平成5(ワ)3838 建物収去土地明渡請求

裁判年月日・裁判所
平成14年1月22日 名古屋地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-7789.txt

判決文本文12,588 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載(1)の建物を収去して同目録記載(2)の土地を明け渡せ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,原告が被告に対し使用貸借契約に基づいて貸し渡した土地について,主位的には合意した期限の到来,予備的には目的に従った使用の終了による契約終了に基づき,地上に存する建物を収去して土地の明渡しを求めた事案である。 1 争いのない事実(1) 当事者原告は,鉄鋼の製造・販売等を目的とする株式会社であり,被告は,各種工業用配管工事等を目的とする株式会社である。 (2) 原告は,被告との間で,昭和58年4月1日,原告の名古屋製鐵所(以下「名古屋製鐵所」という)構内に存する別紙物件目録記載(2)の土地(以下「本件土地」という)について,被告が同製鐵所より受注する機械一般修理作業に使用する目的で,期間を1年間とし,無償で貸す旨合意し,これに基づいて,同日,本件土地を引き渡した(以下「本件使用貸借」という)。 (3) 本件使用貸借の合意に際し,原告と被告は,特段の支障がない限り継続使用を認める旨の合意をした。 (4) 原告と被告は,上記の機械一般の修理作業について,原告の定める工事請負基本約款に従う旨合意した。上記約款には,被告が手形交換所から取引停止処分を受けた場合には,原告は何らの催告なくして原被告間の契約の全部又は一部を解除することができる旨の定めがある。 (5) 平成元年4月5日,被告は,銀行取引停止処分を受けた。 (6) 同日,原告は,被告に対し,原被告間の全契約を解除する旨の意思表示をした。 (7) 同日,原告は,被告に対し,本件土地の明渡しを求めた。 (8) 別紙物件目録記載(1)の建物(以下「本件建物」という)は,被告が原告から本件 ,原被告間の全契約を解除する旨の意思表示をした。 (7) 同日,原告は,被告に対し,本件土地の明渡しを求めた。 (8) 別紙物件目録記載(1)の建物(以下「本件建物」という)は,被告が原告から本件土地を借り受けてから,その地上に建設したもので,現在も存在する。 2 争点(1) 本件使用貸借契約の終了事由の有無(2) 被告主張の以下の抗弁の成否ア独占禁止法の法理に基づく占有権原イ契約更新の黙示の合意ウ権利濫用エ商事留置権 3 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)について(原告の主張)本件使用貸借の合意に伴い,原告から本件土地返還の請求があった場合,被告は遅滞なく本件土地を返還する旨の合意をした。 仮にそうでないとしても,本件使用貸借はその目的に従った使用が終了した。 (被告の主張)争う。 (2) 争点(2)について(被告の主張)ア前提となる事実関係(ア) 工場移転の強制と売上保証昭和57年,原告は,名古屋製鐵所敷地内に存した被告の工場敷地跡に中径管工場を建設するため,被告が昭和46年に多額の経済的負担を甘受して設立した工場設備を移転させる必要に迫られた。そこで,被告は,原告の生産計画と修理計画に従い,南部修理センターに工場設備を移転させ,建設したのが本件建物である。 本件建物の建設は,原告の子会社である株式会社A等原告の指名業者に行わせなくてはならないなどの条件が付されたため,被告は,建設費として,自主的に業者を選定し工場設備を建設するより5000万円も高い約1億2000万円を負担することになった。 上記建設資金を補うためには,被告として年間最低6億円の売上げが必要であったが,原告は,被告の移転を年間売上高5億5000万円ベースで行うこととし,不足分は外注で補うように指示した。また,本件建物への担 建設資金を補うためには,被告として年間最低6億円の売上げが必要であったが,原告は,被告の移転を年間売上高5億5000万円ベースで行うこととし,不足分は外注で補うように指示した。また,本件建物への担保設定も認めなかった。 一方,原告から被告への発注高は年間5億5000万円ベースを年々下回った。 (イ) 不当な工事費の支払原告と被告の請負工事の形態のうち基本契約工事(通称シート工事)は,原告から出される工事着工指示書に基づき代金が決定される。 工事着工指示書の代金は,見積工数に契約単価を乗じて算定され,見積工数は,作業人員数に修理時間を乗じて算定されている。 そもそも,このような契約方法は原告独自のものであるが,このうち修理時間は,本来であれば就労時間をもって算定の基礎とすべきところ,原告は段取り時間と正味作業時間のみを算定の基礎としている。また,契約単価は,修理作業員の職種・能力にかかわらず,一律の標準単価として1日の労務費を一工数単価として1万5520円とするものであるが,これは,世間一般の労務費2万8000円から3万2000円に比べてはるかに低廉である。原告が,単価算定に際し,被告の案を取り入れたことはない。本件訴訟において原告が単価算定の根拠を開示しないのが,その証左である。 ここで原告と被告の修理工事の継続的請負契約は,1日の基本労働時間7.25時間を基準として算定すべきものである。ところが,実際に原告が被告に支払った工事費は,上記契約時間相当分以下であり,少なくとも1人工の1日の基本労働時間(7.25時間,契約時間)に基づき算定した金額と実際に原告が査定した時間(査定時間)に基づいて支払った金額の差額を,原告は被告に支払う必要がある。 その上,このような原告の査定時間は,被告の実際の労働時間を下回るものであり,原告 定した金額と実際に原告が査定した時間(査定時間)に基づいて支払った金額の差額を,原告は被告に支払う必要がある。 その上,このような原告の査定時間は,被告の実際の労働時間を下回るものであり,原告はこの差額も支払う必要がある。 加えて,修理工事費として支払わなければならない修理工事間接部門業務費(役職者,事務管理費,技術管理費,監督費)も,この一工数単価に含まれるとして,原告は支払を一切行っておらず,さらに,修理工事費用消耗品7品目(酸素ガス,アセチレンガス等)も含まれているとする。 このように不当に低廉な修理工事費によって,被告の経営は圧迫された。 (ウ) 出向従業員の労務費の未払原告は,従業員を被告に強制的に出向させた上,その労務費約5000万円の支払をしていない。 イ上記の各事情を前提にすれば,以下の抗弁が成立する。 (ア) 独占禁止法の法理に基づく占有権原a 以下に述べるとおり,原告と被告の取引関係においては,独占禁止法上の優越的地位の濫用と評価すべき違法な取扱いがなされていた。公正競争を前提とする同法の法理によれば,当該違法状態を解消するまでの間,差別的取扱いを受けた下請業者に自力救済を認めるべきであって,これによって被告には本件土地の占有権原が生じる。 b 優越的地位の濫用に当たる取引の基礎付け事実(優越性)被告は,設立自体が,原告の被告代表者への勧奨の下になされており,当初から,名古屋製鐵所の修理・設備工事のみを主たる業務目的として設立された。 被告の仕事量は,ほぼ100パーセントが名古屋製鐵所からの受注である。 被告の業務実態も,一般管理業務,経理,資財工具管理,安全衛生管理等のどれをとっても,すべて名古屋製鐵所の定めた準則に従っていた。 (不当性)上記ア(ア)(イ)(ウ)のとおり,原告は,契約単価の算 告の業務実態も,一般管理業務,経理,資財工具管理,安全衛生管理等のどれをとっても,すべて名古屋製鐵所の定めた準則に従っていた。 (不当性)上記ア(ア)(イ)(ウ)のとおり,原告は,契約単価の算定根拠を全く開示しないなど,商慣習上,不当といえる形態で被告との間の取引を行っていた。 (イ) 契約更新の黙示の合意上記ア(ア)の経緯に基づけば,原告と被告の間には,本件建物への移転がなされた昭和57年7月には,被告が本件建物等工場設備の設備投資に伴う負債を外注工事によって全額弁済するまで,被告が本件土地を利用することができるとの合意が成立した。 (ウ) 権利濫用上記ア(ア)(イ)(ウ)の事実に基づけば,原告が独占禁止法上,優越的地位の濫用と評価されるような取引形態で被告を圧迫しておきながら,更に本件土地の明渡しを求めることは,権利の濫用である。 また,本件工事請負基本約款の解除事由である被告の銀行取引停止処分の原因は,上記ア(ア)(イ)(ウ)のとおり,原告が生じさせたというべきものであるから,これをもって契約を解除することは,解除権の濫用に当たる。 被告が設備投資をなした1億2000万円は,原告のために被告が支払った実費であり,商法第512条の報酬請求権の内容に含まれるが,未払である。また,原告が出向受入れを強要した従業員の立替給与約5000万円の未払及び契約時間7.25時間以下の不当な工事費の支払と併せ,これらを未払のまま原告が明渡しを請求するのは,権利の濫用である。 (エ) 商事留置権本件土地は,名古屋製鐵所の修理工事を請け負うため,被告に提供され,被告が占有していたものである。 被告は,原告に対し,上記ア(イ)(ウ)から明らかなとおり,原被告間の取引から生じた債権を有している。 よって,被告は上記金員の支払を受けるまで, 被告に提供され,被告が占有していたものである。 被告は,原告に対し,上記ア(イ)(ウ)から明らかなとおり,原被告間の取引から生じた債権を有している。 よって,被告は上記金員の支払を受けるまで,本件土地を留置する。 (原告の主張)ア(ア) 原告の主張(ア)(工場移転の強制と売上保証)について被告は,あたかも原告の一方的な指示により移転計画が進められたかのように主張するが,例えば構外移転という他の選択肢もあったのであり,本件土地への移転はあくまで被告が選択したものである。 原告が,原告の関連会社への工事の発注を指示したこともない。 また,原告では,被告に限らず,原告構内の関連会社施設への担保設定を認めていない。 (イ) 同(イ)(不当な工事費の支払)について被告の主張はすべて否認ないし争う。 原告の修理工事の多くは,同一地区内の小規模・短期的な定例反復性の強い単体作業(例えば配管補修及び小型バルブ点検等)であり,仮に変更があっても類似作業の域にとどまるから,作業時間・経費等の変更は生じてもわずかのものであり,事前にその金額を算定することができる。そこで,この種の工事の請負金額の算定に際しては,「工数単価契約工事」(通称シート工事)という算定方法を用い,事前にその代金額(出来高)を確定している。ここで,原告のシート工事と称する代金額の算定方法は,主体作業時間(正味作業時間,見積工数ともいう)に1.28(作業余裕率として0. 28を加算したもの)と1時間単価を乗じて,これに手当を加えて算出されている。 ここで1日の労働の実働時間を7.25時間として,一工数単価(協定単価)を7.25時間で除したものが,1時間単価である。そして一工数単価(協定単価)とは1作業員の1日の労働に対する対価(労務費)である。 一工数単価には全労務費項目を 時間として,一工数単価(協定単価)を7.25時間で除したものが,1時間単価である。そして一工数単価(協定単価)とは1作業員の1日の労働に対する対価(労務費)である。 一工数単価には全労務費項目を含み,鳶工・仕上工等,工種ごとに一律であるが,機械・電気等職種ごとには各工種の占める割合が異なるので一律ではなく,工事の難易度・技能程度等は工事ごとに見積もって,その決定に際しては業界を始めとする労働事情の動向,主要協力会社の賃金の改定動向等諸要因を勘案し,原告において作成した案に基づき,協力会社との交渉の上決定されるものであり,原告の一方的な決定ではない。また,見積工数についても,原告の整備室からの事前の提示・打診に基づき協力会社の検討・了解を経て決定されるもので,一方的な指定ではない。工事着工指示書の記載は,すべて担当者に打診・承諾の手続を経た上で記入されている。 正味作業時間の他に0.28の作業余裕率を加算するのは,作業準備・後始末の時間を考慮しているからである。また,仮に作業変更や,着工時間を指示した工事で製造ラインの停止等により作業員の手待ちが生じるなど損失が生じた場合は,その分の費用は別に支払っている。 以上から明らかなように,7.25時間(被告のいうところの契約時間)は,1時間単価の算定基準とする数字であって,実際の契約時間(代金算定の基準となる実質労働時間)ではない。よって,これを前提に被告が支払われるべき代金額を主張するのは失当である。 また,代金額算定の根拠となる主体作業時間(被告のいうところの査定時間)は,上記のとおり,原被告間の協議によって決定されているのであり,被告が,実際の作業に際しこれを上回る時間を要したとしても,それは被告の能力の問題であって,原則として原告が追加して代金を支払う必要はないし,上記のとお 被告間の協議によって決定されているのであり,被告が,実際の作業に際しこれを上回る時間を要したとしても,それは被告の能力の問題であって,原則として原告が追加して代金を支払う必要はないし,上記のとおり,不足分を支払っている場合もある。 (ウ) 同(ウ)(出向従業員の労務費の未払)は否認する。 イ被告主張の抗弁は,すべて否認ないし争う。 上記のとおり,被告主張の前提となる事実は存在しないし,仮に存在したとしても法的評価を争う。 また,商人間の取引で不動産の占有が一方当事者に移された事実のみで当該不動産を取引の担保にする意思があったとみるのは困難であり,占有の移転のみを要件とする商人間の取引の留置権を不動産について認めるのは,当事者の意思に合致しないし,不動産取引の安全も損ねることから,不動産は商人間の留置権の対象とならないと解すべきである。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)について(1) 原告の本訴請求は,要するに使用貸借契約の終了に基づく本件土地の明渡しを求めるものであり,契約終了事由として合意した返還時期の到来(民法597条1項)と,契約目的に従った使用収益の終了(同条2項本文)とを主張しているものと解される。 (2) ところで,上記争いのない事実(4)(5)(6)によれば,平成元年4月5日に被告が銀行取引停止処分を受けたため,原告は被告との間の全契約を解除したことによって,本件使用貸借契約の目的に従った使用は終了したものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,本件使用貸借契約の終了事由が発生したものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 2 争点(2)について(2) 前提となる事実関係についてア工場移転の強制と売上保証について(ア) 証拠(甲9~12,15,16,乙2の1~3,乙14の1,2, 認定を覆すに足りる証拠はない。 2 争点(2)について(2) 前提となる事実関係についてア工場移転の強制と売上保証について(ア) 証拠(甲9~12,15,16,乙2の1~3,乙14の1,2,乙16)及び弁論の全趣旨に上記争いのない事実を総合すれば,次の各事実が認められる。 a 被告は,昭和43年6月設立の会社で,同46年3月から同57年11月ころまで,原告から敷地を無償で借り受けて,名古屋製鐵所敷地内の第二分塊工場の東に,自社の社屋,倉庫,クレーン等の設備を所有し,同製鐵所の発注する機械設備の修理等の業務を行っていた。 b 原告は,昭和57年2月,名古屋製鐵所に中径管工場を建設するため,建設予定地内に工場等を有する被告を含む外注業者らに対し,同製鐵所構内南部地区へ移動するように求め,外注業者らもこれに従って移転することとなった。これに伴い,被告は,事務所が移転する共同棟の建築費約5500万円を含む合計1億2600万円程度の費用を負担して,同年中に移転を行ったが,施設の撤去費約900万円を除き,移転料等は原告から支給されなかった。共同棟建築費の被告負担分5500万円については,共同棟への抵当権設定が認められなかったため,家賃名目で月額73万2000円を分割して支払うこととされた。 c  被告の売上高は,昭和56年は5億6403万円,同57年は5億5214万円であったが,同58年は5億0820万円,同59年は5億1068万円,同60年は4億7207万円,同61年は4億4834万円,同62年は3億8596万円,同63年は3億0321万円となった。被告は,原告に対し,昭和56,7年ころや,同63年3月ころから修理費の繰上支払を要求していたが,併せて査定単価を上げることも要求し,同年9月には増発注の要求もし,それに応じて,同年中には実際 た。被告は,原告に対し,昭和56,7年ころや,同63年3月ころから修理費の繰上支払を要求していたが,併せて査定単価を上げることも要求し,同年9月には増発注の要求もし,それに応じて,同年中には実際に繰上支払も実施された。昭和63年ころの被告の作業員の動員状況は60人程度であったが,同年12月には30人程度になり,翌年2,3月には20名弱となっていた。そのため,工事の発注が増加されても,さばききれない状況となっていた。 (イ) 上記認定の事実によれば,被告が本件土地上に工場を移転するに際しては,原告との合意の下に行ったものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (ウ) ところで,この点について,被告代表者は,昭和57年の移転の際に,多額の出費を伴う共同棟への移転をにわかに受け入れかねていたところ,名古屋製鐵所外注管理部業務課予算担当掛長であったBから,当時の被告常務取締役であったCに対し,被告の経理状況等も精査した上で,同年7月中旬過ぎに,昭和57年度の発注計画額を記載した書面(乙1。乙14の1も同じ)を前提に,原告が被告に対し前年度(昭和56年度)実績に基づき年間5億5150万円の売上げを保証したので,被告は共同棟への移転を速やかに実施することを承諾した,被告代表者は,Cから上記書面(乙1)を受け取った翌日,同製鐵所の外注管理部管理課のD課長に真偽を確認しに行き,書面記載どおりの最低発注を行う旨の確約を得た,平成元年2月に被告の経営が悪化した際にも,同製鐵所外注管理部長のEに上記約束を前提に援助を求めたところ断られた,などと供述する(甲9,乙14の2,乙15~17の記載を含む。以下同じ)。 また,Cは,上記書面(乙1)の欄外の記載は,会計士に被告が計算させた昭和57年当時の被告会社の損益分岐点を記載した書面及びCが提出し (甲9,乙14の2,乙15~17の記載を含む。以下同じ)。 また,Cは,上記書面(乙1)の欄外の記載は,会計士に被告が計算させた昭和57年当時の被告会社の損益分岐点を記載した書面及びCが提出した「設備移転に伴う損益計算書の内訳説明書」(乙4)の内容を踏まえて,原告が被告への売上枠として提示した内容であり,上部欄外の「551,500千円」「他36,000千円」との記載は,Bが5億5100万円は保証するが,3600万円は他からの受注で補って欲しいという趣旨で記載したものである,などと供述する(甲15,16)。 しかしながら,乙1と乙4を比較すると,乙1で「推定」を「計画」と訂正した部分が,乙4では「計画」と記載されていること,乙4の「備考」欄や,「S57年度計画案」の「月間ベース」欄が,乙1より詳細に記載されていることからすると,乙1を踏まえて乙4が作成されたものと認められ,乙4が事前に作成され,これを踏まえて売上保証の合意があったとする上記各供述はにわかに措信し難い。 また,上記のような売上保証の合意は,原被告の双方にとって,極めて影響の大きい重要な内容を有するものであるにもかかわらず,書面化されていないこと(乙14の2),上記のとおり,昭和57年以降,被告の売上高は年間5億5150万円を下回る一方であったにもかかわらず,被告代表者は,平成元年2月に至るまでこのような合意の存在を前提にした要求をした事実は認められないこと,そもそも,原告が自社にとって危険の大きいこのような多額の売上保証を行うこと自体,そうするだけの合理的な理由が見出し難いこと,以上のような点にかんがみると,被告代表者及びCの上記各供述は措信し難い。 むしろ,証拠(甲13,14)によれば,乙1は,昭和57年6月23日に被告から出された請負契約出来高の繰上支払要請 いこと,以上のような点にかんがみると,被告代表者及びCの上記各供述は措信し難い。 むしろ,証拠(甲13,14)によれば,乙1は,昭和57年6月23日に被告から出された請負契約出来高の繰上支払要請の妥当性を検討すべく,被告の昭和57年度の損益の見込みを検討するために,同月下旬に作成されたもので,作成の前提として同年上半期の被告の経理状況を被告の従業員から聞き取った上で,Bの依頼で,名古屋製鐵所経理部財務課長のFが書き込み(欄外の「設備(移転)による受注保証の打合せ」との部分を除く)を行ったものであり,その際に見込みの計画売上高として欄外に計算されたのが5億8750万円であったこと,これは,内部資料であって,作成段階で被告側の人間が立ち会ったことはなく,作成された書類は,同年7月上旬までにCに手渡されたこと,これを踏まえて,この内容を更に詳細に記載した書面(乙4)が被告の側からも同月14日付けで提出されたこと,以上のような事実が認められる。 (エ) 以上のとおり,被告の昭和57年の工場等の移転の際に,原告が被告の売上保証をしたとは認められない。 したがって,被告の昭和57年の工場等の移転及びそれに伴う約1億2000万円の支出については,被告がその経営判断に基づいて行ったものであって,被告の売上げの減少について,原告の責任に帰するものであるとは認められない。 イ不当な工事費の支払について(ア) 証拠(甲5,9,10,11,12,17の1~4,甲20,甲21の2,22の2,甲23の2,乙6,9,10の1~4,乙11,12の1~4,乙17,18,証人G,証人H)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 a 原被告間の請負契約は工事請負基本約款(甲5)に基づいて行われることとされており,その第18条には,個別の請負契約の内容につい 証人G,証人H)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 a 原被告間の請負契約は工事請負基本約款(甲5)に基づいて行われることとされており,その第18条には,個別の請負契約の内容については,基本約款,個別契約及び原告が行う指示に従う旨の定めがある。被告が行う請負契約は,大別すると修理工事と設備工事とに分かれるが,修理工事に関する請負代金(出来高)の算定に関しては,以下に述べるシート工事という方法が主として採用されており,双方は,出来高の算定に際しこの方法に従う旨を合意していた。 b 原被告間の請負工事代金は,固定額と出来高額からなっており,固定額は,設備償却費,管理費,租税公課等に充てるものと,安全対策費に充てるものとが含まれていた。出来高額については,被告が従事する修理工事は定型的で反復性の強い作業がほとんどであったため,これを「工数単価契約工事」(通称シート工事)と称して,事前に出来高を算定することとされており,その算定方法は,以下のとおりであった。 (a) 1作業員の1日当たりの労働に対する単価を契約単価(工数単価,協定単価ともいう)とし,これは,各製鐵所の主要な協力会社の賃金・賞与の改定動向,周辺労働事情その他を勘案し,原告側で算定した契約単価案を協力会社に提示し,協力会社の検討を踏まえて交渉,合意の上確定することとされていた。したがって,被告の承諾が得られなければ確定せず,被告の判断で断ることは可能であった。なお,協力会社が更に下請を用いることは想定されていなかった。 (b) 一工数単価には賃金,賞与,退職引当金等の労務賃金に加え,法定福利費,労務管理費,消耗材料費,一般管理費等も含むこととされており,工種ごとに一律となっている。また,一工数単価は,原告の協力会社間で比較すると,若干の違いはあるものの,ほぼ横並 賃金に加え,法定福利費,労務管理費,消耗材料費,一般管理費等も含むこととされており,工種ごとに一律となっている。また,一工数単価は,原告の協力会社間で比較すると,若干の違いはあるものの,ほぼ横並びの金額であった。 (c) 原告においては,一工数単価から1時間当たりの単価を算定するに当たり,1日の実働時間を7.25時間(7時間15分)として算定していた。 (d) 当該工事の作業時間(主体作業時間,正味作業時間,見積工数ともいう)については,原告の整備室から事前に提示・打診し,協力会社の検討・了解を経て決定されていた。 (e) 原告が,工事現場を踏まえて見積工数を工事着工指示書により被告に伝達すると,被告の従業員は,原告から現場説明を受けた段階で必要な人工数を判断していた。なお,作業の準備・後始末,移動時間等を考慮し,主体作業時間に作業余裕率として0.28(突発的な作業に関しては0.71)を乗じたものを加えて出来高を算定することとされていた。 (f) 以上を要するに,シート工事の出来高は,一工数単価を7.25で除して1時間当たり工数単価を算出し,これに主体作業時間と1.28(通常の場合)を乗じて得た値に,諸手当(緊急呼出手当,宿直手当等)を加算して算定されていた。 (g) シート工事を行う際の部品や材料はおおむね原告から現物支給され,工事監督費や定期的に使用する品目の資材費,交通運搬費は一工数単価に含まれていた。一方,定常的に使用する品目以外の資材を必要とした場合の資材等材料費あるいは作業者の交通運搬費の他に施工者が使用した工事用車両費は,修理工事内訳書による被告からの申請及び原告の査定を経て,別途支給されていた。また,追加工事等が生じれば,被告から追加の申請をし,原告の査定を経て,追加工事に要した人工分の費用を支払っていた。 (イ 理工事内訳書による被告からの申請及び原告の査定を経て,別途支給されていた。また,追加工事等が生じれば,被告から追加の申請をし,原告の査定を経て,追加工事に要した人工分の費用を支払っていた。 (イ) 上記認定の事実によれば,原被告間の請負代金額の算定方法は,両者の合意に基づいて行われたもので,その内容にも特段不合理な点があるとは認められず,被告だけが不利益に取り扱われていたものとも認められない。これに反する被告代表者の供述は,客観的証拠の裏付けを欠き,直ちに措信し難い。 なお,上記認定のとおり,原告はあくまで1時間あたり工数単価を算出するための前提として1日の実働時間を7.25時間として計算しているにすぎないから,これが被告の実際の労働時間を下回っていることを前提とする被告の主張は,失当である。 (ウ) 以上によれば,原被告間のシート工事に関する出来高の算定方法は,算定根拠が不明確であるとも,単価や労働時間の計算が不当に行われているとも認められない。 ウ原告従業員の出向と労務費の未払について(ア) 証拠(甲18,甲19の1,2,甲20,乙8,証人G)によれば,原告から被告への出向者の給与及び賞与の支給については,原被告間において昭和61年7月1日付けの「出向者の取扱いに関する覚書」が交わされているところ,それによれば,出向者には原告の規定による支給額を支給するが,被告は,そのうち,より少ない被告の規定による支給額の分だけを負担し,差額は原告が負担することと合意され,それに基づいて原告は差額分を負担し,その精算は完了していることが認められ,この認定に反する証人H及び被告代表者の各供述は措信し難い。 (イ) 以上によれば,被告が負担した出向社員の給与は,上記合意に基づいて被告が負担すべきものであり,それ以外に未精算の原告負担分があると この認定に反する証人H及び被告代表者の各供述は措信し難い。 (イ) 以上によれば,被告が負担した出向社員の給与は,上記合意に基づいて被告が負担すべきものであり,それ以外に未精算の原告負担分があると認めるに足りる証拠はない。 (2) 以上の認定に基づいて,被告主張の各抗弁について判断する。 ア独占禁止法の法理に基づく占有権原について被告は,原被告間の取引関係においては,独占禁止法上の優越的地位の濫用と評価すべき違法な取扱いがなされていたので,当該違法状態を解消するまでの間,差別的取扱いを受けた下請業者に自力救済を認めるべきである旨主張する。 しかしながら,被告主張の前提となる,原告の優越的地位の濫用の事実を認めるに足りる証拠がない上に,そもそも独占禁止法の規定に基づいて被告主張のような自力救済が認められるとする実定法上の根拠はないというべく,被告の主張は独自の見解というほかないから,上記主張は失当である。 イ契約更新の黙示の合意について被告主張のような,本件建物への移転がなされた昭和57年7月には,被告が本件建物等工場設備の設備投資に伴う負債を外注工事によって全額弁済するまで,被告が本件土地を利用することができるとの合意が成立したと認めるに足りる証拠はない。 ウ権利の濫用及び商事留置権について被告主張の権利濫用及び商事留置権の主張については,その前提となる事実関係(原告の優越的地位の濫用を含む)が認められないので,いずれも失当である。 3 結論以上の次第であるから,原告と被告との本件土地についての使用貸借契約は終了したものと認められ,一方被告は本件土地を占有する権原を有しているとは認められないので,本件建物の収去と本件土地の明渡しを求める原告の請求は全部理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第10部 方被告は本件土地を占有する権原を有しているとは認められないので,本件建物の収去と本件土地の明渡しを求める原告の請求は全部理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第10部裁判長裁判官西尾進裁判官鵜飼祐充裁判官横井健太郎は,差し支えにつき署名押印することができない。 裁判長裁判官西尾進(別紙物件目録及び同図面省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る