平成21年3月26日判決言渡平成18年(行ウ)第589号停職処分取消等請求事件平成18年(行ウ)第590号停職処分取消等請求事件主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 東京都教育委員会が原告Aに対してした平成18年3月31日付け停職処分を取り消す。 2 東京都教育委員会が原告Bに対してした平成18年3月13日付け停職処分を取り消す。 3 被告は,原告らに対し,それぞれ300万円及びこれに対する平成18年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告Aは,当時勤務していた立川市立C中学校(以下「C中」という。)で平成18年3月17日に行われた平成17年度卒業式において,同校校長から,国旗に向かって起立し国歌を斉唱することという職務命令を受けていたのに,国歌斉唱時に起立しなかったところ,東京都教育委員会(以下「都教委」という。)は,これまでにも原告Aが同種の行為により複数の処分を受けており,上記不起立は,地方公務員法(以下「地公法」という。)32条,33条に違反するとして,原告Aに対し,平成18年3月31日付け停職3月の処分をした。 原告Bは,当時勤務していた東京都立D養護学校(以下「D養護学校」という。)で平成18年1月25日に行われた同校創立30周年記念式典において,同校校長から,国旗に向かって起立し国歌を斉唱することという職務命令を受 けていたのに,国歌斉唱時に起立しなかったところ,都教委は,これまでにも原告Bが同種の行為により複数の処分を受けており,上記不起立は,地公法32条,33条に違反するとして,原告Bに対し,平成18年3月13 たのに,国歌斉唱時に起立しなかったところ,都教委は,これまでにも原告Bが同種の行為により複数の処分を受けており,上記不起立は,地公法32条,33条に違反するとして,原告Bに対し,平成18年3月13日付け停職1月の処分をした。 本件は,原告両名が,上記各処分は,憲法19条,教育基本法(平成18年法律第120号による改正前のもの。以下「旧教育基本法」という。)10条に反するなどとして,上記各処分の取消しを求め,また,上記各処分により精神的苦痛を被ったとして,損害賠償を請求している事案である。 1 前提事実(当裁判所に顕著な事実及び当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠により認定できる事実)(1) 当事者等ア原告A原告A(昭和▲年▲月▲日生まれ)は,昭和46年1月に東京都公立学校教員に任命された者であり,平成16年4月1日,立川市公立学校教員に任命され,C中に補されて平成18年3月31日まで同校に勤務していた。 原告Aは,都教委から,以下のとおりの処分を受けている。 平成6年4月25日減給(10分の1)1月平成14年3月27日減給(10分の1)3月平成17年3月31日減給(10分の1)6月平成17年5月27日停職1月平成17年12月1日減給(10分の1)1月イ原告B原告B(昭和▲年▲月▲日生まれ)は,昭和50年4月1日に東京都公立学校教員に任命された者であり,平成17年4月1日にD養護学校に補されて平成18年3月31日まで同校に勤務していた。 原告Bは,都教委から,以下のとおりの処分を受けている。 平成16年4月6日戒告平成16年5月25日減給(10分の1)1月平成17年3月31日減給(10分の1)6月ウ被告被告は,地方自治法180条の5第1項1号,地方教育行政 る。 平成16年4月6日戒告平成16年5月25日減給(10分の1)1月平成17年3月31日減給(10分の1)6月ウ被告被告は,地方自治法180条の5第1項1号,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)2条に基づき,都教委を設置する地方公共団体である。 都教委は,地教行法23条に基づき,学校その他の教育機関の設置管理や,市町村立中学校の教諭も含めて(市町村立学校職員給与負担法1条,地教行法37条1項)職員の任免等の事務を管理,執行する権限を有する行政庁である。 都教委は,その権限に属する事務を処理させるため,事務局として東京都教育庁を置いている(地教行法18条1項)。また,都教委が任命した教育長(同法16条1項)は,都教委の指揮監督の下に,都教委の権限に属するすべての事務をつかさどるほか(同法17条1項),東京都教育庁の事務を統括し,所属の職員を指揮監督する。 (2) 関連規定の定めア国旗及び国歌に関する法律1条1項国旗は,日章旗とする。 (以下,日章旗を「日の丸」という。)2条1項国歌は,君が代とする。 イ旧教育基本法10条1項教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。 2項教育行政は,この自覚のもとに,教育の目的を遂行するに必 要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。 ウ学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの。以下「旧学校教育法」という。)28条3項校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する。 6項教諭は,児童の教育をつかさどる。 (同条は,同法40条で,中学校について,同法76条で,養護学校について準用されている。)エ地教行法23条教育委員会 どり,所属職員を監督する。 6項教諭は,児童の教育をつかさどる。 (同条は,同法40条で,中学校について,同法76条で,養護学校について準用されている。)エ地教行法23条教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,次に掲げるものを管理し,及び執行する。 3号教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。 5号学校の組織編制,教育課程,学習指導,生徒指導及び職業指導に関すること。 8号校長,教員その他の教育関係職員の研修に関すること。 オ学習指導要領平成元年3月15日に改訂された小学校,中学校及び高等学校についての学習指導要領においては,特別活動において「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」(以下「国旗・国歌条項」という。)と定められた。(乙イ18の1ないし3)平成元年10月24日に改訂された盲・ろう・養護学校の小学部・中学部及び高等部の学習指導要領においては,特別活動については,小学校,中学校及び高等学校の各学習指導要領に示すものに準ずるものと定められた。(乙イ18の4)カ地公法 29条1項職員が次の各号の一に該当する場合においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる。 1号この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基づく条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合2号職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合3号全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合32条職員は,その職務を遂行するに当つて,法令,条例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規 に違反し,又は職務を怠った場合3号全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合32条職員は,その職務を遂行するに当つて,法令,条例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且つ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。 33条職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。 (3) 本件都教委通達都教委のE教育長は,各都立学校長に対し,平成15年10月23日,各都立学校長に対する職務命令として,以下のとおりの内容の「入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」(以下「本件都教委通達」という。)を発出した。 「1 学習指導要領に基づき,入学式,卒業式等を適正に実施すること。 2 入学式,卒業式等の実施に当たっては,別紙『入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針』のとおり行うものとすること。 3 国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は,服務上の責任を問われることを,教職員に周知すること。」「別紙 入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針 1 国旗の掲揚について入学式,卒業式における国旗の取扱いは,次のとおりとする。 (1) 国旗は式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。 (2) 国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合,国旗にあっては舞台壇上正面に向かって左,都旗にあっては右に掲揚する。 (3) 屋外における国旗の掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国旗の掲揚状況が児童・生徒,保護者,その他来校者が十分認知できる場所に掲揚する。 (4) 国旗を掲揚する時間は,式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻とする。 2 国 揚塔,校門,玄関等,国旗の掲揚状況が児童・生徒,保護者,その他来校者が十分認知できる場所に掲揚する。 (4) 国旗を掲揚する時間は,式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻とする。 2 国歌の斉唱について入学式,卒業式等における国歌の取扱いは,次のとおりとする。 (1) 式次第には,「国歌斉唱」と記載する。 (2) 国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が,「国歌斉唱」と発声し,起立を促す。 (3) 式典会場において,教職員は,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する。 (4) 国歌斉唱は,ピアノ伴奏等により行う。 3 会場設営等について入学式,卒業式等における会場設営等は,次のとおりとする。 (1) 卒業式を体育館で実施する場合には,舞台壇上に演台を置き,卒業証書を授与する。 (2) 卒業式をその他の会場で行う場合は,会場の正面に演台を置き,卒業証書を授与する。 (3) 入学式,卒業式等における式典会場は,児童・生徒が正面を向いて, 着席するように設営する。 (4) 入学式,卒業式等における教職員の服装は,厳粛かつ清新な雰囲気の中で行われる式典にふさわしいものとする。」(4) 本件立川市教委通達立川市教育委員会(以下「立川市教委」という。)のF教育長は,立川市立小・中学校長に対し,平成17年1月7日,本件都教委通達と同内容の「入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」(以下「本件立川市教委通達」という。)を発出した。 (5) 本件各処分ア本件A処分C中のG校長は,原告Aに対し,平成18年3月15日,同月17日の平成17年度卒業式において,「卒業式の式場において,式場内の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること。司会の着席の指示があるまで起 ,原告Aに対し,平成18年3月15日,同月17日の平成17年度卒業式において,「卒業式の式場において,式場内の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること。司会の着席の指示があるまで起立していること。」等の内容の職務命令(以下「本件対A職務命令」という。)を発出したが,原告Aは,同卒業式の国歌斉唱時に起立しないで着席した(争いのない事実,甲8)。 都教委は,原告Aに対し,平成18年3月31日,これまでにも職務命令違反により懲戒処分を受けてきたところ,原告Aの上記行為は,地公法32条,33条に違反し,同法29条1項1ないし3号に該当するとして,停職3月の懲戒処分(以下「本件A処分」という。)をした。(甲4)イ本件B処分D養護学校のH校長は,原告Bに対し,平成18年1月19日,同月25日の創立30周年記念式典において,「式典会場において,会場の指定された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること」等の職務命令を発出することとし,H校長から指示を受けたI副校長において,原告Bに対し,同月20日,上記内容の職務命令書を手交することにより,職務命 令(以下「本件対B職務命令」といい,本件対A職務命令と総称して「本件各職務命令」という。)を発出したが,原告Bは,同記念式典の国歌斉唱の際,起立しなかった。 都教委は,原告Bに対し,平成18年3月13日,これまでにも職務命令違反により懲戒処分を受けてきたところ,原告Bの上記行為は,地公法32条,33条に違反し,同法29条1項1ないし3号に該当するとして,停職1月の懲戒処分(以下「本件B処分」といい,本件A処分と総称して「本件各処分」という。)をした。(甲11)(6) 東京都人事委員会に対する審査請求原告らは,東京都人事委員会に対し,平成18年4月13日,それぞれ本件 件B処分」といい,本件A処分と総称して「本件各処分」という。)をした。(甲11)(6) 東京都人事委員会に対する審査請求原告らは,東京都人事委員会に対し,平成18年4月13日,それぞれ本件各処分を取り消すよう求めて審査請求した。(甲421,422)(7) 訴えの提起原告らは,平成18年10月30日,それぞれ本件各処分の取消しを求める訴えを提起した。 2 争点(1) 本件各職務命令及び本件各処分は憲法19条に反するか。 (2) 本件各職務命令及び本件各処分は旧教育基本法10条に反し,教師の教育の自由を侵害するか。 (3) 本件各処分は地公法の規定等に反するか。 (4) 本件各処分は処分権の濫用か。 (5) 原告らの損害 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件各職務命令及び本件各処分は憲法19条に反するか。)(被告の主張)本件各職務命令は,以下のとおり,憲法19条に違反するものではないから,本件各職務命令に反したことをもって,本件各処分をすることは適法で ある。 ア本件各職務命令は,原告らに対し,敬礼などの特別な行為を求めているわけではなく,国歌斉唱時に起立するという外部行為を命じるにとどまるものであって,原告らの内心における精神活動を否定したり,その思想・良心に反する精神的活動を強制するものではないし,いかなる思想を抱いているかを露顕することを強制するものではない。 原告らは,日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義思想のシンボルとして用いられてきた経緯からして,君が代斉唱時に起立することはできないと考えていると主張するが,日本国憲法では,天皇は日本国及び日本国民統合の象徴であると定められているのであるから,現段階においても,日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義を賛美するものであるとの解 いと考えていると主張するが,日本国憲法では,天皇は日本国及び日本国民統合の象徴であると定められているのであるから,現段階においても,日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義を賛美するものであるとの解釈が一般的であるとはいえない。そうすると,原告らの思想・良心の核心は,国旗・国歌一般に対する拒否ではなく,皇国思想や軍国主義に対する拒否であるはずであるところ,君が代斉唱時に起立したとしても,そのような原告らの思想・良心を否定したり,露顕することを強制するものとはいえないから,君が代斉唱時に起立を求めた本件各職務命令は,思想・良心の自由を制約するものではない。 イ仮に,外部的行為についても,思想・良心の自由の保障が及ぶとしても,公共の福祉による制約があるのであって,本件各職務命令は,憲法19条に反するとはいえない。 原告らは,全体の奉仕者である地方公務員であり,公教育を行うという公共の利益のために勤務し,かつ職務の遂行に当たっては全力を挙げて専念する義務があるのであるから,思想・良心の自由も,公共の福祉の見地から職務の公共性に由来する内在的制約を受ける。 前記1(2)オのとおり,学習指導要領において,入学式や卒業式などにおいて,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとされ ているところ,G校長又はH校長は,原告らに対し,それぞれ本件都教委通達又は本件立川市教委通達に基づき,式典における国歌斉唱時に国旗に向かって起立することを内容とする本件各職務命令を発したのであるから,本件各職務命令は適法である。 また,原告らは,自らの自由意思により,公立学校教職員という特別な法律関係に入った者であることからしても,教育公務員として義務を履行するに際し,思想・良心の自由が制約されたとしても,やむを得ない制限であるというべきであ 自由意思により,公立学校教職員という特別な法律関係に入った者であることからしても,教育公務員として義務を履行するに際し,思想・良心の自由が制約されたとしても,やむを得ない制限であるというべきである。 ウ原告らは,本件各職務命令は,本件各処分の前提としてされており,その後に再発防止研修の受講をしなければならず,さらに,同種の処分歴があるとさらに重い処分がされるという累積加重処分が予定されていることからしても,原告らの思想・良心に対する重大な侵害であると主張するが,前記イのとおり,適法な本件各職務命令に反した場合に,懲戒処分を受け,再発防止のための措置を取られるのも当然であって,繰り返し服務上の義務に違反すれば,加重された懲戒処分を受けるのも当然である。 上記のとおり,本件各職務命令に違反したことをもって,加重された本件各処分を受け,また,再発防止研修の受講を義務づけられるのは当然であって,原告らの思想・良心の改変を目的としたものであるなどとはいえない。 また,原告らは,国歌斉唱時に起立しなかったことにより,国歌斉唱の指導を行わなかったのであり,児童・生徒において,国歌斉唱時に起立してもいいし,しなくてもよいと受け取らせ,国歌・国旗について正しい認識を持ち,尊重する態度を学ぶことができなくなり,児童・生徒の学習権を侵害したのであって,単なる消極的態度と評価することもできないから,本件各処分が重きに失するとはいえない。 (原告らの主張) 本件各職務命令は,以下のとおり,憲法19条に違反するから,本件各職務命令に反したことを理由としてされた本件各処分は取り消されるべきである。 ア憲法19条によって保障される思想及び良心の自由は,憲法上最も強い保障を受け,これに対する保障は絶対的なものと解すべきである。 原告らは,日の丸 てされた本件各処分は取り消されるべきである。 ア憲法19条によって保障される思想及び良心の自由は,憲法上最も強い保障を受け,これに対する保障は絶対的なものと解すべきである。 原告らは,日の丸・君が代は,明治時代以降,第二次世界大戦終了までの間,皇国思想や軍国主義思想のシンボルとして用いられてきたのであるから,国民主権と平和主義に基づく現行憲法下において,学校行事における君が代斉唱時に起立することには同意できないと考えているのであり,また,現在,学校において,生徒に対し,君が代について判断できる知識も提供せずにただ斉唱時に起立を求めているところ,このような実施方法は,唯一絶対の価値観を押しつける教育の本質に反する行為であることからしても,君が代斉唱時に起立することはできないと考えている。 このように,原告らの君が代斉唱時に起立できないとの考えは,民主主義,平和,人権等についての価値観や,教育者としての良心,信念に深く基づいており,個人の世界観・人生観,主義・主張など,人格形成の核心をなす内面作用に深くかかわるものであって,君が代斉唱時の不起立は,思想・良心の自由と密接な関係を有する行為であるから,君が代斉唱時に起立しない自由は,憲法19条の思想・良心の自由によって絶対的に保護されるべきである。 さらに,本件各職務命令は,原告らに対し,君が代に対する思想・良心の立場を表明又は推知させるものであることからしても,憲法19条の思想・良心の自由によって保障される,沈黙の自由を侵害するものである。 イ学習指導要領においては,入学式や卒業式などにおいて,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとされているが,後記(2)(原告らの主張)のとおり,このように内容が一義的な条項について,法 的拘束力があるとは解されないから において,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとされているが,後記(2)(原告らの主張)のとおり,このように内容が一義的な条項について,法 的拘束力があるとは解されないから,これを根拠に人権を制約することはできない。 また,入学式や卒業式において,国歌を斉唱するよう指導する目的があったとしても,教員に起立させずに国歌斉唱を行うことは可能であるから,各教員に起立を強制する必要はなく,本件各職務命令を発する必要は認められない。また,式典における君が代斉唱を実施するにしても,教員に対し君が代斉唱時に起立を強制する本件各職務命令を発せずに,事前に生徒に対し,日の丸・君が代の歴史的意義と国民の間の多様な意見を教え,思想・良心の自由を尊重することを指導する授業を行うなど,生徒の学習の機会を保障した上で,式典において君が代斉唱を実施するという代替措置が可能であったのである。 被告は,原告らが,自由意思で教育公務員になったことを理由に,人権の制約が許されると主張するが,かかる特別権力関係論が妥当しないのは明らかである。 以上のとおり,本件各職務命令は,根拠や必要性がなく,また他の代替手段があったのに発せられたものである。 ウまた,本件各職務命令は,これに反した場合に懲戒処分という不利益処分が課されることを前提とし,その後に再発防止研修の受講をさせているのであり,同種の職務命令に反したことにより懲戒処分を受けてきた場合,従前よりもさらに重い処分がされるという累積加重処分がされてきているのであるから,原告らの思想・良心の自由に対する重大な侵害となっており,思想・良心の放棄・転向を迫り,日の丸,君が代に対する忠誠を強要するものとなっていて,このような態様からしても,憲法19条に反する。 そして,原告らは,君が代斉唱時に起 する重大な侵害となっており,思想・良心の放棄・転向を迫り,日の丸,君が代に対する忠誠を強要するものとなっていて,このような態様からしても,憲法19条に反する。 そして,原告らは,君が代斉唱時に起立しなかったが,そのことによって,何ら式典の進行は妨げられなかったのに,本件各処分をするのは,重きに失する。 (2) 争点(2)(本件各職務命令及び本件各処分は旧教育基本法10条に反し,教師の教育の自由を侵害するか。)(被告の主張)ア本件都教委通達及び本件立川市教委通達と旧教育基本法10条教育基本法を中心とする現行教育法制は,①教育の地方自治,②教育への外部的干渉の防止を基本原理とし,その基本原理を達成するために教育委員会制度を設けているのであるから,地方公共団体の教育委員会(以下「地教委」という。)に付与された固有の権限の行使は,原則として旧教育基本法10条1項の「不当な支配」には該当しない。そして,地教委は,学校の管理を行うこととされているところ(地教行法23条),「管理」には,教育の内容・方法が含まれると解されるから,地教委は,学校に対し,教育の内容・方法についても具体的な命令を発することができ(地教行法23条5号),大綱的基準の設定にとどまらなければならないものではない。 本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,学習指導要領を踏まえ,子どもが,国旗・国歌に対する正しい認識を持ち,それらを尊重する態度を育てるために発せられたものであって,学校管理機関としての都教委及び立川市教委の権限に基づき発せられたものである。 原告らは,本件都教委通達は,国歌斉唱時に,生徒及び教職員に起立を強制させることにより,生徒たちに偏狭な「愛国心」などの一定の国家主義的価値観を一律に押しつけることを目的とすると主張するが,原告らの主張 は,本件都教委通達は,国歌斉唱時に,生徒及び教職員に起立を強制させることにより,生徒たちに偏狭な「愛国心」などの一定の国家主義的価値観を一律に押しつけることを目的とすると主張するが,原告らの主張は,以下のとおり,理由がない。すなわち,国旗・国歌の指導は,我が国の国旗・国歌のみ尊重する態度を育てるために行われるものではなく,他国の国旗・国歌も同様に尊重する態度を育てるために行われるものであって,このような態度を育てることは,国際社会で生きる日本人として学んでおくべき基礎的知識であり,偏狭な「愛国心」や「ナショナリズム」 とは無縁のものである。 以上のとおり,本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,旧教育基本法10条に違反するものではない。 イ本件各職務命令と旧教育基本法10条本件都教委通達は,各学校長に対して発令されたものであって,各学校長において,教職員に対し,国歌斉唱時に起立するよう職務命令を発することを義務付けたものではないところ,校長は,校務をつかさどり所属職員を監督する権限を有し(旧学校教育法28条3項),その権限に基づき,自らの判断において,本件各職務命令を発出しているのであるから,仮に本件都教委通達が旧教育基本法10条に違反するとしても,本件各職務命令が違法になる訳ではない。 また,本件各職務命令が,教師の教育の自由を侵害するとの原告らの主張も,後記ウのとおり,理由がない。 ウ憲法23条,26条,13条原告らは,本件各職務命令は,子どもの学習権保障の見地から認められるべき教師の教育の自由を侵害すると主張するが,普通教育における教育の自由が一定の範囲で認められるとしても,教育を受ける子どもの利益のために認められるにすぎず,教師個人の人権として保障されているのではないから,仮にそれが侵害されたとしても, ,普通教育における教育の自由が一定の範囲で認められるとしても,教育を受ける子どもの利益のために認められるにすぎず,教師個人の人権として保障されているのではないから,仮にそれが侵害されたとしても,教師がその違憲を主張することはできない。 そして,普通教育における国旗・国歌の指導は,子どもが,国旗・国歌に対する正しい認識を持ち,それを尊重する態度を育てるためであって,一方的観念の教え込みなどではない。また,学校単位で行われる儀式的行事においては,個々の教師の教育の自由が妥当する領域ではない。 エ本件対A職務命令の違法性本件立川市教委通達は,立川市の入学式,卒業式の実施態様には課題が 残っていると認識していたため,立川市教委としての判断を明確に示すために発出したものであって,原告Aという特定の教員への対策として,発出されたものではない。 オ本件対B職務命令の違法性盲・ろう・養護学校に学ぶ児童生徒にとっても,入学式・卒業式などの式典は,学校生活における重要な節目であり,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活への動機付けとなるような活動に参加することは意義があることは明らかであり,本件都教委通達は,その趣旨目的に沿うものである。 (原告らの主張)ア本件都教委通達及び本件立川市教委通達と旧教育基本法10条旧教育基本法10条は,その立法趣旨の一つとして,地方官僚による教育支配の排除があったのであり,地教行法も旧教育基本法の趣旨,目的に反しないように解さなければならないから,地教行法の規定をもって,地教委が,「不当な支配」の主体になり得ないと解することはできない。そして,教師による裁量の余地があることからすると,地教委の権限行使においても,大綱的基準の設定にとどまるべきであり,具体的命令を発することはできないと解すべきで なり得ないと解することはできない。そして,教師による裁量の余地があることからすると,地教委の権限行使においても,大綱的基準の設定にとどまるべきであり,具体的命令を発することはできないと解すべきである。 そして,学習指導要領についても,大綱的基準にとどまる部分についてのみ,法規としての性質が認められているにすぎず,学習指導要領の国旗・国歌条項は,大綱的基準にとどまらない一義的な条項であるから法的拘束力がないと判断すべきであり,また,大綱的基準を逸脱する場合には,「不当な支配」に該当することとなるところ,本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,以下のとおり,学校ごとの裁量を奪うものであって,「不当な支配」に該当する。 すなわち,日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義思想のシンボルであったために強いイデオロギー性を有するところ,儀式的行事において,国 旗へ正対して国歌を斉唱させることは,「愛国心」「ナショナリズム」などの一方的観念の教え込みの強制となるものである。本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,かかる強制を目的としてされたものであって,校長に対し,国旗掲揚・国歌斉唱の実施方法や教職員に対する職務命令の発出について裁量を許さないものであるから,旧教育基本法10条の「不当な支配」となる。 以上のとおり,本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,旧教育基本法10条の「不当な支配」に該当し,違法である。 イ本件各職務命令と旧教育基本法10条本件各職務命令は,本件都教委通達及び本件立川市教委通達に基づいて発出されたもので,各校長には,職務命令を発出しないという裁量の余地は全くなかったから,本件各職務命令も,旧教育基本法10条の「不当な支配」に該当し,違法である。 また,各校長の発出した本件各職務命令は,後記ウのとおり,教師の教 務命令を発出しないという裁量の余地は全くなかったから,本件各職務命令も,旧教育基本法10条の「不当な支配」に該当し,違法である。 また,各校長の発出した本件各職務命令は,後記ウのとおり,教師の教育の自由を侵害するもので,不当な支配に該当し,違法である。 ウ憲法23条,26条,13条憲法23条,26条,13条の要請から,教育は,個人の人格の成長完成のために行わなければならず,そのためには教師との自由な関係が保障されなければならず,子どもの学習権保障の見地からも教師の教育の自由が認められる必要がある。 そして,日の丸・君が代のように社会的に意見の分かれるテーマについて指導する場合,その背景となる歴史的事実を教え,さまざまな価値判断が国民の間に存することを教えた上で,子どもたちに自ら考えさせ,それぞれが自分の判断で対応することができるように支援すべきである。しかし,本件各職務命令により,教師に対し,君が代斉唱時に起立を強制すれば,子どもたちに対し,異なる意見への不寛容の姿勢を示し,多様な意見 の存在する社会に適応する力を付けるという人格の発達を阻害し,その学習権を侵害し,教師の教育の自由を否定することにもなる。 以上のとおり,本件各職務命令は,憲法23条,26条,13条の要請する教師の教育の自由を侵害する。 エ本件対A職務命令の違法性従前,立川市においては,卒業式,入学式に際し,校長から職務命令が発出されたことはなかったのに,原告Aが,平成16年4月1日付けでC中に異動して来るや,本件立川市教委通達が発出されることになったのであり,職務命令が発出されているのは立川市内ではC中のみであったし,多摩教育事務所からC中に対し,強力な指導がされたことからしても,本件立川市教委通達が,原告Aを処分するために発出されたものである あり,職務命令が発出されているのは立川市内ではC中のみであったし,多摩教育事務所からC中に対し,強力な指導がされたことからしても,本件立川市教委通達が,原告Aを処分するために発出されたものであることは明らかである。 オ本件対B職務命令の違法性本件都教委通達以前においては,都立盲・ろう・養護学校における入学式等では,フロア形式が多く採用されるなど,子どもを中心とした自由な形式が比較的広く採用されていたが,本件都教委通達以後は,画一的に壇上形式で行われるようになった。このような実態は,都立養護学校等の個別事情を全く考慮せず,各校の裁量を許さず,教師の創意工夫の尊重と教育の自主性を阻害するもので,この観点からしても,不当な支配に当たる。 (3) 本件各処分は地公法の規定等に反するか。 (被告の主張)ア校長は,校務をつかさどり所属職員を監督する権限を有している(旧学校教育法28条3項)から,教育課程の編成等すべての校務を決定し,これを各教職員に分掌させ,必要な指導を行うことができ,この校務には,入学式,卒業式,周年行事等の特別活動としての儀式的行事の実施も含まれる。したがって,校長は,各教職員に対し,その実施に当たって,地公 法32条の上司として,職務命令を発することができる。 そして,原告ら教育公務員は,職務命令に重大かつ明白な違法がない限り,これを遵守する義務を負うのであり,前記(1)(2)(被告の主張)のとおり,本件各職務命令には,そのような違法はないから,本件各職務命令に従わなかった原告らの行為は,地公法32条違反となる。 イ原告らは,本件各職務命令に公然と違反し,しかも児童・生徒・保護者その他の学校関係者の面前で行ったものであるから,これらの行為が,地公法33条に該当する信用失墜行為であることは明らかである 。 イ原告らは,本件各職務命令に公然と違反し,しかも児童・生徒・保護者その他の学校関係者の面前で行ったものであるから,これらの行為が,地公法33条に該当する信用失墜行為であることは明らかである。 ウ地公法に基づく懲戒処分をするに当たっては,憲法上,告知と聴聞の機会を与える必要があるとまでは解されず,当該処分によって制限を受ける権利利益の内容等を総合考慮して,告知と聴聞の機会を与えるか否かを決すべきである。そして,手続的適正については,処分権者の判断の慎重,適正を担保し,その恣意を抑制するため処分事由説明書の交付が法定されているから,相当の確保がされているのであって,告知と聴聞の機会を与えなくても憲法31条の法意に反しない。 さらに,本件においては,都教委において,原告らから事情を聴取しようとしたのに,原告らにおいて,代理人弁護士の立会いがなければ事情聴取には応じないとして,これを拒否したのであるから,適正手続違反をいう原告らの主張は理由がないし,本件各処分は,教職員懲戒分限審査委員会の審議を経て,教育委員会議の議も経るという慎重な手続を経ているから,手続が拙速であるということもできない。 (原告らの主張)ア地公法32条の職務命令への服従義務は,権限ある上司から発せられる必要があるところ,校長は,教職員に対し,国歌斉唱時に起立して斉唱するよう命ずる権限はない。すなわち,教師には,教授の具体的内容及び方法につきある程度自由な裁量が認められなければならないが,校長には, それを侵害する職務命令を発する権限はないと解すべきであり,本件各職務命令が,それを侵害することは,前記(1)(2)(原告らの主張)のとおりである。 また,職務命令に重大かつ明白な瑕疵がある場合には,教職員においてこれに服従する義務は生じないところ,前 本件各職務命令が,それを侵害することは,前記(1)(2)(原告らの主張)のとおりである。 また,職務命令に重大かつ明白な瑕疵がある場合には,教職員においてこれに服従する義務は生じないところ,前記(1)(2)(原告らの主張)のとおり,本件各職務命令は,違憲・違法なものであるから,原告らにおいて,これに服従する義務はない。 そうすると,本件各処分は,本件各職務命令に従わなかったことが地公法32条に該当するとしてされているが,同条に反しないことは明らかであって,違法なものである。 イまた,原告らは,本件各職務命令に従わず,君が代斉唱時に着席していたが,不起立行為それ自体によって,式典の進行が妨害されたことはなく,保護者や子どもたちから苦情が寄せられたこともないのであるし,職務命令に対する違反についても,本件各職務命令が違憲・違法なことは前記のとおりであるから,原告らの行為は,信用失墜行為に該当せず,地公法33条に該当しない。 ウさらに,行政機関が公務員に対して懲戒処分をするに当たっては,憲法31条の趣旨に照らし,手続的な適正が確保されるべきところ,本件各処分をするに際し,都教委は,原告らが代理人弁護士の同席を求めてもこれを拒否するなど,事実上,聴聞,弁解の機会を与えていないのであるし,緊急性もないのに拙速にしているのであるから,手続的にも適正とはいえず,この点からも取消しを免れない。 (4) 本件各処分は処分権の濫用か。 (原告らの主張)ア公務員に対する懲戒処分については,裁量権を濫用してはならないところ,本件各職務命令に違反したことをもって,停職という本件各処分をし たことは,停職処分により,報酬を得られなくなるのみならず,生徒,児童との人格的触れ合いを通じて成り立つ教育活動を強制的に中断させるという意味からし したことをもって,停職という本件各処分をし たことは,停職処分により,報酬を得られなくなるのみならず,生徒,児童との人格的触れ合いを通じて成り立つ教育活動を強制的に中断させるという意味からしても,重大で過酷な処分であり,本件各処分には,裁量権を濫用した違法がある。 イ都教委は,「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」を設けているところ,国歌斉唱時の不起立という消極的行為にすぎない原告らの各行為によって,何らの被害も生じていないのであるから,都教委の内部基準に照らしても,本件各処分は過酷にすぎる。 また,都教委は,同種の職務命令に対する違反の反復を理由として,段階的に重い処分を課していくという累積加重処分をしているが,このように機械的に,かつ,同種の職務命令に従う義務のないことを確認した東京地方裁判所判決等が言い渡されているにもかかわらず,これらを無視してされた本件各処分は違法である。 ウまた,都教委は,都立高等学校における未履修問題については,校長に対して,戒告処分をしたほかは,それよりも軽い処分にとどめているし,被告は,被告職員の争議行為についても,最も重くて停職8日にとどめている。さらに,他県の教職員においては,本件と同種の国歌斉唱時の不起立について,停職処分はされておらず,また,都教委のような累積加重処分はされていない。 以上によれば,都教委による本件各処分は,比例原則に反して違法であるのは明らかである。 (被告の主張)ア公務員に対する懲戒処分をするに当たっては,懲戒権者に裁量が認められているところ,①原告らは,本件各職務命令に違反する行為を意識的に行い,②しかもその行為を,児童,生徒,保護者その他学校関係者の面前で公然と行い,③原告らは,これまでの指導や再発防止研修を受け,また 懲戒処分も受け は,本件各職務命令に違反する行為を意識的に行い,②しかもその行為を,児童,生徒,保護者その他学校関係者の面前で公然と行い,③原告らは,これまでの指導や再発防止研修を受け,また 懲戒処分も受けているにもかかわらず,再び同種の行為を行っているのであり,都教委は,これらの点を考慮して本件各処分をしたのであるから,何ら裁量権を逸脱していない。 イそして,都教委は,内部準則として処分基準を有しているところ,これに違反にしたからといって,本件各処分が当然に違法となるものではない上に,前記アのとおりの考慮要素に従い,処分基準に則して本件各処分をしたのであるから,本件各処分に違法はない。 また,原告らは,累積加重処分により処分量定が違法であると主張しているが,過去に処分歴があれば,加重された処分となるのは,公務員の懲戒処分の本質からして当然であり,都教委には,本件各処分をするについて,何ら裁量の逸脱はない。 ウ原告らは,他種の非違行為による懲戒処分と本件各処分を比較し,他県の教職員による同種行為に対する懲戒処分と比較して,本件各処分は重すぎ,比例原則違反があると主張するが,他種の非違行為と本件では事案が異なり,また,教育には地方自治の保障があるから,各県ごとに懲戒処分の量定が異なるのは当然であり,原告らの主張は理由がない。 (5) 原告らの損害(原告らの主張)原告らは,本件各処分により,教師としての職業的良心を傷つけられ,著しい精神的苦痛を被ったところ,これを金銭的に評価するならば,各300万円を下らない。 (被告の主張)争う。 第3 争点に対する判断 1 争いのない事実に証拠(各項に記載したもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 文部省(現在の文部科学省)は,平成元年3月15日,平 第3 争点に対する判断 1 争いのない事実に証拠(各項に記載したもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1) 文部省(現在の文部科学省)は,平成元年3月15日,平成元年度以前においては,特別活動において配慮する事項として,「国民の祝日などにおいて儀式などを行う場合には,(児童)生徒に対してこれらの祝日などの意義を理解させると共に,国旗を掲揚し,国歌を斉唱させることが望ましい」と定められていた小学校,中学校及び高等学校の学習指導要領を改訂し,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めた。この改訂の前後を通じて,盲・ろう・養護学校の小学部・中学部及び高等部の学習指導要領においては,特別活動については,小学校,中学校及び高等学校の各学習指導要領に示すものに準ずるものと規定されていた。 都教委の指導部は,上記改訂を受けて,平成2年2月3日,「新学習指導要領の移行措置について-入学式・卒業式における国旗・国歌の取扱い-」の中で,「各学校の入学式,卒業式などにおける国旗の掲揚,国歌の斉唱指導が,平成2年度から新学習指導要領に即して行われるよう,区市町村教育委員会並びに都立学校長に対して指導する。」とし,指導上の要点として「国旗を掲揚し,国歌を斉唱するよう指導するに当たっては,校長を中心として,教職員の共通理解の下に協力して実施するようにするが,共通理解が得られず実施が困難な状況においては,学習指導要領の法的根拠を示し,校長の責任により実施すること。」とした。 しかし,国旗掲揚・国歌斉唱を実施しようとする学校の中には,職員団体の反対等により,実施できない学校もあった。都教委のJ教育長(当時)は,都立学校長に対し,平成6年1月18日, ること。」とした。 しかし,国旗掲揚・国歌斉唱を実施しようとする学校の中には,職員団体の反対等により,実施できない学校もあった。都教委のJ教育長(当時)は,都立学校長に対し,平成6年1月18日,「入学式や卒業式などにおける国旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通知)」を発し,「児童・生徒が,国際社会において尊敬され,信頼される日本人として成長していくためには,学校教育において,国際社会における日本人としての自覚を培うとともに,国旗及び国歌に対する正しい認識をもたせ,尊重する態度を養うことが極め て大切」であるとして,平成元年改訂の高等学校学習指導要領に基づく指導の徹底を求め,東京都教育庁指導部長は,各区市町村教育委員会教育長に対し,同日,都立学校長に対して上記通知したことを周知した。(乙イ15の1ないし4,18の1ないし4,20,22,44)(2) 文部省は,各都道府県教育委員会教育長に対し,平成10年10月15日,全国の公立小,中,高等学校で行われた平成9年度卒業式及び平成10年度入学式における国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況に関する調査結果を記載した「公立小・中・高等学校における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について(通知)」を発し,平成7年春の調査に比べて全体としては実施率が上昇しているものの,いまだ実施されていない学校があるなどとして,平成元年改訂の学習指導要領に基づき,国旗及び国歌に関する指導を徹底することを求めた。 東京都教育庁指導部長は,この通知を受け,区市町村教育委員会教育長,都立高等学校長等に対し,平成10年11月9日,「公立小・中・高等学校における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について(通知)」を発し,「これからの国際社会に生きていく国民として,我が国の国旗・国歌 ,平成10年11月9日,「公立小・中・高等学校における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について(通知)」を発し,「これからの国際社会に生きていく国民として,我が国の国旗・国歌はもとより諸外国の国旗・国歌に対する正しい認識と,それらを尊重する態度を育てることは,重要なこと」であるとして,平成元年改訂の学習指導要領に基づき,国旗及び国歌に関する指導を徹底することを求めた。(甲61の1及び2)(3) 国旗及び国歌に関する法律は,平成11年に成立し,同年8月13日に公布,施行された。文部省は,各都道府県教育委員会教育長に対し,同年9月17日,全国の公立小,中,高等学校における平成10年度卒業式及び平成11年度入学式での国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況に関する調査結果を記載した「学校における国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発し,平成10年春の調査に比べて全体として実施率が上昇しているが,一部の都 道府県及び政令指定都市において依然として実施率が低い状況にあるとして,国旗及び国歌に関する指導が一層適切に行われるよう求めた。 東京都教育庁指導部長は,この通知を受け,区市町村教育委員会教育長,都立学校長等に対し,平成11年10月1日,「学校における国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発し,「児童及び生徒が,我が国の国旗及び国歌の意義を理解し,諸外国の国旗及び国歌も含め,それらを尊重する態度を育てることは重要なこと」であるとして,平成元年改訂の学習指導要領に基づき,国旗及び国歌に関する指導が一層適切に行われるよう求めた。 (甲62の1及び2)(4) 東京都教育庁は,平成11年6月23日,都立学校の卒業式・入学式における国旗掲揚,国歌斉唱に伴う様々な問題への対応や学校長に対する支援等を図るため,卒業式・入 めた。 (甲62の1及び2)(4) 東京都教育庁は,平成11年6月23日,都立学校の卒業式・入学式における国旗掲揚,国歌斉唱に伴う様々な問題への対応や学校長に対する支援等を図るため,卒業式・入学式対策本部を設置した。都教委のK教育長(当時)は,都立盲・ろう・養護学校長に対し,同年10月19日,「入学式及び卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通達)」を発し,学習指導要領及び下記の別紙「都立盲・ろう・養護学校における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」に基づいて入学式や卒業式を実施するよう求め,次の四点を具体的に示し,区市町村教育委員会指導事務主管課長にも写しが送付された。 「1 教職員に対しては,入学式及び卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導の意義について,学習指導要領に基づき説明し,理解を求めるよう努めるとともに,併せて,「国旗及び国歌に関する法律」制定の趣旨を説明すること。 2 児童・生徒に対しては,国際社会に生きる日本人としての自覚及び我が国のみならず他国の国旗及び国歌に対する正しい認識とそれらを尊重する態度が重要であることを,十分説明すること。 3 保護者に対しては,学校教育において,児童・生徒に国旗及び国歌に 対する正しい認識や,それらを尊重する態度の育成が求められていること,並びに入学式及び卒業式において,学校は国旗掲揚及び国歌斉唱の指導を学習指導要領に基づき行う必要があることなどを,時機をとらえて説明すること。 4 校長が国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,職務命令を発した場合において,教職員が式典の準備業務を拒否した場合,又は式典に参加せず式典中の児童・生徒指導を行わない場合は,服務上の責任を問われることがあることを,教職員に周知すること。」「都立盲・ろう・養護学校における国旗掲揚 式典の準備業務を拒否した場合,又は式典に参加せず式典中の児童・生徒指導を行わない場合は,服務上の責任を問われることがあることを,教職員に周知すること。」「都立盲・ろう・養護学校における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針 1 国旗の掲揚について入学式や卒業式などにおける国旗の取扱いは,次のとおりとする。なお,都旗を併せて掲揚することが望ましい。 (1) 国旗の掲揚場所等ア式典会場の正面に掲げる。 イ屋外における掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国旗の掲揚状況が児童・生徒,保護者,その他来校者に十分に認知できる場所に掲揚する。 (2) 国旗を掲揚する時間式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻までとする。 2 国歌の斉唱について入学式や卒業式などにおける国歌の取扱いは,次のとおりとする。 (1) 式次第に「国歌斉唱」を記載する。 (2) 式典の司会者が「国歌斉唱」と発声する。」東京都教育庁指導部心身障害教育指導課は,都立盲・ろう・養護学校の教職員に対し,平成12年1月,上記通達や実施指針等を記載した「入学式・卒業式の適正な実施について」というリーフレットを配布し,国旗掲揚や国 歌斉唱について,学習指導要領の趣旨を踏まえた適切な指導の在り方を工夫し,計画的に取り組むよう求めた。(乙イ26,28の2,30,45)(5) 文部科学省は,各都道府県教育委員会教育長に対し,平成13年5月25日,全国の公立小,中,高等学校における平成12年度卒業式及び平成13年度入学式での国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状況に関する調査結果を記載した「学校における国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発し,国旗掲揚と国歌斉唱に関しては,平成12年春の調査に比べて全体として実施率が上昇しているが,全校実施が達成されていない 結果を記載した「学校における国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発し,国旗掲揚と国歌斉唱に関しては,平成12年春の調査に比べて全体として実施率が上昇しているが,全校実施が達成されていない都道府県教育委員会では,域内のすべての学校で実施されるよう指導を徹底するよう求めた。 東京都教育庁指導部長は,この通知を受け,区市町村教育委員会教育長,都立学校長等に対し,平成13年6月12日,「学校における国旗及び国歌に関する指導について(通知)」を発し,平成12年度卒業式及び平成13年度入学式においては,一定の改善が図られたが,今後とも,各学校において,国旗及び国歌に関する指導を一層徹底するよう求めた。(甲63の1及び2,乙イ31)(6) 東京都教育庁L指導部長は,都立学校長及び区市町村教育委員会教育長に対し,平成15年3月6日,文部科学省の通知に基づき,「公立小・中学校及び都立学校における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する調査について(依頼)」を発し,平成14年度卒業式及び平成15年度入学式における都立学校の国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況について報告を求めた。 その結果,国旗掲揚,国歌斉唱の実施率は100パーセントであるが,①都立盲・ろう・養護学校で国旗を舞台壇上正面に掲揚していない学校があったこと,②式次第に国歌斉唱と記載しなかった学校があったこと,③国歌斉唱時に起立しない教員がいたり,司会者が起立を発声しない学校があったこと,④司会者が開式前に内心の自由について説明した学校があったことなどが明らかとなった。(乙イ32の1及び2,69,70,92,証人M) (7)ア都教委は,平成15年6月25日,都立学校等における卒業式及び入学式が,学習指導要領に基づき,より適正に実施されるために,教育庁理事を本部長とする び2,69,70,92,証人M) (7)ア都教委は,平成15年6月25日,都立学校等における卒業式及び入学式が,学習指導要領に基づき,より適正に実施されるために,教育庁理事を本部長とする「都立学校等卒業式・入学式対策本部」(以下「本件対策本部」という。)を設置した。(乙イ33)イ本件対策本部は,平成15年10月23日,それまでの検討結果を取りまとめ,都教委の第17回定例会において,新たに発すべき通達案を報告し,E教育長は,都立高等学校長及び都立盲・ろう・養護学校長に対し,本件都教委通達を発した。(甲17,74,乙イ34)ウ都教委は,同日,都立学校長を対象に「教育課程の適正実施にかかわる説明会」を開催した。 E教育長は,同説明会において,①都教委は,教育目標及び基本方針の中で,21世紀を担う児童・生徒に,世界の中の日本人としてのアイデンティティをはぐくむ教育が重要であることを示している,②卒業式等で着席のままの教員や国歌斉唱を妨げるような運営をする教員がおり,実施態様には様々な課題がある,③(卒業式等の適正な実施は)儀式的行事の問題にとどまらず,学校経営の課題であるなどとあいさつした。 東京都教育長N人事部長は,同説明会において,①職務命令を出すに当たっては,いつ,どこで,誰に向かって発したか記録すること,②国旗は舞台壇上正面に掲揚すること,③屋外の国旗掲揚の時間帯は,始業時から終業時まで,すなわち,全日制であれば8時15分から17時ころまでとすること,④教職員には国旗に向かって起立し国歌を斉唱させること,⑤教職員の座席を指定すること,⑥教職員が起立しない場合,現認確認をし,都教委に報告をすること,都教委は報告を受けて,服務上の責任を問う,教育庁を挙げて体制を作る,⑦(国歌斉唱時に)座っている人にその場で職務命 を指定すること,⑥教職員が起立しない場合,現認確認をし,都教委に報告をすること,都教委は報告を受けて,服務上の責任を問う,教育庁を挙げて体制を作る,⑦(国歌斉唱時に)座っている人にその場で職務命令を出すのは難しいから,必ず事前に職務命令を出すこと,⑧教職員の服装は礼服がよい,礼服でないとしてもスーツにネクタイがふさわし いと都教委は考えている,体育着上下とかポロシャツ,セーター,Gパンはふさわしいとは考えていない,問題のある場合には教職員の服装を現認し,報告すること,⑨職務命令についてはマニュアルを作成するので,それに従うこと等を説明した。 また,L指導部長は,本件都教委通達を読み上げた上,これは,E教育長が各校長に対して発出した職務命令であると説明した。(争いのない事実,乙イ37,68,69)(8) 東京都教育庁は,平成15年10月23日,「適格性に課題のある教育管理職の取扱いに関する要綱」を決定し,教育管理職として必要な資質,能力の改善が見込めない場合には,管理職から一般教員への降任の勧告等の措置を講ずることを定めた。(乙イ38)(9) 都教委は,区市町村教育委員会教育長に対し,平成15年10月23日,本件都教委通達の写しを参考として送付し,立川市教委は,立川市立の各学校に対し,同月24日,同写しを通知した。 立川市教委は,各校長に対し,同年11月7日の定例校長会において,通知を参考にして卒業式,入学式を適正に実施し,それに際しては校長の毅然たる態度が大切であると指導した。(甲77,乙イ46,47,74)(10) 2校を除く都立学校(高等学校,盲・ろう・養護学校)の校長は,平成15年度卒業式及び平成16年度入学式において,教職員に対し,国歌斉唱の際,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するよう職務命令書により職務命 除く都立学校(高等学校,盲・ろう・養護学校)の校長は,平成15年度卒業式及び平成16年度入学式において,教職員に対し,国歌斉唱の際,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するよう職務命令書により職務命令を発し,他の2校の校長も,教職員に対し,口頭により同様の職務命令を発した。 都教委は,平成16年3月30日,同月31日及び同年5月25日,平成15年度卒業式において,式典会場に入場しなかった教職員,国歌斉唱時に起立しなかった教職員及び国歌斉唱時のピアノ伴奏を拒否した教職員合計171名について,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に戒告処分とした。 また,都教委は,平成16年4月6日,平成15年度卒業式において,国歌斉唱時に起立しなかった公立小・中学校,ろう・養護学校の教職員19名について,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に戒告処分,二度目の懲戒処分となる養護学校教員1名について,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に減給1月の懲戒処分とした。 また,都教委は,平成16年5月25日,平成16年度入学式において,国歌斉唱時に起立しなかった都立学校の教職員33名,公立小・中学校の教職員4名に対し,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に戒告処分をし,二度目の懲戒処分となる都立学校等の教職員3名について,職務命令違反及び信用失墜行為を理由に減給1月の懲戒処分とした。(争いのない事実)(11) 都教委は,平成16年8月2日及び同月9日,平成15年度卒業式及び平成16年度入学式において,国歌斉唱時に起立しなかったことにより懲戒処分を受けた教職員に対し,服務事故再発防止研修を実施した。また,都教委は,同年8月30日,入学式,卒業式等の式典において,国歌斉唱時の不起立等により懲戒処分が二度目となり,減給処分を受けた教職員に対し,専門研修を実施した。( 事故再発防止研修を実施した。また,都教委は,同年8月30日,入学式,卒業式等の式典において,国歌斉唱時の不起立等により懲戒処分が二度目となり,減給処分を受けた教職員に対し,専門研修を実施した。(争いのない事実)(12) 立川市教委は,平成16年度入学式において,過半数の小学校に当たる12校で演台を舞台下に設置するなど,前記(9)の通知に沿わない運営がされていたことから,入学式,卒業式等の適正実施を図るため,本件都教委通達を参考にして通達を発することとし,立川市教委教育長は,立川市立小・中学校長に対し,平成17年1月7日,本件立川市教委通達を発した。(甲6,77,乙イ74)(13) 立川市教委教育部長は,立川市立小・中学校長に対し,平成17年3月16日,「卒業式,入学式の適正な実施と事故発生時の報告について(通知)」により,卒業式,入学式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を適正に実施するよう本件立川市教委通達により通達したところであるが,教員の服務上の問 題が生じないように,明確な職務命令を出し,問題が生じた場合には,当該教職員に対して事実の確認をし,職務命令発令の事実を確認して職務命令違反を指摘し,立川市教委に速やかな事故報告をするよう求めた。(甲7) 2 争点(1)(本件各職務命令及び本件各処分は憲法19条に反するか。)について(1) 証拠(甲94,95,230,258,原告A本人,原告B本人)によれば,原告らは,国歌斉唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することを拒否する理由として,①日の丸・君が代は,皇国思想や軍国主義思想のシンボルとして用いられてきたから,国民主権と平和主義に基づく現行憲法下において,学校行事における君が代斉唱時に起立することはできない,②現在,学校において,生徒に対し,君が代について判断できる のシンボルとして用いられてきたから,国民主権と平和主義に基づく現行憲法下において,学校行事における君が代斉唱時に起立することはできない,②現在,学校において,生徒に対し,君が代について判断できる知識も提供せずにただ斉唱時に起立を求めているところ,このような実施方法は,唯一絶対の価値観を押しつける教育の本質に反する行為である,との考えなどを有していることが認められる。そして,原告らは,本件各職務命令に基づき,卒業式等の国歌斉唱時に日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱するという行為は,日の丸・君が代に尊重の意を表するものであって,上記のような原告らの考えとは根本的に相容れないものであるから,これらの行為を行うことができないという信念を有しているという。 原告らのこのような考えは,日の丸や君が代が過去に我が国において果たした役割についての原告らの歴史観ないし世界観又は教員としての職業経験から生じた信条及びこれに由来する社会生活上の信念であるといえるものであり,このような考えを持つこと自体は,思想及び良心の自由として保障されることは明らかである。 (2) 本件各職務命令は,原告らに対し,周年行事又は卒業式において,国歌斉唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する行為を命じるものである。そこで,前記(1)のような考えを有する原告らに対し,このような行為を命じる ことが原告らの思想や良心の自由を侵害するといえるかどうか,思想や良心の自由を制約しあるいは思想や良心の自由と抵触するとしても,それが許されるかどうかが問題となる。 ア一般に,自己の思想や良心に反するということを理由として,およそ外部行為を拒否する自由が保障されるとした場合には,社会が成り立ちがたいことは明らかであり,これを承認することはできない。 もとより,人の思想や良心 思想や良心に反するということを理由として,およそ外部行為を拒否する自由が保障されるとした場合には,社会が成り立ちがたいことは明らかであり,これを承認することはできない。 もとより,人の思想や良心は外部行為と密接な関係を有するものであり,思想や良心の核心部分を直接否定するような外部的行為を強制することは,その思想や良心の核心部分を直接否定することにほかならないから,憲法19条が保障する思想及び良心の自由の侵害が問題になるし,そうでない場合でも,思想や良心に対する事実上の影響を最小限にとどめるような配慮を欠き,必要性や合理性がないのに,思想や良心と抵触するような行為を強制するときは,憲法19条違反の問題が生じる余地があるといえるが,これらに該当しない場合には,外部行為が強制されたとしても,憲法19条違反とはならないと解される。 イこれを本件についてみると,原告らが,卒業式等の国歌斉唱時に日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱すべきでないとして,これを拒否することは,原告らにとっては,原告らが有する前記の歴史観ないし世界観又は信条に基づく行為であろうとはいえるが,本件各職務命令は,卒業式等において国歌斉唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することを命じるものであって,原告らに対し,例えば,日の丸や君が代は国民主権,平等主義に反し天皇という特定個人又は国家神道の象徴を賛美するものであるという考えは誤りである旨の発言を強制するなど,直接的に原告らの歴史観ないし世界観又は信条を否定する行為を命じたり,思想や良心の内容を確かめるための行為を命じるものではなく,また,卒業式等の儀式の場で行われる式典の進行上行われる出席者全員による起立及び斉唱であること から,前記のような歴史観ないし世界観又は信条と切り離して,不起立,不斉唱という行為に のではなく,また,卒業式等の儀式の場で行われる式典の進行上行われる出席者全員による起立及び斉唱であること から,前記のような歴史観ないし世界観又は信条と切り離して,不起立,不斉唱という行為には及ばないという選択をすることも可能であると考えられ,一般的には,卒業式等の国歌斉唱時に不起立行為に出ることが,原告らの歴史観ないし世界観又は信条と不可分に結びつくものということはできない。 ウ加えて,本件各職務命令が発出されるより前から,都立学校の卒業式等において,国旗掲揚及び国歌斉唱は広く実施され始めており,全国の公立学校の卒業式等においても広く実施されていた(前記1(5)(6))のであるから,本件各職務命令が発出された当時においても,客観的にみて,卒業式等の国歌斉唱の際に日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱するという行為は,卒業式等の出席者にとって通常想定され,かつ期待されるものということができ,一般的には,これを行う教職員等が特定の思想を有するということを外部に表明するような行為であると評価することは困難である。校長の職務命令に従ってこのような行為が行われる場合には,これを特定の思想を有することの表明であると評価することは一層困難であるといわざるを得ない。 本件各職務命令は,上記のように,公立学校における卒業式等の儀式的行事において全国的に広く行われていた国歌斉唱に際し,出席者である教職員等に国旗に向かって起立し,国歌の斉唱を命ずるものであって,原告らに対し,特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもない。 エ以上のとおり,本件各職務命令は,原告らの思想及び良心の核心部分を直接否定するものとは認められないが,本件各職務命令が命じる国旗に 特定の思想の有無について告白することを強要するものでもない。 エ以上のとおり,本件各職務命令は,原告らの思想及び良心の核心部分を直接否定するものとは認められないが,本件各職務命令が命じる国旗に向かって起立し国歌を斉唱することは,原告らの前記のような歴史観ないし世界観又は信条と緊張関係にあることは確かであり,一般的には,本件各 職務命令が原告らの歴史観ないし世界観又は信条自体を否定するものといえないにしても,原告ら自身は,本件各職務命令が,原告らの歴史観ないし世界観又は信条自体を否定し,思想及び良心の核心部分を否定するものであると受け止め,国旗に向かって起立し国歌を斉唱することは,原告ら自身の思想及び良心に反するとして,不起立,不斉唱の行動をとったとも考えられる。そうだとすると,本件各職務命令は,原告らの思想及び良心の自由との抵触が生じる余地がある。 しかしながら,憲法15条2項は,「すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」と定めており,地方公務員も地方公共団体の住民全体の奉仕者としての地位を有するものである。このような地方公務員の地位の特殊性や職務の公共性にかんがみ,地公法30条は,地方公務員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂行に当たっては全力を挙げてこれに専念しなければならない旨規定し,同法32条は,地方公務員がその職務を遂行するに当たって,法令等に従い,かつ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない旨規定しているところ,原告らは,いずれも都立学校又は東京都内の市立学校の教員であって,法令等や上司の職務上の命令に従わなければならない立場にあり,校長から学校行事である卒業式等に関して,それぞれ本件各職務命令を受けたのである(なお,原告らは,校長には,本件各職務命令を 教員であって,法令等や上司の職務上の命令に従わなければならない立場にあり,校長から学校行事である卒業式等に関して,それぞれ本件各職務命令を受けたのである(なお,原告らは,校長には,本件各職務命令を発する権限はないと主張するが,この主張が採用できないのは後記4のとおりである。)。そして,国旗及び国歌に関する法律は,日の丸を国旗とし,君が代を国歌とする旨明確に定め,また,旧学校教育法38条,73条に基づき定められた中学校学習指導要領及び盲・ろう・養護学校の学習指導要領は「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定められ,またこれに準ずるとされているところ,卒業式等に参列した教職員等が, 国歌斉唱時に国旗に向かって起立して,国歌を斉唱するということは,これらの規定の趣旨にかなうものである。他方,本件各職務命令は卒業式等の儀式を行うに際して発出されたものであり,このような儀式においては,出席者に対して一律の行為を求めること自体には合理性があるといえるし,前記のとおり,卒業式等における国旗掲揚や国歌斉唱は,全国的には従前から広く実施されていたのである。このような諸事情も総合すると,本件各職務命令には,その目的及び内容において合理性,必要性が認められるというべきである。 以上のとおり,本件各職務命令は,その内容において合理性,必要性が認められるのであるから,原告らの前記のような歴史観ないし世界観又は信条と緊張関係にあるとしても,あるいは,原告ら自身としては思想及び良心の核心部分を直接否定するものであると受け止めたのだとしても,そのことによってただちに,本件各職務命令が原告らの思想及び良心の自由を制約するものである,あるいはその制約は許されないものであるということ 心部分を直接否定するものであると受け止めたのだとしても,そのことによってただちに,本件各職務命令が原告らの思想及び良心の自由を制約するものである,あるいはその制約は許されないものであるということはできない。 (3) 前提事実(1)アイ,(5),前記1(10)(11)のとおり,都教委は,平成15年度卒業式及び平成16年度入学式において,校長から国歌斉唱の際,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱するよう職務命令を受けていたのに,これに従わなかった教職員に戒告処分等の懲戒処分をし,特に二度目の懲戒処分となる場合には,より重い減給1月の懲戒処分をしているところ,原告らに対しては,懲戒処分の回数を重ねるごとに重い懲戒処分をし,本件各処分はそれぞれ停職3月と停職1月となっているし,都教委は,このように職務命令違反を理由に懲戒処分を受けた教職員に対し,再発防止研修をしている。 前記(2)に説示したとおり,本件各職務命令は,原告らの思想及び良心の自由を制約するものであるとはいえず,また,その制約は許されないものであるともいえないから,本件各職務命令と同様の職務命令に違反するたびに従 前よりも重い処分がされても,それによって思想及び良心の自由が制約されることになったり,制約が許されなくなるものではなく,累積加重処分がされたことをもって,本件各処分が違憲となるとはいえない。また,再発防止研修についても,これが原告らの思想及び良心の放棄や転向を迫り,日の丸,君が代に対する忠誠を強要するものであったと認めるに足りる証拠はないし,そもそも事後的に再発防止研修がされることにより,本件各処分等の懲戒処分が違憲となる関係にあるとは解されないから,この点から,本件各処分が違憲となるともいえない。 もっとも,本件各職務命令と同様の職務命令に違反するたびに従前よりも ることにより,本件各処分等の懲戒処分が違憲となる関係にあるとは解されないから,この点から,本件各処分が違憲となるともいえない。 もっとも,本件各職務命令と同様の職務命令に違反するたびに従前よりも重い処分がされる場合に,当該処分が,非違行為の内容等からして重すぎると評価される場合はあり得るのであり,この点は,後記5で争点(4)について検討する。 (4) 以上によれば,本件各職務命令及び処分は,原告らの思想及び良心の自由を侵すものとして憲法19条に反するとはいえないと解するのが相当である。 3 争点(2)(本件各職務命令及び本件各処分は旧教育基本法10条に反し,教師の教育の自由を侵害するか。)について(1) 本件各職務命令は,旧学校教育法40条,76条により準用される同法28条3項の所属職員に対する監督権限に基づいて発せられたものである。他方,本件都教委通達は,地教行法23条5号の教育委員会の教育課程に関する管理,執行権限に基づいて発せられたものであり,本件対B職務命令とは異なる法的根拠を有する別個の行為であって,この通達の違法性は,当然に本件対B職務命令に承継されるものではない。 しかし,前記1(7)(10)で認定したとおり,本件都教委通達は,都立学校の各校長に対する職務命令として発せられており,各校長は,一校の例外もなく,教職員等に対して,国歌斉唱時に国旗に向かって起立し,国歌を斉唱す ることを命ずる職務命令を発していることからすると,形式的には,職務命令を発すべき必要性の判断は,各校長が有していたとしても,事実上,本件都教委通達により,校長にその裁量を働かせる余地はなく,本件対B職務命令を発することを余儀なくされていたものと評価することもできる。 このように,都教委は,本件都教委通達を定めた上,都立学校における卒業 通達により,校長にその裁量を働かせる余地はなく,本件対B職務命令を発することを余儀なくされていたものと評価することもできる。 このように,都教委は,本件都教委通達を定めた上,都立学校における卒業式等を本件都教委通達のとおり実施させるため,各校長をして,本件都教委通達を発出させたといえるから,本件対B職務命令の発出についても,実質的にみると,都教委が行ったものと評価することもできる。 そうすると,本件対B職務命令の発出は,本件都教委通達と一体のものということもできるから,本件都教委通達の発出が旧教育基本法10条1項にいう「不当な支配」に該当するか否かは,本件対B職務命令の違法性に影響する余地があるというべきである。 なお,本件対A職務命令については,前提事実(4)のとおり,本件立川市教委通達は,本件都教委通達と同様の内容であるものの,証拠(証人G)によれば,立川市教委から校長に対する職務命令として発せられたものではないと認められ,原告らの主張によると,立川市内で職務命令が発出されたのはC中のみであるから,各校長において,職務命令を発するかどうかを判断する余地がなかったと認めるのは困難である。この場合,本件立川市教委通達の違法性が,本件対A職務命令の違法性に影響する余地はないとも考えられるが,以下,本件都教委通達の違法性について検討するので,併せてこれと同内容の本件立川市教委通達の違法性についても検討することとする。 (2) そこで,以下,本件都教委通達及び本件立川市教委通達の発出が「不当な支配」に該当するかどうかを検討する。 ア旧教育基本法は,その前文において,「われらは,さきに,日本国憲法を確定し,民主的で文化的な国家を建設して,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は,根本において教育の 本法は,その前文において,「われらは,さきに,日本国憲法を確定し,民主的で文化的な国家を建設して,世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は,根本において教育の 力にまつべきものである。われらは,個人の尊厳を重んじ,真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに,普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。」と規定している。これは,戦前のわが国の教育が,国家による強い支配の下で形式的,画一的に流れ,時に軍国主義的又は極端な国家主義的傾向を帯びる面があったことに対する反省によるものであり,この理念は,これを具体化した旧教育基本法の各規定を解釈するに当たっても念頭に置くべきものであるといえる(最高裁昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁)。 イ旧教育基本法10条は,「教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」(1項),「教育行政は,この自覚のもとに,教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」(2項)と規定しているところ,前記アのとおり,旧教育基本法が,戦前における教育に対する過度の国家的介入,統制に対する反省から生まれたものであることに照らすと,同条は,教育に対する権力的介入,特に行政権力による介入を警戒し,これに対して抑制的態度を表明したものと解される。 また,同条1項は,教育は,国民から信託されたものであるから,国民全体に対して直接責任を負うように行われるべく,その間において不当な支配によってゆがめられることがあってはならないとして,教育が専ら教育本来の目的に従って行われるべきことを示したものと考えられるから,同条項が排斥しているのは,教育が国民の信託 その間において不当な支配によってゆがめられることがあってはならないとして,教育が専ら教育本来の目的に従って行われるべきことを示したものと考えられるから,同条項が排斥しているのは,教育が国民の信託にこたえて自主的に行われることをゆがめるような「不当な支配」であり,そのような支配と認められる限り,その主体のいかんは問うところでないので,ここには,教育行政機関や地方公共団体も含まれると解するのが相当である。 しかし他方で,憲法上,国は,適切な教育政策を樹立,実施する権能を 有し,国会は,国の立法機関として,教育の内容及び方法についても,法律により直接又は行政機関に授権して,必要かつ合理的な規制を施す権限を有するだけでなく,子どもの利益のため又は子どもの成長に対する社会公共の利益のために規制を施すことが要請される場合もあり得るのであり,旧教育基本法がこのような権限の行使を限定したものと解すべき根拠はない。むしろ旧教育基本法10条は,国の教育統制権能を前提としつつ,教育行政の目標を教育の目的の遂行に必要な諸条件の整備確立に置き,その整備確立のための措置を講ずるに当たっては,教育の自主性尊重の見地から,これに対する「不当な支配」となることのないようにすべき旨の限定を付したところにその意味があるといえる。 したがって,教育に対する行政権力の不当,不要の介入は排除されるべきであるとしても,許容される目的のために必要かつ合理的と認められる介入は,たとえ教育の内容及び方法に関するものであっても,必ずしも同条の禁止するところではないと解するのが相当である(前掲最高裁昭和51年5月21日大法定判決)。この点は,国にだけでなく,地方公共団体においても異なるところはない。 ウそして,国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普通教育の (前掲最高裁昭和51年5月21日大法定判決)。この点は,国にだけでなく,地方公共団体においても異なるところはない。 ウそして,国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普通教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,子どもの教育は,教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ,子どもの個性に応じて弾力的に行わなければならないから,教師の自由な創意と工夫の余地が要請されることを考慮した上で,教育に関する地方自治の原則を考慮し,教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な範囲にとどめられるべきものであるが,地方公共団体が設置する教育委員会が,教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,公立学校を所管する行政機関として,その管理権に基づき,学校の教育課程の編成や学習指導等 に関して基準を設定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,必要性,合理性が認められる場合には,適正でかつ許容される目的のために必要かつ合理的と認められる範囲内において,具体的な命令を発することもできると解される。 この点に関し,原告らは,教育委員会による教育の内容及び方法に対する介入についても大綱的基準にとどまるべきであると主張する。しかしながら,国の教育行政機関が法律の授権に基づいて義務教育に属する普通教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,教育に関する地方自治の原則を考慮し,教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準にとどめられるべきものであるが,地方公共団体が設置する教育委員会が教育の内容や方法に関して行う介入については,教育に関する地方自治の原則に反する 目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準にとどめられるべきものであるが,地方公共団体が設置する教育委員会が教育の内容や方法に関して行う介入については,教育に関する地方自治の原則に反することはあり得ないし,教育委員会は地教行法23条5号により学校の組織編成,教育課程,学習指導等に関して管理,執行するとされ,文部科学大臣が同法48条2項2号により学校の組織編成や教育課程等について指導,助言又は援助をすることができるとされているのとは異なることに照らすと,教育委員会による教育の内容や方法に関する介入を大綱的基準の設定にとどめるべき理由はないというべきである。 エそこで次に,本件都教委通達及び本件立川市教委通達について,これを発すべき必要性,合理性があったと認められるか否かを検討する。 上記各通達を発出するに至った経過は,前記1(1)ないし(7),(9)(12)のとおりであって,概要は次のとおりである。 平成元年に小学校,中学校及び高等学校の各学習指導要領が改訂され,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定められ,東京都教育庁は,区市町村立教育委員会や都立学校長に対し,卒業式等がこの学 習指導要領に即して行われるよう求めていたが,徹底せず,平成11年,都立盲・ろう・養護学校長に対し,実施指針を示し,区市町村教育委員会にもその写しを交付した。この実施指針では,式典会場の正面に国旗を掲揚することや,式次第に司会者が「国歌斉唱」と発声することなどが定められた。東京都教育庁は,その後も学習指導要領に基づく卒業式等の実施をするようにさらに指導に取り組んだ結果,国旗掲揚,国歌斉唱の実施率は100パーセントとなっていたものの,国旗が舞台壇上正面に掲揚されて 。東京都教育庁は,その後も学習指導要領に基づく卒業式等の実施をするようにさらに指導に取り組んだ結果,国旗掲揚,国歌斉唱の実施率は100パーセントとなっていたものの,国旗が舞台壇上正面に掲揚されていなかったり,「国歌斉唱」を式次第に明記しなかったり,国歌斉唱時に教員が起立せず,司会者が起立を発声しないという学校もあったことがみられた。本件都教委通達は,このような状況下において,これらの課題を解決するためには,各学校で,国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について,より一層の改善,充実を図る必要があるとして発出された。また,本件立川市教委通達は,立川市教委が,各校長に対し,本件都教委通達の写しを通知し,これを参考にして卒業式,入学式を適正に実施するよう指導したが,これに沿わない運営がされていたことから発出された。 本件都教委通達及び本件立川市教委通達が発出された経緯は以上のとおりであって,上記のような国旗掲揚,国歌斉唱の実施状況に照らせば,国旗・国歌の指導について,卒業式等で指導するものとしていて大綱的基準を定めている学習指導要領に基づいて,卒業式等を実施するよう改善,充実を図るという本件都教委通達及び本件立川市教委通達の目的には合理性があるといえるし,これを実現するため,卒業式等における国旗掲揚,国歌斉唱の実施方法等を定める通達を特に発すべき必要性もあったといえる。 オそして,本件都教委通達及び本件市教委通達に基づき発出された本件各職務命令が思想及び良心の自由を侵害するものとはいえないことは,前記2のとおりである。また,本件都教委通達及び本件立川市教委通達は,卒 業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針のみを定めるものであって,教職員が生徒に対して日の丸,君が代に関する歴史的な事実等を教えることを禁止するものではないし,教 市教委通達は,卒 業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針のみを定めるものであって,教職員が生徒に対して日の丸,君が代に関する歴史的な事実等を教えることを禁止するものではないし,教職員に対し,国旗,国歌について,一方的に一定の理論を生徒に教え込むことを強制するものとはいえない。教師の教育の自由は後記(3)のとおりであり,本件都教委通達及び本件立川市教委通達が教師の教育の自由を侵害するとはいえない。したがって,これらの点においても,本件都教委通達及び本件市教委通達が合理性を欠くとはいえない。 カなお,本件立川市教委通達は,原告Aが平成16年4月1日に異動した後である平成17年1月7日に発出されている。しかし,本件立川市教委通達が発出されたのは,前記1(12)のとおり,平成16年4月に行われた入学式で,交付されていた本件都教委通達に沿わない運営がされていたため,入学式,卒業式の適正実施を図るためであったのであって,原告Aが異動してきて直ちに発出されたのではないことからすると,殊更に原告Aを処分するために発出されたとは認められない。 キ以上によれば,本件都教委通達及び本件市教委通達は,旧教育基本法10条1項にいう「不当な支配」に該当するとは認められない。 (3) 続いて,本件各職務命令が,教師の教育の自由を侵害するかを検討する。 ア普通教育の場面において,教師が公権力によって特定の意見のみを児童,生徒に教授することを強制されないという意味や,児童,生徒の教育が教師と児童,生徒との間の直接の人格的接触を通じ,その個性に応じて行われなければならないという本質的要請に照らし,教授の具体的内容及び方法について,ある程度自由な裁量が認められるという意味では,教師について,一定の範囲における教授の自由が保障されるべきであると 行われなければならないという本質的要請に照らし,教授の具体的内容及び方法について,ある程度自由な裁量が認められるという意味では,教師について,一定の範囲における教授の自由が保障されるべきであるといえるが,大学の教育の場合には,学生が一応教授内容を批判する能力を備えていると考えられるのに対し,普通教育においては,児童,生徒にこのような能 力はなく,教師が児童,生徒に対して強い影響力,支配力を有していることや,普通教育では,児童,生徒の側に学校や教師を選択する余地が乏しく,教育の機会均等を図る上からも全国的に一定の水準を確保すべき要請があることなどからすると,普通教育において,教師に完全な教授の自由を認めることはできないと解するのが相当である(前掲最高裁昭和51年5月21日大法廷判決)。 そして,日の丸や君が代についての歴史観ないし世界観については,様々な意見があることは公知の事実であるが,本件各職務命令によっても,原告らにおいて,生徒に対し,日の丸や君が代について様々な意見があることを教えることを禁じられるものではなく,公立学校の卒業式等の儀式的行事において,教職員等に対し,国歌斉唱時に日の丸に向かって起立し,君が代を斉唱することを求めることが,生徒に対して特定の思想のみを教授することを強制する性質を有するものであるとはいえないし,教職員等や生徒,保護者や来賓等多数の人が参列する集団的行事である卒業式等において,校長がその権限に基づき,国歌斉唱を含む式次第やその進行を予め一律に定め,これを実施しようとすることは,儀式としての性質上その必要性はあるといえるから,本件各職務命令が,原告らに認められる教授の自由を侵害するものであるとは認められない。 イなお,原告Bは,都立盲・ろう・養護学校における入学式等では,従前フロア形式で 必要性はあるといえるから,本件各職務命令が,原告らに認められる教授の自由を侵害するものであるとは認められない。 イなお,原告Bは,都立盲・ろう・養護学校における入学式等では,従前フロア形式で子どもを中心とした自由な形式が比較的広く採用されていたが,本件都教委通達以後は,画一的に壇上形式で行われるようになり,養護学校等の個別事情を全く考慮せず,各校の裁量を許さなくなったと主張する。 しかし,原告Bは,H校長からの「式典会場において,会場の指定された席で国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること」という職務命令に違反したために,本件B処分を受けたのであって,周年行事がフロア形式又 は壇上形式のいずれにより行われたかと本件B処分は何ら関係がないし,前記アに説示したとおり,儀式としての性質上,式次第やその進行を予め一律に定め,これを実施しようとすることは,その必要性があり,会場設営等について定めることも必要性があるといえるから,教師の教授の自由を侵害するとはいえず,不当な支配に当たるともいえない。 4 争点(3)(本件各処分は地公法の規定等に反するか。)について(1) 地公法32条は,地方公務員は,上司の職務上の命令に従わなければならないと規定しているところ,旧学校教育法28条3項により,校長は,校務をつかさどり所属職員を監督する権限を有しており,校務を決定し,これを各教職員に分掌させ,必要な指導を行うことができると解されるから,校長は,当該学校に属する教職員の上司として,職務上の命令を発することができる。 そして,校長は,教職員に対し,卒業式等の儀式的行事の実施に当たっても,地公法32条の上司として,職務命令を発することができるところ,本件各職務命令は,前記3(3)に説示したとおり,教師の教育の自由を侵害するとはいえないか し,卒業式等の儀式的行事の実施に当たっても,地公法32条の上司として,職務命令を発することができるところ,本件各職務命令は,前記3(3)に説示したとおり,教師の教育の自由を侵害するとはいえないから,この点の考慮により,校長に本件各職務命令を発する権限がないと解することはできない。 したがって,原告らにおいて,本件各職務命令に従わなかったことは,地公法32条違反に該当する行為である。 (2) 原告らは,本件各職務命令に違反し,卒業式等における国歌斉唱時に起立しなかったところ,本件全証拠によるも,原告らの不起立行為それ自体によって,式典の進行が具体的に妨害されたとは認められない。 しかし,原告らによる不起立行為は,児童・生徒らに対して指導すべき事項である国旗,国歌の尊重に反するから,教育公務員として負う職務上の義務に違反し,また,上司の職務上の命令に公然と違反したものとして,その職の信用を傷つける行為であると評価することができ,地公法33条違反に も該当する。 (3) また,本件においては,原告らにおいて,事情聴取の機会があったのに,代理人弁護士の同席を求めた結果,事情聴取がされなかったことは当事者間に争いがなく,このような事実経過に照らせば,原告らに告知と聴聞の機会が与えられていなかったと評価することはできず,告知と聴聞の機会がなかったとして,憲法31条に定める法定手続の保障がされていなかったとはいえない。 また,本件各処分について,必要な手続を踏まずにされたことを認めるに足りる証拠はなく,緊急性もないのに拙速にされたということもできない。 (4) よって,本件各処分が地公法の規定等に反するとはいえない。 5 争点(4)(本件各処分は処分権の濫用か。)について(1) 原告らは,本件各処分として,原告Aについては停職3月, きない。 (4) よって,本件各処分が地公法の規定等に反するとはいえない。 5 争点(4)(本件各処分は処分権の濫用か。)について(1) 原告らは,本件各処分として,原告Aについては停職3月,原告Bについては停職1月の処分を受けている。これら本件各処分が,重きに失し,処分権を濫用したものとして,違法であるかを検討する。 裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁昭和52年12月20日第3小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。 (2) 争いのない事実に証拠(各項に記載したもの)を総合すると,以下の事実が認められる。 ア(ア) 都教委は,入学式,卒業式などの国歌斉唱時に校長の職務命令に違反して不起立等をした教職員に対する懲戒処分につき,以下の点を考慮し て,懲戒処分である戒告を相当であるとしたと説明している。(乙イ96,97)① 当該行為は,児童・生徒にとって学校生活に有意義な変化や折り目を付けるための重要な学校行事である入学式,卒業式等の場において,公教育を担う教育公務員が,公教育の根幹である学習指導要領に基づき教育課程を適正に実施するために発せられた重要な職務命令に違反するという重大な非違行為であること。 ② 当該行為は,入学式,卒業式等の来賓,保護者はもとより,適正に国旗・国歌指導を受けることとされている児童・生徒を目の前にして教職員が行ったもの 命令に違反するという重大な非違行為であること。 ② 当該行為は,入学式,卒業式等の来賓,保護者はもとより,適正に国旗・国歌指導を受けることとされている児童・生徒を目の前にして教職員が行ったものであり,教育上好ましくないこと。 ③ 当該行為は,校長が適正に卒業式等を実施するよう指導を繰り返し行い,さらに,学校設置団体の教育委員会から通達が発せられた後にも,その通達に基づいて校長が教職員に対して,適正に卒業式等を実施するよう指導を行った経過があったにもかかわらず,発生した職務命令違反行為であること。 ④ 学校も組織である以上,上司の職務上の命令に従うことは当然のことであり,当該行為は,組織人としての職務上の義務違反であること。 (イ) また,都教委は,職務命令に違反して不起立等をした教職員のうち,過去に非違行為を行って懲戒処分を受けている者については,次の理由により処分量定を加重したと説明している。(乙イ96,97)① 従来から,過去に非違行為を行い,懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合には,処分量定を加重してきたこと。 ② 当該非違行為が,上記(ア)①ないし④に該当するとともに,他の教職員の前で校長の職務命令を公然と無視するという看過できない行為であり,過去に非違行為を行って懲戒処分を受けながらかかる行為を行 っていること。 イ都教委の教育長は,平成18年4月27日,教職員の主な非行について類型化し,それぞれに対する標準的な処分量定を定めた。これによると,処分量定の決定に際しては,①非違行為の態様,被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程度,②非違行為を行った職員の職責,過失の大きさ及び職務への影響など信用失墜の度合い,③日常の勤務態度及び常習性など非違行為を行った職員固有の事情のほ 被害の大きさ及び司法の動向など社会的重大性の程度,②非違行為を行った職員の職責,過失の大きさ及び職務への影響など信用失墜の度合い,③日常の勤務態度及び常習性など非違行為を行った職員固有の事情のほか,適宜非違行為以後の対応等も含め,総合的に考慮の上判断するものとされ,過去に非違行為を行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合は,量定を加重するとされているところ,個別の事案の内容や処分の加重によっては,標準とされる処分量定以外とすることもありうるとの留保の下,教職員の主な非行の一つの類型である職務命令違反等の勤務態度不良の場合には,減給又は戒告とするとされている。(甲101の5)ウ原告Aの処分歴(ア) 原告Aは,都教委から,本件A処分を受けるまでに,次の各処分を受けていた。 平成6年4月25日,同年3月18日の当時勤務していた中学校卒業式において,同校校長が国旗を国旗掲揚塔に掲揚するのを妨害し,掲揚された国旗を引き降ろしたとして,減給(10分の1)1月の処分を受けた。 平成14年3月27日,市教委の指導主事による原告Aの授業観察後の協議会に出席するようにとの校長からの職務命令に違反したとして,減給(10分の1)3月の処分を受けた。 平成17年3月31日,同月18日のC中卒業式において,国歌斉唱の際,起立して国歌を斉唱し,司会から着席の指示があるまで起立していることとの職務命令を受けていたのに,国歌斉唱の際,いったん起立 したが途中で着席し,その後,起立してくださいと言われ一度起立したが再び着席したとして,減給(10分の1)6月の処分を受けた。 平成17年5月27日,同年4月7日のC中入学式において,国歌斉唱の際,起立して国歌を斉唱し,司会から着席の指示があるまで起立していることとの職務命令を て,減給(10分の1)6月の処分を受けた。 平成17年5月27日,同年4月7日のC中入学式において,国歌斉唱の際,起立して国歌を斉唱し,司会から着席の指示があるまで起立していることとの職務命令を受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなかったとして,停職1月の処分を受けた。 平成17年12月1日,受講を命ぜられて同年7月21日に受講した服務事故再発防止研修において,日の丸,君が代強制反対と書かれたゼッケンを着用し,同研修の担当者から再三ゼッケンを取るよう言われたにもかかわらず,同ゼッケンを着用し続け,また,同研修担当者に対し,ゼッケンを取るようにとの発言を撤回しろ等の発言を繰り返すなどして,同研修の進行を妨げたとして,減給(10分の1)1月の処分を受けた。(争いのない事実,乙イ95)(イ) 原告Aは,このほかに,八王子市教育委員会から,次の訓告を受けていた。 平成7年11月16日,同年3月22日の当時勤務していた八王子市立O中学校において,朝の学級活動等の時間に,校長が卒業式において日の丸を掲揚したことに抗議する内容の「職員会議の決定を踏みにじった校長先生の行為を私は決して忘れはしない」と題する印刷物を生徒に配布して読み上げるなどしたとして,文書による訓告を受けた。 平成11年8月,同年2月16日から19日にかけて,同中学校の家庭科の授業時間に,国旗・国歌に対する指導が,あたかもPと同じマインドコントロールされた命令・服従の指導であるとしたプリントを配布し,職員会議の内容を生徒に示し,校長の学校運営方針を批判するに等しい授業を行ったとして,文書による訓告を受けた。(甲244,乙イ2,3の1) エ原告Bの処分歴原告Bは,都教委から,本件B処分を受けるまでに,次の処分を受けていた。 平成16年4月6日,同年3月24 して,文書による訓告を受けた。(甲244,乙イ2,3の1) エ原告Bの処分歴原告Bは,都教委から,本件B処分を受けるまでに,次の処分を受けていた。 平成16年4月6日,同年3月24日の当時勤務していた養護学校の卒業式において,国歌斉唱の際,起立して斉唱することとの同校校長の職務命令を,その命を受けた同校教頭から受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなかったとして,戒告の処分を受けた。 平成16年5月25日,同年4月6日の当時勤務していた養護学校の入学式において,国歌斉唱の際,起立して斉唱することとの職務命令を,同校校長職務代理である同校副校長から受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなかったとして,減給(10分の1)1月の処分を受けた。 平成17年3月31日,同月16日の当時勤務していた養護学校の卒業式において,国歌斉唱の際,起立して斉唱することとの職務命令を,同校校長から受けていたのに,国歌斉唱の際,起立しなかったとして,減給(10分の1)6月の処分を受けた。(争いのない事実)(3) 本件における原告らの職務命令違反行為は,国歌斉唱時に起立をしなかったことと国歌を斉唱しなかったというものであり,児童・生徒らに対して指導すべき事項である国旗,国歌の尊重に反するし,卒業式等の円滑な進行を妨げるおそれがあるから,決して軽微な非違行為であるということはできない。特に,職務命令違反行為が,多数の者が集まる重要な行事である卒業式や創立記念式典の場において,教員から指導を受けるべき生徒や他の教員,保護者及び来賓の前で,公然と行われたものである上,職務命令の内容や趣旨は原告らに明確に伝えられ,原告らは職務命令の内容を認識していたにもかかわらず,意図的にこれを拒否しているのは明らかであり,非違行為として軽微と評価することはできない である上,職務命令の内容や趣旨は原告らに明確に伝えられ,原告らは職務命令の内容を認識していたにもかかわらず,意図的にこれを拒否しているのは明らかであり,非違行為として軽微と評価することはできない。 もっとも,原告らの職務命令違反行為は,積極的に式典の進行を妨害する 行動に出たり,国歌斉唱を妨げたりするものではなく,現に,原告らの職務命令違反行為によって,具体的に卒業式等の進行に支障が生じた事実は認められないから,この点からすると,本件各職務命令違反行為だけをみる限り,非違行為の態様が極めて悪質であるとか,その結果が非常に重大であるとまではいえない。また,本件各職務命令自体は,他の職務命令とは異なる特別の意味を持つとは認められないから,本件各職務命令に違反したことが,それだけで重大な非違行為ということもできない。前記(2)イのとおり,都教委が定めている主な非行に対する標準的な処分量定では,職務命令違反については減給又は戒告とされているところ,前記1(12),前記(2)アイに認定したとおり,都教委は,卒業式等において国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱することという職務命令に違反した場合,1回目の違反であれば,地公法で定める戒告,減給,停職又は免職の4種の懲戒処分のうち,最も軽い戒告を相当として,現に戒告処分としていたのであり,このような都教委の方針は,当該非違行為自体の態様や結果等からして相当なものと評価することができる。 ただし,前記(2)イのとおり,都教委が定めている標準的な処分量定においては,処分の対象となった当該行為だけでなく,日常の勤務態度及び常習性などの職員固有の事情などを含めて総合考慮するとされ,過去に非違行為を行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合は,量定を加重するとされている。公務員に の勤務態度及び常習性などの職員固有の事情などを含めて総合考慮するとされ,過去に非違行為を行い懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合は,量定を加重するとされている。公務員に対する懲戒処分は,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,公務員関係の秩序を維持するため,科される制裁であることからすれば,同種の非違行為に対する懲戒処分が重なった場合,過去の懲戒処分等の処分歴に応じ,より重い懲戒処分を科すことは,非違行為に対する措置として不相当ではないし,懲戒処分の対象となった行為以外の事情を含めて総合考慮することも正当といえる。したがって,都教委が,入学式,卒業式などの国歌斉唱時に校長の職務 命令に違反して不起立等をして懲戒処分を受けた教職員が,同様の非違行為をした場合に処分量定を加重することとしていること(前記(2)イ)は不相当とはいえない。 そうであるとしても,原告らは卒業式等における不起立の職務命令違反を繰り返したことにより,それぞれ停職処分を受けている。 懲戒処分は,重い順に免職,停職,減給,戒告の4種類があるところ,戒告は別にして,それ以外の処分は,いずれも処分自体により,当該職員に対し,財産上の不利益を課すものである上,停職は,減給と異なり,一定期間自己の職務に従事する機会を奪われる点において,単に経済的不利益を課されるというにとどまらないから,停職処分を科するについては,慎重に臨まなければならない。 そこで,原告A及び同Bについて,それぞれ停職3月,停職1月としたことに裁量権の濫用がないかどうか,個別の事情を含めてさらに検討する。 まず,原告Aについては,前記(2)ウのとおり,卒業式における不起立という本件A処分と同種の非違行為により,減給(10分の1)6月及び停職1月の2 ないかどうか,個別の事情を含めてさらに検討する。 まず,原告Aについては,前記(2)ウのとおり,卒業式における不起立という本件A処分と同種の非違行為により,減給(10分の1)6月及び停職1月の2回の処分を受けている上,卒業式における国旗の引降ろし,協議会出席の拒否,研修の進行妨害といういずれも積極的行動による職務命令違反行為により減給(10分の1)1月ないし3月の3回の処分を受けている。さらに,八王子市教育委員会から,校長が行った卒業式における国旗,国歌の扱いを授業等で批判等した行為で文書訓告を2回受けている。このほか,証拠(甲57,244,乙イ94,証人G)によれば,原告Aは,平成16年3月の卒業式では校長から会場の入口で受付を担当するように要請されていたにもかかわらず,あえて卒業式場に入って国歌斉唱時に不起立を行ったこと,平成17年4月の入学式における不起立による1か月の停職期間中,連日出勤し,生徒が通る校門前で校長の職務命令は間違っているとするプラカードを掲げたことなどの事実が認められる。本件A処分は停職3月であり, 懲戒処分の中でも相当に重く,安易に選択してよいというものではないが,上記のとおり,原告Aは,本件A処分と同種の職務命令違反行為を複数行ってすでに停職1月の処分まで受けているほか,本件A処分の非違行為に関連する内容の非違行為を行うなどにより多数の懲戒処分や訓告を受け,さらに,卒業式等における国旗掲揚,国歌斉唱に抗議する積極的な行為を続けているのであって,このような事情を総合すると,原告Aに対する処分を加重して停職3月としたことが,社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権の濫用であるということはできない。 次に,原告Bについては,前記(2)エのとおり,卒業式,入学式における不起立という本件B処分と同様の非違行為に としたことが,社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権の濫用であるということはできない。 次に,原告Bについては,前記(2)エのとおり,卒業式,入学式における不起立という本件B処分と同様の非違行為により,戒告,減給(10分の1)1月及び同6月の3回の処分を受けている。証拠(原告B本人)によれば,原告Bは,平成17年3月まで勤務したQ養護学校において,日の丸,君が代に否定的な見解に偏した授業をしていたことが窺え,また,卒業式等において起立して国歌を斉唱することという校長の職務命令にこれまで全く従ったことがなく,一貫して拒否する姿勢でいることが認められる。本件B処分は,停職1月であり,決して軽い処分ではなく,同種の非違行為をしたことにより処分量定を加重するとしても,減給処分は6月以下の範囲で5分の1以下とされている(東京都職員の懲戒に関する条例3条)ことから,3回目の懲戒処分である減給(10分の1)6月より重い減給処分とする選択もあり得るといえるが,財産上の不利益という観点からすれば,減給処分の中で最も重い減給(5分の1)6月と停職1月の軽重は付けがたいし,原告Bは,上記のとおり,同様の職務命令違反行為を複数行っていること等の事実や,停職処分として1か月という期間自体は,停職3か月のようにほぼ1学期のすべての期間について勤務できないのとは異なり,長期間とまではいえないこと等の事情を考慮すると,原告Bに対する処分を停職1月としたことが,社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権の濫用であるとまではいえない。 よって,都教委の原告らに対する本件各処分は,裁量権を濫用したものとはいえない。 (4) 以上によれば,都教委の原告らに対する本件各処分違法とはいえないから,原告らの請求はいずれも理由がない。 6 争点(5)(原告らの損害)について は,裁量権を濫用したものとはいえない。 (4) 以上によれば,都教委の原告らに対する本件各処分違法とはいえないから,原告らの請求はいずれも理由がない。 6 争点(5)(原告らの損害)についてこれまで説示してきたとおり,本件各処分は,違法とはいえないから,本件各処分により,教師としての職業的良心を傷つけられ,著しい精神的苦痛を被ったとして損害賠償を求める原告らの主張は理由がない。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,いずれも理由がないので,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第19部 裁判長裁判官中西 茂 裁判官松本 真 裁判官荒谷謙介
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