- 1 -平成30年(受)第1447号,第1448号,第1449号,第1451号,第1452号各損害賠償請求事件令和3年5月17日第一小法廷判決 主文 1 原判決中次の部分を破棄し,同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。 原告らのうち別紙一覧表1記載の者らの被告国に対する請求に関する部分原告らのうち別紙一覧表2記載の者らの被告国に対する請求に関する上記者らの敗訴部分原告らのうち別紙一覧表3記載の者らの被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス,被告エム・エム・ケイ,被告大建工業及び被告ノザワに対する請求に関する部分原告らのうち別紙一覧表4記載の者らの被告太平洋セメントに対する請求に関する部分原告らのうち別紙一覧表5及び別紙一覧表6記載の者らの被告ノザワに対する請求に関する部分 2 原判決中,原告らのうち別紙一覧表7の「上告人名」欄記載の者ら(同欄記載の者の訴訟承継人を含む。)の被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイに対する請求に関する部分を次のとおり変更する。 第1審判決を次のとおり変更する。 被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及 - 2 -び被告エム・エム・ケイは,連帯して,別紙一覧表7の「上告人名」欄記載の各人に対し,同各人に対応する同表の「認容額」欄記載の金員及びこれに対する同表の「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 別紙一覧表7の「上告人名」欄記載の各人の被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイに対するその余の請求をいずれも棄却する。 3 被告国,被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被 告人名」欄記載の各人の被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイに対するその余の請求をいずれも棄却する。 3 被告国,被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイの各上告を棄却する。 4 原告らのうち別紙一覧表7の「上告人名」欄記載の者ら(同欄記載の者の訴訟承継人を含む。)と被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイとの間の訴訟の総費用は,同欄記載の各人に対応する同表の「負担割合」欄記載の割合を上記各人(同欄記載の者を被承継人とする訴訟承継が生じている場合には,その訴訟承継人)の負担とし,その余を被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイの負担とし,第3項に関する上告費用は,被告国,被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイの負担とする。 理由 第1 事案の概要 - 3 - 1 原告らは,主に神奈川県内において建設作業に従事し,石綿(アスベスト)粉じんにばく露したことにより,石綿肺,肺がん,中皮腫等の石綿関連疾患にり患したと主張する者(原判決別紙2「主文一覧表」の「被災者名」欄記載の者(ただし,「被災者名」欄に氏名の記載がない場合は,「控訴人名」欄記載の者)75名のうち,控訴人番号20,49,56,65及び75の5名を除く70名。以下「本件被災者ら」という。)又はその承継人である。本件は,原告らが,被告国に対し,建設作業従事者が石綿含有建材から生ずる石綿粉じんにばく露することを防止するために被告国が労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるとともに,被告 露することを防止するために被告国が労働安全衛生法(以下「安衛法」という。)に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であるなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるとともに,被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス,被告エム・エム・ケイ,被告大建工業,被告太平洋セメント及び被告ノザワ(以下,上記6社の被告らを併せて「被告建材メーカーら」という。)に対し,被告建材メーカーらが石綿含有建材から生ずる粉じんにばく露すると石綿関連疾患にり患する危険があること等を表示することなく石綿含有建材を製造販売したことにより本件被災者らが上記疾患にり患したと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。 2 原審の確定した事実関係等及び関係法令の概要は,次のとおりである。 石綿及び石綿含有建材の概要石綿は,天然に産出される蛇紋石族及び角閃石族の繊維状けい酸塩鉱物の総称であり,クリソタイル,クロシドライト,アモサイト,アンソフィライト,トレモライト及びアクチノライトがある。石綿は,紡織性,抗張力,耐熱性等にその特長を有しており,建材等に広く使用されてきた。 我が国の年間石綿輸入量は,高度経済成長期に急増し,昭和36年に10万t,昭和44年に20万tをそれぞれ超え,昭和49年に35万2110tに達し,その後も20万t以上で推移し,昭和63年に32万0393tとなったが,平成元年以降は減少を続け,平成6年に20万t,平成12年に10万tをそれぞれ下回 - 4 -り,平成16年に8186t,平成17年に110tとなり,平成18年以降はゼロとなった。我が国に輸入された石綿の約7割は建設現場で使用された。 我が国で使用されてきた石綿含有建材には,壁や天井の内装材として用いられるスレートボード及びけい酸カルシウム 平成18年以降はゼロとなった。我が国に輸入された石綿の約7割は建設現場で使用された。 我が国で使用されてきた石綿含有建材には,壁や天井の内装材として用いられるスレートボード及びけい酸カルシウム板,外壁や軒天の外装材として用いられるスレート波板,屋根材として用いられる住宅屋根用化粧スレート,床材として用いられるビニール床タイル等があった。また,鉄骨造建物の工事においては,躯体となる鉄骨の耐火被覆として,石綿とセメント等の結合材を混合した吹付け材が用いられていた。そのほか,煙突や給排水管として使用される石綿セメント円筒,建物内の配管の保温のための石綿含有保温材等があった。 建設作業における石綿粉じんの発散建設現場において,以下の作業をする際などに,石綿含有建材から石綿粉じんが発散することがあった。 木造建物の建築工事において,石綿含有スレートボード等の石綿含有建材を切断する際に,石綿粉じんが発散した。また,左官がモルタルを作る際に,石綿又は石綿を含有する混和剤を加えてかくはんすることにより,石綿粉じんが発散した。設備工事においても,電工や配管工が石綿を含有するボードに穴を開ける際に,石綿粉じんが発散するおそれがあった。 鉄骨造建物の建築工事においても,上記の木造建物の場合と同様に石綿粉じんが発散することがあったほか,吹付け材の吹付け作業の際に,ノズルから放出された吹付け材の石綿粉じんが周囲に飛散することがあった。また,吹き付けられた石綿等を配線や配管のために削る際にも,石綿粉じんが発散することがあった。 建物の増改築工事や解体工事においても,建材に含まれる石綿が粉じんとなって発散することがあった。 このほか,工場等における配管及び機械等への石綿含有保温材の取付け及び取替え等の作業において,石綿粉じんが発散するこ 解体工事においても,建材に含まれる石綿が粉じんとなって発散することがあった。 このほか,工場等における配管及び機械等への石綿含有保温材の取付け及び取替え等の作業において,石綿粉じんが発散することがあった。 建設作業従事者は,自らが行った作業により発散し,又は飛散した石綿粉じんに - 5 -直接的にばく露することがあったほか,同じ建設現場で他の者が行った作業によって発散し,又は飛散した石綿粉じんに間接的にばく露することもあった。 電動工具の普及状況電動丸のこ,電動ドリル等の電動工具で建材を加工する場合,手工具で加工する場合に比して多量の粉じんが発散する。機械統計年報によれば,我が国におけるこれらの電動工具の年間販売台数は,昭和43年に100万台,昭和48年に200万台,昭和52年に300万台,昭和54年に400万台,昭和55年に500万台,昭和58年に600万台,平成2年に700万台まで増加し,その後も数百万台の販売台数を維持した。 防じんマスクの着用状況昭和60年頃の建設現場では,吹付け工や一部のはつり工を除き,大半の労働者は防じんマスクを着用しておらず,昭和50年頃も同様であった。 石綿粉じん濃度の測定結果ア労働科学研究所の木村菊二は,昭和46年,雑誌「労働の科学」26巻9号において,「作業現場の石綿粉塵」と題する論文を発表した。同論文では,昭和40年頃から昭和45年頃までに行われた工場における石綿板切断に係る石綿粉じん濃度の測定の結果は,除じん装置がない場合で10.8~16.2本/㎤(以下,石綿粉じん濃度における本数は石綿の繊維数である。),除じん装置がある場合で7.4~10.0本/㎤であったとされている。 また,木村菊二は,昭和51年,第49回日本産業衛生学会・第20回日本産 ,石綿粉じん濃度における本数は石綿の繊維数である。),除じん装置がある場合で7.4~10.0本/㎤であったとされている。 また,木村菊二は,昭和51年,第49回日本産業衛生学会・第20回日本産業医協議会において,「アスベスト粉塵の測定法についての検討」と題する講演を行った。同講演では,最近の2,3年間に行われた作業場における石綿粉じん濃度の測定の結果は,大型の石綿板を電動のこで切断した場合において,吸じん装置作動中のときは2.89~25.08本/㎤,吸じん装置休止中のときは147.03~391.50本/㎤であり,小型の石綿板を手動のこで吸じん装置のない状態で切断した場合において,0.31~2.55本/㎤あるいは0.11~0.38本 - 6 -/㎤であったなどとされている。 イ労働省労働基準局長が昭和51年5月22日付けで発出した「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進について」と題する通達(同日基発第408号)に添付された労働衛生課作成の「石綿関係資料」では,建設工事における石綿含有量50%の吹付け材の吹付け作業中の粉じん濃度の測定結果(15箇所平均)は,乾式吹付け作業については37.66~41.76㎎/㎥であり,湿式吹付け作業については12.11~17.28㎎/㎥であったとされている(この測定結果について,2㎎/㎥=33本/㎤として換算し,石綿含有率50%を乗ずると,それぞれ310.7~344.5本/㎤,99.90~142.6本/㎤となる。)。 ウ英国労働省工場監督庁は,1973年(昭和48年),建設作業における石綿粉じん濃度の測定結果を示した。その測定結果は,石綿吹付け作業において,推奨されている湿潤化の機器を使用した場合で5~10本/㎤,同機器を使用しない場合で100本/㎤以上であり,解体作業(保温材を剥ぐ じん濃度の測定結果を示した。その測定結果は,石綿吹付け作業において,推奨されている湿潤化の機器を使用した場合で5~10本/㎤,同機器を使用しない場合で100本/㎤以上であり,解体作業(保温材を剥ぐ作業)において,乾燥状態で行った場合で20本/㎤以上であり,石綿セメントのシートとパイプの丸のこによる切断作業において,有効な局所排気装置を用いない場合で10~20本/㎤であり,石綿断熱板の丸のこによる切断作業において,有効な局所排気装置を用いない場合で20本/㎤以上であったなどとされている。 石綿関連疾患の概要石綿関連疾患には,石綿肺,肺がん,中皮腫,びまん性胸膜肥厚等がある。石綿肺は,石綿粉じんを大量に吸入することによって発生する疾患であり,じん肺の一種である。肺がんは,肺に発生する悪性腫瘍の総称である。石綿粉じんのばく露量と肺がんの発症率との間には,直線的な量反応関係(累積ばく露量が増えるほど発症率が高くなること)が認められる。中皮腫は,胸腔,腹腔等において体腔表面を覆う中皮細胞から発生する腫瘍であり,全て悪性である。中皮腫のほとんどは,石綿粉じんにばく露したことを原因とするものであり,肺がんより低濃度のばく露によっても発症し得ることが判明している。中皮腫について確立した治療法はなく, - 7 -現時点では,その予後は極めて不良であるといわれている。石綿肺,肺がん及び中皮腫は,いずれも潜伏期間(石綿粉じんへのばく露の開始から発症までの期間)が長く,また,肺がん及び中皮腫については,それ以下ではがんが起こらないという石綿ばく露の閾値はないとされている。びまん性胸膜肥厚は,胸膜が厚みを帯び,肺の弾力性が低下して呼吸機能が悪化する病変である。 石綿関連疾患に関する医学的知見の集積状況等ア労働省は,労働衛生試験 の閾値はないとされている。びまん性胸膜肥厚は,胸膜が厚みを帯び,肺の弾力性が低下して呼吸機能が悪化する病変である。 石綿関連疾患に関する医学的知見の集積状況等ア労働省は,労働衛生試験研究として,昭和31年度から昭和34年度まで,石綿肺等のじん肺に関する研究を専門家に委託した。昭和31年度及び昭和32年度には,石綿肺の診断基準に関する研究が行われ,石綿肺のり患の実態,臨床像,石綿粉じんにばく露することとの因果関係等が明らかとなり,診断基準の設定にまで到達したと報告された。この昭和32年度の研究の報告がされた昭和33年3月頃には,石綿肺に関する医学的知見が確立した。 イセリコフらは,1964年(昭和39年),米国の医学誌において,「アスベストばく露と新生物」と題する論文を発表した。同論文では,建築業の断熱作業労働者の石綿ばく露は比較的軽度で断続的であるが,1943年(昭和18年)以前にこの産業に就業した632人について1962年(昭和37年)まで追跡調査を行ったところ,45人が肺又は胸膜のがんにより死亡しており,うち3人は胸膜中皮腫であったこと,このほか腹膜中皮腫の者が1名おり,255人の死亡者のうち4人が中皮腫であったこと,これは,このようなまれな腫瘍の発症率としては非常に高いこと等が報告されている。 ウ労働省労働基準局長は,昭和46年1月5日付けで,「石綿取扱い事業場の環境改善等について」と題する通達(同日基発第1号)を発出し,その中で,「最近,石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた。」と指摘した。 エ国立療養所近畿中央病院院長の瀬良好澄は,昭和46年,雑誌「労働の科 もあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた。」と指摘した。 エ国立療養所近畿中央病院院長の瀬良好澄は,昭和46年,雑誌「労働の科 - 8 -学」26巻9号において,「石綿作業と肺疾患」と題する論文を発表した。同論文では,石綿と肺がんの発症との間に因果関係があることについては今や異論のないところであるとされ,石綿吹付け作業に従事した39名中6名に石綿肺を認めたこと等から吹付け作業については強力な予防指導を要すると思われるなどとされている。 オ労働省労働衛生研究所の松下秀鶴及び河合清之は,昭和46年,「アスベストの発がん性」と題する論文を発表した。同論文では,石綿ばく露と中皮腫の関係について強い関心が寄せられるようになったのは1960年(昭和35年)のワグナーらの報告以来であり,この報告以後,胸膜及び腹膜の中皮腫に関する疫学的研究が,英国,南アフリカ,米国,カナダ,イタリア,ドイツ等から続々と発表され,その研究結果からは,比較的低濃度の石綿ばく露であっても,長い年月を経れば十分に中皮腫が発生する危険性があるなどとされている。また,同論文では,石綿に発がん性があるということは,疫学的にも実験腫瘍学的にも,まず疑う余地はないように思われるなどとされている。 カセリコフらは,1972年(昭和47年),「米国及びカナダの建設業における断熱作業労働者のがんの危険度」と題する発表をした。同発表では,米国及びカナダの断熱作業労働者1万7800人の1967年(昭和42年)から1971年(昭和46年)までの肺がんと胸膜中皮腫による死亡者数について,石綿ばく露の開始からの年数に応じて分析がされ,肺がんによる死亡はばく露開始後15~19年で有意に増加し,肺がんによる死亡者数が 年(昭和46年)までの肺がんと胸膜中皮腫による死亡者数について,石綿ばく露の開始からの年数に応じて分析がされ,肺がんによる死亡はばく露開始後15~19年で有意に増加し,肺がんによる死亡者数が最も多いのはばく露開始後30~39年であり,ばく露開始から少なくとも40年間観察しないと石綿ばく露による影響を評価するのは困難であるとされている。上記発表は,昭和47年度環境庁公害研究委託費によるアスベストの生体影響に関する研究報告でも紹介されている。 キ国際労働機関(ILO)は,1972年(昭和47年)に開催した「職業がんの管理と予防に関する専門家会議」において,石綿は職業がんの危険性がある物質であると指摘した。 - 9 -世界保健機関(WHO)の付属機関である国際がん研究機関(IARC)は,1972年(昭和47年)10月,石綿の生物学的影響に関して討議を行った。その結果の報告では,市販されている主要な種類の石綿は,全て肺がんを引き起こし得るとされ,アンソフィライトを除く市販の全ての種類の石綿が中皮腫を引き起こし得る証拠が得られているとされている。 ク労働省労働基準局長は,昭和48年7月11日付けで,「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」と題する通達(同日基発第407号。以下「昭和48年通達」という。)を発出した。昭和48年通達では,通達発出の理由として,最近,石綿が肺がん,中皮腫等を発生させることが明らかとなったこと等により,各国の規制においても気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつあることが挙げられていた。 ケ IARCは,1973年(昭和48年),化学物質の人体に対する発がん性リスクについての検討結果を公表するモノグラフ集の第2巻を発行し 度を抑制する措置が強化されつつあることが挙げられていた。 ケ IARCは,1973年(昭和48年),化学物質の人体に対する発がん性リスクについての検討結果を公表するモノグラフ集の第2巻を発行した。そこでは,石綿のがん原性に関し,肺がんの過剰リスクは,過去の強いばく露の結果であることが通常であり,肺がんのリスクは石綿肺に関連しているようである,石綿を製造,利用する産業では,中皮腫はクロシドライトへのばく露で引き起こされており,アモサイト,クリソタイルで引き起こされる頻度はより少ない,最初のばく露から腫瘍の発現までの期間は長く,通常は30年以上であるなどとされている。 コ労働省は,昭和51年,石綿粉じんにばく露することによる肺がん及び中皮腫の労災認定基準を検討するため,「石綿による健康障害に関する専門家会議」を設置した。同会議は,産業現場における石綿ばく露の実態,石綿関連疾患の臨床,病理,疫学,環境管理等に関する国内外の文献を幅広く検討し,昭和53年9月に報告書をまとめた。同報告書では,石綿肺の進展度と肺がんの合併率との間には直線的な関連はなく,軽度所見や無所見の石綿ばく露労働者にも肺がんの発生が認められるとされ,石綿ばく露量が大となるにつれて肺がん発生の超過危険が大きくな - 10 -る傾向がみられ,症例としては石綿ばく露歴がおおむね10年を超える労働者に発生したものが多いとされている。また,同報告書では,現時点の知見では,全ての種類の石綿繊維に肺がんの危険性があると考えるのが妥当であるとされ,中皮腫については,石綿粉じん濃度が低くても発生した例もあり,肺がんを発生するのに必要なばく露量よりも少量で発生する可能性があるなどとされている。 サ WHOが1989年(平成元年)に発表した「石綿の職業ばく露限界」と題する報告 低くても発生した例もあり,肺がんを発生するのに必要なばく露量よりも少量で発生する可能性があるなどとされている。 サ WHOが1989年(平成元年)に発表した「石綿の職業ばく露限界」と題する報告書では,それ以下ではがんが起こらないという石綿ばく露の閾値が存在するという実質的証拠はないなどとされている。 建設業労働者のじん肺症及びじん肺合併症発生件数等建設業労働者のじん肺症発生件数(昭和53年度以前)又はじん肺症及びじん肺合併症発生件数(昭和54年度以降)は,昭和45年度には77件であったが,昭和46年度に100件を,昭和49年度に200件を,昭和51年度に400件をそれぞれ超え,昭和52年度に516件に達した。その後,平成15年度に至るまで増減を繰り返したが,多い年度では700件を超え,少ない年度でも200件を下回ることはなかった。建設業の中にはずい道工事も含まれることから,この件数が全て石綿肺の発生件数ということはできないものの,石綿肺の発生件数がかなりの割合を占めるものと推測される。また,産業別の石綿関連疾患発生件数の統計のある平成17年度以降,建設業労働者の石綿関連疾患の発生件数は,同年度が299件,平成18年度が1105件であり,平成19年度から平成26年度までは500件台又は600件台で推移した。 昭和46年の石綿取扱い事業場の監督指導結果昭和46年1月から3月までの石綿取扱い事業場の監督指導結果(監督事業場数は,鉱業2,建設業12,製造業174。石綿取扱い労働者数は,鉱業3,建設業134,製造業3657)によれば,じん肺の有所見者率は,全体では6.5%,業種別では,製造業6.6%,建設業3.5%,鉱業0%であった。 関係法令の概要等 - 11 - 昭和22年に公布された労働基準 よれば,じん肺の有所見者率は,全体では6.5%,業種別では,製造業6.6%,建設業3.5%,鉱業0%であった。 関係法令の概要等 - 11 - 昭和22年に公布された労働基準法(一部を除き同年11月1日施行。以下,昭和47年法律第57号による改正前の労働基準法を「旧労基法」という。)では,使用者は,粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じなければならない(42条),使用者は,労働者を就業させる建設物及びその附属建設物について,換気等に必要な措置その他労働者の健康,風紀及び生命の保持に必要な措置を講じなければならない(43条),労働者は,危害防止のために必要な事項を遵守しなければならない(44条),使用者は,労働者を雇い入れた場合においては,その労働者に対して,当該業務に関し必要な安全及び衛生のための教育を施さなければならない(50条)とされた。使用者が42条及び43条の規定により講ずべき措置の基準及び労働者が44条の規定により遵守すべき事項は,命令に委任された(45条)。 労働大臣は,昭和22年10月31日,旧労基法の規定に基づき,労働安全衛生規則(同年労働省令第9号。以下「旧安衛則」という。同年11月1日施行)を制定した。旧安衛則には,次の内容の規定が設けられた。 a 粉じん等を発散するなど衛生上有害な作業場においては,その原因を除去するため,作業又は施設の改善に努めなければならない(172条)。 b 粉じん等を発散する屋内作業場においては,場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように,局所における吸引排出その他新鮮な空気による換気等適当な措置を講じなければならない(173条)。 c 屋外又は坑内において,著しく粉じんを飛散する作業場においては,注水その他粉じん防止の措置を講じな における吸引排出その他新鮮な空気による換気等適当な措置を講じなければならない(173条)。 c 屋外又は坑内において,著しく粉じんを飛散する作業場においては,注水その他粉じん防止の措置を講じなければならないが,作業の性質上やむを得ない場合はこの限りでない(175条)。 d 粉じん等を発散し,衛生上有害な場所等には,必要ある者以外の者の立ち入ることを禁止し,その旨を掲示しなければならない(179条)。 e 粉じん等を発散し,衛生上有害な場所における業務等においては,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な - 12 -保護具を備えなければならない(181条)。 f 181条等に規定する保護具は,同時に就業する労働者の人数と同数以上を備え,常時有効かつ清潔に保持しなければならない(184条)。 g 181条等に規定する作業に従事する労働者は,就業中保護具を使用しなければならない(185条)。 労働大臣は,昭和46年4月28日,旧労基法の規定に基づき,及び旧労基法を実施するため,特定化学物質等障害予防規則(同年労働省令第11号。以下「旧特化則」という。一部を除き同年5月1日施行)を制定した。旧特化則では,石綿は第二類物質とされ(2条2号,別表第2),第二類物質に係る作業に関し,次の内容の規定が設けられた。 a 使用者は,第二類物質の粉じん等が発散する屋内作業場について,当該発散源に局所排気装置を設けなければならず,局所排気装置の設置が著しく困難であること等により局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設けるなど労働者の障害を予防するため必要な措置を講じなければならない(4条1項,2項)。 b 使用者は,第二類物質を製造し,又は取り扱う作業場に,関係者以外の 置を設けない場合には,全体換気装置を設けるなど労働者の障害を予防するため必要な措置を講じなければならない(4条1項,2項)。 b 使用者は,第二類物質を製造し,又は取り扱う作業場に,関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示しなければならない(25条1号)。 c 使用者は,第二類物質の運搬又は貯蔵のために使用する容器又は包装の見やすい箇所に当該物質の名称及び取扱い上の注意事項を表示しなければならない(26条2項)。 d 使用者は,第二類物質を製造し,又は取り扱う作業場に,当該物質の粉じん等を吸入することによる障害を予防するため必要な呼吸用保護具を備えなければならない(32条)。 e 使用者は,32条の保護具について,同時に就業する労働者の人数と同数以上を備え,常時有効かつ清潔に保持しなければならない(34条)。 昭和47年6月8日,安衛法が公布され(一部を除き同年10月1日施 - 13 -行),これに伴い,旧労基法42条以下に定められていた安全及び衛生に関する規定が改正され,労働者の安全及び衛生に関しては,安衛法の定めるところによるものとされた。安衛法では,安衛法は,労働基準法とあいまって,労働災害の防止のための危害防止基準の確立,責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに,快適な作業環境(平成4年法律第55号による改正後は「職場環境」)の形成を促進することを目的とする(1条),事業者は,労働災害を防止するための管理を必要とする作業で,政令で定めるものについては,作業主任者を選任し,その者に作業に従事する労働者の指揮その他の省令で定める事項を行わせなければならない( ),事業者は,労働災害を防止するための管理を必要とする作業で,政令で定めるものについては,作業主任者を選任し,その者に作業に従事する労働者の指揮その他の省令で定める事項を行わせなければならない(14条),事業者は,粉じん等による健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない(22条),事業者は,労働者を就業させる建設物その他の作業場について,換気等に必要な措置その他労働者の健康,風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければならない(23条),労働者は,事業者が22条,23条等の規定に基づき講ずる措置に応じて必要な事項を守らなければならない(26条),黄りんマッチ,ベンジジン,ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で,政令で定めるものは,製造し,輸入し,譲渡し,提供し,又は使用してはならない(55条),ベンゼン,ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの等を譲渡し,又は提供する者は,省令で定めるところにより,その容器又は包装に,名称並びに人体に及ぼす作用及び貯蔵又は取扱い上の注意等を表示しなければならない(57条),事業者は,労働者を雇い入れたとき及び労働者の作業内容を変更したときは,当該労働者に対し,省令で定めるところにより,その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない(59条1項,2項)とされた。22条,23条等の規定により事業者が講ずべき措置及び26条の規定により労働者が守らなければならない事項は,省令に委任された(27条1項)。 - 14 - 内閣は,安衛法の規定に基づき,労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「安衛令」という。一部を除き同年10月1日施行)を制定し,安衛令は,同年8月19 。 - 14 - 内閣は,安衛法の規定に基づき,労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「安衛令」という。一部を除き同年10月1日施行)を制定し,安衛令は,同年8月19日,公布された。 労働大臣は,昭和47年9月30日,安衛法及び安衛令の規定に基づき,並びに安衛法を実施するため,労働安全衛生規則(同年労働省令第32号。以下「安衛則」という。一部を除き同年10月1日施行)を制定し,旧安衛則を廃止した。 安衛則には,次の内容の規定が設けられた。 a 事業者は,粉じん等を発散するなど有害な作業場においては,その原因を除去するため,代替物の使用,作業の方法又は機械等の改善等必要な措置を講じなければならない(576条)。 b 事業者は,粉じん等を発散する屋内作業場においては,空気中の粉じん等の含有濃度が有害な程度にならないようにするため,局所排気装置又は全体換気装置を設けるなど必要な措置を講じなければならない(577条)。 c 事業者は,有害物を含む排気を排出する局所排気装置その他の設備については,当該有害物の種類に応じて,集じんその他の有効な方式による排気処理装置を設けなければならない(579条)。 d 事業者は,粉じんを著しく飛散する屋外又は坑内の作業場においては,注水その他の粉じんの飛散を防止するため必要な措置を講じなければならない(582条)。 e 事業者は,粉じん等を発散する有害な場所等に関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示しなければならない(585条)。 f 事業者は,粉じん等を発散する有害な場所における業務等においては,当該業務に従事する労働者に使用させるために,保護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適切な保護具を備えなければならない(593条)。 f 事業者は,粉じん等を発散する有害な場所における業務等においては,当該業務に従事する労働者に使用させるために,保護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適切な保護具を備えなければならない(593条)。 g 事業者は,593条に規定する保護具については,同時に就業する労働者の - 15 -人数と同数以上を備え,常時有効かつ清潔に保持しなければならない(596条)。 h 593条に規定する業務に従事する労働者は,事業者から当該業務に必要な保護具の使用を命じられたときは,当該保護具を使用しなければならない(597条)。 労働大臣は,昭和47年9月30日,安衛法及び安衛令の規定に基づき,並びに安衛法を実施するため,特定化学物質等障害予防規則(同年労働省令第39号。以下「特化則」という。一部を除き同年10月1日施行)を制定し,旧特化則を廃止した。特化則では,旧特化則と同様,石綿は第二類物質とされ(2条4号,安衛令別表第3第3号2),第二類物質に係る作業に関し,次の内容の規定が設けられ,従来の規制がほぼそのまま引き継がれた。 a 事業者は,第二類物質の粉じん等が発散する屋内作業場について,当該発散源に局所排気装置を設けなければならず,局所排気装置の設置が著しく困難であること等により局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設けるなど労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講じなければならない(5条1項,2項)。 b 事業者は,第二類物質を製造し,又は取り扱う作業場に,関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示しなければならない(24条1号)。 c 事業者は,第二類物質の運搬又は貯蔵のために使用する容器又は包装の見やすい箇所に当該物質の名称及び取扱い上の注意事項を表示しなければならない( い箇所に表示しなければならない(24条1号)。 c 事業者は,第二類物質の運搬又は貯蔵のために使用する容器又は包装の見やすい箇所に当該物質の名称及び取扱い上の注意事項を表示しなければならない(25条2項)。 d 事業者は,第二類物質を製造し,又は取り扱う作業場に,当該物質の粉じん等を吸入することによる労働者の健康障害を予防するため必要な呼吸用保護具を備えなければならない(43条)。 e 事業者は,43条の保護具について,同時に就業する労働者の人数と同数以 - 16 -上を備え,常時有効かつ清潔に保持しなければならない(45条)。 内閣は,昭和50年1月14日,安衛令を一部改正し(一部を除き同年4月1日施行),労働大臣は,同年3月22日,安衛則を一部改正した(安衛則別表第2の改正規定等につき同年4月1日施行)。上記の安衛令及び安衛則の改正により,石綿及び石綿を含有する製剤その他の物(ただし,石綿の含有量が重量の5%以下のものを除く。以下,石綿と安衛令,安衛則又は特化則が規制対象とする石綿を含有する製剤その他の物とを併せて「石綿等」ということがある。)が,安衛法57条に基づく表示義務の対象となり,名称,人体に及ぼす作用,取扱い上の注意等を表示すべきこととなった(上記改正後の安衛令18条2号の2,同条39号,上記改正後の安衛則30条,32条2号の2,33条,別表第2第2号の2。ただし,昭和50年4月1日において現に存するものについては,同年9月30日までの間は,安衛法57条の規定は適用しないとの経過措置が設けられた。)。 労働省労働基準局長は,昭和50年3月27日付けで,「労働安全衛生法第57条に基づく表示の具体的記載方法について」と題する通達(同日基発第170号。以下「表示方法通達」という。)を発出し,石綿 労働省労働基準局長は,昭和50年3月27日付けで,「労働安全衛生法第57条に基づく表示の具体的記載方法について」と題する通達(同日基発第170号。以下「表示方法通達」という。)を発出し,石綿等についての安衛法57条に基づく表示の具体的記載方法を,「注意事項多量に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれがありますから,下記の注意事項を守つて下さい。1.粉じんが発散する屋内の取扱い作業場所には,局所排気装置を設けて下さい。2.取扱い中は,必要に応じ防じんマスクを着用して下さい。」などと示した。 労働大臣は,昭和50年9月30日,特化則を一部改正した(一部を除き同年10月1日施行)。上記の改正のうち,石綿等に関するものの主な内容は,次のとおりである。 a 石綿のほか,石綿を含有する製剤その他の物(ただし,石綿の含有量が重量の5%以下のものを除く。)も,第二類物質とされ,事業者の呼吸用保護具を備える義務の対象とされるなどした(前記改正後の安衛令別表第3第2号4,37,上記改正後の特化則2条1項2号,2項,別表第1第4号)。 - 17 -b 事業者は,石綿等を含む特別管理物質を製造し,又は取り扱う作業場には,特別管理物質の名称,人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項及び使用すべき保護具に係る事項を,作業に従事する労働者が見やすい箇所に掲示しなければならないとされた(上記改正後の特化則38条の3。以下,この規定を「本件掲示義務規定」という。)。 c 事業者は,原則として,石綿等を吹き付ける作業に,労働者を従事させてはならないとされた(上記改正後の特化則38条の7第1項)。 d 事業者は,石綿等の切断,穿孔,研磨等の作業,石綿等を塗布し,注入し,又は張り付けた物の破砕,解体等の作業,粉状の石綿等を容器に入れ,又は容器 とされた(上記改正後の特化則38条の7第1項)。 d 事業者は,石綿等の切断,穿孔,研磨等の作業,石綿等を塗布し,注入し,又は張り付けた物の破砕,解体等の作業,粉状の石綿等を容器に入れ,又は容器から取り出す作業及び粉状の石綿等を混合する作業のいずれかに労働者を従事させるときは,石綿等を湿潤な状態のものとすることが著しく困難なときを除き,石綿等を湿潤な状態のものとしなければならず,これらの作業を行う場所に,石綿等の切りくず等を入れるための蓋のある容器を備えなければならないとされた(上記改正後の特化則38条の8第1項,2項)。 e 石綿等を取り扱う作業(試験研究のため取り扱う作業を除く。)が,安衛法14条の作業主任者の選任を要する作業とされた(前記改正後の安衛令6条18号,別表第3第2号4,37,上記改正後の特化則2条2項,別表第1第4号)。 労働省労働基準局長は,昭和50年10月1日付けで,「特定化学物質等障害予防規則の一部を改正する省令の施行について」と題する通達(同日基発第573号。以下「573号通達」という。)を発出した。この中で,特化則の改正は,最近特に大きな関心事となっている職業がん等職業性疾病の発生状況等に鑑み,特化則の充実を図ったものであるとされ,「特別管理物質」は,人体に対する発がん性が疫学調査の結果明らかとなった物,動物実験の結果発がんの認められたことが学会等で報告された物等人体に遅発性効果の健康障害を与える,又は治癒が著しく困難であるという有害性に着目し,特別の管理を必要とするものを定めたものであるとされた。また,573号通達は,本件掲示義務規定の掲示事項のうち,特別管 - 18 -理物質の名称,人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項については,表示方法通達の当該部分と同一内容として差し支えないとし ,573号通達は,本件掲示義務規定の掲示事項のうち,特別管 - 18 -理物質の名称,人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項については,表示方法通達の当該部分と同一内容として差し支えないとした。 内閣は,平成7年1月25日,安衛令を一部改正し(一部を除き同年4月1日施行),アモサイト,クロシドライト及びこれらをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を,安衛法55条により製造等が禁止される有害物等に定めた(上記改正後の安衛令16条4号,5号,10号)。 労働大臣は,平成7年1月26日,安衛則及び特化則を一部改正した(いずれも,一部を除き同年4月1日施行)。これにより,安衛則及び特化則の規制対象となる石綿を含有する製剤その他の物の範囲が,石綿の含有量が重量の5%を超えるものから,1%を超えるものに拡大された(上記改正後の安衛則別表第2第2号の2,上記改正後の特化則別表第1第4号,別表第5第1号)。このほか,上記改正後の安衛則により,事業者に,石綿等が吹き付けられている耐火建築物等における石綿等の除去の作業を行う場合の当該作業に関する計画の届出義務が課され(90条5号の2),上記改正後の特化則により,事業者に,石綿等の切断,穿孔,研磨等の作業,石綿等を塗布し,注入し,又は張り付けた物の破砕,解体等の作業,粉状の石綿等を容器に入れ,又は容器から取り出す作業及び粉状の石綿等を混合する作業のいずれかに労働者を従事させるときに,当該労働者に呼吸用保護具,作業衣等を使用させる義務(38条の9第1項,2項),建築物の解体等の作業を行うときに,石綿等が使用されている箇所及び使用状況を設計図書等により調査し,結果を記録する義務(38条の10),建築物の鉄骨等に吹き付けられた石綿等を除去する作業に労働者を従事させるときに,当該除去を ときに,石綿等が使用されている箇所及び使用状況を設計図書等により調査し,結果を記録する義務(38条の10),建築物の鉄骨等に吹き付けられた石綿等を除去する作業に労働者を従事させるときに,当該除去を行う作業場所を,それ以外の作業を行う作業場所から隔離する義務(38条の11)が課された。 オ内閣は,平成15年10月16日,安衛令を一部改正し(平成16年10月1日施行),石綿を含有する石綿セメント円筒,押出成形セメント板,住宅屋根用化粧スレート,繊維強化セメント板,窯業系サイディング等の製品で,その含有する石綿の重量が当該製品の重量の1%を超えるものを,安衛法55条により製造等 - 19 -が禁止される有害物等に定めた(上記改正後の安衛令16条1項,別表第8の2)。 カ内閣は,平成18年8月2日,安衛令を一部改正し(同年9月1日施行),例外的に改正附則において除外するもののほか,石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有する製剤その他の物を,安衛法55条により製造等が禁止される有害物等に定めた(上記改正後の安衛令16条1項,上記改正附則3条)。 石綿粉じん濃度の規制等ア日本産業衛生協会(昭和47年に日本産業衛生学会に名称が変更された。以下,この名称変更の前後を通じて「日本産業衛生学会」という。)は,昭和40年,石綿粉じんの許容濃度として,1㎥当たり2㎎(石綿の繊維数に換算すると,1㎤当たり33本。)を勧告した。許容濃度とは,労働者が有害物に連日ばく露した場合に,空気中の有害濃度がこの数値以下であれば,健康に有害な影響がほとんど見られないという濃度であり,その数値は,感受性が特別に高くない労働者が,1日8時間以内,中等労働に従事する場合の1日のばく露労働時間内の平均濃度である。 日本産業衛生学会は,昭和4 がほとんど見られないという濃度であり,その数値は,感受性が特別に高くない労働者が,1日8時間以内,中等労働に従事する場合の1日のばく露労働時間内の平均濃度である。 日本産業衛生学会は,昭和49年,昭和40年の勧告に示された石綿粉じんの許容濃度の数値の改訂を行い,クリソタイル,アモサイト,トレモライト,アンソフィライト及びアクチノライトの気中許容濃度を,時間荷重平均として,5㎛(マイクロメートル)以上の繊維として1㎤当たり2本,天井値(いかなる時も15分間の平均濃度がこの値を超えてはならない数値)として,5㎛以上の繊維として1㎤当たり10本とし,クロシドライトの許容濃度については,これらの濃度をはるかに下回る必要があるとした。この改訂の理由として,石綿肺のみでなく肺及び消化器のがん及び中皮腫が注目されるようになり,日本の現行許容濃度が近年に各国で設定又は改訂された許容濃度と比較すると極めて高い値であること等が挙げられている。 日本産業衛生学会は,昭和57年,クロシドライトの許容濃度として,1㎤当た - 20 -り0.2本を勧告した。 日本産業衛生学会は,平成13年,リスクアセスメントの手法を導入し,石綿を発がん物質と分類した上,過剰発がん生涯リスクレベル10-3,10-4に対応する評価値として,クリソタイルのみのときは,それぞれ1ml当たり0.15本,1ml当たり0.015本,クリソタイル以外の石綿繊維を含むときは,それぞれ1ml当たり0.03本,1ml当たり0.003本を勧告した。 イ労働大臣は,昭和46年4月28日,旧特化則6条2項の規定に基づき,局所排気装置の性能要件として,石綿の抑制濃度の規制値を1㎥当たり2㎎と定めた(同年労働省告示第27号)。 労働省労働基準局長は,昭和48年7月11日付けで,昭和 旧特化則6条2項の規定に基づき,局所排気装置の性能要件として,石綿の抑制濃度の規制値を1㎥当たり2㎎と定めた(同年労働省告示第27号)。 労働省労働基準局長は,昭和48年7月11日付けで,昭和48年通達を発出し,当面,石綿粉じんの抑制濃度を5㎛以上の繊維として1㎤当たり5本と指導することを指示した。 労働大臣は,昭和50年9月30日,特化則に基づく告示を改正し,石綿の抑制濃度の規制値を5㎛以上の繊維として1㎤当たり5本と定めた(同年労働省告示第75号)。 労働省労働基準局長は,昭和51年5月22日付けで,「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進について」と題する通達(同日基発第408号)を発出し,最近,関係各国において環気中の石綿粉じん濃度の規制を強化しつつあるとして,当面,1㎤当たり2本(クロシドライトにあっては,1㎤当たり0.2本)以下の環気中粉じん濃度を目途とするよう指導することを指示した。 労働省労働基準局長は,昭和59年2月13日付けで,「作業環境の評価に基づく作業環境管理の推進について」と題する通達(同日基発第69号)を発出し,石綿の管理濃度を1㎤当たり2本とした。管理濃度とは,有害物質に関する作業環境の状態を評価するために,対象となる区域について実施した測定結果から当該区域の作業環境管理の良否を判断する際の指標である。 労働大臣は,昭和63年法律第37号による安衛法の改正に伴い,管理濃度に基 - 21 -づく作業環境管理が法制化されたことから,同年9月1日,石綿の管理濃度を5㎛以上の繊維として1㎤当たり2本(クロシドライトにあっては,1㎤当たり0.2本)と定めた(同年労働省告示第79号)。 厚生労働大臣は,平成16年10月1日,石綿の管理濃度を5㎛以上の繊維として1㎤当たり0.15本と定めた( 本(クロシドライトにあっては,1㎤当たり0.2本)と定めた(同年労働省告示第79号)。 厚生労働大臣は,平成16年10月1日,石綿の管理濃度を5㎛以上の繊維として1㎤当たり0.15本と定めた(同年厚生労働省告示第369号)。 大工を主たる職種とする本件被災者らが稼働する建設現場への建材の到達等ア被告エーアンドエーマテリアル,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイ(以下,併せて「被告エーアンドエーマテリアルら」という。)を含む多数の建材メーカーは,昭和50年4月1日以降,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること,その危険を回避するために適切な防じんマスクを着用する必要があること等を当該建材に表示する義務を負っていたにもかかわらず,その義務を履行していなかった。 イ石綿含有スレートボード・フレキシブル板,石綿含有スレートボード・平板及び石綿含有けい酸カルシウム板第1種(以下,これらを併せて「本件ボード三種」という。)は,一般的に,大工が直接取り扱う機会の多い建材であり,大工を主たる職種とする本件被災者ら(以下「本件被災大工ら」という。)も,本件ボード三種を直接取り扱っていた。また,本件ボード三種のうち,被告エーアンドエーマテリアルらが製造販売していたものは,いずれも昭和50年4月から平成4年までの間に,相当回数にわたり,本件被災大工らが稼働する建設現場に到達して用いられていた。 ウ本件被災大工らは,建設現場で石綿粉じんにばく露し,石綿関連疾患にり患した。本件被災大工らのばく露量のうち,半分程度は,自分以外の者が行った作業によって発散し,又は飛散した石綿粉じんに間接的にばく露したことによるもの 建設現場で石綿粉じんにばく露し,石綿関連疾患にり患した。本件被災大工らのばく露量のうち,半分程度は,自分以外の者が行った作業によって発散し,又は飛散した石綿粉じんに間接的にばく露したことによるものであり,その余は,自分で石綿含有建材を取り扱ったことによって発散し,又は飛散した石綿粉じんに直接的にばく露したことによるものであった。また,本件被災大 - 22 -工らが石綿含有建材を直接取り扱ったことによるばく露量のうち,3分の2程度は,昭和50年4月から平成4年までの間に,本件ボード三種を取り扱ったことによるものであった。したがって,本件被災大工らが昭和50年4月から平成4年までの間に本件ボード三種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度であった。 3 原審は,前記の事実関係等の下において,要旨次のとおり判断した。 被告国に対する国家賠償請求についてア昭和50年当時,建設現場は,石綿粉じんにばく露する危険性の高い作業環境にあった。また,肺がんは石綿肺より低いばく露レベルで発症すること,中皮腫も少量のばく露で発症し得ること,石綿関連疾患はいずれも生命に関わる重篤な疾患であること及び建築業の労働者数が全労働人口の約1割を占めていることを勘案すると,当時の建設現場では,建設作業従事者に,石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていたといえる。現時点から振り返ってみると,被告国による当時の石綿粉じん対策は,不十分なものであったが,被告国は,当時,建設現場における石綿粉じんの実態を把握しておらず,建設現場において石綿粉じんにばく露することにより,建設作業従事者に広範かつ重大な危険が生じていると認識していなかった。このような被告国の認識状況を前提にすると,昭和50 じんの実態を把握しておらず,建設現場において石綿粉じんにばく露することにより,建設作業従事者に広範かつ重大な危険が生じていると認識していなかった。このような被告国の認識状況を前提にすると,昭和50年の特化則の改正により,建設現場における石綿粉じんの主要発散源とされていた石綿吹付け作業を原則として禁止し,従来の呼吸用保護具の備付け義務に加えて,特定化学物質等作業主任者による作業の指揮や保護具の使用状況の監視により,呼吸用保護具の着用をより一層確保するなど,当面採り得る対策を講ずるなどした被告国の判断には,相応の合理性が認められる。これらを考慮すると,昭和55年12月31日以前の被告国の安衛法に基づく規制権限の不行使は,許容される限度を超えて著しく不合理なものとはいえず,国家賠償法1条1項の適用上違法ということはできない。 イのとおり,昭和56年1月1日以降,被告国の安衛法に基 - 23 -づく規制権限の不行使は国家賠償法1条1項の適用上違法であり,その後も,建設現場では,石綿粉じんにばく露するおそれのある状況が継続していたから,平成7年3月31日までの間,上記の違法な状態は継続していた。 昭和50年代半ばにおいても,建設現場では,石綿粉じんにばく露することにより石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が継続していた。また,各種建設作業における石綿粉じん濃度について,許容濃度を超える国内外の測定結果が公表され,建設作業は石綿粉じんにばく露する危険性のある職業分野であるとの認識が形成されるようになっていた。被告国は,建設作業従事者に対して石綿粉じんにばく露することによる広範かつ重大な健康被害の危険が生じていることを把握し得たというべきである。そうすると,被告国は,遅くとも昭和56年1月1日の時点で,安衛法27条に基づ 事者に対して石綿粉じんにばく露することによる広範かつ重大な健康被害の危険が生じていることを把握し得たというべきである。そうすると,被告国は,遅くとも昭和56年1月1日の時点で,安衛法27条に基づき,特化則を改正するなどして,事業者に対して,屋根を有し周囲の半分以上が外壁に囲まれ屋内作業場と評価し得る建設現場の内部(以下「屋内建設現場」という。)において,石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業(その内容につき平成7年改正後の特化則38条の9第1項参照)及びその周囲における作業に労働者を従事させる場合には,呼吸用保護具を使用させることを義務付けるべきであった。被告国がこれを行わなかったことは,著しく合理性を欠く。 安衛法57条の定める労働者に健康障害を生ずるおそれのある物に関する表示において,同条の定める表示事項の一つである「人体に及ぼす作用」は,必要な手当てや治療が速やかに判明するように症状や障害を可能な限り具体的に特定して表示すべきであり,抽象的に健康障害を生ずるおそれがある旨を表示するのでは足りない。また,同条の定める表示事項の一つである「貯蔵又は取扱い上の注意」も,健康障害の発生を防止するために必要な注意を表示する必要がある。しかし,表示方法通達に示された石綿等に係る表示の具体的記載方法は,「注意事項」として,「多量に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれがありますから,下記の注意事項を守つて下さい。」,「取扱い中は,必要に応じ防じんマスクを着用して下 - 24 -さい。」などと記載するというものであった。このような記載方法では,「人体に及ぼす作用」については,症状や障害がおよそ特定されておらず記載がないに等しいのみならず,あたかも粉じんの吸入が多量に至らなければ健康障害のおそれはないとの誤解が生じかね うな記載方法では,「人体に及ぼす作用」については,症状や障害がおよそ特定されておらず記載がないに等しいのみならず,あたかも粉じんの吸入が多量に至らなければ健康障害のおそれはないとの誤解が生じかねないのであって,昭和50年代半ばにおける医学的知見に適合しておらず,「貯蔵又は取扱い上の注意」については,石綿粉じんにばく露することを防止する上で呼吸用保護具の着用が不可欠な建設現場で使用される石綿含有建材の表示として不十分である。同様のことは,本件掲示義務規定の定める石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示についても妥当する。そうすると,被告国は,昭和56年1月1日の時点で,安衛法に基づく規制権限を行使して,通達を発出し,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際は必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督すべきであった。被告国がこれを行わなかったことは,著しく合理性を欠く。 被告国は,昭和56年1月1日の時点で,安衛法59条に基づく規制権限を行使して,通達を発出し,安全衛生教育の内容として,建材の多くが石綿を含有していること,石綿含有建材を取り扱う作業を行う際に発生する石綿粉じんを吸入すると,将来石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること,特に肺がん,中皮腫は,吸入量が多量に至らないときにも発症する危険があること,これらの疾病は治療方法が限られており,症状が悪化して死亡することもあること,このような危険を避けるため,上記作業を行う際には規格に適合した防じんマス 多量に至らないときにも発症する危険があること,これらの疾病は治療方法が限られており,症状が悪化して死亡することもあること,このような危険を避けるため,上記作業を行う際には規格に適合した防じんマスクを必ず着用する必要があることを含めるように指導監督すべきであった。被告国がこれを行わなかったことは,著しく合理性を欠く。 ウ被告国は,平成7年に安衛令,安衛則及び特化則を改正し,一部を除き同年4月1日から施行した。この改正により,①アモサイト,クロシドライト及びこれ - 25 -らをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物の製造等が禁止され,②安衛則及び特化則の規制対象となる石綿を含有する製剤その他の物の範囲が,石綿の含有量が重量の5%を超えるものから1%を超えるものに拡大されたほか,事業者に,③吹付け石綿等の除去作業を行う場合の作業計画の届出義務,④石綿等の切断等の作業に労働者を従事させるときの呼吸用保護具,作業衣等を使用させる義務,⑤解体工事における石綿等の使用状況の事前調査等の義務及び⑥吹付け石綿等の除去作業を行う作業場所の隔離等の義務が課されるに至った。これにより,昭和56年1月1日以降継続していた被告国の安衛法に基づく規制権限の不行使による違法な状態は,解消されたというべきであり,平成7年4月1日以降,被告国の規制権限の不行使を国家賠償法1条1項の適用上違法ということはできない。 エ安衛法22条,57条及び59条に基づく規制権限の保護の対象者は,安衛法2条2号において定義された労働者であり,被告国は,当該労働者と認められない者との関係では,上記規制権限を行使する職務上の法的義務を負担しない。したがって,当該労働者と認められないいわゆる一人親方及び個人事業主等との関係では,被告国の上記規制権限の不行使は違法とはな ない者との関係では,上記規制権限を行使する職務上の法的義務を負担しない。したがって,当該労働者と認められないいわゆる一人親方及び個人事業主等との関係では,被告国の上記規制権限の不行使は違法とはならず,被告国は規制権限の不行使による責任を負わない。 被告建材メーカーらに対する不法行為に基づく損害賠償請求についてア民法719条1項後段は,因果関係以外の不法行為の要件を備えた複数の加害者が,いずれも,それのみで他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する結果を惹起し得る行為を行ったが,いずれの行為によって損害が発生したか不明である場合に,因果関係の立証責任を加害者側に転換して,各加害者が自らの行為と損害との間に因果関係が存在しないことを証明しない限り,加害者らに連帯して損害賠償責任を負わせる趣旨の規定であると解される。このように,同項後段が因果関係の立証責任を転換し,これを推定する規定を設けたのは,被害者の権利又は法律上保護される利益の侵害を発生させる具体的な危険を惹起する行為をした者がある場合,経験則上それだけで行為と損害との間の因果関係を推定し得るにもかかわら - 26 -ず,たまたま他に同等の危険を生じさせる加害行為をした者がいる場合には,相互に因果関係の推定を妨げ合い,いずれについても被害者がする因果関係の証明が不十分となり得る事態が生ずることから,被害者を救済する必要があるとともに,加害者側にも権利又は法律上保護される利益を侵害する具体的な危険を惹起したという事情が備わるため,推定を認めても必ずしも責任主義に反することとならないからであると解される。そうすると,同項後段が適用されるためには,各加害者の行為が,経験則上,それのみで生じた損害との間の因果関係を推定し得る程度に具体的な危険を惹起するものであること ととならないからであると解される。そうすると,同項後段が適用されるためには,各加害者の行為が,経験則上,それのみで生じた損害との間の因果関係を推定し得る程度に具体的な危険を惹起するものであることを主張立証する必要があると解される。そして,被告建材メーカーらの製造販売した建材が出荷されても,本件被災者らが作業をする建設現場に到達しなければ,本件被災者らとの関係で,被告建材メーカーらの行為が具体的な損害発生の危険を惹起したとはいえない。 民法719条1項後段の趣旨は上記のとおりであり,被害者が特定した複数の加害者以外には加害者となり得る者が存在しないことを同項後段の適用の要件であると解することは相当ではない。なぜなら,被害者が特定した加害者の行為と同等の危険性を有する行為をした第三者が存在することが明らかとなっても,これにより直ちに因果関係の推定の基礎が崩れるとはいえないからである。 もっとも,中皮腫は石綿粉じんの少量のばく露によっても発症し得るとされているところ,中皮腫にり患した本件被災大工らに係る損害賠償請求については,本件のように,被害者の石綿粉じんへのばく露に関わった加害者が多数存在し得る状況において,加害者として特定された者が,他に加害行為を行った者が多数存在し,これらの者の加害行為を原因とする石綿粉じんへのばく露の方が,自らの加害行為を原因とする石綿粉じんへのばく露よりもばく露量が大きいことを証明したとしても,民法719条1項後段の推定を覆せないとすると,明らかに衡平を失するというべきである。そこで,上記の本件被災大工らに係る石綿粉じんのばく露量全体との関係で,本件ボード三種を製造販売した企業らの集団的寄与度を定め,これに応じた割合的責任の範囲内で,同項後段を適用して,被告エーアンドエーマテリアル - 27 - 綿粉じんのばく露量全体との関係で,本件ボード三種を製造販売した企業らの集団的寄与度を定め,これに応じた割合的責任の範囲内で,同項後段を適用して,被告エーアンドエーマテリアル - 27 -らに連帯責任を負担させるのが相当である。 中皮腫にり患した本件被災大工らについて,本件ボード三種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度にとどまることからすると,損害の衡平な分担という観点から,被告エーアンドエーマテリアルらについては,本件ボード三種を製造販売した企業らの集団的寄与度である3分の1の範囲内で民法719条1項後段を適用し,上記の本件被災大工らの各損害の3分の1について連帯責任を負うこととするのが相当である。 中皮腫にり患した本件被災大工らはいずれも死亡しているところ,石綿関連疾患により死亡した場合の基準となる慰謝料は2500万円とするのが相当であり,その3分の1の額は833万3333円である。よって,上記の本件被災大工らに係る損害賠償請求について,被告エーアンドエーマテリアルらは,民法719条1項後段の適用により,連帯して,慰謝料833万3333円及び弁護士費用83万3333円の合計額である916万6666円の支払義務を負う。 イ加害者として特定された複数の者の行為がいずれもそれのみで他人の権利又は法律上保護される利益を侵害する結果を惹起し得るものでない場合には,全ての加害者が特定され,他に加害者が存在しないことが立証されなければ,損害全体についての因果関係の推定の基礎が欠け,民法719条1項後段を類推適用する前提を欠くものと解される。 石綿粉じんにばく露する作業に従事し,石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚(以下「中皮腫以外の石綿関連疾患」という。)にり患した 欠け,民法719条1項後段を類推適用する前提を欠くものと解される。 石綿粉じんにばく露する作業に従事し,石綿肺,肺がん又はびまん性胸膜肥厚(以下「中皮腫以外の石綿関連疾患」という。)にり患した本件被災大工らの損害賠償請求については,被告エーアンドエーマテリアルらが製造販売した本件ボード三種が上記の本件被災大工らが作業をする建設現場に到達したことは認められるものの,この被告エーアンドエーマテリアルらの行為が,それのみで上記の本件被災大工らに中皮腫以外の石綿関連疾患を発症させるものであったとは認められず,他に加害者となり得る者が存在することも明らかであるから,被告エーアンドエーマテリアルらは,同項後段の類推適用によって損害賠償責任を負うということはでき - 28 -ない。 もっとも,上記の場合,被告エーアンドエーマテリアルらは,民法709条に基づき,各被告の損害発生に対する寄与度に応じた割合による分割責任を負うと解するのが相当である。そして,中皮腫以外の石綿関連疾患にり患した本件被災大工らについて,本件ボード三種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度にとどまること,本件ボード三種のマーケットシェアは,被告エーアンドエーマテリアルが30%程度,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイがそれぞれ10%程度であることを考慮すると,上記の本件被災大工らの石綿関連疾患の発症への寄与度は,被告エーアンドエーマテリアルについては10%,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについてはそれぞれ3%とするのが相当である。そうすると,上記の本件被災大工らに係る損害賠償請求については,被告エーアンドエーマテリアルらは,それぞれ同条に基づく分割責任を負い,その賠償額は,上記の本件被災大工らの疾 3%とするのが相当である。そうすると,上記の本件被災大工らに係る損害賠償請求については,被告エーアンドエーマテリアルらは,それぞれ同条に基づく分割責任を負い,その賠償額は,上記の本件被災大工らの疾患等に応じた基準となる慰謝料(石綿肺(管理区分2,合併症あり)の場合には1300万円,肺がん及びびまん性胸膜肥厚の場合には2200万円,石綿関連疾患による死亡の場合には2500万円)に各被告の寄与度を乗じ,肺がんにり患した者のうち喫煙歴のある者は1割を減額し,弁護士費用として1割を加算した額となる。すなわち,別紙計算書記載の計算の結果,被告エーアンドエーマテリアルらは,上記の本件被災大工らに対し,原判決別紙2「主文一覧表」の各被告についての「認容額」欄記載の金額の損害賠償責任を負う。 ウ建物の工事において,石綿を含有する成形板が取り付けられた後にその取付け作業をした者以外の者が当該成形板に配線や配管のため穴を開ける作業をする際のように,一旦使用された石綿含有建材に後から別の者が作業をする際に石綿粉じんにばく露することがある。その際の建設作業従事者の安全性の確保は,新規出荷時の警告表示によって伝達された情報を契機としつつも,事業者による安全配慮義務の履行によって図られるべきものである。よって,石綿含有建材の製造販売をす - 29 -る者は,建物の工事において,上記のように一旦使用された石綿含有建材に後から作業をする者に対しては,警告表示義務を負わないと解すべきである。したがって,原告らのうち別紙一覧表3記載の者らの被告エーアンドエーマテリアルら,被告大建工業及び被告ノザワに対する請求並びに原告らのうち別紙一覧表5記載の者らの被告ノザワに対する請求は理由がない。 エ石綿を含有する吹付け材を製造販売する企業は,吹付け作業の従事者及 ルら,被告大建工業及び被告ノザワに対する請求並びに原告らのうち別紙一覧表5記載の者らの被告ノザワに対する請求は理由がない。 エ石綿を含有する吹付け材を製造販売する企業は,吹付け作業の従事者及び周囲の者等の安全性を確保するために必要な警告を行う義務を負い,具体的には,①当該吹付け材が石綿を含有しており,作業に伴い高濃度の石綿粉じんを発散すること,②石綿粉じんにばく露すると,石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること,③吹付けに用いる石綿等を容器に入れ,容器から取り出し,又は混合する作業は,隔離された屋内の作業場所で行うこと,④吹付け作業を行う際には送気マスク又は空気呼吸器及び保護衣を使用すること,⑤吹付け作業中は他の者の立入りを禁止すること,⑥吹付け作業終了後に吹付け場所で作業を行う者も防じんマスクを着用する必要があることを明確に情報提供すべきである。 もっとも,被告太平洋セメントは,石綿含有吹付けロックウールに関し,建材だけが流通することは想定せず,販売先の系列化を図り,自社の石綿含有吹付けロックウールの施工の安全性を確保する態勢を採っていたのであって,このことを通じて元請建設業者の側に安全配慮義務の履行の契機となる情報は伝達されていたものと評価され,上記警告義務の違反があったとは認められない。したがって,原告らのうち別紙一覧表4記載の者らの被告太平洋セメントに対する請求は理由がない。 オ被告ノザワは,長期間にわたり,石綿を含有するモルタル混和剤「テーリング」を製造販売していた。株式会社ノザワ技術研究所作成の平成元年9月付け報告書(以下「ノザワ技研報告書」という。)によれば,同社において,同年8月,テーリングを使用した左官作業における石綿粉じん濃度を測定したところ,作業環境における石綿粉じん濃度 成の平成元年9月付け報告書(以下「ノザワ技研報告書」という。)によれば,同社において,同年8月,テーリングを使用した左官作業における石綿粉じん濃度を測定したところ,作業環境における石綿粉じん濃度は最大でも0.065本/㏄,個人ばく露濃度の最大値は0.035本/㏄であって,テーリングから生ずる石綿粉じんは,ごく僅かなもの - 30 -であった。上記の測定の際,舟(混練作業用の容器)とスコップを用いて混練が行われ,電動かくはん機は用いられていなかったが,測定の際にあえて一般的でない作業方法が用いられたとはいい難いから,上記の測定結果が信用できないものとはいえず,他にこれに代わる測定結果もない。したがって,被告ノザワは,テーリングを製造販売したことにつき,損害賠償責任を負わず,原告らのうち別紙一覧表6記載の者らの被告ノザワに対する請求は理由がない。 第2 被告国に対する国家賠償請求について 1 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立て理由第2編第1章第4(ただし,排除されたものを除く。)について アの判断には,国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法があるというものである。そこで,この点につき検討する。 国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁平成13年(オ)第1194号,第1196号,同年(受)第1172号, ものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁平成13年(オ)第1194号,第1196号,同年(受)第1172号,第1174号同16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁,最高裁平成26年(受)第771号同年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁参照)。 これを本件についてみると,安衛法は,職場における労働者の安全と健康の確保等を目的として(1条),事業者は,労働者の健康障害の防止等のために必要な措置を講じなければならないものとしているのであって(22条等),事業者が講ずべき具体的措置を労働省令(平成11年法律第160号による改正後は厚生労働省令)に委任している(27条1項)。このように安衛法が上記の具体的措置を省令に包括的に委任した趣旨は,事業者が講ずべき措置の内容が多岐にわたる専門的, - 31 -技術的事項であること,また,その内容をできる限り速やかに技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正していくためには,これを主務大臣に委ねるのが適当であるとされたことによるものである。 以上の安衛法の目的及び上記各規定の趣旨に鑑みると,主務大臣の安衛法に基づく規制権限は,労働者の労働環境を整備し,その生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保することをその主要な目的として,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく,適時にかつ適切に行使されるべきものである(前掲最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決,前掲最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決参照)。 また,安衛法は,労働者に健康障害を生ずるおそれのある物等について,人体に及ぼす作用,貯蔵又は取扱い上の注意等を表示しな 7日第三小法廷判決,前掲最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決参照)。 また,安衛法は,労働者に健康障害を生ずるおそれのある物等について,人体に及ぼす作用,貯蔵又は取扱い上の注意等を表示しなければならないとしている(57条)ところ,この表示の記載方法についても,上記と同様に,できる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものとなるように指導監督すべきである。このことは,本件掲示義務規定に基づく掲示の記載方法に関する指導監督についても同様である。 ア前記の事実関係等によれば,昭和50年当時の建設現場は,我が国に輸入された石綿の約7割が建設現場で使用され,多量の粉じんを発散する電動工具の普及とあいまって,石綿粉じんにばく露する危険性の高い作業環境にあったということができる。当時,吹付け工や一部のはつり工を除き,大半の労働者は防じんマスクを着用していなかったから,建設作業従事者に,石綿粉じんにばく露することにより石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていたというべきである。 このことは,建設業労働者のじん肺症発生件数が昭和40年代後半から急増し,その後も,建設業労働者のじん肺症及びじん肺合併症発生件数又は石綿関連疾患の発生件数が高い水準にあったことからも裏付けられる。 イまた,前記の事実関係等によれば,昭和33年3月頃には,石綿肺に関する医学的知見が確立し,昭和47年には,石綿粉じんにばく露することと肺がん及び - 32 -中皮腫の発症との関連性並びに肺がん及び中皮腫が潜伏期間の長い遅発性の疾患であることが明らかとなっていた。さらに,昭和48年通達においては,石綿粉じんの抑制濃度を5㎛以上の繊維として1㎤当たり5本としており,従前の1㎥当たり2㎎(石綿の繊維数に換算すると1㎤当たり33本)から, とが明らかとなっていた。さらに,昭和48年通達においては,石綿粉じんの抑制濃度を5㎛以上の繊維として1㎤当たり5本としており,従前の1㎥当たり2㎎(石綿の繊維数に換算すると1㎤当たり33本)から,石綿粉じん対策の指導を大幅に強化しているところ,通達発出の理由として,石綿が肺がん,中皮腫等を発生させることが明らかとなったこと等により,各国の規制においても気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつあることが挙げられていた。これらによれば,被告国が,石綿のがん原性が明らかとなったことに伴い,石綿粉じんに対する規制を強化する必要があると認識していたことは明らかである。 そして,昭和50年には,安衛令及び安衛則の改正により石綿等が安衛法57条に基づく表示義務の対象となり,特化則の改正により石綿等を取り扱う作業場において石綿等の人体に及ぼす作用等の掲示を義務付ける本件掲示義務規定が設けられている。我が国に輸入された石綿の約7割は,建設現場で使用されていたのであるから,上記の表示義務を負う者として石綿含有建材を製造販売する者が,上記の掲示義務を負う者として建設事業者がそれぞれ想定されていたというべきであり,被告国が,石綿含有建材を取り扱う建設作業従事者について石綿関連疾患にり患することを防止する必要があると認識していたことも明らかである。 ウさらに,前記の事実関係等によれば,昭和46年に発表された論文により,工場における石綿板の切断によって1㎤当たり5本を超える濃度の石綿粉じんが測定されたことが明らかにされていた。 ア以上の諸点に照らすと,被告国は,昭和48年頃には,建設作業従事者が,昭和48年通達の示す抑制濃度を超える石綿粉じんにさらされている可能性があることを認識することができたのであり,建設現場における石綿粉じん濃度の測定 ,被告国は,昭和48年頃には,建設作業従事者が,昭和48年通達の示す抑制濃度を超える石綿粉じんにさらされている可能性があることを認識することができたのであり,建設現場における石綿粉じん濃度の測定等の調査を行うべきであったということができる。そして,そのような調査を行えば,被告国は,当時既に強力な予防指導を要すると指摘されていた石綿吹付け作業に従事する者以外の屋内建設現場における建設作業従事者にも,石綿関連疾患に - 33 -り患する広範かつ重大な危険が生じていることを把握することができたというべきであり,上記の建設作業従事者に対して,石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には,石綿関連疾患にり患する危険があり,必ず適切な防じんマスクを着用するよう伝えるとともに,事業者に対して,防じんマスクの使用を義務付ける必要があることを認識することができたというべきである。 イ前記のとおり,昭和50年の安衛令及び安衛則の改正により,石綿等が健康障害を生ずるおそれのある物として,安衛法57条に基づく表示義務の対象となったところ,同条の定める表示事項の一つである「人体に及ぼす作用」は,その物の危険性が正確に伝わり,必要な手当てや治療が速やかに判明するように,症状や障害を可能な限り具体的に特定して記載すべきであると解され,抽象的に健康障害を生ずるおそれがある旨を記載するのでは足りないというべきである。また,同条の定める表示事項の一つである「貯蔵又は取扱い上の注意」は,健康障害の発生を防止するために必要な注意事項を的確に記載すべきであると解される。そして,上記の各表示事項について,重篤な石綿関連疾患を発症する危険があることを具体的に表示し,健康障害の発生を防止するために必要な注意事項を的確に記載するよ 事項を的確に記載すべきであると解される。そして,上記の各表示事項について,重篤な石綿関連疾患を発症する危険があることを具体的に表示し,健康障害の発生を防止するために必要な注意事項を的確に記載するように指導監督することの障害となるような事情があったとはうかがわれない。 しかし,表示方法通達に示された石綿等に係る表示の具体的記載方法は,「注意事項」として,「多量に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれがありますから,下記の注意事項を守つて下さい。」,「取扱い中は,必要に応じ防じんマスクを着用して下さい。」などと記載するというものであった。このような記載方法では,「人体に及ぼす作用」については,症状や障害が具体的に特定して記載されているとはいい難い上に,粉じんの吸入が多量に至らなければ健康障害のおそれはないとの誤解が生じかねず,昭和50年当時の医学的知見に照らし,不適切であった。また,「貯蔵又は取扱い上の注意」についても,当時,屋内建設現場において,石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作 - 34 -業をする際,石綿粉じんへのばく露を防止する上で,呼吸用保護具の着用は必要不可欠であったというべきであり,単に必要に応じて防じんマスクを着用するよう記載するのみでは,不十分であった。同様に,労働省労働基準局長が,573号通達において,本件掲示義務規定の掲示事項(特別管理物質の名称,人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項)について,表示方法通達の当該部分と同一内容として差し支えないとしたことも,不適切かつ不十分であったというべきである。 そうすると,労働大臣は,昭和50年の適切な時期に,安衛法に基づく規制権限を行使して,表示方法通達の内容を改める通達を発出するなどして,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を たというべきである。 そうすると,労働大臣は,昭和50年の適切な時期に,安衛法に基づく規制権限を行使して,表示方法通達の内容を改める通達を発出するなどして,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,具体的かつ的確に,重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること及び防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督すべきであった。 ウまた,前記のとおり,昭和22年の旧安衛則の施行以来,使用者は,粉じん対策として,呼吸用保護具を備える義務等の各種の義務を負っており,しかも,昭和50年当時,建設現場が石綿粉じんにばく露する危険性の高い作業環境にあったにもかかわらず,大半の労働者は,防じんマスクを着用しておらず,建設作業従事者に石綿関連疾患にり患する広範かつ重大な危険が生じていた。屋内建設現場がこのような状況にあることを被告国が把握し得たことは上記のとおりであり,被告国としては,事業者に対し,屋内建設現場において石綿粉じんにばく露する作業に従事する労働者に呼吸用保護具を使用させることを義務付けるなど,対策を強化する必要があったということができる。そして,その当時,従来から課されていた呼吸用保護具を備える義務を強化して,事業者に対し,上記の労働者に呼吸用保護具を使用させることを義務付けることについて,障害となるような事情があったとはうかがわれない。 そうすると,労働大臣は,昭和50年の適切な時期に,安衛法に基づく省令制定権限を行使して,事業者に対して,屋内建設現場において石綿粉じんにばく露する作業に従事する労働者に呼吸用保護具を使用させることを義務付けるべきであっ - 35 -た。 本件における以上の事情を総合すると,労働大臣は,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特化則が一 労働者に呼吸用保護具を使用させることを義務付けるべきであっ - 35 -た。 本件における以上の事情を総合すると,労働大臣は,石綿に係る規制を強化する昭和50年の改正後の特化則が一部を除き施行された同年10月1日には,安衛法に基づく規制権限を行使して,通達を発出するなどして,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督するとともに,安衛法に基づく省令制定権限を行使して,事業者に対し,屋内建設現場において上記各作業に労働者を従事させる場合に呼吸用保護具を使用させることを義務付けるべきであったのであり,同日以降,労働大臣が安衛法に基づく上記の各権限を行使しなかったことは,屋内建設現場における建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した労働者との関係において,安衛法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである。 アのとおり,昭和55年12月31日以前の規制権限の不行使は国家賠償法1条1項の適用上違法とはならない旨判断し,原告らのうち別紙一覧表1及び別紙一覧表2記載の者らの一部について,損害賠償請求を棄却し又は賠償額を減じたものである。原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,昭和50年10月1日以降の規制権限の不行使の違法をいう限度で理由があり,原判決は破棄を免れない。 2 平成30年(受)第1451号上告代理人小 響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,昭和50年10月1日以降の規制権限の不行使の違法をいう限度で理由があり,原判決は破棄を免れない。 2 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立て理由第2編第1章第7について ウの判断には,国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法があるというものである。そこで,この点につき検討する。 前記の事実関係等によれば,平成7年の特化則の改正により,同年4月1日 - 36 -以降,事業者が石綿等の切断等の作業に従事する労働者に呼吸用保護具を使用させることの義務付けがされたものの,上記作業の周囲で作業する労働者に呼吸用保護具を使用させることの義務付けはされていなかった。また,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示に係る指導監督については従前と変わりがなく,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿含有建材の切断等の石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には,必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すことについての指導監督はされていなかった。そうすると,同日以降も,規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法である状態は,継続していたものと解するのが相当である。 そして,前記の事実関係等によれば,内閣は,平成15年10月16日,安衛令を一部改正し,石綿を含有する石綿セメント円筒,押出成形セメント板,住宅屋根用化粧スレート,繊維強化セメント板,窯業系サイディング等の製品で,その含有する石綿の重量が当該製品の重量の1%を超えるものを,安衛法55条により製造等が禁止される有害物等に定め,この改正政令は平成16年10月1 ,繊維強化セメント板,窯業系サイディング等の製品で,その含有する石綿の重量が当該製品の重量の1%を超えるものを,安衛法55条により製造等が禁止される有害物等に定め,この改正政令は平成16年10月1日から施行された。そして,同年には8186tであった石綿の輸入量は,平成17年には110t,平成18年以降はゼロとなっており,上記の改正により,石綿含有建材の流通はほぼ阻止されたものと評価することができる。そうすると,規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法である状態は,昭和50年10月1日から平成16年9月30日まで継続し,同年10月1日以降は解消されたものと解するのが相当である。 の規制権限の不行使は国家賠償法1条1項の適用上違法とはならない旨判断し,原告らのうち別紙一覧表1及び別紙一覧表2記載の者らの一部について,損害賠償請求を棄却し又は賠償額を減じたものである。原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,平成16年9月30日までの規制 - 37 -権限の不行使の違法をいう限度で理由があり,原判決は破棄を免れない。 3 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立て理由第2編第2章第4及び第5について エの判断には,国家賠償法1条1項の解釈適用を誤った違法があるというものである。そこで,この点につき検討する。 安衛法57条は,労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるものの譲渡等をする者が,その容器又は包装に,名称,人体に及ぼす作用,貯蔵又は取扱い上の注意等を表示しなければならない旨を定めている。同条は,健康障害を生ずるおそれのある物についてこれらを表示することを義務付けることによって,その物を取り扱う者に健康障害が生ずることを 又は取扱い上の注意等を表示しなければならない旨を定めている。同条は,健康障害を生ずるおそれのある物についてこれらを表示することを義務付けることによって,その物を取り扱う者に健康障害が生ずることを防止しようとする趣旨のものと解されるのであって,上記の物を取り扱う者に健康障害を生ずるおそれがあることは,当該者が安衛法2条2号において定義された労働者に該当するか否かによって変わるものではない。また,安衛法57条は,これを取り扱う者に健康障害を生ずるおそれがあるという物の危険性に着目した規制であり,その物を取り扱うことにより危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると,所定事項の表示を義務付けることにより,その物を取り扱う者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である。なお,安衛法は,その1条において,職場における労働者の安全と健康を確保すること等を目的として規定しており,安衛法の主たる目的が労働者の保護にあることは明らかであるが,同条は,快適な職場環境(平成4年法律第55号による改正前は「作業環境」)の形成を促進することをも目的に掲げているのであるから,労働者に該当しない者が,労働者と同じ場所で働き,健康障害を生ずるおそれのある物を取り扱う場合に,安衛法57条が労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難い。 また,本件掲示義務規定は,事業者が,石綿等を含む特別管理物質を取り扱う作業場において,特別管理物質の名称,人体に及ぼす作用,取扱い上の注意事項及び使用すべき保護具に係る事項を掲示しなければならない旨を定めている。この規定 - 38 -は,特別管理物質を取り扱う作業場が人体にとって危険なものであることに鑑み,上記の掲示を義務付けるものと解されるのであって,特別管理物質を取 ればならない旨を定めている。この規定 - 38 -は,特別管理物質を取り扱う作業場が人体にとって危険なものであることに鑑み,上記の掲示を義務付けるものと解されるのであって,特別管理物質を取り扱う作業場において,人体に対する危険があることは,そこで作業する者が労働者に該当するか否かによって変わるものではない。また,本件掲示義務規定は,特別管理物質を取り扱う作業場という場所の危険性に着目した規制であり,その場所において危険にさらされる者が労働者に限られないこと等を考慮すると,特別管理物質を取り扱う作業場における掲示を義務付けることにより,その場所で作業する者であって労働者に該当しない者も保護する趣旨のものと解するのが相当である。なお,安衛法が人体に対する危険がある作業場で働く者であって労働者に該当しない者を当然に保護の対象外としているとは解し難いことは,上記と同様である。 のとおり,労働大臣は,昭和50年10月1日には,安衛法に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示として,石綿含有建材から生ずる粉じんを吸入すると重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること並びに石綿粉じんを発散させる作業及びその周囲における作業をする際には必ず適切な防じんマスクを着用する必要があることを示すように指導監督すべきであったというべきところ,上記の規制権限は,労働者を保護するためのみならず,労働者に該当しない建設作業従事者を保護するためにも行使されるべきものであったというべきである。 以上によれば,昭和50年10月1日以降,労働大臣が上記の規制権限を行使しなかったことは,屋内建設現場における建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち,安衛法2条2号において定義された労働者に該当しない者との関 0年10月1日以降,労働大臣が上記の規制権限を行使しなかったことは,屋内建設現場における建設作業に従事して石綿粉じんにばく露した者のうち,安衛法2条2号において定義された労働者に該当しない者との関係においても,安衛法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである。 原エのとおり,労働者と認められない者との関係では,安衛法に基づく規制権限の不行使は国家賠償法1条1項の適用上違法とはならない旨判断し,原告らのうち別紙一覧表1及び別紙一覧表2記載の者 - 39 -らの一部について,損害賠償請求を棄却し又は賠償額を減じたものである。原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。 4 平成30年(受)第1452号上告代理人舘内比佐志ほかの上告受理申立て理由第2について イの判断には,国家賠償法1条1項及び安衛法の解釈を誤った違法があるというものである。そこで,この点につき検討する。 前記1及び2のとおり,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示並びに呼吸用保護具を使用させることの義務付けに係る規制権限の不行使は,昭和50年10月1日から平成16年9月30日までの間においての判断は正当であり,この判断の違法をいう論旨は理由がない。なお,論旨は,昭和56年1月1日から平成7年3月31日までの間の安全衛生教育の内容に係る規制の判断の違法をいう趣旨を含むものと解されるが,既に説示したとおり,上記の期間中,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示並びに呼吸用保護具を使用させることの義務付けに係る規制権限の不行使が同項の適用上 ものと解されるが,既に説示したとおり,上記の期間中,石綿含有建材の表示及び石綿含有建材を取り扱う建設現場における掲示並びに呼吸用保護具を使用させることの義務付けに係る規制権限の不行使が同項の適用上違法であると認められるのであり,安全衛生教育の内容に係る規制権限の不行使が同項の適用上違法であるか否かにかかわらず,被告国は,上記の期間中に石綿粉じんにばく露する作業に従事した本件被災者らに対する損害賠償責任を負うこととなる。しの判断の違法をいう論旨は,原判決の結論に影響しない部分を論難するものであり,採用することができない。 第3 被告建材メーカーらに対する不法行為に基づく損害賠償請求について 1 平成30年(受)第1447号上告代理人益信治ほかの上告受理申立て理由,同第1448号上告代理人石嵜信憲ほかの上告受理申立て理由及び同第1449号上告代理人山西克彦ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除された - 40 -ものを除く。)について アの判断には,民法719条1項後段の解釈適用を誤った違法があるというものである。そこで,この点につき検討する。 民法719条1項は,「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。」と規定するところ,同項後段は,複数の者がいずれも被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為を行い,そのうちのいずれの者の行為によって損害が生じたのかが不明である場合に,被害者の保護を図るため,公益的観点から,因果関係の立証責任を転換して,上記の行為を行った者らが自らの行為と損害との間に因果関係が存在しないことを立証しない限り,上記の者らに連帯して損害の全部に に,被害者の保護を図るため,公益的観点から,因果関係の立証責任を転換して,上記の行為を行った者らが自らの行為と損害との間に因果関係が存在しないことを立証しない限り,上記の者らに連帯して損害の全部について賠償責任を負わせる趣旨の規定であると解される。そして,同項後段は,その文言からすると,被害者によって特定された複数の行為者の中に真に被害者に損害を加えた者が含まれている場合に適用されると解するのが自然である。仮に,上記の複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在する場合にまで,同項後段を適用して上記の複数の行為者のみに損害賠償責任を負わせることとすれば,実際には被害者に損害を加えていない者らのみに損害賠償責任を負わせることとなりかねず,相当ではないというべきである。 以上によれば,被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことは,民法719条1項後段の適用の要件であると解するのが相当である。 原審は,これと異なる見解に立って,被害者によって特定された複数の行為者のほかに被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為をした者が存在しないことの主張立証がされていないにもかかわらず,中皮腫にり患した本件被災大工らに係る損害賠償請求について,民法719条1項後段を適用して,被告エーアンドエーマテリアルらが,上記の本件被災大工らの損害の3分の1について,連帯して損害賠償責 - 41 -任を負うとしているが,原審のこの判断には,同項後段の解釈適用を誤った違法がある。 もっとも,前記の事実関係等によれば,被告エーアンドエーマテリアルらを含む多数の建材メーカーは,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを る。 もっとも,前記の事実関係等によれば,被告エーアンドエーマテリアルらを含む多数の建材メーカーは,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負っていたにもかかわらず,その義務を履行していなかったのであり,また,中皮腫にり患した本件被災大工らは,本件ボード三種を直接取り扱っており,本件ボード三種のうち被告エーアンドエーマテリアルらが製造販売したものが,上記の本件被災大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていたというのである。上記の本件被災大工らは,建設現場において,複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うことなどにより,累積的に石綿粉じんにばく露しているが,このことは,これらの建材メーカーにとって想定し得た事態というべきである。 また,上記の本件被災大工らが本件ボード三種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度であったが,上記の本件被災大工らの中皮腫の発症について,被告エーアンドエーマテリアルらが個別にどの程度の影響を与えたのかは明らかでない。 のとおり,複数の者がいずれも被害者の損害をそれのみで惹起し得る行為を行い,そのうちのいずれの者の行為によって損害が生じたのかが不明である場合には,被害者の保護を図るため公益的観点から規定された民法719条1項後段の適用により,因果関係の立証責任が転換され,上記の者らが連帯して損害賠償責任を負うこととなるところ,本件においては,被告エーアンドエーマテリアルらが製造販売した本件ボード三種が上記の本件被災大工らが稼働する建設現場に相当回数にわ 転換され,上記の者らが連帯して損害賠償責任を負うこととなるところ,本件においては,被告エーアンドエーマテリアルらが製造販売した本件ボード三種が上記の本件被災大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられているものの,本件被災大工らが本件ボード三種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体 - 42 -の一部であり,また,被告エーアンドエーマテリアルらが個別に上記の本件被災大工らの中皮腫の発症にどの程度の影響を与えたのかは明らかでないなどの諸事情がある。そこで,本件においては,被害者保護の見地から,上記の同項後段が適用される場合との均衡を図って,同項後段の類推適用により,因果関係の立証責任が転換されると解するのが相当である。もっとも,本件においては,本件被災大工らが本件ボード三種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体の一部にとどまるという事情があるから,被告エーアンドエーマテリアルらは,こうした事情等を考慮して定まるその行為の損害の発生に対する寄与度に応じた範囲で損害賠償責任を負うというべきである。 以上によれば,被告エーアンドエーマテリアルらは,民法719条1項後段の類推適用により,中皮腫にり患した本件被災大工らの各損害の3分の1について,連帯して損害賠償責任を負うと解するのが相当である。 解釈適用を誤った違法があるが,被告エーアンドエーマテリアルらが中皮腫にり患した本件被災大工らの各損害の3分の1について連帯責任を負うとした原審の判断は,結論において是認することができる。 2 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立てウについて イの判断には,民法719条1項後段の解釈適用を誤った違 断は,結論において是認することができる。 2 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立てウについて イの判断には,民法719条1項後段の解釈適用を誤った違法があるというものである。そこで,この点につき検討する。 前記の事実関係等によれば,被告エーアンドエーマテリアルらを含む多数の建材メーカーは,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負っていたにもかかわらず,その義務を履行していなかったのであり,また,中皮腫以外の石綿関連疾患にり患した本件被災大工らも,本件ボード三種を直接取り扱っており,本 - 43 -件ボード三種のうち被告エーアンドエーマテリアルらが製造販売したものが,上記の本件被災大工らが稼働する建設現場に相当回数にわたり到達して用いられていたというのである。上記の本件被災大工らが,建設現場において,複数の建材メーカーが製造販売した石綿含有建材を取り扱うことなどにより,累積的に石綿粉じんにばく露したこと,上記の本件被災大工らが本件ボード三種を直接取り扱ったことによる石綿粉じんのばく露量は,各自の石綿粉じんのばく露量全体のうち3分の1程度であったが,上記の本件被災大工らの石綿関連疾患の発症について,被告エーアンドエーマテリアルらが個別にどの程度の影響を与えたのかは明らかでないこと等の諸事情があることも,中皮腫にり患した本件被災大工らの場合と同様である。そうすると,被告エーアンドエーマテリアルらは,中皮腫以外の石綿関連疾患にり患した本件被災大工らに対しても,中皮腫にり患した本件被災大工らに対するのと同様の損害賠償責任を負うと解 場合と同様である。そうすると,被告エーアンドエーマテリアルらは,中皮腫以外の石綿関連疾患にり患した本件被災大工らに対しても,中皮腫にり患した本件被災大工らに対するのと同様の損害賠償責任を負うと解するのが相当である。 なお,原審は,本件ボード三種のマーケットシェアは,被告エーアンドエーマテリアルが30%程度,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイがそれぞれ10%程度であるとし,これを考慮すると,中皮腫以外の石綿関連疾患にり患した本件被災大工らの石綿関連疾患の発症への寄与度は,被告エーアンドエーマテリアルについては10%,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについてはそれぞれ3%とするのが相当であるとするが,上記のマーケットシェアが,上記の本件被災大工らの石綿関連疾患の発症に与えた影響の程度にそのまま反映されるものとはいい難く,被告エーアンドエーマテリアルらがその発症に個別にどの程度の影響を与えたのかは明らかでないというべきである。 以上によれば,被告エーアンドエーマテリアルらは,民法719条1項後段の類推適用により,中皮腫以外の石綿関連疾患にり患した本件被災大工らの各損害の3分の1について,連帯して損害賠償責任を負うと解するのが相当である。 原審は,これと異なり,民法719条1項後段の類推適用を認めず,中皮腫以外の石綿関連疾患にり患した本件被災大工らの石綿関連疾患の発症への寄与度 - 44 -を,被告エーアンドエーマテリアルについては10%,被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについてはそれぞれ3%として,損害賠償額を算定しているが,原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被告エーアンドエーマテリアルらが賠償すべき いるが,原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被告エーアンドエーマテリアルらが賠償すべき額は,原審が別紙計算書記載のとおり寄与度として0.1又は0.03を乗じた部分を,いずれも3分の1を乗じて算出することとなり,その額は,別紙一覧表7の「認容額」欄記載のとおりとなる。 3 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立て理由第3編第1章第6について ウの判断には,法令違反があるというものである。そこで,この点につき検討する。 石綿含有建材の製造販売をする者が,建物の工事において,当該建材を建物に取り付ける作業等のような当該建材を最初に使用する際の作業に従事する者に対する義務として,当該建材が石綿を含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負う場合,当該義務は,上記の者に対する関係においてのみ負担するものではなく,当該建材が一旦使用された後に当該工事において当該建材に配線や配管のため穴を開ける作業等をする者に対する関係においても負担するものと解するのが相当である。なぜなら,建物の工事の現場において,上記の危険があることは,石綿含有建材に付された上記の表示を契機として,当該工事を監督する立場にある者等を通じて,一旦使用された石綿含有建材に後から作業をする者にも伝達されるべきものであるところ,そもそも,上記の表示がされていなければ,当該工事を監督する立場にある者等が当該建材に石綿が含有されていること等を知る契機がなく,上記の危険があることを伝達することができないからである。 原審は,こ 上記の表示がされていなければ,当該工事を監督する立場にある者等が当該建材に石綿が含有されていること等を知る契機がなく,上記の危険があることを伝達することができないからである。 原審は,これと異なり,被告エーアンドエーマテリアルら,被告大建工業及 - 45 -び被告ノザワは,建物の工事において,一旦使用された石綿含有建材に後から作業をする者に対しては,上記の表示をする義務を負わないと解すべきであるとし,原告らのうち別紙一覧表3記載の者らの上記の被告らに対する請求並びに原告らのうち別紙一覧表5記載の者らの被告ノザワに対する請求を棄却すべきものとしたが,原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。 4 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立て理由第3編第1章第7(ただし,排除されたものを除く。)並びに第3章第4「2(ただし,排除されたものを除く。),第8(ただし,排除されたものを除く。)及び第9(ただし,排除されたものを除く。)について 論旨は,原審エの判断には,経験則違反,採証法則違反,審理不尽の違法があるというものである。そこで,この点につき検討する。 原審は,石綿を含有する吹付け材を製造販売する企業は,吹付け作業の従事者及び周囲の者等の安全性を確保するために必要な警告を行う義務を負うとし,その具体的内容の一つとして,吹付け作業終了後に吹付け場所で作業を行う者も防じんマスクを着用する必要があることについて明確に情報提供すべきであるとした。 その上で,被告太平洋セメントは,販売先を系列化して石綿を含有する吹付け材の施工の安全性を確保する態勢を採っていたことから,元請建設業者の側に安全配慮 ることについて明確に情報提供すべきであるとした。 その上で,被告太平洋セメントは,販売先を系列化して石綿を含有する吹付け材の施工の安全性を確保する態勢を採っていたことから,元請建設業者の側に安全配慮義務の履行の契機となる情報は伝達されていたと評価されるとして,被告太平洋セメントが上記の防じんマスク着用の必要について情報提供をした事実を認定することなく,吹付け作業終了後に吹付け場所で作業を行う者との関係で被告太平洋セメントに警告義務違反があったとはいえないと判断した。 しかし,被告太平洋セメントが販売先を系列化して石綿を含有する吹付け材の施工の安全性を確保する態勢を採っていたことから,直ちに元請建設業者の側に安全配慮義務の履行の契機となる情報が伝達されていたと評価することはできないし, - 46 -仮に,安全配慮義務の履行の契機となる情報が伝達されることがあったとしても,そのことをもって,明確に上記の情報提供がされたということはできない。 原審は,のとおり判断して,原告らのうち別紙一覧表4記載の者らの被告太平洋セメントに対する請求を棄却すべきものとしたが,原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。 5 平成30年(受)第1451号上告代理人小野寺利孝ほかの上告受理申立て理由第3編第3章第1について オの判断には,経験則違反,採証法則違反があるというものである。そこで,この点につき検討する。 ノザワ技研報告書は,ノザワ技術研究所が,被告ノザワの製造販売したテーリングを使用した左官作業における石綿粉じん濃度を測定した結果を示すものとされているが,上記の測定は,利害関係のない中立的な第三者によるものとはいい難い上 技術研究所が,被告ノザワの製造販売したテーリングを使用した左官作業における石綿粉じん濃度を測定した結果を示すものとされているが,上記の測定は,利害関係のない中立的な第三者によるものとはいい難い上,ノザワ技研報告書には,測定の実施状況を記録した写真等の添付もない。また,上記の測定の際には,舟(混練作業用の容器)とスコップを用いて混練が行われ,電動かくはん機は用いられていないが,左官を主たる職種とする本件被災者らが,テーリングを使用する際に,舟とスコップのみを用い,電動かくはん機を用いていなかったことはうかがわれない。そうすると,ノザワ技研報告書から,上記の本件被災者らがテーリングを使用する際に生じた石綿粉じんが,ごく僅かなものであったと認めることはできないというべきである。 原審は,これと異なり,ノザワ技研報告書によって,テーリングから生ずる石綿粉じんはごく僅かなものであったとして,原告らのうち別紙一覧表6記載の者らの被告ノザワに対する請求を棄却すべきものとしたが,原審のこの判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。 第4 結論 - 47 -以上のとおりであるから,原判決中,原告らのうち別紙一覧表1記載の者らの被告国に対する請求に関する部分,原告らのうち別紙一覧表2記載の者らの被告国に対する請求に関する上記者らの敗訴部分,原告らのうち別紙一覧表3記載の者らの被告エーアンドエーマテリアルら,被告大建工業及び被告ノザワに対する請求に関する部分,原告らのうち別紙一覧表4記載の者らの被告太平洋セメントに対する請求に関する部分並びに原告らのうち別紙一覧表5及び別紙一覧表6記載の者らの被告ノザワに対する請求に関する部分を破棄し,更に審理を尽くさせるため上記部分につ 4記載の者らの被告太平洋セメントに対する請求に関する部分並びに原告らのうち別紙一覧表5及び別紙一覧表6記載の者らの被告ノザワに対する請求に関する部分を破棄し,更に審理を尽くさせるため上記部分につき本件を原審に差し戻し,原告らのうち別紙一覧表7の「上告人名」欄記載の者ら(同欄記載の者の訴訟承継人を含む。)の被告エーアンドエーマテリアルらに対する請求に関する部分を主文第2項のとおり変更し,被告国及び被告エーアンドエーマテリアルらの各上告を棄却することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官深山卓也裁判官池上政幸裁判官小池裕裁判官木澤克之裁判官山口厚) - 48 -別紙一覧表1 X1(1)X2-1(2の1)X2-2(2の2)X2-3(2の3)X3(3)X4(4)X6(6)X9(9)X14(14)X15(15)X16(16)X17(17)X19-1(19の1)X19-2(19の2)X22(22)X30-1(30の1)X30-2(30の2)X30-3(30の3)X32(32)X34(34)X37(37)X39-1(39の1)X39-2(39の2)X41-1(41の1)X41-2(41の2)X43(43)X44-1(44の1)X44-2(44の2)X45(45)X48-1(48の1)X48-2(48の2) の2)X41-1(41の1)X41-2(41の2)X43(43)X44-1(44の1)X44-2(44の2)X45(45)X48-1(48の1)X48-2(48の2)X50(50)X51(51)亡E(53)訴訟承継人X53-1亡E(53)訴訟承継人X53-2X55(55)X57(57)X59(59)X60(60)X62(62)X64(64) - 49 -別紙一覧表2 X7(7)X10(10)X11(11)X21(21)X24-1(24の1)X24-2(24の2)X24-3(24の3)X24-4(24の4)X24-5(24の5)X27(27)X28(28)X29(29)X31(31)X33(33)亡C(35)訴訟承継人X35-1亡C(35)訴訟承継人X35-2X36(36)X40-1(40の1)X40-2(40の2)亡D(42)訴訟承継人X42-1亡D(42)訴訟承継人X42-2X46(46)X47(47)X52(52)X54(54)X76(76) - 50 -別紙一覧表3 X15(15)X70(70) - 51 -別紙一覧表4 X10(10)亡B(18)訴訟承継人X18- X70(70) - 51 -別紙一覧表4 X10(10)亡B(18)訴訟承継人X18-1亡B(18)訴訟承継人X18-2X30-1(30の1)X30-2(30の2)X30-3(30の3)X31(31)X36(36)X39-1(39の1)X39-2(39の2)X50(50)X52(52)亡E(53)訴訟承継人X53-1亡E(53)訴訟承継人X53-2X58(58)X60(60)X62(62)X64(64)X66(66)X71(71) X69(69) - 52 -別紙一覧表5 X39-1(39の1)X39-2(39の2)X50(50)X69(69) - 53 -別紙一覧表6 X1(1)X17(17)X38(38)X45(45) - 54 -別紙一覧表7 控訴人番号上告人名認容額遅延損害金起算日負担割合2の1X2-1458万3333円平成19年8月24日4分の32の2X2-2229万1666円平成19年8月24日4分の32の3X2-3229万1666円平成19年8月24日4分の3 X3825万円平成19年5月29日5分の4 X4 19年8月24日4分の32の3X2-3229万1666円平成19年8月24日4分の3 X3825万円平成19年5月29日5分の4 X4916万6666円平成18年11月20日4分の3 X6916万6666円平成14年9月25日4分の3 X7916万6666円平成19年3月13日4分の3 X9476万6666円平成18年6月28日8分の7 X16916万6666円平成14年7月30日4分の3 X25806万6666円平成19年2月28日5分の4 X26825万円平成17年6月29日5分の4 X28476万6666円平成19年9月21日8分の7 X29916万6666円平成19年3月13日4分の3 X37916万6666円平成17年7月27日4分の341の1X41-1 412万5000円平成20年5月15日5分の441の2X41-2 412万5000円平成20年5月15日5分の4 X43825万円平成21年3月31日5分の4 X46825万円平成21年9月16日5分の4 X47916万6666円平成21年8月14日4分の3 X54825万円平成20年12月24日5分の4 X55726万円平成20年5月7日5分の4 X59726万円平成21年1月16日5分の4 X61476万6666円平成1 X55726万円平成20年5月7日5分の4 X59726万円平成21年1月16日5分の4 X61476万6666円平成19年4月25日8分の7 亡F726万円平成20年12月9日5分の4 X67476万6666円平成20年11月28日8分の7 X68476万6666円平成21年9月11日8分の7 X74825万円平成20年6月26日5分の4 - 55 -別紙計算書 1 石綿関連疾患により死亡した本件被災大工らのうち,肺がんにり患し,喫煙歴のある者(原判決別紙2「主文一覧表」の控訴人番号3番,26番,41の1番,41の2番,43番,46番,54番,74番について) 被告エーアンドエーマテリアルについて2500万円×0.1×0.9×1.1=247万5000円 被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについて2500万円×0.03×0.9×1.1=74万2500円 2 石綿関連疾患により死亡した本件被災大工らのうち,上記1以外の者(控訴人番号2の1番,2の2番,2の3番,4番,6番,7番,16番,29番,37番,47番について) 被告エーアンドエーマテリアルについて2500万円×0.1×1.1=275万円被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについて2500万円×0.03×1.1=82万5000円 3 生存中又は死因を確定できない本件被災大工らのうち,石綿肺(管理区分2,合併症あり)にり患した者(控訴人番号9番,28番,61番,67番,68番について)被告エーアンドエーマテリアルについて 存中又は死因を確定できない本件被災大工らのうち,石綿肺(管理区分2,合併症あり)にり患した者(控訴人番号9番,28番,61番,67番,68番について)被告エーアンドエーマテリアルについて1300万円×0.1×1.1=143万円 被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについて1300万円×0.03×1.1=42万9000円 - 56 - 4 生存中又は死因を確定できない本件被災大工らのうち,肺がんにり患し,喫煙歴のある者(控訴人番号55番,59番,63番について) 被告エーアンドエーマテリアルについて2200万円×0.1×0.9×1.1=217万8000円 被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについて2200万円×0.03×0.9×1.1=65万3400円 5 本件被災大工らのうち,生存中で,びまん性胸膜肥厚にり患した者(控訴人番号25番について) 被告エーアンドエーマテリアルについて2200万円×0.1×1.1=242万円 被告ニチアス及び被告エム・エム・ケイについて2200万円×0.03×1.1=72万6000円 なお,控訴人番号に枝番が付された者に対する賠償額は,上記の計算により算出された金額に,更に相続分を乗じて算出する。
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