平成18年2月9日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(ワ)第11960号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成17年10月13日判決原告 A原告 B原告ら訴訟代理人弁護士森田明田丸明子被告東京都同代表者知事 C同指定代理人松下博之藤本清孝松本邦男 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告Aに対し金3111万3174円,原告Bに対し金4211万3174円及びこれらに対する平成11年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の開設する病院において腎移植手術を受けたDが,術後,EBウイルス感染に関連した移植後リンパ球増殖性疾患(PTLD)を発症して,約5か月後に死亡したことに関し,Dの父母である原告らが,担当医師において,①腎移植後の免疫抑制剤の血中濃度の適切なコントロールを怠った,②腎移植手術後,EBウイルスによる感染症を発症していることを診断して,免疫抑制剤の減量又は中止をするとともに,抗ウイルス剤を投与すべきであった,仮にそうでなくても,感染症の発症を疑って,これを診断するための検査を実施すべきであったのに,これらを怠った,③腎移植手術を実施するに当たって必要な説明を尽くさなかった,それらの結果,Dが死亡した(予備的に,①及び②については,適切な診療を受ける機会を喪失させて期待権を侵害した,③については,説明義務違反それ自体によって権 るに当たって必要な説明を尽くさなかった,それらの結果,Dが死亡した(予備的に,①及び②については,適切な診療を受ける機会を喪失させて期待権を侵害した,③については,説明義務違反それ自体によって権利利益を侵害した。)と主張して,被告に対し,債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき,逸失利益等の損害金及びこれに対する死亡日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 1 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア原告A(昭和34年3月14日生)はD(平成2年1月21日生,平成11年7月27日死亡)の父であり,原告B(昭和35年3月6日生)はDの母である。 イ被告は,東京都清瀬市内において「E病院」という名称の病院(以下「被告病院」という。)を開設している。 平成10年及び11年当時,いずれも医師であるF,G及びHは被告病院の泌尿器科に,医師であるIは被告病院の腎臓内科にそれぞれ勤務していた。 被告病院の腎臓内科において,日本全国の腎不全患者の15%,特に乳幼児の患者については25%が治療を受けている。また,被告病院の泌尿器科は,小児に対する腎移植を日本で最も多く行っている。(乙B3の1・2)(2)ア Dは,平成3年10月14日(1歳8か月時)に溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症した後,平成6年ころから腎機能が悪化し,遅くとも平成9年には慢性腎不全と診断されて,その治療のため,同年9月16日,被告との間で診療契約を締結して被告病院に入院し,同月24日(7歳時),腹膜透析(CAPD)を開始し,平成11年2月24日,原告Bをドナーとして生体腎移植手術(以下「本件腎移植手術」という。)を受けた。 Dは,本件腎移植手術後,免疫抑制療法下においてEBウイルス感染に関連した移植後リンパ球 始し,平成11年2月24日,原告Bをドナーとして生体腎移植手術(以下「本件腎移植手術」という。)を受けた。 Dは,本件腎移植手術後,免疫抑制療法下においてEBウイルス感染に関連した移植後リンパ球増殖性疾患(PTLD)を発症して,消化管潰瘍及び消化管穿孔(小腸穿孔)を惹起し,出血及び敗血症から多臓器不全に陥って,同年7月27日に死亡した(以下の月日は,特に断らない限り,平成11年の月日である。)。 イ被告病院におけるDの診療経過の概要は,次の事実を加えるほか,別紙診療経過一覧表の「年月日(日時)」,「診療経過(入通院状況・主訴・所見・診断)」,「検査・処置」欄記載のとおりである(ただし,下線を付した部分を除く。)。 5月15日に,同月11日実施の血液検査の結果が報告され,EBウイルス抗体価の陽転化があり,DがEBウイルスに初感染したことが判明した。 (3) 本件で前提となる医学的知見は,別紙医学的知見のとおりである。 2 原告らの主張(1) タクロリムスの血中濃度の管理義務違反アタクロリムスは,感染症によるPTLDの発症の危険性を高めるものであって,特に小児の臓器移植後のEBウイルスによるPTLDが高い確率で発生するから,免疫抑制の必要性との兼ね合いで投与量を調整する必要がある。 被告は,Dについて,タクロリムスを経口投与していた4月26日(移植後8週間以降に当たる検査日)から5月20日までの間はその血中濃度を5ないし10ng/mlに,タクロリムスを静注していた6月7日以降はその血中濃度を10ないし15ng/mlにそれぞれコントロールすべき義務を負っていた。 しかるに,被告は,タクロリムスの血中濃度の適切なコントロールを怠った。 イ被告がタクロリムスの血中濃度のコントロールを適切に行っていれば,度を超した免疫抑制が進むことはなく,E 義務を負っていた。 しかるに,被告は,タクロリムスの血中濃度の適切なコントロールを怠った。 イ被告がタクロリムスの血中濃度のコントロールを適切に行っていれば,度を超した免疫抑制が進むことはなく,EBウイルスによるPTLDの発症及び進展も生じず,Dが死亡することはなかった。 なお,仮に死亡との因果関係が断定できないとしても,適切な診療をうける機会を喪失した(期待権侵害)。 (2) 5月31日時点における義務違反ア入院させて経過観察をすべき義務の違反腎移植後は,免疫抑制剤の投与等のため,重篤な感染症を発症する危険性がある。 Dは,本件腎移植手術を受けた後,5月15日,EBウイルスに初感染していることが判明していたほか,被告病院に対し,同月29日に3回,同月30日に1回,それぞれ腹痛がある旨の連絡をした。 よって,被告は,Dが同月31日に被告病院の外来を受診した際,入院させて,経過観察をすべき義務があった。しかるに,被告はこれを怠った。 イ義務違反と結果との因果関係被告が5月31日時点でDを入院させて経過観察を実施していれば,PTLDを診断して,タクロリムスの中止又は大幅な減量をするとともに,抗ウイルス剤を投与することができて,Dの死亡を回避することができた。 なお,仮に死亡との因果関係が断定できないとしても,適切な診療を受ける機会を喪失した(期待権侵害)。 (3) 6月19日時点における義務違反ア薬剤の調整義務違反(ア) 下記①ないし⑦に照らすと,被告は,6月19日時点において,DがEBウイルス感染によるPTLDを発症していると診断できた。 ① 5月ないし7月当時,臓器移植後にタクロリムスの投与を受けた小児患者についてEBウイルスによるPTLDが高い確率で発症することが既に報告されており,医師の間にもこれが広く知れ渡っていた。 ② 本 ① 5月ないし7月当時,臓器移植後にタクロリムスの投与を受けた小児患者についてEBウイルスによるPTLDが高い確率で発症することが既に報告されており,医師の間にもこれが広く知れ渡っていた。 ② 本件腎移植手術前の時点では,ドナーである原告BはEBウイルスが陽性で,レシピエントであるDはこれが陰性であったところ,本件腎移植手術後の5月11日にDについて実施された血清の検査の結果,同月15日,陽性であることが報告され,DがEBウイルスに初感染したことが明らかになった。 ③ 本件腎移植手術後のDの腹部症状等の原因について,J病院では,EBウイルス感染によるものであることを疑っていた。そして,J病院がそのように疑ったのは,被告病院からEBウイルス感染が原因である可能性があると指摘されたからであった。よって,被告病院も,当然,Dの腹部症状等の原因がEBウイルス感染による可能性があることを認識していたといえる。 ④ EBウイルスに伴うPTLDについて,日本においては主に消化管に潰瘍性病変を形成する例が多いと報告されているところ,Dには,被告病院に入院する前から入院中にかけて常に消化器症状が見られた。 ⑤ PTLDは,一般的に,発熱,倦怠感及び体重減少等の非特異的な症状として発症することが多いと報告されているところ,Dには発熱,顔色不良,衰弱化等の兆候が常に見られた。 ⑥ Dのタクロリムス血中濃度は,6月19日時点においても,10ng/mlをはるかに超えていた。 ⑦ 同月18日,DについてEBウイルス陽性の検査結果が判明した(検査実施は同月12日)。 他方,同月19日,DについてCMウイルス陰性の検査結果が判明した(検査実施は同月12日)。 (イ) 被告は,上記(ア)のとおり,DがPTLDを発症していると診断できたのであるから,下記①及び②に照らすと 同月19日,DについてCMウイルス陰性の検査結果が判明した(検査実施は同月12日)。 (イ) 被告は,上記(ア)のとおり,DがPTLDを発症していると診断できたのであるから,下記①及び②に照らすと,タクロリムス血中濃度が15ng/ml以下になるよう,タクロリムスの中止又は大幅な減量をするとともに,抗ウイルス剤を投与すべき義務があった。しかるに,被告はこれを怠った。 ① 5月ないし7月当時,タクロリムスの使用法が確立されつつあり,PTLDの発症を回避するためにタクロリムスの投与量の調整が非常に重要であるとされていた。 ② タクロリムスを減量すれば,拒絶反応を起こして移植腎が廃絶する危険性があるが,6月19日時点では,PTLDによる生命への危険が切迫していたのであるから,タクロリムスの血中濃度のコントロールを最優先する必要があった。 イ検査義務違反仮に上記アの義務違反が認められないとしても,上記ア(ア)①ないし⑦に照らすと,EBウイルス感染によるPTLD発症を疑うことができたのであるから,これを診断すべく,6月19日時点において,PCR法又はISH法による検査を実施すべきであった。これを実施していれば,その検査結果(EBウイルスによるPTLD発症の事実)が,遅くとも同月24日には判明したはずであるから,その時点で直ちにタクロリムスの中止又は大幅な減量及び抗ウイルス剤の投与をすべき義務があった。 しかるに,被告は,これらを怠った。 ウ義務違反と結果との間の因果関係上記ア又はイの各時点から,直ちに,タクロリムス血中濃度が15ng/ml以下になるよう,タクロリムスの中止又は大幅な減量をするとともに,抗ウイルス剤を投与していれば,Dが死亡することはなかった。 なお,仮に死亡との因果関係が断定できないとしても,適切な診療を受ける機会を喪失した( う,タクロリムスの中止又は大幅な減量をするとともに,抗ウイルス剤を投与していれば,Dが死亡することはなかった。 なお,仮に死亡との因果関係が断定できないとしても,適切な診療を受ける機会を喪失した(期待権侵害)。 (4) 6月24日時点における義務違反ア薬剤の調整義務違反上記(3)ア(ア)①ないし⑦及び下記⑧ないし⑫に照らすと,被告は,6月24日時点において,DがEBウイルス感染によるPTLDを発症していると診断できた。したがって,被告は,タクロリムス血中濃度が15ng/ml以下になるよう,タクロリムスの中止又は大幅な減量をするとともに,抗ウイルス剤を投与すべき義務があった。 ⑧ Dのタクロリムス血中濃度は,投与量を減らしているにもかかわらず,同月19日に16.6ng/ml,同月21日に18.4ng/ml,同月22日に19.0ng/mlと上昇し,同月24日においても10ng/mlをはるかに超えていて,安心できる状態にはなかった。 ⑨ 同月24日,DについてEBウイルス陽性の検査結果が判明した(検査実施は同月19日)。 ⑩ 同月24日,DについてCMウイルス陰性の検査結果が判明した(検査実施は同月19日)。 ⑪ 同月24日のカルテに「上部消化管の粘膜病変は説明不能!!」との記載があり,遅くともこの時点でCMウイルス感染以外の可能性を強く疑う必要性があった。 ⑫ 同月24日当時,Dの腹部はいわゆるカエル腹のように腫れていた。 イ検査義務違反仮に,上記アの義務違反が認められないとしても,上記(3)ア(ア)①ないし⑦及び上記ア⑧ないし⑫に照らすと,EBウイルス感染によるPTLD発症を疑うことができたのであるから,これを診断すべく,6月24日の時点において,PCR法又はISH法による検査を実施すべきであった。これを実施していれば,その検査 ,EBウイルス感染によるPTLD発症を疑うことができたのであるから,これを診断すべく,6月24日の時点において,PCR法又はISH法による検査を実施すべきであった。これを実施していれば,その検査結果(EBウイルスによるPTLD発症の事実)が遅くとも同月29日には判明したはずであるから,その時点で直ちにタクロリムスの中止又は大幅な減量及び抗ウイルス剤の投与をすべき義務があった。 しかるに,被告は,これらを怠った。 ウ義務違反と結果との間の因果関係上記ア又はイの各時点から,直ちに,タクロリムス血中濃度が15ng/ml以下になるよう,タクロリムスの中止又は大幅な減量をするとともに,抗ウイルス剤を投与していれば,Dが死亡することはなかった。 なお,仮に死亡との因果関係が断定できないとしても,適切な診療を受ける機会を喪失した(期待権侵害)。 (5) 説明義務違反ア説明義務違反(腎移植について)腎移植患者に対する説明は,患者に腎移植が必要と判断されたとき(移植希望登録時)と腎提供があって腎移植の実施が可能となったときの2段階においてなされるべきである。 まず,被告は,腎移植が予定される患者の対象としてDがリストアップされた平成10年4月ころまでに,原告らに対し,①腎移植には腎の提供者が必要であること,生体腎移植と死体腎移植があること等の腎移植の一般的事項,②腎移植の成績,③拒絶反応の病態,④免疫抑制法,⑤腎移植実施までに必要な検査及び手続,⑥腎移植後の日常生活,特に,現在の透析療法との違いや長期の展望,⑦ドナーの安全性及び危険性(合併症)について説明すべき義務があった。 次に,被告は,腎移植を実施する際,すなわち,同年12月以降,原告らに対し,①ビデオ等の供覧による腎移植のあらまし,②腎移植までの検査,処置及び準備の手順及び内容,③腎移植手 すべき義務があった。 次に,被告は,腎移植を実施する際,すなわち,同年12月以降,原告らに対し,①ビデオ等の供覧による腎移植のあらまし,②腎移植までの検査,処置及び準備の手順及び内容,③腎移植手術の内容,手術中のアクシデント,輸血の必要性,④腎移植手術後に予想される経過・合併症及びそれに対する対応,⑤拒絶反応の症状,発症時期,ささいなことでも前日や前と違った気分や症状があれば必ず主治医に報告すること,⑥免疫抑制剤の種類,作用及び副作用並びに服用の仕方,⑦免疫抑制剤が大量に投与される移植直後から3か月くらいまでは細菌感染症や重篤なウイルス感染症に罹りやすく,死亡率も高いので厳重な注意が必要であること,⑧腎移植後の長期成績を左右する諸事項,⑨腎移植をした後は腹膜透析を再開できなくなる危険性があり,その場合は死亡する危険性が高いことついて説明すべき義務があった。 しかるに,被告は,かかる説明義務を怠り,必要な説明を行わなかった。 なお,本件で特に問題であるのは,腎移植手術に関するマイナス面ないしリスク(免疫抑制療法下での感染症等の合併症等)についてはほとんど説明を受けていないことである。一般的形式的にマイナス面に触れていても,すぐにそれを打ち消すような言い方をしていれば,その件についてはマイナス面を述べていないのに等しく,医師が「大丈夫」と言えば,安全だと思うのが当然であるから,説明義務違反となる。 イ説明義務違反(ドナーについて)被告は,ドナーである原告Bに対し,腎移植手術の必要性,緊急性,危険性,臓器を取り出すことによるドナーの身体及び生活への影響等について説明すべき義務があった。しかるに,被告は,かかる説明義務を怠り,必要な説明を行わなかった。 ウ説明義務違反と結果との間の因果関係原告らは,被告病院の医師から強力に腎移植を勧めら の影響等について説明すべき義務があった。しかるに,被告は,かかる説明義務を怠り,必要な説明を行わなかった。 ウ説明義務違反と結果との間の因果関係原告らは,被告病院の医師から強力に腎移植を勧められ,他方,腎移植の危険性等について説明がなかったため,腎移植を受ける以外に選択肢はないものと考え,腎移植に同意するに至った。原告らは,もともと腎移植を希望しておらず,透析開始後1年目で腎移植を急ぐ必要性がなかっただけでなく,家庭において,1歳の子供を抱え,中学受験を控えていた長男,小学校入学を控えていた次女がいたため,被告病院の医師から必要な説明を受けていれば,腎移植に同意することはなかった。原告らが同意しなければ,本件腎移植手術が行われることはなく,Dが死亡することもなかった。 また,原告Bは,上記イのような説明を受けていれば,自己の腎臓の片方を提供することはなかった。 なお,仮に,Dの死亡ないし原告Bの腎臓の提供との因果関係を断定することができないとしても,説明義務違反それ自体による権利利益の侵害がある。 (6) 損害ア Dに生じた損害① 逸失利益 2831万3174円基礎となる収入を年345万3500円(平成11年の賃金センサスによる女子労働者学歴年齢計の年収),労働能力喪失期間を18歳から67歳までの49年(ライプニッツ係数11.712),生活費控除率30パーセントとして計算。 ② 慰謝料 2500万円第1次的には死亡による慰謝料であり,第2次的には期待権侵害又は説明義務違反自体による慰謝料である。 ③ 葬儀費用 120万円イ原告Bに生じた慰謝料 1000万円第1次的には,腎臓提供を余儀なくされ,自己の腎臓の片方を失ったことによる慰謝料であり,第2次的には説明義務違反自体による慰謝料である。 ウ弁護士費用 871万3 Bに生じた慰謝料 1000万円第1次的には,腎臓提供を余儀なくされ,自己の腎臓の片方を失ったことによる慰謝料であり,第2次的には説明義務違反自体による慰謝料である。 ウ弁護士費用 871万3174円(原告Aにつき385万6587円,原告Bについて485万6587円) 3 被告の主張(1) 上記2(1)(タクロリムスの血中濃度の管理義務違反)について腎移植手術後のタクロリムスの目標血中濃度に関しては,ガイドラインやそれに準じるような一般的な基準はない(ただし,移植治療にとって免疫抑制療法は必須であって,移植後早期にタクロリムスの血中濃度を10ng/ml以下に下げると,かえって拒絶反応を惹起する危険性を相当に高める結果になるので,注意が必要である。)。 よって,タクロリムスの血中濃度のコントロールについて,原告らが主張するような義務はない。 なお,被告は,タクロリムスの血中濃度を見ながら段階を踏んでその投与量を減らしており,拒絶反応に留意しながら自ら目標とする血中濃度を10ないし15ng/mlに設定し,6月23日ころからはほぼこの目標値を達成しているのであって,血中濃度の管理を怠っていたという事実はない。 また,Dは,タクロリムスを実際に減量しても,その反応性が良くなく,症状が改善することがなかったのであるから,より積極的に減量をしていても結果に違いが生じることはなかったといえる。よって,結果との間に因果関係もない。 (2) 上記2(2)(5月31日時点における義務違反)についてア入院させて経過観察をすべき義務の違反についてDが5月31日に被告病院を外来受診した際,腹部の激痛や圧痛,筋性防御等の特別な所見はなく,腹部のエックス線検査及び生化学血液検査の結果からも入院が必要な状況にはなかった。また,Dの症状は風邪を含むウイルス性の腸 被告病院を外来受診した際,腹部の激痛や圧痛,筋性防御等の特別な所見はなく,腹部のエックス線検査及び生化学血液検査の結果からも入院が必要な状況にはなかった。また,Dの症状は風邪を含むウイルス性の腸炎に一致するものであると考えられたため,一般感冒薬及び抗生剤を処方し,自宅で安静にして経過を観察して何かあれば連絡するよう指示したものである。 かかる状態のDを直ちに入院させて経過観察をすべき義務はない。 イ義務違反と結果との間の因果関係について5月31日当時,Dの症状については風邪等のウイルス性感染が疑われたこと,腹部の腫瘤や体表面のリンパ節腫脹等のPTLDに比較的特徴的な外部所見が認められなかったこと,下血,タール便の出現等の消化管潰瘍を疑わせる所見もなかったことに照らすと,同日直ちに入院させていたとしても,PTLDを診断することはできず,免疫抑制剤の減量や抗ウイルス剤の投与という処置がとられることはない。 よって,原告ら主張の義務違反と結果との間に因果関係はない。 (3) 上記2(3)(6月19日時点における義務違反)についてア薬剤の調整義務違反について(ア) 下記①ないし④に照らすと,被告は,DのPTLDの発症を疑ったり診断することはできなかったというべきである。 ① EBウイルスは,大半の者が感染する常在ウイルスであり,免疫抑制下で感染しても,通常は感冒様症状で終了し,感染症状は軽微であることがほとんどであり,EBウイルス感染はPTLD発症に直結するものではない(EBウイルス抗体価検査が陽性を示していても,PTLDの診断にはつながらない。)。 ② Dの場合,PTLDに比較的特徴的なリンパ節の腫脹や腫瘤性病変等が認められず,消化管のみに症状が限局したPTLD(GI-PTLD)であるが,平成11年6月当時,GI-PTLDについては,日 )。 ② Dの場合,PTLDに比較的特徴的なリンパ節の腫脹や腫瘤性病変等が認められず,消化管のみに症状が限局したPTLD(GI-PTLD)であるが,平成11年6月当時,GI-PTLDについては,日本国内において報告例はなく,診断が難しいものであった。 ③ PTLDの診断は,組織内に感染リンパ球の浸潤を証明することであるが,Dの場合,繰り返し行った内視鏡生検ではいずれもそれを認めることができなかったのであり(最終的な確定診断は,7月18日で,同月11日の開腹手術時に採取した腸管穿孔部位の腸管壁全層標本検査の結果により粘膜下層及び筋層に強いリンパ球浸潤が認められたことによる。),消化管の潰瘍をもってPTLDの発症を疑うことはできない。 ④ 発熱,腹痛,下痢等の臨床症状は,非特異的であり,一般のウイルス感染にも共通して認められるものであるし,顔色不良や衰弱等の臨床症状もPTLDに直結するものではないから,これらからPTLDを疑うことはできない。 (イ) 下記①ないし③に照らすと,タクロリムスの中止又は大幅な減量をすべき義務があったとはいえない。 ① 平成11年当時,PTLDについて,免疫抑制剤の減量や抗ウイルス剤の積極的投与が一般的な治療方針として定められていたわけではない。 ② 免疫抑制剤を中止して急性拒絶反応が起きた場合,移植腎の廃絶に至るだけでなく,PTLDの治療とともに拒絶反応の治療をも同時に行う必要が生じる。また,腎機能が低下すれば,抗ウイルス剤などの治療薬の投与量の調節が難しくなり,副作用の発現頻度も高くなるといった弊害が生じる。そして,Dの場合のように経口摂取が困難で全身状態の不良な状態の患者について,血液透析,腹膜透析による腎不全治療を行うことは,患者への負担を更に増大させることになる。 ③ タクロリムスの血中濃度について て,Dの場合のように経口摂取が困難で全身状態の不良な状態の患者について,血液透析,腹膜透析による腎不全治療を行うことは,患者への負担を更に増大させることになる。 ③ タクロリムスの血中濃度について,10ng/mlを超えないようにすべきであるといったような一般的な基準は存在しない。 イ検査義務違反について(ア) 最近,real-timePCR法によるEBウイルスの判定量法が開発され,PTLDの早期診断が可能となりつつあるが,平成11年当時,EBウイルス抗原に対するPCR検査は,確立された一般的な検査ではなく,定性検査(陽性・陰性の判別)のみ可能なものであった。そして,このPCR法による検査を行えば,EBウイルス感染が判明するが,EBウイルス感染がPTLD発症に直結するものではないことからすると,PCR法による検査を行ったとしても,PTLDの診断が困難であったことに変わりはない。 よって,PCR法による検査を実施すべき義務があったとはいえない。 (イ) 平成11年当時,PTLDの診断は,リンパ節や腫瘤性病変の生検による組織学的診断以外に確定診断ないし有力な補助診断の方法は非常に少なかった。また,ISH法によるEBウイルス感染リンパ球の定量検査を有用とする報告はあったものの,当時は極めて特殊な検査であった(現在でもPTLDの診断に利用されている検査ではない)。被告病院の医師は,6月中旬以降,ISH法の検査が可能な施設を探したが,結果として同検査が可能な施設は見つからなかった。 よって,ISH法の検査を実施すべき義務があったとはいえない。 ウ義務違反と結果との間の因果関係について一般にPTLDの予後は良好とはいえないこと,J病院における内視鏡検査結果が得られた時点からDに対して免疫抑制剤の減量ないし中止と抗ウイルス剤の投与を行ったが, 務違反と結果との間の因果関係について一般にPTLDの予後は良好とはいえないこと,J病院における内視鏡検査結果が得られた時点からDに対して免疫抑制剤の減量ないし中止と抗ウイルス剤の投与を行ったが,治療に対する反応性は悪く,軽快することはなかったことに照らすと,原告ら主張の時点から,タクロリムスの中止又は大幅な減量をするとともに,抗ウイルス剤を投与していたとしても,Dの死亡を回避することはできなかった。 (4) 上記2(4)(6月24日時点における義務違反)についてア薬剤の調整義務違反について上記(3)アと同じ。 上記2(4)ア⑧ないし⑫の事実が加わったとしても,PTLDを診断できたとはいえない。 イ検査義務違反について上記(3)イと同じ。 ウ義務違反と結果との間の因果関係について上記(3)ウと同じ。 (5) 上記2(5)(説明義務違反)についてア説明義務違反(腎移植)について(ア) 下記(イ),(ウ)のとおり,被告は,原告らに対し,必要な説明を尽くしているから,説明義務違反はない。 原告らは,移植希望登録時と移植手術直前の2段階に分けて説明をすべき義務があるとするが,その根拠とする文献(甲B第2号証)には2段階に分けて説明をするのが適当であるという趣旨が記述されているにすぎない(なお,下記(イ),(ウ)のとおり,被告は,原告らに対し,2回にわたって説明を行っている。)。 また,腎移植をした後に,移植腎が拒絶反応によって廃絶することになれば,腹膜透析を行うための手術(カテーテル留置)が必要になるが,この手術自体は特に危険性の高いものではない。そして,治療抵抗性のある消化管に限局した型のPTLD(GI-PTLD)を発症した場合には,腹部状態の悪化により透析を再開することが困難となる可能性があるが,かかる稀少かつ複雑な経過を事 ではない。そして,治療抵抗性のある消化管に限局した型のPTLD(GI-PTLD)を発症した場合には,腹部状態の悪化により透析を再開することが困難となる可能性があるが,かかる稀少かつ複雑な経過を事前に予測することは困難である。よって,腎移植前に,移植腎廃絶後の腹膜透析を復活させる手術に死亡の危険性があることを説明すべき義務はない。 (イ) 平成10年12月ころの説明Fは,平成10年12月ころ,原告らに対し,1時間ないし1時間半にわたって,腎臓移植の治療法等について説明した。 具体的には,①腎臓移植は今日では末期腎不全に対する最良の治療法として確立していること,②腎臓移植は末期腎不全患者のほとんどすべての患者にとって適応があるが,今後のQOLの問題を考慮すると,特に人工透析を必要とする小児の患者には勧められる治療法となること,③QOLを考慮すると,移植時期は思春期前の今か思春期後が適切であること,④移植後に拒絶反応が起きる可能性があること,その頻度,それが起きた場合にはステロイド剤のパルス療法等で対応すること,⑤拒絶反応を予防するために免疫抑制薬を生涯継続して服用する必要があり,移植術後早期の時期(約6か月間)では,免疫抑制薬の投与量が多くなること,⑥免疫抑制療法の下では,感染症などの合併症が生じる可能性があること,⑦被告病院における腎臓移植後の短期及び長期成績(生着率)などについて説明した。特に,感染症については,ウイルス感染が主体で,最も危険なのは麻疹であり死亡例があること,水痘ウイルスにより間質性肺炎等の重症性肺炎に罹患して致命的になりうること,術前に全例予防接種を行っており,重症感染の頻度は少なくなっているが,注意が必要であること,強力な免疫抑制療法により,移植後ドナーからCMウイルスやEBウイルスといった持ち込み感染が増加 うること,術前に全例予防接種を行っており,重症感染の頻度は少なくなっているが,注意が必要であること,強力な免疫抑制療法により,移植後ドナーからCMウイルスやEBウイルスといった持ち込み感染が増加しており,その場合は治療が必要となることなどについて説明した。 なお,PTLDに関しては,最近報告例があるので注意が必要であると簡単に触れたが,被告病院に発症例がなく,日本での報告例もほとんどなかったことから,特に致命的な合併症としては強調しなかった。 (ウ) 平成11年2月22日の説明F及びGは,平成11年2月22日,原告らに対し,腎臓移植に関する説明を改めて行った。内容としては,Dの現在の病名・症状・治療法・予後及び腎臓移植の成功率(被告病院の成績等)のほか,腎臓移植の手術法,手術後に必要な諸注意,移植後の拒絶反応の予防及び免疫抑制療法,手術後に必要な定期的臨床諸検査等について,一通り説明した。 腎臓移植のリスクについては,移植術そのものに伴う出血,感染といった合併症の可能性,術後の大量輸液に伴う心肺機能障害(心不全,肺水腫,けいれん等),全身麻酔に伴う合併症の可能性等の術後合併症の問題,移植による急性拒絶反応が出現する可能性,免疫抑制療法を行うことによる感染症の問題(麻疹性肺炎による死亡例,重篤な感染症に罹患する可能性がないとはいえないこと,細菌感染は抗生物質で治療し,ウイルス感染は抗ウイルス剤で対処して乗り切っていくこと)を説明した。 イ説明義務違反(ドナー)についてFは,平成10年12月の時点で,原告らに対し,ドナーに関しては,手術後の経過に問題がなければ,1つの腎臓を提供しても,標準の寿命における生活において,両側腎臓のある場合と比べて通常は不利益が生じることはない旨説明した。 また,Hは,平成11年2月22日,原告Bに対し,ド 過に問題がなければ,1つの腎臓を提供しても,標準の寿命における生活において,両側腎臓のある場合と比べて通常は不利益が生じることはない旨説明した。 また,Hは,平成11年2月22日,原告Bに対し,ドナーの腎摘出術について,手術に伴う出血,感染,肺(呼吸器)合併症等の危険性があることを説明した。また,Gは,同日,原告Bに対し,腎移植の成功率,移植される腎臓の予後に関する事項,一側の腎臓及び尿管の摘出手術,その予後並びに合併症に関する事項,検査及び手術に伴う万一の事故に関する事項について説明を行った。 原告Bは,かかる説明を受けて,腎摘出手術に承諾する旨の書面を提出した。 よって,被告は,ドナーである原告Bに対し,必要な説明を尽くしているというべきであり,説明義務違反はない。 ウ説明義務違反と結果との間の因果関係について争う。 (6) 上記2(6)(損害)について争う。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実に証拠(各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (1) Dが被告病院を受診するに至った経緯(乙A1,4,14)Dは,K大学医学部附属病院小児科の医師の紹介で,平成9年9月16日,CAPDの導入を目的として被告病院を受診し,同日,被告病院に入院した。原告らは,同月22日,Iから腹膜透析や腎移植に関する説明を受けた。Dは,同月24日,CAPD用のカテーテル挿入術を受け,同年11月27日に退院した。 なお,K大学医学部附属病院小児科医師の紹介状には,「紹介目的」欄に「CAPD導入,腎移殖」という記載があり,「主訴および特に連絡すべき事項」欄に「腎移植を前提としたCAPDの適応と考える。最終的には腎移植までお願いしたい。」旨の記載があった。 (2) Dが腎移植予定患者としてリストアップされ,腎移植の準備がされた び特に連絡すべき事項」欄に「腎移植を前提としたCAPDの適応と考える。最終的には腎移植までお願いしたい。」旨の記載があった。 (2) Dが腎移植予定患者としてリストアップされ,腎移植の準備がされた経緯(甲B24,25,乙A4,6,14,17,18,証人F,同G,原告A)CAPD導入後の被告病院での外来受診において,腎移植が話題となり,平成10年4月10日,原告Bから,Iに対し,Dが腎移植について嫌ではないと言っている旨が話された。 そこで,そのころ,Iは,平成11年春ころに腎移植を実施する予定の患者としてDをリストアップした。そして,腎移植の準備として,Dとドナーとなる原告Bについて組織適合抗原検査(HLA)とクロスマッチ検査を実施する必要があったため,平成10年7月10日,両検査の予約がされて,同年8月11日,両検査が実施された。なお,両検査は,早朝の空腹時に20mlの採血が必要な検査であった。 同年12月,被告病院で平成11年2月に腎移植を予定していた別の患者が手術をキャンセルしたため,Iが,原告らに対し,電話で,平成11年2月に腎移植を実施できる旨伝えたところ,原告らの希望もあって後日泌尿器科のFから腎移植についての説明がされることになった。 (3) 平成10年12月の腎移植に関する説明(甲B24,25,乙A16,証人F,原告A)Fは,その後の平成10年12月,原告らに対し,約1時間30分ほどかけて,下記①ないし⑥について説明した。 ① 慢性腎不全の小児に対する治療として,腎移植治療は,透析治療に比べ,より健常児に近い成長・発達を促し,将来の社会適応を可能とする点で,第1選択と考えられること。CAPDは,硬化性腹膜炎という合併症があるため,永遠に継続できるものではなく,5年ないし8年が限界であること。 ② 腎移植は,成人が腎提供 将来の社会適応を可能とする点で,第1選択と考えられること。CAPDは,硬化性腹膜炎という合併症があるため,永遠に継続できるものではなく,5年ないし8年が限界であること。 ② 腎移植は,成人が腎提供者となるため,通常の手術に比して大量の輸血を必要とすることから,心肺合併症や痙攣等の中枢神経合併症を引き起こす可能性があること。 ③ 術後に良好な腎機能を長期にわたって維持するためには,移植腎が機能している限り,免疫抑制療法を継続して行う必要があること。免疫抑制療法を行っても,2人に1人は拒絶反応を起こすこと。 ④ 免疫抑制療法による合併症・副作用について,通常の免疫能を有する小児ではほとんど問題とならないサイトメガロウイルスや水痘ウイルス等でも肺炎等を引き起こす例があること,麻疹の肺炎は重症で,被告病院においても死亡した患者がいること,リンパ腫のような血液系の悪性腫瘍の報告があること。免疫抑制剤は,移植後の期間の経過に従って減量されていくため,これらの合併症・副作用は,腎移植後1年以内に起こる場合が多いこと。 ⑤ 被告病院における腎移植後の長期成績は,5年,10年の生着率がそれぞれ86%,80%であること。 ⑥ 拒絶反応や合併症については,新しい治療薬の登場によって,昔に比べると随分治療効果が上がってきていること。合併症,副作用及び生着率等についてはいろいろな問題が残されているが,ひとつずつ乗り越えていくことによって,良好な長期成績と就学,就職,結婚,妊娠,出産等における生活の向上が得られること。 その上で,Fは,原告らに対し,きっといい結果が得られる,大丈夫であるとも言った。 (4) 2月22日の腎移植に関する説明等(甲B24,乙A8,9,15,16,20,証人G,原告A)Dは,1月8日,高血圧の管理及び腎移植前の検査等のため,被告病院に入 ,大丈夫であるとも言った。 (4) 2月22日の腎移植に関する説明等(甲B24,乙A8,9,15,16,20,証人G,原告A)Dは,1月8日,高血圧の管理及び腎移植前の検査等のため,被告病院に入院し,同月21日,直接的にはレニン性高血圧の治療のため,両側固有腎摘出術を受けた。 G及びFは,2月22日,原告らに対し,約1時間30分ほどかけて,Dの現在の病状,予定している腎移植の手術方法,手術後の免疫抑制剤を中心とした管理方法(免疫抑制剤の副作用,薬の飲み忘れは拒絶反応に直結すること等),移植後に必要な検査,移植成績(5年生着率は約85%であること等),腎移植に伴うリスクについて説明した。 その際,腎移植に伴うリスクについては,手術そのものに伴う出血(腎不全による貧血があるので輸血の必要性があること),創感染の問題,大人から子供への移植に伴う大量輸液による問題(心不全,肺水腫,痙攣等),拒絶反応の可能性(約50%は起こり得ること)とその対応(ステロイドパルス療法等によって約95%は治療が可能であること),細菌感染やウイルス感染,特に,サイトメガロウイルスなどいろいろなウイルスが感染症の原因となり,症状も様々で感冒症状程度からリンパ腫や肺炎等の重篤な状態にもなり得ること,それらの感染への対応(個室隔離,細菌感染に対する抗生剤,一部のウイルス感染に対しては抗ウイルス剤の投与)を説明した(乙A8の,70頁,71頁)。 さらに,Hが,同日,原告Bに対し,ドナーの腎摘出手術について,手術の名称及び方法,出血,感染,肺(呼吸器)等の合併症について説明した。また,Gも,同日,原告Bに対し,上記説明のほか,一側の腎臓及び尿管の摘出手術,その予後,合併症について説明した。(乙A8,20)(5) 本件腎移植手術の実施と術後の経過(甲B10ないし12,24, た,Gも,同日,原告Bに対し,上記説明のほか,一側の腎臓及び尿管の摘出手術,その予後,合併症について説明した。(乙A8,20)(5) 本件腎移植手術の実施と術後の経過(甲B10ないし12,24,25,乙A8,9,15,16,証人F,同G)Dは,2月24日,原告Bをドナーとして,生体間腎移植手術(本件腎移植手術)を受けた。この時,CAPD用のカテーテルが抜去された。 Gらは,術後管理として,Dに対し,タクロリムス,メドロール,ブレジニンの3種類の免疫抑制剤を併用した。タクロリムスの投与量については,当時,欧米で最もタクロリムスを用いた腎移植の経験のあるアメリカ合衆国のL大学の投与方法を参考にした。 Dは,3月31日,軽度の拒絶反応が見られたが,ステロイドパルス療法によって軽快し,その後の経過も概ね良好で,5月21日に退院した。 (6) J病院及び被告病院に入院するに至った経緯(甲A1,2,甲B24,25,乙A10,16,証人F,同G,原告A)5月29日,Dが腹痛を訴えたため,原告らが被告病院に電話連絡をしたところ,被告病院の医師から近医を受診するよう指示があったため,Dは,長野県南佐久郡M町に所在するJ病院を受診して,浣腸を受けた。 Dは,同月31日,同月29日から腹痛,全身倦怠感,微熱がある旨訴えて,被告病院を受診した。その際,腹部診察上,圧痛や筋性防御等の特別な所見はなく,腹部レントゲン写真でも便塊が多少目立つ程度でガス像に異常は認められなかった。また,血液検査所見において,末梢血白血球数が1万1310/mm3,CRPが2.0と上昇が見られたが,Fは,風邪を含むウイルス性の腸炎に一致する所見であると判断して,Dに対し,一般感冒薬及び抗生剤を処方して,自宅において経過を見るよう指示した。 Dは,その後も時々腹痛があり,6月5日には嘔吐 たが,Fは,風邪を含むウイルス性の腸炎に一致する所見であると判断して,Dに対し,一般感冒薬及び抗生剤を処方して,自宅において経過を見るよう指示した。 Dは,その後も時々腹痛があり,6月5日には嘔吐及び軟便があって,同月6日,水分も取れない状態となったので,J病院の救急外来を受診して,胃腸炎,イレウスの疑いで同病院に入院した。同月8日,上部消化管内視鏡検査の結果,胃及び十二指腸に重度のびらん性病変が見られた。 そのころ,Fは,J病院の担当医師から電話連絡を受けた際,サイトメガロウイルスによる消化管潰瘍を疑って,タクロリムスを静注で0.06mg/kg/日(通常の初期投与量の60パーセント)と減量した上で投与することとサイトメガウイルスに有効な抗ウイルス剤であるガンシクロビルを投与することなどを指示した。 J病院は,ウイルス感染等を疑って治療を行ったが,腹痛等の症状は改善せず,腎移植後のタクロリムスのコントロールや合併症等の治療経験がなかったため,同月12日,Dを被告病院に転院させた。 (7) 6月12日から7月27日までの被告病院における診療経過(乙A11,15,16,乙B11,証人F,同G)ア被告病院の医師は,Dが転院してきた後,抗潰瘍剤タガメットの投与,貧血に対する輸血や鎮痛剤ペンタジンの投与等の対症療法を実施するとともに,J病院において認められた多発性潰瘍の原因としてウイルス,細菌,真菌による感染症を強く疑って,その原因を検索するための検査(各種ウイルス抗原・抗体価検査,血液・便培養検査等)を行い,さらに,ガンマグロブリン及び抗生剤の投与を開始した。 ウイルス感染症の可能性については,比較的頻度が高く報告例も多いサイトメガロウイルスによる感染症を一番に疑ったが,当時比較的症状も緩和していたと判断したこと及び原因ウイルスが同定されてい 開始した。 ウイルス感染症の可能性については,比較的頻度が高く報告例も多いサイトメガロウイルスによる感染症を一番に疑ったが,当時比較的症状も緩和していたと判断したこと及び原因ウイルスが同定されていなかったことから,骨髄抑制,肝・腎障害の副作用を考慮して,ガンシクロビルではなく,ガンマグロブリンを3日間(6月13日ないし同月15日)投与した。 もっとも,同月16日の上部消化管内視鏡検査の結果,胃・十二指腸の多発性潰瘍が持続しており,発熱や炎症反応の上昇も見られたため,同月17日からガンシクロビルの投与を開始した。 イ被告病院の医師は,Dに投与する免疫抑制剤について,ブレジニンを中止し,タクロリムスを継続して投与することとしたが,腹痛等により経口投与が困難であること,吸収のピークを作らずに安定化させることを考えて,入院当初から持続静脈投与の方法を採用した。 タクロリムス静注の通常の投与量は0.1mg/kg/日であり,Dの体重が15. 5kgであったことを考慮すると,Dに対する通常投与量は1.55mg/日であった。 被告病院の医師は,6月12日から,Dに対し,通常投与量の約3分の2である1mg/日でタクロリムスの投与を開始したが,その血中濃度の上昇,臨床症状,拒絶反応の危険性等を考慮しながら,同月14日に0.9mg/日,同月15日から0.8mg/日,同月19日から0.7mg/日,同月21日から0.6mg/日,7月1日に0.4mg/日,同月2日に0.2mg/日,同月3日から0.1mg/日に減量した(同月7日投与中止)。 なお,被告病院の医師は,タクロリムスの血中濃度につき,経口投与時のトラフ濃度(次の薬を投与する直前の濃度で,1日で最も低い血中濃度)として約10~15ng/mlを通常の目標値としていたところ,Dについては,感染症を考慮して,約5 スの血中濃度につき,経口投与時のトラフ濃度(次の薬を投与する直前の濃度で,1日で最も低い血中濃度)として約10~15ng/mlを通常の目標値としていたところ,Dについては,感染症を考慮して,約5~10ng/mlを目標値とした。そして,タクロリムスの持続静注においては,経口投与時のトラフ濃度の約1.5倍が通常の目標値であるため,Dについては約10~15ng/mlを目標値としていた。しかし,現実のタクロリムスの血中濃度は,別紙診療経過一覧表のとおりであって,全般的に,目標値より高値であった。なお,この目標値は,被告病院の医師が海外の報告(ピッツバーグの医師グループの報告等)を参考にしながら独自に設定したもので,当時,タクロリムスの血中濃度の目標値に関するガイドラインはなかった。 また,免疫抑制剤を減量すれば,それだけ拒絶反応が生じて移植腎を廃絶する危険性があった。そして,2月24日にCAPD用のカテーテルが抜去されていたこと,6月及び7月当時,Dの腹部症状が悪かったことから,その時点において,腹膜透析を再開することは困難で(血液透析も循環動態を変動させるので危険が伴った。),移植腎を廃絶すると,腎機能がないために死亡する危険性が十分あった。 ウ被告病院の医師は,サイトメガロウイルス感染症を強く疑っていたが,6月15日,サイトメガロウイルス検査(アンチゲネミア法)の結果が陰性であることが判明した。しかし,サイトメガロウイルス感染症については,サイトメガロウイルスそのものによる組織障害を呈する症例では,必ずしも陽性になるとは限らないため,サイトメガロウイルス感染症であることを否定できなかった。 他方,被告病院の医師は,同月18日,EBウイルス検査の結果が陽性であることが判明したため,EBウイルスによるPTLDの可能性を考えたが,その発症を疑 ロウイルス感染症であることを否定できなかった。 他方,被告病院の医師は,同月18日,EBウイルス検査の結果が陽性であることが判明したため,EBウイルスによるPTLDの可能性を考えたが,その発症を疑わせる表在リンパ節の腫脹は見られず,腹部長音波検査(同月20日,同月29日実施)やCT検査(同月21日,7月3日実施)においても腹腔内腫瘤やリンパ節の腫脹は見られなかったため,PTLDであると診断し,あるいは強く疑うには至らなかった。 エサイトメガロウイルスによる消化管潰瘍の場合でもPTLDによる場合でも,通常,消化管潰瘍部の生検による組織学的診断が診断の決め手となるが,6月16日実施の上部消化管内視鏡生検の結果,明らかな病原体を示唆する所見は見られなかった。また,同月22日実施の上部消化管内視鏡生検及び大腸ファイバーにおいても,明らかなリンパ球浸潤やウイルス感染は認められなかった。 しかし,同月22日実施の上部消化管内視鏡生検において採取した胃及び十二指腸粘膜組織について,PCR法によるサイトメガロウイルス検査を実施していたところ,7月2日,その結果が陰性であることが判明したため,被告病院の医師は,サイトメガロウイルス感染症はほぼ否定的であると判断した。そして,EBウイルスについてもPCR法による検査をするため,採血を行った。 7月7日実施の上部消化管内視鏡生検においても,確定診断ができる所見はなかったが,同日,7月2日に実施していたEBウイルス検査(PCR法)が陽性であることが判明した。 オ Gは,7月7日,原告らに対し,①入院後約1か月間にわたって免疫抑制剤の減量,抗ウイルス剤やガンマグロブリンの投与を行ってきたが,腹痛や発熱等の症状が持続していること,②同日の内視鏡検査においても胃から結腸まで潰瘍性病変があること,③肝移植症例であるが て免疫抑制剤の減量,抗ウイルス剤やガンマグロブリンの投与を行ってきたが,腹痛や発熱等の症状が持続していること,②同日の内視鏡検査においても胃から結腸まで潰瘍性病変があること,③肝移植症例であるが,海外における類似の症例報告(GI-PTLD)を文献検索によって発見したこと,④PTLDの原因となり得るEBウイルス感染が成立していることの総合判断から,確定診断に至っていないが,EBウイルス感染に伴う消化管潰瘍(GI-PTLD)が強く疑われ,その治療のためにはタクロリムスの投与を中止する必要があり,その場合,拒絶反応のリスクが高まることを説明した。 そして,Gは,同日,タクロリムスの投与を中止することについて原告らの了解が得られたため,これを中止した。 カ Dは,7月11日,多発性潰瘍による消化管穿孔を併発したため,緊急開腹手術を受けた。 また,同月18日,上記緊急開腹手術時に腸管穿孔部位から採取した腸管壁全層標本の病理検査の結果,粘膜下層及び筋層に強いリンパ球浸潤があることが判明し,腸管壁に限局したPTLD(GI-PTLD)であると確定診断がされた。 Dは,その後も抗ウイルス剤の投与等の治療を受けたが,出血及び敗血症から多臓器不全に陥って,同月27日に死亡した。 (8) EBウイルス及びPTLDについて(甲B1,4ないし8,13ないし23,乙A15,16,乙B10,証人F)ア腎移植後にEBウイルスに感染した場合,風邪の症状や下痢が生じることがあるが,その後に回復する例が多く,必ずPTLDを発症するものではない。 臓器移植において,新たにタクロリウムスなどの強力な免疫抑制剤が用いられるようになり,その結果,例えば,腎移植後早期の治療成績は著しく向上した。しかし,他方,ウイルス感染を中心とした日和見感染に関連する合併症の頻度は増大している。平 スなどの強力な免疫抑制剤が用いられるようになり,その結果,例えば,腎移植後早期の治療成績は著しく向上した。しかし,他方,ウイルス感染を中心とした日和見感染に関連する合併症の頻度は増大している。平成13年頃刊行された国内の医学文献に,EBウイルスによるPLTDは,移植後の感染症のなかで最も重要な感染症の一つとなっていると注目されるようになってきている,腎移植後の約0.5%~2.0%にその発生を認めるが,いったん発症すると,その治療は極めて困難であり,死亡することもまれではない,国内の報告では消化管に潰瘍性病変を形成する報告が多いとの記載がある。 しかし,平成11年6月ないし7月当時,国内では,腎移植後の免疫抑制時のEBウイルスによるPTLDの症例報告は数例に止まり,消化管に症状が限局したPTLD(GI-PTLD)については,Dの症例についての報告(甲B1号証)がされるまでは症例報告がなかった。当時,海外においては,小児腎移植,小児肝移植後の免疫抑制時のEBウイルスによるPTLDの報告がされており,小児肝移植においては,少なくとも9例のGI-PTLDの症例報告がされていた。ここで,臓器移植後の感染症の内容や頻度は,臓器によって異なり,例えば,腎移植に比べて肝移植の方が,全般的に感染症の発生率は高く,特にEBウイルスによるPTLDの発症率も高い。 被告病院の医師は,Dの症例について,平成11年6月中旬以降,国内外の文献を検索するとともに,国内の主要な移植施設であるN大学腎移植グループ,O大学腎移植グループ,P大学肝移植グループ,Q病院腎移植グループ,R大学腎移植グループ,S大学肝移植グループ等に直接連絡をして,類似症例の有無や検査・治療方法について相談をした。国内の施設からは参考になる意見を得られなかったが,同月末頃までに,海外の小児肝移 プ,R大学腎移植グループ,S大学肝移植グループ等に直接連絡をして,類似症例の有無や検査・治療方法について相談をした。国内の施設からは参考になる意見を得られなかったが,同月末頃までに,海外の小児肝移植についての文献であるが,GI-PTLDの症例報告を含む医学文献(上記(7)オ③記載の文献)を見出した。 イ EBウイルスの検査(ア) EBER-ISHEBウイルス感染の組織学的診断の方法として,EBウイルス感染細胞に存在するEBvirus-encodedRNA(EBER)をinsituhybridization法(ISH)で検出する方法がある。 しかし,ISHは,平成11年6月ないし7月当時,被告病院を含め,一般の病院において実施されている検査ではなかった。被告病院の医師は,6月ないし7月当時,ISHがPTLDの補助診断として有用であるという医師グループの報告があったため,大学病院,研究施設等にISHの検査依頼をしたが,これを実施できる施設はなかった。 なお,現在,ISHはPTLDの診断に利用されていない。 (イ) PCR検査EBウイルスのPCR検査は,平成11年6月ないし7月当時,被告病院を含め,一般の病院において実施されている検査ではなかった。被告病院がDについて実施したPCR検査は,Tという施設に依頼して行ったものであった。 平成13年以降,EBウイルス感染の早期診断に,そのDNA量を測定するreal-timePCR(polymerasechainreaction)法が有用であるとの報告がある。 上記(1)ないし(4)のうち腎移植に関する説明に係る事実の認定に反して,原告A本人は,①平成10年12月の電話の時点まで被告病院側から腎移植についての話は一切されておらず,同年4月10日にDが腎移植について嫌ではないと言ったと 植に関する説明に係る事実の認定に反して,原告A本人は,①平成10年12月の電話の時点まで被告病院側から腎移植についての話は一切されておらず,同年4月10日にDが腎移植について嫌ではないと言ったと原告Bが話したことはない,②同年12月のFの説明では,腎移植に伴うリスク(免疫抑制療法下の感染症等)についての説明はなく,この点について原告らが質問しても,大丈夫と言うだけであった,③平成11年2月22日のG及びFの説明でも,腎移植に伴うリスク(免疫抑制療法下の感染症等)についての説明はなかったなどと供述し,原告らの陳述書(甲B24,25)中にも同旨の記載がある。 しかしながら,上記①の点についてみると,カルテの平成10年4月10日欄(乙A4の11頁)に原告BからDが腎移植について嫌ではないと言ったと話された旨が記載されていること及び上記のとおり現に同年8月に腎移植の準備であるHLAやクロスマッチ検査がされていることに照らし,また,Iの陳述書(乙A14)に照らして,上記の供述,陳述記載は採用することができない。上記②及び③の点についてみても,腎移植のように重大な手術に際して,これに伴うリスク(免疫抑制療法下の感染症等)につき,医師側が説明しないとか,わざわざ質問までした患者側が,単に大丈夫と言われて,そのまま了承するなどということは,容易に想定し難く,カルテの記載(乙A8の62頁,70頁,71頁)並びにF及びGの各証言に照らしても,上記の供述,陳述記載は採用することができない。 他に,本件全証拠を検討してみても,上記(1)ないし(8)の事実の認定を覆すに足りる証拠はない。 2 タクロリムスの血中濃度の管理義務違反(1) 前記前提事実(3)(別紙医学的知見2(3)イ,(5),3(1))のとおり,タクロリムスは,免疫抑制剤であって,患者の抵抗 覆すに足りる証拠はない。 2 タクロリムスの血中濃度の管理義務違反(1) 前記前提事実(3)(別紙医学的知見2(3)イ,(5),3(1))のとおり,タクロリムスは,免疫抑制剤であって,患者の抵抗力を減弱するものであるから,その投与に当たっては,定められた用法・用量に従うべきである。もっとも,感染症を発症していると疑われる場合においては投与量を減じて抵抗力の回復を図るなど,患者の症状に応じて投与量を増減する必要があるといえる。 この点,前記前提事実(3)(別紙医学的知見2(3)イ)のとおり,タクロリムス(商品名プログラフ注射液5mg)の腎移植における用法・用量は,通常,1回0.1mg/kgを生理食塩液又はブドウ糖注射液で希釈して,24時間かけて点滴静注するとされている。 しかして,上記1(6)のとおり,Fは,DがJ病院に入院していた際,同病院の担当医師から電話連絡を受け,サイトメガロウイルス感染による消化管潰瘍を疑って,タクロリムスを静注で0.06mg/kg/日(通常の初期投与量の60パーセント)投与するよう指示した。また,上記1(7)イのとおり,Dの体重が15.5kgであったことを考慮すると,Dに対する通常投与量は1.55mg/日となるところ,被告病院の医師は,Dが被告病院に入院した6月12日から,Dに対し,感染症を考慮して,通常投与量の約3分の2である1mg/日でタクロリムスの投与を開始した。そして,被告病院の医師は,血中濃度の上昇,臨床症状,拒絶反応の危険性等を考慮しながら,同月14日に0.9mg/日,同月15日から0.8mg/日,同月19日から0.7mg/日,同月21日から0.6mg/日,同年7月1日に0.4mg/日,同月2日に0.2mg/日,同月3日から0.1mg/日に減量した(同月7日投与中止)。 このように,被告病院の医師は 日から0.7mg/日,同月21日から0.6mg/日,同年7月1日に0.4mg/日,同月2日に0.2mg/日,同月3日から0.1mg/日に減量した(同月7日投与中止)。 このように,被告病院の医師は,感染症を疑って,被告病院への入院当初からタクロリムスを通常の用量よりも減じて投与していたのであり,その投与方法が不適切であったということはできない。 (2) なお,原告らは,タクロリムスを経口投与していた4月26日(移植後8週間以降に当たる検査日)から5月20日までの間は,その血中濃度を5ないし10ng/mlに,タクロリムスを静注していた6月7日以降は,その血中濃度を10ないし15ng/mlにコントロールすべき義務を負っていたと主張する。 しかし,上記1(7)イのとおり,タクロリムスの血中濃度の目標値について標準的なガイドラインはないのであるから,原告ら主張のような義務を認めることはできない。タクロリムスの現実の血中濃度が被告病院の設定した目標値よりも高値のことがあった点についても,タクロリムスの血中濃度の目標値について標準的なガイドラインがない以上,それを捉えて注意義務違反と解することはできない。 さらに,原告らは,タクロリムスの血中濃度の管理義務違反の前提として,小児の臓器移植後にEBウイルスによるPTLDが高い確率で発生することを挙げ,甲B22,23には,移植後タクロリムスの血中濃度(トラフ値)を下げることによってPTLDの発症率を下げることができたとの海外の論文の紹介があるが,その論文が前提とする移植臓器,症例数,症例の詳細等について把握することが困難であるし,その論文の発表が平成11年12月であることなどからすると,これらによって,上記標準的なガイドラインと同視し,原告らの主張に反する血中濃度の管理を被告病院の注意義務違反と断定する とが困難であるし,その論文の発表が平成11年12月であることなどからすると,これらによって,上記標準的なガイドラインと同視し,原告らの主張に反する血中濃度の管理を被告病院の注意義務違反と断定することはできない。 3 5月31日時点における義務違反について前記前提事実(3)(別紙医学的知見2(5),3(1))のとおり,腎移植後は,免疫抑制に伴う宿主の抵抗力減弱のため,移植後3~6か月以内にウイルス等を原因とする感染症を発症することが多く,厳重な経過観察が必要となる。 よって,患者の症状等に照らして,入院が必要と判断される場合には,入院させた上で,経過観察をして,必要な検査・治療を実施すべきであるといえる。 この点,前記前提事実(2)イのとおり,5月15日には,同月11日実施の血液検査の結果が報告され,EBウイルス抗体価の陽転化があり,DがEBウイルスに初感染したことが判明していた。そして,上記1(6)のとおり,Dは,同月29日,腹痛を訴えて,被告病院に電話連絡をした後,J病院を受診して,浣腸を受け,同月31日には,同月29日から腹痛,全身倦怠感,微熱がある旨訴えて,被告病院を受診した。 しかし,上記1(8)のとおり,腎移植後にEBウイルスに感染した場合,風邪の症状や下痢が生じることがあるが,その後に回復する例が多く,必ずPTLDを発症するものではないし,本件当時,国内では,EBウイルスによるPTLDの発症例の報告は数例しかなく,消化管に症状が限局したPTLD(GI-PTLD)の報告例は全くなかった。また,上記1(6)のとおり,Dについて,同月31日,腹部診察上,圧痛や筋性防御等の特別な所見はなく,腹部レントゲン写真でも便塊が多少目立つ程度でガス像に異常は認められなかった。さらに,血液検査所見において,末梢血白血球数が1万1310/mm3, ,腹部診察上,圧痛や筋性防御等の特別な所見はなく,腹部レントゲン写真でも便塊が多少目立つ程度でガス像に異常は認められなかった。さらに,血液検査所見において,末梢血白血球数が1万1310/mm3,CRPが2.0と上昇が見られたところ,腹部所見や腹部レントゲン写真は,消化管に重篤な疾病が発症していることを窺わせる所見に乏しく,他方,血液検査の結果は,風邪を含むウイルス性の腸炎に一致する所見であった。 このような,当時の国内でのEBウイルスによるPTLDの発症例の報告の状況と,当時のDの症状が上記の程度に止まることを総合すると,この時点で,Dについて,EBウイルス感染によるPTLDが発症するなど,重篤化することを予見することは困難であったから,入院させた上で検査・治療を行う必要があったと認めることはできず,他にそのような必要性を肯定するだけの事情を認めるに足りる証拠はない。 よって,同月31日時点で,被告において,Dに対し,被告病院に入院させた上,経過観察をすべき義務があったとはいえない。 4 6月19日時点における義務違反について(1) 薬剤の調整義務違反についてこの点に関する原告らの主張は,被告において,6月19日時点で,DがEBウイルスによるPTLDを発症していることを診断できたことを前提とするものであるが,同日時点において,そのような診断はできなかったというべきであり,その理由は次のとおりである。 ア確かに,前記前提事実(3)(別紙医学的知見3(3))のとおり,PTLDは,EBウイルス感染に関連する臓器移植後の重篤な合併症とされているところ,前記前提事実(2)(診療経過一覧表)のとおり,5月15日には,血液検査の結果が報告され,EBウイルス抗体価の陽転化があり,DがEBウイルスに初感染したことが判明し,6月18日には,EBウイル ろ,前記前提事実(2)(診療経過一覧表)のとおり,5月15日には,血液検査の結果が報告され,EBウイルス抗体価の陽転化があり,DがEBウイルスに初感染したことが判明し,6月18日には,EBウイルスの検査結果が陽性,サイトメガロウイルスの検査結果が陰性であるとの報告がされた。 イしかし,上記1(8)アのとおり,腎移植後にEBウイルスに感染した場合,風邪の症状や下痢が生じることがあるが,その後に回復する例が多く,必ずPTLDを発症するものではないし,PTLDの発症を疑わせる表在リンパ節の腫脹は見られなかった。また,上記1(7)ウのとおり,サイトメガロウイルス感染症については,サイトメガロウイルスそのものによる組織障害を呈する症例では,必ずしも陽性になるとは限らないため,サイトメガロウイルス感染症による消化管潰瘍であることを否定できなかった。 そして,前記前提事実(3)(別紙医学的知見3(3))及び上記1(7)エのとおり,PTLDは,腫瘍化リンパ球又は異形化リンパ球の異常増殖が生じたもので,最終的には,問題となる組織の中にかかるリンパ球が存在することを証明できれば,PTLDを診断することができ,消化管潰瘍部の生検による組織学的診断が診断の決め手となるが,同月16日に実施した上部消化管内視鏡生検の結果,明らかな病原体を示唆する所見は見られなかった。 また,上記1(8)アのとおり,平成11年6月当時,腎移植後のEBウイルスによるPTLDの国内での症例報告は多くなく,腎移植後のEBウイルスによるGI-PTLDについては,Dの症例についての報告(甲B1号証)がされるまでは,国内において報告がなく,海外で肝移植後の症例報告があるのみであった。さらに,被告病院の医師は,Dの症例について,6月中旬以降,国内外の文献を検索するとともに,国内の主要な移植施 )がされるまでは,国内において報告がなく,海外で肝移植後の症例報告があるのみであった。さらに,被告病院の医師は,Dの症例について,6月中旬以降,国内外の文献を検索するとともに,国内の主要な移植施設であるN大学腎移植グループ,O大学腎移植グループ,P大学肝移植グループ,Q病院腎移植グループ,R大学腎移植グループ,S大学肝移植グループ等に直接連絡をして,類似症例の有無や検査・治療方法について相談したが,参考になる意見はなかった。 ウ上記イのような諸点に照らすと,DのEBウイルスの感染や臨床症状からは,直ちにPTLDの発症を診断することはできず,他にこれを診断できたと認めるだけの事情があったと認めるに足りる証拠はない。 (2) 検査義務違反について上記1(8)イ(ア)のとおり,EBウイルスについてのISH及びPCR検査は,平成11年6月ないし7月当時,被告病院を含め,一般の病院において実施されている検査ではなかった。なお,被告病院の医師は,平成11年6月ないし7月当時,ISHがPTLDの補助診断として有用であるという医師グループの報告があったため,大学病院,研究施設等にISHの検査依頼をしたが,これを実施できる施設はなかったところでもある。 よって,6月19日時点において,被告にISHやPCR検査を実施すべき義務があったということはできない。 (3) なお,原告らの主張には,EBウイルスによるPTLDは予後が不良であるから,その確定診断に至らなくとも,その可能性が高い場合,あるいは,ある程度ある場合には,早期にタクロリムスの中止又は大幅な減量をすべきとの主張も含まれていると窺える。 そこで,この点について検討すると,当時,Dについては,腎移植後約3か月の時期であったから,タクロリムスの中止や大幅な減量は,免疫反応を引き起こし,腎臓を廃絶 きとの主張も含まれていると窺える。 そこで,この点について検討すると,当時,Dについては,腎移植後約3か月の時期であったから,タクロリムスの中止や大幅な減量は,免疫反応を引き起こし,腎臓を廃絶する危険があったこと,腎臓を廃絶した場合,一般的には,腹膜透析や血液透析を施さなければ,腎不全によって死亡に至るところ,Dの年齢や当時の体重からすると血液透析の実施は困難であったこと,腹膜透析を実施するには,既に腹膜透析カテーテルを抜去していたので,新たにその導入術を実施する必要があったところ,6月19日当時,Dには高熱,腹痛,炎症反応の再熱が認められ,同月22日には,IVHを挿入し,輸血も施されているなど,腹部所見を含む重篤な症状が認められたのであって,腹膜透析カテーテルの導入術や腹膜を利用しての腹膜透析が可能であったとは考えがたいことも考えると,EBウイルスによるPTLDの可能性が相当程度高くなければ,被告においてタクロリムスの中止や大幅減量をすべき義務は認められないと解される。 しかして,上記(1)で検討した各点に照らすと,被告病院において,当時,EBウイルスによるPTLDの可能性が相当程度高いと判断することはできなかったと解すべきである。 5 6月24日時点における義務違反について(1) 薬剤の調整義務違反についてこの点に関する原告らの主張は,被告が,6月24日時点で,DがPTLDを発症していることを診断できたことを前提とするものであるが,同日時点において,そのような診断はできなかったというべきであり,その理由は,上記4(1)の理由のほか,次のとおりである。 前記前提事実(2)イ(診療経過一覧表)のとおり,同月24日,Dについて,EBウイルスが陽性,サイトメガロウイルスが陰性との検査結果が判明した。 しかし,上記4(1)のとおり,EB 次のとおりである。 前記前提事実(2)イ(診療経過一覧表)のとおり,同月24日,Dについて,EBウイルスが陽性,サイトメガロウイルスが陰性との検査結果が判明した。 しかし,上記4(1)のとおり,EBウイルスの感染が直ちにPTLDの発症に繋がるものではなく,サイトメガロウイルスが陰性であったとしてもその感染を完全に否定することはできない。また,上記1(7)ウ,エのとおり,同月20日実施の腹部長音波検査や同月21日実施のCT検査においても腹腔内腫瘤やリンパ節の腫脹など一般的なPTLDに見られる所見はなく,同月22日実施の上部消化管内視鏡生検及び大腸ファイバーにおいても,明らかなリンパ球浸潤やウイルス感染は認められなかった。 このように,同月24日時点においても,DのEBウイルスの感染や臨床症状からは,直ちにPTLDの発症を診断することはできず,他にこれを診断できたと認めるだけの事情があったと認めるに足りる証拠はない。 (2) 検査義務違反について原告らの主張するISHやPCR検査の実施義務が認められないことは,上記4(2)と同様である。 (3) なお,上記4(3)で論じた点についても,6月24日当時のDの腹部や全身状態が同月19日以上に重篤であることを考えると,同様となる。 6 説明義務違反について(1) 腎移植について医師は,患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては,診療契約ないし信義則に基づき,特別の事情がない限り,患者に対し,当該疾患の診断(病名と病状),実施予定の手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容の利害得失,予後などについて説明すべき義務があるというべきである(最高裁判所平成13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)。 また,医師は,患者が,子供である場合など, の内容の利害得失,予後などについて説明すべき義務があるというべきである(最高裁判所平成13年11月27日第三小法廷判決・民集55巻6号1154頁参照)。 また,医師は,患者が,子供である場合など,自己の疾患の内容やそれに対する治療方法を的確に理解して治療方法の選択や同意をすることが期待できない場合には,緊急の場合でない限り,少なくとも,患者の家族に接触して,説明が適当であると判断できたときには,その者に対し,患者に対する治療内容等を説明して同意を得る義務を負うものというべきであり,逆に,かかる家族からの同意があれば,患者本人から同意を得る必要は必ずしもないというべきである。 この点,Dは,平成2年1月21日生まれの者で,平成10年及び平成11年当時は8,9歳の子供である一方,原告らは,Dの父母でDの受診の際に少なくともいずれかは付き添っていたと認められるから,Dの病状等について説明をする相手方として相応しいと認められる。 したがって,被告は,原告らに対し,Dの病状,実施予定の腎移植手術の内容,手術に付随する危険性,他に選択可能な治療方法があれば,その内容の利害得失,予後などについて説明すべき義務があるというべきである。 この点,F及びGが原告らに対して説明した内容は,上記1(3),(4)のとおりであって,腎移植を受けるか否かを合理的に判断するために必要な説明が尽くされ,上記説明義務の履行はされたものというべきである。 なお,原告らは,腎移植手術に関するマイナス面ないしリスク(免疫抑制療法下での感染症等の合併症等)に触れられていたとしても,他方で,担当医が「大丈夫」と述べれば,全体としてマイナス面についての説明義務違反があると主張し,確かに,前記認定のとおり,Fは「大丈夫」とも述べたようであるが,現に,マイナス面ないしリスクについて具体的な 当医が「大丈夫」と述べれば,全体としてマイナス面についての説明義務違反があると主張し,確かに,前記認定のとおり,Fは「大丈夫」とも述べたようであるが,現に,マイナス面ないしリスクについて具体的な説明をしている以上,抽象的に「大丈夫」というような肯定的な表現をしたことによって説明義務違反があると解することはできない。 (2) ドナーについてH及びGは,2月22日,原告Bに対し,腎摘出手術等について,上記1(4)のとおり説明したのであって,腎摘出手術を受けるか否かを合理的に判断するために必要な説明が尽くされたものというべきであり,この点についても説明義務違反は認められない。 7 以上によれば,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきであるから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第14部裁判長裁判官貝阿彌誠裁判官水野有子裁判官堀内元城別紙医学的知見 1 慢性腎不全(乙B2,5,7,8)(1) 慢性腎不全の治療には,透析療法と腎移植の2つの治療法があり,現在,腎移植が一番優れた治療法であるとされている。 (2) 透析療法には,血液透析と腹膜透析がある。いずれも食事,水分制限等の自己管理指導が重要となる。 ア血液透析腎臓で排除されるべき毒素と水分を人工腎臓により除去して,血液を浄化する対症療法である。1回3~5時間の透析を週に2,3回行う必要がある。 小児については,血液透析は困難とされている。 イ腹膜透析(連続携行式腹膜灌流(CAPD))腎臓で排除されるべき毒素と水分を腹腔内に注入した透析液により除去し 間の透析を週に2,3回行う必要がある。 小児については,血液透析は困難とされている。 イ腹膜透析(連続携行式腹膜灌流(CAPD))腎臓で排除されるべき毒素と水分を腹腔内に注入した透析液により除去して,血液を浄化する対症療法である。腹膜透析は,カテーテルによって透析液の注廃液を行う必要がある。 腹膜透析は血液透析よりも生理的であるが,これを長期的に使用すると,被嚢性腹膜硬化症(びまん性に肥厚した腹膜の広範な癒着により持続的,間欠的あるいは反復的にイレウス症状を呈する症候群)となり,腹膜の劣化のため,腹膜肥厚,中皮細胞脱落,イレウス及び腸管癒着を引き起こす。皮嚢性腹膜硬化症は,死亡率が高く,経口摂取ができず,長期的に経静脈栄養で管理しなければならない重篤な合併症であり,発症前に腹膜透析を中止する必要がある。 小児末期腎不全患者では,現時点において,腹膜透析は5~10年しか治療を行えない方法で,血液透析が困難なことから,乳幼児では特に早期腎移植が望まれるとされる。 2 腎移植(甲B10,30,乙B1,2,4ないし7,11,12)(1) 腎移植は,末期腎不全患者の廃絶した腎機能を腎提供者から移植した腎により置換して代行させる治療法である。腎移植は,慢性腎不全に対する確立した根治療法とされている。 腎移植には必ず腎を提供する第三者(ドナー)が必要であり,提供者が生存中の家族である場合と死の直後である場合がある。 (2) 適応腎移植は,末期腎不全患者のほとんどすべてに適応がある。ただし,現在のところ,既存抗体の陽性例,活動性の感染症,消化管出血及び悪性腫瘍等の合併症を有する者には禁忌である。 腎移植をするに当たって,ドナーと患者(レシピエント)間の組織適合性検査が重要である。 小児慢性腎不全は,成長,身体的・精神的発育,就学の面から腎移植の絶対的 等の合併症を有する者には禁忌である。 腎移植をするに当たって,ドナーと患者(レシピエント)間の組織適合性検査が重要である。 小児慢性腎不全は,成長,身体的・精神的発育,就学の面から腎移植の絶対的適応であり,成人後の予後や社会復帰という面から見ても,できるだけ早期に腎移植を実施すべきであり,そのためには,生体腎移植に対する医療者側のpositiveな考え方と献腎移植を普及させる努力が必要であるとする報告(乙B第4号証)もある。 (3) 免疫抑制剤等ア腎移植後の免疫抑制剤としては,①シクロスポリン(T細胞活性化抑制,インターロイキンⅡ産生抑制),②タクロリムス(T細胞活性化抑制,インターロイキンⅡ産生抑制),③アザチオプリン(代謝拮抗薬,リンパ球増殖抑制),④ミゾリビン(代謝拮抗薬,リンパ球増殖抑制),⑤副腎皮質ホルモン(インターロイキンⅠ産生抑制,抗炎症等)等が使用され,種々の組み合わせが行われるようになっている。 このほかにも,拒絶反応の治療薬として,ステロイド,抗リンパ球グロブリン(ALG),モノクローナル抗体等が用いられている。 イタクロリムスタクロリムス(商品名プログラフ)は,免疫抑制剤であり,腎移植等の臓器移植における拒絶反応の抑制のために用いられている。 商品名プログラフ注射液5mgの腎移植における用法・用量は,通常,1回0. 1mg/kgを生理食塩液又はブドウ糖注射液で希釈し,24時間かけて点滴静注する。 商品名プログラフカプセル0.5mgの腎移植における用法・用量は,通常,移植2日前から術後初期にかけて1回0.15mg/kgを1日2回経口投与し,以後,徐々に減量し,維持量は1日量0.06mg/kgを1日2回経口投与することを標準とするが,症状に応じて適宜増減する。タクロリムスを経口投与する場合,その吸収は一定しておら 1日2回経口投与し,以後,徐々に減量し,維持量は1日量0.06mg/kgを1日2回経口投与することを標準とするが,症状に応じて適宜増減する。タクロリムスを経口投与する場合,その吸収は一定しておらず,患者によって個人差があるので,状況に応じて血中濃度を測定して,その投与量を調節する。 なお,タクロリムスの血中濃度の目標値(ng/ml)については,次回投与直前(すなわち,血中濃度の最も低い時点)における値であるトラフ値について,腎移植後2週間が20~25,その後1か月が15~20,その後3か月が10~15,慢性期は5~9とするアメリカのピッツバーグの医師グループの報告がある。 (4) 拒絶反応移植特有の合併症で,発熱,尿量減少,腎機能低下及び移植腎腫大が主要症状であり,次の①ないし③のタイプに分けられる。 ① 超急性拒絶反応レシピエント血中にドナーMHC抗原に対する既存抗体があるときに発症する。血流再開後48時間以内に移植腎は拒絶される。 ② 急性拒絶反応最も一般的な拒絶反応で,主としてTリンパ球による細胞性免疫反応である。 移植後1週間から3か月後くらいまでに頻発するが,その後も移植腎がある限りいつでも発症し得る。間質血管周囲への単核円形細胞浸潤が特徴的で,移植腎は大きく腫大する。尿量は減少し,血清クレアチニン値は0.3mg/dl/日以上の上昇を示し,移植腎機能低下により透析療法が必要なこともある。ステロイドパルス療法,ALG,モノクローナル抗体等による治療により多くは治癒回復させることができる。 ③ 慢性拒絶反応移植後3か月以降に,慢性かつ進行性の移植腎機能低下を生じるもので,その発症機序についてはまだ不明なことが多い。主としてドナーに対する液性抗体が関与する免疫学的な要因と機能ネフロン数の減少によるhyperfiltration 行性の移植腎機能低下を生じるもので,その発症機序についてはまだ不明なことが多い。主としてドナーに対する液性抗体が関与する免疫学的な要因と機能ネフロン数の減少によるhyperfiltrationmechanismなどの非免疫学的要因とが複雑に関与していると考えられている。 虚血や拒絶反応によるネフロン数の減少,あるいは加齢(高齢ドナー)などが移植腎の長期予後に影響することが明らかになっている。 (5) 腎移植後の合併症拒絶反応のほか,シクロスポリンやタクロリムスによる腎障害,肺炎等の感染症,肝障害及び悪性腫瘍等は重要である。移植患者はすべて免疫抑制下にあり,感染症,中でもサイトメガロウイルス(CMV)肺炎,カリニ肺炎や真菌症等はしばしば致命的となる。また,悪性腫瘍の発生率も高い(1~2%)ことが知られている。さらに移植患者には高血圧や高脂血症を合併することも多い。 (6) 腎移植の成績日本移植学会による平成12年の腎移植臨床登録集計報告によれば,平成9年12月31日までに日本で施行された過去約30年間の腎移植症例1万2381例(生体腎移植8896例,死体腎移植3485例)のうち追跡調査ができた約1万例の成績は,生体腎移植について見ると,生存率(移植患者が生存している率)が95%(1年),89%(5年),82%(10年),76%(15年)で,生着率(移植腎が機能している率)は,89%(1年),73%(5年),54%(10年),41%(15年)である(乙B2,5)。 もっとも,腎移植成績は,シクロスポリンやタクロリムスといった免疫抑制剤や抗ウイルス療法の進歩などにより,生存率,生着率ともに大きく向上している。 腎移植後は,社会復帰率も高く,透析療法に比較して高いqualityoflife(QOL)が得られている。また,腎移植後に拒絶反応な 療法の進歩などにより,生存率,生着率ともに大きく向上している。 腎移植後は,社会復帰率も高く,透析療法に比較して高いqualityoflife(QOL)が得られている。また,腎移植後に拒絶反応などによって移植腎が生着しなかった場合でも,再び透析療法に戻ることで生命維持が可能となる。 3 腎移植後の感染症(甲B1,3ないし9,14,16,乙B10,証人F,同G)(1) 腎移植後のウイルス感染症は最も重要な合併症の一つである。移植後の免疫抑制に伴う宿主の抵抗力減弱がその原因であり,いわゆる日和見感染症として発症しやすく,移植後3~6か月以内に発症することが多い。したがって,この期間は厳重な経過観察が必要となる。 (2) サイトメガロウイルス(CMV)サイトメガロウイルスは,ヘルペス属のウイルスである。サイトメガロウイルス感染症は,腎移植後の免疫抑制に伴う日和見ウイルス感染症の代表例である。 サイトメガロウイルス感染症において,初期症状として最も多く見られるのは発熱であり,更に症状が進むと臓器感染症の様相を呈する。主なCMV臓器感染症は,肺炎,消化器潰瘍,肝炎,膵炎,網膜症である。 治療の基本は,抗ウイルス剤のガンシクロビル(商品名デノシン),ガンマグロブリン剤の投与である。 (3) EBウイルス(Epstein-Barrvirus)EBウイルスは,ヘルペス属のウイルスである。感染症で問題となるのは,PTLD(posttransplantlymphoproliferativedisorder。移植後リンパ球増殖性疾患)である。 PTLDは,腫瘍化リンパ球又は異型化リンパ球の異常増殖が生じるもので,EBウイルス感染に関連する臓器移植後の重篤な合併症とされ,最終的には,問題となる組織の中にかかるリンパ球が存在することが証明されれば,これを診断 リンパ球又は異型化リンパ球の異常増殖が生じるもので,EBウイルス感染に関連する臓器移植後の重篤な合併症とされ,最終的には,問題となる組織の中にかかるリンパ球が存在することが証明されれば,これを診断することができる。 EBウイルスによるPTLDの予防に最も大切なことは,その早期診断であり,EBウイルスの増殖の段階で診断が付けば,早期の免疫抑制剤減量及び抗ウイルス剤(ガンシクロビル,ガンマグロブリン等)投与によって対処する。移植後の臓器不全を考慮して,免疫抑制剤の減量は慎重に行う必要がある。 PTLDのうち小腸等の消化管を主病変とするものは,gastrointestinalPTLD(GI-PTLD)と呼ばれる。
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