平成12(ワ)11649 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成15年5月7日 東京地方裁判所
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判決文本文17,840 文字)

平成15年5月7日判決言渡平成12年(ワ)第11649号損害賠償請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,2734万2179円と,これに対する平成10年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のそのほかの請求を棄却する。 3 訴訟費用は,10分の3を被告の負担とし,そのほかを原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求被告は,原告に対し,9769万7805円と,これに対する平成10年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要原告は,被告が設置する病院で右眼の白内障手術を受けたが,手術後に網膜剥離を発症し視力が著しく低下したことについて,被告病院の医師に,①白内障手術中に毛様体を損傷した過失,②手術後の検査を怠って網膜剥離を見逃した過失,③網膜剥離発見後に緊急手術を怠った過失,④白内障手術の危険性を説明しなかった過失があったと主張して,被告に対し,医療契約上の債務不履行,国家賠償又は不法行為(使用者責任)に基づき,損害賠償を求めた。 1 前提となる事実(証拠を記載したもの以外は争いがない)(1) 当事者被告は,埼玉県所沢市並木三丁目2番地に防衛医科大学校病院(以下「被告病院」という)を設置し,平成10年8,9月当時,眼科においてA医師,B医師,C医師,D医師を任用していた。 原告(大正9年10月7日生まれ)は,リハビリテーションを専門とする医師であったが,平成10年8月18日,右眼の白内障手術を受ける目的で被告病院に入院し,被告との間で,白内障手術に関し適切な医療を受けることを内容とする医療契約を締結した。 (2) 原告の診療経過ア原告は,平成5年2月24日から,左眼の視力低下と視野欠損を訴えて被告病院に通院し,原発開放隅角 白内障手術に関し適切な医療を受けることを内容とする医療契約を締結した。 (2) 原告の診療経過ア原告は,平成5年2月24日から,左眼の視力低下と視野欠損を訴えて被告病院に通院し,原発開放隅角緑内障と診断された。9月2日には,これに対する手術を受けたが,左眼に視野狭窄が残った。 原告は,平成10年6月2日,被告病院で,右眼の白内障が少しずつ進行しているとの診断を受けた。6月3日の検査により水晶体皮質混濁が認められたので,これに対する手術を受けることとなり,8月18日,被告病院に入院した。入院時の右眼視力は0.6であり,視野は正常であった。 イ原告は,平成10年8月20日,A医師の執刀で右眼の白内障手術を受け,8月30日に退院した。この手術中,毛様体上皮が剥離し,硝子体出血による硝子体混濁が生じたが,眼底後極部の網膜剥離には至らなかった。 ウ原告は,退院後,平成10年9月2日にB医師の,9月9日にA医師の診察を受けたが,9日の診察で,右眼に網膜剥離(裂孔原性網膜剥離)が発見された。 右眼視力は,2日が0.1,9日が0.2であった。 原告は,9月11日に被告病院に再入院し,9月14日,右眼の網膜剥離に対する手術を受け,10月2日に退院した。右眼視力は,入院時が0.4,退院後の10月7日の検査では0.1であった。 原告は,平成11年1月13日まで被告病院に通院したが,右眼視力は0.1のままで回復せず,その後,東京大学医学部附属病院へ転院した。 (3) その後の原告の状況原告は,東京大学病院において,平成11年4月15日の検査で右眼にも視野狭窄が認められ,平成12年5月22日には, 右眼視力は0.04で矯正不能,網膜剥離後の網膜変性により視力回復は不能と診断された(甲B4の1・2)。 原告は,平成14年11月 の検査で右眼にも視野狭窄が認められ,平成12年5月22日には, 右眼視力は0.04で矯正不能,網膜剥離後の網膜変性により視力回復は不能と診断された(甲B4の1・2)。 原告は,平成14年11月21日,東京都から,視野障害により身体障害程度等級2級(両眼の視野がそれぞれ10度以内で,かつ,両眼による視野について視能率による損失率が95パーセント以上のもの)の認定を受けて,身体障害者手帳の交付を受けた(甲C2,3)。現在の右眼視力は0.02程度である(甲B12,原告本人)。 (4) 医学的知見ア白内障手術(甲B3の1,乙A2,B8,14)白内障とは,眼球内の水晶体が加齢などにより白濁する疾患である。これに対する手術的療法としては,白濁した水晶体を摘出し,代わりに眼内レンズ(人工水晶体。IOL)を挿入する方法がとられる。 水晶体を摘出するにあたっては,水晶体前嚢を部分的に切除して水晶体核を摘出した後,残った軟らかい水晶体皮質を吸引除去して水晶体嚢を保存する術式が広く行われている(水晶体嚢外摘出術)。水晶体核を摘出する方法には,圧出法などにより核を一塊として摘出する方法(計画的嚢外摘出術)と,超音波発振チップにより核を破砕して吸引する方法(超音波水晶体乳化吸引術)とがある。 原告に対しては,核を一塊として摘出する水晶体嚢外摘出術と,眼内レンズ挿入術が実施された。 イ裂孔原性網膜剥離(甲B2,3の2)網膜に孔が生じ,この孔から眼球内の水(液化した硝子体)が網膜の下へ入り込んで,網膜が剥離する疾患である。いったん網膜剥離が進行しはじめると,自然治癒の可能性は極めて小さく,全網膜が剥離して失明に至る。 初期には飛蚊症を伴うことが多く,進行すると剥離部位に相当する視野欠損の形で自覚症状が現れる。一般に,眼底上 剥離が進行しはじめると,自然治癒の可能性は極めて小さく,全網膜が剥離して失明に至る。 初期には飛蚊症を伴うことが多く,進行すると剥離部位に相当する視野欠損の形で自覚症状が現れる。一般に,眼底上方から始まる剥離のほうが進行が速く,数日か数週間で黄斑部(網膜中央部)に至ることが多い。剥離が黄斑部に達すると,視力が著しく低下する。 手術により剥離した網膜を復位させ,光凝固などにより裂孔を閉鎖する以外に有効な治療法はないが,手術によっても治癒するとは限らない。特に陳旧化したものでは剥離した網膜に線維膜形成が起こり,網膜が剥離したままの形で器質化するため,手術の成功率は著しく低くなる。また,剥離が黄斑部に達する前に手術をしないと,剥離が治っても良い視力は得られない。 2 争点(1) 被告病院の医師の過失ア白内障手術中に毛様体を損傷した過失の有無イ 9月2日の外来診療時に網膜剥離を見逃した過失の有無ウ 9月9日に網膜剥離を発見した後,緊急手術を実施しなかった過失の有無エ白内障手術の危険性を説明しなかった過失の有無(2) 原告の損害 3 当事者の主張(1) 争点(1)(過失)についての当事者の主張は,別紙「争点(1)に関する当事者の主張」に記載のとおりである。 (2) 争点(2)(損害)についての原告の主張ア休業損害 525万1394円原告は,リハビリテーションの専門医として病院に勤務していたが,右眼視力が低下し視野狭窄も生じた結果,職務を果たすことができなくなったため,平成11年3月31日,やむなく勤務先の病院を退職した。 この間,被告病院に再入院した平成10年9月11日から退職した平成11年3月31日までの202日間は,休業を余儀なくされた。原告の医師としての平成10年の年収は948万9070円であったから この間,被告病院に再入院した平成10年9月11日から退職した平成11年3月31日までの202日間は,休業を余儀なくされた。原告の医師としての平成10年の年収は948万9070円であったから(1日当たり2万5997円),202日分の休業損害は525万1394円である。 イ逸失利益 6744万6411円原告は,医師としての収入の道を絶たれ,労働能力を100パーセント喪失した。原告は,本件の医療事故に遭わなければ, 平均余命に相当する9年間,医師として稼働することができた。年収948万9070円に9年に対応するライプニッツ係数7.1078を乗じて中間利息控除をすると,逸失利益は6744万6411円となる。 ウ慰謝料 2000万円エ弁護士費用 500万円第3 争点に対する判断 1 白内障手術に関する事実経過証拠(甲B12,乙A2,B13,証人A,原告本人)によれば,原告の右眼の白内障手術について,次の事実が認められる。 (1) 平成10年8月20日の手術ア A医師が執刀医となり,午後0時35分に局所麻酔を行って,午後0時45分,白内障手術(水晶体嚢外摘出術と眼内レンズ挿入術)を開始した。 まず,上下直筋の付着部に制御糸を施したうえ,四面切開という方法で結膜と強角膜を階段状に4つに分けて切開し,水晶体前嚢は輪状に切開して除去した。 次いで,水晶体嚢と水晶体皮質との間に水を注入して両者を分離し,また,硝子体脱出などが生じた場合に切開創を閉じるための強角膜前置縫合を施した。 イ A医師は,午後1時10分ころ,娩出器を使用して水晶体核を摘出したが,その際,硝子体圧が高かったために水晶体後嚢が破損して,硝子体が眼外に脱出してきた。 そこで,強角膜前置縫合を結紮して切開創を閉じたうえで,しばらく経過観察をしたが,硝子体 体核を摘出したが,その際,硝子体圧が高かったために水晶体後嚢が破損して,硝子体が眼外に脱出してきた。 そこで,強角膜前置縫合を結紮して切開創を閉じたうえで,しばらく経過観察をしたが,硝子体の脱出が進行する徴候は認められなかったので,手術を続行することとした。強角膜前置縫合を緩めて切開創を開き,MQAスポンジとウェッケル剪刀で脱出した硝子体を切除し,次に,眼内レンズを装着する空間を作るために,硝子体切除器で前部硝子体を切除した。 ウ A医師は,次いで,洗浄吸引器を使用して水晶体の残存皮質を吸引したが,その吸引時に,上耳側の毛様体上皮が鋸状縁の部位から剥離した。 そこで,A医師は,眼底検査を行って,手術助手のC医師とともに眼底後極部を調べたが,後極部に網膜剥離は認められなかったので,手術は続行可能と判断し,午後2時12分,眼内レンズの挿入に取りかかった。眼内レンズは当初は保存した水晶体嚢に挿入する予定であったが,後嚢が破損して眼内レンズの支持が不可能となったので,上鼻側毛様溝と下耳側毛様溝の2点で支える形で縫着固定した。 そして,縮瞳薬オビソートを注入し,再度,眼底に網膜剥離が発生していないことを確認したうえで,清水式吸引器で前房を洗浄し,切開創から房水の漏出がないことを確認して結膜を縫合し,後処置をして午後2時37分に手術を終了した。 (2) 8月30日の退院までの経過ア A医師は,8月21日,原告に対し「昨日の手術が長引いたのは,水晶体核の娩出後,残存皮質の吸引時に弱かった毛様体の一部がはがれたことから,眼底検査をしながら網膜に異常がないことを確認したためです。右眼の鈍痛の原因は,神経の過敏な毛様体に傷が付いたためです。明日から,ステロイド眼注(朝・夕)とオフラ(赤外線温罨法器。目を温めて消炎する器具) をしながら網膜に異常がないことを確認したためです。右眼の鈍痛の原因は,神経の過敏な毛様体に傷が付いたためです。明日から,ステロイド眼注(朝・夕)とオフラ(赤外線温罨法器。目を温めて消炎する器具)で消炎を図りましょう」との説明をした。その際,駆逐性出血があったという説明はしなかった。 イ 8月21日から30日の退院までの間,原告には,硝子体出血や硝子体混濁が見られ,フィブリン(眼内に炎症が起こった場合に前房あるいは硝子体に生じる炎症性混濁物)も認められた。28日の右眼視力は0.1であったが,29日の眼底検査でも網膜剥離は認められず,硝子体混濁も徐々に消失していった。 2 白内障手術中に毛様体を損傷した過失の有無(争点(1)ア)について(1) 被告は,毛様体の損傷について,上耳側に向かう長後毛様動脈から不可抗力による駆逐性出血が発生し,その出血に随伴して毛様体に損傷が生じたと主張する。また,証人Aは,まず毛様体に駆逐性出血が発生して眼内の容積が増大し,そのために硝子体が押し上げられ,その押し上げられた硝子体が切開創から脱出しようとして水晶体後嚢を破損し,水晶体核もそれに押されて自然娩出したと供述する。 しかし,手術記録を含む診療録のどこにも,駆逐性出血が発生したという趣旨の記載はなく(乙A1~3),原告に対しても駆逐性出血があったという説明はされていない。 むしろ,診療録には,手術記録中に「核娩出 → 硝子体圧が高く,後のうがraptureし,硝子体脱出」,「残存皮質吸引 → 上耳側に毛様体が鋸状縁のところよりDetatch」という記載があり,8月21日の原告に対する説明内容についても「水晶体核娩出後,残存皮質吸引時に,弱かった毛様体が一部はがれ」という記載がされているのであって(乙A2),事実経過がこの記載と異 」という記載があり,8月21日の原告に対する説明内容についても「水晶体核娩出後,残存皮質吸引時に,弱かった毛様体が一部はがれ」という記載がされているのであって(乙A2),事実経過がこの記載と異なることを認めるべき理由は見当たらない(水晶体核の「娩出」という用語は,文献やA医師の陳述書でも 「摘出」の意味を含むものとして使用されているし(乙B8,13,14),「Detatch」という用語を「剥離を確認した」という意味に解釈すべき合理的根拠もない)。 したがって,毛様体の損傷が駆逐性出血に随伴して発生したものと認めることはできない。 (2) 前記1で認定したとおり,原告に対する白内障手術中には,水晶体核の摘出時に後嚢が破損して硝子体が脱出してきたり, 残存皮質の吸引時に上耳側の毛様体上皮が鋸状縁の部位から剥離するという異常事態が発生した。 しかし,これらの異常事態が,A医師が手術器具の操作を誤るなどしたことによって発生したものと認めるに足りる証拠はなく,毛様体の損傷についてA医師の過失を認めることはできない。 (3) 原告は,A医師が毛様体の損傷部位の修復をしないで白内障手術を続行したために,後日の網膜剥離を招いたとも主張する。 しかし,A医師は,硝子体の脱出に対しては,強角膜前置縫合を結紮して切開創を閉じたうえで経過観察を行い,硝子体脱出が進行する徴候がないことを確認してから手術を続行し,毛様体上皮の剥離に対しては,眼底検査を行って,後極部に網膜剥離の発生がないことを確認してから再び手術の続行を決定している。このように,白内障手術中に生じた異常事態に対し,A医師は手術の続行に支障がないことをその都度確認したうえで,慎重な対応をしているということができるから,毛様体損傷部位の修復をせずに手術を続行したことを,過 白内障手術中に生じた異常事態に対し,A医師は手術の続行に支障がないことをその都度確認したうえで,慎重な対応をしているということができるから,毛様体損傷部位の修復をせずに手術を続行したことを,過失と評価することはできない。 3 網膜剥離の発見と手術に関する事実経過証拠(甲B12,17,18,乙A1,3,B13,証人A,原告本人)によれば,原告の右眼の網膜剥離とそれに対する手術について,次の事実が認められる。 (1) 平成10年9月2日の診察B医師は,9月2日の診察で,眼底検査により周辺部に膜様物の立ち上がりがあることを認めたが,後極側に網膜剥離が生じていないことを確認し,膜様物については検査をしなかった(原告は,当日の診療録にある「網膜ディタッチメントない」との記載(乙A1)は他の記載と明らかに筆跡が異なると主張する。しかし,この部分は,当日に臨床実習中の医学科学生がB医師の指示に基づき記載したものと考えられる(乙A4))。 この時の原告の右眼視力は0.1であり,原告は白内障手術の後,飛蚊症に悩まされているとか,多重複視の症状があるなどと訴えたが,これに対し,B医師は「飛蚊症は徐々に吸収されます」,「多重複視は術後の角膜等前眼部の浮腫のためで,炎症症状が治まって浮腫がとれれば,乱視眼鏡で回復するでしょう」という説明をした。 (2) 9月9日から9月13日までの経過ア A医師は,9月9日の診察で,眼底検査の結果,上耳側周辺部に限局性の網膜剥離を発見した。B医師とC医師も原告を診察し,中間周辺部まで及ぶ上耳側胞状剥離と,下方の巨大裂孔を認めた。この時の原告の右眼視力は0.2であった。 A医師は,原告に対し,網膜剥離が発見されたので手術を実施する必要があるとの説明をし,翌日の9月10日か11日に入院すること と,下方の巨大裂孔を認めた。この時の原告の右眼視力は0.2であった。 A医師は,原告に対し,網膜剥離が発見されたので手術を実施する必要があるとの説明をし,翌日の9月10日か11日に入院することを勧めた。しかし,その際,緊急手術を実施しなければ網膜剥離が進行して視力が著しく低下し,場合によっては失明の危険もあるというような説明は行わなかった。原告は,9月9日の時点ではまだ網膜剥離の自覚症状である視野欠損がなく,A医師の説明からは切迫性や緊急性を感じなかったため,自分の勤務の都合で9月12日(土曜日)に入院したいと希望した。これに対し,A医師は,もっと早くしなければ手遅れになるおそれがあるというような反論や説得は行わず,9月11日  (金曜日)入院,14日(月曜日)手術という予定をした。 イところが,9月10日,右眼に視野欠損が自覚されてきたため,原告は被告病院に電話をかけ,急に病状が悪化したので入院を早めてほしいとの連絡をして,翌11日午前9時30分に入院した。 原告は,入院時から右眼の飛蚊症と視野欠損を訴えていたが,当日は医師が後記の日本緑内障学会に出席していたため,学会が終わってD医師が帰院した夕方まで,医師による診察は行われなかった。D医師は,その診察において右眼周辺部に強い網膜剥離を認め,右網膜剥離,巨大裂孔網膜剥離,増殖性硝子体網膜症(増殖組織が硝子体基底部に増殖して網膜を牽引する症状) との診断をした。この時は,剥離はまだ黄斑部に達しておらず,原告の右眼視力は0.4であった。 ウ 9月12日には,原告の網膜剥離はさらに悪化し,黄斑部にも剥離が及んで,右眼のほぼ全視野について欠損が生じた。 C医師は,原告に対し「白内障手術中に毛様体上皮がはがれて,硝子体出血が起こり,硝子体混濁となって見えにくくなっ さらに悪化し,黄斑部にも剥離が及んで,右眼のほぼ全視野について欠損が生じた。 C医師は,原告に対し「白内障手術中に毛様体上皮がはがれて,硝子体出血が起こり,硝子体混濁となって見えにくくなった。それが落ち着いて右眼視力が0.4くらいまで回復したが,今度は毛様体の裂孔から水が入って,網膜剥離が起こった。本日の段階では,黄斑部に剥離が生じている。全剥離にならないうちに,9月14日に硝子体手術をする予定である」という説明をした。硝子体手術後の目標視力は0.4程度であった。 原告の網膜剥離が黄斑部に達したことは,C医師からA医師にも伝えられたが,両医師とも,予定どおり9月14日に手術を実施すれば視機能を回復させることができると判断し,緊急手術実施の決定をしなかった。 エ 9月13日には,右眼に上方2分の1ほどの胞状網膜剥離と黄斑部の剥離,下方2分の1ほどの巨大裂孔が認められた。原告は,C医師から網膜剥離に対する硝子体手術の内容などについての説明を受けたうえで,手術の実施に同意をした。 (3) 網膜剥離に対する手術C医師が執刀医となり,9月14日午前9時16分から午後0時40分まで,網膜剥離に対する硝子体手術が実施された。手術内容は,硝子体切除,パーフルオロカーボンの注入,眼内レーザー光凝固,輪状締結,SF6ガスの注入などにより,網膜の復位と裂孔の閉鎖を図るというものであった。 なお,9月11日(金曜日)から13日(日曜日)までの間,被告病院と道路を挟んで斜め向かいに位置する所沢市民文化センターにおいて,日本緑内障学会が開催された。主催者は被告病院の眼科学教室であり,A医師がその責任者となっていた。  A,B,C,Dの各医師は,開催期間中を通じて,いずれもこの学会に出席していた。 4 9月2日の外来診療時に網膜剥離を された。主催者は被告病院の眼科学教室であり,A医師がその責任者となっていた。  A,B,C,Dの各医師は,開催期間中を通じて,いずれもこの学会に出席していた。 4 9月2日の外来診療時に網膜剥離を見逃した過失の有無(争点(1)イ)について(1) B医師は,9月2日の診察で,周辺部に膜様物の立ち上がりがあることを認めたが,その膜様物に対する検査を実施しなかった。飛蚊症と多重複視の訴えがあり,視力の低下(0.1)も見られたが,この時点で網膜剥離の発生を疑わなかったものと考えられる。 しかし,多重複視を網膜剥離の症状と認めるべき証拠はない。飛蚊症は網膜剥離の初期症状の1つに数えられるが,硝子体出血や水晶体皮質の混入などによる硝子体混濁も飛蚊症の原因となる(甲B13)。本件においては,白内障手術中に水晶体後嚢の破損が起こり,硝子体出血や硝子体混濁が発生して,原告は手術の直後から飛蚊症の症状を訴えていたのであるから(甲B12),この時点でもその飛蚊症が残存していると考える余地があった。 したがって,9月2日の時点で直ちに網膜剥離の発生を疑うことは困難であったというべきであり,B医師に網膜剥離を見逃した過失があったということはできない。 (2) E医師の陳述書には「B医師は正常な眼底には存在しないはずの膜様物を認めたのであるから,その異常所見の内容や実態を徹底的に検査すべきであった」,「硝子体脱出の場合には後極側の網膜剥離ではなく,周辺部の網膜の裂孔や毛様体と網膜の間の解離が生じ,網膜剥離に進行する可能性が考えられるにもかかわらず,周辺部の状態について検査所見がない理由が不明である」という趣旨の記載がある(甲B13)。 しかし,膜様物の立ち上がりが網膜剥離を疑わせる所見であるということはできないし,そのほかに,9月2日の 辺部の状態について検査所見がない理由が不明である」という趣旨の記載がある(甲B13)。 しかし,膜様物の立ち上がりが網膜剥離を疑わせる所見であるということはできないし,そのほかに,9月2日の時点で網膜剥離を疑わせる症状や徴候があったものと認めるべき証拠もない。 5 9月9日に網膜剥離を発見した後,緊急手術を実施しなかった過失の有無(争点(1)ウ)について(1) 9月9日の事実経過は前記3で認定したとおりであり,A医師が原告に対し,当日直ちに入院して翌10日に緊急手術を受けるよう指示をしたとは認めることができない(仮にいったんはそのように告げたとしても,原告が勤務の都合で入院を遅らせることを希望したのに対して,すぐに11日入院,14日手術という予定を立てているのであるから,それは1つの提案をしたというにすぎない)。 しかし,この時点では,原告の右眼視力は0.2で,視野欠損などの自覚症状はなく,剥離は上耳側周辺部に限局されて黄斑部に達していたわけでもなかったから,原告の右眼に生じた網膜剥離は,まだ重症には至っていなかったと考えられる。したがって,一般に眼底上方から始まる剥離の進行は速いという医学的知見を考慮しても,A医師が9月11日に入院させて14日に手術を実施すると予定したことには,過失があるとはいえない。 (2) しかし,その後,原告の症状は急速に悪化し,9月12日には,網膜剥離が黄斑部に達した。裂孔原性網膜剥離は,いったん発生すると自然に治癒する可能性は極めて小さく,放置すれば剥離が黄斑部に達して視力の著しい低下を招き,失明に至ることもある疾患であり,陳旧化すると剥離した網膜に線維膜が形成されて,網膜が剥離したままの形で器質化するおそれもある。 したがって,症状が急速に悪化した場合には,緊急手術を実施して, ,失明に至ることもある疾患であり,陳旧化すると剥離した網膜に線維膜が形成されて,網膜が剥離したままの形で器質化するおそれもある。 したがって,症状が急速に悪化した場合には,緊急手術を実施して,剥離した網膜を早期に復位させる必要がある。 そうすると,被告病院の医師としては,原告の症状が急速に悪化して網膜剥離が黄斑部に達したことが判明した9月12日の時点では,14日に予定していた手術を繰り上げて,直ちに緊急手術を実施すべき義務があったといわなければならない。良い視力の回復が得られるようにするためには,本来なら,剥離が黄斑部に達する前に手術をすべきものであった。 ところが,C医師やA医師は,原告の網膜剥離が黄斑部に達したことを認識しながら,直ちに緊急手術を実施せず,9月14 日まで網膜剥離の進行を放置した。したがって,この点において,被告病院の医師には過失が認められる。 (3) C医師やA医師らは,9月11日から13日までの間,被告病院眼科学教室主催の学会に出席していたが,この学会は被告病院のすぐ近くの会場で開催されていたから,被告病院へ戻って緊急手術を実施することも可能であったと考えられる。 仮に学会への出席を優先するのであれば,当直医に執刀させるなどの応急措置を講じることが,当然の義務である。被告は, その時点で原告を転院させるとかえって症状の悪化を招く危険があったと主張するが,そうであればなおさら,被告病院において応急措置を講じる必要があった。 (4) 原告の網膜剥離の進行状況を考慮すると,これに対する手術の実施が9月14日まで遅れた結果,原告の右眼視力は著しく低下し,網膜剥離後の網膜変性により回復不能になったと認めることができる。 したがって,医療契約上の債務不履行又は過失による不法行為の使用者責任に基づき 日まで遅れた結果,原告の右眼視力は著しく低下し,網膜剥離後の網膜変性により回復不能になったと認めることができる。 したがって,医療契約上の債務不履行又は過失による不法行為の使用者責任に基づき,被告には,原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。 6 原告の損害(争点(2))について(1) 休業損害原告は,財団法人F財団が設置するG病院に勤務し,平成11年3月31日に退職するまでその名誉院長の地位にあった(甲 B12,乙A1,3,弁論の全趣旨)。そして,原告は,平成10年中にG病院から1043万8043円の給与を得ており  (甲C1),この給与が休業によって減額されたとの主張はない。 したがって,原告は退職時まで給与の支給を受けていたと考えられ,休業による損害の発生を認めるべき証拠はない。 (2) 逸失利益 1684万2179円ア原告の右眼視力は,退院から5日後の平成10年10月7日が0.1,被告病院で最後に受診した平成11年1月13日も0. 1であったが,平成12年5月22日には0.04まで低下し,視野狭窄も認められた。原告の視力低下,視野狭窄はその後も回復せず,むしろ進行しており,矯正も不能と診断されている。原告は,平成14年11月21日,東京都から視野障害により身体障害程度等級2級の認定を受けた。 そうすると,原告の後遺障害は,平成10年9月から平成12年5月までの約2年間は自賠法施行令別表に定める後遺障害等級10級の「1眼の視力が0.1以下になったもの」に該当し,その後は9級の「1眼の視力が0.06以下になったもの」と1 3級の「1眼に視野狭窄を残すもの」(併合8級)に該当すると考えられる。 イ平成10年9月当時,原告は満77歳であり,平成10年簡易生命表によると平均余命は9.26年であったから,就労可 の」と1 3級の「1眼に視野狭窄を残すもの」(併合8級)に該当すると考えられる。 イ平成10年9月当時,原告は満77歳であり,平成10年簡易生命表によると平均余命は9.26年であったから,就労可能年数は5年と考える。 労働能力喪失率は,後遺障害等級に従って,初めの2年は27パーセント,その後の3年は45パーセントと認めるのが相当である。 そうすると,原告の逸失利益は,次のとおり,基礎収入を1043万8043円とし,ライプニッツ係数により中間利息を控除して,1684万2179円と算定される。 10,438,043 × 0.27 × 1.8594 + 10,438,043 × 0.45 × (4.3294-1.8594)= 16,842,179(3) 慰謝料 800万円原告の視力障害や視野障害の程度,高齢ではあったが現役の医師として勤務していたことなどを考慮すると,本件について原告が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる額は,800万円と認めるのが相当である。 (4) 弁護士費用 250万円事案の内容,訴訟活動の難易度,認容額などを考慮し,相当因果関係のある損害として,弁護士費用250万円を認める。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,被告に対し,損害賠償金2734万2179円と,これに対する不法行為後の平成10年9月 14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。仮執行宣言は,必要がないから付さない。 東京地方裁判所民事第35部裁判長裁判官片山良広裁判官松田典浩裁判官釜田ゆり 片山良広裁判官松田典浩裁判官釜田ゆり (別紙) 争点(1)に関する当事者の主張 │原告 │被告││ア白内障手術中に毛様体を損傷した過失の有無││1 A医師は,白内障手術中,水晶体の核を │1 A医師が強角膜を切開し,水晶体核の摘 ││ 摘出する際か,洗浄吸引器を用いて水晶体の │ 出を行おうとした際,上耳側部に向かう長後 ││ 残存皮質を吸引する際に,手術器具を使用す │ 毛様動脈から駆逐性出血が発生し,その出血 ││ る力加減を誤って水晶体後嚢を破るなどして │ に随伴して毛様体が損傷した。 ││ 毛様体を損傷し,あるいは,手術器具などに │  駆逐性出血は,原告の長後毛様動脈があ ││ より毛様体を直接損傷した。しかも,その修 │ らかじめ壊死などで脆弱化していたところ ││ 復を十分に行わなかったために,後日の網膜 │ へ,原告の高 ││ より毛様体を直接損傷した。しかも,その修 │ らかじめ壊死などで脆弱化していたところ ││ 復を十分に行わなかったために,後日の網膜 │ へ,原告の高血圧などの影響で鬱血が生じた ││ 剥離を招いた。 │ ため,壊死血管が破綻したことにより発生し ││  したがって,A医師には,手術中に毛様 │ たと考えられる。このような出血は極めてま ││ 体を損傷した過失がある。 │ れな症例であり,不可抗力により発生したも ││ │ のであって,これを予見することはできない。││ │││2 この点につき,A医師は,手術後に,原 │2 A医師は,手術後に,原告に対し,自ら ││ 告に対し,水晶体の残存皮質を吸引する際に │ のミスで水晶体後嚢を破ったという説明はし ││ 自らのミスで水晶体後嚢を破ってしまい,そ │ ていない。 ││ の結果毛様体から出血を引き起こしたとの説 │  手術記録に原告指摘の「剥離」という記 ││ 明をしている。 │ 載があることは認めるが,A医師の認識では,││  また,白内障手術の手術記録には「残存 ││ 明をしている。 │ 載があることは認めるが,A医師の認識では,││  また,白内障手術の手術記録には「残存 │ この部分は「剥離を確認した」という意味で ││ 皮質吸引→上耳側に毛様体が鋸状縁のところ │ ある。 ││ より剥離」との記載がある。一方,すべての │││ 診療録中に,駆逐性出血が生じたという記載 │││ はない。 │││3 仮にA医師が毛様体を損傷したのではな │3 毛様体が損傷した場合には,まず保存的 ││ いとしても,A医師には,損傷が生じたこと │ に消炎に努めるべきであり,その後に網膜剥 ││ を認識した時点で,手術を中止して毛様体の │ 離の徴候など何らかの変化が現れた場合に ││ 修復をし,損傷部位の回復を待つべき義務が │ は,その変化に応じた措置を検討することに ││ あった。ところが,A医師は,損傷部位を放 │ なる。 ││ 置したまま手術を続行し,後日の網膜剥離を │  A医師は,眼底検査を行って脈絡膜剥離 ││ 招いた。 ││ 置したまま手術を続行し,後日の網膜剥離を │  A医師は,眼底検査を行って脈絡膜剥離 ││ 招いた。 │ や網膜裂孔,網膜剥離などがないことを確認 ││  したがって,A医師には,毛様体に損傷 │ したうえで手術を続行し,手術直後から消炎 ││ が生じた後,その修復をしないで手術を続行 │ のための適切な措置を行っている。 ││ した過失がある。 │││イ 9月2日の外来診療時に網膜剥離を見逃した過失の有無││1 原告は,9月2日,B医師の診察を受け │1 診療録には,9月2日の診察の際に,原 ││ た際,網膜剥離の初期症状である飛蚊症のほ │ 告が飛蚊症などの症状を訴えたとの記載は存 ││ か,視力の低下,多重複視の症状を訴えた。 │ 在しない。また,飛蚊症を網膜剥離の初期症 ││ したがって,B医師には,網膜剥離を疑い, │ 状と限定することはできないから,原告主張 ││ 直ちに検査をしてこれを発見すべき義務があ │ の訴えがあったとしても,網膜剥離を疑って ││ った。 │ 早期発見をする義務があったとはいえない。 ││  ところが,B医師は「飛蚊症は徐々に吸 │  B医師は,当日の診察において,原告の │ 早期発見をする義務があったとはいえない。 ││  ところが,B医師は「飛蚊症は徐々に吸 │  B医師は,当日の診察において,原告の ││ 収されます」,「多重複視は術後の角膜等前 │ 屈折検査,視力検査,前眼部細隙灯顕微鏡検 ││ 眼部の浮腫のためで,炎症症状が治まって浮 │ 査,眼底倒像鏡検査,眼圧検査を行った。そ ││ 腫がとれれば,乱視眼鏡で回復するでしょう」 │ して,眼底倒像鏡検査の結果,上耳側周辺部 ││ と述べただけで,それ以上の検査を行わなか │ に膜様物の立ち上がりを認めたが,後極部網 ││ った。 │ 膜に剥離は認めなかったので,原告に対し, ││  したがって,B医師には,網膜剥離を見 │ できるだけの安静と異常の自覚時の早期来院 ││ 逃した過失がある。 │ を指示して,1週間後の受診の予約を入れて ││  なお,B医師が,原告に対し,できるだ │ いるのであって,原告の訴えに対して検査も ││ けの安静と異常の自覚時の早期来院を指示し │ せずに放置したことはない。 ││ たことはない。 │││2 この日の診療録には「網膜ディタッチメ │2 診療録にある「網膜ディタッチメントな ││ ントない」との記載があるが,その筆 ││2 この日の診療録には「網膜ディタッチメ │2 診療録にある「網膜ディタッチメントな ││ ントない」との記載があるが,その筆跡は同 │ い」との記載は,当日に臨床実習をしていた ││ 記載位置も不自然である。ほかにも目的不明 │ 医師の所見をその指示に従って記載したもの ││ なスタンプが「網膜ディタッチメントない」 │ である。したがって,筆跡が異なっても不自 ││ という記載のすぐ左に押されている。当日, │ 然ではない。 ││ 原告の診察をしたのはB医師だけであり,研 │││ 修医なども同席していなかったから,この部 │││ 分は診察時に記載されたものとは考えられな │││ い。 │││  そもそも,原告の硝子体はまだ相当混濁 │││ していたはずであり,「網膜ディタッチメン │││ トない」と言い切ることが可能な状態ではな │ │││ トない」と言い切ることが可能な状態ではな │││ かった。 │││ウ 9月9日に網膜剥離を発見した後,緊急手術を実施しなかった過失の有無││1 A医師は,9月9日,網膜剥離を発見し │1 A医師は,9月11日は学会の関係で当 ││ たにもかかわらず,原告に対し,これが緊急 │ 直医を除き眼科医が不在になるので,原告に ││ 事態であることの説明を行わず,直ちに入院 │ 対し,9日当日に入院をして翌10日に緊急 ││ するよう指示もしなかった。そのため,原告 │ 手術を受けるよう指示した。 ││ の入院が2日も遅れた。さらに,入院翌日の │  ところが,原告が仕事の都合で12日の ││ 9月12日の朝には,視野欠損範囲が鼻側下 │ 入院を希望したので,A医師は,原告が医師 ││ 部から急速に拡大して,一刻を争う状況にな │ として自分の身体よりも自らの患者を優先し ││ った。 │ たものと理解して,9月11日の入院,14 ││  ところが,被告病院では,スタッフがそ │ 日の手術という計画をしたのであり,そのと ││ ろわないとか,学会のために医師が不 ものと理解して,9月11日の入院,14 ││  ところが,被告病院では,スタッフがそ │ 日の手術という計画をしたのであり,そのと ││ ろわないとか,学会のために医師が不在であ │ おり手術は実施されている。 ││ るなどとして,原告の訴えを無視し,緊急手 │││ 術の実施を怠った。学会は被告病院のすぐ近 │││ くで開催されていたから,医師を呼び戻すこ │││ とも可能であり,9月12日には緊急手術が │││ 実施されなければならなかったのに,14日 │││ まで実施されなかった。 │││2 仮に9月14日までの間,被告病院の眼 │2 原告の受持医であるD医師は,9月11 ││ 科医が不在であったのであれば,転院措置を │ 日の学会終了後,被告病院に帰院して原告の ││ とるなどして,原告が適切な治療を受けられ │ 診察をし,右網膜剥離,巨大裂孔網膜剥離, ││ るように配慮すべきであった。 │ 増殖性硝子体網膜症との診断をした。この状 ││  とこ │ 診察をし,右網膜剥離,巨大裂孔網膜剥離, ││ るように配慮すべきであった。 │ 増殖性硝子体網膜症との診断をした。この状 ││  ところが,被告病院では,原告を自らの │ 態で転院させると,移動に伴う負荷で症状の ││ 病院に入院させたまま,緊急手術を実施せず │ 悪化を招く危険があったし,転院させたとし ││ に放置し,原告の視力回復の機会を永久に失 │ ても,転院先で即時に手術が実施できたとは ││ わせた。 │ 考えられないから,転院させる義務があった ││ │ とはいえない。 ││ │  そもそも,9月14日に手術が実施され ││ │ たために原告の視力が回復不可能になったの ││ │ か,また,9月14日以前に手術が実施され ││ │ ていれば原告の視力が回復可能であったのか ││ │ は,明らかでない。 │ 原告の視力が回復可能であったのか ││ │ は,明らかでない。 ││エ白内障手術の危険性を説明しなかった過失の有無││1 原告は,左眼に緑内障による視野狭窄が │1 白内障手術は基本的手術であり,手術に ││ あったので,右眼の白内障の手術が失敗した │ 伴って起こりうるすべての危険性について手 ││ ら両眼とも不自由になるとの危惧感を抱いて │ 術前に説明する義務はない。また,手術方法 ││ いた。したがって,被告病院には,原告が手 │ の選択は医師の裁量事項であるから,合理的 ││ 術を受けるかどうかを適切に判断できるよう │ な範囲を逸脱しない限り説明義務違反には当 ││ に,事前に手術に伴う危険の存在や,選択可 │ たらない。 ││ 能な治療方法とその利害得失,手術の予後な │  A医師とB医師は,平成10年6月3日 ││ どについて十分な説明をすべき義務があっ │ に原告を診察した際,白内障手術の適応があ ││ た。 │ ること,その術式,想定される合併症や手術 ││  ところが,A医師は,原告に対し,白内 │ の予後などについて説明を行った。また,A ││ 障手術の危険性について,手術前に「200 │ 医師は,原告に対し「白内障患 ところが,A医師は,原告に対し,白内 │ の予後などについて説明を行った。また,A ││ 障手術の危険性について,手術前に「200 │ 医師は,原告に対し「白内障患者の皆様へ」 ││ 分の1から800分の1の確率でレンズを落 │ という小冊子を交付して,よく読んでおくよ ││ とすなどの失敗をすることがある」と説明し │ うに指示をしている。 ││ ただけで,合併症などの危険については何も │  A医師が「200分の1から800分の ││ 説明をしなかった。交付を受けた「白内障患 │ 1の確率」というような具体的数字をあげて ││ 者の皆様へ」という小冊子にも「白内障手術 │ 説明したことはない。 ││ はごく稀にですが,手術後に合併症を起す場 │  原告は医師であり,白内障手術について ││ 合があります」との記載があるのみであった。 │ の説明を理解する能力を有している。仮に説 ││  原告がその他の医師から白内障手術につ │ 明が不十分であれば,納得がいくまで説明を ││ いて説明を受けたことはない。 │ 求めたはずであり,説明が不十分であったの ││ │ に手術を決意したというのは不自然である。 ││2 原告には,白内障手術の選択可能な術式 │2 超音波水晶体乳化吸引術も水晶体嚢外摘 ││ の1つとして,駆逐性出血などの術中合併症 │ 出術の一種であり,嚢外 │2 原告には,白内障手術の選択可能な術式 │2 超音波水晶体乳化吸引術も水晶体嚢外摘 ││ の1つとして,駆逐性出血などの術中合併症 │ 出術の一種であり,嚢外摘出術の説明は原告 ││ の危険性が減少するとされている超音波水晶 │ に交付した小冊子に記載されている。 ││ 体乳化吸引術の手術適応があったにもかかわ │  嚢外摘出術のうちどの術式を選択するか ││ らず,A医師は,原告に対してその説明を行 │ は医師の裁量事項であるから,術式について ││ わなかった。 │ それ以上の詳しい説明をしなかったからとい ││ │ って,説明義務違反とはいえない。 │

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