平成25年5月31日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第32849号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成25年2月4日判決富山県高岡市<以下略>原告キタムラ機械株式会社同訴訟代理人弁護士升永英俊同訴訟復代理人弁護士江口雄一郎同補佐人弁理士佐藤睦奈良県大和郡山市<以下略>被告株式会社森精機製作所同訴訟代理人弁護士中島敏同訴訟代理人弁理士一色健輔同訴訟復代理人弁護士時井真同訴訟復代理人弁理士青木康 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,金1億5000万円及びこれに対する平成22年9月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「工作機械」とする特許権を有する原告が,被告の製造販売に係る工作機械が当該特許権を侵害する旨主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償203億8500万円(特許法102条3項による推 定)の一部請求として1億5000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成22年9月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金) 00万円(特許法102条3項による推 定)の一部請求として1億5000万円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成22年9月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告は,工作機械の製造,販売等を業とする会社である。 被告は,工作機械の製造,販売等を業とする会社である。 (2) 原告の特許権ア原告は,次の特許権を有する(以下「本件特許権」という。本件特許権に係る特許公報〔甲2〕を末尾に添付する。)。 発明の名称工作機械特許番号第3388498号出願日平成8年12月25日出願番号特願平8-355814登録日平成15年1月17日イ本件特許権の特許請求の範囲の請求項1~3の記載は,次のとおりである(以下,請求項1~3に係る特許発明を個別に特定する場合には「本件発明1」などといい,併せて「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を併せて「本件特許」という。)。 「【請求項1】コラムのような固定部(11)に配置した移動体(13)を第1軸及び第2軸方向に駆動する構成の工作機械において,固定部(11)に2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を互いに平行に配置し,第1軸駆動手段(α1,α2)によって第1軸方向に駆動される移動ベース(14)を固定部(11)に設け,移動ベース(14)に2個の第2軸駆動手段(β1,β2)を互いに平行に配置し,移動体(13)を第2軸駆動手段(β1,β2)により第2軸方向に駆動する構成にし, 各駆動手段(α1,α2,β1,β2)を制御 14)に2個の第2軸駆動手段(β1,β2)を互いに平行に配置し,移動体(13)を第2軸駆動手段(β1,β2)により第2軸方向に駆動する構成にし, 各駆動手段(α1,α2,β1,β2)を制御するための制御装置(40)を設け,制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものであることを特徴とする工作機械。 【請求項2】第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を操作することによって第1・2軸の直角度を補正することを特徴とする請求項1に記載の工作機械。 【請求項3】移動体(13)が,第3軸方向に移動可能なスピンドル(19)を備えたスピンドルヘッド(12)として構成されていることを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の工作機械。」ウ本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件1-A」などという。)。 (ア) 本件発明1の分説1-A コラムのような固定部(11)に配置した移動体(13)を第1軸及び第2軸方向に駆動する構成の工作機械において,1-B 固定部(11)に2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を互いに平行に配置し,1-C 第1軸駆動手段(α1,α2)によって第1軸方向に駆動される移動ベース(14)を固定部(11)に設け,1-D 移動ベース(14)に2個の第2軸駆動手段(β1,β2)を互いに平行に配置し,1-E 移動体(13)を第2軸駆動手段(β1,β2)により第2軸方向に駆動する構成にし,1-F 各駆動手段(α1,α2,β1,β2)を制御するための制御装置(40)を設け 1-E 移動体(13)を第2軸駆動手段(β1,β2)により第2軸方向に駆動する構成にし,1-F 各駆動手段(α1,α2,β1,β2)を制御するための制御装置(40)を設け,1-G 制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)の ゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものである1-H ことを特徴とする工作機械。 (イ) 本件発明2の分説2-A 第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を操作することによって第1・2軸の直角度を補正する2-B ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械。 (ウ) 本件発明3の分説3-A 移動体(13)が,第3軸方向に移動可能なスピンドル(19)を備えたスピンドルヘッド(12)として構成されている3-B ことを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の工作機械。 (3) 被告の行為ア被告は,別紙物件目録記載の各工作機械(以下,個別に特定する場合には同目録記載の符号に従って「被告製品1」などといい,併せて「被告製品」という。)のうち,被告製品1を遅くとも平成17年9月から現在まで販売し,被告製品2を平成16年3月から少なくとも平成20年7月まで製造・販売していた(弁論の全趣旨)。 イ被告製品1は,構成要件1-A~1-F,1-Hを充足する(符号は別紙被告製品1模式図のものである。)。 (ア) 被告製品1は,工作機械であって,コラム10に配置された移動部20をZ1軸及びX1軸方向に駆動するから,構成要件1-Aを充足する。 (イ) 被告製品1は,コラム10に互いに平 (ア) 被告製品1は,工作機械であって,コラム10に配置された移動部20をZ1軸及びX1軸方向に駆動するから,構成要件1-Aを充足する。 (イ) 被告製品1は,コラム10に互いに平行に配置されたボールねじ30及び32を有し,ボールねじ30及び32の一端にはそれぞれZ1軸 サーボモータ34及び36が設けられており,ボールねじ30及び32並びにZ1軸サーボモータ34及び36は,第1軸駆動手段に相当するから,構成要件1-Bを充足する。 (ウ) 被告製品1は,コラム10に移動部40を有し,移動部40がボールねじ30及び32に係合しており,Z1軸サーボモータ34及び36によって,Z1軸方向に駆動されるから,構成要件1-Cを充足する。 (エ) 被告製品1は,移動部40に互いに並行に配置されたボールねじ50及び52を有し,ボールねじ50及び52の一端にはそれぞれX1軸サーボモータ54及び56が設けられ,ボールねじ50及び52並びにX1軸サーボモータ54及び56は,第2軸駆動手段に相当するから,構成要件1-Dを充足する。 (オ) 被告製品1は,移動部20がボールねじ50及び52に係合しており,X1軸サーボモータ54及び56によって,X1軸方向に駆動されるから,構成要件1-Eを充足する。 (カ) 被告製品1は,Z1軸サーボモータ34及び36並びにX1軸サーボモータ54及び56をそれぞれ制御する装置を有するから,構成要件1-Fを充足する。 (キ) 被告製品1は,工作機械であるから,構成要件1-Hを充足する。 ウ被告製品2は,構成要件1-A~1-F,1-Hを充足する(符号は別紙被告製品2模式図のものである。)。 (ア) 被告製品2は,工作機械であって,コラム10に配置され を充足する。 ウ被告製品2は,構成要件1-A~1-F,1-Hを充足する(符号は別紙被告製品2模式図のものである。)。 (ア) 被告製品2は,工作機械であって,コラム10に配置された移動部20をX軸及びY軸方向に駆動するから,構成要件1-Aを充足する。 (イ) 被告製品2は,コラム10に互いに平行に配置されたボールねじ30及び32を有し,ボールねじ30及び32の一端にはそれぞれX軸サーボモータ34及び36が設けられており,ボールねじ30及び32並びにX軸サーボモータ34及び36は,第1軸駆動手段に相当するから, 構成要件1-Bを充足する。 (ウ) 被告製品2は,コラム10に移動部40を有し,移動部40がボールねじ30及び32に係合しており,X軸サーボモータ34及び36によって,X軸方向に駆動されるから,構成要件1-Cを充足する。 (エ) 被告製品2は,移動部40に互いに並行に配置されたボールねじ50及び52を有し,ボールねじ50及び52の一端にはそれぞれY軸サーボモータ54及び56が設けられ,ボールねじ50及び52並びにY軸サーボモータ54及び56は,第2軸駆動手段に相当するから,構成要件1-Dを充足する。 (オ) 被告製品2は,移動部20がボールねじ50及び52に係合しており,Y軸サーボモータ54及び56によって,Y軸方向に駆動されるから,構成要件1-Eを充足する。 (カ) 被告製品2は,X軸サーボモータ34及び36並びにY軸サーボモータ54及び56をそれぞれ制御する装置を有するから,構成要件1-Fを充足する。 (キ) 被告製品2は,工作機械であるから,構成要件1-Hを充足する。 2 争点(1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。 有するから,構成要件1-Fを充足する。 (キ) 被告製品2は,工作機械であるから,構成要件1-Hを充足する。 2 争点(1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。 ア被告製品の構成要件1-Gの充足性(争点1-1)イ被告製品の構成要件2の充足性(争点1-2)ウ被告製品1の構成要件3の充足性(争点1-3)(2) 本件特許が無効審判により無効にされるべきものか。 ア記載要件違反の有無(争点2-1)イ乙5号証に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点2-2)(3) 損害額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 被告製品の構成要件1-Gの充足性(争点1-1)(原告の主張)ア構成要件1-Gは,X軸又はY軸において平行に配置された2本のボールネジ(2つの駆動手段α1及びα2又はβ1及びβ2)のゼロ設定を個々に補正することにより,X軸とY軸との角度誤差や,移動体(13)の姿勢を補正するものである。換言すれば,被告製品において,各ボールネジのゼロ設定を個々に補正できるのであれば,そのことは,被告製品が構成要件1-Gを充足することを意味する。 被告は,本件発明が,角度誤差を測定する手段を有することを規定していると主張するが,構成要件1-Gは「角度誤差」の有無やその値を測定する手段など,何ら規定していない。 イ被告製品1の充足性(符号は別紙被告製品1模式図のものである。)被告製品1は,甲5号証(被告製品1のユーザーズマニュアル)において,「“n”に軸名称が表示されます。n軸が次の場合はそれぞれ対応する軸の原点位置の確立が必要になります。」(2-719頁左欄3~5行),「3)原点位置調整を有効にする ユーザーズマニュアル)において,「“n”に軸名称が表示されます。n軸が次の場合はそれぞれ対応する軸の原点位置の確立が必要になります。」(2-719頁左欄3~5行),「3)原点位置調整を有効にする。」(同欄13行)と記載されているとおり,Z1軸及びX1軸のそれぞれについて,原点位置を調整できる。また,被告製品1は,「n軸の表示」の「XS」に「対応する軸」として,「X軸2(X1軸の2つのボールねじの1つ)」,「n軸の表示」の「ZS」に「対応する軸」として,「Z軸2(Z1軸の2つのボールねじの1つ)」(同欄の表)と記載されているとおり,ボールねじ30及び32並びに50及び52のそれぞれについて,原点位置を調整できる。 以上のとおり,被告製品1は,ボールねじ30,32,50及び54のそれぞれについて,原点位置を調整,すなわちゼロ設定を補正できる。また,被告製品1において,ボールねじ30,32,50及び54のそれぞれについて,ゼロ設定が補正されると,Z1軸及びX1軸の角度誤差が当 然補正されるし,それに伴い,Z1軸及びX1軸方向に移動する移動部20の姿勢も,当然補正される。 なお,被告製品1においても,「NCパラメータNo.8326」を調整して各ボールねじのゼロ点を設定していることからすれば,被告製品2と同様に,それぞれ2本のボールねじからなるX軸とZ軸の間の角度補正が行われていることが合理的に推認される。 したがって,被告製品1は,構成要件1-G(「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものである」)を充足する。 ウ被告製品2の充足性(符号は別紙被告製品2模式図のものである。)被告製品2は,甲 設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものである」)を充足する。 ウ被告製品2の充足性(符号は別紙被告製品2模式図のものである。)被告製品2は,甲7号証(被告製品2のサービスマニュアル)において,「19.2相対座標,絶対座標及び機械座標が画面に表示される。」と記載されており(18頁),また,「相対座標」,「絶対座標」,「機械座標」及び「残り距離」が記載された画面の一例に示すとおり,機械座標において,X軸のマスタ軸(ボールねじ30に対応する軸)とスレーブ軸(ボールねじ32に対応する軸)との間には「0.005」のずれがあり,Y軸のマスタ軸(ボールねじ50に対応する軸)とスレーブ軸(ボールねじ52に対応する軸)との間には「0.008」のずれがある(同頁)。 また,「19.3マスタ軸(X-,Y-,Z-軸)機械座標が“0.000”であることを確認し,そしてスレーブ軸(“X”,“Y”,“Z”)機械座標がグリッドずれ(P)である。グリッドずれ(P)を,下記の例を参照して算出する。」(19頁),「20.ステップ19で計算されたグリッドずれ値を,次のステップに従い,NCパラメータNo.8326に入力する。(NCパラメータNo.8326:マスタ軸とスレーブ軸との間のリファレンスカウンタのずれ(グリッドのずれ))」(19頁)と記載されているとおり,被告製品2は,ボールねじ30及び32並びに5 0及び52のそれぞれについて,それらの機械座標の原点位置を調整できる。 以上のとおり,被告製品2は,ボールねじ30,32,50及び52のそれぞれについて,原点位置を調整,すなわちゼロ設定を補正できる。また,被告製品2において,ボールねじ30,32,50及び52のそれぞれについて,ゼロ設定が補正される ねじ30,32,50及び52のそれぞれについて,原点位置を調整,すなわちゼロ設定を補正できる。また,被告製品2において,ボールねじ30,32,50及び52のそれぞれについて,ゼロ設定が補正されると,X軸及びY軸の角度誤差が当然補正されるし,それに伴い,X軸及びY軸方向に移動する移動部20の姿勢も,当然補正される。 したがって,被告製品2は,構成要件1-G(「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものである」)を充足する。 エ乙18号証(被告製品2のサービスマニュアル)の2/22頁では,③の手順とおり,「機械原点位置の調整・確立の必要が無く」が「No」の場合(「機械原点位置の調整・確立の必要」がある場合),④~⑫の手順により「機械原点位置の調整・確立」を行う。最後の手順⑫は機械原点位置確立操作である。 そして,「機械原点位置の調整・確立の必要が無く」が「Yes」の場合,すなわち「機械原点位置の調整・確立」が「不必要」である場合は,乙18号証の2/22頁の既存の原点設定(既存のゼロ点設定)のパラメータ・8326(=“既存値”)を,⑭~を行って,[既存値]から[既存値+P]に補正して手動入力し(⑳参照),で補正された原点位置を確立する。 このとおり,同期制御軸(X軸のマスタ軸とX軸のスレーブ軸)において,乙18号証の2/22頁の左列(④~⑫)の⑨~⑫でX軸のマスタ軸とX軸のスレーブ軸の間のグリッドずれ量(Aの数値)を特定して,これをパラメータ・8326に自動設定して,原点設定(ゼロ点設定)する。 すなわち,マスタ軸とスレーブ軸とのグリッド差が設定(ゼロ点)され,「同期制御」が確立する。 Aの数値)を特定して,これをパラメータ・8326に自動設定して,原点設定(ゼロ点設定)する。 すなわち,マスタ軸とスレーブ軸とのグリッド差が設定(ゼロ点)され,「同期制御」が確立する。 次いで,乙18号証の2/22頁の右列(⑭~)の⑮~⑳で,X軸のマスタ軸とX軸のスレーブ軸の間の更なるグリッドずれ量(Pの数値)を特定し,パラメータ・8326に[A+P]を手動入力し,で「補正された原点の設定」,すなわち「補正されたゼロ点の設定」を行う(パラメータ・8326〔=A〕を[A]から[A+P]の合計値に補正する。)。 ⑲で「グリッドずれ量(P)の計算」を行い,⑳でPを“既存値”(乙18の2/22頁の左列でいえば,⑨の“A”を意味する。)に加算して,[“既存値”+“P”]の値をパラメータ「8326」に手動入力する。 詳述すると,乙18号証の2/22頁の左列の⑫の手順(機械原点位置確立操作。ただし,⑨が示すとおり,8326=“A”)の後に,⑫で確立された機械原点設定のパラメータ・8326(=“A”)を,⑲の手順で計算して得たPだけAに加算して補正して(パラメータ・8326を[A]から[A+P]に補正して),⑮~の手順で,⑫の手順(機械原点位置確立操作)で確立した原点設定を補正する。 マスタ軸とスレーブ軸との間で,ゼロ点が補正されるのであるから,平行に配置されたマスタ軸とスレーブ軸の2軸によって駆動される移動体は,当然,その姿勢が,ゼロ点の補正分量だけ傾くことになる。被告が主張する「マスタ軸とスレーブ軸のサーボモータのロード差を最小化する作業」は,移動体の姿勢を傾けていることにほかならない。 (被告の主張)ア原告の主張アのうち,第1文を認め,第2文は争う。同イ~エは否認す レーブ軸のサーボモータのロード差を最小化する作業」は,移動体の姿勢を傾けていることにほかならない。 (被告の主張)ア原告の主張アのうち,第1文を認め,第2文は争う。同イ~エは否認する。 イ乙4号証(甲5の原本)の2-719頁は,バッテリ交換時にユーザーの操作ミスを原因としてアラームが発生する場合があり,これに対処して 「原点位置に復帰する」ための手順を具体的に説明したものである。 (ア) ①被告製品1において,X軸,Y軸を所定位置まで駆動させるためには,その原点を定める必要がある(「原点位置」は,乙4では「レファレンス点」の文言も用いられているが,これらは同一の位置を指している。)。②被告製品1において,「原点位置」は制御装置内のメモリに記憶されており,そのバッテリ(単1電池4個)の交換はNC電源を投入した状態で行わなければならない。しかし,稀なことではあるが,ユーザーミスでNC電源を遮断した状態でバッテリを交換することがある。このような場合には,メモリ内のデータが消失し,アラームが発生する(2-684頁)。画面には,X1,XS(X軸2),Z1,ZS(Z軸2)のように「原点位置」が喪失した軸名が表示される(2-719頁)。③上記のようなアラーム発生の事態に対処して「原点位置復帰」を行うための手順が次のように記載されている。 1)まず,バッテリを交換する。 2)次に,オペレーションパネル画面を表示させる。 3)「原点位置」調整を有効とする(2-719頁)。ここにいう「『原点位置』調整」とは「原点位置」を確立させること,すなわち「原点位置」復帰を行うことを意味する(2-721頁)。また「有効とする」とは,オペレーションパネル画面上に表示される「原点位置調整,無効/有 位置』調整」とは「原点位置」を確立させること,すなわち「原点位置」復帰を行うことを意味する(2-721頁)。また「有効とする」とは,オペレーションパネル画面上に表示される「原点位置調整,無効/有効」のうち「有効」を選択することによって,「原点位置」調整,すなわち「原点位置復帰」の機能を設定することを意味する(2-75頁)。 4)ハンドル送り操作の準備をする(2-719頁)。 5)「原点位置」を確立する軸のモータの1回転信号をNCに読み込ませる(2-720頁)。 6)手動パルス発生器のハンドルを回し,軸を所定のとおり移動させ る。 7)さらに,モード選択ボタン【原点復帰】を押し,まず微調送り,次に手動軸送りボタンを押す。軸が原点に接近し,「原点位置」において自動的に停止する(2-721頁)。 他方,誤った位置,すなわち本来の「原点位置」と異なった位置で原点が確立された場合は,パラメータの変更が必要となるので,ユーザーでは復旧できず,メーカーのサービス部門の対処が必要となる(2-721頁)。 以上のとおり,乙4号証には,ユーザーの操作ミスにより原点位置が消失してアラームが発生したという,極めて稀な場合に,本来の「原点位置」に復帰するための手順が記載されているのであって,「ゼロ設定の補正」,すなわち「『原点位置』の変更」について記載したものではない。 (イ) 乙4号証の2-719頁において,「Xl」は「Xマスター」,「XS」は「Xスレイブ」を意味し,「XS」は「Xl」と同期しているので,「XS」の原点復帰は「Xl」の原点復帰と同期して行われる。 同様に,「Zl」は「Zマスター」,「ZS」は「Zスレイブ」を意味し,「ZS」の原点復帰は「Zl」の 「XS」は「Xl」と同期しているので,「XS」の原点復帰は「Xl」の原点復帰と同期して行われる。 同様に,「Zl」は「Zマスター」,「ZS」は「Zスレイブ」を意味し,「ZS」の原点復帰は「Zl」の原点復帰と同期して行われる。 このように,X軸の2本のボールネジである「Xl」と「XS」は同期して同時に原点復帰し,同様に2本のボールネジである「Zl」と「ZS」も同期して同時に原点復帰する。原点復帰の動作を行う軸は,マスターとスレイブで個別に選択することはできず,X軸,またはZ軸のように2本のボールねじを常に一緒にして1つの軸として選択することしかできない。 被告製品1においては,「Xl」と「XS」それぞれが個々に原点復帰するのではない。 ウ被告製品は,「直角度の誤差」や「移動体の傾き」を測定し,これをサーボモータの回転量に換算する機能を有しないから,構成要件1-Gを充足しない。 (ア) 「直角度の誤差」や「移動体の傾き」を補正するためには,まず,「直角度の誤差」や「移動体の傾き」の有無及びその具体的な誤差量を測定し,そのうえでこれをサーボモータの回転量に換算し,換算した回転量だけサーボモータを回転させることが必須である。 (イ) 本件明細書にも,この手段が次のように明記されている。 「【0032】1)X軸及びY軸の直角度を,JISに基づく方法で測定する。 【0033】2)前記直角度の誤差を,X1,X2補正値データに換算する。 【0034】3)前記換算値に基づいて,サーボモータ21,22の同期のゼロ設定を補正する。」(ウ) したがって,構成要件1-Gを実施するためには,①「補正すべき直角度の誤差や移動体の姿勢の誤りが存在するのか 換算値に基づいて,サーボモータ21,22の同期のゼロ設定を補正する。」(ウ) したがって,構成要件1-Gを実施するためには,①「補正すべき直角度の誤差や移動体の姿勢の誤りが存在するのか否か」及び「その誤差量がどの値であるのか」を測定して装置がこれを認識し,かつ,②「測定された上記誤差量を」X1,X2の「サーボモータの回転数に換算し」,③「上記換算値に基づいて,サーボモータの同期のゼロ設定を補正する」ことがいずれも必須であり,これらの測定や換算がされなければ構成要件1-Gの技術を実施することができない。このことは技術常識からも当然のことである。 (エ) しかし,被告製品は,㋐被告製品1につきX軸,Y軸,被告製品2につきZ軸とX軸,X軸とY軸の「直角度の誤差」の有無及び「誤差値」を測定する手段,㋑「直角度の誤差値」を「サーボモータの回転数」に換算する手段,㋒「直角度の誤差値」に基づいて「サーボモータ の同期のゼロ設定」を補正する手段を有しないから,構成要件1-Gを充足するものでない。 エ被告製品は,頑丈,精密に組立てられており,充分な耐久性を有しているから,そもそも本件発明が解決課題とする直角度の「誤差」が,そもそも発生しない。 (ア) 被告製品1では,Z軸ガイドレールと,X軸ガイドレールとが,JIS規格(20μm/500mm)を上回る厳格な社内基準に基づいて,機械的に直角となるように組み立てられ,頑丈な構造体を構成している。 機械組み立てにおいて,Z軸ガイドレール上の計4個のリニアガイド上に,移動体であるサドルを取り付けて固定する際に,リニアガイド上でのサドルの傾きを精度良く調整するために,下側の2個のリニアガイドとサドルとの間に鋼鉄製のスペーサを挿入し,直角度が社内基準値 イド上に,移動体であるサドルを取り付けて固定する際に,リニアガイド上でのサドルの傾きを精度良く調整するために,下側の2個のリニアガイドとサドルとの間に鋼鉄製のスペーサを挿入し,直角度が社内基準値以内になるようにそれぞれのスペーサを0.001mm(すなわち,1μm)単位で研磨し,直角度が基準値以内に収まった状態でサドルとリニアガイドをボルトで締め付けて固定している。 移動体であるサドルは,計4個のリニアガイドに係合しつつZ軸ガイドレールに案内されて移動し,移動体であるクロススライドは,計4個のリニアガイドに係合しつつX軸ガイドレールに案内されて移動する。 これによりZ軸とX軸の直角度が維持され,またサドルやクロススライドの姿勢が常に一定に保持されている。 (イ) 被告製品2では,Z軸ガイドレールとX軸ガイドレール,X軸ガイドレールとY軸ガイドレールとが,JIS規格を上回る厳格な社内基準に基づいて,機械的に直角となるように組み立てられ,頑丈な構造体を構成している。 移動体であるコラム10は,計4個のリニアガイドに係合しつつZ軸ガイドレールに案内されて移動し,移動体であるサドルも計4個のリニ アガイドに係合しつつX軸ガイドレールに案内されて移動する。そして,クロススライドは,計4個のリニアガイドに係合しつつY軸ガイドレールに案内されて移動する。これによりZ軸とX軸,X軸とY軸の直角度が維持され,またコラムやサドル,クロススライドの姿勢が常に一定に保持されている。 オ甲7号証(被告製品2のサービスマニュアル),乙18号証(被告製品2のサービスマニュアル),乙19号証(被告製品1のFAQ)の記載は,同期制御が既に確立しているサーボモータにおけるゼロ設定を補正する技術を記載したものではなく スマニュアル),乙18号証(被告製品2のサービスマニュアル),乙19号証(被告製品1のFAQ)の記載は,同期制御が既に確立しているサーボモータにおけるゼロ設定を補正する技術を記載したものではなく,同期制御機能が喪失した場合に,同期制御を新たに確立する技術を記載したものである。 (ア) 本件発明1の特徴である「各駆動手段のゼロ設定を補正し」,これによって「第1・2軸の角度誤差や移動体の姿勢を補正する」ためには,その前提として,駆動装置は,第1軸,第2軸を構成する各2個の駆動手段(α1,α2,β1,β2)について同期制御を既に確立していることが必須である。けだし,同期制御が確立していなければ,第1軸の2個の駆動手段α1,α2について,その操作すべき量を制御することもできず,第2軸の2個の駆動手段β1,β2についても同様であるから,本件発明1は,駆動手段α1とα2,β1とβ2について同期制御が確立していることを前提とした発明であることが明らかである。 本件明細書にも,「【0034】3 前記換算値に基づいて,サーボモータ21,22の同期のゼロ設定を補正する。」ことが明記されている。「サーボモータ21,22の同期のゼロ設定を補正する」とは,既に同期制御された状態にあることを利用して駆動手段α1のサーボモータと駆動手段α2のサーボモータに基づいてゼロ設定を行うものであることを確認的に記載したものにほかならない。 (イ) これに対し,甲7号証,乙18号証,乙19号証は,同期制御機能 が喪失した場合に,新たに同期制御を確立するための作業を記載したものであって,既に同期制御が確立している状態を利用して駆動手段のゼロ設定を補正する本件発明1とは全く関係がない。また,駆動手段のゼロ設定を補正することによって,第1 を確立するための作業を記載したものであって,既に同期制御が確立している状態を利用して駆動手段のゼロ設定を補正する本件発明1とは全く関係がない。また,駆動手段のゼロ設定を補正することによって,第1・2軸の角度誤差やこれによって生ずる移動体の姿勢を補正するものでもない。 乙18号証,乙19号証に記載の作業は次のような場合に行われる。 すなわち,サーボモータやボールねじの交換,ベアリングの転がり案内面の損傷,潤滑油切れ等機械の不具合に対する修理,交換等を行った場合には,サーボモータの一回転信号の発信位置が異なることに起因して,従来の同期制御機能は喪失してしまう。このため,新たに同期制御を確立しなければならない。この作業の要点は,交換後のサーボモータの一回転信号発信位置を基準としたグリッドシフト量の差をパラメータ8326に入力して同期制御状態を回復することである。このような同期制御状態を回復する具体的作業を記載したのが,乙18号証,乙19号証である。 乙18号証,乙19号証に記載された作業は出荷前の作業と同じである。当該作業において直角度を測定し,直角度の誤差をX1,X2補正値データに換算することはない。 (ウ) パラメータ8326は,正確な同期制御を実現するため,計測・計算したマスタ軸とスレーブ軸のグリッドシフト量の差を,そのまま機械に記憶・反映させるためのパラメータである。そうである以上,当該パラメータを変えたところでサーボモータはそもそも回転しないから,パラメータ8326の使用や調整で,「第1・2軸の角度誤差や移動体」「の姿勢を補正する」ということがあり得ない。 カ乙18号証の2/22頁の右列の作業手順は,以下のとおりである。乙18号証の右列の手順は,一言でいえば,グリッドシフト量の差の手 差や移動体」「の姿勢を補正する」ということがあり得ない。 カ乙18号証の2/22頁の右列の作業手順は,以下のとおりである。乙18号証の右列の手順は,一言でいえば,グリッドシフト量の差の手動設 定である。 作業内容乙18左列乙18右列乙19Ⅰ負荷の差が最小となる位置に調整に調整 Ⅱグリッドシフト量の差を「8326」へ設定(取込み)及び有効化 自動18~24手動 自動Ⅲ全ストロークの負荷が許容範囲内 17,25記載がないが実施(ア) ロード差最小化作業(作業Ⅰ)は,本件特許出願時点において,ツインドライブ方式の工作機械において,サーボモータを同期制御のもとに持続的に駆動させるための技術常識であり,これを行わないと,送り駆動系の劣化を早めたり,電力消費量を増大させる等の問題が生じる。 ロード差最小作業においては,作業員がロードメータを見ながら,マスタ軸とスレーブ軸のロード差が最小となる最適の同期位置を探すのみであり,ディスプレイには第1・2軸の角度誤差や移動体の姿勢誤差等は表示もされないし,実際にも計測していない。移動体の姿勢の誤差等の補正とは無関係の作業である。 ロード差最小化作業では,原告の主張する「原点の補正」を行っていない。負荷の差(ロード差)が最小となる位置に調整する作業は,原点位置を補正するのではなく,移動体に対する移動指令によって行われているから,構成要件1-Gを充足しない。 (イ) グリッドシフト量の差を「8326」へ設定(取込み)及び有効化する作業(作業Ⅱ)においては,そもそも片軸のサーボモータのみが物理的に回転することはなく,移動体の角度誤差等の補正はあり得ないか イ) グリッドシフト量の差を「8326」へ設定(取込み)及び有効化する作業(作業Ⅱ)においては,そもそも片軸のサーボモータのみが物理的に回転することはなく,移動体の角度誤差等の補正はあり得ないから,構成要件1-Gを充足しない。 (2) 被告製品の構成要件2の充足性(争点1-2)(原告の主張)ア被告製品1の充足性(符号は別紙被告製品1模式図のものである。)(ア) 被告製品1は,ボールねじ30及び32と,ボールねじ50及び52は,実質的に直角に配置されている。また,上記(1)(原告の主張)イのとおり,被告製品1は,ボールねじ30,32,50及び54のそれぞれについて,ゼロ設定を補正でき,それによって,Z1軸及びX1軸の角度誤差,すなわち直角度が補正される。 したがって,被告製品1は,構成要件2-A(「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を操作することによって第1・2軸の直角度を補正する」)を充足する。 (イ) 上記(1)(原告の主張)イのとおり,被告製品は,構成要件2-B(「ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械。」)を充足する。 イ被告製品2の充足性(符号は別紙被告製品2模式図のものである。)(ア) 被告製品2は,ボールねじ30及び32と,ボールねじ50及び52は,実質的に直角に配置されている。また,上記(1)(原告の主張)ウのとおり,被告製品2は,ボールねじ30,32,50及び52のそれぞれについて,ゼロ設定を補正でき,それによって,X軸及びY軸の角度誤差,すなわち直角度が補正される。 したがって,被告製品2は,構成要件2-A(「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手 でき,それによって,X軸及びY軸の角度誤差,すなわち直角度が補正される。 したがって,被告製品2は,構成要件2-A(「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を操作することによって第1・2軸の直角度を補正する」)を充足する。 (イ) 上記(1)(原告の主張)ウのとおり,被告製品2は,構成要件2-B(「ことを特徴とする請求項1に記載の工作機械。」)を充足する。 (被告の主張)原告の主張はいずれも否認する。被告製品は,「直角度の誤差」や「移動 体の傾き」を測定し,これをサーボモータの回転量に換算する機能を有さず,「直角度の誤差」に基づいてサーボモータの同期設定を補正することもできないから,構成要件1-G及び構成要件2を充足しない。 (3) 被告製品1の構成要件3の充足性(争点1-3)(原告の主張)被告製品1は,Y軸方向に移動可能な工具主軸60,すなわちスピンドルヘッドを有するから(符号は別紙被告製品1模式図のものである。),構成要件3-A(「移動体(13)が,第3軸方向に移動可能なスピンドル(19)を備えたスピンドルヘッド(12)として構成されている」)を充足する。また,上記(1)(原告の主張)イ及び(2)(原告の主張)アのとおり,被告製品1は,構成要件3-B(「ことを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の工作機械。」)を充足する。 (被告の主張)原告の主張は否認する。被告製品1は,構成要件1-G及び構成要件2,3を充足しない。 (4) 記載要件違反の有無(争点2-1)(被告の主張)ア明確性要件違反本件発明1に係る請求項(構成要件1-G)は,「駆動手段(α1,α2,β1, 充足しない。 (4) 記載要件違反の有無(争点2-1)(被告の主張)ア明確性要件違反本件発明1に係る請求項(構成要件1-G)は,「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」と記載されているが,「ゼロ設定」が何を意味するかについては,本件明細書に定義がない。さらに,「ゼロ」とはどのような位置を意味するのか,「ゼロ設定」とは何か,「ゼロ設定を補正」はどのように行うことなのかを説明する記載は全く存在しない。 次に,この「ゼロ設定を補正」することと「第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」こととの関連についても不明である。す なわち,「ゼロ設定を補正」することと「第1・2軸の角度誤差」を「補正する」こととの関連及び「ゼロ設定を補正」することと「移動体(13)の姿勢」を「補正する」こととの関連,それぞれについて不明である。 本件明細書の発明の詳細な説明には,「ゼロ設定を補正」することに関して,「サーボモータ21,22の同期のゼロ設定を補正する。」(【0034】),「ゼロ設定の補正は,移動指令部52,53及びエンコーダ54,55を利用したフィードバック方式で行うことができる。」(【0035】)の記載しか存在せず,「ゼロ設定」が何を意味し,「同期」のために何をどのようにして「ゼロ設定を補正する」のか具体的に説明されていないから,発明の詳細な説明を考慮しても,相変わらず不明である。 また,技術常識を考慮しても,「ゼロ設定を補正」することの意味が特定されないため明確でないし,「ゼロ設定を補正」することと「第1・2軸の角度誤差」を「補正する」こととの関連及び「ゼロ設定を補正」することと「移動体(13)の姿勢を ロ設定を補正」することの意味が特定されないため明確でないし,「ゼロ設定を補正」することと「第1・2軸の角度誤差」を「補正する」こととの関連及び「ゼロ設定を補正」することと「移動体(13)の姿勢を補正する」こととの関連,それぞれについても特定することができない。 以上のとおり,本件特許は,特許法36条6項2号の要件(明確性要件)を満たしていない。 イ実施可能要件違反本件明細書には,本件発明1は,第1軸に沿って互いに平行に配置される2個の「第1軸駆動手段(α1,α2)」と,第2軸に沿って互いに平行に配置される2個の「第2軸駆動手段(β1,β2)」と,「制御装置(40)」とを設け,「制御装置(40)」が「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」ことにより,2つの駆動系の角度誤差と移動体の姿勢を容易かつ正確に補正することができるという効果を奏する,と記載されているのであるから(【0051】),2つの駆動系の角度誤差と移動 体の姿勢を容易かつ正確に補正させるための具体的手段として,「制御装置(40)」が「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」ことについての技術的事項は,本件明細書の発明の詳細な説明において,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。 しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明1(構成要件1-G)の「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」に関する実施例の記載は,【0034】【0035】にし 件1-G)の「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」に関する実施例の記載は,【0034】【0035】にしか存在せず,当該段落の記載を見ても,「ゼロ設定」が何を意味し,「同期」のために何をどのようにして「ゼロ設定を補正する」のか,当業者には理解することができない。 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,平成14年法律24号による改正前の特許法36条4項の要件(実施可能要件)を満たしていない。 (原告の主張)構成要件1-Gの記載は明確であり,本件明細書において当業者が実施可能な程度に記載されたものである。 (5) 乙5号証に基づく新規性・進歩性欠如の有無(争点2-2)(被告の主張)ア新規性の欠如(ア) 本件発明は,その出願日前に刊行された特開昭63-16286(乙5・公開日昭和63年1月23日)に記載された発明(以下「乙5発明」という。)と同一であり,新規性を欠くものである。 (イ) 本件発明1について 本件発明1と乙5発明は,以下のとおり同一である。 a 構成要件1-Aについて乙5発明は,「ベット1」に配置した「テーブル29」を「X軸」及び「Y軸」方向に駆動する構成の工作機械であることが明らかであるから(第1図参照),乙5号証には,構成要件1-Aと一致する構成が開示されている。 b 構成要件1-Bについて乙5発明は,「ベット1」に「2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5」を互いに平行に配置しているから(第1図参照),乙5号証には,構成要件1-Bと一致する構成が開示されている。 乙5発明は,「ベット1」に「2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5」を互いに平行に配置しているから(第1図参照),乙5号証には,構成要件1-Bと一致する構成が開示されている。 c 構成要件1-Cについて乙5発明は,「ベット1上に設けた2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5」によってその「X軸」方向に駆動される「サドル3」を「ベット1」に設けているから(第1図参照),乙5号証には,構成要件1-Cと一致する構成が開示されている。 d 構成要件1-Dについて乙5発明は,「サドル3」に「2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5」を互いに平行に配置しているから(第1図参照)乙5号証には,構成要件1-Dと一致する構成が開示されている。 e 構成要件1-Eについて乙5発明は,「テーブル29」を「サドル3上に設けた2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5」により「Y軸」方向に駆動する構成になっているから(第1図参照),乙5号証には,構成要件1-Eと一致する構成が開示されている。 f 構成要件1-Fについて乙5発明は,各「サーボモータ5」を制御するための「NC装置 7」を設けているから(2頁右上欄8行~16行),乙5号証には,構成要件1-Eと一致する構成が開示されている。 g 構成要件1-Gについて(a) 本件明細書の記載及び図面(特に図6)を手掛かりにすると,本件発明の構成1-Gに関連するものとして次のように記載されている。 「XY直角度」を測定し,→XY直角度測定データに基づいて,これを→X1,X2軸補正値データに換算し,これにより→X1軸移動指令,X2軸移動指令を発し 次のように記載されている。 「XY直角度」を測定し,→XY直角度測定データに基づいて,これを→X1,X2軸補正値データに換算し,これにより→X1軸移動指令,X2軸移動指令を発し,→X1軸モータ,X2軸モータを回転させ,→X1軸,X2軸のずれを補正することによって,→角度誤差や移動体の姿勢を補正する(囲み線は被告によるものである。以下同じ。)。 「ゼロ設定の補正」自体に関し,これが何を意味するかについての記載は存在しない。このため,本件発明1における「ゼロ」位置とは,「軸の駆動により移動する移動体の位置」であり,「ゼロ設定の補正」とは,単に「軸を駆動して移動体の位置を移動すること」を意味するものと解するほかない。 乙5号証には,「サドル3の上にはサドル3の送り方向のX軸に対して直角なY軸方向に送られるテーブル29が設けられているが,この可動体であるテーブル3の送りネジの装置や,位置検出装置はサドル3の場合と同じである」(3頁右上欄17行~左下欄1行)と記載され,X軸とY軸が直交し,本件サドル3がX軸方向へ,テーブル29がY軸方向へ送られている(第1図)。 「この発明はテーブルとかベット等の可動体に固着したナットに螺合する送りネジを2組以上備え,この送りネジで送られる可動体の傾きや位置を検出する位置検出装置を備えるようにした。…その 検出値に基づいて,2本以上有する送りネジの送り量を夫々制御し,或いは1本の送りネジを送り量を定める基準ネジとし,他の送りネジを制御して可動体の位置と傾きを補正するようにしたものである。」(2頁左上欄6行~17行)と記載されており,また,その「作用」として,「送りネジで送られる可動体の位置検出装置に対する傾きや位置のズレを検出 て可動体の位置と傾きを補正するようにしたものである。」(2頁左上欄6行~17行)と記載されており,また,その「作用」として,「送りネジで送られる可動体の位置検出装置に対する傾きや位置のズレを検出し,その検出値に基づいて,2本以上ある送りネジのモータの回転数をモータに付けたCPUで変えることによって可動体の傾き等を補正する。」(2頁右上欄1行~6行)と記載されている。 また,乙5発明は,「検出器26,26’で検出したワイヤ9に対するサドル3の傾きは,NC装置に入力し,且つその指令で,2本の送りネジ4の中1本を基準の送りネジとし,他方の送りネジ4の送り量をサドル3の傾きを補正することができる程度に増減する。 この増減はサーボモータ5に入力するパルス数の増減によってなされるものである。」(3頁右下欄最終行~右上欄7行)。 乙5発明は,本件発明1と同様に,可動体の傾きや位置のズレを検出し,→その検出値に基づいて→送りネジの送り量に換算し,→モータの回転数をCPUで変えることにより→モータにより送りネジを回転させ,→2本以上有する送りネジの各々の送り量又は基準となる送りネジの送り量に対する他方の送りネジの送り量を増減することによって,→サドル,テーブルの傾きやX軸とY軸の直角度が補正され,直角度や移動体に「誤差」が検出されている場合には,その誤差が補正される発明である。 (b) 「ゼロ設定」とは,2個の第1軸駆動手段,2個の第2軸駆動手段の各々制御装置によって決定される同期制御の位置関係を意味する。「ゼロ設定を補正」とは,制御装置が2個の第1軸駆動手段, 2個の第2軸駆動手段の上記各同期制御の位置関係を補正して,駆動手段に指令して,第1軸及び第2軸に沿って移動する移動ベース(14)及 ゼロ設定を補正」とは,制御装置が2個の第1軸駆動手段, 2個の第2軸駆動手段の上記各同期制御の位置関係を補正して,駆動手段に指令して,第1軸及び第2軸に沿って移動する移動ベース(14)及び移動体(13)の位置関係を補正することを意味する。 本件発明1では,第1・2軸の角度誤差を補正するところ,X1・X2両軸の同期制御の位置関係を補正(ゼロ設定を補正)すれば,移動ベース14の第1軸に対する姿勢が補正され,第1軸と第2軸の角度誤差が補正されることになる。また,本件発明1では,移動体13の姿勢を補正するところ,Y1・Y2両軸の同期制御の位置関係を補正(ゼロ設定を補正)すれば,移動体13の姿勢が補正されることになる。 乙5発明では,X・Y両軸に関して,数値制御装置は,各2本以上有する送りネジをそれぞれ制御し,あるいは,1本を「送り量を定める基準ネジ」とし,「他の送りネジ」を制御する。「基準ネジ」と「他の送りネジ」が同期制御の関係に設定されており,数値制御装置によって「ゼロ設定」がされている。そして,数値制御装置は,「基準ネジ」と「他の送りネジ」に対するサーボモータの回転数を変え,あるいは「他の送りネジ」に対する回転数を制御して「基準ネジ」と「他の送りネジ」の同期の関係を補正しており,「ゼロ設定の補正」が行われている。そして,乙5発明においても,「同期のゼロ設定を補正」し,これを実行すれば,サーボモータの駆動により,可動体(サドル3)のX軸上の姿勢が補正され,Y軸は可動体(サドル3)上に搭載されているので,可動体(サドル3)のX軸上の姿勢が補正されることによってX軸とY軸との角度誤差も補正される。また,NC装置が「2本以上ある送りネジの…1本の送りネジを送り量を定める基準ネジとし,他の送りネジを ,可動体(サドル3)のX軸上の姿勢が補正されることによってX軸とY軸との角度誤差も補正される。また,NC装置が「2本以上ある送りネジの…1本の送りネジを送り量を定める基準ネジとし,他の送りネジを制御して可動体の位置と傾きを補正」することで,テーブル29の姿 勢を補正する。これにより,X・Y軸の角度(直角),移動体の姿勢とも初期設定=基準姿勢を回復できる。 本件発明1の「ゼロ設定を補正」は,原告主張の「静的な補正」に限定されるものではないし,乙5発明も原告主張の「動的な補正」に限定されるものではないから,本件発明1と乙5発明には差異がない。 (c) したがって,乙5発明の構成は,構成要件1-Gと同一である。 h 構成要件1-Hについて乙5発明は,本件発明1の「工作機械」における「送り装置」であることは明らかであるから(1頁右下欄13行,15行),乙5号証には,構成要件1-Hと一致する構成が開示されている。 i 小括以上のとおり,本件発明1は乙5発明の構成と同一である。 乙5発明では,位置検出装置8として,オートコリメータの原理についての記載があり,オートコリメータの原理に基づけば移動体の傾きを検出できる。また,オートコリメータ以外の実施例記載の検出装置を利用する場合であっても,当業者であれば,移動体の傾きをセンサで正確に把握できるよう,その個数及び配置を適宜選択し得るから,乙5発明は実施可能である。 (ウ) 本件発明2及び3について本件発明2及び3は,本件発明1に従属する発明であって,乙5発明と同一又は実質的に同一である。 イ進歩性の欠如(ア) 本件発明1についてa について本件発明2及び3は,本件発明1に従属する発明であって,乙5発明と同一又は実質的に同一である。 イ進歩性の欠如(ア) 本件発明1についてa 本件発明1と乙5発明とは,以下の相違点があるとしても,相違点は設計的事項にすぎないか(下記b),乙5発明及び乙12号証の技 術常識に基づいて(下記c),又は乙5発明及び周知技術に基づいて(下記d),本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。 (相違点)制御装置による移動体の補正について,本件発明1は,「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」(駆動手段の原点位置を補正する)ものであるのに対し,乙5発明は,「位置検出装置8の検出値に基づいて2本の送りネジの送り量を制御し,移動体の位置と傾きを補正する」(駆動手段の駆動量を補正する)ものである点。 b 座標上の移動量を,駆動手段の原点位置を補正することにより調整するか,または駆動手段の駆動量で直接補正することにより調整するかについては,サーボシステムでは,プログラムがマスター軸のサーボモータに対してΔXだけ移動せよという指令をX2軸に出す点では何ら相違はなく,いずれを採用することもできることは,工作機械における技術常識であり(乙29),両者の間の作用効果に差異がないから(乙28),両者の差異は単なる設計的事項にすぎない。 本件発明は,原告が主張するような「静的補正」に限定されるものではないが(本件明細書の【0004】【0005】【0054】参照),仮に,本件発明が,移動体を停止させた状態でのみ移動体の姿勢等を補正するもの(原告のいう静的補 ような「静的補正」に限定されるものではないが(本件明細書の【0004】【0005】【0054】参照),仮に,本件発明が,移動体を停止させた状態でのみ移動体の姿勢等を補正するもの(原告のいう静的補正)であったとしても,乙5発明のような機械構成においても,移動体を移動させる前に,一旦,移動体を停止させた状態で移動体の姿勢等の誤差を測定し(①),その上で,片軸のみを回転させて補正した状態になるまでサーボモータを回転させることで(②),検出された誤差と補正に必要な回転数の相対関係(①/②)を把握することは,技術常識であって,両者の差 異は設計的事項にすぎない。 また,駆動手段の駆動量を直接補正する手段によっても,移動体を停止させた状態で,移動体の姿勢等を補正できることは,技術常識上明らかである(乙30)。 c 本件特許の出願前に刊行された特開平8-22313(乙12・公開日平成8年1月23日)には,2本の軸(マスタ軸とスレーブ軸)を有する工作機械において,各軸の原点を一致させるべく,2本の軸のそれぞれについて,原点復帰させることにより,個々に原点設定を行うことが明確に記載されている(【0001】~【0004】)。 d 本件特許の出願前に刊行された特開平7-186004(乙8・公開日平成7年7月25日),特開平3-184742(乙9・公開日平成3年8月12日),特開昭61-192445(乙10・公開日昭和61年8月27日),実開昭58-80147(乙11・公開日昭和58年5月31日)には,以下のように記載されている。 乙8号証には,「本発明は,NC工作機械の工具位置を補正する方法に関するものである」(【0001】),「この原点位置L0は主軸2からバイト3の刃先までの距離を示すもの 載されている。 乙8号証には,「本発明は,NC工作機械の工具位置を補正する方法に関するものである」(【0001】),「この原点位置L0は主軸2からバイト3の刃先までの距離を示すもので,予め設定された固定値である。」(【0012】),「工具の交換あるいは磨耗などでバイト3を交換した場合などには原点位置L0の補正が図示しない制御部で行なわれ,」(【0017】),「温度差ΔT1~ΔT5に基づいて判定された補正パターンが一致しない場合には,各温度差ΔT1~ΔT5ごとに得られた補正量ΔL1の平均値などを補正量ΔL1として演算する。」(【0028】),「主軸2から接触センサ4までの基準距離L1の補正量ΔL1と,上記ステップS4で算出されたバイト3の原点位置補正量ΔLからステップS8では原点位置L0の補正演算が次式に基づいて行われる。」(【0029】),「こうし て,上記(3)式で補正された原点位置L0は,バイト3の位置あるいは刃先形状などに応じて求められた原点位置補正量ΔLに加えて,この原点位置補正量ΔLを計測するための基準距離L1がNC旋盤1の各部位の温度差に基づく補正量ΔL1によって熱変位量による誤差を排除されるため,この原点位置L0に基づいて切削加工を行うことによりバイト3の固体差及び熱的変動による誤差を抑制した高精度の加工を行うことができ,上記ステップS1~S8の処理をバイト3の交換時などに適宜行うことにより自動的にNC旋盤1の稼動状況に起因する熱変位量による誤差を補正することが可能となって,前記従来に示したようなバイト3の交換時などの試験加工が不要となってNC工作機械の無人運転を行なうことができる。」(【0030】)との記載がある。 乙9号証には,「本発明は,NC(数値制御)加工装置における イト3の交換時などの試験加工が不要となってNC工作機械の無人運転を行なうことができる。」(【0030】)との記載がある。 乙9号証には,「本発明は,NC(数値制御)加工装置における原点補正方法に関する。」(2頁右上欄14行~15行),「本発明の課題はNCレーザ加工装置やNCターレットパンチ(型抜き)などの装置において,NCデータの原点と被加工物上の原点とを短時間にしかも精度良く合わせることが可能な方法を提供することにある。」(2頁左下欄8行~12行),「NCコントローラ9の座標系の原点位置(Xno,Yno)の値を,上記の如く求めた偏差相当の換算量をもって補正することにより,加工装置の実際の加工軌跡に合わせることができる。」(3頁右下欄5行~8行),「〔作用〕加工装置のNCデータの原点を実際の加工状態で加工させ,この加工形状を非接触で自動的に計測し,これをフィードバックして原点補正をすることにより迅速な補正を可能にするとともに,温度変化や経時変化があっても加工精度を常に一定に保てるようにする。」(3頁左上欄下から5行~右上欄2行)との記載がある。 乙10号証には,「本発明は主軸の熱変位を補正するNC工作機の主軸熱変位補正装置に関するものである。」(1頁左下欄12行~14行),「換言すれば前記変位量に応じた分だけZ軸送り用電動機5dを駆動した後停止し(原点停止位置制御し),主軸5bの位置を補正する。Z軸方向の原点シフトを行うもので,このような動作は加工開始時のみならず,加工中においても常時,自動的に行うことができる。」(2頁左下欄8行~14行),「〔発明の効果〕補正をNC装置の原点シフト機能を用いて行うことから,補正精度も大幅に向上し,高精度の加工を行うことができるという効果がある。」(2頁 うことができる。」(2頁左下欄8行~14行),「〔発明の効果〕補正をNC装置の原点シフト機能を用いて行うことから,補正精度も大幅に向上し,高精度の加工を行うことができるという効果がある。」(2頁右下欄10行~13行)との記載がある。 乙11号証には,「この考案はボール盤,フライス盤,中ぐり盤,マシニングセンター等の工作機械における主軸の原点補正装置に関する。」(1頁下から3行~1行),「主軸の移動は一般にサーボモーターにより行なわれ,その移動量はサーボモーターの回転数と,これにより回転させられるボールネジのピッチにより制御される。」(2頁11行~14行),「この考案は,主軸に変形が生じた場合,自動的に主軸の原点補正が行なえるようにした工作機械における主軸の原点補正装置を提供するものであり」(3頁4行~7行),「更に主軸1の変形量即ち主軸1の変形に伴う測定子5の移動量をゲージ4により電気信号に変換して変位補正機能を備えた数値制御装置6に入力し,該数値制御装置6の変位補正機能により主軸1を移動させるサーボモーター7を駆動して主軸の原点補正するよう装置してなるものである。」(4頁12行~18行)との記載がある。 これらの記載によれば,工作機械の技術分野において,生じた誤差や変形に対して補正を行う際に,「原点位置を補正する」ことは,本件発明の出願時において周知技術であったし,乙5発明と乙8~11 号証の周知技術の解決課題は共通しているから,乙5発明に上記周知技術を適用する動機付けは十分に存在するというべきである。 以上によれば,移動体のX1,X2の位置関係を変更するに当たり,駆動手段の駆動量を直接補正する乙5発明に代えて,周知技術(乙8~11)である駆動手段の原点位置(設定)を補正す ある。 以上によれば,移動体のX1,X2の位置関係を変更するに当たり,駆動手段の駆動量を直接補正する乙5発明に代えて,周知技術(乙8~11)である駆動手段の原点位置(設定)を補正する方式を選択することによって本件発明に想到することは当業者には容易であった。 また,仮に,本件発明1の「ゼロ設定」が「位置検出装置」を採用せず,移動体の姿勢等を移動体の移動軸上の一点又は複数点でスポット的に計測するものであると仮定しても,本件発明1と乙5発明は,解決すべき課題を共通にし,解決原理と発明の構成を同一にし,かつ作用効果も同一であるから,本件発明1は,乙5号証に基づき,簡素化という一般的課題を解決するために,当業者が容易に発明できたものである。 (イ) 本件発明2について乙5号証には,「検出器26,26’で検出したワイヤ9に対するサドル3の傾きは,NC装置に入力し,且つその指令で,2本の送りネジ4の中の1本を基準の送りネジとし,他方の送りネジ4の送り量をサドル3の傾きを補正することができる程度に増減する。この増減はサーボモータ5に入力するパルス数の増減によってなされるものである。」(3頁左上欄最下行~右上欄7行)との記載がある。また,乙5号証の第1図には,「ベッド1上に設けた2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5」が「X軸」方向に沿って延在し,「サドル3上に設けた2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5」が「Y軸」方向に沿って延在し,両者が実質的に直角に配置されている点が開示されている。 本件発明2の構成要件2-Aは,本件発明1について,「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角」となることを限定しているが,かかる限 定事項は乙5号証に開示されている。 以上 本件発明2の構成要件2-Aは,本件発明1について,「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角」となることを限定しているが,かかる限 定事項は乙5号証に開示されている。 以上のとおり,本件発明2は当業者が容易に発明できたものである。 (ウ) 本件発明3について乙5号証には,「ベット1に固定したコラム30にヘッド31を設け,ヘッド31には主軸32が設けられて鉛直なZ軸方向に,前記ヘッド3,テーブル29と同様な送り装置で送られるのである」(3頁左下欄3行~6行)との記載がある。 本件発明3の構成要件3-Aでは,「スピンドルヘッド(12)」が「移動体(13)」に設けられているのに対し,乙5発明においては,「ヘッド31」が「テーブル29」に設けられておらず「コラム30」に設けられている点で相違する。 しかし,乙5発明の「ヘッド31」は,本件発明3の「スピンドルヘッド(12)」と同様に「Z軸方向」(第3軸方向)に移動して動作するものであるから,いずれの場所に設けるかは単なる設計的事項にすぎない。 以上のとおり,本件発明3は当業者が容易に発明できたものである。 (原告の主張)ア 「ゼロ設定を補正」の意義「ゼロ設定を補正」は,「ゼロ点(原点)の設定を補正」を意味し,明確である。そして,原点は移動体の移動の基準であり,移動体は原点を基準として移動するものである。このように移動体の移動の基準となる原点の設定変更を,その移動中に行うことなどあり得ない。換言すれば,移動体の停止中ではなく,移動中に設定が変更されるような点は,移動体の移動の基準となる点ではなく,原点ではない。 イ本件発明と乙5発明の解決課題及び解決原理静的補 換言すれば,移動体の停止中ではなく,移動中に設定が変更されるような点は,移動体の移動の基準となる点ではなく,原点ではない。 イ本件発明と乙5発明の解決課題及び解決原理静的補正に関する本件発明と動的補正に関する乙5発明は,解決課題及 び解決原理が根本から異なる。 (ア) 本件明細書には,従来技術及び本件発明が解決しようとする課題として,以下の記載がある。 「【0002】【従来の技術】例えば,スピンドルヘッドをX軸とY軸に沿って移動する構成の汎用型の工作機械では,1個のX軸移動機構と1個のY軸移動機構によって,スピンドルヘッドをX軸とY軸方向に移動していた。 【0003】【発明が解決しようとする課題】前述の工作機械では,X軸とY軸の直角度やスピンドルヘッドの姿勢に誤差が生じた場合に,補正を行うことは容易でなかった。 【0004】また,往復移動に関してヒステリシスのような現象が生じた場合にも,これを補正することは容易でなかった。 【0005】本願発明の目的は,このような従来技術の問題点を解消し,2つの駆動系の角度誤差や移動体の姿勢を容易に補正することができる工作機械を提供することである。」このように,本件発明が解決しようとする課題は,X軸とY軸との間に生ずる角度誤差に起因するものである。換言すれば,本件発明が解決しようとする課題は,移動体の位置がX軸又はY軸における移動量に応じて常に一定の割合でずれていく「静的な誤差」である。かかる課題を解決するために,本件発明は,「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものである」と 差」である。かかる課題を解決するために,本件発明は,「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものである」との構成を備えるものである。 本件発明が補正しようとする角度誤差や姿勢は,移動体の動きに対して「静的に」現れるものである。そして,本件発明は,かかる「静的に」現れる誤差や姿勢の傾きを,「ゼロ設定を補正」するという「静的な補 正」により解決しているのである。 (イ) 本件明細書の【図6】の記載において,移動体のX1軸上の移動量(X1a点からX1b点までの距離)とX2軸上の移動量(X2a点からX2b点までの距離)は,全く同じであり,測定データから換算された「X1,X2補正値データー」は,X2aが補正していない点(X2a)からΔX補正された位置に移動するための補正データ(ΔX)を意味し,X2bはΔXだけ原点補正された位置にあることになる。このX2軸をΔXだけ補正する操作(57の「X1,X2補正値データー」から53の「X2軸移動指令」に向かう矢印の操作,すなわちゼロ設定の補正操作)は,最初のゼロ設定(原点補正)の補正操作の1回のみであり,X2軸は常にΔXだけ補正された基準点を起点として動いているので,常にΔX補正された位置にある。 以上のとおり,「ゼロ設定を補正」は,移動体の移動中に適宜,角度誤差や移動体の姿勢誤差を補正しない。 (ウ) 本件明細書の【0037】には「直角度の補正によって1mにつき1~3μm程度の精度を得ることができる。」と記載されている。このようなずれの概念は,移動体の位置がX軸又はY軸における移動量に応じて常に一定の割合でずれる静的な誤差の補正でなければ存在し得ない。 (エ) 本件明 ることができる。」と記載されている。このようなずれの概念は,移動体の位置がX軸又はY軸における移動量に応じて常に一定の割合でずれる静的な誤差の補正でなければ存在し得ない。 (エ) 本件明細書には,移動中に適宜補正する旨の記載はなく,【図6】には,動的誤差の補正のために必須の装置である位置検出装置の記述もない。【0054】の記載も,冒頭に「移動体が往復移動する際のヒステリシスを,直角度の補正と同様のやり方で低減することも可能である。」とされているとおり,ヒステリシス(「静的な誤差」の量が往路と復路で異なることを意味する。)を直角度の補正と同じやり方(すなわち,「ゼロ設定」の補正)で低減できることを明言したものである。 (オ) 乙5号証には,乙5発明が解決しようとする問題点として,以下の 記載がある。 「〔発明が解決しようとする問題点〕しかしながら,精密に仕上げられた案内面であっても,その案内面に沿ってテーブル等を移動する場合は,案内面とテーブルとの間には極く僅かな隙間があり,テーブルの荷重のベクトルと送りネジの軸心とが一致することは極めて稀であり,多くの場合,モーメントを生ずる。その結果テーブル等は傾いて送られるようになり,精密加工する場合,その補正が望まれるようになった。」(1頁右欄下5行~2頁左上欄4行)そして,乙5号証には,かかる問題点を解決するための手段及びその作用として,以下の記載がある。 「〔問題点を解決するための手段〕しかして,この発明はテーブルとかベット等の可動体に固着したナットに螺合する送りネジを2組以上備え,この送りネジで送られる可動体の傾きや位置を検出する位置検出装置を備えるようにした。その位置検出装置にはレーザを利用し テーブルとかベット等の可動体に固着したナットに螺合する送りネジを2組以上備え,この送りネジで送られる可動体の傾きや位置を検出する位置検出装置を備えるようにした。その位置検出装置にはレーザを利用したものや,磁性体若しくは磁性体を含んだテープやワイヤ等に張力を加えて設置し,そのテープやワイヤ等の位置を検出して,その検出値に基づいて,2本以上有する送りねじの送り量を夫々制御し,或いは1本の送りネジを送り量を定める基準ネジとし,他の送りネジを制御して可動体の位置と傾きを補正するようにしたものである。」(2頁左上欄5~17行)「〔作用〕送りネジで送られる可動体の位置検出装置に対する傾きや位置のズレを検出し,その検出値に基づいて,2本以上ある送りネジのモータの回転数をモータに付けたCPUで変えることによって可動体の傾き等を補正する。」(2頁右上欄1~6行)乙5発明が解決しようとする課題は,可動体の移動時において発生す る,案内面とテーブルとの間にある極く僅かな隙間に起因する誤差である。換言すれば,乙5発明が解決しようとする課題は,移動体の位置や傾きが,当該移動体が存在する位置における,案内面とテーブルとの間にある隙間の量に応じて変化する「動的な誤差」である。 かかる問題点を解決するために,乙5発明は,「可動体の傾きや位置を検出する位置検出装置」を備え,「その検出値に基づいて,2本以上ある送りネジのモータの回転数をモータに付けたCPUで変えることによって可動体の傾き等を補正する」(2頁右上欄1~6行)ものである。 乙5発明が補正しようとする「可動体の位置と傾き」は,移動体の動き対して「動的に」現れるものである。例えば,移動体がある位置に存在するときには,その進行方向に対して右に傾く 欄1~6行)ものである。 乙5発明が補正しようとする「可動体の位置と傾き」は,移動体の動き対して「動的に」現れるものである。例えば,移動体がある位置に存在するときには,その進行方向に対して右に傾くものであり,また,他の位置に存在するときには,左に傾くような「動的な」傾きである。したって,乙5発明が補正しようとする「可動体の位置と傾き」は,「動的な補正」をしない限りは解決することができない。換言すれば,乙5発明が解決しようとする「可動体の位置と傾き」は,「ゼロ設定を補正」したところで,何ら解決することはできない。だからこそ,乙5号証には,X軸とY軸との間の角度誤差やゼロ設定等,「静的な補正」に関する記載や示唆が,何ら存在しないのである。 ウ乙5発明の引用適格乙5号証は,検出器(26)及び同(26’)では,それぞれの磁気ヘッド(27)とワイヤ(9)の各間隙の,Z軸方向(垂直方向)の距離及びX軸又はY軸方向の距離を測定しているにすぎないのであって,当該測定値は第1軸,2軸の角度誤差の特定に関するデータではないから,第1軸,2軸の角度誤差を特定することはできない。また,乙5号証は,工具が被工作物体を所望の精度未達の状態で切除する事態を避けるための具体的な実施方法を開示していない。 以上のとおり,乙5発明は当業者が実施することができない発明である。 エ進歩性の欠如について(ア) 乙12号証には,「角度誤差」及び「姿勢」の補正を目的として「ゼロ設定」を補正するという思想が一切開示されていない。また,乙5発明は「動的な誤差」を補正する発明であるのに対し,乙12号証記載の発明は「静的な誤差」を補正する発明である。「動的な誤差」を解決するために,「静的な補正」を適用したとしても,誤差は何 。また,乙5発明は「動的な誤差」を補正する発明であるのに対し,乙12号証記載の発明は「静的な誤差」を補正する発明である。「動的な誤差」を解決するために,「静的な補正」を適用したとしても,誤差は何ら改善しないのであるから,乙5発明に乙12号証記載の発明を適用する動機付けは存在しない。 よって,本件発明は,乙5発明及び乙12号証記載の発明に基づいて容易に発明できたものではない。 (イ) 周知技術(乙8~11)は,単に軸方向のずれの補正を行うことを開示しているにすぎず,「第1・2軸の角度誤差」や「移動体(13)の姿勢」の補正に結びつくような補正については,一切記載されていないし,示唆すらない。 a 乙8号証には,以下の記載がある。 「ところで,工作機械には周囲の温度変化や切削条件に応じた発熱などにより熱的変動が常時加わっており,この熱的変動によるNC工作機械側の膨張,収縮に伴って主軸2から接触センサ4までの基準距離L1が変動する熱変位量が発生するため,上記工具位置の補正に加えて基準距離L1を補正しなければ熱変位量に応じて加工精度が低下してしまう。」(【0005】)すなわち,乙8号証は,「基準距離L1」の補正,つまり図1においてバイト3が移動する軸方向(図1における上下方向)における熱変位量を補正することを開示しているにすぎない。 b 乙9号証には,以下の記載がある。 「NCコントローラ9の座標系の原点位置(Xno,Yno)の値を,上記の如く求めた偏差相当の換算量をもって補正することにより,加工装置の実際の加工軌跡に合わせることができる。」(3頁右下欄5~8行)すなわち,乙9号証には,「座標系の原点位置(Xno,Yno)の 差相当の換算量をもって補正することにより,加工装置の実際の加工軌跡に合わせることができる。」(3頁右下欄5~8行)すなわち,乙9号証には,「座標系の原点位置(Xno,Yno)の値」の補正,つまり第1図における「x軸」及び「y軸」の軸方向における補正について開示しているにすぎない。 c 乙10号証には,以下の記載がある。 「換言すれば前記変位量に応じた分だけZ軸送り用電動機5dを駆動した後停止し(原点停止位置制御し),主軸5dの位置を補正する。 Z軸方向の原点シフトを行うもので,このような動作は加工開始時のみならず,加工中においても常時,自動的に行うことができる。」(2頁左下欄8~14行)すなわち,乙10号証には,「Z軸方向の原点シフト」,つまり第1図における「z」軸の軸方向における補正について開示しているにすぎない。 d 乙11号証には,以下の記載がある。 「主軸に変形が生じた場合,自動的に主軸の原点補正が行えるようにした工作機械における主軸の原点補正装置を提供するものであり」(3頁4~7行)すなわち,乙11号証には,「主軸の原点補正」,つまり主軸の軸方向における補正について開示しているにすぎない。 (ウ) 周知技術(乙8~11)は,原点を補正する技術であって,静的補正を目的とするものであるが,各軸において,ボールネジが1本しか設けられていないから,「移動体の姿勢を補正するという概念」が存在しないし,装置の動作の停止時に,ゼロ点を補正して,静的に,軸方向の ずれを補正するにすぎないものである。仮に,動的補正を目的とする乙5発明に対して,装置の動作の停止時に,周知技術を適用したとしても,乙5発明の移動体は,その停止時に して,静的に,軸方向の ずれを補正するにすぎないものである。仮に,動的補正を目的とする乙5発明に対して,装置の動作の停止時に,周知技術を適用したとしても,乙5発明の移動体は,その停止時に,周知技術のゼロ点の補正により,当該軸方向に単にある距離だけシフトするにすぎない。 そして,乙5発明の移動体の原点位置の周知技術による補正の後の移動体の移動時においては,「第1・2軸の角度誤差」や「移動体の姿勢」は,乙5発明の移動体位置検出装置のデータを用いて案内面とテーブルとの間の隙間の変化に対応して補正される。換言すれば,周知技術を乙5発明に適用したとしても,移動体の移動時においては,乙5発明の移動体の案内面とテーブルとの間の隙間の時々刻々の変化に対応する移動体の姿勢の動的補正は,全て乙5発明の技術に従って補正されるから,静的補正を目的とする周知技術は,動的補正を目的とする乙5発明にとって無意味である。 静的補正を目的とする周知技術を,動的補正を目的とする乙5発明に適用したところで,①乙5発明の目的とする動的補正の精度の向上に役立たず,又は,②乙5発明装置のコスト低減にも役立たないので,乙5発明に周知技術を適用する動機付けはない。 (エ) 乙5発明における「動的な誤差」は,駆動手段によって駆動される移動体の位置に応じて異なる誤差量を有する誤差である。換言すれば,乙5発明においては,ある位置において,当該位置に特有の誤差量を有する誤差が発生し,他の位置においては,当該誤差量とは異なる誤差量を有する新たな誤差が発生する。このような誤差を原点位置の補正によって補正できないことは明白である。 (オ) 乙29号証記載の発明は,マスタ軸とスレーブ軸の2軸を有するものではないから,マスタ軸とスレーブ軸とを 生する。このような誤差を原点位置の補正によって補正できないことは明白である。 (オ) 乙29号証記載の発明は,マスタ軸とスレーブ軸の2軸を有するものではないから,マスタ軸とスレーブ軸とを有する構成において,「駆動手段の駆動量を補正してもよいし,駆動手段の原点位置を補正しても よいこと」が技術常識であるということはできない。 また,乙30号証記載の発明は,移動体が移動中であろうと,停止中であろうと,移動体がある位置に存在するときに,当該位置における誤差を補正するものであるから「動的な補正」である。当該移動体が存在する位置に応じて,その位置における移動体の姿勢の誤差を補正するのが「動的な補正」であって,その位置における誤差の補正のための操作が,移動体が移動しているときに行われるか,停止しているときに行われるか,は問題ではない。 (カ) 以上のとおり,本件発明は進歩性を欠如しない。 (6) 損害額(争点3)(原告の主張)ア被告製品1被告は,遅くとも平成17年9月には,被告製品1を日本国内において販売しており,その販売台数は月50台を下回ることはない。また,被告製品1は,平均的な価格が4500万円であるから,販売開始から本件訴訟の提起までの売上高は,被告製品1の販売台数である3000台に,それらの平均的な価格である4500万円を乗じた1350億円を下回ることはない。 また,被告による本件発明の実施に対し,原告が受けるべき金銭の額は,被告製品1を販売した売上高の10%を下回ることはない(特許法102条3項)。 したがって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,135億円の損害賠償請求権を有する。 イ被告製品2被告は,平成 0%を下回ることはない(特許法102条3項)。 したがって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,135億円の損害賠償請求権を有する。 イ被告製品2被告は,平成16年3月から少なくとも平成20年7月まで,被告製品2を日本国内において販売しており,その販売台数は1か月当たり約30 台である。また,被告製品2は,平均的な価格が4500万円であると合理的に推認されるから,平成16年3月から少なくとも平成20年7月までの売上高は,被告製品2の販売台数である1530台に,それらの平均的な価格である4500万円を乗じた688億5000万円を下回ることはない。 また,被告製品2の製造販売に対し,原告が受けるべき金銭の額は,被告製品2を販売した売上高の10%を下回ることはない(特許法102条3項)。 したがって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき,68億8500万円の損害賠償請求権を有する。 ウ以上の合計203億8500万円のうち,1億5000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年9月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告の主張は争う。 第3 当裁判所の判断本件の事案の性質に鑑み,まず本件特許が無効審判により無効にされるべきものかについて判断する。 1 記載要件違反の有無(争点2-1)について(1) 明確性要件違反についてア被告は,本件発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)の「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」(構成要件1-G)との記載について,「ゼロ」「ゼロ設定」「ゼロ設定を補正 請求項1)の「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」(構成要件1-G)との記載について,「ゼロ」「ゼロ設定」「ゼロ設定を補正」が不明確である旨主張する。 しかしながら,証拠(甲15)によれば,NCハンドブック(昭和47年5月25日初版発行)では,「zerooffset」が「原点オフセット」と 訳されていることが認められるから,技術常識に照らして,「ゼロ点」を「原点」と言い換えることができると認められる。また,証拠(乙8~11)によれば,工作機械の制御においては「原点」が必要であることが認められるから,「ゼロ点を補正」とは「ゼロ点(原点)の設定を補正」することを意味するものと認められる。 そうすると,「ゼロ」「ゼロ設定」「ゼロ設定を補正」の記載が不明確であるとは認められない。 なお,付言するに,被告は,被告製品1のユーザーズマニュアル(甲5)及び被告製品2のサービスマニュアル(甲7,乙18)において,「thezeropoint」(英語版)を「原点位置」(日本語版)と翻訳している。 イ被告は,「ゼロ設定を補正」することと「第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」こととの関連についても不明確である旨主張する。 確かに,本件発明の構成においては,被告が主張するように,必ずしも「ゼロ設定を補正」することが,「第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正すること」に結び付かないことも考えられる(後記2(1)イ参照)。しかしながら,本件明細書の【請求項1】には,「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するもの (1)イ参照)。しかしながら,本件明細書の【請求項1】には,「制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものであることを特徴とする」との記載があり,また,発明の詳細な説明の段落【0008】には,「第1軸方向と第2軸方向を実質的に直角にした場合には,2個の第1軸駆動手段と2個の第2軸駆動手段を操作することによって,第1軸と第2軸の直角度を容易に補正できる。」との記載がある。このような記載に照らせば,本件発明1においては,駆動手段のゼロ設定の補正が角度誤差や移動体の姿勢の補正に直結する場合についてのものとして構 成されており,上記の「ゼロ点(原点)」は,このような補正が可能な原点を意味するものと認められる。 そして,このような原点を設定することは,技術的に可能であると解されるから,「ゼロ設定を補正」することと「第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」ことの関連が不明確であるとは認められない。 ウ以上のとおり,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載について不明確な点はない。 また,本件発明2は本件発明1の従属項であり,本件発明3は本件発明1又は2の従属項である。被告の明確性要件違反の主張は,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載のものであるから,上記と同様に,本件発明2及び3に係る特許請求の範囲の記載について不明確な点はない。 したがって,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件に違反しない。 (2) 実施可能要件違反についてア被告は,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明1(構成要件1-G)の「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2 。 (2) 実施可能要件違反についてア被告は,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明1(構成要件1-G)の「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」ことについての技術的事項は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。 そこで検討するに,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 「【0031】以下,図6を参照して,X軸及びY軸の直角度の補正方法の一例を説明する。図6では,2個のX軸移動手段をX1とX2で示している。 【0032】1)X軸及びY軸の直角度を,JISに基づく方法で測定 する。 【0033】2)前記直角度の誤差を,X1,X2補正値データに換算する。 【0034】3)前記換算値に基づいて,サーボモータ21,22の同期のゼロ設定を補正する。 【0035】ゼロ設定の補正は,移動指令部52,53及びエンコーダ54,55を利用したフィードバック方式で行うことができる。 【0036】なお,移動指令部52,53は制御装置40に設け,エンコーダ54,55はサーボモータ27,28又はボールねじ25,26に関連づけて設けることができる。」イ以上に基づいて検討するに,証拠(乙3)によれば,本件明細書の【0032】の「X軸及びY軸の直角度を,JISに基づく方法で測定」は,JIS(日本工業規格)に基づく測定であり,「JISB 6336-2」では,直定規等を使用してX軸及びY軸の直角度を測定する方法が具体的に記載されている。また,【0033】の「前記直角度の誤差を,X1,X2補正値データに換算する」は,JISに基づいて測 336-2」では,直定規等を使用してX軸及びY軸の直角度を測定する方法が具体的に記載されている。また,【0033】の「前記直角度の誤差を,X1,X2補正値データに換算する」は,JISに基づいて測定した直角度の誤差をX軸方向の2つの軸(X1,X2)の基準点である原点の補正値データに換算するものと解される。 そして,【0034】では,換算された補正値データによって,サーボモータの同期のゼロ設定が補正されるものとされ,【0035】【図6】では,原点の補正値データによって,X1軸のサーボモータ21,X2軸のサーボモータ22の原点(ゼロ点)の設定を,X1軸,X2軸にそれぞれ設けられたエンコーダを利用したフィードバック方式で行うことが記載されている。これは,移動指令部から補正値データに基づいた指令がサーボモータに伝達され,サーボモータによる調整の後,さらにエンコーダによる計測値が指令値に達していない場合には,目標とする原点の値に到達 するまで指令を反復継続するようにしてサーボモータの回転角を目標値にまで調整するものと解される。 このように,本件明細書の【0031】~【0036】及び【図6】には,「駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正する」手段について,明確かつ十分具体的に記載されており,当業者がその実施をすることができないとは認められない。 ウ以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1について実施可能な程度の記載があると認められる。 また,本件発明2は本件発明1の従属項であり,本件発明3は本件発明1又は2の従属項である。被告の実施可能要件違反の主張は,本件発明1に係るものであるから,上記と同様に,本件発明2及び 。 また,本件発明2は本件発明1の従属項であり,本件発明3は本件発明1又は2の従属項である。被告の実施可能要件違反の主張は,本件発明1に係るものであるから,上記と同様に,本件発明2及び3について実施可能な程度の記載がある。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反しない。 2 乙5号証に基づく新規性及び進歩性欠如の有無(争点2-2)について(1) 本件発明1の技術的意義ア本件明細書には,以下の記載がある。 「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,固定部(たとえばコラム)に配置した移動体を第1軸方向及び第2軸方向に駆動する構成の工作機械に関するものである。 【0002】【従来の技術】例えば,スピンドルヘッドをX軸とY軸に沿って移動する構成の汎用型の工作機械では,1個のX軸移動機構と1個のY軸移動機構によって,スピンドルヘッドをX軸とY軸方向に移動していた。 【0003】【発明が解決しようとする課題】前述の工作機械では,X軸とY軸の直角度やスピンドルヘッドの姿勢に誤差が生じた場合に,補正を行うことは容易でなかった。 【0004】また,往復運動に関してヒステリシスのような現象が生じた場合にも,これを補正することは容易でなかった。 【0005】本願発明の目的は,このような従来技術の問題点を解消し,2つの駆動系の角度誤差や移動体の姿勢を容易に補正することができる工作機械を提供することである。」(2頁左欄2行~21行)イ本件明細書の上記記載及び【請求項1】の記載に照らせば,本件発明1は,従来技術の2軸方向に移動する移動体においては,1個のX軸移動機構と を提供することである。」(2頁左欄2行~21行)イ本件明細書の上記記載及び【請求項1】の記載に照らせば,本件発明1は,従来技術の2軸方向に移動する移動体においては,1個のX軸移動機構と1個のY軸移動機構が設けられているのみであったため,X軸とY軸の直角度やスピンドルヘッドの姿勢に誤差が生じた場合に,補正を行うことが容易でなかったことに鑑み,2つの駆動系の角度誤差や移動体の姿勢を容易に補正することができるようにしたものである。 そのための技術として,本件発明1は,第1軸,第2軸のそれぞれに2個のゼロ設定を補正できる駆動手段を設けた。この駆動手段を2個設けることの技術的意義は,第1軸,第2軸について生じる角度誤差や移動体の姿勢のゆがみの原因をそれぞれの軸に設けられた2個の駆動手段の関係に還元するとともに,2個の駆動手段の正常な関係(すなわち,第1軸と第2軸に角度誤差がなく移動体の姿勢のゆがみがない状態における関係)を,2個の駆動手段のゼロ設定(原点の設定)として実現することにあるものと解される。 上記のように構成したことにより,本件発明1においては,補正を行うことが容易でなかった第1軸と第2軸の直角度やスピンドルヘッドの補正をゼロ設定の補正として行うことができるようになった。他方,本件発明 1においては,2個の駆動手段の関係に基づかない2軸の角度誤差や移動体の姿勢については,これを補正することができず,その意味での限界も有するものと解される。 (2) 乙5号証の記載乙5号証は,本件特許の出願前である昭和63年1月23日に公開された公開特許公報(特開昭63-16286)である。乙5号証には,以下の記載がある。 ア 「2.特許請求の範囲(1)テーブルとかヘッド等 出願前である昭和63年1月23日に公開された公開特許公報(特開昭63-16286)である。乙5号証には,以下の記載がある。 ア 「2.特許請求の範囲(1)テーブルとかヘッド等の可動体と,この可動体を送る2本以上の送りネジと,この可動体の位置と傾きを検出する位置検出装置とを備え,この位置検出装置の検出値に基づいて2本以上有する送りネジの送り量を制御し,可動体の位置と傾きを補正する送り装置。」(1頁左下欄4~10行)イ 「〔産業上の利用分野〕この発明は工作機械のテーブル,ヘッド等可動体の送り装置に関する。」(1頁右下欄8~10行)ウ 「〔発明が解決しようとする問題点〕しかしながら,精密に仕上げられた案内面であっても,その案内面に沿ってテーブル等を移動する場合は,案内面とテーブルとの間には極く僅かな隙間があり,テーブルの荷重のベクトルと送りネジの軸心とが一致することは極めて希であり,多くの場合,モーメントを生ずる。その結果テーブル等は傾いて送られるようになり,精密加工する場合,その補正が望まれるようになった。」(1頁右下欄下から5行~2頁左上欄4行)エ 「〔問題点を解決するための手段〕しかして,この発明はテーブルとかベッド等の可動体に固着したナットに螺合する送りネジを2組以上備え,この送りネジで送られる可動体の傾 きや位置を検出する位置検出装置を備えるようにした。その位置検出装置にはレーザを利用したものや,磁性体若しくは磁性体を含んだテープやワイヤ等に張力を加えて設置し,そのテープやワイヤ等の位置を検出して,その検出量に基づいて,2本以上有する送りねじの送り量を夫々制御し,或いは1本の送りネジを送り量を定める基準ネジとし,他の送りネジを制御し 張力を加えて設置し,そのテープやワイヤ等の位置を検出して,その検出量に基づいて,2本以上有する送りねじの送り量を夫々制御し,或いは1本の送りネジを送り量を定める基準ネジとし,他の送りネジを制御して可動体の位置と傾きを補正するようにしたものである。」(2頁左上欄5行~下から4行)オ 「〔作用〕送りネジで送られる可動体の位置検出装置に対する傾きや位置のズレを検出し,その検出値に基づいて,2本以上ある送りネジのモータの回転数をモータに付けたCPUで変えることによって可動体の傾き等を補正する。」(2頁右上欄1~6行)カ 「〔実施例〕この発明を例示した図に基づいて説明する。第1図に於て,ベット1の案内2に枢支した可動体であるサドル3は図示していないがサドル3に固着したナットと螺合する2本の送りネジ4によって送られて移動する。送りネジ4はベット1に固着したサーボモータ5によって回動し,その回動はサーボモータ5にCPU6をつけて位置と速度とを制御するようにしたものであり,更にNC装置7(数値制御装置)で制御する。送りネジ4で移動するサドル3の位置と傾きを検出する位置検出装置8は第2図と第2図をA-A矢視した第3図に例示したように,ワイヤ又はテープ,以下ワイヤ9という炭化タングステン等の高抗張力線,ピアノ線,鋼線,ステンレス,炭素繊維等で磁性体若しくは磁性体を含んだものである。」(2頁右上欄7行~左下欄2行)キ 「位置検出器8の検出器26の構成は例えば磁気ヘッド27を磁化した磁性体,若しくは磁性体を含んだワイヤ9に対向させて移動するとワイヤ 9と磁気ヘッド27との間隙の差がコイル28の出力電圧の差となって検出される。」(3頁左上欄9行~14行)ク 「この検出器26は第3図に示 んだワイヤ9に対向させて移動するとワイヤ 9と磁気ヘッド27との間隙の差がコイル28の出力電圧の差となって検出される。」(3頁左上欄9行~14行)ク 「この検出器26は第3図に示すように互いに直角な方向に,もう一つの検出器26’を設けてもよく,検出器26.26’で検出したワイヤ9に対するサドル3の傾きは,NC装置に入力し,且つその指令で,2本の送りネジ4の中1本を基準の送りネジとし,他方の送りネジ4の送り量をサドル3の傾きを補正することができる程度に増減する。この増減はサーボモータ5に入力するパルス数の増減によってなされるものである。」(3頁左上欄下から3行~右上欄7行)ケ 「サドル3の上にはサドル3の送り方向のX軸に対して直角なY軸方向に送られるテーブル29が設けられているが,この可動体であるテーブル3の送りネジの装置や,位置検出装置はサドル3の場合と同じであるから,同一符号を付して,その説明を省略する。」(3頁右上欄下から4行~左下欄2行)コ 「ベット1に固定したコラム30にヘッド31を設け,ヘッド31には主軸32が設けられて鉛直なZ軸方向に,前記ヘッド3,テーブル29と同様な送り装置で送られるのであるが,このZ軸方向に対して送りネジの数を増し,3本以上にして,前後,左右の傾きを補正するようにする。」(3頁左下欄3行~8行)サ 「〔発明の効果〕この発明は2本以上の送りネジと所定の張力を付与して張設したワイヤ又はテープに倣って移動する検出器を備えた位置検出装置で,ワイヤ又はベルトの傾きや懸垂による撓み量を検出して補正値を演算して記憶させ,その補正値で,2本の送りネジを選択制御することにより,可動体を極めて正確に姿勢と位置出しをすることを可能にした。」(3頁左下欄下から の傾きや懸垂による撓み量を検出して補正値を演算して記憶させ,その補正値で,2本の送りネジを選択制御することにより,可動体を極めて正確に姿勢と位置出しをすることを可能にした。」(3頁左下欄下から2行~民法下欄6行) シ第1図に示された4本の送りネジ4,4,4,4の配置,及び,サドル3又はテーブル29を送るという送りネジの機能からして,ベット1上に配置された2本の送りネジ4,4は互いに平行であり,かつ,サドル3上に配置された2本の送りネジ4,4も互いに平行であることが明らかである。 (3) 乙5発明の認定と本件発明1との対比ア上記(1)の記載によると,乙5発明は,以下のとおりと認められる。 「ベット1に配置したテーブル29をX軸方向及びY軸方向に駆動する構成の工作機械において,ベット1に2本の送りネジ4,4を互いに平行に配置し,2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5によってX軸方向に駆動されるサドル3をベット1に設け,サドル3に2本の送りネジ4,4を互いに平行に配置し,テーブル29を2本の送りネジ4,4とサーボモータ5,5によりY軸方向に駆動する構成にし,各送りネジ4,4,4,4とサーボモータ5,5,5,5を制御するためのNC装置7を設け,NC装置7は,位置検出装置8,8の検出値に基づいて4本の各送りネジ4,4,4,4の送り量を制御し,可動体であるサドル3やテーブル29の位置と傾きを補正するようにした工作機械。」イ本件発明1は,本件明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載のとおりであり,「コラムのような固定部(11)に配置した移動体(13)を第1軸及び第2軸方向に駆動する構成の工作機械において,固定部(11)に2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を互いに平行に配置し,第1軸駆動 ,「コラムのような固定部(11)に配置した移動体(13)を第1軸及び第2軸方向に駆動する構成の工作機械において,固定部(11)に2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を互いに平行に配置し,第1軸駆動手段(α1,α2)によって第1軸方向に駆動される移動ベース(14)を固定部(11)に設け,移動ベース(14)に2個の第2軸駆動手段(β1,β2)を互いに平行に配置し,移動体(13)を第2軸駆動手段(β1,β2)により第2軸方向に駆動する構成にし,各駆動手段(α1,α2,β1,β2)を制御するための制御装置(40)を設け, 制御装置(40)は,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して第1・2軸の角度誤差や移動体(13)の姿勢を補正するものであることを特徴とする工作機械。」というものである。 そこで,乙5発明と本件発明1を対比すると,乙5発明の「ベット1」は本件発明1の「固定部」に相当し,以下同様に,「X軸」は「第1軸」に,「Y軸」は「第2軸」に,「サドル3」は「移動ベース」に,「NC装置7」は「制御装置」に,「テーブル29」は「移動体」に,それぞれ相当する。 また,乙5発明では,ベット1に互いに平行に配置された2本の送りネジ4,4をサーボモータ5,5によって駆動して,サドル3をX軸方向に駆動するから,乙5発明の「2本の送りネジ4,4」と「サーボモータ5,5」は,固定部に「互いに平行に配置」された「2個の第1軸駆動手段」に相当する。同様に,サドル3に互いに平行に配置された「2本の送りネジ4,4」と「サーボモータ5,5」は,移動ベースに「互いに平行に配置」された「2個の第2軸駆動手段」に相当する。 そして,乙5発明において「可動体であるサドル3やテーブル29の可動体の位置と傾きを補正す」るこ タ5,5」は,移動ベースに「互いに平行に配置」された「2個の第2軸駆動手段」に相当する。 そして,乙5発明において「可動体であるサドル3やテーブル29の可動体の位置と傾きを補正す」ることは,本件発明1の「第1・2軸の角度誤差や移動体の姿勢を補正する」ことに相当する。 ウしたがって,本件発明1と乙5発明とは,以下の点で一致する。 「固定部に配置した移動体を第1軸及び第2軸方向に駆動する構成の工作機械において,固定部に2個の第1軸駆動手段を互いに平行に配置し,第1軸駆動手段によって第1軸方向に駆動される移動ベースを固定部に設け,移動ベースに2個の第2軸駆動手段を互いに平行に配置し,移動体を第2軸駆動手段により第2軸方向に駆動する構成にし,各駆動手段を制御するための制御装置を設け,制御装置は,第1・2軸の角度誤差や移動体の姿勢を補正するものである工作機械。」 他方で,以下の点で相違する。 制御装置が行う第1・2軸の角度誤差や移動体の姿勢の補正に関し,「本件発明1では,駆動手段(α1,α2,β1,β2)のゼロ設定を補正して行うのに対し,乙5発明では,位置検出装置8,8の検出値に基づいて4本の各送りネジ4,4,4,4の送り量を制御して行う点。」(以下「本件相違点」という。)このように,本件発明1と乙5発明では,第1・2軸の角度誤差や移動体の姿勢の補正について,これを第1・2軸の間の正常な関係を回復することによって行うという点は共通しているものの,その正常な関係の回復を駆動手段のゼロ設定の補正によって行うのか,駆動手段の送り量を制御して行うのかという点において相違する。 (4) 新規性の欠如について被告は,本件発明1と乙5発明が同一であり,新規性欠如を主 のゼロ設定の補正によって行うのか,駆動手段の送り量を制御して行うのかという点において相違する。 (4) 新規性の欠如について被告は,本件発明1と乙5発明が同一であり,新規性欠如を主張するので,本件相違点が実質的な相違点であるかについて検討する。 前記1(1)イのとおり,構成要件1-Gの「ゼロ点を補正」とは,「ゼロ点(原点)の設定を補正」することを意味するものと認められる。 乙5発明においては,位置検出装置8,8の検出値に基づいて4本の各送りネジ4,4,4,4の送り量を制御しているが,乙5号証には,原点ないしそれに類する用語についての明記はないし,その作用として「送りネジで送られる可動体の位置検出装置に対する傾きや位置のズレを検出し,その検出器に基づいて,2本以上ある送りネジのモータの回転数をモータに付けたCPUで変えることによって可動体の傾き等を補正する。」との記載があるから,回転数の変更により原点位置の補正を行うとは解し難い。 そうすると,本件相違点は,実質的な相違点であると認められるから,本件発明1と乙5発明は同一ではない。 以上のとおり,本件発明1は新規性を欠如しない。 また,本件発明2は本件発明1の従属項であり,本件発明3は本件発明1又は2の従属項であって,いずれも原点位置の補正を行うことをその内容とするものであるから,本件発明1が新規性を欠如しない以上,本件発明2及び3は新規性を欠如しない。 (5) 進歩性の欠如についてア周知技術について(ア) 乙8号証について乙8号証は,本件特許の出願前である平成7年7月25日に公開された公開特許公報(特開平7-186004)である。乙8号証には,以下の記載がある。 (ア) 乙8号証について乙8号証は,本件特許の出願前である平成7年7月25日に公開された公開特許公報(特開平7-186004)である。乙8号証には,以下の記載がある。 「本発明は,NC工作機械の工具位置を補正する方法に関するものである」(【0001】),「したがって,NC工作機械の所定の複数の部位に配設された温度検出手段から検出値をそれぞれ読み込むとともに,これら検出温度から複数の部位間の温度差をそれぞれ演算する。これら所定の部位間の温度差に応じて予め設定された補正量ΔL1を前記基準位置から距離検出手段までの距離L1に加算することにより,NC工作機械に熱変位量による所定の基準位置から距離検出手段までの距離L1の変動を補正することができる。」(【0009】),「工具の交換あるいは磨耗などでバイト3を交換した場合などには原点位置L0の補正が図示しない制御部で行なわれ,このバイト3の原点位置の補正方法について…詳述する。」(【0017】),「検出された実際の変位量L2’と予め設定された固定値である基準距離L2とから前記従来例に示した(1)式より原点位置補正量Δ Lが求められる(ステップS4)。」(【0020】),「こうして得られた主軸2から接触センサ4までの基準距離L1の補正量ΔL1と,上記ステップS4で算出されたバイト3の原点位置補正量ΔLからステップS8では原点位置L0の 補正演算が次式に基づいて行われる。」(【0029】),「こうして,上記(3)式で補正された原点位置L0は,バイト3の位置あるいは刃先形状などに応じて求められた原点位置補正量ΔLに加えて,この原点位置補正量ΔLを計測するための基準距離L1がNC旋盤1の各部位の温度差に基づく補正量ΔL1によって熱変位量による誤差を排除されるた 先形状などに応じて求められた原点位置補正量ΔLに加えて,この原点位置補正量ΔLを計測するための基準距離L1がNC旋盤1の各部位の温度差に基づく補正量ΔL1によって熱変位量による誤差を排除されるため,この原点位置L0に基づいて切削加工を行うことによりバイト3の固体差及び熱的変動による誤差を抑制した高精度の加工を行うことができ,上記ステップS1~S8の処理をバイト3の交換時などに適宜行うことにより自動的にNC旋盤1の稼動状況に起因する熱変位量による誤差を補正することが可能となって,前記従来に示したようなバイト3の交換時などの試験加工が不要となってNC工作機械の無人運転を行なうことができる。」(【0030】)以上の記載を図面も踏まえて検討すると,乙8号証には,工具を交換した場合などに制御部により原点位置の補正を行う工作機械が記載されていると認められる。 (イ) 乙9号証について乙9号証は,本件特許の出願前である平成3年8月12日に公開された公開特許公報(特開平3-184742)である。乙9号証には,以下の記載がある。 「本発明は,NC(数値制御)加工装置における原点補正方法に関する。」(2頁右上欄14行~15行),「〔作用〕加工装置のNCデータの原点を実際の加工状態で加工させ,この加工形状を非接触で自動的に計測し,これをフィードバックして原点補正をすることにより迅速な補正を可能にするとともに,温度変化や経時変化があっても加工精度を常に一定に保てるようにする。」(3頁左上欄下から5行~右上欄2行),「NCコントローラ9の座標系の原点位置(Xno,Yno)の値を, 上記の如く求めた偏差相当の換算量をもって補正することにより,加工装置の実際の加工軌跡に合わせることができる。」(3頁 行),「NCコントローラ9の座標系の原点位置(Xno,Yno)の値を, 上記の如く求めた偏差相当の換算量をもって補正することにより,加工装置の実際の加工軌跡に合わせることができる。」(3頁右下欄5行~8行)以上の記載に照らすと,NCコントローラ9の座標系の原点位置の値を,偏差相当の換算量をもって補正する工作機械が記載されていると認められる。 (ウ) 乙10号証について乙10号証は,本件特許の出願前である昭和61年8月27日に公開された公開特許公報(特開昭61-192445)である。乙10号証には,以下の記載がある。 「本発明は主軸の熱変位を補正するNC工作機の主軸熱変位補正装置に関するものである。」(1頁左下欄12行~14行),「本発明は上記のような問題点を除去するためになされたもので,熱変位補正が自動化されて作業効率が大幅に向上し,しかも補正精度も高めることができ,高精度の加工を行うことができるNC工作機の主軸熱変位補正装置を提供することを目的とする。」(1頁右下欄下から2行~2頁左上欄4行),「NC装置4はその入力信号に,換言すれば前記変位量に応じた分だけZ軸送り用電動機5dを駆動した後停止し(原点停止位置制御し),主軸5bの位置を補正する。Z軸方向の原点シフトを行うもので,このような動作は加工開始時のみならず,加工中においても常時,自動的に行うことができる。」(2頁左下欄8行~14行)以上の記載を図面も踏まえて検討すると,乙10号証には,主軸熱変位補正のために,Z軸方向の原点シフトを行う工作機械が記載され,Z軸方向の原点シフトを加工開始時のみならず,加工中においても常時,自動的に行うことができると記載されていることが認められる。 (エ) 乙 に,Z軸方向の原点シフトを行う工作機械が記載され,Z軸方向の原点シフトを加工開始時のみならず,加工中においても常時,自動的に行うことができると記載されていることが認められる。 (エ) 乙11号証について 乙11号証は,本件特許の出願前である昭和58年5月31日に公開された公開実用新案公報(実開昭58-80147)である。乙11号証には,以下の記載がある。 「この考案はボール盤,フライス盤,中ぐり盤,マシニングセンター等の工作機械における主軸の原点補正装置に関する。」(1頁下から3行~1行),「主軸の移動は一般にサーボモーターにより行なわれ,その移動量はサーボモーターの回転数と,これにより回転させられるボールネジのピッチにより制御される。」(2頁11行~14行),「この考案はオープンループ制御によりながら,主軸に変形が生じた場合,自動的に主軸の原点補正が行なえるようにした工作機械における主軸の原点補正装置を提供するものであり」(3頁4行~7行),「更に主軸1の変形量即ち主軸1の変形に伴う測定子5の移動量をゲージ4により電気信号に変換して変位補正機能を備えた数値制御装置6に入力し,該数値制御装置6の変位補正機能により主軸1を移動させるサーボモーター7を駆動して主軸の原点補正するよう装置してなるものである。」(4頁12行~18行)以上の記載に照らすと,乙11号証には,主軸に変形が生じた場合,自動的に主軸の原点補正を行う工作機械が記載されていることが認められる。 イ本件相違点の検討(ア) 本件発明1について上記アのとおり,工作機械において,原点の補正を行うことは周知技術であると認められる。 そして,乙29号証(本件特許の出願前であ 検討(ア) 本件発明1について上記アのとおり,工作機械において,原点の補正を行うことは周知技術であると認められる。 そして,乙29号証(本件特許の出願前である平成5年9月17日に公開された公開特許公報〔特開平5-237704〕)には,「このワーク加工原点の変位を補正するため,中央処理装置40内でステップ5 6の処理が実行される。すなわち,メモリ42に記憶されている主軸ヘッド31の移動軌跡のZ軸座標データをパルス発生回路37へ出力する制御出力信号に変換する前に,この移動軌跡のZ軸座標データの全部を幅δだけ少ない値に補正し,この補正後のZ軸座標データを制御出力信号に変換してパルス発生回路37へ出力する。これによって,以後の主軸ヘッド31はメモリに記憶されている移動軌跡よりも全体としてZ軸上を負方向にδだけ平行移動させた位置を移動するが,スピンドル3がハウジング1に対して相対的にδだけ上昇しているから,この相対的変位が相殺される。従って,ワークWに対するワーク加工原点は,ステップ51における原点から変位せず,ワークWの加工精度が低下することを防止できる。」(【0017】),「また,前記実施例においては,Z軸座標データを,スピンドル3のハウジング1に対する相対的変位量δだけ増減させることによって,ワーク加工原点の変位を補正する構成とした例を示したが,このほかに,例えば予圧の切換え時に,Z軸座標データをそのままとして,主軸ヘッド31をδだけ上下動させることによって,ワーク加工原点の変位を補正することもできる。」(【0026】)と記載されており,Z軸座標データをδだけ増減させることのほかに,Z軸座標データをそのままとして主軸ヘッドをδだけ上下動させることによって,ワーク加工原点の変位を補正する できる。」(【0026】)と記載されており,Z軸座標データをδだけ増減させることのほかに,Z軸座標データをそのままとして主軸ヘッドをδだけ上下動させることによって,ワーク加工原点の変位を補正することができるとされている。 このように,座標上の移動量を,駆動手段の原点位置を補正することにより調整するか(周知技術),又は駆動手段の駆動量で直接補正することにより調整するか(乙5発明)によっては,両者の作用効果に差異がないことが当業者に知られていたものと認められる。 そうすると,工作機械の分野において第1・2軸の角度誤差や移動体の姿勢を補正する技術である乙5発明に接した当業者は,第1・2軸間 の正常な関係を回復し,可動体を極めて正確に姿勢と位置出しをすることを可能にする方法として,乙5発明における4本の送りネジの送り量(駆動手段の駆動量)を直接補正する構成に代えて,これと作用効果の差異がない駆動手段の原点位置を補正するという周知技術を採用して,本件発明1の構成にすることを想起し,これを容易に想到し得たものであると認められる。 以上のとおり,本件発明1は進歩性が欠如している。 (イ) 本件発明2について本件発明2は,本件明細書の特許請求の範囲【請求項2】に記載のとおりであり,「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を操作することによって第1・2軸の直角度を補正することを特徴とする請求項1に記載の工作機械。」というものである。 本件発明2は,本件発明1の工作機械において,「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を操作することによって第1・2軸の直角度を補正する」という限定を 本件発明2は,本件発明1の工作機械において,「第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角であって,2個の第1軸駆動手段(α1,α2)を操作することによって第1・2軸の直角度を補正する」という限定を付したものである。他方で,乙5号証には,「サドル3の上にはサドル3の送り方向のX軸に対して直角なY軸方向に送られるテーブル29」(3頁右上欄17~19行)との記載があるから,第1軸方向と第2軸方向が実質的に直角である構成が開示されていると認められる。また,上記(2)のとおり,乙5号証には,2個の第1軸駆動手段を操作することによって第1・2軸の直角度を補正することも開示されている。 そうすると,上記限定は,乙5号証と対比して相違点ではないから,本件発明1と同様に当業者が容易に想到し得たものであると認められる。 以上のとおり,本件発明2は進歩性が欠如している。 (ウ) 本件発明3について 本件発明3は,本件明細書の特許請求の範囲【請求項3】に記載のとおりであり,「移動体(13)が,第3軸方向に移動可能なスピンドル(19)を備えたスピンドルヘッド(12)として構成されていることを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の工作機械。」というものである。 本件発明3は,本件発明1又は2の工作機械において,「移動体(13)が,第3軸方向に移動可能なスピンドル(19)を備えたスピンドルヘッド(12)として構成されている」という限定を付したものである。他方で,乙5号証の「テーブル29」(本件発明1の「移動体(13)」に相当)は,第3軸方向に移動可能なスピンドルを備えたスピンドルヘッドとして構成されていないから,この点が相違点である。 しかしながら,乙5号証の「ヘッド31」( 1の「移動体(13)」に相当)は,第3軸方向に移動可能なスピンドルを備えたスピンドルヘッドとして構成されていないから,この点が相違点である。 しかしながら,乙5号証の「ヘッド31」(主軸32が設けられて鉛直なZ軸方向に,ベット3,テーブル29と同様な送り装置で送られるものであり,コラム30に設けられたもの。3頁左下欄3~6行)は,本件発明3の「スピンドルヘッド(12)」と同様に「Z軸方向」に移動して動作するものであると認められる。 そして,スピンドルヘッドをいずれの場所に設けるかは単なる設計的事項にすぎないから,乙5号証の「コラム30」に設けることに代えて,「テーブル29」に設けるようにすることは,当業者が当然に行い得たことにすぎない。 そうすると,上記相違点は,当業者が容易に想到し得たものであると認められるから,本件発明3は,本件発明1又は2と同様に当業者が容易に想到し得たものであると認められる。 以上のとおり,本件発明3は進歩性が欠如している。 ウ原告の主張について(ア) 原告は,原点は,移動体の移動の基準であり,移動体は原点を基準 として移動するものであり,移動体の移動の基準となる原点の設定変更を,その移動中に行うことなどあり得ない旨に加え,静的補正に関する本件発明と動的補正に関する乙5発明は,解決課題及び解決原理が根本から異なる旨主張する。 原告の主張する「静的補正」は,移動体の停止中に「ゼロ設定を補正」することを意味すると解されるが,このような限定は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載にはないし,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載をみても,本件発明の解決課題及び解決原理が「静的補正」に限定される根拠は見出し難い。 ような限定は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載にはないし,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載をみても,本件発明の解決課題及び解決原理が「静的補正」に限定される根拠は見出し難い。 この点,原告は,本件明細書の【図6】に記載される「X1,X2補正値データー」(57)から「X2軸移動指令」(53)に向かう矢印の操作がゼロ設定の補正操作であり,この操作は最初のゼロ設定の補正操作1回のみであり,X2軸は常に補正値データに基づいて補正された位置にあることになるから,「ゼロ設定を補正」は,移動体の移動中に適宜,角度誤差や移動体の姿勢誤差を補正するものではない旨主張する。 しかしながら,本件明細書の【0031】~【0036】によれば,角度誤差等の測定値により換算された「X1,X2補正値データー」(57)に基づき,制御装置が駆動手段(サーボモータ21,22)に対して移動指令を与え,当該指令に基づいて,原点位置(角度)が補正され,駆動手段が移動体の位置を移動させることを「ゼロ設定を補正」と記載しているのであって,原告が主張するように「X2軸移動指令」(53)に向かう矢印の操作は最初のゼロ設定の補正操作1回のみであることや,移動体の移動中に補正を行うものでないことが,本件明細書の上記記載に示されているとはいえない。 また,原告は,本件明細書の【0037】の「直角度の補正によって1mにつき1~3μm程度の精度を得ることができる。」との記載につ いて,このようなずれの概念は,移動体の位置がX軸又はY軸における移動量に応じて常に一定の割合でずれる静的な誤差の補正でなければ存在し得ない旨主張する。しかしながら,上記記載自体,実施例中の記載にすぎないし,移動体の補正の精度は,補正値データに基づく移動指示と補正の結果の て常に一定の割合でずれる静的な誤差の補正でなければ存在し得ない旨主張する。しかしながら,上記記載自体,実施例中の記載にすぎないし,移動体の補正の精度は,補正値データに基づく移動指示と補正の結果のずれの程度をいうものと解され,補正が移動中に行われる場合であっても問題となり得るのであるから,原告の主張は採用できない。 さらに,原告は,本件明細書には,移動中に適宜補正する旨の記載はなく,【図6】には,動的誤差の補正のために必須の装置である位置検出装置の記述もない旨主張するが,これは,本件明細書の直角度の補正方法の一例(【0031】)にすぎないと解されるから,原告の主張は採用できない。 (イ) 原告は,乙5号証の引用適格について,乙5発明は当業者が実施することができない発明である旨主張する。 まず,乙5号証は,検出器(26)及び同(26’)の測定値は第1軸,2軸の角度誤差の特定に関するデータではないから,第1軸,2軸の角度誤差を特定することはできない旨主張する。しかしながら,当業者であれば,移動体の傾きを検出できるように適宜センサを配置することは可能であると解されるから,原告の主張は採用できない。 また,原告は,乙5号証は,工具が被工作物体を所望の精度未達の状態で切除する事態を避けるための具体的な実施方法を開示していない旨主張する。しかしながら,乙5発明では,送りネジの送り量の制御を行わない場合と比較して精度は向上していると解されるのであるから,原告の主張は採用できない。 (ウ) 原告は,進歩性の欠如について,周知技術(乙8~11)は,単に軸方向のずれの補正を行うことを開示しているにすぎず,「第1・2軸 の角度誤差」や「移動体(13)の姿勢」の補正に結びつくような補正につ 進歩性の欠如について,周知技術(乙8~11)は,単に軸方向のずれの補正を行うことを開示しているにすぎず,「第1・2軸 の角度誤差」や「移動体(13)の姿勢」の補正に結びつくような補正については,一切記載されていないし,示唆すらない旨主張する。しかしながら,上記イの進歩性の判断では,乙5発明において行っている駆動手段の駆動量の直接補正に代えて,周知技術の補正を採用することが容易である点についての判断をしているものであるから,原告の主張は採用できない。 また,原告は,乙29号証は,マスタ軸とスレーブ軸の2軸を有するものではないから,マスタ軸とスレーブ軸とを有する構成において,「駆動手段の駆動量を補正してもよいし,駆動手段の原点位置を補正してもよいこと」が技術常識であるということはできない旨主張する。しかしながら,乙29号証がマスタ軸とスレーブ軸の2軸を有するものでないとしても,「駆動手段の駆動量を補正してもよいし,駆動手段の原点位置を補正してもよいこと」が知られているのであれば,乙5発明の補正手段を,周知技術のものに置換する動機付けは否定されないのであるから,原告の主張は採用できない。 さらに,原告が進歩性の欠如についてするその他の主張も,いずれも採用できない。 (6) まとめ以上のとおり,本件発明は進歩性が欠如するから,本件特許は無効審判により無効にされるべきものである。 3 結論よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 裁判官小川雅敏 部 裁判長 裁判官 大須賀滋 裁判官 小川雅敏 裁判官 森川さつき
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