平成17(ワ)17022 退職金等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成18年5月31日 東京地方裁判所
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判決文本文15,459 文字)

- 1 -主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告に対し,金600万円及びこれに対する平成17年5月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,平成17年6月20日から原告死亡の月まで,1か月金26万1620円の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,金5734万3894円及びこれに対する平成17年5月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告の従業員であった原告が,被告に対し,同社を退職したことによる終身年金等の支払を求めるとともに,被告の無効かつ違法な懲戒解雇により退職を余儀なくされたとして,不法行為に基づき,慰謝料,逸失利益,弁護士費用の支払請求をしてい。 ,,,,るものであるこれに対し被告は原告に対する懲戒解雇は有効であり原告に対し何らの支払義務も負っていないとして争っている事案である。 争いのない事実等(証拠等で認定した事実は当該証拠等を文末に掲記し,当事者間に争いのない事実は証拠等を掲記しない)(1)当事者等ア被告被告は,ビル関連設備・システムのメンテナンス及び管理を業とする株式会社である。 イ原告(ア)原告は昭和○年○月○日生まれであり,同52年3月○○大学大学院工学研究科博士課程前期を卒業し,同年4月1日被告に入社した。 (イ)原告は,昭和52年11月1日,被告東京支店α営業所に仮配属となり,同53年4月1日,同所に本配属となった(弁論の全趣旨)。 (ウ)原告は,昭和55年11月1日,被告本社総合生産技術センター技術部に異動となり,同56年4月1日からは,同技術部昇降機技術グループに異動となった。原告は,この間,被 なった(弁論の全趣旨)。 (ウ)原告は,昭和55年11月1日,被告本社総合生産技術センター技術部に異動となり,同56年4月1日からは,同技術部昇降機技術グループに異動となった。原告は,この間,被告の昇降機保守において技術開発,品質管理等に活用するため,パソコンのハード,ソフトの調査等の業務に従事した。原告は,昭和58年2月1日,被告昇降機本部長らから,原告の提供した昇降機新設情報の物件が受注成約に至ったとして感謝状を授与されている(甲7原告 。 ,【頁,弁論の全趣旨)】(エ)訴外β株式会社は,昭和60年8月ころ,γ社から電話交換機のOEM供給を受けることになったが,同社は同社製の電話交換機のメンテナンスを行うためには同社の社内資格を取得することを条件としていた。そこで,被告は,原告を含む約15名をγ社の社内資格取得のために同社に派遣し,その結果,原告は,同社の社内資格を取得した。 - 2 -,,,(オ)原告は昭和60年10月1日被告本社技術部開発グループに異動となり同63年10月1日には課長代理に昇格した。原告は,平成2年4月1日,被告本社ビルシステム本部IBグループに異動になり,同グループは同年10月に本社ビルシステムIB部に昇格した。(弁論の全趣旨)(カ)原告は,平成4年4月1日,被告本社情報システム部の部長代理に昇格し,同8年12月17日には,被告本社情報システム事業部長から,新情報センターシステム開発に際し貢献したとして感謝状を授与されている。原告は,平成9年4月1日,被告九州支社システム営業部営業技術課長に異動となり,同14年4月1日には被告九州支社品質保証部九州情報センター(以下「被告九州情報センター」という)参事になった。なお,原告は,平成9年4月1日,被告から勤続満20年及び会社の発展に尽 に異動となり,同14年4月1日には被告九州支社品質保証部九州情報センター(以下「被告九州情報センター」という)参事になった。なお,原告は,平成9年4月1日,被告から勤続満20年及び会社の発展に尽くしたとして表彰状を授与されている。なお,原告は,後記のとおり刑事事件を引き起こすまでは,被告から非違行為等で処分されたことは一度もない。(甲5,8,78,乙28,証人P1【7頁,弁論の全趣旨)】(2)刑事事件の発生とその経過ア平成16年8月22日,被告が借り上げて原告に貸与していた社宅(以下「本件社宅」という)のベランダで,収納箱に詰められた男性の遺体が発見され,原告が死体遺棄罪の容疑で逮捕された。遺体は原告の父親であった。(以下「本件刑事事件」という)イ本件刑事事件は,逮捕当日からテレビ各社のニュースで,また,翌日からは新聞各紙で報道された。新聞報道によれば,警察は原告の父親の所在捜査を行っており,その捜査の過程で原告の母親が原告から肋骨骨折の暴行を受けていたとの情報を得,傷害容疑で原告宅を捜索したところ,原告の父親の遺体が発見されたとのことであった。また,当該遺体は死後少なくとも3か月以上経過しており,損傷が激しいとのことであった。 ウ原告は,逮捕当初から犯行を自白しており,約18日間勾留された後,平成16年9月10日,起訴された。原告は,第1回公判期日で公訴事実を認め,平成17年1月19日,福岡地方裁判所において,本件刑事事件について懲役2年執行猶予3年の有罪判決を受け,前記判決は確定した。(甲15,原告【13頁】)(3)原告に対する懲戒解雇,「,ア被告の就業規則86条16号によれば従業員に刑罰にふれる行為があって社員としての体面を著しく汚したとき」に該当する事由があるときには,被告は当該従業員を懲戒解雇に処 に対する懲戒解雇,「,ア被告の就業規則86条16号によれば従業員に刑罰にふれる行為があって社員としての体面を著しく汚したとき」に該当する事由があるときには,被告は当該従業員を懲戒解雇に処する旨規定している。また,被告が原告を懲戒解雇した当時の被告の年金規則11条によれば「懲戒解雇の場合は,第2条の規定(年,金受領資格者の要件について規定)にかかわらず年金受給資格はなくなるものとする」旨規定している(乙3)。 イ被告は,本件刑事事件を引き起こした原告の行為は,被告の就業規則86条16号に規定する「刑罰にふれる行為があって,社員としての体面を著しく汚したときに該当するとして平成16年9月13日付けで原告を懲戒解雇した(以」,,「」。 ,,,,下本件懲戒解雇という)また被告は本件懲戒解雇に伴い原告に対し- 3 -前記年金規則11条を適用し,年金全額を支給しないことにした。(甲9ないし11,19,20,78,証人P2【11頁】)(4)原告の退職届と年金規則の規定内容ア原告は,平成17年5月25日,被告に対し,同社を退職する旨の意思表示をした。 イ被告の年金規則(平成17年5月25日当時のもの)には,次の規定が存在する(乙4)。 第2条(資格)年金受領資格は,勤続満20年以上に達した場合に生ずる(資格が生じたものを年金資格者という)。 第3条(年金)年金資格者が退職した場合には,年金を支給する。 年金は「78才保証の終身年金「75才保証の確定年金「65才保証,」」の確定年金「65才保証の代替給付年金」とする。 」第4条(78才保証の終身年金)78才保証の終身年金は,退職の月の翌月より本人死亡の月に至るまで,退職時のみなし本給に年金係数3.30を乗じた額に,退職時年齢に応じた の代替給付年金」とする。 」第4条(78才保証の終身年金)78才保証の終身年金は,退職の月の翌月より本人死亡の月に至るまで,退職時のみなし本給に年金係数3.30を乗じた額に,退職時年齢に応じた別表1に定める率(年令率)および勤続年数に応じ,別表2に定める率(勤続率)を乗じた金額を,毎年一定の日に分割して,終身年金として本人に支給する。 第8条(自己の都合による退職)自己の都合による退職の場合,第4条ないし第6条については,退職時のみなし本給に別表3に定める率(自己都合修正率)を乗じた額を退職時本給とする。 第9条(功労付加金)定年・社命による他社転属・死亡・業務上の事由による傷病,および社員就業規則第67条4号(業務外の事由による傷病のため欠勤し,休職規程により退職願を提出したとき,または提出すべき日に達したとき)に該当し退職する者に対しては,在籍中の功労度に応じ,功労付加金を支給する。功労付加金は功労基礎額に功労加算額を加算した額とし,その基準はつぎのとおりとする。なお,特別職については主任以下の基準を適用することとし,専門・管理職以上の基準は別に定めるものとする。 功労基礎額25年から29年まで,主事400万円功労加算額20年以上0から200万円まで別表1年令率表退職時年令年令率満50才以上1.00別表2勤続率表退職時勤続年数勤続率満28年以上満29年未満0.96- 4 -満27年以上満28年未満0.94別表3自己都合修正率退職時年令退職時勤続年数修正率満50才以上満25年以上1.0(5)原告の請求する年金額と被告の反論ア原告の請求原告は,退職時の職位は参事であり,本給は月額51万5000円であったとして,終身年金額として月額26万1620円の支払を,功労付加金として60 )原告の請求する年金額と被告の反論ア原告の請求原告は,退職時の職位は参事であり,本給は月額51万5000円であったとして,終身年金額として月額26万1620円の支払を,功労付加金として600万円の支払をそれぞれ請求している。 終身年金額の算式51万5000円(本給)×6.35(年金係数,但し平成12年4月当時の年金規則による)×1.0×0.96÷12=26万1620円(月額)功労付加金の算式400万円(主事の功労基礎額)+200万円(功労加算金)=600万円イ被告の反論原告の年金の基礎となる本給は,月額51万5000円ではなく,月額18万6800円である。また,被告の年金規則は平成13年4月1日,同17年3月1日にそれぞれ改正されており,原告の主張する退職時期における年金規則に基づく年金係数は6.35ではなく3.30である。 争点及びこれについての当事者の主張の要旨(1)原告には年金不支給に該当する事由(懲戒解雇)が存在するか(争点1)【被告】ア原告が引き起こした本件刑事事件は,後記イないしエ記載のとおり,懲戒解雇事由を規定した就業規則86条16号の「刑罰にふれる行為があって,社員としての体面を著しく汚したとき」に該当する。したがって,本件懲戒解雇は有効である。 イ本件刑事事件は,被告の名誉,信用を損なう行為である。 本件刑事事件は,実父の死体を箱に詰めたまま数か月間本件社宅に放置するという重大かつ異常な猟奇的事件であったところ,テレビや新聞等の報道機関により,捜査,公判段階で,原告の実名や住所が繰り返し報道された。このため,被告の取引先から本件刑事事件の犯人は被告の社員ではないかとの問い合わせがあった。取引先等から,このような異常な犯罪を行う人間が勤務する会社であると認識されることは,被告の業務の執行に対して ため,被告の取引先から本件刑事事件の犯人は被告の社員ではないかとの問い合わせがあった。取引先等から,このような異常な犯罪を行う人間が勤務する会社であると認識されることは,被告の業務の執行に対して大きなマイナスとなる。 ,,,また本件刑事事件の犯行現場となった本件社宅は被告が所有者から賃借し原告に使用させていた建物であったが被告と所有者との間の建物賃貸借契約(以,下「本件賃貸借契約」という)に介在した2つの仲介業者は,両方とも被告の顧客であった。そして,2つの仲介業者は,警察から連絡を受けて,現場確認の立会いを求められたり,事情聴取を受けるなどの不利益を被った。その結果,本件刑事事件は被告の関係者に広く認識され,また,被告の取引先などにさまざまな不利益を与え,被告の信用は著しく害された。 - 5 -ウ本件刑事事件の捜査により,被告の企業秩序が乱された。 本件刑事事件は重大な犯罪であったために,平成16年8月22日から同年9月1日にかけて,被告に対したびたび警察の捜査が入り,被告の名誉,信用が傷つけられるとともに,社内には動揺が広がり,同社の企業秩序が乱された。 エ本件刑事事件により,被告社員に対し影響が出るなど,被告の企業秩序が乱された。 被告は,原告が本件刑事事件で身柄を拘束されたため,約1か月間,原告に代わる要員を補充することを余儀なくされた。 被告社員は,本件刑事事件の犯人が原告であることを知り,社員としての誇りを傷つけられ,社内には不安と動揺が広がり,被告の企業秩序は乱れた。 オ以上のとおり,被告は,本件刑事事件によって名誉,信用が著しく毀損され,企業秩序は大きく乱れた。原告は,管理職であり,部下社員の模範となるべき地位にありながら,これに反し,本件刑事事件を起こした責任は重い。被告において,これまで懲戒解雇された従業 用が著しく毀損され,企業秩序は大きく乱れた。原告は,管理職であり,部下社員の模範となるべき地位にありながら,これに反し,本件刑事事件を起こした責任は重い。被告において,これまで懲戒解雇された従業員は数人いるが,いずれも退職金は不支給となっている。本件刑事事件の異常性,悪質性,社内的・対外的に与えた影響力,退職年金の功労金的性質等を勘案すると,被告の原告に対する年金不支給措置は相当である。 【原告】ア【被告】の主張アは争う。 ,。 (ア)原告が父親の遺体を本件社宅のベランダに遺棄したというのは事実であるしかし,原告と被告の関係は,職場における労務提供を基本とした労働契約上の権利義務関係であるところ,本件刑事事件は就労時の行為ではなく,本来懲戒解雇の対象とはならないはずである。被告の就業規則第1条によれば「本,規則は,当社社員の就業に関する事項を定める」と明記しており,就業以外。 の事由をもって懲戒解雇することは許されない。 (イ)原告が,被告の社員であることは報道の対象とされておらず,被告の「社員としての対面を著しく汚したとき」には該当しない。 (ウ)原告は,被告に入社以来,同社の職務に専念し,本件刑事事件を起こすまでは何らの処分を受けたことがなく,かえって,同社から数々の表彰を受けている。 (エ)本件刑事事件の発生原因は,原告の父親と何らかの争いのあったことが推測される母親から,原告に対し,救急車や警察に通報しないようにいわれ,これにやむなく従ったことによるものである。 (オ)以上によれば,本件懲戒解雇は無効である。 イ【被告】の主張イのうち,本件刑事事件が実父の死体を箱に詰めたまま数か月間本件社宅のベランダに放置した事案であること,テレビや新聞等の報道機関により,原告の実名や住所が捜査段階,公判段階で繰り返し,報道さ 】の主張イのうち,本件刑事事件が実父の死体を箱に詰めたまま数か月間本件社宅のベランダに放置した事案であること,テレビや新聞等の報道機関により,原告の実名や住所が捜査段階,公判段階で繰り返し,報道されたことは認めるが,その余の事実は否認する。 本件刑事事件の発生原因は,前記ア(エ)記載のとおりであり,本件刑事事件は猟奇的でも異常でもない。本件刑事事件を猟奇的と断定する被告の態度は,原告- 6 -を侮辱するものであり,誹謗中傷にほかならない。 ウ【被告】の主張ウないしオはいずれも争う。 本件刑事事件によって被告の主張するような企業秩序の乱れは発生しておらず,業務外の出来事を根拠として,原告にとって社会的に死を意味する懲戒解雇処分を下すだけの客観的,合理的な理由は存在しない。 (2)本件懲戒解雇は無効かつ違法か(争点2)【原告】本件懲戒解雇は無効かつ違法である。その理由は,前記(1)【原告】の主張アの(ア)ないし(オ)記載のとおりである。 【被告】本件懲戒解雇は有効である。その理由は,前記(1)【被告】の主張アないしオ記載のとおりである。 (3)原告の被った損害等は幾らか(争点3)【原告】ア終身年金,功労付加金前記争いのない事実等(5)ア記載のとおり,原告の終身年金額は月額26万1620円であり,功労付加金は600万円である。 イ不法行為に基づく損害額(ア)慰謝料1000万円原告は,被告の違法な本件懲戒解雇により職を失ったが,これにより被った精神的損害は1000万円を下らない。 (イ)逸失利益4280万3894円被告は,原告に対し,違法な本件懲戒解雇を行っただけではなく,本件社宅からの退去を求める訴えを提起し,原告としては被告に復帰することを断念せざるを得ない状況に追い込まれ,その結果,退職した。原告の定年時期は平成 対し,違法な本件懲戒解雇を行っただけではなく,本件社宅からの退去を求める訴えを提起し,原告としては被告に復帰することを断念せざるを得ない状況に追い込まれ,その結果,退職した。原告の定年時期は平成25年3月31日であり,本件懲戒解雇がなければ,後8年間は被告において就労することが可能であった。原告の年収は,退職当時963万6100円であり,損益相殺として年金分313万9440円を控除しても年額649万6660円の損害が発生している。したがって,原告の8年間の逸失利益は,4280万3894円となる。 (963万6100円-313万9440円)×6.5886(ホフマン係数)=4280万3894円(ウ)弁護士費用454万円被告の原告に対する不法行為(違法な本件懲戒解雇)と相当因果関係が認められる弁護士費用額は454万円である。 【被告】本件懲戒解雇処分は有効である。したがって,原告の終身年金,功労付加金及び不法行為に基づく損害額の主張は全て争う。 第3争点に対する判断 年金不支給事由(懲戒解雇の有効性)の存否(争点1)- 7 -(1)前記争いのない事実等(3)によれば,①被告の就業規則86条16号は,従業員に「刑罰にふれる行為があって,社員としての体面を著しく汚したとき」に該当す,,る事由があるときには被告は当該従業員を懲戒解雇に処する旨規定していること②被告の年金規則11条は「懲戒解雇の場合は,第2条の規定(年金受領資格者,の要件について規定)にかかわらず年金受給資格はなくなるものとする」旨規定していること,③被告は,本件刑事事件を引き起こした原告の行為は,前記就業規則86条16号に該当するとして,原告を本件懲戒解雇に処したこと,④被告は,本件懲戒解雇に伴い,原告に対し,前記年金規則11条を適用し,年金全額を支給しな 事件を引き起こした原告の行為は,前記就業規則86条16号に該当するとして,原告を本件懲戒解雇に処したこと,④被告は,本件懲戒解雇に伴い,原告に対し,前記年金規則11条を適用し,年金全額を支給しないことにしたことが認められる。 以上によれば,本件訴訟においては,原告が本件刑事事件を引き起こしたことを理由に,被告が原告を懲戒解雇したことが相当であったか,換言すれば,本件懲戒解雇は有効か否かということが問題となる。以下,本件懲戒解雇の有効性の有無について検討することにする。 (2)認定事実前記争いのない事実等,証拠(文末に記載したもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア原告は,平成9年4月1日,福岡市にある被告九州支社のシステム営業部営業技術課長に就任し,同14年4月1日には被告九州情報センター参事に昇格し,部下9名を持つ管理職の地位にあった。原告は,被告が借り上げた本件社宅に妻子と同居していたが,平成12年4月ころに別居し,同年9月には離婚した。原告は,平成12年4月ころから,実母と本件社宅で一緒に暮らすようになった。 原告の父親は仕事の関係で京都市に居住しており,京都と福岡を行き来する生活をしていた。(甲13の4及び6),,,イ原告は平成16年8月22日同人の父親(当時83歳)の遺体を寝袋に入れビニール紐で緊縛するなどし,これを長さ110cm,幅45cm,高さ55cmのプラスチック製の収納箱に入れ,同年3月下旬ころから本件社宅2階のベランダに放置していた容疑で逮捕された(乙5の1ないし5)。 ウ原告の起こした本件刑事事件は,前記逮捕当日から各社のテレビニュースの番組で報道された。RKBのテレビニュースでは,近隣の者へのインタビューも報道されており「動物を焼いたような臭いがした「家の周りを見回ったが何も, 事事件は,前記逮捕当日から各社のテレビニュースの番組で報道された。RKBのテレビニュースでは,近隣の者へのインタビューも報道されており「動物を焼いたような臭いがした「家の周りを見回ったが何も,」見つからなかった」等,周囲に異臭が蔓延していたことを窺わせる内容の報道がされていた。また,本件刑事事件は,原告が逮捕された翌日の新聞各紙でも報道された。報道の内容は,①福岡市<以下略>,会社員P3が,平成16年8月22日,父親の遺体を自宅ベランダに放置したとして逮捕されたこと,②遺体は死後3か月以上が経過しており腐乱が激しく外傷の有無など不明であること,③警察は父親が死亡した経緯などについて原告を追及し,死因などを詳しく調べる方針であることなどが報道されていた。前記新聞報道で原告の実名は報道されていたが,原告の勤務先(被告の社名)までは報道されていなかった。(乙5の1ないし5,同28,証人P2【5頁】)エ原告は,約18日間勾留された後,平成16年9月10日,福岡地方裁判所に- 8 -起訴された。被告は,前記起訴を受け,平成16年9月13日,原告に対し,社員就業規則86条16号(刑罰にふれる行為があって,社員としての体面を著しく汚したとき)に該当する事由があるとして,本件懲戒解雇した。ちなみに,被告において,原告以外に懲戒解雇処分を受けた社員は数名いるが,いずれも被告から退職金,年金の支給を受けていない。(甲9,15,19,20,証人P2【9,10頁,同P1【7頁】)】オ原告は,第1回公判期日で公訴事実を認め,その後,平成16年11月26日に保釈され,同17年1月19日,死体遺棄罪により,懲役2年,執行猶予3年の刑の宣告を受け,前記刑は確定した。裁判所が認定した事実は「原告は,平,成16年3月下旬ころ,福岡市<以下略>の原告方に に保釈され,同17年1月19日,死体遺棄罪により,懲役2年,執行猶予3年の刑の宣告を受け,前記刑は確定した。裁判所が認定した事実は「原告は,平,成16年3月下旬ころ,福岡市<以下略>の原告方において,実父P4(当時83年)の死体を寝袋に入れ,ビニール紐で緊縛するなどし,さらに,これをプラスチックケースに入れて隠匿した上,原告方2階ベランダに放置し,もって死体を遺棄した」というものである。裁判所は,量刑の理由について,原告の説明によれば,本件社宅で実父が急死したことを知りながら,実母から誰にも言ってはいけないとの言に従い本件死体遺棄に及んだものであり,その経緯に酌むべき事情が全くないのはもとより,原告の行為からは,父親の死を厳粛に受け止め,丁重に弔ってその冥福を祈るという気持ちを感じることができず,本件は社会的,宗教的な風俗を害する悪質な犯行であるというほかないとしている。他方,裁判所は,原告の酌むべき事情として,今では後悔の念を抱き,保釈後とはいえ父親の葬儀を執り行っていること,原告にはこれまで前科がなく,普通の社会生活を送ってきたと窺われることを挙げている(甲13の1及び2同15原告 。 ,,【3頁】)カ本件刑事事件が与えた反響,影響等は次のとおりである。 (ア)本件刑事事件により被告が被った不利益,影響等は次のとおりである。 ,,,,a被告は平成16年8月22日警察から現場検証の立会い依頼を受け被告九州支社総務部の社員が対応した。また,原告が勤務していた被告九州,,。 ,,情報センターも同日警察から電話で事情聴取を受けた(乙28 証人P2【2,12頁】)b本件刑事事件の担当捜査官は,平成16年8月24日,被告九州支社を訪問し,約1時間にわたり,原告の勤務地の変遷,転任の理由,原 から電話で事情聴取を受けた(乙28 証人P2【2,12頁】)b本件刑事事件の担当捜査官は,平成16年8月24日,被告九州支社を訪問し,約1時間にわたり,原告の勤務地の変遷,転任の理由,原告の勤務状況,交友関係などについて事情聴取した。また,その際,被告九州支社は,当該捜査官から,原告の履歴書,九州支社での職務編成表などの提出を求められ,これを提出した。また,被告九州情報センターの職員は,同日も,警察から数度にわたり電話で事情聴取された(乙28証人P2 5頁)。 ,【,】c本件刑事事件の担当捜査官は,平成16年8月25日,被告九州情報センターを訪問し,約2時間半にわたり,同センターの勤務体制や原告の勤務状況等について事情聴取した(乙28,29,証人P5【3,4頁】)。 d本件刑事事件の担当捜査官は,平成16年8月26日,被告九州情報センターにおいて,同センター所長P5(以下「P5所長」という)の供述調書を作成した。被告九州支社総務部長らは,同日,本件刑事事件を捜査している- 9 -福岡西署を訪れ被告の社員が迷惑をかけていることについて謝罪した(乙,。 28,29,証人P2【1頁,同P5【1頁】)】e警察は,平成16年9月1日,被告九州情報センターにおいて,捜索差押えを行い,原告のノート型パソコンやフロッピーディスク等を押収した(乙29,34,証人P5【4頁】)。 f原告は,平成16年8月22日から同年11月26日までの間,逮捕勾留などされていたため,要員を補充するまでの約1か月間,P5所長が,本来の業務に加え,原告の作業を代替して行った。なお,原告が従事していた被告の職場等では社員が不安動揺した雰囲気の中で仕事に従事した(乙,,,。 28,29,証人P5【5頁,弁論の全趣旨)】 務に加え,原告の作業を代替して行った。なお,原告が従事していた被告の職場等では社員が不安動揺した雰囲気の中で仕事に従事した(乙,,,。 28,29,証人P5【5頁,弁論の全趣旨)】,,,。 (イ)また本件刑事事件が被告以外に与えた反響影響等は次のとおりであるa本件刑事事件が最初に新聞報道された平成16年8月23日ころ,当時被,,告の九州支社総務部長のもとに被告が取引をしている下請業者の役員から本件刑事事件の容疑者は被告の社員ではないのかという問い合わせがあった(乙28,証人P2【6頁】)。 b本件刑事事件の犯行現揚となった本件社宅は被告が不動産の所有者から借り上げていた物件であった。借り上げに当たって被告の仲介をしたのは株式会社δであり,不動産所有者側を仲介したのはε株式会社であり,同社は本件社宅の管理もしていた。また,両社とも地元の中堅不動産業者であり,両社が管理する不動産に付属するエレベーターを被告が保守・管理することを内容とする契約を複数件締結していた。 δとεは,警察から連絡を受けて,被告社員である原告が本件刑事事件を犯したことを認識することとなった。のみならず,εの担当者は,本件社宅の管理業者として警察から現場確認の立会いを求められたり,事情聴取を受けるなどした。また,本件刑事事件の犯行現場となった本件社宅は不動産としての資産的価値が損なわれ,本件社宅の所有者は財産的な損失を被った。 (甲17,乙25,26,28,29,証人P2【2,3,6ないし9,12,13頁】)(3)本件懲戒解雇の有効性についての判断ア被告は,原告が本件刑事事件を起こしたことを理由に本件懲戒解雇に及んでいるが,原告は,本件刑事事件は原告の就労時の行為ではなく,被告の就業規則1条は「本規則は,当社社員の就業に関する事項 の判断ア被告は,原告が本件刑事事件を起こしたことを理由に本件懲戒解雇に及んでいるが,原告は,本件刑事事件は原告の就労時の行為ではなく,被告の就業規則1条は「本規則は,当社社員の就業に関する事項を定める」と規定していることからも明らかなとおり,就労時でない原告の行為を捉えて懲戒解雇することはできないと主張する。 ,,確かに被告の就業規則は社員の就業に関する事項を定めると規定しているが社員の就労時以外の行為を捉えて社員を懲戒解雇することはできると解するのが相当である。なぜなら,会社は営利を目的とする存在であるところ,当該会社の名誉,信用その他の社会的評価を維持することは会社の存立ないしは事業の運営にとって必要不可欠であり,会社の社会的評価に重大な悪影響を及ぼすような社員の行為については,当該行為が職務の遂行と直接関係のない私生活上のもので- 10 -あっても,会社は懲戒解雇の処分をもって臨むのが相当であるからである。このようなこともあって,被告の就業規則86条16号は「刑罰にふれる行為があ,って,社員としての体面を著しく汚したとき」には当該社員は懲戒解雇となる旨規定している。すなわち,前記規定の趣旨は,社員が刑罰にふれる行為を行うことにより,①他の社員に心理的動揺を与え,職場のモラルや従業員の士気を乱して企業秩序に悪影響を及ぼしたり,②そのような社員との雇用関係を継続していくことは会社の信用や名誉を毀損するため,企業にとってもはや雇用関係をこのまま維持していくことが困難であると考えられる場合があるからである。 以上によれば,社員の就労時以外の行為であっても「刑罰にふれる行為があ,って,社員としての体面を著しく汚したとき」には当該行為を行った社員に対する懲戒解雇は有効であると解するのが相当である。問題は,どういう事情が存在する 以外の行為であっても「刑罰にふれる行為があ,って,社員としての体面を著しく汚したとき」には当該行為を行った社員に対する懲戒解雇は有効であると解するのが相当である。問題は,どういう事情が存在する場合に,前記要件を満たすといえるかである。この点については「刑罰に,ふれる行為」の性質,情状のほか,会社の種類・態様,社員の会社における地位等を総合的に判断し,当該「刑罰にふれる行為」のために「社員としての体面を著しく汚した」と客観的に評価される程度に至っているか否かによって決するのが相当である。 イこれを本件についてみるに,前記(2)の認定事実を踏まえると,次のとおりである。 (ア)本件刑事事件は,実父の遺体を箱に詰めた上,約4か月間,自宅のベランダに放置した事案であり,何故,そのような犯罪を起こしたか不可解な部分が多い事案である。この点,原告は,実母の助言に従ったと述べているが,大学院を修了し50歳にもなる分別があると思われる大人が,そのような行為に走ったことに社会一般の人は非難の眼と不審の眼を向ける事案といえよう(原告1【】。 ,,,8頁)この点に関し本件刑事事件を担当した裁判所は量刑事情の中で「父親の死を厳粛に受け止め,丁重に弔ってその冥福を祈るという気持ちを感じることができず,本件は社会的,宗教的な風俗を害する悪質な犯行というほかない」としている。その上で,裁判所は,原告を懲役2年執行猶予3年の刑に処し,前記裁判は確定している。 (イ)原告は,本件刑事事件を引き起こした当時,被告九州情報センター参事の地位にあった管理職であり,部下が9人もおり,本件刑事事件が部下を含む被告の職場に与えた影響は少なからぬものがあった。また,被告九州本社総務部の職員等は,本件刑事事件のために,数度にわたり,警察の事情聴取を受けるな であり,部下が9人もおり,本件刑事事件が部下を含む被告の職場に与えた影響は少なからぬものがあった。また,被告九州本社総務部の職員等は,本件刑事事件のために,数度にわたり,警察の事情聴取を受けるなどしており,その後,原告とこれら職場の職員との関係修復は困難な状況にあったということができる。 (ウ)本件刑事事件は,テレビ,新聞などの各メディアにより,繰り返し,事件の内容とともに原告の実名,住所が報道された。このため,原告が被告社員であることを知る取引先や顧客ないし関係者は,このような不可解な犯罪を犯した人間が勤務していた会社として被告を認識することになった。また,原告が住んでいた本件社宅の仲介業者も管理業者も,被告の本業である昇降機の保守業務の取引先でもあり,これら取引先に少なからぬ迷惑をかけた。 - 11 -(エ)以上のような事情を考慮すると,原告の起こした本件刑事事件により,被告の社会的な名誉と信用は相当程度傷つけられ,被告の企業秩序は乱れたということができかかる原告の行為は被告の就業規則86条16号に規定する刑,,「罰にふれる行為があって,社員としての体面を著しく汚したとき」に該当するということができる。 (オ)確かに,原告は,本件刑事事件を起こすまでは,非違行為等で被告から処分されたことはなく,被告に入社以来約27年間にわたり勤続し,その間,被告の昇降機保守に関する技術開発,品質管理等の部門において活躍し,その功績が認められ,その結果,感謝状,表彰状を授与されたり,参事にまで昇進したことは認められるが(前記争いのない事実等(1)イ,同(3),弁論の全趣旨),これら原告に有利な事情を考慮してもなお,原告の犯した本件刑事事件の罪責は重く,原告を懲戒解雇した処分が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められな )イ,同(3),弁論の全趣旨),これら原告に有利な事情を考慮してもなお,原告の犯した本件刑事事件の罪責は重く,原告を懲戒解雇した処分が客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないとまではいうことはできず,懲戒解雇権の濫用があったということはできない。よって,本件懲戒解雇は有効というべきである。 ウところで,被告の年金規則11条によれば「懲戒解雇の場合は,第2条の規,定(年金受領資格者の要件について規定)にかかわらず年金受給資格はなくなるものとする」旨規定しているところ,前記のとおり,本件懲戒解雇が有効な本件にあっては,原告の被告に対する退職年金の支払請求は理由がないということになる。 エなお,被告の年金規則11条によれば「懲戒解雇の場合は,第2条の規定(年,金受領資格者の要件について規定)にかかわらず年金受給資格はなくなるものとする。ただし,事情によっては所定額の2分の1の範囲内において,特に年金または一時金を支給することがある」旨規定しているところ,原告は,一貫して,本件懲戒解雇は無効であることを前提に,退職時の年金全額の請求をしており,予備的に,被告の年金規則11条但書きを適用し,所定額の2分の1の範囲において年金の支給を求めてはいないように理解するのが相当と思われる。しかし,仮に,前記主張がされていると善解することができるとしても,その主張は,次のとおり,理由がないというべきである。 確かに,原告は,本件刑事事件を起こすまでは,非違行為等で被告から処分されたことはなく,被告に入社以来約27年間にわたり勤続し,その間,被告の昇降機保守に関する技術開発,品質管理等の部門において活躍し,その功績が認められ,その結果,感謝状,表彰状を授与されたり,参事にまで昇進しており(前記イ(オ)),加えて,被告の年金には賃 間,被告の昇降機保守に関する技術開発,品質管理等の部門において活躍し,その功績が認められ,その結果,感謝状,表彰状を授与されたり,参事にまで昇進しており(前記イ(オ)),加えて,被告の年金には賃金の後払い的要素も有している(証人P115頁)など原告に有利な事情も存在するしかし前記イの(ア)ないし(エ)【】。 ,によれば,①本件刑事事件は,実父の遺体を箱に詰めた上,約4か月間,自宅のベランダに放置した事案であり,原告は,これにより,懲役2年執行猶予3年の刑に処せられていること,②原告は,本件刑事事件を引き起こした当時,管理職の地位にあり,職場に与えた影響は少なからぬものがあったこと,③本件刑事事,,,,件はメディアにより事件の内容とともに原告の実名住所が報道されたため原告が被告社員であることを知る取引先や顧客ないし関係者は,被告をこのよう- 12 -な不可解な犯罪を犯した人間が勤務していた会社として認識することになり,被告の信用が毀損されたことなど原告のこれまでの長年の勤続の功労を否定する事情も存在する。これらの諸事情を勘案すると,本件刑事事件を引き起こした原告の背信性は高く,被告において年金規則11条但書きを適用することなく年金を一切支給しないとした処分が,過酷すぎてその裁量権を逸脱した違法なものとまでいうことは困難というべきである。 本件懲戒解雇の無効・違法の存否(争点2)原告は,本件懲戒解雇は無効かつ違法であることを根拠に,不法行為に基づき,被告に対し,損害賠償請求をする。しかし,前記1で判断したとおり,本件懲戒解雇は有効である。したがって,原告の不法行為に基づく請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。 結論 以上によれば,原告の本訴請求は,いずれも理由がないのでこれを棄却することにする。 解雇は有効である。したがって,原告の不法行為に基づく請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。 結論 以上によれば,原告の本訴請求は,いずれも理由がないのでこれを棄却することにする。 東京地方裁判所民事第36部裁判官難波孝一

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