平成22(行ウ)38等 各国籍確認請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年3月23日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文32,593 文字)

主文 1 原告Aが日本国籍を有することを確認する。 2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用のうち,被告に生じた費用の27分の1と原告Aに生じた費用を被告の負担とし,被告に生じたその余の費用とその余の原告らに生じた費用は,その余の原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求原告らがそれぞれ日本国籍を有することを確認する。 第2 事案の概要本件は,(1)いずれも日本国籍を有する父とフィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)の国籍を有する母との間の嫡出子としてフィリピン国内で出生しフィリピン国籍を取得した原告らが,出生後3か月以内に父母等により日本国籍を留保する意思表示がされなかったため,国籍法12条の規定によりその出生の時にさかのぼって日本国籍を失ったことから,国籍法12条は日本国憲法(以下「憲法」という。)13条及び14条1項に違反し無効であると主張して,日本国籍を有することの確認を求めた事案であり,さらに(2)原告Aは,仮に国籍法12条が無効でないとしても,国籍法17条1項に基づく国籍取得の届出が有効にされたから日本国籍を取得したという予備的主張をしている事案である。 1 関係法令等(1) 国籍法ア 2条子は,次の場合には,日本国民とする。 1号出生の時に父又は母が日本国民であるとき。 2号出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。 3号日本で生まれた場合において,父母がともに知れないとき,又は国籍を有しないとき。 イ 12条出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは,戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより日本の国籍を留保する を有しないとき。 イ 12条出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは,戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ,その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。 ウ 17条1項第12条の規定により日本の国籍を失つた者で20歳未満のものは,日本に住所を有するときは,法務大臣に届け出ることによつて,日本の国籍を取得することができる。 3項前二項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を取得する。 (2) 戸籍法104条1項国籍法第12条に規定する国籍の留保の意思の表示は,出生の届出をすることができる者(第52条第3項の規定によつて届出をすべき者を除く。)が,出生の日から3箇月以内に,日本の国籍を留保する旨を届け出ることによつて,これをしなければならない。 2項前項の届出は,出生の届出とともにこれをしなければならない。 3項天災その他第1項に規定する者の責めに帰することができない事由によつて同項の期間内に届出をすることができないときは,その期間は,届出をすることができるに至つた時から14日とする。 (3) 国籍法施行規則1条1項 (省略)2項法第17条第1項の規定による国籍取得の届出は,国籍の取得をしようとする者の住所地を管轄する法務局又は地方法務局の長を経由して しなければならない。 3項前二項の届出は,届出をしようとする者が自ら法務局,地方法務局又は在外公館に出頭して,書面によつてしなければならない。 4項届書には,次の事項を記載して届出をする者が署名しなければならない。 1号国籍の取得をしようとする者の氏名,現に有する国籍,出生の年月 館に出頭して,書面によつてしなければならない。 4項届書には,次の事項を記載して届出をする者が署名しなければならない。 1号国籍の取得をしようとする者の氏名,現に有する国籍,出生の年月日及び場所,住所並びに男女の別2号父母の氏名及び本籍,父又は母が外国人であるときは,その氏名及び国籍3号国籍を取得すべき事由5項 (省略)6項法第17条の規定による国籍取得の届出をする場合においては,第4項の届書に国籍取得の条件を備えていることを証するに足りる書類を添付しなければならない。 2 争いのない事実(1) 原告らは,いずれも日本国籍を有する父とフィリピン国籍を有する母との間に,それぞれ別紙原告ら生年月日一覧記載のとおりの年月日に,フィリピンにおいて出生し,フィリピン国籍を取得した者であるところ,原告らの両親又は父母以外の法定代理人(以下「父母等」という。)が出生から3か月以内に日本の国籍を留保する旨の届出をしなかったため,出生の時にさかのぼって日本の国籍を失ったものとされた。 (2) 原告Aは,平成22年6月23日,国籍法17条1項による国籍取得の届出のために必要な届書の添付書類を全て携えて,千葉地方法務局に赴き,国籍取得の届出をしたい旨申し出て,持参した添付書類を提示した。しかし,担当職員は,原告Aが日本に住所を有するという要件を満たしていると認めるのは困難であり届出は受け付けられない旨告げ,同法務局に予め用意 されている届出用紙を交付しなかったため,原告Aは,当該届出用紙による届出をすることができず,持参した添付書類を持ち帰った。 (3) 原告Aは,千葉地方法務局に行った平成22年6月23日において,国籍法17条1項が届出によって日本国籍を取得することができるための要件として定めている①同 ,持参した添付書類を持ち帰った。 (3) 原告Aは,千葉地方法務局に行った平成22年6月23日において,国籍法17条1項が届出によって日本国籍を取得することができるための要件として定めている①同法12条の規定により日本の国籍を失った者であること,②20歳未満であること及び③日本に住所を有することという各要件をいずれも満たしていた。 3 争点(1) 国籍法12条は,憲法14条1項に違反し無効であるか。 (2) 国籍法12条は,憲法13条に違反し無効であるか。 (3) 原告Aは,国籍法17条1項が規定する国籍取得の適法な届出をしたと認められるか。 4 争点についての当事者の主張の要旨別紙「当事者の主張の要旨」記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(国籍法12条が憲法14条1項に違反し無効であるか)について(1) 国籍法12条は,「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは,戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ,その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。」と規定しているところ,原告らは,この規定により,①出生により外国籍を取得した日本国民のうち,日本国内で出生した者と日本国外で出生した者との間で,後者についてのみ国籍留保の意思表示をしなければ出生時にさかのぼって日本の国籍を失うという区別(以下「出生地による区別」という。)がされており,②日本国外で出生して外国籍を取得した日本国民のうち,出生後3か月以内に国籍留保の意思表示をした者とこの意思表示をしなかった者との間で,後者については出生の時にさかのぼ って国籍を失うという区別(以下「国籍留保の意思表示の有無による区別」という。)がされており,また,③日本国 示をした者とこの意思表示をしなかった者との間で,後者については出生の時にさかのぼ って国籍を失うという区別(以下「国籍留保の意思表示の有無による区別」という。)がされており,また,③日本国外で出生した者のうち,出生後に日本国籍を有する父から認知を受けた非嫡出子は,出生後の時間の長短を問わず,届出によって日本国籍を取得するのに,日本国籍を有する親の嫡出子は,出生後3か月以内に国籍留保の意思表示をしなければ出生の時にさかのぼって日本国籍を失うという区別(以下「出生後に認知を受けた非嫡出子との区別」という。)がされているが,これらの区別は合理的理由のない差別であり,憲法14条1項に違反するから国籍法12条は違憲無効であるとし,同法2条1号により原告らは日本国籍を取得していると主張している。 (2) 憲法14条1項適合性の判断基準についてそこで検討するに,憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解される(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁判所昭和48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。 そして,憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たっては,それぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨であると解される。もっとも,このようにして定められた日本国籍の取得 ,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨であると解される。もっとも,このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,合理的理由のない差別的取扱いとなるとき,すなわち,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認 められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,憲法14条1項に違反するものと解すべきである(最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁(以下「平成20年最高裁大法廷判決」という。)参照)。 (3) 国籍法12条の立法目的の合理性アそこでまず,国籍法12条の立法目的について検討するに,証拠(甲39,乙4,6の1,6の3ないし6,乙7,9,19)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 現在の国籍法12条は,国籍留保制度,すなわち外国で生まれ,出生によって外国の国籍を取得し,日本国籍との重国籍となる子について,父母等によって日本国籍を留保する旨の意思表示がされなければ出生時にさかのぼって日本国籍が失われることを定めたものである。この国籍留保制度は,大正13年法律第19号による国籍法の改正によって設けられたものであって,昭和59年法律第45号による国籍法の改正(以下「昭和59年改正」という。)までは,アメリカ合衆国やブラジル連邦共和国など生地主義を採用する国での出生により重国籍となる子についてのみ適用されていた。しかしながら,昭和59年改正において,出生による国籍の取得につき,出生の時に父が日本人であると やブラジル連邦共和国など生地主義を採用する国での出生により重国籍となる子についてのみ適用されていた。しかしながら,昭和59年改正において,出生による国籍の取得につき,出生の時に父が日本人であるときに日本国籍を取得するというそれまでの父系血統主義(昭和59年改正前の国籍法2条1号参照)が改められ,父母両系血統主義(同改正後の国籍法2条1号参照)を採用したことに伴い,出生による国籍の生来的取得の場面において重国籍が生ずる事態が増加することに対処するため,昭和59年改正前の国籍法9条が規定していた国籍留保制度の適用対象者を拡大する改正がされたものである。 このような国籍留保制度が設けられた趣旨は,外国で出生した日本国民で外国の国籍も取得した者は,日本で出生し日本国籍だけを取得した者と比較して,出生時の生活の基盤が外国に置かれている点で我が国と地縁的 結合が薄く,他方で,外国籍をも取得している点でその外国との結合関係が強いことから,①日本国籍を取得しても,実効性がない形骸化したものになる可能性が相対的に高いためそのような実効性がない形骸化した日本国籍の発生をできる限り防止すると共に,②弊害が大きいとされる重国籍の発生をできる限り防止し解消することにあり,そのために,子の利益を代表すべき出生届出義務者である父母等が,日本国に対して国籍留保の意思表示をして日本国籍の取得を欲することを明示しない場合には,子について出生時に日本国籍を取得させないこととしたものであると解される。 イそして,実効性のない形骸化した日本国籍の発生を防止するという目的についてみるに,そもそも国籍は,国家の構成員たる資格であり,国家の主権者たる地位ないし権利と共に国家の統治権に服する地位ないし義務を併せ持つ重要な資格であって,個人にとっては国家に対して各種権利を についてみるに,そもそも国籍は,国家の構成員たる資格であり,国家の主権者たる地位ないし権利と共に国家の統治権に服する地位ないし義務を併せ持つ重要な資格であって,個人にとっては国家に対して各種権利を有する基準であると共に各種義務を負担する基準となるものである。このように国籍は,国家と個人とが相互に権利を有し義務を負担することになる法的きずなであって,本来,国家と真実の結合関係のある者に対して付与されるべきものであり,国家とそのような真実の結合関係のない者に対して国籍が付与されるならば,国内法上の各種の権利義務の行使あるいは履行が滞り,その権利義務の実効性が確保できないことになるとともに,国際法的に見ても,形骸化した国籍を有する者に対して,国家が外交保護権を行使することが許されるかなどの種々の問題が生じることになる(国際司法裁判所1955年4月6日ノッテボーム事件(NottebohmCase)(乙11)参照)。 そうすると,このような実効性のない形骸化した国籍の発生を防ぐということは,国籍の本質に関わる重要な理念である上,実効性のない形骸化した国籍が生じるならば,国内法及び国際法上も看過し難い重篤な事態が生じかねないのであって,国籍に関する立法において重要な意味を持つも のというべきであり,立法目的として合理性を有するということができる。 ウまた,重国籍の発生防止・解消という目的についてみるに,国籍は,国家の基本的構成要素である国民,すなわち,国家の主権者たる地位ないし権利と共に国家の統治権に服する地位ないし義務を持つ者の範囲を画するものであって,1人の人間に対し複数の国家が対人主権を持つこと,又は国民に主権がある国において1人の人間が複数の国に対して同時に主権を持つということは,主権国家の考え方とは本質的に相容れないと するものであって,1人の人間に対し複数の国家が対人主権を持つこと,又は国民に主権がある国において1人の人間が複数の国に対して同時に主権を持つということは,主権国家の考え方とは本質的に相容れないというべきである。すなわち,国家は,自国民に対し,国家に対する忠誠義務,兵役義務,納税義務等の種々の義務を課し得るが,複数の国籍を持つ者は,その所属する各国からその義務の履行を要求されるところ,例えば両国が戦闘状況に入った場合の国家への忠誠義務のように,それらの義務が衝突したり抵触する事態も生じる。また,複数の国籍を持つ者については,複数の国家がその者に対して重複して対人主権を持つことになることから,国家間の外交保護権の衝突によって国際的摩擦が生ずるおそれも生じる。そして,重国籍者は,国家間での特別の連携制度がない限り,国籍を有する複数の国において別個の氏名により国民として登録されることも可能であり,個人の同一性の判断が困難となり,複数の旅券を行使することが可能になって適正な入国管理が阻害されたり,別人として婚姻をすることによる重婚を防止することができなくなるなど様々な深刻な事態を生じさせかねない。さらに,重国籍者については,本国法として適用される法律が適用する国により異なることがあり得ることから,例えば,一方の国で婚姻が成立しているが他方の国では成立していないいわゆる跛行婚が生ずるなどによる混乱を生ずるおそれがある。このように1人の人間が複数の国籍を持つという重国籍状態が常態化することは,国家と国家との間,国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に重大な矛盾衝突を生じさせ るおそれがあるのであって,できる限り重国籍を防止し解消させるべきであるという理念は合理的なものである。 エ(ア) これに対し,原告らは,国籍法12条が定め 利義務に重大な矛盾衝突を生じさせ るおそれがあるのであって,できる限り重国籍を防止し解消させるべきであるという理念は合理的なものである。 エ(ア) これに対し,原告らは,国籍法12条が定める国籍留保制度の趣旨について,上記のような国籍の取得そのものを制限する制度と理解すべきではなく,国籍法2条1号又は2号によって確定的に取得した国籍について,国籍を留保しなかった者についてはそれを喪失させる制度であると主張する。 確かに,国籍法12条は「日本国民」が「日本の国籍を失う」と規定しており,原告が主張するように,形式的には国籍を喪失させる制度のようにもみえる。 しかしながら,他の国籍喪失制度について定めた国籍法11条及び13条は単に「日本の国籍を失う」と規定し,将来に向かって国籍を喪失する旨定めているところ,国籍法12条は,これらと異なり「出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う」と規定していることからも,前記アで述べたような,国籍の生来的な取得を制限し,出生当初から国籍を取得しなかったことにする趣旨を表したものと解することができる。そして,昭和59年改正時における立案担当者は,この国籍留保制度は,出生時における国籍の取得を制限したものと位置付けることができ,外国で生まれたことにより二重国籍となった子については,原則として日本国籍を取得させないこととし,例外的にその親から留保の意思表示があった場合にのみ日本国籍を取得させることとする制度なのであるという説明をしており(乙7,15頁),また,別の立案担当者は,実効性のない日本国籍の発生を防止するために,父母が積極的行為を行わなければ子は国籍を取得しないものとする方法をとった旨説明しており(乙4,25頁),国籍法12条により,父母等が国籍留保の意思表示という積極的行為をしなければ, 止するために,父母が積極的行為を行わなければ子は国籍を取得しないものとする方法をとった旨説明しており(乙4,25頁),国籍法12条により,父母等が国籍留保の意思表示という積極的行為をしなければ,子は生来的に国籍取得をしないという制度 を作出しようとしたものと解される。また,昭和59年改正の国会審議において,政府委員は,「留保制度というのは子供の将来を考えて親が留保するかしないかを決定するわけでございますけれども,そういうことによって重国籍がいわば出生の時点で解消できる…」あるいは,「留保制度というのは,出生の時点で国外で生まれたということからくる日本国籍の形骸的なものを防止するということで整理ができる…」などと述べ(乙4,341頁以下),国籍法12条は,出生の時点で重国籍を生じさせないようにする制度であることを当然の前提として答弁をしている。このように,国籍法の昭和59年改正時における立法関係者らは,国籍法12条を,出生時における国籍の生来的取得を制限する制度として設計したものと解される。 以上によれば,この点についての原告らの主張に与することはできない。 (イ) また,原告らは,昭和59年改正において,国籍は唯一であるべきという国籍唯一の原則から重国籍容認へ転換が図られたのであって,重国籍発生の予防あるいは排除が昭和59年改正後の国籍法12条の目的であるとする被告の主張は誤りであると主張する。 しかしながら,証拠(乙4,6の1ないし6)によれば,昭和59年改正に係る国会審議において,国籍唯一の原則は依然として国籍立法の根本的な考え方であることを当然の前提として議論がされており(乙4,302頁以下),政府委員からも,重国籍の発生防止から解消強化という変化はあっても,国籍法改正に当たって,国籍唯一の原則を各所で貫 根本的な考え方であることを当然の前提として議論がされており(乙4,302頁以下),政府委員からも,重国籍の発生防止から解消強化という変化はあっても,国籍法改正に当たって,国籍唯一の原則を各所で貫いている旨の見解が示されている(乙4,308頁以下)。そして,父母両系血統主義が採用されたこと等に伴い,新たな重国籍の発生が懸念されたことから,これに対応して,国籍の生来的取得を制限して重国籍を防止する国籍法12条の制度のほか,事後的に重国籍を解消す るための各規定(国籍法11条,13条から16条まで)が設けられたのであって,昭和59年改正においても,国籍唯一の原則から重国籍容認への転換が図られたということはできない。 (ウ) さらに,原告らは,重国籍による弊害とされている事項は国家間協定や国内法の整備により解決が図られているのであって,重国籍による重大な弊害は発生しておらず,特に未成年者については弊害はないなどと主張する。 しかしながら,国家間協定を結ぶことが必ずしも容易ではないことは周知の事実であるし,現に重国籍の弊害が消滅してはいないのであって,およそ国家間協定や国内法の整備によって重国籍による弊害が全て解決されるわけではない。また,そのような重国籍による弊害としての権利義務の抵触や外交保護権の衝突は,未成年者に対しても生じ得ることもまた明らかである。 (エ) そして,原告らは,国籍法11条,13条及び14条が重国籍の解消を本人の意思に委ねていることから,昭和59年改正後の国籍法は重国籍の解消は本人の意思に委ねるという基本姿勢を採用するものであると主張し,国籍法12条の目的が,本人の意思に委ねることなく重国籍を解消するという目的だと解することは,この基本姿勢に反するものであって採り得ないと主張する。しかしながら,現行国籍 用するものであると主張し,国籍法12条の目的が,本人の意思に委ねることなく重国籍を解消するという目的だと解することは,この基本姿勢に反するものであって採り得ないと主張する。しかしながら,現行国籍法は,国籍法11条,13条及び14条により事後的に本人の意思によって重国籍を解消する制度を採用するとともに,国籍法12条による国籍の生来的取得を制限する制度も併せて採用することによって,重国籍の発生防止・解消を図ろうとしているものと解される上,国籍の生来的取得はそもそも本人の意思によるものではないのであるから,この点の原告らの主張も理由がない。 (4) 立法目的と各区別との合理的関連性 上記のとおり,国籍法12条の立法目的は,①実効性のない形骸化した日本国籍の発生防止及び②重国籍の発生防止・解消であるところ,それらにはいずれも合理性が認められるから,次に,この立法目的と原告らが主張する各区別との合理的関連性について検討する。 ア出生地による区別と立法目的との合理的関連性原告らは,出生により外国籍を取得した日本国民のうち,日本国内で出生した者と日本国外で出生した者との間で,後者についてのみ国籍留保の意思表示をしなければ出生時にさかのぼって日本の国籍を失うという区別をしていることは不合理な差別であると主張する。 しかし,まず,出生地という地縁的要素に国との結び付きを見いだすことが不合理ではないことは,国際社会において,一般に国籍の生来的取得については生地主義という考え方があり,アメリカ合衆国ほか多くの国がこの考え方を採用していることからも明らかである。すなわち,生地主義は,その者の出生地に通常は家族共同体の定住の地があり,その者が通常は地域社会の成員としてその文化に同化していくであろうことに着目し,出生地に国家と個人との とからも明らかである。すなわち,生地主義は,その者の出生地に通常は家族共同体の定住の地があり,その者が通常は地域社会の成員としてその文化に同化していくであろうことに着目し,出生地に国家と個人との結合を見いだしていくという国籍の生来的取得要件に係る合理的な立法主義の1つであると解される。 そうすると,我が国の領土主権の及ばない外国で出生した者は,日本で出生した者と比べて一般に我が国と地縁的結合が薄く,他方で,通常,その出生した国との地縁的結合が強く認められるのであって,類型的に見れば,そこには日本で出生した者との間で差異があることは明らかであるから,出生地という地縁的要素を我が国との結合関係の指標とすることは合理性があるというべきであり,国籍法12条が,類型的に実効性のない形骸化した日本国籍を有する重国籍者の発生をできる限り防止するという目的のために,日本国外で生まれた重国籍者については,日本国籍を生来的に取得するためには父母等がその意思を表示することが必要として,日本 国内で出生した者とは異なる扱いをすることは,目的との間に合理的な関連性があると認められる。 そして,証拠(甲43,乙12,22)及び弁論の全趣旨によれば,このような出生した国との地縁的結合を重視してそれを国籍と連携させて考える考え方は,生地主義を原則として採用する国はもちろんのこと,血統主義を原則とする場合であっても,例えば,1997年に欧州評議会(CouncilofEurope)が採択した欧州国籍条約(EuropeanConventiononNationality)6条1項aは,出生の時に親の一方が自国民である子供が自動的に国籍を取得することの例外として,子供が外国で生まれた場合には,親の国籍を取得させない旨の規定を設けることができる旨定めてお nality)6条1項aは,出生の時に親の一方が自国民である子供が自動的に国籍を取得することの例外として,子供が外国で生まれた場合には,親の国籍を取得させない旨の規定を設けることができる旨定めており,また,例えば中華人民共和国の国籍法は,父母の双方又は一方が中華人民共和国の公民であるとともに外国に定住し,本人が出生と同時に外国の国籍を取得している場合には,中華人民共和国の国籍は付与しない旨規定するなど,出生地によって国籍の生来的取得のあり方に区別を設けていることが認められるのであって,およそ不合理な制度であるということはできない。 イ国籍留保の意思表示の有無による区別と立法目的との合理的関連性次に,原告らは,日本国外で出生して外国籍を取得した日本国民のうち,出生後3か月以内に国籍留保の意思表示をした者としなかった者との間で,後者については出生の時にさかのぼって国籍を失うという区別をすることには合理性がないと主張する。 (ア) しかしながら,そもそも子の親は,一般に,血縁に裏付けられた親子の情から,子の福祉や利益を最大限に図るべく行動するものであると考えられ,子に日本国籍を留保させるのが相当か否かの判断に当たっても,親は,子が日本の国籍を取得して,日本国との結び付きを強め,日本国民としての権利を有し義務を負うことがその子の福祉や利益につな がるか否かという観点から行動するものであることが通常であって,社会通念に照らしてもそのような経験則が存するということができる。そうすると,国籍留保の意思表示をされた子は,その親が子の福祉や利益の観点から日本国との結び付きを強め,日本国民としての権利を有し義務を負うことが相当であると判断したものと考えられるのであるから,類型的に我が国との結び付きが強いものということができ,反対に や利益の観点から日本国との結び付きを強め,日本国民としての権利を有し義務を負うことが相当であると判断したものと考えられるのであるから,類型的に我が国との結び付きが強いものということができ,反対に,国籍留保の意思表示がされない子は,実効性のない形骸的な日本国籍を有する重国籍者となる可能性が相対的に高いということができる。 そうすると,類型的に実効性のない形骸的な日本国籍を有する重国籍者の発生を防止するという立法目的を達成するために,親が子の国籍を留保する旨の意思表示をした者とこれをしなかった者との間で差異を設けることは不合理ではないというべきである。 しかも,国籍法12条が定める国籍留保制度については,父母等による国籍留保の意思表示がされなかったために日本国籍を生来的に取得できなかった者についても,国籍法17条1項によって,その者が20歳未満であり,日本に住所を有していれば,届出という簡易な方法によって日本国籍を取得することができる制度が設けられていることも併せ考えるならば,類型的に実効性のない形骸化した日本国籍を有する重国籍者の発生を防止するという立法目的を達成するために,出生後3か月以内に父母等が国籍留保の意思表示をするか否かによって,国籍の取得についての区別をすることは,立法目的との関係で不合理であるとはいえず,立法目的との合理的関連性があるというべきである。 (イ) この点につき,原告らは,親が国籍留保制度を知らなかったために国籍留保の意思表示をしない場合があり,現に原告らの場合がそうであって,その事実から「子の国籍を保持させない」という父母の意思を読みとることはできないから,立法目的との合理的関連性がない旨主張して いる。 しかしながら,証拠(甲9の1及び2,乙24)及び弁論の全趣旨によれば,在外公館に備付 い」という父母の意思を読みとることはできないから,立法目的との合理的関連性がない旨主張して いる。 しかしながら,証拠(甲9の1及び2,乙24)及び弁論の全趣旨によれば,在外公館に備付けの出生届用紙には,「その他」の欄に「日本国籍を留保する」とあらかじめ太字のゴシック体で印刷され,その右横に署名押印しさえすれば容易に国籍留保の意思表示ができるように工夫されており,外務省により作成された戸籍・国籍処理要領によれば,在外公館では,国籍留保の欄に署名押印して国籍留保の意思表示をしなければ,出生届を受理しない運用がされていることが認められる。そして,そもそも我が国においては,子が出生した場合には,親には子の出生届を出す義務がある(戸籍法52条1項)ことはもとより,出生届を出して戸籍に子の氏名や親との続柄等が記載されることがその後の子の人生にとって重要な意味を持つことは一般的な常識として認識していると解されるのであって,子を日本の戸籍に載せることにより日本との繋がりを確保しようとする日本人の親であれば,出生届を提出すると考えられるところ,出生届を提出しようとすれば,運用上,子の国籍を留保する旨の意思表示をすることになるのであるから,そもそも親が子の出生の届出すらしようとせず,それゆえに国籍留保の意思表示をしない結果となることをもって,日本との結び付きを望まない親の意思の表れとして取り扱うことは不合理ではないというべきである。 したがって,立法目的との合理的関連性が認められるというべきである。 (ウ) また,原告らは,子本人ではない子の父母等がする国籍留保の意思表示の有無によって子本人の国籍の得喪が決定される点を問題としている。 しかしながら,そもそも国籍の生来的取得の場面では,その子本人の意思が考慮されることは基本的にあり 父母等がする国籍留保の意思表示の有無によって子本人の国籍の得喪が決定される点を問題としている。 しかしながら,そもそも国籍の生来的取得の場面では,その子本人の意思が考慮されることは基本的にあり得ないのであり,国籍の生来的取 得の考慮要素とされる事項である血統,親の婚姻関係,出生地などは,いずれも子本人の意思とは無関係であるし,出生後間もなく子本人の意思を反映させることは不可能である。そして,親は,通常,子の出生後,その子が成熟するまで,養育監護すべき立場にあり,どの地をその子の生活の本拠とし,どのような文化に親しませ,どのような習俗,行動様式を身に付けさせ,どのような公共生活への参加をさせ,どのような教育をしていくのかについて,絶えず強い関心を持ち,大きな影響を及ぼし続ける存在であると考えられるから,意思表示をすることができない出生直後の子に代わって,その父母等の国籍留保の意思表示の有無により子の国籍の得喪が決定されることは一つの合理的な方法であるということができる。 そして,前記のとおり,父母等による国籍留保の意思表示がされなかったために日本国籍を生来的に取得できなかった子についても,20歳未満であり日本に住所を有していれば,届出という簡易な方法によって,自らの意思で日本国籍を取得することができる制度(国籍法17条1項)が設けられているのであるから,国籍留保の制度は,父母等の不作為によって確定的に日本国籍が得られないという不利益を子に負わせる制度ではなく,日本に住所を有するという日本とのつながりがある子については,子自らの意思によって国籍を取得できるのであって,子の意思が反映されるこのような救済制度が整備されていることをも併せ考えれば,類型的に実効性のない形骸化した日本国籍を有する重国籍者の発生を防止するという立 意思によって国籍を取得できるのであって,子の意思が反映されるこのような救済制度が整備されていることをも併せ考えれば,類型的に実効性のない形骸化した日本国籍を有する重国籍者の発生を防止するという立法目的を達成するために,とりあえず父母等が国籍留保の意思表示をするか否かによって,国籍の取得についての区別をするということは,立法目的との関係で合理的であるといえ,立法目的との間に合理的な関連性が認められる。 (エ) さらに,原告らは,国籍留保の意思表示をすべき期間が出生後3か 月であるという点が短きに失すると主張する。 しかしながら,国籍の生来的取得が認められるか認められないかが不確定な状態が長期間にわたって続くことは望ましくなく,国籍の生来的取得はできる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましいとされており(最高裁判所平成14年11月22日第二小法廷判決・裁判集民事208号495頁参照),親の届出行為の期間は,出生後できるだけ短い期間とすることが本来は望ましい。もっとも,その期間が短ければ,届出に困難を伴う事態も想定されることから,昭和59年改正前は14日間とされていた期間について,在外邦人や在外公館等の意見や実情等を踏まえて3か月に伸張されたものであって,日本国内において子が出生した場合の出生届の提出期限が出生後14日以内とされている(戸籍法49条1項)ことに照らしても,その期間が短きに失するとはいえない。 ウ出生後に認知を受けた非嫡出子との区別と立法目的との合理的関連性原告らは,日本国外で出生した者のうち,出生後に日本国籍を有する父から認知を受けた非嫡出子は出生後の時間の長短を問わず届出により日本国籍を取得するのに,日本国籍を有する親の嫡出子は,出生後3か月以内に国籍留保の意思表示をしなければ出生の時にさかの 国籍を有する父から認知を受けた非嫡出子は出生後の時間の長短を問わず届出により日本国籍を取得するのに,日本国籍を有する親の嫡出子は,出生後3か月以内に国籍留保の意思表示をしなければ出生の時にさかのぼって日本国籍を失うという区別は,不合理な差別であると主張している。 しかしながら,そもそも国籍留保制度は,前記のとおり,国籍の生来的取得に関する制度であって,一定期間内に国籍留保の意思表示がされないことによって,出生時から国籍を取得しなかったことにする制度であるところ,出生による生来的な国籍の取得は,できる限り子の出生に近い時点で早期に確定させることが望ましいことから,届出に要する合理的期間との調和を図って3か月という期間が定められたものである。 これに対し,国籍法3条1項の認知を前提とする国籍取得制度は,出生 時には日本国籍を取得していなかった者が,事後に,日本人の親によって認知されたという要件を満たし,かつ,本人の国籍取得届という届出行為によって届出時点から日本国籍を取得できるという制度であり,いわゆる伝来的な国籍の取得についての制度である。このように,国籍の生来的取得の制度である国籍留保制度と国籍の伝来的取得の制度である国籍法3条1項による国籍取得制度とでは,制度目的や趣旨が異なるのであるから,国籍取得の要件や時期に差異があるのは当然であり,特に父親が認知をする時期については,法律上の制限はされていないのであるから,子の出生から相当期間経過した後に子が父の認知を受けて日本国籍を取得することは制度上常態として起こり得ることであって,そのような伝来的国籍取得の制度があることとの対比において,生来的な国籍取得の制度を定める国籍法12条が合理性を欠くということにならないことはけだし明らかである。 (5) 以上のことからすれば, そのような伝来的国籍取得の制度があることとの対比において,生来的な国籍取得の制度を定める国籍法12条が合理性を欠くということにならないことはけだし明らかである。 (5) 以上のことからすれば,国籍法12条の規定は,憲法14条1項に違反するものではないというべきである。 2 争点(2)(国籍法12条が憲法13条に違反し無効であるか)について原告らは,国籍法12条は,国籍法2条1号又は2号によって取得した日本国籍を本人及び父母の意思と無関係に喪失させるものであり,憲法13条によって保障されている,その意に反し国籍を奪われない権利ないし利益(国籍保持権)を侵害していると主張する。 しかしながら,前記のとおり,国籍法12条の国籍留保制度は,日本国民の子のうち,我が国の領域外である外国において生まれて,外国籍を取得した者については,所定の期間内に父母等が国籍留保の意思表示を行わない場合には血統主義による国籍取得を制限して日本国籍を取得しないこととする制度であり,出生時の国籍の生来的取得のための要件を定めたものであって,国籍剥奪の制度ではない。そうすると,仮にその意に反し国籍を奪われない権利ないし 利益(国籍保持権)が憲法13条によって保障されているとしても,国籍法12条は国籍を奪う規定ということはできないから,国籍保持権を侵害するものということはできない。 したがって,国籍法12条が憲法13条によって保障されている国籍保持権を侵害するものであるという原告らの主張は採用することができず,国籍法12条は憲法13条に違反するものではないというべきである。 3 争点(3)(原告Aは,国籍法17条1項の国籍取得の適法な届出をしたと認められるか)について(1) 国籍法17条1項による国籍取得の実体的要件は,①国籍法12条の規定 うべきである。 3 争点(3)(原告Aは,国籍法17条1項の国籍取得の適法な届出をしたと認められるか)について(1) 国籍法17条1項による国籍取得の実体的要件は,①国籍法12条の規定により日本国籍を失ったこと,②20歳未満であること及び③日本に住所を有することであるところ,前記争いのない事実(第2の2(3))のとおり,原告Aが,国籍取得のために千葉地方法務局に赴いた平成22年6月23日時点で,国籍法の定めるこれらの実体的な要件をすべて満たしていたことは当事者間に争いがない。 そして,国籍法19条による委任を受けて定められた国籍法施行規則1条3項は,国籍法17条1項の届出は書面による旨規定しているところ,前記争いのない事実(第2の2(2))及び証拠(甲ウ6,10,乙ウ6)によれば,原告Aは,平成22年6月23日に,国籍法17条1項による国籍取得の届出のために必要な書類を全て所持して千葉地方法務局に赴き,担当職員に対し国籍取得の届出をしたい旨申し出て,持参した必要書類を提示したものの,書類を受け取った担当職員は,上司であった国籍課長及び国籍係長と相談した上で,原告Aが日本に住所を有すると認めるのは困難であるという回答をし,原告Aに届出用紙の交付をせず,原告Aは,持参した必要書類をそのまま持ち帰ったことが認められる。 そこで,本件においては,原告Aの上記行為が,国籍法施行規則が定める書面主義の要請を満たし,国籍法17条1項の届出として有効であると解す ることができるか否かが争点である。 (2) この点について検討するに,確かに,上記のとおり,千葉地方法務局の担当職員が,原告Aに対して,地方法務局に予め用意されている既製の届出用紙の交付をしなかったことから,そのような既製の届出用紙に必要事項を記 ついて検討するに,確かに,上記のとおり,千葉地方法務局の担当職員が,原告Aに対して,地方法務局に予め用意されている既製の届出用紙の交付をしなかったことから,そのような既製の届出用紙に必要事項を記入した「届書」は提出していない。 しかしながら,そもそも国籍法施行規則1条3項が届出を書面によるとした趣旨は,国籍法17条1項及び3項が,「届出」という私人の公法上の意思表示が適法にされさえすれば国籍取得という重大な効果が生じ得る旨定めていることに鑑み,国籍を取得しようとする届出人の意思が真意に基づく確実なものであることを確認するとともに,必要な事項を予め記載させることで適正かつ迅速な処理が行われることを担保しようとする趣旨であると解される。そして,証拠(甲ウ6,10,乙ウ6)によれば,原告Aは,国籍取得の届出に必要な添付書類を全て所持して千葉地方法務局を訪れ,同法務局の職員に対して,国籍取得の届出をしたい旨の意思表示をした上で,それらの添付書類を全て提示したことが認められるのであって,これらの行為によって,原告Aの届出意思が,日本国籍を取得しようとする真意に基づく確実なものであることが十分に確認できたということができる。 また,国籍法施行規則1条4項が,届書の記載事項として掲げているのは,①国籍の取得をしようとする者の氏名,現に有する国籍,出生の年月日及び場所,住所,男女の別(1号),②父母の氏名及び本籍,父又は母が外国人であるときは,その氏名及び国籍(2号),③国籍を取得すべき事由(3号)であるところ,証拠(甲ウ1ないし6)によれば,①及び②の事項は,いずれも原告Aが千葉地方法務局に持参した書類の中に記載されており,③についてもその書類の内容から明らかであったことが認められる。 そうすると,本件において,原告 れば,①及び②の事項は,いずれも原告Aが千葉地方法務局に持参した書類の中に記載されており,③についてもその書類の内容から明らかであったことが認められる。 そうすると,本件において,原告Aの国籍取得の意思が真意に基づく確実なものであることが十分に確認でき,また,原告Aが担当職員に示した書類 により,国籍法施行規則1条4項が記載すべきとした事項が明らかであったというのであるから,同規則1条3項が,国籍法17条1項の届出を「書面」によることとすることによって達成しようとした目的は,全て満たされていたということができる。 (3) そして,そもそも国籍の取得に関して規定する国籍法17条1項が,同条に基づく国籍取得について「届出制」を採用し,同条3項が「前二項の届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を取得する。」と規定したのは,国籍の取得という私人の人生にとって重大な影響を生じさせる効果を生じさせる意思表示については,法定の要件さえ満たしていれば,その届出人の意思表示が到達した時に,行政庁の特別の行為を経ることなく当然に国籍取得という効力を生じさせようとしたからに他ならない。しかして,本件においては,原告Aは,国籍法17条1項に定める実体要件をいずれも満たしていたことは当事者間に争いがなく,国籍法施行規則が書面による届出を要請した趣旨も上記のとおり全て満たしており,また,届出書面は特に地方法務局が予め用意したものに限るとは解されないのであるから,本件においては,原告Aが必要事項が記載された添付書類を千葉地方法務局の担当職員に提示して国籍取得の意思表示を明確にした時点で,書面による届出があり,その届出の時に日本の国籍を取得したと認めるのが相当である。 そして,実質的に考えても,本件においては,担当職員が住所要件 示して国籍取得の意思表示を明確にした時点で,書面による届出があり,その届出の時に日本の国籍を取得したと認めるのが相当である。 そして,実質的に考えても,本件においては,担当職員が住所要件についての判断を誤らずに原告Aに届出用紙を交付していれば,その届出用紙を利用して届書を添付書類とともに提出し,何ら行政庁の特別な行為を経ることなく,国籍取得という効果を得ることができたところ,千葉地方法務局の担当職員が誤った対応をした結果,原告Aが国籍法17条に基づく国籍取得ができないことになれば,届出制を採用して国籍の取得という重大事について法定の要件を満たしている本人の意思のみにかからしめようとした国籍法17条の趣旨が,一担当職員の所為によって踏みにじられることになるのであ って,それが法の真に意図するところであるとは到底思われない。 以上によれば,原告Aについては,千葉地方法務局に行って担当職員に添付書類を示して国籍取得を申し出た平成22年6月23日に,有効な届出がされ我が国の国籍を取得したと認めるのが相当である。 (4) この点,被告は,原告Aは,千葉地方法務局を訪れ国籍取得の届出の手続についての相談をしたにすぎず,担当職員が日本に住所を有するという要件を満たすことは困難であろうという説明をしたところ,その説明を了解して,届書も添付書類も提出することなく帰っており国籍取得の届出はされていないと主張する。 しかしながら,証拠(甲ウ6,10,乙ウ6)によれば,特定非営利活動法人Bの事務局長であり原告Aの本件の国籍取得を支援して通訳として原告Aと千葉地方法務局に同行したCは,本件以前にも何度も国籍法17条に基づく他の国籍取得希望者の支援を行い,地方法務局に行って手続に関与したことがあり,その手続や必要書類を 得を支援して通訳として原告Aと千葉地方法務局に同行したCは,本件以前にも何度も国籍法17条に基づく他の国籍取得希望者の支援を行い,地方法務局に行って手続に関与したことがあり,その手続や必要書類を知っていたことから,原告Aの国籍取得のために,予め千葉地方法務局に対して電話をして,届出をするために出頭する日時の予約をするとともに届出に必要な書類を確認し,必要な書類を全て揃えそれらを携えて原告Aと共に千葉地方法務局に赴いたこと,担当職員が,国籍法17条1項の住所要件を満たしていると認めるのは困難であると回答したことに対し,担当職員に対して,国籍取得の届出を受け付けてもらえないのであれば「不受理の証明書」を発行してほしい旨要求していることがそれぞれ認められるのであって,これらの事実からすれば,原告Aらが,平成22年6月23日に千葉地方法務局を訪れたのは,国籍取得の届出をするためであって,単なる相談のために訪れたものとは到底認め難い。 したがって,この点についての被告の主張は採用できない。 また,被告は,原告AとCが千葉地方法務局の担当職員に対して届出用紙の交付要求をしたことはなく,それゆえにその要求を担当職員が拒否したこ ともないから,届出用紙の交付がされなかったために届書の提出ができなかったという原告Aの主張は前提を欠くと主張している。 確かに,原告AとCが,千葉地方法務局の担当職員に対して,明示的に届出用紙を交付するように要求したことを認めるに足りる証拠はないものの,上記の認定事実によれば,担当職員は,原告Aらが持参した届出に必要な添付書類を確認し,別室で上司の指示も仰いだ上で,原告Aらに原告Aの届出は住所要件を欠き受け付けられない旨の回答をしたのであるから,原告Aらが,そのような状況下で届出用紙の交付を要求しても意味がない 付書類を確認し,別室で上司の指示も仰いだ上で,原告Aらに原告Aの届出は住所要件を欠き受け付けられない旨の回答をしたのであるから,原告Aらが,そのような状況下で届出用紙の交付を要求しても意味がないと考えたとしても何ら不自然でなく,そのような状況下で届出用紙の交付要求を断念したからといって,それが前記(3)の判断に影響を及ぼすものではないことは明らかである。 (5) 以上のことからすれば,原告Aは,平成22年6月23日に,国籍法17条1項の国籍取得の適法な届出をしたと認められるから,その届出により日本国籍を取得したものと認められる。 第4 結論以上によれば,原告Aの請求は理由があるからこれを認容し,その余の原告らの請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官定塚誠 裁判官波多江真史 裁判官渡邉哲 (別紙)当事者の主張の要旨 第1 争点(1)(国籍法12条が憲法14条1項に反し無効であるか)について 1 原告らの主張(1) 国籍法12条による差別的取扱いの存在国籍法12条は,「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは,戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ,その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。」旨規定しており,この規定によって日本国籍を失った者については,次の3点において差別的取扱いが生じている。 ア出生地による差別的取扱い の出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。」旨規定しており,この規定によって日本国籍を失った者については,次の3点において差別的取扱いが生じている。 ア出生地による差別的取扱い出生により日本国籍及び外国籍を取得した者のうち,日本国内で出生した者は,その後何らの手続を要せずに日本国籍を保持するのに対し,日本国外で出生した者は,国籍留保の意思表示をしなければ出生時にさかのぼって日本国籍を失うことになり,出生した場所が日本国外である者は,出生した場所が日本国内である者に比べて不利益を受けるという差別が生じる。 イ国籍留保の意思表示の有無による差別的取扱い日本国外で出生して外国籍を取得した日本国民のうち,父母等が出生後3か月以内に国籍留保の意思表示をした者は日本国籍を保持するのに対し,父母等によってその意思表示がされなかった者は,出生時にさかのぼって日本国籍を失うことになり,本人の意思に関わらない父母等の意思表示の有無によって差別が生じる。 ウ出生後に認知を受けた非嫡出子との差別的取扱い日本国外で出生した者のうち,出生後に日本人の父から認知を受けた非 嫡出子は,出生後の時間の経過の長短を問わず,届出によって日本国籍を取得するのに対し,父母のいずれかが日本国籍を有する場合の嫡出子は,出生後3か月以内に国籍留保の意思表示をしなければ出生時にさかのぼって日本国籍を失うことになり,両者の間に差別が生じる。 (2) 憲法14条1項適合性判断基準国籍法制に関する憲法14条1項適合性判断基準は,平成20年最高裁大法廷判決で示されている。ただし,同判決で問題とされたのは国籍法3条1項が後発的国籍取得に関する制度であったのに対し,本件の争点である国籍法12条は,いったん取得した 判断基準は,平成20年最高裁大法廷判決で示されている。ただし,同判決で問題とされたのは国籍法3条1項が後発的国籍取得に関する制度であったのに対し,本件の争点である国籍法12条は,いったん取得した日本国籍を喪失させる制度であるから,その憲法適合性については,①立法目的に合理的根拠があるか否かについては,その合理性についてより厳格に吟味すべきであるとともに,②差別的取扱いと立法目的との間に合理的な関連性があるか否かについても,より具体的かつ密接な関連性が要求されるものと解すべきである。 (3) 立法目的の合理性ア重国籍の発生防止・解消現行国籍法において,重国籍の防止・解消という立法目的は放棄はされていないが,昭和59年の国籍法改正後は,その優先順位は著しく後退し,重国籍を防止・解消することによって図ろうとする公益的要請よりも,日本国籍を保持したいという本人の希望を尊重し優先するというのが現行法の基本的な方針である。このように,重国籍の防止又は解消という国籍法12条の立法目的が,本人の意思に依拠しながら,重国籍の解消を進めていくというものである限りは,その立法目的の合理性は肯定されるが,本人の意思に反してでも重国籍の解消を進めていくという内容であるとするならば,その立法目的は合理性を欠くイ実効性を欠く日本国籍の発生防止この立法目的は,昭和59年の国籍法改正の際に初めて唱えられたもの であるが,当時,実効性を欠く形骸化した日本国籍を有する者が存在することによる社会問題が発生したというような立法事実は存在しないし,そもそも被告が主張する「実効性を欠く日本国籍」の内容が不明確であって恣意的に用いられるものである。そして,「国籍の実効性」が,生活実態等に基づく日本との結び付きの強さということで は存在しないし,そもそも被告が主張する「実効性を欠く日本国籍」の内容が不明確であって恣意的に用いられるものである。そして,「国籍の実効性」が,生活実態等に基づく日本との結び付きの強さということであるならば,その「国籍の実効性」は本人の生涯にわたって問題となるはずであり,それを出生時に決めるというのは不合理であって,このような立法目的はそもそも合理性を欠く。 ウ海外で出生した日本国民の身分関係の戸籍への反映戸籍は日本国民の身分関係を公証する制度であり,あくまでも既存の法律関係を公示することが役割である。戸籍に記載されていないからといってその者の法的地位を喪失させることは本末転倒であり,立法目的として合理性を有するとは言い難い。 (4) 立法目的と差別的取扱いとの合理的関連性仮に立法目的に合理性があるとしても,以下のとおり,被告の主張する立法目的と前記の差別的取扱いとの間に合理的関連性はないから,憲法14条1項に違反する。 ア重国籍の発生防止・解消という立法目的との合理的関連性について(ア) 出生地による差別的取扱いとの関係重国籍解消の要請は,重国籍者が日本国内,国外のいずれで出生したか,いずれで生活しているかとは無関係であり,現行国籍法上の他の重国籍解消のための諸制度(国籍法11条2項,13条,14条以下)は,重国籍者の出生場所や居住場所による適用の有無や要件の差異を設けていない。また,例えば,日本国籍を有する夫と婚姻し日本で生活していた外国人妻が,出産に際し,日本で出産することもあれば,本国に一時帰国して出産することもあり得るが,そのいずれであるかによって 重国籍解消の要請の度合いが異なるとは言い難い。同様に,外国籍を有する夫と婚姻し外国生活をする日本人妻が,出産に際し, 国に一時帰国して出産することもあり得るが,そのいずれであるかによって 重国籍解消の要請の度合いが異なるとは言い難い。同様に,外国籍を有する夫と婚姻し外国生活をする日本人妻が,出産に際し,その居住する外国で出産する場合と,日本に戻って出産する場合とを比較しても,重国籍解消の要請の度合いに何ら差異があるとは言い難い。しかるに,日本国内で出生した重国籍者については無条件で重国籍状態を許容するのに対し,国外で出生した重国籍者に対してのみ国籍留保の意思表示を要求し,出生地によって国籍を保持するための要件に差異を設けることは,重国籍の解消という立法目的との間に合理的関連性があるとは到底言い難い。 (イ) 国籍留保の意思表示の有無による差別的取扱いとの関係第1に,そもそも国籍留保の意思表示をすれば重国籍を保持できるというのでは,重国籍の発生防止・解消の制度として実効性を有しないことは明らかである。第2に,現行法上の他の重国籍解消のための制度と対比すると,本人の意思によらずに国籍喪失の効果を生じさせる点で著しく突出した制度である。第3に,国籍留保の意思表示は,重国籍者本人以外の意思表示である上,出生届のその他欄に「日本国籍を留保する」と印刷された箇所に署名押印するのみの形式的な行為であり,不留保による日本国籍の喪失は重国籍者本人の意思とは無関係である。また,父母が国籍留保の意思表示をしないことは,制度の不知に起因する場合もあるのであり,その事実から「子の国籍を保持させない」という父母の意思を読みとることはできない。以上から国籍留保の意思表示という形式的な行為の有無によって日本国籍の存否を終局的に決定してしまうことは,重国籍の防止・解消の要請の現行法制下における位置付けを考えると,明らかに立法目的との合理的関連性を欠 籍留保の意思表示という形式的な行為の有無によって日本国籍の存否を終局的に決定してしまうことは,重国籍の防止・解消の要請の現行法制下における位置付けを考えると,明らかに立法目的との合理的関連性を欠く。 (ウ) 出生後に認知を受けた非嫡出子の取扱いとの差別的取扱いとの関係国籍法3条1項は,認知によって出生後に日本国籍を有する父との法 律上の親子関係が生じたことを要件として日本国籍の取得を認め,その結果として重国籍状態の発生を許容する。しかも,国籍取得届に20歳という年令制限が設けられているほかは,出生後認知までの期間,あるいは認知後国籍取得届を提出するまでの期間について何らの制限も存在しない。しかるに,出生によって当然に日本国籍を有する親との法律上の親子関係が発生している嫡出子について,出生後わずか3か月以内に国籍留保の意思表示をしなければ日本国籍を喪失させるというのは,制度上著しく均衡を失するものであり,立法目的との合理的関連性を欠く。 イ実効性を欠く国籍の発生の防止という立法目的との合理的関連性(ア) 出生地による差別的取扱いとの関係被告は,国外で出生した重国籍児は類型的に日本国籍が形骸化する可能性が高いと主張するが,その実質的根拠は皆無である。出生直後の子と日本国とのつながりはわずか3か月で決定し得るものではない。「日本で生まれた子は日本で暮らし,外国で生まれた子は外国で一生を送る」という被告の発想は,人の流動化が顕著な昭和59年当時以降の国際社会の現実と,かかる現実を制度に取り込んで父母両系血統主義その他の制度改正を行った昭和59年改正の趣旨を無視するものである。 (イ) 国籍留保の意思表示の有無による差別的取扱いとの関係国籍留保の意思表示は,形 んで父母両系血統主義その他の制度改正を行った昭和59年改正の趣旨を無視するものである。 (イ) 国籍留保の意思表示の有無による差別的取扱いとの関係国籍留保の意思表示は,形式的な行為にとどまり,しかも国籍留保をしなければ出生届が受理されない取扱いがされているから,父母がその子の日本国籍を保持したいという内心の意図を有していなくても,国籍留保をして出生届を出せば日本国籍が保持されてしまう反面,日本国籍を保持する意思があっても,制度を知らなかったため国籍留保をしなかったり期間を徒過した場合でも日本国籍を喪失してしまう。このように国籍留保の意思表示に父母の意思が反映されないのであるから,国籍留 保の意思表示の有無と本人の日本国籍の実効性如何とは全く無関係である。 (ウ) 出生後に認知を受けた非嫡出子の取扱いとの差別的取扱いとの関係国籍の実効性という考え方が,国籍の本質に由来するというのであれば,平成20年改正前の国籍法3条1項においてもその点は考慮されているはずであり,同規定がその適用対象者の日本国籍の実効性の有無を判断する要件を設けていないのは,同規定の対象者は類型的に日本国籍の実効性が認められるからであると解さざるを得ない。しかるに,同規定の適用対象者の中には,出生時から日本国外で生活し,日本との現実的な接点を見いだせない者もあり得るのに,出生時から日本人の嫡出子であり日本との間に強固な結合関係を有している者が,出生後わずか3か月でその国籍が実効性を欠くものと決めつけられて国籍を喪失するのは,著しい不均衡である。また,平成20年改正前の国籍法3条1項の場合には日本国外に居住したままで届出のみによって日本との実質的な結合関係を発生させることができるのに対し,国籍法12条の場合には, は,著しい不均衡である。また,平成20年改正前の国籍法3条1項の場合には日本国外に居住したままで届出のみによって日本との実質的な結合関係を発生させることができるのに対し,国籍法12条の場合には,日本との地縁的な結合関係も発生させなければその国籍の実効性を回復し得ないとするのは,やはり著しい不均衡である。したがって,この点においても合理的関連性はない。 ウ海外で出生した日本国民の身分関係の戸籍への反映という立法目的との関係日本国内で出生した重国籍者について,何らかの事情で出生届が遅延したからといって実態を戸籍に一致させるために日本国籍を喪失することはないし,そのような要請があるとも考え難いから,出生後一定期間内に出生届がされないことと国籍を喪失させるべき必要性との間に合理的関連性があるとは認め難い。 また,事実上又は法律上の理由により戸籍に記載されない身分関係は存 在するが,そのためにその身分関係が否定され,最初からなかったものとされることはない。これは戸籍が公証制度であることの当然の結論である。にもかかわらず,国外で出生した嫡出子についてのみ「戸籍に記載されない」ことを理由にその国籍を喪失させることは,理由と結果との間に合理的関連性があるとは認め難い。 2 被告の主張(1) 憲法14条1項適合性判断基準憲法10条は,日本国民たる要件は,法律でこれを定めると規定し,直接その要件を具体的に規定していない。これは,国籍は国家の構成員の資格であり,元来,何人が自国の国籍を有する国民であるかを決定することは,国家の固有の権限に属するものであり,国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについては,国籍立法の基本理念や立法主義ないし諸原則を前提としつつ,それぞれの国の歴史的沿革,伝統,社会的 ることは,国家の固有の権限に属するものであり,国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについては,国籍立法の基本理念や立法主義ないし諸原則を前提としつつ,それぞれの国の歴史的沿革,伝統,社会的・経済的状況,国際社会の状況等の要因によって,左右されるところが大きいところから,その決定を憲法の基本原則に反しない限度で,広く国民代表たる国会の定める法律に委ねる趣旨であると解される。そうすると,国籍立法が憲法14条1項に違反するとされる場合は,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合に限られるというべきである。 (2) 立法目的の合理性国籍法12条が定める国籍留保制度は,他国の国籍を有する者が,実効性を欠き形骸化した日本国籍を二重国籍として持つことを防止し解消しようというねらいから,遡及効という立法技術を用いて対象となる子の国籍取得を認めないこととしたものである。国籍留保制度の立法目的は,①重国籍の解消,②実効性を欠く(形骸化した)国籍の発生の防止,③海外で出生した日 本国民の身分関係の戸籍への反映の3つであり,これらは密接に関連するところ,本質的な目的は①と②であり,③は副次的な目的である。 各国の国籍立法において,国籍の生来的取得は,国家との間の地縁,血縁という結合関係やその他の結合関係をも考慮して定められてきたことや,人は真実かつ実効的な唯一の国籍を持つべきとする国籍の本質から導かれる国籍法の理念に照らせば,我が国との結合性が薄弱であるが故に実効性を欠く重国籍を防止しようという上記①及び②の本質的な立法目的が合理的であることは明らかである。また, きとする国籍の本質から導かれる国籍法の理念に照らせば,我が国との結合性が薄弱であるが故に実効性を欠く重国籍を防止しようという上記①及び②の本質的な立法目的が合理的であることは明らかである。また,日本国がその国民に権利を付与し,義務を課するため,あるいは,国外に存在する日本国民を保護し,実効的な外交保護権の行使等を行うためには,その国民を早期かつ確実に把握する必要性は高く,実効的な外交保護権の行使等や行政サービスを講ずる機会を確保するという意味でも,国籍選択制度を実効あらしめるという意味でも,上記③の目的は十分合理性を有している。 (3) 立法目的と取扱いの区別との合理的関連性上記の3つの立法目的は相互に密接な関係にあるため,立法目的と取扱いの区別との合理的関連性は,それらの目的を一体として捉えて検討すべきである。 ア出生地による取扱いの区別との関係国籍留保制度は,国外で出生し,地縁(生地主義国での出生)又は血縁(両親の一方が外国人)により当然に外国の国籍を取得した子について,当該外国との結合関係が強く,我が国との地縁において結合関係が薄いことから,類型的に日本国籍が実効性を有しない可能性があることに基づく制度である。他方で,日本国で出生した重国籍者は,日本国で出生した以上,出生の瞬間から日本国に生活基盤を有する者であって,日本の領域主権に属するものであるから,国外で出生し,日本国籍とともに外国籍を取得した者と比べると,一般的・類型的に日本との結びつきが緊密であるこ とは自明である。そうすると,実効性のない重国籍者を排除することが国籍留保制度の立法目的である以上,国外で出生した者と日本で出生した者との間で国籍留保制度の適用の有無を異にするのはむしろ当然の帰結であり,立法目的との間に合理的関連性を有する。 者を排除することが国籍留保制度の立法目的である以上,国外で出生した者と日本で出生した者との間で国籍留保制度の適用の有無を異にするのはむしろ当然の帰結であり,立法目的との間に合理的関連性を有する。 イ国籍留保の意思表示の有無による区別との関係国籍留保制度は,外国で出生し,外国国籍を取得した者のうち,子の利益を代表すべき父母がともに日本の国籍の取得を欲することを明示しない者,すなわち,日本国に対する出生届の提出すら届出期間内に行わない者に対して日本国籍を付与しないこととしたものであり,地縁的要素や親の意思を斟酌した制度である。国籍留保の意思表示を行うべき者は,出生届出義務者でもある父母等であって,我が国においては,子が出生した場合に,子のために出生の事実を国家に認識せしめるため所定期間内に出生の届出をしなければならないことが社会通念として確立しているところ,出生届と国籍留保の意思表示を併せて行うべきとされている以上,子の利益を代表すべき父母等が国籍留保の意思表示を行わない,すなわち出生届すら行わないという事態に着目し,そのような意思表示をしない者には国籍を付与するに足りる日本との連結性がないとすることは,十分に合理性がある。したがって,父母等による国籍留保の意思表示の有無により,国籍取得に差を設けることは,立法目的との合理的関連性が認められる。 ウ出生後に認知を受けた非嫡出子の取扱いとの区別との関係原告らが主張する出生後に認知を受けた非嫡出子の取扱いと父母等が国籍留保の意思表示をしない子の取扱いとの区別は,趣旨及び目的を異にする二つの制度によって生じる区別であって,国籍取得時期や要件において両者に相違があることは当然であり,そもそも国籍法12条が生来的な国籍の取得に関する制度,同法3条1項が伝来的な国籍の取得に関す する二つの制度によって生じる区別であって,国籍取得時期や要件において両者に相違があることは当然であり,そもそも国籍法12条が生来的な国籍の取得に関する制度,同法3条1項が伝来的な国籍の取得に関する制度であることからすれば,そこに不合理な差別や不均衡があると解すること はできない。 第2 争点(2)(国籍法12条は,憲法13条に反し無効であるか)について 1 原告らの主張(1) 日本国籍は,日本の構成員としての資格であるとともに,基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上での意味を持つ重要な法的地位でもある。憲法13条は,日本国民が個人として尊重され,憲法の下で幸福を追求する権利を保障するものであるから,憲法による基本的人権の基盤をなす日本国籍をその意に反しあるいは合理的な理由なく奪われない権利ないし利益(国籍保持権)は,同条によって保障されるものと解するのが相当である。 (2) 国籍法12条は,出生によって取得した日本国籍を有する者の国籍を失わせるものであり,その者の主権者たる地位を奪うとともに,日本国民として憲法による基本的人権の保障を享受できる法的地位を確定的に喪失させるという重大性に鑑み,このような不利益を課すことが許されるのは,やむにやまれぬ国家的・公共的利益を実現するために必要不可欠である場合に限られるものと解すべきであり,その必要性と許容性について厳格に審査されるべきである。具体的には,その立法目的がやむにやまれぬ国家的・公共的利益を実現するためという合理性を有するか,また,目的に合理性があるとしてその手段は目的達成のために必要不可欠であることあるいは他により制限的でない手段が存在しないことが考慮されるべきである。 (3) 被告が主張する実効性を欠く国籍の発生の防止,戸籍への反映という てその手段は目的達成のために必要不可欠であることあるいは他により制限的でない手段が存在しないことが考慮されるべきである。 (3) 被告が主張する実効性を欠く国籍の発生の防止,戸籍への反映という立法目的に合理性がないことは,前記第1の1(3)のとおりである。 また,重国籍の防止・解消や実効性を欠く日本国籍の発生の防止という目的の達成手段としては,国籍選択制度によって国籍を選択させる方法によっても十分であり,国籍法12条の国籍喪失制度は過度に制限的な制度であって立法目的達成手段としての合理性を有しない。また,戸籍への反映という 目的の達成手段としても,出生届及び国籍留保の意思表示がされたときに戸籍に掲載すれば戸籍の公証機能は確保されるのであるから,出生後3か月以内という短い期間に届出期間を限定する必要はないし,ましてやその期間を徒過したからといって国籍を喪失させる必要はないから,国籍喪失制度は目的達成のために過度に制限的な制度である。 したがって,国籍法12条の国籍喪失制度によって国民の国籍保持権を侵害することは憲法13条に違反するものである。 2 被告の主張(1) 国籍留保制度の適用対象者が生来的に取得したという「国籍」は,国籍留保の意思表示を所定の期間内にしなければ出生時にさかのぼって取得されなかったとされるいわば制約の付された国籍であり,このような制約の付された国籍なるものの保持権や保持の利益が,憲法13条によって保障されているとは解し難い。ましてや,そのような制約を付された国籍が留保の意思表示を所定の期間内にしなかったために出生時にさかのぼって取得されないものとされる事態を捉えて,「国籍保持権」が侵害され,憲法13条との抵触を生ずるという立論自体,国籍留保制度が採用した制度趣旨やその立法政策を正 内にしなかったために出生時にさかのぼって取得されないものとされる事態を捉えて,「国籍保持権」が侵害され,憲法13条との抵触を生ずるという立論自体,国籍留保制度が採用した制度趣旨やその立法政策を正しく理解しないものである。 (2) 国籍の得喪という観点から,その制度の内容を素直に見れば,国籍留保制度は,我が国の領土主権の及ばない日本国外で出生し,かつ,出生により外国国籍を取得する者については,血統主義だけでは我が国の国籍を当然には取得させず,その者の利益のために最善の行動をとるべき父母等の意思や地縁的要素等をも考慮して,国籍の生来的取得を決するとともに,事後的に我が国との結合要素(地縁的要素)が新たに見いだせた場合には我が国の国籍を再取得させることを認めようとする制度であることは明らかである。 (3) 原告らのように,国籍法12条の技術的な法的構成のみを根拠として,国籍留保制度を「国籍保持権」を制約又は侵害するものと構成し,「留保の 意思表示を所定の期間内にしなければ出生時にさかのぼって取得されなかったとされる国籍」の保持の問題と捉えたとしても,国籍留保の意思表示を所定の期間内にしなかったことによって生来的に日本国籍を取得できないとする制度の本質的な性格は何ら変わるものではなく,着眼点の相違に帰着するだけであって,その着眼点の相違により国籍留保制度の憲法適合性の判断方法が大きく異なるようなことになるというのはかえって不合理である。 したがって,国籍留保制度を国籍喪失の制度であるとした上で,憲法13条により保障された権利を侵害するとし,厳格な審査基準が妥当するとの原告らの主張は理由がない。 第3 争点(3)(原告Aは適法な国籍取得の届出をしたと認められるか)について 1 原告Aの主張(1) 国籍法は,国籍取得 害するとし,厳格な審査基準が妥当するとの原告らの主張は理由がない。 第3 争点(3)(原告Aは適法な国籍取得の届出をしたと認められるか)について 1 原告Aの主張(1) 国籍法は,国籍取得の届出が書面によって行われることまでは要求しておらず,国籍法施行規則1条3項が届書によるとしたのは届出意思の確認と事務処理の適正迅速のためであって,しかも届出用紙の具体的な記載内容及び体裁は法務省令にすら定められておらず,法務省の内部通達によって指定されている。このような届出制度の構造に鑑みれば,国籍取得の届出を書面によってすべきとしている点は,国籍法17条1項の制度の本質的,中核的な要素とは言い難い。したがって,国籍法17条1項の届出は書面によるという原則を前提としつつ,届書によらない口頭による届出を認めるべき必要性があり,かつ,これを認めても届書によるものとする趣旨を没却しないといえる事情が存在する場合や,届書によるものとする要請を超えて口頭による届出を認めるべき高い必要性がある場合には,国籍法施行規則1条3項の例外として口頭による届出を認めても,国籍法17条1項の制度自体に反するものではない。 (2) 原告Aは,平成22年6月23日の時点で,国籍法17条1項の「日本に住所を有する」という要件を満たしていたものであり,同日,千葉地方法 務局に国籍取得の届出に必要な添付書類を全て持参して提示し,同項の国籍取得の届出をしたい旨の意思を表示した。届書の作成,提出がされなかったのは,担当職員が原告Aの要求にもかかわらず同法務局備付けの届出用紙を交付しなかったためにすぎない。原告Aの届出意思の存在は明確であり,届出用紙の交付を受けなければ,届書を作成し提出することは不可能であるから,口頭による届出を認めるべき必要性があり,口頭による届 を交付しなかったためにすぎない。原告Aの届出意思の存在は明確であり,届出用紙の交付を受けなければ,届書を作成し提出することは不可能であるから,口頭による届出を認めるべき必要性があり,口頭による届出を認めるべきである。仮に届書が存在しないことによって手続の適正迅速に支障を生じるおそれがあったとしても,届出人が必要な添付書類も準備し,届出用紙の交付さえあればこれに記入作成して届書を完成させ提出することができる状態にあったにもかかわらず,担当者が届出用紙を交付しなかったために届書を提出することができなかったのであるから,届書の提出のないことについて法務局の側に帰責事由があり,届書の提出がないことを理由として,届出があったと取り扱うことができないと主張することは許されないというべきである。 2 被告の主張(1) 国籍法17条1項の国籍取得の届出は,その届出が適法なものである限り,届出という法務大臣への一方的な意思表示のみによって確定的に日本国籍を取得するという効果が付されることに特徴がある。そして,国籍とは,主権国家の構成員たる資格であって,国内法上,各種の権利享有の基準となるのみならず,義務の負担の基準ともなるなど,その国籍取得による効果の重要性に鑑み,国籍法19条は,「この法律に定めるもののほか,国籍の取得及び離脱に関する手続その他この法律の施行に関し必要な事項は,法務省令で定める。」と規定し,この委任を受けた国籍法施行規則1条で,その手続要件を法定した。同条3項後段は,届出は書面によってしなければならないととの書面主義を定めており,これは,届出に係る国籍取得要件の適正迅速な処理及び届出意思の確認を図るため,口頭による届出を許さず,書面に よる要式行為としたものである。そして,届出意思の確認を図る観点から,届書には, これは,届出に係る国籍取得要件の適正迅速な処理及び届出意思の確認を図るため,口頭による届出を許さず,書面に よる要式行為としたものである。そして,届出意思の確認を図る観点から,届書には,届出人が署名することが義務付けられ(同施行規則1条4項柱書き),さらに,実務では届書の署名は担当者の面前での自筆によることを求める扱いとなっている。このように国籍の届出は,国籍法上の要請として書面による要式行為とされており,口頭による届出は無効である。 (2) 原告Aは,平成22年6月23日,千葉地方法務局で国籍法17条1項による国籍取得のための手続の相談をしたが,担当職員が「日本に住所を有する」という国籍取得の要件を満たすことは困難であろうとの認識を述べたことから,その説明を了解して届書も添付書類も提出することなく帰っており,国籍取得の届出はされていない。 原告Aが主張する口頭による国籍取得届を認めるべき必要性についてみても,原告Aは,その相談時に法務局備付けの届出用紙の交付を担当職員に求めたという事実も,担当職員がその交付の求めを拒否した事実もなく,法務局の担当職員が届出用紙の交付を拒否したために届書の作成,提出ができなかったなどという原告Aの主張はその前提を欠いている上,届書によるものとする要請を超えて口頭による届出を認めるべき高い必要性を裏付けるような具体的な事情はない。

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