主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役10年に処する。 原審における未決勾留日数中720日をその刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人岡野浩巳作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから,これを引用する。 第1 事実誤認の主張について所論は,要するに,原判決は,被告人の捜査段階の自白は信用できるとして,被告人を本件殺人の犯人と認定し,また,被告人に完全な責任能力が認められるとしているが,(1)この自白は信用することができないし,(2)原審が行ったA鑑定及びB鑑定は,いずれも被告人の完全な責任能力を否定しているのであるから,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。 1 被告人と犯人との同一性について原判決は,被告人の捜査段階の自白について,法廷における弁解内容などと対比して検討を加えた結果,十分に信用することができると判示しているところ,この判示は概ね正当なものとして是認することができる。以下,付言する。 (1) 被告人の捜査段階における供述内容及びその経過をみると,被告人は,被害者が死亡した当日である平成11年4月8日午前9時15分ころから午後4時ころまでの間(ただし,午後零時05分から午後1時までの休憩時間を除く。 以下,月日の表記について,「平成11年」の記載を省略する。),広島県C警察署において,事情聴取を受け,被害者との関係などについて供述したが,被害者が死亡した原因については知らないと述べていた。ところが,被告人は,同日午後8時55分ころから,殺人等の被疑者として警察官の取調べを受けた際,同日午前零時40分ころ,a区の太田川沿いの道路上で,被害者の着衣に火を着けて焼き殺した と述べていた。ところが,被告人は,同日午後8時55分ころから,殺人等の被疑者として警察官の取調べを受けた際,同日午前零時40分ころ,a区の太田川沿いの道路上で,被害者の着衣に火を着けて焼き殺したこと,4月初めころ,被害者が借金のことで悩み,殺してほしいと言っていたのでやってしまったこと,犯行の3時間くらい前に,睡眠導入剤20錠をミネラルウォーターの入った瓶に入れて溶かし,被害者に飲ませたこと,意識がもうろうとした被害者を被告人運転の自動車後部座席から引きずり出したこと,助手席に載せていた緑色ポリタンクの灯油を被害者の足部分と胸部分にまき,Dで買った10個のマッチのうちの1個を使ってマッチを擦り,被害者の着衣に火を着けたこと,その後,男性の家へ行き,灯油が入っていたポリタンクやマッチを預けたことなどを供述した。 そして,被告人は,4月9日午前零時51分,殺人の被疑事実で通常逮捕され,同日,身上関係について供述したほか,本件殺人について,自己の犯行であると認めていたが,その動機については,前日と同様,借金を苦にした被害者から死にたい,殺してくれと頼まれたからであると供述していた。 被告人は,同日,殺人の被疑事実で勾留請求され,裁判官による勾留質問において,事実はそのとおり間違いありませんと陳述した。 その後,被告人は,捜査官による取調べの最終段階に至るまで,本件犯行を認める供述をしている。また,犯行の動機について,被告人と被害者とは,売春婦と客引きの関係にあったところ,被害者から肉体関係を求められて拒否していたが,被告人と不倫の関係にあった男性に対して売春をしていることをばらすとか,その妻に対して不倫の事実をばらすなどと言われて被害者のことを疎ましく思っていた上,本件犯行の数時間前にも,被害者から執拗に肉体関係を迫ら 倫の関係にあった男性に対して売春をしていることをばらすとか,その妻に対して不倫の事実をばらすなどと言われて被害者のことを疎ましく思っていた上,本件犯行の数時間前にも,被害者から執拗に肉体関係を迫られ,これを拒否するや,「仕事じゃ誰とでも寝る商売女のくせに。」などと侮辱され,さらに,不倫の相手に騙されているだけだなどとなじられて憤激し,殺害を決意したものであると述べ,当初,被害者から,殺してくれと頼まれたため殺害したと供述したのはうそであったとして,これを撤回する供述をしている。 (2) 被告人の自白は,被害者との間に生じていたあつれきや本件の背景事情となる不倫の状況,本件犯行の数日前からの被告人及び被害者の行動,被害者から強く侮辱されて殺意を抱くに至った経緯,被害者を殺害するまでの行動,殺害の手段,方法,犯行後の証拠隠滅工作等について,具体的かつ詳細なものであって,実際に経験した者でなければ供述することができないような自然で真に迫った供述部分を多く含んでいる。また,犯行の具体的状況について,細かい部分で一部記憶が明確でないものの,興奮状態にあったことを考慮すると,この点も必ずしも不自然ではないし,その内容は概ね一貫している。 (3) さらに,関係証拠によると,被告人運転車両に付着していた嘔吐物と被害者の胃の内容物とが一致しており,被害者は,死亡時刻に近接した時点まで被告人運転の自動車に乗車していたと合理的に推認できるほか,原判決が指摘しているように,被告人の自白は,犯行前日,被害者とともに行動していたこと,薬局で睡眠導入剤を受け取ったこと,被害者が睡眠導入剤を多量に服用したこと,犯行に使用したマッチを広島県b郡c町内のDで購入したこと,灯油の入ったポリタンクを自動車に積載していたこと,犯行後,このポリタンクやマッチを上記男性に と,被害者が睡眠導入剤を多量に服用したこと,犯行に使用したマッチを広島県b郡c町内のDで購入したこと,灯油の入ったポリタンクを自動車に積載していたこと,犯行後,このポリタンクやマッチを上記男性に預けたことなど重要な事実について,多くの客観的証拠によって裏付けられており,また,被告人が供述している犯行の手段,方法は,被害者の死体の状況や犯行現場の状況などとよく符合している。 (4) そして,被告人は,4月10日,当番弁護士と接見し,同月12日に弁護士と接見して2名の弁護人を選任し,同月15日,19日,23日及び26日にも接見をしており,取調べを受ける際のアドバイスを受けていた。 これらの事情を総合すると,被告人の自白の信用性は高いということができる。 所論は,被告人の自白は,捜査官から保険金目的の殺人にはしない,という口車に乗せられたことによるものであり,信用性がないというのである。 しかしながら,被告人の取調べに当たった警察官は,そのような誘導の事実について明確に否定していること,むしろ,捜査官としては,本件直前に被害者に生命保険が掛けられていたため,保険金目的による犯行ではないかとの疑いを抱き,保険契約を担当した郵便局員から事情聴取を行い,さらに,被告人を追及していたこと,被告人は,逮捕される前の時点で,被害者から殺してくれと頼まれたからであると弁解しつつ,被害者を殺害したこと自体については認める供述をしていたし,裁判官による勾留質問においても,殺人の事実を認める陳述をしているのであって,被害者の生命保険加入状況について,その詳細が明らかになる前の早期の段階で既に本件犯行を認める供述をしていたこと,そして,本件は殺人という重大事案であることなどを併せ考えると,所論が指摘するような利益誘導によって,被告人が事 いて,その詳細が明らかになる前の早期の段階で既に本件犯行を認める供述をしていたこと,そして,本件は殺人という重大事案であることなどを併せ考えると,所論が指摘するような利益誘導によって,被告人が事実に反して自白をしたような疑いはない。これに反する被告人の供述は信用することができない。 さらに,所論は,原判決は,被告人に秘密の暴露に当たるような自白があり,被告人の捜査段階の自白は信用性が高いとしているが,いずれも捜査によって明らかになるような事実であるから,秘密の暴露に当たる事実はないというのである。 しかしながら,被告人が,4月8日午後8時55分ころからの取調べにおいて供述した,Dで買った10個のマッチのうちの1個を使って火を着けたこと,犯行当時の被害者の状況として,睡眠導入剤20錠を服用して意識もうろうの状態にあったこと,そして,犯行後,知り合いの男性に灯油の入ったポリタンクやマッチなどを預けたことについては,これらの点に関する補充捜査の経過や取調べを担当した警察官の上記供述を得た当時の認識に照らし,いわゆる秘密の暴露に当たるか,これに準じるものと考えられるから,自白の信用性を高める一事情であるということができる。 以上によれば,客観的な証拠に加え,被告人の捜査段階の自白は信用できるとして,本件殺人について,被告人を有罪とした原判決の認定に誤りはない。 この点に関する事実誤認の所論は,理由がない。 2 責任能力について原判決は,被告人の犯行前後の行動について詳細に認定した上,被害者の殺害を決意した動機は十分に了解可能であり,犯行前後の行動も合目的的で十分な思慮と計算に基づくものであること,犯行時,意識の混濁等の異状をうかがわせる事情はないこと,捜査段階において,本件犯行の記憶を保っており追想可能 十分に了解可能であり,犯行前後の行動も合目的的で十分な思慮と計算に基づくものであること,犯行時,意識の混濁等の異状をうかがわせる事情はないこと,捜査段階において,本件犯行の記憶を保っており追想可能であったことなどから,被告人が,犯行当時,是非弁別能力又はこれに基づいて行動を制御する能力が失われていたり,それが著しく減退した状態にはなかったことが明らかであると判示し,法律上の概念である完全責任能力を肯定しているところ,この判示は正当なものとして是認することができる。所論にかんがみ,付言する。 (1) 所論は,犯行当時,被告人が薬物を使用していたことを前提に判断したA鑑定の結果について,原判決が,そのことをもって採用しなかったのは不当である,というのである。 検討すると,薬物使用に関する被告人の供述に変遷があることは,原判決が指摘するとおりであるが,A鑑定は,被告人について,覚せい剤による精神障害を否定し,また,解離性障害による記憶障害が睡眠導入剤の作用により増強されたが,睡眠導入剤の作用は,責任能力にほとんど影響を与えなかったと判断しているのであって,被告人の薬物使用に重点を置いた判断をしているわけではないから,そのことをもって直ちにA鑑定の結果を採用できないとした原判決の判示は相当でない。この点は,所論が指摘するとおりである。 ただし,被告人が,本件犯行時,解離性障害による解離状態(主として意識狭窄)にあったというA鑑定の判断は,被告人が,犯行後,知り合いの男性に灯油やマッチなどを預けて処分を依頼し,さらに同人に電話を掛けて,重ねてその処分の依頼をしたり,警察から言われても知らないと言ってくれと頼んだりしていること,上記のとおり,被告人は,捜査段階においては,本件犯行を追想することが可能であったことなどの前提事実と ,重ねてその処分の依頼をしたり,警察から言われても知らないと言ってくれと頼んだりしていること,上記のとおり,被告人は,捜査段階においては,本件犯行を追想することが可能であったことなどの前提事実と符合しない部分がある。 (2) また,所論は,A鑑定は,被告人の責任能力が一部損なわれていたことを認め,B鑑定も,被告人が本件犯行当時,極めて精神的に不安定な状態にあったことを否定するものではなく,責任能力が完全なものではなかったということを認めているのに,原判決が,本件事件について記憶がない被告人に対し,完全責任能力を肯定したのは不当である,というのである。 しかしながら,被告人には自己愛性・演技性を帯び顕著な両価性を伴う人格特徴が認められ,本件事件当時,強い不安・葛藤状態にあったと推測される,被告人が,犯行当時の記憶を欠損しているのは,犯行後の解離性健忘による可能性が高く,本件犯行当時,被告人は,物事の理非を判断し,それに従って自らの行動を統御する能力に著しい障害はなかったというB鑑定は,その前提事実や鑑定の手段,方法,結論に至る推論の過程等に不合理な点はないから,十分信用することができる。また,A鑑定も,被告人の症状や犯行当時の記憶を欠損している理由についてB鑑定と異なる診断や説明をしているが,被告人の精神状態に著しい低下はなかったという点で,B鑑定と結論が一致している。 そうすると,A鑑定及びB鑑定の結果によっても,被告人の責任能力について合理的な疑いを差し挟むような事情はないというべきである。 この点に関する事実誤認の所論は,理由がない。 なお,弁護人は,低下している被告人の責任能力の程度を問題視しているようでもあるが,原判決は,量刑の理由の中で,被告人には,心身症などの持病があることを肯認した上で,本 所論は,理由がない。 なお,弁護人は,低下している被告人の責任能力の程度を問題視しているようでもあるが,原判決は,量刑の理由の中で,被告人には,心身症などの持病があることを肯認した上で,本件犯行当時は精神的に不安定な状態にあったことを指摘して,被告人のために斟酌できる事情の一つに挙げており,被告人の精神状態に配慮をしている。 第2 量刑の基礎となる前提事実の誤認及び量刑不当の主張について所論は,要するに,原判決は,(犯行に至る経緯)として,被告人は,平成11年4月2日に,被害者Eを契約者,被保険者とし,死亡保険金の受取人を被告人とした保険金額600万円の保険契約を締結した後,同月3日未明にガソリンスタンドで灯油18リットルを購入し,Eに対する嫌がらせの意味もあって,同日及び同月6日の2度にわたり同人が居住するアパートに灯油をまくなどして,何者かが灯油をまいていったかのように装うなどした旨認定し,(量刑の理由)においても,被告人は,本件直前に,被害者に生命保険をかけてその死亡保険金の受取人となったり,本件犯行に用いた灯油や多量の睡眠導入剤をあらかじめ入手しているなど,以前から被害者の殺害を意識に置いていたことがうかがわれるのであって,その犯行態様は,極めて悪質なものと言わざるを得ないとか,戸籍上の養親に対して,生きたまま火を着けて殺害するという凶悪かつ残忍で反倫理的な本件犯行が社会に与えた衝撃や恐怖感等,その影響は大きいと説示しているが,(1)上記生命保険を契約したのは被告人ではなく,被害者本人の意思によるものであるし,(2)被告人が灯油や睡眠導入剤を入手したのは,本件殺人事件の準備として行ったわけではなく,(3)被告人と被害者は,借金目的のために養子縁組したのであって,通常の養親子関係とは異なるから,これらの点で,原判 人が灯油や睡眠導入剤を入手したのは,本件殺人事件の準備として行ったわけではなく,(3)被告人と被害者は,借金目的のために養子縁組したのであって,通常の養親子関係とは異なるから,これらの点で,原判決には,量刑の基礎となる前提事実に誤認がある。そして,被告人が保険金目的で,事前に殺害を計画していたとか,被害者を通常の養親のように受け止めて量刑の判断に反映させた上,被告人を懲役12年に処した原判決の量刑は不当に重い,というのである。 以下,検討する。 (1) 関係証拠によると,4月2日付けで,被害者を契約者及び被保険者とし,死亡時の保険金受取人を被告人とする養老保険(保険金額は病気死亡時800万円,災害死亡時1600万円)が締結されているところ,被告人が,その保険料預かり証(保険料領収証)や保険料照会レシートを所持しており,契約申込みの際,被告人も同席していたことが認められるものの,他方で,被害者は,自分で受取人欄を含めて保険契約申込書を書いて郵便局員に渡していること,この郵便局員は,被告人に対し,契約後1年以内に自殺しても保険金は支給されず,2年以内に死亡した場合には審査があり簡単には保険金がおりない旨伝えていること,被害者は,知人の女性に対し,被告人名義で保険に入った,証書が送られてくるので預かってくれ,あいつには,残してやるものが何もないからなどと話していたことも認められる。 そうすると,この保険契約の契約申込者は被害者本人であり,被告人が保険契約を締結したと認定することはできないし,本件犯行の態様をも考慮すると,この保険契約と本件犯行とを結び付けて認定するには,なお合理的な疑いが強く残る。 (2) 次に,関係証拠によれば,被害者は,本件当時,被告人を保証人にするなどして高利貸しから借金をしていたが,4月4日の返 約と本件犯行とを結び付けて認定するには,なお合理的な疑いが強く残る。 (2) 次に,関係証拠によれば,被害者は,本件当時,被告人を保証人にするなどして高利貸しから借金をしていたが,4月4日の返済期日に返済できなかったこと,被告人は,同月3日,灯油を購入し,被害者のアパートに灯油をまいた後,管理人に「男が灯油をまいて火を付けた」と話したこと,同月6日にも灯油をまいたこと,そして,厳しい取り立てを行っていた高利貸しに対し,被害者が自殺した旨うその電話を掛けたり,警察に電話を掛けて,被害者のアパートに灯油がまかれたとか,被害者が高利貸しに追われていて,二,三日前から行方不明であると話していることが認められる。 これらの事実を併せ考慮すると,高利貸しの厳しい取り立てをかわすために,灯油を入手して被害者のアパートにまくなどし,警察を介入させるべく工作を施した,とする被告人の供述をたやすく排斥することはできず,被告人が本件殺人の犯行を念頭に置いて,灯油を入手したとか,被害者のアパートに灯油をまいたと認定することは困難である。 また,被告人は,4月7日,被告人かかりつけの病院で睡眠導入剤20錠等の処方箋を発行してもらい,薬局で被害者に睡眠導入剤を受け取らせたことが認められるものの,被害者は,以前から睡眠導入剤を濫用しており,医師からも濫用しないように忠告されていたことも認められる。そうすると,被告人が,睡眠導入剤を入手させたのは,被害者の求めに応じたものであり,被害者は,本件直前に,自分の意思で睡眠導入剤20錠入りの水溶液を飲んだものであるとの疑いを払拭することはできない。したがって,被告人が,本件殺人の犯行を念頭に置いて,睡眠導入剤を入手したと認定することも困難である。 (3) さらに,関係証拠によれば,被告人は,平成9年1 るとの疑いを払拭することはできない。したがって,被告人が,本件殺人の犯行を念頭に置いて,睡眠導入剤を入手したと認定することも困難である。 (3) さらに,関係証拠によれば,被告人は,平成9年10月30日に被害者と養子縁組をしたが,同年11月11日に協議離縁し,再度,平成10年11月4日養子縁組しているところ,被告人の負債額や借入の状況に照らし,名字を変えて借金をするために養子縁組を繰り返したという被告人の弁解をたやすく排斥することができない。 以上によれば,原判決が,(犯行に至る経緯)で,被告人が被害者の生命保険契約を締結したと認定し,(量刑の理由)の中で,「被告人は,本件直前に,被害者に生命保険をかけてその死亡保険金の受取人となったり,本件犯行に用いた灯油や多量の睡眠導入剤をあらかじめ入手しているなど,以前から被害者の殺害を意識に置いていたことがうかがわれるのであって,その犯行態様は,極めて悪質なものと言わざるを得ない。」とか,被害者が戸籍上の養親に当たることをもって反倫理的な犯行であると説示しているのは,量刑判断の基礎となる事実の認定に誤りがあるといわざるを得ない。 そして,上記の点を加えて,本件の犯情を検討すると,被告人に対する原判決の量刑はいささか重きに失するというべきである。 所論は理由がある。 なお,原判決は,原審における未決勾留日数中360日を刑に算入しているところ,被告人は,平成11年4月9日,本件殺人の事実で勾留され,同年8月27日に起訴された後も勾留が継続され,平成14年9月27日に一審判決を受けている。この間,平成11年4月27日から同年8月27日までは起訴前の鑑定留置がなされ,原審において,平成12年9月5日及び平成13年7月9日にいずれも鑑定が採用されている(鑑定留置がなされたのは, ている。この間,平成11年4月27日から同年8月27日までは起訴前の鑑定留置がなされ,原審において,平成12年9月5日及び平成13年7月9日にいずれも鑑定が採用されている(鑑定留置がなされたのは,平成13年2月5日から同月9日まで)。また,判決の宣告日を含めて,17回公判が開かれている。 そうすると,本件事案の内容,審理の状況などを考慮に入れても,3年を超える期間身柄を拘束されている被告人に対し,未決勾留日数のうち360日しか刑に算入しなかった原判決は,その算入につき,裁量を著しく逸脱しているものであり,この点においても,破棄を免れない。 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において,更に判決する。 原審が認定した罪となるべき事実(ただし,6行目の「前記F」を「不倫相手のF」とする。)に原判決が挙示する法条を適用(刑種の選択を含む。)し,所定刑期の範囲内で被告人を懲役10年に処し,刑法21条を適用して,原審における未決勾留日数中720日をその刑に算入し,原審及び当審における訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (責任能力に関する弁護人の主張に対する判断)上記第1の2に記載したとおりであるから,これを引用する。 (量刑の理由)本件は,被告人が,被害者の言動に腹を立て,激情の余り,被害者に灯油を掛けて焼き殺したという事案である。 被告人は,被害者から執拗に肉体関係を求められて,不快感や嫌悪感を募らせていたところ,さらに,被告人及び被告人の不倫相手のことをなじられて強く侮辱されたため,本件犯行に及んだというのであるが,被害者には命を奪われなければならないほどの落ち度があったとはいえず,殺害を決意した動機はなお短絡的である。 人の不倫相手のことをなじられて強く侮辱されたため,本件犯行に及んだというのであるが,被害者には命を奪われなければならないほどの落ち度があったとはいえず,殺害を決意した動機はなお短絡的である。 犯行の態様は,多量の睡眠導入剤を飲んで昏睡状態にあった被害者を自動車に乗せて人気の少ない場所まで連れて行き,路上に引きずり出した上,その身体に灯油を掛けて火を着けたというものであり,誠に残忍で悪質である。生きたまま炎に包まれて殺害された被害者の無念さや苦痛は計り知れず,人命を奪った結果は重大である。被害者は,家族との連絡を絶って生活していたとはいうものの,本件被害の連絡を受けた遺族の衝撃は大きい。それにもかかわらず,被告人は,何ら慰謝の措置を講じていないのであって,遺族の被害感情には厳しいものがある。 また,被告人は,本件犯行後,犯行に用いた灯油入りポリタンクなどを知人に預けて処分を依頼するなどの証拠隠滅工作を図っていた。 そうすると,本件の犯情はよくなく,被告人の刑事責任は重大である。 しかしながら,本件は,既に検討したように,あらかじめ計画された犯行ではないこと,被告人と被害者は,売春婦と客引きという特殊な関係にあり,被害者の言動にも問題があったこと,被告人は,幼少時代の生活環境が人格の形成に影響していると考えられ,本件犯行当時も,責任能力の判断には影響しないものの精神的に不安定な状態にあったこと,罰金刑以外に前科前歴はないこと,逮捕されてから4年以上身柄の拘束を受けていることなど被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらの事情を総合考慮して,主文のとおり刑を定める。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年6月24日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官久保眞人 主文 慮して,主文のとおり刑を定める。よって,主文のとおり判決する。 理由 平成15年6月24日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官久保眞人 裁判官芦高源裁判官島田一
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