昭和53(オ)608 損害賠償

裁判年月日・裁判所
昭和57年7月1日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 仙台高等裁判所 昭和50(ネ)100
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      本件を仙台高等裁判所に差し戻す。          理    由  上告代理人中林裕一、同安田忠の上告理由第一点について  一 原審は、上告人A1

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主文 原判決を破棄する。 本件を仙台高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人中林裕一、同安田忠の上告理由第一点について一原審は、上告人A1ことA2(以下「上告人A1」という。)が被上告人を相手取つて本件建物におけるパチンコ営業を禁止する仮処分を申請したことに過失があつたかどうかを判断するにあたり、上告人A1は、当時の状況からみると、本件建物におけるパチンコ営業は真実DことE(以下「D」という。)が行うもので被上告人は単に形式上名前を貸したにすぎないものとして仮処分申請に及んだことが推認されるものの、本件建物の敷地が被上告人名義に所有権移転登記されていることや風俗営業の許可申請が被上告人名義でされていることなどについて全く調査もせず、被上告人に事の真相を照会するなどの手段も講じた形跡はないのであるから、被上告人が実際に自らその所有にかかる本件建物を使用してパチンコ営業をするものであることを軽率に看過した点において過失があることを否定しえないものと判断している。 しかしながら、本件記録によれば、上告人A1が被上告人を相手取つて申請したパチンコ営業を禁止する仮処分は、被上告人名義のパチンコ営業が上告人A1のDに対する競業禁止約定に基づく権利の侵害行為にあたることを理由とするものであつて、いわゆる債権侵害に基づく妨害排除請求権を被保全権利とするものであることが明らかであるから、右仮処分申請当時に存した諸般の事情に照らし客観的にみた場合に、被上告人名義のパチンコ営業が上告人A1のDに対する競業禁止約定に基づく権利の侵害行為にあたるものであつて、上告人A1がDのほかに被上告人をも相手取つてパチンコ営業を禁止する仮処分を申請したことに無理からぬものがあ- 1 -ると認められるときには、た 止約定に基づく権利の侵害行為にあたるものであつて、上告人A1がDのほかに被上告人をも相手取つてパチンコ営業を禁止する仮処分を申請したことに無理からぬものがあ- 1 -ると認められるときには、たとえ右申請を認容した仮処分が異議手続において取り消され又は本案訴訟において上告人A1敗訴の判決が言い渡されて確定したとしても、そのことから直ちに上告人A1に過失があるものということはできず、むしろその過失の推定を覆えすに足りる特段の事情があるものと解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第二六〇号同年一二月二四日第三小法廷判決・民集二二巻一三号三四二八頁参照)。そこで、右仮処分申請当時に存した事情についてみるに、原審が確定したところによれば、(1) 上告人A1は、かつてDと共同で青森県西津軽郡a町b町c番地で「F」という名称のパチンコ遊技場を経営していたが、昭和四〇年九月二九日、Dに対して三〇〇万円を支払うのと引換えに同人から共同経営権の一切を譲り受け、その際、同人は自己名義ではa町内で遊技場を営まないことを約定した、(2) 被上告人は、青森市内で米穀商を営んでいたが、昭和四〇年秋ころ、かねて親交のあつたDの勧めでパチンコ営業をするつもりになり、a町b町d番e、同町f番の宅地一〇〇坪三合を地上建物とともに買い受け、宅地については昭和四〇年一一月一六日に所有権移転登記を経由し、地上建物についてはこれを解体して本件建物を建築することを大工のGに依頼し、同年一二月二日には本件建物の内装工事を発注し、同月六日には本件建物において「H」という名称のパチンコ営業をするための風俗営業の許可申請を所轄警察署に提出するなどの開業準備をしていた、(3) しかし、被上告人は、それまでパチンコ営業の経験はなく、本件建物建築の請負契約はDが被上告人の代理人としてそ 営業をするための風俗営業の許可申請を所轄警察署に提出するなどの開業準備をしていた、(3) しかし、被上告人は、それまでパチンコ営業の経験はなく、本件建物建築の請負契約はDが被上告人の代理人としてその氏名を表面に出さないで締結したものであり、また、Dは自らパチンコ機械の注文をしたりしていた、というのであり、更に本件記録中には、(4) 被上告人は、a町には住んだことがなく、風俗営業の許可申請に際しては、被上告人を営業者、Dを管理者として届出ており、将来におけるパチンコ営業はDを責任者として行わせる予定になつていたこと、本件建物の建築をめぐつて上告人A1とDとの間で紛争が生じたことから、上告人A- 2 -3ことA4(以下「上告人A3」という。)が仲介人となつて話合いを行い、また、右紛争が警察問題にまで発展したため警察において事情聴取や話合いの機会がもたれたが、その際、被上告人があらわれてきて話合いに加わつたとか又はなんらかの申入れをしてきたことはなかつたこと、をそれぞれうかがわせる証拠がある。 右(1)ないし(3)の事実のほか、(4)の事実がそのとおりに認められた場合には、被上告人は、Dが上告人A1に対し自己名義ではa町内でパチンコ営業をしない旨の競業禁止約定をしたその時期に前後してDから勧められて同一町内でパチンコ営業をするつもりになつたもので、しかも、被上告人は、それまでは青森市内に住み米穀商を営んでいてa町に住んだことやパチンコ営業をした経験はなく、本件建物の建築やパチンコ機械の注文などの開業準備もほとんどDに任せ、将来の営業も経験者であるDを責任者として行う予定になつており、また、上告人A1とDとの間で紛争が生じた際にもとくに表だつた行動には出なかつたことが推認されえないではない。そして、仮処分申請当時に存したこれらの事情に基づい Dを責任者として行う予定になつており、また、上告人A1とDとの間で紛争が生じた際にもとくに表だつた行動には出なかつたことが推認されえないではない。そして、仮処分申請当時に存したこれらの事情に基づいて客観的にみた場合には、他に特別の事情のない限り、被上告人は、Dの上告人A1に対する競業禁止約定の存在を知りながら自己名義ではa町内でパチンコ営業をすることのできないDのために敢て名義を貸したにすぎないもので実際の営業者はDであるか、又は、上告人A1に対する競業禁止約定に基づく義務違反に加担する意図をもつて義務者であるDと通謀して共同でパチンコ営業をしようとしているか、のいずれかとみて妨げがないものであつて(ちなみに、仮処分異議の第一審判決においては、「パチンコ営業は実質的にはDが行うものであるが、同人は上告人A1との特約上営業をすることができないので知人の被上告人に頼みこみその名義を借りてするものであり、被上告人は故意にDと共謀し自己名義でパチンコ営業をさせ上告人A1の権利を侵害しようとしている。」旨判断され、また、仮処分に対応する本案訴訟の控訴審判決においては、「Dは、上告人A1との間の契約が有効に存続するうちから、- 3 -被上告人所有の土地建物を使用し被上告人と共同してパチンコ営業をするため、店舗を整備しパチンコ玉を購入しパチンコ機械を発注している。」旨判断されていることがうかがわれる。もつとも、右仮処分異議及び本案訴訟においては、上告人A1は、Dとの間の競業禁止約定に基づく権利の侵害を理由にしては第三者たる被上告人のパチンコ営業そのものの禁止を請求することは許されないとの法律判断によつて、結局敗訴の判決を受けている。)、被上告人名義のパチンコ営業は、それ自体、上告人A1のDに対する競業禁止約定に基づく権利の侵害行為にあたるとみら 禁止を請求することは許されないとの法律判断によつて、結局敗訴の判決を受けている。)、被上告人名義のパチンコ営業は、それ自体、上告人A1のDに対する競業禁止約定に基づく権利の侵害行為にあたるとみられてもやむをえないものがあるから、右のような事情が存する場合には、上告人A1としては、Dだけでなく被上告人をも相手にしてパチンコ営業の禁止を請求するのでなければDに対する競業禁止約定に基づく権利そのものの実現を確保することが困難となることは容易に看取されるところである。そして、これらの事情を前提にした場合には、被上告人名義のパチンコ営業が実際には上告人A1のDに対する競業禁止約定に基づく権利の侵害行為にはあたらないものであつて、しかも、上告人A1において右事実を容易に知ることのできるなんらかの事情があつたとか、又は、右のような侵害行為がある場合に第三者たる被上告人に対して営業禁止を請求する権利があると考えたこと自体が実体法の解釈として不合理であると認められない限り、上告人A1が、Dのほかに被上告人をも相手取つて本件建物におけるパチンコ営業を禁止する仮処分を申請したことは、Dに対する競業禁止約定に基づく権利の実現を確保することを目的としたものとして、まことに無理からぬところであつて、過失があるとはいえず、むしろ過失の推定を覆えすに足りる特段の事情があると解しえないではないというべきである。 原審は、前記のように、上告人A1が本件建物の敷地が被上告人名義に所有権移転登記されていることや風俗営業の許可申請が被上告人名義でされていることなどについて全く調査もせず、被上告人に事の真相を照会するなどの手段も講じた形跡- 4 -のないことをもつて上告人A1の過失を基礎づける事情としているが、原審が確定した前記事実からすると、上告人A1において種々の調査を せず、被上告人に事の真相を照会するなどの手段も講じた形跡- 4 -のないことをもつて上告人A1の過失を基礎づける事情としているが、原審が確定した前記事実からすると、上告人A1において種々の調査を行つたからこそDだけでなく被上告人もまた仮処分の被申請人とされるに至つた経緯が明らかであるし(現に、上告人A1は、昭和四五年六月三日付準備書面において、「種々調査したところ、建築敷地の購入名義、営業届出名義人は、被上告人であることが判明した」旨求べている。)、前記のような被上告人とDの親交の程度、本件建物の建築、開業準備の段階におけるDの役割に鑑みるならば、たとえ被上告人に事の真相を照会したとしても、被上告人名義のパチンコ営業が上告人A1のDに対する競業禁止約定に基づく権利を侵害するものではないのかどうか、すなわち、被上告人はDに対して単に名義を貸したにすぎないものではないのか、あるいは、被上告人はDの上告人A1に対する競業禁止約定の存することを知りながら右約定に基づく義務違反に加担する意図のもとに共同でパチンコ営業をするものではないのか、などの被上告人とDとの間の内部関係に属する事項について、信頼のおける回答を期待するのは困難というほかはないから(仮に上告人A1が被上告人に対して事の真相を照会したとしても、前記仮処分異議判決又は本案訴訟の控訴審判決が被上告人の主張、立証をも斟酌したうえで判断した事実以上の事実が判明することは困難であつて、右照会によつて上告人A1が被上告人を相手方にして営業禁止仮処分を申請することを思い止まらせるような事情が判明することは期待しえないものと解される。)、原審の挙示する事情のみでは、上告人A1の過失を基礎づけるに足りないのはもとより、過失の推定を覆えすべき特段の事情があると解しえないではないとの前記判断を左右 ことは期待しえないものと解される。)、原審の挙示する事情のみでは、上告人A1の過失を基礎づけるに足りないのはもとより、過失の推定を覆えすべき特段の事情があると解しえないではないとの前記判断を左右するにも足りないものというべきである。 二次に、原審は、上告人A5ことA6(以下「上告人A5」という。)及び上告人A7、A8ことA9(以下「上告人A8」という。)が建築直後のため未登記であつた本件建物についてこれをDの所有であるとして仮差押申請をしたことに過- 5 -失があつたかどうかを判断するにあたり、上告人A5及び同A8は、上告人A1や同A3の言動から本件建物がDの所有であると信じて仮差押申請に及んだことが一応推認されるものの、本件建物の敷地が被上告人名義に所有権移転登記されていることや風俗営業の許可申請が被上告人名義でされていることなどについて全く調査もせず、被上告人に事の真相を照会するなどの手段も講じた形跡はないのであるから、被上告人が実際に自らその所有建物を使用してパチンコ営業をするものであることを軽率に看過した点において過失があることを否定しえないものと判断している。 しかしながら、一般に建物の所有者と敷地の所有名義や右建物において予定されている営業の許可名義とは必ずしも一致するとは限らないのであるから、上告人A5及び同A8が未登記の本件建物について仮差押申請をするにあたりその敷地が被上告人名義に所有権移転登記されていることや風俗営業の許可申請が機上告人名義でされていることについて調査しなかつたからといつて直ちに過失があると解するのは相当でないし、また、原審が確定したところによると、被上告人は、かねてからDと親交がありその勧めでパチンコ営業をするつもりになつたもので、本件建物の建築請負契約の締結、パチンコ機械の注文などの開業 は相当でないし、また、原審が確定したところによると、被上告人は、かねてからDと親交がありその勧めでパチンコ営業をするつもりになつたもので、本件建物の建築請負契約の締結、パチンコ機械の注文などの開業準備もDに任せていたというのであつて、両者はきわめて親密な関係にあつたことが明らかであるから、たとえ上告人A5及び同A8が仮差押申請に際して被上告人の介在することに気づいていたとしても、被申請人たるDと右のような関係にあり相互の連絡も容易であるとみられる被上告人に対して事の真相を照会するまでの義務があると解するのは、仮差押の密行性の要請に反し相当でないものというべきである。 もつとも、原審が確定したところによると、上告人A5及び同A8がした仮差押申請を認容した決定については被上告人から第三者異議の訴えが提起され、審理の結果、本件建物はDではなく被上告人の所有に属するものとして取り消されたとい- 6 -うのであるから、他に特段の事情がない限り、上告人A5及び同A8が本件建物をDの所有であるとして仮差押申請をしたことには過失があつたものと事実上推定されることはやむをえないところである。しかしながら、本件記録中には、上告人A5及び同A8は、仮差押申請に際し、大工のGが作成した「私はDから本件建物の建築を注文されてこれを請負い工事を完了した」旨の証明書を添付していることを示す証拠があるところ、原審が確定したところによると、DはGとの間で被上告人の名前を表面に出さないで請負契約を締結したというのであるから、建築請負人たるGから未登記の本件建物について右のような証明書の交付を受けた第三者たる上告人A5及び同A8としては、これに基づいてDを本件建物の所有者であると考えたとしてもあながち無理からぬものがあるといつてよく、そうすると、上告人A5及び同A8に な証明書の交付を受けた第三者たる上告人A5及び同A8としては、これに基づいてDを本件建物の所有者であると考えたとしてもあながち無理からぬものがあるといつてよく、そうすると、上告人A5及び同A8において右証明書の記載が事実に反することを知つていたか又はこれを知ることができたものと認められない限り、むしろ過失の推定を覆えすに足りる特段の事情があるものと解することが不可能ではない。 したがつて、上告人A5及び同A8に過失があつたかどうかを判断するにあたつては、原審のように積極的に過失のあつたことを認める場合はもとより、前記のように仮差押が取り消されたことを理由にして過失のあつたことを事実上推定する場合であつても、Gが上告人A5及び同A8に交付した証明書についてその作成の経過及び記載内容の信用性の検討を欠かすことはできないものというべきである。 三更に、原審は、上告人A3が、上告人A1のために「本件建物でパチンコ営業を行うのはDであり、被上告人はDの依頼によつて名義を貸したにすぎない」旨の証明書を発行してやり、また、上告人A8のために「本件建物は未登記であるがDの所有であり、同人は債務が多いので他人名義に保存登記をするおそれがある」旨の証明書を発行してやつたことに過失があつたかどうかを判断するにあたり、右記載内容はいずれも事実に反するものであつて、しかも、本件建物の敷地が被上告- 7 -人の所有名義であることや風俗営業の許可申請が被上告人名義でされていることなど被上告人側の事情について十分調査をしなかつた点に過失があるものと判断している。 しかしながら、本件記録中には、上告人A3は、(1) 上告人A1とDの間に入つて紛争を仲裁した際、Dが自分名義でさえパチンコ営業をやらなければ他人名義でやつても上告人A1との間の競業禁止約定には反しな かしながら、本件記録中には、上告人A3は、(1) 上告人A1とDの間に入つて紛争を仲裁した際、Dが自分名義でさえパチンコ営業をやらなければ他人名義でやつても上告人A1との間の競業禁止約定には反しないと主張して譲らなかつた、(2) 本件建物の敷地買受けについて調査したところ、その交渉にあたつたのがD自身であることが判明した、(3) 本件建物の建築請負人であるGから、Dの依頼で建築工事に着手したもので、途中で紛争が生じたため被上告人名義の請負契約書を作成したが、実際の注文者はDである旨を聞いた、(4) パチンコ機械の販売業者から上告人A3が組合長をしているI協同組合に対し、a町b町に設備中のパチンコ店「H」のDなる者からパチンコ機械の注文があつたがこれに応じて差し支えないかどうかの照会があつた、(5) 被上告人名義に貸付をしている銀行の係員から、実際の借主はDであつて同人はもとの店を手放しa町で再びパチンコ営業をすることになつた旨を聞いた、(6) 警察署に風俗営業の許可申請について確かめたところ、被上告人が営業者、Dが管理者として届出られていることが判明した、(7) 被上告人は、上告人A1とDとの間で紛争が生じているのに表面にあらわれてきてこれを解決しようとしていない、などの事情から、本件建物で実際にパチンコ営業をするのはDであつて被上告人は単に名義を貸したにすぎず、また、本件建物はDの所有であると判断して前記証明書を作成したことをうかがわせる証拠があり、したがつて、右(1)ないし(7)の事情がそのとおりに認められた場合には、紛争の直接当事者ではなく第三者である上告人A3が前記証明書の記載内容を事実であると考えたことには無理からぬものがあるというべく、右証明書を作成し交付したことに過失があるといえるためには、他にこれを基礎づけるに足りる事 なく第三者である上告人A3が前記証明書の記載内容を事実であると考えたことには無理からぬものがあるというべく、右証明書を作成し交付したことに過失があるといえるためには、他にこれを基礎づけるに足りる事情の存す- 8 -ることを要するものというべきである。 原審は、前記証明書作成の根拠となつた右(1)ないし(7)の事情にはなんら言及することなく、かえつて、前記のように、上告人A3が本件建物の敷地が被上告人名義であることや風俗営業の許可申請が被上告人名義でされていることなど被上告人側の事情について十分調査をしなかつたことをもつて過失を基礎づけるための根拠としているが、建物の所有者と敷地の所有名義とは必ずしも一致するとは限らないことに鑑みると、上告人A3が右(3)のように本件建物の建築請負人であるGから事情を聞いたほか更に敷地の所有名義についてまで調査する義務を負うと解するのは相当でないし、また、風俗営業の許可申請が被上告人名義でされていることの調査をしたことは、上告人A3が上告人A1のために作成した前記証明書の記載自体から明らかであつて、原審の判断は、問題となつている当該書面の内容そのものをも看過した疑いがあるものである。そのほか、前述したような被上告人とDの親交の程度、被上告人がパチンコ営業をするに至つた経緯、本件建物の建築、開業準備の段階におけるDの役割、言動に鑑みるならば、被上告人とDのいずれが真実の営業者であるのか、あるいは、被上告人はDに対して単に名義を貸したにすぎないのではないのか、などの被上告人とDとの間の内部関係に属する事項について、信頼のおける回答を期待するのは困難というほかはないから、上告人A3が被上告人に対して直接に事実関係を確かめなかつたからといつて直ちに過失があると解するのは相当でないというべきである。 四以 、信頼のおける回答を期待するのは困難というほかはないから、上告人A3が被上告人に対して直接に事実関係を確かめなかつたからといつて直ちに過失があると解するのは相当でないというべきである。 四以上のとおりであつて、上告人A1が被上告人を相手取つて本件建物におけるパチンコ営業を禁止する仮処分を申請したこと、上告人A5及び同A8が本件建物をDの所有であるとして仮差押申請をしたこと、上告人A3が上告人A1及び同A8のために証明書を発行してやつたことにいずれも過失があるものとした原審の判断には、過失に関する法令の解釈適用を誤つたか、又は審理不尽、理由不備の違- 9 -法があるものといわざるをえず、右違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。 よつて、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、裁判官中村治朗の一部意見、一部反対意見、一部補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官中村治朗の一部意見、一部反対意見、一部補足意見は、次のとおりである。 私は、上告人A1ことA2(以下「上告人A1」という。)の上告にかかる部分については、原判決を破棄すべきものとする多数意見と結論を同じくするが、その理由を異にし、上告人A5ことA6(以下「上告人A5」という。)及び上告人A7、A8ことA9(以下「上告人A8」という。)の各上告にかかる部分については、多数意見と異なり右各上告を棄却すべきものと考えるものであり、その理由は以下に述べるとおりである。なお、上告人A3の上告にかかる部分については多数意見に同調するが、これについても若干の私見を附加しておきたいと思う。 第一上告人A1の関係について。 一上告人A1に対する被上告人の本訴請求は なお、上告人A3の上告にかかる部分については多数意見に同調するが、これについても若干の私見を附加しておきたいと思う。 第一上告人A1の関係について。 一上告人A1に対する被上告人の本訴請求は、同上告人が、被上告人に対し、被上告人が本件建物を使用してパチンコ営業をすることを禁止する仮処分をしたことをもつて上告人の不法行為であるとし、これによつて被上告人が被つた損害の賠償を求めるものであるところ、原審が、右仮処分は違法であり、前記上告人がこれを申請したことには過失があつたとしたのに対し、多数意見は、右判断中後者の部分には法令の解釈適用の誤りによる審理不尽、理由不備の違法があるとするものである。多数意見が右の結論をとるに至る過程には種々の論点が含まれており、その幾つかについては多数意見がとつていると考えられる立場には容易に賛同することができないものが存するので、以下に順を追つて問題点の所在とこれに対する私見とを明らかにしたいと思う。 - 10 -(一) 多数意見が引用する当裁判所昭和四三年(オ)第二六〇号同年一二月二四日第三小法廷判決・民集二二巻一三号三四二八頁は、仮処分命令が被保全権利不存在の故をもつて取り消され、又は本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、確定した場合には、他に特段の事情がない限り、右申請人に過失があつたものと推定すべきである、としている。この判決は、右の場合につき、仮執行宣言付判決に基づく執行後に右宣言又は判決が取り消された場合に民訴法が認めているのと同様の無過失損害賠償責任を一般的に仮処分申請者に課することを避け、過失の推定という方法を通じて、個々の具体的場合につき、右の推定を破る事由の存否、換言すれば仮処分申請者が被保全権利の存在を信じて右の申請に及んだことにつき相当な理由があつたかどうかによつて責任 、過失の推定という方法を通じて、個々の具体的場合につき、右の推定を破る事由の存否、換言すれば仮処分申請者が被保全権利の存在を信じて右の申請に及んだことにつき相当な理由があつたかどうかによつて責任の有無を決定せしめることとしたものであつて、仮執行制度と保全処分制度の各趣旨、目的、要件等の相違にかんがみると(前者の場合には早期執行の特別の必要ということは要件とされておらず、判決確定前の執行を許すのは債権者に対する一種の利益付与たる性質を有するから、債権者がこれを利用する以上これについての危険を負担してしかるべきであるということができるが、後者については保全の必要という特別の要件をみたすことが必要であり、その点において同一に論じ難いものがある。)、保全処分の場合については、これをめぐる紛争当事者間の損失負担の公平化の問題を、一義的にでなく、個々の具体的事情に即して解決することを妥当とするものである点において、私も、基本的には賛同したいと思う。すなわち、保全処分、なかんずく仮処分は、がんらい、その内容において多種多様であり、それぞれの仮処分が債権者及び債務者に与える影響、効果も区々であるから、右判決にいう相当性の有無を判断するにあたつても、当該処分がいかなる性質、内容、効果を有するものであるかに応じて、相当性の承認についてもおのずから緩厳の差が生じてしかるべきものであり、また、右相当性の判断にあたつては、その処分を必要とした具体的事情をも考慮し、これとの相関関係- 11 -において相当性の有無を決すべきものと考える。そしてこの見地に立つて考えると、被保全権利の仮定的実現を許すいわゆる満足的仮処分のごときものにおいては、具体的場合に仮処分申請の必要を生ぜしめた理由のいかんにより相違を生じうるとはいえ、原則としては右の相当性の判断につき実質的 被保全権利の仮定的実現を許すいわゆる満足的仮処分のごときものにおいては、具体的場合に仮処分申請の必要を生ぜしめた理由のいかんにより相違を生じうるとはいえ、原則としては右の相当性の判断につき実質的に無過失賠償責任を肯定するに近いところまで厳格な態度をとつてしかるべきであり、それがまた、対審手続のもとで厳格な証明に基づいて請求権を肯定した判決の仮執行についてさえ無過失賠償責任が認められていることとの対比においても妥当ではないかと考えるのである。 (二) 本件仮処分は、被上告人による本件建物でのパチンコ営業が、上告人A1が訴外DことE(以下「D」という。)との間で締結したa町内におけるDによるパチンコ営業禁止の契約に基づく同人に対する債権を侵害する行為であり、同上告人は被上告人に対して右侵害行為の排除を請求する権利を有するとして、これを被保全権利としてされたものであり、暫定的とはいえ一定期間当該行為を中止させることを内容とする満足的仮処分たる性質を有するものである。のみならず、本件仮処分には、もともと法律上果して右のような第三者による債権侵害行為に対する妨害排除請求権が成立しうるのかという根本的な法律問題が含まれているのであるが、仮にこの点を差し措いても、本件の場合、上告人A1が上記契約上Dに対していかなる具体的内容の請求権を有するのか、換言すれば、同上告人はDがその名において営業することの避止のみを請求しうるにすぎないのか、営業名義のいかんを問わずDが自己の計算において営業することの避止を請求しうるのか、更には他人の計算の下で行われる営業について管理者ないし支配人的立場で現実にパチンコ営業に携わることをも禁止する権利を有するのかという問題があり、その権利内容のいかんに応じて排除の対象となりうる第三者の侵害行為の内容及び範囲も異なるはずで て管理者ないし支配人的立場で現実にパチンコ営業に携わることをも禁止する権利を有するのかという問題があり、その権利内容のいかんに応じて排除の対象となりうる第三者の侵害行為の内容及び範囲も異なるはずであるから、本件仮処分申請においても、その権利内容に応じて、例えばDの行うパチンコ営業に被上告人の名義を使用させることの禁止を求めるとか、Dを管理者な- 12 -いし支配人としてパチンコ営業にあたらしめることの禁止を求めるというように具体的に排除対象行為を限定的に特定してこれをすべきであるのに、これらの一切を無視して広く包括的に被上告人が本件建物においてパチンコ営業をすること自体の禁止を求めているのであるから、この点においてもそれ自身法律上極めて疑義のある仮処分申請であるのみならず、申請にかかる仮処分の文言からは被上告人がDと無関係に行うパチンコ営業をも禁止する内容を含むものと受けとられる点において、被保全権利の範囲を超える仮処分申請ではないかとの疑問をも払拭することができないようなものであり、仮にこの点を不問に付するとしても、このような仮処分は、被上告人が全くのロボツト的存在で、Dが関与しない限り被上告人自身が本件建物でパチンコ営業をするなどということはおよそありえないというような特別の場合にのみ考えられるようなものではないかと思われるのである。もとよりこれらの法律上の問題点は、本来は仮処分裁判所において申請の許否及び仮処分命令の内容の決定にあたつて検討、吟味すべき事項であり、仮処分裁判所がこの点の判断を誤つた場合にまず咎められるべきは当該裁判所であろうが、このことはかかる仮処分を申請した者を免責する理由となるものではないと思われる。加えて、本件の場合、仮処分申請が容れられると、すでに相当多額の資本を投下したとみられる被上告人は極めて大き あろうが、このことはかかる仮処分を申請した者を免責する理由となるものではないと思われる。加えて、本件の場合、仮処分申請が容れられると、すでに相当多額の資本を投下したとみられる被上告人は極めて大きな損失をこうむる可能性があるのに対し、申請人である上告人A1が被上告人のパチンコ営業によつて受ける被害は、競争者の出現による顧客の減少という通常の場合事業者として予想し、甘受しなければならない不利益を一時的に受けるというにすぎないのである。以上の諸点をあわせ考えると、本件の場合には、当事者間の損失負担の公平化の見地からみて、余程の事情の存在が認められない限り、上告人A1が本件仮処分を申請したことについて相当な理由があつたとすることはできないというべきではないかと思う。 (三) 原審の認定するところによると、被上告人は、昭和四〇年秋ごろ、かねて- 13 -親交のあつたDの勧めで同人を雇傭してパチンコ店を経営するつもりになり、本件建物の敷地を当時地上にあつた建物ごとその所有者から買い受け、同年一一月一六日土地について所有権移転登記を経由し、地上建物を解体して本件建物の建築を大工訴外Gに請け負わせ、同年一二月六日、本件建物において「H」という名称で風俗営業の許可申請をし、同月二〇日本件建物の建築確認申請をしてその確認を受け、同月二二日ごろ建物が完成し、同人から家屋所有者証明書をも得て自己名義に保存登記申請手続を準備していたところ、同月二〇日本件仮処分を受け、更に翌四一年一月一〇日及び同月一七日に本件建物につき後述の仮差押決定を受けたため、本件建物につき自己名義の所有権保存登記をすることも、本件建物でパチンコ営業をすることもできなくなつた、上告人A1は、(1) 同上告人は従来Dとa町でパチンコ店を共同経営していたが、昭和四〇年九月二九日Dに金三〇〇 己名義の所有権保存登記をすることも、本件建物でパチンコ営業をすることもできなくなつた、上告人A1は、(1) 同上告人は従来Dとa町でパチンコ店を共同経営していたが、昭和四〇年九月二九日Dに金三〇〇万円を支払うのと引換えに同人の共同経営権を譲り受け、前記パチンコ店営業避止の約定を結んだものであること、(2) 本件建物の建築に関し大工Gと契約の締結その他について事実上の接衝にあたり、また、パチンコ機械の購入等の営業準備行為を行つたのがDであつて被上告人ではないこと、(3) 被上告人は本件建物の所在地からかなり離れている青森市内で米穀商を営んでいる女性であり、従来パチンコ営業を経営した経験はないこと、(4) 被上告人がかねてDと親交があつたこと、以上の諸点から、本件建物においてパチンコ営業を行うのはDであつて被上告人ではなく、被上告人は単に形式上営業者の名義を貸したにすぎないと考えて本件仮処分に及んだ、なお本件仮処分命令は、その後被上告人の異議訴訟によつて取り消された、というのであり、原審は、以上の事実関係のもとでは、上告人A1が前記本件建物の敷地の所有関係、パチンコ店営業の許可申請の名義人が誰であるかなどについて全く調査せず、被上告人に事の真相を照会するなどの手段を講ずることもなく、上記の諸点のみから被上告人を単なる営業名義貸与者にすぎないと誤信して本件仮処分申請をし- 14 -たことにつき、同上告人に過失があるといわざるをえないと判断したものである。 これに対し、多数意見は、上記(1)ないし(4)の事実のほかに、本件記録中には、(5) 前記風俗営業の許可申請に際しては、被上告人を営業者、Dを管理者として届出がなされ、実際にもDを責任者としてパチンコ営業を行わせることが予定されていたこと、(6) 本件建物の建築をめぐつて上告人A1とDとの 営業の許可申請に際しては、被上告人を営業者、Dを管理者として届出がなされ、実際にもDを責任者としてパチンコ営業を行わせることが予定されていたこと、(6) 本件建物の建築をめぐつて上告人A1とDとの間に紛争が生じ、それが更に警察問題にまで発展した際、両者間に話合いがもたれたり、警察による事情聴取がされたりしたが、それらの場合に被上告人があらわれて話合いに加わつたり、なんらかの申入をしたりしてきたこともなかつたことをうかがわしめるような証拠があり、仮にこれらの事実があるとした場合には、これと上記(1)ないし(4)の事実をあわせ考えると、被上告人名義のパチンコ営業が前記上告人A1とDとの間の競業禁止約定に基づく同上告人の権利の侵害行為にあたるとみられてもやむをえないものがあるというべきであり、そうである以上、同上告人が自己の権利の確保のため本件仮処分申請をしたのも無理からぬところであつて、冒頭掲記の当裁判所の判例にいう過失の推定を覆えすべき特段の事情があると解しえないではないとしている。 確かに、多数意見の指摘する諸点は、上告人A1に、本件建物におけるパチンコ営業の実際の主体がDであり、被上告人はDの依頼により単に名義を貸与したものにすぎないのではないかとの強い疑念を抱かしめるに足りるものであつて、同上告人がそう考えたとしても直ちに同人に過失があるとはいい難いといえるかもしれない。したがつて、通常の契約の締結の場合とか、緊急の短期間内における判断を必要とするような場面においては、同上告人の右判断が誤りであつたとしてもそれにつき過失の責を負わしめることは酷に失すると結論することもあながち不当とするにはあたらないであろう。しかし、よく考えると、上記の(1)ないし(6)の諸事情は客観的にみた場合必ずしも被上告人が単なる営業名義の貸与者にすぎない ことは酷に失すると結論することもあながち不当とするにはあたらないであろう。しかし、よく考えると、上記の(1)ないし(6)の諸事情は客観的にみた場合必ずしも被上告人が単なる営業名義の貸与者にすぎないとの推- 15 -断を下さしめるに足りるものではなく、被上告人がDを使つて(同人を営業の管理者ないし支配人として)実際にパチンコ営業を営むものであるという原審認定の事実と完全に両立しうるのであつて、かかる可能性を排除するような性質の事情ではないのである。そして、さきに述べたように、本件仮処分が、暫定的とはいえ上告人A1の権利の実現をはかる満足的仮処分で、しかも極めて包括的な禁止内容を含むそれであり、仮処分の結果が被上告人に重大な不利益を与えるものであるのに反して、右上告人の仮処分の利益はそれほど大きくなく、かつ、被上告人名義の本件建物におけるパチンコ営業をその開業前に差し止めなければならないような格別の緊急性があるものとも考えられない等の諸点に加えて、右のような包括的な禁止内容の仮処分は、せいぜい本件建物におけるパチンコ営業については、被上告人が単なる名義貸与者で、いわばロボツト的存在にすぎないことがかなり高度の確実性をもつて推断される場合にのみ許されてしかるべきものであると考えられることに照らすと、上告人A1が、さきに指摘したような別の可能性に意を用いることなく、したがつて、右の点について格別の調査をする等の配慮を施すこともなく、急遽右のような疑義の多い強力な内容と効果をもつ本仮処分申請に及んだことにつき、同人を免責せしめるに足りる相当の理由がないとはいえないとする多数意見の見解にはとうてい賛同することができないのである。多数意見は、原審が上告人A1において被上告人につき事の次第の照会を求める等のことをしなかつたことを掲げて同上告人の有 いとはいえないとする多数意見の見解にはとうてい賛同することができないのである。多数意見は、原審が上告人A1において被上告人につき事の次第の照会を求める等のことをしなかつたことを掲げて同上告人の有責性の一事由としていることをとらえて、このような照会をしても右の点について信頼のおける回答を期待するのは困難であるとして原審の右判断を不当としているが、右原判示の趣旨とするところは、被上告人について上記のような疑問点の調査をすべきものであるというにあると解すべく(被上告人に対する直接の照会はその一手段、一ステツプにすぎない。)、このような調査が不可能か徒労であるとあらかじめ断ずべき根拠はないのであるから、多数意見のように断ずること- 16 -は早計であるといわなければならない。後述するように、本件建物の敷地が被上告人の所有名義となつている以上、本件建物をDの所有と断ずるについては当然右土地の利用関係について調査すべく、また、Dが本件建物を借り受けて営業をするというのなら、この点についても調査すべきものであるし、更に、要すれば、営業資金の出所等について調査する必要も生じうるのであつて、要するに、本件において営業の実際の主体がDであり、被上告人は全く単なる名義人にすぎないとの推断を下すためには、かなり多方面にわたる調査が必要なのであり、このような推断の上に立つて前記のような法的手段に訴えるためには、たとえその結果が実りの薄いものであるとしても、なお右のような慎重な調査を尽くすべきが相当であるといつて妨げがないと思われる。もつとも、原審は、過失の推定を覆えす事由の存否についてというよりもむしろ上告人A1の一般的意味における過失の存在を積極的に肯定するという形で判断を示しており、果してこのような積極的な認定判断が可能かどうかについては問題なしとしな す事由の存否についてというよりもむしろ上告人A1の一般的意味における過失の存在を積極的に肯定するという形で判断を示しており、果してこのような積極的な認定判断が可能かどうかについては問題なしとしないけれども、右判断は、過失の推定を覆えす事由の存在を否定する趣旨でされているか、ないしはこれを含むものと解することができないではなく、仮にそうでないとしても、この点の不当は上告人A1の不法行為責任を肯定した原判決の結論自体の当否に影響を及ぼすものではないというべきである。 以上の次第であるから、上告理由第一点中上告人A1に関する部分は、理由がないとすべきであると考える。 二右に述べたように、上告人A1の不法行為責任を認めた原審の判断に違法があるということはできないが、本件仮処分によつて被上告人が右仮処分につき上告人A1が提供した保証金二〇〇万円の限度で損害をこうむつたとする原審の認定には、問題がある。すなわち、原審は、被上告人が本件仮処分によつてパチンコ営業を行うことができなかつたため得べかりし利益を喪失したとして主張する金額につ- 17 -き、本件にあらわれた証拠からは右被上告人主張のような営業上の利益が得られたはずであると断ずることにはちゆうちよされるとしたうえ、卒然として右の利益の喪失分は前記仮処分の保証金額の二〇〇万円を超える分については認定し難いと解するのが相当であるから、右の限度で損害額を算定するものとする旨判示している。 しかし、右判示が仮処分において保証金の提供が命ぜられた場合には仮処分債務者は当該仮処分によつて少なくともその金額だけの損害をこうむつたものと推定すべきものであるとの見解に立つものであれば、もとよりそれが誤りであることは明らかであり、そうではなく、少なくともその金額の損害はあつたと認定する趣旨であるとすれば だけの損害をこうむつたものと推定すべきものであるとの見解に立つものであれば、もとよりそれが誤りであることは明らかであり、そうではなく、少なくともその金額の損害はあつたと認定する趣旨であるとすれば、その認定が具体的にどのような根拠によるものであるかについて原判決はなんら特段の説明を加えていないといわざるをえない。そうすると、右の点に関し原判決には証拠に基づかないで事実を認定したか、又は理由不備の違法があるというほかはなく、したがつて、上告理由第二点中右の点を指摘する部分は理由があり、原判決中上告人A1に関する部分は右の理由によつてこれを破棄し、右部分を原審に差し戻すべきものである。 第二上告人A5、同A8の関係について。 右上告人らの不法行為とされるものは、本件建物が被上告人の所有であるにかかわらず、その故意又は過失によりこれをDの所有であると誤信し、同人に対する手形金債権に基づいてこれを仮に差し押えた行為であり、被上告人は、その後これに対して第三者異議の訴えを提起して勝訴判決を得、その判決の確定後右不法行為による損害の賠償を右上告人らに請求しているものである。ところで一般に債権者が債務者の責任財産を保全するためにする仮差押は、被保全債権が存在し、目的物が債務者の責任財産に属するものである限り、比較的容易に発せられるのが実情であつて、この場合後日保全の必要性を欠くとして仮差押が取り消されることがあつても、右必要性があるとして仮差押に及んだことにつき債権者に故意又は過失が認め- 18 -られない限り、債権者は不法行為責任を負うことはないと考えてよい。しかし、目的物が債務者の責任財産に属せず、第三者の所有であつたという場合にはこれと同一に論ずることはできず、原則として右物件を債務者の責任財産に属すると誤信したことに無理からぬ事情があ えてよい。しかし、目的物が債務者の責任財産に属せず、第三者の所有であつたという場合にはこれと同一に論ずることはできず、原則として右物件を債務者の責任財産に属すると誤信したことに無理からぬ事情があつたことを債権者において立証しない限り、債権者は不法行為責任を免れることはできないと解される。 ところで、本件仮差押は、本件建物の建築が完了し、その引渡がされたのち、所有権保存登記がされる前の段階においてされたものであつて、その結果、仮差押の執行として執行裁判所からの嘱託に基づいて執行債務者Dの名義で所有権保存登記がされ、次いで仮差押登記がされたため、物件所有者である被上告人が自己の名義の登記を取得するために右所有権保存登記の抹消についての同意の請求及び第三者異議の訴えを起こすことを余儀なくされ、結局これに勝訴して始めて自己の名で所有権保存登記をすることができたという事案である。つまり、不動産についてその所有者を判定すべき最も重要な徴表である登記が欠除している場合における所有権の帰属の判断が関係してくる案件なのである。しかも、建物を建てたけれども所有者が早急に登記をする必要がないとしてそれを放置していたという場合とは違つて、建築の完成から登記に至る間のいわば寸隙をねらつて行われた仮差押であるという特殊性をも帯有している。そうすると、このような特殊性をもつ本件仮差押申請をするにつき、上告人A5、同A8に過失の推定を覆えすに足りる特別の事由があつたかどうかを判断するためには、右仮差押による債権保全の必要性及び緊急性との相関関係の下において、右上告人らに対し所有権の帰属関係等につきどの程度の調査義務が要求されるかということと、申請者が現実にかかる調査義務を果したかどうかという点の検討を逸することはできないと考えられる。 そこで、進んで右の観点から し所有権の帰属関係等につきどの程度の調査義務が要求されるかということと、申請者が現実にかかる調査義務を果したかどうかという点の検討を逸することはできないと考えられる。 そこで、進んで右の観点から本件をみると、原審は、前記第一の一の(三)に掲げたような事実関係を認定したうえ、上告人A5、同A8は、上告人A1と交際があ- 19 -つたところから、同上告人や上告人A3の言動(本件パチンコ営業の主体はDであり、本件建物を同人が大工Gに請け負わせて建築したものであることを言明し、そのような認識の下に本件仮処分申請等の挙に出ていることを指すものと解される。)から本件建物がDの所有であると信じて本件各仮差押に及んだものと推認されるとし、上告人A1の場合と同じく、(1) 本件建物の敷地が被上告人名義に所有権移転登記がされていることや、(2) 風俗営業の許可申請が被上告人名義でされていることなどについて全く調査せず、(3) 同人に事の真相を照会するなどの手段をも講じていない点において、右のような誤信に基づいて前記各仮差押の申請をしたことには過失あるといわざるをえないと判示しており、これに対し多教意見は、右(1)(2)の点についての調査義務懈怠をもつて右上告人らの過失とすることはできず、被上告人に対する照会義務のごときは仮差押の密行性の要請からも肯認し難いとし、原審の認定した事実によればDは被上告人の名を出さないでGに本件建物の建築を依頼していること、及び記録によれば右上告人らの本件各仮差押申請書には「私はDから本件建物の建築を注文されてこれを請負い工事を完了した」旨のGの証明書が添付されていることが窺われることからみて、右上告人らが本件建物の所有者をDと信じたことを相当とする特段の事情があるものと推認すべき余地が十分にあるとの見解の下に、原審がGの した」旨のGの証明書が添付されていることが窺われることからみて、右上告人らが本件建物の所有者をDと信じたことを相当とする特段の事情があるものと推認すべき余地が十分にあるとの見解の下に、原審がGの右証明書の作成の経過、内容の信用性等の検討を怠つたことに違法があると断じている。 しかしながら、上告人A5と同A8とが本件建物をDの所有と信じた理由は、多数意見によつても、大工Gが本件建物をDからの依頼によつて建築したものである旨の前記証明書を交付していることと、上告人A1や同A3から本件建物はパチンコ営業のために建築されたもので、右の営業の主体はDである旨を聞かされたことの二点しかなく、それ以上右上告人らが事の真相を調査するための特段の措置を講じた形跡は存しないのである。およそ新築の未登記建物の所有者が誰であるかを判- 20 -別するためには、一般的にいつてその敷地の所有者が誰で、右建物の建築者と同一人であるかどうか、別人であるとすれば当該敷地の利用関係がどうなつているかが判断の重要な一要素をなすものであり、本件においても、上告人A5らがこの点を調査すれば、前記のように本件建物の敷地が被上告人に所有権移転登記されていることが直ちに判明したはずであるから、右上告人らとしては、本件建物の所有関係を判断するためには当然Dと被上告人との関係や敷地の利用関係の有無・内容等を調査すべきものであつたといわなければならない。また、記録によれば、本件建物の建築確認申請は被上告人の名でされ、その確認もされているのに、上告人A5らは右確認申請が誰の名でされたかは全く念頭になく、この点の調査は全然していないことが窺われるところ、もし右の事実が判明すれば当然にこのような確認申請がされた事情等について調査しなければ真の建築主が誰であるかを判定できないこととなる筋合 頭になく、この点の調査は全然していないことが窺われるところ、もし右の事実が判明すれば当然にこのような確認申請がされた事情等について調査しなければ真の建築主が誰であるかを判定できないこととなる筋合であるから、この点においても右上告人らに調査義務の懈怠があるといわざるをえないであろう。もとより、右上告人らがこれらの調査をするについては、それが、実際に不可能ないしは難きを強いるか、又は無駄な労力を要求するものであると認められるような特段の事情があればあるいは別の結論になるかもしれないが、このような事情の存在は本件においては見あたらないのである(もつとも、多数意見によれば、右のような事情調査については被上告人についてこれを行わなければならない必要が生ずべく、このことは仮差押の密行性の要請に反し、これを右上告人らに要求ないし期待することは妥当でなく、また、実際にそれを行つても大して得るところはない結果になるとされるかもしれない。しかし、右のうち前者の点についていえば、Gに仔細を尋ねる等して事を明らかにするとか、Gを通じて本件建物の建築についての被上告人とDの関係を聞かせたりすることは、仮差押の密行性の要請の限界内においても当然に可能であつたはずであり、また、後者の点については、さきに第一の一の(三)でも述べたように、かかる調査が結局徒労である- 21 -と推断することはできず、ましてそのことがあらかじめわかつていたというような事情であつたとは認め難いのである。)。 次に、本件各仮差押の必要性と緊急性をみると、前記のように被上告人の名で建築確認がされているところからすると、仮に本件建物が実際にはDの所有であるとすれば、それが被上告人名義に所有権保存登記がされ、上告人A5、同A8が自己の債権の強制的満足をはかるうえで重大な阻害となる可能性が多分 ているところからすると、仮に本件建物が実際にはDの所有であるとすれば、それが被上告人名義に所有権保存登記がされ、上告人A5、同A8が自己の債権の強制的満足をはかるうえで重大な阻害となる可能性が多分に存するから、右の緊急性と必要性の存在は容易に肯定できるし、その緊急性の点から右上告人らの調査義務の範囲にある程度の限界が生ずることも十分に考えられるところである。 しかし、右上告人らは前記のように建築確認の申請が誰の名でされているかについて全く関心を払わず、したがつて右のような危険を感じて本件各仮差押に及んだものではないのであり、少なくともその主観的認識にかかる事実の下においては、同上告人らが更に詳細な調査を行うだけの余裕がないほどの緊急性があつたと推断すべき事情は存在しないのである。そうであるとすれば、右上告人らが、前記のような理由のみに基づいて本件建物をDの所有と信じ、これに対して本件各仮差押の申請に及んだことについては、これを無理からぬとすべき相当な理由があつたということは困難であると考える。原審の判示には、第一に述べたと同様の問題や不備があるが、この点についても同所で述べたと同様の理由により原判決はその結論においては相当として支持しえないではなく、これを破棄しなければならないほどの違法があるとは認められない(もつとも、記録によれば、本件においては、被上告人は一切をDに委ねたのみで、請負人のGとも一度も接触せず、代金の支払遅延の問題が生じたのにこれについてなんらの処置も講じていないことが窺われ、この点において上告人A5らに上記のような誤信を生ぜしめたことについては被上告人の側にもその責に帰すべき点がなかつたとはいえないことが窺われるが、このことは、過失相殺の事由として考慮されるのは格別、右上告人らの損害賠償責任の成否につ- 22 - しめたことについては被上告人の側にもその責に帰すべき点がなかつたとはいえないことが窺われるが、このことは、過失相殺の事由として考慮されるのは格別、右上告人らの損害賠償責任の成否につ- 22 -いての上の結論を左右するに足りるものではない。)。それ故、上告理由第一点中上告人A5、同A8に関する部分は、理由がないとすべきものである。 なお、上告理由第二点中右上告人らに関する部分についてみるのに、同上告人らの不法行為によつて生じた損害と上告人A1の不法行為によつて生じた損害とが事実上一部重複する場合においても、判決において右各不法行為者に対しそれぞれこれによつて生じた損害の全部分についての賠償を命ずることに格別の支障があるとはいえないから、右部分の論旨も理由がない。 そうすると、上告人A5、同A8の本件上告はいずれも棄却すべきものである。 第三上告人A3の関係について。 原審は、上告人A3は、上告人A1が本件仮処分を申請するにあたり、本件建物でパチンコ営業を行うのがDであり、また、本件建物の所有権もDにあり、被上告人は新規にパチンコ店を経営する資力はなく、Dの依頼によつて名義を貸したにすぎない旨の証明書を交付し、また、上告人A8に対しても、本件建物がDの所有で、同人には債務が多く、他人名義に保存登記するおそれがある旨の証明書を交付してやり、これによつて右上告人らによる違法な仮処分申請、仮差押申請の目的を達することを得させたと認定し、上告人A3にも、上記真実に反する証明書の交付につき上告人A1らと同じく営業主体や本件建物の所有関係につき調査を尽くさない過失があつたものとして、不法行為による損害賠償責任を認めている。しかしながら、上告人A3が上告人A1及び同A8と各その仮処分申請、仮差押申請を共謀し、かつ、積極的にこれに協力したというの くさない過失があつたものとして、不法行為による損害賠償責任を認めている。しかしながら、上告人A3が上告人A1及び同A8と各その仮処分申請、仮差押申請を共謀し、かつ、積極的にこれに協力したというのであればともかく(被上告人の主張はむしろその趣旨ではないかと思われる。)、そうでないとすれば、上告人の不法行為とされるものは、上告人A1、同A8の不法行為である仮処分申請、仮差押申請行為に対し、同人らに対する各証明書交付という形でその幇助行為をしたというにとどまるのであつて、かかる行為に関する過失責任を判断するについては、右仮処分ない- 23 -し仮差押申請者による各申請行為自体についての過失の有無の判断とは直ちに同一に論じ難いものがあるといわなければならない。換言すれば、上告人A3の右行為について同上告人の不法行為責任を肯定するためには、右の証明書の作成について同上告人に過失があつたこと、及び上告人A1の仮処分申請、同岡原の仮差押申請が適法、正当であると考えたことについても過失があつたことがそれぞれ積極的に立証されなければならず、この場合、上告人A1に対する幇助行為については、第一に掲げたような過失の推定やこれを覆えす事由の存在についての厳格な基準に関する論述は妥当せず、また、上告人A8に対する幇助行為についても、同様に第二に掲げたような厳格な基準に関する論述は妥当しないのである。しかるに原審は、前記のような共謀と積極的協力の事実を認定してはいない。そうすると、右上告人A1らにつき過失の推定を覆えすに足りる相当な事由の存在が認められない点において同上告人らの不法行為責任を認めた原審の判断は結局支持しうるとした前記第一及び第二の説示は、上告人A3の場合には当然には妥当しないといわざるをえない。そして、原判決の判示する理由だけからは、上告人A 同上告人らの不法行為責任を認めた原審の判断は結局支持しうるとした前記第一及び第二の説示は、上告人A3の場合には当然には妥当しないといわざるをえない。そして、原判決の判示する理由だけからは、上告人A3につき前記のような過失があると積極的に認定するに足りないものがあることは、多数意見の指摘するとおりである。そうすると、この点において原判決中上告人A3に関する部分は破棄を免れないと考えざるをえない。 最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官本山亨裁判官団藤重光裁判官藤崎萬里裁判官中村治朗裁判官谷口正孝- 24 -

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