令和6年11月19日宣告令和6年第238号判決被告人A 主文 被告人は無罪。 理由 第1 公訴事実の要旨及び争点本件公訴事実の要旨は、「被告人は、令和6年1月24日午前1時26分頃、京都市伏見区所在のB方駐車場において、同所に設置された物置から同人所有の鋲打機1セット(時価約15万円相当)を窃取した。」というものである。 被告人は、公判において、窃盗に及んだのは自分ではない旨述べ、弁護人も、被告人は、公訴事実記載の窃盗事件(以下「本件犯行」という。)の犯人ではない旨主張している。何者かが本件犯行に及んだ事実に争いはなく、争点は、被告人が本件犯行の犯人であるか否かである。 第2 証拠によって認められる争いのない事実 1 本件犯行の犯人の特徴と本件犯行当日に職務質問を受けた際の被告人の特徴等について⑴ 関係各証拠によれば、何者かが、公訴事実記載の日時場所において、本件犯行に及んだ事実は明らかである。その犯行状況は、B方に設置された防犯カメラにより記録されており、その映像(甲28)やそれから抽出した静止画像(甲31)によれば、本件犯行の犯人は、黒色様のフード付きジャンパーとこれより薄い色の長ズボン、白色マスクのほか、手の甲の部分が黒っぽく、手のひらの部分が白く見える手袋を着用し、白色で右足のソール外側中央部分に黒っぽい色のラインと模様が存在するサンダル様のものを履き、全体的に白髪でオールバック風の髪形をしており、B方ガレージに駐車してい た車両とその南側に位置する物置の間を通って西側から現れ、同物置の東側にあった別の物置の扉を開けて、鋲打機1セット在中のケースを取り出した後、再び前記車両と物置の間を ガレージに駐車してい た車両とその南側に位置する物置の間を通って西側から現れ、同物置の東側にあった別の物置の扉を開けて、鋲打機1セット在中のケースを取り出した後、再び前記車両と物置の間を通って西側に立ち去った事実が明らかである。 ⑵ 他方、捜査報告書(甲12)並びに京都府伏見警察署地域課所属のC警察官及び被告人の各公判供述によれば、被告人は、本件犯行当日の午前1時51分頃、本件犯行現場から北東方向に位置する京都市伏見区ab 番地c 先路上を歩行中、パトカーに乗車して本件犯行の犯人を検索していたC警察官らにより発見されて職務質問を受け、その際、白色マスク、黒色のフード付きジャンパー、焦げ茶色長ズボンを着用し、白髪でオールバック風の髪形をしていたが、手袋は着用せず、黒地にピンクの花柄模様のある靴を履いていた事実もまた明らかである。 2 本件犯行現場付近及び被害品遺留現場付近から採取された足跡痕の特徴と本件犯行当日、被告人方玄関に存在したサンダルの特徴について関係証拠(甲7、13、15、17、32、弁2、C警察官の証言、被告人の公判供述)によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 本件犯行直後に、本件犯行現場であるB方ガレージ内の車両とその南側に位置する物置との間から、いずれも家人のものではない10個の足跡痕が採取され、そのうち、最も東側と最も西側に遺留されていた2つの足跡痕には対照可能な足跡が現れておらず、西側から数えて(以下同様)2つ目の足跡痕は、山形(単山)模様と山形(連山)模様の2種類の足跡が現れており、3つ目の足跡痕は弧状模様を、5つ目の足跡痕は円形と弧状の組合せ模様を、6つ目の足跡痕は角形模様を、8つ目(採取番号7)の足跡痕は直線模様をしており、4つ目、7つ目(採取番号8)、9つ目の足跡痕は、いずれ の足跡痕は弧状模様を、5つ目の足跡痕は円形と弧状の組合せ模様を、6つ目の足跡痕は角形模様を、8つ目(採取番号7)の足跡痕は直線模様をしており、4つ目、7つ目(採取番号8)、9つ目の足跡痕は、いずれも角形と山形(単山)の組合せ模様をしていた。 ⑵ 本件犯行当日の午前6時30分頃、通路を挟んでB方の南隣に位置するD方敷地内に放り投げるような形で被害品が遺留されているのが発見され、同 日中に同敷地内の被害品遺留箇所のやや北側から足跡痕2個が、その更に北側のD方とB方の間の通路上から足跡痕1個がそれぞれ採取された。そのうち、D方敷地内から採取された足跡痕のうち1個は、2種類の足跡痕(角形と山形(単山)の組合せ模様のものと弧状模様のもの)が現れたものであり、その他の1個は直線模様をしており、通路上から採取された足跡痕は、角形と山形(単山)の組合せ模様をしていた。 ⑶ 被告人は、前記職務質問を受けた際、被告人方玄関に置かれていた白色サンダル(crocs製、以下「本件サンダル」という。)を任意提出した。 本件サンダルは、ソール部分の中央に紺色のラインが入っていて、外側に紺色様に「crocs」と記載されており、底模様は、爪先部、踏付け部、かかと部の周囲が角形で、内側が山形(単山)模様となっており、全体的に摩耗が進行し、特に踏付け部とかかと部の模様が一部摩滅し、損傷痕も多数認められた。 ⑷ 京都府警察本部刑事部鑑識課所属の鑑定官による足痕跡鑑定(甲17)の結果、B方ガレージ内の車両と物置との間付近から採取された10個の足跡痕のうち、2つ目の足跡痕のうち山形(単山)模様のもの、4つ目の足跡痕、9つ目の足跡痕、D方から採取された角形と山形(単山)の組合せ模様の足跡痕は、いずれも、履物底輪郭及び履物底模様の形状、配列が、それらの現れ 目の足跡痕のうち山形(単山)模様のもの、4つ目の足跡痕、9つ目の足跡痕、D方から採取された角形と山形(単山)の組合せ模様の足跡痕は、いずれも、履物底輪郭及び履物底模様の形状、配列が、それらの現れている範囲内で本件サンダルの左足対照足跡と符合し、摩耗状態も同程度であり、前記10個の足跡痕のうち7つ目(採取番号8)のものとD方から採取された足跡痕のうち角形と山形(単山)の組合せ模様のものは、本件サンダルの右足対照足跡と履物底輪郭及び履物底模様の形状、配列がこれらの現れている範囲内で符合し、摩耗状態も同程度であったが、いずれも現場足跡が部分的かつ若干不鮮明であり、損傷痕の指摘もできないことから、本件サンダルの足跡と一致の可能性があるとされた。 さらに、前記鑑定の結果、前記通路から採取された足跡痕は、本件サンダ ルの左足対照足跡と履物底輪郭及び履物底模様の形状、配列が、それらが現れている範囲内で符合するとともに、履物底固有特徴である摩耗特徴の位置(かかとの部分と真ん中よりもやや前方の部分)、形状が符合したが、若干不鮮明な足跡であり、損傷痕の指摘もできなかったため、本件サンダルの左足足跡の可能性が高いものの、一致鑑定には至らないとされた。 第3 検討 1 本件犯行の犯人の顔貌・着用品等と被告人の顔貌・着用品等の特徴の類似性について⑴ 京都府警察本部刑事部科学捜査研究所職員Eは、前記防犯カメラにより撮影された本件犯行の犯人の静止画像から顔の部分を拡大した4枚(以下「犯人画像」という。)と被告人の顔を3Dスキャナで撮影して得られた三次元の顔画像(以下「被告人画像」という。)を比較しての異同識別鑑定(以下「本件顔画像鑑定」という。)を行い、公判及び鑑定書(甲20)において、形態学的検査の結果、犯人画像と被告人画像は、① れた三次元の顔画像(以下「被告人画像」という。)を比較しての異同識別鑑定(以下「本件顔画像鑑定」という。)を行い、公判及び鑑定書(甲20)において、形態学的検査の結果、犯人画像と被告人画像は、①眉弓の隆起が強く、眉弓隆起上方に横しわが認められ、額の高さが高い点、②眉の叢生状態が中等度から密である点、③眉の位置が高い(前頭眼瞼溝の上方に位置する)点、④左耳垂の付着状態(犯人画像は、中間型から密着型の印象を受け、被告人画像は中間型)、⑤左耳介の輪郭が耳輪中間付近で凹んで観察される点、⑥前頭眼瞼溝が観察される点で類似しており、相違点はなく、自身の経験上、特に①の特徴は全体の3割程度、③の特徴は3割から4割程度、⑤の特徴は2割から3割程度と珍しく、特徴的な類似点といえたこと、スーパーインポーズ法による検査の結果、犯人画像と被告人画像とは、観察可能な範囲で、髪の生え際、輪郭(一部)、額、眉、耳のほか、犯人画像に僅かに映っている目の部分と鼻の部分も矛盾なく重なったことから、両者は類似性が認められると結論付けている。 しかしながら、証人E自身も、前記鑑定書において、画質、撮影角度、マ スク着用等の影響から、犯人画像により顔の諸形態を詳細に把握することに制限があったことを認めており、特徴的な類似点が3つ指摘できるにとどまったことから、犯人画像の人物と被告人画像の類似性を対比した結果は、5段階で評価し(「極めて高い類似性が認められる」、「高い類似性が認められる」、「類似性が認められる」、「相違性が認められる」、「類似性と相違性は判断できない」と分類される。)、最も高いランクから数えて3番目の「類似性が認められる」にとどまる旨結論付けている。このこと自体によっても、本件顔画像鑑定の有する証明力は相当に限定的なものと評価せざるを得な い」と分類される。)、最も高いランクから数えて3番目の「類似性が認められる」にとどまる旨結論付けている。このこと自体によっても、本件顔画像鑑定の有する証明力は相当に限定的なものと評価せざるを得ない。 しかも、本件顔画像鑑定の挙げる形態特徴は、いずれも固有性が高かったり、顕著であったりするものではなく、E証人によれば、その挙示する形態特徴の出現頻度に関する統計等は存在しないというのであるし、各特徴の相関関係も明らかでない。また、本件顔画像鑑定の資料となった犯人画像は、画質がそれほど高いものとはいえず、E証人が指摘する形態特徴のうち、眉弓の隆起が強いという点や眉弓上方にしわがあるという点は、該当箇所の画像がぼやけているため、そのように明確に識別できるかは疑問があるし、犯人画像がマスクを着用した状態のものであることに照らすと、左耳介の形態特徴の類似を指摘する点も犯人の顔貌の特徴と断定するのは困難というべきである。さらに、E証人の述べるところによっても、眉の上の横しわは、表情を変えることによっても生じる上、高齢になるに連れて出現頻度が上がる可能性がある特徴であるし、眉の叢生状態は、複数人による確認は経てはいるものの、飽くまで主観的な評価によるものにすぎないといわざるを得ない。 また、スーパーインポーズ法による重ね合わせの結果についても、犯人画像につき、画質、撮影角度、マスクの着用等の影響から、顔の諸形態を詳細に把握することに制限がある点は、E証人も前提としており、犯人画像と被告人画像との間で、輪郭や眼部、外鼻の一部、額、眉、耳等に矛盾が認めら れなかった事実は、被告人が犯人である可能性をそれほど高めるものとはいえない。 以上によれば、犯人と被告人の同一性につき、本件顔画像鑑定が有する推認力はかなり限定的なものにとどまる めら れなかった事実は、被告人が犯人である可能性をそれほど高めるものとはいえない。 以上によれば、犯人と被告人の同一性につき、本件顔画像鑑定が有する推認力はかなり限定的なものにとどまるというべきである。 ⑵ さらに、防犯カメラにより撮影された犯人の映像と犯行当日に撮影された被告人の写真とを対比すると、髪の色や型のほか、マスク、フード付きの黒色ジャンパーとこれより薄い色の長ズボンを着用している点で特徴が一致しているほか、被告人方から押収されたサンダルは、犯人が履いていた履物と白色でかかとの部分がなく、ソール部分の中央にラインが入っていて、文字様のものが存在した点やそれが暗い色調であった点においても特徴が一致するものの、いずれも固有性の高い特徴とはいえず、犯人の履いていた履物やズボンについては画像が不鮮明であるため、色彩等の詳細な特徴点が明らかでない。そうすると、本件顔画像鑑定の結果に、これらの特徴点の一致を併せて考慮しても、被告人が犯人であることを推認できる程度は、やはり限定的なものにとどまるというほかない。 むしろ、被告人は、本件犯行から約25分後に犯行現場からそれほど離れていない場所で職務質問を受けた際、犯人が本件犯行時に着用していたものとは明らかに特徴が異なる靴を着用していた上、手袋を着用しておらず、犯人の着用していたものと特徴を同じくするジャンパーやズボン、マスクが押収される一方で、本件に現れた証拠によっても、犯人が本件犯行時に着用していたものと特徴を同じくする手袋が被告人の携帯品や自宅、職務質問を受けた駐車場等から発見押収された形跡がないこと(甲24、25、弁3、C警察官の証言)は、被告人が本件犯行の犯人であることにつき、一定程度の疑問を抱かせるものというべきである。 2 本件犯行現場付近に遺留 場等から発見押収された形跡がないこと(甲24、25、弁3、C警察官の証言)は、被告人が本件犯行の犯人であることにつき、一定程度の疑問を抱かせるものというべきである。 2 本件犯行現場付近に遺留された足跡痕と本件サンダルとの対比について⑴ B方ガレージ内の犯人が通過した箇所に残されていた足跡痕と本件サンダ ルとを対比した結果、左右いずれも足跡痕に現れている範囲で、履物底輪郭、模様の配列・形状が符合し、摩耗状態も同程度であった事実は、被告人が犯人であることを一応推認させるものといえる。 しかしながら、本件サンダルの流通量は明らかにされていない上、摩耗状態についても、それがどの程度顕著な特徴といえるかは定かでなく、前記のような点で特徴が一致するからといって、B方ガレージ内に遺留されていた足跡痕が本件サンダルによるものとは断定できない。のみならず、防犯カメラ上、犯人が通過したと認められる箇所には、本件サンダルとは符合しない複数の足跡痕も遺留されていたところ、これらの足跡痕は家人によるものではないとされる反面(弁2)、それらが何者によって印象されたかは証拠上明らかにされていないから、B方ガレージに遺留され、本件サンダルと模様等の符合した足跡痕が犯人によるものと即断することはできない。 ⑵ また、被害品遺留現場付近にも本件サンダルによる可能性がある足跡痕が遺留され、そのうちの一つは、本件サンダルによる可能性が高いものであった事実は、被告人が犯人である可能性を相応に推認させるものとはいえる。 しかしながら、鑑定書(甲17)によっても、B方ガレージに遺留されていた足跡痕には履物底固有特徴が認められない以上、被害品遺留現場付近に遺留されていた足跡痕がB方ガレージに遺留されていた足跡痕と同一の靴により印象されたものとま によっても、B方ガレージに遺留されていた足跡痕には履物底固有特徴が認められない以上、被害品遺留現場付近に遺留されていた足跡痕がB方ガレージに遺留されていた足跡痕と同一の靴により印象されたものとまでは断定できない上、被害品遺留現場であるD方敷地内からは、本件サンダルの履物底模様とは明らかに異なる弧状模様や直線模様の足跡痕も採取されているところ、それらの足跡痕が何者により印象されたかは全く明らかにされていないばかりか、B方ガレージの犯人が通過した箇所から採取された同様の模様の足跡痕とは符合しないのかどうかさえも明らかにされていない。そうすると、被害品遺留現場付近から採取された足跡痕のうち、本件サンダルによる可能性がある足跡痕やその可能性が高い足跡痕が犯人のものと断定することはもとより、その可能性が高いというのも 困難であるといわざるを得ない。 ⑶ なお、検察官は、本件サンダルによる可能性が高い足跡痕が採取された場所が通常他人が立ち入るとは考えにくい被害品遺留現場付近に残されていた事実は、被告人が犯人であることを推認させる旨主張する。 たしかに、前記足跡痕が採取された場所は、B方とD方敷地の間の通路上であり、この通路は、B方東隣のF方に通じていて、行き止まりになっていることがうかがわれるから(甲29、32)、このような場所に本件サンダルによる可能性が高い足跡痕が遺留されていた事実は、被告人が何らかの不審行動をとっており、ひいては、本件犯行の犯人であることを推認させるようにも思われる。 しかしながら、そもそも、鑑定書(甲17)によっても、前記足跡痕は、若干不鮮明であったことや損傷痕の指摘ができないことから、本件サンダルの対照足跡と一致するものとまでは断定されていない。のみならず、前記足跡痕が遺留された時期は、証拠上、明らか ても、前記足跡痕は、若干不鮮明であったことや損傷痕の指摘ができないことから、本件サンダルの対照足跡と一致するものとまでは断定されていない。のみならず、前記足跡痕が遺留された時期は、証拠上、明らかでなく、前記通路入口に門扉等が設置されておらず、誰でも公道から容易に前記通路に立ち入ることができた上、公道から見て、行き止まりになっていることが容易に認識できたとも言い切れず、前記足跡痕自体が遺留されていた箇所も通路入口からそれほど奥まった位置ではなかったものと認められる。このような前記通路の状況や前記足跡痕が遺留されていた位置に加え、被告人がB方の近隣に居住しており、公判において、1か月に2回程度、コースを定めずに散歩していたと述べていることなども併せて考慮すると、前記足跡痕が本件サンダルによるものと仮定しても、被告人が本件犯行とは無関係に立ち入った際に、遺留された可能性を排斥することはできない。そうすると、検察官指摘の点を踏まえても、被害現場付近や被害品遺留現場付近から、本件サンダルのものである可能性があり、またはその可能性が高い足跡痕が採取された事実については、これらの足跡痕が犯人のものであることや本件サンダルによるものであることが 確実とはいえない以上、その有する推認力はなお限定的なものにとどまるといわざるを得ない。 3 その他の事実について⑴ C警察官は、公判において、「被告人は、本件犯行の約25分後である午前1時51分頃、C警察官乗車のパトカーが接近すると走り出して駐車場に入り、同警察官が駐車場内に入って、背の低い車両の南側にいた被告人に接近すると、その北側に駐車されていたハイエース様の大きな車に身を隠すような仕草をした。」などと供述しているところ、その供述内容に不自然な点はなく、同警察官は、当時、本件犯行の の南側にいた被告人に接近すると、その北側に駐車されていたハイエース様の大きな車に身を隠すような仕草をした。」などと供述しているところ、その供述内容に不自然な点はなく、同警察官は、当時、本件犯行の犯人を検索しており、不審者と思料された被告人の行動を注意深く観察していたと考えられるから、その証言の信用性は高いといえる。 C警察官の証言によれば、被告人は、パトカーや警察官に気付き、逃走を図ったり、身を隠したりするなどしており、このような行動は、被告人が本件犯行の犯人であることと整合するものといえる。 そして、被告人は、公判において、このような行動をとった理由につき、小便をしたいと考えて慌てて駐車場に入ったが、駐車場の入口に車両が停車したのに気付き、小便できなかった旨述べているところ、被告人は、その述べるところによっても、C警察官らから職務質問を受けた後、自宅を案内し、交際相手方を訪れるなどするまでの間、尿意があることを同警察官らに伝えていなかったというのであるから、C警察官らが接近した際、走り出すなどした理由に関する被告人の説明が不合理であることも検察官が主張するとおりである。 しかしながら、警察官の存在に気付いて逃走する理由には様々なものが考えられるのであって、被告人が本件犯行の犯人ではないものの、逃走を図った真の理由を明らかにしたくないために、あえて虚偽の説明をしている可能性は否定できない。被告人がこのような不審行動をとった事実については、 多義的な解釈が可能であって、被告人が本件犯行の犯人であることについて有する推認力は極めて乏しいものというほかない。 ⑵ さらに、検察官は、被告人方からはインパクトドライバーやチェンソー等の工具が押収されているところ、被告人は、公判において、これらの道具を いて有する推認力は極めて乏しいものというほかない。 ⑵ さらに、検察官は、被告人方からはインパクトドライバーやチェンソー等の工具が押収されているところ、被告人は、公判において、これらの道具を趣味的な日曜大工のような用途に使っていたと述べているから、所有していない鋲打機を窃取しようとする動機がある旨主張する。 しかしながら、本件当時、被告人が鋲打機を欲していた形跡は全くうかがわれないから、検察官の主張は根拠を欠くものというほかない。 4 以上のとおり、被告人と犯人の同一性に関し、前記1、2の各間接事実は、いずれも推認力が限定的であり、前記3の各間接事実は、いずれも推認力が弱いか全くないものである。 そして、これらの間接事実を併せて考慮しても、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは、説明が極めて困難な事実関係があるとまでいうことはできず、むしろ、本件犯行直後、被告人が犯人の着用していたものと同じ特徴を有する履物や手袋等を着用しておらず、手袋については、被告人の自宅等から発見された形跡もうかがわれないなど、被告人が犯人であることにつき、無視できない疑問を抱かせる事情も存在する。そうすると、前記各間接事実を併せて考慮しても、被告人が本件犯行の犯人であることにつき、合理的な疑いを容れない程度の立証がなされたものと認めることはできない。 第4 結語よって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑-懲役2年)令和6年11月19日京都地方裁判所第3刑事部 裁判官西川篤志 令和6年11月19日 京都地方裁判所第3刑事部 裁判官西川篤志
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