主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 名古屋入国管理局長が原告に対して平成19年4月20日付けでした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決を取り消す。 2 名古屋入国管理局主任審査官が原告に対して平成19年4月20日付けでした退去強制令書発付処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は,フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)の国籍を有する外国人であるとされた原告が,名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当する旨の認定を,名古屋入管特別審理官から,上記認定に誤りがない旨の判定をそれぞれ受けたため,法務大臣に対し異議の申出をしたところ,法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長(以下「名古屋入管局長」という。)から,上記異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から退去強制令書発付処分(以下「本件退令発付処分」といい,本件裁決と併せて「本件各処分」という。)を受けたところ,原告の祖母及び母親はいずれも日本人であり,原告は,フィリピン国籍に加え日本国籍をも有しているから,この点を看過してされた本件各処分はいずれも違法であるなどと主張して,これらの各取消しを求めた事案である。 2 法令等の定め (1) 入管法(ただし,同法24条4号ロについては,平成21年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)ア入管法2条柱書は,同法及びこれに基づく命令において,同条各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号 ただし,同法24条4号ロについては,平成21年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)ア入管法2条柱書は,同法及びこれに基づく命令において,同条各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによると規定し,同条2号は,「外国人」の意義を「日本の国籍を有しない者」と定めている。 イ同法24条柱書は,同条各号のいずれかに該当する外国人については,同法第5章(退去強制の手続)に規定する手続により,本邦からの退去を強制することができる旨規定し,同条4号として,本邦に在留する外国人(仮上陸の許可,寄港地上陸の許可,通過上陸の許可,乗員上陸の許可又は遭難による上陸の許可を受けた者を除く。)で同号イからヨまでに掲げる者のいずれかに該当するものを掲げ,同号ロは,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者を掲げている。 (2) 国籍法ア昭和59年法律第45号(以下「昭和59年改正法」という。)による改正前の国籍法(以下「旧国籍法」という。)旧国籍法2条柱書は,子は,同条各号に掲げる場合には日本国民とする旨規定し,同条3号は,「父が知れない場合又は国籍を有しない場合において,母が日本国民であるとき」を掲げている。 イ旧国籍法2条3号の廃止昭和60年1月1日,昭和59年改正法が施行され,これにより旧国籍法2条3号は廃止され,昭和59年改正法による改正後の国籍法(以下「新国籍法」という。)2条1号により,出生の時に父又は母が日本国民であるとき,子は日本国民とするとされた。 ウ昭和59年改正法附則(ア) 昭和59年改正法附則5条1項は,昭和40年1月1日から同法の施行の日(昭和60年1月1日)の前日までに生まれた者(日本国民で あったものを除く。)でその出生の時に母が日本国民であっ (ア) 昭和59年改正法附則5条1項は,昭和40年1月1日から同法の施行の日(昭和60年1月1日)の前日までに生まれた者(日本国民で あったものを除く。)でその出生の時に母が日本国民であったものは,母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,施行日から3年以内に,法務省令で定めるところにより法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる旨規定し,同条3項は,同条1項に規定する届出をしようとする者が天災その他その責めに帰することができない事由によって同項に定める期間内に届け出ることができないときは,その届出の期間は,これをすることができるに至った時から3月とする旨規定する。 (イ) さらに,同附則6条1項本文は,父又は母が同附則5条1項の規定により日本の国籍を取得したときは,子(日本国民であったものを除く。)は,同項に定める期間内に,法務省令で定めるところにより法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる旨規定し,同項ただし書は,その父又は母が養親であるとき,又は出生の後に認知した者であるときは,この限りでない旨規定する。 (3) 平成元年法律第27号による改正前の法例(以下「旧法例」という。)ア旧法例13条1項本文は,婚姻成立の要件は各当事者につきその本国法によってこれを定める旨規定し,同項ただし書は,その方式は婚姻挙行地の法律による旨規定する。 イ同法14条は,婚姻の効力は夫の本国法による旨規定する。 ウ同法17条前段は,子の嫡出であるか否かはその出生の当時母の夫の属した国の法律によってこれを定めると規定する。 エ同法18条1項は,子の認知の要件はその父又は母に関しては認知の当時父又は母の属する国の法律によってこれを定め,その子に関しては認知 時母の夫の属した国の法律によってこれを定めると規定する。 エ同法18条1項は,子の認知の要件はその父又は母に関しては認知の当時父又は母の属する国の法律によってこれを定め,その子に関しては認知の当時子の属する国の法律によってこれを定める旨規定し,同条2項は,認知の効力は父又は母の本国法による旨規定する。 オ同法8条1項は,法律行為の方式はその行為の効力を定める法律による と規定し,同条2項本文は,行為地法によった方式は前項の規定にかかわらずこれを有効とする旨規定する。 (4) フィリピン民法(1949年6月18日法律,1988年8月4日に廃止される以前のもの。以下「フィリピン民法」という。乙15)ア婚姻同法55条1項前段は,婚姻の儀式には何ら特定の形式も要求されないが,婚姻する法的資格を有する両当事者は,婚姻の挙式を司る者と法律上の成年に達した2名の証人の面前で,互いに夫婦となることを宣言しなければならない旨規定し,同項後段は,この宣言は,婚姻当事者と前述の2名の証人の署名又は印を付して印書し,かつ婚姻の挙式を司る者が認証した文書3通に述べなければならない旨規定する。 イ法定別居(離婚制度の不存在)同法上,法定別居(第4編)の規定は設けられているが,離婚の規定は存在せず,また,法定別居は,裁判所の判決によってのみ行われ,かつ,法定別居の判決は,夫婦に互いに別居する権利を認めるにとどまり,両者間の婚姻関係の消滅は認めていない。 ウ嫡出推定(ア) 同法255条1項は,婚姻成立から180日後,又は,婚姻の解消若しくは配偶者の別居後300日以内に生まれた子は嫡出と推定する旨規定し,同条2項は,子の出生前300日のはじめの120日の期間において夫が妻と性交することの物理的不可能性の立証以外のいかなる証 若しくは配偶者の別居後300日以内に生まれた子は嫡出と推定する旨規定し,同条2項は,子の出生前300日のはじめの120日の期間において夫が妻と性交することの物理的不可能性の立証以外のいかなる証拠も上記推定に対抗するものとは認めない旨規定する。 (イ) 同法258条前段は,婚姻の成立から180日以内に生まれた子は,一応,嫡出と推定すると規定し,同条後段は,このような子は,次のそれぞれの場合においては,終局的に嫡出と推定する旨規定し,1号として夫が妻の懐妊を婚姻前に知っているときを,2号として夫が出頭して 子の出生の記録に自己の氏を付することに同意したときを,3号として夫が明白に又は暗黙に自分の子であることを認めたときを,それぞれ掲げている。 エ認知(ア) 同法276条は,未嫡出子は,父母が共同で又は父母のいずれか一方のみにより認知され得る旨規定する。 (イ) 同法278条は,認知は,出生登録,遺言,登記裁判所における陳述又は真正な文書で行わなければならない旨規定する。 (ウ) 同法282条柱書は,認知された未嫡出子は次の権利を有すると規定し,1号として認知した親の氏を称する権利を,2号として第291条に従い,認知した親から扶養を受ける権利を,3号として該当する場合に,本法典に定められた世襲相続分を受ける権利を,それぞれ掲げている。 (5) 「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の規定に基づき同法別表第2の定住者の項の下欄に掲げる地位を定める件」(以下「定住者告示」という。)ア入管法7条1項2号の規定に基づき,定住者告示が定められているところ,平成18年法務省告示第172号による改正(同年4月29日施行)前の定住者告示(以下「旧定住者告示」といい,同改正後の定住者告示を「新定住者告示」という。)3号は 定住者告示が定められているところ,平成18年法務省告示第172号による改正(同年4月29日施行)前の定住者告示(以下「旧定住者告示」といい,同改正後の定住者告示を「新定住者告示」という。)3号は,同法7条1項2号の規定に基づき同法別表第2の定住者の項の下欄に掲げる地位であらかじめ定めるものの一つとして,「日本人の子として出生した者の実子(前2号に該当するものを除く。)に係るもの」を掲げていた。 イ旧定住者告示3号は,上記改正により,「日本人の子として出生した者の実子(前2号又は第8号に該当する者を除く。)であって素行が善良であるものに係るもの」と改められた(新定住者告示3号。以下,上記改正によ り定住者告示3号に付加された「素行が善良であるもの」という要件を「素行善良要件」という。)。 3 前提となる事実本件において,以下の各事実は,掲記の各証拠(書証番号は特記しない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる。 (1) 原告及びその関係者についてア原告は,昭和▲(▲)年▲月▲日,フィリピンで出生した,同国国籍を有する男性である(甲4,7,14。ただし,フィリピン国籍のほかに日本国籍を有するか否かにつき争いがある。)。 イ Aは,▲(昭和▲)年又は▲(昭和▲)年▲月▲日に出生した,フィリピン国籍を有する女性であり,原告の母である(甲6,7から9まで,16。ただし,フィリピン国籍のほかに日本国籍を有するか否かにつき争いがある。)。 ウ Bは,フィリピン国籍を有する外国人男性であり,原告の父である(甲4。ただし,原告が出生時に原告との間に法律上の親子関係があるか否かにつき争いがある。)。 エ Cは,フィリピン国籍を有する外国人男性であり,Aの父である(甲6から10まで,16。 の父である(甲4。ただし,原告が出生時に原告との間に法律上の親子関係があるか否かにつき争いがある。)。 エ Cは,フィリピン国籍を有する外国人男性であり,Aの父である(甲6から10まで,16。ただし,Aが出生時にAとの間に法律上の親子関係があるか否かにつき争いがある。)。 Cは,平成▲年▲月▲日に死亡した(甲7)。 (2) 原告の入国歴ア原告は,平成2年7月5日,大阪国際空港において,入国審査官から,在留資格を「興行」,在留期間を3か月とする上陸許可を受けて本邦に上陸した(乙1)。 イ原告は,同月17日,岡山市役所において,居住地を「岡山県岡山市α ×-×××号室」,世帯主を原告本人として,外国人登録の新規登録を行った(乙1)。 ウ原告は,同年10月3日,広島入国管理局宇野港出張所において,在留期間を3か月とする在留期間更新許可を受けた後,その在留期間内に本邦から出国した(乙1)。 (3) 原告の今回の入国及び不法残留ア原告は,平成10年6月27日,名古屋空港において,入国審査官に対し,自己がフィリピン国籍を有する者であるとして,フィリピン政府発行の原告名義旅券を提示して上陸許可を申請し,同審査官から,在留資格を「短期滞在」,在留期間を90日とする上陸許可を受けて本邦に上陸した(乙1,5,12)。 イ原告は,その後,在留期間の更新又は在留資格の変更許可を受けることなく,在留期限である同年9月25日を超えて本邦に残留した(乙1)。 (4) 本件各処分に至る経緯ア原告は,平成19年2月6日,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)違反(客引き行為)の被疑事実で,愛知県警昭和警察署員に現行犯逮捕され,同月16日には不起訴処分とされいったん釈放されたが,同日,入管法違 制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)違反(客引き行為)の被疑事実で,愛知県警昭和警察署員に現行犯逮捕され,同月16日には不起訴処分とされいったん釈放されたが,同日,入管法違反(不法残留)で同署員に現行犯逮捕された(乙1,3,6)。 イ原告は,同年3月12日,名古屋地方裁判所において,入管法違反の罪で○の有罪判決の言渡しを受けた。同判決は,その後,控訴されることなく確定した(乙1,3,5)。 ウ名古屋入管入国警備官は,同月1日,原告に対する違反調査を開始し,同月9日,原告が同法24条4号ロに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして,名古屋入管主任審査官から収容令書の発付を受けた上で,同月12日,同令書を執行し,原告を名古屋入管に収容した(乙1,2)。 エ名古屋入管入国警備官は,同日,原告に対し違反調査を実施し,原告を名古屋入管入国審査官に引き渡した(乙1,3)。 オ名古屋入管入国審査官は,同日及び同月28日,原告に対しそれぞれ違反審査を実施した結果,原告が同法24条4号ロに該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨認定し,原告にこれを通知したところ,原告は,口頭審理を請求した(甲1,乙1,4,5)。 カ名古屋入管特別審理官は,同年4月10日,原告に対し口頭審理を実施した結果,入国審査官の前記認定に誤りがない旨判定し,原告にこれを通知したところ,原告は,同日,法務大臣に対し異議の申出をした(甲2,乙1,6,7)。 キ法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入管局長は,同月20日,原告の上記異議の申出には理由がない旨の本件裁決をし,同日,名古屋入管主任審査官にこれを通知した(乙1,8,9)。 ク名古屋入管主任審査官は,同日,原告に対し,本件裁決を通知するとともに,本件退令発付処分を行 の申出には理由がない旨の本件裁決をし,同日,名古屋入管主任審査官にこれを通知した(乙1,8,9)。 ク名古屋入管主任審査官は,同日,原告に対し,本件裁決を通知するとともに,本件退令発付処分を行った(甲3,乙1,10)。 (5) 本件退令発付処分の執行及び仮放免ア名古屋入管入国警備官は,平成19年4月20日,原告に対し退去強制令書を示して執行し,原告を名古屋入管収容場に収容した(乙1,10)。 イ名古屋入管入国警備官は,同月24日,原告を法務省入国者収容所西日本入国管理センターに移送した(乙1,10)。 ウ原告は,平成19年11月16日,仮放免された(乙11)。 (6) 本件訴訟の提起(当裁判所に顕著な事実) 原告は,平成19年10月19日,本件訴訟を提起した。 4 争点本件では,本件各処分の適法性が争点となるが,具体的には,以下のとおりである。 (1) 原告が「外国人」(入管法2条2号)に当たるか否かについての立証責任の所在(2) 原告が「外国人」(同号)に当たるか否か(3) 原告に対し在留特別許可を付与しないでした名古屋入管局長の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか否か(4) 本件退令発付処分の適法性第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)(原告が「外国人」に当たるか否かの立証責任)について【被告の主張】退去強制令書発付処分は「外国人」(入管法24条柱書)であることをその処分要件としているのであるから,退去強制令書発付処分取消訴訟において,処分行政庁は,被処分者が「外国人」であることについて立証責任を負う。 もっとも,「外国人」とは,同法2条4号において「日本国籍を有しない者」と定義づけられた法律概念であり,「日本国籍を有」するか否かは,我が国の国籍法の規定する日本国籍取 とについて立証責任を負う。 もっとも,「外国人」とは,同法2条4号において「日本国籍を有しない者」と定義づけられた法律概念であり,「日本国籍を有」するか否かは,我が国の国籍法の規定する日本国籍取得要件充足性の問題であるところ,国籍確認訴訟等において日本国籍を取得したと主張する者には日本国籍取得要件該当性についての立証責任があると解するのが一般的な理解であることに照らせば,入管法24条柱書にいう法律概念としての「外国人」すなわち「日本国籍を有しない者」とは,具体的には「国籍法所定の日本国籍取得要件の立証がない者」をいうと解するのが相当である。そうすると,結局,外国人であることを争う当該被処分者において,日本国籍取得要件があることにつき積極的に主張立証できない限り,処分行政庁による主張立証が尽くされたことになる。 したがって,退去強制令書発付処分取消請求訴訟については,原告が「日本国籍取得の要件があること」について立証責任を負うのであり,被告は「日本国籍取得の要件がないこと」について立証責任を負うものではない。 のみならず,入管法60条及び61条が,日本国籍の有無を判断するに際し ては戸籍の存否が最も重要な資料となることを前提として,日本人の出国及び帰国に際し,戸籍に基づき発給される日本国旅券(旅券法3条1項)の所持を義務付け,入管法61条が,日本国旅券を所持しない者が日本国民であると主張する場合について「日本の国籍を有することを証する文書」の所持を義務づけていることに照らせば,日本国旅券を所持することなく,外国旅券を所持し,外国人として上陸の申請をして本邦に入国した者については,上記の「国籍法所定の日本国籍取得要件の立証がない者」であることが事実上推定されると解すべきである。 そうであるところ,原告は,日本国旅券あるいは として上陸の申請をして本邦に入国した者については,上記の「国籍法所定の日本国籍取得要件の立証がない者」であることが事実上推定されると解すべきである。 そうであるところ,原告は,日本国旅券あるいは日本国籍を有することを証する文書を所持せず,すなわち,日本人としてではなくフィリピン旅券を所持して,外国人として上陸の申請をし,その許可を受けて本邦に上陸した者であるから,上記事実上の推定が及び,原告が日本国籍を有することにつき上記推定を覆すに足りる明確な根拠に基づく反証を行わない限り,被告の主張立証は尽くされたことになる。 【原告の主張】退去強制令書の発付の対象が日本国籍を有しない外国人であることは明らかであり,容疑者が日本国籍を有していないことは,正に行政庁の権限行使規定の要件事実であること,憲法22条が保障する居住・移転の自由は,日本人が国外追放されない権利があることを当然の前提としていると考えられ,日本国民を退去強制することは当然に日本国民に保障された権利・自由の制限となること,法務大臣は戸籍を管轄しており,仮に婚姻届が提出されていれば,ある程度手間がかかるとしても,国が管理する戸籍の中から届出の有無を確認することができる一方,容疑者にはそのような能力がなく,マスコミに訴え出たとしても関係者が自ら名乗り出ることを期待することも困難であることに鑑みれば,処分取消訴訟における立証責任の分配について有力とされる複数の見解のいずれを採ったとしても,当該容疑者が日本国籍を有しないことにつき被 告が立証責任を負うと解すべきである。このことは,大阪地判昭和40年1月30日・行政事件裁判例集16巻1号128頁,最判平成7年1月27日・民集49巻1号56頁の説示内容及び刑事事件における立証責任とのバランスの観点に照らしても明らかである は,大阪地判昭和40年1月30日・行政事件裁判例集16巻1号128頁,最判平成7年1月27日・民集49巻1号56頁の説示内容及び刑事事件における立証責任とのバランスの観点に照らしても明らかである。 被告は,原告がフィリピンのパスポートを所持して入国したことを強調するが,原告が日本国籍を有することは複雑な旧国籍法及び国際私法の解釈から導かれるものである以上,原告が自己が日本国籍を有することを認識せず,フィリピン国籍しか有しない者として振る舞っていたとしても,そのことが客観的に定まるべき原告の日本国籍の有無及びそれについての立証責任の所在に影響するものではない。 2 争点(2)(原告が「外国人」に当たるか否か)について【原告の主張】Aは,▲(昭和▲)年▲月▲日,日本人であるDと,フィリピン国籍を有するCとの間の非嫡出子として,日本国沖縄県において出生した者であり,Cから日本法上の認知を受けていないため,旧国籍法2条3号にいう「父の知れない場合」に該当し,日本国籍を有する。 そして,原告は,日本国籍を有するAと父であるBとの間に非嫡出子として生まれた子であり,Bにより日本法上の認知を受けていないため,やはり上記にいう「父の知れない場合」に該当し,日本国籍を有する。 したがって,原告は,入管法2条2号の「外国人」に該当しない。 【被告の主張】原告は,原告の祖母であるDが日本人であり,Aも日本国籍を有する旨主張する。しかしながら,Dなる者の存在すら確認することができないし,その者が日本国籍を有するかどうかも不明である。仮にAの母親が日本人であったとしても,その日本人母とフィリピン人父との間には法的婚姻関係があったか,又は,フィリピン人父がAを胎児認知した可能性が高い。また,いわゆる血統 主義を採用し,「父がフィリピン 人であったとしても,その日本人母とフィリピン人父との間には法的婚姻関係があったか,又は,フィリピン人父がAを胎児認知した可能性が高い。また,いわゆる血統 主義を採用し,「父がフィリピン群島の市民である者」につき認められるフィリピン国籍をAが有していることからすれば,AとCとの間には法的親子関係があると考えられる。そうだとすればAについて「父が知れない」場合に該当するとはいえず,Aが日本国籍を有する者であるとはいえない。さらに,原告の父についても,原告を嫡出子として登録していることからすれば,AがBと結婚していた可能性は否定できない。そうすると,原告は,自己が国籍法所定の日本国籍取得要件を充足することにつき反証ができているとはいえない。 これらに加え,原告が本邦への入国に際しフィリピン旅券を所持し,上陸申請に際して外国人入国記録の国籍欄に自己の国籍を「FiLiPiNO」と記載し,退去強制手続の各段階においても自己がフィリピン国籍であることを供述していたこと,フィリピンにおいても公的に同国人として扱われていること,本邦において外国人であることを前提に入管法違反の罪により有罪判決を受けていることに照らせば,原告は外国人(フィリピン人)であり,「外国人」に該当するというべきである。 3 争点(3)(原告に在留特別許可を付与しなかった名古屋入管局長の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否か)について【原告の主張】仮に原告が日本国籍を有すると認められない場合でも,Aが上記のとおり日本国籍を有するから,原告は,「日本人の子として出生した者」であり,入管法別表第2の「日本人の配偶者等」に該当するほか,昭和59年改正法附則5条1項,3項の規定により,法務大臣に対する届出による日本国籍の取得が認められる者である。また,仮にAが日 した者」であり,入管法別表第2の「日本人の配偶者等」に該当するほか,昭和59年改正法附則5条1項,3項の規定により,法務大臣に対する届出による日本国籍の取得が認められる者である。また,仮にAが日本国籍を有すると認められない場合でも,原告の祖母であるDが日本国籍を有する者であるから,原告は,定住者告示3号にいう「日本人の子として出生した者の実子」に該当する。 それにもかかわらず,本件裁決は,原告がこのような立場にあることを全く考慮せずにされたものであるから,社会通念に照らし,著しく妥当性を欠くこと が明らかであり,裁量権の範囲を超え又はその濫用に当たるものとして取り消されるべきである。 【被告の主張】(1) 憲法上,外国人は,本邦に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き本邦に在留することを要求する権利を保障されているものでもないこと(最判昭和53年10月4日・民集32巻7号1223頁(以下「マクリーン判決」という。)参照),国内外の諸般の事情を総合考慮することが要求される在留特別許可の特質上,その許否の判断は出入国管理行政の責任を負う法務大臣に委ねられるべきであること,在留期間の更新について定めた入管法21条3項の場合と異なり,在留特別許可の許否は,そもそも退去強制事由該当性を前提とする上,在留特別許可を付与すべき要件が何ら具体的に規定されていないことに照らせば,在留特別許可の付与に係る法務大臣の裁量権の行使が違法と評価されるのは,法務大臣がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて裁量権を行使したものと認め得るような特別な事情がある場合等,極めて例外的な場合に限られるものというべきであり,このことは,法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入管局長にも妥当する。 (2) 原告は, を行使したものと認め得るような特別な事情がある場合等,極めて例外的な場合に限られるものというべきであり,このことは,法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入管局長にも妥当する。 (2) 原告は,在留期限を超えて不法残留した者であるから,入管法24条4号ロの退去強制事由に該当し,法律上当然に本邦から退去強制されるべき者であるところ,不法残留・不法就労の目的で本邦に入国した点で入国態様が悪質である上,来日後すぐに就労を開始し,在留期間経過後も含めて合計8年半以上にわたって本邦で不法就労を継続していた点は,本邦の出入国管理制度を乱す悪質なものである。 他方,原告は,フィリピンで出生・成育し同国で教育を受け生活を営んできた成人男性であり,稼働能力にも特段の問題はなく,原告がフィリピンに帰国したとしても,同国での生活に特段の支障があるとは認められない。 なお,原告は,原告が日系人であり,本件裁決は原告が定住者告示に該当し得る者であることを考慮せずにされたものである旨主張する。しかし,前記2【被告の主張】のとおり,そもそもDなる日本人の存在すら確認できないのであるから,上記主張は失当である。また,原告は「短期滞在」の在留資格で本邦に上陸し,適法な在留期間内に「定住者」への在留資格変更許可申請を行ったわけでもない上,仮に原告が日系人であっても,原告は,平成19年3月12日,名古屋地方裁判所において入管法違反(不法残留)により○の有罪判決を受け,同月27日に同判決が確定している者であり,その在留状況からして素行善良の要件を欠き,新定住者告示に該当しないことは明らかである。 また,原告は,仮に原告に日本国籍が認められなくとも,原告の母は日本国籍を有するから,昭和59年改正法附則5条1項及び3項により日本国籍を取得することができる旨 に該当しないことは明らかである。 また,原告は,仮に原告に日本国籍が認められなくとも,原告の母は日本国籍を有するから,昭和59年改正法附則5条1項及び3項により日本国籍を取得することができる旨主張するが,原告の母が日本国籍を有するものでないことは前記のとおりである。 (3) 以上によれば,法律上当然に退去強制処分を受けるべき原告につき,なお我が国に在留することを認めなければならないほどの積極的な事情は何ら認められず,名古屋入管局長がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて裁量権を行使したものと認め得るような特別の事情はなく,本件裁決は適法である。 4 争点(4)(本件退令発付処分の適法性)について【原告の主張】前記2【原告の主張】及び3【原告の主張】のとおり,本件裁決は違法である以上,これを前提としてされた本件退令発付処分も違法である。 【被告の主張】退去強制手続において,法務大臣等から異議の申出に理由がないとの裁決をした旨の通知を受けた場合,主任審査官は,全く裁量の余地なく退去強制令書 を発付しなければならないのであるから,本件裁決が適法である以上,本件退令発付処分も適法である。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告が「外国人」に当たるか否かの立証責任)について(1) 立証責任の所在について入管法24条は外国人について退去を強制することができると規定し,同法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決及び退去強制令書発付処分は,いずれも容疑者が同法2条2号の「外国人」に該当することを前提としており,容疑者が外国人であることは不利益処分の処分要件である以上,被告が,当該容疑者が「外国人」に該当すること,すなわち日本国籍を有しないことにつき立証責任を負うと解すべきである。したがって,本件訴 り,容疑者が外国人であることは不利益処分の処分要件である以上,被告が,当該容疑者が「外国人」に該当すること,すなわち日本国籍を有しないことにつき立証責任を負うと解すべきである。したがって,本件訴訟において,被告が,原告の日本国籍取得要件該当事実が存在しないことについて,立証責任を負うと解すべきである。 これに対し被告は,国籍確認訴訟等における立証責任を考慮し,「原告が日本国籍取得要件の立証がない者」であることについて被告が立証責任を負うと主張する。しかしながら,「日本国籍を有しない者」という要件を,訴訟法上の立証責任を加えた概念としてとらえ,立証責任を転換することを認める合理的理由はない。国籍の確認を求める場合には,自己に有利な法律効果の発生を主張する以上,原告に日本国籍取得要件事実の立証責任があるのに対し,退去強制令書発付処分の取消等を求める場合には,不利益処分である以上,被告に日本国籍取得要件事実がないことの立証責任があるとして,立証責任の所在について別異に解したとしても,何ら不都合はないというべきである。以上のとおり,被告の上記主張は採用することができない。 (2) 事実上の推定の採否についてもっとも,上記のように解すると,当該容疑者が日本国籍を取得する可能性がある要件事実がいずれも存在しないという消極的事実を被告が全て立証 しなければならないことになり,行政庁の情報収集能力が容疑者と比較して高いことを前提としても,不可能を強いることになりかねない。 そして,入管法が,日本国民の出入国を的確に把握し,公正な出入国の管理を行うことを目的として,本邦外の地域に赴く意図をもって出国する全ての日本人に対し,有効な旅券を所持することを義務付けるとともに(同法60条),本邦外の地域から本邦に帰国する全ての日本人に対し,有効 を行うことを目的として,本邦外の地域に赴く意図をもって出国する全ての日本人に対し,有効な旅券を所持することを義務付けるとともに(同法60条),本邦外の地域から本邦に帰国する全ての日本人に対し,有効な旅券(有効な旅券を所持することができないときは,日本の国籍を有することを証する文書)を所持することを義務付けている(同法61条)ことからすれば,入管法上,我が国に帰国する日本国民は,日本国政府発行の有効な旅券又は日本国籍を有することを証する文書(以下「日本国旅券等」という。)を所持していることが予定されているものと解される。そして,我が国の戸籍法においては,日本国籍を有しない者は戸籍に記載されることがなく,かつ,全ての日本国籍を有する者は戸籍に登載されることが予定されており(同法49条,102条から103条まで,105条,106条,110条等参照),旅券法上,我が国の戸籍に記載された者に対しては,同法13条1項各号所定の場合を除くほか,一般旅券(同法2条2号)がいかなる制約もなく発給されること(同法3条1項,5条)に鑑みると,我が国に帰国する日本国民は,日本国旅券等を所持していることが通常であるといえる。そうすると,我が国に帰国する日本国民については,日本国旅券等を所持していることが法律上予定されているのみならず,一般的には,実際にもこれを所持しているということができる。 以上の点を考慮すると,本邦に入国する際,入国審査官に対し,自己が日本国籍を有する者であるとして日本国旅券等を提示することなく,外国国籍を有する者として外国政府発行の旅券を提示して上陸の申請(入管法6条2項)をした者については,その者が日本国籍を有する者でないこと,すなわち,その者の日本国籍取得要件事実が存在しないことが事実上推定されると いうべきである。そ して上陸の申請(入管法6条2項)をした者については,その者が日本国籍を有する者でないこと,すなわち,その者の日本国籍取得要件事実が存在しないことが事実上推定されると いうべきである。そして,その者の日本国籍取得要件事実は,その者自身や尊属に関する事実であって,その者の側により多くの情報や証拠が存在しているのが通常であることも考慮すれば,上記推定を覆すためには,その者において,自己の各日本国籍取得要件事実がいずれも存在する蓋然性があることを自ら主張立証しなければならないと解するのが相当である。 前記前提となる事実のとおり,原告は,平成10年6月27日,名古屋空港において,入国審査官に対し,自己がフィリピン国籍を有する者であるとして,同国政府発行の原告名義旅券を提示して上陸許可を申請し,同審査官から上陸許可を受けて本邦に上陸したというのであるから,原告については,日本国籍取得要件事実が存在しないことが事実上推定されるというべきであり,この推定を覆すためには,原告が,自己の各日本国籍取得要件事実がいずれも存在する蓋然性があることを自ら主張立証する必要があることになる。 (3) 原告の主張についてこれに対し,原告は,原告が日本国籍を有することは複雑な旧国籍法及び国際私法の解釈から導かれるものである以上,原告が自己の日本国籍を有することを認識せず,フィリピン国籍しか有しない者として振る舞っていたとしても,そのことが客観的に定まるべき原告の日本国籍の有無及びそれについての立証責任の所在に影響するものではない旨主張する。しかしながら,前記(2)のとおり,法律上,我が国に帰国しようとする日本人は日本国旅券等を所持していることが予定されており,かつ,実際にもこれを所持しているのが通常であることからすれば,日本国籍を有するにもかかわらず (2)のとおり,法律上,我が国に帰国しようとする日本人は日本国旅券等を所持していることが予定されており,かつ,実際にもこれを所持しているのが通常であることからすれば,日本国籍を有するにもかかわらず日本国旅券等を所持していないというのはごく例外的な場合に留まるのであり,そうである以上,日本国旅券等を所持せずに入国した者が日本国籍取得要件事実が存在しないと事実上推定されることもやむを得ないというべきである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 2 争点(2)(原告が「外国人」に当たるか否か)について (1) 判断枠組み前記1で説示したとおり,原告については,日本国籍取得要件事実が存在しないことが事実上推定され,この推定を覆すためには,自己の各日本国籍取得要件事実がいずれも存在する蓋然性があることを自ら主張立証する必要がある。そして,原告の日本国籍取得要件事実が何かは,原告出生当時の我が国の国籍法,すなわち,旧国籍法の要件に照らして定まるところ,前記法令等の定めのとおり,同法2条3号は,「父が知れない場合又は国籍を有しない場合において,母が日本国民であるとき」は日本国民とする旨規定していることから,原告についてこの要件に該当する各事実が存在する蓋然性があるか否かが問題となる。 (2) 原告の「母が日本国民である」といえるか否かア問題の所在前記前提となる事実のとおり,原告の母がAであると認められるから,Aが日本国籍を有する者であるかどうかが問題となるところ,Aが日本国籍を有する者であるといえるためには,Aについて日本国籍取得要件が充足されている必要がある。そこで,これについてもA出生当時の我が国の国籍法である旧国籍法2条3号に従い,Aの「父が知れない場合又は国籍を有しない場合において,母が日本国 について日本国籍取得要件が充足されている必要がある。そこで,これについてもA出生当時の我が国の国籍法である旧国籍法2条3号に従い,Aの「父が知れない場合又は国籍を有しない場合において,母が日本国民であるとき」に該当するか否かを判断すべきであるが,前記前提となる事実のとおり,本件では,Aの父がフィリピン国籍を有するCであることについては争いがないから,Aの「父が知れない場合」に当たるか否か,及び,Aの「母が日本国民であるとき」に当たるか否かが問題となる。 イ Aの「母が日本国民である」といえるか否か(ア) 原告は,Aの母が日本人であるDであると主張していることから,日本人であるDが実在し,かつ,DがAの母親である蓋然性が高いということができれば,Aについて「母が日本国民である」との要件を充足 する蓋然性が高いということになる。 (イ) そこで検討すると,前記前提となる事実に加え,証拠(甲4,6から10まで,16,証人A)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実が認められる。 aCは,生前,Aに対し,Cが▲年にフィリピンに帰国するまで沖縄に拠点を置くアメリカ軍の軍属であったこと,その際,日本人で鹿児島出身のDと出会い,Dとの間にAが生まれたことや,Aの日本名が「E」であることを述べ,また,Aの従姉妹であるFら周囲の人物に対しても,Aの母親が日本人女性のDであり,Aの日本名が「E」であると述べていた。 bAの小学校時代の記録には,Aが日本国沖縄で▲年▲月▲日に出生したこと,Aの当時の氏名が「G」であったことが記載されている。 cAの申告に基づき1971年3月31日に作成された原告の出生証明書(以下「原告出生証明書」という。)には,A(当時は「○」)が日本国沖縄で出生したことが記載されている。 dAの申告に る。 cAの申告に基づき1971年3月31日に作成された原告の出生証明書(以下「原告出生証明書」という。)には,A(当時は「○」)が日本国沖縄で出生したことが記載されている。 dAの申告に基づき1995年7月19日付けで作成されたAの出生証明書(以下「A第1出生証明書」という。)には,Aが,▲年▲月▲日にフィリピンのβで出生したこと,Aの父親はCであり,母親は日本人であるDであることが記載されている。 eAとHの申告に基づき1995年9月8日付けで作成された両名の婚姻証明書(以下「本件婚姻証明書」という。)には,Aが▲年▲月▲日にフィリピンのマニラで出生したこと,Aの父親はCであり,母親は日本人であるDであることが記載されている。 f 2002年1月11日付けでFの申告に基づき作成されたAの出生証明書(以下「A第2出生証明書」といい,原告出生証明書,A第1出生証明書及び本件婚姻証明書と併せて「本件各証明書」という。) には,Aが▲年▲月▲日にメトロマニラのβで出生したこと,日本国籍を有するDがAの母親であることが記載されている。 (ウ) 上記認定事実によれば,原告の出生以前から,AやFは,Cから,Aの母親が日本人Dであることを聞いており,本件訴訟が提起される相当以前から,Aらは,フィリピンの公的書面を申請する際,Aの母親がDであることを繰り返し申告し,その内容が記載された書面が作成されていたほか,1971年までは,Aの出生地が沖縄である旨の公的書面も作成されていたというのである。このことに加え,アメリカ軍の軍属として沖縄において勤務し,その際に日本人女性と出会い,その女性との間にAが生まれたというCの供述内容が直ちに不自然・不合理とは言い難いこと,「D」という氏名が日本人の氏名であることを推測させること,仮 沖縄において勤務し,その際に日本人女性と出会い,その女性との間にAが生まれたというCの供述内容が直ちに不自然・不合理とは言い難いこと,「D」という氏名が日本人の氏名であることを推測させること,仮に真実はDという日本人が存在せず,Aの母親がD以外の人物であった場合,Cが,Aらに対し,あえてDがAの母親である旨の虚偽の事実を述べる必要性があるとは思われないことを考慮すると,日本国籍を有するDという人物が実在し,かつ,DがAの母親である蓋然性が高いと認めるのが相当である。 (エ) これに対し,被告は,A第1出生証明書,本件婚姻証明書及びA第2出生証明書においては,いずれも,Aの出生地としてフィリピン国内の地名が記載されており,かつ,生年月日についても,▲年▲月▲日ではなく,▲年▲月▲日とされているところ,これらは本件各証明書の記載内容の信用性を疑わせる事情であり,原告の主張とも矛盾していると指摘する。 しかしながら,Aは,A第1出生証明書,本件婚姻証明書及びA第2出生証明書については,自分の生年が▲年であることについて直接証明する文書等を持ち合わせていないにもかかわらず,登録官から生まれた場所について多くの質問をされたことから,沖縄から戻った年である▲ 年を生まれた年として申告しようと思ったこと,Hとの結婚に際し,AはHより年上であったことから,多少なりとも年齢差を小さくすることができ都合がよいとも考えたことを供述しているところ(甲7,証人A),前記認定事実のとおり,Aが▲年に沖縄で出生したという情報がCからの伝聞に基づくものであり,1995年以降に出生証明書を作成するに当たり,その点につきAに十分な資料がなかったとしてもやむを得ないと思われること,また,HとAには,仮にAが▲年生まれだとしても10歳近い年齢差があること り,1995年以降に出生証明書を作成するに当たり,その点につきAに十分な資料がなかったとしてもやむを得ないと思われること,また,HとAには,仮にAが▲年生まれだとしても10歳近い年齢差があること(甲6)を考慮すれば,このような説明がおよそ不合理とまでは言い難い。そうすると,本件各証明書のAの生年及び出生地についての食い違いについては,一応の合理的説明がされているというべきであり,この点は,日本人DがAの母親である旨の上記認定を左右するものではない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 (オ) 以上によれば,日本国籍を有するDという人物が実在し,かつ,DがAの母親である蓋然性があるといえ,Aについて「母が日本国民である」といえる蓋然性はあるというべきである。 ウ Aの「父が知れない」といえるか否か(ア) 前提問題としてのCとDの婚姻関係旧国籍法2条3号にいう「父が知れない」とは,子の出生時に,法律上の父親が判明しないことをいい,生物学上の父親が判明している場合でも法律上の父子関係が成立していない場合を含むと解すべきである。 Cはフィリピン国籍を有する外国人であるから,CとAとの法的親子関係の成立の判断は,まず嫡出親子関係の成立についてその準拠法を適用して行うべきであるところ(最判平成12年1月27日・民集54巻1号1頁),嫡出親子関係とは夫婦の正式な子であるかどうかの問題で,父母が婚姻した夫婦であることが前提であり,A出生当時の我が国の国 際私法である旧法例17条も「母の夫」と父母が婚姻していることを定め,また,同条により準拠法とされるフィリピン民法も,嫡出親子関係が成立する要件として子の出生前に父母が婚姻していることを定めていることから,AとCの嫡出親子関係を判断する前提問題として,CとDの め,また,同条により準拠法とされるフィリピン民法も,嫡出親子関係が成立する要件として子の出生前に父母が婚姻していることを定めていることから,AとCの嫡出親子関係を判断する前提問題として,CとDの婚姻関係の有無を判断する必要があることになる。 この点,渉外的な法律関係において,ある一つの法律問題(本問題)を解決するためにまず決めなければならない不可欠の前提問題があり,その前提問題が国際私法上本問題とは別個の法律関係を構成している場合,その前提問題は,本問題の準拠法によるのでも,本問題の準拠法が所属する国の国際私法が指定する準拠法によるのでもなく,法廷地である我が国の国際私法により定まる準拠法によって解決すべきである(前掲最判平成12年1月27日)。したがって,本件でも,前提問題であるCとDの婚姻関係の有無については,我が国の国際私法である旧法例により定まる準拠法に照らして判断すべきである。 そうであるところ,前記法令の定めのとおり,旧法例13条1項本文は,婚姻成立の要件は各当事者に付きその本国法によってこれを定める旨規定し,同項ただし書は,その方式は婚姻挙行地の法律による旨規定するところ,上記「婚姻成立の要件」とは婚姻の実質的要件を意味し,また,「その方式」とは婚姻の形式的要件を意味するものと解される。 本件では,CとDが婚姻していたとすれば,その挙行地は沖縄又はフィリピンであると考えられる。そうだとすれば,両者間に婚姻が成立していたといるためには,婚姻挙行地である沖縄において有効であった法律,又は,フィリピン法の方式に従った婚姻を行ったことが必要となる。 (イ) 認定事実前記前提となる事実に加え,証拠(甲7から10まで,証人A)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実が認められる。 aCは,生前,Aに対し, ことが必要となる。 (イ) 認定事実前記前提となる事実に加え,証拠(甲7から10まで,証人A)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実が認められる。 aCは,生前,Aに対し,Cが,沖縄占領時代,沖縄に拠点を置くアメリカ軍の軍属であったこと,その際,日本人で鹿児島出身のDと出会い,Dとの間にAが生まれたこと,▲年にCはAを連れてフィリピンに帰国したこと,その際,Dは一緒にフィリピンに来なかったことなどを述べていた。 bAの友人であるI大佐兼弁護士(以下「I」という。)は,Aに対し,Iの母親が,1947年から1951年の間,沖縄の米軍キャンプで洗濯班の監督者として稼働しており,CとDの沖縄滞在中の結婚見届け人(名付け親)をしていた旨述べたことがある。 なお,フィリピンにおいて,「名付け親」というのは,結婚の立会人かつ証人であり,結婚を見届けるとともに,結婚を証明する書類に署名するなどの役割を果たす者をいう。 cAは,1995年にHと婚姻することを決め,婚姻に必要な書類の一つである出生証明書を探したが,記録が見当たらなかったため,Fの協力を得てフィリピンの関係官に申請し,A第1出生証明書を作成した。 dA第1出生証明書には,CとDの婚姻の日付については「出生記録簿に記載なし」と記載され,また,両名の婚姻の場所については空欄となっている。 eA第2出生証明書には,CとDが未婚であることが記載されている。 (ウ) 検討上記認定事実によれば,DとCは沖縄において何らかの結婚式を行った可能性がある一方,Dがフィリピンに渡航して同国内で婚姻したことをうかがわせる証拠は見当たらず,Aの出生記録も1995年の段階で見つからなかったというのであるから,DとCが婚姻していたとすれば,その挙行地は,フィリピンではな ピンに渡航して同国内で婚姻したことをうかがわせる証拠は見当たらず,Aの出生記録も1995年の段階で見つからなかったというのであるから,DとCが婚姻していたとすれば,その挙行地は,フィリピンではなく沖縄である可能性が高いと考えられ る。 そうであるところ,上記認定事実によれば,A第1出生証明書及びA第2出生証明書には,いずれも,CとDが未婚であるか,又は婚姻の記録がない旨記載されているというのであり,両者の交際やAの出生が戦後間もない沖縄における出来事であったことをも考慮すれば,CとDが,当時沖縄で有効であった法律の定める方式に従った婚姻を行っていなかった可能性がないとはいえない。 しかしながら,上記認定事実によれば,Iの母親が沖縄においてCとDの結婚見届け人(名付け親)をしており,名付け親は結婚を見届け,必要な書面に署名するなどの役割を担う者であるというのである。このことに加え,Aが,▲年に沖縄からフィリピンに入国し,以後,フィリピン国民として生活してきていること(甲4,6,9,証人A),Aが,「E」姓を名乗っていることに照らせば,むしろ,CとDが,沖縄において有効であった当時の法律の定める方式に従った婚姻を行い,AがCの嫡出子としてフィリピン国籍を有していた可能性の方がより高いというべきである。 したがって,本件では,CとDが,沖縄において▲年頃当時に有効であった法律の定める方式に従った婚姻を行っていなかった蓋然性があるとはいえない。 (エ) CとAの法的親子関係上記(ウ)のとおり,本件では,CとDの間に婚姻関係がなかったという蓋然性があるとまでは認められない以上,両者間においては婚姻関係があったことを前提として検討することになる。そうすると,CとAの法的親子関係の有無については,旧法例17条の定める準拠法 かったという蓋然性があるとまでは認められない以上,両者間においては婚姻関係があったことを前提として検討することになる。そうすると,CとAの法的親子関係の有無については,旧法例17条の定める準拠法に従って判断することになるところ,同条前段は,子の嫡出であるか否かはその出生の当時母の夫の属した国の法律によってこれを定めると規定してお り,この「母の夫」に該当するのはCであるから,AとCとの法的親子関係の有無は,Cの属する国であるフィリピンにおけるA出生当時の法律,すなわち,フィリピン民法によって判断すべきことになる。 そうであるところ,前記法令等の定めのとおり,フィリピン民法255条1項は,婚姻成立から180日後,又は,婚姻の解消若しくは配偶者の別居後300日以内に生まれた子は嫡出と推定する旨規定し,同条2項は,子の出生前300日のはじめの120日の期間において夫が妻と性交することの物理的不可能性の立証以外のいかなる証拠も上記推定に対抗するものとは認めない旨規定する。また,同法258条前段は,婚姻の成立から180日以内に生まれた子は,一応,嫡出と推定すると規定し,同条後段は,このような子は,次のそれぞれの場合においては,終局的に嫡出と推定する旨規定し,1号として夫が妻の懐妊を婚姻前に知っているときを,2号として夫が出頭して子の出生の記録に自己の氏を付することに同意したときを,3号として夫が明白に又は暗黙に自分の子であることを認めたときを,それぞれ掲げており,Aが上記各規定の要件を充足すれば,AとCとの間の法的親子関係があることになる。 本件では,前記のとおり,CとDが婚姻していた可能性が高い以上,上記各規定により,Aが出生当時,AとCとの間で嫡出親子関係が成立した可能性も高いというべきである。 (オ) 小括以上によ る。 本件では,前記のとおり,CとDが婚姻していた可能性が高い以上,上記各規定により,Aが出生当時,AとCとの間で嫡出親子関係が成立した可能性も高いというべきである。 (オ) 小括以上によれば,CとAとの間に法的親子関係が存在しない蓋然性があるということはできず,Aの「父が知れない」といえる蓋然性があるとはいえない。 (3) まとめ上記(2)ウのとおり,Aの「父が知れない」といえる蓋然性があるとはいえない以上,Aについて日本国籍取得要件が充足されている蓋然性があるとは いえず,原告の「母が日本国民である」といえる蓋然性があるとはいえない。 そして,前記1(2)のとおり,本件では,原告について,日本国籍取得要件事実が存在しないことが事実上推定され,この推定を覆すためには,自己の各日本国籍取得要件事実がいずれも存在する蓋然性があることを自ら主張立証する必要があるところ,原告の「母が日本国民である」蓋然性が立証されているとはいえないのであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告は,自己の各日本国籍取得要件事実がいずれも存在する蓋然性があるとはいえず,上記推定は覆らないことになる。 したがって,原告は,「外国人」に当たる。 3 争点(3)(原告に在留特別許可を付与しなかった名古屋入管局長の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否か)について(1) 在留特別許可に関する法務大臣の裁量権について国家は,国際慣習法上,外国人を受け入れる義務を負うものではなく,外国人を自国に受け入れ,その入国及び在留を許可するかどうか,また,許可する場合にいかなる条件を付するかについての判断権は,国家固有の権能であって,特別の条約等の存しない限り,外国人の入国及び在留の許否は,国家がこれを自由に決定することができるものとさ か,また,許可する場合にいかなる条件を付するかについての判断権は,国家固有の権能であって,特別の条約等の存しない限り,外国人の入国及び在留の許否は,国家がこれを自由に決定することができるものとされているところ,我が国の憲法も,日本国内における居住,移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり(同法22条1項),外国人の本邦への入国については何ら規定しておらず,外国人の入国及び在留の許否について国家に裁量権を認める上記国際慣習法とその考えを同じくするものと解される。したがって,外国人は,憲法上,本邦に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではないと解するのが相当である(マクリーン判決参照)。 このことに加え,入管法24条各号所定の退去強制事由に該当すると認定された外国人に対する在留特別許可の許否についての法務大臣の判断は,そ の性質上,当該外国人の個人的事情や当該外国人に対する人道的配慮のみならず,外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定などの国益の保持の見地に立ち,当該外国人の在留中の一切の行状,国内の政治,経済,社会等の諸事情,国際情勢,外交政策等諸般の事情を総合的に考慮し,時宜に応じて的確に行われるべきものであり,事柄の性質上,出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければ到底適切な結果を期待することができないものであること,同法50条1項4号が,在留特別許可の許否の判断に関し「法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」と規定するにとどまり,判断権者を拘束すべき具体的な基準を何ら示していないことを併せ考えれば,法務大臣は,在留特別許可の許否の判断に関し,広範な裁量権を有 に在留を許可すべき事情があると認めるとき」と規定するにとどまり,判断権者を拘束すべき具体的な基準を何ら示していないことを併せ考えれば,法務大臣は,在留特別許可の許否の判断に関し,広範な裁量権を有するものと解すべきである。 以上のような在留特別許可の許否の判断における法務大臣の裁量権の性質に鑑みると,在留特別許可を付与しないとの法務大臣の判断は,それが全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるような場合に限り,裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである。 そして,この理は,法務大臣から権限の委任を受けた地方入国管理局長によって在留特別許可の許否の判断がされる場合にも妥当する。 (2) 以上の見地から,名古屋入管局長が原告に対し在留特別許可を付与しなかった判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かにつき検討する。 ア入国態様及び在留状況について(ア) 認定事実前記前提となる事実に加え,証拠(甲14,15,乙3,5,6,12,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,平成10年6 月に本邦に入国するに際し,当時タクシー運転手の仕事に用いていた車両を売却して渡航費用を捻出したこと,入国の際,外国人入国記録には,渡航目的は「商用」であり,滞在予定期間は「7日間」である旨申告していたこと,本邦入国後は,直ちに名古屋市内に赴き,来日後1週間後頃からγ駅付近にアパートを借り,同市近辺において,ペンキ塗り,大工,解体等の日雇い仕事をしたほか,ディスコの店員,洋服販売員等の様々な職に就き,平成19年2月に逮捕されるまでの間,1年から2年程度仕事のない期間があったものの,断続的に稼働していたこと,また,こ ,解体等の日雇い仕事をしたほか,ディスコの店員,洋服販売員等の様々な職に就き,平成19年2月に逮捕されるまでの間,1年から2年程度仕事のない期間があったものの,断続的に稼働していたこと,また,これらの労働によって得た収入から,1回につき2万円から3万円を,当時フィリピン国内に在住していた実子のために送金していたこと,以上の各事実が認められる。 (イ) 検討上記認定事実によれば,原告は,従前の自己の仕事道具であったタクシーを売却して渡航費用を捻出し,本邦入国直後,直ちに名古屋市内で就労して断続的に稼働していたというのであるから,原告の主たる入国目的は,本邦における不法残留を前提とした不法就労にあったものと認めるのが相当である。そうであるところ,上記認定事実のとおり,原告は,本邦入国に際し,入国目的を「商用」とし,日本滞在予定期間を「7日間」と記載していたというのであるから,原告は,入国目的及び滞在予定期間を偽って本邦に入国したものといわざるを得ない。このような入国態様は,我が国の出入国管理行政を阻害する行為であり,このことが原告に対する在留特別許可の許否の判断に際して消極的事情として考慮されることはやむを得ない。 また,上記認定事実のとおり,原告は,本邦入国後直ちに就労を開始し,在留期間が経過した後,平成19年2月に逮捕されるまで,8年以上にわたって断続的に稼働していたというのであり,このような原告の 長期間の不法就労の事実は,外国人の入国及び在留について,外国人が在留中に従事する活動内容等に着目して在留資格を類型化し,在留資格として定められた活動等を行おうとする場合に限ってその入国及び在留を認めている入管法の法制度(同法2条の2参照)の根幹にかかわる悪質なものであって,この点もまた,在留特別許可の許否の判断に際し 資格として定められた活動等を行おうとする場合に限ってその入国及び在留を認めている入管法の法制度(同法2条の2参照)の根幹にかかわる悪質なものであって,この点もまた,在留特別許可の許否の判断に際して消極的事情として考慮されるべき事情である。 (ウ) 原告の主張についてこれに対し,原告は,原告が平成10年に入国したのは祖母であるDを探すためであり,不法就労が目的ではない旨供述する(甲14,乙5,原告本人)。しかしながら,前記認定事実のとおり,原告は,そもそも入国目的を「商用」として入国している上,原告の供述によっても,原告は,来日するに先立ってDに関する情報を収集した形跡はなく,Dが居住していたとされる鹿児島県や沖縄県を訪れたこともないことに加え,当初知人やNGOに依頼しようとしたが多額の費用を要求されたため諦め,その後は,人に自分のルーツを探すのを手伝ってもらえるよう頼むこと以外の行動をしていないというのである。このような行動は,祖母を捜すために入国した者の行為としては不合理というべきであり,上記原告の供述を採用することはできない。 イ帰国後の支障について前記前提となる事実に加え,証拠(甲7,10,14,15,乙5)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,フィリピンで出生・成育し,同国において学校教育を受け,同国内外での稼働経験を有する健康な成人男性であって,フィリピンにはAやFが居住していることが認められ,これらの事実に照らせば,同国において原告が生活の基盤を確保することはさほど困難ではないというべきである。 したがって,原告を退去強制するにつき,特段の支障はない。 ウその他の原告の主張について(ア) 以上に対し,原告は,仮に原告が日本国籍を有すると認められない場合でも,Aは上記のとおり日本国籍を有す を退去強制するにつき,特段の支障はない。 ウその他の原告の主張について(ア) 以上に対し,原告は,仮に原告が日本国籍を有すると認められない場合でも,Aは上記のとおり日本国籍を有するから,「日本人の子として出生した者」であり,入管法別表第2の「日本人の配偶者等」に該当するほか,昭和59年改正法附則5条1項,3項の規定により,法務大臣に対する届出による日本国籍の取得が認められる者である旨主張するが,Aが日本国籍取得要件を充足していると認められないことは前記2(2)のとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠き,採用することができない。 (イ) また,原告は,仮にAが日本国籍を有すると認められない場合でも,原告の祖母であるDは日本国籍を有する者であるから,原告は,定住者告示3号にいう「日本人の子として出生した者の実子」に該当するところ,本件裁決は原告がこのような立場にあることを考慮せずにされたものであるから,裁量権の範囲を超え又はその濫用に当たる旨主張する。 しかしながら,そもそも,定住者告示は,「定住者」の在留資格を付与及び「定住者」の在留資格の更新許可申請に当たり,法務大臣によって行われる裁量的判断を類型化し具体化したものであると解されるところ,原告は,「定住者」の在留資格への在留資格変更許可申請を行っていたわけでもなく,また,「定住者」の在留資格で本邦に在留していた者でもないのであるから,定住者告示に該当するか否かということが,原告に対する在留特別許可の許否の判断に際して決定的に重要な意味を持つということはできない。 のみならず,仮に定住者告示該当性が原告に対する在留特別許可の許否の判断と無関係ではないとしても,前記前提となる事実のとおり,原告は,平成19年2月6日,風営法違反の被疑事実で現行犯逮捕された 。 のみならず,仮に定住者告示該当性が原告に対する在留特別許可の許否の判断と無関係ではないとしても,前記前提となる事実のとおり,原告は,平成19年2月6日,風営法違反の被疑事実で現行犯逮捕されたほか,同年3月12日には,名古屋地方裁判所において,入管法違反の 罪で○の有罪判決の言渡しを受け,同判決は控訴されることなく確定しているというのであり,素行善良要件を充足せず,新定住者告示に該当しない者であることが明らかである。 したがって,仮にDが日本国籍を有する者であり,原告が「日本人の子として出生した者の実子」に該当するとしても,原告に対する在留特別許可の許否の判断に際し,この点を有利な事情として考慮することは困難というべきであり,原告の上記主張は採用することができない。 (3) まとめ以上認定説示したところによれば,原告の入国態様及び在留状況はいずれも悪質というべきところ,原告がフィリピンに帰国することについて特段の支障は認められないから,在留特別許可を付与しなかった名古屋入管局長の判断が,全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるということはできず,本件裁決が裁量権の範囲を超え,又はその濫用があったものとして違法であると認めることはできない。 4 争点(4)(本件退令発付処分の適法性)について上記のとおり,本件裁決が違法とはいえない以上,本件退令発付処分もまた違法とはいえない。 5 結論よって,本件各処分はいずれも違法であると認めることはできず,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山田明 主文 原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 理由 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山田明 裁判官徳地淳 裁判官直江泰輝
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