- 1 -令和6年6月14日東京地方裁判所刑事第7部宣告令和6年特第44号公職選挙法違反被告事件 主文 被告人を懲役1年6月に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 【犯罪事実】被告人は、令和5年4月23日執行の江東区長選挙に立候補したものであるが第1 被告人の選挙運動者であるBと共謀の上、その選挙運動期間中である同月1 6日から同月22日までの間、多数回にわたり、東京都内において、インターネットを介して不特定多数の者が閲覧可能な動画共有サイト「YouTube」等の映像に、被告人の上半身画像及び「江東区長選挙はA」「Aに投票してください」などと表示した動画広告を、代金37万9202円で掲載させ第2 同年6月5日頃、東京都江東区東陽4丁目11番28号江東区役所区長室に おいて、Cに対し、被告人のための投票取りまとめなどの選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって、現金100万円を供与したものである。 【量刑の理由】判示第2の事実は、江東区長選挙に立候補した被告人が、自身の選挙運動におい て、被告人を支援する江東区議会議員によって構成された区議団の団長として投票取りまとめなどで大きな役割を果たしたCに対し、その報酬の趣旨で100万円という高額の現金を供与したというもので、選挙の公正を害する犯行である。弁護人は、同事実を認めつつも、被告人は、Cが被告人の選挙運動を熱心に支援する余り、江東区長選挙と同日に執行された江東区議会議員選挙で落選したことに対し自責の 念を感じており、職業政治家であったCを経済的に支援したい、あるいは今後も長 - 2 -年区議会議員として活動してきたCから政策面などで継続的な援助を得たいと で落選したことに対し自責の 念を感じており、職業政治家であったCを経済的に支援したい、あるいは今後も長 - 2 -年区議会議員として活動してきたCから政策面などで継続的な援助を得たいという思いもあってCに現金を供与したのであって、本件は典型的な運動員買収事案とは異なるなどと主張する。しかし、そのような思いがあったとしても、選挙運動の報酬の趣旨で現金を供与することは選挙の公正を直接に害するものであって厳に慎むべきであるし、少なくとも前者については、Cが選挙運動を行ったことに伴う損失 の補填であり、選挙運動に関して現金を供与したという点では変わりはないのであるから、これにより被告人の責任が大きく減じられることにはならない。 さらに、判示第1の事実についてみるに、被告人が動画共有サイトに掲載した動画広告は、江東区民を対象として設定され、選挙運動期間中に約89万回も再生されており、その実施に約37万円という相応額の費用も支出されていることなどか らすれば、その犯行は資金力の差によらない公正な選挙の実現を目指す公職選挙法の趣旨に反するものであったといえる。弁護人は、いわゆるSNSを利用した選挙運動はその許容範囲について必ずしも明確な指針がないところ、被告人が、選挙運動の指南役として信頼していた共犯者の勧めに従ったにすぎないことは刑の量定に当たって斟酌されるべきであるなどと主張する。しかし、被告人は、公職の選挙の 立候補者として公職選挙法の遵守を求められる立場にあったばかりか、衆議院議員を2期務めた経験も有していたのであるから、より慎重に動画広告の適法性について検討すべきであったといえる。それにもかかわらず、共犯者を安易に信頼し犯行に及んだのは軽率というほかない。また、被告人は、動画広告の内容策定や出演、撮影業者との 、より慎重に動画広告の適法性について検討すべきであったといえる。それにもかかわらず、共犯者を安易に信頼し犯行に及んだのは軽率というほかない。また、被告人は、動画広告の内容策定や出演、撮影業者との交渉など犯行の主要部分に主体的に関与していたのであるから、その 意味でも共犯者に比し被告人の責任を軽視することはできない。被告人が、報道機関からの質問を受けて行われた記者会見において虚偽の説明を行うなどの隠蔽工作をしたことも非難されるべきである。 もっとも、被告人が江東区長を辞職し、当公判廷においても事実関係を認め、反省の態度を示していること、被告人に前科前歴がないことなどからすれば、直ちに 被告人を実刑に処すべきとはいえない。選挙犯罪の中でも選挙買収は悪質な犯罪で - 3 -あり、前記のような本件各犯行の態様等からして公民権停止の期間を短縮するのが相当とはいえないことも踏まえて、主文のとおり量定した。 (求刑:懲役1年6月)令和6年6月14日東京地方裁判所刑事第7部 裁判長裁判官鎌倉正和 裁判官内山裕史 裁判官村上亜優
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