令和6(わ)119 殺人未遂被告事件

裁判年月日・裁判所
令和7年11月14日 徳島地方裁判所
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判決文本文7,318 文字)

主文 被告人を懲役12年に処する。 未決勾留日数中340日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は、A及び傷害の限度で犯意を有するBと共謀の上、令和6年5月25日午後11時59分頃、徳島市a町bc番地甲西側駐車場において、Cに対し、被告人及び前記Aにおいては殺意をもって、前記Cの身体を蹴りつけた上、その胸部、腹部等を刀(刃体の長さ約69cm)で複数回突き刺すなどしたが、同人に全治日数不詳の右多発肋骨骨折、右胸部刺創、肝損傷、右腎損傷、胃貫通創等の傷害を負 わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかったものである。 (事実認定の補足説明)本件当日、AとCが電話で口論となり、甲で会う約束をしたこと、Aが被告人、B及びEと共に、CがDと共に、甲に赴き、同所において、被告人がCを刀で突き刺すなどして判示の傷害を負わせたことに争いはなく、本件の争点は、①殺意の有 無、②被告人とA及びBとの共謀の有無である。 1 本件犯行の態様等について(1) 防犯カメラ映像の評価検察官は、本件犯行現場の防犯カメラ映像(甲14など)を主要な証拠として、公訴事実記載の暴行があった旨主張する。 上記防犯カメラ映像のうち、本件犯行状況に関する場面は、画面が暗く、鮮明とは言い難いものであって、人影の存在やその人影が動いていることなど、かなり大雑把に動きを理解することはできる。しかし、映像の中の人影の輪郭はあいまいで、その人影を区別したり、人影が飛びかかる、倒れる、蹴り上げるなどの詳細な動作を把握することは到底できない。事件関係者らの供述に照らし合わせても、映って いる人影が誰のものであるかや、その動きを推認できる部分があるにすぎず、詳細 - 2 -な動作を認定するこ 動作を把握することは到底できない。事件関係者らの供述に照らし合わせても、映って いる人影が誰のものであるかや、その動きを推認できる部分があるにすぎず、詳細 - 2 -な動作を認定することは、やはりできない。そうすると、甲14号証のうち、防犯カメラ映像を静止画にして印刷した写真の説明部分において、人影の特定やその動作を特定している部分は信用することができない。 (2) Cの供述(甲4、5)及びDの供述(甲6)の信用性ア Cは、被害を受けた状況について、次のような趣旨の供述をしている。 すなわち、犯行現場において、CとDがAに近づき声をかけると、Aは、「行け」と言った。すると、被告人は、日本刀のような刃物を持ちCの方に向かってきて、足を狙って突き刺してきたように感じた。Cが、左膝の上を切りつけられるか突き刺されるかしたことで尻餅をつくと、被告人がCの頭をめがけて刃物を振り下ろしてきたため、とっさに左手を出したが、受け止めきれずに左手を切られた。さらに、 被告人は、腰を落としてCの腹部をめがけて刃物を突き刺してきたため、Cは身体の右側を下にして地面に倒れ、意識が遠のいていったためか、その後のことはほとんど覚えていないが、Aが頭ぶち割ったろかとかぶち殺したろかというようなことを言っていた。 イ Dの供述の要旨は次のとおりである。 CとDがAに近づき、DがAに声をかけると、2人の男が突然現れ、Cに対して殴ったり蹴ったりしてきた。Cが地面に倒れると、2人の男のうち、日本刀を持った男がCに切りかかった。この時、Dはもう一人の男に腹部を蹴られ、その男と蹴りあいになった。Cの方を確認すると、日本刀を持った男が、両手で日本刀を握り、半身で構えて倒れているCの腹部に向かって思いきり突き刺した。その男は、同じ よ 一人の男に腹部を蹴られ、その男と蹴りあいになった。Cの方を確認すると、日本刀を持った男が、両手で日本刀を握り、半身で構えて倒れているCの腹部に向かって思いきり突き刺した。その男は、同じ ような動きでもう一度Cを突き刺し、Cは身体の右側を下にして地面に倒れた。AがCに近づき、「ようわかったか」「わび入れろ」などと3回くらい凄んで言った。 ウ C及びDの供述は、Cの負傷状況や内容(甲95)に整合するものである。 そして、犯行現場の防犯カメラ映像(甲80)によれば、車いすのA、被告人及びBのいるところにCとDが歩いて近付き、CとDがAの前に到達すると、すぐにも み合いが始まったこと、もみ合いの開始したすぐ後に、何者かが近くに止まってい - 3 -た車のドアを開ける一方、CがAの後方辺りに移動し、Dが誰かに押されたようにAの前から離れたこと、その後、Aの右後方辺りで2人の人物がもみ合っていたこと、何者かが棒状のものを斜め下方向に突き出す動作をし、Aが車いすを反転させて、その人物の方に振り返ったことが認められ、この防犯カメラ映像から分かる本件犯行現場での動きもまた、C及びDの供述に概ね整合している。 また、C及びDの供述が、Cが突然攻撃を受け、被告人が刀でCの腹部を複数回突き刺すなどして、Cが地面に倒れたという一連の経緯について概ね一致していることに照らしても、信用できるものであるといえる。 もっとも、Dは、Aが「行け」と言ったと述べておらず、Cは、自身が最初に蹴られたことを述べていない点で、両者の供述には食い違いがある。 しかし、本件犯行現場は屋外の駐車場で、隣接する道路にも一定の交通量が認められる場所であったから、DがAの発言を聞き逃したとしても不自然とはいえない。 また、Cは、日本刀で身体を突き刺されるという しかし、本件犯行現場は屋外の駐車場で、隣接する道路にも一定の交通量が認められる場所であったから、DがAの発言を聞き逃したとしても不自然とはいえない。 また、Cは、日本刀で身体を突き刺されるという、極めて衝撃的な攻撃を受け、意識が朦朧となっていることからすれば、その前に蹴られたことを覚えていなくとも不自然とはいえない。 したがって、これらの食い違いは、C及びDの各供述の信用性を損ねるものではない。 (3) A及びBの供述Aは、「行け」と発言したことや、犯行後Cらに凄んだことを否定し、被告人がいきなり日本刀でCの腹部を突き刺した旨供述し、Bも、Aによる指示を否定し、 最初の蹴りについてあいまいな供述をしている。 しかし、Aと被告人らの関係などに照らせば、Aの指示がないのに被告人が勝手にCを攻撃するとは考えにくく、被告人とBがほぼ同時に攻撃に出ているのもAの指示がきっかけであると考えるのが自然であるし、被告人が事件後、知人に対し、Aの指示があった旨を述べていることからも、Aによる指示を否定するAらの供述 は信用することができない。また、一度もみ合いのようになってから刀による攻撃 - 4 -があったと認められる前記防犯カメラ映像に照らすと、最初にCが蹴られたことについても、否定することはできない。さらに、AがCらに凄んだことについては、BやEもこれを認めているから、この点に関するAの供述を信用することはできない。 (4) 裁判所の認定 C及びDの各供述や上記防犯カメラの映像に加え、Cの腹部と胸部にそれぞれ深い刺創があることからすれば、本件犯行の際、Aの指示をきっかけに、被告人ないしBが、Cを蹴った上、被告人が、刀で左膝付近を切りつけ、胸部及び腹部を複数回突き刺す暴行を加えたことが認められる。 被告人 刺創があることからすれば、本件犯行の際、Aの指示をきっかけに、被告人ないしBが、Cを蹴った上、被告人が、刀で左膝付近を切りつけ、胸部及び腹部を複数回突き刺す暴行を加えたことが認められる。 被告人は、Aの指示について覚えていないと供述し、最初にCが蹴られたことに ついても述べていないが、被告人の供述を踏まえても、前記認定に疑いは生じない。 したがって、罪となるべき事実で認定したとおりの暴行を認定した。 2 被告人の殺意について(1) 本件犯行において被告人が使用した日本刀は、刃体の長さが約69cmと長く鋭利な刃物であり、その殺傷能力は極めて高いものである。被告人は、このよう な刀の性状を認識していながら、何ら武器を持たないCを、この刀で切りつけた上、腹部や胸部を複数回突き刺している。特に、腹部、胸部及び背部の刺創は、どれも深く、内臓を傷つけるもので、単に刺して抜いてできた傷ではなく、力を入れて刺した傷であると認められる。そして、このような凶器の性状、攻撃した部位、攻撃の強度、回数等からすれば、本件犯行が、Cが死亡する危険性が高い行為であるこ とは明らかであって、被告人においてもその危険性の認識があったというべきである。もっとも、被告人は、Cにとどめを刺さず、Dが救急車を呼ぶことを見逃しているが、これらの事情は、被告人に確定的殺意まではなかったことをうかがわせるにすぎず、殺意を否定するものではない。 (2) この点、被告人は、CがAの方に近づき、大きな声で「来たぞ」などと述べ たことから、Aに対する攻撃の危険を感じ、無我夢中になってCに暴行を加えたに - 5 -すぎず、殺意はなかった旨主張する。 しかし、Cが何も持っておらず、攻撃する素振りがなかったことは、被告人自身も認めており、AやBの供述からも明らか 我夢中になってCに暴行を加えたに - 5 -すぎず、殺意はなかった旨主張する。 しかし、Cが何も持っておらず、攻撃する素振りがなかったことは、被告人自身も認めており、AやBの供述からも明らかで、攻撃の危機を感じるような状況があったとは認められない。さらに、前記認定の暴行態様によれば、被告人は、Cに対し、日本刀で左膝を切りつけて動けなくした上で、腹部及び胸部を強く突き刺して いることが認められるが、このような攻撃が、攻撃する箇所が分からなかったとか、偶然当たったなどといえるようなものでないことは明らかである。被告人の供述を信用することはできない。 また、弁護人は、被告人にはCを殺害する動機はないと主張する。しかし、被告人とAとの間には、長年にわたり、主従関係と言われるほどの強い上下関係があり、 被告人はAの命令に逆らわないことに加え、Aは、Cと従前からトラブルがあり、本件当日もCと口論になったことで、本件犯行に及ぶ動機があったと認められる。 そうすると、被告人に積極的な動機がなくとも、被告人がAの指示で本件犯行に及ぶことは十分に考えられる。したがって、被告人に動機がないから殺意がない旨の弁護人の主張は採用できない。 (3) 以上により、被告人は、本件犯行の際、その行為が人が死ぬ危険が高い行為であると認識しながらあえてこれを行ったこと、すなわち被告人に殺意があったことは明らかである。 3 被告人とAとの共謀について関係各証拠(甲101、103、104、110など)によれば、Aは、Cと会 うためにEやBに連絡し、被告人には武器を意味する「道具」をとってくるよう指示し、自身は包丁を2本用意するなど、積極的に犯行の準備をしていることが認められる。さらに前記認定のとおり、本件犯行の際には、Aが「行け」という指示を 告人には武器を意味する「道具」をとってくるよう指示し、自身は包丁を2本用意するなど、積極的に犯行の準備をしていることが認められる。さらに前記認定のとおり、本件犯行の際には、Aが「行け」という指示をして、これに応じて被告人とBが犯行に及んでいる。 このようなAによる事前の指示や準備の状況、現場での指示に照らすと、Aと被 告人との間で、Cが死ぬ危険が高い行為が行われる可能性があることについて、意 - 6 -思を通じていたことは明らかである。 Aは、被告人の行為によりCが倒れても動じることがないばかりか、倒れたCに対して語気強く凄んでいると認められ、このようなAの行動は、Aにとって被告人の行動が予想内のもので、これを受け入れていたとしか考えられないものであるが、前記の認定は、このようなAの行動からも裏付けられている。 4 AとBとの共謀について関係各証拠(甲110、111)によれば、Bは、Aから呼び出されて合流した際、Aから人と会うと説明された上、包丁を護身用に持っていくよう言われたこと、被告人が準備した日本刀の形状を確認し、この後会う人とAが喧嘩になる可能性もあると思っていたことが認められる。また、前記認定のとおり、Aの指示で、被告 人だけでなく、Bも暴行に及んでいる。以上のような事実経過やBの認識によれば、AとBとの間では、少なくとも傷害の限度で意思を通じ合っていたといえ、傷害の共謀が成立したと認められる。 なお、Bは、本件現場に到着した際、Aに持っていくように言われた包丁をAが乗っていた自動車に返しているが、Aはその事実を認識していない上、B自身もC 及びDに対して暴行を加えていることから、包丁を返却したとの事実は、Bの共謀を否定するものではない。 5 まとめ以上のとおり、暴行態様は罪となるべき の事実を認識していない上、B自身もC 及びDに対して暴行を加えていることから、包丁を返却したとの事実は、Bの共謀を否定するものではない。 5 まとめ以上のとおり、暴行態様は罪となるべき事実で認めた限度でこれを認めることができ、被告人の殺意、被告人とAとの間での殺人の共謀、AとBとの間での傷害の 共謀はいずれも認められる。そうすると被告人とBとの間には、Aを介して傷害の共謀が成立したといえるから、被告人には、罪となるべき事実記載のとおり、A及びBと共謀の上(ただし、Bとは傷害の限度)、殺人未遂に及んだことが認められる。 (法令の適用) 罰条刑法60条、203条、令和4年法律第68号44 - 7 -1条1項により同年法律第67号による改正前の刑法199条刑種の選択有期懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条(量刑の理由) 被告人は、素手で無防備な状態の被害者に対し、刃体が長く鋭利な日本刀で、その腹部や胸部といった身体の重要な部位を複数回、強い力で突き刺すなどしており、その犯行態様は、被害者を死亡させる危険性の高い悪質なものである。特に腹部を刺した行為は、腹部大動脈を傷つけて大量出血によるショックを招くおそれがあり、被害者を死亡させる危険が特に高いものであった。被害者は、刺創、切創に とどまらず、複数の内臓を傷つけられて全治日数不詳の傷害を負い、大量の輸血を要し、数週間は予断を許さないほど危険な状態にあった。その上、左手指の機能が全廃する後遺症が残るなど、被害結果は極めて重大である。日常生活にも支援を要するようになり、生活が一変してしまった被害者が厳罰を望むのも至極当然である。 また、被告人とAとの間には主従関係があり、本件もAの指示によって、被告人 が凶器を用意 。日常生活にも支援を要するようになり、生活が一変してしまった被害者が厳罰を望むのも至極当然である。 また、被告人とAとの間には主従関係があり、本件もAの指示によって、被告人 が凶器を用意し、被害者を攻撃したとの経緯からすれば、Aが本件犯行を主導したといえる。しかし、被告人も体の不自由なAに代わって、被害者に対する主要な暴行を行っており、被告人がいなければ本件犯行は実現されなかったといえるから、必要不可欠な役割を果たした被告人の責任は重い。 一方で、本件関係者はいずれも元暴力団関係者であるものの、本件は、組織的 なものではなく、計画性の高いものともいえない。また、被告人に被害者への直接的な悪感情はなく、被告人の殺意が未必的なものにとどまっている点や、自首は成立しないものの被告人が自ら警察署に出頭している点も、被告人の責任非難を検討する上で考慮されなければならない。さらに弁護人は、被害者がAを挑発し、煽るような言動をした結果が、本件犯行につながっている点を指摘するが、被害者の言 動を見ても、日本刀で刺すなど死亡する危険性の高い暴行まで誘発したものと評価 - 8 -することはできず、被害者に落ち度があるとか、厳しい処罰感情を持つことが不当であるということはできない。 以上の諸事情を考慮すると、被告人のために斟酌すべき事情があってもなお、その犯行は悪質で、被告人に対しては厳しい非難が妥当し、本件の犯情は相応に重いというべきである。 続いて一般情状をみると、被告人は、法廷において一応の謝罪と反省を述べるものの、肝心なところは記憶がないとあいまいに答えたり、不合理な弁解に終始している。また、被告人にはAと共同で行った傷害の前科があり、今回もAの指示で犯行に及んでいる。被告人の周囲に被告人を悪く言う人がおらず、被告 ころは記憶がないとあいまいに答えたり、不合理な弁解に終始している。また、被告人にはAと共同で行った傷害の前科があり、今回もAの指示で犯行に及んでいる。被告人の周囲に被告人を悪く言う人がおらず、被告人が単独で本件のような犯罪を犯すとは考えにくいことからすると、被告人の再犯防止を考える 上では、Aとの関係を断ち切れるかどうかが肝要である。それにもかかわらず、被告人はAとの決別を断言せず、今後のAとの関係につき言葉を濁すその態度をみると、被告人が真摯に反省をしているとは言い難い。被告人の息子が、被告人の更生に協力することを法廷で誓約していることのほか、本件に現れた一切の事情を踏まえても、被告人に有利に斟酌できる事情は乏しいと言わざるを得ない。 以上によれば、本件犯情は悪質で、被告人に有利に斟酌できる事情に乏しいことから、主文のとおりの刑が相当であると考えた。 (求刑・懲役15年)令和7年11月14日徳島地方裁判所刑事部 裁判長裁判官沖敦子 裁判官細包寛敏 裁判官髙橋かれん

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