判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律6条1項による「南スーダン国際平和協力業務実施計画」(平成28年11月15日閣議決定)に基づいて、自衛隊員及び装備品を南スーダン共和国内並びにその周辺地域及び海域に派遣又は輸送して、同法及び同計画に基づく活動を行ってはならない。 2 被告は、原告に対し、20万円及びこれに対する平成28年12月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、自衛隊員の母である原告が、被告が国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律6条1項による「南スーダン国際平和協力業務実施計画」(平成28年11月15日閣議決定)に基づいて自衛隊員及び装備品を南スーダン共和国内並びにその周辺地域及び海域に派遣又は輸送し、同法等に基づく活動を行うことは憲法に違反し、原告の平和的生存権を侵害すると主張して、被告に対し、①平和的生存権に基づき、当該活動の差止め(前記請求1。以下「本件差止請求」という。)を求めるとともに、②原告の平和的生存権を侵害したことにより精神的苦痛を受けたとして、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料20万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(前記請求2。以下「本件国家賠償請求」という。)を求めた事案である。 被告は、本件差止請求に係る訴えについて、不適法であると主張するととも に、本件差止請求及び本件国家賠償請求について、原告の主張する平和的生存権が具体的権利でなく を求めた事案である。 被告は、本件差止請求に係る訴えについて、不適法であると主張するととも に、本件差止請求及び本件国家賠償請求について、原告の主張する平和的生存権が具体的権利でなく原告の権利の侵害はないから理由がないと主張して、争っている。 1 前提事実(以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。)⑴ 原告原告は、北海道千歳市に居住する女性である。 原告の子(二男)は、平成22年頃に自衛隊に入隊し、陸上自衛隊北部方面隊第A師団司令部が駐屯する甲駐屯地で勤務している。 ⑵ 南スーダンにおける国連平和維持活動ア国際連合(以下「国連」という。)の安全保障理事会(以下、単に「安保理」という。)は、国連安保理決議第1996号に基づき、平成23年7月9日、平和と安全の定着及び南スーダン共和国における発展のための環境の構築の支援を任務とする国際連合南スーダン共和国ミッション(以下「UNMISS」という。)を設立した。 イ内閣は、国連の派遣要請により、平成23年11月15日、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(以下「PKO協力法」という。)に基づいて、「南スーダン国際平和協力業務実施計画」(以下「本件実施計画」という。)を閣議決定し(甲A1。なお、同年12月20日にその内容の一部を変更する閣議決定がされた。)、内閣府国際平和協力本部に、平成28年10月31日までを期間として、南スーダン国際平和協力隊を設置した(甲A2)。 ウ内閣府国際平和協力本部の本部長(以下「国際平和協力本部長」という。)は、本件実施計画に基づき、指令部業務(甲A3)、連絡調整(甲A4)、施設部隊等(甲A5)の各分野について、実施要領(以下「本件実施要領」という 力本部の本部長(以下「国際平和協力本部長」という。)は、本件実施計画に基づき、指令部業務(甲A3)、連絡調整(甲A4)、施設部隊等(甲A5)の各分野について、実施要領(以下「本件実施要領」という。)を策定した。 施設部隊等の分野に関する実施要領には、交代要領として、派遣後、原則として、概ね6か月を経過した後、陸上派遣施設部隊の交代を行うと定めている。また、同実施要領には、業務の中断に関する事項として、(ア)部隊長は、防衛大臣が国際平和協力本部長と協議の上、国際平和協力業務を中断するよう指示した場合、当該業務を中断するものとすること、(イ)部隊長は、①武力紛争が発生したと判断すべき事態が生じた場合、②国連平和維持活動についての受入れ国の同意及び我が国の国際平和協力業務の実施についての受入れ国の同意が存在しなくなったと認められる場合には、その状況等を防衛大臣を通じて国際平和協力本部長に報告し、指示を受けることが定められている。 エ防衛大臣は、平成23年12月20日、国際平和協力本部長の要請を受けて、本件実施計画及び本件実施要領に従い、自衛隊の部隊等に国際平和協力業務を行わせる命令(PKO協力法9条4項)を発した。 これに基づき、平成24年1月の第1次要員をはじめとして、自衛隊の施設部隊が南スーダンに派遣された(なお、以下、「〇次要員」は、施設部隊の要員を指す。)。 ⑶ 安保関連法の改正・施行PKO協力法の一部改正を含む「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(以下「安保関連法」という。)は、平成27年9月19日に成立し、同月30日に公布され、平成28年3月29日に施行された。 安保関連法により、PKO協力法に基づく国際平和協力業務の種類に、新た 以下「安保関連法」という。)は、平成27年9月19日に成立し、同月30日に公布され、平成28年3月29日に施行された。 安保関連法により、PKO協力法に基づく国際平和協力業務の種類に、新たに、「防護を必要とする住民等の生命、身体及び財産に対する危害防止等」(安全確保業務。同法3条5号ト)と「国際連合平和維持活動等に従事する者等に対し緊急の要請に対応して行う生命及び身体の保護」(駆け付け警護。 同法3条5号ラ)が追加されるとともに、国際平和協力業務に従事する自衛 官に対し、国連平和維持活動等に従事する外国の部隊と共に宿営する宿営地を共同して防護(宿営地共同防護)するための武器使用(同法25条7項)のほか、必要な武器使用の権限が付与された(同法26条)。 ⑷ 第10次要員以降の派遣等ア甲駐屯地に司令部を置く陸上自衛隊北部方面隊第A師団を中心に編成された部隊約350名は、平成28年5月ないし6月、第10次要員として、南スーダンに派遣された。 イ内閣は、平成28年10月25日、UNMISSへの自衛隊派遣について、同月31日までとされていた派遣期間を平成29年3月31日まで延長することを閣議決定した(甲A7)。 ウ内閣は、平成28年11月15日、UNMISSに対し、安保関連法による改正後のPKO協力法に基づく任務である「駆け付け警護」及び「宿営地共同防護」を含む内容の「南スーダン国際平和協力業務実施計画の変更」を閣議決定した(甲A8、9)。 エ本件訴訟は、平成28年11月30日に提訴された。 オその後、第11次要員が南スーダンに派遣されたが、平成29年5月末日までに、UNMISSに派遣された施設部隊は、業務を終了して全て撤退した。 他方、司令部要員については、派遣が終了したことや、派遣された要 第11次要員が南スーダンに派遣されたが、平成29年5月末日までに、UNMISSに派遣された施設部隊は、業務を終了して全て撤退した。 他方、司令部要員については、派遣が終了したことや、派遣された要員が撤退したことを認める証拠はない。 2 争点⑴ 本件差止請求に係る訴えの適法性(争点⑴)【被告の主張】ア本件差止請求は、人格権を含む平和的生存権に基づき、第10次要員については業務の中止及び撤退を、第11次要員については派遣の差止めを求めるものである。 しかし、UNMISSへの第10次要員及び第11次要員の派遣及び派遣後の業務は、防衛大臣が、PKO協力法9条4項に基づき、国際平和協力本部長である内閣総理大臣の要請を受けて、同法4条2項1号の国際平和協力業務実施計画並びに同項2号及び同法8条の国際平和協力業務実施要領に従い、自衛隊の部隊等に国際平和協力業務(同法3条5号)を行わせる命令を発し、これに基づいて行われるものである。また、派遣要員の撤収(撤退)は、防衛大臣の前記命令に基づき派遣された部隊の要員が、実施計画や実施要領に定められた任務が終了したことにより行う事実行為であるから、原告が求める「撤退」は、「業務の中止」に包含される。 このように、本件差止請求の対象とされている第10次要員の業務及び第11次要員の派遣は、いずれも、防衛大臣の命令(同法9条4項)に基づいて行われるものであって、私法上の行為ではなく、行政権の行使そのものであるから、本件差止請求は、必然的に、防衛大臣の行政上の権限の行使の取消変更又はその発動を求める請求を包含する。 そうすると、このような行政権の行使に対しては、私人が私法上の給付請求権を有すると解することはできず、民事上の請求としてその差止めを求める訴えは不適法である(最高裁昭和 動を求める請求を包含する。 そうすると、このような行政権の行使に対しては、私人が私法上の給付請求権を有すると解することはできず、民事上の請求としてその差止めを求める訴えは不適法である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁、最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁)から、本件差止請求に係る訴えは、不適法である。 イまた、原告の主張(平成29年1月16日付け求釈明に対する回答書)によれば、本件差止請求において原告が求める内容は、第10次要員については業務の中止及び撤退を、第11次要員についは派遣の差止めを内容とするものであるところ、第10次要員は、既に南スーダンから本邦に撤収(帰国)済みであり、第11次要員は、既に本邦から派遣済みであって、差止めの対象となる行為が既に終了しているから、原告の差止請求権の存 否及び内容を判断する訴訟上の必要性及び利益は失われた。なお、司令部要員及び連絡調整要員は、原告が差止めを求める派遣施設隊(「第〇次要員」に該当する。)には含まれない。 したがって、本件差止請求に係る訴えの利益は認められず、同訴えは不適法である。 【原告の主張】いずれも争う。被告の主張イについては、第11次要員及び連絡調整要員の派遣は終了したが、司令部要員の派遣は現在もなお継続中であって、差止めを求める訴えの利益は失われていない。 ⑵ 原告の権利の侵害の有無(争点⑵)【原告の主張】ア原告の平和的生存権の侵害被告は、安保関連法による改正後のPKO協力法に基づいて、UNMISSに自衛隊を派遣した。これは、次のとおり、憲法に違反する。 a 法令違憲国連憲章上、国連平和維持活動(以下「PKO」という。)を定めた規定はないが、PKOが軍事的 づいて、UNMISSに自衛隊を派遣した。これは、次のとおり、憲法に違反する。 a 法令違憲国連憲章上、国連平和維持活動(以下「PKO」という。)を定めた規定はないが、PKOが軍事的な性格を持つものとして発足したこと、その後、PKOの活動に選挙監視等の非軍事的な分野が加わったものの、国連が、PKOに派遣される部隊に関して、部隊を提供する国に対して兵器訓練、戦闘訓練を求め、装備についても殺傷能力を有する多数の武器の保有を認めていることからすれば、PKOは、武力を行使する軍事組織にほかならない。そして、PKOに関しては、その目的や活動実態に即して、①主要な紛争当事者の同意(同意原則)、②PKO要員の活動の公平性の維持(公平原則)、③関係者に対する強制を行わず武力行使は自衛に限られる(自衛原則)といった基本原則が確立されてきた一方、PKOは必要性に応じてその活動が変質するもの であることから、基本原則が存するといっても例外や問題点が生じている。PKOにおいて武力行使権限が付与されていることは、その行使によってPKO部隊が紛争の当事者と化し、かえって紛争を泥沼、長期化させ、派遣国及び国民に大きな犠牲を生じさせている。 PKO協力法は、①紛争当事者間の停戦合意の存在、②活動領域国を含む紛争当事者によるPKOと日本の参加への同意、③中立性の厳守、④前記①ないし③のいずれかを充たされない場合の撤収、⑤要員の生命等の保護のための最小限の武器の使用という5原則に従うことで、自衛隊を含む要員のPKOへの派遣を可能とした。しかし、前記のとおりPKOが本質的に軍事力の行使にほかならないことに照らせば、PKOに我が国の自衛隊を派遣し、その活動に参加させることは、自衛隊の活動をPKOにおける武力行使と一体化させるものであって、武 のとおりPKOが本質的に軍事力の行使にほかならないことに照らせば、PKOに我が国の自衛隊を派遣し、その活動に参加させることは、自衛隊の活動をPKOにおける武力行使と一体化させるものであって、武力による威嚇及び武力の行使を禁止し、政府解釈によっても専守防衛のみを許容する憲法9条に違反する。 また、安保関連法によりPKO協力法が改正され、派遣された自衛隊の業務に関し、駆け付け警護、宿営地共同防護等の新任務を行うことができるようになり、これらの任務の遂行のために、上官の命令による武器使用の権限が付与された。しかし、駆け付け警護、宿営地共同防護といった任務は、他国の防衛、他国との組織的な武力行使というべき性質のものであり、憲法9条に係る政府解釈である自衛権によってもおよそ正当化することのできないものである。また、これらの任務遂行過程での武力行使により、交戦状態に発展する可能性が極めて高いのであって、その意味でも、これらの任務を可能としたPKO協力法の改正は、憲法9条に反する。 b 適用違憲UNMISSについては、前記5原則のうち、①停戦合意の存在、 ②紛争当事者の同意、③中立性の3つを満たしていない。すなわち、南スーダンにおける政府軍と反政府軍は、停戦合意を締結しては反故にすることを繰り返し、内戦に発展しているのであり、第10次要員が派遣されていた平成28年7月には、自衛隊が駐屯していたジュバで戦闘が激化し、300人以上が死亡し、自衛隊の駐屯地にも砲弾が着弾するいわゆるジュバ・クライシスが発生していた状況であって、停戦合意は存在しない。また、同国では、UNMISSの宿営地に対する政府軍による攻撃が頻発しているから、紛争当事者のPKOに対する同意がないことも明らかである。そして、UNMISSには、「いかなる 停戦合意は存在しない。また、同国では、UNMISSの宿営地に対する政府軍による攻撃が頻発しているから、紛争当事者のPKOに対する同意がないことも明らかである。そして、UNMISSには、「いかなる主体に対しても迅速で効果的な交戦」を行う権限が与えられており、もはや紛争の当事者と化しているのであるから、中立性も確保されていない。 そうすると、仮にPKO協力法が法令違憲とまでは解されないとしても、UNMISSに自衛隊を派遣し、業務に従事させることは、憲法9条に反し、適用違憲である。 原告は、前記の被告の行為により、平和的生存権を侵害された。 侵害された原告の平和的生存権の内容は、憲法9条に反する国の行為によって、国民の生命、自由等が侵害され、又はその危険にさらされ、あるいは国民が憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担や協力を強いられないということであり、具体的には次のとおりである。 aUNMISSに自衛隊を派遣することにより、日本が自衛隊員によって他国の人々を殺傷する現実的な危険が発生し、特に、安保関連法によってPKO協力法が改正された後は、政府の命令により相手に向けて銃を撃つ可能性が格段に拡大されたことで、主権者国民として加害者の立場に立つこととなった。また、同時に、相手方が自衛隊員やその関係者を殺傷する現実的な危険性が高まったことで、主権者国民 として被害者たる立場にも立つことになった。自分の命と同様に相手の命も尊重することなしに、真の平和は生まれない。原告は、加害者の側に立つことも被害者の側に立つことも拒絶するのであり、自衛隊員が殺傷したり殺傷されたりすることなく、一般市民と同様に人権が保障され、憲法9条で保障された平和が確立された生活を送れることが、原告の平和的生存権の内容になる。 するのであり、自衛隊員が殺傷したり殺傷されたりすることなく、一般市民と同様に人権が保障され、憲法9条で保障された平和が確立された生活を送れることが、原告の平和的生存権の内容になる。 bUNMISSへの自衛隊の派遣に当たっては、自衛隊員に対して権利の保障がされていないから、このような状態で主権者国民の「公僕」として、いわば身代わりとして自衛隊員を戦場に従軍させることは、主権者国民としてできない。 すなわち、安保関連法による改正後のPKO協力法においては、任務遂行に当たって一定の場合に武器の使用が認められるが、あくまで武器の使用であって交戦権の行使を認めるものではないため、国際法である交戦法規は適用されない。その結果、戦闘に巻き込まれた自衛隊員が誤って非戦闘員を射殺した場合には、個人の刑事責任を問われることになるし、武装勢力に拘束された場合には、捕虜条約が適用されないため、当該勢力が法律と考えるもので処断されかねない。 また、自衛隊員は、他国軍隊が活動し、内戦が行われているところに派遣されているにもかかわらず、救急措置や応急措置のための装備は乏しく、そのための教育訓練もわずかしかされていないのであって、現在の戦争に対応して負傷した兵士を救護する体制がない。 さらに、南スーダンに派遣された隊員は、過酷な生活及び労働環境、精神・神経の緊迫により、心的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)等の精神疾患にり患する可能性が高く、自殺者も、今までの海外派遣以上に多数出る可能性が高い。 憲法違反の行為によって前記のように自衛隊員を犠牲にすることは、 主権者国民として耐え難い。 政府による違憲の行為から自衛隊員の命を守り、隊員や家族の人間としての尊厳を守ることは、主権者国民である原告自身の平和の うに自衛隊員を犠牲にすることは、 主権者国民として耐え難い。 政府による違憲の行為から自衛隊員の命を守り、隊員や家族の人間としての尊厳を守ることは、主権者国民である原告自身の平和のうちに生きる権利の内容をなす。 c 前記a、bに加えて、原告は、これまでの経歴・職業及び自衛隊員の母であることから導かれる平和的生存権も有する。 すなわち、原告は、米軍及び自衛隊の基地がある千歳市で生まれ育ち、自衛隊員の子及び友人を持つ。また、友人の家族にも自衛隊員がいる。原告は、自衛隊員との心理的距離が極めて近く、自衛隊員の関わるコミュニティの中で感情を共有してきた。このような原告にとって、危険な戦闘地域である南スーダンに自衛隊員が派遣され、殺し合う状況に置かれることは、耐え難い苦痛を受けるものである。 また、原告は、かつて保育士として働き、どの子どもにも同じように目をかけ、手をかけて保育してきた。かかる職業的経験は、原告に、「命」の尊さや重みを強く認識させ、誰の命も等しく尊重されなければならないという確信を抱かせた。このような原告にとって、南スーダンにおいて自衛隊員らと現地住民らが対峙し、殺し合う関係に立つことは、耐え難い苦痛を受けるものである。 そして、何より、原告には大切な存在である自衛隊員の子がおり、子が所属する部隊から第10次要員が派遣された。海外派遣された自衛隊員の家族は、家族が危険な目に遭うのではないかといった不安、派遣後もPTSD等の精神疾患にり患して家族が崩壊するのではないか等の不安を感じるのであり、原告も、子が派遣されるかもしれない状況で、同様の不安を感じてきた。結局、原告の子は派遣されなかったが、地盤整備の技術を有することなどから原告の子が派遣される蓋然性は高かったし、自衛隊員としての 、原告も、子が派遣されるかもしれない状況で、同様の不安を感じてきた。結局、原告の子は派遣されなかったが、地盤整備の技術を有することなどから原告の子が派遣される蓋然性は高かったし、自衛隊員としての経験年数が増すにつれて原告の 子がいつまた派遣されるか分からない不安がある。また、原告は、安保関連法の内容が明らかになった頃から、同法の成立を阻止するために集会やデモに参加する一方、自衛隊員である子から、原告が安保関連法に反対する活動をしていることで上官や先輩から注意を受けており、自衛隊での勤務を続けられなくなるかもしれないからやめてほしいと伝えられた。原告は、子に恨まれてでも子を含めた自衛隊員の命を守りたいと思い、子に対し絶縁状を渡して連絡を絶った。かかる選択は、原告にとって究極の選択であり、子の命を守り、自らの信条を守るために行ったものであるが、原告の人格的生存にとって、非情かつ不合理な選択であり、原告は、これにより、PTSD、持続性感情障害にり患した。憲法9条に違反するUNMISSへの自衛隊の派遣がなければ、原告がこのような選択を迫られることはなかったのであり、被告は、今日まで原告の平和的生存権を侵害し続けている。 イ平和的生存権の具体的権利性原告が主張する平和的生存権は、憲法前文、9条、13条をはじめとする第3章の人権規定と相互に結合・関連して根拠付けられ、国民の基本的な人権として享有される。主観的な権利としての平和的生存権の成立要件は、同権利が客観的制度規定である9条と結びついており、9条に違反して政府が行った政策に対して、国民個々人がそれを平和的生存権侵害として訴訟提起をする道が開かれることになるから、9条に違反する政府の政策が行われたときに、平和的生存権が侵害されたものと評価されるべきである。そして 策に対して、国民個々人がそれを平和的生存権侵害として訴訟提起をする道が開かれることになるから、9条に違反する政府の政策が行われたときに、平和的生存権が侵害されたものと評価されるべきである。そして、平和的生存権の効果については、9条に違反する政府の行為に加担・協力を強制させられる場合には、その自由権的側面として、当該違憲行為の差止請求や損害賠償請求等をすることができる(名古屋高裁平成20年4月17日判決・判タ1313号137頁)。 このように、平和的生存権は、根拠、成立要件、効果等が明らかであっ て、具体的な権利である。 被告は、「平和」概念が抽象的であることなどを理由に、平和的生存権が具体的な権利でないと主張するが、前記名古屋高裁判決の述べるとおり、憲法上の概念はおよそ抽象的なものであって、それゆえに平和的生存権の法的権利性や具体的権利性が否定される理由はない。また、被告が指摘する最高裁判所平成元年6月20日第三小法廷判決は、航空自衛隊百里基地の建設に際し、用地の売買契約が公序良俗に反し無効か否かをめぐって国と私人との間で生じた民事訴訟における判断であり、被告が指摘する部分も、私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえないとする部分であって、平和的生存権の権利性について判断したものではない。 ウ原告の損害原告は、前記のとおり平和的生存権を侵害されたことにより、精神的な苦痛を被った。 その精神的苦痛に対する慰謝料の額は、20万円を下回らない。 【被告の主張】原告の主張する平和的生存権は、具体的な権利ではなく、国家賠償法上保護された権利ないし法的利益ということもできない。 すなわち、平和的生存権については、「平和」の概念そのものが抽象的かつ不明確であって、具体的な権利内容、根拠規定、主体、成 なく、国家賠償法上保護された権利ないし法的利益ということもできない。 すなわち、平和的生存権については、「平和」の概念そのものが抽象的かつ不明確であって、具体的な権利内容、根拠規定、主体、成立要件、法律効果等のどの点をみても、一義性に欠け、その外延を画することができないあいまいなものであるから、具体的権利性を認められない。「平和のうちに生存する権利」という概念は、崇高な理想を象徴的に表現するものであるが、理念ないし目的としての平和を確保する手段、方法は常時変化する複雑な国際情勢によっても左右され、これを一義的に特定することはできず、権利として一義的かつ具体的な内容を有するとはいえない。平和的生存権の具体的権利性については、最高裁判所平成元年6月20日第三小法廷判決・民集43巻 6号385頁が、「上告人らが平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であって、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえ」ないと判示して、具体的権利性を否定しているし、原告が指摘する名古屋高裁判決以降の高裁判決も、一様に、平和的生存権の具体的権利性を否定している。 原告は、「平和のうちに生存する権利を有することを確認する」との憲法前文の規定を法規範性の根拠にするが、当該規定は憲法の平和主義の原理を人々の生存に結びつけて説明するものであって、憲法の理念・基本原理を宣明した憲法前文の法的性格からしても、直ちに基本的人権の1つであるということはできないし、憲法9条は国家統治について規範を定めたもので、主観的権利を保障したものではないから、裁判上の救済が得られる具体的権利の性格を持つものと認めることはできない。 また、原告が自衛隊員の権利や国民の平和的生 国家統治について規範を定めたもので、主観的権利を保障したものではないから、裁判上の救済が得られる具体的権利の性格を持つものと認めることはできない。 また、原告が自衛隊員の権利や国民の平和的生存権が侵害されたと主張する点については、それが原告自身の権利ないし法的利益の侵害といかなる関係に立つか明らかでない。原告以外の第三者である「国民」や「自衛隊員」の権利ないし法的利益の侵害を主張しても、原告の具体的な権利や国家賠償法上保護された権利ないし法的利益を基礎付けられるものではない。 さらに、自衛隊員の母という特別な地位に由来すると原告が主張する平和的生存権についても、その概念そのものが抽象的かつ不明確である上、具体的な権利内容、根拠規定、主体、成立要件、法律効果等のどの点をとってみても、一義性に欠け、その外延を画することさえできない極めてあいまいなものであることは、変わらない。 結局、原告が主張する不利益は、南スーダンにおける国際平和協力業務を自衛隊の部隊に行わせることについて、これに反対する原告の主義・主張が受け入れられずに個人としての感情が害される、あるいは、自衛隊員である 子が派遣されるのではないかといった漠然とした不安を抱いたという域を超えるものではなく、このような主観的な感情ないし不安感をもって、具体的な権利であるとか、国家賠償法1条1項で法的に保護される利益に当たるということはできない。 第3 当裁判所の判断 1 本件差止請求に係る訴えの適法性(争点⑴)について⑴ 民事訴訟手続における本件差止請求の適法性について被告は、本件差止請求の対象とされている第10次要員の業務の中止等及び第11次要員の派遣のいずれも、防衛大臣の命令に基づいて行われる行政権の行使そのものであり、本件差止請求は必然的 適法性について被告は、本件差止請求の対象とされている第10次要員の業務の中止等及び第11次要員の派遣のいずれも、防衛大臣の命令に基づいて行われる行政権の行使そのものであり、本件差止請求は必然的に防衛大臣の行政上の権限の行使の取消変更又はその発動を求める請求を包含するものであるから、民事上の請求としてその差止めを求める訴えは不適法である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁、最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁)と主張する。 しかしながら、UNMISSへの自衛隊の派遣及び派遣後の自衛隊の業務は、上級行政機関である防衛大臣が、PKO協力法9条4項の規定に基づき、本件実施計画及び本件実施要領に従い、下級行政機関である自衛隊の部隊等(同法6条2項2号ホ)に国際平和協力業務を行わせる命令を発し、これに基づいて行われるものであり、派遣要員の撤収(撤退)は、防衛大臣の前記命令に基づいて派遣された部隊等の要員が、本件実施計画や本件実施要領に定められた任務の終了により行う事実行為であるから、これらの過程において、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することを法律上認められた行為は存在しない。また、PKO協力法をはじめとする関係諸法令において、防衛大臣が前記命令を発するに当たり、自衛隊の派遣によって性質上必然的に伴う国民の何らかの被害を考慮すべきことを定めた規定は見当たらないから(被告も、特に具体的な指摘をしていない。)、前記命令やそれに 基づく派遣等をもって、それに必然的に伴う何らかの不利益な効果を受忍することを国民に直接義務付けるものとみることもできない。 そうすると、本件差止請求の対象とされているものは、「行政庁の処分その他公権力の行使」(行訴法3 的に伴う何らかの不利益な効果を受忍することを国民に直接義務付けるものとみることもできない。 そうすると、本件差止請求の対象とされているものは、「行政庁の処分その他公権力の行使」(行訴法3条2項)には当たらず、本件差止請求が公権力の行使の取消変更、又はその発動を不可避的に包含するものとはいえないから、民事上の請求として本件差止請求をすることが不適法であるとはいえない。 なお、被告が指摘する判例は、いずれも本件とは事案を異にするものであって、相当でない。 ⑵ 第10次要員の帰国等による訴えの利益の喪失について被告は、本件差止請求において原告が求める内容について、第10次要員についての業務の中止及び撤退、第11次要員についての派遣の差止めに限られることを前提に、第10次要員については既に南スーダンから本邦に撤収(帰国)済みであること、第11次要員については既に本邦から派遣済みであり、差止めの対象となる行為が既に終了していることから、訴えの利益がないと主張する。 そして、原告が、平成29年1月16日付けの求釈明に対する回答書において、請求の趣旨の内容について、既に派遣されている第10次要員については、業務の中止及び撤退を求めるものであり、派遣命令が出された第11次要員については、派遣の差止めを内容とするものであると主張したこと、既に、第10次要員は帰国し、第11次要員は南スーダンに派遣されたことが認められる。 しかしながら、前記回答書における原告の主張は、訴状の請求の趣旨の記載に関し、被告が、原告に対し、請求の趣旨の記載は「差止め」を求めるもののようであるが、請求原因の記載は「派遣の差止め」に加えて「業務の中止と撤退」という行為をすることも求めていると解されることから、原告が求める内容について、第10次要員につ は「差止め」を求めるもののようであるが、請求原因の記載は「派遣の差止め」に加えて「業務の中止と撤退」という行為をすることも求めていると解されることから、原告が求める内容について、第10次要員については業務の中止及び撤退を、第1 1次要員については派遣の差止めを内容とするものであるかとの求釈明がされたのに対し、原告が、前記のとおり主張して回答したものである。そうすると、原告の前記回答の趣旨は、これから派遣される自衛隊員については「派遣の差止め」を、既に派遣された自衛隊員については「業務の中止と撤退」をそれぞれ求める趣旨のものと解されるのであり、必ずしも派遣施設隊と司令部要員とを明確に区別して請求の趣旨で求める対象を派遣施設隊のみに限定する趣旨であったとまでは解されない。そして、原告は、第11次要員の帰国を被告から指摘された後、本件差止請求は司令部要員の派遣の差止めをも求める趣旨であることを明らかにしている。 そうすると、司令部要員の派遣が終了したとは認められない以上(前提事実⑷オ)、第11次要員の帰国によって施設部隊の派遣が終了したとしても、直ちに訴えの利益が失われるとはいい難い。 ⑶ 小括以上のとおり、原告の訴えのうち本件差止請求に係る部分の却下を求める被告の主張には理由がない。 2 原告の権利の侵害の有無(争点⑵)について⑴ 原告が主張する平和的生存権の内容について原告は、UNMISSへの自衛隊の派遣によって侵害される原告の平和的生存権の具体的な内容として、前記第2、2⑵の原告の主張ア記載のとおり、①自衛隊員が、殺傷したり殺傷されたりすることなく、一般市民と同様に人権が保障され、憲法9条で保障された平和が確立された生活を送れること、②政府による違憲の行為から自衛隊員の命を守り、隊員や家族の人間と 衛隊員が、殺傷したり殺傷されたりすることなく、一般市民と同様に人権が保障され、憲法9条で保障された平和が確立された生活を送れること、②政府による違憲の行為から自衛隊員の命を守り、隊員や家族の人間としての尊厳を守ること、③原告の経歴・職業及び派遣される蓋然性のある自衛隊員の母であることを前提として、派遣が原告に精神的苦痛を与えることを主張する。 ⑵ 平和的生存権の具体的権利性一般について 憲法は、前文において、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と宣言し、9条1項において、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と、同条2項において、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と定めるほか、第3章において基本的人権の保障を定め、そのうち13条で、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定めている。これらに照らすと、憲法は、平和主義及び基本的人権の尊重を重要な理念であると位置付け、平和であることが基本的人権の保障の基盤であることを明らかにしているといえるのであって、平和のうちに生存することと国民の基本的人権が保障されることとは、密接な関連性を有しているということはできる。 しかし、憲法の前文は、憲法の「崇高な理想と目的」を示すものであり(前文第4段)、基本的人権は、第3章の各規定によって保障する趣旨であると解するのが自然であること、「平和」という概念が、国民各自の思想、信条、 法の前文は、憲法の「崇高な理想と目的」を示すものであり(前文第4段)、基本的人権は、第3章の各規定によって保障する趣旨であると解するのが自然であること、「平和」という概念が、国民各自の思想、信条、世界観、歴史観等によって多義的に解釈され得るものであり、かつ、それを達成し確保するための手段や方法も、複雑に変化する国際情勢に応じて多種多様なものがあり得ることに照らすと、憲法の前文から直ちに平和的生存権が具体的な権利として保障されているものと解することはできない。 また、憲法9条も、国の統治機構ないし統治活動についての規範を定めたものであって、具体的な国民の権利を直接保障したものと解することはできない。 さらに、憲法13条を含む第3章の各規定についても、前記の「平和」概念の多義性等に照らすと、同規定から平和的生存権の内容を一義的に導き出 すことは困難といわざるを得ない。 したがって、平和的生存権が一般的にみて具体的な権利であり、国家賠償法上も保護された権利ないし利益であるということはできない。 ⑶ 原告が主張する具体的な権利内容についてア前記⑵のとおり、平和的生存権を一般的に具体的な権利であると認めることはできない。しかしながら、平和に対する考え方と密接に関連付けられたために平和的生存権として主張されたものであっても、権利の名称は別として、その具体的な内実をみた場合には、請求者の生命身体など具体的権利性が認められる人格権ないし人格的利益に該当する場合も考えられ、原告が主張する平和的生存権も、そのような内実を有するものであるとの趣旨も含めて主張されていると解されるから、以下、原告の主張する平和的生存権の内容がそのような人格権等に当たり得るか、そして、UNMISSへの自衛隊の派遣によって原告の人格権等が侵害されたと るとの趣旨も含めて主張されていると解されるから、以下、原告の主張する平和的生存権の内容がそのような人格権等に当たり得るか、そして、UNMISSへの自衛隊の派遣によって原告の人格権等が侵害されたといえるかについて、検討する。 イまず、原告が主張する権利のうち、自衛隊員が、殺傷したり殺傷されたりすることなく、一般市民と同様に人権が保障され、憲法9条で保障された平和が確立された生活を送れること(前記2⑴の①)、政府による違憲の行為から自衛隊員の命を守り、隊員や家族の人間としての尊厳を守ること(前記2⑴の②)について検討する。 原告が、人が殺し殺される関係にあること自体が耐え難いという平和への思いから、子を含む自衛隊員の生命侵害それ自体が原告自身の利益を侵害するものであると感じていることを否定する理由はなく、主権者である国民の一人として、海外に派遣された自衛隊員の置かれた状況を慮り、その無事・安全を強く願う心情が、道義的にみて尊いものであることも否定する理由はない。 しかし、自衛隊員の生命身体に危険が及ぶ具体的なおそれがある場合に、 当該自衛隊員の権利が侵害されたといえることは当然であるが、原告が前記のような思いないし心情を有しているからといって、これによって、当該自衛隊員とは別の人権享有主体である原告自身の権利が侵害されたとみることはできないといわざるを得ない。 ウ次に、原告の主張する権利のうち、原告の経歴・職業及び派遣される蓋然性のある自衛隊員の母であることを前提として、派遣が原告に精神的苦痛を与えること(前記2⑴の③)について検討する。 前記前提事実、証拠(甲A270号証、271号証、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、❶原告は、かつて米軍基地があり現在は自衛隊の駐屯地がある千歳市で生まれ育ち、自衛隊員 )について検討する。 前記前提事実、証拠(甲A270号証、271号証、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、❶原告は、かつて米軍基地があり現在は自衛隊の駐屯地がある千歳市で生まれ育ち、自衛隊員及びその関係者の知人がいるほか、保育士として稼働していたことがあること、❷原告の子(二男)が、平成22年頃に自衛隊に入隊し、陸上自衛隊北部方面隊第A師団司令部が駐屯する甲駐屯地で勤務していること、❸原告が、平成27年頃、安保関連法が成立すると、海外派遣された際に自衛隊が戦争に参加させられてしまい、子を含めた自衛隊員が殺されたり殺したりしてしまうことになるのではないかと強く不安を感じ、派遣に反対する勉強会や集会に参加したこと、❹安保関連法が同年9月に成立し、PKO協力法に基づく国際平和協力業務の種類に、「駆け付け警護」及び「宿営地共同防護」が追加されたこと、❺原告は、平成28年3月、甲駐屯地の部隊がUNMISSに派遣される可能性があることを知り、その場合に、子が地盤整備に関する業務を担当していたことや入隊後の表彰の状況などからみて、子が派遣される可能性が高いのではないか、子がそれを断ろうとしても事実上断れない形で派遣されるのではないかなどと不安を感じこと、❻原告は、子に何かあった場合に必ず後悔するので、今、自衛隊の海外派遣に反対しないといけないという思いが募る一方、これまでも、平和に関する原告の活動について、子から、自衛隊内での自分の立場が悪くなるとしてやめるよう求められて いたことから、原告が反対運動に参加することによって子の立場が悪くなり、自衛隊員でいられなくなるかもしれないなどと悩んだが、同年4月、自衛隊員の母としての思いを人前で話すことを決意し、札幌駅前を含む2か所で行われていた街頭での集会等において、自衛隊員の家族へ くなり、自衛隊員でいられなくなるかもしれないなどと悩んだが、同年4月、自衛隊員の母としての思いを人前で話すことを決意し、札幌駅前を含む2か所で行われていた街頭での集会等において、自衛隊員の家族への呼び掛けを内容とする発言をしたこと、❼原告は、当該発言がテレビで放映されたことを知り、子の自衛隊内での立場が危うくなるのではないかと心配になり、子と縁を切ることで子に迷惑がかからないようにすることを決断したこと、❽原告は、子やその家族と交流を断つことによる寂しさを強く感じながら、子に宛てて、迷惑をかけることへの謝罪や命を全うしてほしいことなども記載した別れの手紙を作成し、子及びその家族との最後の食事等の機会を作り、当該手紙を子に渡すよう孫に託したこと、❾原告は、不眠や感情障害等の症状を発症し、PTSD及び持続性感情障害と診断されたが、前記の子との関係の断絶がその原因に含まれることの各事実が認められる。 これらの事実によれば、原告が、自衛隊員の家族として、子が海外に派遣されるおそれがあり、その場合に子が戦闘に巻き込まれると生命身体等が害される可能性があると感じて、強い不安を抱いたこと、自衛隊の海外派遣に反対したいという心情と自衛隊内における子の立場への配慮との間で、難しい立場に置かれたことは、理解できるところである。 しかしながら、原告を含む自衛隊員の家族が抱くこの不安等は、当該自衛隊員の生命身体等に危害が生じ又はその危険があることに由来して生じるものであって、不安等を感じる主体に家族が含まれるとしても、その侵害される権利ないし利益の主体は、当該自衛隊員自身というべきである。 個人の生命身体等の法益はあくまで当該個人に帰属し、その法益の侵害に対しては、当該個人がその自由な意思に基づいて侵害からの回復ないし侵害の予防を求めて権利を 体は、当該自衛隊員自身というべきである。 個人の生命身体等の法益はあくまで当該個人に帰属し、その法益の侵害に対しては、当該個人がその自由な意思に基づいて侵害からの回復ないし侵害の予防を求めて権利を行使するものであるから、その侵害に対して家族 が不安を感じたからといって、直ちに当該家族の法的に保護される利益が侵害されたとみることはできない。実際に、我が国の法体系において、権利が侵害された主体以外の法主体に慰謝料請求権が発生する場合は、極めて限られている。 また、本件において、平成28年5月ないし6月に、原告の子の所属する部隊から第10次要員が派遣されたものの、原告の子が実際に派遣されることはなかったというのであり、原告の子の生命身体等に具体的な危険が及んでいるとも認められないから、原告の不安は、なお一般的な不安の域を出るものではないといわざるを得ない。原告がこの不安から自衛隊の海外派遣に反対する活動をしたことで、自衛隊内における子の立場への配慮との葛藤が生じる立場に置かれ、子との絶縁につながったとすることについても、それが原告の精神疾患につながっている点で軽視できるものではないが、原告にとっての平和や自衛隊の活動に対する考え方と自衛隊員として勤務することを選択した子にとってのそれとの間の意見の相違や、それを踏まえた原告及び子の行動の選択に起因する要素があることも否定できないのであって、これをもって原告自身の権利が侵害されたことを基礎付けることはできない。 これらのことに照らすと、原告の経歴・職業及び派遣される可能性のある自衛隊員の母であることを前提にUNMISSへの自衛隊の派遣が原告に精神的苦痛を与えるとする点も、原告の主張する内容が具体的権利性を有することを理由付けるものであるということはできない。 エそうする 隊員の母であることを前提にUNMISSへの自衛隊の派遣が原告に精神的苦痛を与えるとする点も、原告の主張する内容が具体的権利性を有することを理由付けるものであるということはできない。 エそうすると、具体的権利性が認められる原告の人格権ないし人格的利益が侵害されたということはできない。 ⑷ 以上のとおりであるから、UNMISSへの自衛隊の派遣によって、法律上保護された原告の権利ないし利益が侵害されたとは認められない。 3 結論 以上のとおりであり、その余の点について検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官谷口哲也 裁判官亀井佑樹 裁判官木村大慶
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