平成11(ワ)336等 九州運送賃金規程変更

裁判年月日・裁判所
平成13年10月1日 大分地方裁判所
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判決文本文19,391 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求1(1) 被告は,原告A1,同A2,同A3及び同A4に対して,別紙請求債権目録1の各原告名右の請求金額欄記載の金員及びこれらに対する平成13年2月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を各支払え。 (2) 被告は,その余の原告ら各自に対して,別紙請求債権目録2の各原告名右の請求金額欄記載の金員及びこれらに対する平成13年4月14日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を各支払え。 2(1) 被告は,原告A1に対して,同原告が被告から平成11年4月25日以降平成12年12月31日までに支給されるべき基本給は,別紙基本給目録1の同原告名右の基本給額欄記載の金額であることを確認する。 (2) 被告は,原告A2,同A3及び同A4に対して,同原告ら各自が被告から平成11年4月25日以降に支給されるべき基本給は,別紙基本給目録1の各原告名右の基本給額欄記載の金額であることを確認する。 第2 事案の概要本件は,貨物自動車運送事業等を営む被告の従業員である原告らが,労働基準法の改正により1週間の所定労働時間が40時間に短縮されたことに伴い,被告が,所定労働時間を週40時間とする旨就業規則を変更した際,原告ら従業員の同意なく,基本給をそれまでの280分の260(以下「260/280」と標記する。)に減額する旨賃金規程(労働基準法89条の就業規則に当たる。)を変更した(以下「本件賃金規程の改定」という。)ことが無効であるとして,従来の賃金規程による賃金と本件賃金規程の改定後の賃金との差額及びこれに対する遅延損害金を請求し,原告A1,同A2,同A3及び同A4は,併せて,同原告らの基本給が従来の賃金規程による金額であることの 来の賃金規程による賃金と本件賃金規程の改定後の賃金との差額及びこれに対する遅延損害金を請求し,原告A1,同A2,同A3及び同A4は,併せて,同原告らの基本給が従来の賃金規程による金額であることの確認を求めた事案である。 原告A1,同A2,同A3及び同A4は,平成11年4月支給分から平成13年1月支給分までの本件賃金規程の改定による従前の賃金との差額は,別紙賃金差額一覧表1記載のとおりであるとして,同差額分を請求している。その余の原告らは,本件賃金規程の改定により毎月の基本給を別紙賃金差額一覧表2-1のとおり減額され,毎月の時間外手当及び深夜勤務手当の減額分は最低でも別紙賃金差額一覧表2-2のとおりになったとして,毎月の基本給,時間外手当及び深夜勤務手当の減額分を,平成11年4月支給分から平成13年3月支給分まで請求している。 また,各原告らが主張する本件賃金規程の改定前の基本給額は,別紙基本給目録1及び2の各原告名右の基本給額欄記載の金額である。 1 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,末尾掲記の証拠によって認めることができる。なお,書証番号は,特に付記のない限り,いずれも平成11年(ワ)第336号事件の書証番号である。 (1) 当事者被告は,肩書地に本店を,福岡市及び大分市等に営業所を置き,貨物自動車を保有し,一般社員として294名を雇用して貨物自動車運送事業等を営んでいる株式会社である(平成13年(ワ)第189号事件の甲7の1ないし19)。 原告らは,平成11年3月16日当時被告に雇用されていた従業員であり,その多くが大型トラック運転手として稼働している(平成13年(ワ)第189号事件の甲7の1ないし19)。その後,原告A1は,平成12年12月31日に,同A179及び同A180は平成13年1月20日に,原告A174,同 ック運転手として稼働している(平成13年(ワ)第189号事件の甲7の1ないし19)。その後,原告A1は,平成12年12月31日に,同A179及び同A180は平成13年1月20日に,原告A174,同A175,同A176,同A177及び同A178は同年2月20日に退職した(原告A1の退職については甲27)。その余の原告らは,以後も被告に雇用されている。 原告らは,ユニオンショップ協定による被告内唯一の労働組合であるB運送労働組合(以下単に「組合」という。)の組合員である(退職した者については,退職により組合員でなくなった。)(弁論の全趣旨)。 (2) 就業規則の変更ア被告は,労働基準法の改正によって,1週間の所定労働時間が40時間と短縮して定められたことに伴い,1週間の所定労働時間を40時間と短縮する旨就業規則を改定し,これを平成11年3月16日から実施した。 この就業規則変更により,被告の従業員の年間所定労働日数は,280日(平成10年度)から260日(平成11年度)に減少した。 イ被告は,アのように就業規則を変更して所定労働時間を短縮させたことに伴い,賃金体系が整備されるまでの期間,従業員の基本給を全員一律にそれまでの260/280に減額して,賃金及び賞与の計算を行うものとする旨賃金規程の改定(本件賃金規程の改定)を行い,これを平成11年3月16日から実施した(甲2,乙21の6)。 本件賃金規程の改定により,原告らは,従来の基本給を260/280の割合で一律に減額された上,基本給の額を基に計算される時間外手当,深夜勤務手当及び休日出勤手当も同率で減額されることとなった。 (3) 被告と組合との間で締結されている労働協約の内容(関連部分のみ)ア昭和61年4月16日付け「協定書」(乙20の2)同協定書は,同年3月の組 も同率で減額されることとなった。 (3) 被告と組合との間で締結されている労働協約の内容(関連部分のみ)ア昭和61年4月16日付け「協定書」(乙20の2)同協定書は,同年3月の組合の統一要求に対するものであるが,その1項で,「賃上げについて1人平均,月額6300円とする。①基本給1人平均月額3150円,②通勤手当1人平均月額3150円,配分内容は,別紙覚書のとおりとする。(覚書略)」と定められている。 イ平成2年4月18日付け「覚書」(甲19)基本給の一部である勤続給について,入社時の1000円を振り出しとしてその後1年から27年まで勤続年数に応じて400円ずつ上昇させる旨(以下「定昇400円」という。)定められている。 ウ平成5年4月7日の協定(甲20)「全ての従業員の賃金を月給制とする。(職能手当を除く全ての手当を月額支給する)但し,月毎の所定労働日数が80%未満出勤の場合は,欠勤1日に付き月額支給金額の1/23.25日を控除する。尚,月給制については1ケ年間試行期間とする。」と定められている。 エ平成8年4月17日協定(甲20)ウの月給制の実施期限を,賃金体系改定の協議が整うまで延長することが定められている。 オ平成9年4月14日付け「協定書」(甲18)同年3月の組合の統一要求に関して,平成9年3月16日以降の賃金を1人5000円増額するとし,その配分は,基本給2000円(勤続給の定昇400円を含む。),精勤給3000円(月額2万9500円)とする旨定められている。 2 争点(1) 本件賃金規程の改定が労働協約違反になるか。 (原告らの主張)ア本件賃金規程の改定によって変更された基本給の金額は,1(3)のイ,オの労働協約によって定められた労働条件である。労働協約で定められた基本給の 程の改定が労働協約違反になるか。 (原告らの主張)ア本件賃金規程の改定によって変更された基本給の金額は,1(3)のイ,オの労働協約によって定められた労働条件である。労働協約で定められた基本給の金額を就業規則によって減額することはできず,減額した就業規則の当該部分は無効である。 イまた,年間の所定労働日数が20/280(7.14285%)だけ減少した場合に,その分基本給を減額するというのは,1(3)のウ,エの労働協約にも違反する。 (被告の主張)ア 1(3)オの労働協約は,ベースアップ闘争の成果の配分方法についてのみの協約に過ぎず,1(3)イの覚書は,勤続給が毎年400円ずつ上昇するという定昇規定であって,基本給支給額の減額をしないという労働協約は成立していない。 イ 1(3)のウ,エの労働協約は,月給制の暫時実施と欠勤による賃金控除を定めたものであり,法定労働時間の短縮に伴う賃金の減少を定めた本件賃金規程の改定とは適用場面を異にするものである。 (2) 本件賃金規程の改定が労働条件の不利益変更に当たるか。 (原告らの主張)ア賃金,特に基本給は何よりも重要な労働条件であるから,基本給の減額は労働条件の不利益変更に当たる。 イ原告らの基本給等は月給制であり,労働時間や労働日数とは直接関連なく定められているものであるから,年間労働日数が減少されるからといって基本給を減額することは,原告らにとって不利益変更に当たる。 ウ労働時間の短縮は,ゆとりと豊かさを求めて行われるものであり,賃下げなき労働時間の短縮を原則としている。労働時間の短縮によって基本給を減額されるということは,この点でも不利益変更である。 (被告の主張)ア本件賃金規程の改定のみを労働時間短縮規定の制定と区別して捉えるのではなく,両者 いる。労働時間の短縮によって基本給を減額されるということは,この点でも不利益変更である。 (被告の主張)ア本件賃金規程の改定のみを労働時間短縮規定の制定と区別して捉えるのではなく,両者を不可分一体の規定として捉えるべきである。労働時間も労働者にとって直接影響のある重要な労働条件であり,労働時間は原告らに有利に変更されている。本件賃金規程の改定は,労働時間の短縮に伴い,年間所定労働日数が減少した分だけそれに比例して賃金をカットしたに過ぎないから,不利益変更禁止の原則に抵触しない。 イ本件賃金規程の改定後は,所定内時間単価,時間外単価,深夜単価のいずれも上昇しているから,労働条件の一方的な切り下げではない。 (3) 本件賃金規程の改定が不利益変更に当たる場合,その不利益変更に高度の必要性と合理性があるか。 (被告の主張)ア必要性について(ア) 被告は,平成9年度から赤字決算となっており,この赤字基調はこれからも続くと予想される。被告には,自車便と傭車便があり,自車便は被告が黒字決算を出していたときから収支は赤字であったが,傭車便の黒字でこれを埋めていた。しかし,傭車便も赤字になってきたので,40時間労働制が強行法規化された以上,経費率を下げて生産性を高めなければ,会社として倒産することとなる。経費率を下げるためには賃金の総支払額の削減を実行する必要があった。 (イ) 週40時間労働制を実施するに当たり,従前の賃金をそのままにしておくと,所定労働日数が減少するにも拘わらず,時間外手当や深夜勤務手当が著しく上昇することになり,それまでの労働時間数と同じ勤務をした場合総支給額が大幅に上昇することになるので,賃金規程を改定する必要があった。被告が従来どおりの賃金規程を維持すれば,被告の年間営業日数が減ることによる営業損失と原告 までの労働時間数と同じ勤務をした場合総支給額が大幅に上昇することになるので,賃金規程を改定する必要があった。被告が従来どおりの賃金規程を維持すれば,被告の年間営業日数が減ることによる営業損失と原告らが主張している賃金差額分の合計額を被告が負担することとなり,被告の経営状態からすれば,経営破綻を招きかねない。労働時間の週40時間制への移行は,被告が自発的に行ったものではなく,労働基準法により罰則規定付きで強制的に行われたものである。労働基準法の改正による損害を,被告が全面的に受け入れる余裕はない。 イ合理性について(ア) 週40時間労働制の趣旨等週40時間労働制の移行に伴う賃金の改定に当たっては,基本的には労使間の話し合いで解決すべきものであるが,時間当たり賃金が減少しない等労働時間の変更との関係からみて合理性があれば,労働基準法の適用上問題にならないというのが,週40時間労働制の労働基準法改正の趣旨である。 また,月給労働者であるとしても,1か月の労働時間が減少するのであれば,月給を減額することに合理性がある。 (イ) 労働者の不利益性の程度本件賃金規程の改定では,基本給のみの改定にとどまっており,賞与金,退職金などは従来の基準を維持している。 減額率は,週の所定労働時間短縮に応じた40/44ではなく,年間労働日数減少率に応じた260/280にとどめている。 本件賃金規程の改定は,賃金体系が整備されるまでの暫定的な措置である。 (ウ) 代償措置・見返りの程度等本件就業規則変更に伴い,自車便の運転手の運行先における休日適用を廃止して,帰社後に休日を与え,労働時間の短縮を実施した。 本件賃金規程の改定によって,所定内時間単価,時間外単価,深夜単価はいずれも上昇している。 (エ) 社会的相当性の有無自車便の運転手 廃止して,帰社後に休日を与え,労働時間の短縮を実施した。 本件賃金規程の改定によって,所定内時間単価,時間外単価,深夜単価はいずれも上昇している。 (エ) 社会的相当性の有無自車便の運転手の賃金は,本件賃金規程の改定前は,同業他社と比較して,仕事内容に対して2割ほど高額であり,そのままでは運行収支が合わなかった。 (オ) 他の従業員の態度多数の社員は,被告の厳しい状況と賃金規程改定のやむを得なさを理解している。 (カ) 労使間交渉の経緯被告は,組合と平成5年から賃金体系の改定について協議を開催し,平成9年4月からは週40時間労働制に伴う賃金体系の改定について協議してきた。その中で,被告は,本件賃金規程の改定以外の打開策として,自車便の運行回数の増加による生産性向上を行い,従前の賃金水準を維持する代替案を示しているが,組合は全く協議に応じようとしなかった。 そこで,被告は,週40時間労働制を実施しなければ罰則規定の適用を受けることになることから,暫定的措置として本件賃金規程の改定を行ったものである。 (原告らの主張)ア必要性について週40時間労働制の導入によって直ちに営業損失が発生するとする被告の主張には科学的根拠がない。 イ合理性について(ア) 週40時間労働制の趣旨等週40時間労働制の労働基準法改正の趣旨は,労働者のゆとりと豊かさを求めてのものであって,そこでは賃下げなき労働時間短縮が原則であり,賃金の減額については労使の合意がなければできないのであるから,それにもかかわらず,基本給の減額をするのは合理性がない。 特に,原告らの基本給等は月給制であり,労働時間や労働日数とは直接関連なく定められているものであるから,年間所定労働日数が減少するからといって基本給が減額されることには合理性がない。 ない。 特に,原告らの基本給等は月給制であり,労働時間や労働日数とは直接関連なく定められているものであるから,年間所定労働日数が減少するからといって基本給が減額されることには合理性がない。 (イ) 労働者の不利益性の程度原告らは,基本給を減額されることによって,時間外手当も深夜勤務手当も休日出勤手当も減額された。 被告の主張が認められるまで本件の基本給等の減額を行い続けることは明らかであり,本件賃金規程の改定が暫定的な措置とは言えない。 (ウ) 代償措置・見返りの程度等自車便の運転手の運行先における休日適用を廃止した結果,帰社後働ける日も休日指定されることになり,その給料は更に減額されることになっているので,これは代替措置とはいえない。 (エ) 社会的相当性の有無自車便の運転手の被告における賃金が,同業他社に比べて高いということはない。 (オ) 他の従業員の態度組合は,一貫して本件賃金規程の改定に反対しており,その改定が無効であることを明確にするため,まず原告A1ら4名を選定して訴訟を提起したものである(平成11年(ワ)第336号事件)。全ての組合員は,同訴訟の原告らを支援している。 (カ) 労使間交渉の経緯平成5年から行われている労使間協議は,本件賃金規程の改定とは関係のないみなし労働時間制(トラック運転手は実際の労働実態の把握が困難であるため,一定距離の運送を行えば,被告において一定時間労働したものとみなして労働時間の管理を行っていること)の見直しや時間外労働時間数の見直し問題等に関するものであった。基本給の減額については,被告が一方的に行ってきたものである。 第3 争点に対する判断 1 本件賃金規程の改定が労働協約違反になるかについて(1) 第2の1(3)のウ し問題等に関するものであった。基本給の減額については,被告が一方的に行ってきたものである。 第3 争点に対する判断 1 本件賃金規程の改定が労働協約違反になるかについて(1) 第2の1(3)のウ,エの労働協約は,従業員の賃金について賃金体系改定の協議が調うまで月給制を採用することを明らかにしたものであるが,ここにいう月給制とは,1か月のうち実際に労働した日数にかかわらず,一定額の賃金を支払うことを意味するものであり,具体的には,第2の1(3)ウのただし書の反対解釈によって導かれるように,所定労働日数のうち欠勤日数が20%を超えなければ所定の月給額が減額されないことを定めたものである。したがって,各従業員の所定月給額を欠勤日数以外の何らかの理由によって減額することまで禁止する趣旨を含んでいるとは認められないから,本件賃金規程の改定が第2の1(3)のウ,エの労働協約に違反するとは言えない。 (2) 第2の1(3)イの労働協約は,基本給の一部を構成する勤続給の支給額を定めたものであるが,これは,勤続年数に応じて一定額の勤続給を支給することを定めたに過ぎず,ここで定められた勤続給が基本給の一部として支給されている限り,労働協約違反の問題を生じるものではない。よって,この協約によって,基本給の減額が一切禁止されているということはできない。 (3) 第2の1(3)オの協約は,平成9年3月の組合の統一要求について協定したもので,平成9年3月16日以降の賃金を,従業員1人当たり5000円上げることが定められている。 しかしながら,この協約は,いわゆる春闘の際に協定されたものであり,毎年この時期には賃金のベースアップをするか否か,するとすればどれだけ上げるかを定めるのが通常であって(第2の1(3)アもその一つである。),その前提として,その る春闘の際に協定されたものであり,毎年この時期には賃金のベースアップをするか否か,するとすればどれだけ上げるかを定めるのが通常であって(第2の1(3)アもその一つである。),その前提として,その時期における会社の経営状況等が検討され,労使がその利益分配のあり方として協定するものであるから,この労働協約に賃金体系の見直しまでを禁止する趣旨が含まれているとは認められない。 したがって,平成9年度中に,何らの理由なく従業員全員の基本給を一定額引き下げるなど,これらの協定の趣旨を没却させるような基本給の引き下げがなされた場合はともかく,本件のように,協定の締結から2年経った時期に,所定労働時間の短縮に伴って一定割合の基本給を減額するような賃金体系自体の変更ともいうべき賃金規程の改定についてまで,同協約の効力が及ぶと解することはできない。 (4) 以上のとおり,原告らが労働協約違反の根拠として主張するところはいずれも採用することができず,また,証人C1の証言(以下「C1証言」という。)によれば,他に各従業員の基本給の支給基準や支給額を定めた労働協約は存しないから,結局,原告らの労働協約違反の主張は理由がない。 2 本件賃金規程の改定が労働条件の不利益変更に当たるかについて被告においては,本件賃金規程の改定時,全従業員について月給制を採用していたのであるから,労働時間や労働日数が短縮されることによって,賃金制度として必然的に賃金額が減額されるものではない。だからこそ,わざわざ賃金規程を変更して賃金を減額したのであるが,この賃金規程の改定は,週40時間労働制への移行に伴って行われたものであり,原告ら従業員は,一方で労働時間の短縮という大きな利益を得ていることは否定できない。 しかしながら,賃金は,労働時間と並ぶ重要な労働条件であり,その減額は直 働制への移行に伴って行われたものであり,原告ら従業員は,一方で労働時間の短縮という大きな利益を得ていることは否定できない。 しかしながら,賃金は,労働時間と並ぶ重要な労働条件であり,その減額は直ちに労働者の生活に深刻な影響を及ぼすものであるところ,労働時間短縮と賃金の引き下げは法的に一体不可分な関係にあるとはいえず,個別に実施し得るものであることに鑑みると,労働時間の短縮と同時に賃金の減額が行われた場合でも,これらの労働条件の変更を総合して労働者にとって不利益か否かを判断すべきではなく,それぞれ独立した労働条件として,別個にその労働条件の変更が労働者の既得の権利を奪い労働者に不利益な労働条件を課すものであるかどうかを検討すべきである。賃金の減額が労働時間の短縮に伴って行われたことは,変更に合理性があるかどうかを判断するにあたって考慮される要素に過ぎない。 本件においては,賃金規程の改定によって労働者の基本給が減額されており,その減額率も260/280で,証拠(甲3の1及び2,26の1ないし21)によれば,1か月の賃金額にして約1万2000円から約1万7000円の差額が生じるほどの減額であるから,不利益な労働条件を課すものであることは明らかである。たとえ,時間当たりの労働の単価が上昇していようとも,労働者が手にする賃金月額が減る結果となるのであれば,それは労働者にとって実質的に不利益であるというべきであって,本件賃金規程の改定は,労働条件の不利益変更に当たる。 3 不利益変更に高度の必要性と合理性があるかについて賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受認させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的 にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受認させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁)。 そこで,本件賃金規程の改定が,上記高度の必要性に基づく合理的な内容のものといえるかを検討する。 (1) 高度の必要性の有無についてア被告の経営状況証拠(乙8,27ないし32,証人C2の証言(以下「C2証言」という。))及び弁論の全趣旨によれば,被告は自車便で行う運送事業と傭車便によって行う運送取扱事業を行っていること,従来から原告らの多くが従事している自車便による運送事業は年間約3億円の赤字であったが,傭車便による利益で全体として10億円以上の利益を上げていた時期もあったこと,ところが,いわゆるバブル経済の崩壊によって物流自体が減少し,他方で物流業界の規制緩和によって運送業者が増えたため,年々運賃単価が下がって,被告の営業利益・経常利益も年々低下し,平成9年度(平成10年3月期末)決算では,4億円以上の営業損失,1億9千万円以上の経常損失を計上するに至り,平成10年度(平成11年3月期末)決算では,3億円以上の営業損失,7千万円以上の経常損失を計上したこと,その後も,平成11年度(平成12年3月期末)決算では,19億円以上の営業損失を計上し,17億円以上の経常損失を計上するなど,赤字決算が続いていること,平成10年度末までは別途積立金が約21億円あり,当期未処分利益も1億円以上あったが,平成11年度末には,別途積立金が約21億円あるものの,当期未処理損失も約17億円発生するに至った いていること,平成10年度末までは別途積立金が約21億円あり,当期未処分利益も1億円以上あったが,平成11年度末には,別途積立金が約21億円あるものの,当期未処理損失も約17億円発生するに至ったことが認められる。 これらの事実によれば,原告らの多くが従事している自車便による運送事業は従前から赤字であり,会社全体としても,被告は平成9年度から赤字経営となり,それを改善させることができないまま今日に至っているものであり,本件賃金規程の改定がされた平成11年3月当時も,前年からの赤字経営が続き,直ぐに状況が好転する見込みもない苦しい経営状態であったと認められる。 イ週40時間労働制を実施した場合の被告の損失従来の賃金体系のまま週40時間労働制を実施すれば,月給制を採用している被告においては,少ない労働時間に対して従来どおりの賃金を支払うこととなるから,その分労務費としての経費が実質的に上昇することになり,仮に時間外労働を行うことによって,それまでと同じ時間数労働させると,賃金の総支給額は大幅に上昇することとなるのは明らかである。 また,運送事業は,その業務形態からして,他の業種に比べ,所定労働日数(年間営業日数)の減少が売上減少に反映され易い業種であり,一方で人件費以外の経費が控除されることを考慮しても,所定労働日数の減少が赤字拡大を招くことは容易に想像できる。 ウ高度の必要性の有無そうすると,原告らの多くが従事している自車便による運送事業は従前から赤字であり,本件賃金規程の改定当時,被告は,全体としても赤字経営を続けていて,直ぐには黒字への転換が望めない状況にあって,週40時間労働制実施に伴う労務費の実質的上昇による負担を吸収できる余裕はなく,同負担はそのまま赤字拡大に繋がる状 は,全体としても赤字経営を続けていて,直ぐには黒字への転換が望めない状況にあって,週40時間労働制実施に伴う労務費の実質的上昇による負担を吸収できる余裕はなく,同負担はそのまま赤字拡大に繋がる状況にあったから,本件賃金規程の改定による基本給の減額を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性があったと認められる。 (2) 改定内容の合理性についてア週40時間労働制の趣旨等について週40時間労働制は,原告らが主張するように,労働者のゆとりと豊かさを求めて導入されたものであるから,所定労働時間の短縮によって賃金が減少することは望ましいことではない。しかしながら,そもそも賃金は労働の対価として支払われるものであることからすると,所定労働時間が短縮するなどして労働量が減少する場合は,これに対応して減少する性質を本来的に有しており,このような賃金の本来的性質は,労働時間の短縮に伴って賃金を減少させることの合理性を判断する上で積極的要素になるというべきであって,このことは,実際に稼働した労働時間とは直接関連なく賃金が支給される月給制を採用している場合でも同様である。 したがって,使用者側としては,週40時間労働制導入に伴う労務費の実質的上昇を吸収できる余裕がある場合は,同制度の趣旨に照らして,賃金減少を伴わずに週40時間労働制を導入すべきことになろうが,使用者側にそれだけの余裕がなく,それが困難な場合は,まず,労使が協力して業務の改善,合理化を図って,時間当たりの生産性を高め,所定労働時間の短縮に伴う収益の減少を防止する努力をすべきであって,上記業務の改善,合理化が不可能な場合やこれに労働者側が非協力な場合は,賃金を減額することも許容され得るというべきである。もっとも,このような場合であっても,週40時 防止する努力をすべきであって,上記業務の改善,合理化が不可能な場合やこれに労働者側が非協力な場合は,賃金を減額することも許容され得るというべきである。もっとも,このような場合であっても,週40時間労働制導入に伴う労働条件の変更については,その趣旨に照らして本来労使間の話し合いで解決すべきものである(労働基準法2条1項参照)から,使用者側が,労使交渉を一切試みることなく,一方的に就業規則の変更によって賃金の減額を行うべきではなく,まず,業務の改善,合理化の方向で労働者側と交渉を行い,これによる解決ができなかった場合にはじめて,就業規則の変更による賃金の減額を行うことが許容されるべきであり,その減額の程度も,当然のことながら,時間当たりの賃金額が従前よりも減少しないようにすべきである(甲4の1ないし3,甲5の10の別紙5参照)。 そうすると,被告は,前判示のとおり,当時赤字経営であって週40時間労働制導入に伴う労務費の実質的上昇を吸収できる余裕がない状況であったから,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。 イ労働者の不利益の程度,代償措置・見返りの程度等,社会的相当性の有無,他の従業員の態度について証拠(乙5の1,乙21の6,C2証言)によれば,本件賃金規程の改定は,労働時間の短縮に伴い,年間労働日数の減少割合とほぼ同率で賃金を減額する内容のものであり,時間当たりの労働の単価の切り下げとはなっておらず,わずかであるが,所定内時間単価,時間外単価,深夜単価はいずれも上昇していること,退職金については,従来の基本給を基準として支給されることが認められ,これらの事実は,本件賃金規程の改定内容に合理性があることを根拠づける要素であると評価できる。 他方,証拠(甲14,C2証言,C1証言)によれば 基本給を基準として支給されることが認められ,これらの事実は,本件賃金規程の改定内容に合理性があることを根拠づける要素であると評価できる。 他方,証拠(甲14,C2証言,C1証言)によれば,平成11年(ワ)第336号事件の原告4名のほか組合員215名が本件賃金規程の改定による基本給の減額に反対して,同原告らを支援している旨の署名をし,その後,組合員178名が同訴訟と概ね同趣旨の平成13年(ワ)第189号未払給与等請求訴訟を提起した(もっとも,内2名は後に訴えを取り下げたため,最終的には,平成11年(ワ)第336号事件の原告ら4名と,平成13年(ワ)第189号事件の原告ら176名の合計180名が本件訴訟の原告となっている。)こと,同業他社の大型トラックの運転手の1か月の賃金総額は平均で約45万円程度であるのに対し,被告においては,賃金規程改定当時平均で42万円程度であったことが認められ,前記第2の1(2)イによれば,本件賃金規程改定後は,賞与金,時間外手当,深夜勤務手当及び休日出勤手当も減額された基本給に基づいて計算されることが認められるから,被告の主張する合理性を基礎付ける事実のうち,同業他社に比べて賃金が高い旨の主張,他の従業員は賃金改定の不可避性を理解している旨の主張及び賞与金が従来の基準を維持している旨の主張は理由がない。そして,賞与金,時間外手当,深夜勤務手当及び休日出勤手当も減額される点及び180名もの組合員が本件訴訟を遂行している点は,本件賃金規程に合理性があることの消極的要素となる。次に,被告の大型トラック運転手の賃金月額が同業他社と比べて数万円低い点については,被告において,実際の労働時間よりも長く労働したと評価されて賃金が支給される「みなし労働時間制」を採用している(甲17,乙8)一方で,従来から自車便によ 額が同業他社と比べて数万円低い点については,被告において,実際の労働時間よりも長く労働したと評価されて賃金が支給される「みなし労働時間制」を採用している(甲17,乙8)一方で,従来から自車便による運送事業が赤字であったことからすると,被告の大型トラック運転手については仕事内容に対して賃金が高かったことが窺えるので,同業他社と比べて賃金月額が低いことが本件賃金規程に合理性があることの消極的要素になるとまでは評価できない。 なお,本件賃金規程の改定が賃金体系の整備されるまでの措置であること,自車便の運転手の運行先における休日適用が廃止されたことは,いずれも争いがないが,これらの事実は,労働者の不利益性の程度を減じさせたり,基本給減額による賃金総額減少に対する見返り・代償となったりする性質のものとはいえない。 ウ労使間交渉の経緯について(ア) 証拠(甲17,27,乙1,6,8,9ないし23(肢番のものを含む。),C2証言,C1証言)によれば,被告と組合との労使間交渉の経緯は次のとおりであったと認められる。 ① 平成5年11月から平成6年6月まで7回にわたって,賃金体系の見直しをするための労使協議が開催された。このときの被告の提案内容は,月額賃金制にし,従来の賃金を下回らないようにすること,みなし労働時間制を廃止して実労働時間制を採用すること,所定労働時間11時間制(変形労働時間制)をとることを内容とするものであった。 これに対し,組合は,所定労働時間11時間制の交番表が実際に組めるのかを問題とし,この提案は頓挫した。 ② 平成6年9月から平成7年7月まで被告が組合に賃金改定について提案した。この時の提案は,所定労働時間を9.5時間と4時間とする変形労働時間制をとることを内容とす 挫した。 ② 平成6年9月から平成7年7月まで被告が組合に賃金改定について提案した。この時の提案は,所定労働時間を9.5時間と4時間とする変形労働時間制をとることを内容とするものであった。 これに対しても,組合は,変形労働時間制の交番表作成の可否を問題とし,この提案も頓挫した。 ③ 平成7年10月20日被告と組合委員長とで賃金改定について協議した。 ④ 平成8年4月5日と同月12日労使団体交渉時に,被告が組合に,賃金改定についての協議をすることと,平成9年3月21日から週40時間労働制でスタートする方向で検討することを申し入れた。 ⑤ 平成9年3月から同年4月被告と組合書記長で週40時間労働制と賃金改定の件を協議し,組合が資料を持ち帰って検討することとなる。後日書記長が賃金改定資料の作成を被告に求めた。 その後,被告は,実労働時間制の採用,手当の一本化,週40時間労働制と所定労働時間7時間15分,荷役分離を内容とする案を提案したが,これに対しても,組合は,交番表作成及び荷役分離の可否を問題とし,この提案も頓挫した。 ⑥ 平成10年4月から同年9月労使団体交渉時に被告が組合に賃金改定申し入れを行い,その後も,週40時間労働制,実労働時間制及び運行回数の増加(生産性向上)について協議の申し入れを行ったが,組合側がトップ同志の会談を求めるなどして,協議が進まなかった。 ⑦ 平成10年10月23日組合が,冬季一時金の要求60万円とともに,週40時間労働制の早期実施を統一申し入れとして要求した。 ⑧ 平成10年11月13日 ⑦ 平成10年10月23日組合が,冬季一時金の要求60万円とともに,週40時間労働制の早期実施を統一申し入れとして要求した。 ⑧ 平成10年11月13日労使団体交渉において⑦の統一申し入れに対する協議が行われた。被告は,週40時間労働制の平成11年3月16日実施を目指すこと,実労働時間制で実施すること,従来福岡-大阪間を運行した場合,従業員1人当たり月8回運行を行ってきたが,10回運行程度(最低でも9回運行)とすることで生産性を向上させることを説明して,週40時間労働制に伴う賃金体系の変更案を申入書として組合に提示した。 なお,この段階での賃金体系変更案は,基本給・管理手当・住宅手当・勤務地手当・家族手当・年次有給休暇手当を従来どおり支給,運行旅費を廃止,精勤給・通勤手当を減額,無事故手当を新設,職能手当のうちの距離手当を大型トラックワンマン運転のみ営業キロ当たり8円(トレーラー運転は9円)支給,職能手当のうちの集配手当は従来どおりだが,その他の職能手当は全て廃止,時間外手当と深夜手当は,実時間による時間数で支給する等というものであった。このうち,大型トラックワンマン運転の距離手当が営業キロ当たり8円支給となっているのは,営業キロ当たり11円支給からの減額であるが,被告がこのように手当を減額する案を提案したのは,運行回数が増えることによってこれに連動して増額される手当の額を減らして,結果的に運行回数が増えても手当を含めた賃金総額が従前と変わらないようにするためであった。 組合は,週40時間労働制に対して,今後詳細を打ち合わせていく旨回答した。 ⑨ 平成10年12月3日と12日労使団体交渉が実施されたが,年末一時金の支給額に関する交渉に終始した は,週40時間労働制に対して,今後詳細を打ち合わせていく旨回答した。 ⑨ 平成10年12月3日と12日労使団体交渉が実施されたが,年末一時金の支給額に関する交渉に終始した。 ⑩ 平成10年12月24日被告から組合に対し,週40時間労働制実施に伴う「4週8休制」及び「賃金体系の改正」について労使協議を早急に実施するよう申し入れを行った。申入書添付の賃金体系変更案は,⑧の変更案と同じであった。 ⑪ 平成11年1月23日労使団体交渉が実施された。年末一時金に関する協議の後,週40時間労働制について被告が組合の考えを質し,組合は,被告の案がどのような運行内容になるのか,従業員全員が運行できるような便があるのか,実際に従業員全員について交番表が組めるのかなどを質問した。 ⑫ 平成11年1月26日組合が,年末一時金と週40時間労働制について団体交渉することを被告に申し入れ,社長の同席も求めた。 ⑬ 平成11年2月10日労使団体交渉が実施された。年末一時金の問題と,被告が施設を組合に使用させることを許可しない件,ワッペン着用を禁止した件及び管理職と非組合員にのみ冬季一時金を支給した件が不当労働行為であるとして問題となった。週40時間労働制の実施に関しては,同年1月23日の労使団体交渉で組合から質問のあった事項について被告が回答した。被告は,賃金体系に関連する組合の⑪の質問に対する回答として,「将来の運行内容は誰にも分からない。現段階で把握できている情報を基に判断するしか方法はない。今回提出した賃金体系案は福岡地区の大型トラックの運転手が従来どおりの賃金で大阪に月8回運行した場合と,新賃金体系のもとで大阪に月10回運行した場合の賃 できている情報を基に判断するしか方法はない。今回提出した賃金体系案は福岡地区の大型トラックの運転手が従来どおりの賃金で大阪に月8回運行した場合と,新賃金体系のもとで大阪に月10回運行した場合の賃金がほぼ同額になるように試算した結果から作成したものである。」ことなどを回答した。 ⑭ 平成11年2月16日被告が組合に対して,週40時間労働制実施に伴う賃金体系の改正等について協議を申し入れた。これに対し,同月22日に,組合は,運行内容が不明である,社長の発言内容と違いがあるなどとして,これらを理由に話合いを拒否した。 ⑮ 平成11年2月25日被告が組合に対して,週40時間労働制を実施することと,これに伴い基本給を減額することを内容とする就業規則及び賃金規程の変更に対して意見書を提出するよう求めた。このときの賃金規程変更案の基本給減額率は40/44であった。 ⑯ 平成11年3月3日組合が,被告に就業規則等の変更に対する意見書を提出した。同意見書には,基本給を40時間制に応じて減額することは認めない旨記載されていた。 ⑰ 平成11年3月4日被告が組合に対して,再度就業規則変更に対して意見書を提出するよう求めた。このときの賃金規程変更案の基本給減額率は260/280であった。 ⑱ 平成11年3月8日組合が,再度被告に就業規則変更に対する意見書を提出した。同意見書も,「基本給の減額は賃金の切り下げとなるので同意しない。就業規則の変更のみによって実施することは強く反対する。」旨記載されていた。 ⑲ 平成11年3月10日被告が,労働基準監督署長に対して,組合の意見書を添付した就業規則変更届を提出した。 更のみによって実施することは強く反対する。」旨記載されていた。 ⑲ 平成11年3月10日被告が,労働基準監督署長に対して,組合の意見書を添付した就業規則変更届を提出した。 (イ) 以上の交渉経過に乙第9号証,C2証言及びC1証言を総合すると,被告は,平成5年から,みなし労働時間制の見直しや,変形労働時間制の採用等によって,従来の賃金体系の見直しを試みていたこと,しかしながら,被告の2回にわたる賃金体系の変更案は,組合に変形労働時間制の交番表を実際に組めるのか問題とされ,話が頓挫したこと,平成8年からは,週40時間労働制実施を視野に入れた賃金体系改定の協議を組合に再三申し入れ,実際に何度か協議を行ったが,組合は両者を別個の問題として切り離して考えていたため,なかなか話が進展しなかったこと,平成10年11月には,諸手当を統合し,福岡-大阪間を月9回ないし10回運行するなど生産性向上を図ることによって大型トラック運転手の従来の賃金が維持されるような賃金規程の改定案を出したが,年末一時金の問題や不当労働行為の問題などが生じて,労使の対立が激しくなったり,組合が社長の同席を求めて,話合いを拒否したりしたため,結局平成11年3月までに話をつけることができなかったこと,そのため,平成11年3月中に週40時間労働制を実施しなければ罰則規定に適用を受けるため,被告は,組合との合意に基づかずに週40時間労働制の実施に伴う対応措置を採ることを余儀なくされたこと,しかしながら,前記(ア)⑧の被告の提案内容には,これを就業規則の改定で行うと,組合との労働協約違反になる事項が含まれていたので,被告は,労働協約違反にならない基本給の減額の方法で上記対応措置を採ることにして,本件賃金規程の改定を行ったことが認められる。 うと,組合との労働協約違反になる事項が含まれていたので,被告は,労働協約違反にならない基本給の減額の方法で上記対応措置を採ることにして,本件賃金規程の改定を行ったことが認められる。 ところで,被告と組合とが協議を重ねたのに話が物別れに終わった原因の一つとして,C1証言では,自車便の運行回数増加のための具体案(交番表等)が提示されなかったことが挙げられているが,被告においては,運行先が複数あり,また,受注する仕事内容によってその便数も変動するものであるから,従業員各人について交番表を組んで示すことは不可能であって(C2証言,弁論の全趣旨),組合が求めるような具体案の提示ができなかったことはやむを得ないものというべきである。 また,年末一時金に関する折衝や不当労働行為の存否を巡って労使の対立が激しくなったことも,週40時間労働制実施に向けての労使協議を阻む要因となったことは事実であるが,被告の経営状態が厳しく,労働時間短縮の実施に伴って従来の賃金体系を維持することが困難であった状況においては,週40時間労働制が実施されるまでの間に,生産性向上等の対応措置を協議する責任が労使双方にあったのであり,年末一時金に関する折衝や不当労働行為等の問題があったとしても,これらを理由として協議の実施を拒否することは,組合側がその責任を果たさなかったと評価せざるを得ない。 そうすると,被告としては,走行距離に応じて支払われる距離手当等を引き下げた上で,運行回数を増加させるという生産性向上の措置を採ることによって,被告の大型トラック運転手が従来どおりの賃金額を得られるようにする新たな賃金体系を提案し,数回にわたって組合に協議を求めるなどして基本給減額以外の方法で対応する努力を尽くしたと認められ,交番表の作成ができなかったことや,他の問題で協議 賃金額を得られるようにする新たな賃金体系を提案し,数回にわたって組合に協議を求めるなどして基本給減額以外の方法で対応する努力を尽くしたと認められ,交番表の作成ができなかったことや,他の問題で協議が紛糾し本件賃金規程の改定を協議するに至らなかったことは,被告が週40時間労働制に伴う対応措置につき労働者側と協議する努力を怠ったものとはいえない。 エ本件賃金規程の改定が合理的な内容といえるか。 前記(1)アのとおり,原告らの多くが従事している自車便による運送事業は従前から赤字であり,しかも,本件賃金規程の改定当時,被告は,会社全体としても年間数億円の赤字を計上する状況にあって,直ぐには経営状態の改善が見込まれない状況にあったことに鑑みれば,週40時間労働制導入による労働時間の短縮に伴って,その労働時間の短縮率を超えない範囲で従業員の基本給を減額することは,従業員らが他方で労働時間の短縮という大きな利益を得ていることや退職金については従来どおりの支給基準で支給されるので労働者の不利益の程度はその点で一部緩和されていることをも考慮すれば,基本給の減額に伴って時間外手当,深夜勤務手当,休日出勤手当や賞与も減額計算されることや,組合員180名が本件賃金規程の改定無効を主張する本件訴訟の原告となっていること等を考慮しても,改定内容として十分合理性を有するものと認められる。 また,本件賃金規程の改定に至る経緯をみても,数年前から週40時間労働制実施を前提とした賃金改定のための協議が持たれていたことや,運転手の諸手当を切り下げて自車便の運行回数を増加させる生産性向上の措置により賃金総額の減額を回避する具体的な提案が被告から出されていたことを考慮すれば,基本給の減額自体について提案されたのが,実際に賃金規程を改定する直前だったとして 行回数を増加させる生産性向上の措置により賃金総額の減額を回避する具体的な提案が被告から出されていたことを考慮すれば,基本給の減額自体について提案されたのが,実際に賃金規程を改定する直前だったとしても,被告は基本給減額を回避するための真摯な交渉をする努力は尽くしたということができ,前記認定の労使交渉の経緯に照らしても本件賃金規程の改定には合理性が認められる。 4 結論以上のとおり,本件賃金規程の改定は,労働協約に反するものではない上,労働条件の不利益変更には当たるが,その変更は,不利益な労働条件を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づく合理的な内容であると認められるので,本訴請求はいずれも理由がない。 よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日平成13年9月10日)大分地方裁判所民事第2部裁判長裁判官一志泰滋裁判官脇博人裁判官和田はる子( 別紙 ) 省略

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