【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告代理人菊池信男、同大藤敏、同小見山道有、同城正憲、同澤山喜昭、同大田 黒昔
主 文 原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理 由 上告代理人菊池信男、同大藤敏、同小見山道有、同城正憲、同澤山喜昭、同大田 黒昔生、同松山恒昭、同井口博、同田辺澄子、同一色春男、同内田満太郎、同西村 省三、同中村繁夫、同西田幸示、同瀬川富美夫の上告理由第一点及び第二点につい て 一 原審が適法に確定したところによれば、(1) 被上告人は、訴外D(以下「 D」という。)に対する執行力ある公正証書正本に基づいて奈良地方裁判所五條支 部(以下「五條支部」という。)にD所有の不動産につき強制競売の申立をし、同 裁判所は、右競売手続の開始決定をした、(2) これに対し、Dが、五條支部に被 上告人を相手方として請求異議の訴えを提起するとともに、右競売手続の停止を求 めたところ、同裁判所は、五〇〇万円の保証を立てることを条件として右手続の停 止決定をした、(3) そこで、Dは、昭和五一年二月一七日、被上告人を被供託者 として奈良地方法務局五条支局(以下「五条支局」という。)に五〇〇万円の供託 をした(供託番号昭和五〇年度金第三六九号。以下この供託金を「本件供託金」と いう。)、(4) Dは、同年一二月本件供託金取戻請求権及び利息払渡請求権を補 助参加人に譲渡し、同月七日付けの確定日付ある通知書をもつて五条支局供託官に 右譲渡の通知をし、同書面は同月八日同支局供託官に到達した、(5) その後昭和 五二年一二月二二日、前記請求異議訴訟の控訴審において、被上告人とDとの間で、 Dが、被上告人に対し、二五五八万三〇三一円及びこれに対する利息・遅延損害金 並びに三三五万九七三九円及びこれに対する遅延損害金の支払義務あることを認め、 右金員を昭和五三年三月一日限り支払う旨の訴訟上の和解が成立した、(6) とこ - 1 - ろが れに対する利息・遅延損害金 並びに三三五万九七三九円及びこれに対する遅延損害金の支払義務あることを認め、 右金員を昭和五三年三月一日限り支払う旨の訴訟上の和解が成立した、(6) とこ - 1 - ろが、Dが右和解の和解調書に基づく義務の履行をしなかつたため、被上告人は、 昭和五三年三月一四日、右和解調書を債務名義として、Dの本件供託金取戻請求権 及び利息払渡請求権を目的とする債権差押え及び転付命令(以下「本件差押え及び 転付命令」という。)を取得し、本件差押え及び転付命令の正本は同月一六日五条 支局供託官に送達された、(7) そして被上告人は、本件供託金について、担保権 者(被供託者)として担保取消に同意した上、五條支部に担保取消の申立をしたの で、同裁判所は担保取消決定(以下「本件担保取消決定」という。)をした、(8) そこで、被上告人は、同年五月一八日、五条支局供託官に対し、供託原因消滅の証 明のある供託書、本件差押え及び転付命令正本、同送達通知書等の書類を添付した 上、本件供託金及びその利息の払渡請求をしたところ、同日、同支局供託官は、本 件供託金五〇〇万円及び利息二五万円につき払渡認可処分(以下「本件認可処分」 という。)をし、被上告人に右金員の合計五二五万円を交付した、(9) その後五 条支局供託官は、昭和五六年四月一三日付けをもつて、被上告人に対し、本件認可 処分を取り消す旨の通知書を送付するとともに、五二五万円を同月二三日までに返 還すべき旨の請求書を送付した、(10) 一方、五条支局供託官は、補助参加人か ら本件供託金及びその利息の払渡請求を受け、同月一四日本件供託金の元利金を補 助参加人に払い渡した(以下「本件供託金払渡」という。)、その際、同支局供託 官は、補助参加人から本件供託金払渡請求について供託書及び裁判所書記官作成の 供託原因消滅証明書の提出を受 供託金の元利金を補 助参加人に払い渡した(以下「本件供託金払渡」という。)、その際、同支局供託 官は、補助参加人から本件供託金払渡請求について供託書及び裁判所書記官作成の 供託原因消滅証明書の提出を受けなかつた、というのである。 二 上告人は、民法七〇三条、七〇四条に基づき、被上告人に対し、五二五万円 及びこれに対する昭和五三年五月一九日から支払済みまでの利息の支払を求めて本 件訴えを提起したが、被上告人は、抗弁の一つとして、五条支局供託官が補助参加 人に対してした本件供託金払渡は、供託金払渡請求書に必要な添付書類の添付がな いのに払渡をしたものであつて違法であり、これによつて被上告人の有する担保権 - 2 - の目的物である本件供託金を滅失させ、被上告人に対して損害を与えたとし、右損 害については国家賠償法一条により上告人がこれを賠償する義務を負うものである として、右損害賠償債権と被上告人の上告人に対する本件不当利得返還債務とを対 当額で相殺する旨の意思表示をした旨主張した。 原審は、前記事実関係に基づき、被上告人の右相殺の抗弁を理由があるものと判 断した。 これに対し、論旨は、本件供託金払渡は、被上告人の権利・利益を何ら侵害する ものではないから、被上告人との関係において国家賠償法上違法と評価される余地 のないものであり、この点において、原判決には法令の解釈適用の誤り、審理不尽 ないし理由不備の違法がある。また、原判決の損害の認定には経験則違背、審理不 尽ないし理由不備の違法がある、というのである。 三 そこで、判断するに、原審の確定した前記事実関係によれば、被上告人は、 本件供託金について担保権者(被供託者)の地位にあつたところ、右担保権の被担 保債権(なお、本件においては被担保債権の発生ないしその額は何ら確定されてい ない。)ではなく、一般債権たる和解調書 告人は、 本件供託金について担保権者(被供託者)の地位にあつたところ、右担保権の被担 保債権(なお、本件においては被担保債権の発生ないしその額は何ら確定されてい ない。)ではなく、一般債権たる和解調書に基づく債権を執行債権として、供託者 たるDの本件供託金取戻請求権について本件差押え及び転付命令を取得し、右転付 命令に基づく本件供託金取戻請求権を行使するため、本件供託金につき、担保権者 として自ら担保取消に同意する旨の意思表示をした上、五條支部に担保取消の申立 をしたので、同裁判所は、右申立に基づき民訴法一一五条二項の規定により本件担 保取消決定をし、同決定は確定したことが明らかである。してみると、本件担保取 消決定の手続に瑕疵はないものというべく、同決定の確定により本件供託金に対す る被上告人の担保権は消滅したものと解するのが相当である。なお、Dが有してい た本件供託金取戻請求権については、五条支局供託官に対する本件差押え及び転付 命令の正本の送達より先に、Dから補助参加人に債権譲渡され、その旨の確定日付 - 3 - のある通知書が同支局供託官に到達しているので、その後にされた本件差押え及び 転付命令によつては被上告人は本件供託金取戻請求権を取得し得ず、その意味で本 件転付命令は無効なものであるが、担保権者たる被上告人が自ら担保取消に同意す る旨の意思表示をして担保取消の手続をしたものである以上、本件転付命令が右の ような理由により無効であるとの一事をもつて本件担保取消決定がその内容に適合 した効力を生じないものとすることはできないというべきである。 してみると、本件供託金払渡の当時既に本件供託金に対する被上告人の担保権は 消滅していたものであつて、本件供託金払渡により被上告人の権利・利益が侵害さ れるという関係にないことは明らかである。しかるに、原判決は、本件供託金払 払渡の当時既に本件供託金に対する被上告人の担保権は 消滅していたものであつて、本件供託金払渡により被上告人の権利・利益が侵害さ れるという関係にないことは明らかである。しかるに、原判決は、本件供託金払渡 時における被上告人の本件供託金に対する権利関係につき何ら具体的な説示をする ことなく、卒然と本件供託金払渡により被上告人は担保物の滅失による損害を被つ たとの判断をしているものであつて、原判決は、法令の解釈適用を誤り、ひいて理 由不備の違法を犯したものといわざるを得ない。論旨は理由があり、原判決は破棄 を免れない。 同第三点について 民法七〇七条一項の規定は、債務者でない者が他人の債務を自己の債務と誤信し て債権者に対する弁済をした場合に、右債務についてその債権者に同項所定の事由 が生じたときの規定であるところ、供託官が、供託金取戻請求権につき、無効な転 付命令を有効なものと誤信したため、正当な取戻権者以外の者に供託元利金の払渡 をした場合には、右供託元利金の払渡を受けた転付命令取得者が当該転付命令の執 行債権につき証書の毀滅、担保の放棄等の事由を生じさせたとしても、右払渡に係 る供託元利金の不当利得返還請求権について同項を類推適用すべきものではないと 解するのが相当である(大審院大正七年(オ)第八五号同年三月八日判決・民録二 四輯三九一頁参照)。けだし、この場合は単に供託官が誤つて正当な債権者以外の - 4 - 者に供託元利金の払渡をしたという事実があるにすぎず、転付命令取得者に対する 供託元利金の払渡行為と右転付命令の執行債権の消長とは法律上何ら関係がないの であつて、右転付命令取得者が供託元利金の払渡を受けたのち転付命令の執行債権 につき証書の毀滅、担保の放棄等の事由を生じさせたとしても、それは、右転付命 令取得者において転付命令が有効でありこれによつて法律上当然 右転付命令取得者が供託元利金の払渡を受けたのち転付命令の執行債権 につき証書の毀滅、担保の放棄等の事由を生じさせたとしても、それは、右転付命 令取得者において転付命令が有効でありこれによつて法律上当然に執行債権が消滅 したと誤信したことに基づくものにほかならないとみるべきものであつて、同項を 類推して適用すべき根拠を欠くからである。 しかるに、原審は、前記事実関係の下において、五条支局供託官は、無効な転付 命令を有効なものと誤信して本件供託金の元利合計の払渡を行つたものであり、D の被上告人に対する債務(すなわち和解調書に基づく債務)を自己の債務と誤信し て弁済したものでなく、単に供託金につき弁済すべき債権者を誤つたにすぎないも のである旨正当に判示しながら、一転して、被上告人は右供託官の払渡を有効な弁 済と信じたものであるから、無効な弁済を有効と信じたという点においては被上告 人も民法七〇七条一項にいう善意の債権者と何ら異ならない関係に立つと判示した 上、同項の類推適用により、被上告人のDに対する和解調書に基づく債権額のうち 八六万五一二一円と同額につき、上告人の不当利得返還請求権が制限されるとした ものであつて、原審の右判断は、同項の解釈適用を誤つたものといわざるを得ず、 右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。したがつて、論旨は理由があり、 原判決は破棄を免れないというべきである。 ところで、被上告人は、被上告人に対する本件供託金の元利合計五二五万円の払 渡は供託官の過失に基づく不法行為であり、被上告人は右払渡があつたためにDに 対する債権五二五万円について回収、確保の手段を逸し、損害を被つたものである とし、上告人に対する右損害賠償債権と本件不当利得返還債務とを対当額において 相殺する旨の意思表示をした旨の主張をしているところ、原審は、その認定に係る - 、確保の手段を逸し、損害を被つたものである とし、上告人に対する右損害賠償債権と本件不当利得返還債務とを対当額において 相殺する旨の意思表示をした旨の主張をしているところ、原審は、その認定に係る - 5 - 前記八六万五一二一円については民法七〇七条一項の類推適用により上告人の不当 利得返還請求を認めないのであるから損害はなかつたものといわなければならない との理由により、被上告人の右相殺の抗弁を排斥している。しかし、本件において 民法七〇七条一項の適用の余地のないことは前述のとおりであるから、原審の右判 断も失当というべきである。そこで、被上告人の右相殺の抗弁の当否を含め、上告 人の本訴請求の当否について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すの が相当である。 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判 決する。 最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 佐 藤 哲 郎 裁判官 角 田 禮 次 郎 裁判官 高 島 益 郎 裁判官 大 内 恒 夫 - 6 -
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