- 1 - 主文 1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨【以下、第2(引用に係る「2 前提事実」を除く。)及び第3の1については、原判決を付加訂正した。下線を付した部分が内容的に付加訂正した主要な箇所である。些末な字句の訂正等は指摘していない。第3の2以下については、当審で書き 改めた。】第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は、自殺した丙警部補(以下「丙警部補」という。)の父母である被控訴人らが、同警部補の自殺は、同警部補が過重な業務に従事し、強度の精神的 及び肉体的負荷を受けた結果、うつ病等の精神疾患を発症し、その精神疾患の影響によって行われたものであるところ、これについて、丙警部補の職務を管理監督すべき静岡県警察の公務員は、丙警部補が過重な業務に従事してその心身の健康を損なうことがないよう配慮すべき安全配慮義務に違反したものであると主張して、同警部補の所属する静岡県警察の設置者である控訴人に対し、 国家賠償法1条1項による損害賠償請求権に基づき、同警部補の死亡による慰謝料等として、被控訴人ら各人につき275万円の各損害金及びこれらに対する同警部補の死亡日である平成24年3月10日(違法行為の日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、被控訴人らの請求について、各110万円及びこれに対する平成2- 2 - 4年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ認容し、その余はいずれ 原審は、被控訴人らの請求について、各110万円及びこれに対する平成2- 2 - 4年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ認容し、その余はいずれも理由がないとして棄却したところ、控訴人が請求認容部分を不服として控訴した。 2 前提事実前提事実は、原判決「事実及び理由」第2の2のとおりであるから、これを 引用する(以下、略称については、当事者の表記を除き、原判決のそれによる。)。 3 争点⑴ 丙警部補の自殺と業務との因果関係(本件自殺の公務起因性)⑵ 静岡県警察の安全配慮義務違反の有無 ⑶ 損害の発生及びその数額⑷ 過失相殺 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(丙警部補の自殺と業務との因果関係(本件自殺の公務起因性))について (被控訴人らの主張)ア時間外勤務時間の算定時間外勤務時間の認定資料について労働基準法所定の勤務時間に当たるか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると評価することができるか否かにより客観的に判 断すべきものである。 控訴人は、丙警部補が提出した時間外勤務実績報告書(乙4。以下、「本件時間外勤務実績報告書」という。)に記載された時間外勤務時間のうち、上司が必要性・緊急性があると判断したものに限って勤務時間とすべきである旨主張するが、上司であった己課長が行っていた上記判 断は、資料の確認や同僚等への聴取を行うものではなく、自身の感覚や- 3 - 他の署員との公平の観点に照らし、裁量的判断を行っていたというにすぎず、その実態は単なる独断というべきものであって、そのような判断により勤務時間該当性が左右されることにはならない。 そうすると、本件時間外勤務実績報告書は、丙警部補の時間 断を行っていたというにすぎず、その実態は単なる独断というべきものであって、そのような判断により勤務時間該当性が左右されることにはならない。 そうすると、本件時間外勤務実績報告書は、丙警部補の時間外勤務の状況が反映されているといえ、報告されている時間について、使用者の 指揮命令下に置かれたものと評価することができることは明らかであるから、本件時間外勤務実績報告書の記載内容をもとに勤務時間を算出することには合理性がある。 また、丙警部補は、妻である丁との間で、まだ勤務中であるとか、もう少ししたら帰れるといったメールのやり取りを行っているところ、こ のようなやり取りは、本件時間外勤務実績報告書において時間外勤務として報告されている時間以外にも、丙警部補が業務を行っていることを窺わせ、勤務日誌等の記載とも整合する部分があることからすると、メールの送信時間に至るまで(すなわち、本件時間外勤務実績報告書に記載された勤務時間を超えて)、業務を行っていたと認められる。このこ とは、静岡県警察の調査によっても、原判決別紙6のとおり、丙警部補が本件時間外勤務実績報告書に記載された時間以外にも業務のために、庚交番にいたことが確認されていることとも整合する。 そうすると、丙警部補は、本件時間外勤務実績報告書の記載によっても、本件自殺前の1か月間の時間外勤務時間が111時間を超えている ところ、丙警部補の実際の時間外勤務時間は、これを優に上回るものであったといえる。 当直日の休憩時間中に業務を行っており、休憩時間も時間外勤務時間に含めるべきことについて基金による調査の過程において、複数の関係者らにより、丙警部補は、 当直日において規定どおりの休憩時間を取得することができていなかっ- 4 - たとか、休憩時間にお るべきことについて基金による調査の過程において、複数の関係者らにより、丙警部補は、 当直日において規定どおりの休憩時間を取得することができていなかっ- 4 - たとか、休憩時間においても未処理の案件に時間を割いていたなどといった証言がされている一方で、丙警部補が、そのような休憩時間中の勤務について別途勤務変更をして休憩を取得していたとの供述は存在しない。 加えて、静岡県警察自体、上記調査の過程において、急訴事案(事件 や事故等)等の発生時には、勤務変更による休憩時間の取得が困難な状況があるとの回答をしている。 一方で、上記複数の証言があることや、勤務日誌の「休憩時間」欄において休憩を取得したと記録されているにも関わらず、「記事」欄において、他の勤務員が対応したと考えられるものの、その時間中に拾得物 の対応が行われた旨の記載があること等に照らしても、丙警部補は、勤務日誌の記録どおりに休憩時間を取得することができていなかったと考えられ、このことも、時間外勤務時間を算出するに当たって考慮すべきである。 そうすると、非番や週休日において休憩時間を考慮せずに時間外勤務 時間を算定すべきである(基金の作成した労働時間集計表においても一部同様の認定がされている。)。 GSEの事前研修への参加時間及びそのための移動時間は勤務時間に含めるべきことについて丙警部補は、GSEの派遣メンバーに選ばれていたところ、その海外 研修自体は、公務として取り扱うものとされている。そして、その準備のための事前研修は、GSEの海外研修に参加するための前提となっていることや、一定の拘束性が伴うことからすれば、公務であるGSEの海外研修と一体となっているというべきであり、丙警部補としては、事前研修に参加せざるを得ないのであ 外研修に参加するための前提となっていることや、一定の拘束性が伴うことからすれば、公務であるGSEの海外研修と一体となっているというべきであり、丙警部補としては、事前研修に参加せざるを得ないのであるから、少なくとも、公務起因性判 断における業務の過重性の評価対象としての業務(公務)には含まれる- 5 - というべきである。 また、事前研修に参加する際の移動時間についても、研修に参加するためにどうしても必要となるものであり、移動手段につき公共の交通機関である電車による以外を選択する余地がなく、片道2時間30分程度という所要時間からすると長時間の不自由を強いられるものであったこ とに照らしても、業務の過重性評価の対象とされるべきである。 さらに、丙警部補は、自宅等において、GSEの海外研修の際に実施するプレゼンテーションの準備や、英語の勉強等も行わなければならず、これらの準備時間も、業務の過重性評価の対象とされるべきである。 丙警部補の具体的な時間外勤務時間について 本件裁決においては、丙警部補の時間外勤務時間は、発症6か月前17時間30分、同5か月前71時間30分、同4か月前69時間15分、同3か月前50時間30分、同2か月前52時間38分とされているところであり、同1か月前においては、勤務日誌及び時間外勤務実績報告書の記載内容、並びにGSEの事前研修の参加時間を考慮して勤務時間 を集計すると、原判決別紙4「労働時間集計表(3月10日~2月10日)」のとおりとなり、時間外勤務時間は111時間49分となる。 もっとも、被控訴人らは、丙警部補の時間外勤務時間について、上記の程度にとどまると主張するものではなく、前記ないしのとおり、丙警部補の実際の勤務時間は、上記の各時間外勤務時間を超える時間と もっとも、被控訴人らは、丙警部補の時間外勤務時間について、上記の程度にとどまると主張するものではなく、前記ないしのとおり、丙警部補の実際の勤務時間は、上記の各時間外勤務時間を超える時間と なっていた。 イ質的に過重な業務として考慮すべき事項連続窃盗事件の捜査による負荷の増大丙警部補は、庚交番管内において発生した連続窃盗事件の捜査に従事していたところ、基金による調査の過程において、関係者らが、「連続 窃盗事件があり、負担になっていた印象がある」、「(専従捜査班の編- 6 - 成のために)2名呼び上げされていたとのことで、2名呼び上げはきついと思う。」、丙警部補が「プレッシャーを受けていたと思う」との証言を行っていることに照らすと、上記捜査は、丙警部補にとって精神的負担を感じる業務となっていたというべきである。 実習生の指導による負荷の増大 丙警部補は、職場実習指導員に指名され、実習生の指導を担当していたところ、基金による調査の過程において、関係者らにより、丙警部補は、実習生とずっとペアでつらいと言っていたとの証言が得られている上、丙警部補とペアを組んでいたと思われる者からは、丙警部補の自宅に直接訪問して相談したり、電話したりすることがあったとの証言が得 られていることに照らすと、丙警部補が勤務時間外に実習生指導を行っていたことがわかる。加えて、実習生は車を運転してはならず、丙警部補が、勤務終了後に実習生を下田警察署まで送っていく必要があった。 これらに照らせば、実習生の指導が、丙警部補にとって負担となっており、丙警部補に精神的負荷を与えるものであったことは明らかである。 異動のための引継ぎによる負荷の増大丙警部補は、本件自殺に至るまでの間、異動を前提とした引継ぎの準備を 負担となっており、丙警部補に精神的負荷を与えるものであったことは明らかである。 異動のための引継ぎによる負荷の増大丙警部補は、本件自殺に至るまでの間、異動を前提とした引継ぎの準備をしており、このことも、丙警部補の業務量を増大させ、丙警部補に精神的負荷を与えていた。 これに対し、控訴人は、引継ぎ準備が丙警部補の業務として存在しな かった旨を主張するが、基金による調査の過程で、関係者らが、丙警部補が年度で処分する書類の整理をしているのを見たことがあるとか、平成24年の2、3月には、引継ぎ準備もあって非番日・週休日に特に庚交番を訪れていたなどと証言していることに加え、結果的に丙警部補が実際に異動の対象でなかったとしても、異動に備えて丙警部補が引継ぎ 作業を行うことは十分想定されることから、丙警部補が引継ぎ作業を実- 7 - 際に行っていたことは優に認められ、丙警部補にとって、引継ぎ作業が負担となっていたことは明らかである。 GSE参加のための研修参加や事前準備による質的過重が増大したことについて前記アのとおり、丙警部補が参加したGSEの事前研修は、公務と して認められるべきであり、丙警部補が個人で行った準備や事前研修の移動時間についても、過重性評価の対象とされるべきである。 基金による調査の過程において、関係者らが、丙警部補について、海外研修が決まってから負荷が増したように感じたとか、自分の語学力に不安を持っているようであったと証言していることに加え、丁も、丙警 部補からGSEの不安や負担感を聞いていたのであって、丙警部補が、GSEのメンバーに選ばれたことや、そのための準備により、精神的負荷を受けていたことは明らかである。 ウ精神障害の発症医療機関に受診しないまま自殺した事案に 聞いていたのであって、丙警部補が、GSEのメンバーに選ばれたことや、そのための準備により、精神的負荷を受けていたことは明らかである。 ウ精神障害の発症医療機関に受診しないまま自殺した事案においても、精神疾患の発症を 裏付ける家族の供述が得られていることを理由にその発症の有無を判断する手法は、確立されている。 丁の証言等によれば、丙警部補には、食事量が徐々に減少した、腕時計を2回忘れるなど集中力を欠くようになった、元気がない、ぼんやりしているなどといった症状が見られている上、基金の専門医により、丙警 部補が平成24年3月上旬には何らかの精神疾患を発症していたと判断されていることに照らしても、丙警部補は、同時期頃には、うつ病等何らかの精神疾患を発症していたといえる。 エ本件自殺の公務起因性業務の過重性 丙警部補は、本件時間外勤務実績報告書の記載によっても、平成24- 8 - 年2月から3月にかけての1か月間の時間外勤務時間が111時間を超えているところ、丙警部補の実際の時間外勤務時間は、これを優に上回るものであったといえる。 加えて、前記イないしのとおり、丙警部補には、連続窃盗事件の捜査、実習生の指導、引継ぎ準備及びGSE参加のための準備等の要素 が重なって生じており、このことも、丙警部補にとって、大きな業務量増加要因として、その負担を増大させたといえる。 以上によれば、丙警部補の発症した前記ウのとおりの精神疾患は、上記のとおり、丙警部補が量的にも質的にも過重な業務に従事したことによる精神的負荷により発症したものであることが明らかである。 なお、控訴人は、過労自殺に関する公務災害の認定に当たって、国家公務員についての認定基準の解釈に関する通達を援用して、丙警部補が従事した 的負荷により発症したものであることが明らかである。 なお、控訴人は、過労自殺に関する公務災害の認定に当たって、国家公務員についての認定基準の解釈に関する通達を援用して、丙警部補が従事した上記各業務について、過重な負荷となる可能性のある業務類型に該当しない旨を主張するが、地方公務員である丙警部補に関して、上記通達を当てはめること自体誤りである上、上記通達によっても、業務 の過重性は否定されないのであって、控訴人の上記主張には理由がない。 公務外の要因のないこと丙警部補は、精神疾患の既往歴はなく、平成24年当時、妻子と平穏な家族生活を送っていたのであって、公務以外に、精神疾患発症及び自殺の原因となるものは存在しない。 控訴人が主張する丙警部補と丁との従前の夫婦関係に関し、控訴人が主張の根拠とする証言等を見ても、噂程度のものにすぎず、このような証言を根拠に、上記夫婦関係に問題があったとか、そのことが自殺の引き金になったという評価をすることはできない。 また、本件自殺当日における丙警部補と丁とのやり取りに関しては、 不知であるが、そもそも、妻子を遺して自殺を決意することは、常軌を- 9 - 逸した判断といえるものであり、このような判断をしてしまったこと自体、丙警部補が業務による精神的負荷により精神疾患を発症していたからにほかならず、本件自殺当日に丙警部補と丁との間に異動を巡るやり取りがあったとしても、それのみで丙警部補が自殺を決断したとは到底いえない。 そうすると、上記やり取りは、公務と精神疾患発症及び自殺との因果関係を左右するものとはいえない。 (控訴人の主張)ア時間外勤務時間の算定時間外勤務時間の認定資料について 業務の過重性の判断における時間外勤務とは、本来、時間 及び自殺との因果関係を左右するものとはいえない。 (控訴人の主張)ア時間外勤務時間の算定時間外勤務時間の認定資料について 業務の過重性の判断における時間外勤務とは、本来、時間外勤務命令を受けて行った業務のみを指すものであって、上司等が業務の必要性、緊急性等を勘案して、その業務を時間外に行う必要があると認めた範囲のみで認められる。そして、署員から提出される本件時間外勤務実績報告書には、上記業務の必要性・緊急性について検討する以前の勤務時間 が記載されており、修正の必要性があるところ、丙警部補の上司であった己課長は、丙警部補の提出した上記報告書の申告時間の大半を時間外勤務と認めつつ、具体的な内容が明らかではない業務内容や、休憩時間、移動・片付けの時間など本来時間外勤務に加えられるべきではない業務時間等について、赤字で修正し、時間外勤務時間を認定していたのであ り、このような己課長の判断は正当である。 したがって、己課長による修正が施された後の本件時間外勤務実績報告書における時間外勤務時間をもって、時間外勤務時間を認定すべきである。 一方、被控訴人らは、丙警部補と丁との私的なメールのやり取りを基 に、上記を大幅に超えて時間外の勤務時間があったことを主張するが、- 10 - 上記メールは丙警部補が業務に従事していたことを示すものではなく、これをもって就業時間等を特定することができるものではないし、その内容自体、不明瞭なものであり、丙警部補がどのような業務に従事していたのかについて、勤務日誌等によっても特定することができず、単なる外出とも区別ができないのであって、上記メールをもって、丙警部補 の時間外勤務時間を認定することはできない。 さらに、被控訴人らは、原判決別紙6のとおり、丙警部補 も特定することができず、単なる外出とも区別ができないのであって、上記メールをもって、丙警部補 の時間外勤務時間を認定することはできない。 さらに、被控訴人らは、原判決別紙6のとおり、丙警部補が本件時間外勤務実績報告書に記載された時間以外にも業務のために、庚交番にいたことが確認されていることを根拠に、本件時間外勤務実績報告書の記載以上に、丙警部補が長時間労働していたことが推認されるとも主張す るが、原判決別紙6によれば、その相違は些少であって、むしろ、丙警部補は基本的に漏れなく申告していたことが推認される。 当直日の休憩時間は、基本的に確保されている実情があり、仮に、休憩時間中に業務を行っていたことがあったとしても、休憩は他の時間帯において確保できており、休憩時間を考慮して時間外勤務時間を認定 すべきである。 交番等勤務員が、休憩時間中に急訴事案に対応するなどのため勤務に従事せざるを得ない場合や、書類を休憩時間中に作成する必要がある場合には、事前又は事後に直属の地域警察幹部の承認を受けて勤務変更を行い、その後の勤務時間とされている時間に休憩を取得することや、警 らや立番等の勤務を在所勤務に変更して書類作成に充てることが可能である。 しかるところ、庚交番の刑法犯認知件数等は、平成23年において、県下202交番中、上から87番目であるにすぎず、このような勤務実態に照らしても、休憩時間中に業務に当たったような例外的な場合に、 別途休憩を取ることができないような余裕のない状況ではなかったので- 11 - あるから(庚交番の勤務員が食事をする時間もないほどの繁忙の状況にあったことはない。)、丙警部補が休憩時間中に勤務に当たった時間について、時間外勤務時間として評価することはできない。 GSEの事前 るから(庚交番の勤務員が食事をする時間もないほどの繁忙の状況にあったことはない。)、丙警部補が休憩時間中に勤務に当たった時間について、時間外勤務時間として評価することはできない。 GSEの事前研修への参加時間及びそのための移動時間は、勤務時間に含めるべきでない GSEは、警察とは関係のない国際的な奉仕団体であるロータリークラブが主催するものである上、その開催目的も、国際理解の促進とこれからのリーダーの育成を目的とする自己啓発の機会を提供することにある。そして、丙警部補も、上記各点を理解した上で参加を希望したため、静岡県警察として推薦をしたものであって、GSEの海外研修自体につ いては、職員の資質や能力の向上に一定の効果があることから公務として扱うものの、その準備のための事前研修は、あくまでも顔合わせやメンバーの親睦等を兼ねて行われるものであることからしても、その参加時間を公務として取り扱うことはできず、静岡県警察として、上記取扱いをすることについては、GSEの参加の打診の際に、己課長等から説 明をしており、丙警部補は、これを理解した上で参加の表明をしたものである。 したがって、事前研修の準備のために要した時間はもちろんのこと、上記事前研修への参加時間についても勤務時間とすることはできない。 なお、事前研修の参加のための移動時間についても、月に1回程度、 片道2時間半程度の電車移動にすぎないこと(なお、電車内での仮眠飲食は当然可能である。)からして、業務の過重性を判断する際の勤務時間には含まれない。 丙警部補の具体的な時間外勤務時間について丙警部補の勤務時間を算定するに当たっては、上記ないしのとお りの諸点を適切に考慮する必要があるところ、丙警部補の自殺の公務起- 12 - 因性 補の具体的な時間外勤務時間について丙警部補の勤務時間を算定するに当たっては、上記ないしのとお りの諸点を適切に考慮する必要があるところ、丙警部補の自殺の公務起- 12 - 因性を認めた本件裁決においては、上記諸点が適切に考慮されておらず、結果として、過大な時間外勤務時間が計上されているものである。 もっとも、上記不当な内容の本件裁決における丙警部補の勤務時間によっても、発症2か月前52時間38分、3か月前50時間30分、4か月前69時間15分、5か月前71時間30分、6か月前17時間3 0分とされているのであって、これが勤務時間として過重といえないことは明白である。 そして、発症1か月前の期間において、上記諸点を考慮し、丙警部補の時間外勤務時間を算定すると、原判決別紙5「時間外勤務一覧表(平成24年3月10日~2月10日)」のとおりであり、同期間において も、61時間30分にすぎない。 仮に、本件時間外勤務実績報告書に基づき、丙警部補の申告した時間外勤務を認定するとしても(なお、原判決認定に係る時間外勤務時間から時間外勤務時間を控除した個別の理由については、本判決別紙1の「控訴人の主張」の「理由」欄のとおりである。)、本判決別紙1のと おり、発症前6か月間で最も長い月で103時間15分(発症前1か月)、6か月間の平均時間外勤務時間は66時間03分となる。 イ質的に過重な業務として考慮すべき事項連続窃盗事件の捜査による負荷の増大がないこと下田警察署において、管内で発生した窃盗事件の捜査を主管するのは 刑事課であり、被控訴人らの指摘する窃盗事件の捜査は、その発生当初から刑事課を主管として行われる署としての業務であって、地域課の係長にすぎない丙警部補が、その帰趨に神経をとがらせ、精神 のは 刑事課であり、被控訴人らの指摘する窃盗事件の捜査は、その発生当初から刑事課を主管として行われる署としての業務であって、地域課の係長にすぎない丙警部補が、その帰趨に神経をとがらせ、精神的負担を感じるようなものではない。 また、上記事件の捜査においては、捜査開始から平成24年1月まで の間は、庚交番員を含む非番の地域課員1名と刑事課員1名がペアとな- 13 - り、夜間捜査が実施されたものの、同年2月以降は、地域課の負担軽減の趣旨で、専従捜査班が編成され、すべての捜査がこれにより実施されることとなり、庚交番からは、丙警部補以外の当直班の勤務員2名が刑事課に派遣され、丙警部補を含む他の庚交番の勤務員が、捜査に従事する必要はなくなった。 したがって、同月以降、丙警部補が、上記事件の捜査に従事した事実はなく(むしろ、専従捜査班が結成された後は、交番勤務員は当直業務に専念するよう指示がされていたし、庚交番の他の勤務員も当直の際、丙警部補が実際に夜間捜査を行っていたところを認めた者はいない。)、仮にそのような事実があったとしても、丙警部補が自発的に行ったもの であって、業務上の負荷・負担として捉えることはできない。 また、丙警部補は、連続窃盗事件について、「参りましたよ。」との発言をしていたことが認められるものの、同発言は、その発言の状況から、自らの手で、窃盗事件を解決する意欲を有していたことを前提に愚痴めいた不満を漏らしたと解釈されるべきであって、同発言をもって、 未解決であることについて責任を感じ、心理的負荷を受けていた証左であると解することはできない。 これらによれば、連続窃盗事件の捜査により、丙警部補の業務量が増加したとか、業務が質的に過重になったということはできない。 実習生の指導に 的負荷を受けていた証左であると解することはできない。 これらによれば、連続窃盗事件の捜査により、丙警部補の業務量が増加したとか、業務が質的に過重になったということはできない。 実習生の指導による負荷の増大がないこと 実習生の指導を担当したことにより、丙警部補にいかなる負担が生じたのかについて、被控訴人らから、実習生を担当したことによって、業務負担が増え、これに伴い時間外勤務が増えたことについてまでの具体的な主張はない上、職場実習指導員に指名された者が実習生の指導に当たることについては、警察官一般に求められる通常の業務というべきも のであって、これにより、丙警部補に一定の負荷が生じたとしても、警- 14 - 察官に求められる通常の業務による負荷を超えるものとはいえないし、丙警部補はこれまでも実習生を担当してきた経験があったことを考慮すると、丙警部補の業務が質的に過重になったということはできない。 被控訴人らは、控訴人がつらい旨を述べていたとして心理的負荷が生じていたと主張するが、庚交番の他の勤務員は、本件自殺の当時の実習 生の指導について丙警部補が楽しんでいた様子も認めており、同人の指導についての発言であるのか不明であって、上記主張には理由がない。 異動のための引継ぎによる負荷の増大がないことそもそも、異動が内示前に決まることなどあり得ず、被控訴人らの主張する引継ぎ作業は、丙警部補が行わなければならなかった業務とはい えず、これを質的過重性において考慮する余地はない。 また、異動のための引継ぎは、通常、数枚程度の「引継書」と題する書類を作成し、これに基づいて、後任者に口頭で説明を行う程度のものにすぎず、早くから準備をしなければならないものではないし、通常の警察官に求められる一般的な業務に比し 、数枚程度の「引継書」と題する書類を作成し、これに基づいて、後任者に口頭で説明を行う程度のものにすぎず、早くから準備をしなければならないものではないし、通常の警察官に求められる一般的な業務に比して特別な負担と見ることはでき ない。 被控訴人らは、基金の調査によって、関係者が丙警部補が平成24年2、3月には引継ぎ作業を行っていたと供述していたことを根拠に、丙警部補が引継ぎ作業をしていたと認められる旨を主張するが、上記供述を検討しても、例年2、3月には、春に異動があることを想定して引継 ぎ作業を行っていることを述べたと解することができるにとどまり、同供述によって丙警部補が引継ぎ作業により多忙であったとの事実を認定することはできない。 GSE参加のための研修参加や事前準備による質的過重が増大していないこと 前記アのとおり、GSEの事前研修や、研修参加のための準備・課- 15 - 題作成等については、公務性がないのであるから、これによる負荷を考慮することはできない。 また、GSE参加のための事前準備としては、プレゼンテーションの際に使用する数分程度の自己紹介部分の紹介文やパワーポイントの作成であり、要求される作業量として大きなものではない。加えて、被控訴 人らは、丙警部補が英語力に不安を抱いていた旨主張するが、そもそもGSE参加のために要求される英語力は高水準のものではないし、英語力について第三者の評価を受けることは想定されていない上、今後のキャリア形成に影響を及ぼすこともあり得ず、仮に丙警部補が英語力に不安を抱いていたとしても、それは業務を離れた丙警部補固有の事情にす ぎず、業務に起因する負担とは評価できない。 以上によれば、GSE参加のための事前研修への参加や事前準備については、公務起 安を抱いていたとしても、それは業務を離れた丙警部補固有の事情にす ぎず、業務に起因する負担とは評価できない。 以上によれば、GSE参加のための事前研修への参加や事前準備については、公務起因性に当たって考慮することはできない。 被控訴人らは、丙警部補が英語力に不安を抱いていたことを根拠にGSEの研修及びその事前準備等について相当の心理的負担となっていた 旨を主張するが、GSE関係者の調査によっても、英語力がそれほど求められておらず、同人らが英語力を求められることについて心理的負担を感じていなかったことが明らかとなっており、被控訴人らの主張には理由がない。 ウ精神障害の発症 丙警部補が、本件自殺前に精神科等を受診した事実はなく、診察の結果を始めとする医療記録等は何ら存在しない。また、丙警部補は、毎勤務日の朝に行われていた健康状態等チェック表(乙14)の記入において、毎回、自己の体調について問題ない旨の記入をしており、現実にも、最後まで普段と変わりなく業務に当たっていた上、体調不良による無断欠 勤や休暇の取得もなかった。これらに加え、丙警部補が、上司や同僚等- 16 - に対し、体調が優れないといった申告をしたことを窺わせる資料も存しないことを考え併せれば、丙警部補が精神疾患を発症していたとする根拠は極めて薄弱であって、被控訴人らのいう精神疾患の発症を前提とすることはできないというべきである。 エ本件自殺の公務起因性 業務の過重性がないこと丙警部補の時間外勤務時間は、前記アのとおりであるところ、これらの勤務時間が、自殺について公務起因性が認められるほど過重な業務とはいえないことは明らかである。 また、前記イないしのとおり、被控訴人らが指摘する連続窃盗事 件の捜査、実習 ころ、これらの勤務時間が、自殺について公務起因性が認められるほど過重な業務とはいえないことは明らかである。 また、前記イないしのとおり、被控訴人らが指摘する連続窃盗事 件の捜査、実習生の担当、異動のための引継ぎ、GSEのための準備等は、いずれも丙警部補の日常的業務であるか、あるいはこれに付随するものであって、業務の質的過重性を基礎づけるものとはいえないし、これらすべてを勘案したとしても、警察官に求められる通常の業務による負荷を超えるものではない。 また、仮に業務によって丙警部補に何らかの心理的負荷が生じたことがあったとしても、丙警部補が従事していた業務は、過労自殺事案における国家公務員についての認定基準の解釈に関する通達において例示されているような、過重な負荷となる可能性のある業務類型には該当せず、精神障害を発症させるほどの心理的負荷があったと認めることはできな い。 これらによれば、丙警部補が行っていた業務は、量的にも、質的にも、過重なものであるとはいえず、強度な身体的・精神的負担となるようなものではないから、本件自殺につき、公務起因性があるとはいえない。 公務外の要因があること 丙警部補は、丁の感情の起伏の激しさや気の強さに困惑していた面が- 17 - あったことは、基金による調査の過程で複数の同僚等が証言しており、知られていることであった。 また、丁は、丙警部補がGSEのメンバーに選考されたのを機に、異動になると考えており、丙警部補に前年度の参加者にこの点について確認するように促していた。本件自殺当日、丁は、丙警部補に再度この点 について確認を促し、丙警部補が、前年度の参加者に架電したところ、上記の認識が誤解であることが判明した。丁は、「勘違いをしていたあなたが悪い。」な た。本件自殺当日、丁は、丙警部補に再度この点 について確認を促し、丙警部補が、前年度の参加者に架電したところ、上記の認識が誤解であることが判明した。丁は、「勘違いをしていたあなたが悪い。」などと責め、丙警部補は謝罪したものの、丁が泣きながら布団を被り、何も言わないでいたことから、丙警部補は、携帯電話を室内に投げつけ家を出た。 丙警部補は、その後道具を購入し自殺を図った。 この出来事は、丙警部補に、丁が異動を唯一の関心事とし、丙警部補の日ごろの仕事ぶりや努力等を一顧だにしないものと感じさせ、絶望感・無力感を与えたものであって、公務起因性の判断に当たり無視できない。 以上によれば、本件自殺が丙警部補の業務の精神的・肉体的負荷に起因するということはできない。 ⑵ 争点⑵(静岡県警察の安全配慮義務違反の有無)について(被控訴人らの主張)ア予見可能性があること 長時間労働等の業務によるストレスにより労働者が精神疾患を発症し自殺を図ることがあることについては、周知の事実となっているところ、使用者等が回避する必要があるのは、上記のような結果を生む原因となる危険な状態の発生というべきであるから、予見の対象も、精神疾患のり患という結果を生む危険な状態の発生であると解される。しかるとこ ろ、控訴人は、丙警部補が前記⑴(被控訴人らの主張)エのとおり量- 18 - 的・質的に過重な業務に従事していることについて、勤務日誌や時間外勤務実績報告書の記載内容、本人の勤務ぶり等から、認識していたか、あるいは容易に認識することができたといえる。 そうすると、丙警部補の体調の異変に気付くことがなかったとの証言等により、静岡県警察の予見可能性が否定されることにはならない。 また、控訴人が、発症に至るまでの 識することができたといえる。 そうすると、丙警部補の体調の異変に気付くことがなかったとの証言等により、静岡県警察の予見可能性が否定されることにはならない。 また、控訴人が、発症に至るまでの時間が短時間であったと主張する点についても、控訴人が、丙警部補について、日頃から、非番や週休はきちんと確保できているか、当直日の休憩時間や仮眠時間はきちんと確保できているかを把握する義務を果たしていれば、発症1か月前の時間外勤務時間が111時間(なお、同時間は、本件時間外勤務実績報告書に おいて、丙警部補が自ら申告した時間外勤務時間に基づいて算定されたものであるところ、実際にはこれを大きく上回る可能性があることは前記⑴(被控訴人らの主張)エのとおりである。)を優に超えるような事態は招かなかったはずであり、上記控訴人の主張も採り得るものではない。 イ控訴人には注意義務違反があること控訴人には、丙警部補を公務に従事させるに当たり、丙警部補が担当する業務の状況や時間外勤務時間数について適切に把握し、丙警部補が過重な業務や長時間労働を余儀なくされることがないように注意すべき義務があった。 しかるに、控訴人は、前記⑴(被控訴人らの主張)エのとおり、丙警部補に量的・質的に過重な業務に従事させたばかりか、己課長は、丙警部補の提出した時間外勤務実績報告書について、独断により時間外勤務時間を削るなどしていた。己課長において、過重労働に対する配慮を欠いていたことは、丙警部補が非番・週休の際、庚交番の2階で作業をし ていることを認識しておきながら、巡視の際に、庚交番に行っても、そ- 19 - の状況について確認することすらしていないことからも明らかである。 以上のとおり、控訴人は、丙警部補が長時間労働に従事している 認識しておきながら、巡視の際に、庚交番に行っても、そ- 19 - の状況について確認することすらしていないことからも明らかである。 以上のとおり、控訴人は、丙警部補が長時間労働に従事していることを看過していたといえるほか、丙警部補をGSEの派遣メンバーとして推薦するに当たり、要求される英語力について、正確な情報を提供せず、結果として、丙警部補に大きなプレッシャーを与えることとなったので ある。 そうすると、丙警部補が過重な業務に従事したのは、控訴人が上記注意義務を適切に履行しなかったことによるものであるといえ、控訴人は、その責任を免れない。 (控訴人の主張) ア控訴人には、次のとおり、丙警部補の自殺について予見可能性がない。 前記⑴(控訴人の主張)エのとおり、本件においては、丙警部補が、著しく過重な業務に従事していた事実はなく、そうであれば、業務によって、労働者の心身の健康を損なう危険が存在していたとはいえず、そのことを控訴人が認識し得たとはいえないから、このような事案におい ては、予見可能性を肯定するためには、自殺により死亡したことについての具体的予見可能性が必要である。 しかるところ、丙警部補は、毎勤務日ごとに、健康状態等チェック表において、自身の体調に問題がないとの申告をし、周囲に疲れている様子などを見せていなかったこと、丙警部補の家族からも同人の不調につい て連絡や相談等がなかったことに照らすと、控訴人が丙警部補の健康状態の悪化や精神障害発症の可能性を認識することはできなかった。 加えて、丙警部補の業務が、発症1か月前に質的・量的に増大したとしても、丙警部補が精神疾患を発症した時期が平成24年3月上旬であれば、発症から自殺に至るまでの時間が短時間で、控訴人として何らかの 対応 警部補の業務が、発症1か月前に質的・量的に増大したとしても、丙警部補が精神疾患を発症した時期が平成24年3月上旬であれば、発症から自殺に至るまでの時間が短時間で、控訴人として何らかの 対応を検討し得る時間的余裕はなかった。 - 20 - イ被控訴人ら主張に係る静岡県警察の注意義務違反については、否認ないし争う。 前記⑴(控訴人の主張)イのとおり、控訴人は、連続窃盗事件の捜査に関し、庚交番勤務員の負担を考慮し、専従捜査班を編成し、以後、上記勤務員が交番勤務に専念することができる体制を整備しているように、 職員の業務遂行上の負担軽減に必要な配慮をしていたものであって、静岡県警察に安全配慮義務違反は認められない。 ⑶ 争点⑶(損害の発生及びその数額)について(被控訴人らの主張)被控訴人らにとり、丙警部補は最愛の息子であり、丙警部補は、被控訴人 らに対し、退職後には広島に帰ると述べていたこともあって、被控訴人らは、老後も安心だと希望に満ち溢れていたにもかかわらず、そのような最愛の息子を、31歳で亡くさなければならなかった被控訴人らの苦痛は察するに余りあり、これを金銭で慰謝するとした場合、被控訴人ら各人につき250万円は下らない。 (控訴人の主張)被控訴人らの主張は、否認ないし争う。 ⑷ 争点⑷(過失相殺)について(控訴人の主張)精神障害の発症には単一の病因はなく、素因、環境因の複数の病因が関与 すると解されるところ、労働者の精神障害の発症について、使用者に何らかの安全配慮義務違反が認められる場合であっても、精神障害の発症の成因の1つである個人側の要因について斟酌することなく、全損害を使用者に負担させるのは公平を欠き、過失相殺の法理を適用ないし類推適用して、負担させる額を減じる られる場合であっても、精神障害の発症の成因の1つである個人側の要因について斟酌することなく、全損害を使用者に負担させるのは公平を欠き、過失相殺の法理を適用ないし類推適用して、負担させる額を減じるべきである。 本件においては、①仮に本件時間外勤務実績報告書に基づいて時間外勤務- 21 - 時間を認定するとしても、その大部分がそもそも、本来やらなくてもよい業務であって、丙警部補は自主的にこれを行っていたこと、②控訴人は、職員のメンタルヘルス相談窓口設けていたのに、個別にその利用を促されても、丙警部補は、これを利用していなかったこと、③丙警部補は、通院等をせず家族からもその旨の相談がないなど、自らの健康管理を怠ったなどの事情が あり、これらの事情は、個人側の要因というべきものであって、同様の事例において過失相殺を認めた裁判例もあることから、損害額の算定に当たり、当然、斟酌されるべきである。 (被控訴人らの主張)継続的な雇用関係下での指揮監督により公務を遂行する過程で生じた本件 のような安全配慮義務違反が問題となる事案では、過失相殺による減額は、極めて限定的にされるべきである(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。控訴人は、本件と全く異なる類型の事案において、過失相殺が認められた事案を引用して、本件について過失相殺の適用ないし類推適用を主張するが、失当である。 また、本件においては、本件自殺に至る過程において、労働者の性格や業務遂行の態様等といった個人側の要因が寄与したと認める事情はないし、それが、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲が外れるものとして認めるべき事情もない。 控訴人は、この点、丙警部補が①やらなくてもよい業務を行っていたこ る事情はないし、それが、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲が外れるものとして認めるべき事情もない。 控訴人は、この点、丙警部補が①やらなくてもよい業務を行っていたこと、 ②控訴人が用意していたメンタルヘルス相談窓口を利用していなかったこと、③通院等をせず健康管理を怠ったと主張する。 しかし、丙警部補は、静岡県警察の指揮命令監督下において長時間労働を強いられて精神障害を発症したところ、同障害の発生要因を除去することができるのは、指揮命令監督者である静岡県警察に限られることを踏まえると、 控訴人指摘に係る上記①ないし③の事情は、いずれも、特定の労働者の性格- 22 - が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではないことが明らかであって、控訴人の上記主張には理由がない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 引用に係る前提事実、証拠(各項掲記のほか、甲38~41、乙36、37)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。 ⑴ 庚交番の刑法犯認知件数及び所管範囲、交番長としての具体的職務等ア下田警察署の刑法犯認知件数は、平成23年が435件、平成24年が415件であり、いずれも、当該年において、静岡県警察の設置している 27警察署のうち、上から25番目の認知件数であった。他方、庚交番管内における刑法犯認知件数は、平成23年が160件であり、平成24年が143件であって、平成23年は、同警察が当時設置していた202交番のうちの上から87番目、平成24年は、当時設置していた205交番のうち上から88番目であった。 イ他方、丙警部補が庚交番に在職していた当時、下田警察署管内に交番は4つしかなく、他は駐在所であり、同交番勤 番目、平成24年は、当時設置していた205交番のうち上から88番目であった。 イ他方、丙警部補が庚交番に在職していた当時、下田警察署管内に交番は4つしかなく、他は駐在所であり、同交番勤務員は、管内の駐在所が不在となる場合には、同駐在所の受持ち区域においても業務を行う必要があったほか、夜間は、静岡県下田市及び同県γ町の全域において業務を行う必要があったため、同交番は、管内が広く、警らや事案発生時の移動時間等 が長いことなどから、同交番勤務員の中には、同署管内で他の交番に比べて繁忙な交番との認識を持つ者もいた(甲7、乙9)。 ウ下田警察署管内は、毎年、平日よりも週末や行楽時期に忙しい傾向にあり、とりわけ、夏期シーズンの週末となると県内外から多数の海水浴客等が訪れるため、繁忙となり、庚交番での業務もこれに伴って増えた。他方 で、冬期は比較的暇になる状況にあった。 - 23 - 丙警部補が庚交番に在職していた当時、丙警部補を含めて同交番勤務員は、非番や週休日に加えて休暇を取ることが可能であった。 (乙9、21、22)エ丙警部補を含めた庚交番の勤務員は、平成23年9月から同年12月までの期間、勤務中の休暇時間の取得については、昼休憩は、ほぼ毎回所定 の1時間の休憩を取得できていた一方で、夜休憩(所定休憩時間2時間半)及び仮眠時間(所定休憩時間5時間)については、仮眠時間はほぼ毎回4時間程度であり、1か月に1回程度、急訴事案等で起こされるなどして仮眠時間が取れないことがあり、夜休憩についても、3回に1回程度は、2時間程度取得するにとどまっていたことがあった。 ただし、当直中の休憩時間や仮眠時間に急訴事案等が発生した場合でも調整して他の時間帯に休憩を取得することはほぼできており、食事を摂る時間 時間程度取得するにとどまっていたことがあった。 ただし、当直中の休憩時間や仮眠時間に急訴事案等が発生した場合でも調整して他の時間帯に休憩を取得することはほぼできており、食事を摂る時間も確保できていた。 (乙13、27)⑵ 交番長として特に行うべき業務 丙警部補は、本件自殺までの間、庚交番の交番長の地位にあったが、その職務の内容は、原判決別紙2「交番長の職務」のとおりであり、交番長は、各月ごとに、交番等勤務員として提出が求められる自己の活動状況等の報告書を作成する必要があることに加えて、同交番管内の責任者として、同交番及び同交番管内の駐在所を含めた活動計画や幹部の巡視結果、広報活動状況 等を取りまとめたり、同交番管内における犯罪発生状況、月間の活動計画及び活動実績等をまとめた報告書を作成したりして、下田警察署の地域課等の関係部署に提出する必要があった。 また、丙警部補は、交番長として、管内の捜査協力者に対する折衝や、対外的な打ち合わせ、同署で行われる会合、係長会議等への出席、同交番管内 の災害危険マップの作成等の業務も行っていた。 - 24 - ただし、庚交番の交番長は、上記のとおり、交番勤務員と異なり、当直業務に加えて交番長としての特別の業務を行っていたものの、庚交番の交番長を務めた者が、例年、同業務を行うことによって、他の勤務員よりも長時間労働することを余儀なくされるほど繁忙となることはなかった。 丙警部補は、刑事課勤務の経験があり、捜査書類等の作成等に習熟してお り、業務の遂行については、正確かつ速やかに行うことに定評があり、庚交番の他の勤務員に対して、書類の早期提出を指導するなどしていた。 (甲7、乙9、28)⑶ 庚交番において時間外勤務をしなければならない場合等ア前 、正確かつ速やかに行うことに定評があり、庚交番の他の勤務員に対して、書類の早期提出を指導するなどしていた。 (甲7、乙9、28)⑶ 庚交番において時間外勤務をしなければならない場合等ア前提事実⑵アのとおり、庚交番の業務は、三交替の勤務体制により運営 されていたところ、庚交番においては、当直日において、午前9時に下田警察署に出勤し、拳銃の着装や飲酒検知、地域課の点検配置(朝礼)を終えた後、乗用車等で約1.2km離れた庚交番に出勤して前日の当直勤務を行っていた班との引継ぎを行う必要があり、このため、前日の当直班は、当日の当直班が同交番に到着し、引継ぎを終えるまでの間、当直勤務終了 後も引き続き庚交番に在勤し時間外勤務を要することとなる。また、ある班の当直勤務中に、急訴事案が複数発生した場合や、当直勤務の終了直前に、事案が発生した場合において、その事案の処理のために当直勤務終了後も引き続き業務を行わなければならないときであっても、翌日の当直班にその事案処理を引き継ぐことはできず、また、翌日の当直班が庚交番に 到着するまでの在所時間中に急訴事案が発生した場合についても、翌日の当直班の到着を待つことなくその処理を行う必要があるとされていることから、これらの場合も、当直勤務終了後の時間外勤務を要することとなる。 (乙19、25)イまた、庚交番勤務員は、当直勤務の際に、職務質問を実施した場合には 職務質問カードを、交通取締りをした場合には違反切符を、当直勤務中に- 25 - 市民を保護した場合には保護簿等の書類を、被害届等の各種届出を受理した場合や、事案が発生した場合には、実況見分調書等の捜査書類をそれぞれ作成する必要があるところ、これらは、通常、当直勤務中の休憩時間以外の在所時間において作成すべきもの 、被害届等の各種届出を受理した場合や、事案が発生した場合には、実況見分調書等の捜査書類をそれぞれ作成する必要があるところ、これらは、通常、当直勤務中の休憩時間以外の在所時間において作成すべきものとされているものの、上記在所時間に作成することができない場合でも、翌日の当直班等にその作成を引き継 ぐことはできないとされており、上記各書類は、それぞれ定められた提出期限(例えば、実況見分調書については、簡易書式であれば、当該勤務員が実況見分を行った当直日の次の当直日の勤務終了時まで、基本書式によるものであれば、当該実況見分を行った当直日を基準に3回目の当直勤務終了時までとされている。)までに下田警察署に提出する必要があるとさ れていたことから、上記のような場合も、非番日や週休日等の勤務時間外に書類作成のために勤務をすることが必要となることがあった(甲39、40、乙7、25)。 ウさらに、静岡県警察が設置している各交番においては、交番ごとに、その管内で発生している事案や要望等の解決のための問題解決活動として、 目標や推進計画を策定しており、これらの活動内容に応じ、必要な場合には、上記問題解決活動に取り組むための時間外勤務を要する場合があった。 例えば、庚交番では、平成23年11月において、「しもつき作戦」と称し、非番捜査として、駐輪場における張り込みや不審者に対する職務質問、店舗における万引きに関する職務質問及び検挙等の活動を実施することと されていた。(甲36、乙2、25、32~34)エその他、静岡県警察に勤務する警察官においては、年間一定時間、柔道・剣道訓練及び逮捕術訓練からなる術科訓練への参加を義務付けられており、これらの計画時間に応じて訓練に参加する必要があるほか、各種行事(例えば、110番の日広報、教 官においては、年間一定時間、柔道・剣道訓練及び逮捕術訓練からなる術科訓練への参加を義務付けられており、これらの計画時間に応じて訓練に参加する必要があるほか、各種行事(例えば、110番の日広報、教養への参加、各種会合等)に参加する 必要があり、これらのために、時間外勤務を要する場合もある(乙25)。 - 26 - オ平成23年4月以降、後記⑸イのとおりの連続窃盗事件の専従捜査班が結成されるまでの間、庚交番の当直班は、1班を丙警部補、2班を辛巡査部長、3班を壬巡査部長がそれぞれ班長を務め、これに巡査が一人ずつ配置されて2名1組で編制されていた。前記イの書類について、壬巡査部長は当直勤務中に作成することが多かったが、丙警部補と辛巡査部長は当直 明け後に作成することとしていた。 各班の当直の際の繁忙度は、いずれも同程度であり、丙警部補が班長を務める1班が特に繁忙であったということはなかった。 (乙9の5、乙25)⑷ 本件時間外勤務実績報告書の提出及びその修正、勤務日誌との相違 ア上記⑶のとおり、庚交番の勤務員は、職務に従事するに当たり、一定の時間外勤務を要する場合があったところ、これを行った場合には、これに従事した時間及びその際の活動状況等について、時間外勤務実績報告書に記載し、下田警察署管内における各交番に関する事務を総括する同署地域課の己課長に提出することとされていた(乙4)。 イ下田警察署においては、交番等勤務員から提出された上記報告書につき、己課長が、時間外勤務時間等につき必要な修正を施した上で承認し、その承認がされた内容に基づいて、署長が時間外勤務命令を行うという運用がされていた。この際、己課長には、どの程度修正を行うかについて、一定の裁量が与えられており、同課長は、勤務日誌等の内容を 認し、その承認がされた内容に基づいて、署長が時間外勤務命令を行うという運用がされていた。この際、己課長には、どの程度修正を行うかについて、一定の裁量が与えられており、同課長は、勤務日誌等の内容を確認するほか、 同課長のこれまでの勤務経験上、実況見分調書等の書類の作成のために通常必要となる時間がどの程度であるかといった点や、他の署員との公平の観点等も加味した上で、署長が時間外勤務命令を行う必要があるのはどの程度であるかを判断し、上記報告書の勤務時間の修正を行っていた。(乙4) 丙警部補は、本件時間外勤務実績報告書につき、鉛筆等で記入して己課- 27 - 長に提出し、同課長は、丙警部補から提出を受けた報告書につき、赤色ペンを用いて、時間外勤務として承認しない勤務時間を抹消したり、報告を受けた勤務時間のうち時間外勤務として認める勤務時間をより短時間に修正したりした上で、これを承認することを行っていた。 己課長の行った本件時間外勤務実績報告書の修正は、通常、当直の引継 ぎのための書類の作成が5分から10分程度で終わるところ、数時間を要すると記載されているものについては削除したり、実況見分調書等の捜査書類の作成について概ね4時間を超える記載のあったものを数時間減じて修正するというものであった。(乙4)ウ一方で、本件自殺後に行われた基金による調査の結果、本件時間外勤務 実績報告書において時間外勤務としての申告がされていないにも関わらず、勤務日誌(乙3)上、丙警部補が時間外勤務として一定の業務に従事している時間が存在することが判明した。その具体的内容は、原判決別紙6「回答と題する書面」中の表のとおりである。(甲4)⑸ 庚交番所管内における連続窃盗事件の発生とこれに関する捜査等 ア庚交番管内にお 在することが判明した。その具体的内容は、原判決別紙6「回答と題する書面」中の表のとおりである。(甲4)⑸ 庚交番所管内における連続窃盗事件の発生とこれに関する捜査等 ア庚交番管内において、丙警部補が在職中の平成23年4月頃から、「居空き」(家人等が在宅し、昼寝や食事等をしている隙に住宅内に侵入し、金品を窃取するものをいう。)と呼ばれる一般住宅に対する窃盗事件が発生するようになり、同年6月にも2件発生したほか、同年8月から平成24年2月にかけては、平成23年11月に発生がなかったほか、各月にお いて1ないし3件程度の発生が見られ、このうち、同年10月以降に発生したものについては、下田警察署において、同一犯人によるものであるとの疑いが持たれるようになった(甲7、乙9。以下、上記同一犯人によると思われる各窃盗事件を総称して「連続窃盗事件」という。)。 イ下田警察署では、連続窃盗事件の発生以後、平成24年2月までの間、 同署刑事課と同署地域課が協力の上で捜査に当たることとなり、具体的に- 28 - は、事件の発生時間帯とされる毎日午後6時頃から午後10時頃までの間、同署刑事課の捜査員と、同署地域課の非番の勤務員(庚交番の勤務員及び同署のパトカー勤務員)の2名によるペアを2組、車両を利用して定点に配置し、定期的に移動をしつつ、通過車両の確認や不審者の監視等を実施するという捜査が行われていた。その頻度は、3回か4回の当直の非番日 に1回ぐらい、1か月間に多くて3回程度であった。(甲7)。 一方、同署では、同月以降、犯人確保に向けた捜査体制の強化及び地域課職員の負担軽減の趣旨で、連続窃盗事件の捜査に関し、同署刑事課長のもとに専従捜査班が編成され、同月7日以降、同事件の捜査は、基本的に専従捜査班により実施され 犯人確保に向けた捜査体制の強化及び地域課職員の負担軽減の趣旨で、連続窃盗事件の捜査に関し、同署刑事課長のもとに専従捜査班が編成され、同月7日以降、同事件の捜査は、基本的に専従捜査班により実施されることとなった。庚交番においても、勤 務員2名が同班の専従捜査員に選任され、同交番の勤務を離れることとなり、同人らに代わり、警察学校初任科課程終了後の実習生2名が配置されることとなったため、同交番における班編成の変更がされ、丙警部補の属する班は、警察学校を修了した巡査1名との2名編成の班から、上記実習生である巡査1名との2名編成の班に変更された。(甲7、乙 9、11、27)丙警部補は、自らの手で連続窃盗事件の犯人を検挙できないことに残念な思いを口にしたことがあった(甲7)。 ウもっとも、庚交番においては、平成23年度の春期において、連続窃盗事件の犯人検挙等のために、勤務員が自主的な見回りや、パトロールを実 施することがあった。実際、上記専従捜査班による捜査体制への移行後も、丙警部補は、「夜間捜査」又は「非番捜査」等の従事内容により一定の時間外勤務を行った旨時間外勤務実績報告書による申告をしていたが、これらは己課長により時間外勤務として承認されている。 ただし、己課長は、交番勤務員は、当直勤務に専念するよう指示してお り、他の庚交番の他の勤務員も、丙警部補が非番や週休日において、夜- 29 - 間捜査を行っていることを現認したことはなかった。(甲7、乙4)⑹ 実習生指導担当者のなすべき業務前提事実⑷のとおり、丙警部補は、平成24年2月5日から、同年3月10日までの間、静岡県警察より、職場実習指導員への指名を受け、前記⑸イのとおり、専従捜査班編成以後、庚交番に配属された実習生1名との2名の 班構成 丙警部補は、平成24年2月5日から、同年3月10日までの間、静岡県警察より、職場実習指導員への指名を受け、前記⑸イのとおり、専従捜査班編成以後、庚交番に配属された実習生1名との2名の 班構成により業務を行っていた。上記実習生は、警察官として、その職権を行使することができるものの、同警察の取扱いとしては、現行犯人の逮捕や、人の生命、身体、財産等に危害が及ぶおそれのある目前急迫の事案発生の場合を除き、単独で職務の執行をすることができないとされていたため、実習生が交番等において何らかの業務に従事する場合には、基本的に職場実習指 導員による同行指導を受けることが必要とされていた。また、実習生は、業務において車両を運転することが禁止されていたことから、交番等勤務において、当直日における警察署から交番への移動ないし当直勤務終了後における交番から警察署への移動等については、職場実習指導員が送迎等を行う必要があった。 ただし、ほとんどの場合、職場実習指導員も、実習生と共に拳銃の返却や報告のため、下田警察署に出頭する必要があったため、同行することや送迎すること自体の負担は大きいものではなかった。 また、丙警部補は、これまでも職場実習指導員として実習生を指導する経験を有していた。(乙24) ⑺ 丙警部補の異動希望の有無及び異動のための作業等ア静岡県警察においては、平成24年3月期における警察官の異動に関し、その内示日を同年3月16日に設定していたところ、丙警部補が、本件自殺の直近に静岡県警察に対して提出した異動希望は、「下田警察署からは転勤してもよい」というものであった。なお、同警察において、警察官の 異動に際しては、当該異動対象者の勤務していた警察署又は交番等におけ- 30 - る管内情勢、事件事故の発 察署からは転勤してもよい」というものであった。なお、同警察において、警察官の 異動に際しては、当該異動対象者の勤務していた警察署又は交番等におけ- 30 - る管内情勢、事件事故の発生状況、捜査継続中の事件事故等を取りまとめた数枚程度の引継書を作成し、所属の警察署長に提出するものとされている。 ただし、引継書作成業務については、異動の内示を受けてからその作業が開始されることが通常であった。 (乙5、24)イ丙警部補は、少なくとも、本件自殺当日までの間は、上記アのとおり異動希望を提出していたことや、GSEへの参加が決定したことから、平成24年3月期において、自身が下田警察署から異動になるとの見込みを有しており、特に、平成24年2月から3月頃にかけて、週休日等に庚交番 に出勤し、引継ぎのための作業等を実施していた。 もっとも、己課長ほか、丙警部補の上司が、丙警部補に対し、異動を内示するなどして、引継ぎの準備をするよう具体的に指示したことはなかった。 (甲7。なお、控訴人は、丙警部補が、週休日等に異動のための引継ぎ作 業に従事していたことがない旨を主張する。しかしながら、上司である己課長も、平成24年3月9日、丙警部補との間で、丙警部補が検挙した事案について、丙警部補の異動時期であることを前提に、上記事案について作成すべき書類を他の勤務員に分担させるかどうかを協議したことがあり(甲40、乙25)、これによれば、己課長も、丙警部補が平成24年3 月期に異動する可能性があるとの認識を有していたと推認されることに加え、基金による聞き取り調査において複数の庚交番の勤務員が丙警部補が引継ぎ作業に従事していたのを目撃した旨を証言している(甲7)ことからすると、上記のとおり認定することができ、控訴人の上 ることに加え、基金による聞き取り調査において複数の庚交番の勤務員が丙警部補が引継ぎ作業に従事していたのを目撃した旨を証言している(甲7)ことからすると、上記のとおり認定することができ、控訴人の上記主張を採用することはできない。) ⑻ GSEに参加することとなった経緯及びその事前準備の状況- 31 - ア静岡県警察は、GSEにつき、少なくとも、平成20年から平成25年までの間に実施されるものについて、ロータリークラブから所属職員を参加させるよう要請を受けており、平成20年実施分から平成24年実施分までについては、同警察本部において適任と思料される職員を選定し、当該職員の所属する警察署等を通じて参加希望の確認を行った上、候補者1 名を推薦する取扱いを行っていた(甲47)。 イ平成24年実施分のGSEに関し、静岡県警察本部は、丙警部補を推薦候補者として選定し、下田警察署副署長に対し、丙警部補の参加希望の有無を聴取するよう要請した。これを受けて、同副署長の依頼に基づき、己課長は、平成23年9月28日頃、丙警部補に対し、参加希望の有無を確 認したところ、丙警部補は、参加希望を表明した。応募資格には、「英語会話に心得があ」る者で健康であることが挙げられていた。 同警察本部は、ロータリークラブに対し、丙警部補を上記GSEの参加候補者として推薦し、丙警部補は、同年10月15日までに、メンバー募集に応募し、同月30日に実施された面接を経て、派遣メンバーに 選出された。(甲11、乙17、24)ウ GSEの派遣メンバーは、海外研修に出発するまでの間、1月に1回程度、事前会合に参加することとされていたところ、丙警部補は、平成23年12月18日、平成24年1月15日及び同年2月26日に実施された上記事前会合に参加 は、海外研修に出発するまでの間、1月に1回程度、事前会合に参加することとされていたところ、丙警部補は、平成23年12月18日、平成24年1月15日及び同年2月26日に実施された上記事前会合に参加した。上記事前会合は、静岡県沼津市内の会場におい て、各回4時間程度実施されており、その内容は、事前準備事項の確認、海外研修の際に実施されるプレゼンテーションの準備及びオランダ語の練習等であった。加えて、丙警部補は、GSEの派遣メンバーとして、平成23年11月20日、同市内の会場で実施されたロータリークラブ地区大会(同大会では、GSEの派遣メンバーの紹介がされているほか、GSE に関する小委員会が開催されている。)に参加したほか、平成24年1月- 32 - 23日には、ロータリークラブの例会にゲストとして参加し、GSEの派遣メンバーとして紹介され、登壇して発言することもあった(以下、これらを総称して、「本件事前会合等」という。)。(甲11、30~32、乙17、24)また、上記のとおり、海外研修においては、英語で、メンバーの自己紹 介等を内容とするプレゼンテーションを行う必要があり、各メンバーは、出発までに、このための原稿のほか、職場・家族・余暇の写真等を取りまとめてパワーポイントを作成する必要があったところ、丙警部補は、自宅において、上記発表用原稿を作成していたほか、上記パワーポイント作成の取りまとめ役となっており、このための作業も行っていた。 丙警部補は、英検2級を有していたが、英会話能力には不安を覚えており、自主的に教材を購入し、英会話の学習を行っていた。(甲30~32、乙17)。 エ静岡県警察においては、GSEの海外研修それ自体については、次世代のリーダーの育成等を目的としていることや、メンバーの 主的に教材を購入し、英会話の学習を行っていた。(甲30~32、乙17)。 エ静岡県警察においては、GSEの海外研修それ自体については、次世代のリーダーの育成等を目的としていることや、メンバーの職業が派遣先で どのように営まれているかの見学等を内容としていることなどから、対外的に公務性が高いとして、これを公務とする取扱いを行う一方、その出発前の各種会合への参加やその他の事前準備については、自主学習や事前準備の範囲内であり、公務扱いとはしないとの取扱いを行っていたところ、このような取扱いは、前記イのとおり参加希望の聴取が行われる際、下田 警察署副署長や己課長から、丙警部補に説明がされ、丙警部補も、これを了承していた。(乙24)そのため、本件事前会合等が、丙警部補の出勤日(当直日や日勤日)と重なっている場合には、丙警部補に休暇を取得させ、あるいは、出勤日を週休日に変更する(この場合、他の週休日を出勤日に充てる。)など しており、丙警部補は、非番日や週休日において、本件事前会合等に参- 33 - 加していた。下田警察署は、上記各対応をとる場合は、代替勤務員として、駐在所勤務員に応援を要請していた。(乙4、24)オ GSEに参加経験のある静岡県警察の職員は、基金の調査に対し、本件事前会合等の負担は大きいものではなく、しっかりとした語学力が求められている訳ではないため、プレッシャーを感じることはほとんどなかった と述べていた(乙11の3)。 ⑼ 丙警部補のストレス診断とこれに関する静岡県警察の対応ア静岡県警察においては、平成18年度から、節目の年齢(30歳、40歳及び50歳)を迎えた職員を対象に、対象職員のメンタルヘルスに対する意識向上、及び各自のストレス状況を周知することにより自己の健康づ においては、平成18年度から、節目の年齢(30歳、40歳及び50歳)を迎えた職員を対象に、対象職員のメンタルヘルスに対する意識向上、及び各自のストレス状況を周知することにより自己の健康づ くりに役立てることを目的として、「心の元気力チェッカー」と呼ばれるストレス診断を実施している。この診断は、対象職員が、所定の質問に対し、当該質問につきあらかじめ準備された複数の回答の選択肢の中から自己に当てはまるものを選択して回答する方式で行われ、ストレス診断専門の民間業者に質問票の提供、回答結果の分析及び通知書の作成業務を委託 して行っているところ、その実施に際し、回答用紙及び分析結果通知は密閉された上で回収ないし配布され、心情把握や職務能力把握等を目的とするものではないことについて事前周知もされており、その回答内容及び分析結果については、同警察本部や対象職員の所属警察署等に通知されることはなかった。また、診断結果の通知には、アドバイスの掲載や、カウン セリング等の相談窓口の案内も同封しており、これらをもとに受検者自らの対応を促すことを想定していたことから、実施に際して産業医が関与することはなく、分析結果に基づいて同産業医が対象職員に対して直接何らかの働きかけをすることも予定されていないものであった。(甲47、乙24、31) イ丙警部補は、平成23年11月30日から同年12月22日までのいず- 34 - れかの時点で、上記ストレス診断を受検したところ、元気度ランクは最低評価である「E(かなり悪い)」との分析結果であった。項目ごとの評価を見ても、①「あなたのストレスの要因」については、「D(悪い)」と評価されており、そのうちの大項目「職場内のストレス」につき、「E」と評価され、その小項目である「人間関係」、「仕 。項目ごとの評価を見ても、①「あなたのストレスの要因」については、「D(悪い)」と評価されており、そのうちの大項目「職場内のストレス」につき、「E」と評価され、その小項目である「人間関係」、「仕事の質」、「仕事の 量」、「仕事遂行力」及び「個人適性」につきいずれも「E」、「仕事満足度」につき「B(良好)」などと評価された一方、大項目「職場外のストレス」につき、「C(境界域[注意が必要])」と評価され、その小項目「家族、友人・隣人関係」につき「E」、「生活要因」につき「A(非常に良好)」と評価された。②「ストレス緩和要因」については、「E」 と評価されており、そのうちの大項目「個人要因」については、「E」と評価され、その小項目「ストレスの受止め方」につき「E」、「コミュニケーション力」及び「ストレスとの向き合い方」につきいずれも「D」と評価されたところ、大項目「周囲のサポート」についても、「E」と評価され、その小項目「職場内」「家族」及び「友人」のいずれについても 「E」と評価された。③「現在のあなたの症状(ストレス反応)」については、「E」と評価され、このうちの大項目「心理面のストレス反応」については、「E」と評価され、その小項目「意欲」、「抑うつ感」、「燃え尽き度」及び「イライラ感」につきいずれも「かなり悪い状態」とされた一方、大項目「身体面のストレス反応」については、「D」と評価され、 その小項目「疲労感」及び「凝り・痛み」につきいずれも「かなり悪い状態」、「循環器」につき「非常に良好」、「胃腸障害」につき「注意が必要」とされ、大項目「行動面のストレス反応」についても、「D」と評価され、その小項目「睡眠」につき「かなり悪い状態」、「食欲」につき「良好」、「活動量」につき「悪い状態」、「思考力」につき「注 が必要」とされ、大項目「行動面のストレス反応」についても、「D」と評価され、その小項目「睡眠」につき「かなり悪い状態」、「食欲」につき「良好」、「活動量」につき「悪い状態」、「思考力」につき「注意が必 要」とされた。(乙29)- 35 - ウ丙警部補は、上記分析結果を職場で受け取った際、己課長に対し、総合評価が最低評価の「E」であることを伝え、これに対し、同課長が、「しょうがない職場だな」となかば冗談のように答えるやり取りがされることがあったが、前記アのとおり、その分析結果が下田警察署に通知されることはなかったため、同課長は、上記以上に詳細を知ることはなく、上記分 析結果に基づき、何らかの対応がされることはなかった。(乙11)⑽ 丙警部補の平成24年1月以降における心身の状況等ア本件自殺を受け、基金の実施したアンケート調査の結果によれば、丙警部補の平成24年1月頃から本件自殺までの間の肉体的・精神的不調和の状況につき、当時の庚交番の勤務員らにより、「元気がない、ぼんやりし ている」、「顔色がよくない」、「やる気が出ない時に靴を磨くくせがあるが、それが増えた。」などと回答がされているが、特段の不調を認めて心配がされるような状況ではなく、丙警部補も通常通りの勤務を行っていた。(乙15)。 イ一方、丙警部補は、平成24年に入ってから、本件自殺当日に至るまで に、食事量が減少し、丁が購入してきた菓子類を食べなくなるといった状況となっていた上、自宅において、「制服を着て歩きたくない」、「自分はいい格好をしているだけだ、いい人ぶっているだけだ」などといった発言をするようになった。さらに、丙警部補は、前記⑹のとおり、職場実習指導員に指名された後は、当直日の朝に、実習生との当直が一番仕事が進 ま ているだけだ、いい人ぶっているだけだ」などといった発言をするようになった。さらに、丙警部補は、前記⑹のとおり、職場実習指導員に指名された後は、当直日の朝に、実習生との当直が一番仕事が進 まないから行きたくないなどと漏らすようになり、丁が、2回ほど、休暇を取得するために電話をかけようとしたのに対しては、本件事前会合等のために休暇を取得した際には、駐在所勤務員に応援を要請しており、実習生の指導も併せて行ってもらっていることから、負担のある当直をこれ以上同勤務員に代わってもらうことはできないなどというやり取りをするこ とがあった。 - 36 - ウ他方で、下田警察署においては、交番等勤務員が当直又は日勤等の勤務日において、同警察署に出勤した際、「健康状態等チェック表」に、自己の健康状態を記入するよう指示がされていたところ、丙警部補は、平成24年3月3日、同月6日、同月8日、同月9日の各勤務日において、上記チェック表の「自己申告の内容」欄の「業務上の問題点」及び「投薬の有 無」につき、いずれも「無」と記入していた(乙14)。 丙警部補は、同月9日の当直勤務中には、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反の被疑者を検挙しており、己課長は、他の者に分担させて捜査書類を作成するよう指示したが、丙警部補は、自ら取調べや裏付け捜査も行うと述べ、職務に意欲を示していた(乙25)。 ⑾ 本件自殺当日における具体的な事実経過ア本件自殺当日である平成24年3月10日、丙警部補は、非番日であったところ、午後0時頃まで勤務した後、本件宿舎に帰宅した。帰宅後、丁は、丙警部補が、GSEの海外研修の際に持参する手土産を何にすればいいか悩んでいたことや、同人らの見込みによれば、平成24年3月期に異 動し、その後すぐにGS 、本件宿舎に帰宅した。帰宅後、丁は、丙警部補が、GSEの海外研修の際に持参する手土産を何にすればいいか悩んでいたことや、同人らの見込みによれば、平成24年3月期に異 動し、その後すぐにGSEに出発することとなり、その間のスケジュールがどのようなものかを知っておいたほうがよいなどと考えたことなどから、丙警部補に対し、上記各点を確認するため、前年度に静岡県警察に推薦されGSEに参加した者に電話するように促した。これを受け、丙警部補が上記参加者に架電したところ、同参加者から、春にすぐGSEに出発する 職員を3月期に異動させないのではないかとか、自分は異動してすぐGSEに出発したわけではないなどと言われた。このやり取りを聞いた丁は、丙警部補に対し、「下田から出られないなんて、丙が異動するって言ってたから引っ越しの準備をしてたのに。」などと言い、隣室に敷かれていた布団に入って数分間そこから出てこなかったところ、丙警部補は、 その間に、本件宿舎から出て、自動車で外出した。(以下、本件自殺当日- 37 - における上記一連の出来事を、「本件出来事」という。なお、静岡県警本部長の基金の調査事項に対する回答(乙24)によると、丙警部補が平成24年3月に異動とならなかった理由について、同人が異動内示日(3月16日)前に亡くなったためとしており、本件自殺がなかったら同日に丙警部補に対し異動の内示があった可能性も否定できないところである。) イ丙警部補は、本件自殺当日の平成24年3月10日午後1時39分頃から同日午後3時29分頃までの間に、静岡県下田市内、同県賀茂郡β町内及び同郡α町内において、ロープ、カッター、練炭、練炭コンロ、ビール、ライター等を購入し、その後、同日のうちに、同郡α町内の路上に停車中の普通乗用自動車内 での間に、静岡県下田市内、同県賀茂郡β町内及び同郡α町内において、ロープ、カッター、練炭、練炭コンロ、ビール、ライター等を購入し、その後、同日のうちに、同郡α町内の路上に停車中の普通乗用自動車内において練炭をたき、一酸化炭素中毒により自殺した。 遺書等は残していなかった。(本件自殺。前提事実⑺、乙16、20の4)⑿ 丙警部補の心身の状況等に関するその他の資料ア丙警部補の性格についてのアンケート結果基金の実施したアンケートの結果によれば、丙警部補の性格等について、「明るく誠実で、職責の自覚と勤務意欲が旺盛」、「明るく真面目で、 仕事熱心」、「真面目で責任感も強いが、その反面頑固で何でも自分一人で背負い込む傾向がある」、「温厚、責任感有り、積極性あり、几帳面、愚痴や人の悪口は言わない」等の回答がされている(乙15)。 イ丙警部補の既往歴及び飲酒の習慣丙警部補は、本件自殺までの間に、精神疾患に関する既往歴はなく(心 療内科等を受診したような形跡も見当たらない。)、本件自殺の時点において治療中の精神疾患以外の疾患としては、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患が主なものであった。また、丙警部補は、飲酒の習慣はあったものの、高頻度ではなく、月に0ないし1回程度であった。(乙17)ウ基金専門医による医学的意見 基金において平成28年3月8日に開催された精神会議で示された丙警- 38 - 部補の精神障害の発症の有無等に関する医学的意見(乙18、以下「本件医学的意見」という。)は、精神障害の発症の有無に関し、提出資料、丁及び職場関係者等の証言等から、平成24年3月上旬には、精神疾患の症状が顕在化し、何らかの精神疾患を発症していたと考えられるものの、心の元気力チェッカーにおいて、抑うつ感がかなり悪い状態を示 料、丁及び職場関係者等の証言等から、平成24年3月上旬には、精神疾患の症状が顕在化し、何らかの精神疾患を発症していたと考えられるものの、心の元気力チェッカーにおいて、抑うつ感がかなり悪い状態を示し ており、Eの評価を受けていることなどから、平成23年11月から12月頃に既に精神疾患を発症していた可能性は否定できないと判断する一方、公務による負荷の有無に関しては、精神疾患を発症するような業務による過重性は認められず、公務による強度の精神的・肉体的負荷があったとは認められないと判断している。 (以下、当審で書き改めた。) 2 争点1(丙警部補の自殺と業務との因果関係(公務起因性))及び争点2(静岡県警察の安全配慮義務違反の有無)について⑴ 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危 険があることから、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、職務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当である(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参照)。 ⑵ 静岡県警察の上記の注意義務違反があったか否かを検討する前提として、丙警部補の従事していた業務が過重であったか否かについて判断する。 本件のように、労働者が、精神障害にり患し、自殺をした場合においては、当該労働者の置かれた具体的状況を踏まえ、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的に見て、精神障害を発病させる程度に過重といえるかを検討 すべきである。そして、このような検討に当たっては、業務による心理的負- 39 - 荷の有 による心理的負荷が、社会通念上、客観的に見て、精神障害を発病させる程度に過重といえるかを検討 すべきである。そして、このような検討に当たっては、業務による心理的負- 39 - 荷の有無、程度に加え、業務以外の要因による心理的負荷の有無、程度、労働者側の要因(負荷への反応性、脆弱性等)の有無、程度等の諸事情を総合的に考慮するのが相当であるところ、本件裁決でも本件自殺の公務起因性の有無の判断に用いられた「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年3月16日付地基補第61号理事長通達。甲19、以下「認定基準」と いう。)は、上記見地及び精神障害に関する医学的知見等に照らし一定の合理性を有すると認められるから、業務の過重性を判断するに際しては、その内容を斟酌して検討するのが相当である。 ただし、本件医学的意見は、丙警部補について、何らかの精神疾患の発症を肯定するものの、その発症時期につき平成24年3月上旬には発症したと 判断しつつ、平成23年11月から12月頃に既に精神疾患を発症していた可能性が否定できないとしており(前記1⑿ウ)、その発症時期を特定しておらず、本件全証拠によっても、他にこれを適確に認めることもできないため、認定基準に沿って、業務と発症との関連性を適格に認定することは困難であるが、以下、平成24年3月上旬に何らかの精神疾患を発症したことを 前提にして、丙警部補の業務の過重性について検討することとする。 ア丙警部補の時間外勤務時間の認定について勤務時間該当性に関する基本的な考え方労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、これに該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に 置かれたものと評価することができるのか否かにより客観的に定まると解すべき は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、これに該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に 置かれたものと評価することができるのか否かにより客観的に定まると解すべきものである。 この点、控訴人は、業務の過重性の判断における時間外勤務とは、本来、上長が認めた勤務時間のみを指すと主張する。しかし、労働時間に該当するかは、上記の観点により客観的に定めるべきものであるとこ ろ、上記以外の場合であっても、当該労働者が業務を行うことを義務付- 40 - けられ、又はこれを余儀なくされたといえるとき等には、なお、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価することができるというべきであるから、これに反する上記控訴人の主張は採用することはできない。 イ時間外勤務時間の認定に係る各争点についての検討そこで、上記アの基本的枠組みに基づいて、時間外勤務時間を検討する。 時間外勤務時間の認定資料についてa 引用に係る前提事実によれば、静岡県警察に所属する警察官は、所定の勤務時間以外に業務に従事した時間がある場合には、その時間外勤務時間及び従事した業務の内容等を記載した時間外勤務実績報告書を作成して提出することとされている(同⑶イ)ところ、認定事実に よれば、丙警部補も、庚交番において勤務する際、本件時間外勤務実績報告書を作成し、これを己課長に提出していた(同⑷ア及びイ)。 この点、控訴人は、時間外勤務時間の認定に当たっては、時間外勤務が下田警察署長による時間外勤務命令に基づいて行われるものであることを前提として、上司である己課長において、本件時間外勤務実 績報告書をもって報告された時間外勤務の時間(丙警部補の申告した時間)のうちの修正したもの(認定事実⑷イ)を基に認定されるべき旨を主張す 提として、上司である己課長において、本件時間外勤務実 績報告書をもって報告された時間外勤務の時間(丙警部補の申告した時間)のうちの修正したもの(認定事実⑷イ)を基に認定されるべき旨を主張する。 しかしながら、時間外勤務時間の認定については、前記アのとおり、客観的に判断されるべきところ、上記報告書に記載されている内容は、 基本的に丙警部補の本格的職務内容に係るものであると認められる。 他方で、認定事実によれば、本件時間外勤務実績報告書において時間外勤務として申告されていないにもかかわらず、庚交番における業務に関して作成される勤務日誌上、丙警部補が所定の勤務時間外に業務に従事している時間が存在していること(同⑷ウ)に加え、上記報告 書は、公務員である丙警部補が職務上作成し、報告をし、その内容が- 41 - 上司である己課長によって精査されることを前提としたものであったこと、本件全証拠によっても、丙警部補が作成した本件時間外勤務実績報告書につき、実際には時間外勤務を行っていないにもかかわらず、これを行った旨の虚偽の報告を行っていたことを窺わせる具体的な事情もないことも指摘できる。そうすると、丙警部補が作成した本件時 間外勤務実績報告書に記載された、己課長による修正前の時間外勤務の時間については、基本的に、その内容に誤りがあるといった場合を除いては、これを勤務時間として考慮するのが相当である。 b 他方で、庚交番における業務に関して作成される勤務日誌上、丙警部補が所定の勤務時間外に業務に従事している時間が存在しているも のの、上記日誌と本件時間外勤務実績報告書の時間数の相違は些少であること(認定事実⑷ウ)なども考慮すると、丙警部補が、所定の勤務時間外に庚交番において業務に関する活動を行っていた時間全てを のの、上記日誌と本件時間外勤務実績報告書の時間数の相違は些少であること(認定事実⑷ウ)なども考慮すると、丙警部補が、所定の勤務時間外に庚交番において業務に関する活動を行っていた時間全てを本件時間外勤務実績報告書に記載していたものではなかった(すなわち、丙警部補が本件時間外勤務実績報告書において申告した勤務時間 以上に業務に従事していた。)とまでは認めるに足りない。 この点、被控訴人らは、丙警部補と丁との間でやり取りされていたメール等(甲6、35)の送受信時間に基づいて、丙警部補が本件時間外勤務実績報告書において申告した以上に、丙警部補の時間外勤務の開始時間や終了時間等を認定されるべき旨を主張する。しかし、被 控訴人ら主張に係る上記時間外勤務部分については、丙警部補自身が超過勤務として報告していなかったものであるし、上記メールの送受信時間からは、時間外勤務が実際に行われたか否か及びその程度を明確には確定し難い上、私的な内容を含んでいる可能性も否定し得ない。 そうすると、本件時間外勤務実績報告書のみならず、勤務日誌等の証 拠関係及び当該メールの記載内容等から見て、丙警部補が業務に従事- 42 - していた際にやり取りされたことが認められるという例外的な場合以外には、これに基づいて時間外勤務時間を認定することはできないというべきである。 当直日の休憩時間の認定についてa 被控訴人らは、丙警部補が勤務日誌に記載されたとおりに休憩時間 を取得することができていなかったと考えられる旨主張する。 しかし、勤務日誌における休憩時間等の記載等が事実に反すると認めるべき事情はないし、丙警部補の実際の休憩時間等がどの程度であったのかを具体的に特定することも困難であるといわざるを得ないから、当直日における休憩 日誌における休憩時間等の記載等が事実に反すると認めるべき事情はないし、丙警部補の実際の休憩時間等がどの程度であったのかを具体的に特定することも困難であるといわざるを得ないから、当直日における休憩時間等は、勤務日誌等に即して認定するほか はなく、上記主張は採用することができない。 b 一方、平成23年9月から同年12月までの勤務日誌は証拠として提出されておらず、この期間内における丙警部補の当直日における実際の休憩等の時間を直接認定する証拠はない。 認定事実⑴エによれば、庚交番勤務員は、昼休憩についてはほぼ毎 回所定の1時間の休憩を取得できていた一方で、夜休憩(所定休憩時間2時間半)及び仮眠時間(所定休憩時間5時間)については、仮眠時間はほぼ毎回4時間程度であり、1か月に1回程度、急訴事案等で起こされるなどして仮眠時間が取れないことがあり、夜休憩についても、3回に1回程度は、2時間程度の取得にとどまっていたと認めら れる。他方で、当直中の休憩時間や仮眠時間に急訴事案等が発生した場合でも、食事を摂る時間等は確保できていた。 c そうすると、上記bの事情を踏まえた上で、平成23年10月27日、同年11月24日、同年12月14日、平成24年1月4日においては、休憩時間はなかったものと認めるものの、それ以外について は、休憩時間を考慮するのが相当である(証拠(甲3、35)及び弁- 43 - 論の全趣旨によれば、基金は、庚交番の他の勤務員に対する調査等に基づいて、実態を踏まえて休憩時間を認定していることから、基金の調査による時間外勤務時間の認定を相当と認める。)。 本件事前会合等の参加時間及び移動時間についての勤務時間該当性について a 認定事実⑻によれば、丙警部補は、平成24年に実施されるGSEの による時間外勤務時間の認定を相当と認める。)。 本件事前会合等の参加時間及び移動時間についての勤務時間該当性について a 認定事実⑻によれば、丙警部補は、平成24年に実施されるGSEの派遣メンバーに選出されていた(イ)ところ、これは、次世代のリーダー等の育成を目的としていることや、その内容についても、派遣先国における職業見学等を含むものであること(エ)に加え、ロータリークラブが、静岡県警察に対して参加要請を行い、これに応じ、同 警察が丙警部補を候補者に選定して、ロータリークラブに推薦したという経緯(ア、イ)に照らしても、GSEの海外研修は、これを業務(公務)として取り扱うのが相当であり、実際、同警察も上記海外研修それ自体については、公務として取り扱っていたものである(エ)。 そして、丙警部補が参加していた本件事前会合等は、その実施主体 については、静岡県警察とは異なるものの、その具体的な活動の内容(ウ)を見ても、丙警部補が、上記業務としてのGSEの海外研修に出発するために必要な準備等の活動を行うものであるか、あるいは、丙警部補がGSEの派遣メンバーに選出されたことにより、実施主体であるロータリークラブから、丙警部補に対して参加を要請されてい たものと認められ、丙警部補としては、これに参加しないとの選択肢を採り得るものではなかったと認められる。 そうであれば、丙警部補が参加した本件事前会合等は、業務外の私的な活動にとどまるとは到底いえず、静岡県警察の業務としての性質を有するか、あるいは少なくとも、業務であるGSEの海外研修に密 接に関連する活動として、これらに参加することを余儀なくされたと- 44 - いえるのであり、これによって拘束されていた時間(1回に当たりほぼ4時間程度)は、業務の過 Eの海外研修に密 接に関連する活動として、これらに参加することを余儀なくされたと- 44 - いえるのであり、これによって拘束されていた時間(1回に当たりほぼ4時間程度)は、業務の過重性の判断の前提となる勤務時間として考慮するのが相当である。 そして、丙警部補が、本件事前会合等を公務として取り扱わない旨を承認していた(認定事実⑻エ)としても、上記説示の点に照らし、 上記判断は左右されないというべきである。 b 本件事前会合等に参加するための移動時間の時間外勤務時間の該当性について検討するに、本件事前会合等の移動時間自体は、その間の自由利用が許されていることから、使用者の指揮命令下に置かれたものとは認められず、時間外勤務時間に該当するとは認められないとい うべきである。 被控訴人らは、丙警部補が上記会合等に参加しないとの選択肢を採り得ないことや、これに参加するために、当該交通機関等に乗車する以外の行動を選択する余地がないことを理由に、時間外勤務時間に該当する旨を主張するが、被控訴人らの上記指摘の事情のみでは、時間 外勤務時間該当性を首肯することはできず、上記認定は左右されない。 c 本件事前会合等の事前準備に要する時間の時間外勤務時間の該当性について検討する。被控訴人らは、丙警部補が自宅等において行ったプレゼンテーションの準備や、英語の勉強等の準備時間についても、業務の過重性評価の対象とすべきである旨主張するが、丙警部補がこ れらに従事した時間はそれ自体証拠上明らかでなく、上記準備時間についても具体的な時間外勤務時間を特定してこれを算入することは困難であるといわざるを得ない(丙警部補が、GSEに参加するために一定の準備を余儀なくされたことについては、後述するとおり、業務の質的過重性において考 な時間外勤務時間を特定してこれを算入することは困難であるといわざるを得ない(丙警部補が、GSEに参加するために一定の準備を余儀なくされたことについては、後述するとおり、業務の質的過重性において考慮するのが相当である。)。 ウ具体的な時間外勤務時間の認定について- 45 - 以上を踏まえ、丙警部補の本件自殺前6か月間(平成23年9月13日から平成24年3月10日まで)の勤務時間を認定判断すると、本判決別紙2「丙警部補の勤務時間(裁判所認定)」(以下「勤務時間表」という。)の「勤務時間」欄のとおり認めるのが相当であり、その認定根拠は、同別紙2の「認定根拠」欄記載のとおりである。 ⑶ 質的過重性において考慮すべき諸事情について被控訴人らは、前記第2の4⑴(被控訴人らの主張)イないしに掲げられている諸事情について、丙警部補の肉体的・精神的負荷を増大させたものであり、業務の質的過重性において考慮すべきであると主張するので、以下個別に検討する。 ア連続窃盗事件の捜査による負荷(前記第2の4⑴(被控訴人らの主張)イ)について認定事実によれば、庚交番管内において、平成23年8月頃から、同一犯人によるものと思料される連続窃盗事件が発生しており、これについて、下田警察署においては、当初、刑事課捜査員と非番の庚交番勤務員 らが共同して捜査を実施していたこと(⑸ア、イ)、丙警部補が一定の時間外勤務を強いられる要因となっていたことが認められ、自らが交番長を務める庚交番管内で連続発生していたことを受けて、丙警部補がこれを気に懸けていたことも認められる(⑸ウ)。 そうすると、連続窃盗事件の捜査が、丙警部補に一定の心理的負荷を与 えるものであったことは否定できない。 しかしながら、丙警部補の連続窃盗 がこれを気に懸けていたことも認められる(⑸ウ)。 そうすると、連続窃盗事件の捜査が、丙警部補に一定の心理的負荷を与 えるものであったことは否定できない。 しかしながら、丙警部補の連続窃盗事件の夜間捜査への関与は、三、四回の当直の非番日に1回程度、1か月間に多くて3回であり(⑸イ)、一方、平成24年2月以降、専従捜査班が編成され、同事件の捜査は基本的に同班において実施されることとなって、丙警部補を含む庚交番の 勤務員の負担は軽減されていたものである(⑸イ)。 - 46 - 丙警部補が、同班編成後においても、時間外勤務として、連続窃盗事件に関して自主的な見回りを行っていたことは認められるものの、その頻度、従事時間等は不明である上、別に専従捜査班が結成されていることから(⑸イ、ウ)、これをもって直ちに従前よりも丙警部補の負担が増えたとは認められないし、他に、連続窃盗事件の捜査について、丙警部 補のみに業務上の負担が集中していたと認めるべき事情もない(⑶オ)。 そうすると、連続窃盗事件の捜査により、質的に過重な業務に従事していたとは認め難いし、少なくとも平成24年2月以降においては、丙警部補の業務が質的に過重となったとまで認めることはできない。 イ実習生の指導による負荷(前記第2の4⑴(被控訴人らの主張)イ) について認定事実によれば、丙警部補は、平成24年2月5日以降、職場実習指導員への指名を受け、実習生1名との2名の班構成により業務を行っていたところ、同実習生は、一定の場合を除いて、単独で職務の執行を行うことができず、業務に従事する際は、丙警部補による同行指導が必要 であったほか、車両の運転も禁止されており、庚交番と下田警察署の間の移動等についても、丙警部補が同行することが必要となっていた うことができず、業務に従事する際は、丙警部補による同行指導が必要 であったほか、車両の運転も禁止されており、庚交番と下田警察署の間の移動等についても、丙警部補が同行することが必要となっていたこと(⑹)、丙警部補は、家族に対して、実習生との当直が一番仕事が進まないなどと漏らしていたこと(⑽イ)に照らしても、実習生の指導は、丙警部補に一定程度心理的負荷を与えるものであったことが認められる。 しかしながら、実習生との同行送迎の負担自体は、新たな業務を増加させるものではなく、これによって、時間外勤務が増えるようなものではないし(⑹)、庚交番の他の勤務員も丙警部補と同様に職場実習指導員として2名編成の班を組んで当直勤務している上(⑸イ)、丙警部補にはこれまで実習生の指導の経験があったこと(⑹)を併せ考慮すると、 実習生の指導という業務自体は、警察官一般に求められている通常の業- 47 - 務というべきもので、質的に過重なものとは認められないというべきである。 ウ異動のための引継ぎによる負荷(前記第2の4⑴(被控訴人らの主張)イ)について認定事実によれば、丙警部補は、平成24年3月期の異動に関し、下田 警察署から異動してもよいとの希望を提出していたところ、本件自殺当日までの間は、自身が同時期において異動するとの見込みを有しており、週休日等に庚交番に出勤し、引継ぎのための作業を実施していた(⑺イ)というのであって、これらによれば、上記引継ぎ作業は、丙警部補の業務量を増大させる要因となったことが窺われる。 しかしながら、異動のための引継ぎ作業は、そもそも定期的に異動を繰り返す警察官にとっては、通常の業務の一環というべきものであるし、本件全証拠によっても、丙警察官が行っていた引継ぎ作業について特段困 しかしながら、異動のための引継ぎ作業は、そもそも定期的に異動を繰り返す警察官にとっては、通常の業務の一環というべきものであるし、本件全証拠によっても、丙警察官が行っていた引継ぎ作業について特段困難な作業であったと認めるべき事情はなく、まして、内示を待たずして、これを行うべき緊急性があったとも認められないことからすると、 丙警部補が異動のための引継ぎ作業を行っていたことをもって、その業務が質的に過重なものとなっていたとはいえない。 エ GSEの参加のための研修参加や事前準備による負荷(前記第2の4⑴(被控訴人らの主張)イ)について認定事実⑻によれば、丙警部補は、平成24年実施分のGSEの派遣メ ンバーに選出され、本件自殺までの間に、その事前準備として本件事前会合等に出席したり、自宅において、プレゼンテーションの発表用資料の作成や、パワーポイントの取りまとめ作業等を行ったりしていることが認められる(イ、ウ)ところ、前記⑵イで検討したところに照らせば、上記各活動は、同警部捕の業務の一環として、業務の過重性の判断 に当たってその負荷を考慮することが相当である。 - 48 - そして、上記各活動は、プレゼンテーションの準備等においては、慣れない外国語でこれを準備する必要があり、基金による聞き取り調査において、庚交番の勤務員が、GSEの研修に参加するに当たり、外国語がしゃべれないことについて、悩みがあることを話していた旨の証言を行っている(乙11)。 もっとも、他方で、丙警部補は、プレゼンテーションの準備等を自宅で行っていることに加え、GSEに参加経験のある静岡県警察の職員は、基金の調査に対し、本件事前会合等の負担は大きいものではなく、プレッシャーを感じることはなかったと述べていたこと(⑻)にも照らすと で行っていることに加え、GSEに参加経験のある静岡県警察の職員は、基金の調査に対し、本件事前会合等の負担は大きいものではなく、プレッシャーを感じることはなかったと述べていたこと(⑻)にも照らすと、丙警部補がGSEの参加のための研修参加や事前準備に関する業務を行 っていたことをもって、その業務が質的に過重であったと認めることは困難である。 ⑷ 精神障害の発症の有無についてア精神障害発症の有無に関する判断認定事実によれば、丙警部補は、平成23年11月30日から同年12 月22日までの間に、「心の元気力チェッカー」を受検しているところ、その分析結果によれば、「心理面のストレス反応」につき「意欲」、「抑うつ感」、「燃え尽き度」及び「イライラ感」に関して「かなり悪い状態」とされた上で、最低評価の「E」と評価されており、「身体面のストレス反応」についても、「疲労感」及び「凝り・痛み」につき 「かなり悪い状態」とされるなどした上で、「D」と評価されていること(⑼ア、イ)、平成24年に入って以降も、複数の庚交番勤務員らが、丙警部補の様子につき、「元気がない、ぼんやりしている」、「顔色がよくない」といった回答を行っているほか、家庭においても、食事量が減少し、丁が用意した菓子類を食べないなど食欲が減退している状態が 見られ、「制服を着て歩きたくない」とか、「自分はいい格好をしてい- 49 - るだけだ、いい人ぶっているだけだ」などといった発言をすることがあったこと(⑽ア、イ)が認められる。 これらを踏まえれば、丙警部補には、少なくとも、抑うつ気分、易疲労性、集中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下及び食欲不振と評価し得る症状が生じていたと認めることができる。 そして、上記の経過によれば、丙警部補の上 補には、少なくとも、抑うつ気分、易疲労性、集中力と注意力の減退、自己評価と自信の低下及び食欲不振と評価し得る症状が生じていたと認めることができる。 そして、上記の経過によれば、丙警部補の上記の各症状は、遅くとも本件自殺の直前である平成24年3月上旬頃に至るまで、2週間以上にわたって継続して見られていたと推認されることに加え、本件医学的意見においても、平成24年3月上旬には、精神疾患の症状が顕在化し、何らかの精神疾患を発症していたと考えられるとの意見が述べられている こと(⑿ウ)に照らすと、丙警部補には、遅くとも同月上旬の時点において、うつ病エピソード等の精神疾患を発症していたと認めるのが相当である。 イこれに対し、控訴人は、前記第2の4⑴(控訴人の主張)ウのとおり主張する。 確かに、認定事実によれば、丙警部補は、本件自殺当日の直前である平成24年3月3日、同月6日、同月8日及び同月9日の各勤務日において、「健康状態等チェック表」の「自己申告の内容」欄の「業務上の問題点」及び「投薬の有無」につき、いずれも「無」と記入していたこと(⑽ウ)が認められ、勤務時間表においても、各日において、所定の当 直ないし日勤の勤務を行っていることが認められる。 しかしながら、文献(甲16)によれば、うつ病の病態として不安・焦燥が見られることがあり、このような症状が優位となっている病態の場合には、何とか仕事に赴こうとしたり、家族や周囲の人が異常に気付きにくかったりすることがあるなどとの指摘がされていることに照らせば、 上記諸事情は、丙警部補がうつ病エピソードを発症していることと整合- 50 - しない事情であるとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。 ⑸ 業務の過重性及び本件 諸事情は、丙警部補がうつ病エピソードを発症していることと整合- 50 - しない事情であるとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。 ⑸ 業務の過重性及び本件自殺との相当因果関係についてア業務を要因とする負荷の有無ないし程度a 前記⑷アのとおり、丙警部補は、遅くとも本件自殺当日の直前であ る平成24年3月上旬には、うつ病エピソード等の精神疾患を発症していたと認められるところ、前記⑵ウの丙警部補の時間外勤務時間は、発症6か月前の時点では、休暇の取得等が続いたため23時間にとどまっているものの、発症5か月前以降は、いずれの月も50時間を超えるに至っている。そのうち3月(発症1か月前、同4か月前及び同5か月前) では、80時間を超える時間外勤務を行っていることが認められるのであって、丙警部補の長時間労働がやや常態化していたものといえる。 そして、とりわけ、発症1か月前の期間においては、その時間外勤務時間は110時間を超えるに至っている。 これらによれば、上記丙警部補の時間外勤務の具体的状況は、認定基 準上の強度による精神的又は肉体的負荷を与える事象とされる出来事(発症直前の1か月に概ね160時間を超えるような、又は発症直前の3週間に概ね120時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合、あるいは、発症直前の連続した2か月間に1月当たり概ね120時間以上の、又は発症直前の連続した3か月間に1月当たり概ね100時間以 上の時間外勤務を行ったと認められる場合)には直ちに該当しないとしても、「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月当たり概ね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」の該当性が問題となる程度の状況にあったとい ても、「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、1月当たり概ね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」の該当性が問題となる程度の状況にあったというべきである。 b 進んで、丙警部補が、上記認定基準に基づき、「発症直前の1か月- 51 - 以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行った」といえるかについて検討する。 前記⑶のとおり、丙警部補は、庚交番に勤務する警察官として通常の当直業務や交番長としての職務に加えて、発症直前の1か月において、連続窃盗事件の捜査、実習生の指導業務、異動のための引継ぎ作業、更 にはGSEの参加のための研修参加や事前準備の業務に従事していたことが認められ、いずれも一定の精神的負荷を与えるものとはいえるものの、これらをもって、「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行った」に該当するとまでは認め難い。 イ業務外の要因による負荷の有無ないし程度 本件全証拠においても、本件自殺当日の6か月前までの間に、丙警部補やその家族等について、離婚等の身分関係の変動や、事故・事件に巻き込まれたとか、死亡・けが・病気等があったといった事情は認められないし、その他、財産の損失や収入の減少等の事情も特段認められないから、丙警部補が、業務外の要因により、精神障害を発症する程度の心理 的負荷を受けていたと認めるに足りる事情はない。 認定事実⑿ウのとおり、基金専門医は、公務による強度の精神的・肉体的負荷があったとは認めていないものの、業務外の要因により、精神障害が発症したことを示唆してもいない。 ウ個体側の要因 認定事実⑿アのアンケート結果によれば、丙警部補の性格傾向は、何でも一人で背負い込む傾向があるとされている 務外の要因により、精神障害が発症したことを示唆してもいない。 ウ個体側の要因 認定事実⑿アのアンケート結果によれば、丙警部補の性格傾向は、何でも一人で背負い込む傾向があるとされているほかは、基本的には明るく、積極性のある性格であることが窺われ、丙警部補の社会適応に問題があるとか、性格傾向に極端な偏りがある状況は認められない。また、丙警部補に精神疾患の既往歴はなく、飲酒の習慣はほとんどなかったこと (同イ)も考慮すれば、丙警部補に、精神疾患発症の要因となるような- 52 - 個体側要因の存在を認めることはできない。 エ総合的評価・結論以上を総合して、業務の過重性と本件自殺との相当因果関係について検討するに、認定基準に照らして、①発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的に過重な業務を行ったこと等により、②1月当たり概ね1 00時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合といえるかどうかの検討した場合には、時間外勤務時間を踏まえる限り、上記②については肯定できるものの、上記①については認め難いというべきである。 他方で、丙警部補は、業務上の心理的負荷により、うつ病エピソード等の精神疾患を発症したこと自体は否定できず、この精神障害の存在以外 に、丙警部補が自殺をする原因となるような事情も証拠上見当たらない。 しかしながら、その場合にあっても、前記⑷アのとおり、本件医学的意見によっても、精神疾患の発症時期は特定できないとしており、業務と精神疾患の発症との関連を適確に認定することが困難であること(ちなみに、前記本件医学的意見で可能性が指摘されている平成23年11月 から12月に丙警部補の精神疾患が発症していたとすると、前記⑵ウの勤務時間との関係で当時丙警部補の業務が過重であったとの認定は、よ 、前記本件医学的意見で可能性が指摘されている平成23年11月 から12月に丙警部補の精神疾患が発症していたとすると、前記⑵ウの勤務時間との関係で当時丙警部補の業務が過重であったとの認定は、より一層困難になる。)を併せ考慮すると、本件自殺による丙警部補の死亡と、丙警部補の従事していた静岡県警察における業務との間に相当因果関係があるとは認め難いというべきである。 ⑹ 念のため、進んで、静岡県警察に安全配慮義務違反があったかについて検討する。 ア丙警部補において、遅くとも本件自殺当日の直前である平成24年3月上旬には、うつ病エピソード等の精神疾患を発症していたことを前提にしても、丙警部補の時間外勤務時間は、直前1か月前の期間こそ11 0時間を超えているが、発症6か月前の時点では、休暇の取得等が続い- 53 - たため23時間にとどまっているし、発症5か月前以降は、いずれの月も50時間を超えているものの、100時間を超える時間外勤務を行っていることはない。 また、前記2⑶のとおり、丙警部補が行っていた業務のうち、質的過重性が問題となると被控訴人らが主張する業務については、いずれも一 定の心理的負荷を伴うものであったとはいえても、個別的に検討する限り、過重性を肯定できないばかりか、GSE参加のための事前準備等以外の業務はいずれも警察官一般に求められている通常の業務ともいうべきものであった。 さらに、本件全証拠によっても、上記期間において、庚交番の勤務員 の勤務状況が繁忙となったとは認められないし、前記2⑶のとおり、丙警部補のみが、他の庚交番の勤務員と異なって、著しく過重な業務に従事することを余儀なくされる状況にあったともいえない。 そうすると、前記のとおり、丙警部補の勤務状況が、発症前1か月間 のとおり、丙警部補のみが、他の庚交番の勤務員と異なって、著しく過重な業務に従事することを余儀なくされる状況にあったともいえない。 そうすると、前記のとおり、丙警部補の勤務状況が、発症前1か月間において若干時間外勤務時間が長くなっていたとしても、上記勤務状況 については、静岡県警察において、丙警部補が疲労や心理的負荷等を過度に蓄積させて、心身の健康を損なうことを具体的客観的に予見することができるものであったとまでは言い難い。 さらに、丙警部補において、遅くとも本件自殺当日の直前である平成24年3月上旬には、うつ病エピソード等の精神疾患を発症していた ことを前提にしても、認定事実によれば、丙警部補は、平成23年12月頃の時点で、職場のストレス診断の分析結果においては、最低の評価である「E」と診断されたことが認められる(⑼イ)が、その回答内容及び分析結果については、同警察本部や対象職員の所属警察署等に通知されることはなく、また、診断結果の通知に掲載されたアドバイスをも とに受検者自らの対応を促すことを想定していたことから、実施に際し- 54 - て産業医が関与することはなく、分析結果に基づいて同産業医が対象職員に対して直接何らかの働きかけをすることも予定されていないものであった(⑼ア)から、同診断結果から、静岡県警察において、直ちに、丙警部補が心身の健康を損なって何らかの精神障害を起こしていることを具体的に認識することは困難であったというほかない(⑼ウのとおり、 丙警部補は分析結果の総合評価がEであったことのみを己課長に口頭で伝えているが、それ以上の詳細を己課長に伝えることはしておらず、同事実は上記判断を直ちに左右するものではない。)。 また、丙警部補については、その後、平成24年1月頃に周囲の者によ 己課長に口頭で伝えているが、それ以上の詳細を己課長に伝えることはしておらず、同事実は上記判断を直ちに左右するものではない。)。 また、丙警部補については、その後、平成24年1月頃に周囲の者によって「元気がない、ぼんやりしている」、「顔色がよくない」、「や る気が出ない時に靴を磨くくせがあるが、それが増えた。」など、肉体的・精神的不調を窺わせる徴表が目撃されてはいる(⑽ア)が、精神的異変を感じさせるものではなく、丙警部補の交番勤務も通常どおり行われていた。 加えて、丙警部補の不調について、同居の家族から静岡県警察に伝え られたことはなく、勤務日において行われる自身の健康状態に関する申告の際に静岡県警察に伝えられたこともなかった(⑽イ、ウ)。 さらに、丙警部補に精神疾患の既往歴はなく、心療内科等を受診した形跡も見当たらない。 以上によると、静岡県警察において、丙警部補が過重な労働に従事し ていたことにより本件自殺当日の直前である平成24年3月上旬にうつ病エピソード等の精神疾患を発症するかもしれいないと認識すること自体、困難であったといわざるを得ない。 さらに、認定事実によれば、本件自殺当日の前日(当直勤務中)においては、丙警部補は、特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律違反 の被疑者を検挙し、その捜査遂行に意欲を示す(⑽ウ)などして、平常- 55 - 通り当直業務をこなした一方、当直明けの本件自殺当日、家庭内で生じた本件出来事を契機として、突然、自宅を飛び出し、本件自殺に向けた準備をした上で自殺したこと(⑾ア、イ)が認められる。上記自殺に至る丙警部補の行動は余りに唐突といわざるを得ず、静岡県警察においてこれを予見することは一層困難であったというべきである。 イ上記アを踏まえると、静岡県警 ⑾ア、イ)が認められる。上記自殺に至る丙警部補の行動は余りに唐突といわざるを得ず、静岡県警察においてこれを予見することは一層困難であったというべきである。 イ上記アを踏まえると、静岡県警察においては、丙警部補が心身の健康を損なっていたり、精神的な異変を来していることを認識し得なかったといえるし、かつ、丙警部補の勤務状況を認識していたとしても、控訴人は、丙警部補がその勤務状況等によって、疲労や心理的負荷等を過度に蓄積させ、心身の健康を損なって何らかの精神障害を起こすおそれ、更には本件 自殺に至ることを具体的客観的に予見することはできなかったといえる。 これに対し、被控訴人らは、控訴人が丙警部補の勤務状況を、現実には認識把握したし、仮に認識把握していなかったとしても、丙警部補の勤務状況を正確に認識し把握する義務がある以上、丙警部補の心身の健康を損なう危険性について予見可能性は肯定できる旨を主張するが、上記 説示したことに照らし、被控訴人らの上記主張を採用することはできない。 ⑺ そうすると、静岡県警察において、前記⑴の安全配慮義務ないし注意義務に違反したということはできない。 3 したがって、被控訴人らの請求については、その余の点について判断するま でもなくいずれも理由がないというべきである。 4 その他、原審及び当審における当事者双方の主張に鑑み、証拠を検討しても、当審における上記認定判断を左右するには足りない。 第4 結論以上の次第で、被控訴人らの請求は、いずれも理由がないから棄却すべきと ころ、これと異なり被控訴人らの請求を一部認容した原判決は不当であって、- 56 - 本件控訴は理由がある。 よって、主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部 裁判長裁判官西 本件控訴は理由がある。 よって、主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部 裁判長裁判官西井和徒 裁判官澤井真一 裁判官芝本昌征
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