平成16年3月31日判決言渡平成14年(ワ)第24573号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金5076万6821円及びこれに対する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の設置運営するA病院(以下「被告病院」という。)において,前立腺膿瘍等と診断された原告が,被告病院においてその治療のため経会陰式穿刺ドレナージ術を受けたところ,その後患部に強い痛みが生ずるようになったなどとして,被告に対し,不法行為又は債務不履行に基づき,損害賠償を請求している事案である。 1 争いのない事実等(1) 被告は,医療行為を主たる目的とする財団法人であり,肩書き住所地においてベッド数約200床の被告病院を設置,運営している(争いのない事実,証人B)。 (2) B医師は,平成11年当時,被告病院に勤務し,原告に対する治療を担当した者である(争いのない事実)。 (3) 原告は,同年11月16日,被告病院において診察を受け,急性前立腺炎との診断を受けた。このため,原告は,同日,被告との間において,被告病院に入院の上治療を受けるという内容の診療契約を締結した(争いのない事実)。 (4) 本件における原告の被告病院入通院中の診療経過は,別紙診療経過一覧表のとおりであって,その要旨は以下のとおりである(なお,別紙診療経過一覧表のうち,診療経過欄中下線部及び原告の反論欄記載の事 (4) 本件における原告の被告病院入通院中の診療経過は,別紙診療経過一覧表のとおりであって,その要旨は以下のとおりである(なお,別紙診療経過一覧表のうち,診療経過欄中下線部及び原告の反論欄記載の事実は当事者間に争いのある事実であり,その他の事実は当事者間に争いのない事実である。また,上記診療経過欄中下線部の事実は,いずれも証拠欄記載の各証拠によってすべて認定した。)。 原告は,平成11年11月初めころから,尿道痛及び排尿痛を覚え,同月16日,被告病院を受診し,B医師が担当医となった。原告は,急性前立腺炎,会陰部蜂窩織炎等と診断され,また,直腸診や骨盤部CTスキャン及び排泄性腎盂撮影所見から前立腺膿瘍が形成されていると判断されたため,B医師は,原告に対し,抗生剤を投与するとともに,前立腺膿瘍について経会陰式穿刺ドレナージ術(以下「本件穿刺」という。)を実施することとした。 同月25日,B医師は,原告に対し,本件穿刺を実施し,約2ミリリットルの膿を吸引した。 同年12月5日,原告は,被告病院を退院したが,同月6日,右精巣上体部に痛みがあるとして,再び被告病院を受診した。その後,同月14日にも原告は,被告病院を受診した。さらに,同月21日,原告の母親から,原告に痛みが出てきたとの電話があった。B医師は,入院を勧めたが,原告はそれを断った。その後,被告病院は,原告の自宅に連絡したが,電話は不通であった。 (5) その後,原告は,患部に痛みがあるなどとして,C病院,D病院,E病院等に通院している(甲A4,C4,原告本人,弁論の全趣旨)。 2 争点(1) 原告に対し,本件穿刺を行うべきではなかったか。 (2) B医師の本件穿刺の手技に過失があったか。 (3) 本件穿刺と原告の現在の日 本人,弁論の全趣旨)。 2 争点(1) 原告に対し,本件穿刺を行うべきではなかったか。 (2) B医師の本件穿刺の手技に過失があったか。 (3) 本件穿刺と原告の現在の日常的に生じる激しい痛みとの間に因果関係があるか(判断の必要がなかった争点)。 (4) 損害額(判断の必要がなかった争点) 3 争点についての主張(1) 争点(1)(原告に対し,本件穿刺を行うべきではなかったか。)について(原告の主張)原告の罹患した前立腺炎は,その進行程度に応じて,軽度なものから重度なものまで順に4種に分かれる。すなわち,①カタル性前立腺炎,②濾胞性前立腺炎,③実質性前立腺炎,④前立腺膿瘍となる。実質性前立腺炎に至って患部に膿瘍がみられ,さらに,前立腺膿瘍まで症状が進行すると,直腸内触診によって患部の浮腫が確認されるようになる。しかし,前立腺の膿瘍部分は,そのまま際限なく肥大化はせず,自然に破れ,尿道,直腸内又は会陰部へ流れ出て自然に治癒するのが通常である。そして,多くの場合,破れ出た膿は,前立腺部尿道に排出されるようになる。尿道に排出された膿は,直接視認され,これによって,発熱や頭痛という臨床症状も消退する。 原告は,上記④の前立腺膿瘍に至っていたものであるが,こうした場合,抗生剤を投与しながら様子を見て,自然に排膿されるのを待つのが通常の治療方法である。それは,急性前立腺炎の場合,前立腺マッサージを行うことは,菌血症を招くおそれのあることが指摘されているように,前立腺に対する物理的な刺激は禁忌とされているからである。そして,実際にも,多くの泌尿器科医師は,穿刺による治療を行わず,化学療法を中心とした保存的療法を原則としている。例外としては,保存的療法のみでは治癒の見込みが な刺激は禁忌とされているからである。そして,実際にも,多くの泌尿器科医師は,穿刺による治療を行わず,化学療法を中心とした保存的療法を原則としている。例外としては,保存的療法のみでは治癒の見込みがないと考えられる場合,あるいは,速やかに排膿した方がよいと判断される特段の事情がある場合であるとされている。 したがって,本件においても,原告に対しては,抗生物質を投与し,保存的療法を試みるべきであったのであり,あえて必要性のない穿刺ドレナージを実施したことは過失というべきである。 (被告の主張)急性前立腺炎の第一次的治療は,抗生剤による化学療法であるが,増悪して膿瘍がみられる場合(前立腺膿瘍)には,菌の増殖,炎症の増悪を抑えるために,穿刺ドレナージを実施して,排膿を行う。 さらに,最近では,直ちに穿刺ドレナージを実施するのではなく,まず化学療法で炎症を一定程度まで鎮静化させ,炎症が落ち着いた段階で穿刺,排膿を行って一気に急性前立腺炎及び前立腺膿瘍の症状の軽快を図るのがよいとされている。 実際,B医師は,原告に対し,まず抗生剤を投与し,しかる後に本件穿刺により,原告の前立腺膿瘍から排膿を行ったのであるから,かかる治療行為は,適切であった。 原告は,前立腺の膿瘍部分は自然に排膿されるのを待てばよいと主張するが,誤りである。 急性前立腺炎は,①カタル性前立腺炎,②濾胞性前立腺炎,③実質的前立腺炎,④前立腺膿瘍に分けられるところ,これらは,それぞれ炎症の最初期から最終期に対応する。 確かに,②の段階においては,膿の貯留による膿瘍類似の状態がみられるところ,これは偽性膿瘍といわれ,炎症が進行して内腔が閉塞する結果,滲出液や膿球が貯留するもので,真の膿瘍とは区別さ 。 確かに,②の段階においては,膿の貯留による膿瘍類似の状態がみられるところ,これは偽性膿瘍といわれ,炎症が進行して内腔が閉塞する結果,滲出液や膿球が貯留するもので,真の膿瘍とは区別される。これは,単に貯留によるものなので,炎症が消退すれば,自然と貯留した膿は開放,排出され自然治癒となる。原告の指摘は,この偽性膿瘍に関するものである。 一方,上記④の段階にまで至った場合,膿瘍の自然治癒はほとんど望めず,尿道,直腸,会陰部等へ破れて排膿され,瘢痕性治癒となる。これは,症状が進行した究極の状態であり,自然治癒とは全く異なる。さらに,腹腔内に破裂したり,前立腺周囲組織内に波及して重篤な前立腺周囲蜂巣織炎を続発するなどの危険性もある。 つまり,医学的見解としては,前立腺膿瘍にまで至った場合には,化学療法だけでは不十分であって,手術的療法の併用を躊躇してはならず,そのような措置をとらない場合には,危険な続発症のリスクが生ずるというべきなのである。 また,原告が言及する前立腺マッサージは,慢性前立腺炎において,たまった前立腺内容液を排出させ,血液循環を良くするために行われる治療方法であるから,本件の症状である急性前立腺炎や前立腺膿瘍とは,本来何らの関係がないものである。 以上のとおり,B医師が本件穿刺を行ったのは,適切な治療であって過失は存しない。 (2) 争点(2)(B医師の本件穿刺の手技に過失があったか。)について(原告の主張)B医師は,前立腺に本件穿刺を実施した。これは,原告の会陰部から針を刺して,前立腺にたまっている膿を排出する治療方法であるが,この治療により,原告は,前立腺及び精巣上体(副睾丸)付近に激しい炎症を起こすに至った。 そもそも前記(1)(原告の の会陰部から針を刺して,前立腺にたまっている膿を排出する治療方法であるが,この治療により,原告は,前立腺及び精巣上体(副睾丸)付近に激しい炎症を起こすに至った。 そもそも前記(1)(原告の主張)において述べたとおり,前立腺膿瘍においては,通常は抗生物質を投与し,保存的療法を試みるべきであって,穿刺ドレナージを行うのは,例外的な場合に限られるべきである。もちろん,穿刺ドレナージ自体は,格別特異な治療方法ではないが,これを実施するには,相当な注意と十分な経験が必要であるし,いわば手探りで勘に頼って小さな膿瘍患部に針を刺すことを避けるため,超音波等を利用して膿瘍部を確認しながら穿刺する方法が一般化している。 超音波検査方法は,1970年代後半から始められており,現在では広く普及している。そして,特に,泌尿器科領域では非常に初期の段階から超音波検査のよい対象とされ,今では超音波診断が最も有用な分野であるとされているし,現在ではこのような超音波ガイド装置を備えている病院も多い。 ところが,B医師は,本件穿刺を行うに当たって,穿刺用アダプターどころか,超音波ガイド装置も使用せず,全くの勘に頼った治療方法を行った。その結果,B医師は,1度だけの穿刺では膿瘍患部に達せず,3ないし4度も針を刺し続け,患部の膿を周辺臓器にまき散らした。 被告は,本件穿刺において,CTスキャンを併用したから問題はないと主張するが,CTスキャンは事前に患部を確認するためだけのものであり,穿刺自体があくまで手探りのものであったことに変わりはない。 以上のとおり,B医師の本件穿刺の手技に過失があることは明らかである。 (被告の主張)原告が主張するような超音波診断装置を用いた前立腺穿刺を実施するためには,前立腺穿刺専用のアダプタ 以上のとおり,B医師の本件穿刺の手技に過失があることは明らかである。 (被告の主張)原告が主張するような超音波診断装置を用いた前立腺穿刺を実施するためには,前立腺穿刺専用のアダプターが必要であるところ,このような専用アダプターは本件当時大学病院等でも必ずしも実施されていなかった。 本件当時,前立腺膿瘍の穿刺ドレナージは,CTスキャン等で膿瘍の位置を確認した後,その位置を基準にして,直腸診と同様の方法で経直腸的に目標である腫瘍を人差し指で触診的に捕捉あるいは支持し,手指により介助しつつ行うという方法がとられていた。なお,CTスキャンによる検査は,超音波診断装置を用いた検査よりも精度の高いものである。 B医師は,CTスキャンで膿瘍の位置を確認した上で,穿刺したのであり,これは確実な穿刺方法である。事実,2回目の刺入で膿瘍を的刺し,全量2ミリリットルの膿を吸引し,排膿後抗生剤を注入して,穿刺ドレナージを無事終了している。 本件穿刺後の尿検査の結果によれば,炎症の程度を示す白血球の測定値は術前の3分の1から4分の1に減少しており,術後最初の検査では,白血球反応はマイナスであった。さらに,血液検査の結果も,白血球値は安定しており,入院時より減少している。つまり,本件においては,穿刺ドレナージの結果,排膿が成功し,炎症が治まって症状が軽快しており,顕著な効果が上がっているのである。 したがって,B医師の本件穿刺の手技には,何らの過失も存しない。 (3) 争点(3)(本件穿刺と原告の現在の日常的に生じる激しい痛みとの間に因果関係があるか。)について(原告の主張)B医師は,本件穿刺において,漫然と何度も穿刺を行ったために,膿を適切に排出させることができず,患部から周囲に膿が流出し,菌が前立 との間に因果関係があるか。)について(原告の主張)B医師は,本件穿刺において,漫然と何度も穿刺を行ったために,膿を適切に排出させることができず,患部から周囲に膿が流出し,菌が前立腺から精管を通って精巣上体に回り炎症を引き起こした。その結果,原告は,本件穿刺後から激しい痛みに見舞われたものであるから,本件穿刺と原告の現在の日常的に生じる激しい痛みとの間には因果関係がある。 被告は,前立腺と精巣上体が隣接していること及び前立腺炎が精巣上体炎の代表的な起因とされていることから,本件穿刺にかかわりなく原告の痛みが発生したかのように主張するが,精巣部分は,血管やリンパ管が多く,十分な栄養支配が行われているため,菌に対する抵抗性が高く,通常の場合,外の患部の感染が転移するものではない。したがって,原告の痛みは,本件穿刺によって生じたものと考えるのが合理的である。 また,被告は,原告の痛みの原因について,被告病院退院後,1年2箇月以上にわたって治療を放置し,不摂生な生活を続けてきたことによるものであるとするが,妥当でない。 原告は,被告病院退院後10日ほど経ってから,1年近くの間,西東京市のC病院へ痛みの治療のため通院していた。その後,肩書き住所地へ転居してからは,D病院やE病院で通院治療を受けているのであるから,被告の主張は誤りである。原告は,被告病院での治療を拒否したにとどまる。 (被告の主張)一般に,精巣上体炎の顕著な誘因の一つとして前立腺炎が挙げられているところ,原告は,平成11年12月14日を最終日として被告病院へ通院しなくなったのであり,その後再び他の病院で精巣上体炎であるとの診断を受けたのが,1年2箇月以上も後であることを考えると,これは,本件治療により軽快していた前立腺炎が,そ 最終日として被告病院へ通院しなくなったのであり,その後再び他の病院で精巣上体炎であるとの診断を受けたのが,1年2箇月以上も後であることを考えると,これは,本件治療により軽快していた前立腺炎が,その後の適切な処置を怠ったことによって,再び悪化し,精巣上体炎に至った可能性がある。 また,前立腺は,実質臓器であるから,仮に流れ出た膿があったとしても,それは後部尿道,直腸あるいは会陰部に流れて排出されるはずであって,膿が精管を通じて精巣上体に回るということ自体も医学的には考えにくいところである(もっとも,本件において膿が適切に吸引,排出されていることは上記(2)(被告の主張)のとおりである。)。 なお,原告は,精巣と精巣上体の差異を意識していないようであるが,医学的には両者の区別は重要であり,同一視できるものではない。 したがって,本件穿刺と原告の現在の日常的に生じる激しい痛みとの間に因果関係は認められない。 (4) 争点(4)(損害額)について(原告の主張)ア逸失利益 3996万6821円原告は,本件穿刺による後遺症が生ずるまでは十分な労働能力を有していたが,本件穿刺によって生じた日常的に生じる激しい痛みの後遺症により,全く労働能力を喪失するに至った。 原告は,本件穿刺当時36歳であって労働可能期間は31年間あり(ライプニッツ係数15.593),平成11年当時の36歳の平均年収は550万7000円であるから,逸失利益の総額は,550万7000円×15.593=8587万0651円となる。 一方,原告は,平成11年12月から月額12万3730円の生活保護を受給しており,これをやはり67歳まで受領するものとすると,その合計額は,12万3730 1円となる。 一方,原告は,平成11年12月から月額12万3730円の生活保護を受給しており,これをやはり67歳まで受領するものとすると,その合計額は,12万3730円×371箇月(30年11箇月)=4590万3830円となる。 したがって,これを上記の総額から控除すると,原告の逸失利益は,8587万0651円-4590万3830円=3996万6821円となる。 イ入通院慰謝料 80万円原告は,現在までに通算44日間の通院及び68日間の入院をしている。今後も治療の継続が明らかであることも考慮すると,これに対する入通院慰謝料は,80万円を下らない。 ウ後遺症慰謝料 500万円原告が傷害を負った部位は精巣上体であり,完全に生殖機能を喪失するに至っている。このため,将来婚姻しても子供は望めない状態である。また,連日のように起こる激痛は耐え難いものであり,これらに対する慰謝料としては,500万円が相当である。 エ弁護士費用 500万円原告は,本訴提起を原告訴訟代理人に依頼し,相当額の報酬を支払う旨の約定をした。その費用としては,原告の被った損害額の約1割に当たる500万円が相当である。 オ合計以上を合計すると,原告の損害額は,5076万6821円となる。 (被告の主張)いずれも争う。 なお,原告が入通院慰謝料の基礎とする入通院日数については,本件以前のものが数多く含まれているほか,原告の後遺障害の程度及び労働能力喪失率についても何らの具体的主張がなく,請求額には根拠がない。 第3 当裁判所の判断 1 診療経過一覧表の診療経過欄及び検査・処置欄記載の事実 多く含まれているほか,原告の後遺障害の程度及び労働能力喪失率についても何らの具体的主張がなく,請求額には根拠がない。 第3 当裁判所の判断 1 診療経過一覧表の診療経過欄及び検査・処置欄記載の事実に加えて,以下の証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件の診療経過について以下の事実が認められる。 (1) 原告(昭和38年5月30日生)は,先天的に尿道下裂の疾患を有しており,その手術を幼少時に繰り返し受けていた。 また,28歳の時,糖尿病であると診断され,さらに,32歳の時には,前立腺炎により4箇月程度入院し,加えて,34歳の時には,C型肝炎によりインターフェロン治療を受けるなどしていた(乙A1ないし5,証人B)。 (2) 原告は,平成10年9月8日,糖尿病,C型肝炎等の治療のため,被告病院を受診し,その後,断続的に被告病院へ通院した後,平成11年8月7日から同月27日までは入院して治療を受けた(乙A3ないし5)。 (3) 原告は,同年11月初めころから,尿道痛と排尿痛を覚え,同月16日,被告病院を受診した。 原告を診察したB医師は,蜂窩織炎のため会陰部から陰嚢部にかけて広範囲にわたってソフトボール大に腫脹し発赤しているのを認め,さらに,直腸診(肛門から直腸へ人差し指を挿入し,腸壁を隔てて前立腺を触診する方法)を行ったところ,前立腺の全体的腫脹と波動様部分(被膜内に膿がたまり,膿瘍を形成している状態)を触知し,既に前立腺膿瘍を形成するに至っている急性前立腺炎と認めた。 また,同日,尿検査を実施したところ,白血球値は多数であると判定され,さらに,血液検査においても,白血球値は1万0900,CRP値は2.6といずれも正常値を大きく上回るものであった(なお,白血球値及びCRP値は,いずれも体内における炎症等の状態を判断 ると判定され,さらに,血液検査においても,白血球値は1万0900,CRP値は2.6といずれも正常値を大きく上回るものであった(なお,白血球値及びCRP値は,いずれも体内における炎症等の状態を判断する指標となるものであり,白血球値の正常値は,尿検査においては5.0以下,血液検査においては3500以上8500以下であるとされ,CRP値の正常値は0.3未満であるとされる。)(乙A1,2,5,証人B,弁論の全趣旨)。 (4) B医師は,原告の症状について,急性前立腺炎,会陰部蜂窩織炎と診断し(その他,糖尿病,C型肝炎及び尿道下裂等も認められていた。),原告に対して,もっと早く入院すべきであったこと,抗生剤による治療が功を奏さない場合には,フルニエの壊疽になる可能性もあり,性器を切り落とさざるを得ない最悪の事態もあり得ることなどを述べた。また,B医師は,急性前立腺炎のように男性生殖器の炎症がみられる場合には,炎症が前立腺に限局している,あるいは将来限局するという保障はなく,泌尿器や生殖器一般へ波及する可能性があり,さらに,原告のように糖尿病の疾患を有するなどして全身状態が通常より低下している場合には,保存的療法の効果が低く,また,危険な続発症を引き起こす可能性もあるため,化学療法を強力に行うとともに,外科的療法を併用することが望ましいと考え,原告に対しては,抗生剤の投与と穿刺ドレナージの実施による膿の吸引を中心とした包括的な治療を行うことを決定した(甲A1,2,C4,乙A1,2,5,証人B,原告本人)。 (5) B医師は,同日から,原告に対し,抗生剤であるメロペンの投与を行い,同月22日からは,これに代えてやはり抗生剤であるブロアクトの投与を行った。 同月17日以降,原告の会陰部痛は軽くなり,発赤も軽減し,発熱もなく,抗生剤がよ 抗生剤であるメロペンの投与を行い,同月22日からは,これに代えてやはり抗生剤であるブロアクトの投与を行った。 同月17日以降,原告の会陰部痛は軽くなり,発赤も軽減し,発熱もなく,抗生剤がよく効いて安定している状態であると判断された。 また,同月19日に実施された尿検査においては,白血球値は58.0と低下し,血液検査においては,白血球値は6900と正常範囲になり,CRP値も1.3と正常値は上回っているものの,入院時よりは相当低下した状態となった。 さらに,尿培養細菌検査の結果も陰性であった。 同月24日に実施された尿検査においては,白血球値は15.3と更に低下し,血液検査においては,白血球値は6900と正常範囲で安定し,CRP値も0.1と正常範囲に落ち着いた。さらに,尿培養細菌検査の結果もやはり陰性であった(乙A1,5,B12,証人B)。 (6) 原告は,同月22日,骨盤部CTスキャン撮影及び排泄性腎盂撮影の結果から,前立腺膿瘍であると確定的に診断された。そのCTスキャンにより,原告には,尿道の右側に長径2センチメートル程度の膿瘍があることが認められた(乙A1,5,証人B)。 (7) B医師は,同月25日,原告に対し,仙椎麻酔下に,経会陰式穿刺ドレナージ術(本件穿刺)を実施した。その具体的方法は,以下のとおりであった。 まず,上記CTスキャンによって確認された膿瘍の位置を基に,肛門から直腸内に人差し指を挿入して膿瘍の感触を確認しながら,会陰部を通じて注射針を挿入した。 1度目の穿刺では,針先が膿瘍の部分に当たっておらず,陰圧をかけても膿を吸引することができなかったため,再度穿刺したところ,膿瘍を的刺し,約2ミリリットルの膿を吸引した。 その後,排膿部には,2ないし3ミリリットル程度のミノマイ たっておらず,陰圧をかけても膿を吸引することができなかったため,再度穿刺したところ,膿瘍を的刺し,約2ミリリットルの膿を吸引した。 その後,排膿部には,2ないし3ミリリットル程度のミノマイシン(抗生剤)を注入した(乙A1,5,証人B)。 (8) 本件穿刺後,原告の状態は,発熱もなく,落ち着いている状態であった。 同月30日には,抗生剤がロセフィンに変更された。 同年12月2日には,原告から右精巣上体部に痛みがあるとの訴えがあったものの,腫脹は認められず,翌3日には,特段の痛みの訴えもなかった。 また,原告は,同月5日の退院に至るまで,創痛は訴えておらず,原告に対し,鎮痛剤の投与も行われなかった。 しかしながら,原告は,血糖のコントロールができなかったため,本件穿刺後も1週間程度入院を続けることになっていた(甲A2,乙A1,5,6,B12,証人B)。 (9) B医師は,原告について,抗菌剤の経口投与により治療する段階に至り,自宅においても治療が可能であるとの考えの下,同月5日,原告に対し,抗菌剤であるクラビット,抗炎症薬であるレフトーゼ等を9日分処方し,これらの内服を指示した上,退院とした。 原告は,友人の迎えにより,バイクにまたがり,30分ないし1時間程度の道のりを帰宅した(甲A2,C4,乙A1,5,6,B12,証人B,原告本人)。 (10) 原告は,同月6日,退院後,右精巣部に痛みが出たとして,被告病院を受診した。原告を診察した被告病院渡辺医師は,原告について,右精巣上体に腫脹と圧痛を認めたものの,発熱はなく,この日は抗菌剤の服用を促す注意をするとともに,消炎鎮痛剤であるロキソニンを7日分処方した。 なお,この日の尿検査によれば,白血球値は6.4であって,いまだ正常値よりは たものの,発熱はなく,この日は抗菌剤の服用を促す注意をするとともに,消炎鎮痛剤であるロキソニンを7日分処方した。 なお,この日の尿検査によれば,白血球値は6.4であって,いまだ正常値よりはやや高い数値を示していたものの,本件穿刺の前日の検査数値(15. 3)よりも大幅に低下していた。さらに,細菌顕微鏡検査及び尿培養細菌検査の結果は,いずれも陰性であった(乙A1,2,5,B12,証人B)。 (11) 原告は,同月14日,被告病院に通院し,B医師が診察した。 この日には,精巣上体部の痛みや腫脹は軽減しており,B医師は,引き続き抗菌剤であるクラビット等を処方し,2ないし3箇月後に,CTスキャンを予約するよう指示した。 なお,この日の尿検査によれば,白血球値は3.9であり,正常値に回復していた(乙A1,2,5,B12,証人B)。 (12) 同月21日,被告病院に対し,原告の母親より,原告に疼痛があるとの電話があった。B医師は,入院を勧めたが,病院には行けないとの返答であった。 さらに,被告病院から原告の自宅に対し,電話連絡をしたものの,当該電話番号は現在使われていないとの応答があり,連絡を取ることができなかった。その後,原告は,被告病院に通院していない(甲C4,乙A2,5,証人B,原告本人)。 (13) 原告は,その後,患部に痛みがあるなどとして,C病院,D病院,E病院等に通院しており,依然として糖尿病を患っているほか,右精巣上体炎,前立腺膿瘍等に繰り返し罹患している(甲A3,4,B15,C4,原告本人,弁論の全趣旨)。 2 さらに,証拠によれば以下の事実が認められる。 (1)ア前立腺は,男性の膀胱頚部から後部尿道にかけて,尿道を輪状に取り巻き,栗の実の形で前下方に尖る形状を有する副生殖腺である(乙B1 )。 2 さらに,証拠によれば以下の事実が認められる。 (1)ア前立腺は,男性の膀胱頚部から後部尿道にかけて,尿道を輪状に取り巻き,栗の実の形で前下方に尖る形状を有する副生殖腺である(乙B1(枝番を含む。),4)。 イ前立腺炎は,細菌によるものが多く,自転車やオートバイに長時間乗車するなど前立腺の鬱滞や鬱血を来すような場合には,会陰部を圧迫,刺激し,感染の好条件を与えることもある。 前立腺炎は,急性前立腺炎と慢性前立腺炎に分けられる。カタル性前立腺炎,濾胞性前立腺炎,実質性前立腺炎という段階を経て,最終的には前立腺膿瘍という状態に至る。 前立腺膿瘍は,実質性前立腺炎における小膿瘍が拡大融合して大きな膿瘍を形成している場合である(甲B11,12,乙A5,B4,5,証人B)。 ウカタル性前立腺炎や濾胞性前立腺炎は,ほとんどの場合自然治癒するものであり,特段の治療を必要としないが,前立腺膿瘍にまで至った場合,その膿瘍が自然に治癒することはまず期待できず,腫瘍が増大すると,膿瘍が尿道,直腸,会陰部等に破れて流れ出し,これによって重篤な症状は急速に軽快する。これは瘢痕性治癒といわれ,自然治癒とは異なる。このようにして,膿が尿道から排出されれば,症状は軽快消退していくが,他方,膿瘍が破れる際,周囲に蜂窩織炎(膿瘍が限局せず,組織間隙にびまん性に膿が回っている状態)を起こしたり,尿道直腸瘻を形成したり,まれには腹腔内に膿が排膿され腹膜炎を引き起こすことがある。 蜂窩織炎を起こすと,局所及び全身の症状はますます激烈になるし,尿道直腸瘻を形成すると,直腸内の便や細菌が前立腺に侵入することになる。また,膿の破潰口が小さくて排膿が十分に行われない場合,膿瘍周囲は厚い繊維性被膜に包まれたまま慢性に移行し,難治の空洞形成 ,尿道直腸瘻を形成すると,直腸内の便や細菌が前立腺に侵入することになる。また,膿の破潰口が小さくて排膿が十分に行われない場合,膿瘍周囲は厚い繊維性被膜に包まれたまま慢性に移行し,難治の空洞形成を残すに至ることがある。さらに,周囲の静脈叢に波及して敗血症を引き起こすおそれさえもあるから,前立腺膿瘍については,十分な注意を払い,適切な治療を速やかに行うことが必要である(甲B1,11,12,乙A5,B4ないし8,証人B,弁論の全趣旨)。 エ前立腺炎の体質的な条件としては,糖尿病が重視されている。糖尿病に罹患しているなどの抵抗力の低下した急性前立腺炎患者では,前立腺膿瘍が続発することもあり,さらに,一部の患者は,慢性前立腺炎へ移行するし,全身状態が低下している場合に,膿瘍が破れると,上記の敗血症等の危険な続発症が発生する可能性が高くなる。 また,糖尿病に罹患している患者は,感染症にもかかりやすい。 さらに,男性生殖器の炎症は,再発,再燃を繰り返しやすい(甲B5,11,15,乙A5,証人B)。 オ前立腺炎や尿道狭窄等が精巣上体炎の誘因となることがある。その際,病原体が,尿路逆行性に精巣上体(副睾丸)に到達することが多い(乙A5,B8,9,証人B)。 (2)ア前立腺炎に対しては,抗生剤投与等の適切な化学療法を強力に行うことが基本であるが,前立腺膿瘍にまで至り,化学療法だけでは不十分である場合や速やかに排膿させた方がよい場合には,手術的療法が必要になる(甲B1,6,11,12,乙A5,B4ないし8,証人B)。 イ前立腺膿瘍に対する手術的療法として,穿刺ドレナージによる排膿と切開による排膿の2つの方法がある。穿刺ドレナージによる排膿は,膿瘍に対して針を穿刺し,排膿するという方法である。さらに,前立腺に対 イ前立腺膿瘍に対する手術的療法として,穿刺ドレナージによる排膿と切開による排膿の2つの方法がある。穿刺ドレナージによる排膿は,膿瘍に対して針を穿刺し,排膿するという方法である。さらに,前立腺に対して穿刺ドレナージを行う際,主として経会陰的なアプローチと経直腸的なアプローチの2つがある。前者は,会陰部から穿刺して前立腺へ至るというアプローチであり,穿刺部から前立腺に至るまでの間には脂肪組織が存在する。後者は,直腸内から穿刺して前立腺へ至るというアプローチであるが,直腸内の便や細菌がそのまま前立腺内に押し込まれてしまうという難点がある。また,その場合,菌が流入し,難治性の瘻孔になってしまうおそれもある(甲B11,12,乙A5,B1,3ないし5,7,8,証人B)。 ウ前立腺膿瘍に対する切開による排膿には,経尿道的前立腺切除術,会陰式切開術,経直腸内切開術の方法がある。経尿道的前立腺切除術は,尿道を経由して前立腺を切開し,それによって膿を排出するという方法である。しかし,この方法によった場合,将来的に不妊の原因になったり精液が出なくなったりするおそれがあり,患者の年齢層によっては適応に疑問がある(甲B6,11,12,15,乙A5,B1,3,8,証人B)。 (3)ア超音波診断装置を利用した穿刺法というのは,超音波診断装置のプローブ(探触子)と穿刺針とを連結することにより,超音波診断の画像を見ながら穿刺を行う方法である。前立腺穿刺の場合には,プローブを直腸内に入れて行う。超音波診断装置を利用して前立腺穿刺を行うためには,経直腸用のプローブに穿刺針を連結する専用のアダプター(経直腸的アダプター)が必要となる。この専用のアダプターで穿刺針とプローブを連結し,これを直腸内に入れるという方法によって前立腺穿刺を行う(乙A5,証人B)。 穿刺針を連結する専用のアダプター(経直腸的アダプター)が必要となる。この専用のアダプターで穿刺針とプローブを連結し,これを直腸内に入れるという方法によって前立腺穿刺を行う(乙A5,証人B)。 イ本件当時,被告病院においては,超音波診断装置及び経直腸用のプローブは備え付けてあったが,経直腸的アダプターは備え付けていなかった(乙A5,証人B)。 3 争点(1)(原告に対し,本件穿刺を行うべきではなかったか。)について(1) 原告は,前立腺膿瘍の場合,抗生剤を投与しながら様子をみて,自然に排膿されるのを待つのが通常の治療であり,穿刺ドレナージの実施は不要であったと主張し,原告が証拠調べ期日後に提出した意見書(甲B15。なお,意見を求める質問事項自体は,甲B14に記載されているものである。)にも,穿刺は膿瘍が大きくて化学療法で改善せず,破れる危険が大きいときにのみ行うべきであるところ,原告の場合のようにCT画像で直径2センチメートル程度の膿瘍であるならば,強力な化学療法を徹底的に行えば改善する可能性が高いから,糖尿病のコントロールの悪い原告に対しては,穿刺ドレナージを行う必要はなかった旨の指摘がある。 しかしながら,前記2(1)ウ,(2)アにおいて認定したとおり,前立腺炎が前立腺膿瘍の段階にまで至った場合には,化学療法と並行して,外科的な処置を施し速やかに膿を排出すべきであることは多くの文献が指摘しているところである(甲B1,6,11,12,乙B4ないし8)。また,前記1(1)(2)(4),2(1)ウエにおいて認定したとおり,原告は糖尿病に罹患していた全身状態の悪い患者であって,前立腺炎の発症歴もあるところ,糖尿病患者のように抵抗力の低下した患者においては前立腺炎が悪化し,更には慢性前立腺炎に移行しやすいと考えられ,加 告は糖尿病に罹患していた全身状態の悪い患者であって,前立腺炎の発症歴もあるところ,糖尿病患者のように抵抗力の低下した患者においては前立腺炎が悪化し,更には慢性前立腺炎に移行しやすいと考えられ,加えて,前立腺膿瘍を放置した場合の排膿とは,結局膿瘍が破れて周囲に膿が流れ出すことによって排出されるという機序を意味するのであって,「瘢痕性治癒」と称されて自然治癒とは異なり,この場合,蜂窩織炎を発症したり,尿道直腸瘻を形成して直腸内の便や細菌が前立腺に侵入したり,まれには腹腔内に膿が排膿され腹膜炎を引き起こしたりすることがあり,更には敗血症をも引き起こしかねないのである。 したがって,前立腺膿瘍に加えて会陰部蜂窩織炎も認められるという状態に至っており,かつ糖尿病患者であって前立腺炎の既往歴も有する原告(前記1(1)ないし(4))に対し,抗生剤を投与して化学療法を行いつつ(前記1(3)(5)において認定したとおり,この化学療法によって各検査数値も改善されており,これ自体も十分に奏功していたものである。),穿刺ドレナージを実施して前立腺内の膿を早期に排出させ,原告の症状を安定させようとしたB医師の措置は,適切であったと認められる。 甲B15において,直径2センチメートル程度の膿瘍であれば強力な化学療法を徹底的に行えば改善する可能性が高い旨指摘する点は,その具体的根拠を述べていないこと及び膿瘍が破れた場合に上記のような重大な危険が存在することを考慮すれば,採用することができない。また,原告が糖尿病のコントロールの悪い患者であったという事実は,むしろ,原告の前立腺膿瘍に対し,化学療法に加えて積極的な外科的処置による排膿を必要とする事情であったというべきである。 (2)ア原告は,甲B1,11及び12を引用し,前立腺膿瘍は,抗生剤を投与 むしろ,原告の前立腺膿瘍に対し,化学療法に加えて積極的な外科的処置による排膿を必要とする事情であったというべきである。 (2)ア原告は,甲B1,11及び12を引用し,前立腺膿瘍は,抗生剤を投与しながら様子を見て,自然に排膿されるのを待つのが通常の治療であると主張する。 イしかしながら,甲B1には,前立腺炎の症状として,「前立腺膿瘍は,尿道または直腸に自然に破れ,内容が排除されて治癒に赴く」という記述があるが,続けて「時には会陰部に破れることもあって,この際には会陰部に自発痛の著しい腫脹を来す」と記述され,治療の項には,「既に膿瘍形成を来したものには,薬物療法だけでは治癒が望めず,切開排膿法を併用せねばならない」と記述されており,同文献は,前立腺膿瘍について自然の排膿を待てばよいという趣旨には解されないばかりか,むしろ,前立腺膿瘍の段階に至った場合には,切開排膿が不可欠であるとする趣旨に解されるものである。 ウ次に,甲B11において,「炎症が消退すれば貯留した膿は排出されるか,吸収されて治癒に向かうものである」とされているのは,急性濾胞性前立腺炎についてであり,他方,前立腺膿瘍については,「実質性炎における小膿瘍が拡大融合して大きな膿瘍を形成した場合である。・・・炎症がここまで進むと,膿瘍の自然治癒はほとんど望めず,早晩,尿道あるいは直腸,会陰部へ破れて排膿され,瘢痕性治癒をいとなむ」とあり,治療の項には,「急性前立腺炎は化学療法を中心とした保存的療法を原則とするが,膿瘍が形成されて,この療法のみでは治癒の見込みがないと考えられるか,あるいは速やかに排膿した方がよいと判定された場合,手術療法に移るべきである」と記述されていることから,同文献も,前立腺膿瘍の段階に至った場合には,切開等の手術が必要となるとする趣旨に解 られるか,あるいは速やかに排膿した方がよいと判定された場合,手術療法に移るべきである」と記述されていることから,同文献も,前立腺膿瘍の段階に至った場合には,切開等の手術が必要となるとする趣旨に解されるものである。 エさらに,甲B12には,前立腺膿瘍について,「この膿瘍は自然に吸収される可能性は極めて小さく,いずれはどこかに破潰することになるものである。 幸いなことに,多くは尿道腔に自然破潰する傾向があり,従って尿道から多量の排膿を認めると同時に,発熱とか疼痛とかの臨床症状も軽快消退していく」との記述があるが,他方では,「(膿瘍は)会陰部の方向か時に直腸へ破れたりする。稀れには腹腔内に破潰したり,あるいは前立腺周囲組織内に波及して重篤な前立腺周囲蜂巣織炎を続発する危険もないではない」とあり,治療の項には,「急性前立腺炎はまず保存的療法を原則とするが,膿瘍が完成されてこの療法だけでは治療の見込みがないと考えられるか,あるいは速かに排膿した方がよいと判定された場合は,躊躇することなく手術的療法に移るべきである」と記述しており,これらを総合すれば,同文献もやはり,前立腺膿瘍について,化学療法を行いつつ自然の排膿に委ねればよいとするものではなく,必要に応じて手術的療法を行うべきであるとの趣旨をいうものと解される。 オ以上検討したとおり,原告引用の各文献は,いずれも被告の過失を基礎付けるものとは解されないばかりか,かえって,前立腺膿瘍を発症するに至っていた原告に対し,速やかに穿刺ドレナージを実施した処置の合理性を裏付けるものであるといわなければならない。 (3) さらに,原告は,急性前立腺炎の場合に前立腺マッサージを行うことが菌血症を招くおそれがあるために禁忌とされていることを援用して,前立腺に対する物理的な刺激を与える本件穿 ければならない。 (3) さらに,原告は,急性前立腺炎の場合に前立腺マッサージを行うことが菌血症を招くおそれがあるために禁忌とされていることを援用して,前立腺に対する物理的な刺激を与える本件穿刺の不当性を主張するが,前立腺マッサージと穿刺ドレナージとの関係は,何ら明らかではなく,本件との関連性を認めることができない。上記に判示したとおり,前立腺膿瘍に対しては原則として穿刺ドレナージ等の手術的療法が必要であることは明らかであるから,かかる主張は到底採用できない。 (4) よって,争点(1)にかかる原告の主張は,失当である。 4 争点(2)(B医師の本件穿刺の手技に過失があったか。)について(1) 原告は,B医師が穿刺ドレナージを行う際には,超音波ガイド装置等を用いるなどして1度の穿刺で膿瘍を的確に刺すべきであったのであり,これを怠って3ないし4度にわたり針を刺し続けた結果,膿をまき散らすなどしたのは過失であると主張し,原告提出の意見書(甲B15)にも,①事前にCTスキャンによって膿瘍の位置を確認していても,二次元的なイメージでしかなく,会陰皮膚より前立腺まで距離があるので盲目的な穿刺に近いことは否めないから,やはり超音波ガイド下に針先を見ながら膿瘍穿刺するのが簡単で確実である,②医療機器メーカーは,少なくとも現在より10年前から経会陰的に行う専用のアダプターのガイド器具を各病院に納入していた,③本件穿刺により,前立腺周囲の神経を損傷した可能性がある,④本件穿刺によるも,膿瘍の内容を全量吸引できたとはいい難い旨の指摘がある。 (2) まず,B医師が,本件穿刺の際3ないし4度にわたり針を刺し続けたとする点を検討するに,これに沿う証拠は,原告の陳述(甲C4)ないし供述のみであるばかりか,その内容も,「治療の途中,麻酔をしている ) まず,B医師が,本件穿刺の際3ないし4度にわたり針を刺し続けたとする点を検討するに,これに沿う証拠は,原告の陳述(甲C4)ないし供述のみであるばかりか,その内容も,「治療の途中,麻酔をしているにもかかわらず,ツーンと神経を突かれているような強い痛みが何回かありました」(甲C4),「何か中で動いているのが分かるという感じと,突っ付かれている感じがしまして,2回くらいだったと思うんですけど」,(「3,4回繰り返したという意味ですか」との原告代理人の質問に対し)「はっきり分からないんですけど,そういうふうにも感じますし,中で動かされて何か神経に当たったような痛みをそう感じているのか,でも何回も刺されたような感じもあったんですけれども」(原告本人)という程度に止まっており,加えて,後記(4)(ウ)にも指摘するとおり,原告本人の供述及び陳述はそもそも信用性に欠けるところがあるから,これらの原告本人の供述及び陳述によって,B医師が本件穿刺の際,針を3ないし4度にわたって刺したという事実を認定することはできず,前記1(7)に認定したとおり,B医師は,2回目の刺入で膿瘍を的刺したものである。 (3) そこで,B医師が,超音波ガイド装置等を用いて1度の穿刺で膿瘍を的確に刺さなかったことが過失といえるかを判断する。 ア本件当時,被告病院において,超音波診断装置及び経直腸用のプローブは備え付けられていたが,経直腸的アダプターは備え付けられていなかったことは,前記2(3)イに認定したとおりである。 イ甲B15には,CTスキャンガイド下によって穿刺することもできなくはないが,超音波ガイド下に針先を見ながら膿瘍穿刺するのが簡単で確実であると考えるとし,医療機器メーカーは,少なくとも現在より10年前から経会陰的に行う専用のアダプターの って穿刺することもできなくはないが,超音波ガイド下に針先を見ながら膿瘍穿刺するのが簡単で確実であると考えるとし,医療機器メーカーは,少なくとも現在より10年前から経会陰的に行う専用のアダプターのガイド器具を各病院に納入しており,D病院においても,16年前から上記専用アダプターを持っており使用していたとの記載があるが,他方,平成11年11月当時において,前立腺膿瘍に対する経会陰的穿刺のための超音波ガイド装置の普及率についてははっきりしたデータを持っていないので答えることができないとの記載がある。加えて,証人Bは,本件当時,自分が関係する病院で経直腸的アダプターが備え付けられていたのは,F病院だけで,ベッド数1100床のG病院,ベッド数400ないし500床のH病院,I病院,更には被告病院近くに所在するJ病院には備え付けられていなかったと証言している。 ウそこで検討するに,甲B15に指摘がある,医療機器メーカーによって専用のアダプターのガイド器具が販売されているという問題と,上記器具がどれだけ普及していたかという問題は別個の事柄であるし,甲B15の超音波ガイド装置の普及率についてははっきりしたデータを持っていないので答えることができないとの記載や証人Bの証言によれば,甲B15の記載によっても,平成11年当時,経会陰的前立腺穿刺に用いる超音波ガイド器具が,被告病院と同等の規模ないし水準を有する病院において一般的に普及していたことを認めることはできないし,その他にその普及状況を認めるに足りる証拠はない。 そうすると,経会陰的な前立腺の穿刺ドレナージを実施する際,経直腸的アダプターは備え付けられていなかった被告病院において,B医師が,これを使用せずに本件穿刺を行ったことが過失であるといまだ認めることはできない。 な前立腺の穿刺ドレナージを実施する際,経直腸的アダプターは備え付けられていなかった被告病院において,B医師が,これを使用せずに本件穿刺を行ったことが過失であるといまだ認めることはできない。 加えて,B医師の本件穿刺によって現に原告の症状が改善をみたことは後記に認定するとおりであり,この点からも,B医師の過失を認めることはできない。 エ原告は,甲B7ないし9を引用し,B医師が本件穿刺を行う際に,超音波ガイド装置等を用いなかったことが過失であると主張する。 しかしながら,まず,甲B7は前立腺がんの確定診断のための組織採取法として超音波ガイド下に組織を採取することを述べたものにすぎず,次に,甲B8は肝臓を始めとする腹部臓器への穿刺に関するものであり,さらに,甲B9は前立腺の生検に際しての超音波検査に関するものであって,いずれも本件と異なる場面について論じている文献であって,本件との関連性は認め難く,上記認定を左右するものではない。 (4) 次に,B医師が本件穿刺において1度目は膿瘍を的刺することができなかった点について検討する。 ア前記1(6)(7)において認定したとおり,本件穿刺に際しては,事前にCTスキャンの画像によって原告の膿瘍の位置を尿道の右側であると確認し,上記CTスキャンによって確認された膿瘍の位置を基に,肛門から直腸内に人差し指を挿入して膿瘍の感触を確認しながら,会陰部を通じて注射針を挿入したが,1度目の穿刺では,針先が膿瘍の部分に当たっておらず,陰圧をかけても膿を吸引することができなかったので,2度目の穿刺を行い,膿瘍を的刺し,約2ミリリットルの膿を吸引し,吸引後に抗生剤を注入して本件穿刺を終了したものである。 原告は,B医師が1度目の穿刺で膿瘍を的刺することがで ので,2度目の穿刺を行い,膿瘍を的刺し,約2ミリリットルの膿を吸引し,吸引後に抗生剤を注入して本件穿刺を終了したものである。 原告は,B医師が1度目の穿刺で膿瘍を的刺することができなかった点を過失であると主張するが,これを裏付けるに足りる証拠はなく,原告の主張を認めることはできない。 甲B15には,事前にCTスキャンによって膿瘍の位置を確認していても,二次元的なイメージでしかなく,会陰皮膚より前立腺まで距離があるので盲目的な穿刺に近いことは否めないとの記載があるが,この記載は,本件穿刺の手技の問題点を具体的に指摘するものではなく,本件穿刺の手技に過失が認められないという上記の認定を左右しない。 イ加えて,前記1(3)ないし(5),(8)において認定したとおり,原告は,入院時には広範囲に会陰部の腫脹が認められ,尿検査及び血液検査の結果も正常範囲を大きく超過した状態であったのに対し,本件穿刺の後は,入院中に強い痛みを訴えることもなく,したがって,鎮痛剤等の投与も行われず,さらに,血液検査,尿検査及び細菌検査の結果も良好な状態へと改善されていたのだから,本件穿刺は,所期の効果を挙げ,その目的を達したと評価することができるものである。 上記事実からしても,B医師が,本件穿刺において,1度目は膿瘍を的刺することができず,2度目に的刺した点について過失と認めることはできない。 ウなお,原告は,本件穿刺後継続的に強い痛みがあり,入院中我慢できず看護師に告げ,痛み止めの処方を受けていたこと,退院当日になっても痛みは変わらなかったが,被告病院から退院と言われる以上退院するしかないので退院したことなどを陳述(甲C4)ないし供述するが,前記1(8)ないし(11)の事実及び証拠(乙A1,2, 院当日になっても痛みは変わらなかったが,被告病院から退院と言われる以上退院するしかないので退院したことなどを陳述(甲C4)ないし供述するが,前記1(8)ないし(11)の事実及び証拠(乙A1,2,5,6,証人B)によれば,原告に対しては,本件穿刺が行われた平成11年11月25日以降,退院日である同年12月5日までにおいて,注射指示書には,疼痛時に処方されるべきソセゴンについて一度も処方の記載がされておらず,処方箋にも,疼痛時に処方されるべきボルタレンサポについてやはり一度も処方の記載がされていないこと,看護記録上創痛の訴えは一貫して「なし」と記録されていること,看護要約に「創痛なくなるも,血糖コントロールができず,1週間血糖コントロールの為入院続き」と記載されていること,同月2日には右精巣上体部に痛みの訴えがあったものの翌3日には特段の痛みの訴えが記録されていないこと,原告は,被告病院を退院して自宅に帰る際に友人のバイクに乗って帰っていること,同月6日に右精巣部の痛みを訴えて被告病院を受診しているが,同月14日には痛みや腫脹が軽減し,白血球値も正常値に回復していたことが認められ,かかる事実からすれば,本件穿刺の後,原告においては特段の痛みが生じておらず,上記イのとおり,原告の状態は良好な状態に改善しており,したがって,痛みに対する薬の処方も行われていなかったと認めるのが合理的であるから,これに反する上記の陳述ないし供述は,信用性がなく採用できない。 エまた,原告は,現在原告に生じている日常的な激しい痛みは本件穿刺に原因があるとも主張するが,前記イ,1(8)ないし(11)において認定説示したとおり,本件穿刺後,退院に至るまでは原告には特段の痛みの発現は認められておらず,白血球値及びCRP値も大幅に低下して正常範囲に収まり,細菌 するが,前記イ,1(8)ないし(11)において認定説示したとおり,本件穿刺後,退院に至るまでは原告には特段の痛みの発現は認められておらず,白血球値及びCRP値も大幅に低下して正常範囲に収まり,細菌検査等においても陰性であると判定されていたのであるから,本件穿刺が原告の症状を改善させたということはできても悪化させたということは到底できない。さらに,前記1(1)(4)(9)(12),2(1)エオにおいて認定したとおり,原告は前立腺炎の既往歴を有するところ,男性生殖器の炎症は再発や再燃を繰り返しやすいこと,原告のように糖尿病に罹患するなどして抵抗力が低下し全身状態が通常より悪い患者は,感染症が起こりやすく,前立腺膿瘍が続発したり前立腺炎が慢性化するようなことも多いこと,前立腺炎等が誘因となって精巣上体炎が引き起こされることも多いこと,原告は,被告病院を退院する際には,本件穿刺後の患部に悪い影響を及ぼすと考えられるバイクに乗って帰り,また,平成11年12月21日以降は,B医師から入院を勧められてもこれに応じず,自らの健康状態の管理に配慮した行動をとっていないことなどの事実にかんがみれば,原告に現在認められている前立腺膿瘍,精巣上体炎等の症状(前記1(13))は,主として原告自身の素因や健康管理上の問題等によるものと考えざるを得ない。原告提出の意見書(甲B15)も,原告の糖尿病が,前立腺膿瘍,精巣上体炎等の再発,再燃に強く関与していることを認めている。 以上によれば,原告の上記主張は採用できない。 なお,「本件穿刺によって患部から周囲に膿が流出したために菌が前立腺から精管を経て精巣上体に回って炎症を起こすに至った」という原告が主張している因果経過(前記第2の3(3)(原告の主張))の可能性については,原告提出の上記意見書(甲 に膿が流出したために菌が前立腺から精管を経て精巣上体に回って炎症を起こすに至った」という原告が主張している因果経過(前記第2の3(3)(原告の主張))の可能性については,原告提出の上記意見書(甲B15)自身,これを明確に否定しているところである。 オ甲B15は,本件穿刺において前立腺周囲の神経を損傷した可能性について言及するが,甲B15自体も,そのような事実を証明することはできない旨認めており,さらに,原告において,仮に前立腺周囲の神経に損傷があれば,本件穿刺後,相当程度の痛みが生じていたはずであるところ,そのような事実を認めることができないことは,前記イウ,1(8)において認定説示したとおりであるから,本件穿刺において前立腺周囲の神経を損傷したとも認められない。 (5) さらに,甲B15は,膿瘍が全量吸引できていない可能性がある旨指摘するが,同号証が根拠として挙げる原告の前立腺正中部の低吸収域については,膿瘍の遺残であるのか前立腺小室嚢胞等臨床上意義のないものであるのかは不明であるとされており(乙A8),他に膿瘍遺残の事実を裏付ける証拠は存在しない。また,本件穿刺の結果,原告の症状が改善し,したがって,本件穿刺はその目的を達したものということができることは上記において判示したとおりである。 (6) したがって,争点(2)にかかる原告の主張も採用できない。 5 結論以上によれば,被告に過失があったとする原告の主張は,すべて理由がないから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官 主文 らを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官前田順司 裁判官浅井憲 裁判官熊代雅音 別紙診療経過一覧表省略
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