令和3年7月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 令和2年(行ウ)第316号手続却下処分取消請求事件口頭弁論終結日令和3年5月27日判決 原告 オプティパルスインコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 岡田春夫 瓜生嘉子 熊谷仁孝 同補佐人弁理士 大崎勝真 井原光雅 被告 国 処分行政庁 特許庁長官 同指定代理人 井坂直子 林智彦 大江摩弥子 今福智文 尾崎友美 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由 第1 請求特許庁長官が令和元年6月3日付けでした,特願2018-540682号についての平成30年4月24日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,「千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約」(以下「特許協力条約」という。)に基づく外国語でされた国際特許出願の出願人であり,特許法(以下「法」という。)184条の4第1項所定の期間(以下「国内書面提出期間」という。)内に同第3項所定の明細書及び請求の範囲の日本語による翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を提出しなかったことにより当該国際特許出願を取り下げられたとみなされた者である原告が,被告に対し,同第4項所定の「正当な理由」があるに の範囲の日本語による翻訳文(以下「明細書等翻訳文」という。)を提出しなかったことにより当該国際特許出願を取り下げられたとみなされた者である原告が,被告に対し,同第4項所定の「正当な理由」があるにもかかわらず,同項に基づく明細書等翻訳文の提出手続を却下した特許庁長官の処分が違法である と主張して,当該処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)原告による国際特許出願原告は,平成28年(2016年)7月29日,発明の名称を「剛性高出 力高速レイジング格子構造」とする発明について,受理官庁を米国特許商標庁,国際出願言語を英語,優先日を平成27年(2015年)7月30日として,特許協力条約に基づく国際出願(PCT/US2016/044813。以下「本件国際出願」という。)をした。本件国際出願は,特許協力条約4条(1)(ⅱ)の指定国に日本国を含むものであり,法184条の3第 1項の規定により,その国際出願日に特許出願されたとみなされた(特願2 018-540682。以下「本件国際特許出願」という。)。なお,本件国際特許出願についての国内書面提出期間は,本件国際特許出願の優先日である平成27年(2015年)7月30日から2年6か月(以下「本件国内書面提出期間」という。)であり,その期間の末日は,平成30年(2018年)1月30日であった。 本件国際特許出願の取下げの擬制ア米国の弁護士事務所A(以下「本件代理人事務所」という。)は,原告から,本件国際出願についての各国への国内移行手続を受任し,その事務をB弁護士(以下「本件担当弁護士」という。)が担当した。 イ本件担当弁護士付きのパラリーガル(以下「本件担当パラリーガ は,原告から,本件国際出願についての各国への国内移行手続を受任し,その事務をB弁護士(以下「本件担当弁護士」という。)が担当した。 イ本件担当弁護士付きのパラリーガル(以下「本件担当パラリーガル」と いう。)は,平成30年(2018年)1月3日,原告に対し,本件国際出願についての国内移行手続の期限などを記入した一覧表(以下「本件一覧表」という。)を記載した電子メール(以下「本件メール」という。)を送信した(甲21)。本件一覧表には,本件国際出願についての日本への国内移行手続の期限が「平成30年(2018年)2月28日」と記入 されていた。 ウ原告は,本件国内書面提出期間の末日である平成30年(2018年)1月30日までに,特許庁長官に対し,本件国際特許出願について,明細書等翻訳文を提出しなかった。 その結果,本件国際特許出願は,法184条の4第3項の規定により, 取り下げられたものとみなされた。 被告による却下処分ア原告は,平成30年4月24日,特許庁長官に対し,法184条の4第4項に基づき,本件国際特許出願に関する明細書等翻訳文並びに図面及び要約の翻訳文を提出した(以下「本件手続」という。)。 イ特許庁長官は,令和元年6月3日付けで,原告が本件国内書面提出期間 内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるとはいえず,本件国内書面提出期間の経過後にされた本件手続は特許庁に係属していない出願に対して行われた不適法な手続であることを理由として,本件手続を却下する処分をした(甲4,6)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は,原告が本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明 適法な手続であることを理由として,本件手続を却下する処分をした(甲4,6)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は,原告が本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるか否かであり,これに関する当事者の主張は,次のとおりである。 原告の主張ア法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいう ものと考えるべきである。 イ相当な注意を尽くしていたこと原告が本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったのは,本件担当弁護士が,本件メールの文案を確認した際に,本件国際出願についての日本への国内移行手続の期 限が本件一覧表に誤って記入されているのを見落としたためである。 しかしながら,本件代理人事務所における標準的な実務では,担当弁護士付きのパラリーガルがクライアントに国際出願についての国内移行手続の期限を示すレターを作成し,クライアントに当該レターを送る場合,担当弁護士は,当該レターのレビューと確認をすることになっており,本件 代理人事務所の体制として,ミスを回避するための適切なチェック体制を 講じていた上,本件担当弁護士は,かかる実務に従って,ダブルチェックを行い,補助者に対して十分な管理・監督を行っていたものであるから,相当な注意を尽くしていたというべきである。 ウ客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文 かかる実務に従って,ダブルチェックを行い,補助者に対して十分な管理・監督を行っていたものであるから,相当な注意を尽くしていたというべきである。 ウ客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったこと 本件代理人事務所における標準的な実務では,国際出願の出願人に,国・地域を問わず,国内移行手続の期間を30か月として報告することになっていたが,本件国際出願の場合,本件担当弁護士は,原告の特別の事情を考慮して,原告の利益のために,原告が国内移行手続の費用を分散できるように,本件担当パラリーガルに対して,国内移行手続の期 間が30か月の国と31か月の国とに分けて費用見積りを用意するという極めて例外的な取扱いを指示していた。 そのような例外的な取扱いを行う中で,本件担当パラリーガルは,本件国際出願についての日本への国内移行手続に係る費用の見積額を日本の特許事務所に問い合わせる電子メールの件名に,日本への国内移行手 続の期限を誤って記載してしまい,それが,本件一覧表に誤った期限が記入される発端になったのであるが,費用の見積額を問い合わせる電子メールは,クライアントに国際出願についての国内移行手続の期限を示すためのものではなく,同メールにおいて同手続の期限は本質的な要素ではなかったものであって,本件代理人事務所における標準的な実務に おいて,担当弁護士によるダブルチェックを要するものではなかった。 さらに,国際出願についての国内移行手続の期間が30か月の国と31か月の国とに分けて費用見積りを用意するという極めて例外的な取扱いであったことも相まって,通常の場合とは異なり,本件一覧表では,各国への国内移行手続について,その期限のみを記入し,その期間を記 入しなかったため,日本への国内 するという極めて例外的な取扱いであったことも相まって,通常の場合とは異なり,本件一覧表では,各国への国内移行手続について,その期限のみを記入し,その期間を記 入しなかったため,日本への国内移行手続について,費用の見積額を問 い合わせる電子メールの件名に記載されていた誤った期限が本件一覧表に記入されることになったものである。 しかも,本件一覧表には,日本以外に6か国が記載されていたが,これらの国については正確な期限が記入され,日本についてのみ誤った期限が記入されていたものである。 以上の事情が重なり,本件一覧表では,各国への国内移行手続について,その期限のみが記入されており,必ずしも確認するのに適した記載ではなかったことも相まって,本件担当弁護士が日本への国内移行手続の期限が誤って記入されているのをたまたま見落すという事態が生じたものである。 さらに,国内移行手続の期間が30か月の国と31か月の国とに分けて費用見積りを用意するというのは極めて例外的な取扱いであり,本件担当弁護士にとって初めての経験であったことも考慮されるべきである。 以上の事情を総合評価すると,客観的にみて本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願について明細書等翻訳文を提出することができなか ったというべきである。 エ特段の事情があったこと仮に,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとは認められないとしても,本件代理人事務所における標準的な実務では,国際出願 の出願人に,国・地域を問わず,国内移行手続の期間を30か月として報告することになっており,本件国際出願についても,この実務に沿って進行していれば,日本への国内移行手続の期限を徒過する 出願 の出願人に,国・地域を問わず,国内移行手続の期間を30か月として報告することになっており,本件国際出願についても,この実務に沿って進行していれば,日本への国内移行手続の期限を徒過することはなかったにもかかわらず,前記ウで述べた様々な要因が重なったことにより上記期限を徒過するに至ったものであるから,前記アの特段の事情があると認めら れるべきである。 オ 「正当な理由」を緩やかに解すべきであること法184条の4第4項の改正を含む「特許法等の一部を改正する法律案」は,令和3年5月14日に可決・成立し,同月21日に公布されたところ,改正法では,救済が認められる範囲が,「正当な理由」がある場合から,単に「故意」でなければ救済されることとなり,その範囲が明らかに広が っている。このような法改正の状況は,現行の正当な理由の判断基準の解釈・適用においても斟酌されるべきものであり,その解釈・適用を特許法条約(PLT)や諸外国の運用,解釈,適用等に近づける観点から緩やかに解すべきである。 カ以上のとおり,原告が本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につ き明細書等翻訳文を提出することができなかったことについては,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったと認められるべきであり,仮にそうとは認められないとしても,特段の事情があると認められるべきであるから,法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるというべ きである。 被告の主張ア相当な注意を尽くしていたとはいえないこと本件担当パラリーガルは,本件国際出願についての日本への国内移行手続に要する費用の見積額を日本の特許事務所に問い合わせる電子メー ルの件 張ア相当な注意を尽くしていたとはいえないこと本件担当パラリーガルは,本件国際出願についての日本への国内移行手続に要する費用の見積額を日本の特許事務所に問い合わせる電子メー ルの件名に,日本への国内移行手続の期限を誤って記入した上,その後もその誤りに気付くことなく,本件国際出願についての国内移行手続を進める国を原告に照会するために本件メールの文案を作成した際にも,本件一覧表にその誤った期限を記入して,そのまま原告に対して送信し,さらに,国内移行手続の期間が30か月とされる国において国内移行手 続を行うか否かの指示を求める電子メールを原告に送信した際にも,同 様の誤った期限を記入した本件一覧表を記載している。 本件国際出願についての各国への国内移行手続の期限を徒過した場合には,その手続を行うことが困難になることからすれば,本件メールにおいて,本件一覧表に記入される国内移行手続の期限は極めて重要で,正確に記入されなければならないことは明らかであるし,国内移行手続 の期間が30か月とされる国において国内移行手続を行うか否かの指示を原告に求める電子メールにおいても,本件国際出願についての国内移行手続を行う候補となっている国の中で,その期間が30か月とされる国を確認し,原告に対してそれらの国を正確に示すことが重要であったといえる。 それにもかかわらず,本件担当パラリーガルは,上記各電子メールを作成する際に,本件国際出願についての日本への国内移行手続の期限を改めて確認することを怠ったのであるから,本件担当パラリーガルがその期限を徒過することを回避するために相当な注意を尽くしたとはいえないというべきである。 また,本件担当パラリーガルは,本件担当弁護士の補助者としてその業務を行っていたの ラリーガルがその期限を徒過することを回避するために相当な注意を尽くしたとはいえないというべきである。 また,本件担当パラリーガルは,本件担当弁護士の補助者としてその業務を行っていたのであるから,本件国際出願についての日本への国内移行手続の期限を徒過したことにつき「正当な理由」があるといえるためには,本件担当弁護士において,本件担当パラリーガルが適切に業務を遂行していることを確認し,適切に業務が行われていない場合には, 本件担当パラリーガルに対して指示を行うなど,上記期限を徒過することを回避するための適切な措置を講じていたことが必要であるというべきである。 しかしながら,前記のとおり,本件メールにおいて,本件一覧表に記入される国内移行手続の期限は極めて重要で,正確に記入されなけれ ばならないことは明らかであるにもかかわらず,本件担当弁護士は,本 件メールの文案を確認した際に,本件国際出願についての日本への国内移行手続の期限が誤って記入されているのを見逃した上,本件メールや国内移行手続の期間が30か月とされる国において国内移行手続を行うか否かの指示を原告に求める電子メールが本件担当弁護士にCCで送信された際にも,本件一覧表に記入されている上記期限を確認しなかった。 さらに,本件担当弁護士は,自ら原告に対し,上記各電子メールを引用する形式で電子メールを送信しているが,その際にも,本件一覧表に記入されている上記期限を確認したことはうかがわれない。 以上のとおり,本件担当弁護士は,本件国際出願についての日本への国内移行手続の期限が誤って記入されているのを見逃し,その後も,改 めて確認すべき機会があったにもかかわらず,これを一切確認しなかったのであるから,上記期限を徒過することを回避するた 日本への国内移行手続の期限が誤って記入されているのを見逃し,その後も,改 めて確認すべき機会があったにもかかわらず,これを一切確認しなかったのであるから,上記期限を徒過することを回避するために相当な注意を尽くしたとはいえないというべきである。 イ原告が主張する事情は相当な注意を尽くしていたことを示すものでも,特段の事情となるものでもないこと 原告は,本件担当弁護士が,本件担当パラリーガルに対し,国内移行手続の期間が30か月の国と31か月の国とに分けて費用見積りを用意するという極めて例外的な取扱いを指示した旨主張する。 しかしながら,本件国際出願の各国への国内移行手続について,通常とは異なる例外的な取扱いをしたというのであれば,むしろ他の案件と 比較して過誤が生じやすい状況にあり,本件担当弁護士及び本件担当パラリーガル(以下「本件担当弁護士ら」という。)においては,通常の場合とは異なり,一層の注意を払うことが求められる状況にあったというべきであるから,原告主張の事情は,本件担当弁護士らにおいて相当な注意を尽くしていたことを示すものでも,特段の事情となるものでも ないというべきである。 次に,原告は,本件担当パラリーガルが本件国際出願についての日本への国内移行手続に要する費用の見積額を問い合わせる電子メールにおいては,同手続の期限は本質的な要素ではなかった旨主張する。 しかしながら,上記電子メールが本件国際出願についての日本への国内移行手続の期限に関するものではなく,上記電子メールにおいて上記 期限が重要性の高い事項とはいえなかったとしても,上記期限の記載に誤りがあってよいというものではなく,かえって,本件メールを作成し,送信するに当たっては,上記電子メールの記載を安易に利用すべき 期限が重要性の高い事項とはいえなかったとしても,上記期限の記載に誤りがあってよいというものではなく,かえって,本件メールを作成し,送信するに当たっては,上記電子メールの記載を安易に利用すべきではないから,原告主張の事情は,本件担当弁護士らにおいて相当な注意を尽くしていたことを示すものでも,特段の事情となるものでもないとい うべきである。 また,原告は,本件メールの送信以降に原告に送信された電子メールは本件メールと同じ内容のものが送られることが当然予定されていたものであるから,本件担当弁護士において,その都度,改めて内容を確認することが求められるものではなかった旨主張する。 しかしながら,原告の主張は,要するに,通常とは異なる取扱いを行い,過誤が生じやすい状況にありながら,ダブルチェックを一度行ってさえいれば,相当な注意を払っていたことになる,あるいは,特段の事情があったことになるというものであるところ,そのような主張に理由がないことは明らかであるから,原告主張の事情は,本件担当弁護士ら において相当な注意を尽くしていたことを示すものでも,特段の事情となるものでもないというべきである。 さらに,原告は,本件一覧表では,各国への国内移行手続について,その期限のみが記入され,その期間が記入されていなかったため,確認するのに適した記載ではなかった旨主張する。 しかしながら,確認するのに適した状態ではなかったというのであれ ば,そのような状態で確認を行ったこと自体が問題であるといわざるを得ないし,本件担当弁護士としては,国際出願についての国内移行手続の期間として30か月を採用する国と31か月を採用する国を当然把握しているべきであったから,原告主張の事情は,本件担当弁護士らにおいて相当な注 本件担当弁護士としては,国際出願についての国内移行手続の期間として30か月を採用する国と31か月を採用する国を当然把握しているべきであったから,原告主張の事情は,本件担当弁護士らにおいて相当な注意を尽くしていたことを示すものでも,特段の事情となる ものでもないというべきである。 ウ 「正当な理由」を緩やかに解すべきであるとの原告の主張が失当であること原告は,法改正の動向等を援用して正当な理由を緩やかに解すべきであると主張するが,緩やかに解するというのがいかなる意味であるのか, 具体的にいかなる基準で「正当な理由」を判断すべきとするのか,原告の主張からはにわかに判然としない。これまで原告は,本件の期間徒過につき「偶発的かつ予期しない人為的ミス」であることを強調しているように見受けられるが,正当な理由を緩やかに解釈した場合に,なぜ「偶発的かつ予期しない人為的ミス」が救済されるべきものとなるのか, そして,なぜ本件の期間徒過が救済されるべきものとなるのか,その実質的理由は全く明らかでなく,結局のところ,従前の主張の繰り返しでしかない。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実並びに括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実 が認められる。 本件代理人事務所が使用している文書管理システム(以下「本件文書管理システム」という。)は,同事務所が取り扱っている国際出願ごとに,当該国際出願に係る文書の提出期限を管理しており,国内移行手続の期限も管理しているが,同システムにより生成されるレポートでは,国内移行手続の期 間が30か月の国・地域(以下「国等」という。)と同期間が31か月の国 等とを分けて表示しておらず,国等を特定せずに当該国際出願の優先日から30か月後の期限と31か月後の期限の 続の期 間が30か月の国・地域(以下「国等」という。)と同期間が31か月の国 等とを分けて表示しておらず,国等を特定せずに当該国際出願の優先日から30か月後の期限と31か月後の期限の両者を表示している(甲15,23)。 本件担当弁護士は,原告が本件国際出願についての各国への国内移行手続に要する費用の支出時期を分散することができるようにするため,同手続の 期間が30か月の国等と31か月の国等とを分けて取り扱うこととした上,平成29年(2017年)11月末頃から同年12月初め頃までの間に,本件担当パラリーガルに対し,日本,カナダ,中国,ヨーロッパ,オーストラリア,インド及び韓国の7つの国等(以下「日本ほか6か国等」という。)について,本件国際出願についての国内移行手続に要する費用の見積りを用 意するように指示した(甲23)。 そこで,本件担当パラリーガルは,同月5日,日本の特許事務所に対し,本件国際出願についての日本への国内移行手続に要する費用の見積りを求める電子メールを送信し,同日,同事務所から,上記見積りが記載された電子メールを受信した。 本件担当パラリーガルは,平成29年(2017年)12月28日,本件担当弁護士に対し,日本ほか6か国等について,本件国際出願についての国内移行手続を行うかどうかを指示するように原告に督促する電子メールの文案(以下「本件メール案」という。)を記載した電子メールを送信して,その内容の確認を求めた(甲20)。 本件メール案には,日本ほか6か国等について,国内移行手続の期限及び同手続に要する費用の見積額が記入された一覧表(本件一覧表)が記載されており,このうち,カナダ及び中国については,国内移行手続の期限が「平成30年(2018年)1月30日」と記入され,日 の期限及び同手続に要する費用の見積額が記入された一覧表(本件一覧表)が記載されており,このうち,カナダ及び中国については,国内移行手続の期限が「平成30年(2018年)1月30日」と記入され,日本その他4か国等については,同期限が「平成30年(2018年)2月28日」と記入されてい た(甲20)。 本件担当弁護士は,本件担当パラリーガルから送信された本件メール案の内容を確認したが,本件一覧表に記入された日本への国内移行手続の期限が誤っており,正しくは平成30年(2018年)1月30日であることに気付かなかった(甲23)。 本件担当弁護士は,平成30年(2018年)1月初頭,本件担当パラリ ーガルに対し,本件メール案のうち本件一覧表に記入された国内移行手続に要する費用の見積額についてのみ修正するように指示し,本件メール案を修正したものを原告に送信するように指示した(甲23)。 そこで,本件担当パラリーガルは,同月3日,原告に対し,本件メール案を上記指示に従って修正して作成した電子メール(本件メール)を送信した。 その際,本件担当パラリーガルは,本件メールの「CC」欄に本件担当弁護士のメールアドレスを入力して,本件担当弁護士にも本件メールを送信したが,本件担当弁護士は,本件一覧表に国内移行手続の期限が正しく記入されているか確認しなかった。(甲21,23)本件担当パラリーガルは,平成30年(2018年)1月26日,原告に 対し,日本ほか6か国等のうちカナダ及び中国について,本件国際出願についての国内移行手続の期限が間近に迫っているとして,できる限り早急に同手続の指示を行うように督促する電子メールを送信した。同メールには,本件一覧表も記載されていた。 これに対し,原告は,同日,同メールに返信し,本 続の期限が間近に迫っているとして,できる限り早急に同手続の指示を行うように督促する電子メールを送信した。同メールには,本件一覧表も記載されていた。 これに対し,原告は,同日,同メールに返信し,本件担当パラリーガルに 対し,上記2か国について,国内移行手続を希望する旨回答した。 これらの電子メールの「CC」欄には本件担当弁護士のメールアドレスが入力されており,本件担当弁護士は,これらの電子メールを受信して,同日,原告に対し,上記2か国への国内移行手続を行う旨報告する電子メールを返信したが,その際,本件一覧表に国内移行手続の期限が正しく記入されてい るか確認しなかった。(甲18,23) その後も,本件担当弁護士は,本件一覧表に記入された日本への国内移行手続の期限が誤っており,同期限が正しくは平成30年(2018年)1月30日であることに気付かず,日本への国内移行手続が行われないまま,同日が経過した。 2 以上の事実を前提に,以下検討する。 法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解するのが相当である。 これを本件について見るに,本件国際出願については,日本への国内移行手続の期限が,正しくはその優先日から30か月後の日である平成30年(2018年)1月30日であったにもかかわらず,本件一覧表には,当該優先日から31か月後の日である同年2月28日と記入されていたことから,原告は,本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文 を提出することができなかっ ,本件一覧表には,当該優先日から31か月後の日である同年2月28日と記入されていたことから,原告は,本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文 を提出することができなかったものと認められるところ,本件担当パラリーガルは,本件一覧表の記載を含む本件メール案を作成した後,原告にこれを送信する前に,本件担当弁護士にその内容の確認を求めており,本件担当弁護士は,その内容を確認したものの,本件一覧表に記入された日本への国内移行手続の期限が誤っていることに気付かなかったものである。 しかしながら,本件代理人事務所が国際出願に係る文書の提出期限等を管理するために使用している本件文書管理システムは,国際出願ごとに国内移行手続の期限を管理しており,当該国際出願の優先日から30か月後の期限と31か月後の期限を表示したレポートを生成するものの,当該レポートでは国等が特定されておらず,前者の期限の対象となる国等と後者の期限の対 象となる国等とを区別する仕様になっていなかったのであるから,本件担当 パラリーガルとしては,本件一覧表を作成するに当たり,本件一覧表に記入する日本ほか6か国等について,前者の期限の対象となる国等と後者の期限の対象となる国等を調査し,両者を正確に区別する必要があったというべきであるが,本件全証拠によっても,本件担当パラリーガルが具体的にどのような調査を行い,どのように両者を区別したのか明らかではない。かえって, 本件担当パラリーガルは,本件一覧表を作成するのに先立って,日本の特許事務所に対して国内移行手続に要する費用の見積りを求めており,これに併せて同手続の期間を問い合わせることは容易であったにもかかわらず,同事務所との間でそのようなやり取りをしたことはうかがわれない。 また,本件担 国内移行手続に要する費用の見積りを求めており,これに併せて同手続の期間を問い合わせることは容易であったにもかかわらず,同事務所との間でそのようなやり取りをしたことはうかがわれない。 また,本件担当弁護士は,日本ほか6か国等について,前者の期限の対象 となる国等と後者の期限の対象となる国等とを区別して取り扱うように本件担当パラリーガルに指示しており,本件一覧表に記入された期限のうち,平成30年(2018年)1月30日については前者の期限に,同年2月28日については後者の期限に,それぞれ該当することを容易に認識し得たのであるから,本件文書管理システムが前記のとおり両者の期限の対象となる国 等を区別する仕様になっていなかったことを踏まえれば,本件担当弁護士としては,本件担当パラリーガルから本件メール案の内容の確認を求められた際に,本件メール案に記載された本件一覧表について,本件担当パラリーガルが前者の期限が対象となる国等と後者の期限が対象となる国等とを正確に区別して記入しているか確認する必要があったというべきであるが,本件全 証拠によっても,本件担当弁護士が具体的にどのような確認を行ったのか明らかではなく,本件担当パラリーガルに対して前者の期限の対象となる国等と後者の期限の対象となる国等とを正確に区別するように注意喚起したり,本件一覧表を作成するに当たってどのような調査を行ったのか確認したりした様子もうかがわれない。 さらに,本件担当弁護士らは,本件メールを原告に送信した後も,本件国 内書面提出期間が徒過するまでの間に,原告に対して本件一覧表の記載を含む電子メールを複数回にわたって送信しているが,その際にも,本件一覧表に国内移行手続の期限が正しく記入されているか確認していない。 このような状況に照らせば の間に,原告に対して本件一覧表の記載を含む電子メールを複数回にわたって送信しているが,その際にも,本件一覧表に国内移行手続の期限が正しく記入されているか確認していない。 このような状況に照らせば,本件一覧表に日本への国内移行手続の期限が誤って記入されていたことにより本件国内書面提出期間を徒過したことにつ いて,本件担当弁護士らがこれを回避するために相当な注意を尽くしていたとは認められない。 また,原告は,本件国際出願については,本件代理人事務所における標準的な実務とは異なり,国内移行手続の期間が30か月の国と31か月の国とに分けて費用見積りを用意するという極めて例外的な取扱いをとっていたと ころに,様々な要因が重なったことにより日本への国内移行手続の期限を徒過するに至ったものであり,原告が本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,特段の事情が存する旨主張する。 しかしながら,このような取扱いが本件代理人事務所において極めて例外 的なものであったというのであれば,なおさら,本件担当弁護士らとしては,日本ほか6か国等について,国内移行手続の期間が30か月の国等と31か月の国等とを正確に区別し,本件一覧表に国内移行手続の期限が誤って記入されることがないように十分注意を尽くすべきであったから,そのような例外的な取扱いが行われていたことを前提にして,原告が本件国内書面提出期 間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて特段の事情があったということはできない。 その他法改正の状況等を含め,原告は縷々主張するが,それらを慎重に精査しても,上記,の説示に照らし,いずれも採用することができない。 以上によれば,原告が本 情があったということはできない。その他法改正の状況等を含め、原告は縷々主張するが、それらを慎重に精査しても、上記の説示に照らし、いずれも採用することができない。以上によれば、原告が本件国内書面提出期間内に本件国際特許出願につき明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、法184条の4第4項所定の「正当な理由」があったとは認められない。 3 よって、原告の請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官田中孝一 裁判官小口五大 裁判官稲垣雄大
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