- 1 -令和5年10月5日判決言渡令和4年(行ケ)第10125号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和5年8月1日判決 原告ザケマーズカンパニーエフシーリミテッドライアビリティカンパニー 同訴訟代理人弁護士大野聖二大野浩之 被告 AGC株式会社 同訴訟代理人弁護士片山英二大月雅博黒田薫岩間智女辛川力太 同訴訟代理人弁理士加藤志麻子 主文 1 特許庁が無効2020-800082号事件について令和4年8月16日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 - 2 -第1 原告の求めた裁判主文同旨第2 事案の概要本件は、特許第6585232号の請求項1から7までに係る発明についての特許を無効とした審決の取消訴訟であり、争点は、特許法134条の2において準用 する同法126条5項に規定する訂正要件違反の有無である。 1 特許庁における手続の経緯(弁論の全趣旨)(1) 原告は、発明の名称を「2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含 む組成物」とする発明に係る特許(特許第6585232号。以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件 1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含 む組成物」とする発明に係る特許(特許第6585232号。以下「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許は、平成30年5月28日に分割出願がされ(原出願日平成21年5月7日、パリ条約による優先権主張平成20年5月7日・米国)、令和元年9月13日に特許権の設定登録(甲55)がされたものである。 (2) 被告は、令和2年9月18日、本件特許(請求項の数7)について、無効審 判請求をし、特許庁はこれを無効2020-800082号事件として審理した。 特許庁は、令和3年10月13日、審決の予告をし(甲50)、原告は、令和4年1月17日、訂正請求書(甲52。以下、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)を提出して、本件特許の特許請求の範囲を訂正することを求めたが、特許庁は、同年8月16日、本件訂正は認められないとした上で、「特許第658523 2号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。なお、出訴期間として、在外者に対し90日を附加)をし、その謄本は、同月26日、原告に送達された。 原告は、同年12月15日、本訴を提起した。 2 発明の要旨 (1) 本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項1から7までの記載は次- 3 -のとおりである(以下、「請求項」というときは、特に断らない限り、本件特許の特許請求の範囲の請求項をいう。)。 【請求項1】HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbと、を含む組成物。 【請求項2】冷媒としての請求項1に記載の組成物の使用。 【請求項3】空調、冷凍庫、冷蔵庫、ヒートポン 4yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbと、を含む組成物。 【請求項2】冷媒としての請求項1に記載の組成物の使用。 【請求項3】空調、冷凍庫、冷蔵庫、ヒートポンプ、水冷器、満液式蒸発冷却器、直接膨張冷却器、遠心分離冷却器、ウォークインクーラー、可動式冷蔵庫、可動式空調ユニッ トおよびこれらの組み合わせにおける冷媒としての請求項1に記載の組成物の使用。 【請求項4】エアロゾル噴霧剤としての請求項1に記載の組成物の使用。 【請求項5】発泡剤としての請求項1に記載の組成物の使用。 【請求項6】熱を熱源からヒートシンクへ伝える組成物を含む請求項1に記載の組成物を用いる方法。 【請求項7】液体から気体まで相転移し戻る組成物を含むサイクルにおいて冷媒として請求項 1に記載の組成物を用いる方法。 (2) 本件訂正の内容請求項1の「を含む組成物」の記載を「を含む組成物(HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物を除く)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2から7までも同様に訂正する。)。 3 本件審決の理由の要点- 4 -(1) 本件訂正の訂正要件適合性についてア本件訂正に係る訂正事項1は、前記2(2)のとおりである。 イ本件特許に係る願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)中には、「HFO-1234yf」、「HFC-254eb」及び「HFC-245cb」の全てを含む組成物に関する記載として、表5(【表6】) の温度(℃)が「500」の欄及び表6(【表7】)の時間が「3」の欄に、それぞれ、これらの成分の含有量(モルパーセント)を示したものが記載されている。 これらは、リ として、表5(【表6】) の温度(℃)が「500」の欄及び表6(【表7】)の時間が「3」の欄に、それぞれ、これらの成分の含有量(モルパーセント)を示したものが記載されている。 これらは、リアクタからの流出物の成分をオンラインGCMSを用いて分析したものであって、表5(【表6】)はリアクタの温度を変更した際の流出物の成分を示すものであり、表6(【表7】)は、リアクタの温度を575℃及び400℃として、 周期的に採取された流出物の成分を示すものである。これら2つのもの以外は、いずれも、「HFO-1234yf」、「HFC-254eb」及び「HFC-245cb」を同時に全て含むリアクタからの流出物は示されていない。 そうすると、本件明細書等には、「HFO-1234yf」、「HFC-254eb」及び「HFC-245cb」の全てを含む組成物が、その他の多数の組成物と特段 区別されることなく一体となって記載されているだけである。 また、本件明細書等には、「HFO-1234yf」、「HFC-254eb」及び「HFC-245cb」を同時に含む組成物については、裏付けをもって実質的に記載されているとは認められない。 本件訂正のような、いわゆる「除くクレーム」に数値範囲の限定を伴う訂正が新 規事項を追加しないものであるというためには、「除く」対象が存在すること、すなわち、訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。以下、請求項の数に応じてそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」などといい、本件発明1から本件発明7までを併せて「本件発明」という。)において、「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」が含まれているといえるか、または、「除く対象」 が存在しないとしても、訂正後の請求項1に係る発明(以 せて「本件発明」という。)において、「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」が含まれているといえるか、または、「除く対象」 が存在しないとしても、訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明1」と- 5 -いう。)には、「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が含まれることが明示されることになるから、本件発明1に「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が含まれているといえる必要があると解される。 しかしながら、訂正前の請求項1には、HCFC-225cbについての規定はなく、請求項1を引用する請求項2~7においても、HCFC-225cbについ ての規定はないし、本件明細書等にも、HCFC-225cbについての記載を見いだすことはできず、本件発明1に「HCFC-225cb」が含まれているかどうかは判然としない。さらに、本件明細書等に記載されたいずれかの反応生成物にHCFC-225cbが含有されるものであるという技術常識も存在しない。 ましてや、本件明細書等には、HCFC-225cbについての記載がないので あるから、その含有量については不明としかいうほかない。すなわち、本件発明1が「HCFC-225cb」を含むことは想定されていないというべきである。 そうすると、本件発明1に「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」が含まれているということはできないし、本件発明1に「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が含まれているということもできない。 ウ以上のとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、新規事項を追加するものに該当し、特許法134条の2 ウ以上のとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、新規事項を追加するものに該当し、特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項の規定に違反する。 したがって、本件訂正は認められない。 (2) 本件発明の有効性についてア甲4(国際公開第2007/086972号)には、「CF3CF=CH2(HFC-1234yf)(10%)、CF3CF2CH3(20%)、CF3CFHCH3(48%)、HCFC-225cb(20%)を含む揮発性物質」(以下「甲4発明」という。)が記載されており、本件発明1は甲4発明である。また、本件発明2から7 までは甲4発明であるか、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明することができ- 6 -たものである。したがって、本件発明は、特許法29条1項3号の規定に該当するか、同法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、無効理由3(新規性・進歩性)には理由がある。 イ付言するに、被告が主張する無効理由1(明確性要件違反)、同2(サポート要件違反)、同4(分割要件違反を前提として、甲14(国際公開第2008/07 9265号)に基づく新規性・進歩性欠如)及び同5(分割要件違反を前提として、甲16(特表2011-520017号公報)に基づく新規性欠如)はいずれも採用することができない。 第3 原告の主張する取消事由本件審決は、次のとおり、本件訂正についての訂正要件適合性に係る判断に誤り があるところ、この誤りは、無効理由の存否の審理の対象となる発明の要旨認定に帰することとなり、審決の結論に影響を及ぼすから、本件審決は、違法として取り消されるべきである。 1 本 に誤り があるところ、この誤りは、無効理由の存否の審理の対象となる発明の要旨認定に帰することとなり、審決の結論に影響を及ぼすから、本件審決は、違法として取り消されるべきである。 1 本件特許に係る願書に添付された明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)には、「HFO-1234yf」、「HFC-254eb」及び「HFC-24 5cb」の全てを含む組成物が開示されている(本件明細書の【表6】、【表7】)。 そして、本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、本件審決が認定したとおり、明確性要件及びサポート要件を満たすものであり、本件訂正は、サポート要件を満たす請求項1の記載から、本件明細書に記載されていない「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」を除くものにすぎないから、 新たな技術的事項を付加するものではない。 2 本件訂正は、「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が権利範囲に含まれることを明示するものではなく、任意の構成要素であった「HCFC-225cb」を1重量%以上で含有する組成物を除くことを明確化するものである。 (1) 本件審決は、「本件訂正のような、いわゆる「除くクレーム」に数値範囲の限- 7 -定を伴う訂正が新規事項を追加しないものであるというためには、「除く」対象が存在すること、すなわち、本件発明1において、「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」が含まれているといえるか、または、「除く」対象が存在しないとしても、本件発明1に「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が含まれているといえる必要があると解される。」としたが、この判断は誤りで ある。 (2) ソルダーレジスト大合議判決(知財高裁平成18年(行ケ C-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が含まれているといえる必要があると解される。」としたが、この判断は誤りで ある。 (2) ソルダーレジスト大合議判決(知財高裁平成18年(行ケ)10563号同20年5月30日判決・判タ1290号224頁)は、「当該特許出願に係る明細書又は図面には先願発明についての具体的な記載が存在しないのが通常であるが、明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても」、 「明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し、新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り、「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」する訂正であるというべきである。」と判断した。 そして、本件訂正により、本件明細書に一切記載されていない「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」を請求項の範囲から除外することによっ て、「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」が権利範囲から除かれることが明確になるだけであるから、本件訂正は、「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」を権利範囲に含める訂正ではなく、請求項を限定するものである。本件訂正は、ソルダーレジスト大合議判決の事案と同様に、引用発明の内容となっている特定の組合せを除外することによって、本件明細書に記載され た本件発明に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているものとはいえないから、本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでない。 (3) 本件審決に示されているとおり、「本件発明1が「HCFC-225cb」を含むことは想定されていない」ことからすると、本件訂正は、含むことが想定され ていない「HCFC-225cb」に関して、1重量%以 に示されているとおり、「本件発明1が「HCFC-225cb」を含むことは想定されていない」ことからすると、本件訂正は、含むことが想定され ていない「HCFC-225cb」に関して、1重量%以上で含有されることを除- 8 -外することをクレームにおいて明確化するものにすぎず、第三者に不測の損害が発生する態様で、本件訂正前の発明に関する技術的事項に変更を生じさせるものではない。 (4) 本件訂正は、先行文献(甲4)との重複を回避するための訂正であるが、甲4で示されている範囲よりも広範な範囲で権利範囲から除外するものであり、第三 者に不測の損害をもたらすものではなく、何ら問題のないものである。 また、甲4には、HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物が開示されているといえるから、本件訂正は、甲4によって新規性や進歩性が否定される可能性をより下げるためのものであり、仮に被告の主張するように、先願発明と同一である部分を除外する訂正でなければならないものだとしても、「HCFC-2 25cbを1重量%以上で含有する組成物」という範囲で権利範囲を除くことは何ら問題がない。 3 本件発明1に係る請求項は、いわゆるオープンクレームであり、「A、B及びCを含有する組成物。」と記載されるオープンクレームにおいては、「A、B及びC」の他に「α」が含まれる組成物もその権利範囲に入っているところ、「αを〇〇%以 上で含む組成物を除く」場合、少なくとも「αを〇〇%以上で含む組成物」が権利範囲から除かれることが明確化され、その権利範囲は狭まるだけである(「αを〇〇%未満で含む組成物」を含むことが明示されるものでもない。)。 第4 被告の主張本件訂正は新規事項の追加に当たり許されないものであるから、本件審決には原 告 狭まるだけである(「αを〇〇%未満で含む組成物」を含むことが明示されるものでもない。)。 第4 被告の主張本件訂正は新規事項の追加に当たり許されないものであるから、本件審決には原 告の主張する取消事由はない。 1 本件訂正発明1は、いゆわる「除くクレーム」という消極的表現を用いるものであるが、これを積極的表現に改めると次の要素を組み合わせてなる組成物ということになる。 (ア)HFO-1234yf、 (イ)HFC-254eb、- 9 -(ウ)HFC-245cbと、を含み、(エ)HCFC-225cbを含まないか、あるいは、HCFC-225cbを1重量%未満で含む 2 本件明細書には、本件訂正発明1における前記1(ア)に対して、同(イ)及び(ウ)の化合物を組み合わせる技術的意義については、全く説明がされていな い。しかも、同(エ)という要件を組み合わせる点については、本件明細書において、「HCFC-225cb」そのものに関する記載が全くないから、そのような技術的事項についての裏付けを欠くといえる。 そうすると、本件訂正は、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」との関係において新たな技 術的事項を導入するものである。 3 原告は、本件訂正前の特許請求の範囲の記載のみに基づいて、本件訂正が新規事項の追加に該当しないとの主張をしており、判断基準の点において誤っている。 ソルダーレジスト大合議判決が示した判断基準は、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との 関係において新たな技術的事項を導入するか否か」であり、特許請求の範囲の記載のみに基づいて判断することを正当化するこ 請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との 関係において新たな技術的事項を導入するか否か」であり、特許請求の範囲の記載のみに基づいて判断することを正当化することはできない。 4 原告は、本件訂正前の特許請求の範囲が、明確性要件とサポート要件を満たせば、本件訂正が新規事項の追加に該当しなくなるかの如き主張を行っているが、訂正前の特許請求の範囲が明確性要件やサポート要件を満たしていれば、直ちに、 訂正が新規事項の追加に該当しなくなるなどということはないから、同主張は誤りである。 5 ソルダーレジスト大合議判決は、いわゆる「除くクレーム」によって「特許出願に係る発明のうち先願発明と同一である部分を除外する訂正」について、新規事項の追加に該当しない場合があることを判示したものであるが、本件訂正は、除 くクレームによって「特許出願に係る発明のうち先願発明と同一である部分を除外- 10 -する訂正」になっていない。 すなわち、本件発明1と甲4発明が同一である部分は、「CF3CF=CH2(HFC-1234yf)(10%)、CF3CF2CH3(20%)、CF3CFHCH3(48%)、HCFC-225cb(20%)を含む揮発性物質」であるから、特許出願に係る発明のうち先願発明と同一である部分を除外する訂正をするのであれば、「た だし、HFC-1234yfを10%、HFC-254ebを20%、HFC-245cbを48%、HCFC-225cbを20%含む組成物を除く」との訂正をすべきである。 本件のように、特許出願に係る発明と同一の発明が存在することを奇貨として、除くクレームの形式で自由に訂正発明の内容を規定することができるとすれば、第 三者に不測の損害をもたらすこととなる。 第5 当 うに、特許出願に係る発明と同一の発明が存在することを奇貨として、除くクレームの形式で自由に訂正発明の内容を規定することができるとすれば、第 三者に不測の損害をもたらすこととなる。 第5 当裁判所の判断 1 本件発明について(1) 本件明細書等には、別紙「特許公報」のとおりの記載がある(甲55)。 (2) 本件発明の概要 前記(1)の記載によると、本件発明は、熱伝達組成物、エアロゾル噴霧剤、発泡剤、ブロー剤、溶媒、クリーニング剤、キャリア流体、置換乾燥剤、バフ研磨剤、重合媒体、ポリオレフィンおよびポリウレタンの膨張剤、ガス状誘電体、消火剤および液体またはガス状形態にある消火剤として有用な組成物の分野に関するものであり、新たな環境規制によって、冷蔵、空調およびヒートポンプ装置に用いる新たな組成 物が必要とされてきたことを背景として、低地球温暖化係数の化合物が特に着目されているところ、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出したというものである(【0001】~【0003】)。 2 甲4について 平成19年8月2日に国際公開された甲4(国際公開第2007/086972- 11 -号)には、次の記載がある(日本語訳は、対応する国内公表公報である甲6(特表2009-514951号公報)による。)。 【0002】発明の背景多くのハロカーボン、特に低級ハロカーボンは、発泡体およびその他の多くの形 態で、冷媒、噴射剤ガス、消火剤、発泡剤などのさまざまな用途に使用されている。 本明細書で使用する用語「ハロカーボン」は、炭素、1つ以上のハロゲン、および任意元素として水素を含む化合物を意味する。本発明で特に問題とするハロカーボ 、発泡剤などのさまざまな用途に使用されている。 本明細書で使用する用語「ハロカーボン」は、炭素、1つ以上のハロゲン、および任意元素として水素を含む化合物を意味する。本発明で特に問題とするハロカーボンは「C3ハロカーボン」であり、これは、C3ヒドロクロロフルオロカーボン、C3ヒドロフルオロカーボン、およびC3ヒドロフルオロオレフィンなどの鎖中に 3個の炭素原子を有するハロカーボンである。そのような化合物の例として、CF3CF2CHCl2(HCFC-225ca)、CClF2CF2CHClF(HCFC-225cb)、CF3CF2CH2Cl(HCFC-235ca)、CF3CF2CH3(HFC-245cb)、CF3CFHCH3(HFC-254eb)、およびCF3CF=CH2(HFO-1234yf)が挙げられる。 【0009】発明の要旨・・本米国出願人らはHCFC-225ca、特にHCFC-225caおよびHCFC-225cbの異性体混合物などのハロカーボン混合物を、HCFC-225cbは含むが、HCFC-225caはわずかしか含まないかまったく含まな い組成物へ転化する有利な方法および/または手段を見出した。・・【0010】・・特定の好ましい態様において、好ましくは還元を含む転化工程により、CF3CF2CH3(HFC-245cb)などのペンタフッ素化C3ヒドロフルオロカーボン、およびHCF2CF2CH3などのテトラフッ素化C3ヒドロフルオロカー ボンを含むC3ヒドロフルオロカーボンが製造される。特定の好ましい態様におい- 12 -て、好ましい転化工程により、たとえばトリフッ素化オレフィンCF3CH=CH2、テトラフッ素化オレフィンCF3CF=CH2(HFC-1234yf)およびペンタフッ素化オレフィ におい- 12 -て、好ましい転化工程により、たとえばトリフッ素化オレフィンCF3CH=CH2、テトラフッ素化オレフィンCF3CF=CH2(HFC-1234yf)およびペンタフッ素化オレフィンCF3CF=CFH(HFC 1225ye)といったトリフッ素化C3ヒドロフルオロオレフィン、テトラフッ素化C3ヒドロフルオロオレフィンおよびペンタフッ素化C3ヒドロフルオロオレフィンなどのC3ヒドロフルオ ロオレフィンが製造される。・・【0012】したがって本発明の1つの側面は、HCFC-225cbを含むハロカーボン混合物から、さらに好ましくはHCFC-225cbとHCFC-225caとを含む混合物からヒドロフルオロカーボンを直接的に調製する有利な方法に関する。好 ましくは、この方法は相当量の該HCFC-225cbを他の化合物へ転化することなく行われる。特定の態様において、この方法は(a)1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)とヒドロフルオロカーボンではない少なくとも1つの他のハロカーボンとを含むハロカーボン混合物を提供する工程;および(b)該少なくとも1つの他のハロカーボンの少なく とも相当な部分を、少なくとも1つのヒドロフルオロカーボンに転化するのに有効な条件で該混合物を還元剤と接触させる工程を含む。特定の好ましい態様において、他のハロカーボンはC3 HCFC、好ましくはHCFC-225cbであり、該1つのヒドロフルオロカーボンは、好ましくは少なくとも1つのC3ヒドロフルオロオレフィン、好ましくは少なくとも1つのテトラフルオロプロペン、さらに好ま しくはCF3CF=CH2(HFO-1234yf)を含む。 【0013】本発明の別の側面は、HCFC-225cbを含 レフィン、好ましくは少なくとも1つのテトラフルオロプロペン、さらに好ま しくはCF3CF=CH2(HFO-1234yf)を含む。 【0013】本発明の別の側面は、HCFC-225cbを含むハロカーボン混合物中の1つ以上の化合物を選択的に還元する方法に関する。・・・特定の態様において、この方法は、好ましくは(a)HCFC-225cbとヒドロフルオロカーボンではない 少なくとも1つの他のハロカーボンを含むハロカーボン混合物を提供する工程;お- 13 -よび(b)大半の該HCFC-225cbを還元せず、好ましくは約90重量パーセントを超える該HCFC-225cbを還元せずに、該混合物と還元剤とを接触させて、他のハロカーボンの少なくとも一部を還元する工程を含む。 【0015】本発明による好ましい混合物とは、化合物HCFC-225cbを含む混合物で ある。・・・さらに他の好ましい態様において、混合物は本質的に約1~約99重量パーセントのHCFC-225cb(より好ましくは約40~約55重量パーセントのHCFC-225cb)と、約1~約99重量パーセントのHCFC-225ca(より好ましくは約45~約60重量パーセントのHCFC-225ca)とから成る。 【0027】実施例2:この実施例では、過剰な水素によるHCFC-225ca/cb混合物の120℃での還元について説明する。 【0028】 反応を120℃で行う以外は、実施例1の反応を繰り返した。コールドトラップ内に回収した揮発性物質(44g)をGCで分析した結果、CF3CF=CH2(HFC-1234yf)(10%)、CF3CF2CH3(20%)、CF3CFHCH3(48%)、HCFC-225cb(20%)の生成を確認した。ポット残渣のGCで 分析した結果、CF3CF=CH2(HFC-1234yf)(10%)、CF3CF2CH3(20%)、CF3CFHCH3(48%)、HCFC-225cb(20%)の生成を確認した。ポット残渣のGCでは、おもにエタノール溶媒と未反応の225cbを確認した。 3 本件訂正の適否(1) 本件訂正は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbと、を含む組成物。」を「HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbと、を含む組成物(HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物を除く)。」に訂正すると いうものであり(本件訂正による訂正部分に下線を付した。)、本件訂正により、請- 14 -求項1の記載を引用する請求項2から7までについても訂正をするものである。 (2) 本件訂正は、本件特許に係る特許無効審判の被請求人である原告が、甲4発明による新規性・進歩性欠如の無効理由がある旨の審決の予告(甲50。特許法164条の2第1項)を受けて請求したものである(甲52。同法134条の2第1項本文)。 (3) 特許請求の範囲等の訂正は、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」においてしなければならないところ(特許法134条の2第9項、126条5項)、これは、出願当初から発明の開示が十分に行われるようにして、迅速な権利付与を担保するとともに、出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が不測の不利益を被ることのないようにしたものと解さ れ、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事 うにしたものと解さ れ、「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項(以下、単に「当初技術的事項」という。)を意味すると解するのが相当であり、訂正が、当初技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は、「明細書、特許請求の範囲又は図面に 記載した事項の範囲内において」するものということができる。 (4) 本件についてみると、次のとおり、本件訂正は、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」されたものと認められる。 ア(ア) 本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、「HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbと、を含む組成物。」というものであって、 その文言上、HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbを含むことは明らかであり、文言上、これらの化合物を含む限り、それ以外のいかなる物質を含む組成物も当該特許請求の範囲に含まれ得るものと解される。 (イ) 本件明細書等には、「出願人は、1234yf等の新たな低地球温暖化係数の化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が少量で存在することを見出した。」 (【0003】)、「本発明によれば、HFO-1234yfと、HFO-1234z- 15 -e、HFO-1243zf、HCFC-243db、HCFC-244db、HFC-245cb、HFC-245fa、HCFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFC-253fb、HCFC-234ab、HCFC-243fa、エチレン、HFC-23、CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFO- CFO-1233xf、HCFO-1233zd、HCFC-253fb、HCFC-234ab、HCFC-243fa、エチレン、HFC-23、CFC-13、HFC-143a、HFC-152a、HFO-1243zf、HFC-236fa、HCO-1130、HCO-113 0a、HFO-1336、HCFC-133a、HCFC-254fb、HCFC-1131、HFC-1141、HCFO-1242zf、HCFO-1223xd、HCFC-233ab、HCFC-226baおよびHFC-227caからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物とを含む組成物が提供される。 組成物は、少なくとも1つの追加の化合物の約1重量パーセント未満を含有する。」 (【0004】)、「一実施形態において、HFO-1234yfを含む組成物中の追加の化合物の合計量は、ゼロ重量パーセントを超え、1重量パーセント未満までの範囲である。」(【0012】)との記載があり、これらの記載からすると、本件明細書等には、①HFO-1234yfを調製する際に特定の追加の化合物が少量存在すること及び②HFO-1234yfを含む組成物中の追加の化合物の合計量がゼ ロ重量パーセントを超え、1重量パーセント未満までの範囲であることが記載されているといえる。 また、本件明細書等の【0013】、【0016】、【0019】、【0022】、【0030】、【図1】の記載を総合すると、本件明細書等には、HFO-1234yfを調製する過程において生じる副生成物や、HFO-1234yf又はその原料(H CFC-243db、HCFO-1233xf、HCFC-244bb)に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているといえる。 イ前記アの各記載を踏まえると、本件における当初技術 CFC-243db、HCFO-1233xf、HCFC-244bb)に含まれる不純物が、追加の化合物に該当することが記載されているといえる。 イ前記アの各記載を踏まえると、本件における当初技術的事項の内容は、HFO-1234yfを調製するに当たり、副生成物や、HFO-1234yf又はその原料(HCFC-243db、HCFO-1233xf、HCFC-244bb) に含まれる不純物が追加の化合物として少量存在し得ること、及び、本件発明1に- 16 -ついては、追加の化合物として、少なくとも、HFC-254ebとHFC-245cbが含まれることであると認められる。 他方、本件明細書等には、HFO-1234yfを調製する過程において、HFC-254eb及びHFC-245cb並びにその余の化合物が含まれる組成物についての記載はあるものの(【表6】表5、【表7】表6)、HCFC-225cbに 係る記載はなく、また、本件明細書等の記載から、HFO-1234yfを調製する過程においてHCFC-225cbが副生成物として生じたり、HFO-1234yf又はその原料にHCFC-225cbが不純物として含まれたりするなどして、組成物にHCFC-225cbが含まれることが当業者にとって自明であると認めることはできないから、当業者は、本件明細書等のすべての記載を総合するこ とによっても、本件発明1にHCFC-225cbが含まれるとの技術的事項を導くことはできない。 ウそして、本件訂正発明1は「HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbと、を含む組成物(HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物を除く)。」というものであって、本件訂正によって、本件発明1 から、HCFC-225cbを1重量%以上で含有 C-245cbと、を含む組成物(HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物を除く)。」というものであって、本件訂正によって、本件発明1 から、HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物が除外されたものであるが、前記イに照らせば、本件訂正により、本件明細書等に記載された本件発明1に関する技術的事項に何らかの変更を生じさせているとはいえないから、本件訂正は、本件明細書等に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものではない。 エ本件審決は、いわゆる「除くクレーム」に数値範囲の限定を伴う訂正が新規事項を追加しないものであるというためには、「除く」対象が存在すること、すなわち、本件発明1において、「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」が含まれているといえるか、または、「除く」対象が存在しないとしても、本件訂正発明1に「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が含まれるこ とが明示されることになるから、本件発明1に「HCFC-225cbを1重量%- 17 -未満で含有する組成物」が含まれているといえる必要があると解した上、本件では、本件発明1に「HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物」が含まれているということはできないし、本件発明1に「HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物」が含まれているということもできないから、本件訂正は新たな技術的事項を導入するものであると判断した。 そこで検討するに、前記イの通り、本件明細書等にはHCFC-225cbに係る記載は全くないものの、前記ア(ア)のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、その文言上、HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbを含む限り、それ以外のいかなる 係る記載は全くないものの、前記ア(ア)のとおり、本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は、その文言上、HFO-1234yfと、HFC-254ebと、HFC-245cbを含む限り、それ以外のいかなる物質をも含み得る組成物を意味するものと解されるものである。そして、本件訂正により、「HCFC-225cbを1重 量%以上で含有する組成物を除く」と特定されたことをもって、本件訂正発明1には、HCFC-225cbを1重量%以上で含有する組成物が含まれないことが明示されたということはできるものの、本件訂正発明1が、HCFC-225cbを1重量%未満で含有する組成物であることが明示されたということはできない。 オしたがって、本件訂正は、当初技術的事項との関係において、新たな技術的 事項を導入しないものというべきである。 (5) 被告は、本件訂正は、甲4発明と同一である部分を除外する訂正とはいえず、除くクレームによって「特許出願に係る発明のうち先願発明と同一である部分を除外する訂正」になっていないから認められないと主張する。 しかしながら、特許法134条の2第1項に基づき特許請求の範囲を訂正すると きは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内でしなければならず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、変更するものであってはならないとされている(同条9項、同法126条5項及び6項)が、それ以上に先願発明と同一である部分のみを除外することや、当該特許出願前に公知であった先行技術と同一である部分のみを除外することは要件とされていない。そして、訂正 が、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」行われた- 18 -場合、すなわち、当初技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導 とされていない。そして、訂正 が、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」行われた- 18 -場合、すなわち、当初技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正によって第三者に不測の損害をおよぼすとは考え難いから、同項に規定する訂正要件の解釈として、被告が主張するような要件を加重することは相当ではないというべきである。 また、被告は、除くクレームの形式で自由に訂正発明の内容を規定することは許 されない旨主張しているところ、本件訂正は、前記(2)のとおり、甲4による新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由がある旨の審決の予告を受けてされた訂正であるが、前記2のとおり、甲4には、甲4発明が記載されているのみならず、「HCFC-225cbを含むハロカーボン混合物から、・・ヒドロフルオロカーボンを直接的に調製する有利な方法に関する。・・この方法は相当量の該HCFC-225cbを他の 化合物へ転化することなく行われる。」(【0012】)、「本発明による好ましい混合物とは、化合物HCFC-225cbを含む混合物である。他の好ましい態様において、混合物は本質的に約1~約99重量パーセントのHCFC-225cb・・とから成る」(【0015】)との記載があり、同各記載を踏まえると、本件訂正は、甲4に記載された発明と実質的に同一であると評価される蓋然性がある部分を除外 しようとするものといえるから、本件訂正は先行技術である甲4に記載された発明とは無関係に、自由に訂正発明の内容を規定するものとはいえない。 (6) そして、本件審決は、本件訂正が新たな技術的事項を導入するものであることを理由に訂正を認めず、本件発明に係る本件特許を無効としたものであるが、本件訂正が新たな技術的事 るものとはいえない。 第6 結論 以上のとおり、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清水響 裁判官 浅井憲 裁判官 勝又来未子 別紙「特許公報」(省略)
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