平成15年2月4日宣告平成14年(わ)第673号,第815号,第1277号殺人,傷害,器物損壊,暴行被告事件判決 主文 被告人を懲役14年に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人に負担させる。 理由 (犯罪事実)第1(平成14年(わ)第1277号・同年10月2日付起訴分公訴事実第1関係)被告人は,平成13年9月25日午後8時ころ,福岡市a区bc番地のdの付近路上及び同区ef丁目g番h号付近路上で,停車中のA所有の普通貨物自動車の運転席ドアを手拳で数回殴打して凹損させて(損害額4万7800円相当),他人の物を損壊した。 第2(平成14年(わ)第1277号・同年10月2日付起訴分公訴事実第2関係)被告人は,平成13年9月25日午後8時5分ころ,福岡市a区ef丁目g番h号付近路上で,B(当時36歳)に対し,その頭髪を左手でつかんで路上に引き倒し,更にその腹付近を数回膝蹴りにするなどの暴行を加えた。その結果,Bは,加療約16日間を要する頚部捻挫,右手関節挫傷,右足関節挫傷及び胸部打撲の傷害を負った。 第3(平成14年(わ)第1277号・同年10月2日付起訴分公訴事実第3関係)被告人は,平成14年3月22日午前7時ころ,福岡市i区jk丁目l番m号付近路上で,C(当時27歳)に対し,その顔面を手拳で2回殴打する暴行を加えた。 第4(平成14年(わ)第815号・同年7月5日付起訴分)被告人は,平成14年4月29日午前1時40分ころ,福岡県n市op番地qのD出入口付近等で,E(当時23歳) で2回殴打する暴行を加えた。 第4(平成14年(わ)第815号・同年7月5日付起訴分)被告人は,平成14年4月29日午前1時40分ころ,福岡県n市op番地qのD出入口付近等で,E(当時23歳)に対し,殺意をもって,その胸部及び背部等を刃体の長さ約13センチメートルのフィッシュナイフ(平成14年押第166号の1)で数回突き刺し,同日午前3時ころ,福岡市r区st丁目u番v号所在の医療法人F病院玄関付近で,Eを多数の刺切創に基づく失血により死亡させて殺害した。 第5(平成14年(わ)第673号・同年6月11日付起訴分)被告人は,G及びHと共謀の上,平成14年4月29日午前1時40分ころ,福岡県n市op番地qのD出入口付近で,I(当時23歳)に対し,G及びHが,Iの顔面等をこもごも手拳で多数回殴打するなどの暴行を加え,更に,被告人が,その胸腹部を,第4のフィッシュナイフで数回突き刺した。その結果,Iは,入院加療43日間を要する全身打撲傷,肝損傷,肺挫傷,上腹部・胸部刺創及び左眼窩底骨折の傷害を負った。 (証拠) 〈省略〉(補足説明)第1 殺人及び傷害(第4及び第5)の事実 1 争点及び証拠構造(1) 争点被告人は,公判廷において,第4の殺人の事実について,Eに対する殺意を否認するとともに,第5の傷害の事実について,客観的な事実関係を認めた上で,G及びHとの間の共謀を否認し,弁護人も,被告人と同旨の主張をする。 したがって,①殺人(第4)の事実の争点は,被告人の殺意の有無の点であり,②傷害(第5)の事実の争点は,被告人とG,Hの間の共謀の有無の点である。 (2) 証拠構造ところで,第4及び第5の事実は,判示D(以下「本件店舗」という。)の客であるJや同店副店長Kら複数の目撃者のほかに,多数の暴力団関係者が,犯行現 の間の共謀の有無の点である。 (2) 証拠構造ところで,第4及び第5の事実は,判示D(以下「本件店舗」という。)の客であるJや同店副店長Kら複数の目撃者のほかに,多数の暴力団関係者が,犯行現場に現在する中で発生した事案であり,本件事実経過の重要部分を直接証明する証拠としては,JやKらの目撃者の供述のほかに,多数の暴力団関係者らの供述が存在する。 しかしながら,これらの暴力団関係者らの供述は,犯行に至る経緯等は大筋で一致しているものの,犯行状況に関し相互に大きく食い違っている。そして,被告人のほか暴力団L組の関係者が,本件の後に話し合いを行った上で,L組関係者の一部のみが警察に出頭したという経緯が認められることからすると,警察への出頭前に,他の暴力団関係者をかばうなどの目的で,口裏合わせをするなどして,本件事実経過に関する罪証隠滅工作が行われた可能性が否定できない。したがって,本件では,L組をはじめとする暴力団関係者らの供述は,たやすく信用できない。 そこで,以下,関係証拠により犯行状況等の本件事実経過を認定した上,争点に関する判断を行うが,その際には,主として第三者であって信用することができるJ及びKの供述により事実経過を認定し,暴力団関係者らの供述については,犯行に至る経緯等の供述内容が一致する限度でのみ採用することとする。 2 証拠上認められる事実(1) 被告人とL組の関係等ア被告人は,L組の正式組員ではないものの,平成12年ころからL組組員と行動を共にしたり事務所に出入りしており,特に,Hのことは兄貴分として慕っており,小遣いを貰ったりしていた。 イ本件当時,現場にいたことが明らかな関係者の氏名,所属暴力団及び組織内での地位は,以下のとおりである。 L組若頭 M舎弟 G おり,小遣いを貰ったりしていた。 イ本件当時,現場にいたことが明らかな関係者の氏名,所属暴力団及び組織内での地位は,以下のとおりである。 L組若頭 M舎弟 GH若中 NOP親交者被告人Q若頭補佐 R本部長補佐 S組員 TU若頭 V若中 E(第4の殺人の被害者)I(第5の傷害の被害者)W(2) L組とQの諍いの経緯平成13年6月ころ,QのTが乗っていた車の窓ガラスが男から木刀で割られるという事件があった。 Tは,平成14年4月28日に,その犯人がL組のOであるとの疑いを持ち,Oと連絡をとったところ,同日夜に,L組関係者らとQの組員らとの間で,話し合いを持つこととなり,Tら前記の3名以上のQの関係者と,Mら前記の7名以上のL組の関係者が,国道3号線(以下「国道」という。)沿いの本件店舗に集合した。ところが,両者の話し合いは言い争いとなって決着がつかないため,翌29日午前0時45分ころに,Tが目撃者の女性を呼び出すことになり,QとL組の関係者らは,同日午前1時30分ころに来るという目撃者の女性を待つことになった。 これに対し,被告人は,平成14年4月28日夜に,Hから,携帯電話で,もめ事があるから本件店舗へ来るように言われ,翌29日午前0時10分ころに,カムリを運転して本件店舗に到着した。このとき,被告人は,灰色のフード付トレーナー上衣にジャージズボンを着用し,帽子(白色キャップ)を被っていた。 (3) L組とUの諍いの経緯アところが,L組とQの関係者らが目撃者の女性の到着を待っている間に,L組の若頭であるMは,Uの者がTの ズボンを着用し,帽子(白色キャップ)を被っていた。 (3) L組とUの諍いの経緯アところが,L組とQの関係者らが目撃者の女性の到着を待っている間に,L組の若頭であるMは,Uの者がTの車のガラスを割った可能性があるなどと発言した。そのため,Rが,Vに対し,その旨を電話で連絡したところ,Vは,あらぬ疑いをかけられたとして怒り,Vのほか,E及びIが,Wと共に,本件店舗に来ることになった。 イ Vは,電話を受けて約15分ほどで,本件店舗の駐車場に到着したが,そのころ,本件店舗から本件店舗の駐車場(以下「本件駐車場」という。)出入口付近に出て来たMらL組関係者と顔を合わせて,言い争いとなった。 そして,そのころ,Eがアリストに乗車して本件店舗に到着し,Vのもとに駆け寄り,IとWもやや遅れてマークⅡで到着して,直ちにMのところへ行った。このとき,Iは,Vの身が危ないと感じ,マークⅡに積んであった刃体の長さ約13センチメートル,刃体の幅約2.1センチメートルのフィッシュナイフ(平成14年押第166号の1。以下「本件ナイフ」という。)を持っていた。 ウ被告人は,平成14年4月29日午前1時10分ころ,Hから頼まれて,近くのコンビニエンスストアまでタバコを買いに行き,15分ほどして,再び本件店舗に戻った。被告人は,店内に入ってHにタバコを渡すと,Hが,「もう帰っていいぜ。」などと言ったため,Hと共に店外に出たところ,MとVが口論している現場に遭遇した。 そのため,被告人とHは,Vらを牽制しようとMのもとに駆け寄り,Mを守るため両者の間に割って入った。被告人は,Vらに対し,「何の因縁をつけよるとか。」などと言って,言い争いに口を挟んだ。 (4) IがMを刺した状況アこのようにして口論が続く中,平成1 Mを守るため両者の間に割って入った。被告人は,Vらに対し,「何の因縁をつけよるとか。」などと言って,言い争いに口を挟んだ。 (4) IがMを刺した状況アこのようにして口論が続く中,平成14年4月29日午前1時30分ころ,Iは,突然,本件ナイフを突き出し,Mの左腰部を刺した。これを見たRは,Iから本件ナイフを取り上げた。 Mは,Iに対し,「貴様,今何したとか。」などと怒鳴ったが,Iは,「やかましい,こら。」などと叫んで,更にMにつかみかかる勢いであった。Vは,興奮するIを諫めて,「お前刺されとけ。」などと言うとともに,Mに対し,「良介を刺さんですか。」などと言った。これに対し,Mは,L組とUとはXの組同士であり,同傘下団体同士の喧嘩は禁止されていたことから,身内同士でそのようなことはできない旨答え,更に口論が続いた。 その間,本件ナイフは,Mの手を経て,被告人に渡された。 イその後,本件駐車場で,L組とUの間でしばらく口論が続いていたが,Nが,「この話は上の者を通して後日話し合いましょう。」などと言ったため,その場は一旦収まりかけた。 そこで,V,E及びIの3名は,Eの運転してきたアリストに乗り込んで発進しようとしたが,そのころ,L組関係者が,アリストを取り囲んだ。そのため,Vらは,再度車外に出ることになった。 (5) 犯行状況ア V,E及びIは,本件駐車場から国道方向に走って逃げた。これに対し,被告人,G及びHを含むL組関係者ら十数名が,Vらを一斉に追いかけ,三方に逃げるVらを捕まえて,数名ずつに分かれて暴行を加えた。 イこの際,Iは,本件駐車場から本件店舗出入口付近の芝生を通って逃げたが,L組関係者の1人に追いつかれて,後ろから服をつかまれ,GとHを含む3人くらいのL組関 名ずつに分かれて暴行を加えた。 イこの際,Iは,本件駐車場から本件店舗出入口付近の芝生を通って逃げたが,L組関係者の1人に追いつかれて,後ろから服をつかまれ,GとHを含む3人くらいのL組関係者に取り囲まれて殴られるなどの暴行を受けた。その後,Iは,本件店舗の側に顔を向ける形で囲まれた上で,顔面などを思い切り殴られており,「もう勘弁してくれ。」などと叫んでいた。 Vは,本件駐車場出入口付近を通って路上まで逃げたが,L組関係者らに,後ろから服をつかまれて,3人くらいに取り囲まれて殴る,蹴るの暴行を受けた。その後,Vは,その場に倒れ込んで,意識不明の状態となった。 Eは,本件店舗内出入口付近の芝生を通って,本件店舗の出入口付近まで逃げたが,3人くらいのL組関係者らに取り囲まれ,殴られるなどの暴行を受けた。Eは,L組関係者の隙を見て本件店舗内に逃げ込もうとしたが,捕まってしまい,本件店舗出入口の窓ガラスに体を叩き付けられた。 ウ他方,被告人も,他のL組関係者と共に,Vらを追いかけた上で,平成14年4月29日午前1時40分ころ,Eに接近し,Eの胸部,背部,大腿部等を,本件ナイフで多数回刺した。さらに,被告人は,殴り疲れて暴行を中断していたGとHの間から,Iに接近し,Iの胸部等を本件ナイフで3回ほど刺した。 (6) 犯行後の状況アその後,L組関係者ら数名ずつが協力して,Iをマジェスタのトランクに,Eをカムリの後部座席に,それぞれ乗せて連れ去った上,福岡市r区st丁目u番v号所在の医療法人F病院の玄関前に,IとEを降ろして逃走した。 また,PとL組関係者の1人は,Vを別の車に乗せて連れ去ろうとしたが,WがVを抱きかかえるようにしており,Rも,「お前達は早く行け。」などと言った。そのため,L組 Eを降ろして逃走した。 また,PとL組関係者の1人は,Vを別の車に乗せて連れ去ろうとしたが,WがVを抱きかかえるようにしており,Rも,「お前達は早く行け。」などと言った。そのため,L組関係者らは,Vを車に乗せるのを諦めて逃走した。 イ IとEは,平成14年4月29日午前3時20分ころ,上記F病院の玄関前で,客を迎えに来たタクシー運転手により発見された。この際,Iは,重傷を負って出血しており,Eは,既に死亡した状態であった。 (7) Iの負傷状況及びEの死体の損傷状況Iの負傷状況及びEの死体の損傷状況は,概ね以下のとおりである。 ア Iには,全身打撲傷,肝損傷,肺挫傷及び左眼窩底骨折に加え,上腹部や側胸部の3か所に,長さ2.0から2.3センチメートル,深さはそれほどに深くなく,腹腔内には達していない刺創があり,これらの刺創は,その形跡からいずれも,同一の鋭利な刃物で形成されたものと推測された。 イまた,Eの死体には,胸部,背部,上腕部及び下肢に,多数の創傷が認められたが,これらのうち,刺創,切創及び刺切創は,全て本件ナイフで成傷されたと考えて矛盾しないものであった。 このうち,①左前胸部の正中よりの刺創(創①)は,成傷器の刃を右上方に向け,前方かすか上方から後方かすか下方に向かって刺入し,第2肋骨の肋軟骨の一部及び第2肋間を切って,左胸腔内に入り,左肺上葉の上部の創を成傷したもの,②左乳頭の直上の刺切創(創②)は,成傷器の刃を左下方に向け,前かすか左かすか上方から後ろかすか右方かすか下方に向かって刺入し,左第3肋間から左胸腔内に入り,左肺上葉の下部の創を成傷したもの,③背面左側上部の刺切創(創③)は,成傷器の刃を上かすか左方に向け,後ろ右方から前左方に向かって刺入し,左第8肋骨後面に達したもの,④背部中央左側 左胸腔内に入り,左肺上葉の下部の創を成傷したもの,③背面左側上部の刺切創(創③)は,成傷器の刃を上かすか左方に向け,後ろ右方から前左方に向かって刺入し,左第8肋骨後面に達したもの,④背部中央左側の刺創(創④)は,成傷器の刃を左上方に向け,後上かすか左方から前下かすか右方に向かって刺入し,左第10肋骨の下半及び第10肋間を切って左胸腔内に入り,左肺下葉後面から横隔面にかけて貫通し,横隔膜左側を切って腹腔内に入り,脾臓の横隔面から臓側面にかけて貫通し,脾臓周囲の軟部組織に達したもので,創洞の深さは大約13センチメートル,⑤背面左側下部の刺創(創⑤)は,成傷器の刃を左下方に向け,左後方から右前方に向かって約7.5センチメートル刺入し,脊柱の左方に達したものである。その他に,Eの死体には,⑥左上腕に,創の長さ約5センチメートル,創底の深さ約0.1センチメートルの軟部組織に達する切創があるほか,⑦下肢には,右大腿部に2つ(深さ約4.5センチメートルのものと深さ約9センチメートルのもの)と左大腿部に1つ(深さ約3センチメートルのもの)と左下腿部に1つ(深さ約6センチメートルのもの)の切創又は刺切創がある。さらに,⑧顔面の多数の皮下出血,表皮剥脱は,鈍体の衝突・圧迫・擦過,すなわち,手拳等による殴打により生じたものと考えられる。 3 被告人の殺意の有無(争点①)(1) 被告人の供述ア被告人は,捜査段階及び公判廷において,Eに対する攻撃態様に関し,「Vたちが自分たちと反対側に歩いていっていて,自分もHと一緒にその後を行くようにして歩いていって」「ちょうどその3号線沿いの出入口のところに」「着いた途端にE,今回の事件ですけど,Eが自分のところにいきなりかかってきて」「いきなり自分のところにかけつけてきて,自分を倒す勢いで,実際に倒 って」「ちょうどその3号線沿いの出入口のところに」「着いた途端にE,今回の事件ですけど,Eが自分のところにいきなりかかってきて」「いきなり自分のところにかけつけてきて,自分を倒す勢いで,実際に倒されました。」「自分もM君みたいに刺されるという恐怖感がありました。」「それで,自分はとっさ的に,右で持っていたナイフを差し出すような形で」「Eの足を刺した。」「Eの体のどこを刺したか,何回刺したかは無我夢中で分からない。」などと供述する。 イしかしながら,被告人の供述については,以下の事情が指摘できる。 (ア) 本件店舗の客であるJは,検察官調書(甲35)において,Vらがそれぞれ3人くらいのL組関係者に取り囲まれて殴られていたのを目撃した旨供述するところ,Jの供述は,Eの顔面に,手拳等の鈍体の衝突・圧迫・擦過による多数の皮下出血・表皮剥脱(⑧)が認められることと符合している。 これに対し,被告人が公判廷で供述するように,Eがいきなり被告人を投げ飛ばしたため,とっさにEを無我夢中で多数回体中を刺して,Eがその場に倒れたというのであれば,EがL組関係者らに取り囲まれて殴られて,顔面に多数の皮下出血や表皮剥脱を生じるような状況は想定し難い。したがって,被告人の供述は,Eの負傷状況という客観的証拠及びこれと符合するJの供述と全くそぐわない。 (イ) また,L組の組員であるGも,検察官調書(甲62)において,「私が逃げるIを追いかけ始めるのと同時くらいに,UのVとEも国道3号線の方に逃げていったことは間違いありません。私の視線はIの方に向かっていましたが,視線の隅の方にはVやEが逃げていく姿が入っていました。 ですから,対峙していた場所でIは勿論,VとEがL組の者に対して喧嘩を売ってきたり,向かってきたということはあり はIの方に向かっていましたが,視線の隅の方にはVやEが逃げていく姿が入っていました。 ですから,対峙していた場所でIは勿論,VとEがL組の者に対して喧嘩を売ってきたり,向かってきたということはありませんでした。」などと供述している。 したがって,Eが先に被告人に攻撃してきたという,被告人の供述は,他の事件関係者の供述とも大きく食い違っているのであり,この点も,被告人の供述の信用性を大きく減殺させる事情である。 (ウ) さらに,写真撮影報告書(甲2)や実況見分調書(甲3)によれば,本件の後に,本件店舗周辺からは,VらUのものと思われる血痕が多数発見されているが,被告人がEを刺したと供述する地点,すなわち,Vらが車を降りた地点から30メートルくらいの駐車場の出入口付近に血痕はなく,被告人の供述は,犯行現場における血痕の付着状況という客観的証拠ともそぐわない。 ウ以上によれば,この点の被告人の供述は到底信用できない。 (2) 殺意の有無ア認定事実(2(7)イ)のとおり,Eの死体には,全身に多数の刺創,切創及び刺切創が認められる。特に,このうち胸部や背面等にある5つの刺創又は刺切創は,いずれも胸腔内や脊柱等に達しており,その中には,刃体の長さ約13センチメートルの本件ナイフの刃体部分のほぼ全体が没入して形成されたと考えられる深さ約13センチメートルの刺創(創④)も含まれている。 このようなEの死体全身の創傷の数やその深さからすると,Eの創傷が偶然に形成されたものでないことは明らかである。すなわち,被告人は,刃体の長さ約13センチメートル,刃の幅約2.1センチメートルの鋭利な本件ナイフを用いて,意図的に,胸部や背面等の身体の枢要部を含むEの全身を,本件ナイフの刃体部分全体が没入するほどの強度の力を込めて,多数回突き刺し チメートル,刃の幅約2.1センチメートルの鋭利な本件ナイフを用いて,意図的に,胸部や背面等の身体の枢要部を含むEの全身を,本件ナイフの刃体部分全体が没入するほどの強度の力を込めて,多数回突き刺し,その結果,胸腔あるいは腹腔内の臓器にまで損傷を与える重大な創傷を負わせて,Eを失血死させたものと認められる。このような被告人の攻撃態様は,本件ナイフの殺傷用具としての能力を最大限に利用した強度のものであり,相手の生命を奪う結果となることは容易に予想できる。そして,被告人は,自ら犯行を行ったものであるから,そのことは十分認識していたものと認められる。 イまた,被告人は,Eに対する致命傷となる攻撃を加えた後,Eに対する救護の措置を何ら行うことなく,直ちにIに近付いて攻撃を加えており,このような被告人の犯行後の行動も,被告人の攻撃意思が強かったことをうかがわせる事情である。 ウさらに,本件犯行に至る経緯をみると,認定事実のとおり,QのTが,L組のOが自分の車の窓を割ったのではないかと疑ったことに端を発して,本件店舗で,QとL組の関係者の間で話し合いが行われたが,話し合いの決着がなかなかつかないでいるうちに,L組の若頭であるMが,Uの関係者がTの車の窓を割ったのではないかと発言した。そのため,QのRがUの若頭であるVに連絡したところ,Mの発言を聞いて怒ったVが,Iら他のU関係者と共に本件店舗にやってきて,Mとの間で言い争いとなり,そのうちに,Iが,本件ナイフを用いてMを刺してしまった。その後,争いは一旦収まりかけたものの,その直後に,L組の関係者十数名が,逃げるV,E及びIのUの関係者3名を一斉に追いかけ,それぞれ3名以上のL組関係者がVらUの者を取り囲んで,一方的に暴行を加えたことが認められる。 このような事実経過から考えると,L組関 十数名が,逃げるV,E及びIのUの関係者3名を一斉に追いかけ,それぞれ3名以上のL組関係者がVらUの者を取り囲んで,一方的に暴行を加えたことが認められる。 このような事実経過から考えると,L組関係者らがVらUの者に暴行を加えた理由は,単なる偶発的な喧嘩ではなく,L組の若頭であるMがIから本件ナイフで刺されたことへの報復であったと断定してさしつかえないというべきである。そして,被告人は,認定事実のとおり,他のL組の関係者とともに,VらUの者を追いかけて暴行を加える中で,Eを本件ナイフで刺しているのであるから,被告人も,L組の親交者として,他のL組の関係者らと共に報復を加えようとして,Eを何度もナイフで刺して殺害したと考えるのが相当である。 したがって,被告人には,E殺害の動機も認められる。 エ以上によれば,被告人には,Eを殺害することの認識,認容があったと認められ,Eに対する確定的な殺意は優に認定できる。 4 共謀の有無(争点②)次に,被告人とH,Gの間の共謀の有無について検討する。この点,関係証拠のうちには,被告人とH,Gが,Iに対する暴行を加える際に,明示に謀議を行ったことを認めるに足りる証拠は存在しない。 しかしながら,前記3(2)ウのとおり,UのIからL組の若頭であるMが刺されたことから,被告人,H及びGを含むL組の関係者十数名が,VらUの者に報復を加える目的で,逃げるVらを一斉に追いかけ,それぞれ3名以上の者でVらを取り囲んで,一方的に暴行を加えたと考えられるのである。 さらに,被告人の行動状況をみても,被告人は,Eを刺した後,Iを躊躇なく刺している。このような被告人の行動状況からすると,被告人は,当初からVらU組員に対する傷害の故意を有していたとみることができる。 そうだとすれば,被告人とH,Gらを含むL組関係者らが,Vら 躊躇なく刺している。このような被告人の行動状況からすると,被告人は,当初からVらU組員に対する傷害の故意を有していたとみることができる。 そうだとすれば,被告人とH,Gらを含むL組関係者らが,VらUの者を一斉に追いかけ始めた段階では,被告人は傷害の故意を,H及びGは暴行の故意を,それぞれ有しており,暗黙のうちに互いに意思を通じて,それぞれIにも,被告人とH及びGの故意の重なり合う暴行の限度で,共謀が成立していたものと認められる。 この点について,被告人は,捜査段階の検察官調書(乙11)で,「IがL組若頭のMさんを刺したことについては,組員でない私ですら怒りで一杯になっていたのですから,他のL組の組員は全員,Iに対し相当怒っていたはずで,他のL組の人たちもIに対し,徹底的に怪我をさせるつもりだったと私は思っていました。」と供述しており,この供述部分は,上記の共謀の認定とほぼ合致するものである。 なお,被告人は,公判廷において,「Eを本件ナイフで刺した後,Iが本件店舗の玄関付近にいたこと,被告人がIを本件ナイフで刺したときには,GやHはいなかったことを覚えている。」旨供述している。しかしながら,被告人は,捜査段階では,当初,警察官や検察官に対し,「Iを刺した時に,GとHがIを殴ったりしていたのを見た。」と供述していた(乙2)が,その後,この供述を「嘘です。」と述べて変更しているのであって(乙11),被告人の供述は一貫したものではない。そして,被告人の公判供述は,Gが検察官調書(甲61)において,「私達がIを殴り初めてから1分以上経ったころ,私とHの間をAAが通り抜けるように走ってきて,Iの前に立ちました。」と供述しているのと,大きく食い違っている。これらからすると,被告人の公判供述は,到底これを信用することができないというべきである。 の間をAAが通り抜けるように走ってきて,Iの前に立ちました。」と供述しているのと,大きく食い違っている。これらからすると,被告人の公判供述は,到底これを信用することができないというべきである。 以上によれば,被告人の傷害と,H,Gの結果的加重犯である傷害の間の共謀は優に認定できる。 5 小括以上によれば,第4及び第5の事実に関し,判示事実は十分認定できる。 第2 器物損壊(第1)について 1 争点被告人は,器物損壊(第1)に関し,第4回及び第6回公判期日において,福岡市a区ef丁目g番h号付近路上(以下「第2現場」という。)で,判示普通貨物自動車(以下「被害車両」という。)を殴打したことは認めるものの,福岡市a区bc番地のdの付近路上(以下「第1現場」という。)では,被告人の後輩にあたる人物が被害車両を殴打しただけで,被告人自身は殴打していない旨供述して,損壊行為の一部を否認し,弁護人も被告人と同旨の主張をする。これに対し,被害車両を運転していたBは,公判廷において,被告人が,第1現場及び第2現場で,被害車両を殴打して凹損させた旨供述している。 したがって,器物損壊(第1)の争点は,Bの公判供述と被告人の公判供述のうち,いずれが信用できるかの点である。 2 Bの公判供述(1) Bの公判供述の要旨Bは,公判廷において,「福岡市a区b所在のYの駐車場から被害車両を出そうとしたところ,白いローレル(以下「被告人車両」という。)が駐車場出入口のところでウインカーをつけずに若干右方向を向いて止まっていた。運転していたのは被告人であった。被告人車両の左側に車が通れるくらいのスペースがあったので,被告人車両の左側を抜けて駐車場を出て左折した。すると,被告人車両が追いかけてきて,第1現場付近で,被害車両の前に停止して,被 人であった。被告人車両の左側に車が通れるくらいのスペースがあったので,被告人車両の左側を抜けて駐車場を出て左折した。すると,被告人車両が追いかけてきて,第1現場付近で,被害車両の前に停止して,被害車両を停車させられた。そして,被告人が,被告人車両から降り,被害車両の方にやってきて,Bに対し,ドア越しに,『車間距離をそんな詰めていいのか。』などとかなり怒った様子で言いながら,被害車両の運転席ドアを4,5発ぐらい殴ってきた。また,Bは,被告人に対し,『車間距離があいてなかったのは悪いけどなんで車を殴られなければいけないのか。』などと言った。このとき,被告人のほかに被告人の仲間らしき人が別の車から降りてきており,被告人以外の誰かが,被害車両の鍵をドア越しに抜き取り,最終的には,被告人らは,『もういいよ。行こう』ということになり,鍵を地面に捨てた上で,それぞれ車に乗ってその場を離れた。運転席ドアを見ると,ドアは数箇所凹んでいた。その場所は,警察で確認しているとおり,第1現場である。」「被告人たちが立ち去った後,Z駅前方向に向かった。前に被告人車両が走っていた。姪浜駅前で信号が赤になり,止まろうとしたところ,前方の被告人車両が急停止したため,被害車両を止めた。再び被告人が被告人車両から降りてきて,車間距離のことを言って被害車両を1発殴った。そして,Bは,運転席から降ろされて,殴られたり,髪の毛を引っ張られて路上に倒された。その現場は,警察で確認しているとおり,第2現場である。最初に運転席ドアを殴られた場所と,被告人から顔面を殴られたり路上に引き倒されたりした場所が異なることは断言できる。」などと供述している。 (2) Bの公判供述の信用性Bの公判供述は,被害の経過について相当具体的であり,その根拠も明らかである上,被告人車両の左側を抜 れたりした場所が異なることは断言できる。」などと供述している。 (2) Bの公判供述の信用性Bの公判供述は,被害の経過について相当具体的であり,その根拠も明らかである上,被告人車両の左側を抜ける際に車間距離が開いていなかったことなど,自分に都合の悪いと思われることがらも率直に認めている。 そして,その供述内容は,客観的な事実経過とも合致し,自然である上,弁護人の反対尋問によっても崩れていない。加えて,Bには,被告人との間で,本件以前に特別な利害関係があった形跡はうかがわれず,虚偽の供述をしてまで被告人を陥れなければならない動機も認められない。 以上によれば,Bの公判供述は,十分信用できる。 3 被告人の公判供述(1) 被告人の公判供述の要旨被告人は,公判廷において,「被告人がYの駐車場から出ると,被害車両が,被告人車両にベタ付けしてきて,危ないなと思い,第1現場付近で車を止めたところ,被害車両も停車した。このとき,被告人の後輩の車両が前方を通行していたが,被告人車両の様子を見て引き返してきた。被告人は,被告人車両から降りて,Bに『何?ベタ付けしてきようけど。』と言ったところ,Bは,『急ぎよったい。』と不満そうな口調で言ったので,被告人は,『危なかろう。そんなベタ付けしてきたら危なかろう。』と言った。最初に被害車両を停止させたときに,被告人は,被害車両を叩いていない。このころ,車から降りてきた被告人の後輩が何か言おうとしたので,被告人は,『もういいけん。』と止めたが,その後輩は,もうつかみかかりそうな様子であり,勢い余ってドアを叩いた。被告人は,その後,被告人車両を進行させたが,このとき,被害車両がまたベタ付けしてきたので,再び停車して被害車両を1,2回叩いた。このとき,後輩の車はいなかった。」などと供述する。 (2) 被 いた。被告人は,その後,被告人車両を進行させたが,このとき,被害車両がまたベタ付けしてきたので,再び停車して被害車両を1,2回叩いた。このとき,後輩の車はいなかった。」などと供述する。 (2) 被告人の公判供述の信用性被告人の公判供述によれば,Bは被告人車両にいきなりベタ付けした上で,被告人に食ってかかってきたことになるが,その経緯はあまりに唐突である。被告人の公判供述では,Bがいきなり被告人車両に被害車両をベタ付けをした理由は不明であり,被告人が特段の合理的な説明をすることもない。したがって,被告人の公判供述は,その供述内容自体不自然というべきである。 また,被告人は,捜査段階において,一貫して,「私は,運転席に乗っていた男に対して,『危なかろうが,謝れ。』と強い口調で言いました。しかし,その男は,『急ぎよるけん。』等と言ってきたので,余計に腹が立ち,言い訳をする男は女々しいと思って脅すつもりで,男の乗っている運転席ドアを両方の拳で強めに5,6発殴ったのです。私が,運転席ドアを叩くと,ドアがボコッ,ボコッという音がしてへこんでいました。」(乙21)などと,第1現場で損壊行為を行った旨を供述していた。 被告人の公判供述は,この捜査段階の供述を大きく変遷させたものである。被告人は,公判廷において,この供述の変遷の理由に関し,「後輩をかばうために自分がやったような供述をした。」などと弁解するが,他方で,被告人は,「この事件,こんなに大きくなるとは思わなかったからですね。」とも供述しており,そうであれば,被告人が後輩をかばうためにあえて嘘の供述をしなければならない理由がないことになる。また,被告人が公判廷において供述するように,第1現場で被害車両の損壊行為を行ったのが後輩であると捜査段階で供述すれば,後輩が取り調べられて迷惑をかけ 供述をしなければならない理由がないことになる。また,被告人が公判廷において供述するように,第1現場で被害車両の損壊行為を行ったのが後輩であると捜査段階で供述すれば,後輩が取り調べられて迷惑をかけることになる,というのであれば,現に被告人が公判廷において,「(後輩の名前は)言えないというか,言いません。」と供述しているように,後輩の名前だけを秘匿すればよいのであって,被告人が後輩の分まで罪を被る必要はないと考えられる。したがって,被告人の弁解はたやすく信用できない。 (3) 以上によれば,被告人の公判供述は信用性が乏しい。 4 小括以上によれば,Bの公判供述は信用性が高いのに対し,被告人の公判供述は信用性が乏しいから,Bの公判供述のとおり,被告人が第1現場及び第2現場で被害車両を殴打したことは十分認定できる。 第3 結論以上のとおりで,判示事実は十分認定できる。 (法令の適用)罰条第1 包括して刑法261条第2 刑法204条第3 刑法208条第4 刑法199条第5 刑法60条,204条刑種の選択第1ないし第3,第5 各懲役刑第4 有期懲役刑併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条により最も重い第4の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重未決勾留日数算入刑法21条訴訟費用の負担刑事訴訟法181条1項本文(量刑事情)まず,殺人(第4)についてみる。 被告人は,暴力団L組の親交者として,被害者であるEの所属するUのIが,L組の若頭であるMを刺したことから,VらUの関係者に報復を加えるため,Eらには個人的な恨みはないのにもかかわらず,第4の犯行を行っ 人は,暴力団L組の親交者として,被害者であるEの所属するUのIが,L組の若頭であるMを刺したことから,VらUの関係者に報復を加えるため,Eらには個人的な恨みはないのにもかかわらず,第4の犯行を行った。本件犯行動機は,暴力団特有の論理に基づく,人命を軽視したまことに短絡的かつ身勝手なもので,酌量の余地は全くない。 また,その犯行態様も,被告人は,他のL組関係者らと共に,Eを取り囲んだ状態で,十分な殺傷能力を有する刃体の長さ約13センチメートルの鋭利な本件ナイフを用いて,胸部や背部等の身体の枢要部を含むEの全身を,本件ナイフの刃体部分全部が没入するほどの強度の力で,多数回突き刺している。本件は,極めて執拗かつ残忍な犯行である。 本件犯行により,Eは,体を滅多刺しにされ,血まみれとなった無惨な状態で死亡させられており,Eが受けた肉体的精神的苦痛,無念の情は察するに余りある。 何より当時23歳と若く,可能性のある命が失われたのであるから,犯行結果は取り返しのつかない重大なものである。Eの父親は,「事件から半年以上たった今でも,気持ちの整理がつかない状態です。息子の死について,できる限り忘れたいと努めていますが,今でも,息子をなくしたことを思い出し,どうしようもなく辛い気持ちになります。」と辛い気持ちを述べており,残された遺族らの悲しみも計り知れない。 それにもかかわらず,被告人は,Eの遺族らに対する被害弁償等の慰藉の措置は何ら行っていないだけでなく,捜査公判を通じて,Eが先に被告人に攻撃してきたなどとEに責任を転嫁する不合理な弁解に終始しており,真摯に反省している様子はうかがえない(なお,確かに,被告人は,本件犯行後一旦は自ら警察に出頭しているが,被告人は,犯行後に,自車のカムリに付着した指紋を洗剤で洗い落とすなどの罪証隠滅工作を行った 真摯に反省している様子はうかがえない(なお,確かに,被告人は,本件犯行後一旦は自ら警察に出頭しているが,被告人は,犯行後に,自車のカムリに付着した指紋を洗剤で洗い落とすなどの罪証隠滅工作を行ったり,他のL組関係者らと話し合いを行ったりした上で出頭したことが認められるから,被告人にとってそれほど酌むべき事情とも解されない。)。 次に,傷害(第5)についてみると,被告人は,Eに対する第4の殺人の犯行の直後に,同じくUのIを認めて,Mが刺されたことの報復を加える目的で犯行を行っており,第4と同様に暴力団特有の論理に基づく犯行であり,動機に酌量の余地はない。その犯行態様も,他の共犯者による激しい暴行を受け,既に無抵抗の状態にあったIの胸部等を,3回ほどにわたり本件ナイフで突き刺したもので,一歩間違えばIの生命を奪う可能性の高いものである。しかも,Iは,入院加療43日間を要する左眼窩底骨折や,上腹部の刺創等の重い傷害を負ったことを考えると,犯行結果も重大である。 また,器物損壊(第1)及び傷害(第2)をみると,被告人は,福岡市内の駐車場の出入口付近に自車を停車中,被害者の車両が十分車間距離をとらずに自車の左方からを追い抜いたとして腹を立てた。そして,被告人は,被害者の車両を2度にわたり停車させて,その運転席ドアを5,6回殴りつけて凹損させるとともに,一方的に殴る蹴るの暴行を加えて被害者に傷害を負わせたものであり,まことに短絡的かつ身勝手な犯行動機に酌量の余地はなく,犯行態様も悪質である。本件犯行により,被害者は加療約16日間を要する頚部捻挫等の傷害を負ったほか,車両の修理を余儀なくされて,少なからぬ経済的損害を被っており,犯行結果も軽視できない。 さらに,暴行(第3)をみると,被告人は,交際中の女性が待ち合わせをすっぽかしたことに腹を立 を負ったほか,車両の修理を余儀なくされて,少なからぬ経済的損害を被っており,犯行結果も軽視できない。 さらに,暴行(第3)をみると,被告人は,交際中の女性が待ち合わせをすっぽかしたことに腹を立てて,同女に暴行を加えていたところ,付近を通りがかった被害者が,被告人の暴行を止めに入ったのに腹を立てて,いきなり手拳で殴るなどの暴行を加えたものである。短絡的な犯行動機に酌量の余地はなく,暴行態様も悪質である。被害者は,被告人が女性に暴行を加えているのを止めただけで何ら落ち度はないにもかかわらず,理不尽にも本件被害を受けたもので,その肉体的,精神的苦痛は軽視できない。 被告人は,これまで暴力団組織の親交者として活動しており,現在でも,暴力団との関係が解消された形跡はうかがわれない。そして,上記のとおり,本件各犯行がいずれも短絡的かつ粗暴な事案であることを考えると,被告人には,規範意識の鈍麻と,暴力によって物事を安易に解決しようとする粗暴な性癖がうかがわれ,同種粗暴事犯の今後の再犯可能性も否定できない。 そうすると,第5の被害者I及び第3の被害者Cとの間でそれぞれ示談が成立し,被告人は各被害者に謝罪をするとともに,Iに40万円を,Cに5万円を,支払って被害弁償をしており,これにより各被害者も被告人に対する宥恕の意思を表明していること,第5の被害者Iの負傷は,共犯者GあるいはHの暴行によるものが最も重く,被告人が本件ナイフで刺した傷は,いずれもそれほど深くはなく,腹腔内には達していないものであること,被告人には前科がないこと,被告人が本件犯行後に自ら警察に出頭したこと,被告人の社会復帰後の更生には,被告人の母親の協力が期待できること,被告人が現在24歳と若く未熟であることなど,被告人にとって有利な事情を十分考慮しても,主文のとおりの長期の実刑 警察に出頭したこと,被告人の社会復帰後の更生には,被告人の母親の協力が期待できること,被告人が現在24歳と若く未熟であることなど,被告人にとって有利な事情を十分考慮しても,主文のとおりの長期の実刑はやむを得ないと判断した。 (求刑懲役15年)平成15年2月4日福岡地方裁判所第3刑事部裁判長裁判官陶山博生裁判官國井恒志裁判官岡崎忠之
▼ クリックして全文を表示