主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中30日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人(昭和21年生まれ)は、妻と共に、いずれも最重度の知的障害等を抱える長男(昭和52年生まれ。令和3年9月、誤嚥の影響により死亡)と二男のA(昭和54年生まれ)を、a県b市等の自宅で養育、介護してきたものであるところ、Aが平成16年から長期入所していたa県立の障害者支援施設を平成17年に退所してからは同施設等を中心に複数の支援施設の短期入所を利用していたが、既にその頃までに、Aの障害特性から施設側でも介護に困難を来す状態になっており、自宅での介護も非常に負担の重い状態が続き、令和2年には妻が包丁を持ち出して一家心中すると叫ぶなどし、既に限界を感じていた被告人が、その頃までに前記県立施設へ長期入所を申し込み、その後も、令和5年までに前記県立施設に対し自宅での介護が限界であるとか、別の支援施設に対しこのままではAを殺してしまうかもしれないなどと訴えたもののこれがかなうことはなく、このほか、令和4年の妻の入院を機にAを入院させた精神病院からもやがて入院を断られるようになり、他のa県内の支援施設に入所させようとしても空きがなかったり断られたりしたため、主に自宅での介護が長く続いていた。そうしたところ、Aが自宅を抜け出し近所の店舗でトラブルを起こしたのをきっかけに、被告人は、このままbにいても長期入所等の支援は期待できず、これ以上近隣に迷惑をかけることもできないと考え、令令和6年(わ)第1204号殺人被告事件令和7年3月12日千葉地方裁判所刑事第5部宣告 和6年5月下旬、迷惑をかけずに済みそうなc県d郡e村の住宅に転居した。しかし、程なくしてAの 和6年(わ)第1204号殺人被告事件令和7年3月12日千葉地方裁判所刑事第5部宣告 和6年5月下旬、迷惑をかけずに済みそうなc県d郡e村の住宅に転居した。しかし、程なくしてAの暴れる頻度が日に日に増して同年7月2日からは連日となり、同月4日当日もひどく暴れ玄関から外に出ようとしたため、被告人がこれを押さえ付け、Aもおとなしくなったが、被告人は、Aが連日暴れたことが初めてであったことなどから動揺し、高齢の自分か妻のどちらかが先に倒れたらAの面倒をみる人はいないなどと将来を悲観したほか、長く続く限界の状態から解放されたい、Aが自身を傷つけ血だらけになる姿が気の毒でこれ以上見たくないなどと考え、とっさにAを殺して、もう終わりにしようと決意し、付近からテレビアンテナコードを持ち出した。 (犯罪事実)被告人は、令和6年7月4日午後8時20分頃から同日午後8時37分頃までの間に、c県d郡e村(住所省略)被告人方において、うつ伏せになっていたA(当時44歳)の背中の上にまたがり、殺意をもって、その頸部を、二重に巻き付けたテレビアンテナコードで締め付け、よって、同日午後10時43分頃、同県f市(住所省略)Bメディカルセンターにおいて、Aを頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した。 なお、被告人は、犯行後直ちに110番通報し、前記犯行を警察官に申告して自首した。 (量刑の理由)本件は、被害者が父親の手にかかって殺害されたという痛ましい事件である。 もとより人一人の命が奪われた結果はこの上なく重大である。どのような理由であれ殺害という手段を選択した被告人は非難されるべきであり、二度とこのような事件が起きてはならないという思いも込めると、たやすく刑の執行を猶予すべきではない。 しかしながら、被害者は、その障害特性により、 という手段を選択した被告人は非難されるべきであり、二度とこのような事件が起きてはならないという思いも込めると、たやすく刑の執行を猶予すべきではない。 しかしながら、被害者は、その障害特性により、言葉による意思疎通ができず、度々自宅のふすまや電化製品を壊すなどして暴れるほか、店舗の商品をひっかき回 すこともあるなど、障害者支援施設の介護職員でさえその支援に困難を感じていたが、そのような被害者に対し、被告人の妻は、食事や入浴を介助し、被告人は、暴れた際の対応を担って妻を守り、被害者の求めに応じて朝晩合計長時間となるドライブに連れて行き、その間、妻に買い物等の時間を与え、なかなか寝ない被害者のそばにいて睡眠時間を削りながら見守るなど、長年にわたり愛情を注いで献身的に支えてきたのであって、その苦労や大変さは言葉にできない。被告人自身、支援施設に対し、限界に来ていることを幾度か訴えながらも、頼みの県立の支援施設からは長期入所を断られ、被告人なりに手を尽くしても、そのほかの支援施設や精神病院からも十分な支援が得られず、支援施設側にも事情があったと思われるが、被告人にしてみれば、いくら望んでも十分な福祉的な支援が受けられないという絶望的な状況にあったと考えられる。しかも、転居先の村の担当職員からは、短時間利用できる施設でも見つけるのは難しいかもしれないと言われている。このほか、その村の支援の実態を調べなかったことは、それまでの経緯から村からの支援に期待できないと考えたためであるというのは理解できるし、訪問介護については被害者の障害特性や金銭的理由から選択肢に入らなかったとするのも理解できる。また、被害者から守るべき存在でもあった妻、あるいは密な交流をしてこなかった実弟らに相談しなかったところも無理からぬ面がある。 そして、被告人は、自身や ら選択肢に入らなかったとするのも理解できる。また、被害者から守るべき存在でもあった妻、あるいは密な交流をしてこなかった実弟らに相談しなかったところも無理からぬ面がある。 そして、被告人は、自身や妻の衰えを感じる一方で、被害者の状態の急激な悪化に直面して犯行を決意したのであるが、このような事情からすると、被告人としてはかなり追い詰められた状況で犯行に及んだものといえる。そうすると、被告人への非難の度合いは強いものではなく、犯行に至る経緯には被告人のために酌むべきところが多くあるため、被告人だけを責めるのは酷というべきである。 こうした犯情を踏まえると、刑の執行を猶予することも許容されなくはないと考えられるところ、被告人が犯行直後に誰から促されることなく自首をし、保釈後に墓参して被害者にどのような刑であっても罪を償っていくと伝えるなどして反省を深めているほか、被告人の妻や実弟らが被告人を支えていく旨誓約していることも 併せ考慮すると、被害者へのしょく罪と供養は刑事施設ではなく社会内で行わせるのが相当である。 よって、同種事案の量刑傾向も参考にして、主文のとおり量刑した。 (求刑)懲役5年(弁護人の科刑意見:執行猶予付き判決)令和7年3月12日千葉地方裁判所刑事第5部裁判長裁判官浅香竜太 裁判官廣瀬裕亮 裁判官沢田優乃
▼ クリックして全文を表示