平成13(行コ)74 損害賠償請求控訴事件(原審 東京地方裁判所平成11年(行ウ)第59号)

裁判年月日・裁判所
平成13年8月27日 東京高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文10,755 文字)

主文 本件控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決主文第1項を取り消す。 2 被控訴人は,東京都に対し,56億2114万2500円を支払え。 第2 本件事案の概要 1 原判決の引用控訴人らの本訴請求の趣旨は,上記第1の控訴の趣旨の2項のとおりであり(なお,控訴人らの本訴請求は,当審において減縮されている。),また,本件における事案の概要,前提事実,争点に関する当事者双方の主張は,次項以下に当事者双方の当審における主張を補足するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第二事案の概要」の項の記載のとおりであるから,この記載を引用する。ただし,控訴人らが控訴の申立てをしていない中間確認の訴えに関する部分を除く。 すなわち,東京都は,平成3年8月28日,日本ビルプロヂェクト株式会社との間で,日本ビルプロヂェクトから19億8530万4992円の支払を受けて,東京都が所有する別紙物件目録記載1の(1)の土地(以下「αの土地」という。)と日本ビルプロヂェクトが所有する同目録記載2の土地(以下「βの土地」という。)とを交換するとの内容の本件交換契約を締結し,次に,本件交換契約に関連して,平成10年3月30日,三井松島産業株式会社及び日本ビルプロヂェクトとの間で,αの土地が分筆された後の土地である別紙物件目録記載2の(1)の土地を三井松島産業から,同じく分筆された後の土地である同目録記載2の(2)の土地(以下,同目録記載2の(1)及び(2)の各土地を併せて「γの土地」という。)を日本ビルプロヂェクトからそれぞれ譲り受けるとともに,三井松島産業及び日本ビルプロヂェクトに対し85億円を支払うとの内容の本件和解を成立させ,同年6月4日,三井松島産業及び日本ビルプロヂェクトに対し上 本ビルプロヂェクトからそれぞれ譲り受けるとともに,三井松島産業及び日本ビルプロヂェクトに対し85億円を支払うとの内容の本件和解を成立させ,同年6月4日,三井松島産業及び日本ビルプロヂェクトに対し上記和解金85億円を支払った。本件は,本件和解は都議会の議決を経ていない違法なものであるから,これに基づいて支出された85億円は違法な公金の支出となり,これにより東京都に56億2114万2500円の損害が生じているとして,東京都の住民である控訴人らが,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号の規定に基づき,東京都に代位して,上記支出当時の東京都知事の職にあった被控訴人に対し,上記の損害賠償を請求している住民訴訟事件である。 控訴人らは,本件和解が都議会の議決を経ていない違法なものであることについて,次のように主張している。 東京都が応訴する訴訟事件の和解を知事の専決処分と定めた都議会の昭和39年3月23日付けの本件議決は,「軽易な事項」でなければ知事の専決処分とすることができない旨を規定している法180条1項に違反する無効なものである。また,東京都が応訴することは,そもそも都議会の議決事項ではないのであるから,都議会がこれに関する事項を知事の専決処分として委任することはできないのであって,応訴事件の和解を都知事の専決処分とした本件議決はこの点からも無効である。さらに,本件議決は,法16条5項,東京都公告式条例6条に定める公布施行の手続を欠いているので,その効力が生じていないのである。したがって,本件和解をするためには,法96条1項により都議会の議決を要するものであったが,被控訴人は,都議会の議決を経ないまま,違法に本件和解をしたのである。 これに対し,被控訴人は,次のように主張している。 (1) 東京都が被告となる応訴事件の和解 都議会の議決を要するものであったが,被控訴人は,都議会の議決を経ないまま,違法に本件和解をしたのである。 これに対し,被控訴人は,次のように主張している。 (1) 東京都が被告となる応訴事件の和解は,裁判所の関与の下に行われるのに加え,その内容が東京都に不利になるとは考え難いのであるから,法180条1項が専決処分とすることができる要件として規定している「軽易な事項」に該当する。したがって,応訴事件の和解を知事の専決処分とした本件議決は有効である。 (2) 本件議決が法に適合するか否かの判断は都議会にゆだねられており,知事がこの判断の当否を論ずることは許されない。したがって,都議会の議決により知事の専決事項とされたものについては,知事が都議会に対し議決を求めることは許されず,知事は専決処分としてこれを執行すべきことが義務付けられているのである。また,本件和解の権限は,知事である被控訴人からその部下職員に対し内部的に委任されていたので,被控訴人は,当該部下職員がした専決処分に関する管理監督義務しか負わないが,上記のように知事が専決処分の執行を義務付けられていたことからすれば,被控訴人には,上記の管理監督義務違反もないのである。 (3) 本件和解の内容は,実質的には,本件交換契約を解除してβの土地を有償で取得するものであるが,その不動産評価も適正な価格でされているので,東京都には損害が生じていない。 2 控訴人らの当審における補足主張(1) 東京都が本件和解において三井松島産業及び日本ビルプロヂェクトとの間で合意した内容は,本件交換契約により譲渡したαの土地を東京都が再取得することであって,本件交換契約により取得したβの土地を東京都が再取得することではないのであるから,本件交換契約を解消する合意がされていないことは明らかである。現に,東京都は αの土地を東京都が再取得することであって,本件交換契約により取得したβの土地を東京都が再取得することではないのであるから,本件交換契約を解消する合意がされていないことは明らかである。現に,東京都は,本件和解に基づき,γの土地を東京都の単独事業用地として取得する手続をとり,その代金を平成10年度分の東京都土地開発基金から支出している。したがって,本件和解は,東京がγの土地を85億円で取得することを約したものである。 ところで,東京都は,平成10年度土地開発基金による用地取得計画において,γの土地の単価を1㎡当たり25万円としているのであるから,γの土地の価格は28億7885万7500円となる。そうすると,東京都は,本件和解により,上記価格を超える56億2114万2500円の損害を被っていることとなる。 (2) なお,仮に,本件和解が,本件交換契約を解消した上で,東京都がβの土地を買い受けることを合意したのであれば,交換差金の支出,γの土地の取得を口実とするβの土地の取得,瑕疵担保責任に関わる訴訟上の和解金の支出などは,いずれも東京都土地開発基金からの支出原因とはならないのであるから,この点からも,上記85億円の支出は東京都の会計原則に反するのである。 3 被控訴人の当審における補足主張(1) 法180条1項は,「軽易な事項」でなければ専決処分とすることができない旨を規定しているが,この「軽易な事項」に該当するか否かは,その事項を専決処分とする旨の議決をする議会が判断すべきものである。また,都議会は,本件議決をして以来34年間これを変更していないのであり,この間,都議会及び知事などの執行機関だけでなく住民からも本件議決の適法性について疑義が出たことはないのである。そうすると,応訴事件の和解が法180条1項にいう「軽易な事項」に当たると判断 であり,この間,都議会及び知事などの執行機関だけでなく住民からも本件議決の適法性について疑義が出たことはないのである。そうすると,応訴事件の和解が法180条1項にいう「軽易な事項」に当たると判断した本件議決は相当なものであって,同条に違反すると考えることはできない。 (2) 地方公共団体における議会と執行機関との関係に照らすと,執行機関は,議会の議決がされれば,当該議決の違法が一義的に明白であるなどの特段の事情がない限り,その議決を前提として行政を執行しなければならない。そうすると,仮に,本件議決が違法と判断されることがあったとしても,上記のとおり34年間適法な議決として扱われ,議会及び執行機関だけでなく住民からも本件議決の適法性について疑義が出たことがないことからすれば,本件議決の違法が一義的に明白であるなどの特段の事情がないことは明らかである。したがって,被控訴人には,本件和解に関して,損害賠償義務を負うべき過失は存しないのである。 (3) 仮に,本件和解に,事前に議会の議決を経ていない瑕疵があったとしても,本件和解は,法180条2項により,都議会に報告され,その承認を得ているので,上記の瑕疵は治癒されている。 4 参加人の当審における補足主張(1) 法96条1項12号は,普通地方公共団体が訴訟上の和解をするには議会の議決を要するものと定めている。これは,和解に基づく支払金額の多寡を問題としているわけではなく,普通地方公共団体のする和解は,その内容が行政上の目的,条理(公平性,妥当性等),現実の社会的要請等にかなうことが求められる結果,地方公共団体の利害及び権利義務関係に重大な影響を及ぼす場合もあるためである。他方,法180条1項が,「軽易な事項」を普通地方公共団体の長の専決処分にすることができるとしている趣旨は,執行行為ないし執 方公共団体の利害及び権利義務関係に重大な影響を及ぼす場合もあるためである。他方,法180条1項が,「軽易な事項」を普通地方公共団体の長の専決処分にすることができるとしている趣旨は,執行行為ないし執行機能の便宜迅速,能率的処理のためである。そうすると,法180条1項にいう「軽易な事項」とは,行政の目的,条理,現実の社会的要請等の点に問題がなく,かつ,執行行為ないし執行機能の便宜迅速,能率的処理をする上で利益があるものをいうのである。そうすると,訴訟上の和解は,裁判所が中立的な第三者として関与することで,行政の目的,条理,現実の社会的要請等が担保され,他方,臨機応変,迅速適宜な対応が求められるのであるから,上記の「軽易な事項」に該当するものというべきである。したがって,本件議決が違法とされる理由はない。 (2) 仮に,本件議決が法180条1項に違反するものであったとしても,同条項の指定が知事に対し権限を付与するととも義務をも課するものであることに照らすと,その違法性が重大かつ明白でない限り,知事はこれを有効なものとして扱わざるを得ないのである。そうすると,本件議決が重大かつ明白に違法なものでないことは明らかであるので,被控訴人には,本件和解に関して,損害賠償義務を負うべき過失は存しないのである。 第3 当裁判所の判断 1 本件議決が違法であるか否かについて(1) 関係証拠(甲3,7,12,21,43,乙1)によれば,本件議決がされた経緯について,次のとおりの事実が認められる。 ア都議会は,昭和25年9月5日,訴訟上の和解等を知事の専決処分とする旨の次のとおりの議案(応訴等の知事専決処分に関する件の改正について)を審議し,下記(ア)から(ウ)までの各事項が法180条1項にいう軽易な事項であるとして,これを議決した。 次の事項は知事が専決 の次のとおりの議案(応訴等の知事専決処分に関する件の改正について)を審議し,下記(ア)から(ウ)までの各事項が法180条1項にいう軽易な事項であるとして,これを議決した。 次の事項は知事が専決処分にすることができる。 (ア) 都を被告として提起した訴えに対する応訴(イ) 都が提起する訴えであってもその訴訟の目的の価額が300万円以下のもの(ウ) 前各号の訴訟事件についてする和解イ昭和38年法律第99号による地方自治法の改正により,従前の96条第1項10号に「訴訟」とあったのが「訴えの提起」と改められ(この改正で同号は11号とされ,さらに,昭和61年法律第75号による改正によって12号とされた。),その結果,応訴については議会の議決が不要であることが明文化された。 上記改正を受けて,都議会は,昭和39年3月23日,訴訟上の和解等に関する知事の専決処分について,次の議案(訴えの提起等の知事専決処分について)を審議し,下記(ア)に掲げる各事項が法180条1項にいう軽易な事項であるとして,これを議決(本件議決)した。 (ア) 昭和39年4月1日以降の次の事項は,知事が専決処分することができる。 都が提起する訴えであって,その訴訟の目的の価額が1000万円以下のもの都が応訴した事件及び前号の事件についてする和解(イ) 「応訴等の知事専決処分に関する件」(昭和25年9月16日東京都議会議決)は,昭和39年3月31日限り廃止する。 (2) ところで,法96条1項12号は,普通地方公共団体が行う訴訟上の和解については議会の議決を要するものと規定している。これは,普通地方公共団体が,紛争の一方当事者として,民事上の紛争を解決するについては,その紛争解決手段及び内容が地方公共団体の利害及び権利義務関係に重大な影響を及ぼす場合があることにかんが いる。これは,普通地方公共団体が,紛争の一方当事者として,民事上の紛争を解決するについては,その紛争解決手段及び内容が地方公共団体の利害及び権利義務関係に重大な影響を及ぼす場合があることにかんがみ,当該和解の可否自体を議会が決するよう定めているものと解される。なお,和解は,長その他の執行機関による和解交渉が行われることが前提となるのであるから,同条項の議会の議決の法的性質は,当該和解に関する地方公共団体の意思を決定し,長その他の執行機関にその和解締結権限を付与するものと解される。 他方,法180条1項は,普通地方公共団体の議会は,議会の権限に属することであっても,軽易な事項については,議会の議決により特に指定して,普通地方公共団体の長の専決処分にゆだねることができるものと規定している。 したがって,上記(1)の事実関係からすれば,都議会は,都が応訴する訴訟事件に係る和解が法180条1項にいう軽易な事項に当たるものとして,同条に基づき,これを特に知事の専決処分にゆだねる旨の本件議決をしたものと認められる。 (3) ところで,訴訟上の和解とは,互いに争っている訴訟当事者が,裁判所が間に入った話し合いにより,互いに譲歩してその間に存在する紛争を解決する合意をし,この合意に基づいて,確定判決と同一の執行力などが与えられる裁判所の和解調書が作成されて訴訟が終了することである。このような訴訟上の和解は,主として当事者間の交渉により行われ,判決と比較して,紛争の一刀両断的な解決を回避でき,実定法の枠にとらわれない新たな救済方法を創造できるという紛争解決上の利点を有するなどといわれている。そうすると,訴訟上の和解の内容は,紛争の性質や内容に応じて多種多様であるということができる。また,普通地方公共団体が行う訴訟上の和解についてみても,当該和解が当該 の利点を有するなどといわれている。そうすると,訴訟上の和解の内容は,紛争の性質や内容に応じて多種多様であるということができる。また,普通地方公共団体が行う訴訟上の和解についてみても,当該和解が当該普通地方公共団体の利害及び権利義務関係に重大な影響を及ぼすか否かは,請求の当否に関する法的な見通しのほかに,行政の目的,現実の社会的要請等の諸要素を考慮せざるを得ないため,多岐にわたる事項についての複雑な判断によらざるを得ないものと考えられる。そうすると,どのような訴訟上の和解が法180条1項にいう軽易な事項に該当するか否かの判断は,第一次的には当該普通地方公共団体自身の意思,すなわち,住民の代表者で構成される議会の判断にゆだねられているものというべきである。しかし,法180条1項が,特に軽易な事項に限って長の専決処分にゆだねることができる旨を規定していることからすると,およそ訴訟上の和解のすべてを無制限に知事の専決処分とすることは法の許容するところではないというべきであり,このような議決がされた場合には,議会にゆだねられた裁量権の範囲を逸脱するものとして,違法との評価を受けるものというべきである。 (4) そこで,本件議決が都議会にゆだねられた上記裁量権の範囲を逸脱するものであったか否かを検討することとする。 本件議決の内容からすれば,都議会は,都が提起する訴訟事件に係る和解と都が応訴する訴訟事件に係る和解とでは,その軽易の程度が異なるものと考え,都が提起する訴訟については,訴訟の目的の価額をその軽易の判断基準として,それが1000万円以下のものに限り知事の専決処分とすることとし,他方,都が応訴した訴訟事件に係る和解については,応訴事件であるがゆえにこれがすべて軽易なものであるとし,都議会にゆだねられた上記裁量権に基づいてこれを知事の専決 に限り知事の専決処分とすることとし,他方,都が応訴した訴訟事件に係る和解については,応訴事件であるがゆえにこれがすべて軽易なものであるとし,都議会にゆだねられた上記裁量権に基づいてこれを知事の専決処分としたようにうかがわれる。しかし,都が提起する訴訟事件が除外されているとはいえ,およそ都が応訴した訴訟事件に係る和解のすべてを知事の専決処分とすることは,あまりに広範囲の和解を知事の専決処分をにゆだねるものといわざるを得ない。応訴事件に係る和解のすべてが軽易な事項であるとすることは,「和解」を原則として議会の議決事件とした法96条1項12号及び議会の権限のうち特に「軽易な事項」に限って長の専決処分にゆだねることができる旨を規定している法180条1項の趣旨に反するものであって,本件議決は,都議会にゆだねられた上記裁量権の範囲を逸脱するものというべきである。 したがって,都が応訴した訴訟事件に係る和解のすべてを知事の専決処分とした本件議決は,法180条1項に違反する無効なものというほかない。 2 本件議決が違法であることを理由とする被控訴人の責任の有無について(1) 上記のとおり本件議決は法180条1項に違反する無効なものであるから,被控訴人は都議会の議決を経た上で本件和解をすべきであったこととなる。しかし,普通地方公共団体においては,議会と知事がそれぞれ独立した役割を担い,独自の権限を有していることに照らすと,議会がした議決が違法であったことにより,これを執行した知事に直ちに損害賠償責任が発生するものと即断することはできない。 そこで,違法な本件議決がされ,これに基づいて東京都が本件和解をしたことについて,知事である被控訴人に損害賠償の責任が発生するか否かを検討することとする。 ア普通地方公共団体の長と議会は,それぞれが固有の権限を有す 議決がされ,これに基づいて東京都が本件和解をしたことについて,知事である被控訴人に損害賠償の責任が発生するか否かを検討することとする。 ア普通地方公共団体の長と議会は,それぞれが固有の権限を有する独立した機関であり,前記のとおり,和解に関する普通地方公共団体の意思を決定する権限は議会にあるので,議会が和解に関する議決をし場合は,執行機関である長には,この議決に従った和解をする権限が授与されるとともに,当該和解を行う義務をも負担することとなるが,他方,議会が本来は自らの権限に属する一定の範囲の和解についてこれを知事の専決処分とするとの議決をした場合には,知事としては,その議決が一義的明白に違法であるといえるような場合でない限り,この議決に従って専決処分としてこれを行うことを義務付けられるのであって,これを拒んだ上で,当該和解について,あえて法96条1項12号に基づく議会の議決を求めるようなことはできないものと解される。ただし,法176条4項は,議会の議決がその権限を超え又は法令若しくは会議規則に違反すると認めるときは,当該地方公共団体の長は,これを再議に付さなければならない旨を規定しており,議会の議決が違法であると認めるときは,これを再議に付することは長の義務でもあると解されているのであるから,議会の議決に基づく執行行為でさえあれば,長には常に損害賠償の責任が生じないと解するのは相当でなく,少なくとも,議会の議決が一義的明白に違法であるような場合には,そのような議決を執行した長にも損害賠償の責任が生ずるものというべきである。 イところで,前記のとおり,訴訟上の和解について,法180条1項にいう軽易な事項に該当するか否かを判断するには,多岐にわたる事項について複雑な判断によらざるを得ないものであるから,これが容易に判断できるものという 記のとおり,訴訟上の和解について,法180条1項にいう軽易な事項に該当するか否かを判断するには,多岐にわたる事項について複雑な判断によらざるを得ないものであるから,これが容易に判断できるものということはできないものであるところ,都議会は,この軽易な事項の解釈及び判断を誤り,都が応訴した訴訟事件に係る和解のすべてを無制限に知事の専決処分としてしまったのである。また,東京都では,本件議決を適法な議決として扱い,本件議決から本件和解までの約34年間にわたって,都が応訴する訴訟事件に係る和解を知事が専決処分としてきたものであるが,そのことにつき,都議会及び歴代知事などの執行機関はもとより,住民から疑義が出たことはうかがわれず,また,都が応訴する訴訟事件に係る和解を知事の専決処分にしたことで,住民に不利益を及ぼした形跡も存しないのである。 ウ上記の事実関係からすると,結果として,本件議決が法180条1項に違反することとなったものであるが,この議決が一義的明白に違法であるということは困難である。そうすると,知事の専決処分として本件和解がされたことについて,被控訴人には,その専決処分をゆだねた本件議決が違法であることを理由として,東京都に対して損害賠償義務を負担すべき責任は生じないものというべきである。 (2) なお,関係証拠(甲18,30)によれば,本件和解については,平成10年11月19日の東京都の都市・環境委員会において,本件和解の内容について質疑応答がされ,さらに,平成10年12月に開催された都議会の平成10年の第2回定例会において,被控訴人から専決処分として報告され,これに対する質疑応答を経た上で都議会がこれを承認したことが認められる。 上記事実関係からすれば,この都議会の承認は,本件和解についてあらかじめ承認の議決をしたのと同視し得 専決処分として報告され,これに対する質疑応答を経た上で都議会がこれを承認したことが認められる。 上記事実関係からすれば,この都議会の承認は,本件和解についてあらかじめ承認の議決をしたのと同視し得るものと認められるので,都が応訴する訴訟事件に係る和解のすべてを知事の専決処分とした本件議決に瑕疵があったとしても,この瑕疵は,本件和解についてはこの都議会の承認により治癒されたものというべきである。 3 控訴人らが主張するその他の違法事由について(1) 控訴人らは,普通地方公共団体が応訴することは議会の議決事項ではないのであるから,議会がこれに関する事項を知事の専決処分として委任することはできないのであるとして,応訴事件の和解を都知事の専決処分とした本件議決は無効であると主張する。 確かに,普通地方自治体が応訴することは議会の議決事項ではないが,応訴事件であっても,これについて訴訟事件の和解をすることは,前記のとおり議会にその権限があるのであるから,議会が応訴事件に係る和解を知事の専決処分として委任することができることは明らかである。したがって,控訴人らの上記主張には理由がない。 (2) 控訴人らは,本件議決は,法16条5項,東京都公告式条例6条に定める公布施行の手続を欠いているので,その効力が生じていないと主張する。 しかし,本件議決は,議会の権限に属する事項の一部を知事に委任することを内容とするものであるから,委任者である都議会が受任者である知事に対して本件議決の内容を明らかにすることによってその効力が発生するものであり,東京都公告式条例(甲45)により公告を要する条例,規則,規程等には該当しないものである。したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。 (3) 控訴人らは,本件和解に基づく支出について,予算の議決を経るべきであったのに 45)により公告を要する条例,規則,規程等には該当しないものである。したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。 (3) 控訴人らは,本件和解に基づく支出について,予算の議決を経るべきであったのに,これをせずに土地開発基金から拠出し,また,東京都財産価格審議会条例に違反する処理をしたのであるから,違法であり,さらに,本件和解の実質的な内容が東京都がβの土地を取得したことであるとすれば,この取得について東京都議会の議決を経ていないので違法であるとの主張をする。 しかし,法242条の2第1項によれば,住民訴訟は,監査請求の対象とした違法な財務会計上の行為について提起すべきものとされているのであるところ,控訴人らは,本件和解がされたことが違法であるとして本件監査請求をしたのであるから,上記は監査請求を経ていない別個の財務会計上の行為の違法を主張しているものというべきであり,本訴の請求を理由付ける主張にはならないものである。したがって,控訴人らの上記主張はいずれも理由がない。 4 まとめ以上によれば,控訴人らの本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないこととなる。 第4 結論よって,控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり,その取消しを求める控訴人らの本件控訴には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部裁判長裁判官近藤崇晴裁判官字田川基裁判官原克也

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