主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数のうち110日をこの刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間この刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 【有罪と認定した事実】被告人は,A及びBと共謀の上,通行人から金品を強奪しようと企て,平成16年5月2日午前2時10分ころ,大阪府堺市a町b番c号d路上において,同所を通行中のC被害者(当時52歳)に対し,被告人がやにわに同被害者の背後から跳び蹴りをして路上に転倒させるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧して同人が所持していたセカンドバッグを強奪しようとしたが,付近に停車中のパトカーの存在に気付いて逃走したため金品強奪には至らず,その際,上記暴行によりC被害者に全治約7日間を要する左手背部挫創の傷害を負わせ,もって,強盗未遂の犯行を行うとともに,一面,人の身体を傷害した。 【有罪認定に供した証拠】<省略>【争点に対する判断】 1 被告人の暴行の程度及び強盗の故意の存否について(1) 弁護人は,被告人がC被害者に対して前記認定のような跳び蹴りをした事実は争わないものの,それは強盗をするためではなく,同被害者から鞄を手放させてそれを盗るためにしただけであるから,その暴行は客観的に反抗を抑圧する程度に達しておらず,かつ,被告人の認識においても同被害者に暴行を加えて反抗を抑圧する目的はなかったのであるから強盗の故意も存しない旨主張している。 (2) しかしながら,前掲の関係証拠によれば,(a) 被告人らは深夜酩酊状態で歩道上を通行している中年男性のC被害者を認めると,同人の不意を突いて金品を強奪する,いわゆるオヤジ狩りをすることを企て,被告人が同被害者に向かって2 証拠によれば,(a) 被告人らは深夜酩酊状態で歩道上を通行している中年男性のC被害者を認めると,同人の不意を突いて金品を強奪する,いわゆるオヤジ狩りをすることを企て,被告人が同被害者に向かって20~30m程度手前から思い切り走り出して助走し,その勢いで同人の背中の真ん中に1回跳び蹴りをしたこと,(b)当時,同被害者は被告人らの気配を全く感じていなかったため,被告人の後方からの突然の跳び蹴りにより,蹴り飛ばされるような勢いで前につんのめり,左手の甲を地面に着いたりするなどして倒れたこと,(c) 同被害者は,その衝撃の程度につき,自分は学生時代日本拳法や剣道をやっており現在も身体頑健であるためこの程度で済んだが,同年代の同僚が今回のような被害に遭えば腰骨が骨折していてもおかしくない程度であったと述べていること,以上の事実が認められるのであって,これらの事実関係に徴すれば,被告人の跳び蹴りの暴行は,それ自体被害者の反抗を優に抑圧するに足りる程度の暴行であったと認めることができる。 (3) そして,被告人はこのような暴行態様やC被害者の前記状況を十分認識しながら,前記暴行に及んでいるのであるから,強盗の故意にも何ら欠けるところはないというべきである。 (4) よって,弁護人の前記主張は理由がなく,当裁判所は,被告人らの本件犯行は強盗行為に当たると認定・判断した。 2 C被害者の本件傷害と強盗致傷罪における「負傷」該当性について(1) 当事者の主張弁護人は,C被害者の受傷は軽微な傷害であり強盗致傷罪にいう「人を負傷させた」場合には該当しないから同罪は成立しない旨主張し,他方,検察官は,強盗致傷罪における傷害の程度は傷害罪におけるのと同程度で足りるから,本件で強盗致傷罪が成立することは明らかである旨主張している。 (2) C被害者の負った 罪は成立しない旨主張し,他方,検察官は,強盗致傷罪における傷害の程度は傷害罪におけるのと同程度で足りるから,本件で強盗致傷罪が成立することは明らかである旨主張している。 (2) C被害者の負った傷害の程度そこでまず,証拠によってC被害者の負った傷害の程度について見るに,前掲の関係各証拠によれば,(a) 同被害者は,被告人の暴行によって左手の甲を地面についた際,左手背部にその皮膚がわずかに剥がれ血が滲み出る挫創(事件直後の写真によれば,血が滲んでいるのは右手人差し指の爪の大きさ位の範囲である。)の傷害を負ったこと,(b) ただ,この血はその後自然に止まり,事件後警察署で凝固した血を洗い流すと,消毒薬・軟膏等の塗布や救急絆創膏等の貼付などの治療行為を一切施すまでもなく,自然に治癒するに至ったこと,(c) 同被害者は,警察の捜査上の必要から診断書を取るため,事件後3日目の平成16年5月4日D病院を訪れたが,そこでの診断書上の診断名は「全治7日間を要する左手背部挫創」というものであったものの,診察を行った医師は,何らの治療行為も行わず,この傷害は放っておいても大丈夫であると告げたこと,(d)傷の痛みという点でも,同被害者が事件の翌日ゴルフをする際には,同傷害は骨の突起した部分に近かったためやや痛んだものの,それを除けば日常生活や仕事の上では全く気にならなかったこと,以上の事実が認められる。 これらの事実を総合すれば,C被害者の負った傷害は,受傷当初は血が滲み出ていたとはいえ,それも水で洗い流せば,そのまま放置しても足りる程度のものであって,診断書上は前記のような全治期間が記載されているとはいっても,日常的には,医師の治療はおろか,患者が自分で行う救急絆創膏の貼付等すら要しない,いわば「かすり傷」程度の極めて軽微なものであったと評 ,診断書上は前記のような全治期間が記載されているとはいっても,日常的には,医師の治療はおろか,患者が自分で行う救急絆創膏の貼付等すら要しない,いわば「かすり傷」程度の極めて軽微なものであったと評することができる(以上認定・評価したようなC被害者の傷害を,以下「本件傷害」という。)。 (3) 本件における実際的問題点そこで,以上を前提に本件の争点について検討を行う。 強盗致傷罪における「負傷」の程度を傷害罪における「傷害」と同程度と解してよいか否かは,強盗致傷罪に関する典型的な論点であり,既に多数の裁判例や学説の集積がみられるところである。 ただ,これら判例・学説を通覧しても,本件は特にその問題点が先鋭に表れている事案であるように思われる。すなわち,後記「量刑の理由」に記載のとおり,確かに被告人の本件暴行は悪質かつ危険なものであったとはいえ,幸い強盗は未遂に終わり,傷害も上記のとおり極めて軽微なもので済んだことから,被害者は,捜査・公判を通じ一貫して被告人の行為を宥恕し,公判廷では,被告人に対し執行猶予判決が言い渡されることを希望するまに至っているのである(なお,被害者は,被害弁償等も一切求めていない。)。加えて,被告人は,本件犯行当時19歳の少年であったものであり,これまで,その劣悪な生育環境にもかかわらず,前科はおろか非行歴も全く有しておらず,犯行直後から一貫して事実関係を素直に認めているだけでなく,公判段階では,直接被害者に謝罪するなどその反省悔悟の情も顕著である。これらの諸事情に鑑みるならば,仮に起訴検察官が起訴裁量を適切に働かせて本件を強盗未遂罪(又は強盗未遂罪と傷害罪)で起訴してきたならば,本件は躊躇無く執行猶予が選択された事案ではなかったかと思われる。 そうすると,本件における最大の問題は,たまたま被害者が被告人 せて本件を強盗未遂罪(又は強盗未遂罪と傷害罪)で起訴してきたならば,本件は躊躇無く執行猶予が選択された事案ではなかったかと思われる。 そうすると,本件における最大の問題は,たまたま被害者が被告人の前記暴行により「かすり傷」程度の本件傷害を負ったというだけで,およそ被告人に対し執行猶予の途を閉ざしてしまってよいのか,また,仮に執行猶予は付さないにしても,上記のような犯情の下で,被告人に対しいきなり懲役3年6か月もの実刑に処することが,真に刑事裁判の正義にかない,刑法上の根本原則に背馳するところがないと言い切れるのかどうかである。そして,もしその不当性が著しいというのであれば,単に法律上やむを得ないこととして,その結論を座視するようなことは許されず,すべからく強盗致傷罪の「負傷」要件につき目的論的縮小解釈を施して,本件につき強盗致傷罪の成立を否定し,強盗未遂罪と傷害罪でこれを処断することが妥当ではないかと考えられるのである。 そこで,以下,種々の観点から,その妥当性について検討を加える。 (4) 立法経過からの検討そこでまず,強盗罪・強盗致傷罪と執行猶予との関係についてその立法経過について概観する。 (a) 明治40年に成立した現行刑法典の制定過程を見ると,当初,明治34年案や明治35年案の段階では,強盗罪の刑期の下限は懲役3年が,強盗致傷罪のそれは懲役5年が定められていたが(『増補刑法沿革総覧』200頁,474頁),第16回貴族院特別委員会において,強盗罪の下限が懲役3年であるというのは低すぎるから懲役5年に変更すべきであるという意見が出され,これが多数の支持を得たことから,これに伴い,強盗致傷罪のそれも連動して懲役7年に引き上げられ(同書1192~1195頁,1591頁),それが今日の法定刑に引き継がれたことが窺われる。 見が出され,これが多数の支持を得たことから,これに伴い,強盗致傷罪のそれも連動して懲役7年に引き上げられ(同書1192~1195頁,1591頁),それが今日の法定刑に引き継がれたことが窺われる。 しかし,いずれにしても,刑法制定当時執行猶予が許されたのは主刑が2年以下の懲役・禁錮の場合に限られていたことから(同書1560頁,2136頁等),強盗罪・強盗致傷罪とも,酌量減軽を施しても,およそ執行猶予を付しうる余地はなかったのである。ところが,(b) 戦後間もない昭和22年に「刑法の一部を改正する法律案」が国会に提出され,その中で刑法25条1項につき,執行猶予が許される主刑が「2年以下の懲役又は禁錮」から「3年以下の懲役又は禁錮」に引き上げる旨の提案もなされるに至った(刑事基本法研究会「刑法の一部改正の解説(10)」警察研究61巻4号80頁)。この点の改正理由につき,政府委員は,第1回国会衆議院委員会において,「現行刑法の第25条では,懲役,禁錮の刑が2年以下でなければ執行猶予の恩典にあずかることができない制限がありますので,実際上の裁判において,たとえば短期5年以上の法定刑である強盗罪あるいは放火罪等については,いかに情状酌量によって減刑しても2年半より下がることができません関係上,絶対に執行猶予の恩典にあずかることができない憾みがあったのであります。しかしながら,実際上のいろいろな問題を考えてみますと,強盗罪や放火罪についても,情状によっては執行猶予をぜひ付したいという事例も多いのでありまして,刑法改正にあたっては強盗放火のような重大な犯罪であっても場合によっては執行猶予を付し得るように範囲を拡げようということで,3年以下の懲役または禁錮の場合に執行猶予を命じ得るように拡張いたしたのであります。」と答弁しており(同「刑法の一部改正 であっても場合によっては執行猶予を付し得るように範囲を拡げようということで,3年以下の懲役または禁錮の場合に執行猶予を命じ得るように拡張いたしたのであります。」と答弁しており(同「刑法の一部改正の解説(17)」警察研究61巻11号63頁),この点の改正は特段の反対もなく賛同を得られたところである。ところが,その一方で,政府委員は,強盗傷人罪でも犯情等により同情に値するような事件もあるから,この罪でも執行猶予を付しうるように強盗傷人罪の短期を下げるか,又は執行猶予を付しうる主刑の上限を3年半か4年に上げてはどうかとの議員の質問に対し,第1回国会参議院委員会において,「刑法改正の仮案のでき上がるまでにはお説のように,どうせ拡張するならば,3年以下よりもっと緩めたらいいじゃないかというような御意見もあったのでありまするけれども,いろいろな方面から研究した結果,そういう極悪な重大犯罪については,執行猶予をなし得るように,特にその限度を拡張するということは却って不適当であろう,執行猶予を認めた趣旨から考えても適当ではなかろうという結論に達して,仮案のように3年以下となったのでありまして…」と答弁しているのである(同「刑法の一部改正の解説(24)」警察研究62巻6号66頁)。 以上によれば,もともと現行刑法の制定段階では,強盗罪・強盗致傷罪とも執行猶予を付しうる余地はなかったのであるが,昭和22年の刑法改正により,強盗罪については,実際上の裁判では情状によっては執行猶予をぜひ付したいという事例も多いなどとの理由で,執行猶予を付し得る余地が認められるようになる一方,強盗致傷罪に関しては,それが「極悪な重大犯罪」であっておよそ執行猶予にはなじまないとの理由で執行猶予を付しうる途が閉ざされてしまことが認められる。しかしながら,たとえ形式的には強 ようになる一方,強盗致傷罪に関しては,それが「極悪な重大犯罪」であっておよそ執行猶予にはなじまないとの理由で執行猶予を付しうる途が閉ざされてしまことが認められる。しかしながら,たとえ形式的には強盗致傷に当たる事案であっても常に「極悪な重大犯罪」ばかりでないことは裁判実務家の誰しもが共通に認識しているところであって,上記のような改正経過に照らすと,強盗罪と強盗致傷罪との差別化要因である「負傷」の内容があまりに貧弱なものであって,他の犯情や一般情状に照らしても到底「極悪な重大犯罪」とは評価できないような事案に関しては,そもそも当該傷害は強盗致傷罪における「負傷」には当たらないとして強盗致傷罪の成立そのものを否定し,強盗罪と傷害罪等にこれを分かって,執行猶予を付しうる余地を認めることが相当であると考えられよう。 (5) 他罪の量刑傾向との均衡という観点からの検討前述のとおり,強盗致傷罪の成立を前提にする限り,被告人に科しうる刑の最下限は懲役3年6か月の実刑であるが,この量刑が同種他罪と比較しても許容し得る範囲内と認めうるのかが次に問題となる。両当事者の同意を得て職権で取り調べた別紙「通常第一審における主要罪名別有罪人員量刑分布一覧表(懲役・禁錮) 地裁(平成14年度分)」は,最高裁事務総局『平成14年司法統計年報 2刑事編』等に基づき罪名別に量刑の分布状況を一覧表にしたもの(司法研修所刑事裁判教官室が研修資料として毎期の司法修習生に配布しているもの)であるが,同表によれば,個々の事例に関する個別情状(ことに前科関係)は一切不明であるものの,各罪ごとの大まかな量刑傾向は把握し得ることから,同表に基づき,懲役3年6か月の実刑が各罪の量刑傾向のどの辺りに位置するのかを見た上,その量刑傾向と本件事案を対比した場合に懲役3年6か月という量刑が 罪ごとの大まかな量刑傾向は把握し得ることから,同表に基づき,懲役3年6か月の実刑が各罪の量刑傾向のどの辺りに位置するのかを見た上,その量刑傾向と本件事案を対比した場合に懲役3年6か月という量刑がどのように評価されるのかを検討することとする。 ア強盗未遂罪の量刑傾向との対比まず,本件事案に最も近いと思われる強盗未遂罪においては,懲役3年6か月が属する「3年超5年以下」の有罪人員数は全体の28.3%であり,これを超えるものもせいぜい6.6%に止まることから,懲役3年6か月という量刑は,強盗未遂罪全体の中ではかなり重い部類に属していることが分かる。実務感覚に照らしても,本件のように成人後間もない初犯者について懲役3年6か月もの実刑を言い渡すのは,犯行態様が悪質(例えば,常習的に反復している場合や凶器を用いている場合など)で,しかも,被害者が被告人を宥恕していない場合に限られるのではないかと考えられる。 このような強盗未遂罪の量刑傾向に照らすと,本件のように極めて軽微な傷害を生じさせたというだけで被告人のような初犯者に対しいきなり懲役3年6か月の実刑に処するというのは,本件が悪質・危険な態様で行われたことを考慮に入れても,明らかに重すぎるといわざるを得ないように思われる。 イ傷害罪の量刑傾向との対比次に,本件においては財物奪取行為に着手できていないため,外形的には傷害行為に近似していることから,傷害罪の量刑傾向についても見ると,懲役3年6か月が属する「3年超5年以下」の有罪人員数は全体の1.6%に過ぎず,これを超えるものも0.1%しかないため,懲役3年6か月というのは,傷害罪の中でも最も重い量刑に位置付けられるものと評価することができよう。実務感覚からしても,初犯でありながら傷害罪のみで懲役3年6か月の実刑に処するような事例 ないため,懲役3年6か月というのは,傷害罪の中でも最も重い量刑に位置付けられるものと評価することができよう。実務感覚からしても,初犯でありながら傷害罪のみで懲役3年6か月の実刑に処するような事例は,よほど傷害結果が重篤で,かつ,犯行態様も悪質なレアケースに限られるものと考えられる。 このような傷害罪の量刑傾向に照らすと,本件程度の傷害結果を惹起しただけで,初犯であるにもかかわらず懲役3年6か月の実刑に処するのは,たとえそれが強盗目的で行われ,かつ,犯行態様が悪質・危険であったことを考慮に入れても,あまりにも重いといわざるを得ないように思われる。 ウ窃盗罪の量刑傾向との対比さらに,本件の強盗態様は,被害者の不意を突いて財物を奪うという点で,ひったくり窃盗と類似する面があることから,窃盗罪の量刑傾向についても見ると,懲役3年6か月が属する「3年超5年以下」の有罪人員数は全体の5.6%に過ぎず,これを超えるものも0.8%しかないため,傷害罪の場合と同様,懲役3年6か月というのは,窃盗罪の中でも最も重い量刑に位置付けられるものと評価することができよう。実務感覚からしても,初犯でありながら窃盗罪のみで懲役3年6か月の実刑に処せられるのは,悪質な態様でよほど高価な金品を窃取し,かつ,被害弁償等も全く行われていないようなレアケースに限られるものと考えられる。 このような窃盗罪の量刑傾向に照らすと,本件のように財物奪取が失敗に終わり,しかも初犯であったにもかかわらず,それが単に強盗目的で行われ,かつ,極めて軽微な本件傷害を生じさせたというだけで懲役3年6か月の実刑に処するというのは,本件が一般のひったくり以上に悪質・危険な態様で行われたことを考慮に入れても,あまりにも重いといわざるを得ないように思われる。 エ小括以上を総合すれば,発 3年6か月の実刑に処するというのは,本件が一般のひったくり以上に悪質・危険な態様で行われたことを考慮に入れても,あまりにも重いといわざるを得ないように思われる。 エ小括以上を総合すれば,発生した傷害がいかに軽微なものであっても,ともかく強盗目的で暴行が行われた場合には,一律に最下限でも懲役3年6か月の実刑を免れないとすることは,同種他罪の量刑傾向に比しても重きに過ぎるというべきであり,特に,本件のように他に被告人のために酌むべき事情が種々存する場合には,なおさらであると指摘することができる。 (6) 法解釈学的見地からの検討以上に加え,法解釈学的見地からしても,これまでの一部下級審裁判例や学説が既に指摘しているとおり,(a) もともと強盗罪の要件としての暴行は相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の強度を備えたものでなければならないのであるから,それに伴い軽微な傷害が生じることは当然予想されているものと思われ,そうであれば,軽微な傷害は強盗致傷罪における「負傷」の対象から除外するのが相当であると解されること,(b) 傷害罪に関してはその法定刑の下限が科料まで設けられており(この点は暴行罪と同一である。),極めて軽微な傷害も処罰の対象に予定されているのに対し,強盗致傷罪と強盗罪との間には傷害の有無により法定刑の下限の差が懲役2年も存しているのであるから,ここで予定されている「傷害」には軽微な傷害は含まれないと解するのが素直な理解であること,以上のとおり解することができる。 (7) 昨今の立法動向からの検討更に加えて,今国会(第161回国会)に,凶悪・重大犯罪の法定刑引き上げ等に関する刑法等の一部改正法案が内閣から提出されているところ,同法案中では,強盗致傷罪の法定刑の下限を懲役7年から懲役6年に引き下げる刑法240条の改正案 国会)に,凶悪・重大犯罪の法定刑引き上げ等に関する刑法等の一部改正法案が内閣から提出されているところ,同法案中では,強盗致傷罪の法定刑の下限を懲役7年から懲役6年に引き下げる刑法240条の改正案も含まれていることは公知の事実である。これは,法制審議会刑事法部会において,上記法定刑の引き上げが審議された際,強盗致傷罪に関しては,執行猶予を付す余地がない現行法の法定刑の不合理性が指摘され,全会一致で上記のとおりの附帯決議がなされたことに基づくものである(この点も公知の事実)。 仮に同法案が法律として成立したとしても,本件のように成立前に行われた犯罪については附則の規定により現行法が適用されることになるが,このように強盗致傷罪の法定刑の不合理性を理由とする法改正が現に国会で審議されるまでに至っている事実は,現行法の法解釈においても十分参酌されなければならないと解される。 (8) 結論以上を総合すると,現行の刑法240条については,これに関連する立法の経過や罪刑法定主義の一内容たる罪刑均衡の原則に照らして考えると,強盗致傷罪の刑の最下限に酌量減軽を施しても懲役3年6か月を下回ることができず,執行猶予を付しうる余地がないことはもとより,犯情のいかんにかかわらずいきなり懲役3年6か月もの長期の実刑にすることを余儀なくされる点で著しい不合理性が存在するといわざるを得ないように思われる。この点は,前述のような法解釈学的見地や近時の立法動向に鑑みても,十分に裏付けられていると解される。 そして,このような不合理性は,現行法の下では,強盗致傷罪の「負傷」要件に目的論的縮小解釈を施し,医師の診療を要せず,日常生活にもほとんど支障を来さないような軽微な傷害については,同罪の「負傷」には該当しないと解することによってこれを解消するほかないのではないか 」要件に目的論的縮小解釈を施し,医師の診療を要せず,日常生活にもほとんど支障を来さないような軽微な傷害については,同罪の「負傷」には該当しないと解することによってこれを解消するほかないのではないかと考える。 この点に関しては,いずれも刑集不登載(裁判集刑事には登載)の判例であるとはいえ,既に少なからざる最高裁判例(近時のものでは,最決平成6年3月4日裁判集刑事263号101頁)が「軽微な傷でも,人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上,強盗致傷罪における傷害にあたる」旨説示していることは,当裁判所も十分承知しているところであるが,いずれの判例も本件とは事案を異にするものであり(なお,上記の最高裁判例及びこれと同旨の下級審の裁判例は-事案の詳細が不明であるものもあるが-各事案を子細に見ると,上記平成6年の最高裁決定を初めとして,事案自体としては本来的に実刑相当と解されるものが少なくないように思われる。),仮にいわゆる「理由付けのための一般的法命題」に判例性が認められるというのであれば,当裁判所は上記判例に賛同しかねるというほかない。 そうすると,本件傷害は,前記のとおり,極めて軽微な傷害であって,被害者はこれによって日常生活にもほとんど支障を来さなかったというのであるから,本件は強盗致傷罪にいう「人を負傷させた」場合に該当せず,強盗未遂罪と傷害罪が成立するに止まると解するのが相当である。 よって,検察官の主張は理由がなく,当裁判所は,前記「有罪と認定した事実」に記載のとおりの認定・判断を行った次第である。 【法令適用の過程】(1) 「有罪と認定した事実」に記載の被告人の行為は,次の各刑罰法令に該当する(〔 〕内は法定刑)。 強盗未遂の点…刑法60条,243条,236条1項〔5年以上の有期懲役〕傷害の点…刑法60条,2 「有罪と認定した事実」に記載の被告人の行為は,次の各刑罰法令に該当する(〔 〕内は法定刑)。 強盗未遂の点…刑法60条,243条,236条1項〔5年以上の有期懲役〕傷害の点…刑法60条,204条〔10年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料〕ところで,この強盗未遂と傷害は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い強盗未遂罪の刑で処断を行う。 そして,この強盗未遂罪は未遂であるから,刑法43条本文,68条3号を適用して法律上の減軽を行う。 その結果導き出された刑期の範囲内で,当裁判所は,後記「量刑の理由」により,被告人を主文の刑に処するとともに,刑法25条1項,25条の2第1項前段を適用して,この裁判が確定した日から主文の期間この刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付することとした。 (2) 被告人には未決勾留の期間があるので,刑法21条を適用して,その日数のうち主文の日数をこの刑に算入する。 (3) 訴訟費用(国選弁護費用)が生じているので,刑事訴訟法181条1項本文により,全部これを被告人に負担させることとする。 【量刑の理由】本件は,犯行当時少年であった被告人が,遊ぶ金欲しさに,共犯者の少年2名と共に中年男性に暴行を加えて金品を強奪する,いわゆるオヤジ狩りをしようと企て,被害者を認めるや自ら率先して跳び蹴りを加えて被害者に前記の傷害を負わせたが,金品の強奪は失敗に終わったという強盗未遂と傷害の事案である。 今見たとおり,本件犯行はいわゆるオヤジ狩りの悪質事犯であるが,本件犯行に至る経緯・動機には何ら酌むべきものがない上,その犯行態様も悪質かつ危険なものであって,積極的に暴行を行った被告人は特に強く非難されなければならない。 このような事情 悪質事犯であるが,本件犯行に至る経緯・動機には何ら酌むべきものがない上,その犯行態様も悪質かつ危険なものであって,積極的に暴行を行った被告人は特に強く非難されなければならない。 このような事情に照らすと,被告人の刑事責任には到底軽視できないものがあるが,他面において,本件では金品強奪が未遂に終わっている上,その傷害も前述のとおり極めて軽微なもので済んだこと,そのこともあって,被害者は,一貫して被告人を宥恕していて(公判廷では,執行猶予を希望する旨述べている。),被害弁償も望んでいないこと,被告人は犯行直後から自己の罪を素直に認めており,現在では,自らの軽率さを真摯に反省悔悟していること,被告人は,本件当時少年であったものであるが,その劣悪な生育環境にもかかわらず,これまで前科はおろか非行歴もなかったこと,被告人の伯母が今後の指導監督を約束していること,被告人はこれまで一応真面目に稼働していた様子であり,雇主が今後の雇用継続を約束していること,など被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,当裁判所は,以上の諸事情を総合勘案した結果,確かに本件の犯情には芳しからぬものがあって,主文の刑は免れないとはいえ,上記のような被告人のために酌むべき事情も少なからず存しているので,今回に限っては,その刑の執行を猶予して,被告人に対し社会の中で更生する機会を与えることとし,なお本件の罪質・犯情,被告人の年齢・これまでの生活状況,家族の監督能力等に鑑み,その猶予の期間中は被告人を保護観察に付して,公的機関の指導監督・補導援護の下で被告人に更生の道を歩ませることが相当であると判断した次第である(検察官求刑-懲役7年)。 平成16年11月17日大阪地方裁判所第7刑事部裁判長裁判官杉田宗久 歩ませることが相当であると判断した次第である(検察官求刑-懲役7年)。 平成16年11月17日大阪地方裁判所第7刑事部裁判長裁判官杉田宗久裁判官鈴嶋晋一裁判官菅野昌彦
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