判決平成14年4月15日神戸地方裁判所平成13年(行ウ)第20号幼児引渡義務確認等請求事件 主文 1 原告の被告神戸地方裁判所姫路支部長に対する訴えをいずれも却下する。 2 原告の被告国に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告神戸地方裁判所姫路支部長は,原告に対し,甲及び乙を引き渡さないことが違法であること及び原告に対し,甲及び乙を引き渡す義務のあることをいずれも確認する。 2 被告国は,原告に対し,甲及び乙を引き渡せ。 3 被告国は,原告に対し,100万円を支払え。 第2 事案の概要本件は,人身保護請求事件において被告神戸地方裁判所姫路支部長(以下,「被告支部長」という。)が原告の子らを預かった行為が違法であるとして,同支部長に対し,子らの返還を申請したにもかかわらず,何らの措置も講じないとして,行政事件訴訟法37条に基づき,その不作為の違法確認及び子供らの引渡義務の確認を求めるとともに,被告国に対し,同法4条に基づき,子らの引渡しを求め,国家賠償法1条の規定に基づき慰謝料100万円の支払いを求めた事案である。 1 争いのない事実等以下の事実は当事者に争いがないか,証拠上容易に認めることができる(末尾に証拠を掲記しない事実は当事者に争いがない。)。 (1) 原告と丙(以下「丙」,若しくは「請求者」という。)は,平成2年9月28日に婚姻の届出をした夫婦であり(但し,現在離婚訴訟係属中),甲(平成3年6月9日出生)及び乙(平成6年8月8日出生)(以下甲乙あわせて「被拘束者ら」という。)は同人らの子である。 丙は,平成9年9月ころ た夫婦であり(但し,現在離婚訴訟係属中),甲(平成3年6月9日出生)及び乙(平成6年8月8日出生)(以下甲乙あわせて「被拘束者ら」という。)は同人らの子である。 丙は,平成9年9月ころ原告と別居し,以後,原告に居所を秘して連れ出した被拘束者らとともに生活していた。 神戸家庭裁判所姫路支部は,平成10年2月3日,被拘束者らの監護者を丙と指定する旨の審判をし,上記審判は確定した(即時抗告棄却決定・同年5月12日,特別抗告却下決定・同年7月16日)。さらに,神戸地方裁判所姫路支部は,同年5月25日,原告は,①丙の住居及び勤務先を探索したり,これらの建物並びに甲の通う学校及び乙の通う保育所に立ち入ったり,付近を徘徊したり,佇んだり,架電してはならない,②丙並びに甲及び乙に対し,面会を求めてはならないとの仮処分決定をし,同年11月16日に仮処分異議事件において同決定を認可した(乙6ないし10)。 (2) ところが,原告は,平成11年12月24日ころ,丙の住所地付近の公園で遊んでいた被拘束者らを連れ出し,米国テキサス州在住の原告の妹の監護下に置いた。 (3) そこで,丙は,平成13年1月5日,丙を請求者,原告を拘束者,甲及び乙を被拘束者らとして,神戸地方裁判所姫路支部に人身保護請求訴訟(以下「本件事件」という。)を提起した。 本件事件の受訴裁判所(以下,「本件裁判所」という。)は,同月10日,人身保護法(以下「法」という。)12条,人身保護規則(以下「規則」という。)2条に基づき,以下の内容の人身保護命令を発し(以下,「本件命令」という。),第1回審問期日を同月16日午後2時と指定した。 ア拘束者は前記審問期日に被拘束者らを出頭させるとともに,同期日までに答弁の趣旨並びに拘束の日時,場 発し(以下,「本件命令」という。),第1回審問期日を同月16日午後2時と指定した。 ア拘束者は前記審問期日に被拘束者らを出頭させるとともに,同期日までに答弁の趣旨並びに拘束の日時,場所及びその事由を明らかにした答弁書を提出せよ。 イ拘束者がこの決定に従わないときは,勾引し又は決定に従うまで勾留し,及び遅延1日につき,500円以下の割合による過料に付することがある。 そして,本件裁判所裁判長裁判官(以下,「本件裁判長」という。)は,同日,被拘束者ら国選代理人を選任した。 (4) 平成13年1月16日,第1回審問期日において,請求者,同代理人,原告及び被拘束者ら国選代理人が出頭したが,原告は,被拘束者らを同行しなかった。 本件裁判長が原告に対し,被拘束者らの拘束の有無,拘束の場所及び監護者の氏名を明らかにするよう求めたにもかかわらず,原告は,他の人に迷惑がかかること,相談している弁護士の助言のためであることなどを理由としてこれらを明らかにしなかった。被拘束者ら国選代理人は,被拘束者らを請求者のもとで監護するのが被拘束者らの福祉に適うとの意見を述べた。 本件裁判長は,原告に対し,次回は被拘束者らを同行するようにと命じ,第2回審問期日を同月22日午後3時と指定した。その後,拘束者代理人の申請により,同月19日,第2回審問期日が同月29日午後2時に変更された(甲3,乙12)。 (5) 平成13年1月29日午後2時ころ,原告は,被拘束者らを伴い,原告代理人とともに本件裁判所に出頭した。そして,第1号法廷の出入口で,職員から「子供さんたちを別室でお預かりします。」と告げられたため,原告及び同代理人はこれを了解して同職員に被拘束者らを引き渡し,同職員は被拘束者らを法廷外に 頭した。そして,第1号法廷の出入口で,職員から「子供さんたちを別室でお預かりします。」と告げられたため,原告及び同代理人はこれを了解して同職員に被拘束者らを引き渡し,同職員は被拘束者らを法廷外に連れ出した。 その際,第1号法廷に至る2階廊下を含む姫路支部庁舎の各所に同支部職員が配置されており,傍聴のため入廷していた被拘束者らの祖父が同職員に対し被拘束者らの付添を申し出たが,同職員は,「ご心配なく。」と言い,これに応じなかった。 その後,第2回審問期日が開かれ,請求者,同代理人,原告,同代理人及び被拘束者ら代理人が出頭したが,被拘束者らは裁判所職員に預けられたまま,出頭しなかった。 原告訴訟代理人は,原告が,甲の診断・治療のため,平成12年12月29日,米国テキサス州在住の妹丁に被拘束者らを託したとする内容の答弁書を陳述した。 本件裁判長は,第3回審問期日を同年2月8日午前11時と指定するとともに,被拘束者らを仮に釈放して請求者に引き渡し,請求者が被拘束者らを請求者の住居又は戌方において監護することを内容とする仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)をし,これを原告に告知した(甲4)。 その後,請求者・同代理人・被拘束者ら国選代理人は直ちに退廷し,続いて被拘束者らの祖父が退廷しようと法廷の扉を押したが,同支部職員が外から押し返したため,原告らは同法廷から出ることができなかった。 その間,本件裁判所裁判官3名及び立会書記官は,何らの説明もせずに席に留まっていたため,傍聴席から何が起きたのか全くわからない旨の質問がなされ,本件裁判長は「聞きおきます。」との答えを繰り返し,その後退廷した。 (6) 同年2月8日,第3回審問期日が開かれ,原告代理人が本件仮処分決定を 何が起きたのか全くわからない旨の質問がなされ,本件裁判長は「聞きおきます。」との答えを繰り返し,その後退廷した。 (6) 同年2月8日,第3回審問期日が開かれ,原告代理人が本件仮処分決定を取り消すよう求めたが,本件裁判所は職権発動しないことを明らかにし,所定の審理を行った後,本件裁判長は,審問を終結し,第4回審問期日(判決言渡期日)を同日午後0時15分と指定した。 本件裁判所は,第4回審問期日において,被拘束者らを直ちに釈放し請求者に引き渡す旨の判決を言い渡した。 (7) 原告は,同日,上告を提起したが,最高裁判所は,同年4月26日,上告棄却決定をした。 原告は,同年7月27日,被告支部長宛てに,被拘束者らの引渡しを求める「行政処分申請書」と題する書面を送付したが,被告支部長は,同申請に対し何らの対応を行っていない。 2 争点(1) 被告支部長は被告適格を有するか。(争点1(1))(被告ら)以下の理由から,被告支部長は被告適格を有しない。 ア地方裁判所支部は,地方裁判所の事務の一部すなわち上訴事件及び行政事件訴訟に係る事件に関する事務を除く,地方裁判所の権限に属する事務を取り扱い(裁判所法31条1項,地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則1条2項),支部長が該当支部の司法行政事務を総轄する(下級裁判所事務処理規則3条)。 イ人身保護請求は,現に不当に奪われている人身の自由を司法裁判により迅速かつ容易に回復せしめることを目的とするものであり,人身保護命令を発した受訴裁判所は,自らが主体となって被拘束者を監護し(規則25条1項),受訴裁判所が必要があると認めるときは,被拘束者を適当であると認める場所に移すことを命ずることができる(規則25 保護命令を発した受訴裁判所は,自らが主体となって被拘束者を監護し(規則25条1項),受訴裁判所が必要があると認めるときは,被拘束者を適当であると認める場所に移すことを命ずることができる(規則25条2項)。また,受訴裁判所は,必要があると認めるときは,終局判決前であっても,決定をもって,仮に被拘束者を釈放し,その他適当な処分をすることができる(法10条1項)。 受訴裁判所は,最終的には判決によって,自ら被拘束者の釈放の事実状態を形成し(法16条3項),また,その他適当であると認める処分をすることができ(規則2条),被拘束者が幼児であるなど特別の事情があるときは,その自由裁量によって,被拘束者の利益のために適当であると認める処分をすることができる(規則37条)。 ウ前記争いのない事実関係及び法制度からすれば,本件命令が発せられている以上,被拘束者らは本件事件の受訴裁判所である本件裁判所の直接管理下に移されたのであり,被拘束者らを原告に返還するか,仮に釈放して請求者その他の者に引き渡すかの判断は,受訴裁判所である本件裁判所の専権に属し,受訴裁判所の判断に委ねられている。そして,本件事件においては,被拘束者らを直ちに釈放し請求者に引き渡す旨の判決が,原告の上告を棄却する決定により確定している。 被告支部長は,裁判事務ではない司法行政事務を担っているものにすぎず,本件裁判所に対しても,被拘束者らの身柄について,何らの権能も有しない。 エ以上のとおり,被告支部長は,原告の平成13年7月27日到達の書面による被拘束者らの返還を求める申請について何らの権能も有しないのであり,本件訴えにおける被告適格を有しない。 (原告)裁判所職員が被拘束者らを一時預るとして原告から引 による被拘束者らの返還を求める申請について何らの権能も有しないのであり,本件訴えにおける被告適格を有しない。 (原告)裁判所職員が被拘束者らを一時預るとして原告から引渡しを受け,預った行為は,司法行政サービスに属し,被告支部長による行政処分である。また,預かった被拘束者らを原告に返還する行為も,同様である。被告支部長に被告適格がないとの被告らの主張は失当である。 本件請求に係る引渡義務の確認は,引渡不作為の違法確認と表裏の関係にあるところ,この確認の前提となる処分申請については特に法令上の申請権を必要としない。一時預かられた被拘束者らについて返還申請する権利は条理上当然に存する。 (2) 被告支部長に被拘束者らを原告に引き渡す義務はあるか。また,被告支部長が被拘束者を原告に返還しないことは違法か。(争点1(2))(原告)人身保護手続では,審問期日には被拘束者が出頭しなければならない,と規定されている(規則30条1項)。同規定は,拘束者に対し,被拘束者の利益のためにする釈放その他適当であると認められる処分を受忍又は実行させることを目的とし,同措置の実現は拘束者の意思にかかるものであり,かつ,被拘束者の出頭がその要件となる旨規定しているのであって,子供の引渡し決定の直接強制は法的に許されない。拘束者が被拘束者を出頭させよとの命令に従わないときは勾引し又は過料に処することができるとの規定(法12条)も,裁判所が被拘束者を執行手続によらずに引き上げ,連行できないことを前提としている。 仮に直接強制が許されると解しても,人身保護手続外で裁判所が被拘束者らを拘束者から引き上げたり引き渡したりすることは認められない。 したがって,裁判所は 提としている。 仮に直接強制が許されると解しても,人身保護手続外で裁判所が被拘束者らを拘束者から引き上げたり引き渡したりすることは認められない。 したがって,裁判所は,一時的に被拘束者を預かった場合には,被拘束者を拘束者のもとへ戻したうえ開廷し,仮処分決定がなされると,拘束者の意思を問うと共に,請求者の執行委任を受けて,執行官が被拘束者の引渡しを執行するべきものである。 さらに,規則25条1項は,人身保護命令書送達の効果として,被拘束者は裁判所によって監護されるものとするが,それは拘束の場所においてであり,この場合,被拘束者の監護は拘束者において当該裁判所の指揮のもとに引続きこれを行うものとされるから,裁判所の監護は間接的なものに過ぎない。 被拘束者らの引渡につき,本件裁判所が強制執行の形をとったのであれば,当然に請求者の執行委任がなされ,調書が作成されることになるが,一件記録を見てもその形跡はなく,原告に対し何の通知もないから,外形的にも執行がなされたとは認められない。 被告支部長は,平成13年1月29日午後2時前,第1号法廷入口付近で,第2回審問期日開廷に至るまで原告から預かるとの趣旨で被拘束者らをその管理下に移したのであるから,開廷に先立ち原告に被拘束者らを返還すべきであった。にもかかわらず,開廷後に原告に対し返還しなかったことは違法であり,被告支部長には被拘束者らを原告に引き渡す義務がある。 (被告ら)被告支部長は,裁判事務ではない司法行政事務を担っているものにすぎず,被拘束者らの身柄について何らの権能も有しないから,被告支部長に同人らを原告に引き渡す義務はない。 被拘束者らが第2回審問期日に立ち会わなかったの 法行政事務を担っているものにすぎず,被拘束者らの身柄について何らの権能も有しないから,被告支部長に同人らを原告に引き渡す義務はない。 被拘束者らが第2回審問期日に立ち会わなかったのは,本件裁判所の裁判所職員が開廷前に,被拘束者らを審理が終了するまで預かる旨述べ,拘束者及び同代理人の了解を得て,別室にて預かっていたが,本件仮処分決定がなされた後,被拘束者らを請求者に引き渡したことによるものである。それ以後,請求者が被拘束者らを監護しているものであり,かかる手続に違法な点は存しない。 また,法廷の扉を外から押し返されたため,被拘束者らの祖父が法廷外に出ることができなかった事実は認めるが,これは本件裁判長が法廷秩序維持権(裁判所法71条)に基づき,退廷の順序等を指定し,請求者・同代理人,被拘束者ら国選代理人以外の在廷を命じた結果であり,これは法廷の秩序維持のための適切な行為である。 (3) 被告国に被拘束者らの引渡義務はあるか。(争点2)(原告)争点1(2)原告主張のとおり,被告支部長は被拘束者らを返還すべきであるにもかかわらず,これを履行しないから,行政事件訴訟法4条に基づき,被告国に対し,被拘束者らの引渡しを請求する。 (被告ら)被告支部長は,裁判事務ではない司法行政事務を担っているものにすぎず,本件裁判所に対しても,被拘束者らの身柄について,何ら権能も有しないから,これがあることを前提とする被告国に対する被拘束者らの引渡請求は理由がない。 (4) 被告国に損害賠償責任はあるか。同責任がある場合の損害額はいくらか。 (争点3)(原告)被告支部長が,同年1月29日午後2時前,第1号法廷 い。 (4) 被告国に損害賠償責任はあるか。同責任がある場合の損害額はいくらか。 (争点3)(原告)被告支部長が,同年1月29日午後2時前,第1号法廷付近で,上記事件の審問期日の開廷まで原告から預かるとの趣旨で,その管理に移した被拘束者らを,開廷後も原告に返還せず今日に至っている行為は違法であり,国の公権力の行使にあたる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に,原告に損害を加えているものである(国家賠償法第1条)。 そして,前記被告支部長の行為により原告は想像を絶する測り知れない精神的損害を蒙っており,その慰謝料として被告国は100万円を支払う義務がある。 (被告ら)争点1,2の被告主張のとおり,そもそも被告支部長は,司法行政事務を担っているものにすぎず,本件裁判所に対しても,被拘束者らの身柄について,何ら権能も有しないし,人身保護請求及び仮処分につき何らの行政処分も行っていないから,同支部長の不法行為に基づく損害賠償責任が生じる余地はなく,仮に原告が,本件裁判所及びその手足としての裁判所職員の行為を違法と主張しているとしても,争点1(2)のとおり何ら違法はないから,被告国への損害賠償請求は理由がない。 第3 争点に対する判断 1 争点1(1)(被告支部長の被告適格)について(1) 人身保護手続においては,人身保護命令が拘束者に送達されることにより,被拘束者の身柄は当該命令を発した裁判所の支配下に移り,以後当該裁判所の指揮のもとに,拘束者が被拘束者を従前の拘束場所において引き続き監護するとともに,指定された審問期日に,被拘束者を出頭させる義務を負うこととなる(法12条2項前段,規則25条1項)。そして, 判所の指揮のもとに,拘束者が被拘束者を従前の拘束場所において引き続き監護するとともに,指定された審問期日に,被拘束者を出頭させる義務を負うこととなる(法12条2項前段,規則25条1項)。そして,受訴裁判所は,相当と認める場合には,拘束者に対して,被拘束者らの釈放その他適当な処分をする仮の処分をすることができる(法10条1項)。受訴裁判所が事案に応じ,被拘束者らに特別の事情があるときは,被拘束者を特定人の監護に移すことも上記その他適当な処分として許されると解されるが,仮処分決定の告知によって観念的に釈放された状態となる被拘束者の管理主体はあくまで受訴裁判所である。その後,被拘束者を釈放し,請求者に引き渡す旨の判決の言渡しにより直ちに受訴裁判所が自ら釈放の状態を形成する効力を生じ(法16条3項参照),その管理権が請求者に移るのであって,人身保護命令を発した後判決の言渡に至るまでは,被拘束者の管理主体は一貫して受訴裁判所であると解すべきである。 (2) ところで,最高裁判所は,地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため,その地方裁判所の管轄区域内に,地方裁判所の支部を設けることができ(裁判所法31条1項),同支部は,上訴事件及び行政事件訴訟に係る事件を除く地方裁判所の権限に関する事務を取り扱うものとされている。そして,地方裁判所支部長は,当該地方裁判所の裁判官会議及び同裁判所長の指揮監督を受け,当該支部の司法行政事務を総括するものとされている(下級裁判所事務処理規則3条,裁判所法29条1項2項)ところ,これらの規定による被告支部長の権限は司法行政事務に関するものであって,裁判事務とは異なるものであることは明らかである。 (3) 前記争いのない事実等(5)のとおり,第2回審問期日の開廷前に姫路支部職員が原告から被拘束者らを預かり 行政事務に関するものであって,裁判事務とは異なるものであることは明らかである。 (3) 前記争いのない事実等(5)のとおり,第2回審問期日の開廷前に姫路支部職員が原告から被拘束者らを預かり,同審問期日後請求者に引き渡した事実が認められるが,本件裁判所が人身保護命令(本件命令)によってその管理権に基づいて被拘束者らを預かり,その後仮処分決定に基づいてこれを請求者に監護させたものであり,被告支部長が司法行政事務上の処置として行ったものではない。 (4) 以上のとおり,被拘束者らに対する管理権は本件命令に基づき本件裁判所が有しており,同権限に基づく管理行為は裁判事務であって,司法行政事務処理権限を有するにすぎない被告支部長は,被拘束者らの身柄に関し何らの権限も有していなかったと認められる。したがって,被告支部長に対する原告の返還申請に対し何らの措置を講じないことの違法確認の訴え及び被拘束者らを原告に引き渡すべき義務の確認の訴えは,争点1(2)について判断するまでもなく,不適法であり,却下を免れない。 2 争点2(被告国の被拘束者らの引渡義務)について被告支部長は,上記のとおり,裁判事務ではない司法行政事務を担っているものにすぎず,被拘束者らの身柄について何ら権能も有しないから,これがあることを前提とする被告国に対する被拘束者らの引渡請求は前提を欠く。 そもそも,法ないし規則は,人身保護命令や人身保護命令によって被拘束者の身柄を失った拘束者が,その身柄について国ないしその機関である裁判所等に対して,返還,引渡し若しくは釈放を求める手続を何ら規定していないが,これは,人身保護手続が裁判手続であることから,行政による裁判への介入を許さない趣旨であると解される。 そして,人身保護法制度が,現に不当に奪 しくは釈放を求める手続を何ら規定していないが,これは,人身保護手続が裁判手続であることから,行政による裁判への介入を許さない趣旨であると解される。 そして,人身保護法制度が,現に不当に奪われている人身の自由を司法裁判により迅速かつ容易に回復せしめることを目的としている(法1条)ことからすれば,被拘束者らの身柄を失った原告は,国ないしその機関である裁判所等に対して,被拘束者らの返還,引渡し若しくは釈放を求める法令上の申請権を有していないと解すべきである。一時預かられた被拘束者らについて返還申請する権利が条理上当然に存しており,被告支部長の不作為の違法確認の前提となる被拘束者らの返還申請については特に法令上の申請権を必要としないとの原告の主張は,理由がない。裁判所職員が被拘束者らを預かったのは本件命令に基づくものであり,司法行政上の処置として一時的に預かったものではない。 したがって,被拘束者らを原告に返還すべき義務が被告国にあるとは認められない。 よって,原告の主張は理由がない。 3 争点3(国の損害賠償責任)について(1) 被告支部長の行為が行政処分であることを前提として, 原告が国家賠償を請求しているとすれば, 被告支部長には人身保護手続及びその仮処分につき何ら行政処分をする権限はなく, 現に行政処分を行っていないから, 国家賠償責任を論じる余地はない。 (2) もっとも, 本件事件当時の被告支部長は本件事件の受訴裁判所である裁判体の裁判長でもあるから, 原告が, 被告支部長のなした裁判上の行為を国家賠償の対象として問題としていると解することもできるので, この点につき検討する。 アまず, 平成13年1月29日の第2回審問期日前に裁判所職員が被拘束者らを預かった点であるが, を国家賠償の対象として問題としていると解することもできるので, この点につき検討する。 アまず, 平成13年1月29日の第2回審問期日前に裁判所職員が被拘束者らを預かった点であるが, 同時点では, すでに同月10日に発せられた本件命令により, 観念的には, 被拘束者らは原告から解放され, 裁判所の管理下にあったものであり,本件命令に基づくものといえるから, 何ら違法ではない。また, 預かった際の態様についてみても, 原告及び原告代理人が職員の申し出に応じ,その了解のもとになされたものであって, 職員が強制的に預かったものではないから, 違法とはいえない。 イ次に, 第2回審問期日において, 本件裁判所が, 被拘束者らを出頭させず, 本件仮処分決定を原告に告知し, 請求者, 同代理人, 国選代理人のみを先に退廷させ, 原告, 同代理人等を法廷に留めおいて, 被拘束者らを請求者に引き渡してしまった点であるが, 以下の理由から, この点についても違法な点はない。 (ア) 人身保護請求事件の受訴裁判所が,拘束者に被拘束者の釈放その他適当な処分をすることができること, 仮処分決定により被拘束者を仮に釈放して,被拘束者を特定人の監護に移すことを命じることも適当な処分として許されることは, 前記争点1の判断で述べたとおりであり, 本件裁判所のとった前記措置が人身保護手続にのっとってなされたものであることは明らかである。 (イ) 原告は, 被拘束者の意思を問うことが執行の先決要件であり, 審問期日には被拘束者が出頭しなければならないと規定されている(規則30条1項)として, 第2回審問期日に被拘束者らが出頭していなかったことを問題とする。しかし, 拘束者又はその代理人の答弁書に基づく陳述とこれに 拘束者が出頭しなければならないと規定されている(規則30条1項)として, 第2回審問期日に被拘束者らが出頭していなかったことを問題とする。しかし, 拘束者又はその代理人の答弁書に基づく陳述とこれに対する被拘束者若しくは請求者又はそれらの代理人の陳述を行う審問期日には, 被拘束者ら代理人が出頭し, 被拘束者らが病気その他のやむを得ない事由により出頭することができず, かつ出頭しないことにつき被拘束者に異議がないときは, 被拘束者が出頭しなくても開廷できることとされている(規則29条1項, 30条1項1号)。そして, 証拠(甲4)によれば, 第2回審問期日が上記の審問期日にあたること,被拘束者らが何らの異議を述べていないことが認められる。 (ウ) 離婚中の夫婦の一方の監護下にあった子供を他方が連れ去った場合に,子供を取り戻す一便法として人身保護手続が用いられることがあり,このようなケースでは, 請求者, 拘束者ともに被拘束者である子供への執着が強く, さらにはそれぞれの親戚等の関係者が応援して法廷にかけつけていることも珍しくない。 このような法廷に子供を出頭させた上で, その引渡しを行おうとしても, 子供の奪い合い等の混乱が生じて円滑にいかないことも予想される。 したがって, 受訴裁判所は, 拘束者・請求者の夫婦関係, 子供を連れ去った際の事情やその後の事情, 請求者・拘束者・被拘束者の性向や身体的ないし心理的状況等の諸事情に鑑み, 特に被拘束者である子供の福祉に十分配慮して適切な方法をとるべきであり, 必ず子供を審問期日に出頭させた上で, その引渡を行うべきであるというものではない。 本件事件においては, 被拘束者らの監護者を丙とする審判が確定し,しかも, 原告に対して, 被拘束者ら 審問期日に出頭させた上で, その引渡を行うべきであるというものではない。 本件事件においては, 被拘束者らの監護者を丙とする審判が確定し,しかも, 原告に対して, 被拘束者らの身辺に立ち入ったり連絡をとることを禁止する仮処分命令が発せられているにもかかわらず, 原告が被拘束者らを連れ去り, 米国テキサス州の原告の妹の監護においたこと, 本件事件の第1回審問期日に正当な理由もないのに被拘束者らを出頭させなかったこと等の事実があったのは前記のとおりである。このような事情に鑑みると, 被拘束者らを法廷に出頭させ,その場で引渡しをすることが円滑に行われるかは極めて疑問であり, 本件裁判所が, 第2回審問期日前に予め被拘束者らを預かった上, 同期日後に法廷外の場所で請求者に被拘束者らを引き渡したこと及びその間原告らを法廷内にとどまらせたことは,いずれも適切な措置であったといわざるを得ない。 (エ) また, 原告は, 職員から被拘束者らを一時預かると言われて騙されたと不満を述べている。しかしながら, 原告から被拘束者らを預かるに際し,今後の状況を説明した場合, 本件事件に至るまでの前記事情からすれば,原告が被拘束者らを職員に預けないであろうことが予測される。また, 少なくとも, 人身保護請求事件に関与する弁護士であれば, 裁判所職員が予め被拘束者である子供を預かる場合には, 通常, 前項のような引渡方法がとられることを十分認識しているはずであり, 弁護士が事情を十分わきまえていると受訴裁判所が考えたとしてもやむを得ないところである。 (オ) 証拠(甲6)によれば, 請求者が被拘束者らを車に乗せる際,被拘束者らが抵抗した事実は認められるが,裁判所が被拘束者らを請求者に引き渡した際に強制的な手段を用 ところである。 (オ) 証拠(甲6)によれば, 請求者が被拘束者らを車に乗せる際,被拘束者らが抵抗した事実は認められるが,裁判所が被拘束者らを請求者に引き渡した際に強制的な手段を用いた事実はこれを認めるに足りる証拠はない。 (カ) 第4回審問期日において, 裁判所が被拘束者らを直ちに釈放し請求者に引き渡す旨の判決を言い渡し,同判決が平成13年4月26日上告棄却決定により確定したことによって,被拘束者らの管理権は請求者に完全に移転したものである。 4 結語以上によれば,原告の被告神戸地方裁判所姫路支部長に対する訴えはいずれも不適法であるから却下を免れず,原告の被告国に対する請求は理由がないからいずれもこれを棄却し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部裁判長裁判官前坂光雄 裁判官窪田俊秀 裁判官永田眞理は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官前坂光雄
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