宿日直担当医師だけでは対応できない事態が発生したが,主治医が不在で,しかもこれを呼び出すことができない場合には,本件病院の全ての産婦人科医師が平等に呼び出される負担を負っており,原告両名は,このような負担 - 16 -を軽減し,相互に協力し合う関係の上に ,しかもこれを呼び出すことができない場合には,本件病院の全ての産婦人科医師が平等に呼び出される負担を負っており,原告両名は,このような負担 - 16 -を軽減し,相互に協力し合う関係の上に宅直当番を実施しているのであって,脱退被告が黙示的であっても原告両名に宅直当番を命じたことはない。 また,原告両名は,本件病院外にいる場合であっても,本件病院から呼出しを受ける可能性がある状態から解放されることはないが,この状態は職務命令に基づく義務ではない。 したがって,原告両名の宅直当番は,労基法上の労働時間には該当しない。 宿日直勤務の断続的労働該当性(原告両名の宿日直勤務が断続的労働に該当するか)(訴訟引受人の主張)本件病院は,奈良労働基準監督署長から,宿日直勤務が労基法41条3号所定の断続的労働に当たるとする許可(本件許可)を受けており,現在まで本件許可は取り消されていない。したがって,本件病院に勤務する原告両名を含む産婦人科医師の宿日直について労働時間,休憩及び休日に関する規定の適用はないので,脱退被告は,原告両名に対し,脱退被告が定めた宿日直手当を支払えば足り,既に宿日直手当は支払済みであるから,脱退被告及び訴訟引受人は原告両名に対し何らの支払義務を負わない。 また,仮に宿日直勤務の全てが断続的労働に当たるとはいえず,宿日直勤務の全てについて労基法41条3号を適用することができないとしても,厚生労働省労働基準局は,通達(甲1)において,「宿日直勤務について,一部許可に定められた事項を満たしていないものの,その労働実態から,引き続き休日及び夜間について断続的労働である宿日直勤務として取り扱うことが可能であると考えられる医療機関」の存在を認めており,かつ,宿日直勤務について,労働基準監督署長の許可に付された基準を一部充 き続き休日及び夜間について断続的労働である宿日直勤務として取り扱うことが可能であると考えられる医療機関」の存在を認めており,かつ,宿日直勤務について,労働基準監督署長の許可に付された基準を一部充たさないことがあっても,睡眠が充分にとりうるものであって宿日直勤務中に「通常の労働」が頻繁に行われる場合に当たらない場合は,突発的に行われた労働についてのみ割増賃金を支払えば足り,当該許可を取り消す必要はないとしている。 - 17 -したがって,原告両名の宿日直勤務のうち「通常の労働」に該当しない部分については,労基法41条によって同法37条の適用を免れるから,「通常の労働」に該当しない部分について割増賃金の支払義務はない。 (原告両名の主張)原告両名の宿日直勤務時間内における労働は,労基法41条3号所定の断続的労働に当たるものではない。 医療機関における断続的労働として許容される宿日直勤務とは,常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみをいうのであり,病室の定時巡回,少数の要注意患者の定時検脈等,軽度又は短時間の業務のみが行われている場合に限られ,原告両名が宿日直勤務において従事していた長時間に及ぶ継続的な分娩管理等,正規の勤務時間内に行う業務と何ら変わりないものは含まれない。 そして,訴訟引受人が,宿日直時間中において原告両名が実際に職務に従事していた割合であると主張する15パーセントないし26パーセントという数字は,原告両名が宿日直勤務中に行った労働のうち手術室内にいる時間等の一部を取り出して評価したものにすぎない。本件病院の病棟には重症患者が多く入院していることから,血圧異常や出血等の記録に残らないコール(看護師ないし医師の呼出し)が多数存在する上,分娩があれば,破水や抗生物質の投与に関する報告電話が頻繁にあり, の病棟には重症患者が多く入院していることから,血圧異常や出血等の記録に残らないコール(看護師ないし医師の呼出し)が多数存在する上,分娩があれば,破水や抗生物質の投与に関する報告電話が頻繁にあり,突然に早急な対応を求められるものであるから,原告両名が,宿日直勤務中に「病室の定時巡回,少数の要注意患者の定時検脈」といった軽度又は短時間の業務のみを行ったとはいうことができない。 脱退被告の不法行為の成否(脱退被告が原告両名に対して割増賃金を支払わなかったことの違法性等)(原告両名の主張)原告両名の宿日直勤務の実態は,断続的労働と評価できるものではないし,宅直当番は宿日直勤務と一体の制度であり,本件病院の医療関係者全てが認 - 18 -識できるものであった。そして,脱退被告は,平成20年よりも前から原告両名の時間外労働の実態が労基法違反の状態にあることを十分認識していたのであるから,脱退被告は,直ちに原告両名の時間外勤務について労基法所定の割増賃金を支払うべき義務を負うにもかかわらず,この義務に違反して原告両名の平成20年1月1日から平成21年12月31日までの時間外労働に対する割増賃金相当額を支払わなかったものであるから,不法行為に基づき,時間外労働に対する割増賃金相当額の損害を賠償する義務を負う。 (訴訟引受人の主張)脱退被告の行為に原告両名に対する不法行為となるような違法はない。 第3 当裁判所の判断 1 判断の前提となる事実以下の事実は,当事者間に争いのない事実又は証拠若しくは弁論の全趣旨によって認めることができる事実である。 本件病院における宿日直勤務の状況等本件病院の産婦人科においては,宿日直勤務ごとに1名の医師が宿日直勤務を担当している。宿日直勤務を担当する医師は,入院患者の病状の急変及び外来 事実である。 本件病院における宿日直勤務の状況等本件病院の産婦人科においては,宿日直勤務ごとに1名の医師が宿日直勤務を担当している。宿日直勤務を担当する医師は,入院患者の病状の急変及び外来患者に対処すること並びにやむを得ない事情がない限り救急外来の診療に従事することをその業務内容とされており,呼出しに対して速やかに応答する義務を課されている。 (弁論の全趣旨)本件病院における宅直当番の状況等産婦人科医師らは,医師1名では対応できない異常分娩,手術等の場合や,即時に対応すべき患者が複数名生じる場合等に備え,宿日直担当医師の応援要請に対して速やかに協力する医師を確保するため,申合せによって宅直当番を定めており,産婦人科医師らが宅直当番の割振りを行っていた。割振りをした後は,宿日直担当医師について本件病院に対して届出をしていたが,宅直当番担当医師については本件病院への報告はせず,卓上カレンダーに記 - 19 -載して病棟にぶら下げるとともに,他の産婦人科医師らにもその写しを配布していた。また,本件病院内において,他の職員が見える位置に上記カレンダーの写しを貼り,あるいはホワイトボード上に表示するなどして周知しており,患者の急変など宿日直担当医師が手を離せないときには,看護師等が上記写しを参照して宅直当番担当医師に連絡をとることもあった。 (甲10,11の2,19,21,24)本件当時の本件病院の診療状況本件病院の産婦人科では,平成18年3月当時,異常分娩等の危険性のある妊婦や低出生体重児の受入れを行っていたが,産婦人科医の不足から近隣病院での夜間の救急受入れが困難になってきており,奈良県北部及び西部並びに京都府南部から本件病院に1次の産婦人科救急患者が集中して搬送されるため,本件病院において医師の疲弊が特に 科医の不足から近隣病院での夜間の救急受入れが困難になってきており,奈良県北部及び西部並びに京都府南部から本件病院に1次の産婦人科救急患者が集中して搬送されるため,本件病院において医師の疲弊が特に問題となっていると指摘されていた。 (甲8)本件病院での分娩における医師の関与状況等正常分娩(妊娠37週から42週未満における,正常胎位・胎勢をもって自然分娩し,母子ともに安全であるものをいう。なお,当該分娩が異常分娩か正常分娩かは,胎児心音低下や産後出血の有無等,様々な点から異常の有無を判断し,立ち会った医師が最終的に判断する。)の場合,助産師が中心となって対応しているが,本件病院の産婦人科の医師は医師が必ず立ち会って助産師等と協力して分娩に当たっている。 分娩に立ち会う医師は,妊婦が陣痛室に入ると,直ちに医療行為等(妊婦の家族に対する説明等も含む。)を行うことができるように分娩室付近で待機し,分娩が開始すると縫合まで少なくとも1時間程度は分娩室内で立ち会っているほか,分娩終了後も産後出血等の経過観察等のため,2時間程度は待機して報告を受けるなどしており,異常があれば直ちに医療行為等を行っている。また,本件病院における異常分娩に対しては,医師が診断,診療, - 20 -処置及び手術等を行うこととなるが,手術を伴う異常分娩等に対応するためには産婦人科医師2名が必要である。 宿日直勤務時間中における分娩については,宿日直担当医師が分娩に立ち会うことが多いが,宿日直担当医師の状況や患者の状況等から,呼び出された主治医,宅直当番を担当している医師等が,単独又は宿日直担当医師と協力して分娩を担当することもある。 (甲18~21,29)宿日直担当医師の勤務内容等ア本件病院において,平成20年の分娩件数(なお,胎児1名につ ている医師等が,単独又は宿日直担当医師と協力して分娩を担当することもある。 (甲18~21,29)宿日直担当医師の勤務内容等ア本件病院において,平成20年の分娩件数(なお,胎児1名につき1件と計数していると解される。)は560件(うち宿日直勤務時間帯における分娩件数は332件(全体の約59.2パーセント))であり,平成21年の分娩件数は1129件(うち宿日直勤務時間帯における分娩件数は655件(全体の約58.0パーセント))である。 (乙26)イ本件病院は,平成19年6月1日以降,宿日直担当医師による業務を,①外来扱いの正常分娩(外来患者が正常分娩に至った場合における分娩室に入るまでの診察を指し,分娩室に入室後の処置については後記④に該当する。),②外来扱いの異常分娩(外来患者が異常分娩に至った場合における分娩室に入るまでの診察を指し,分娩室に入室後の処置については後記⑤に該当する。),③外来扱いのその他の処置(外来患者に対する処置のうち,①及び②を除いたものをいう。),④入院扱いの正常分娩,⑤入院扱いの異常分娩及び⑥入院扱いのその他の処置(病室への回診や患者家族への説明,電話対応等,④及び⑤に該当しない処置全般をいう。)の6つに分類し,通常業務(上記①,②,③,⑤)又は宿日直勤務における業務(以下「宿日直業務」という。上記④,⑥)に区分している。 (乙772の1)ウ宿日直担当医師は,通常業務等の内容及びそれらに従事した時間帯等を - 21 -記載した「時間外勤務等命令書(当直時)」を作成し,本件病院に提出していた。脱退被告は,上記「時間外勤務等命令書(当直時)」に基づき,平成19年6月1日から平成20年3月31日までの間における産婦人科医師らが宿日直勤務中に行った通常業務及び宿日直業務並びにこれら各 ていた。脱退被告は,上記「時間外勤務等命令書(当直時)」に基づき,平成19年6月1日から平成20年3月31日までの間における産婦人科医師らが宿日直勤務中に行った通常業務及び宿日直業務並びにこれら各業務が宿日直勤務時間帯に占める割合を調査した(以下「本件調査」という。)。 本件調査は,宿日直担当医師が宿日直勤務時間中に通常業務に従事した時間(上記①ないし③,⑤に従事した時間の合計時間)の割合は全体の約22.3パーセント,通常業務及び正常分娩にかかる処置時間(上記①ないし⑤に従事した時間の合計時間)の割合は全体の約23.1パーセント,通常業務及び正常分娩にその他の業務をも含めた時間(上記①ないし⑥の合計時間)の割合は約23.7パーセントとの結果を示している。したがって,原告両名を含めた産婦人科医師らが宿日直勤務において通常業務等に従事していた時間は,宿日直勤務時間全体の23.1パーセントを下らない(なお,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの期間においても,同様の割合であることがうかがわれる)。 (乙772の1)原告両名の宿日直勤務及び宅直当番原告両名は,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの間,別紙宿日直一覧表及び別紙宅直一覧表記載のとおり,本件病院において宿日直勤務に従事し,また,宅直当番を担当した。 (争いのない事実,甲10,乙1~25,763の1~366,764の1~365,弁論の全趣旨)原告両名に対し支払われた給与等平成20年1月1日から平成21年12月31日までの期間において,原告両名が脱退被告から支給を受けた給料及び諸手当等の金額は,別紙給与支給明細に記載のとおりである(ただし,原告両名が支給を受けた諸手当等は, - 22 -別紙給与支給明細に記載されたものに限られない。 脱退被告から支給を受けた給料及び諸手当等の金額は,別紙給与支給明細に記載のとおりである(ただし,原告両名が支給を受けた諸手当等は, - 22 -別紙給与支給明細に記載されたものに限られない。)。 (争いのない事実)原告両名の宿日直勤務に対する時間外勤務手当及び宿日直手当の支給脱退被告は,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの期間における原告A及び原告Bの宿日直勤務について,別紙時間外勤務手当等既払額一覧表の各「宿日直日」欄に記載された期間に行われた宿日直に対し,「宿日直日」欄に対応する欄に記載された額の宿日直手当及び超過勤務手当を支給した。 (争いのない事実,弁論の全趣旨) 2 宿日直勤務及び宅直当番の労働時間該当性について宿日直勤務の労働時間該当性(原告両名の宿日直勤務が労基法上の労働時間に該当するか)についてア労基法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,実作業に従事していない時間(仮眠時間を含む。以下「非従事時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者が非従事時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成7年(オ)第2029号平成12年3月9日第1小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。 そして,非従事時間において,労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず,当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって,非従事時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきであ いて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって,非従事時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきであり,非従事時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に - 23 -置かれているというのが相当である(最高裁平成9年(オ)第608号,同年(オ)第609号平成14年2月28日第1小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。 イそこで,原告両名の宿日直勤務についてみるに,原告両名は,非従事時間を含む宿日直勤務の全時間帯において,脱退被告との労働契約上,呼出しを受ければ直ちに入院患者の急変や異常分娩等に対応するほか,やむを得ない事情がない限り救急外来患者の診療に従事するなど,医師として対応することを義務付けられている。そして,主治医や宅直当番を担当している医師等が呼び出されるなどして診療等を行うことはあるものの,原則として1名の宿日直担当医師が上記のような各業務を担当していたこと,宿日直時間内の分娩数及び救急外来の患者数,並びに宿日直担当医師が上記各業務に従事する時間は,平均して宿日直勤務の全時間帯の少なくとも23.1パーセントを超えていたことなどの事情に照らせば,原告両名は,宿日直勤務の全時間において,労働契約に基づく義務として,診療に従事するなどして医師として対応することを義務付けられているのであり,それらの対応がその必要が生じた場合に限られるとしても,その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから,非従事時間において労働からの解放が保障されているとはい れるとしても,その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから,非従事時間において労働からの解放が保障されているとはいえず,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。したがって,原告両名は,非従事時間も含めた宿日直勤務の全時間を通じて,脱退被告の指揮命令下に置かれているものであり,宿日直勤務に従事していた時間全てが労基法上の労働時間に当たると評価すべきである。 ウなお,訴訟引受人は,宿日直勤務時間を労働時間とみるべきではないとする根拠として,医療法16条や医師法19条1項の規定,本件病院における医師数の不足等をも主張する。しかし,医療法16条は病院の管理者に原則として病院に医師を宿直させるべき義務を定めた規定であり,また, - 24 -医師法19条1項は,医師一般に正当な理由なく診療を拒絶することを禁止したものであって,医師等の宿日直勤務につき労基法上の労働時間に該当しないものと定めた規定と理解することはできない。なお,産婦人科医師の数が不足しているなどの事情から本件病院で交替制勤務等によって対応することが困難又は不可能であるとしても,それは原告両名の宿日直勤務の労働時間該当性を否定すべき理由とはならない。 宅直当番の労働時間該当性(原告両名の宅直当番が労基法上の労働時間に該当するか)について働時間に該当するか否かは,労働者が非従事時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである。 ところで,前記1で判示したとおり,宅直当番は,本件病院の内規等に定めのない,本件病院に勤務する産婦人科医師らによる自主的な取決めにすぎず,具体的な宅直当番の担当を定める ものというべきである。 ところで,前記1で判示したとおり,宅直当番は,本件病院の内規等に定めのない,本件病院に勤務する産婦人科医師らによる自主的な取決めにすぎず,具体的な宅直当番の担当を定めるに当たっても,産婦人科医師らの中で割当てを行うこととなっていた医師が各医師の負担等を考慮しながら割り振っていたものである。割振りによって定められた宅直の当番表は,その写しが病棟等に掲示されるとともに産婦人科医師らに配布されるものの,宿日直勤務と異なって,本件病院に対して担当する医師の報告等をしていたとはうかがわれないし,本件病院からその報告等を求めたことがあったとも認められない。そして,宿日直勤務時間中において,他の医師の出勤を要請する必要があるか否かを判断するのは宿日直担当医師であり,本件病院が,呼出しを受けた医師が宅直当番担当の医師かそれ以外の医師かということを把握していたとも認められない。また,宅直当番担当の医師は,呼出しがあれば本件病院に直ちに駆け付けられるように,各人の自宅等,本件病院からおよそ30分以内にたどり着ける場所で待機していたことはうかがわれるものの,本件病院に対してそのことを報告していたとか,本件病院から上記のような - 25 -待機場所の指定を受けていたなどの事情もうかがわれない。 以上のような事情に照らせば,宅直当番を担当している医師は,産婦人科医師らの申合せに従って,宿日直担当医師その他本件病院の職員から連絡があった場合には直ちにその指揮監督下に入ることができるように努めていたと認められるものの,それを超えて,宅直当番の全時間について本件病院の指揮監督下にあったとまでは認められない。 原告両名は,宅直制度は宿日直制度と一体のものであると主張する。確かに,前記1で判示したとおり,脱退被告は,宅直制度の存在に 当番の全時間について本件病院の指揮監督下にあったとまでは認められない。 原告両名は,宅直制度は宿日直制度と一体のものであると主張する。確かに,前記1で判示したとおり,脱退被告は,宅直制度の存在について概括的には認識していたことに加え,同制度は宿日直担当医師の負担を軽減するとともに,緊急時等に即応できる体制を構築するためのものであること,宿日直勤務中に宿日直担当医師一人だけでは担当できない事態が生ずることが通常あり得ること等の事情からすれば,宅直制度と宿日直制度は密接な関わり合いがあるとは認められる。しかしながら,宅直制度は産婦人科医師らの合意によって開始され,同科の医師らのみで管理及び運営されてきたものであること,原告両名は本来医師として一般的な診療義務を負っており,原告両名にとっても宅直制度には同義務の実質的な軽減という利点があること,他方,宅直制度の存在を前提として本件病院が宿日直制度を構築したと認めるに足りる証拠はないこと等の事情に照らせば,本件病院における宅直制度と宿日直制度が一体のものであって,宅直当番に従事している医師についても本件病院の指揮監督下にあったと認めることはできないから,宅直当番に当たっていた時間について,労基法上の労働時間に当たるとする原告両名の主張は採用できない。 3 宿日直勤務の断続的労働該当性(原告両名の宿日直勤務が断続的労働に該当するか)原告両名は一般地方公務員であって(地方公務員法3条),一部の規定を除き労基法が適用され(地方公務員法58条3項),労基法37条,41条の適用を受けるものである。ところで,労基法は労働条件の最低の基準を定 - 26 -めることを目的とするものであるから,地方公務員の勤務条件等を条例で定める場合においても,労基法の適用がある場合は,同法の基準より公務員に ころで,労基法は労働条件の最低の基準を定 - 26 -めることを目的とするものであるから,地方公務員の勤務条件等を条例で定める場合においても,労基法の適用がある場合は,同法の基準より公務員に不利益となる勤務条件等を定めることは同法の趣旨に反し許されない。 労基法41条柱書及び3号は,監視又は断続的労働に従事する者で使用者が行政官庁の許可を受けたものについては同法の第4章,第6章及び第6章の2で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定を適用しない旨規定し,労基法規則23条は,これを受けて宿直又は日直の勤務で断続的な業務につき所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は,これに従事する労働者を労基法32条の規定にかかわらず使用することができる旨を定めている。ここで,労基法41条3号が監視又は断続的労働に従事する者について行政官庁の許可を要件として労基法上の一部規定の適用を排除したのは,常態として身体的又は精神的緊張の少ない監視労働や実作業に従事する時間が少なく手待ち時間の多い断続的労働にあっては,労働密度が薄く,精神的及び肉体的負担が小さいためであると解される。したがって,平常勤務者が平常勤務の傍ら宿直及び日直業務にも従事するような場合にあっては,当該宿日直勤務が断続的労働に該当するのは,その勤務内容が常態としてほとんど労働をする必要がないものであるなど当該宿日直勤務が平常勤務との関わりを踏まえてもなお労働密度が薄く精神的及び肉体的負担が小さい場合に限られるものというべきである。 そして,平成14年3月19日付けの厚生労働省労働基準局長通達(基発第0319007号,甲1)が,労基法規則23条にいう宿日直勤務とは,所定労働時間外又は休日における勤務の一態様であり,当該労働者の本来業務は処理せず,構内巡視,文書・電話の収受又は非常事 達(基発第0319007号,甲1)が,労基法規則23条にいう宿日直勤務とは,所定労働時間外又は休日における勤務の一態様であり,当該労働者の本来業務は処理せず,構内巡視,文書・電話の収受又は非常事態に備えて待機するもの等であって常態としてほとんど労働する必要がない勤務であるとしていること,労基法41条3号にいう行政官庁たる労働基準監督署長が,医療機関における休日及び夜間の勤務に関して,許可を与えるか否かを判断するに当たっては,①一般の宿直業務以外には,病室の定時巡回,異常患者の医師 - 27 -への報告又は少数の要注意患者の定時検脈,検温等特殊の措置を要しない軽度の,又は短時間の業務に限られ,原則として,突発的な事故による応急患者の診療又は入院,急患の死亡,出産等の昼間と同態様の業務(以下「日中業務」という。)に従事してはならない,②相当の睡眠設備が設置され,夜間に充分睡眠をとりうること,③原則として,宿直勤務は週1回,日直勤務は月1回を限度とすること,④宿日直勤務手当は,その勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われる賃金の一人一日平均額の3分の1を下回らないものであること,という許可基準を定め,医師や看護師の数と担当する患者数との関係,当該病院に夜間来院する急病患者の発生率との関係等からみて,日中業務に従事することが常態であるような場合は断続的労働としての許可はできないとしていることも,同様の趣旨のものであると解される。 なお,労基法41条3号及び労基法規則23条は,あくまで断続的労働に当たる宿日直勤務に関して,同勤務に従事させることについて労働基準監督署長の許可がある場合に労基法上の規定の適用を除外するものにすぎないから,同許可を受けているとしても,その労働実態が断続的労働に当たると認められない場合に 同勤務に従事させることについて労働基準監督署長の許可がある場合に労基法上の規定の適用を除外するものにすぎないから,同許可を受けているとしても,その労働実態が断続的労働に当たると認められない場合には,労基法41条の適用はないと解するのが相当である。 訴訟引受人は,厚生労働省は,上記通達において,宿日直勤務について一部許可に定められた事項を満たしていないものの,その労働実態から,引き続き休日及び夜間について断続的労働である宿日直勤務として取り扱うことが可能であると考えられる医療機関の存在を認めており,そのような医療機関については通常の労働を行った部分について割増賃金を支払えば足りるとしている旨主張する。しかしながら,上記通達が,訴訟引受人の主張する医療機関と労働実態から休日及び夜間勤務を断続的労働である宿日直勤務として取り扱うことが適切でない医療機関とを区別して示していることからすれば,医療行為の性質に鑑み,宿日直勤務の中で緊急医療行為その他の日中業務に当たるような医療行為を行うことがまれにあり,これらの行為について - 28 -は病室の定時巡回,少数の要注意患者の検脈及び検温等の特殊な措置を要しない軽度の又は短時間の業務とは評価できないとしても,労働実態全体を通してみれば常態としてほとんど労働をしていないといえる場合においては,必ずしも宿日直許可の取消しをする必要がないことを示すとともに,そのような場合であっても日中業務に当たる労働については断続的労働として許可されている宿日直勤務の枠を超えたものとして割増賃金を支払う必要があることを示したに過ぎないと解するのが相当であって,労働実態全体を通じても断続的労働に当たらない場合においても許可が取り消されない限り割増賃金を支払う必要がない旨をいうものとは解されない。 証拠(乙27 示したに過ぎないと解するのが相当であって,労働実態全体を通じても断続的労働に当たらない場合においても許可が取り消されない限り割増賃金を支払う必要がない旨をいうものとは解されない。 証拠(乙27,28の各1~12,29~760,763の1~366,764の1~365)によれば,原告両名は,本件病院における宿日直勤務に際し,宿日直1回当たり平均して,少なくとも異常分娩0.3回,その他の産婦人科医師としての救急外来対応1.1回及びその他の救急外来対応05回以上の対応が生じており,これらはいずれも昼間と同態様の業務である日中業務に該当すると解される。そして,宿日直担当医師が上記各業務に従事した従事時間の平均を取れば,宿日直時間の23.1パーセントを下らないこと,本件病院の宿直担当医師は1名であり,宿日直担当医師が対応できない場合や主治医が対応することが適切な場合等には当該患者の主治医や宅直医師が呼び出されて対応することがあるとしても,原則としては宿日直担当医師がこれらの業務に携わっていることなどの事情に照らせば,本件病院における産婦人科医師らの宿日直勤務において,宿日直担当医師が日中業務に対応することがまれな事態であると評価することはできず,むしろ,本件病院においては宿日直担当医師が日中業務に従事することが常態化していたというべきである。そうであれば,仮に訴訟引受人の主張するように宿日直担当医師らが相当時間の仮眠を取ることが可能であったとしても,本件病院における宿日直勤務は,その宿日直勤務全体を通じ,常態としてほとんど労働する必要のない勤務であったと評価することはできず,断続的労働に当た - 29 -るとはいえない。 したがって,原告両名の宿日直勤務は,前記2で判示したとおり,その全部が労基法上の労働時間に該当し,かつ,断続的 ったと評価することはできず,断続的労働に当た - 29 -るとはいえない。 したがって,原告両名の宿日直勤務は,前記2で判示したとおり,その全部が労基法上の労働時間に該当し,かつ,断続的労働に当たるものではないから,同法41条本文の適用はなく,訴訟引受人は原告両名が宿日直勤務に従事した時間の全てについて,労基法上定められた割増賃金を支払うべき義務があるというべきである。 なお,訴訟引受人事した部分のみ割増賃金を支払えば足りる旨主張する。しかしながら,労基法その他の関連法規において,労基法41条に該当しない場合であっても医療従事者の宿日直について実労働時間のみの割増賃金を支払えば足りる旨を定めた規定はないし,上記通達も,断続的労働に該当しない場合にまで実労働部分のみ割増賃金を支払えば足りる旨を述べているものであるとは解されないから,この点に関する訴訟引受人の主張は理由がない。 また,訴訟引受人は,労働時間につき,実働時間に応じて割合的認定を行うべきである旨主張する。しかし,仮に割合的に労働時間を認定することが許されるとしても,それは,形式的には勤務時間を通じて役務を提供すべき義務が課されていても,そのうち一定以上の割合については実質的に労働からの解放が保障されていたと認められるものの,労働から解放されていた時間自体は特定できない場合などに限られると解される。しかしながら,原告両名の宿日直勤務については,宿日直勤務の全時間を通じて直ちに呼出しに応じて診療等を行うべき義務を負っており,一定程度非従事時間が存在するとしても,実質的にみて労働からの解放が保障されていた時間があったということはできない。したがって,少なくとも原告両名の宿日直勤務において,労働時間について割合的認定を行うことはできない。 4 割増賃金の計算の基礎と て労働からの解放が保障されていた時間があったということはできない。したがって,少なくとも原告両名の宿日直勤務において,労働時間について割合的認定を行うことはできない。 4 割増賃金の計算の基礎となる賃金手当及び割増賃金の算定方法労基法37条1項及び3項によれば,割増賃金の計算の基礎となるのは通常の労働時間又は労働日の賃金であるとされ,同条4項及び労基法規則21 - 30 -条は,家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金及び1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は割増賃金の算定の基礎から除外すべき旨定められている。なお,上記除外賃金に該当するか否かは,実際に給付を受けている手当の名称を問わず,その実質によって判断すべきである。 ところで,労基法が労働条件の最低基準を定めることを目的としていることからすれば,法律によらないで除外賃金に該当しない手当を除外賃金として取り扱うなどし,これによって算出される割増賃金の計算の基礎となる額が,法の定める基準によって算出される基準を下回ることとなる場合には,当該定めは違法であって,当該定めに基づいて割増賃金の算定を行うことは許されないものというべきである。これは,原告両名が地方公務員であり,割増賃金の1時間当たりの額に関して脱退被告の給与条例で定められているとしても,異なるものではない。 原告両名は,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの間,本給のほか,地域手当,初任給調整手当及び月額特殊勤務手当を支給されていた(なお,原告両名が受けた本給以外の手当等はこれに限られるものではない)。 ア地域手当について前記第2の2で判示したとおり,脱退被告においては,給料及び扶養手当に定められた支給割合を乗じた額を地域手当として支給している。と 手当等はこれに限られるものではない)。 ア地域手当について前記第2の2で判示したとおり,脱退被告においては,給料及び扶養手当に定められた支給割合を乗じた額を地域手当として支給している。ところで,扶養手当に支給割合を乗じている部分については,その数額が扶養家族の有無及び数によって計算されるものであるから,その実質は扶養手当と同様であって,労基法37条4項より除外すべきであり,割増賃金の計算の基礎とすることはできない。他方,給料に支給割合を乗じて算出されている部分については,除外賃金のいずれにも該当しないから,計算の基礎とすべきである。 イ初任給調整手当について - 31 -前記第2の2で判示したとおり,脱退被告において,初任給調整手当は,採用による欠員の補充が困難である職に採用された職員に対して,一定期間支給され,その支給額は職員の勤務地によって変動するものであって,当該労働者個人の事情に基づいて変動するものではないと認められるから,家族手当,別居手当,子女教育手当,通勤手当及び住宅手当には該当しない。また,臨時的ないし突発的な事由によって支払われるもの又は支給条件は確定されているものの,支給事由の発生が不確定かつ非常にまれにしか発生しないものでもないから,臨時に支払われた賃金であるということもできない。そして,初任給調整手当は各月ごとに支払われていることが認められるから,1か月を超える期間ごとに支払われる賃金であるともいえない。そうであれば,原告両名に対する初任給調整手当は,医師の業務内容に対して付加的に支払われる手当であり,除外賃金のいずれにも該当しないと解されるから,割増賃金の計算の基礎とすべきである。 ウ月額特殊勤務手当について前記第2の2で判示したとおり,月額特殊勤務手当は,その勤務の特殊性に 当であり,除外賃金のいずれにも該当しないと解されるから,割増賃金の計算の基礎とすべきである。 ウ月額特殊勤務手当について前記第2の2で判示したとおり,月額特殊勤務手当は,その勤務の特殊性に着目して,勤務を要する日のうち2分の1以上当該勤務に従事している者に対して定額(当時は月額1万円である。)で支給されるものである。 したがって,その実質は労働に応じて給付される手当であって,家族手当,別居手当,子女教育手当,通勤手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金又は1か月を超える期間ごとに支払われる賃金のいずれにも該当しないから,計算の基礎となる賃金手当から除外することはできない。 両名の割増賃金の計算の基礎となる賃金手当の額を算定すると,以下のとおりとなる。 ア原告Aの割増賃金の計算の基礎とすべき賃金手当の額について平成20年について脱退被告は,原告Aに対し,平成20年1月から同年12月までの間に,給料を603万3285円(うち,平成20年1月から3月の合計 - 32 -は143万5896円,平成20年4月から12月までの合計は459万7389円。),初任給調整手当を197万7400円,地域手当を80万5923円及び月額特殊勤務手当を3万円(原告A主張の金額)以上支給した。上記地域手当のうち,給料に地域手当の支給割合を乗じた額は76万2788円(=143万5896円×0.115+459万7389円×0.13)であるから,地域手当のうち割増賃金の計算の基礎とすべき額は同額となり,これと上記給料,初任給調整手当及び月額特殊勤務手当(ただし,原告A主張の金額を限度とする。)の合計は880万3473円である。 脱退被告における平成20年の所定労働日数は243日であるから,これに1日の所定労働時間8時間を乗じると,年間の 務手当(ただし,原告A主張の金額を限度とする。)の合計は880万3473円である。 脱退被告における平成20年の所定労働日数は243日であるから,これに1日の所定労働時間8時間を乗じると,年間の労働時間は1944時間となり,これで上記賃金手当の額を除すると,1時間当たりの賃金手当の額は4528円(1円未満切捨て)となる。 平成21年について脱退被告は,原告Aに対し,平成21年1月から同年12月までの間,給料を617万7522円(うち,平成21年1月から3月が153万2463円,平成21年4月から12月が464万5059円),初任給調整手当を281万6200円及び地域手当を92万2126円支給した。上記地域手当のうち,給料に地域手当の支給割合を乗じた額は84万9528円(=153万2463円×0.13+464万5059円×0.14)であるから,地域手当のうち割増賃金の計算の基礎とすべき額は同額となり,これと上記給料及び初任給調整手当の合計は984万3250円である。 脱退被告における平成21年の所定労働日数は241日であるから,これに1日の所定労働時間8時間(なお,平成21年12月1日から同月31日までは,1日の所定労働時間は7時間45分であるが,原告Aは平成21年における1日の所定労働時間を8時間と主張しているので, - 33 -通年において,原告Aに不利となる8時間で計算する。)を乗じると,年間の労働時間は1928時間となり,これで上記賃金手当の額を除すると,1時間当たりの賃金手当の額は5105円(1円未満切捨て)となる。 イ原告Bの割増賃金の計算の基礎とすべき賃金手当の額について平成20年について脱退被告は,原告Bに対し,平成20年1月から同年12月までの間に,給料を627万6066円(うち,平 。 イ原告Bの割増賃金の計算の基礎とすべき賃金手当の額について平成20年について脱退被告は,原告Bに対し,平成20年1月から同年12月までの間に,給料を627万6066円(うち,平成20年1月から3月が151万7334円,平成20年4月から12月が475万8732円),初任給調整手当を188万2800円,地域手当を81万8139円及び月額特殊勤務手当を1万円(原告B主張の金額)以上支給した。上記地域手当のうち,給料に地域手当の支給割合を乗じた額は79万3128円(=151万7334円×0.115+475万8732円×0. 13)であるから,地域手当のうち割増賃金の計算の基礎とすべき額は同額となり,これと上記給料,初任給調整手当及び月額特殊勤務手当(ただし,原告B主張の金額を限度とする。)の合計は896万1994円である。 脱退被告における平成20年の所定労働日数は243日であるから,これに1日の所定労働時間8時間を乗じると,年間の労働時間は1944時間となり,これで上記賃金手当の額を除すると,1時間当たりの賃金手当の額は4610円(1円未満切捨て)となる。 平成21年について脱退被告は,原告Bに対し,平成21年1月から同年12月までの間に,給料を637万6738円(うち,平成21年1月から3月が158万6244円,平成21年4月から12月が479万0494円),初任給調整手当を257万2200円,地域手当を93万0500円支給した。上記地域手当のうち,給料に地域手当の支給割合を乗じた額は - 34 -87万6880円(=158万6244円×0.13+479万0494円×0.14)であるから,地域手当のうち割増賃金の計算の基礎とすべき額は同額となり,これと上記給料及び初任給調整手当の合計は9 7万6880円(=158万6244円×0.13+479万0494円×0.14)であるから,地域手当のうち割増賃金の計算の基礎とすべき額は同額となり,これと上記給料及び初任給調整手当の合計は982万5818円である。 脱退被告における平成21年の所定労働日数は241日であるから,これに1日の所定労働時間8時間(なお,平成21年12月1日から同月31日までは,1日の所定労働時間は7時間45分であるが,原告Bは平成21年における1日の所定労働時間を8時間と主張しているので,通年において,原告Bに不利となる8時間で計算する。)を乗じると,年間の労働時間は1928時間となり,これで上記賃金手当の額を除すると,1時間当たりの賃金手当の額は5096円(1円未満切捨て)となる。 5 割増賃金を請求できる労働時間原告両名第2の別紙宿日直一覧表記載のとおりである。そして,原告両名の休日は,土曜日,日曜日,祝日及び12月29日から1月3日である。 また,宿直時間は,午後5時15分から翌日午前8時30分までの15時間15分であり,日直時間は休日の午前8時30分から午後5時15分までの8時間45分である。また,午後10時から午前5時までの労働は深夜労働に当たる。したがって,原告両名の宿日直勤務は,以下の4種類に分けられる。 ① 平日の午前5時から午前8時30分又は午後5時15分から午後10時までの間に行われるもの② 平日の午前零時から午前5時までの間に行われるもの又は午後10時から翌日午前零時までの間に行われるもの③ 休日の午前5時から午後10時までの間に行われるもの④ 休日の午前零時から午前5時までの間に行われるもの又は午後10時か - 35 -ら翌日午前零時までの間に行われるもの平成20年1月1日から平成21年12月 0時までの間に行われるもの④ 休日の午前零時から午前5時までの間に行われるもの又は午後10時か - 35 -ら翌日午前零時までの間に行われるもの平成20年1月1日から平成21年12月31日までの原告両名の宿日直 ア平成20年1月1日から同年11月25日原告Aについて① 274時間30分② 239時間③ 346時間30分④ 132時間原告Bについて① 282時間45分② 246時間③ 295時間30分④ 111時間イ平成20年11月26日から同年12月31日原告Aについて① 22時間30分② 13時間③ 10時間30分④ 15時間原告Bについて① 28時間15分② 26時間③ 44時間④ 11時間ウ平成21年1月1日から同年12月31日原告Aについて - 36 -① 279時間15分② 241時間③ 299時間④ 116時間原告Bについて① 255時間45分② 217時間③ 258時間30分④ 110時間 6 原告両名に対する割増賃金の額割増賃金に係る割増率について労基法は,時間外労働等につき,①時間外労働については2割5分以上,②時間外労働かつ深夜労働については5割以上,③休日労働については3割5分以上及び④休日労働かつ深夜労働については6割以上の割増賃金の支払を義務付けている。 前記4で判示した割増賃金の基礎とすべき1時間当たりの賃金手当の額に,前記5で判示した①から④の各労働時間及増率を乗じて合計すると,原告両名に対する割増賃金の額はそれぞれ以下のとおりとなる。 ア平成20年1月1日から同年11 べき1時間当たりの賃金手当の額に,前記5で判示した①から④の各労働時間及増率を乗じて合計すると,原告両名に対する割増賃金の額はそれぞれ以下のとおりとなる。 ア平成20年1月1日から同年11月25日に行われた宿日直分原告Aにつき625万1356円原告Bにつき598万8217円イ平成20年11月26日から同年12月31日に行われた宿日直分原告Aにつき38万8502円原告Bにつき69万7551円ウ平成21年1月1日から同年12月31日に行われた宿日直分原告Aにつき663万5542円 - 37 -原告Bにつき596万3148円消滅時効及び既払額について20年11月25日以前の宿日直勤務に係る債権については消滅時効期間が経過しており,脱退被告はこれらの債権に20年11各金員の支払債権については,時効により消滅している。 また,脱退被告は,原告両名の平成20年11月26日から平成21年1当及び超過勤務手当を支給した。 割増賃金の支払額についてア平成20年11月26日から同年12月31日までの宿日直勤務について原告Aについて 20年11月26日から同年12月31日までの宿日直勤務に関して,原告Aが労働契約に基づいて訴訟引受人に対して請求できる割増賃金の額は,に関する既払いの宿日直手当8万円及び超過勤務手当3万1635円の合計を減じた27万6867円である。 原告Bについて 1日までの宿日直勤務に関して,原告Bが労働契約に基づいて訴訟引受人に関する既払いの宿日直手当19万円及び超過勤務手当11万4050円の合計を減じた39万3501円である。 イ平成21年1月1日から同年12月31日までの宿日直勤務について原告Aについて - 38 - 手当19万円及び超過勤務手当11万4050円の合計を減じた39万3501円である。 イ平成21年1月1日から同年12月31日までの宿日直勤務について原告Aについて - 38 - までの宿日直勤務に関して,原告Aが労働契約に基づいて訴訟引受人にウする既払いの宿日直手当138万5000円及び超過勤務手当114万4658円の合計を減じた410万5884円である。 原告Bについて 1年1月1日から同年12月31日までの宿日直勤務に関して,原告Bが労働契約に基づいて訴訟引受人にの金額から,同期間に関する既払いの宿日直手当126万円及び超過勤務手当56万9660円の合計を減じた413万3488円である。 7 脱退被告の不法行為の成否(脱退被告が原告両名に対して割増賃金を支払わなかったことの違法性等)について使用者が労働者に対し時間外労働,休日労働及び深夜労働の手当等を支払わないことについて,使用者の労働者に対する労働契約等に基づく債務不履行が成立するとしても,そのような手当の不払が直ちに不法行為上違法となると解することはできない。 ところで,前記第2の3で判示したとおり,脱退被告は,奈良労働基準監督署長から産婦人科医師らの宿日直勤務について断続的労働の許可を得ており,平成18年以前から一貫して,原告両名の宿日直は断続的労働に該当するから割増賃金を支払う必要はない旨主張していたことがうかがわれる。また,本件病院においては,平成16年12月に労働基準監督署から宿日直勧告の適正化に関する指導があったことを除けば,労働基準監督署から宿日直勤務の是正を求められたことはない。そして,平成20年から平成21年頃において,本件病院において,原告両名の宿日直勤務の状況について把握を怠ったとか,原告両名の宿日直勤務に係る超過 監督署から宿日直勤務の是正を求められたことはない。そして,平成20年から平成21年頃において,本件病院において,原告両名の宿日直勤務の状況について把握を怠ったとか,原告両名の宿日直勤務に係る超過勤務手当の請求を妨害等したと認めるに足りる証拠はないことをも勘案すれば,使用者の労働者に対する時間外労働の割増賃金 - 39 -の未払が不法行為になり得る余地があるとしても,脱退被告の原告両名に対する時間外労働の割増賃金の未払が不法行為上も違法と評価し得る特段の事情があると認めることはできない。そして,脱退被告が原告両名に対し時間外労働の割増賃金の一部を支払っていることなどの事情をも踏まえれば,脱退被告が,原告両名に対し,宿日直勤務に係る超過勤務手当の一部を支払っていないことをもって,不法行為法上違法と評価すべきとはいえない。 第4 結論 1 以上によれば,原告Aが,訴訟引受人に対し,雇用契約に基づく労基法37条所定の割増賃金又は民法709条に基づく損害賠償として,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの間における同原告が行った時間外労働等に係る割増賃金の未払金の金額である2072万3851円及びこれに対する弁済期ないしその後の日である最後の給与支払日の翌日又は不法行為後の日である平成22年2月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は,438万2751円及びこれに対する平成22年2月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容することとし,その余は理由がないから,これを棄却すべきである。 2 また,原告Bが,訴訟引受人に対し,雇用契約に基づく労基法37条所定の割増賃金又は民法709条に基づく損害賠償として,平成20年1月1日から平 の余は理由がないから,これを棄却すべきである。 2 また,原告Bが,訴訟引受人に対し,雇用契約に基づく労基法37条所定の割増賃金又は民法709条に基づく損害賠償として,平成20年1月1日から平成21年12月31日までの間における同原告が行った時間外労働等に係る割増賃金の未払金の金額である2099万5103円及びこれに対する弁済期ないしその後の日である最後の給与支払日の翌日又は不法行為後の日である平成22年2月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は,452万6989円及びこれに対する平成22年2月16日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容することとし,その余は理由がないから,これを棄却すべきである。 - 40 - 3 よって,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行宣言につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部裁判長裁判官牧賢二裁判官池上尚子裁判官瀬戸信吉は,退官につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官牧賢二
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