- 1 -平成24年5月16日判決言渡平成22年(行ウ)第629号不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は参加によって生じたものも含めて原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 請求中央労働委員会が平成20年(不再)第30号事件について平成22年3月31日付けでした不当労働行為救済申立棄却命令を取り消す。 第2 事実の概要等原告全日本造船機械労働組合ニチアス・関連企業退職者分会(以下「原告分会」という。)は,かつて参加人においてアスベストばく露作業に従事した者らを中心に結成された労働組合であり,原告全日本造船機械労働組合(以下「原告組合」という。)はその上部団体であるところ,原告らは,参加人に対し,アスベストばく露作業による被害について現行制度の下では労災保険給付を受けられない立場の者に対する補償制度を作ることなどを要求して,2度にわたり団体交渉の申入れを行ったが,参加人はこれを拒否した。 本件は,原告らが,上記団体交渉の拒否が不当労働行為に当たるとして,奈良県労働委員会(以下「県労委」という。)に対し救済命令の申立てを行ったところ,県労委が救済命令を発したものの,参加人からの再審査申立てを受けて中央労働委員会(以下「中労委」という。)がこれを取り消して救済命令申立てを棄却する旨の命令を発したため,原告らが,被告に対し,同中労委命令の取消しを求めた事案である。 1 前提事実- 2 -以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記する各証拠によって容易に認定できる事実である。 (1) 当事者らア原告組合は,労働者の政治的・経済的・社会的地位の向上を図ること等を目的とする労 以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記する各証拠によって容易に認定できる事実である。 (1) 当事者らア原告組合は,労働者の政治的・経済的・社会的地位の向上を図ること等を目的とする労働組合である。 原告組合は,昭和21年に結成され,その組合員数は平成19年6月14日現在1226名である。 イ原告分会は,アスベスト(以下「石綿」ともいう。)被災者の社会的,経済的地位の向上を図ることを目的とする労働組合の分会であり,参加人及びその関連企業で働いた労働者,アスベストによって被災した労働者の遺族並びに原告分会が承認した者を構成員とするものとする法人格のない社団である。 原告分会は,平成18年9月,原告組合の下部組織である全日本造船機械労働組合P1協議会P2労働組合(以下「全造船P2労組」という。)の下部組織として結成されたが,平成19年3月,原告組合の直接の下部組織となった。 原告分会の結成当初の執行委員長はP3,書記長はP4であり,結成後,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11,P12,P13が加入した(乙B1,6。以下,原告分会の組合員については,P10,P11及びP13を除き,その姓のみで呼称する。また,以下,原告分会の組合員を「原告分会員」という。)。 ウ参加人は,明治29年に設立された,高機能樹脂製品,耐火断熱材等の製造,販売や,耐火,断熱,防音等の建材工事等を行う株式会社であり,その従業員数は平成19年6月14日現在1490名である。 同社には,同日現在,従業員1219名で構成されるP37労働組合がある。 - 3 -参加人は,P14工場(奈良県北葛城郡<以下略>所在),P15工場(岐阜県羽島市所在)等の生産拠点で各種アスベスト製品を製造し,全国各地の支店,営業所や下請企業を通じて販 がある。 - 3 -参加人は,P14工場(奈良県北葛城郡<以下略>所在),P15工場(岐阜県羽島市所在)等の生産拠点で各種アスベスト製品を製造し,全国各地の支店,営業所や下請企業を通じて販売・施工してきた。 (2) 原告分会員らについてア P3は,参加人の従業員として,昭和30年3月21日から昭和39年5月7日まで,P14工場において石綿製品の入出庫業務に従事し,退職後,公立老人ホーム,消防組合等での勤務を経て,昭和58年ころ以降,主に運送会社の長距離トラック運転手として勤務した。同人は,平成17年8月ころ,参加人の実施する健康診断を受けた結果,胸膜プラークと診断され,同年11月24日,健康管理手帳(石綿)の交付を受けたが(乙A28),平成▲年▲月▲日死亡した。 イ P4は,参加人の従業員として,昭和31年9月1日から昭和32年1月1日まで,P14工場において石綿製品の製造に従事したが,その後飲食店の経営等に従事した。同人は平成17年11月までに,参加人の実施する健康診断を受けた結果,胸膜プラークと診断され,翌年1月24日,健康管理手帳(石綿)の交付を受けた(乙A29)。P4は,P3の死亡に伴い,平成22年10月11日,原告分会の執行委員長に選出された。 ウ P5は,参加人の従業員として,昭和55年から昭和56年まで,P14工場において石綿製品の製造に従事した。同人は,参加人の実施する健康診断を受けた結果,胸膜プラークと診断され,平成18年7月,健康管理手帳(石綿)の交付を受けた。 エ P6は,参加人の従業員として,昭和44年から昭和55年2月まで,P14工場において石綿製品の製造等に従事した。同人は,参加人の実施する健康診断を受けた結果,胸膜プラークと診断され,平成18年7月,健康管理手帳(石綿)の交付を受けた。 から昭和55年2月まで,P14工場において石綿製品の製造等に従事した。同人は,参加人の実施する健康診断を受けた結果,胸膜プラークと診断され,平成18年7月,健康管理手帳(石綿)の交付を受けた。 オ P7は,参加人の従業員として,昭和39年から昭和55年9月まで,- 4 -P14工場において,石綿製品の製造に従事した。同人は,参加人の実施する健康診断を受けた結果,胸膜プラークと診断され,平成18年1月,健康管理手帳(石綿)の交付を受けた。 カ P8は,参加人の従業員として,昭和29年から昭和36年2月まで,P14工場において,石綿製品の製造に従事した。同人は,参加人の実施する健康診断を受けた結果,胸膜プラークと診断され,平成17年11月,健康管理手帳(石綿)の交付を受けた。 キ P9は,P16組に在職し,昭和42年から昭和43年まで,参加人の前身であるP17の旧P18造船所において,石綿ばく露作業である保温工事に従事した。同人は,その後,胸膜プラークと診断され,平成18年8月までに,健康管理手帳(石綿)の交付を受けた(乙A39)。 ク P10は,P19有限会社(以下「P19」という。)に在籍し,昭和44年から昭和51年まで参加人の下請けとして,石綿ばく露作業である吹付工事に従事し,平成17年4月,じん肺管理区分管理4の決定を受けた。 P11は,P10の妻であり,アスベストの家族内ばく露により,胸膜プラークとなったと主張している。 ケ P12は,参加人の従業員として,昭和29年ころから昭和31年ころまで,同P38支店において,火力発電所,化学工場の石綿ばく露作業である保温作業に従事した。同人は,平成18年3月,じん肺管理区分管理4の決定を受けたが,平成19年6月14日までに,原告分会を脱退した。 コ P13の夫P20は, 発電所,化学工場の石綿ばく露作業である保温作業に従事した。同人は,平成18年3月,じん肺管理区分管理4の決定を受けたが,平成19年6月14日までに,原告分会を脱退した。 コ P13の夫P20は,株式会社P21(以下「P21」という。)に在籍し,昭和49年から平成8年まで,参加人の下請けとして石綿ばく露作業に従事し,平成15年3月,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚であるとして労災認定を受けたが,平成▲年▲月▲日死亡した。 (3) アスベストについて- 5 -アアスベストは,繊維状鉱物の総称であり,これまで工業的に大量に使用されてきたアスベストとして,クリソタイル(白石綿),アモサイト(茶石綿),クロシドライト(青石綿)がある。アスベストは,耐摩擦性,耐熱性,断熱・防音・吸音性,耐薬品性等の物質的特性を有し,鉱物でありながら,繊維状に織ることができることから,紡織品,摩擦材,保温材,石綿吹付材など幅広く使用されてきた。 イ他方で,アスベストは,裂けて細かい繊維となり,人が呼吸する際に,鼻,気管等の繊毛を通り抜けて,呼吸細気管支,肺胞に到達し,肺内等に沈着し,石綿肺,肺がん,中皮腫,びまん性胸膜肥厚,胸膜プラーク等の疾患等を引き起こす。これらのアスベストに関連する疾患は,その発症までに数十年という長期間を要することも多い。 このうち,胸膜プラーク(胸膜肥厚斑,限局性胸膜肥厚)とは,壁側胸膜に生じる局所的な肥厚であり,胸膜プラークだけでは通常肺機能の低下は起こらないとされているが,石灰化が進行して広範囲になると,その程度に応じて肺機能低下をもたらし,胸膜プラークの所見を有する者は,肺ガン,中皮腫に進展していくリスクが高いことが知られている。胸膜プラークの発生に要する期間は,アスベストばく露開始後おおむね15年ないし30年で 能低下をもたらし,胸膜プラークの所見を有する者は,肺ガン,中皮腫に進展していくリスクが高いことが知られている。胸膜プラークの発生に要する期間は,アスベストばく露開始後おおむね15年ないし30年である。 この胸膜プラークは,労働者災害補償保険(以下「労災」という。)の運用を定める「石綿による疾病の認定基準について」(基発第0919001号,乙B37),「石綿による疾病の認定基準の運用上の留意点について」(基労補発第0919001号,乙B38)において,疾病として扱われていない。 以上のようなアスベストによる疾病ないし胸膜プラークを引き起こす職業性の石綿ばく露としては,石綿関連製品の製造等による直接ばく露のほか,石綿工場で働く夫の作業衣の洗濯により妻がばく露を受ける家庭内ば- 6 -く露等がある(乙B36)。 ウこのようなアスベスト関連疾患の危険性については,平成17年6月29日,大手機械メーカーである株式会社P22が,兵庫県尼崎市の旧P23工場周辺住民及び従業員の中皮腫罹患の事実を公表したことを契機に(この公表の事実及びそれに伴う社会的な衝撃については,俗に「P22ショック」といわれた。以下「P22ショック」という。),広く認識されて社会的な関心が一気に高まり,各企業,業界団体等が,石綿ばく露作業に従事したことによる中皮腫及び肺ガンの患者の存在を公表するようになった。(乙A21)その後,平成18年2月には,「石綿による健康被害の救済に関する法律」(平成18年2月10日号外法律第4号)が公布され,労災認定の対象とされない石綿健康被害者等への補償制度が設けられた。 (4) 第1回団交申入れの経緯ア P3及びP4は,平成17年,胸膜プラークと診断されて健康管理手帳の交付を受け,参加人に対し何度か補償を要求したが い石綿健康被害者等への補償制度が設けられた。 (4) 第1回団交申入れの経緯ア P3及びP4は,平成17年,胸膜プラークと診断されて健康管理手帳の交付を受け,参加人に対し何度か補償を要求したが,参加人にその要求を拒否されたことから,平成18年9月17日,原告分会を結成した(乙A1)。 イ原告分会及び全造船P2労組は,参加人に対し,平成18年9月20日,以下の事項について団体交渉を申し入れた(以下「第1回団交申入れ」という。乙A1)。 ① P14工場をはじめとする参加人の各工場と関連企業における労働者と周辺地域住民のアスベスト被害についてその実態を明らかにし,また,その資料を提供すること② 退職した労働者のアスベスト被害に対する健康対策を明らかにし,その資料を提供すること③ 退職した労働者のアスベスト被害に対する補償制度を明らかにし,- 7 -その資料を提供すること④ 現行では労災保険給付を受けられないじん肺管理区分2及び3の者,また,石綿健康管理手帳の交付を受けた者への補償制度を作ることウ原告分会は,参加人に対し,平成18年10月27日付けで,P3及びP4に将来発症が想定される各疾病について,参加人においてどのような補償が受けられるのかを明らかにすること等の要求事項を追加した「要求書」を作成し,交付した(乙A2)。 エ参加人は,原告らに対し,平成18年11月15日付け「ご回答」と題する書面を送付し,第1回団交申入れに対し以下のとおり回答して,団体交渉を拒否した(以下「第1回団交拒否」という。乙A3)。 (ア) 原告分会らの要求事項を団体交渉事項とすることについて次のような疑念があることaP3及びP4は,退職後40年ないし50年が経過していることb 参加人は胸膜プラークを含む健康不安に対 (ア) 原告分会らの要求事項を団体交渉事項とすることについて次のような疑念があることaP3及びP4は,退職後40年ないし50年が経過していることb 参加人は胸膜プラークを含む健康不安に対する対応として,(すでに)住民説明会の実施,相談窓口の開設,健康診断・健康相談等を行っていることcP3及びP4が将来疾病に罹患したことを仮定した補償内容に関する要求事項を掲げていることdP4は,在職期間がわずか4か月であるため,胸膜プラークが参加人の業務によるものか明らかでないこと(イ) 組合としてではなくP3個人及びP4個人としての相談であれば対応すること(ウ) 第1回団交申入時の組合員らの言動等にかんがみ,参加人が対応することが困難であること(エ) P3及びP4が個人として相談し,又は組合として対応を求める場- 8 -合,参加人代理人弁護士に連絡してほしいこと(5) 第2回団交申入れの経緯ア原告分会は,参加人に対し,平成19年2月27日付けで,P3及びP4のほか,P5,P6,P7,P8,P9,P10,P11,P12,P13が,組合加入したことを通知した(乙A6)。 イ参加人は,平成19年3月1日付けで,原告分会に対し,直接交渉ではなく交渉窓口である代理人弁護士に対して連絡するよう求めた(乙A7)。 ウ P3及びP4は,原告分会の上部団体の者とともに,平成19年3月5日,同日付けの原告ら作成にかかる前記(4)イの要求事項①ないし④に加えて,「通知した組合員のアスベスト被害補償について,参加人の考えを明らかにすること」が記載された団体交渉申入書(乙A8)を持参して,参加人P14工場を訪問した。 そして,P3らは,参加人P14工場のP24総務課長に対し,上記団体交渉申入書を交付して団体交渉を申し入れたが と」が記載された団体交渉申入書(乙A8)を持参して,参加人P14工場を訪問した。 そして,P3らは,参加人P14工場のP24総務課長に対し,上記団体交渉申入書を交付して団体交渉を申し入れたが(以下これを「第2回団交申入れ」といい,第1回団交申入れと併せて「本件各団交申入れ」という。),P24総務課長は,代理人弁護士が対応するので,そちらに相談願いたいなどと述べて,同申入書の受領を拒絶した。P3らは,同申入書をその場に置いて立ち去った。 エ参加人は,第2回団交申入れに対して,おおむね上記(4)エ(ア)(イ)と同様の理由により団体交渉を拒否した(以下,参加人が,原告らの第2回団交申入れを拒絶したことを「第2回団交拒否」といい,第1回団交拒否と併せて「本件各団交拒否」という。)。 (6) 本訴提起に至る経緯原告分会らは,県労委に対して,平成19年4月5日,本件各団交拒否が不当労働行為に当たるとして不当労働行為救済命令申立てをしたところ,県労委は,平成20年7月24日,参加人に対し,「本件各団交申入れに対し,- 9 -速やかに誠意をもって応じなければならない」旨の救済命令を発した(以下「本件初審命令」という。)。これに対し,参加人が,中労委に対し再審査申立てをしたところ,中労委は,平成22年3月31日,初審命令を取り消して原告らの救済申立てを棄却するとの命令を発し(以下「本件中労委命令」という。),同命令書は,同年5月24日,原告らに交付された。 原告らは,同年11月10日,本件中労委命令の取消しを求めて本訴を提起した(顕著な事実)。 2 争点(1) 原告らは,参加人の「雇用する労働者の代表者」(労働組合法〔以下「労組法」という。〕7条2号)に当たるか(争点1)。 (2) 本件各団交拒否に「正当な理由」(労組法7 実)。 2 争点(1) 原告らは,参加人の「雇用する労働者の代表者」(労働組合法〔以下「労組法」という。〕7条2号)に当たるか(争点1)。 (2) 本件各団交拒否に「正当な理由」(労組法7条2号)があるか(争点2)。 3 争点に関する当事者の主張(1) 原告らは,参加人の「雇用する労働者の代表者」(労組法7条2号)に当たるか(争点1)。 【原告らの主張】ア(ア) 労働契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争であれば,紛争が顕在化した時期が退職後であっても,当該紛争当事者は「使用者が雇用する労働者」に当たるというべきである。 (イ) そうすると,本件では,P3,P4,P5,P6,P7,P8は,「使用者が雇用する労働者」に当たる。 また,P10は,参加人の専属下請会社(参加人以外の会社の業務を請け負うことがない。)たるP19の従業員であった者であり,参加人は,P10の労働条件等に対して,少なくとも部分的にはP19と同視できる程度の現実的かつ具体的な支配力を有していたから「使用者」(労組法7条2号)に当たる。また,同人の妻P11は,P10の作業服の洗濯により家庭内ばく露しており,P11も「労働者」に当たるが,仮に- 10 -そうでないとしても,P10にとって労働環境が家族の健康状態に影響を及ぼすか否かは重大な関心事であって団体交渉の必要性がある上,団体交渉によって解決可能であって相当性も認められるから,P11の補償等の問題は義務的団交事項に当たる。 さらに,P13の夫P20は,参加人の下請企業たるP21の従業員であった者であり,参加人は,P20に対し事実上指揮命令をしていたし,仮にそうでないとしても,参加人はP21の元請人(労働基準法87条1項)として災害補償についてP20の使用者とみなされる。同人は であった者であり,参加人は,P20に対し事実上指揮命令をしていたし,仮にそうでないとしても,参加人はP21の元請人(労働基準法87条1項)として災害補償についてP20の使用者とみなされる。同人は,アスベスト関連疾患で死亡したから,その妻であるP13に対する補償問題は,義務的団交事項に当たる。 P9は,参加人の下請企業であるP16組に勤務していたから,P10やP20と同様に「使用者が雇用する労働者」に当たる。 イ(ア) 仮に上記ア(ア)の見解によることができないとしても,使用者と労働者の間で労働契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争が,雇用関係終了後に発生した場合,①当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生したこと,②使用者において当該紛争を処理することが適切であること,③団交申入れが雇用関係終了後,社会通念上合理的といえる期間内にされたことを満たせば,「使用者が雇用する労働者」と認め,団交応諾義務を認めるべきである。 (イ) 本件においても,以下のとおり,原告分会員らは「使用者が雇用する労働者」に当たる。 a 原告分会員らの労使紛争の原因事実は,参加人又はその関連企業在職中の石綿粉じんの吸入であり,雇用に密接に関連して発生した。 b 原告らの要求事項は,アスベスト被害の実態を明らかにし,健康対策・補償の制度をつくることであり,使用者たる参加人において適宜対応可能であり,そうすることが社会的にも適切である。 - 11 -c 原告分会員は,平成17年に初めて胸膜プラークと診断されるまで,石綿による健康被害について知らされておらず,団体交渉権を行使することができなかった。その原因は石綿被害の特殊性によるのであって,労働者には何の責任もなかった。 原告分会員は,胸膜プラークが就労中のアスベストばく露に起因することが らず,団体交渉権を行使することができなかった。その原因は石綿被害の特殊性によるのであって,労働者には何の責任もなかった。 原告分会員は,胸膜プラークが就労中のアスベストばく露に起因することが明らかとなってまもなくの平成18年9月に原告分会を結成して団体交渉を申し入れており,意図的に団体交渉の申入れを遅らせたような事情はなく,社会通念上合理的な期間内に申入れを行っている。 【被告の主張】ア(ア) 「使用者が雇用する労働者」(労組法7条2号)は,その文理に照らし,原則として「現に使用者と雇用関係にある労働者」をいい,例外的に,①労働組合がその組合員の労働契約の終了原因の効力やその条件を争うため団体交渉を申し入れた場合や,②労働組合がその組合員の在職中に団体交渉を申し入れるなどしたことにより既に顕在化していた個別労働紛争につき,同組合が,当該労働者の労働契約の終了後に改めて団体交渉を申し入れた場合は,これに当たるというべきである。 本件は,労働契約終了原因の効力や条件が争われているものではなく,かつ,最も遅く退職した労働者についても退職後約25年以上が経過して紛争が顕在化したもので,上記例外①及び②に当たらず,文理上「使用者が雇用する労働者」に当たらないし,その解決が現在又は将来の集団的労使関係の安定に資することも想定し難く,また,いつ紛争が顕在化するか分からないため使用者の立場を著しく不安定にするから,「使用者が雇用する労働者」には当たらないというべきである。 (イ) もっとも,団体交渉申入れに係る個別労働紛争の内容が,雇用期間中の業務における石綿ばく露の健康被害に関する事項であるという本件- 12 -においては,石綿による健康被害の特殊性にかんがみ,社会正義の観点から,「使用者が雇用する労働者」に当たるとする余地がな 中の業務における石綿ばく露の健康被害に関する事項であるという本件- 12 -においては,石綿による健康被害の特殊性にかんがみ,社会正義の観点から,「使用者が雇用する労働者」に当たるとする余地がないわけではない。 イなお,P10,P20,P9については,参加人が雇用主と部分的に同視できる程度の現実的かつ具体的な支配力を有しているとはいえないから,参加人からみて「使用者が雇用する労働者」には当たらない。 【参加人の主張】労働組合にはある種の特権的な地位が認められており,その代理機能を従来以上に拡張することは,弁護士法72条や民事訴訟制度の趣旨に反する。 また,不当労働行為救済制度には罰則規定(労組法28条)もあり,厳格性,明確性が要請される。よって,団交応諾義務を無限定に拡大しないためにも,「雇用する労働者」は,団体交渉を通じて正常な労使関係を樹立しようとする団体的・集団的労使関係の一方当事者を意味するというべきであり,原則として現に雇用する労働者をいうと解される。そして,本件のように退職後長期間が経過して紛争が発生した事案においては,「雇用する労働者」の例外を認める余地はない。 (2) 本件各団交拒否に「正当な理由」(労組法7条2号)があるか(争点2)。 【原告らの主張】ア中労委は,退職後長期間が経過し,必要な資料が散逸したことにより法的安定性や明確性を害するなどと判断するが,「法的安定性」が憲法による労働基本権の保障に優越することはないし,使用者が労働者の健康被害の危険性を長期間隠すことで団交応諾義務を免れるものとするのは,著しく正義,公平に反する。また,本件各団交申入れにおける要求事項は,過去の細かな事実関係を明らかにすることを求めるものではなく,明確性を理由に団交拒否を正当化することはできない上,そもそも,「明 著しく正義,公平に反する。また,本件各団交申入れにおける要求事項は,過去の細かな事実関係を明らかにすることを求めるものではなく,明確性を理由に団交拒否を正当化することはできない上,そもそも,「明確性」は,労働組合法が団体交渉を命じる労働委員会の救済命令に対する違反につい- 13 -て罰則を定めていることから(労組法28条),救済命令の主文を明確にするという要請であって,罪刑法定主義に基づく「刑罰法規の明確性」のことを意味するのであって,使用者の団交応諾義務の範囲を画するものではない。 仮に,期間経過を理由に団交応諾義務が否定されるとすれば,それは,退職後ではなく組合結成後に長期間が経過した場合であるというべきであるが,本件では,P3とP4は,紛争顕在化後に迅速に原告分会を結成し,団体交渉権の行使に至っている。 イ参加人が,胸膜プラーク出現者に対して健康管理手帳を交付したり,健康診断により重篤な疾病の早期発見を図り,疾病が判明した段階で独自に補償等を行うという救済措置を講じたことを,団交拒否の正当理由を判断する要素として考慮すべきではない。かかる措置が十分か否かは,団体交渉において労使が決定していくべき事柄である。 ウ中労委による本件各団交申入前のP3及びP4の不穏当な言動の認定は誤りである。仮に,分会結成前にそのような事実があったとしても,それは同人らの健康被害に対する強い不安と参加人に対する強い不信感に根ざすものであるし,組合結成後はP3らの行動も組合の統制下にあるから,過去のP3らの行動によって団交拒否を正当化できるものではない。 第1回団交申入れも全体としてみれば極めて穏当であった。参加人に対する抗議文の文言中,「貴社は何人の労働者や住民をアスベストによって殺してきたか」は事実を述べたものであるし,「盗人猛々 はない。 第1回団交申入れも全体としてみれば極めて穏当であった。参加人に対する抗議文の文言中,「貴社は何人の労働者や住民をアスベストによって殺してきたか」は事実を述べたものであるし,「盗人猛々しい」とは,参加人が第1回団交申入時のP3らの言動の言葉尻を捉えて非難したことに対するもので,いずれも団交拒否の理由にはならない。 エ参加人が,P3ら個人の補償要求について弁護士を介した話合いの方途を設けていたとしても,それをもって団体交渉を拒否する正当な理由にはならない。 - 14 -【被告の主張】P3及びP4は,本件各団交申入前に参加人に対したびたび不穏当,不適切な言動をしており,参加人の担当者においては,警察に相談に行くほどまでに不安感,恐怖感が強まっており,かかる言動は,参加人に対し,建設的な団体交渉の実施について重大な疑念を抱かせるものであった。しかも,P3及びP4は,第1回団交申入時にも,不穏当な言動をしている。 これらに加えて,本件では,原告分会員らの退職後団交申入れまでに相当長期間を経過していること,参加人が胸膜プラークが出現した者につき重篤な疾病の早期発見のための措置を講じていること等を併せ考えると,参加人が代理人による交渉の方途を用意しつつ行った本件各団交拒否には,「正当の理由」がある。 原告らは,組合結成前のP3,P4らの言動は正当の理由に関して考慮すべきでないと主張するが,同人らは,組合結成時に近接した日時に,後に組合の交渉担当者となる者と,団体交渉事項と同一の事項について交渉した際に,不穏当な言動をしたものであるし,さらには,第1回団交申入時にも「お前らなめとるんか」と怒鳴る等しているから,本件においては,組合結成前の言動も団交拒否の正当理由の判断要素となる。 【参加人の主張】P3は,参加 のであるし,さらには,第1回団交申入時にも「お前らなめとるんか」と怒鳴る等しているから,本件においては,組合結成前の言動も団交拒否の正当理由の判断要素となる。 【参加人の主張】P3は,参加人に対して,平成13年1月ころ,仕事を要求し,平成17年8月ころ,参加人の健康診断を受診した際は,タクシー代を威圧的に要求し,平成17年11月4日,同年12月13日,同月26日,P25室長に対し,金銭による補償を要求したりした。 また,P4は,平成18年5月23日,同年6月8日,P25室長に対して,元右翼であるなどと述べて金銭を要求した。 さらに,P3及びP4は,同年8月22日,P14工場を訪れ,P25室長に対し,仕事を要求する等したが,その際,P3は,他の従業員に対して,- 15 -「何を面切ってんだ。」と怒鳴る等した。 このように,P4やP3は,第1回団交申入前の個別協議の時から,参加人のP25室長らに対し,暴力団や右翼の威嚇力を背景として暴力的要求行為を行ってきた。 かかるP3及びP4自身が,原告分会結成後の第1回団交申入時に「何で録音するんだ。おとなしくしてりゃあ,お前らなめとるんか」等と暴言を発し,原告組合のP26もかかる暴言を制止せず,むしろこれを許容した。また,参加人が明確に第2回団交申入れを拒否する前の平成19年3月26日には,原告組合のP26,原告分会のP3ら合計50人以上が,参加人の東京都港区所在の本社玄関ロビーに侵入し「入ろやー。」と怒号して参加人の執務室に侵入し「人殺し。」等と叫んだところ,これら暴言等は,原告分会の組織的なものである。 これらによれば,原告分会結成後においてP3らの暴挙は一層助長されたものであり,本件各団交拒否に正当な理由があることは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 争 分会の組織的なものである。 これらによれば,原告分会結成後においてP3らの暴挙は一層助長されたものであり,本件各団交拒否に正当な理由があることは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(原告らが参加人の「雇用する労働者の代表者」(労組法7条2号)に当たるか。)について(1) 労組法1条1項,6条,14条,16条等の規定からすれば,同法が保護の対象とする「団体交渉」とは,使用者とその雇用する労働者の属する労働組合の代表者とが,労働者の待遇又は労使関係上のルールについて合意を形成することを主たる目的として交渉を行うことであると解されるところ,労組法がこのような団体交渉を通じて正常な労使関係の構築,樹立を図る趣旨であることに照らすと,「使用者が雇用する労働者」(労組法7条2号)とは,原則として,現に当該使用者が雇用している労働者を前提とするものと解される。また,このように解することは,労組法7条2号の文言にも合致する。 - 16 -もっとも,現実に雇用契約関係の終了段階でこのような労働条件をめぐる問題が顕在化することもあり,ときには,従業員の退職後,その退職条件をめぐって紛争が生起することも稀ではないことからすれば,このような場合,当該労働者を「使用者が雇用する労働者」と認めた上で,使用者に対し,当該労働者の加入する労働組合との間で団体交渉を義務付けることが労組法の趣旨に沿う場合があるというべきである。しかし,他方で,このような退職後の労働者の在職中の労働条件に関して,使用者に無制限に団体交渉を義務付けることは,使用者側に不当に重い義務を負わせ,ときに無関係な者の関与を許すことにもつながり,正常な労使関係の構築,樹立という団体交渉制度の趣旨に悖ることにもなりかねないことから,この点にも配慮して団交応諾義務の範囲 に不当に重い義務を負わせ,ときに無関係な者の関与を許すことにもつながり,正常な労使関係の構築,樹立という団体交渉制度の趣旨に悖ることにもなりかねないことから,この点にも配慮して団交応諾義務の範囲が画されるべきであると解される。このような観点を踏まえて検討するに,①団体交渉の主題が雇用関係と密接に関連して発生した紛争に関するものであり,②使用者において,当該紛争を処理することが可能かつ適当であり,③団体交渉の申入れが,雇用関係終了後,社会通念上合理的といえる期間内にされた場合は,元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認めることができるものと解する。そして,何をもって合理的期間とするかについて,雇用期間中の労働条件を巡る通常の紛争の場合は,雇用期間終了後の近接した期間といえる場合が多いであろうが,紛争の形態は様々であることからすれば,結局は個別事案に即して判断するほかはないというべきである。(大阪高等裁判所平成21年12月22日判決・労働判例994号81頁参照)(2) 本件についてこれをみるに,①P3,P4,P5,P6,P7,P8(以下「P3ら6名」という。)は,いずれも参加人の従業員として,P14工場において石綿関連業務に従事し,その後胸膜プラークという診断を受けているもので(前提事実(2)),その因果関係は必ずしも明らかとはいえないものの,P3ら6名にかかる紛争は,参加人との雇用関係と密接に関連して発- 17 -生したものと評価することができる。 また,かかる紛争に対して,②実際にどの程度の義務を負うかはともかくとして,参加人は,少なくとも,可能な限り当時のアスベストの使用実態を明らかにしたり,健康被害の診断,被害発生時の対応等の措置をとることが可能であり,かつ,それが社会的にも期待されているといえる。被告は,P3ら6名 少なくとも,可能な限り当時のアスベストの使用実態を明らかにしたり,健康被害の診断,被害発生時の対応等の措置をとることが可能であり,かつ,それが社会的にも期待されているといえる。被告は,P3ら6名の勤務期間が短い者では1年未満,長い者でも16年程度であると指摘するが,かかる事情は,上記社会的期待の存在を否定するものではない。 さらに,③本件各団交申入れが合理的期間内にされたといえるかを検討するに,石綿関連疾患は非常に長い潜伏期間があり,長期間経過した後に症状が発生するものであるし,そのことは胸膜プラークも同様であること(前提事実(3)),P3ら6名は,平成17年8月から平成18年7月までに,参加人が実施した健康診断を受けて,胸膜プラークと診断され(前提事実(2)),P3及びP4は,平成18年9月,原告分会を結成し(前提事実(4)),P5,P6,P7,P8も,平成19年2月までに参加していること,原告分会は参加人に対して分会結成後速やかに団体交渉を申し入れていること(前提事実(4))が認められる。これらの事情によれば,P3ら6名が退職してから短い者で約25年,長い者で約50年と相当長期間が経過してからの団交申入れではあるものの,その長期間経過の責めを同人らに帰することは酷であり,石綿被害の特殊性を考慮すれば,社会通念上合理的期間内に本件各団交申入れがされたと認めるのが相当である。 以上に検討した結果を総合考慮すれば,その余の原告分会員らに関する事情を検討するまでもなく,原告らは「使用者が雇用する労働者」を代表する労働組合であると解するのが相当であり,少なくとも,参加人に直接雇用されていた者との間でのアスベストによる補償問題については,義務的団交事項であると解することもできよう。 もっとも,前記説示のとおり,原告分会員らが参加人 相当であり,少なくとも,参加人に直接雇用されていた者との間でのアスベストによる補償問題については,義務的団交事項であると解することもできよう。 もっとも,前記説示のとおり,原告分会員らが参加人を退職していずれも- 18 -長期間が経過していたのであるから,通常の(現役従業員で構成される)労働組合からの団交申入れとは異なり,原告分会の団体交渉当事者としての適格には,法律的に難しい問題を含んでいたのは否めないところである。したがって,原告らから本件各団交申入れがなされた段階で,参加人において直ちにこれに応諾すべき義務があるか否かについては,このような事案の特色を踏まえて,慎重に検討すべき必要があるというべきである(後記2の説示を参照)。 2 争点2(本件各団交拒否に「正当な理由」(労組法7条2号)があるか。)について(1) 認定事実前記前提事実及び後掲各証拠を総合すれば,以下の事実を認めることができる。 ア参加人におけるアスベスト関連疾患発症者に対する補償等の取り組み(ア) 平成17年6月のいわゆるP22ショックによって,アスベストによる健康被害の実情が広く知られるようになるとともに,企業活動による従業員らのアスベストばく露が社会的な問題となった(前提事実(3))。 このような流れの中で,参加人は,同年7月5日,「当社のアスベスト(石綿)の使用状況,健康障害状況及びその対応について」と題する書面を発し,アスベスト製品の製造状況及び管理状況や,アスベストに拠る健康障害者の状況(各工場ごとの死亡者,療養者数)について公表し,アスベスト疾患を持って退職した従業員に対し,社内規程に基づき補償を行っている旨を明らかにした(乙B42)。 また,参加人は,工場周辺住民のアスベスト健康障害者及び遺族に対して,平成18年5月, スベスト疾患を持って退職した従業員に対し,社内規程に基づき補償を行っている旨を明らかにした(乙B42)。 また,参加人は,工場周辺住民のアスベスト健康障害者及び遺族に対して,平成18年5月,救済金として1500万円から3000万円を支払う旨を明らかにし(乙B43),同月2日付け,同年11月13日付け,平成19年5月7日付け,同年11月29日付けで,参加人元従- 19 -業員等のアスベスト(石綿)による健康障害状況を明らかにした(乙B44ないし47)。 もっとも,参加人は,胸膜プラークに関しては,労災補償の対象疾病になっていないことを理由に,上記補償制度における補償の対象としていなかった(乙B25)。 (イ) 他方で,参加人は,胸膜プラークを含む健康不安に対する対応として,近隣住民に対する情報公開としての住民説明会の実施,相談窓口の開設並びに健康診断及び健康相談の実施等を行っている。健康診断の実施に当たっては,参加人が,健康診断自体の費用及び交通費(マイクロバスによる送迎等)を負担し,健康診断の結果により健康管理手帳の交付申請の支援をしたり,疾病に罹患している場合は労災申請の支援等を行うものとされていた。健康診断は,一次と二次に分かれ,一次健康診断では,問診,聴診,胸部レントゲン撮影等を行い,医師がさらに検査が必要と判断した場合は,二次健康診断で精密検査を行っていた。(乙B3の1,24,25)原告分会員らのうち,P3,P4,P5,P6,P7,P8も,上記健康診断を受診した(前提事実(2))。 イ原告分会結成前のP3,P4の言動等(ア) P3は,かつて運送会社に勤務していた当時の平成13年1月ころ,参加人P14工場を訪問して,運送の仕事があれば回してもらいたい旨求め,参加人P14工場の総務課長が対応したことが 4の言動等(ア) P3は,かつて運送会社に勤務していた当時の平成13年1月ころ,参加人P14工場を訪問して,運送の仕事があれば回してもらいたい旨求め,参加人P14工場の総務課長が対応したことがあった。P3は,この総務課長とのやりとりの中で,自分は元右翼であると告げるなど威圧的な言動を行っていた(乙A37,B26,C4の1,2。なお,この点について,P3は,かつて参加人に勤務していたという話の流れで昔話として右翼団体に属していたと話したにすぎない旨陳述書において供述するが,通常の営業活動において,あえてそのような活動歴につい- 20 -て言及するはずがないというべきであるから,上記供述については採用することができない。)。 (イ) P3は,平成17年8月ころ,参加人の実施する健康診断を受けるため,自宅から集合場所となっていたP14工場にタクシーで出向き,P24総務課長に対し,領収証を差し出してタクシー料金を請求した。 参加人は,健康診断を希望する元従業員らに対し,同工場から参加人指定の病院までの間をマイクロバスで送迎することとしていたものの,元従業員らの自宅から同工場までのタクシー料金を負担する取扱いはしていなかったし,P24総務課長は,事前にP3の上記タクシー料金を支払う旨了承していなかったが,P3の態度を威圧的と感じ,やむなく自己の判断で同料金を支払った。(乙B26)(ウ) P3は,同年11月4日,P14工場を訪れ,同工場の環境対策室室長であるP25(以下「P25室長」という。)と面談をし,「最近,嘔吐やせきがよく出る。白黒はっきりさせてくれ。」などと述べた。 また,P3は,同年12月13日,再度P14工場を訪れて,P25室長に対し,「障害1級で仕事ができず年金だけでは生活できない,生きている間に補償してほしい,参加 きりさせてくれ。」などと述べた。 また,P3は,同年12月13日,再度P14工場を訪れて,P25室長に対し,「障害1級で仕事ができず年金だけでは生活できない,生きている間に補償してほしい,参加人から仕事をもらえないのか,胸膜プラークに対する慰謝料はないのか」などと述べた。P25室長は,胸膜プラークは疾病ではないので金銭要求には応じられないことなどを伝えた。 さらに,P3は,同月26日,P14工場を訪れ,「胸膜プラークのため健康管理手帳を持つようになり精神的ショックを受けたので,金銭補償してほしい,一時的に30万円貸し付けてほしい,体を張ってでも白黒つける方法もある,一番の要求は参加人が雇ってくれることである」などと述べた。これに対して,P25室長は,金銭の支払はできないが,貸付,補償,雇用に関する要望については,本社と相談したいなどと回- 21 -答した。(乙B25,C3の1)(エ) P3は,平成18年1月ころ,P25室長に電話し,いろいろなところに相談に行って確認したところ,新法では胸膜プラークについては補償の対象にならないことなど,参加人の回答に間違いないことがわかった旨話した(乙A36,B25)。 (オ) P4は,平成17年11月ころ参加人の健康診断を受診し,胸膜プラークと診断されて,同年12月に石綿健康管理手帳の交付を受けていた。P4は,平成18年2月1日,P14工場のP25室長に電話をかけ,「健康診断の結果,胸膜プラークと診断されたが,参加人からの補償はないのか」などと尋ねたところ,P25室長は,胸膜プラークは疾病ではなく,参加人には補償制度はないが,症状が進んだ場合は遠慮なく申し出て欲しいと伝えた(乙B25)。 (カ) P4は,P25室長に対し,平成18年5月19日,電話をかけて,「2日後の『P27の会 ではなく,参加人には補償制度はないが,症状が進んだ場合は遠慮なく申し出て欲しいと伝えた(乙B25)。 (カ) P4は,P25室長に対し,平成18年5月19日,電話をかけて,「2日後の『P27の会』(以下「P27会」という。)の奈良支部設立総会に出席する,息苦しく夜熱も出る,参加人はどこまで面倒を見てくれるのか」などと述べた。 これを受けて,P25室長は,P4から事情を聴くため,上記設立総会の数日後の同月23日午前9時30分ころから午前10時40分ころまでの間,1人で同人宅を訪ねた。P4は,P25室長に対し,「被害者の会の設立総会では,P3がテレビで,P25,ニチアスのことを,すべて話しすると息巻いていたが,私が止めた。」「P3は元右翼の親分で,私の弟分だった。私は,元やくざであった。」「ニチアスはひどい会社だ。医者と結託し胸膜肥厚を病気と認めない。」「7月に被害者の会の総会が開催される。P3と2人で被害者の会の幹事も頼まれている。ニチアスが幾らお金を出すのか,はっきり言って欲しい。駄目な場合は,被害者の会の幹部として働く事になる。要はニチアスの出方ひと- 22 -つである。」と述べ,P25室長が,胸膜プラークは疾病ではなく補償金を支払えないと説明したところ,P4は,「お前はおれをなめとんのか。お前は頭をかち割って血を見ないとわからんのか。治療費として10から20万円を毎月,振り込め。」などと怒鳴り,さらに「P25個人としては,幾ら出せるのか。」などと述べた。P25室長は,P14工場のP28工場長に対して,帰社後,以上の面談結果を書面で報告したが,その際,「ヤクザの,おどしとすかしそのものでした。(中略)P29警部補(同人は奈良県西和警察署の警察官である。)に報告しておいた方が良いと存じます」と付記した。(乙A37,B25 面で報告したが,その際,「ヤクザの,おどしとすかしそのものでした。(中略)P29警部補(同人は奈良県西和警察署の警察官である。)に報告しておいた方が良いと存じます」と付記した。(乙A37,B25,48,C3の1。この点,P4は,暴力団加入歴があったことを認めつつ〔乙A37〕,そのことをこの時点でP25室長に伝えたことはないと供述するが〔原告分会代表者尋問の結果〕,P25室長の当時の社内報告文書には上記認定のP4の発言が記載されていることなどに照らして,上記P4の供述については直ちに信用することができない。)P28工場長及びP25室長は,その翌日である同月24日午前11時ころ,奈良県西和警察署を訪れ,同警察署のP30警部,P29警部補と面談し,P3とP4に対する従前の事実経過を話した上で今後の対応を協議し,同警部らから,街宣車を用いたり工場に押しかけることも想定されるが,そのときは連絡してほしい,P4宅を訪問するときは複数名で行くことなどの指導を受けた(乙B23の1・2,25,49)。 (キ) P25室長は,平成18年6月8日,参加人本社環境対策室担当者のP31とともに,P4宅を訪ね,同人に対し,再度,胸膜プラークは疾病ではないので補償金を支払うことはできないと回答した。P4は,「(胸膜プラークを病気でないということを)P27会に出席して,みんなの前で説明してこい。」などと応じ,「10万円でも出せないのか。」「P25個人としてはどうなのか。」と金銭支払を執拗に求めたが,P- 23 -25室長らは補償金の支払には応じられない旨を答えた。(乙B25)(ク) P3及びP4は,平成18年8月22日,P14工場を訪れ,P25室長に対し,胸膜プラークに対し,会社が補償しないなら元の体に戻せ。健康管理手帳を渡せば終わりという態度が気に 。(乙B25)(ク) P3及びP4は,平成18年8月22日,P14工場を訪れ,P25室長に対し,胸膜プラークに対し,会社が補償しないなら元の体に戻せ。健康管理手帳を渡せば終わりという態度が気に入らない,などと述べた。また,P3は,面談場所付近を参加人の子会社従業員が通った際に目が合ったことで立ち上がり,「何めん面切ってんだ。」と大声で叫んだ。 (乙B25,C3の1,4の1)ウ本件各団交申入れの状況等(ア) 原告分会が平成18年9月17日に結成され,同日,原告組合に加入したことは前提事実(1)記載のとおりであるが,原告分会のP3,P4のほか,原告組合のP26,P32センター事務局次長のP33,P27会のP34は,同月20日,P14工場に出向き,参加人に対し,「組合結成通知および団体交渉申入書」と題する書面を交付して,団体交渉の申入れを行った(第1回団交申入れ)。 参加人は,上記来訪者をP14工場3階会議室に案内し,P28工場長,P24総務課長,P25室長外1名において対応したが,参加人側が冒頭,会話の録音を申し出たのに対し,P3及びP4は,「なんで録音するんだ。おとなしくしてりゃあ,おまえらなめとるんか。」と激しく怒鳴りつけ,また,参加人が説明をする途中でも,「ごちゃごちゃ言わずに元の体に戻せや。」「P25は首を振っているだけで話をまともに聞いていない。担当者を替えろ。なめやがって。」「土産を持ってくると言いながら,土産の代わりに本社を連れてきやがって。」などと発言し,P3は机を叩いて「お前ら患者のことを考えたことあるんか。」と怒鳴る等した。(乙A3,B25,26,C1の1,2,3の1)原告分会は,参加人に対し,同年10月27日付けで,要求事項を追加する「要求書」を作成し,交付したのに対し,参加人は,同年11 。」と怒鳴る等した。(乙A3,B25,26,C1の1,2,3の1)原告分会は,参加人に対し,同年10月27日付けで,要求事項を追加する「要求書」を作成し,交付したのに対し,参加人は,同年11月- 24 -15日付けの回答書により団体交渉を拒否した。(前提事実(4))(イ) 原告分会らは,平成18年11月28日付けで,上記団交拒否等に対し「会社回答に対する抗議文」を送付したのに対し(乙A4),参加人代理人弁護士は,原告分会らに対し,参加人に直接連絡しないよう求める等した回答書を送付した(乙A5,B5の1・2)。なお,上記抗議文中には,参加人に関し「これまで貴社は何人の労働者や住民をアスベストによって殺してきたのか,どれだけ不安を与えてきたのか,その事に対する怒りの言葉に対して,このような対応は『盗人猛々しい居直り』と人は言うでしょう。」との記載がある(乙A4)。 また,原告分会が,参加人に対し,平成19年2月27日付けで,組合員の追加加入を通知したのに対し,参加人は,同年3月1日付けで,原告分会に,直接交渉ではなく交渉窓口である代理人弁護士に対して連絡するよう求めた(前提事実(5))。 (ウ) 原告分会及び全造船P2労組は,参加人に対し,平成19年3月5日,第2回団交申入れをした(前提事実(5))。その際,P3,P4,P26らは,「団体交渉申入書」と題する書面(乙A8)をP14工場に持参したところ,P24総務課長が,同工場守衛所付近で対応し,団交申入れには代理人弁護士が対応する旨述べ,上記団体交渉申入書の受領を拒否した。原告分会側は,弁護士を通した交渉は適切ではない,これでは門前払いである,被害者のことを考えていない等と述べた。その集団の中程にいたP3は,話の途中,突然P24総務課長の前に寄って行き,P24総務課長 分会側は,弁護士を通した交渉は適切ではない,これでは門前払いである,被害者のことを考えていない等と述べた。その集団の中程にいたP3は,話の途中,突然P24総務課長の前に寄って行き,P24総務課長は「もしかしたら殴られるのではないか。」と思ったところ,P26がとても慌てた様子で,P3を制した。その後,P26は,「要求書を置いていくので読んでおいてくれ。」と述べ,原告分会側は上記団体交渉申入書を置いて立ち去った。(以上,乙A8,B26)- 25 -全日本造船機械労働組合P1協議会及び原告分会は,参加人に対し,同月9日付けで,前記平成19年3月5日付けの団体交渉申入書の受取を拒否したことに対する抗議文(乙A9)を送付した。 (エ) P3,P4やP26その他原告分会の関連団体の者であると思われる者達(以下「原告分会関係者」という。)合計約50名は,平成19年3月26日午前11時ころから,東京都港区所在の参加人本社を取り囲み,赤,青,黄色等の幟を10本以上立てて,正面玄関前に横断幕も掲げ,拡声器を使用して街宣を行った。 原告分会関係者のうち7,8名が,同日午前11時40分ころ,参加人本社の玄関ホールに入ったため,受付にいた女性従業員は緊急スイッチを押し,これを受けた同社総務部総務チームリーダーのP35及び同部法務チームリーダーP36は受付に出向き,上記7,8名に対し,「本件は代理人弁護士が対応させていただきます。」「お引き取りください。」と伝えた。しかし,上記7,8名は,P35らに対し,「入れろ。」などと言い,P35らと押し問答になった。 やがて,本社前にいた原告分会関係者も続々とホール内に入り,30名ないし40名ほどがホール内に集結し,幟を多数立てて同所を占拠した。原告分会関係者の中には,ホール内で拡声器を使用して「人殺し 。 やがて,本社前にいた原告分会関係者も続々とホール内に入り,30名ないし40名ほどがホール内に集結し,幟を多数立てて同所を占拠した。原告分会関係者の中には,ホール内で拡声器を使用して「人殺し。」などと怒声をあげる者や,全身白色の防護服に防護マスクまで着用している者もいた。P35らは,ホール内の多数の原告分会関係者に対し,「責任者は不在です。」「本件は代理人弁護士が対応をさせていただきます。」「お引き取り下さい。」と繰り返し退去を求めたが,原告分会関係者らは,「代理人って何や。ふざげんな。」などと叫んで興奮状態であり,立ち去ろうとしなかった。受付の女性従業員2名のうち1名は,以上の経緯の途中で,カウンターにいることに耐えられなくなり,退出した。 - 26 -さらに,原告分会関係者らは,ホールに隣接する1階執務室内に立ち入ろうとし,「乱入するぞ。」「入ろやあ。」などと怒号したため,P35らがホールと執務室を隔てるドアの前に立ち,ドアを押さえて原告分会関係者らの侵入を制止しようとした。 原告分会関係者らは,大勢で上記P35の体ごと執務室のドアを押し,最終的にドア枠を掴むP35の手を引きはがして執務室内に押し入った。侵入した原告分会関係者は,同室内にいた従業員に対し,口々に「おら。こぉらぁ。」「どうなんだよ。」「人殺してんだよ,お前らは。」「さんざん人殺しといて,何やっとんだ,てめえらぁ。」などと大声で怒鳴り,参加人は警察に通報した。 P35らは,その場を収めるため,やむなく担当者2名において,原告分会関係者を代表する6名と本社地下会議室で対応することとし,他の原告分会関係者は執務室を退出して本社前に戻った。 参加人担当者2名及びP3,P4ら原告分会関係者を代表する者6名は,地下会議室に移動したが,P3は,参加人担当 地下会議室で対応することとし,他の原告分会関係者は執務室を退出して本社前に戻った。 参加人担当者2名及びP3,P4ら原告分会関係者を代表する者6名は,地下会議室に移動したが,P3は,参加人担当者らに対し,同室において,「元の体に戻せや。それがだめなら話し合いに応じろ。」と述べ,P4が,「なんちゅう企業や。」と述べ,P3は時に机を叩く等し,参加人担当者らは終始威圧感を受けている様子で対応した。 また,原告分会関係者らは,参加人本社前で,「ニチアスは被害の救済も交渉も行っていない。」「ご近所のみなさん,もしこのニチアスという会社から,アスベストを今からばらまいたら,皆さん,平気でいられますか。」「アスベスト,まきましょうか。まいて,皆さん,吸ってみますか。」「ニチアスがちゃんとした交渉に応じない限り,私たちはもしかしたら,ここでアスベストをまくかもしれませんよ。」などという演説をした。 (以上,乙A31の2,B12,17の1・2,18,19,21,2- 27 -7,C5の1)(オ) 上記の原告分会関係者らの暴力的言動を踏まえて,参加人代理人弁護士らは,平成19年3月27日付けの「抗議文」と題する書面により,前記(エ)の原告分会関係者らの行為について抗議し,その後,同年4月5日付け「ご回答」と題する書面により,第2回団交申入れを正式に拒否する意思を表明した(乙B12,14)。 (2) 認定事実に基づく判断ア第1回団交拒否について(ア) 以上の認定事実のとおり,原告分会結成前,P3は,参加人に対し,自らが元右翼であるなどと名乗って仕事を回すよう要求したり,健康診断の際にも領収証を差し出してタクシー料金を要求するなど威圧的な言動を行っていた。また,P4も,原告分会結成前の平成18年5月23日には,自宅を訪問してきたP 乗って仕事を回すよう要求したり,健康診断の際にも領収証を差し出してタクシー料金を要求するなど威圧的な言動を行っていた。また,P4も,原告分会結成前の平成18年5月23日には,自宅を訪問してきたP25室長に対し,自身が元暴力団構成員であることなどを示して,「お前はおれをなめとんのか。お前は頭をかち割って血を見ないとわからんのか。」などと極めて粗暴な脅迫的言動を行い,治療費名下に月額10万円から20万円の金員を要求するなどしているところ,このようなP4の言動にP25室長が相当な恐怖感を覚えたことは,同室長が上司に「やくざのおどしすかしそのものでした。」と報告していることや,直ちに警察に対応を相談し指導を受けていることからも容易に推認できる。その後も,P3及びP4は,共にP14工場を訪れて金銭の支払を要求し,通りかかった参加人関係者を怒鳴りつけるなどしたものである。 そして,P3及びP4は,第1回団交申入時にも,「おとなしくしてりゃあ,おまえらなめとるんか。」「ごちゃごちゃ言わずに元の体に戻せや。」と怒鳴ったり,「P25は首を振っているだけで話をまともに聞いていない。」等と発言し,P3は机を叩いて「お前ら患者のことを- 28 -考えたことあるんか。」と粗暴な脅迫的言動を繰り返していたものである。 P3及びP4にこのような言動があったことに照らすと,同人らが参加人において稼動した際にアスベストに曝露され,これにより被害を被ったという認識を有していたことを考慮したとしても,参加人が,団体交渉の場において原告らと正常な協議ができない状況にあると考えたことについては,合理的な理由があったと考えられる。 この点について,原告らは,原告分会結成前のP3やP4の言動を団交拒否の正当理由の判断に当たって考慮すべきでないと主張するが,同人 ると考えたことについては,合理的な理由があったと考えられる。 この点について,原告らは,原告分会結成前のP3やP4の言動を団交拒否の正当理由の判断に当たって考慮すべきでないと主張するが,同人らは原告分会の中心人物であること(とりわけ第1回団交申入れの時点では組合員はP3とP4の2名だけであった。),上記各言動は,P3,P4らの参加人に対する補償要求の手段としてされたものであるところ,原告分会から参加人への要求事項にも同様の内容が含まれていること,P3及びP4は第1回団交申入時点でも同様に不穏当な言動をしていることなどに照らすと,原告らの上記主張を採用することはできない。 (イ) さらに,本件においては,P3やP4が,健康診断により胸膜プラークとの診断を受けていたとはいえ,参加人を退職してから第1回団交申入れまで既に42年から49年もの長期間を経過していたことからすれば,参加人としては,原告分会を労組法7条2号の「雇用する労働者の代表者」として取り扱うべきか否かについて疑問を抱いたとしても,無理からぬ事情があったというべきである(参加人の第1回団交拒否がこのような考えに基づくものであったことは,団体交渉としては拒否しつつ,P3やP4個人の権利行使については代理人弁護士を窓口として交渉に応じるとした点からも推察されるところである。)。 (ウ) 以上(ア)(イ)の事情を考慮すれば,原告らの第1回団交申入れを参- 29 -加人が拒否したこと(第1回団交拒否)には,正当な理由があったと認めるのが相当である。 イ第2回団交拒否について(ア) 原告分会結成前及び第1回団交申入時のP3及びP4の言動は,粗暴な脅迫的言動を含む不穏当なものであったことは前記アのとおりであるところ,参加人が,平成18年11月15日付け回答書において,第 (ア) 原告分会結成前及び第1回団交申入時のP3及びP4の言動は,粗暴な脅迫的言動を含む不穏当なものであったことは前記アのとおりであるところ,参加人が,平成18年11月15日付け回答書において,第1回団交申入時のP3及びP4の言動は団体交渉を困難にするものである旨指摘したのに対し,原告らは,同月28日付けの「会社回答に対する抗議文」の中で,「これまで貴社は何人の労働者をアスベストによって殺してきたのか。」とか「盗人猛々しい。」との過激かつ不穏当な文言を用いて応酬し,何ら前記P3及びP4の言動の影響を排除するような措置を採ろうとしていないことに照らすと,参加人が,依然として,団体交渉の場において正常な協議ができない状況にあると考えたこと自体は首肯できるものである。 また,前記ア(イ)のとおり,参加人の立場からすれば,そもそも原告分会については参加人の「雇用する労働者の代表」といえるかどうかについて,疑問を抱いてしかるべき状態であったといえる。とりわけ,第1回団交申入後に新たに加入した組合員(ないし発症者)の中には,参加人に直接雇用されたことがない者も多く存したことからすれば,(P9,P10,P11,P20),参加人がこれらの者の補償問題等について,団体交渉事項とするかについては,一定の検討期間を必要とする状況にあったといえる。 このように,第2回団交申入れがなされた平成19年3月5日当時は,P3やP4の粗暴な言動の影響がなお排除されない状況下にあったといい得るし,のみならず,原告分会の団体交渉当事者としての適格の点や団体交渉事項についても法律的な疑義が生じていたのであるから,参加- 30 -人が,第2回団交申入れの当日,代理人弁護士に対応を一任するとして,同団体交渉申入書を直ちに受領しなかったことが不当であるとはいえな についても法律的な疑義が生じていたのであるから,参加- 30 -人が,第2回団交申入れの当日,代理人弁護士に対応を一任するとして,同団体交渉申入書を直ちに受領しなかったことが不当であるとはいえない。 (イ) このような中,原告分会関係者ら多数人は,平成19年3月26日に,参加人本社を訪れ,同本社玄関ホール内を占拠し拡声器を持ち込んで怒号する等,業務妨害というべき行為をし,さらには,参加人代表取締役社長ないしその委任を受けた者が施設管理権を有し,かつ,ドアの設置により関係者以外の立入りを禁ずる意思が明示されている本社1階執務室内に不法に侵入した上,「人殺してんだよ,お前らは」などと怒鳴るなどの暴力的行為を働き,かかる原告らの暴力的行為を受けて,参加人が,もはや,原告らとの直接の交渉はできないと考え,同年4月5日付けの回答書により,団交拒否の意思を明示したことは前記認定のとおりである。 かかる状況の下での参加人の前記対応はいわば当然のことというべきであって,合理性があることは明らかである。 (ウ) 以上によれば,参加人が,弁護士である代理人による交渉の余地を残して行った第2回団交拒否についても,正当の理由があるというべきである。 第4 結語以上の次第で,処分行政庁の本件命令に違法な点を認めることはできず,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとする。 よって,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 - 31 - 裁判長裁判官白石哲 裁判官西村康一郎 裁判官光本洋 哲 裁判官西村康一郎 裁判官光本洋
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